問題 / 解答
はじめに：本演習（入試本番シミュレーション演習（演習編））の概要
本演習は、Module 6「実戦力の完成と最終調整」の最終課題として、最難関大学の入試本番を可能な限り忠実に再現した環境下で、皆さんがこれまで培ってきた現代文の総合力を試すことを目的とします。これまでの学習を通じて、精読解、構造分析、文章類型別読解戦略、多様な設問形式への解法、そして解答プロセスの最適化（時間管理・メタ認知）といった、合格に必要なあらゆる要素を学んできました。本演習では、それら全ての知識・スキル・戦略を総動員し、実際の入試と同様の厳しい時間制限とプレッシャーの中で、初見の長文（今回は現代における「知の公共性」と「専門知の役割」をテーマとする、約3100字のオリジナル評論）と、多様な形式を網羅した設問群に取り組んでいただきます。このシミュレーションを通して、現時点での実力を客観的に測定し、本番でのパフォーマンスを予測するとともに、時間配分、解答順序、ケアレスミス対策、精神的なペース配分といった実戦的な課題を最終確認し、入試本番で最高のパフォーマンスを発揮するための最後の調整を行うことを目指します。単に問題を解くだけでなく、試験全体を通した自己のマネジメント能力をも試す、総仕上げの演習として臨んでください。
問題（※試験時間：100分 目安）
次の文章を読んで、後の問い（問1～8）に答えなさい。
(文章) （※これは演習用に生成された架空の文章です）
【1】現代社会における「知」のあり方を考える上で、その**「公共性」という側面は避けて通れない論点である。かつて、特に近代啓蒙主義の理想においては、知、とりわけ科学的な知は、理性を持つ人間すべてに普遍的に開かれ、共有されるべき公共財として構想されていた。真理は唯一であり、客観的な手続きによって検証可能であるならば、それは特定の個人や集団の所有物ではなく、人類共通の資産となるはずであった。教育制度の普及や、学術出版、図書館といった制度は、この①「知の公共性」という理念を社会的に実現するための装置として機能してきたと言える。誰もが知にアクセスし、理性的な議論に参加することで、社会全体が啓蒙され、進歩していく、という楽観的な見通しがそこにはあった。
【2】しかし、この理想化された知の公共性は、現実には多くの②複雑な課題と矛盾を抱え込んできた。まず、知の高度な専門化・細分化の問題がある。科学技術が飛躍的に発展し、各分野の知識が膨大かつ複雑になるにつれて、特定の専門領域以外の知を理解することは、専門家にとっても一般市民にとっても極めて困難になった。（a）<u>かつてのような、広範な知識を身につけた「万能人」や、専門領域を超えて社会全体の課題について理性的に討論できる「一般知識人」の存在は、もはや現実的ではなくなっている</u>**。知は、専門家集団（エピステミック・コミュニティ）の内部で生産・流通・検証される、閉じた体系へと向かう傾向を強めている。
【3】この専門知の閉鎖性は、③専門家と市民社会との間の深刻な断絶を生み出す。例えば、原子力発電のリスク、遺伝子組み換え技術の安全性、あるいは気候変動への対策といった現代社会が直面する重要課題において、科学的・技術的な知見は不可欠であるが、その内容は一般市民には難解であり、しばしば専門家の間でも意見が分かれる。市民は、専門家の判断を信頼するしかない場合が多いが、過去の事例（公害、薬害など）から専門家や行政に対する不信感が根強い場合もある。また、専門家が自らの専門領域の論理や価値観を絶対視し、市民の抱える不安や懸念、あるいは生活実感に基づいた知（ローカル・ノレッジ）を④非合理的なものとして軽視・排除してしまう傾向も指摘されている。
【4】さらに、知の生産と流通のプロセス自体が、現代においては、⑤経済的な利害や政治的な力関係から切り離せないものとなっている。大学や研究機関における研究活動は、政府からの研究資金配分や、企業との共同研究、特許取得といった経済的インセンティブと無関係ではいられない。特定の研究テーマが優先され、あるいは特定の研究成果が強調される一方で、（b）<u>短期的な利益や特定の政治的・経済的目的に合致しない基礎研究や批判的な研究</u>は、資金を得にくく、周縁化されやすい構造がある。また、マスメディアやインターネット空間における情報の流通も、商業主義や特定のイデオロギー、あるいはアルゴリズムによるフィルタリングの影響を免れ得ない。知は、もはや純粋で中立的な公共財ではなく、様々な利害が交錯する闘争の場としての性格を強めているのである。
【5】このような状況を踏まえると、近代的な意味での「知の公共性」、すなわち普遍的で透明な理性の空間という理念は、もはや現実を捉える上で十分とは言えない。現代において「知の公共性」を再考するためには、専門知の閉鎖性、市民社会との断絶、そして知をめぐる権力関係や利害対立といった⑥現実の複雑性を直視する必要がある。そして、その上で、異なる知識や価値観を持つ多様な主体（専門家、市民、行政、企業、NPOなど）が、⑦どのようにして信頼関係を築き、対話し、共通の課題に取り組むための合意形成（あるいは異議申し立てのプロセス）を可能にするか、という問いに取り組まなければならない。
