【基礎 地理】Module 2: 地球の物理システムⅠ:気候と海洋

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【本モジュールの学習目標】

このモジュールでは、地球上の生命活動と人間社会の基盤をなす、最も根源的な自然環境要素である**「気候」と、それに密接不可分な「海洋」**のシステムについて、その成り立ちから世界的な分布パターンまでを体系的に解き明かしていきます。気候は、単に「暑い」「寒い」「雨が多い」といった現象の集合体ではありません。それは、地球という惑星規模の物理法則(熱収支、大気の運動、水の循環)によって織りなされる、壮大で論理的なシステムです。

Module 1で獲得した地理的思考のOSを本格的に稼働させ、私たちはまず**「なぜ場所によって気候は違うのか?」という問いに答えるため、気候を決定づける五大因子(緯度、高度、隔海度、地形、海流)を学びます。次に、地球全体を覆う風の流れである大気の大循環**と、それに伴う気圧帯のダイナミックな動きが、世界の雨の降り方をどのように支配しているのかを探求します。

そして、これらの物理的メカニズムが生み出す多様な気候を、世界標準の分類法であるケッペンの気候区分を用いて整理します。熱帯雨林から氷雪の世界まで、各気候帯が「なぜ、そこに、そのように」存在するのかを、その特徴、分布、植生、土壌、そして人間生活との関わりと共に、一つひとつ丁寧に解剖していきます。最後に、気候システムの巨大な調整役である海洋に焦点を当て、海流がどのように熱を運び、地球全体の気候を安定させているのか、また、エルニーニョ現象のような変動が私たちの生活に何をもたらすのかを理解します。

本モジュールを終えるとき、皆さんは世界地図を眺めながら、そこに広がる砂漠や森林、草原の分布の背後にある、見えざる大気と海洋の壮大なドラマを読み解くことができるようになっているでしょう。それは、単なる知識の暗記を超え、「地理的なぜ?」に自らの力で答えることができる、真の知的探求の始まりです。


目次

1. 気候を織りなす五大因子:なぜ場所によって気候は違うのか?

地球上の気候は驚くほど多様です。赤道直下にはうっそうとした熱帯雨林が広がり、極地は厚い氷に覆われています。同じ緯度でも、沿岸部は穏やかで、内陸部は寒暖差が激しい。隣り合う谷のこちら側は雨が多く、向こう側は乾燥している。こうした無限とも思える気候の多様性を生み出している根源的な要因、それが気候因子です。ここでは、気候を形成する最も重要な5つの因子、**「緯度」「高度」「隔海度」「地形」「海流」**について、そのメカニズムを解き明かしていきます。

1.1. 緯度と太陽エネルギー:地球の熱収支の基本

地球上の気候を決定づける最も根本的な因子は、緯度 (Latitude) です。なぜなら、緯度は、その場所が受け取る太陽エネルギーの量を直接的に決定するからです。

  • 地球は球体である:受熱量と太陽高度
    • もし地球が平面であれば、どの場所も同じ量の太陽エネルギーを受け取るはずです。しかし、地球は球体であるため、太陽からの光線が地表に当たる角度、すなわち太陽高度が緯度によって異なります。
    • 低緯度地域(赤道付近): 太陽はほぼ真上から照りつけ、太陽高度が高くなります。これにより、①単位面積あたりに受け取る太陽エネルギーの量が多くなり、②太陽光が大気を通過する距離が短いため、エネルギーの減衰が少なくなります。結果として、最も多くの熱を受け取る地域となります。
    • 高緯度地域(極付近): 太陽は低い角度から、斜めに射し込みます。これにより、①同じ量の太陽エネルギーがより広い面積に分散するため、単位面積あたりの受熱量は少なくなり、②太陽光が大気を通過する距離が長くなるため、途中で吸収・散乱されるエネルギーが多くなります。結果として、受け取る熱は著しく少なくなります。
    • この緯度による受熱量の違いこそが、地球上に「暑い場所」と「寒い場所」が存在する第一の理由です。
  • 地軸の傾きと季節の誕生
    • 地球の気候をさらに複雑でダイナミックにしているのが、季節の変化です。季節は、地球が太陽の周りを公転する際に、その自転軸が公転面に対して約23.4度傾いていることによって生じます。
    • 夏至(北半球): 北半球が太陽の方向へ最も傾く時期です。北半球では太陽高度が高くなり、昼の時間も最も長くなるため、受熱量が最大となり、夏を迎えます。太陽は**北回帰線(北緯23.4度)**の真上(天頂)を通過します。このとき、南半球は逆に太陽から最も遠ざかるため、冬となります。
    • 冬至(北半球): 南半球が太陽の方向へ最も傾く時期です。北半球では太陽高度が低くなり、昼の時間も最短になるため、受熱量が最小となり、冬を迎えます。太陽は**南回帰線(南緯23.4度)**の真上を通過します。
    • 春分・秋分: 地軸の傾きが太陽との位置関係において中立になる時期で、昼と夜の長さがほぼ等しくなります。
    • このように、地軸の傾きが、一年を通じて各緯度が受け取る太陽エネルギーの量を周期的に変動させ、四季というリズムを生み出しているのです。熱帯、温帯、寒帯という大まかな気候帯は、この天文学的な要因によって規定されています。

1.2. 高度(標高):登るほどに寒くなる理由

同じ緯度であっても、標高が高くなるにつれて気温は低下します。富士山の山頂が夏でも涼しいのは、誰もが経験的に知っていることです。この現象を説明するのが、気温の逓減(ていげん)率です。

  • 気温の逓減率とは
    • 一般的に、高度(標高)が100メートル上昇するごとに、気温は約**0.5〜0.65℃**低下します。この割合を気温の逓減率と呼びます。
    • 例えば、標高0mの平地の気温が25℃だった場合、標高2000mの山の山頂の気温は、25℃ – (0.65℃/100m × 2000m) = 12℃ となり、13℃も低くなる計算です。
  • なぜ高度が上がると気温が下がるのか?
    • 直感的には「太陽に近い方が暖かいはずだ」と考えてしまうかもしれませんが、これは誤りです。地球の対流圏(地表から高度約11kmまで)の大気は、太陽からのエネルギーで直接温められているわけではありません。
    • 大気は太陽の可視光線をほぼ透過させます。そのエネルギーはまず地表面を温めます。そして、温められた地表面が赤外線を放射し(地球放射)、その熱によって下層の空気がまず温められます
    • つまり、大気は地面という「ストーブ」によって下から暖められているのです。そのため、ストーブである地表面から離れれば離れるほど、すなわち高度が上がるほど、気温は低くなります。
  • 高山気候(H)の形成
    • この気温逓減率のため、低緯度の熱帯地域にあっても、標高が非常に高い場所では温帯や寒帯に似た、あるいはそれ以上に特殊な気候が見られます。これを**高山気候 (Highland Climate)**と呼びます。
    • 具体例:
      • 南米アンデス山脈に位置するエクアドルの首都キト(標高約2,850m)やコロンビアの首都ボゴタ(標高約2,640m)は、赤道直下にありながら年間の平均気温が14℃前後と、一年中日本の春や秋のような過ごしやすい気候です。これは常春(とこはる)の気候と呼ばれます。
      • アフリカ最高峰のキリマンジャロ山(標高5,895m)は、赤道付近にありながら山頂付近が万年雪と氷河に覆われています。
    • 高山気候は、気温の日較差が大きく、年較差は小さいという特徴も持ちます。これは、低緯度の強い日差しで日中は暖められるものの、夜間は放射冷却で急激に冷え込むためです。

