【基礎 化学(理論)】Module 13:電池と電気分解
本モジュールの目的と構成
Module 12では、化学反応の根底に流れる「電子の移動」、すなわち酸化還元反応の理論を探求しました。本モジュールでは、その理論を現実世界で最も重要な応用分野の一つである「電気化学 (Electrochemistry)」へと展開します。電気化学は、化学エネルギーと電気エネルギーという、二つの異なる形態のエネルギーが相互に変換される界面を扱う学問分野です。その探求は、二つの対照的なプロセスに大別されます。一つは、物質が持つ化学エネルギーを電気エネルギーとして取り出す「電池」。もう一つは、外部から電気エネルギーを供給することで、通常は起こらない化学反応を強制的に引き起こす「電気分解」です。
このモジュールは、酸化還元反応という一つの原理が、どのようにして私たちの生活を支える携帯電話のバッテリーや自動車のエンジン始動、さらには金属の精錬やめっき技術といった、現代文明に不可欠なテクノロジーを生み出しているのかを解き明かすことを目的としています。前半では電池の仕組みを、後半では電気分解の原理と応用を、体系的に学びます。
このモジュールは、化学エネルギーと電気エネルギーの相互変換という壮大なテーマを、以下の論理的なステップで解き明かしていきます。
- 電池の基本原理: まず、自発的に進行する酸化還元反応が持つ化学エネルギーを、どのようにして電気エネルギーに変換するのか、「電池」の根本的な動作原理を学びます。
- ダニエル電池の構造と反応: 電池の構造と機能を理解するための原型である「ダニエル電池」を解剖し、負極と正極で起こる酸化・還元反応、そして回路を完成させる塩橋の役割を詳しく見ていきます。
- 標準電極電位と起電力: 電池がどれだけの電圧を生み出すことができるのか(起電力)を、定量的に予測するための「標準電極電位」という概念を導入します。これは、イオン化傾向を数値化したものです。
- 実用電池の世界: 理論モデルから現実の製品へ目を向け、私たちの身近にある「マンガン乾電池」や、自動車に搭載される充電可能な「鉛蓄電池」の内部で、どのような化学反応が起こっているのかを探ります。
- 未来の電池、燃料電池: 環境に優しい次世代のエネルギー源として期待される「燃料電池」について、その原理と、なぜ水しか排出しないクリーンな発電が可能なのか、その特徴を学びます。
- 電気分解の基本原理: 電池とは逆に、電気エネルギーを使って化学変化を引き起こす「電気分解」の原理を学びます。電源との接続によって決まる陽極・陰極の定義と、そこで起こる反応を理解します。
- ファラデーの法則: 電気分解における物質変化を定量的に扱うための基本法則、「ファラデーの法則」を学びます。流した電気の量と、生成する物質の量との間の、厳密な比例関係を計算するスキルを習得します。
- 水溶液の電気分解(1)反応の優先順位: 水溶液の電気分解において、電極で反応する候補が複数ある場合(イオンと水分子)、どのようなルールで実際に反応する物質が決まるのか、その「反応の優先順位」を学びます。
- 水溶液の電気分解(2)反応の予測: 上記の優先順位ルールを適用して、様々な電解質水溶液と電極の組み合わせにおいて、陽極と陰極でどのような物質が生成するのかを論理的に予測する能力を養います。
- 電気分解の工業的応用: 最後に、電気分解が銅の純度を高める「電気精錬」や、物体の表面に金属の膜を形成する「電気めっき」といった、重要な工業プロセスにどのように応用されているか、その具体例を見ていきます。
このモジュールを完遂したとき、皆さんは化学と電気という二つの世界を結ぶ架け橋を渡り、エネルギー変換という現代社会の根幹をなす技術の化学的基盤を、深く理解していることでしょう。
1. 電池の原理:化学エネルギーから電気エネルギーへ
酸化還元反応は、電子がある物質から別の物質へ移動するプロセスです。亜鉛板を硫酸銅(II)水溶液に浸すと、亜鉛が溶けて銅が析出する反応 Zn + Cu²⁺ → Zn²⁺ + Cu
が自発的に起こります。このとき、亜鉛原子から銅(II)イオンへと電子が直接移動し、反応によって放出されるエネルギーは、主に熱として失われます。
もし、この電子の移動を、直接手渡しさせるのではなく、外部の導線を通って遠回りさせることができれば、その電子の流れ、すなわち「電流」として取り出すことができるのではないか。この着想こそが、「電池 (Battery / Voltaic Cell)」の根本原理です。
1.1. 化学エネルギーと電気エネルギー
- 化学エネルギー: 物質の化学結合の形で内部に蓄えられているエネルギー。反応物と生成物の化学エネルギーの差が、反応熱 (\(\Delta H\)) として放出または吸収されます。
- 電気エネルギー: 電子の流れ(電流)が持つエネルギー。仕事をする能力があります。
電池とは、自発的に進行する酸化還元反応が持つ化学エネルギーを、電気エネルギーに変換する装置と定義できます。
1.2. 酸化還元反応の空間的分離
電池が機能するための核心的なアイデアは、酸化反応が起こる場所と、還元反応が起こる場所を、空間的に分離することにあります。
- 酸化反応: ある物質(還元剤)が電子を失う反応。
- 還元反応: 別の物質(酸化剤)が電子を受け取る反応。
これら二つの半反応を別々の容器(半電池, half-cell)で行い、両者を外部導線で結びます。すると、
- 還元剤は、放出した電子を、直接酸化剤に渡すことができません。
- 電子は、唯一の通り道である外部導線を通って、酸化反応の場から還元反応の場へと移動せざるを得なくなります。
- この導線中の電子の流れが、モーターを回したり、電球を光らせたりする「電気」として利用できるのです。
