結束性基礎:指示・代用表現(講義編)

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これまでの講義で、個々の文がどのように成り立っているか(文型、構文など)を学んできましたが、実際のコミュニケーションでは、文は孤立して存在するのではなく、互いに結びつき、連なって一つのまとまった意味を持つ「文章(テクスト Text)」を形成します。では、文と文はどのようにして結びつき、一貫した流れを生み出しているのでしょうか? その鍵を握るのが「結束性 (Cohesion)」という概念です。この講義では、文章全体の「まとまり」を生み出す結束性の基本的な仕組み、特に文法的な装置である「指示 (Reference)」と「代用 (Substitution)」に焦点を当てて解説します。これらの仕組みを理解することは、文脈の流れを正確に追い、指示対象の誤解を防ぐ読解力、そして自然でスムーズな文章を作成する作文力の向上に不可欠です。

目次

1. 結束性 (Cohesion) とは何か? – 文と文を結びつける「絆」

1.1. 文の集合から「テクスト」へ

想像してみてください。以下のような文の羅列があったとします。

  • 猫がいます。
  • 犬もいます。
  • それは机の下にいます。
  • 彼は公園へ行きました。

これらの文は、それぞれ文法的には正しくても、全体として何を伝えたいのか、文と文がどう関係しているのかが不明瞭で、まとまりのない印象を受けます。これは「結束性」が欠けているためです。

一方、

  • 公園に一匹の**猫**がいました。**その猫**は木の下で眠っていました。近くで**犬**も遊んでいましたが、**彼**は**猫**には気づいていないようでした。

こちらの例では、「その猫」「彼」といった言葉が前の語句を指し示し、文と文が意味的に繋がっているため、自然な流れを持つ一つのまとまった話(テクスト)として理解できます。

このように、単なる文の集まりを、意味のある一貫した「テクスト」へと変える、文と文の間の意味的な繋がり結びつき、それが結束性 (Cohesion) です。

1.2. 結束性を生み出す仕組み:結束装置 (Cohesive Devices)

結束性は、偶然生まれるものではなく、言語に備わっている様々な「仕掛け」によって意図的に作り出されます。これらの仕掛けを結束装置 (Cohesive Devices) と呼びます。主なものには以下のようなカテゴリーがあります。

  • (1) 指示 (Reference): 代名詞などが文脈中の他の特定の要素(人、物、場所、事柄など)を指し示すこと。 (ittheythisthatthe など)
  • (2) 代用 (Substitution): ある語句の繰り返しを避けるために、別の一般的な語 (onedo soso など) で置き換えること。
  • (3) 省略 (Ellipsis): 文脈から明らかに分かる語句を省略すること。
  • (4) 接続表現 (Conjunction): 接続詞 (andbutbecause など) や接続副詞 (howevertherefore など) を用いて、文や節の間の論理的な関係性を示すこと。(接続詞の講義で詳述)
  • (5) 語彙的結束性 (Lexical Cohesion): 同じ語を繰り返したり、類義語、反意語、関連語など、意味的に関連のある語彙を用いたりすることで、話題の一貫性を保つこと。(段落分析の講義で触れました)

この講義では、特に文法的な結束性の中心となる (1) 指示 (Reference) と (2) 代用 (Substitution) について、詳しく見ていきます。(3)省略は代用と関連が深いですが、特殊構文の講義でも触れたため、ここでは補足的に扱います。

1.3. なぜ結束性の理解が重要か?

  • 読解において:
    • 流れを追う: 結束性の仕組み、特に指示語が何を指しているかを正確に追跡することで、文脈の流れを見失わずに文章を理解できます。
    • 誤読を防ぐ: 指示対象を取り違えると、文の意味を根本的に誤解してしまう可能性があります。結束性の正確な理解は、精密な読解の基礎です。
    • 文章構造の理解: 結束装置は、文や段落がどのように構成され、結びついているかを知る手がかりにもなります。
  • 作文において:
    • 自然で読みやすい文章: 適切な結束装置(指示、代用、接続表現など)を使うことで、文と文がスムーズに繋がり、読みやすく、自然な流れの文章を作成できます。
    • 冗長性の回避: 代用や省略を効果的に使うことで、同じ語句の不必要な繰り返しを避け、簡潔で引き締まった文章にすることができます。
    • 論理的な一貫性: 接続表現などを適切に用いることで、主張や議論に論理的な一貫性を持たせることができます。

