【共通テスト 数学 ②】Module 2: 微分法の構造的解釈と応用戦術

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本記事の目的と構成

本モジュールでは、大学入学共通テスト「数学Ⅱ・B・C」における最重要分野の一つである微分法を、満点獲得のための戦略的ツールとして再定義します。微分法は、単に接線の傾きや関数の増減を調べるための計算技術ではありません。それは、関数の動的な振る舞いを視覚的に、そして構造的に解明するための「言語」であり、その言語を使いこなすことが高得点への最短経路です。共通テストでは、3次関数や4次関数のグラフの概形把握、方程式の実数解の個数、定義域が変化する中での最大・最小問題など、微分の本質的な理解を問う問題が頻出します。

本稿の目的は、これらの問題に対して、場当たり的な解法を覚えるのではなく、一貫した論理に基づいた「思考のアルゴリズム」を構築することです。第1章では、導関数の定義から出発し、その符号が関数の増減を決定するという微分法の根幹原理を再確認します。そして、この原理が3次・4次関数のグラフの形状をいかにして支配しているのかを、過去問を例に解き明かします。第2章では、方程式の実数解の個数をグラフの共有点問題に読み替える「定数分離法」や、定義域と極値の位置関係を網羅的に分類して最大値・最小値を求める戦略など、より応用的かつ戦術的なアプローチを詳述します。さらに、高次方程式の解の性質や不等式の証明といった、一見すると微分法と直接関係ないように見える問題が、いかにして関数の増減という統一的な視点で捉えられるかを示します。このモジュールを通じて、微分の計算スキルを、問題を俯瞰し、最適な解法ルートを瞬時に判断するための「戦略的思考力」へと昇華させましょう。


目次

1. 導関数の本質と3次・4次関数のグラフ描画

微分法の学習は、導関数 f'(x) の意味を正しく理解することから始まります。それは単なる計算結果ではなく、元の関数 f(x) の「変化の様子」をすべて教えてくれる設計図です。この章では、導関数を用いて関数のグラフを正確に描き、その性質を読み解くための基礎技術を固めます。

1.1. 微分係数と導関数 – 変化を捉える究極のツール

  • 微分法の根幹思想
    • 関数 y=f(x) において、微分係数 f'(a) は、グラフ上の点 (a, f(a)) における接線の傾きを表します。これは、x=a の瞬間における「変化の勢い」そのものです。
    • そして、この x の値を変動させたときの接線の傾きを、x の関数として表現したものが導関数 f'(x)です。
    • 微分法の学習において最も重要な原理は、以下の関係です。
      • f'(x) > 0 となる区間では、f(x) は単調に増加する。
      • f'(x) < 0 となる区間では、f(x) は単調に減少する。
      • f'(x) = 0 となる x の値は、f(x) が極値(極大値または極小値)をとる候補点となります。