1.3. 電池の必須構成要素
この原理を実現するため、化学電池は一般的に以下の要素から構成されます。
- 電極 (Electrode): 酸化反応または還元反応が起こる、導電性の物質(通常は金属や炭素棒)。
- 負極 (Anode / Negative Electrode): 酸化反応が起こる電極。電子を放出する「源」となるため、負(マイナス)の極となります。
- 正極 (Cathode / Positive Electrode): 還元反応が起こる電極。電子が流れ込んでくる「終着点」となるため、正(プラス)の極となります。
- 電解質 (Electrolyte): イオンを含み、電気を通すことができる溶液またはペースト。電極での反応によって生じるイオンの移動を担い、回路全体を完成させます。
- 外部回路 (External Circuit): 負極と正極を繋ぐ導線。電子が移動する経路です。
記憶の補助:
- 酸化 (Oxidation) とアノード (Anode) は、どちらも母音 (O, A) で始まる。
- 還元 (Reduction) とカソード (Cathode) は、どちらも子音 (R, C) で始まる。
自発的な酸化還元反応という化学的なポテンシャルを、電子の「遠回り」という物理的な仕掛けによって電気エネルギーに変換する。これが、あらゆる電池に共通する、エレガントで強力な基本原理です。
2. ダニエル電池の構造と各極での反応
電池の基本原理を具体的に理解するための、最も優れた教育的モデルが「ダニエル電池」です。1836年にイギリスの化学者ジョン・フレデリック・ダニエルによって発明されたこの電池は、安定した電圧を長時間供給できる、当時としては画期的なものでした。その巧妙な構造を解剖することで、負極、正極、そして二つの半電池を繋ぐ塩橋(または素焼き板)が、それぞれどのような役割を果たしているのかを明確に理解することができます。
2.1. ダニエル電池の構造
典型的なダニエル電池は、以下の要素から構成されます。
- 負極側の半電池:
- 電極: 亜鉛 (Zn) 板
- 電解質溶液: 硫酸亜鉛 (ZnSO₄) 水溶液
- 正極側の半電池:
- 電極: 銅 (Cu) 板
- 電解質溶液: 硫酸銅(II) (CuSO₄) 水溶液
- 仕切り:
- 素焼き板または塩橋(えんきょう): 二つの溶液がすぐに混ざり合うのを防ぎつつ、イオンが移動できるようにして、回路を完成させるための仕切り。
これら二つの電極が、外部導線で豆電球などを介して接続されています。
この構造の根底にあるのは、金属のイオン化傾向が Zn > Cu であるという事実です。
2.2. 各極で起こる反応
2.2.1. 負極(アノード)での反応:酸化
- 場所: イオン化傾向の大きい亜鉛 (Zn) 板。
- 現象: 亜鉛原子 (Zn) は、銅原子 (Cu) よりも電子を失って陽イオンになりやすい性質を持っています。そのため、亜鉛板の表面で、亜鉛原子が2個の電子を放出し、亜鉛イオン (Zn²⁺) として硫酸亜鉛水溶液中に溶け出します。
- 反応の種類: 電子を失う酸化反応。
- 半反応式:[ \boldsymbol{Zn \rightarrow Zn^{2+} + 2e^-} ]
- 電極の名称: 電子を放出する源なので、負極です。
2.2.2. 正極(カソード)での反応:還元
- 場所: イオン化傾向の小さい銅 (Cu) 板。
- 現象: 負極で放出された電子が、外部導線を通って銅板へと流れてきます。銅板の表面では、硫酸銅(II)水溶液中に豊富に存在する銅(II)イオン (Cu²⁺) が、この流れ込んできた電子を受け取り、中性の銅原子 (Cu) として銅板上に析出(付着)します。
- 反応の種類: 電子を受け取る還元反応。
- 半反応式:[ \boldsymbol{Cu^{2+} + 2e^- \rightarrow Cu} ]
- 電極の名称: 電子が流れ込んでくる行き先なので、正極です。
2.3. 電池全体の反応と電子の流れ
- 全体の反応式:二つの半反応式を足し合わせ、電子 e⁻ を消去すると、電池全体で起こっている酸化還元反応が得られます。[ \boldsymbol{Zn + Cu^{2+} \rightarrow Zn^{2+} + Cu} ]
- 電子の流れ: 電子は、負極(Zn)から外部導線を通って、正極(Cu)へと流れます。
- 電流の向き: 電流の向きは、電子の流れと逆と定義されているため、正極(Cu)から負極(Zn)へ流れます。
2.4. 素焼き板・塩橋の重要な役割
もし、二つの半電池が電気的に完全に隔離されていたら、どうなるでしょうか。
- 負極側: Zn²⁺ がどんどん生成されるため、溶液が正に帯電してきます。
- 正極側: Cu²⁺ が消費されるため、対イオンである SO₄²⁻ が残り、溶液が負に帯電してきます。この電荷の偏りが生じると、負極からはそれ以上、正に帯電した Zn²⁺ は溶け出しにくくなり、正極では負に帯電した溶液が電子を引きつけにくくなり、電子の流れはすぐに止まってしまいます。
素焼き板や塩橋(KCl などの塩化合物を寒天で固めたもの)は、この電荷の偏りを解消し、回路を完成させるために存在します。
- 機能: 溶液同士がすぐに混ざるのを防ぎながら、イオンの移動を可能にします。
- イオンの移動:
- 負極側で過剰になった正電荷(Zn²⁺)を中和するため、塩橋内の陰イオン (Cl⁻など) が負極側へ移動します。
- 正極側で過剰になった負電荷(SO₄²⁻)を中和するため、塩橋内の陽イオン (K⁺など) が正極側へ移動します。このイオンの移動によって、両方の半電池の電気的中性が保たれ、電子の流れが継続するのです。
