【共通テスト 数学 ②】Module 4: 数列のパターン認識と漸化式マスター
本記事の目的と構成
本モジュールは、大学入学共通テスト「数学Ⅱ・B・C」において、思考の柔軟性と論理的構成力が最も試される分野の一つ、数列を完全攻略するための戦略的アプローチを提示します。数列の問題は、単に公式を暗記しているだけでは対応できない、奥深いパターン認識能力を要求します。特に、項と項の間の関係性を記述した漸化式は、この分野の核心であり、その多様なパターンをいかに迅速かつ正確に見抜き、適切な解法アルゴリズムを適用できるかが、得点を大きく左右します。
共通テストでは、数列の知識が、図形(格子点)、確率(状態推移)、あるいは他の関数分野と融合した、長文の誘導形式で出題されるのが常です。これらの問題に対応するためには、個々の解法を知っているだけでなく、問題の構造を読み解き、与えられた情報を次々と利用して結論へと至る「思考の連鎖」を自ら構築する力が必要です。
本稿では、まず第1章で、すべての数列の基礎となる等差・等比数列、そしてその応用である階差数列とΣ計算の技術を再確認し、計算の土台を固めます。第2章では、本分野の最重要テーマである漸化式に焦点を当て、最も基本的な$a_{n+1}=pa_n+q$
型から、共通テストで頻出する連立漸化式まで、その解法パターンを体系的に解説します。最後に第3章では、格子点の個数問題や確率漸化式といった特殊な応用問題へのアプローチ、そして数列分野の論理の根幹をなす数学的帰納法の使い方を、共通テストの出題形式に即して詳述します。このモジュールを通じて、数列問題の背後にある「規則性」を見抜く眼を養い、どんな応用問題にも対応できる強固な思考体系を築き上げましょう。
1. 数列の基本構造と和の計算
数列の問題を解くためのすべての基本は、最も単純な構造を持つ等差数列と等比数列、そしてそれらの和を計算するΣ(シグマ)記法に習熟することです。共通テストでは、これらの基本概念がより複雑な数列を解析するための部品として機能します。
1.1. 等差数列・等比数列 – すべての基本
- 構造の理解
- 等差数列:一定の数(公差
$d$
)を「加え続ける」数列。一般項$a_n = a_1 + (n-1)d$
、和の公式$S_n = \frac{n}{2}(a_1 + a_n) = \frac{n}{2}\{2a_1 + (n-1)d\}$
。 - 等比数列:一定の数(公比
$r$
)を「掛け続ける」数列。一般項$a_n = a_1 r^{n-1}$
、和の公式$S_n = \frac{a_1(r^n - 1)}{r-1}$
($r \ne 1$
)。
- 等差数列:一定の数(公差
- 戦略的視点
- これらの公式は無意識レベルで使えることが大前提です。重要なのは、与えられた漸化式がこれらの基本形に帰着できないかを常に考えることです。例えば、
$a_{n+1} - a_n = (\text{定数})$
ならば等差数列、$\frac{a_{n+1}}{a_n} = (\text{定数})$
ならば等比数列です。
- これらの公式は無意識レベルで使えることが大前提です。重要なのは、与えられた漸化式がこれらの基本形に帰着できないかを常に考えることです。例えば、
1.2. 階差数列とΣ計算 – 変化のパターンを読む
一見して規則が不明な数列も、その「変化の仕方」に注目することで構造が見えることがあります。
- 階差数列の概念
- 数列
$\{a_n\}$
の隣り合う2項の差$b_n = a_{n+1} - a_n$
を項とする数列$\{b_n\}$
を、$\{a_n\}$
の階差数列と呼びます。 - $\{b_n\}$ が等差数列や等比数列など、和が計算できる数列であれば、元の数列 $\{a_n\}$ の一般項は、$n \ge 2$ のとき、$$a_n = a_1 + \sum_{k=1}^{n-1} b_k$$という公式で求めることができます。$n \ge 2$ の条件と、$n=1$ の場合を別途確認することを絶対に忘れてはいけません。
