構造分析 応用演習:多様なテクストへの適用(演習編)

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本演習(構造分析 応用演習:多様なテクストへの適用(演習編))の概要

本演習は、Module 2「文章構造の分析 – 設計図を読み解く」で習得した、段落構造の分析、文章全体のマクロ構造把握、そして論理構造の視覚化といったスキルを、多様なタイプの文章(テクスト)に応用する実践的なトレーニングを行うことを目的とします。実際の入試や私たちが日常で触れる文章は、必ずしも教科書的な典型例に当てはまるものばかりではありません。評論、説明文、随筆など、異なる目的や様式で書かれた文章に対して、これまで学んだ構造分析の視点を柔軟に適用し、それぞれの文章が持つ独自の「設計図」を読み解く応用力が求められます。本演習では、複数の異なるタイプの文章を題材とし、段落分析、マクロ構造の特定、論理展開の追跡、図式化、そして内容理解に至るまで、多角的な設問に取り組みます。これにより、Module 2で学んだ知識とスキルを統合し、未知の文章に対しても自信を持って構造的にアプローチできる、実戦的な読解力を養成することを目指します。

目次

問題セット 1(評論:序論・本論・結論型に近い構造)

(文章A)

【1】近年、人工知能(AI)技術は目覚ましい発展を遂げ、社会の様々な領域への応用が期待されている。自動運転、医療診断支援、個別最適化された教育など、AIがもたらす恩恵は計り知れない。しかし、その一方で、AI技術の急速な進化は、雇用喪失、プライバシー侵害、倫理的なジレンマといった、我々がこれまで経験したことのない新たな課題をも突きつけている。本稿では、AI技術の社会実装が進む中で、我々が留意すべき課題について考察する。(※この最後の文は、説明のために追加したものであり、実際の素材文には含まれない想定)

問題 1

文章Aにおける筆者の中心的な主張(結論)を、80字以内で記述しなさい。

問題 2

文章Aの【1】段落は、文章全体の中でどのような役割を果たしているか。序論としての機能に着目して説明しなさい。

問題 3

文章Aの本論部分(【2】~【4】段落)で挙げられている、AI技術がもたらす具体的な課題を三つ、簡潔に述べなさい。

問題 4

文章Aの本論部分(【2】~【4】段落)における論理展開(対比構造や論点の流れ)が分かるように、キーワードや短いフレーズを用いて図式化しなさい(形式は自由。例:ツリー構造、対比表、フローチャートなど)。

問題セット 2(説明文:分類・列挙型を含む構造)

(文章B)

【1】コミュニケーションにおいて、「聞く」という行為は極めて重要である。単に相手の言葉を受け取るだけでなく、相手の意図や感情を正確に理解し、共感的な態度を示すことが、良好な人間関係を築く上で不可欠だからだ。効果的な「聞く」技術には、いくつかの種類がある。

【2】第一に、「傾聴(アクティブ・リスニング)」と呼ばれる技術がある。これは、相手の話に注意深く耳を傾け、相槌やうなずき、質問などを通して、相手が話しやすい雰囲気を作り出すことを重視する。相手の話を遮らず、非言語的なメッセージ(表情、声のトーンなど)にも注意を払うことが求められる。相手への関心と敬意を示すことが基本となる。

【3】第二に、「共感的傾聴」がある。これは、単に話の内容を理解するだけでなく、相手の感情に寄り添い、その気持ちを受け止め、共感していることを言葉や態度で伝える聞き方である。「つらいですね」「嬉しい気持ち、よく分かります」といった言葉が、相手の心を軽くし、信頼関係を深める助けとなる。ただし、安易な同情とは異なる。

【4】第三に、「批判的傾聴(クリティカル・リスニング)」がある。これは、相手の話の内容を客観的に分析し、その論理性、妥当性、根拠などを吟味しながら聞く態度である。感情に流されず、事実と意見を区別し、多角的な視点から情報を評価することが重要となる。ビジネスにおける交渉や、学術的な議論の場面などで特に必要とされる。

【5】これらの「聞く」技術は、それぞれ目的や状況に応じて使い分けることが肝要である。常に共感的である必要はなく、時には批判的な視点も求められる。どのような聞き方が適切かを判断し、柔軟に使いこなすことこそ、真のコミュニケーション能力と言えるだろう。

問題 5

文章Bで説明されている「聞く」技術の種類をすべて挙げなさい。

問題 6

文章Bで説明されている「傾聴」「共感的傾聴」「批判的傾聴」について、それぞれの特徴(目的、重要な点など)が分かるように、以下の表を完成させなさい。

聞く技術の種類主な目的・特徴重要な点・求められる態度など
傾聴( )( )
共感的傾聴( )( )
批判的傾聴( )( )

