【共通テスト 数学 ②】Module 3: 積分法の計算技術と面積・体積への応用
本記事の目的と構成
本モジュールは、大学入学共通テスト「数学Ⅱ・B・C」の微分法に続く核心分野、積分法を戦略的に攻略し、得点力を最大化することを目的とします。微分法が関数の「瞬間的な変化(傾き)」を捉える技術であるならば、積分法は「変化の積み重ね(面積や体積)」を計算する技術です。この二つは表裏一体の関係にあり、その繋がりを深く理解することが、共通テスト特有の応用問題を解き明かす鍵となります。
共通テストにおける積分法の問題は、単なる計算練習では太刀打ちできません。積分区間に変数を含む関数の最大・最小問題、絶対値記号を含む関数の定積分、そして2曲線で囲まれた図形の面積計算など、いずれも積分の本質的な理解と、それを応用する思考力が問われます。特に、面積計算においては、計算量を劇的に削減する「1/6公式」などの知識が、時間との戦いにおいて決定的な差を生みます。
本稿では、まず第1章で、微分と積分の根幹的な関係である「微分積分の基本定理」を再確認し、積分で定義された関数をどのように扱えばよいかを明らかにします。続く第2章では、面積計算という積分法の最重要応用分野に焦点を当て、「上引く下の原則」から、絶対値付き関数の処理、そして1/6公式をはじめとする面積公式の戦略的活用法までを徹底的に解説します。このモジュールを通じて、積分計算を「作業」から「戦略」へと昇華させ、複雑な問題設定の中から最短の解答ルートを見つけ出すための強力な武器を身につけましょう。
1. 微積分学の基本定理 – 微分と積分の架け橋
積分法の学習は、それが単なる面積計算の道具ではなく、微分法の「逆演算」であるという構造を理解することから始まります。この二つを結びつけるのが「微分積分の基本定理」であり、共通テストの応用問題、特に積分で定義された関数の問題はこの定理の理解を前提として作られています。
1.1. 不定積分と定積分 – 計算体系の確立
- 不定積分と原始関数
- 関数
f(x)
に対して、微分するとf(x)
になる関数F(x)
のことを、f(x)
の原始関数と呼びます。 F'(x) = f(x)
が成り立つとき、f(x)
の不定積分は∫f(x)dx = F(x) + C
と定義されます(C
は積分定数)。定数項は微分すると0になるため、原始関数は無数に存在します。
- 関数
- 定積分の定義と意味
- f(x) の原始関数の一つを F(x) とするとき、a から b までの定積分は以下のように計算されます。$$\int_a^b f(x)dx = [F(x)]_a^b = F(b) – F(a)$$
- この値は、
y=f(x)
のグラフとx軸、そして2直線x=a
,x=b
で囲まれた部分の符号付き面積を表します。f(x)
がx軸より上にある部分は正、下にある部分は負として面積が計算されます。 2023年度追試験 第2問[2]
で出題された∫(1/5 * x + 3)dx
のような基本的な多項式関数の積分計算は、一切の迷いなく、迅速かつ正確に実行できることが大前提です。
1.2. 積分区間に変数を含む関数の微分
共通テストの数学Ⅱ・B・Cでは、「定積分で表された関数」の性質を問う問題が頻出します。これらの問題の突破口となるのが、微分積分の基本定理の核心部分です。
- 定理:
d/dx ∫[a, x] f(t)dt = f(x)
- これは「定数から変数
x
までf(t)
を積分した関数を、x
で微分すると、中の関数f(t)
のt
がx
に変わってそのまま出てくる」というルールです。 - この定理の本質は、
S(x) = ∫[a, x] f(t)dt
とおいたとき、S(x)
は「x
が微小量Δx
変化したときの面積の変化量」がf(x)Δx
に近似できること、すなわち面積の変化率S'(x)
がf(x)
に等しいことを意味します。
- これは「定数から変数
- 共通テストにおける戦略的活用法
2025年度新課程 第3問
や2025年度旧課程 第3問
では、F(x) = ∫[0, x] t(t-2)dt
という関数が登場します。この関数の極値を調べる問題は、一見すると積分計算が面倒に思えますが、この定理を知っていれば即座に次の思考に至ります。- 思考アルゴリズム
- 関数の分析:関数
$F(x)$
の極値を求めるには、導関数$F'(x)$
の符号変化を調べる必要がある。 - 基本定理の適用:
$F(x)$
は積分区間に変数x
を含むため、微分積分の基本定理が使える。$F'(x) = x(x-2)$