1.3. 隔海度:海からの距離がもたらす温度差

同じ緯度、同じ高度にあっても、海に近い沿岸部と、大陸の奥深くにある内陸部とでは、気候の性格が大きく異なります。この海からの距離の影響度合いを**隔海度(かくかいど)**と呼びます。

  • 水と陸の比熱の違い
    • この違いを生み出す根本的な原因は、陸地(岩石や土壌)の比熱の差にあります。比熱とは、物質1gの温度を1℃上昇させるのに必要な熱量のことです。
    • : 比熱が非常に大きい。つまり、温まりにくく、冷めにくい性質を持ちます。
    • 陸地: 比熱が小さい。つまり、温まりやすく、冷めやすい性質を持ちます。
  • 海洋性気候と大陸性気候
    • この比熱の違いが、気温の年較差(一年のうちで最も暖かい月と最も寒い月の平均気温の差)に決定的な影響を与えます。
    • 海洋性気候 (Maritime Climate): 海に近い沿岸部では、比熱の大きい海水の存在が巨大な「湯たんぽ」や「保冷剤」のように機能します。夏は海水がなかなか温まらないため、気温の上昇が抑えられて比較的涼しくなります。冬はゆっくりと放出される海水からの熱によって、気温の低下が緩和されて比較的温暖になります。その結果、気温の年較差が小さく、穏やかな気候となります。
    • 大陸性気候 (Continental Climate): 海から遠く離れた大陸内部では、海洋の温度調節機能が及びません。比熱の小さい陸地は、夏の日差しで急速に加熱されて酷暑となり、冬は放射冷却で急速に熱を失い極寒となります。その結果、気温の年較差が非常に大きく、寒暖の差が激しい気候となります。
    • 具体例:
      • シベリア北東部にあるベルホヤンスクオイミヤコンは、世界で最も年較差が大きい場所として知られ、夏は30℃を超える日がある一方、冬は-60℃以下にまで冷え込み、年較差は100℃に達することもあります。これは、隔海度が極めて大きいことの典型例です。
      • 同緯度帯の西ヨーロッパ(ロンドンやパリ)が、冬も比較的温暖なのは、海洋性気候の恩恵を受けているからです。

1.4. 地形:山が風と雨を支配する

山脈のような大規模な地形は、風の流れを強制的に変えることで、その周辺の降水量に劇的なコントラストを生み出します。

  • 地形性降雨:風上斜面の多雨
    • 海からの湿った空気が、進路上にある山脈にぶつかると、行き場を失った空気は強制的に山肌を駆け上がります(強制上昇)。
    • 高度が上がると気圧が下がるため、空気は断熱膨張し、気温が低下します。
    • 空気の温度が露点(空気中の水蒸気が凝結し始める温度)まで下がると、水蒸気は水滴となり、雲が発生します。そして、山脈の風上側の斜面に大量の雨や雪(地形性降雨)を降らせます。
    • 具体例:
      • インドのアッサム地方チェラプンジは、夏のモンスーンがヒマラヤ山脈の南麓にぶつかるため、世界有数の多雨地域となっています。
      • 日本の日本海側は、冬にシベリアからの湿った季節風が脊梁山脈にぶつかるため、世界的な豪雪地帯となります。
  • 雨蔭効果とフェーン現象:風下斜面の乾燥
    • 大量の水分を雨や雪として放出した空気は、山脈を越えて風下側の斜面を吹き下ります。
    • 山を吹き下りる際、空気は高度が下がるにつれて断熱圧縮され、気温が急激に上昇します。100m下るごとに約1℃の割合で気温が上がります。
    • この結果、風下側では、高温で乾燥した風が吹くことになります。この現象をフェーン現象と呼びます。
    • 山脈が壁となって湿った空気を遮り、風下側が乾燥する効果を雨蔭(あめかげ)効果 (Rain Shadow Effect) といいます。これにより、山脈の風下側には乾燥地帯や砂漠(雨蔭砂漠)が形成されることがよくあります。
    • 具体例:
      • 南米のアンデス山脈の東側に広がるパタゴニア砂漠は、西からの偏西風がアンデス山脈に雨を降らせた後の乾燥した空気によって形成された、典型的な雨蔭砂漠です。
      • アメリカのシエラネバダ山脈の東側に広がるデスバレーも同様です。

1.5. 海流:地球を巡る熱のコンベヤーベルト

世界の海洋には、一定の方向に流れる巨大な川のような流れ、海流 (Ocean Current) が存在します。海流は、低緯度の暖かい海水と高緯度の冷たい海水をかき混ぜ、地球全体の熱のバランスを調整する「熱のコンベヤーベルト」として、気候に絶大な影響を与えています。

  • 暖流 (Warm Current)
    • 低緯度の熱帯・亜熱帯地域から、高緯度に向かって流れる海流です。周囲の海水よりも水温が高く、大量の熱エネルギーを運びます。
    • 影響: 暖流の沿岸では、空気が暖められ、また大量の水蒸気が供給されるため、気候は温暖で湿潤になります。特に冬の寒さを和らげる効果が顕著です。
    • 具体例:
      • メキシコ湾流から続く北大西洋海流(暖流)は、西ヨーロッパに膨大な熱を供給し、イギリスやノルウェーといった高緯度地域の冬を、同緯度のカナダ内陸部などと比べてはるかに温暖なものにしています(西岸海洋性気候の形成に不可欠)。
      • 日本の南岸を流れる**黒潮(日本海流)**も代表的な暖流です。
  • 寒流 (Cold Current)
    • 高緯度の寒冷な地域から、低緯度に向かって流れる海流です。周囲の海水よりも水温が低く、冷たい水を運びます。
    • 影響: 寒流の沿岸では、空気が下から冷やされます。冷たい空気は上昇しにくいため(大気が安定)、雲ができにくく、降水量が非常に少なくなります。また、冷たい海面上に暖かく湿った空気が流れ込むと、水蒸気が冷やされて濃い霧が発生しやすくなります。
    • 影響: この寒流の影響により、大陸の西岸には海岸砂漠と呼ばれる特殊な砂漠が形成されることがあります。夏でも涼しく、霧は多いのに雨はほとんど降らないのが特徴です。
    • 具体例:
      • 南米ペルー・チリ沖を流れるペルー海流(フンボルト海流)は、世界で最も乾燥した砂漠の一つであるアタカマ砂漠を形成しています。
      • アフリカ南西岸のナミブ砂漠は、ベンゲラ海流(寒流)の影響で形成されました。