1.2. 3次・4次関数のグラフ – パターン認識と極値の条件

共通テストでは、特に3次関数が頻繁に出題されます。そのグラフの概形は、導関数である2次関数の性質によって完全に決定されます。

  • 3次関数の形状と導関数(2次関数)の関係
    • 3次関数 $f(x) = ax^3 + bx^2 + cx + d$ ($a \ne 0$) を微分すると、導関数は $f'(x) = 3ax^2 + 2bx + c$という2次関数になります。$f(x)$ の増減は、この2次関数 $f'(x)$ の符号によって決まります。
    • $f(x)$ が極値を持つかどうかは、方程式 $f'(x) = 0$ の実数解の個数に依存します。この2次方程式の判別式を $D$ とすると、以下の3パターンに分類できます。
      1. D > 0 の場合$f'(x)=0$ は異なる2つの実数解$\alpha, \beta$ とする)を持ちます。$f'(x)$ のグラフ(放物線)はx軸と2点で交わり、符号が $(+ \to - \to +)$ または $(- \to + \to -)$ と変化します。これにより、$f(x)$ は極大値と極小値の両方を持つ、典型的なS字カーブを描きます。共通テストで最もよく目にするパターンです。
      2. D = 0 の場合$f'(x)=0$ は重解を持ちます。$f'(x)$ のグラフはx軸に接するため、符号は $(+ \to 0 \to +)$ または $(- \to 0 \to -)$ となります。つまり、$f'(x) \ge 0$ または $f'(x) \le 0$ が常に成り立ちます。このとき、$f(x)$ は**極値を持たず、単調に増加(または減少)**します。接線の傾きが0になる点は存在しますが、その前後で増減は変わりません(この点が変曲点となります)。
      3. D < 0 の場合$f'(x)=0$ は実数解を持ちません$f'(x)$ のグラフはx軸と交わらないため、常に $f'(x)>0$ または $f'(x)<0$ となります。この場合も、$f(x)$ は**極値を持たず、常に単調に増加(または減少)**します。
  • 共通テストにおける出題例 (2022年度本試験 第2問[1]より)
    • 問題:$f(x) = x^3 - 6ax + 16$ のグラフの概形について考える。
    • 思考プロセス:
      1. まず導関数を求めます。$f'(x) = 3x^2 - 6a = 3(x^2 - 2a)$
      2. $f'(x)=0$ の解の個数は、$a$ の符号によって決まります。
        • $a>0$ のとき:$x^2 = 2a$ となり、$x = \pm\sqrt{2a}$ という異なる2つの実数解を持つため、$f(x)$ は極値を持ちます。
        • $a=0$ のとき:$f'(x) = 3x^2 \ge 0$ となり、$x=0$ で重解を持つため、極値を持たず単調増加します。
        • $a<0$ のとき:$-2a > 0$ なので $x^2 - 2a > 0$、つまり常に $f'(x) > 0$ となります。この場合も極値を持たず単調増加します。
    • このように、パラメータ $a$ の値によって導関数の性質がどう変わるかを考察し、それに基づいて元の関数のグラフの概形を選択させる問題は、微分法の理解度を測る典型的な形式です。

1.3. 接線の方程式と曲線外の点からの挑戦

接線の方程式を求める問題は、微分の最も基本的な応用ですが、共通テストでは「曲線外の点から引いた接線」という形で、少し応用的な設定で出題されることがあります。

  • 接線の基本公式
    • 曲線 $y=f(x)$ 上の点 $(t, f(t))$ における接線の方程式は、傾きが $f'(t)$ であることから、$y – f(t) = f'(t)(x – t)$と表されます。これは絶対にマスターすべき公式です。
  • 応用パターン:曲線外の点 (p, q) から引いた接線
    • この問題の最も確実な解法は、接点を (t, f(t)) と設定することから始めるアルゴリズムです。
    • 解法アルゴリズム
      1. 接点を文字で置く:求めたい接線の、曲線 $y=f(x)$ 上の接点を $(t, f(t))$ と設定する。
      2. 接線の方程式を立式:この点における接線の方程式を $t$ を用いて表す。$y – f(t) = f'(t)(x – t)$
      3. 外部の点を代入:この接線は、曲線外の点 $(p, q)$ を通るはずなので、その座標を代入する。$q – f(t) = f'(t)(p – t)$
      4. t の方程式を解く:この式は $t$ に関する方程式です。これを解くことで、接点のx座標 $t$ の値が求まります。
      5. 解の個数と接線の本数:この $t$ の方程式の実数解の個数が、そのまま引ける接線の本数に対応します。求まった $t$ の値を接線の公式に戻せば、具体的な方程式が得られます。
    • 2022年度本試験 第1問[1] では、円に対して外部の点から接線を引く問題が出題されましたが、その中で「直線の方程式を円の方程式に代入し、判別式を利用する」という解法が提示されています 111111111。これは、接線問題が「重解を持つ」条件に帰着できるという点で、微分法のアプローチと本質的につながっています。太郎さんと花子さんの会話は、このように複数のアプローチが存在することを示唆しており、受験生には柔軟な発想が求められます。

2. 微分法の応用 – 方程式・不等式と最大・最小問題への戦略

導関数を用いてグラフの概形を描けるようになると、それを応用して方程式の実数解の個数を調べたり、関数の最大値・最小値を求めたりといった、より実践的な問題に取り組むことができます。