である。 - 問題の読み替え:「
$F(x)$
の極値を求める問題」は、「$F'(x) = x(x-2)$
の符号変化を調べる問題」に完全にすり替わった。 - 実行:
$F'(x) = 0$
となるのは$x=0, 2$
。増減表を作成すれば、$x=0$
で極大、$x=2$
で極小となることがわかります。極値そのものを求めるには、$F(0)
と$F(2)$
を実際に定積分して計算します。
- 関数の分析:関数
- このように、積分で定義された関数の問題は、まず微分してみることで、Module 2で扱った関数の増減や極値を求める問題へと還元されるのです。この「読み替え」ができるかどうかが、解答時間を大きく左右します。
2. 定積分の計算技術と面積計算への応用
積分法の最大の応用先は、図形の面積計算です。共通テストでは、単純な面積計算だけでなく、絶対値を含む関数や、計算を大幅に簡略化できる公式の戦略的な利用が問われます。
2.1. 2曲線で囲まれた面積 – 「上引く下」の絶対原則
- 面積計算の基本原理
- 区間 $[a, b] で常に $f(x) \ge g(x)$ であるとき、2曲線 $y=f(x), y=g(x)$ と2直線 $x=a, x=b$ で囲まれた図形の面積 S は、$$S = \int_a^b \{f(x) – g(x)\}dx$$で与えられます。これは、微小な長方形の面積 (f(x) – g(x))dx を、a から b まで足し合わせる(積分する)という考え方に基づいています。
- 重要なのは、常に「上の関数の式」から「下の関数の式」を引くという点です。
- 解法アルゴリズム
- グラフの概形を描く:与えられた関数のグラフを大まかに描き、どちらが上でどちらが下かを把握する。
- 交点のx座標を求める:
$f(x) = g(x)$
という方程式を解き、積分区間の端点となる交点のx座標$\alpha, \beta$
を求める。2022年度本試験 第2問[2]
では、$g(x)=h(x)$
を解くことで、積分区間が決定されます。 - 立式:面積
S
を$\int_\alpha^\beta (上の式 - 下の式) dx$
の形で立式する。 - 計算実行:定積分を計算する。
2.2. 絶対値を含む関数の定積分 – 区間分割の実行
$\int_a^b |f(x)|dx$
のような絶対値を含む定積分は、一見難しそうに見えますが、その正体は「x軸より下にある部分を折り返して面積を計算する」ことであり、区間分割によって必ず解くことができます。
- 絶対値の外し方と区間分割
- 絶対値記号を外すための基本は、中身の正負で場合分けすることです。
$f(x) \ge 0$
となる区間では、$|f(x)| = f(x)$
$f(x) < 0$
となる区間では、$|f(x)| = -f(x)$
- したがって、$\int_a^c |f(x)|dx$ を計算するには、まず $f(x)=0$ を解いて符号が変わる点 $b$ ($a<b<c$) を見つけ、積分区間を $[a, b] と $[b, c] に分割します。$$\int_a^c |f(x)|dx = \int_a^b |f(x)|dx + \int_b^c |f(x)|dx$$
- 絶対値記号を外すための基本は、中身の正負で場合分けすることです。
- 共通テストにおける出題例 (
2025年度新課程 第3問(2)
より)- 問題:
$G(x) = \int_0^x |t(t-2)|dt$
のグラフの概形を考える。 - 思考プロセス:
- 絶対値の中身の符号を調べる:
$t(t-2)$
は$0 \le t \le 2$
で$\le 0$
、$t \ge 2$
で$\ge 0$
となる。 - 区間を分割して
$G(x)$
を表現する:$0 \le x \le 2$
のとき:この区間では被積分関数は$-t(t-2)$
となる。よって$G(x) = \int_0^x \{-t(t-2)\}dt = -F(x)$
(ただし$F(x) = \int_0^x t(t-2)dt$
)。- $x > 2$ のとき:積分区間を $0$ から $2$ までと $2$ から $x$ までに分割する。$G(x) = \int_0^2 |t(t-2)|dt + \int_2^x |t(t-2)|dt = \int_0^2 \{-t(t-2)\}dt + \int_2^x t(t-2)dt$。これは $G(2) + \{F(x) – F(2)\} となり、$G(x)$ が $x=2$ を境に異なる式で表される区分関数であることがわかります。この誘導形式は、絶対値付き積分の本質的理解を問うものです。