ダニエル電池は、酸化と還元、電子の流れ、イオンの流れという、電池が機能するためのすべての要素を、明確な形で示してくれる、完璧なモデルと言えます。
3. 標準電極電位と電池の起電力
ダニエル電池では、亜鉛が電子を放出し、銅(II)イオンが電子を受け取ることで、電子の流れ(電流)が生まれました。この電子を押し出す「力」の強さは、電池の起電力 (Electromotive Force, EMF)、いわゆる電圧 (Voltage) として測定されます。この起電力は、二つの電極の「電子を放出・受容する能力の差」によって決まります。この能力を、客観的な数値で定量的に表現するために導入されたのが、「標準電極電位」という概念です。
3.1. 電極電位とは
電極電位とは、ある半電池(電極と電解質溶液の組み合わせ)が、電子を放出または受け取る能力の強さを、電位(電圧)として表したものです。
- 電極電位がより負(または小さい)であるほど、その電極は電子を放出しやすく(酸化されやすく)、還元剤としての能力が強いことを意味します。
- 電極電位がより正(または大きい)であるほど、その電極は電子を受け取りやすく(還元されやすく)、酸化剤としての能力が強いことを意味します。
3.2. 基準電極:標準水素電極 (SHE)
ある電極の絶対的な電位を測定することは不可能です。電圧は、常に二点間の「電位差」としてしか測定できません。そこで、すべての電極電位を測定するための、世界共通の「基準点(ゼロ点)」が必要となります。
その基準として国際的に採用されているのが、「標準水素電極 (Standard Hydrogen Electrode, SHE)」です。
- 構造: 1.0 mol/L の H⁺ 水溶液(強酸)に、白金黒を付けた白金板を浸し、1.0 atm (1.013×10⁵ Pa) の水素ガス (H₂) を吹き込んだ電極。
- 電極反応:
2H⁺(aq, 1M) + 2e⁻ ⇌ H₂(g, 1atm)
- 定義: この標準水素電極の電極電位を、すべての温度において、正確に 0.00 V と定義する。
3.3. 標準電極電位 (E⁰)
標準電極電位 (E⁰) とは、ある半電池を、標準水素電極と組み合わせたときに測定される、その半電池の電極電位のことです。この測定は、以下の標準状態で行われます。
- 温度: 25℃ (298 K)
- 濃度: 電解質水溶液中のイオンの濃度が 1.0 mol/L
- 圧力: 気体が関わる場合は、その分圧が 1.0 atm (1.013×10⁵ Pa)
測定の約束事:
電極電位は、常に還元反応の形で表記され、その起こりやすさを示します。
酸化体 + ne⁻ → 還元体
この反応の標準電極電位が E⁰ [V] です。
標準電極電位の例 (25℃):
半反応式(還元反応) | 標準電極電位 (E⁰) [V] | イオン化傾向 |
K⁺ + e⁻ → K | -2.93 | 大 |
Zn²⁺ + 2e⁻ → Zn | -0.76 | ↑ |
Fe²⁺ + 2e⁻ → Fe | -0.44 | |
2H⁺ + 2e⁻ → H₂ | 0.00 (基準) | |
Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu | +0.34 | |
Ag⁺ + e⁻ → Ag | +0.80 | |
Au³⁺ + 3e⁻ → Au | +1.50 | 小 |
この表は、金属のイオン化列を、より定量的に表現したものに他なりません。
- E⁰ が負に大きいほど、逆反応(金属 → 金属イオン + e⁻)が起こりやすく、イオン化傾向が大きいことを示します。
- E⁰ が正に大きいほど、正反応(金属イオン + e⁻ → 金属)が起こりやすく、イオン化傾向が小さいことを示します。
3.4. 電池の起電力 (EMF) の計算
電池の起電力は、二つの半電池の電極電位の「差」として計算されます。
電池は、自発的に反応が進む組み合わせなので、
- 負極には、より標準電極電位が**小さい(負の)**金属(イオン化傾向大)がなります。
- 正極には、より標準電極電位が**大きい(正の)**金属(イオン化傾向小)がなります。
電池の起電力 \(E_{cell}\) は、
\[
\boldsymbol{E_{cell} = (\text{正極の標準電極電位}) – (\text{負極の標準電極電位})}
\]\[
\boldsymbol{E_{cell} = E_{cathode} – E_{anode}}
\]となります。(常に「大きい方」-「小さい方」で、起電力は正の値になります。)
例:ダニエル電池の起電力
- 正極 (Cathode):
Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu
(E⁰ = +0.34 V) - 負極 (Anode):
Zn²⁺ + 2e⁻ → Zn
(E⁰ = -0.76 V)
[ E_{cell} = E_{Cu} – E_{Zn} = (+0.34) – (-0.76) = 0.34 + 0.76 = \boldsymbol{1.10 \text{ V}} ]
したがって、標準状態におけるダニエル電池の起電力は 1.10 V であることが、理論的に計算できます。
標準電極電位は、無数の酸化還元反応の組み合わせの中から、どの反応が自発的に進行し、その際にどれだけの電気エネルギーを取り出せる可能性があるのかを、普遍的な尺度で予測させてくれる、電気化学における羅針盤のような存在なのです。
4. 実用電池:マンガン乾電池、鉛蓄電池
