【共通テスト 数学1】Module 3: 第2問(必答)攻略:現実事象の数学的モデリング

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【本記事の目的と概要】

本稿は、共通テスト数学Ⅰ・Aの思考力の核心を突く「第2問(配点30点)」を完全制覇するための戦略書である。第2問は、多くの場合**「2次関数を用いた現実事象のモデル化」と「データの分析」という二大テーマで構成される。この大問の最大の特徴は、単なる計算力や公式の知識を問うのではなく、日常的な事象や社会的なデータといった「生の素材」を、数学という言語を用いて翻訳し、分析・考察する「数学的モデリング能力」**を真正面から問う点にある。したがって、本モジュールでは、長い問題文の中から本質を読み解き、数式に落とし込む技術、そして得られたデータから意味のある結論を導き出すための統計的思考法を詳述する。2次関数とデータの分析、これら二つの強力なツールを使いこなし、第2問を得点源に変えるための戦術を伝授する。


目次

1. 前半戦:[2次関数] で現実世界を斬る

第2問の前半パートは、多くの場合、2次関数をツールとして現実の問題を解決する設定で出題される。物体の軌道、利益の最大化、図形の面積変化など、題材は多岐にわたるが、根底にある思考プロセスは共通している。

1.1. 「翻訳」の技術:事象から2次関数を立式する

問題文で与えられた状況を、y = ax^2 + bx + c という数学の言葉に「翻訳」する作業が、すべての出発点となる。

  • Step 1: 座標軸の設定と変数の特定
    • 問題文中で座標軸が与えられている場合(例:噴水の問題 1111)は、それを最大限に活用する。与えられていない場合は、自分で最も計算が楽になるように原点や軸を設定する。
    • 何が独立変数 x で、何が従属変数 y なのかを明確にする。例えば、利益計算の問題 2 では「1皿あたりの価格」が x、「利益」が y となる。
  • Step 2: 条件の数式化と係数の決定
    • 問題文中の「点Aを通る」「頂点が(p, q)である」といった情報を、すべて数式に変換する。
      • 通る点 (x1, y1) が与えられた場合y1 = ax1^2 + bx1 + c が成り立つ。
      • 頂点が (p, q) と与えられた場合y = a(x-p)^2 + q とおくのが定石。
      • x軸との交点が (α, 0), (β, 0) と与えられた場合y = a(x-α)(x-β) とおくのが最も効率的。
    • これらの条件から得られた方程式を連立させて、係数 a, b, c を決定する。この計算を迅速かつ正確に行うことが、序盤での時間的アドバンテージを生む。
  • Step 3: 「変域」の確定という罠
    • 立式が完了した後、最も注意すべきは**変数の変域(定義域)**である。現実の問題では、変数が取りうる値には必ず制約がある。
    • 例えば、噴水の問題で「噴水の水が出る位置がP1とP2」とあれば、ボールのx座標の変域はP1とP2の間に限定される。利益計算で「価格は100円以上300円以下」とあれば 100 <= x <= 300 という絶対的な制約となる 3
    • この変域の確認を怠ると、最大値・最小値を求める際に誤った結論を導くことになる。問題文の片隅に書かれた制約条件を見逃さない情報収集力が試されている。

1.2. 「追跡」の技術:パラメータ変化と最大・最小問題

共通テストの2次関数問題は、単に一つの関数を分析させるだけでなく、パラメータ(係数 a など)を変化させたときに、グラフがどのように挙動するかを考察させる問題が多い。