- 数列
- 共通テストにおける活用例 (
2023年度 追・再試験 第4問
より)- 問題:漸化式
$a_{n+1} = a_n + 4n + 2$
の一般項を求める。 - 思考プロセス:
- 構造の認識:この式は
$a_{n+1} - a_n = 4n + 2$
と変形できます。これは、階差数列$b_n$
が$b_n = 4n+2$
という、初項$6$
、公差$4$
の等差数列であることを示しています。 - 公式の適用:$a_1=1$(問題文で与えられる)を用いて、$n \ge 2$ での一般項を計算します。$$a_n = a_1 + \sum_{k=1}^{n-1} (4k+2)$$
- Σ計算の実行:$$a_n = 1 + 4 \sum_{k=1}^{n-1} k + \sum_{k=1}^{n-1} 2 = 1 + 4 \cdot \frac{1}{2}(n-1)n + 2(n-1)$$$$= 1 + 2n(n-1) + 2n-2 = 2n^2 – 1$$
$n=1$
の検証:求めた式に$n=1$
を代入すると$a_1 = 2(1)^2 - 1 = 1$
となり、与えられた初項と一致します。よって、この式はすべての自然数$n$
で成り立ちます。
- 構造の認識:この式は
- この問題のように、共通テストでは階差数列の考え方が誘導形式で問われることが多く、Σの計算能力が直接的に得点に結びつきます。
- 問題:漸化式
2. 漸化式の戦略的解法
漸化式は、その形によって解法がほぼ決まっています。問題は、与えられた漸化式がどのパターンに該当するのかを瞬時に見抜き、正しいアルゴリズムを適用できるかです。
2.1. 特性方程式 – $a_{n+1}=pa_n+q$
型の高速処理
これは最も基本的かつ重要な漸化式のパターンです。
- 解法のアルゴリズム
- パターン認識:
$a_{n+1} = pa_n + q$
の形であることを確認する。 - 特性方程式の利用:漸化式の
$a_{n+1}$
と$a_n$
を$α$
に置き換えた方程式$\alpha = p\alpha + q$
を解き、不動点$α$
を求める。 - 等比数列への変形:元の漸化式から $\alpha = p\alpha + q$ を辺々引くと、$a_{n+1} – \alpha = p(a_n – \alpha)$という形に変形できます。
- 一般項の導出:この式は、数列
$\{a_n - \alpha\}$
が、初項$a_1 - \alpha$
、公比$p$
の等比数列であることを示しています。したがって、$a_n - \alpha = (a_1 - \alpha)p^{n-1}$
となり、移項すれば$a_n$
の一般項が求まります。
- パターン認識:
- 共通テストにおける活用例 (
2025年度 旧課程 第6問(2)
より)- 問題:
$b_1 = -3, b_{n+1} = -\frac{1}{2}b_n - 9$
- 思考プロセス:
$p = -1/2, q = -9$
の典型的なパターンです。- 特性方程式
$\alpha = -\frac{1}{2}\alpha - 9$
を解きます。$\frac{3}{2}\alpha = -9$
より$\alpha = -6$
。 - 漸化式は
$b_{n+1} - (-6) = -\frac{1}{2}(b_n - (-6))$
、すなわち$b_{n+1} + 6 = -\frac{1}{2}(b_n + 6)$
と変形できます。 - 数列
$\{b_n+6\}$
は、初項$b_1+6 = -3+6=3$
、公比$-1/2$
の等比数列です。 - よって
$b_n+6 = 3(-\frac{1}{2})^{n-1}$
となり、一般項は$b_n = 3(-\frac{1}{2})^{n-1} - 6$
と求まります。問題の空欄もこの形に対応しています 1111。
- 問題:
2.2. 連立漸化式と応用パターン – 思考の連鎖を追う