問題 7

文章B全体の構成上の特徴を、次の選択肢から最も適切なものを一つ選び、記号で答えなさい。

ア.序論・本論・結論の三段構成で、本論で具体例を挙げている。

イ.起承転結の構成で、段落【4】が「転」にあたる。

ウ.問題解決型の構成で、「聞く」ことの問題点と解決策を提示している。

エ.分類・列挙型の構成で、「聞く」技術を種類別に説明している。

問題 8

文章Bの【5】段落の内容を踏まえ、下線部**「どのような聞き方が適切か」**を判断する際に考慮すべき要素として、どのようなものが考えられるか。文章全体の文脈から具体的に二つ挙げなさい。

問題セット 3(随筆:構造が捉えにくい文章)

(文章C)

【1】窓の外では、雨がしとしとと降り続いている。灰色の空の下、濡れた紫陽花の色が一層深く見える。こんな日は、決まって古いアルバムを開きたくなる。ページをめくるたびに、忘れていたはずの記憶の断片が、不意に蘇っては消えていく。

【2】アルバムの中の一枚。幼い私が、祖父の膝の上で満面の笑みを浮かべている。大きな手、優しい眼差し。もう会うことのできない祖父の温もりが、写真を通して伝わってくるようだ。あの頃、未来は無限に広がっているように感じられた。時間は、ただ緩やかに流れていくだけのものだった。

【3】一枚めくると、今度は学生時代の友人たちとの集合写真。皆、若く、希望に満ち溢れた表情をしている。それぞれの道を歩み、今では疎遠になってしまった友も多い。写真の中の笑顔が、眩しく、そして少しだけ切ない。時間は、時に残酷な隔たりを生む。

【4】雨音は、記憶の底に沈むための伴奏のようだ。私はアルバムを閉じ、再び窓の外に目をやる。紫陽花は、雨に打たれながらも、静かにその色を湛えている。過去の記憶もまた、この雨のように、私の心の一部を濡らし、そして静かにそこにあるのだろう。時間は流れ、多くのものを変えていく。しかし、変わらないもの、変えたくないものも、確かに存在するのかもしれない。

問題 9

文章C全体を通して、繰り返し現れる、あるいは関連性の深いキーワードやモチーフ(主題・題材)を三つ挙げなさい。

問題 10

文章Cの各段落(【1】~【4】)は、それぞれどのような話題や場面を扱っているか。キーワードを含めて簡潔にまとめなさい。

【1】段落:

【2】段落:

【3】段落:

【4】段落:

問題 11

文章C全体の構成について、どのように考えるか。明確な論理展開や構成類型(序論・本論・結論など)が見られるか、それとも自由な連想や時間的な流れに基づいているか、あなたの考えを理由とともに述べなさい。

問題 12

文章Cの筆者が、この文章を通して伝えたいと考えている主題や心情はどのようなものか。文章全体の構成や、【4】段落の内容を踏まえて、60字以内で説明しなさい。

問題セット 4:複数テクストの比較構造分析

以下の文章E(現代社会における「共感」の功罪に関する論考)と文章F(ソーシャルメディアと「繋がり」に関する論考)を読み、後の設問に答えなさい。(推奨解答時間:50分)

文章 E

【E-1】

共感(empathy)は、他者の感情や経験を理解し、共有する能力として、人間社会における円滑なコミュニケーションと道徳的行為の基盤と考えられてきた。他者の痛みに共感し、手を差し伸べる行為は、人間性の最も美しい発露の一つであり、社会的な連帯や相互扶助を可能にする力を持つ。特に、グローバル化が進み、多様な背景を持つ人々が隣り合わせで生きる現代において、異なる立場や価値観を持つ他者への共感能力は、ますますその重要性を増していると言えるだろう。教育現場やビジネスシーンにおいても、共感力の育成が重視される傾向にあるのは、その証左である。

【E-2】

しかし、近年、この「共感」という能力が持つ負の側面にも注目が集まっている。心理学者のポール・ブルームは、共感が必ずしも道徳的な判断や公正な行為に繋がるわけではないと警鐘を鳴らす。共感は、しばしば身近な、あるいは自分と類似した属性を持つ特定の個人に向けられやすく、その結果、より大きな視点から見た公正さや、遠くにいる見知らぬ他者の苦しみに対する配慮を欠いた、偏った判断や行動を誘発する可能性があるというのだ。例えば、一人の不幸な子どもの物語に涙し多額の寄付をする一方で、統計的に見てより深刻な状況にある遠い国の大勢の子どもたちの問題には無関心である、といったケースが考えられる。共感は、スポットライトのように特定の対象を強く照らし出すが、その影になる部分を看過させやすいのである。

【E-3】

さらに、共感は、集団間の対立や偏見を助長する危険性をも孕んでいる。我々は、しばしば「内集団」(自分たちが属する集団)のメンバーに対しては強い共感を示す一方で、「外集団」(対立する、あるいは異質な集団)に対しては共感を抱きにくく、時には敵意や嫌悪感すら抱いてしまう。特定の集団への共感が、他の集団への排斥感情と結びつくとき、共感は道徳的な美徳どころか、むしろ不寛容や差別の温床となりうる。歴史を振り返れば、熱狂的なナショナリズムや集団的憎悪が、しばしば内集団への強い共感を原動力としてきたことは明らかであろう。