ダニエル電池のような液体の電解質を用いる電池(湿電池)は、その原理を理解する上では優れていますが、持ち運びには不便です。私たちの身の回りで使われている電池の多くは、電解質をペースト状にするなどして、持ち運びを容易にした「乾電池」や、外部から電気を供給することで繰り返し使える「二次電池(蓄電池)」です。ここでは、それらの代表例であるマンガン乾電池と鉛蓄電池について、その構造と内部で起こる化学反応を見ていきます。
4.1. 一次電池と二次電池
- 一次電池: 放電(化学エネルギーを電気エネルギーに変換)のみが可能で、充電して再利用することができない電池。使い切り電池。
- 例:マンガン乾電池、アルカリマンガン乾電池、リチウム電池
- 二次電池: 放電だけでなく、外部から逆向きに電流を流すことで、元の状態に戻して(充電)、繰り返し使用することができる電池。蓄電池 (Storage Battery) とも呼ばれる。
- 例:鉛蓄電池、ニッケル・カドミウム蓄電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池
4.2. マンガン乾電池 (Manganese Dry Cell)
マンガン乾電池は、最も古くからある、代表的な一次電池です。その基本的な構造は、1888年に日本の屋井先蔵によって発明されたものから大きくは変わっていません。
- 構造:
- 負極 (-): 電池の外装を兼ねる亜鉛 (Zn) 缶。
- 正極 (+): 中央に配置された炭素 (C) 棒。炭素棒自体は反応せず、集電体の役割を果たす。
- 正極活物質: 炭素棒の周りを囲む、**酸化マンガン(IV) (MnO₂) **と炭素粉末の混合物。実際に還元されるのは MnO₂。
- 電解質: 塩化亜鉛 (ZnCl₂) と塩化アンモニウム (NH₄Cl) を、デンプンなどで固めてペースト状にしたもの。
- 各極での反応(放電時):
- 負極(酸化): 亜鉛缶が電子を放出して、亜鉛イオン (Zn²⁺) となって溶け出す。[ \boldsymbol{Zn \rightarrow Zn^{2+} + 2e^-} ]
- 正極(還元): 負極から導線を通って炭素棒に流れてきた電子を、酸化マンガン(IV) (MnO₂) が、電解質中の水やアンモニウムイオンと共に受け取る。[ \boldsymbol{2MnO_2 + 2NH_4^+ + 2e^- \rightarrow 2MnO(OH) + 2NH_3} ](反応式は複雑で、状況により異なる場合があるが、MnO₂ が還元されるのがポイント。)
- 特徴: 安価で広く普及しているが、電圧が徐々に低下する、低温で性能が落ちる、液漏れの可能性がある、といった欠点もある。
4.3. 鉛蓄電池 (Lead-Acid Battery)
鉛蓄電池は、1859年にフランスのガストン・プランテによって発明された、最も歴史の長い二次電池です。主に自動車のバッテリーとして、エンジン始動時などに大電流を供給するために、今日でも広く使われています。
- 構造:
- 負極 (-): 鉛 (Pb) を格子状にしたもの。
- 正極 (+): 酸化鉛(IV) (PbO₂) を鉛の格子に充填したもの。
- 電解質: 希硫酸 (H₂SO₄) (質量パーセント濃度で30〜40%程度)。
4.3.1. 放電 (Discharge) の反応
自動車のエンジンを始動したり、ライトを点灯したりするとき(電池として機能するとき)の反応です。
- 負極(酸化): 鉛 (Pb) が、電解質中の硫酸イオン (SO₄²⁻) と反応しながら電子を放出し、表面に硫酸鉛(II) (PbSO₄) の白色固体が生成する。[ \boldsymbol{Pb + SO_4^{2-} \rightarrow PbSO_4 + 2e^-} ]
- 正極(還元): 酸化鉛(IV) (PbO₂) が、電解質中の水素イオン (H⁺) や硫酸イオン (SO₄²⁻) と反応しながら電子を受け取り、こちらも表面に硫酸鉛(II) (PbSO₄) が生成する。[ \boldsymbol{PbO_2 + 4H^+ + SO_4^{2-} + 2e^- \rightarrow PbSO_4 + 2H_2O} ]
- 全体の反応:二つの半反応式を足し合わせると(両辺に 2H₂SO₄ を加える形で整理すると)、[ \boldsymbol{Pb + PbO_2 + 2H_2SO_4 \rightarrow 2PbSO_4 + 2H_2O} ]
- 放電に伴う変化:
- 両方の電極が、不溶性の硫酸鉛(II) (PbSO₄) で覆われていく。
- 電解質である硫酸 (H₂SO₄) が消費され、水 (H₂O) が生成するため、希硫酸の濃度は低下する。
- 希硫酸の密度を測定することで、バッテリーの充電状態を知ることができる。
4.3.2. 充電 (Charge) の反応
バッテリーが上がってしまったときに、外部電源(自動車のオルタネーターや充電器)を繋いで行う操作です。このとき、鉛蓄電池は電気分解を行う「電解槽」として機能します。
- 原理: 放電反応のちょうど逆向きの反応を、外部から電気エネルギーを供給して強制的に起こさせる。
- 負極での反応:
PbSO₄ + 2e⁻ → Pb + SO₄²⁻
- 正極での反応:
PbSO₄ + 2H₂O → PbO₂ + 4H⁺ + SO₄²⁻ + 2e⁻
- 全体の反応:
2PbSO₄ + 2H₂O → Pb + PbO₂ + 2H₂SO₄
- 充電に伴う変化:
- 電極表面の PbSO₄ が、元の Pb と PbO₂ に戻る。
- 希硫酸の濃度が、元の高い状態に回復する。
鉛蓄電池は、安価で信頼性が高く、大電流を扱えるという利点から、今なお重要な役割を果たしていますが、重く、電解質に有害な希硫酸を用いる、エネルギー密度が低いといった課題も抱えています。
5. 燃料電池の原理と特徴
