【基礎 地理】Module 11: 地誌Ⅴ:オセアニア
【本モジュールの学習目標】
これまでの地誌学習で、私たちはアジア、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカと、世界の主要な大陸を旅してきました。このModule 11では、地誌学習の最後として、太平洋の広大な海原に浮かぶ、孤立した大陸と無数の島々からなるオセアニアを探求します。ここは、他の大陸とは全く異なる、ユニークな自然環境と歴史を持つ、地球上で最後に残されたフロンティアの一つです。
オセアニアは、大きく三つの異なるスケールと個性を持つ地域から構成されています。
- 一つは、広大な面積を誇る大陸国家、オーストラリア。その地理的特徴は、「古くて、平坦で、乾燥している」という言葉に集約されます。この古代大陸の成り立ちと、その下に眠る世界有数の鉱物資源の結びつきを理解します。
- 二つめは、その南東に位置する、中規模な二つの島からなるニュージーランド。オーストラリアとは対照的に、「若くて、険しく、湿潤な」この島国が、いかにして世界的な農牧業国としての地位を築き上げたのかを分析します。
- 三つめは、広大な太平洋に点在する、文字通り「宝石箱」のような無数の小さな島々。これらは、文化や人々の特徴から、メラネシア、ミクロネシア、ポリネシアの三つの群島に分類されます。島々の成り立ち(火山島かサンゴ礁の島か)の違いが、人々の暮らしをどのように規定し、そして今、地球温暖化による海面上昇という、国家の存亡に関わる深刻な危機にどのように直面しているのかを考察します。
オーストラリアの「資源」、ニュージーランドの「農牧業」、そして太平洋諸島の「脆弱性」。この三者の対照的な姿を通して、オセアニアという地域の多様性と、その地理的特質を深く、立体的に理解すること。それが、本モジュールの目標です。
1. 古代大陸の遺産:オーストラリアの自然と資源
オーストラリア大陸は、その景観、地質、生態系の全てにおいて、「太古の地球の記憶」を色濃く残す、極めてユニークな場所です。その地理的特徴を理解するキーワードは、**「古く、平坦で、乾燥している」**です。
1.1. 「古くて、平坦で、乾燥した」大陸
- 地形の三大区分:安定陸塊の広がり
- オーストラリアの地形は、西から東へ、大きく三つの地域に分けられます。
- ① 西部高原 (Western Plateau): 大陸の西側3分の2という広大な面積を占める、古い安定陸塊です。先カンブリア時代に形成された、地球上で最も古い岩盤(楯状地)が、数億年という長大な時間にわたる侵食作用によって削られ、極めて平坦な高原状の地形となっています。プレート境界から遠く離れているため、火山活動や大規模な地震はほとんどありません。この**「古くて安定している」という地質学的条件**こそが、後述する豊富な鉱物資源の源泉となっています。中央部にそびえる巨大な一枚岩、**ウルル(エアーズロック)**は、この平坦な大地から侵食されずに残った残丘(モナドノック)です。
- ② 中央低地 (Central Lowlands): 大陸の中央部を南北に貫く、広大な低地帯です。ここには、世界最大の被圧地下水盆である**大鑽井盆地(グレートアーテジアン盆地)**が広がっています。この盆地に溜まった地下水は、東部のグレートディヴァイディング山脈に降った雨が、数百万年かけて浸透してきたものです。ただし、多くの場所で塩分濃度が高いため、人間の飲用や灌漑には適さず、主に羊などの家畜の飲み水として利用されてきました。
- ③ 東部高地 (Eastern Highlands): 大陸の東岸に沿って、南北に龍のように連なるのがグレートディヴァイディング(大分水嶺)山脈です。これは、古期造山帯に属するため、日本の山々のような険しさはなく、全体的になだらかな山地です。この山脈は、太平洋から吹く湿った風を遮る「壁」として、大陸の気候を東西に大きく分断する、極めて重要な役割を果たしています。
- オーストラリアの地形は、西から東へ、大きく三つの地域に分けられます。
- 孤立が育んだ固有の生態系:
