【共通テスト 現代文】Module 5: 複数テクスト・資料問題の統合的解法

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本モジュールの目標:「情報の点」を「知識の構造」へ

Module 3(評論)とModule 4(小説)を通じて、あなたは単一の文章を深く、構造的に読み解くための「読解エンジン」を搭載しました。しかし、近年の共通テスト現代文が受験生に突きつける挑戦は、それに留まりません。文章と文章、文章と図表、あるいは複数の発言が複雑に絡み合う**「複数テクスト・資料問題」**。これは、現代社会が私たちに要求する能力そのものを試す、新しい形式の知の競技場です。

この問題形式の本質は、個々の情報を正確に理解する**「読解力」に加え、それらの情報と情報の間に横たわる「関係性」を的確に捉え、複数の情報を統合して新たな結論を導き出す「情報編集能力」**を問うことにあります。

本モジュールは、この高度な要求に応えるための戦略的思考法を体系化します。あなたは、散在する情報の「点」を、論理という糸で結びつけ、強固な「知識の構造」へと再構築する技術を習得します。

  1. 【関係性設定】: 複数のテクストの間に、対立、補足、因果といった「関係」を瞬時に設定する。
  2. 【基準設定】: 一方のテクストを「ものさし」として、もう一方を効率的に分析する。
  3. 【データ接続】: 図表やグラフという「量的データ」を、文章の「質的主張」と論理的に接続する。
  4. 【対話分析】: 複数の発言者の立場と論拠を解剖し、議論の力学を可視化する。
  5. 【横断的思考】: テクストの境界を越え、複数の情報を統合して新たな結論を生成する。

このモジュールをマスターしたあなたは、もはや情報の洪水に飲み込まれることはありません。あなたは、複数の情報源を自在に操り、複雑な問題状況の中からクリアな論理を紡ぎ出す、優れた「情報アーキテクト」となるのです。


目次

1. 複数テクスト間の関係性設定―共通テーマ、対立軸、具体・抽象関係の確定

複数テクスト問題に取り組む際の、最も重要かつ最初のステップは、個々のテクストを読み始める「前」に、それらのテクスト同士がどのような「関係」にあるのかを予測し、設定することです。この初期設定が、その後の読解と情報整理の効率を決定づけます。闇雲にテクストAを読み、次にテクストBを読む、という逐次的なアプローチでは、両者の関連性を見失い、情報の迷子になるだけです。

1.1. 読解の第一歩:2つのテクストの「関係性」を見抜く4類型

複数のテクスト(テクストA、テクストB)が提示された場合、それらの関係性は主に以下の4つの類型に分類できます。タイトルや冒頭部分、出展情報などから、どの類型に当てはまる可能性が高いかを予測しましょう。

関係性の類型特徴見抜くヒント
① 対立・対照型同じテーマ(例:AIの将来)について、異なる、あるいは対立する意見・立場を述べている。筆者名が異なる評論が二つ並んでいる場合。設問に「AとBの考え方の違い」を問うものがある場合。
② 補足・具体化型テクストAが抽象的・一般的な主張を述べ、テクストBがその主張を裏付ける具体的な事例や詳細なデータを提供している。テクストAが評論で、テクストBが新聞記事や調査報告書、具体的事例の紹介文である場合。
③ 原理・応用型テクストAで述べられた一般的な原理・理論を、テクストBが特定の個別的な事例に応用・展開している。テクストAが科学理論や哲学の解説で、テクストBがある作品の分析や社会現象の考察である場合。
④ 時系列・因果関係型テクストAで述べられた出来事や状況が原因となり、テクストBの出来事がその結果として生じている。テクストAが過去の歴史的事件、テクストBがその後の影響について述べた文章である場合など。