これまでに見てきた一次電池や二次電池は、内部に蓄えられた化学物質(活物質)を消費することで発電します。そのため、一次電池は活物質を使い切れば寿命となり、二次電池も充電という形で活物質を再生させる時間が必要です。これに対し、「燃料電池 (Fuel Cell)」は、燃料(水素など)と酸化剤(酸素など)を、外部から連続的に供給し続ける限り、発電を続けることができる、一種の「発電装置」です。特に、生成物が水だけであり、発電効率も高い水素-酸素燃料電池は、クリーンな次世代のエネルギー源として大きな注目を集めています。
5.1. 燃料電池の基本原理
燃料電池の基本原理は、燃料の燃焼反応が持つ化学エネルギーを、熱としてではなく、直接電気エネルギーに変換することにあります。
例えば、水素の燃焼反応は、
[ 2H_2 + O_2 \rightarrow 2H_2O \quad (\text{大きな発熱を伴う}) ]
です。この反応は、水素が電子を失い(酸化)、酸素が電子を受け取る(還元)という、典型的な酸化還元反応です。
燃料電池は、この反応を、通常の電池と同様に、酸化反応が起こる**燃料極(負極)と、還元反応が起こる空気極(正極)**に空間的に分離し、電子を外部回路に取り出すことで発電します。
5.2. 水素-酸素燃料電池の構造と反応
最も代表的な燃料電池である、**リン酸型燃料電池(電解質が濃リン酸水溶液の場合)**を例に、その仕組みを見ていきましょう。
- 構造:
- 燃料極(負極, Anode): 水素ガス (H₂) が供給される電極。
- 空気極(正極, Cathode): 空気中の酸素 (O₂) が供給される電極。
- 電解質: 二つの電極を隔てる、イオン(この場合は H⁺)を透過させる電解質(例:リン酸水溶液を染み込ませた多孔質シート)。
- 触媒: 電極には、反応を促進するための触媒(通常は白金 Pt)が塗布されています。
- 各極での反応:
- 燃料極(-)での反応【酸化】:供給された水素ガス (H₂) は、触媒上で電子を放出し、水素イオン (H⁺) になります。[ \boldsymbol{H_2 \rightarrow 2H^+ + 2e^-} ]生じた電子 (e⁻) は、外部回路へと流れていきます。生じた水素イオン (H⁺) は、電解質中を移動して、正極側へ向かいます。
- 空気極(+)での反応【還元】:外部回路を通って流れてきた電子が、空気極に到達します。空気極では、供給された酸素ガス (O₂) が、電解質を通って移動してきた水素イオン (H⁺) と、外部回路からの電子 (e⁻) を受け取り、水 (H₂O) が生成します。[ \boldsymbol{O_2 + 4H^+ + 4e^- \rightarrow 2H_2O} ]
- 全体の反応:二つの半反応式を、電子の数が等しくなるように(燃料極の式を2倍して)足し合わせると、2H₂ → 4H⁺ + 4e⁻O₂ + 4H⁺ + 4e⁻ → 2H₂O————————-[ \boldsymbol{2H_2 + O_2 \rightarrow 2H_2O} ]となり、電池全体の反応は、水素の燃焼反応そのものになります。
(注:電解質が水酸化物イオン (OH⁻) を伝導するアルカリ型燃料電池では、各極での反応式は異なりますが、全体の反応は同じです。)
5.3. 燃料電池の特徴
- 利点:
- 高い発電効率: 燃焼による火力発電(化学エネルギー → 熱エネルギー → 運動エネルギー → 電気エネルギー)と異なり、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換するため、エネルギーの損失が少なく、発電効率が非常に高い(40〜60%程度。排熱を利用するコージェネレーションシステムでは80%以上)。
- 環境負荷が低い: 水素を燃料とする場合、排出されるのは原理的に水だけであり、大気汚染物質(NOx, SOx)や温室効果ガス(CO₂)を排出しません。
- 静粛性: 燃焼を伴わないため、運転音が非常に静かです。
- 燃料の多様性: 水素以外にも、天然ガスやメタノール、バイオマスガスなどを改質して水素を取り出し、燃料として利用することも可能です。
- 課題:
- コスト: 電極に高価な白金触媒が必要であるなど、製造コストが高い。
- 水素の製造・貯蔵・輸送: 水素をどのようにして安価で環境に優しく製造するか、そしてどのようにして安全かつコンパクトに貯蔵・輸送するかが、普及に向けた大きな課題となっています。
- 耐久性と寿命: 長期間にわたる安定した運転のための、耐久性の向上が求められています。
燃料電池は、これらの課題を克服するための研究開発が世界中で進められており、家庭用コージェネレーションシステム(エネファーム)や、燃料電池自動車 (FCV)、さらには大規模発電所など、幅広い分野での活躍が期待されています。
6. 電気分解の原理:電気エネルギーから化学エネルギーへ
電池が、自発的に起こる酸化還元反応を利用して化学エネルギーを電気エネルギーに変換する装置であったのに対し、「電気分解 (Electrolysis)」は、その全く逆のプロセスです。すなわち、外部から電気エネルギーを供給することによって、通常は自発的には進行しない酸化還元反応を、強制的に引き起こす操作です。このプロセスは、電気エネルギーを、物質の化学結合の形(化学エネルギー)として蓄えたり、有用な物質を製造したりするために、工業的に極めて重要な役割を果たしています。
6.1. 電気分解の基本原理
電池では、イオン化傾向の差によって、自然に電子が流れる方向が決まっていました。電気分解では、この自然な流れに逆らって電子を流すために、**外部電源(直流電源)**を用います。