共通テストでは、複数の数列が絡み合う連立漸化式が、図形や確率などの応用問題の形で出題されることがあります。
- 解法の基本戦略
- 和と差をとる:
$a_{n+1} = pa_n + qb_n$
,$b_{n+1} = ra_n + sb_n$
のような形の場合、$a_{n+1} + \lambda b_{n+1}$
を計算し、$a_{n+1} + \lambda b_{n+1} = k(a_n + \lambda b_n)$
という等比数列の形になるような$\lambda, k$
を見つける方法が有効です。 - 一文字消去:片方の式を変形してもう一方に代入し、一つの数列に関する3項間漸化式に帰着させる方法もありますが、計算が複雑になりがちです。
- 誘導に乗る:共通テストでは、多くの場合、複雑な連立漸化式を解くためのヒントが問題文中に散りばめられています。
2022年度本試験 第4問
はその典型です。
- 和と差をとる:
- 共通テストにおける活用例 (
2022年度本試験 第4問
より)- 問題設定:歩行者と自転車の動きをモデル化し、
$n$
回目の出発時刻$a_n$
とその時の歩行者の位置$b_n$
の関係を調べる。 - 思考プロセス:
- 状況のモデル化:問題文の記述から、
$(n+1)$
回目の事象を$n$
回目の量($a_n, b_n$
)で表すことを目指します。 - 誘導の読解:問題では、まず「
$n$
回目に自転車が出発してから次に追いつくまでの時刻と位置」を$a_n, b_n$
で表させます 2。これにより、$a_{n+1}$
と$b_{n+1}$
を$a_n, b_n$
で表すための部品が揃います。 - 漸化式の立式:誘導に従って計算すると、
$b_{n+1} = 3b_n + 2$
という$b_n$
だけの単純な漸化式と、$a_{n+1} = a_n + 3b_n + 2$
という$a_n$
が$b_n$
に依存する漸化式が得られます 3。 - 段階的解法:まず、簡単な
$b_n$
の漸化式を特性方程式で解きます。次に、得られた$b_n$
の一般項を$a_n$
の漸化式に代入します。すると、$a_{n+1} - a_n = (\text{nの式})$
という階差数列のパターンに帰着します。
- 状況のモデル化:問題文の記述から、
- この問題から学ぶべきは、複雑な設定であっても、問題の誘導に従えば解けるように設計されているという事実です。未知の数列が複数出てきても焦らず、まずは一つの数列の一般項を求めることに集中し、それを次のステップの足がかりにする、という思考の流れが重要です。
- 問題設定:歩行者と自転車の動きをモデル化し、
3. 特殊な数列と証明法
基本的な漸化式の解法に加え、共通テストでは、格子点の個数問題や確率漸化式といった、数列の考え方を応用する問題や、数学的帰納法による証明の論理を問う問題が出題されます。
3.1. 格子点と群数列 – 「規則性」の発見とモデル化
- 格子点問題の数列的アプローチ (
2025年度 旧課程追試験 第6問
より)- 問題:ある領域内の格子点(x, y座標がともに整数である点)の個数を求める。
- 解法アルゴリズム
- 基準の固定:
$x=k$
(または$y=k$
) として、直線上にある格子点の個数を数える。 - 個数の数列化:
$x=k$
のときの格子点の個数を$a_k$
とする。この$a_k$
が$k$
の簡単な式(等差数列や等比数列など)で表せないか考察する。2025年度旧課程追試験
では、領域が$y=2^x$
と直線$x=n+1$
などで囲まれており、直線$x=k$
上の格子点の個数は$2^k-1$
個となります 4444。 - 和の計算:求める総数は、
$a_k$
を適切な範囲の$k$
で合計したもの、すなわち$\sum a_k$
となります。最終的にはΣ計算に帰着します。
- 基準の固定:
- 群数列の攻略法
- 群数列の問題は、その複雑な見た目に惑わされず、以下の4つの要素を特定することに集中すれば必ず解けます。