これら5つの気候因子は、単独で作用するのではなく、常に相互に複雑に絡み合いながら、ある特定の場所の気候を創り上げています。ある地域の気候を考える際には、常にこれらの因子がどのように組み合わさっているかを分析する視点が不可欠です。


2. 地球を包む風のシステム:大気の大循環

地球上の風は、単に気まぐれに吹いているわけではありません。そこには、太陽エネルギーによる加熱と地球の自転によって生み出される、地球規模の壮大な循環システムが存在します。この大気の大循環 (General Circulation of the Atmosphere) を理解することは、世界の降水パターン、すなわち「どこで雨が降り、どこで降らないのか」という、気候を理解する上で最も重要な謎を解く鍵となります。

2.1. なぜ風は吹くのか?気圧と風の基本原理

大気循環のメカニズムに入る前に、風が生まれる基本原理をおさらいしましょう。

  • 気圧差が風を生む:
    1. 地表面が暖められると、その上の空気も暖められます。
    2. 暖められた空気は、密度が小さく軽くなるため、上昇します(上昇気流)。
    3. 地表付近の空気が上昇すると、その場所の空気の重さ(圧力)が小さくなるため、**低圧部(低気圧)**が形成されます。
    4. 逆に、上空で冷やされた空気は、密度が大きく重くなるため、下降します(下降気流)。
    5. 地表付近に空気が下降してくると、その場所の空気の重さが増すため、**高圧部(高気圧)**が形成されます。
    6. は、この気圧の不均衡を解消しようとして、気圧の高い方(高圧部)から低い方(低圧部)へと吹きます。
  • コリオリの力(転向力):
    • もし地球が自転していなければ、風は高圧部から低圧部へまっすぐ吹くはずです。しかし、地球は自転しているため、地上を移動する物体(風や海流など)には、見かけ上の力が働きます。これをコリオリの力または転向力と呼びます。
    • この力は、北半球では進行方向に対して右向きに、南半球では左向きに働きます。
    • この力のため、風は等圧線を直角に横切るのではなく、北半球では右に、南半球では左に曲げられながら吹くことになります。

2.2. 単一セルモデルから三つの循環セルへ

大気循環の最も単純なモデルとして、もし地球が自転しておらず、地表が一様であると仮定した場合を考えてみましょう(単一セルモデル)。

  • 思考実験:自転しない地球:
    • 最も強く熱せられる赤道で大規模な上昇気流が発生し、上空に達した空気は南北の極へ向かいます。
    • 極で冷却された空気は下降し、地表を高圧部にします。
    • 地表では、極の高圧部から赤道の低圧部へ向かって、北風(北半球)と南風(南半球)が吹きます。
    • この結果、北半球と南半球にそれぞれ一つずつの巨大な対流セルが形成されます。
  • 現実の地球:三つの循環セル
    • しかし、現実の地球は自転しています。このコリオリの力の影響で、単一の巨大な循環は3つのより小さな循環セルに分割されます。赤道側から順に、ハドレー循環フェレル循環極循環です。これらの循環が、地表に特徴的な気圧帯恒常風(一年を通じてほぼ同じ方向に吹く風)のシステムを生み出します。

![大気大循環の模式図](https://www.google.com/search?q=https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/whitep/2-1.html のような図を想定)

(出典:気象庁ウェブサイトなどを参考に独自に模式図を作成)

2.3. ハドレー循環と熱帯・乾燥帯の気候

低緯度帯の気候を支配するのが、最もダイナミックなハドレー循環です。

  • 赤道低圧帯(熱帯収束帯, ITCZ):
    • メカニズム: 赤道付近は、一年を通じて太陽エネルギーの受熱量が最大となるため、地表が強く熱せられます。これにより、大規模で強力な上昇気流が発生し、地表には恒常的な低圧帯が形成されます。これを赤道低圧帯と呼びます。北半球と南半球の貿易風がこの地帯に集まってくる(収束する)ことから、熱帯収束帯 (Intertropical Convergence Zone, ITCZ) とも呼ばれます。
    • 気候への影響: 上昇気流が卓越するため、空気は断熱膨張して冷やされ、水蒸気が凝結して積乱雲が発達します。その結果、年間を通して降水量が非常に多く、しばしばスコールと呼ばれる激しい対流性の雨を降らせます。**熱帯雨林気候(Af)**は、この赤道低圧帯の直下に位置することで形成されます。
  • 亜熱帯高圧帯(中緯度高圧帯):
    • メカニズム: 赤道低圧帯で上昇した空気は、上空で南北に分かれて高緯度側へ向かいますが、緯度20~30度付近で地球の自転の影響などにより冷やされ、重くなって下降します。この強力な下降気流により、地表には恒常的な高圧帯が形成されます。これを亜熱帯高圧帯と呼びます。
    • 気候への影響: 下降気流が卓越する場所では、空気は断熱圧縮されて暖められ、乾燥します。そのため、雲が発生しにくく、年間を通して晴天で乾燥した天候が続きます。世界の主要な**砂漠(サハラ砂漠、アラビア砂漠、オーストラリアの砂漠など)**が、この亜熱帯高圧帯の緯度に帯状に分布しているのは、これが最大の理由です。**砂漠気候(BW)ステップ気候(BS)**の成因の根幹です。
  • 貿易風 (Trade Winds):
    • 地表では、亜熱帯高圧帯の下降気流によって地表に吹き出した空気が、気圧の低い赤道低圧帯へと向かって吹きます。これが貿易風です。
    • コリオリの力の影響で、北半球では北東貿易風、南半球では南東貿易風となります。大航海時代、帆船がこの安定した風を利用して「貿易」を行ったことから、この名が付きました。

2.4. フェレル循環・極循環と中高緯度の気候

中緯度・高緯度の気候は、残る二つの循環によって支配されます。

  • 偏西風 (Westerlies):
    • 亜熱帯高圧帯から、さらに高緯度側(極側)に向かって吹き出す地上の風が偏西風です。
    • コリオリの力によって大きく東向きに曲げられるため、一年を通じて西寄りの風となります。
    • 日本を含む温帯の天気が「西から東へ」と移り変わるのは、この偏西風帯に位置しているためです。西岸海洋性気候(Cfb)や温暖湿潤気候(Cfa)など、温帯の気候形成に決定的な役割を果たします。
  • 亜寒帯低圧帯(寒帯前線帯):
    • メカニズム: 緯度60度付近では、低緯度側からやってくる暖かく湿った偏西風と、極側からやってくる冷たく乾いた極東風(極偏東風)が衝突します。性質の異なる二つの気団がぶつかり合うことで、寒帯前線が形成され、暖気が冷気の上に押し上げられる形で上昇気流が発生します。これにより、地表には低圧帯が形成されます。
    • 気候への影響: 前線活動が活発であるため、雲が発生しやすく、年間を通して比較的に降水があります。**西岸海洋性気候(Cfb)冷帯(D気候)**の降水は、主にこの亜寒帯低圧帯における低気圧活動によってもたらされます。
  • 極高圧帯極東風:
    • 極高圧帯: 北極・南極では、一年中厳しい寒さのために空気が冷却され、重くなって下降します。この下降気流により、地表には高圧帯が形成されます。
    • 極東風(極偏東風): 極高圧帯から亜寒帯低圧帯に向かって吹き出す地上の風です。コリオリの力で東寄りの風となります。
  • フェレル循環: 偏西風と極東風によって動かされる、中間的な循環です。ハドレー循環や極循環のように熱的な要因で直接駆動されるものではなく、間接的な循環とされます。

