【明治 全学部 現代文】Module 3: 設問形式別・戦略的解法プロトコル
本モジュールの目的と概要
Module 1と2を通じて、我々は明治大学現代文の文章を精密に、かつ構造的に読み解くための「思考のOS」をインストールしてきた。語彙・文法レベルでのミクロな読解力と、論理構造レベルでのマクロな読解力は、いわば良質な武具と、戦場全体を俯瞰する戦略眼である。しかし、それだけではまだ「戦い」には勝てない。最終的に合格点を獲得するためには、その武具と戦略眼を、敵である「設問」の形式に応じて最適化し、具体的な「戦闘技術」へと昇華させる必要がある。
本Module 3では、明治大学現代文で頻出する設問形式を徹底的に解剖し、それぞれの形式に特化した、最も効率的かつ確実な解法、すなわち「プロトコル」を提示する。ここでの目標は、単に正解することではない。なぜその選択肢が正解で、他の選択肢が不正解なのかを、論理的に説明できるレベルに到達することである。これまで培ってきた読解力を、確実な「得点力」へと変換する、最後の、そして最も重要な訓練がここから始まる。
1. 『空所補充問題の類型分析:論理の必然性から唯一解を導く』
1.1. 明治大学の空所補充問題―問われるのは「論理の復元能力」
- 単なる語彙問題ではない
- 明治大学の空所補充問題は、単に単語の意味を知っているかを問う知識問題とは一線を画す。もちろん最低限の語彙力は必要だが、それ以上に重視されるのは、空所の前後関係から論理の流れを正確に読み取り、そこに必然的に入るべき言葉(あるいは接続詞)を特定する能力である。
- 筆者が意図的に抜いた「論理のピース」を、文脈というヒントだけを頼りに復元する、高度な知的パズルだと考えよ。正解は常に本文中に用意された論理的必然性の中にのみ存在する。
- 出題の2大類型
- 接続語(詞・副詞)補充: 「しかし」「たとえば」「つまり」といった接続語句を問うパターン。これは、Module 1で学んだ「接続語のナビゲーション機能」が直接的に試される。文と文、段落と段落がどのような論理関係(順接、逆接、並立、換言など)で結ばれているかを見抜けば、答えは自ずと定まる。過去問では、独立した設問としても、複数の空所を組み合わせる形式としても頻繁に出題される(例:2019年度 問八、2020年度 問二)。
- キーワード補充: 文脈上、鍵となる名詞や動詞、形容詞などを問うパターン。これは、文章全体のテーマや、その段落における筆者の主張を正確に把握しているかが問われる。多くの場合、空所に入るべきキーワードは、本文の別の箇所で異なる表現で言い換えられている(パラフレーズ)。その対応関係を見つけ出すことが攻略の鍵となる。
1.2. 解法プロトコル:感覚を排し、論理で解を絞り込む
- ステップ1:空所を含む一文を精読し、文法的役割を把握する
- まず、空所が文の中でどのような役割を果たしているか(主語か、述語か、修飾語か)を確認する。特に、空所が接続的な役割を担う副詞なのか、概念を表す名詞なのかを判断することは、思考の方向性を定める上で極めて重要である。
- ステップ2:空所の「直前」と「直後」を徹底的に分析する
- 論理的根拠の9割は、空所の前後1〜2文に集中している。この範囲を、まさに虫眼鏡で見るように精査する。
- 直前(A)と直後(B)の関係性を特定せよ:
- 逆接・対比か?(AとBの内容が反対):→ 「しかし」「だが」「一方」などが入る。
- 順接・因果か?(Aが原因でBが結果):→ 「だから」「したがって」「その結果」などが入る。
- 換言・具体化か?(BがAを分かりやすく言い換えている):→ 「つまり」「すなわち」「例えば」などが入る。
- 並立・添加か?(AとBが同列の情報):→ 「また」「そして」「さらに」などが入る。
- この論理関係の特定こそが、空所補充問題の心臓部である。
- ステップ3:選択肢を見ずに、「入るべき言葉の性質」を予測する
- ここが最重要ポイントである。いきなり選択肢を見ると、もっともらしいダミー選択肢に思考が引きずられ、混乱を招く。
- ステップ2の分析に基づき、「ここには、前の文との対比を示す言葉が入るはずだ」「ここには、筆者が肯定的に捉えている概念が入るはずだ」というように、自力で正解の「予測モデル」を立てる。