- オーストラリア大陸は、かつて南半球に存在した超大陸(ゴンドワนา大陸)から、約5000万年前に分離して以来、他の大陸から長期間孤立してきました。そのため、他の大陸では、より生存競争に優れた哺乳類(真獣類)との競争に敗れて絶滅してしまった、カンガルー、コアラ、ウォンバットといったお腹の袋で子供を育てる有袋類や、カモノハシのような卵を産む単孔類など、極めてユニークで原始的な特徴を持つ固有の生物相が、今日まで生き残ることができたのです。
1.2. 乾燥気候の支配と水資源
オーストラリアは、南極大陸に次いで降水量が少ない「乾燥した大陸」です。大陸の大部分は、南回帰線が中央を通過し、一年を通じて亜熱帯高圧帯の影響下にあるため、**乾燥帯(砂漠気候BW、ステップ気候BS)**に覆われています。
- 地域ごとの多様な気候:
- 東部: グレートディヴァイディング山脈の東側(風上側)は、太平洋からの南東貿易風の影響で、年間を通じて比較的降水量が多く、湿潤です。北部のブリスベン周辺は温暖湿潤気候(Cfa)、南部のシドニーやメルボルン周辺、そしてタスマニア島は、偏西風の影響も受ける**西岸海洋性気候(Cfb)**となります。オーストラリアの人口や主要都市は、この気候が温和で水に恵まれた東部の沿岸地域に集中しています。
- 南西部・南東部: 大陸の南西端(パース周辺)と、アデレード周辺は、夏に亜熱帯高圧帯に覆われ、冬に偏西風帯の影響で雨が降る、典型的な**地中海性気候(Cs)**となります。
- 北部: 大陸の最北部(ダーウィン周辺)は、夏(1月頃)にアジアモンスーンの影響で雨季となる**サバナ気候(Aw)**です。
- 水資源をめぐる挑戦:
- 水資源の確保は、オーストラリアにとって国家的な最重要課題です。
- マレー川・ダーリング川: 大陸で唯一の大河川水系。グレートディヴァイディング山脈の西側に源を発し、内陸部の重要な農業地帯(小麦地帯など)を潤す生命線です。しかし、その流量は降水量によって大きく変動し、近年の旱魃や、灌漑のための過剰な取水による流量の減少、河口の閉塞、塩害の深刻化などが大きな問題となっています。
- スノーウィーマウンテンズ計画: この水不足を克服するため、1949年から1974年にかけて実施された、国家的な大規模総合開発計画。グレートディヴァイディング山脈の東側(多雨地域)に降った雨を、山脈を貫く長大なトンネルを掘って、西側の乾燥したマレー川水系へと導水するものです。これにより、水力発電と、内陸部の灌漑用水の安定供給が図られました。
1.3. 鉱物資源のデパート:資源大国オーストラリア
「古くて安定した」オーストラリアの大地の下には、まるでデパートの商品のように、多様で膨大な鉱物資源が眠っています。オーストラリアは、世界屈指の「鉱物資源大国」であり、その輸出が国家経済を支える最大の柱となっています。
- 資源の分布と地質構造の関連:
- 鉄鉱石: 西部高原(安定陸塊)には、先カンブリア時代に形成された、品位の高い鉄鉱石が極めて豊富に埋蔵されています。特に、西オーストラリア州のピルバラ地区は、世界最大級の鉄鉱石の産地です。オーストラリアは、世界最大の鉄鉱石輸出国です。
- 石炭: 東部高地(古期造山帯)には、古生代の植物に由来する、良質な石炭が豊富に埋蔵されています。オーストラリアは、鉄鉱石と並び、世界最大の石炭輸出国でもあります。
- ボーキサイト(アルミニウムの原料): 大陸北部の熱帯地域(カーペンタリア湾岸のウェイパなど)では、高温多雨な気候の下でラトソル土壌が形成される過程で、ボーキサイトが地表近くに濃集しています。オーストラリアは、世界有数のボーキサイト生産国です。
- その他: 安定陸塊では、ウラン(世界有数の埋蔵量)、金、ニッケル、オパール(世界シェア9割以上)などが、東部高地では銅なども産出されます。
- 資源貿易とアジアとの強い結びつき:
- かつては、旧宗主国であるイギリスとの関係が深かったオーストラリアですが、現代では、地理的に近いアジア諸国が、その資源の最大の輸出相手国となっています。かつては日本が最大のパートナーでしたが、2000年代以降は、急速な経済成長を続ける中国が、鉄鉱石や石炭の最大の輸入国となり、オーストラリア経済は、中国経済の動向に大きく左右される構造となっています。