【6】近年注目されている「トランス・サイエンス」や「ポスト・ノーマル・サイエンス」といった概念は、このような問題意識を反映している。これらは、科学的知識だけでは解決できない、⑧不確実性が高く、価値対立を含み、社会的な利害が複雑に絡み合う問題（例えば、環境問題や先端医療倫理など）に対処するために、科学者と非科学者（市民、政策決定者、ステークホルダーなど）との間の対話と協働、そして意思決定プロセスへの多様な主体の参加が不可欠であると主張する。そこでは、科学的な「事実」だけでなく、人々の持つ多様な「価値」や「懸念」も、正当な知識として議論のテーブルに乗せられる必要がある。専門知は依然として重要だが、それは⑨絶対的な権威ではなく、社会的な文脈の中で他の知と対話し、吟味されるべき一つの声として位置づけ直される。
【77】この新たな知の公共性を実現するためには、具体的な⑩制度設計と実践的な工夫が求められる。例えば、市民が専門的な情報にアクセスしやすくするための情報公開の徹底、専門家と市民が対等な立場で対話できる場（サイエンスカフェ、市民会議など）の設置と運営ノウハウの蓄積、多様な意見や利害を調整し合意形成を支援する中立的なファシリテーターの育成、そして対話の結果が実際の政策決定や研究開発の方向性に反映される仕組みの構築などである。これらは一朝一夕に実現できるものではないが、（c）<u>専門知と社会との間の健全な信頼関係を再構築し、科学技術を真に公共的な利益へと方向づけていく</u>ためには、避けて通れないプロセスであろう。
【8】最終的に、現代における「知の公共性」とは、完成された理想状態としてではなく、常に生成変化し、多様な主体間の対話と交渉、そして時には対立や葛藤を通じて**⑪絶えず再定義され続ける動的なプロセス**として捉えるべきなのかもしれない。知はもはや象牙の塔に閉じこもるものではなく、社会の現実と切り結び、多様な声に応答する中で、その公共的な意味と責任を問い直され続ける。このプロセスに主体的に関与し、⑫自らの知と社会のあり方を反省的に問い続ける姿勢こそが、複雑な現代を生きる我々一人ひとりに求められている知的な態度と言えるだろう。
(設問)
問題 1
文章中の太字部分の漢字の読みをひらがなで、カタカナは漢字で書きなさい。（計5問）
(1) 陶冶（※【1】の文脈を想定） (2) 峻別（※【2】の文脈を想定） (3) 毀損（※【4】の文脈を想定） (4) エピステミック・コミュニティ（【2】） (5) パラダイムシフト（【10】）
問題 2
傍線部①**「知の公共性」という理念について、近代啓蒙主義において、それはどのような考えに基づき、どのような制度によって実現されると考えられていたか。【1】段落**の内容から、80字以内で説明しなさい。
問題 3
傍線部②**「複雑な課題と矛盾」について、筆者は近代的な「知の公共性」の理念が抱える課題・矛盾として、どのような点を挙げているか。【2】段落から【4】段落まで**の内容に基づき、三つの異なる側面を挙げ、それぞれ簡潔に説明しなさい。（各40字程度、合計120字程度）
問題 4
傍線部**（a）<u>かつてのような、広範な知識を身につけた「万能人」や、専門領域を超えて社会全体の課題について理性的に討論できる「一般知識人」の存在は、もはや現実的ではなくなっている</u>と筆者が述べる理由は何か。また、そのことがどのような問題**を引き起こしていると筆者は考えているか。本文全体を踏まえ、合わせて120字以内で説明しなさい。（理由と問題点を明確に分けて記述すること）
問題 5
傍線部⑥**「現実の複雑性」とは、現代において「知の公共性」を再考する上で直視すべきどのような状況を指しているか。【2】段落から【5】段落までの内容を踏まえ、具体的な要素を三つ**挙げて、100字以内で説明しなさい。
問題 6
傍線部⑦**「どのようにして信頼関係を築き、対話し、共通の課題に取り組むための合意形成（あるいは異議申し立てのプロセス）を可能にするか」という問いに対して、筆者はどのような解決の方向性を示しているか。傍線部⑩「制度設計と実践的な工夫」の具体例と、そこで目指される専門知の位置づけ（傍線部⑨）**に触れながら、150字以内で説明しなさい。
問題 7
傍線部**（c）<u>専門知と社会との間の健全な信頼関係を再構築し、科学技術を真に公共的な利益へと方向づけていく</u>ために、筆者が最も重要だと考えている根源的な態度はどのようなものか。【8】段落と【10】段落から、それぞれ解答の根拠となる箇所を15字以内**で抜き出し、それらを統合して80字以内で説明しなさい。
問題 8
この文章全体の論旨を、300字以内で要約しなさい。