2.1. 方程式の実数解の個数 – グラフの共有点と定数分離法

微分法を用いると、複雑な高次方程式の実数解の個数を、グラフを用いて視覚的に解くことができます。

  • 基本原理:実数解 ⇔ グラフの共有点
    • 方程式 $f(x) = g(x)$ の実数解は、二つのグラフ $y=f(x)$ と $y=g(x)$ の共有点のx座標と一対一に対応します。したがって、実数解の個数を求める問題は、共有点の個数を数える問題に帰着します。
  • 最重要テクニック:定数分離法
    • 方程式に定数 a などが含まれている場合、$f(x) = a$ の形に変形し、$y=f(x)$ のグラフと、水平な直線 $y=a$ の共有点の個数を調べる方法を定数分離法と呼びます。これは共通テストで極めて有効な戦略です。
    • 解法アルゴリズム
      1. 定数を分離:与えられた方程式を $f(x) = a$ の形に変形する。$x$ を含む項をすべて左辺に、定数項を右辺に集めます。
      2. グラフを描画:左辺の関数 $y=f(x)$ の増減表を作成し、グラフの概形(特に極大値と極小値)を正確に描く。
      3. 水平線を動かす:直線 $y=a$ を上下に動かし、$y=f(x)$ のグラフとの共有点の個数がどのように変化するかを観察する。
    • 2022年度本試験 第2問[1](2) のケース
      • 問題:$f(x)=x^3-6ax+16$ ($a>0$) について、曲線 $y=f(x)$ と直線 $y=p$ が3個の共有点を持つような $p$ の値の範囲を求める 2
      • 思考プロセス:これはまさに定数分離法の考え方そのものです。$y=f(x)$ のグラフは $a>0$ のとき極大値と極小値を持つS字カーブになります。直線 $y=p$ がこのグラフと3点で交わるのは、$p$ の値が極小値と極大値の間にあるときです 3。したがって、$f(x)$ の極大値と極小値を求め、その間の範囲が答えとなります。

2.2. 最大・最小問題の完全攻略 -「定義域」と「極値」の位置関係

関数の最大値・最小値を求める問題は、定義域の存在によって複雑性が増します。極値が必ずしも最大値・最小値になるとは限らないため、網羅的な思考が求められます。

  • 最大・最小の候補点
    • 閉区間 $[a, b]$ における連続関数 $f(x)$ の最大値・最小値は、必ず以下のいずれかの点でとられます。
      1. 区間の両端$f(a)$ と $f(b)$
      2. 区間内の極値:区間 `$(a, b)“ に含まれる極大値・極小値
    • したがって、これらの候補点の値をすべて計算し、比較すれば最大値・最小値が求まります。
  • 共通テストの応用パターン:定義域が動く場合
    • 共通テストでは、$[t, t+1] のように、定義域そのものが変数を含む場合があります(2024年度本試験 第2問(2)参照 4)。この場合、定義域の位置と極値の位置関係によって、最大・最小をとる場所が変化するため、場合分けが必要になります。
    • 思考プロセス(例:$f(x)$ が $x=\alpha$ で極小、$x=\beta$ で極大の場合)
      1. 増減表の作成:まず、$f(x)$ の増減表を完成させ、グラフの全体像を把握する。
      2. 区間の位置で場合分け
        • 区間 $[t, t+1]$ が、極小点 $x=\alpha$ より完全に左にある場合($t+1 < \alpha$
        • 区間が極小点 $x=\alpha$ を含む場合($t \le \alpha \le t+1$
        • 区間が極小点と極大点の間にある場合($\alpha < t$ かつ $t+1 < \beta$
        • …というように、区間の位置と極値点の位置関係で場合を分類し、それぞれのケースで最大・最小が区間の端点 $f(t), f(t+1)$ でとられるのか、極値 $f(\alpha), f(\beta)$ でとられるのかを判断します。
    • 2024年度本試験 第2問(2) では、$[t, t+1] における最大値 $M(t)$ と最小値 $m(t)$ を考察させています 5。例えば、$f(x)$ がその区間で単調に増加しているなら $M(t)=f(t+1)$ かつ $m(t)=f(t)$ となります 6。このような条件を満たす $t$ の範囲を求める問題は、グラフの増減を正確に理解しているかを試す良問です。