電解槽 (Electrolytic Cell) と呼ばれる装置に、電解質(融解した塩や水溶液)を満たし、二本の電極を浸します。そして、この電極を外部電源に接続します。
- 電源の負極 (-) に接続された電極:
- 電源から電子が強制的に送り込まれてきます。
- この電極の表面で、電解質中の陽イオンが電子を受け取る還元反応が起こります。
- 還元反応が起こる電極なので「陰極 (Cathode)」と呼びます。
- 電源の正極 (+) に接続された電極:
- 電源によって電子が強制的に吸い上げられます。
- この電極の表面で、電解質中の陰イオンが電子を奪われる酸化反応が起こります。
- 酸化反応が起こる電極なので「陽極 (Anode)」と呼びます。
6.2. 電池と電気分解の電極の比較
電池と電気分解では、各電極の名称と、そこで起こる反応、そして電極の符号の関係が、しばしば混乱の原因となります。以下の表で、その関係を明確に整理しましょう。
電池 (Voltaic Cell) | 電気分解 (Electrolytic Cell) | |
エネルギー変換 | 化学 → 電気 (自発的) | 電気 → 化学 (非自発的) |
アノード (Anode) | 酸化が起こる | 酸化が起こる |
カソード (Cathode) | 還元が起こる | 還元が起こる |
電極の符号 | 負極 (-) = アノード<br>正極 (+) = カソード | 陽極 (+) = アノード<br>陰極 (-) = カソード |
最も重要な記憶のポイント:
- 反応の種類: アノード (Anode) では常に酸化 (Oxidation) が、カソード (Cathode) では常に還元 (Reduction) が起こる、というルールは、電池でも電気分解でも共通です。(頭文字が母音同士、子音同士)
- 符号の違い: 電池の負極・正極は、イオン化傾向の大小によって自然に決まる「結果」です。一方、電気分解の陽極・陰極は、外部電源のどちらの端子に繋ぐかによって人為的に決まる「原因」です。この違いにより、アノードとカソードの符号が、電池と電気分解では逆転します。
6.3. 融解塩電解:最もシンプルな電気分解
電気分解の最も単純な例が、イオン結晶を高温で融解させた「融解塩」の電気分解です。この場合、反応に関わるイオンは、その塩を構成する陽イオンと陰イオンの二種類しかありません。
例:融解塩化ナトリウム (NaCl) の電気分解
電解質は、高温で液体になった NaCl(Na⁺ と Cl⁻ が自由に動ける状態)です。電極には、反応しにくい炭素 (C) や白金 (Pt) を用います。
- 陰極(-)での反応【還元】:
- 電源の負極に接続され、電子が供給されます。
- 電解質中の唯一の陽イオンであるナトリウムイオン (Na⁺) が、電子を受け取って還元され、金属ナトリウム (Na) の単体が生成します。[ \boldsymbol{Na^+ + e^- \rightarrow Na} ]
- 陽極(+)での反応【酸化】:
- 電源の正極に接続され、電子が奪われます。
- 電解質中の唯一の陰イオンである塩化物イオン (Cl⁻) が、電子を放出して酸化され、**塩素ガス (Cl₂) **が発生します。[ \boldsymbol{2Cl^- \rightarrow Cl_2 + 2e^-} ]
- 全体の反応:二つの半反応式を、電子の数が等しくなるように(陰極の式を2倍して)足し合わせると、[ \boldsymbol{2NaCl (\text{融解})} \xrightarrow{\text{電気分解}} \boldsymbol{2Na + Cl_2} ]となります。この反応は、金属ナトリウムや塩素ガスを工業的に製造する際の基本原理です(工業的には、より融点の低い塩化カルシウムなどを混ぜて行われます)。
水が関与しない融解塩電解は、反応の予測が単純です。しかし、次から学ぶ水溶液の電気分解では、水分子自身も酸化・還元反応の候補となるため、どの反応が優先的に起こるかを判断する必要が出てきます。
7. ファラデーの法則と電気分解の量的関係
電気分解は、外部から供給した電気エネルギーによって、化学物質を定量的に変化させるプロセスです。では、流した電気の量と、それによって生成・消費される物質の量との間には、どのような関係があるのでしょうか。この極めて重要な量的関係を明らかにしたのが、19世紀のイギリスの偉大な科学者マイケル・ファラデーです。彼が発見した「ファラデーの法則」は、電気分解の計算における、すべての基礎となります。
7.1. ファラデーの法則
ファラデーは、電気分解に関する無数の精密な実験を通じて、以下の二つの法則を見出しました。
ファラデーの第一法則: 電気分解によって電極で変化する物質の質量は、流した電気量に比例する。
ファラデーの第二法則: 同じ電気量で変化する各物質の質量は、それぞれの化学当量に比例する。
現代の化学では、これらの法則は「電子 (e⁻) の物質量 (mol)」という概念を用いて、より統一的で分かりやすい形で表現されます。
電気分解において、電極で変化する物質の物質量は、反応に関与した電子の物質量に比例する。
7.2. ファラデー定数 (F)
この比例関係の中心となるのが、「ファラデー定数 (Faraday Constant)」です。
定義:
電子 1 mol が持つ電気量の大きさ。記号は F。
電子1個の電気量(電気素量)を \(e \approx 1.602 \times 10^{-19}\) C(クーロン)、アボガドロ定数を \(N_A \approx 6.022 \times 10^{23}\) /mol とすると、