2.5. 気圧帯の季節移動と季節風(モンスーン)

これまで述べてきた大気大循環のシステムは、一年中同じ場所に固定されているわけではありません。地球の公転と地軸の傾きに伴い、太陽から最も強く熱せられる地帯が南北に移動するのに合わせて、気圧帯も全体として季節的に南北に移動します。この「気圧帯の季節移動」が、多くの気候区の雨季と乾季を生み出す根本的なメカニズムです。

  • 気圧帯の季節移動が作る気候:
    • サバナ気候 (Aw): 夏(その半球にとっての)には、太陽高度が高くなるため、赤道低圧帯が自分のいる場所まで北上(または南下)してきます。その影響で雨季となります。冬には、赤道低圧帯が去り、代わりに亜熱帯高圧帯が南下(または北上)してきて覆われるため、下降気流が卓越して乾季となります。
    • 地中海性気候 (Cs): 夏には、太陽高度が高くなるため、亜熱帯高圧帯が極側へ勢力を拡大し、その影響下に入ります。そのため、下降気流に支配されて高温で乾燥した天候が続きます。冬には、亜熱帯高圧帯が赤道側へ後退し、代わりに**偏西風帯(亜寒帯低圧帯)**の影響下に入るため、前線を伴った低気圧が次々と通過し、温暖で湿潤な天候となります。
  • 季節風(モンスーン):
    • 特にアジア大陸のように巨大な大陸では、気圧帯の季節移動に加えて、大陸と海洋の比熱差が、よりダイナミックな季節による風系の逆転、すなわち**季節風(モンスーン)**を生み出します。
    • 夏のアジアモンスーン: 夏、アジア大陸は太陽に熱せられて非常に高温となり、巨大な低圧部となります。一方、相対的に低温な太平洋やインド洋上は高圧部となります。このため、海洋の高圧部から大陸の低圧部に向かって、高温で湿った南東~南西の風が吹き込み、日本や中国、インドなどに大量の雨(梅雨や集中豪雨)をもたらします。
    • 冬のアジアモンスーン: 冬、大陸は放射冷却で極端に冷え込み、シベリアを中心に強大な高圧部(シベリア高気圧)が発達します。一方、相対的に温暖な海洋上は低圧部となります。このため、大陸の高圧部から海洋の低圧部に向かって、冷たく乾燥した北西の風が吹き出します。この風が日本海を渡る際に水分を補給し、日本の日本海側に大雪を降らせます。
    • このモンスーンシステムが、**温暖湿潤気候(Cfa)や、冬に乾燥する温暖冬季少雨気候(Cwa)**といった、アジアに特徴的な気候区を生み出しています。

3. ケッペンの気候区分:世界の気候を分類する

私たちはこれまで、気候を決定づける物理的な因子と、その背景にある大気と海洋のダイナミックなメカニズムを学んできました。しかし、それらが複合的に作用した結果として現れる現実世界の気候は、無限のグラデーションを持つ複雑なものです。この複雑な現実を理解し、異なる地域の気候を比較・分析するためには、客観的な「物差し」となる分類法が不可欠です。その世界標準として、地理学で最も広く用いられているのがケッペンの気候区分です。

3.1. なぜ気候を分類するのか?—植生との対応

20世紀初頭にドイツの気候学者ウラジミール・ケッペン (Wladimir Köppen) が考案したこの分類法の最大の功績は、単に気温と降水量の組み合わせで気候を機械的に分類したのではなく、その分類が植生 (Vegetation) の分布と密接に対応するように設計されている点にあります。

  • 植生は「気候を映す鏡」:
    • 気候そのもの(気温、降水量、風など)は、私たちの目には直接見えません。しかし、そこに生育する植物の姿、すなわち植生景観は、その土地の気候を雄弁に物語っています。
    • 例えば、うっそうとした常緑の森が広がっていれば、そこは一年中暖かく雨が多いのだろう(熱帯雨林気候)と推測できます。丈の低い草しか生えていなければ、雨が少ないのだろう(ステップ気候)と、あるいは夏が短く寒いのだろう(ツンドラ気候)と考えることができます。
    • ケッペンは、この「植生こそが気候を総合的に反映した結果である」という地理学的な視点に立ち、気温と降水量の特定の閾値(いきち)を、植物の生育限界と結びつけて設定しました。そのため、彼の気候区分図は、世界の植生分布図と非常によく似たパターンを描くのです。これは、農業や林業といった人間活動の基盤を理解する上でも極めて重要です。

3.2. 分類のステップとアルファベットの論理

ケッペンの気候区分は、アルファベットの記号を用いて表現されますが、これは単なる記号の羅列ではありません。そこには、明確な論理的階層構造が存在します。この論理を理解すれば、記号を丸暗記する必要はなくなります。

  • Step 1: 樹木の有無による大分類(A,C,D vs B,E)
    • まず、ケッペンは地上の植生を最も大きく左右する**「樹木が生育できるか否か」**という基準で世界を二分しました。
    • 樹木気候: 樹木が生育可能な、比較的温暖で湿潤な気候。**A(熱帯)、C(温帯)、D(冷帯)**がこれにあたります。
    • 無樹木気候: 「寒すぎる」か「乾燥しすぎる」ために、樹木が生育できない気候。**E(寒帯)**は寒さが、**B(乾燥帯)**は水不足が、それぞれ樹木の生育を阻害します。
    • この「樹木限界」という考え方が、ケッペン体系の根幹をなす大原則です。
  • Step 2: 気温による気候帯の区分(A, C, D, E)
    • 次に、気温を基準に、主に冬の寒さの程度によって気候帯を分類します。
      • A (熱帯, Tropical): 年中温暖で、明確な冬がない。基準は最寒月平均気温が18℃以上。この18℃という値は、ヤシなどの特定の熱帯性植物が生育できるかどうかの限界気温とされています。
      • C (温帯, Temperate): 四季の変化があり、冬はあるが極端には寒くない。基準は最寒月平均気温が-3℃以上18℃未満。-3℃は、最深積雪がほぼ毎月見られるかどうかの目安とされ、地面の凍結が常態化するかどうかの境界線とも考えられています。
      • D (冷帯/亜寒帯, Cold/Boreal): 冬の寒さが厳しく、長い。基準は最寒月平均気温が-3℃未満。ただし、夏には樹木が生育できるだけの暖かさ(最暖月平均気温が10℃以上)はあります。
      • E (寒帯, Polar): 一年を通して寒さが厳しく、夏も気温が十分に上がらないため樹木が生育できない。基準は最暖月平均気温が10℃未満。この10℃は、樹木の生育が可能となる夏の暖かさの限界線(高木限界)とされています。
  • Step 3: 降水量による気候帯の区分(B)
    • B (乾燥帯, Arid): 降水量が極めて少なく、樹木が生育できない。基準は、年降水量が乾燥限界未満であること。この「乾燥限界」の値は、後述するように気温によって変動します。
  • Step 4: 第2記号(降水パターン)
    • 主にA, C, D気候において、降水の季節性(乾季の有無)を示すために、ドイツ語由来の小文字が用いられます。
      • f (feucht): 「湿潤な」。年間を通して明瞭な乾季がない。feuchtはドイツ語でmoistの意味。
      • w (wintertrocken): 「冬に乾燥」。夏に雨季があり、冬に乾季がある。wintertrockenはwinter-dryの意味。
      • s (sommertrocken): 「夏に乾燥」。夏に乾季があり、冬に雨季がある。sommertrockenはsummer-dryの意味。
      • m (monsunale): 熱帯における、AfとAwの中間的な気候。短い乾季はあるものの、モンスーンによる降水量が非常に多いため、全体としては熱帯雨林が維持される。
  • Step 5: 第3記号(気温の程度など)
    • さらに細分化するために、3番目の記号が用いられることがあります。
      • C気候、D気候において、夏の気温を示す:
        • a: 夏は暑い(最暖月平均気温22℃以上)。
        • b: 夏は温暖だが暑くはない(最暖月平均気温22℃未満、かつ月平均10℃以上の月が4ヶ月以上)。
        • c: 夏は短く涼しい(月平均10℃以上の月が1〜3ヶ月)。
      • B気候において、年平均気温を示す:
        • h (heiß): 年平均気温が18℃以上。「暑い」砂漠/ステップ。
        • k (kalt): 年平均気温が18℃未満。「寒い」砂漠/ステップ。
      • E気候の細分:
        • T (Tundra): 最暖月平均気温が0℃以上10℃未満。短い夏に地面の雪が解ける。
        • F (Frost): 最暖月平均気温が0℃未満。一年中氷雪に覆われている。