- 第
$k$
群の項数 - 第
$k$
群の最初の項(または最後の項)の形 - 第
$k$
群までの総項数 - 与えられた項が第何群の何番目の項か
- 第
- これらの要素を一つずつ特定していくことで、どんな複雑な群数列でも構造を明らかにできます。
- 群数列の問題は、その複雑な見た目に惑わされず、以下の4つの要素を特定することに集中すれば必ず解けます。
3.2. 確率漸化式 – 状態推移のモデル化
- 状態推移の図示と立式
$n$
回目の試行後にある状態Aである確率を$p_n$
とするとき、$(n+1)$
回目に状態Aになる確率$p_{n+1}$
を考える問題です。- 思考プロセス
- 状態の特定:問題で区別されている状態をすべてリストアップする。(例:状態A「晴れ」、状態B「晴れ以外」)
- 推移の矢印を描く:
$n$
回目の各状態から、$(n+1)$
回目の各状態への推移とその確率を矢印で図示する(状態推移図)。 $p_{n+1}$
を$p_n$
で表す:$(n+1)$
回目に状態Aになるのは、- 「
$n$
回目に状態Aであり、次にAを維持する」場合 - 「$n$ 回目に状態Aでなく(確率 $1-p_n$)、次にAへ推移する」場合の和で表されます。これにより、$p_{n+1} = (\text{確率}) \times p_n + (\text{確率}) \times (1-p_n)$ という形の漸化式が得られ、これは $a_{n+1}=pa_n+q$ 型に帰着します。
- 「
3.3. 数学的帰納法の論理と記述
数学的帰納法は、すべての自然数 $n$
について命題 $P(n)$
が成り立つことを証明するための強力な論理ツールです。
- 証明の2ステップ
- [I] 基礎段階:
$n=1$
のとき$P(1)$
が成り立つことを示す。 - [II] 帰納的段階:
$n=k$
のときに$P(k)`` が成り立つと**仮定**し、その仮定を用いて
n=k+1のときにも
$P(k+1)“ が成り立つことを証明する。
- [I] 基礎段階:
- 共通テストにおける役割 (
2025年度 旧課程 第6問(3)
より)- 共通テストでは、証明をゼロから書かせることは稀ですが、その論理構造を理解しているかを問う問題が出題されます。
2025年度旧課程 第6問(3)
では、「命題Aが真であることを証明するには、何を示せばよいか」という設問があります 555555555。選択肢の中には、帰納法の[II]のステップ、すなわち「$n=k$
での成立を仮定して$n=k+1$
での成立を示す」という論理そのものが含まれており、これを選ぶことが求められます 6。- これは、証明の「手続き」だけでなく、「なぜその手続きで証明されたことになるのか」という論理の根幹を理解しているかを試す問題と言えます。
結論:Module 4の総括
本モジュールでは、数列分野を攻略するためのパターン認識と戦略的解法を詳述しました。成功への鍵は、以下の思考体系を確立することです。
- パターンの瞬時の認識:与えられた数列や漸化式が、等差・等比・階差といった基本パターンのどれに該当するか、あるいは
$a_{n+1}=pa_n+q$
型のような典型的な漸化式であるかを瞬時に見抜く。 - 解法アルゴリズムの適用:認識したパターンに対応する、確立された解法(階差数列の和の公式、特性方程式など)を迅速かつ正確に適用する。
- 応用問題のモデル化:格子点、確率、図形の移動といった一見複雑な問題設定を、数列や漸化式という数学の言葉に「翻訳」し、単純なモデルに落とし込む。
- 誘導構造の活用:共通テスト特有の長い誘導問題では、各小問が次の小問のヒントになっていることを強く意識し、思考の連鎖を断ち切らない。
数列は、思考の訓練に最適な分野です。様々なパターンの問題を解き、その背後にある共通の構造を見抜く練習を積むことで、未知の問題にも対応できる強固な論理的思考力が養われます。本モジュールで示した戦略を武器に、数列を得意分野へと変えていきましょう。