2.3. 高次方程式と整式の除法 – 隠れた構造を見抜く

微分法の問題の中に、整式の除法や解と係数の関係といった代数的な要素が組み込まれることがあります。

  • 共役な解の性質
    • 係数がすべて実数であるような方程式 $P(x)=0$ が虚数解 $a+bi$ を持つならば、その共役な複素数 $a-bi$ も必ず解となります。
    • この性質は、2023年度本試験 第1問[1] で中心的なテーマとして扱われています。方程式 $P(x)=0$ が $1+\sqrt{2}i$を解に持つという情報から、$1-\sqrt{2}i$ も解であることが導かれます 7
    • 戦略的思考$1+\sqrt{2}i$ と $1-\sqrt{2}i$ を解に持つ2次方程式は、$\{x-(1+\sqrt{2}i)\}\{x-(1-\sqrt{2}i)\} = (x-1)^2 - (\sqrt{2}i)^2 = x^2-2x+1+2 = x^2-2x+3$ となります。
    • これは、元の多項式 $P(x)$ が、必ず $S(x)=x^2-2x+3$ で割り切れる(余りが0になる)ことを意味します 88882023年度本試験 第1問[1] の誘導は、まさにこの論理の流れに沿っています。$P(x)$ を $S(x)$ で割り、その余り $R(x)=mx+n$ が $R(x)=0$ となることから、未知の係数$k, l$ を決定させています 9999

2.4. 不等式の証明 – 関数の増減への帰着

一見複雑に見える不等式の証明問題も、微分法を用いて関数の最小値を評価する問題に帰着させることができます。

  • 証明のアルゴリズム
    • 目標:区間 $x \ge a$ において、不等式 $f(x) \ge g(x)$ を証明する。
    1. 差の関数を作る$h(x) = f(x) - g(x)$ とおく。目標は $x \ge a$ で $h(x) \ge 0$ を示すことに変わります。
    2. 増減を調べる:導関数 $h'(x)$ を求め、$x \ge a$ における $h(x)$ の増減表を作成する。
    3. 最小値を求める:増減表から、区間 $x \ge a$ における $h(x)$ の最小値を求める。
    4. 最小値の評価:もし (最小値) \ge 0 であれば、区間内のすべての $x$ に対して $h(x) \ge 0$ が成り立つため、元の不等式が証明されます。
    • この手法は、特に片方の関数が複雑でグラフを描きにくい場合に強力です。差をとることで関数が単純化され、増減を調べやすくなることが多々あります。

結論:Module 2の総括

本モジュールでは、微分法を共通テストで得点するための戦略的ツールとして分析しました。その核心は以下の3点に集約されます。

  1. 導関数は「グラフの設計図」$f'(x)$ の符号は $f(x)$ の増減を、$f'(x)=0$ の解は $f(x)$ の極値の候補を与えます。特に3次関数のグラフの概形が、その導関数である2次方程式の判別式によって3パターンに分類されることを構造的に理解することが不可欠です。
  2. 応用問題は「グラフの読み替え」:方程式の実数解の個数の問題は「グラフの共有点の個数」の問題へ、不等式の証明は「関数の最小値が0以上であること」の証明へと、問題をグラフの性質に「読み替える」視点が重要です。特に、定数分離法は強力な武器となります。
  3. 最大・最小問題は「候補点の網羅的探索」:関数の最大・最小値は、区間の両端と区間内の極値の中から探すのが鉄則です。共通テストで差がつくのは、定義域が `$[t, t+1]“ のように動く場合です。区間と極値の位置関係を冷静に場合分けし、それぞれの状況で最大・最小がどこで起こるかを正確に判断する能力が求められます。

微分法は、計算力だけでなく、論理的な思考力と、代数的な問題を幾何学的な視点で捉え直す柔軟性を要求する分野です。本モジュールで示した思考のアルゴリズムを過去問演習で繰り返し実践し、自分のものにしてください。そうすれば、微分法はあなたの最も信頼できる得点源となるはずです。

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