1.4. アボリジニと多文化主義への転換
- 先住民アボリジニ: 約5万年前にオーストラリア大陸に渡来したとされる先住民。独自の文化と、大地との深い精神的なつながりを育んできました。しかし、18世紀末からのヨーロッパ人(主にイギリス)の入植後、彼らは土地を奪われ、持ち込まれた疫病によって人口が激減。長きにわたり、厳しい差別と抑圧の歴史を歩んできました。
- 白豪主義から多文化主義へ: 20世紀初頭のオーストラリア連邦成立以来、1970年代まで、政府は、白人以外の移民を厳しく制限する、人種差別的な白豪主義政策を国是としていました。しかし、第二次大戦後、労働力不足が深刻化し、また、経済的な結びつきを強めるアジア諸国との関係改善の必要性から、この政策は完全に撤廃されました。それに代わって掲げられたのが、様々な民族の文化や価値観を尊重し、共存を目指す多文化主義 (Multiculturalism) です。これにより、ベトナムや中国、インドなど、アジアからの移民が急増し、現代のオーストラリアは、ヨーロッパ系の文化を基盤としながらも、アジアの活気が融合した、ダイナミックで多様な多文化社会へと変貌を遂げています。
2. 若き変動帯の島国:ニュージーランドの自然と農牧業
オーストラリアの南東、タスマン海を隔てて浮かぶニュージーランド。その姿は、あらゆる面で、巨大な隣人オーストラリアとは実に対照的です。キーワードは、**「若く、険しく、湿潤」**です。
2.1. 「環太平洋変動帯」に位置する険しい地形
- プレートテクトニクス的視点: オーストラリアが「古く安定した大陸」であるのに対し、ニュージーランドは、太平洋プレートとインド・オーストラリアプレートが激しく衝突し、一方が他方の下に沈み込む、環太平洋変動帯の真上に位置する、「若く活動的な島国」です。
- 地形の特色:
- 南アルプス山脈: 南島のほぼ全長にわたって、国の背骨のようにそびえるのが、標高3,000m級の山々が連なる険しい南アルプス山脈です。これは、二つのプレートが衝突・隆起することで形成された、典型的な新期造山帯です。
- 火山と地熱: 特に北島では、プレートの沈み込みに伴う火山活動が活発で、多くの活火山や、温泉、間欠泉、地熱地帯が分布しています。地熱は、重要な国産エネルギー源としても利用されています。
- 氷河地形: 南島では、氷期に山岳氷河が大きく発達しました。その氷河が山肌を深く削り取った結果、フィヨルド(南西部のフィヨルドランド国立公園)、U字谷、そしてエメラルド色に輝く美しい氷河湖(テカポ湖など)といった、壮大な氷河地形が数多く残されています。
2.2. 西岸海洋性気候と豊かな水
- 気候: 国土の大部分は、一年を通じて偏西風が吹き、周囲を広大な海洋に囲まれているため、夏は涼しく、冬も緯度の割に温暖で、年間を通して安定した降雨がある、典型的な**西岸海洋性気候(Cfb)**に属します。
- 降水量の地域差: この安定した偏西風が、南アルプス山脈という高い壁にぶつかるため、山脈の西側では、地形性降雨によって年間降水量が非常に多くなります。一方、山脈の東側は、その雨蔭となるため、降水量は少なく、比較的乾燥した気候となります。
- 豊かな水と緑: 全体として、この穏やかで湿潤な気候と、山々からの豊富な雪解け水が、国土を豊かな牧草地で覆い、後述する世界的な農牧業国としての地位を築く、最大の自然的な基盤となっています。
2.3. 世界をリードする農牧業国
ニュージーランドの経済は、その温和な気候と豊かな牧草地を最大限に活かした農牧業、特に企業的な牧畜に大きく依存しています。
- イギリスの「飛び地の牧場」から多角化へ:
- 19世紀にイギリスの植民地となって以来、ニュージーランドは、本国イギリスの食料庫、特に羊毛を供給する「イギリスの飛び地の牧場」としての役割を担ってきました。かつては、人口の20倍以上もの羊が飼育され、「羊の国」として世界に知られていました。
- しかし、1973年にイギリスがヨーロッパ共同体(EC、現EU)に加盟すると、特恵的な関係を失い、最大の輸出市場を事実上失うという、国家的な危機に直面しました。