[ F = e \times N_A = (1.602 \times 10^{-19} \text{ C}) \times (6.022 \times 10^{23} \text{ /mol}) \approx 96485 \text{ C/mol} ]
化学の計算問題では、通常、以下の近似値が用いられます。
\[
\boldsymbol{F = 9.65 \times 10^4 \text{ C/mol}}
\]### 7.3. 電気分解の計算のフロー
ファラデーの法則を用いた計算は、以下の明確なステップに従って行います。これは、電気の世界と物質の世界を結ぶ、翻訳のプロセスです。
ステップ1:流れた総電気量 Q [C] を求める
電気量 Q [C] は、電流 I [A](アンペア)と、電流を流した時間 t [s](秒)の積で与えられます。
\[
\boldsymbol{Q [\text{C}] = I [\text{A}] \times t [\text{s}]}
\](もし時間が「分」や「時間」で与えられたら、必ず「秒」に換算します。)
ステップ2:流れた電子 e⁻ の物質量 [mol] を求める
ステップ1で求めた総電気量 Q を、ファラデー定数 F で割ることで、それが電子何モル分に相当するかがわかります。
\[
\boldsymbol{n_{e^-} [\text{mol}] = \frac{Q [\text{C}]}{F [\text{C/mol}]}}
\]ステップ3:生成・消費される物質の物質量 [mol] を求める
ここで、半反応式が決定的に重要になります。半反応式中の、**目的の物質と電子 e⁻ の係数比(モル比)**を用いて、電子の物質量から目的の物質の物質量を計算します。
例: 陰極で Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu
の反応が起こる場合、
- 電子 2 mol が流れると、銅 Cu が 1 mol 生成します。
- したがって、生成する Cu の物質量は、流れた電子の物質量の 1/2 倍になります。[ n_{Cu} = n_{e^-} \times \frac{1}{2} ]
ステップ4:物質の質量 [g] や体積 [L] を求める
最後に、ステップ3で求めた物質の物質量を、必要に応じて質量や気体の体積に換算します。
- 質量 [g]: (物質量 [mol]) × (モル質量 [g/mol])
- 気体の体積 [L]: (物質量 [mol]) × 22.4 [L/mol] (標準状態の場合)
7.4. 計算例題
問題:
硫酸銅(II)水溶液を、白金電極を用いて、2.00 A の電流で 32 分 10 秒間、電気分解した。
(1) 流れた電気量は何 C か。
(2) 流れた電子は何 mol か。
(3) 陰極に析出する銅の質量は何 g か。
(4) 陽極で発生する気体(標準状態)の体積は何 L か。
原子量 Cu=63.5, ファラデー定数 F=9.65×10⁴ C/mol とする。
解答プロセス:
(1) 総電気量 Q の計算
- I = 2.00 A
- t = 32 分 10 秒 = (32 × 60) + 10 = 1920 + 10 = 1930 s[ Q = I \times t = 2.00 \text{ A} \times 1930 \text{ s} = \boldsymbol{3860 \text{ C}} ]
(2) 電子の物質量 nₑ⁻ の計算
[ n_{e^-} = \frac{Q}{F} = \frac{3860 \text{ C}}{9.65 \times 10^4 \text{ C/mol}} = \frac{3860}{96500} = \boldsymbol{0.0400 \text{ mol}} ]
(3) 陰極(銅の析出)の計算
- 陰極の半反応式:
Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu
- 電子と銅のモル比は 2 : 1。
- 析出する銅の物質量 \(n_{Cu}\):[ n_{Cu} = n_{e^-} \times \frac{1}{2} = 0.0400 \text{ mol} \times \frac{1}{2} = 0.0200 \text{ mol} ]
- 析出する銅の質量:[ \text{質量} = 0.0200 \text{ mol} \times 63.5 \text{ g/mol} = \boldsymbol{1.27 \text{ g}} ]
(4) 陽極(酸素の発生)の計算
- 陽極の半反応式(水が酸化される):
2H₂O → O₂ + 4H⁺ + 4e⁻
- 電子と酸素のモル比は 4 : 1。
- 発生する酸素の物質量 \(n_{O_2}\):[ n_{O_2} = n_{e^-} \times \frac{1}{4} = 0.0400 \text{ mol} \times \frac{1}{4} = 0.0100 \text{ mol} ]
- 発生する酸素の体積(標準状態):[ \text{体積} = 0.0100 \text{ mol} \times 22.4 \text{ L/mol} = \boldsymbol{0.224 \text{ L}} ]
ファラデーの法則は、電気化学における化学量論です。この計算フローをマスターすれば、電気分解に関するあらゆる量的問題を、論理的に解き明かすことができます。
8. 水溶液の電気分解:電極での反応の優先順位
融解塩の電気分解では、反応の候補となるイオンが陽イオンと陰イオンの1種類ずつしかなく、反応の予測は単純でした。しかし、水溶液の電気分解では、状況がより複雑になります。なぜなら、電解質から生じる陽イオンと陰イオンに加えて、溶媒である水分子 (H₂O) 自身も、酸化されたり還元されたりする能力を持っているからです。
