【共通テスト 数学1】Module 6: 選択問題【図形の性質】攻略:定理の統合的運用と論理的証明

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【本記事の目的と概要】

本稿は、共通テスト数学Ⅰ・Aの選択問題の中で、最も美しい論理構造と定理の巧みな運用が求められる「図形の性質」を完全攻略するための戦術書である。この分野で高得点を獲得するために必要なのは、個々の定理を暗記していることだけではない。図の中に隠された幾何学的な関係性を見抜き、どの定理が有効な武器となるかを瞬時に判断し、それらを論理的に連結させて結論へと至る**「統合的思考力」である。本モジュールでは、三角形の五心やチェバ・メネラウスの定理といった平面図形の根幹から、円の性質、さらには空間図形における証明**に至るまで、共通テストで問われる核心的テーマを網羅的に解説する。単なる知識の羅列ではなく、いかにして「気づき」、いかにして「使う」かという、実践的な思考プロセスを伝授する。


目次

1. 平面図形の基盤:三角形の五心と比の定理

図形問題の多くは、三角形の基本的な性質から出発する。特に、三角形の五心(重心・内心・外心・垂心)と、辺の比に関する定理(チェバ・メネラウス)は、最重要ツールキットである。

1.1. 五心(重心・内心・外心・垂心)の性質と相互関係

共通テストでは、各五心の定義と基本的な性質を正確に理解していることが前提となる。

  • 重心 (G)3本の中線の交点。
    • 最重要性質: 重心は中線を 2:1 に内分する。これは、辺の比や面積比を計算する際の出発点として頻繁に利用される。
    • 典型例:2022年度本試験 第5問1
      • 「△ABCの重心をG」と設定されている。この一文から、点Eが辺BCの中点であり、AG:GE = 2:1 であることを瞬時に読み取れなければならない。この比の情報が、後のメネラウスの定理適用の基礎となる。
  • 内心 (I)3つの内角の二等分線の交点。内接円の中心。
    • 最重要性質: 内心から各辺までの距離は等しい(内接円の半径)。また、角の二等分線の性質から、辺の比(例:AB:AC = BD:DC)を導くことができる。
    • 典型例:令和4年度追試験 第5問(2)2
      • 内心Iが関わる問題で、直線AIは∠Aの二等分線である。このことから、「直線AOと直線AHは直線AIに関して対称であるか」といった、対称性を問う命題の真偽判断に繋がっていく。
  • 外心 (O)3辺の垂直二等分線の交点。外接円の中心。
    • 最重要性質: 外心から各頂点までの距離は等しい(外接円の半径)。外心が登場した場合、二等辺三角形が複数隠れていること、そして正弦定理との関連を強く意識する。
  • 垂心 (H)3本の垂線の交点。
    • 最重要性質: 頂点から下ろした垂線の足(例:D, E)などが登場した場合、複数の直角三角形が生まれ、円周角の定理が適用できる四角形(例:四角形CDHEは∠CDE+∠CHE=180°)が潜んでいることが多い。
    • 典型例:令和4年度追試験 第5問(1)(ii)3
      • 垂心Hを定義し、垂線の足D, Eを用いて BD:DC や AE:EC の比を与える。ここから AH:HD を求めさせており、垂心と辺の比の関係を深く理解しているかが問われる。