結束性は、効果的なコミュニケーションを実現するための、文章の「骨組み」であり「血流」のようなものなのです。

2. 指示 (Reference) – 「あれ」「それ」が指すものを見抜く

指示 (Reference) は、結束性を生み出す最も基本的で重要な仕組みの一つです。代名詞などの「指示語」が、文脈中の他の要素(「指示対象」)を指し示すことで、情報の繋がりを作り出します。

2.1. 指示とは? – 文脈の中の対象を指し示す

  • John が he で受けられたり、a problem が this problem や it で受けられたりするように、特定の語句(指示語)が、聞き手や読み手が文脈から理解できる特定の「何か」(指示対象 Referent)を指し示す働きをします。
  • この指示関係によって、「ああ、これはさっき出てきたあの人のことだな」「これは前の文で述べられた問題のことだな」というように、読み手は情報と情報の間に関連性を見出し、文脈を追うことができます。

2.2. 指示の種類と主な指示語

文脈中の要素を指し示すために使われる主な指示語には、以下のようなものがあります。

  • (a) 人称代名詞 (Personal Pronouns):
    • hesheitthey (主格)
    • himheritthem (目的格)
    • hisherhersitstheirtheirs (所有格、所有代名詞)
    • これらは、文脈中の特定の人、物、動物、事柄などを指します。
    • 例: **My sister** loves cats. **She** has three. (She = My sister)
    • 例: I read **the report**. **It** was well-written. (It = the report)
  • (b) 指示代名詞・指示形容詞 (Demonstratives):
    • thisthat (単数), thesethose (複数)
    • 指示代名詞: 単独で、特定の物、人、場所、考え、状況、前の文の内容などを指します。
      • 例: Is **this** your pen? (目の前にあるペンを指す)
      • 例: He failed again. **That**'s too bad. (That = He failed again という事実)
    • 指示形容詞: 後ろの名詞を伴い、「この〜」「あの〜」「これらの〜」「あれらの〜」として、特定の対象を指します。
      • 例: I like **this** song better than **that** one. (this は song を、that は one(=song) を修飾)
  • (c) 定冠詞 (Definite Article):
    • the は、それ自体が直接何かを指すわけではありませんが、「聞き手/読み手が特定できるもの」「文脈の中で既に出てきたもの」を指し示すという重要な指示機能を持ちます(既出性)。
    • 例: Once upon a time, **an** old man lived in **a** small village. **The** man was very kind. **The** village was peaceful. (最初に出てくるときは a, 2回目以降は the になることで、同じ対象を指していることが示される)
  • (d) その他の指示的表現:
    • such (そのような): I have never heard **such** a story. (前に述べられたような種類の話)
    • so (そのように): He is rich, and they say **so**. (so = that he is rich)
    • 比較表現の一部も指示的な機能を持つことがあります。

2.3. 指示の方向:前方照応と後方照応

指示語が指す対象(指示対象)が、指示語よりも前に現れるか後に現れるかで、指示の方向性が区別されます。

  • (a) 前方照応 (Anaphora):
    • 指示語が、それよりも前に述べられた語句(先行詞 Antecedent)や内容を指し示す場合。これが最も一般的で基本的な指示の形です。
    • 例: [先行詞 **The students**] worked hard, and **they** passed the exam. (they は前の The studentsを指す)
  • (b) 後方照応 (Cataphora):
    • 指示語が、それよりも後に述べられる語句や内容を指し示す場合。聞き手や読み手の注意を引きつけたり、期待感を持たせたりする効果があります。形式主語の It や This/These などで使われます。
    • 例: Listen to **this**: [指示対象 **we are leaving tomorrow**]. (this は後の発言内容を指す)
    • 例: Although **she** tried her best, [指示対象 **Mary**] couldn't win the race. (she は後の Mary を指す。ただし、これは文体によっては曖昧さを生む可能性もある)
    • 例: **It** is important [指示対象 **to be honest**]. (形式主語 It は後ろの to be honest を指す)