3.3. 「乾燥限界」の概念:なぜ気温が高いと雨が多く必要か

ケッペンの気候区分を理解する上で、一つの壁となるのがB(乾燥帯)を判定するための乾燥限界という概念です。なぜ乾燥帯は「年降水量〇〇mm未満」のように、単純な数値で定義されないのでしょうか。

  • 乾燥 = 降水量 < 蒸発量
    • ある場所が乾燥しているかどうかは、単に雨がどれだけ降るか(降水量=水収入)だけで決まるわけではありません。地面や植物からどれだけ水分が奪われるか(蒸発散量=水支出)とのバランスで決まります。
    • そして、この蒸発散量を大きく左右するのが気温です。気温が高いほど、水は盛んに蒸発します。
    • したがって、同じ500mmの雨が降ったとしても、年平均気温が30℃の熱帯地域では水分はすぐに蒸発してしまい乾燥しますが、年平均気温が5℃の冷涼な地域では、蒸発が少ないため湿潤な環境が保たれるのです。
  • 乾燥限界の式
    • ケッペンは、この関係性を経験的に導き出し、年平均気温(t[℃])と年降水量(r[mm])から乾燥限界値を計算する式を考案しました。
    • 例えば、一年を通して平均的に雨が降る場合、乾燥限界rは、r=20(t+7) となります。
      • 年平均気温が25℃の場所なら、乾燥限界は 20×(25+7)=640mm。年降水量が640mm未満ならB気候となります。
      • 年平均気温が10℃の場所なら、乾燥限界は 20×(10+7)=340mm。年降水量が340mm未満で初めてB気候となります。
    • (注:この式は降水パターンによって係数が変わります。夏に雨が集中する地域は蒸発しやすいためより多くの雨が必要となり(k=14)、冬に雨が集中する地域は蒸発しにくいため少ない雨でも湿潤になります(k=0)。この式自体を暗記する必要はありませんが、「乾燥限界は気温によって変動する」という論理を理解することが極めて重要です。)
    • さらに、乾燥帯は、極度に乾燥した**砂漠気候(BW)と、それよりは降水があるステップ気候(BS)**に分けられます。BWとBSの境界線は、乾燥限界値のちょうど半分の値となります。

3.4. ハイサーグラフ(クライモグラフ)の読解法

ハイサーグラフ(またはクライモグラフ)は、ある地点の月別の平均気温と降水量を一つの図にまとめたもので、その地点の気候区を判定するための最も重要な資料です。横軸に降水量、縦軸に気温をとり、1月から12月までの点を結んで描かれます。このグラフを読み解く手順をマスターしましょう。

【ハイサーグラフ読解のステップ】

  1. 北半球か南半球か?
    • まず、気温の変化(グラフの上下の動き)を見ます。
    • グラフの山が6〜8月頃にあり、上に凸の形をしていれば北半球です。
    • グラフの山が12〜2月頃にあり、下に凸の形をしていれば南半球です。
    • グラフがほぼ水平で年間の気温差がほとんどなければ、赤道直下の熱帯の可能性が高いです。
  2. A, C, D, E いずれかの樹木・寒帯気候か?
    • 次に、気温の具体的な数値を読み取ります。
    • 最寒月(最も気温が低い月)の平均気温が18℃以上 → A(熱帯)気候
    • 最寒月の平均気温が**-3℃以上18℃未満** → C(温帯)気候
    • 最寒月の平均気温が**-3℃未満** → D(冷帯)気候
    • 最暖月(最も気温が高い月)の平均気温が10℃未満 → E(寒帯)気候
  3. B(乾燥帯)気候の可能性は?
    • 全体的に見て、降水量が著しく少ない(グラフが全体的に左側に寄っている)場合は、B気候を疑います。厳密な判定には乾燥限界の計算が必要ですが、入試レベルでは、年降水量が250mm未満ならBW、500mm未満ならBSの一つの目安として考え、他の気候区の特徴に当てはまらないことを確認します。
  4. f, w, s どの降水パターンか?
    • 降水量の季節変化(グラフの左右の動き)を見ます。
    • 年間を通じて降水量が多く、グラフが右側に大きく広がっており、明瞭な乾季がない → f(湿潤)
    • 夏(気温が高い時期)に降水量が多く、冬(気温が低い時期)に少ない → w(冬季乾燥)
    • 夏(気温が高い時期)に降水量が少なく、冬(気温が低い時期)に多い → s(夏季乾燥)
  5. a, b, c などの細分は?
    • 最暖月の平均気温が22℃以上 → a(例:Cfa, Dfa)
    • 最暖月の平均気温が22℃未満 → b(例:Cfb, Dfb)

この手順に従えば、未知のハイサーグラフがどの気候区に属するのかを論理的に判定できます。そして最終的には、その気候区が形成される地理的背景(緯度、大気循環、隔海度、海流など)まで考察できるようになることが目標です。


4. 世界の気候区:その特徴・分布・暮らし

ケッペンの分類法という強力なツールを手に入れた今、私たちは世界旅行に出かける準備が整いました。この章では、各気候区を巡り、その土地の気候的特徴、なぜそこにその気候が分布するのかという成因、そしてその気候に適応した植生、土壌、さらには人間の文化や産業がどのように展開しているのかを、具体的に見ていきましょう。