【E-4】

だとすれば、我々が目指すべきは、共感に盲目的に依存することではなく、むしろ共感の限界と危険性を認識した上で、それを理性的な思考や公正さの原理によって補完し、制御していくことであろう。特定の個人への感情的な共感に流されるのではなく、より普遍的な倫理原則や、客観的なデータに基づいた熟慮(deliberation)を通じて、道徳的な判断を下す訓練が必要となる。共感は、他者理解の重要な「きっかけ」とはなりえても、それ自体が道徳的判断の最終的な「根拠」となるべきではない。理性と感情のバランスを取り、共感の光と影を見極める知性こそが、複雑化する現代社会において求められているのである。


文章 F

【F-1】

ソーシャルメディア(SNS)の普及は、現代人の「繋がり」のあり方を劇的に変化させた。かつては地理的な近接性や偶然の出会いに大きく依存していた人間関係の構築は、オンラインプラットフォームを通じて、時間的・空間的な制約を超越し、興味や関心を共有する見知らぬ他者とも容易に繋がることを可能にした。これは、地理的に孤立しがちな人々や、マイノリティとされる人々にとっては、コミュニティへの参加や自己肯定感の獲得に繋がる、極めてポジティブな側面を持つと言えるだろう。

【F-2】

しかし、SNSが可能にした「常時接続」の状態と、そこで交わされる膨大な量のコミュニケーションは、我々の心理や社会関係に歪みをもたらしている側面も看過できない。まず指摘されるのは、「繋がり」の希薄化と表層化である。「いいね!」の数やフォロワー数といった数値化された指標が人間関係の価値を代替し、深い相互理解や共感を伴わない、浅薄なやり取りがコミュニケーションの中心を占める傾向がある。その結果、多くの「繋がり」を持ちながらも、むしろ根源的な孤独感を深めてしまうという逆説的な状況も生まれている。

【F-3】

さらに、SNS空間は、他者からの承認を過剰に求める心理(承認欲求)を刺激し、自己演出の場としての性格を強めている。ユーザーは、しばしば現実の自己とは乖離した、理想化された自己イメージ(「リア充」アピールなど)を発信し、他者からの肯定的な反応を得ようと腐心する。この絶え間ない自己演出と他者評価への固執は、精神的な疲弊を招くとともに、他者との比較による劣等感や嫉妬心、あるいは他者への攻撃性を生み出す土壌ともなっている。

【F-4】

また、アルゴリズムによって最適化された情報空間は、知らず知らずのうちに我々の視野を狭隘化させる。自分と似た意見や好ましい情報ばかりが優先的に表示されることで、多様な価値観や異質な他者と出会う機会が減少し、自己の世界観が絶対的なものであるかのように錯覚してしまう。これは、社会全体の分断を深化させ、建設的な対話を困難にする要因ともなりうる。SNSが生み出す「閉じた繋がり」は、時として外部に対する不寛容や排他性を生み出す温床となるのだ。

【F-5】

では、我々はソーシャルメディア時代の「繋がり」とどう向き合うべきか。SNSの利便性を享受しつつ、その負の側面を自覚し、意識的に距離を取ることが重要であろう。オンライン上の繋がりだけに依存するのではなく、現実世界における対面でのコミュニケーションや、時間のかかる深い人間関係の構築を怠らないこと。そして、数値化された評価や他者の視線に過度に囚われず、自己の内面的な価値を見失わないこと。さらに、アルゴリズムが提示する世界を相対化し、意識的に多様な情報や意見に触れる努力をすること。こうした主体的な関与を通じて、「繋がり」の質を問い直し、より健全で豊かな人間関係を再構築していく必要がある。

問題 13 

文章Eと文章Fは、それぞれ現代社会における重要な概念(E:共感、F:繋がり)について論じている。両者がそれぞれの概念に対して共通して指摘している「問題点」あるいは「危険性」はどのような点か。二つの観点から、それぞれ60字以内で述べなさい。

問題 14 

文章Eの【E-4】段落と文章Fの【F-5】段落は、それぞれ問題に対する筆者の提言・結論を述べている。両者の提言に共通する基本的な方向性を明らかにし、その上で、それぞれの提言が強調している点の違いが分かるように、120字以内で説明しなさい。

問題 15 

文章Eにおける「共感」の問題点の論じ方(【E-2】【E-3】)と、文章Fにおける「SNSによる繋がり」の問題点の論じ方(【F-2】~【F-4】)を比較したとき、それぞれの論証構造(論の進め方や根拠の示し方)にはどのような特徴があるか。具体的に説明しなさい。

問題 16 

文章Eで述べられている「理性と感情のバランスを取り、共感の光と影を見極める知性」と、文章Fで提言されている「主体的な関与を通じて、「繋がり」の質を問い直し、より健全で豊かな人間関係を再構築していく」姿勢は、現代社会においてどのような意義を持つか。両文章の内容を踏まえ、あなたの考えを200字以内で述べなさい。

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