- ステップ4:予測モデルと選択肢を照合し、消去法で唯一解を特定する
- 自分が立てた予測モデルと、各選択肢を一つずつ照合していく。
- 少しでも論理関係が合わないもの、文脈と矛盾するものは、たとえ単語の意味が通じるように見えても、躊躇なく消去する。
- 例(2019年度 問八):空欄アとイに接続語を入れる問題。アの前は「放送は程度の差こそあれ【ア】的になり」、後は「『国民』が接することのできる情報は【イ】的にならざるをえない」と続く。放送が政府の許認可制で管理されるという文脈から、アには「独占」や「排他」といった言葉が入り、その結果として情報が「限定」されるという因果関係を読み取れば、正解にたどり着く。
2. 『傍線部説明問題の鉄則:同義語置換と文脈的意味の統合』
2.1. 「どういうことか」問題の本質 ― 分解と再構築
- 傍線部説明問題は、明治大学現代文において最もオーソドックスかつ重要な設問形式である。この問題が受験生に要求している能力は、一言で言えば**「傍線部の意味内容を、本文全体の文脈に即して、より平易な言葉で説明し直す能力」**である。
- この作業は、以下の2つのプロセスから成る。
- 要素分解:傍線部を構成するキーワードやキーフレーズに分解する。
- 同義語置換と再構築:分解した各要素を、本文中で使われている同義の表現(言い換え)や、文脈から補われるべき情報を付け加えながら、一つの分かりやすい文として再構築する。
2.2. 解法プロトコル:本文との「意味的等価性」を検証する
- ステップ1:傍線部を意味のまとまりごとに分解(スラッシュを入れる)
- 長く複雑な傍線部ほど、この作業は有効である。
- 例(2016年度 問一):「思考の自由がある」という傍線部。これは「思考」と「自由」という二つの要素に分解できる。
- ステップ2:分解した各要素の「言い換え(同義表現)」を本文中から探す
- 筆者は重要な概念について、必ず本文中のどこかで繰り返し、異なる言葉で説明している。その部分を探し出し、マーキングする。
- 例(2016年度):「思考の自由がある」とはどういうことか。傍線部の前後を見ると、ゴシック建築の彫刻師が「解剖学を無視したぎこちない姿」を刻んだとある 1。ここから、「思考の自由」とは、既存の権威や様式(=解剖学)に縛られずに、自らの感性で表現することだと分かる。正解の選択肢C「科学的な真理や皆が模範とする様式にとらわれずに生き物の姿を形作ったこと」は、この言い換えを正確に反映している 2。
- ステップ3:選択肢と傍線部を構成要素レベルで比較検討する
- 各選択肢が、ステップ1で分解したすべての要素を、過不足なく、かつ正確な関係性で含んでいるかをチェックする。
- 不正解選択肢の典型パターン:
- 要素の欠落:傍線部の一部の要素にしか触れていない。
- 情報の追加:本文に書かれていない余計な情報や解釈が付け加えられている。
- 言い換えの不一致:一見もっともらしいが、本文の文脈からするとニュアンスがズレている。
- 関係性の歪曲:各要素の関係性(因果、対立など)が本文の内容と異なっている。
- ステップ4:主語・述語、修飾関係の対応を最終確認する
- 正解の選択肢は、傍線部と意味的に等価であるだけでなく、文法的にも自然な対応関係にある。選択肢の主語は本文の何に対応するのか、修飾語はどこにかかるのかを吟味することで、より確信を持って正解を特定できる。
3. 『理由説明問題の攻略法:直接的根拠と間接的根拠を区別する』
3.1. 「なぜか」問題の核心―原因と結果の鎖を遡る
- 理由説明問題は、傍線部で示された**「結果」に対して、その「原因」**を本文中から探し出して説明する問題である。
- 解答の根拠は、ほぼ100%、本文中に明記されている。決して自分の推測や一般常識で答えてはならない。本文という閉じられた世界の中で、筆者が提示する因果関係を正確に特定する作業に徹すること。
3.2. 解法プロトコル:探索範囲を定め、因果の連鎖を追う
- ステップ1:傍線部の内容を「結果(B)」として明確に認識する