  • パラメータを含む関数の頂点の追跡
    • 典型例:2025年度旧課程 第2問〔1〕
      • 放物線 y = ax^2 + bx + c が2点 P(1, 2), Q(3, 4) を通るという条件から、係数 b と c を a を用いて表現させる 4
      • これにより、関数は y = ax^2 + (1-4a)x + (1+3a) のように、パラメータ a を含む形になる。
      • この関数の頂点の座標も、当然 a の式で表される。平方完成すると、頂点のx座標 X = (4a-1)/(2a)、y座標 Y = aX^2 + (1-4a)X + (1+3a) となる。
      • a が正の範囲で動くとき、頂点のy座標が最大になるのはいつか?」という問いは、Y を a の関数と見て、その最大値を求める問題に帰着する。しかし、この計算は複雑になりがちである。
    • 誘導の意図を読む: この問題の秀逸な点は、受験生が複雑な計算に陥るのを、会話文によって救済している点である 5。花子さんの「グラフを表示してみたら、2点P, Qとグラフの頂点との関係がわかるね」という発言は、「代数的な計算だけでなく、幾何学的な特徴から考えよ」という出題者からのメッセージである。
    • 幾何学的アプローチa が正のとき、グラフは下に凸。この放物線が常にP(1, 2)とQ(3, 4)を通るということは、頂点のy座標は、点Pのy座標=2と点Qのy座標=4の、低い方よりもさらに低くなる。頂点のy座標を最大にするには、頂点をできるだけ高い位置に、つまり弦PQに近づける必要がある。頂点のx座標が弦PQの中点 x=2 からずれるほど、頂点のy座標は低くなる。このことから、頂点のy座標が最大になるのは、放物線の対称軸が弦PQの中点のx座標と一致するときではなく、この問題設定では直感的に捉えにくいが、別の方法を考える必要がある。問題の誘導では、頂点のy座標が線分PQの上に乗るとき、つまり放物線が直線になる(a=0の極限)ような状況を考えさせようとしている可能性がある。実際には、頂点のy座標をaで表した式を微分する(数Ⅱの範囲)のが最も直接的だが、数Ⅰの範囲では、特定のaの値を代入したり、グラフの形からy座標が2と4の間にはならないことなどを考察したりして選択肢を絞ることが求められる。
  • 教訓: パラメータを含む問題では、まず頂点などの特徴的な点の座標をパラメータで表現することが第一歩。しかし、計算が複雑化した場合は、一度立ち止まり、問題の誘導や図形的・幾何学的な性質からアプローチできないかを検討する柔軟な思考が求められる。

2. 後半戦:[データの分析] で情報を読み解く

第2問の後半パートは、ほぼ確実に「データの分析」である。ヒストグラム、箱ひげ図、散布図などの資料を正確に読み取り、統計的な指標を計算・解釈する能力が問われる。

2.1. 分布の概観:ヒストグラムと箱ひげ図の読解

  • ヒストグラム: データの分布の「形」を視覚的に捉えるためのツール。
    • 読解のポイント:
      • 山の位置: 最頻値(モード)がどの階級にあるか。
      • 山の形: 対称な山か、あるいは左右どちらかに裾が長い「歪んだ」分布か。
      • 度数: 各階級の度数を読み取り、中央値や四分位数がどの階級に含まれるかを計算する 6。52個のデータなら、中央値は26番目と27番目の値の平均、第1四分位数は13番目と14番目の値の平均である。
    • 典型例:2022年度本試験 第2問〔2〕
      • 2009年度と2018年度の「教員1人あたりの学習者数」のヒストグラムを比較させている 7。2018年度のヒストグラムは2009年度に比べて山が左に移動しており、全体的に数値が小さくなった(教育環境が改善した)傾向が読み取れる。
  • 箱ひげ図: データの要約統計量(最小値、第1四分位、中央値、第3四分位、最大値)を可視化し、複数のデータ群の比較を容易にするツール。
    • 読解のポイント:
      • 箱の位置: 中央値(箱の中の線)を比較し、データ全体の位置(高いか低いか)を把握する。
      • 箱の長さ(四分位範囲 IQR): 箱の長さ (Q3 - Q1) は、データの中央50%のばらつきの大きさを表す。箱が長ければ、ばらつきが大きい。
      • ひげの長さ: 全体の範囲(最大値 – 最小値)と、外れ値の有無を示す。
      • 非対称性: 中央値が箱の中央からどちらに寄っているかで、分布の歪みを推測できる。
    • 典型例:2024年度本試験 第2問〔2〕
      • 2018年より前と以降の男子マラソン選手のベストタイムを、二つの箱ひげ図で比較している 8。箱全体が左(タイムが速い方)に移動しており、近年の方が記録が向上していることが一目瞭然である。