2.4. 指示対象 特定の重要性とコツ

読解において、指示語が具体的に何を指しているのかを正確に、かつ迅速に特定することは、文脈の流れを正しく理解するための生命線です。指示対象の特定を誤ると、文全体の意味を取り違えることになりかねません。

  • 指示対象を特定するためのコツ:
    1. 近くを探す: 指示語は、多くの場合、その直前(または同じ文の中)にある語句を指します。まずは一番近くにある候補を探しましょう。
    2. 性・数の一致: 指示語と指示対象候補の間で、性(男性he/女性she/中性it)と数(単数it/複数theythis/thesethat/those)が一致しているかを確認します。これは基本的なチェックポイントです。
    3. 文脈で判断: 文法的に複数の候補がありえる場合でも、文脈全体の意味の流れから考えて、最も自然で論理的な指示対象を選びます。「この指示語がこれを指すとすると、意味がおかしくならないか?」と考えます。
    4. this/that の可能性: this や that は、特定の単語や句だけでなく、前の文全体や、文の一部が示す内容・状況を指すことも多いので注意が必要です。

指示語を見つけたら、常に「これは何を指しているのか?」と自問し、特定する習慣をつけましょう。

3. 代用 (Substitution) – 言葉の「身代わり」で繰り返しを避ける

代用 (Substitution) は、結束性を生み出すもう一つの重要な仕組みです。指示が「特定の対象を指し示す」のに対し、代用は「特定の言葉や表現の繰り返しを避けるために、代わりの言葉を使う」というものです。

3.1. 代用とは? – 語句の反復を避ける工夫

  • 同じ単語や句、節などを繰り返して使うと、文章が冗長になったり、単調になったりします。代用は、このような繰り返しを避け、表現をより簡潔でスムーズにするために、既出の語句の代わりに別の、通常はより一般的で短い語(代用語 Substitute)を用いる言語的なテクニックです。
  • 省略(Ellipsis)と似ていますが、代用では何らかの「代わりの語」が明示的に置かれる点が異なります。

3.2. 名詞(句)の代用

  • one (単数), ones (複数):
    • 可算名詞の反復を避けるために使われます。不定冠詞 a/an が付くような不特定の名詞、または形容詞によって特定される名詞の代わりをします。
    • 例: I need a new pen. The old **one** doesn't work. (one = pen)
    • 例: Which shoes do you prefer? The black **ones** or the brown **ones**? (ones = shoes)
    • 注意:
      • 不可算名詞には使えません。(× I prefer white wine to red one. → …to red wine.)
      • 定冠詞 the や所有格 (myyour など) が直接付く名詞の代わりには通常使えません。(例: × I like your car, but I prefer John's one. → ... prefer John's.) ただし、形容詞が間に入る場合は使えます (I like the blue car, but I prefer the red **one**)。
      • 特定のものを指す場合は that や that one などが使われることもあります。
  • the same:
    • 前に出てきたものと「同じもの」「同じこと」を表します。
    • 例: She ordered salad, and I had **the same**. (the same = salad)
    • 例: "Happy birthday!" "Thanks! **The same** to you!" (The same = Happy birthday)

3.3. 動詞句の代用

  • 代動詞 do/does/did:
    • 前に出てきた一般動詞とその目的語、補語、修飾語などを含む動詞句全体の繰り返しを避けるために使われます。
    • 比較構文 (than/as の後)、付加疑問文 (..., don't you?)、短い応答、強調 (I **do** believe you!) などで非常に頻繁に使われます。
    • 例: He speaks faster than she **does**. (does = speaks)
    • 例: A: You finished your report, didn't you? B: Yes, I **did**. (did = finished my report)
  • do so / do it / do that:
    • 前の動詞句や文全体が表す行為を受ける場合に使われます。do so はややフォーマルな響きがあります。
    • 例: The instructions said to mix the ingredients, so I **did so** / **did it** / **did that** carefully. (did so/it/that = mixed the ingredients carefully)

