苦手科目との向き合い方ガイド：「嫌い」を「分かる」に変えるための第一歩

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「数学と聞いただけで頭が痛くなる」

「英語の長文を見ると、無意識に後回しにしてしまう」

特定の科目に対して、まるでアレルギー反応のような強い苦手意識を持っている高校生は少なくありません。その科目の参考書を開くこと自体が苦痛で、勉強から逃げ続けてしまう…。その気持ちは、決して特別なものではありません。

しかし、その苦手科目をそのままにしておくと、全体の成績の伸びを妨げる大きな原因になってしまう可能性があります。

この記事では、そんな「科目アレルギー」とも言える強い苦手意識を和らげ、克服への具体的な第一歩を踏み出すための考え方と方法を、順を追って分かりやすく解説します。

1. なぜ、その科目が「苦手」になったのか？ – 原因を探りましょう

まず大切なのは、なぜその科目が自分にとって「苦手」なのか、その原因を冷静に考えてみることです。

1.1. 「嫌い」と「できない」は違う：苦手意識の正体

多くの人が「嫌いだから、できない」と考えがちですが、実際はその逆で、**「できないから、嫌いになった」**というケースがほとんどです。

最初は誰でもゼロからのスタートです。しかし、どこかのタイミングで「分からない」「問題が解けない」という経験が積み重なると、その科目に対して面白みを感じられなくなり、結果として「嫌い」「苦手」という感情が生まれてきます。

1.2. 過去の「つまずき」が原因のケース

苦手意識の多くは、過去のどこかの単元での「つまずき」に原因があります。

例（数学）: 中学時代の「一次関数」の理解が不十分なまま高校に進学し、高校数学の「二次関数」で完全についていけなくなった。
例（英語）: 中学英語の「動詞の変化」や「文の構造（SVOCなど）」をしっかり理解しないまま、高校の複雑な長文を読もうとして、まったく意味が分からなくなった。
この「つまずき」を放置したまま先に進もうとしても、分からないことが増えるだけで、苦手意識はますます強くなってしまいます。

1.3. 学習方法が合っていないケース

一生懸命勉強しているつもりでも、その方法が自分に合っていない、あるいは非効率的なために、成果が出ずに苦手意識を持ってしまうこともあります。

例: 暗記が重要な科目なのに、ただ教科書を眺めているだけで、実際に書いたり声に出したりして覚えようとしていない。計算練習が必要な科目なのに、解説を読んで理解しただけで、自分で問題を解く量が足りていない。

1.4. 苦手科目は成績アップの「ボトルネック」である

ビジネスの世界で使われる「ボトルネック」という言葉があります。これは、全体の流れをせき止めている、最も狭い部分のことを指します。

受験勉強全体を一つのプロセスと考えると、**苦手科目は、あなたの成績全体の向上を妨げている「ボトルネック」**と言えます。
得意科目をいくら伸ばしても、苦手科目が一つあるだけで、全体の点数はなかなか上がりません。逆に、このボトルネックである苦手科目を少しでも改善できれば、全体の成績は大きく向上する可能性があるのです。

2. アレルギー意識を和らげる – 勉強を始める前の心の準備

苦手科目にいきなり取り組むのは、精神的に大きな負担がかかります。まずは、勉強を始める前に、気持ちを少し楽にするための心の準備をしましょう。

2.1. 完璧を目指さない：最初の目標は「平均点を取ること」

苦手科目を、いきなり得意科目にしようと考える必要はありません。

目標設定: まずは「クラスの平均点を取る」「次の模試で偏差値50を超える」といった、現実的で達成可能な目標を立てましょう。
気持ちの変化: 高い目標を立てすぎると、プレッシャーで動けなくなってしまいます。「とりあえず、足を引っ張らないレベルになれば良い」と考えるだけで、気持ちはかなり楽になります。

2.2. 「才能がない」という思い込みを捨てる

「自分には数学の才能がない」「英語のセンスがない」といった考えは、一度捨ててみましょう。

事実: 大学受験で求められる学力に、「才能」が占める割合はごくわずかです。ほとんどは、正しい方法で、必要な時間をかけて学習すれば、誰でも一定のレベルまで到達できます。
「才能のせい」にしてしまうと、努力することをやめてしまいます。今は「やり方が分からなかっただけ」「まだ時間が足りないだけ」と考えてみましょう。

2.3. 「勉強」と思わず、「作業」と捉えてみる

「勉強」という言葉には、どうしても「大変」「難しい」というイメージが伴います。

言葉の置き換え: 「数学の勉強をする」と考えるのではなく、「計算ドリルを1ページやる」「英単語を20個ノートに書き写す」というように、具体的な「作業」として捉えてみましょう。
感情を入れずに、淡々とこなすべき「作業」だと考えることで、取り掛かる際の心理的な抵抗を減らすことができます。

3. 【実践】苦手克服への具体的な5つのステップ

心の準備ができたら、いよいよ具体的な行動に移ります。大きな一歩ではなく、誰でもできる小さなステップから始めましょう。

3.1. ステップ1：弱点を具体的に特定する

「数学が苦手」と漠然と捉えるのではなく、どの単元の、何ができないのかを具体的に明らかにします。

方法: これまでの模試の結果や、問題集で間違えた箇所を見返してみましょう。「二次関数の平方完成ができない」「関係代名詞の使い分けが分からない」など、自分の弱点をリストアップします。
効果: 課題が具体的になることで、何をすべきかが明確になります。