- まず、「何についての理由」を問われているのかを正確に把握する。「~とあるが、なぜか」と問われたら、傍線部が「結果B」であると確定する。
- ステップ2:傍線部の「直前」に原因(A)を探す
- 因果関係の最も基本的な形は「A(原因)、だからB(結果)」である。したがって、解答の根拠は傍線部の直前に存在する可能性が極めて高い。まずは傍線部が含まれる文、そしてその前の文を徹底的に精査する。
- 「なぜなら」「~から」「~ため」「~によって」といった因果を示すマーカーがあれば、それが直接的なヒントになる。
- ステップ3:探索範囲を広げ、「間接的根拠(C)」を探す
- 直前に明確な原因が見つからない場合、あるいは選択肢がより根本的な原因に言及している場合は、探索範囲を段落全体、さらにはその前の段落へと広げる。
- 明治大学の評論では、「C → A → B」という因果の連鎖がしばしば見られる。傍線部(B)の直接的な原因はAだが、そのAを引き起こした、より根本的な原因Cが存在する。設問は、このCを含めた説明を求めていることが多い。
- 例(2019年度 問七):傍線部「それまでなにか問題がおきると村の長老の意見にしたがって行動していた村人たちが、ラジオの導入とともにだんだん『政府』のいうことをきくようになった」の理由を問う問題 3。直前の文には「具象的な『顔』はみえないが『声』はきこえる。ひとびとはその『声』をつうじて想像もつかないような『ひろい世間』を知り、同時にそれが『国家』というものであることを知ったのである」とある 4。これが直接的根拠である。正解選択肢B「世間の頂点は村の長老だと思っていたが、世間が広くなったため世間の頂点は政府だと認識するようになったから」は、この内容を正確にまとめている。
- ステップ4:選択肢を吟味し、因果関係の適切さを判断する
- 探し出した原因(AやC)と、傍線部の結果(B)が、論理的に「~だから~になる」という関係で結ばれているかを検証する。
- 不正解選択肢は、「結果を原因にしている」「因果関係がない」「単なる事実の並置に過ぎない」といった欠陥を抱えている。
4. 『内容合致問題へのアプローチ:本文の論理構成と選択肢の虚偽を見抜く』
4.1. 内容合致問題は「消去法」が絶対の王道
- 「本文の内容に合致するものを一つ選べ」という形式の設問は、受験生にとって最も時間と精神力を消耗する問題の一つである。
- この問題で最も有効かつ安全な戦略は、「積極的に正解を探しにいく」のではなく、「消極的に不正解の選択肢を消していく」という消去法に徹することである。
- なぜなら、正解の選択肢は本文全体の主張を巧みに要約・再構成しているため、一見して「これが正解だ」と判断するのは難しい場合が多い。一方、不正解の選択肢は、本文の内容と**明確に矛盾する「虚偽(ウソ)」**を必ず一つ含んでいる。この「ウソ」を見つけ出す方が、はるかに客観的で確実な作業なのである。
4.2. 不正解選択肢の典型的な「虚偽」パターン5選
- 本文と選択肢を照合する際には、以下の「虚偽」パターンに常に警戒せよ。
- 強弁・限定の罠(言い過ぎ/弱め過ぎ)
- 本文では「~の場合もある」「~かもしれない」と限定的に述べているのに、選択肢では「常に~である」「必ず~だ」「~しかない」と断定している。逆に、本文の断定を「~の傾向がある」のように弱めている場合も誤り。
- 因果・関係の逆転
- 本文では「Aが原因でBが起きた(A→B)」とあるのに、選択肢では「Bが原因でAが起きた(B→A)」と因果関係が逆になっている。主従関係や対立関係の取り違えもこのパターンに含まれる。
- すり替え・混同
- 本文のキーワードAを、似ているが意味の異なるキーワードBに巧妙にすり替えている。あるいは、本文中で明確に区別されている二つの事柄(例:ラスキンとマルクスの思想)を、選択肢の中で混同してしまっている。
- 本文に記述なし
- 選択肢で述べられている内容が、一見もっともらしく、常識的に正しそうに見えるが、本文中にはどこにも書かれていない。受験生の知識や先入観を試す、非常に悪質な罠である。根拠はあくまで本文にしか存在しない。
- 不完全な記述