- この危機をバネに、ニュージーランドは、伝統的な羊毛生産への過度な依存から脱却し、バター、チーズ、粉乳といった酪農製品や、牛肉、子羊肉(ラム)の生産へと、農牧業の多角化を強力に推進し、輸出先も、日本やアジア、中東など、世界中に広げることに成功しました。
- 経営の特徴:
- 広大な牧草地で、比較的少数の労働者が、科学的な管理手法を用いて、集約的に家畜を飼育する企業的牧畜が中心です。労働生産性は極めて高く、その製品は国際市場で高い競争力を持っています。
- 近年では、キウイフルーツやリンゴなどの果物栽培、そして冷涼な気候を活かしたワイン用のブドウ栽培なども、新たな輸出産業として大きく成長しています。
3. 太平洋の宝石箱:メラネシア・ミクロネシア・ポリネシア
オーストラリアとニュージーランドの外側、広大な太平洋には、南十字星のように、無数の小さな島々が点在しています。これらの島々は、そこに住む人々の文化や身体的特徴、言語などに基づいて、大きく三つの地域、メラネシア、ミクロネシア、ポリネシアに分類されます。
3.1. オセアニアの三つの島嶼群
- メラネシア (Melanesia) -「黒い島々」:
- 位置: オーストラリアの北東、赤道の南側。ニューギニア島、ソロモン諸島、フィジー、バヌアツなど。
- 由来: 住民の皮膚の色が、他の二つの地域に比べて比較的濃いことに由来します。
- 特徴: 民族、言語の多様性が極めて高く、特にパプアニューギニア一国だけで800以上の言語が話されていると言われ、「言語の博物館」の様相を呈しています。島々は比較的大きく、資源にも恵まれていますが、それ故に、部族間の対立や、資源をめぐる紛争など、政治的に不安定な国も少なくありません。
- ミクロネシア (Micronesia) -「小さな島々」:
- 位置: 赤道の北側、フィリピンとハワイの間。パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島、ナウルなど。
- 由来: その名の通り、面積の小さな島々が無数に集まって国を形成しています。
- 特徴: 第二次世界大戦後、その多くがアメリカの信託統治領となり、現在も独立後、アメリカと特別な関係(自由連合盟約)を結び、安全保障や経済面で強く依存している国が多いのが特徴です。
- ポリネシア (Polynesia) -「多くの島々」:
- 位置: ハワイ(北端)、ニュージーランド(南西端)、イースター島(南東端)を結ぶ、巨大な**三角形(ポリネシアン・トライアングル)**の海域に、広く点在しています。サモア、トンガ、クック諸島、フランス領ポリネシア(タヒチ)など。
- 特徴: 広大な海域に散らばりながらも、同じオーストロネシア語族ポリネシア語派に属する、極めてよく似た言語と文化(タトゥー、神話など)を共有しています。これは、彼らの祖先が、卓越した外洋航海術を駆使して、この広大な海域をカヌーで自由に行き来していたことを物語っています。
3.2. 島の成り立ちと人々の暮らし
これらの島々の自然環境と、それに対応した人々の生活は、その島がどのようにして生まれたか、という島の成り立ちによって、大きく運命づけられています。
- 大陸島 (Continental Island):
- 成り立ち: かつて大陸の一部であったものが、地殻変動や海面上昇によって分離したもの。ニューギニア島や、ニュージーランド(広義では)がこれにあたります。
- 特徴: 面積が大きく、地形も山がちで複雑。多様な鉱物資源(銅、金など)に恵まれている場合があります。
- 火山島 (Volcanic Island):
- 成り立ち: 海底火山の噴火によって、マグマが積み重なって海面上に姿を現した島。メラネシアやポリネシアの多くの島(ハワイ諸島、サモア、タヒチなど)がこれにあたります。
- 特徴: 島の中心に高い火山があり、円錐状の形をしています。火山性の土壌は比較的肥沃で、また、中央の山にぶつかった雲が雨を降らせるため、水資源も得やすい。そのため、タロイモやヤムイモ、パンノキといった作物の栽培が可能で、比較的多くの人口を支えることができます。