1.2. 【実践】関係性の確定プロセス

  • 【演習問題】2024年度 追試 第1問 【文章Ⅰ】手塚治虫のまんが記号説 と 【文章Ⅱ】コミュニケーションのvectorとしての〈キャラ〉

この二つの文章の関係性を確定させてみましょう。

  1. 共通テーマの特定:
    • 両文章とも、**「マンガ・キャラクターという視覚的記号」**をテーマにしていることは明らかです。
  2. 各テクストの性質分析:
    • 【文章Ⅰ】: 手塚治虫という一人の作家のキャラクター観(「僕の画っていうのは、象形文字みたいなもの」「非常に省略しきったひとつの記号」)に焦点を当てた、具体的・個別的な事例の紹介です。
    • 【文章Ⅱ】: 〈キャラ〉という概念を、パースの記号論(象徴/類像/指標)という一般的・抽象的な理論を用いて分析し、「〈キャラ〉は、指標記号のレベルに接近したものである」と結論づけています。
  3. 関係性の確定:
    • この二つの文章の関係は、**【② 補足・具体化型】あるいは【③ 原理・応用型】**と設定できます。
    • つまり、【文章Ⅱ】の抽象的な記号論・キャラ理論(原理)を理解するための具体例として、**【文章Ⅰ】の手塚治虫の事例(応用)**を位置づけることができるのです。
    • あるいは逆に、【文章Ⅰ】で手塚が感覚的に述べている「記号」という概念が、【文章Ⅱ】の理論によって、より深く、学術的に説明されている(補足されている)と捉えることも可能です。
  • この初期設定がもたらす効果:
    • この関係性を最初に設定することで、あなたは「【文章Ⅱ】の理論を使って【文章Ⅰ】の事例を分析してみよう」あるいは「【文章Ⅰ】の具体例を手がかりに【文章Ⅱ】の難解な理論を理解しよう」という、明確な目的意識を持って読み進めることができます。
    • 例えば、問6の話し合い問題では、まさにこの二つの文章を統合して考えることが求められます。手塚が意図した「記号」(【文章Ⅱ】で言えば「象徴」に近いレベル)と、読者が実際に受け取ってしまう「思い入れ」(【文章Ⅱ】で言えば「指標」レベルの直接的関係性)のズレを、この関係性設定ができていれば容易に理解できるのです。

2. テクストAを基準としたテクストBの論点整理法

複数のテクストを扱う際、両者を並行して、あるいは交互に読もうとすると、情報が混線し、頭の中が混乱しがちです。ここでの鉄則は、**「一度に二つのことを考えない」**です。まず、一方のテクスト(テクストA)を「基準(ものさし)」としてしっかり読み解き、その「ものさし」を持って、もう一方のテクスト(テクストB)を測定・分析するというアプローチが極めて有効です。

2.1. なぜ「基準」を設定するのか?

  • 思考の負荷軽減: 基準を設定することで、テクストBを読む際の目的が「Bの内容をゼロから理解する」ことから、「Aとの共通点・相違点はどこか?」という、より明確で限定的なタスクに変わります。これにより、ワーキングメモリの負荷が大幅に軽減されます。
  • 比較・対照の明確化: 基準(ものさし)があるからこそ、テクストBのどの部分がAと同じで、どの部分が違うのかがクリアになります。論点が整理され、設問で問われる「両者の関係」や「考え方の違い」に的確に答えられるようになります。

2.2. どちらを「基準(テクストA)」にすべきか?

基準とするテクストの選び方にも戦略があります。

  • 原則①:より抽象的・理論的な方を基準に: 【原理・応用型】や【補足・具体化型】の関係にある場合、抽象的・理論的なテクストを基準とすると、もう一方の具体的なテクストを、その理論の「事例」としてスムーズに位置づけ、分析しやすくなります。
  • 原則②:設問でより中心的に扱われている方を基準に: 設問群が、明らかに一方のテクストに偏って言及している場合、そのテクストを先に深く理解しておくことが、解答の効率を高めます。
  • 原則③:より分かりやすい方を基準に: どちらを基準にするか迷った場合は、単純に自分が読みやすい、理解しやすいと感じる方を先に読み、基準として設定するのが良いでしょう。