2.2. 2変数の関係性:散布図と相関係数

  • 散布図: 2つの量的変数の間の関係を見るためのグラフ。
    • 読解のポイント:
      • 相関の有無と向き: 点の集まりが右上がりの傾向にあれば正の相関右下がりの傾向にあれば負の相関がある。明確な傾向がなければ相関がない
      • 相関の強さ: 点のばらつきが小さく、直線に近いほど相関は強い。ばらつきが大きいほど相関は弱い。
      • 外れ値: 他の点の集まりから大きく外れた点。外れ値の存在は相関係数に大きな影響を与えることがある。
    • 高度な読解:見かけの相関(シンプソンのパラドックス)
      • 典型例:2025年度旧課程 第2問〔2〕
        • 「スポーツ好き度」と「反復横とび」の散布図は、全体を見ると右下がりの負の相関があるように見える 9
        • しかし、データを小学校と中学校の2つの集団に分けると、各集団の中では明確な相関が見られない、あるいは弱い正の相関がある可能性がある 101010101010101010
        • これは、2つの異なる性質の集団を一緒に分析したために生じる「見かけの相関」であり、共通テストが受験生の深いデータ読解力を試している好例である。
  • 共分散と相関係数: 散布図で見た関係を数値で表す。
    • 相関係数 r-1 <= r <= 1 の値をとる。
      • r が 1 に近い:強い正の相関
      • r が -1 に近い:強い負の相関
      • r が 0 に近い:相関がほとんどない
    • 計算r = (s_xy) / (s_x * s_y) (s_xy: 共分散, s_x, s_y: 標準偏差)の公式を確実に覚えておくこと。多くの場合、問題文でこれらの値が与えられるので、正確に代入して計算する 11111111

2.3. 統計的な推測:仮説検定の思考法

近年、指導要領の変更に伴い、「仮説検定」の基本的な考え方が問われるようになった。

  • 思考プロセス:
    1. 仮説を立てる: 主張したいことと逆の仮説(帰無仮説)を立てる。「Aの方が人気だ」と主張したいなら、「AとBの人気に差はない(=偶然の範囲だ)」と仮説を立てる。
    2. 基準を決める: その仮説の下で、観測されたデータ(あるいはそれ以上に稀なデータ)が得られる確率を計算する。その確率が、あらかじめ決めた基準(有意水準、通常5%や1%)より小さいかどうかを判断する。
    3. 結論を出す:
      • 確率が基準より小さい場合:「それは偶然とは考えにくい」→ 仮説を棄却し、元の主張を支持する。
      • 確率が基準より大きい場合:「それは偶然の範囲内だ」→ 仮説を棄却できず、元の主張は支持できない(※「主張が間違っている」と結論づけるわけではない点に注意)。
  • 典型例:2025年度新課程 第2問〔2〕(3)
    • 「キャンペーンAの方がよい」という主張を確かめるため、「AとBの回答割合は等しい(=コインの表裏と同じ)」という仮説を立てる 12
    • この仮説の下で、35人中23人以上がAと回答する確率を、コイン投げの実験結果のデータから読み取る 13131313
    • その確率が基準である5%より小さいか大きいかを判断し、仮説が棄却できるか否かを結論付ける 14

3. 第2問の統合戦略

3.1. 時間配分とセクション管理

  • 第2問全体での目標時間は約20分。これを2つのセクションに分割して管理する。
    • [2次関数]パート:10~12分
    • [データの分析]パート:8~10分
  • 2つのパートは完全に独立しているため、どちらから解き始めてもよい。データの分析が得意であれば、そちらを先に片付けて精神的余裕を作るのも有効な戦略である。
  • 重要なのは、一方のパートで時間を使いすぎないこと。例えば2次関数で15分かかってしまったら、データの分析は5分で処理しなければならなくなる。片方のセクションが難しいと感じたら、深入りせず、もう一方のセクションで確実に点を稼ぐことに頭を切り替えるべきである。

3.2. 読解負荷への対処法

第2問は、共通テストの中で最も「国語力」が試される大問かもしれない。長い設定文をいかに効率よく処理するかが、時間内に完答するための鍵となる。

  • キーワード・ドリブン読解: 問題文を読む際に、「最大値」「相関係数」「~のときの確率」といった、最終的に何を問われているかを示すキーワードを探し、そこから逆算して必要な情報を拾い読みする。
  • 情報の整理と図式化: 複雑な設定(例:登場人物、ルール、条件)は、簡単な相関図やフローチャートとして計算用紙に書き出す。
  • 会話文のナビゲーション機能: 太郎さんと花子さんの会話は、問題の「攻略ルート」を示唆するナビゲーターである。彼らの発言の流れに沿って思考を進めるのが、最も安全で効率的な道筋であると心得よ。

結論:第2問は「数学的社会性」を問う

第2問は、単に数学の知識を再生する能力ではなく、数学を現実世界と結びつけ、情報を整理し、論理的に考察する、いわば「数学的社会性」とも呼べる力を測っている。この大問を攻略することは、現代社会で求められるデータリテラシーや問題解決能力の素養を証明することに他ならない。問題文の背後にある「現実の文脈」を楽しみながら、冷静に数学のメスを入れていく。その姿勢こそが、第2問攻略の王道である。

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