4.1. 熱帯 (A気候):常夏の生命圏

**【共通点】**最寒月平均気温18℃以上。一年中夏。気温の年較差は小さく、日較差(一日の最高・最低気温の差)の方が大きい。

  • Af (熱帯雨林気候)
    • 気候: 年中高温多雨。年間を通して2000mm以上の降水があり、明瞭な乾季はない。午後にスコールと呼ばれる激しい対流性の雷雨が降ることが多い。
    • 成因: 年間を通じて**赤道低圧帯(熱帯収束帯)**の影響下にあり、強力な上昇気流が卓越するため。
    • 分布: アマゾン川流域(ブラジルなど)、コンゴ盆地(コンゴ民主共和国など)、東南アジアの島嶼部(インドネシア、マレーシアなど)。
    • 植生常緑広葉樹からなる多層構造の密林。生物多様性が極めて豊か。南米ではセルバ、東南アジアではジャングルと呼ばれる。
    • 土壌: 高温多雨のため、有機物の分解が速く、雨によって栄養分が流されてしまうため、赤色で痩せたラトソルという土壌が分布する。
    • 人間生活: 伝統的には、森を焼き払ってその灰を肥料とする焼畑農業(キャッサバ、ヤムイモなど)が行われてきた。近年は、先進国向けのプランテーションとして天然ゴム油ヤシカカオなどの栽培が拡大し、深刻な森林破壊の原因となっている。
  • Aw (サバナ気候)
    • 気候: 年中高温で、明瞭な雨季乾季がある。
    • 成因赤道低圧帯亜熱帯高圧帯季節移動の影響を受ける。太陽高度が高い「夏」の時期に赤道低圧帯に覆われて雨季となり、太陽高度が低い「冬」の時期に亜熱帯高圧帯に覆われて乾季となる。
    • 分布: Af気候の外側、すなわち緯度10〜20度付近に広く分布。アフリカ大陸の広範囲、南米のブラジル高原(カンポセラードと呼ばれる)やオリノコ川流域(リャノ)、オーストラリア北部など。
    • 植生: 雨季に青々と茂る**長草草原(サバナ)**と、乾季に葉を落とす樹木(アカシアなど)がまばらに生える景観。
    • 土壌: ラトソルや、より肥沃な黒色土などが分布。
    • 人間生活: 「野生動物の王国」として知られる。伝統的には遊牧や焼畑農業が行われる。植民地時代以降、コーヒー(ブラジル、エチオピア)、サトウキビ(ブラジル、キューバ)、綿花(スーダン)などのプランテーション農業が大規模に展開されている。

4.2. 乾燥帯 (B気候):水の希少性がすべてを決める世界

**【共通点】**年降水量が乾燥限界未満。気温の年較差・日較差がともに大きい。

  • BW (砂漠気候)
    • 気候: 降水量が極端に少ない(年250mm未満が目安)。ほぼ一年中、雨が降らない。
    • 成因:
      1. 亜熱帯砂漠: 亜熱帯高圧帯に一年中支配される(サハラ砂漠アラビア砂漠)。
      2. 海岸砂漠: 大陸西岸を流れる寒流の影響で大気が安定するため(アタカマ砂漠ナミブ砂漠)。
      3. 内陸砂漠: 海から遠く離れているため(隔海度が大きい)、湿った空気が届かない(中央アジアのタクラマカン砂漠など)。
      4. 雨蔭砂漠: 高い山脈の風下側に位置するため(パタゴニア砂漠)。
    • 植生・土壌: 植生はほとんど見られず、岩石や砂に覆われる。土壌は未発達な砂漠土
    • 人間生活: 人口は希薄。地下水や外来河川(他の湿潤地域から流れてくる川、ナイル川など)が得られるオアシスでは、ナツメヤシや小麦などが栽培される。伝統的にはラクダなどと共に移動する遊牧が行われる。近年は、化石地下水を利用したセンターピボット方式の灌漑農業や、豊富な石油資源による経済発展が見られる(西アジア)。
  • BS (ステップ気候)
    • 気候: 砂漠よりは降水量が多く、短い雨季がある。
    • 成因: 砂漠気候(BW)の周辺部に分布し、雨季には周辺の湿潤気候の影響をわずかに受ける。
    • 分布: アフリカのサハラ砂漠南縁のサヘル地帯、中央アジア、北米大陸中西部のグレートプレーンズ、南米のパンパの西側など。
    • 植生: **短草草原(ステップ)**が広がる。樹木はない。
    • 土壌: 草が枯れて有機物が土壌に供給される一方、降水量が少ないため栄養分が流されにくい。このため、世界で最も肥沃と言われる黒色の土壌、チェルノーゼム(ウクライナ〜ロシア南部)やプレーリー土(北米)が分布する。
    • 人間生活: この肥沃な土壌を利用して、アメリカやカナダ、アルゼンチンなどでは、大型機械を用いた大規模な企業的穀物農業(小麦など)や企業的牧畜(牛、羊)が行われ、「世界のパンかご」と呼ばれる食料供給基地となっている。一方で、サヘル地帯などでは、近年の人口増加に伴う過放牧や薪の過剰な伐採により、砂漠化が深刻な環境問題となっている。

4.3. 温帯 (C気候):多様な文化を育んだ四季

**【共通点】**最寒月平均気温-3℃〜18℃。四季の変化が明瞭。

  • Cfa (温暖湿潤気候)
    • 気候: 夏は高温多湿、冬は比較的寒冷で、季節の移り変わりが明瞭。年間を通じて降水があるが、夏に多い傾向がある。
    • 成因: 主に大陸東岸に分布。**季節風(モンスーン)の影響や、夏から秋にかけての熱帯低気圧(台風、ハリケーン)**の襲来により、夏の降水量が多くなる。
    • 分布東アジア(日本の大部分、中国の華中・華南、朝鮮半島南部)、アメリカ合衆国南東部、南米のパンパ(アルゼンチン)、オーストラリア南東部。
    • 植生・土壌: 本来は照葉樹林(シイ、カシなど)や落葉広葉樹と針葉樹の混合林が広がる。土壌は比較的肥沃な褐色森林土
    • 人間生活: 夏の高温多湿な気候は稲作に非常に適しており、東アジアでは古くから人口を支える基盤となってきた。アメリカ南東部はかつて**綿花地帯(コットンベルト)**として知られた。人口が密集し、古くから文明が栄えた地域が多い。
  • Cfb (西岸海洋性気候)
    • 気候: 夏は涼しく(最暖月22℃未満)、冬は緯度の割に温暖で、気温の年較差が小さい。一年を通して安定した降水がある。霧や曇りの日が多い。
    • 成因: 主に大陸西岸の中緯度帯に分布。一年中、暖流(北大西洋海流など)の上を吹いてくる湿った偏西風の影響を強く受けるため。
    • 分布西ヨーロッパ(イギリス、フランス、ドイツなど)、北米西海岸北部、チリ南部、ニュージーランド、オーストラリア南東部。
    • 植生・土壌: ブナやナラなどの落葉広葉樹林。土壌は褐色森林土
    • 人間生活: ヨーロッパ文明の温床となった気候。小麦などの穀物栽培と、豚や牛などの家畜飼育を組み合わせた混合農業や、冷涼な気候を活かした酪農が盛ん。イギリスのガーデニング文化なども、この穏やかな気候の産物である。
  • Cs (地中海性気候)
    • 気候: 夏は高温で乾燥し、冬は温暖で湿潤。この「夏乾燥、冬雨」というパターンが最大の特徴。
    • 成因亜熱帯高圧帯の季節移動の典型例。夏には亜熱帯高圧帯に覆われて晴天・乾燥、冬には偏西風帯に入り、低気圧の影響で雨が降る。
    • 分布: 緯度30〜40度の大陸西岸。名称の通り地中海沿岸が代表的。その他、アメリカのカリフォルニア、南米のチリ中部、南アフリカ共和国のケープタウン周辺、オーストラリアのパース周辺アデレード周辺
    • 植生・土壌: 夏の乾燥に耐えるため、葉が硬く小さい硬葉樹オリーブコルクガシなど)が中心。土壌は石灰岩が風化した赤色のテラロッサが有名。
    • 人間生活: 夏の乾燥に強いオリーブブドウオレンジなどの樹木栽培と、冬の雨を利用して育てる小麦を組み合わせた地中海式農業が伝統的に行われる。夏は日差しが強く観光に適しており、世界的なリゾート地が多い。