2.3. 【実践】「ものさし」を持って読む技術

  • 【演習問題】2021年度 追試 第3問 【文章Ⅰ】幸若舞『景清』と【文章Ⅱ】浄瑠璃『出世景清』の比較
    • この問題では、後の時代の作品である『出世景清』が、元の作品である『景清』をどのように改変したのかが問われています。したがって、**元の作品である【文章Ⅰ】『景清』を「基準(テクストA)」**と設定するのが最も合理的です。
  1. 【Step 1】基準テクストA(『景清』)の分析
    • まず、テクストAの登場人物とプロットを正確に把握します。
    • 登場人物: 妻・阿古王
    • 性格・行動: 夫・景清を裏切る立て札を発見した後、「不慮に思ひをせむよりも、九年連れたる情には、二人の若のあるなれば、このこと敵に知らせつつ、景清を討ち取らせ、二人の若を世に立てて、後の栄華に誇らむ」と、子どもたちの将来の栄華のために、夫を裏切ることを自ら決断する、非常に現実的で、ある意味で非情な人物として描かれています。
  2. 【Step 2】テクストAという「ものさし」を持ってテクストB(『出世景清』)を読む
    • テクストAの阿古王の人物像を念頭に置きながら、テクストBを読み進め、**「共通点」と「相違点」**にマーキングしていきます。
    • 相違点①:新たな登場人物: 夫を裏切ることを提案するのは、妻・阿古屋ではなく、新たに登場した兄・伊庭十蔵です。「我等が栄華の瑞相この時とおぼえたり。(中略)一かど御恩にあづからん」と、彼は利益のために景清を差し出すことを主張します。
    • 相違点②:妻の性格の改変: 阿古屋は、兄の提案に対して、「なう兄上、そもや御身は本気にてのたまふか」「たとへば日本に唐をそへて賜るとて、そもや訴人がなるべきか」と激しく反発し、夫への情義を貫こうとします
    • 比較分析: テクストAの阿古王が持っていた**「栄華を求める打算的な側面」が、テクストBでは兄・十蔵というキャラクターに移され**、妻・阿古屋は**「夫への情愛に生きる貞淑な女性」**として、全く逆の性格に描き変えられていることが分かります。
  3. 【Step 3】設問への解答
    • この比較分析ができていれば、問5(2)の空欄Y「十蔵という新たな登場人物を加えた理由は、______からだと言えるだろう。」という設問に対して、迷わず正解(①「阿古王に備わっていた現実的で打算的な側面を十蔵に移すことによって、夫である景清を一心に救おうとする阿古屋を描き出そうとした」)を選ぶことができます。

このように、基準を設定し、比較の観点を明確にすることで、複数のテクスト間の複雑な関係性を、クリアに解き明かすことができるのです。


3. 図表・グラフの読解―量的データと文章の主張の接続

共通テストで提示される図表やグラフは、単なる挿絵ではありません。それらは、**文章の主張を客観的な数値で裏付けるための、極めて強力な「論拠」**です。これらの量的データを正しく読み解き、文章という質的情報と論理的に接続させる能力は、現代文で高得点を取るために不可欠なスキルです。

3.1. 図表・グラフは「ビジュアル化された主張」である

図表・グラフを前にしたとき、細かな数字の羅列に目を奪われてはいけません。まず考えるべきは、**「この図表の作成者は、このデータを通して、何を一番言いたいのか?」**ということです。図表は、作成者の「主張」を視覚的に表現したメディアなのです。

3.2. 読解の3ステップ:タイトル確認 → 特徴発見 → 文章接続

  1. 【Step 1】タイトル・凡例・単位の確認
    • これは基本中の基本です。**「何についての」「どのような項目を」「何の単位で」**示したデータなのかを正確に把握します。ここを見誤ると、その後の解釈が全て狂ってしまいます。特に、調査対象(例:全国の高校生、20代の男女)や調査年、単位(%、人、円)は必ず確認してください。
  2. 【Step 2】顕著な「特徴」の発見
    • データ全体を俯瞰し、一目でわかる、際立った特徴を掴みます。これが、作成者の「主張」の核心部分です。
    • 着目すべきポイント:
      • 最大値・最小値: 最も高い項目、最も低い項目は何か?
      • 差・ギャップ: 項目間で、特に大きな差がついているのはどこか?
      • 傾向・変化: 経年変化のグラフであれば、急激に増加・減少している時期はどこか?年代別のグラフであれば、年齢が上がるにつれてどのような傾向が見られるか?
      • 過半数・割合: 50%を超えているか、3分の1程度か、といった大まかな割合を把握する。
  3. 【Step 3】文章との「接続」
    • Step 2で発見したデータ上の「特徴(事実)」が、文章部分で述べられている筆者の「主張」と、どのように関連しているのかを考えます。
    • 多くの場合、データは筆者の主張を裏付ける論拠として機能します。「筆者はこう主張しているが、その根拠は、このグラフのこの部分から明らかである」というように、両者を結びつけて理解することがゴールです。