- 選択肢の内容は間違ってはいないが、本文の重要な要素が欠落しており、筆者の主張の核心を捉えきれていない。より適切で、より多くの要素を過不足なく含んでいる他の選択肢が存在する場合、これは不正解となる。
- 強弁・限定の罠(言い過ぎ/弱め過ぎ)
4.3. 解法プロトコル:地道な照合作業で「虚偽」を撃破する
- ステップ1:設問の問いと選択肢全体を一度、通読する
- まず、何が問われているのか、どのような観点の選択肢が並んでいるのかを大まかに把握する。
- ステップ2:選択肢を一つずつ、本文と徹底的に照合する
- 一つの選択肢(例:選択肢A)を読み、その内容が本文のどの部分に該当するかを探す。この際、本文全体をスキャンする意識が重要。
- 該当箇所を見つけたら、上記の「虚偽」パターンに照らし合わせ、少しでも矛盾・不一致があれば、その選択肢は「×」として消去する。判断に迷う場合は「△」として保留する。
- ステップ3:すべての選択肢について、ステップ2を繰り返す
- この作業は時間がかかるが、最も確実な方法である。焦らず、地道に一つずつ選択肢を潰していく。
- ステップ4:残った選択肢を比較検討し、最終解を決定する
- 理想的には「○」が一つだけ残る。もし「△」が複数残った場合は、それらの選択肢を比較し、「より本文の主旨を正確に反映しているか」「より重要な要素を含んでいるか」という観点から、最も適切なものを選択する。
5. 『脱文挿入・文章整序問題:論理的断絶を修復する』
5.1. 脱文挿入問題の本質―「論理の穴」を見つける
- 脱文(一文が抜けている)挿入問題は、文章の論理的な流れが「断絶」している箇所を見つけ出し、与えられた文を挿入することで、その流れをスムーズに「修復」する問題である。
- 解法の鍵は、「挿入すべき文」が持つ論理的な機能と、「本文の空所前後」が要求する論理的な機能とをマッチさせることにある。
5.2. 解法プロトコル:ミクロとマクロの視点から接続点を探る
- ステップ1:挿入する文(脱文)を分析し、その「機能」を特定する
- 指示語・代名詞:「この」「その」「こうした」「彼は」などが冒頭にあれば、その指示語が指す内容が直前の文にあるはずだ、という強力なヒントになる。
- 接続語:「しかし」なら前と逆の内容、「また」なら並立、「したがって」なら結論が来るはずだ。
- 内容:その文が「具体例」なのか、「抽象的なまとめ」なのか、「問題提起」なのか、といった内容的な役割を把握する。
- ステップ2:本文の空所(A~Dなど)の「直前」と「直後」の関係を分析する
- 各空所の前後で、話がスムーズにつながっているか、それとも何か論理的な飛躍や断絶がないかをチェックする。
- 例:空所の前が抽象論で、後が別の抽象論に移っている場合、その間に具体例を挟むことで話が分かりやすくなることがある。
- 例:空所の前と後で、明確に逆の内容を述べているのに、逆接の接続詞がない場合、そこに「しかし」などで始まる脱文が入る可能性が高い。
- ステップ3:脱文の「機能」と空所の「要求」をマッチングさせる
- ステップ1で分析した脱文の機能が、ステップ2で発見した本文の「論理の穴」を埋めるのに最もふさわしい箇所を探す。
- 例(2010年度 問八):脱文は「真に価値があり、自己の発展に寄与できるものは遠慮なく摂取すべきである」という内容 5。これは、文化の無批判な猿真似を批判しつつも、完全な排他主義も否定するという文脈で、バランスを取るための主張である。本文Bの後では、外来語排除などを「悪しき排他主義」と批判しており 6、Cの前で「意味のない、無反省な猿真似は止めるべきだ」と述べている 7。このBとCの間、すなわち排他主義の否定と猿真似の否定の間にこの脱文を挿入することで、「何でもかんでも否定するわけではなく、価値あるものは受け入れるべきだ」という、より洗練された論理が完成する。したがって、挿入箇所はBが最も適切だと判断できる。
6. 『小説における登場人物の心情曲線:行動・会話・情景描写からの精密な追跡』
6.1. 小説読解の鉄則―心情は「描かれる」ものであり、「書かれない」
- 評論問題との最大の違いは、登場人物の心情が「彼は悲しかった」のように直接的に説明されることは稀であるという点にある。小説において、心情は常に間接的な描写を通して読者に示唆される。