1.2. チェバの定理・メネラウスの定理:比を求める最強ツール

複雑な図形における線分の比を求める問題では、この二つの定理が絶大な威力を発揮する。

  • 定理の選択基準:
    • チェバの定理: 三角形の内部の1点を通り、各頂点と結んだ直線が対辺と交わる状況で用いる。「頂点→分点→頂点…」と三角形を一周する。
    • メネラウスの定理: 三角形と**1本の直線(横断線)**が交わる状況で用いる。「キツネ型」や「ブーメラン型」の図形を見つけたら、この定理の適用の合図。
  • 戦略的思考(キツネを見つける訓練):
    • メネラウスの定理は、どの三角形とどの横断線に着目するかを見抜くのが難しい。
    • 典型例:2022年度本試験 第5問4
      • この問題では BP/AP と CQ/AQ の和を求めさせている。これは、それぞれの比を個別に求める必要があることを示唆している。
      • BP/AP を求めるには、辺ABを含む三角形、すなわち △ABE に着目する。そして、この三角形を横切る直線として F-D-P を見つける。これが「キツネ」である。
      • △ABEと直線FDPにメネラウスの定理を適用すると、(AD/DE) × (EF/FB) × (BP/PA) = 1 が成り立つ。
      • 同様に CQ/AQ を求めるには、△ACE と横断線 F-D-Q に着目する。
      • 共通テストでは、このように**「どの三角形と直線に着目せよ」**という誘導が問題文の流れの中に隠されている。求めたい比を含む辺が、どの三角形の一部であるかを逆算して考えることで、適用すべき図形が見えてくる。

2. 円が支配する幾何学:円周角・接線・方べきの定理

円が登場する問題では、角度と長さに関する強力な定理が数多く存在する。これらを統合的に運用する能力が求められる。

2.1. 円周角と接弦定理:角度追跡の基本

  • 円周角の定理: 等しい弧に対する円周角は等しい。中心角は円周角の2倍。直径に対する円周角は90°。これは角度計算の基本中の基本である。
  • 接弦定理: 円の接線と、接点を通る弦が作る角は、その角の内部にある弧に対する円周角に等しい。接線が引かれた図では、常にこの定理の適用を疑うこと。

2.2. 方べきの定理とその逆:長さと共円条件の橋渡し

方べきの定理は、円と2直線が交わる際の線分の長さの間に成り立つ、驚くほど美しい関係式である。

  • 方べきの定理の3パターン:
    1. 2本の割線(交点が円の外部)PA・PB = PC・PD
    2. 接線と割線(交点が円の外部)PT^2 = PA・PB
    3. 2本の弦(交点が円の内部)PA・PB = PC・PD
    • これらのパターンを即座に認識し、正しく立式できることが必須。
  • 「逆」の戦略的重要性: 方べきの定理の逆は、**「4点が同一円周上にあること(共円条件)」**を証明する強力な武器となる。
    • PA・PB = PC・PD が示せれば、4点A, B, C, Dは同一円周上にある。
    • 典型例:2022年度本試験 第5問(2)5
      • 「4点B, C, Q, Pが同一円周上にある」ことを利用して問題を解き進める。この条件がなぜ成り立つのかを考えると、方べきの定理の逆が背景にある。すなわち、AQ・AC = AP・AB が成立していることを示せば、4点が共円であることが証明できる。共通テストでは証明自体は求められないが、この背景を理解していると、問題の見通しが格段に良くなる。
  • 典型例:2024年度本試験 第5問(2)6
    • 3点A, B, Cを通る円と点Dの位置関係を調べるために、AQ・CQ と BQ・DQ の大小を比較させている。
    • これは、まさに方べきの定理の考え方を応用している。AQ・CQ = BQ・XQ となる点X(直線BDと円の交点)を考え、XQ と DQ の長さを比べることで、点Dが円の内部にあるか外部にあるかを判定させている。これは非常に高度で、定理の本質的な理解を問う良問である。

2.3. 円に内接する四角形とトレミーの定理

  • 円に内接する四角形の性質:
    • 対角の和は180°。
    • 一つの内角は、その対角の外角に等しい。
  • トレミーの定理(発展): 円に内接する四角形ABCDにおいて、AB・CD + BC・DA = AC・BD(対辺の積の和=対角線の積)が成り立つ。これは難関大二次試験レベルの知識だが、知っていると稀に計算を大幅に短縮できることがある。