3.3. 【実践】データから論理を読み解く

  • 【演習問題】2025年度 試作 第3問 【資料Ⅰ】外来語に関する意識調査

この資料を、Uさんの【文章】と接続させながら読み解いてみましょう。

  • 【資料Ⅰ】図1「外来語のまま使ったほうがよいか」
    • 特徴発見: 「インフォームドコンセント」について、「そう思う(外来語のままがよい)」と答えた人は15.2%と、3つの語の中で圧倒的に低い。「そうは思わない(言い換えるべき)」が54.7%と過半数を占めています。
    • 文章との接続: このデータは、Uさんの文章の「(インフォームドコンセントは)診療場面で重要なことであるにもかかわらず、当時、その概念は浸透していなかった」という記述を裏付けています。多くの人が「言い換えるべき」と考えていること自体が、この語の認知度・理解度が低かったことの証拠となるのです。
  • 【資料Ⅰ】図2「『言い換え語』のわかりやすさ」
    • 特徴発見: 「インフォームドコンセント/納得診療」のペアでは、「『言い換え語』がわかりやすい」と答えた人が**65.5%**と、これまた圧倒的多数です。他のペア(デイサービス、グローバル)と比較しても、言い換えの有効性が際立っています。
    • 文章との接続: これは、Uさんの文章の「この言い換えの提案は、そうした状況のなかで、意義があったと考えられる」という主張の、最も直接的な論拠となります。「なぜ意義があったのか?」→「なぜなら、大多数の人が、言い換えの方が分かりやすいと感じていたからだ」という強力な因果関係が成立します。
  • 【資料Ⅰ】図3「『インフォームドコンセント』についての年代別回答」
    • 特徴発見年代が上がるにつれて、「『言い換え語』がわかりやすい」と答える人の割合が一貫して増加しています(10代: 50.3% → 60歳以上: 70.7%)。逆に、「もとの外来語がわかりやすい」と答える割合は、年代が下がるほど高い傾向にあります。
    • 文章との接続: このデータは、Uさんの主張をさらに補強します。特に高齢者層において、専門的な外来語の理解が困難であるという社会的な課題があったこと、そして、言い換えが世代間の情報格差を埋める上で重要であったことを示唆しています。

このように、図表・グラフ問題は、データから客観的な「事実」を読み取り、それを文章の「主張」と結びつける、複合的な思考力を試す問題なのです。


4. 対話文・発言の分析―各発言の立場と論拠の明確化

複数の人物による対話や、授業での話し合いの場面は、共通テスト現代文の頻出形式です。一見すると、和やかな意見交換に見えますが、その実態は、各発言者が自らの**「主張」「論拠」を提示し合う、「ミニ評論の応酬」**です。この形式の問題を攻略する鍵は、流れを漫然と追うのではなく、各発言を構造的に解剖し、議論全体の力学を可視化することにあります。

4.1. 対話は「ミニ評論」の連続である

対話文を読む際には、一人ひとりの発言を、それぞれ独立した短い評論を読むつもりで分析します。

  • 各発言の構造:
    • 発言者の主張: この人は、結局何が言いたいのか?
    • 発言者の論拠: なぜ、そう言えるのか?その根拠は何か?
  • 議論全体の構造:
    • 発言者間の関係: Aの発言は、Bの発言に「賛成」しているのか、「反対」しているのか、それとも「補足」「具体化」しているのか?
    • 議論の深化: 議論は、どのようにして最初の論点から深まっていくのか?新しい視点は、誰によって、どのタイミングで提示されたか?