3.2. ステップ2：「簡単なところ」まで大胆に戻る勇気を持つ

これが苦手克服において、最も重要で、最も勇気がいるステップです。

行動: 高校の範囲でつまずいているなら、ためらわずに中学校の教科書や問題集に戻りましょう。場合によっては、小学校の範囲（分数の計算など）に戻ることも必要かもしれません。
なぜ重要か: どんなに高い建物を建てようとしても、土台がグラグラでは必ず崩れてしまいます。一見遠回りに見えても、つまずきの原因となった土台の部分をしっかり固め直すことが、結果的に最も早い克服への道です。

3.3. ステップ3：目標を極限まで小さくする

再スタートの際は、達成できる目標を極限まで小さく設定します。

目標の例:
- 「1日に、計算問題を3問だけ解く」
- 「1日に、英単語を5個だけ覚える」
- 「1日に、教科書を1ページだけ読む」
目的: 行動へのハードルを限りなくゼロに近づけることです。「これなら、どんなに疲れていてもできる」というレベルの目標から始めます。

3.4. ステップ4：毎日15分だけでも、その科目に触れる時間を作る

苦手科目は、どうしても避けてしまいがちです。だからこそ、意識的に毎日少しでも触れる習慣を作ることが大切です。

習慣化: 毎日、勉強を始める最初の15分は、必ずその苦手科目に充てる、と決めてしまいましょう。
効果: 毎日触れることで、その科目に対する心理的な壁が少しずつ低くなっていきます。また、短時間でも毎日続けることで、知識の定着率も上がります。

3.5. ステップ5：小さな「できた！」を記録し、可視化する

ステップ3で立てた小さな目標が達成できたら、必ずそれを記録に残しましょう。

方法: 手帳やカレンダーに、達成できたらシールを貼る、〇をつけるなど、簡単な方法で構いません。
効果: 小さな「できた！」が目に見える形で積み重なっていくと、「自分もやればできるじゃないか」という自信（有能感）が育っていきます。この自信こそが、苦手意識を克服するための最大のエネルギー源です。

4. 苦手科目の学習を続けるためのヒント

学習を継続していくための、いくつかのヒントを紹介します。

4.1. 質問できる人や環境を確保する

分からないことを、分からないまま放置しないことが重要です。

相談相手: 学校の先生や塾の講師、あるいは得意な友人など、「この人に聞けば教えてもらえる」という相談相手を見つけておきましょう。
質問の仕方: ただ「分かりません」と聞くのではなく、「自分はこう考えたのですが、どこが間違っていますか？」と、自分の考えを添えて質問すると、相手も答えやすく、自分の理解も深まります。

4.2. 勉強の場所や時間を変えてみる

いつも同じ環境でやる気が起きないなら、少し変化をつけてみましょう。

場所: 自分の部屋だけでなく、リビングや図書館、塾の自習室など、場所を変えるだけで気分が変わり、集中できることがあります。
時間: 夜にやっていた苦手科目を、頭がスッキリしている朝に取り組んでみる、といった時間の変更も効果的です。

4.3. 興味を持つための「きっかけ」を探す

勉強内容と、自分の興味があることを結びつけてみましょう。

例:
- 歴史が苦手なら、好きな歴史上の人物の伝記や、歴史をテーマにした映画・漫画を見てみる。
- 化学が苦手なら、身の回りにある製品（化粧品、食品など）がどんな化学物質でできているか調べてみる。
少しでも「面白いかも」と思えるきっかけが見つかると、勉強への抵抗感が和らぎます。

5. 「ボトルネック」を解消した先に待っているもの

苦手科目という「ボトルネック」を克服することは、簡単ではありません。しかし、その先には大きな成果が待っています。

5.1. 全体の成績が底上げされる効果

苦手科目の点数が少し上がるだけで、5教科全体の合計点や偏差値は、想像以上に大きく向上します。得意科目を10点上げるよりも、苦手科目を20点上げる方が、多くの場合で簡単です。

5.2. 選べる大学・学部の選択肢が広がる

苦手科目を克服することで、これまで諦めていた大学や学部が、現実的な志望校の候補に入ってきます。あなたの将来の可能性が、大きく広がることになります。

5.3. 苦手なことに挑戦し、克服したという大きな自信

そして何より、「自分には無理だと思っていたことを、やり遂げることができた」という経験は、学力以上の、計り知れない自信をあなたに与えてくれます。この自信は、受験本番はもちろん、これからの人生で困難に直面した時にも、あなたを支える力になるはずです。

結論

苦手科目から逃げずに向き合うことは、確かに勇気がいることです。しかし、その「苦手」の正体を正しく知り、適切な手順で、小さな一歩から始めていけば、必ず景色は変わってきます。

焦る必要はありません。まずは、中学校の教科書を開いてみることから。あるいは、計算問題を1問だけ解いてみることから。

その小さな一歩が、あなたの「嫌い」を「分かる」に、そして「分かる」を「できる」に変えていく、確かな始まりなのです。