4.4. 冷帯/亜寒帯 (D気候):針葉樹林と凍れる大地

**【共通点】**最寒月平均気温-3℃未満、最暖月平均気温10℃以上。気温の年較差が非常に大きい。南半球には分布しない(該当する緯度帯に大陸が存在しないため)。

  • 気候: 冬は長く厳しく、シベリアでは-40℃を下回ることも珍しくない。夏は短いが、気温は比較的高くまで上がる。
  • 成因隔海度が大きく、大陸性気候の典型。冬は大陸内部に発生する強大な高気圧(シベリア高気圧など)の影響で極寒となる。
  • 分布: ユーラシア大陸(スカンディナビア半島東部からシベリア)、北米大陸(アラスカ、カナダの大部分)。
  • 植生タイガと呼ばれる、モミ、トウヒ、マツなどの針葉樹林が広大な帯状に広がる。
  • 土壌: 低温で有機物の分解が遅く、針葉樹の落葉が酸性であるため、栄養分が雨で溶脱した白っぽい灰色の痩せた土壌、ポドゾルが分布する。
  • 人間生活: 厳しい気候のため人口は希薄。広大な森林資源を利用した林業や製紙・パルプ工業が主要産業。農業は春小麦などが一部で行われるのみ。人々は厳しい冬を越すため、断熱性の高いログハウスなどに住む。

4.5. 寒帯 (E気候):氷と雪の世界

**【共通点】**最暖月平均気温10℃未満。樹木が生育できない極寒の気候。

  • ET (ツンドラ気候)
    • 気候: 最暖月平均気温が0℃以上10℃未満。夏はごく短く、その間に地面の雪や氷がわずかに解ける。地面の下には一年中凍結した永久凍土が広がる。
    • 分布: ユーラシア大陸と北米大陸の最北部、グリーンランドの沿岸部など。
    • 植生: 樹木は育たず、短い夏にコケ類、地衣類、草本類が生育するのみ。
    • 人間生活トナカイの遊牧(スカンディナビアのサーミ人など)や、アザラシやカリブーの狩猟(北米のイヌイットなど)、漁労で生計を立てる先住民族が居住。近年は、地球温暖化による永久凍土の融解が、彼らの生活基盤やインフラに深刻な影響を及ぼしている。
  • EF (氷雪気候)
    • 気候: 最暖月平均気温が0℃未満。一年中、気温が氷点下で、大地は分厚い氷(大陸氷河氷床)に覆われている。
    • 分布南極大陸グリーンランドの内陸部
    • 人間生活: 厳しすぎる環境のため、恒常的な定住者はいない。各国の観測基地が置かれ、地球環境や気象、地質学などの科学研究が行われる最前線となっている。

5. 地球の体温調節システム:海洋大循環と気候

大気と同様に、海洋もまた、地球の気候を形成し、安定させる上で決定的に重要な役割を果たしています。世界の海洋には、一定の方向に流れる巨大な海流が存在し、それはさながら地球の血液のように、熱や物質を地球全体に輸送しています。この海洋の循環システムを理解することで、気候の謎はさらに深く解き明かされます。

5.1. 海流のメカニズム:なぜ海水は動くのか

海流を生み出す主な力は、海水の密度の違いです。

  • 吹送流(すいそうりゅう)と表層循環:
    • 海洋の表面近くを流れる海流のほとんどは、その上を吹く恒常風(貿易風や偏西風)によって海水が引きずられることで生じます。これを吹送流と呼びます。
    • 大気大循環の風系に対応して、海洋にも巨大な環流 (Gyre) が形成されます。例えば、北太平洋では、北東貿易風が北赤道海流(西向き)を、偏西風が北太平洋海流(東向き)を生み出します。そして、これらの流れが大陸にぶつかることで、南北方向の流れ(黒潮カリフォルニア海流)が生まれ、時計回りの巨大な環流が完成します。南半球では、これが反時計回りになります。
    • 西岸強化: 興味深いことに、これらの環流では、西側(大陸の東岸側)の流れが、東側(大陸の西岸側)の流れよりも、狭く、速く、強くなる傾向があります。これを西岸強化と呼びます。黒潮やメキシコ湾流が、カリフォルニア海流やカナリア海流よりもずっと強力なのはこのためです。
  • 密度流と深層循環:
    • 海洋の動きは表層だけではありません。その下には、海水の密度の違いによって駆動される、ゆっくりとした巨大な流れ、深層循環が存在します。
    • 海水の密度は、主に水温塩分濃度によって決まります。水温が低いほど、また塩分濃度が高いほど、海水は重く(密度が大きく)なります。この重くなった海水が沈み込むことで、深層の流れが生まれます。これを密度流と呼びます。

5.2. 海流が描く世界の気候マップ

暖流と寒流が気候に与える影響は、私たちがこれまで学んできた気候分布を理解する上で、最後の重要なピースとなります。

  • 暖流の温熱効果: 暖流は低緯度から高緯度へ熱を運び、沿岸の気候を温暖・湿潤にします。
    • 西ヨーロッパ(Cfb): 暖流である北大西洋海流がなければ、ロンドンやパリの冬は現在のカナダのように厳しくなると言われています。ヨーロッパが緯度の割に温暖で、文明の発展に適していた背景には、この海流の存在が不可欠でした。
    • 日本: 南岸を流れる黒潮(日本海流)は、日本の冬の寒さを和らげています。
  • 寒流の冷却・乾燥効果: 寒流は高緯度から低緯度へ冷たい水を運び、沿岸の気候を冷涼・乾燥にします。
    • 海岸砂漠(BW): ペルー沖のペルー海流はアタカマ砂漠を、アフリカ南西岸のベンゲラ海流はナミブ砂漠を形成する主要因です。冷たい海水が大気を安定させ、雨雲の発達を妨げます。
    • 霧の発生: カリフォルニア沖のカリフォルニア海流(寒流)は、サンフランシスコに夏の名物である濃霧をもたらします。
  • 潮目(潮境)の恵み:
    • 暖流と寒流がぶつかる海域を潮目または潮境と呼びます。
    • ここでは、下層の栄養分豊かな寒流が、上層の暖流に押し上げられることで、植物プランクトンが爆発的に増殖します。それを目当てに動物プランクトン、そして魚が集まり、世界有数の好漁場が形成されます。
    • 日本の三陸沖(黒潮と親潮がぶつかる)や、北米のニューファンドランド島沖(メキシコ湾流とラブラドル海流がぶつかる)がその代表例です。