4.2. 分析の3つのポイント

  1. 【Point 1】立場の特定: 各発言者が、議論のテーマに対してどのような立場(賛成/反対/中立など)を取っているのかを明確にします。
  2. 【Point 2】論拠の抽出: なぜその立場を取るのか、その理由・根拠となっている部分(「~だから」「~という事実がある」など)を特定します。
  3. 【Point 3】発言間関係の把握: 「そうだね」は同調、「でも」は反論、「つまり」は要約、「たとえば」は具体化。発言の冒頭にある接続詞や相づちから、直前の発言との関係性を正確に把握します。

4.3. 【実践】議論の構造を解剖する

  • 【演習問題】2022年度 追試 第3問(『出世景清』の話し合い)
    • この授業風景では、生徒たちが教師の助言を受けながら、『出世景清』と『景清』の比較分析を深めていきます。
発言者発言の要約(主張と論拠)直前発言との関係
生徒A『散木奇歌集』では光清が句を付けられなかった。(教師からの資料提示を受けて)事実確認
生徒B父の俊頼が代わりに付けてみせた。事実確認の補足
生徒C俊頼の句の意味は何か?新たな疑問の提示
教師ヒントとして「掛詞」に注目せよ。思考の方向付け
生徒B主張: 俊頼の句は掛詞を使った巧みな返歌だ。
論拠: 「うつばり(梁)」に「針」を掛け、「魚がいないのは、釣殿の梁ならぬ釣針が水底に映っているからだ」と詠んでいる。→空欄X
教師のヒントを受けての解釈提示
生徒C(感心)同調
教師次の議題として『俊頼髄脳』の良暹の句を提示。話題の転換
生徒A主張: 良暹の句も掛詞を使った巧みな句だ。
論拠: 「こがれて」に「焦がれて(色づく)」と「漕がれて(船が)」を掛け、紅葉に飾られた船の様子を詠んでいる。→空欄Y
新たな議題に対する解釈提示
生徒B主張: 殿上人たちが句を付けられなかったことで、宴が台無しになった。
論拠: 皆が句作に悩み、時間が過ぎ、楽器の演奏もなく、客も帰り、準備が無駄になったから。→空欄Z
生徒Aの解釈を受け、物語の結末を要約

このように、各発言者の役割(事実確認、疑問提示、解釈提示、要約)と、発言間の関係性(提示→ヒント→解釈→同調…)を追うことで、議論がステップバイステップで深まっていく構造がクリアになります。設問の空欄は、まさにこの議論の節目節目に置かれており、構造を理解していれば、的確な内容を補充することができるのです。


5. テクスト横断的な設問への解答生成プロセス

複数テクスト問題の最高峰に位置するのが、テクストAとテクストBの両方を踏まえなければ解答できない「横断的設問」です。これは、単なる情報検索能力ではなく、異なる情報源から得た知識を統合し、新たな解釈結論を生成する、高度な知的作業を要求します。

5.1. 横断的設問の核心的要求

このタイプの設問があなたに要求しているのは、以下のいずれかの思考です。

  • Aの理論を、Bの具体例に「適用」せよ。
  • Aの視点から、Bの事象を「分析・評価」せよ。
  • AとBの共通点・相違点を踏まえ、両者に通底するテーマや、新たな結論を「導出」せよ。

いずれにせよ、A「だけ」、B「だけ」の知識では、決して正解にはたどり着けません。

5.2. 解答生成の4ステップ・フローチャート

  1. 【Step 1】設問の要求を分解する
    • 設問が、テクストAの「どの部分」と、テクストBの「どの部分」を関連づけることを求めているのかを、正確に特定します。
  2. 【Step 2】各テクストから関連情報を抽出する
    • 指定された論点について、テクストA、テクストBそれぞれから、関連する記述を全て抜き出します。この段階では、まだ解釈を加えず、客観的な情報収集に徹します。
  3. 【Step 3】情報の「統合」と比較・検討
    • Step 2で抜き出した二つの情報を、思考のまな板の上で突き合わせます。
    • 共通点は何か?
    • 相違点は何か?
    • Aの理論でBを説明すると、どうなるか?
    • AとBを組み合わせることで、新たに見えてくることは何か?
  4. 【Step 4】結論の導出と選択肢との照合
    • Step 3の検討結果から、設問の問いに対する**自分なりの「解答(結論)」**を導き出します。
    • その導き出した結論と、最も内容が合致する選択肢を選びます。このプロセスを経ることで、選択肢に振り回されるのではなく、自ら作り出した解答に合致するものを「探しに行く」という、能動的な選択が可能になります。