- サンゴ礁の島 (Coral Reef Island / Atoll):
- 成り立ち: 熱帯の浅くきれいな海に生息する、サンゴという生物の骨格が、数万年、数百万年という時間をかけて積み重なってできた、石灰質の島。特に、火山島が地盤沈下や浸食で海に沈んでいき、その周りにあったサンゴ礁だけが、まるでドーナツのように輪の形で海面上に残ったものを**環礁(アトール)**と呼びます。
- 分布: ミクロネシアやポリネシアの多くの国(ツバル、キリバス、マーシャル諸島など)は、この環礁からなっています。
- 特徴と脆弱性:
- 極端な低平性: 標高が極めて低く、高いところでも数メートルしかありません。
- 資源の乏しさ: 土地はサンゴのかけらであるため痩せており、農業は塩分や乾燥に強いココヤシなどに限られます。真水の確保も、雨水に頼るしかなく、非常に困難です。
- 経済的脆弱性: このような厳しい自然条件のため、自立した経済を築くことが極めて難しく、多くの国が、外国からの経済援助や、海外の船舶などで働く出稼ぎ労働者からの送金、そして自国のEEZ(排他的経済水域)での漁業権の売却などに、国家財政を大きく依存しています。
3.3. 太平洋諸国の現代的課題
- 地球温暖化と海面上昇の脅威:
- 太平洋の島嶼国、特にツバルやキリバスといった環礁国家にとって、地球温暖化に伴う海面上昇は、遠い未来の環境問題ではなく、国家の存亡そのものを脅かす、今そこにある危機です。
- 海面が上昇すると、満潮時や、台風・サイクロンによる高潮の際に、国土の大部分が海水に浸かる浸水被害が頻発します。また、海水が地下に浸透し、貴重な地下水や農地が塩害に見舞われる被害も深刻化しています。このまま温暖化が続けば、今世紀中にも、国土の大部分が居住不可能になり、国民全員が移住を余儀なくされる「環境難民」となる恐れが、現実のものとして迫っています。
- 大国の角逐の舞台へ:
- 近年、この太平洋の島嶼国に対し、中国が、港湾建設などのインフラ支援や経済協力を通じて、その影響力を急速に拡大させています。その背景には、台湾の承認国を切り崩す外交的な狙いや、広大な排他的経済水域(EEZ)を持つこれらの国々との関係を強化し、太平洋における自国の海洋権益を確保しようとする、地政学的な思惑があります。
- これに対し、伝統的にこの地域に強い影響力を持ってきたアメリカやオーストラリア、フランスなどは、強い警戒感を示しており、太平洋の島嶼国は、米中対立の新たな舞台となりつつあります。
【モジュール11 全体の要約】
本モジュールでは、地誌学習の最後として、太平洋に浮かぶ広大な大陸と無数の島々からなるオセアニアを、オーストラリア、ニュージーランド、そして太平洋諸島という、極めて対照的な三つの地域に分けて、そのユニークな地理的特徴を探求しました。
「古くて、平坦で、乾燥した」安定陸塊であるオーストラリアは、その地質学的条件が、世界でも有数の鉱物資源大国としての地位を築かせ、その経済はアジアとの強い結びつきによって支えられていることを見ました。また、白豪主義から多文化主義へと転換し、ダイナミックな社会変容の過程にあることも学びました。
それとは対照的に、「若くて、険しく、湿潤な」変動帯の島国であるニュージーランドは、その穏やかな気候を活かし、世界をリードする先進的な農牧業国としての発展を遂げたことを確認しました。
そして、太平洋に散らばる無数の島々は、その島の成り立ち(火山島かサンゴ礁の島か)によって、人々の暮らしや経済的基盤が大きく左右されること、特に、標高の低い環礁国家が、地球温暖化による海面上昇という、国家の存亡に関わる深刻な危機に直面している、地球環境問題の最前線であることを理解しました。
これで、私たちは世界の全ての主要な地域(地誌)を巡る旅を終えたことになります。次の最終モジュールでは、これまでの系統地理と地誌の全ての学びを統合し、地球全体が直面する現代世界の諸課題(環境問題、南北問題、食料問題、民族紛争など)に対して、地理学の視点がいかに有効な分析ツールとなり、また持続可能な未来の構築に貢献できるのかを考察していきます。