5.3. エルニーニョ/ラニーニャ:太平洋の気まぐれが世界を揺るがす

海洋と大気は、互いに影響を及ぼし合う密接な関係(大気海洋相互作用)にあります。その最も劇的な例が、太平洋の赤道域で数年おきに発生するエルニーニョ現象ラニーニャ現象です。

  • 通常時(ウォーカー循環):
    • 通常、太平洋の赤道域では、東から西へ向かって南東貿易風が恒常的に吹いています。
    • この風によって、表面の暖かい海水は西側のインドネシアやフィリピン沖に吹き寄せられ、暖水プールと呼ばれる暖かい海水の層を形成します。この海域では、海水温が高いため上昇気流が活発化し、多雨となります。
    • 一方、東側の南米ペルー沖では、表面の海水が沖へ去るため、それを補うように深層から冷たく栄養豊富な海水が湧き上がってきます(湧昇流)。このため、ペルー沖は海水温が低く、大気が安定して雨が少ない乾燥した天候となります。
  • エルニーニョ現象:
    • 何らかの原因で南東貿易風が通常よりも弱まると、このバランスが崩れます。
    • 西側に溜まっていた暖かい海水が、東側のペルー沖へと逆流(東進)します。
    • これにより、ペルー沖の海水温が平年より高くなり、活発な上昇気流が発生して、普段は乾燥しているはずのペルーやエクアドルで豪雨や洪水が頻発します。また、湧昇流が弱まるため、漁業は深刻な不振に陥ります。
    • 逆に、西側のインドネシアやオーストラリアでは、海水温が低下して下降気流が卓越するため、干ばつや森林火災が深刻化します。
  • ラニーニャ現象:
    • エルニーニョとは逆に、南東貿易風が通常よりも強まる現象です。
    • 西側の暖水プールはさらに厚くなり、インドネシアなどで多雨傾向が強まります。東側のペルー沖では湧昇流が強化され、海水温はさらに低くなり、干ばつがより深刻になります。
  • テレコネクション(遠隔相関):
    • この太平洋赤道域でのできごとは、大気の波を通じて、遠く離れた地域の天候にも影響を及ぼします。これをテレコネクションと呼びます。エルニーニョが発生した冬に、日本では暖冬・多雪になりやすいなど、世界中で異常気象を引き起こす原因となっています。

5.4. 海洋深層循環:一千年をかける地球の旅

私たちの想像をはるかに超えるスケールで、海洋は地球全体の気候を制御しています。その主役が、海洋深層循環、別名熱塩循環です。

  • 海洋のグローバル・コンベヤーベルト:
    • この循環は、表層の風成循環と深層の密度流が一体となった、地球全体を繋ぐ巨大なベルトコンベヤーのような流れです。一周するのに1000年〜2000年もの歳月を要すると言われています。
    • 循環の起点(沈み込み域): この壮大な旅の始まりは、高緯度の特定の海域にあります。
      1. グリーンランド沖(北大西洋): メキシコ湾流から続く暖かい海水は、北上するにつれて大気に熱を放出して冷やされます。さらに、冬に海氷が形成される際、氷には塩分が含まれないため、残された海水は塩分濃度が非常に高くなります。こうして、「冷たく」かつ「塩分濃度が高く」なった海水は、密度が非常に大きくなり、海底へと沈み込んでいきます。
      2. 南極大陸周辺のウェッデル海: ここでも同様のメカニズムで、重くなった海水が沈み込み、深層循環のもう一つの起点を形成します。
    • 循環の旅路: 深層へ沈み込んだ海水は、数千年の時をかけて世界の海の底をゆっくりと移動し、やがてインド洋や北太平洋で徐々に湧き上がり、表層の流れに戻って、再び大西洋の沈み込み域を目指します。
  • 気候システムにおける役割:
    • この熱塩循環は、低緯度で受け取った太陽の熱を表層海流として高緯度へ運び、そこで熱を放出して沈み込む、というプロセスを通じて、地球の南北の熱の不均衡を是正する極めて重要な役割を果たしています。このコンベヤーベルトが動いているおかげで、地球の気候は比較的安定に保たれているのです。
    • 近年、地球温暖化によってグリーンランドの氷床融解が加速すると、大量の真水が北大西洋に流れ込み、海水の塩分濃度を下げてしまう恐れが指摘されています。そうなると、海水の沈み込みが弱まり、コンベヤーベルトが停止してしまう可能性があります。もしそうなれば、ヨーロッパが急激に寒冷化するなど、地球の気候システム全体に予測不能な激変がもたらされるかもしれないと、科学者たちは警鐘を鳴らしています。

【モジュール2 全体の要約】

本モジュールでは、地球の物理システムの中核をなす「気候」と「海洋」について、その複雑でダイナミックな姿を体系的に学習しました。

私たちはまず、気候の多様性を生み出す五大因子(緯度、高度、隔海度、地形、海流)を理解し、ある場所の気候を論理的に説明するための基礎を固めました。次に、地球を覆う大気の大循環システム、特に気圧帯の配置とその季節移動が、世界の降水パターン(熱帯の雨季・乾季、砂漠の形成、温帯の四季)を支配する根源的なメカニズムであることを解き明かしました。

そして、これらの物理法則の結果として現れる多様な気候を、ケッペンの気候区分という世界共通の言語を用いて分類・整理しました。熱帯(A)から寒帯(E)まで、各気候区が「なぜ、そこに、そのように」分布するのかを、その成因から植生、土壌、人間生活との関わりに至るまで、具体的に探求しました。

最後に、気候システムの巨大な調整役である海洋に目を向け、表層の海流が熱を運び、深層の循環が地球全体の気候を長期的に安定させる壮大な役割を担っていることを学びました。また、エルニーニョ現象のような大気と海洋の相互作用が、いかに私たちの生活に直接的な影響を及ぼすかを確認しました。

ここで得た気候と海洋に関する知識は、単独で完結するものではありません。それは、次のモジュールで学ぶ地形、植生、土壌といった他の自然地理的事象を理解するための、そしてさらにはその大地の上で繰り広げられる農業、文化、歴史といった人文地理のあらゆる分野を考察するための、不可欠な土台となるものです。気候というレンズを通して世界を見ることで、地理学の面白さと奥深さは、さらに増していくことでしょう。

目次