5.3. 【実践】複数情報を統合して解答を導く

  • 【演習問題】2024年度 追試 第1問 問6(話し合いの空欄Z)
    • 設問の要求(空欄Z): 【文章Ⅰ】(手塚の事例)と【文章Ⅱ】(キャラの理論)を合わせて読むと、インタビュアーの反応(手塚の意図とのズレ)は、______のあらわれと言える。
  1. 【Step 1】要求の分解: 手塚の意図(文章Ⅰ)と、インタビュアーの反応(=読者の一般的な反応)を、キャラの理論(文章Ⅱ)を使って説明することが求められている。
  2. 【Step 2】情報抽出:
    • 文章Ⅰ(手塚の意図): 自分のキャラクターは「意味を廃した」「人工的な」「記号」であり、「単語」のようなものである。読者の「思い入れ」を拒絶している。
    • 文章Ⅱ(キャラの性質): 〈キャラ〉は「ヒト化した形象」であり、「指標的」対象として、受け手との間に「直接的」な関係を生む力を持つ。特に〈顔〉は、人の認知的な注意を強く引きつける。
  3. 【Step 3】情報の統合と比較:
    • 対立構造の発見: ここには、**「作り手(手塚)の意図」「受け手(読者)の受容」の間に、明確なギャップ(ズレ)**が存在します。
    • 統合的解釈: 手塚は、キャラクターを【文章Ⅱ】で言うところの「象徴」レベル(規約的で、意味から切り離された記号)として設計しようとした。しかし、読者は、そのキャラクターを【文章Ⅱ】で言うところの「指標」レベル(直接的で、強い訴求力を持つヒト的な存在)として受容し、そこに「思い入れ」という個人的な関係性を見出してしまう。
  4. 【Step 4】結論の導出と照合:
    • 導出される結論: インタビュアーの反応は、「手塚のキャラクターが、作り手の意図(記号性)を超えて、受け手の側で人間的な意味や関係性を喚起してしまうという、〈キャラ〉の持つ指標的な性質のあらわれ」であると言えます。
    • 選択肢との照合: この結論と最も合致する選択肢②「手塚のキャラクターが、記号の組み合わせを通して示された機械的な部分と、読者が愛着を示すことができる人間的な部分とを兼ね備えていること」を選びます。「機械的な部分」が手塚の意図した記号性、「人間的な部分」が読者が受容する指標性に対応しています。

6. 結論:情報編集能力こそが、現代社会と現代文を生き抜く力である

本モジュールで体系化した、**「関係性設定」「基準設定による比較」「データとの接続」「対話の構造分析」「テクスト横断的思考」**といった一連の技術は、単に新しいテスト形式に対応するためのテクニックに留まりません。

複数テクスト問題が試しているのは、情報が氾濫する現代社会を生きる上で、私たち一人ひとりに求められる、極めて本質的な能力です。すなわち、断片的に与えられる多様な情報源(ニュース、SNS、専門家の意見、統計データ)の中から、必要なものを**収集(Collect)し、それらを比較・対照(Compare)し、その関係性を構造化(Structure)した上で、自分自身の結論や新たな価値を創造(Create)していく。この一連のプロセスこそ、「情報編集能力」**に他なりません。

共通テスト現代文の複数テクスト問題は、この知的作業を行うための、最高のトレーニングジムです。このモジュールで学んだ戦略を実践し、情報と情報の間に論理の橋を架ける訓練を積むことは、あなたの受験を突破する力になるだけでなく、その先の大学での学びや、社会での活躍を支える、揺るぎない知的基盤となるでしょう。

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