- 絶対値の中身の符号を調べる:
- 問題:
2.3. 面積公式の戦略的活用 – 1/6公式とその仲間たち
特定の図形の面積計算は、定積分の結果が綺麗な公式で表されることが知られています。これらを使いこなすことは、共通テストにおける時間短縮の最大の鍵です。
- 1/6公式
- 対象:放物線
$y=ax^2+...$
と直線$y=mx+n$
で囲まれた部分の面積S
。 - 公式:交点のx座標を $\alpha, \beta (\alpha < \beta)$ とすると、$$S = \frac{|a|}{6}(\beta – \alpha)^3$$
- 戦略的意義:この公式の威力は絶大です。通常であれば、
$\int_\alpha^\beta \{ (mx+n) - (ax^2+...) \} dx$
を計算する必要がありますが、交点が$\alpha, \beta$
であることから被積分関数は$ -a(x-\alpha)(x-\beta) $
と因数分解できることを利用すると、この公式が導出されます。共通テストでは、この計算プロセスを毎回行う時間的余裕はなく、公式を適用できる形を瞬時に見抜き、計算をショートカットする能力が求められます。
- 対象:放物線
- 関連公式
- 2つの放物線で囲まれた面積:
$y=ax^2+...$
と$y=a'x^2+...$
で囲まれた部分の面積は$\frac{|a-a'|}{6}(\beta - \alpha)^3$
。 - 3次関数と接線で囲まれた面積:3次関数
$y=ax^3+...$
とその接線で囲まれた部分の面積は$\frac{|a|}{12}(\beta - \alpha)^4$
。 - これらの公式は、知っているだけで計算量が数分単位で変わる可能性があるため、必ず覚えておくべきです。
- 2つの放物線で囲まれた面積:
2.4. 偶関数・奇関数の性質 – 計算の簡略化
積分区間が $[-a, a]
のように原点に関して対称な場合、被積分関数の対称性を利用して計算を大幅に簡略化できます。
- 定義と性質
- 偶関数:
$f(-x) = f(x)$
が成り立つ関数($y$
軸対称)。例:$y=x^2, y=\cos x$
- 奇関数:
$f(-x) = -f(x)$
が成り立つ関数(原点対称)。例:$y=x^3, y=\sin x$
- 偶関数:
- 定積分への応用
$\int_{-a}^a (\text{偶関数}) dx = 2 \int_0^a (\text{偶関数}) dx$
$\int_{-a}^a (\text{奇関数}) dx = 0$
- 戦略:積分区間が
$[-a, a]
であることに気づいたら、即座に被積分関数を偶関数と奇関数の和に分解しましょう。例えば、$\int_{-1}^1 (x^3 + 3x^2 - 5x + 2)dx$
を計算する場合、$x^3$
と$-5x$
は奇関数なので積分すると0になります。したがって、計算すべきは$2\int_0^1 (3x^2+2)dx$
だけであり、計算ミスを大幅に減らすことができます。
結論:Module 3の総括
本モジュールでは、積分法を共通テストで得点するための計算技術と応用戦術を解説しました。微分法が関数の「勢い」を捉えるツールであるのに対し、積分法はその「蓄積」を捉えるツールであり、両者は微分積分の基本定理によって固く結びついています。この関係を理解することが、積分で定義された複雑な関数を解析する第一歩です。
面積計算においては、以下の思考プロセスが不可欠です。
- 立式の原則:まず図形の概形を把握し、「上の関数から下の関数を引く」という絶対原則に従って積分を立式する。絶対値記号が出てきたら、中身の正負に応じて区間を分割する。
- 計算の効率化:立式した積分が、1/6公式などの面積公式を適用できる形でないかを常に確認する。積分区間が原点対称であれば、偶関数・奇関数の性質を利用して計算を簡略化できないか検討する。
- 正確な計算力:最終的には、基本的な多項式関数の定積分を迅速かつミスなく実行する計算力が土台となります。
共通テストの積分問題は、これらの原理と技術を組み合わせ、誘導形式の中で段階的に解かせる構成になっています。一つ一つの計算を正確に行い、問題全体の流れを見失わず、使えるショートカットは最大限に活用する。この総合的な戦略こそが、積分法を得点源に変えるための王道です。