3. 空間への拡張:共線・共点・共面の証明法

共通テストの図形問題では、平面図形だけでなく、空間図形が出題されることもある。空間認識能力に加え、空間における基本的な証明法を理解しておく必要がある。

3.1. 「同一平面上にある」ことを利用する

空間における点の位置関係を証明する際の最も基本的な戦略は、「複数の平面の交わり」として捉えることである。

  • 共線(3点が一直線上にある)の証明: 3点が、異なる2つの平面のどちらの上にもあることを示せば、その3点は2平面の交線上にあるため、一直線上にあると言える。
  • 共点(3直線が1点で交わる)の証明:
    • 典型例:2025年度旧課程 第5問(1)7777
      • 3直線AD, BE, CFが1点で交わることを証明させている。
      • Step 1: まず、2直線ADとBEがねじれの位置になく、同一平面(平面ABED)上にあることから、1点で交わることを示す。その交点をPとする。
      • Step 2: 点Pが他の平面上にもあることを示す。
        • 点Pは直線AD上にある。直線ADは平面ABEDと平面ACFDの交線である。よって、点Pは平面ACFD上にある。
        • 点Pは直線BE上にある。直線BEは平面ABEDと平面BCFEの交線である。よって、点Pは平面BCFE上にある。
      • Step 3: 結論を導く。点Pは平面ACFDと平面BCFEの両方の上にある。この2平面の交線は直線CFである。したがって、点Pは直線CF上にもある。
      • 以上より、3直線AD, BE, CFはすべて点Pを通る、すなわち1点で交わることが証明される。
  • 教訓: 空間図形の問題で、共線・共点を証明するよう誘導されたら、**「2つの平面の交線」**というキーワードを想起すること。どの点が、どの平面の上にあるのかを一つずつ丁寧に確認していくことが、正解への確実な道筋となる。

4. 誘導形式と論理の構築

4.1. 作図問題の「なぜ」を問う

近年、幾何学的な「作図」の手順を示し、その作図がなぜ正しいのかを、定理を用いて証明させる形式の問題が見られる。

  • 典型例:2023年度本試験 第5問8
    • 円Oと直線lが与えられ、(Step 1)~(Step 4)の手順で点E, Hなどを定義し、「直線EHは円Oの接線である」ことを証明させる。
    • これは、受験生が作図の手順をただ追うだけでなく、各ステップの幾何学的な意味(例:点Cが線分ABの中点であること、直線DFがOCに垂直であること)を読み取り、それらが最終的な結論にどう繋がるのかを、定理(方べきの定理、円周角の定理など)を用いて論理的に説明できるかを試している。
  • 戦略: 作図問題は、**「結論が分かっている証明問題」**であると捉えること。各作図ステップが証明の「仮定」や「補助線」の役割を果たしている。手順を一つずつ追いながら、「この操作によって、どの定理が使えるようになったか?」を自問自答することで、証明の全体像が見えてくる。

4.2. 補助線の「発見法」と誘導の読解

多くの受験生が悩むのが「補助線」の引き方である。しかし、共通テストにおいては、必要な補助線は問題文や図の中に巧妙にヒントとして埋め込まれていることが多い。

  • 垂線の足や、辺の延長、2点を結ぶ直線などが、あらかじめ図に描かれている場合、それらは出題者からの「この線を使って考えなさい」というメッセージである。
  • なぜその補助線が引かれているのか、その意図を考えること。「直角を作るためか?」「相似な三角形を作るためか?」「メネラウスの定理を使わせるためか?」など、目的を意識することで、思考の方向性が定まる。

結論:図形の性質は「知識のデータベース」と「論理的連鎖」の勝負

「図形の性質」の問題は、頭の中にある定理という「知識のデータベース」から、目の前の図形に適合する最適な定理を瞬時に検索し、それらを論理的に「連鎖」させて結論へと至る、知的なパズルである。一つ一つの定理を深く理解し、その定理がどのような図形的特徴と結びついているのかを整理しておくこと。そして、問題全体の誘導を、証明のブループリントとして読み解く訓練を積むこと。それができれば、どんなに複雑に見える図形問題も、必ずや攻略の糸口が見つかるはずだ。

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