- したがって、小説の心情を問う問題で求められるのは、客観的な描写から、登場人物の主観的な内面を論理的に推測する能力である。この「描写→心情」の変換プロセスこそが、小説読解の核心である。
6.2. 心情の根拠となる3大要素―行動・会話・情景
- 登場人物の心情を読み解くための根拠は、以下の三つの客観的描写に集約される。
- 行動・仕草・表情・身体的反応
- 例:「拳を握りしめる」→ 怒り、悔しさ、決意。「うつむく」→ 悲しみ、羞恥、落胆。「顔が赤くなる」→ 怒り、羞恥。「ため息をつく」→ 落胆、安堵、疲れ。
- これらの行動がどのような文脈で行われたかを考えることが重要。
- 会話(台詞)の内容・口調
- 内容:何を言ったか、だけでなく、何を「言わなかったか」も重要。
- 口調:「早口でまくしたてる」→ 焦り、興奮。「途切れ途切れに話す」→ 動揺、悲しみ。「冷たく言い放つ」→ 突き放す気持ち、軽蔑。
- 情景描写
- 小説における風景は、単なる背景ではない。登場人物の心情を映し出す「鏡」として機能することが非常に多い。
- 例:「冷たい雨が降っている」→ 登場人物の悲しみや孤独を象徴。「夕日が美しい」→ もの悲しさ、一日の終わりの感慨。「光が差し込む」→ 希望、救い。
- 特に、情景が人物の心情と対照的に描かれる場合(例:心が沈んでいるのに、空はからりと晴れている)、その対比によって人物の孤独や苦悩が一層際立つという高度な技法もある。
- 行動・仕草・表情・身体的反応
6.3. 解法プロトコル:心情の「変化」のきっかけ(トリガー)を捉える
- 明治大学の小説問題では、ある時点での心情そのものよりも、**「心情がどのように変化したか」**が問われることが多い。
- ステップ1:傍線部における登場人物の状況を客観的に把握する
- 誰が、どこで、何をしている(言っている)場面かを正確に把握する。
- ステップ2:傍線部の直前の状況(Before)と、直後の状況(After)を比較する
- 多くの場合、傍線部を境にして、登場人物の言動や、彼を取り巻く状況、情景描写に何らかの変化が生じている。
- ステップ3:心情変化の「きっかけ(トリガー)」となった出来事や言葉を特定する
- BeforeからAfterへと状況を変化させた原因は何か。誰かの一言か、ある物を見たことか、何かを思い出したことか。このトリガーの特定が、解答の根拠を明確にする。
- ステップ4:3大要素(行動・会話・情景)を根拠に、心情の変化を言語化する
- 例(2019年度 大問二 大岡信『ぐびじん草』):傍線部④「書家ならざる書人の『書』を見るということには、どのような意味があるのだろうか」という問いかけ 8。この直後で筆者は、「私が好ましく思う書について言うことはもちろんできる」と述べ、その重要な要素として「書が書を超えた何らかの目的に向けて奉仕するために書かれているときにこそ、書は最も深い輝きを発するということである」と結論づけている 9。この流れから、筆者が価値を見出しているのは、技巧そのものではなく、書くという行為に込められた生命の躍動や目的意識であることが分かる。設問はこの心情の変化や結論を問う形で作られる。
本モジュールのまとめ
本Module 3では、明治大学現代文の主要な設問形式6つを取り上げ、それぞれに対する戦略的な解法プロトコルを確立した。空所補充、傍線部説明、理由説明、内容合致といった評論問題の定番から、脱文挿入、そして小説の心情読解まで、全ての設問には論理的な解法が存在することを理解できただろう。
重要なのは、これらのプロトコルが、Module 1と2で学んだ「思考のOS」――すなわち、精密な語彙・文法解釈能力と、マクロな論理構造把握能力――の上で初めて十全に機能するということである。解法は単なるテクニックではない。盤石な読解力に裏打ちされて初めて、確実な得点力へと昇華するのである。
次のModule 4では、視点を変え、明治大学が好んで出題する「頻出テーマ」に焦点を当てる。近代批判、メディア論、言語論といったテーマに対する背景知識を戦略的にインプットすることで、初見の文章であっても、より深く、かつ有利に読み解くための「知的体力」を養っていく。