3.4. 節の代用

  • so (肯定), not (否定):
    • 主に thinkbelievesupposehopeexpectguessbe afraid といった動詞の後で、前に述べられた that節の内容全体を受けて、「そう思う」「そうは思わない」という意味を表します。
    • 例: A: Will it be sunny tomorrow? B: I hope **so**. (so = that it will be sunny tomorrow)
    • 例: A: Did he pass the exam? B: I'm afraid **not**. (not = that he didn’t pass the exam)

4. 省略 (Ellipsis) との関連 – (補足)

省略も代用と同様に、繰り返しを避けて文を簡潔にする結束装置です。代用語を置かずに、文脈から復元できる語句そのものを省略します。

  • 代用: He likes apples, and I like **them**, too. (them が apples を代用)
  • 省略: He likes apples, and I **do**, too. (do が like apples を代用/省略)
  • 省略: He likes apples, and I (like apples) too. (完全に省略)

読解においては、代用語が何を受けているかだけでなく、省略されている語句は何かを文脈から正しく補う力も、結束性を理解する上で重要となります。(省略は特殊構文の講義でも扱いました。)

5. 結束性の知識を読解と作文に活かす

5.1. 読解における結束性の分析

  • 文脈の追跡: 指示語が何を指し、代用語が何を受けているかを正確にたどることで、文と文の間の意味的な繋がりが明確になり、文章全体の流れや論理構成を正確に追うことができます。これができないと、途中で文脈を見失い、内容を誤解する原因となります。
  • 指示対象の特定訓練: 特に ittheythisthat などの頻出する指示語については、常に「これは何を指しているのか?」と問いかけ、特定する練習を積むことが、読解力向上の鍵です。
  • 省略の補完: 省略されている箇所に気づき、文脈から適切な語句を補って解釈する能力は、特に比較構文や会話文の正確な理解に不可欠です。
  • 結束性全体の意識: 指示、代用、省略、接続表現、語彙的結束性といった様々な装置が連携して文章のまとまりを作り出していることを意識することで、より深く構造的な読解が可能になります。

5.2. 作文における結束性の構築

  • 自然な流れの創出: 適切な指示語、代用語、省略、接続表現を用いることで、文と文をスムーズに結びつけ、読みやすく自然な流れを持つ文章を作成することができます。
  • 冗長性の回避: 同じ名詞や動詞句を何度も繰り返すのではなく、代名詞、one(s)do so などを効果的に使うことで、文章を簡潔にし、洗練させることができます。
  • 明確性の確保: 指示語を使う際には、それが何を指しているかが読み手にとって明確になるように注意を払う必要があります。曖昧さがある場合は、名詞を繰り返すなどの工夫が必要です。
  • 論理的な構成: 接続詞や接続副詞を適切に配置することで、アイデア間の論理的な関係性を明確にし、一貫性のある説得力のある文章を構築できます。

6. まとめ:結束性は文章の「骨組み」と「血流」

結束性 (Cohesion) は、個々の文を結びつけ、文章全体にまとまり一貫性を与えるための、言語に不可欠な性質です。それは、指示、代用、省略、接続表現、語彙的連想といった様々な「結束装置」によって実現されます。

この講義では、特に文法的な結束装置である指示 (Reference) と代用 (Substitution) に焦点を当てました。指示は、代名詞などが文脈中の特定の対象を指し示すことで繋がりを生み出し、代用は、別の語で置き換えることで繰り返しを避け、表現を簡潔にします。これらの仕組みを正確に理解し、読解において文脈の流れを正確に追跡し、作文において効果的に活用することは、高度な英語運用能力を身につける上で極めて重要です。

結束性は、文章の論理的な「骨組み」を支え、意味内容の「血流」をスムーズにする役割を果たしています。この「絆」を読み解き、自ら作り出す力を養うことで、皆さんの英語力はさらに確かなものになるでしょう。

次の「結束性基礎:演習編」では、指示語の対象特定、代用語の理解、そして結束性を意識した読解・表現に関する実践的な練習問題に取り組みます。

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