したがって、各電極では、どの化学種が反応するのかという「競合」が起こります。この競合の結果、どの反応が優先的に起こるのかを判断するためのルールを理解することが、水溶液の電気分解をマスターする鍵となります。
8.1. 陰極(還元反応)での競合と優先順位
陰極(電源のマイナス極に接続)では、電子が供給されるため、還元反応が起こります。
水溶液中には、還元される可能性のある化学種として、主に以下の二つが存在します。
- 電解質の陽イオン(例: Na⁺, Cu²⁺, Ag⁺)
- 水分子 (H₂O)
陰極での反応の優先順位ルール:
陰極では、よりイオン化傾向が小さい陽イオン、すなわち、より還元されやすい(電子を受け取りやすい)化学種が優先的に反応する。
標準電極電位の言葉で言えば、「より標準電極電位 (E⁰) が大きい(正の)反応」が起こります。
水の還元反応の半反応式と、その標準電極電位は、
[ 2H_2O + 2e^- \rightarrow H_2(g) + 2OH^-(aq) \quad (E^\circ = -0.83 \text{ V at pH 7}) ]
です。
この電位と、金属イオンの電位を比較することで、反応を予測します。
実用的には、金属のイオン化列を用いて、以下のシンプルなルールで判断できます。
- イオン化傾向が水素 (H₂) より大きい金属の陽イオン (K⁺, Ca²⁺, Na⁺, Mg²⁺, Al³⁺, Zn²⁺, Fe²⁺ など):
- これらのイオンは、水分子よりも還元されにくい。
- したがって、これらのイオンは反応せず、代わりに水分子が還元されて、水素ガス (H₂) が発生します。[ \boldsymbol{2H_2O + 2e^- \rightarrow H_2 \uparrow + 2OH^-} ](この反応でOH⁻が生じるため、陰極付近は塩基性になります。)
- イオン化傾向が水素 (H₂) より小さい金属の陽イオン (Cu²⁺, Ag⁺, Pt²⁺, Au³⁺ など):
- これらのイオンは、水分子よりも還元されやすい。
- したがって、これらの金属イオン自身が還元されて、金属の単体が析出します。[ \boldsymbol{Cu^{2+} + 2e^- \rightarrow Cu(s)} ][ \boldsymbol{Ag^+ + e^- \rightarrow Ag(s)} ]
- 水素イオン (H⁺):
- 酸性水溶液の場合、H⁺も候補となります。H⁺は水よりもはるかに還元されやすいため、H⁺が存在する場合は、H⁺が還元されて水素ガスが発生します。[ \boldsymbol{2H^+ + 2e^- \rightarrow H_2 \uparrow} ]
8.2. 陽極(酸化反応)での競合と優先順位
陽極(電源のプラス極に接続)では、電子が奪われるため、酸化反応が起こります。
陽極で酸化される可能性のある化学種は、主に以下の三つです。
- 電解質の陰イオン(例: Cl⁻, I⁻, SO₄²⁻)
- 水分子 (H₂O)
- 電極材料自身(もし、白金(Pt)や炭素(C)のような不活性電極でなく、銅(Cu)や銀(Ag)のような活性電極を用いている場合)
陽極での反応の優先順位ルール:
陽極では、より酸化されやすい(電子を失いやすい)化学種が優先的に反応する。
標準電極電位の言葉で言えば、「より標準電極電位 (E⁰) が小さい(負の)反応」が起こります。
8.2.1. 不活性電極(白金 Pt, 炭素 C)を用いる場合
電極自身は反応しないと仮定します。このとき、陰イオンと水分子が競合します。
- ハロゲン化物イオン (Cl⁻, Br⁻, I⁻):
- これらのイオンは、水分子よりも酸化されやすい。
- したがって、これらのイオンが存在する場合、ハロゲン化物イオンが酸化されて、ハロゲンの単体が発生します。[ \boldsymbol{2Cl^- \rightarrow Cl_2 \uparrow + 2e^-} ](フッ化物イオン F⁻ は例外で、非常に酸化されにくいため反応しません。)
- 水酸化物イオン (OH⁻):
- 塩基性水溶液の場合、OH⁻が豊富に存在します。OH⁻は水よりも酸化されやすいため、優先的に反応して酸素ガス (O₂) が発生します。[ \boldsymbol{4OH^- \rightarrow O_2 \uparrow + 2H_2O + 4e^-} ]
- 多原子イオン (SO₄²⁻, NO₃⁻など) や フッ化物イオン (F⁻):
- これらは、中心原子がすでに高い酸化数をとっているため、非常に安定で、酸化されにくいイオンです。
- したがって、これらのイオンが存在する水溶液では、代わりに水分子が酸化されて、酸素ガス (O₂) が発生します。[ \boldsymbol{2H_2O \rightarrow O_2 \uparrow + 4H^+ + 4e^-} ](この反応でH⁺が生じるため、陽極付近は酸性になります。)
8.2.2. 活性電極(銅 Cu, 銀 Agなど)を用いる場合
もし陽極の材料が、イオン化傾向の比較的小さい金属(Pt, Au以外)である場合、陰イオンや水分子よりも、電極自身が酸化される反応が最も起こりやすくなります。
- 例:銅 (Cu) 電極[ \boldsymbol{Cu(s) \rightarrow Cu^{2+} + 2e^-} ]電極自身が電子を放出して、イオンとなって溶け出していきます。
この優先順位のルールを適用することで、次にあらゆる水溶液の電気分解の結果を、論理的に予測することが可能になります。
9. 陽極と陰極における反応の予測
水溶液の電気分解において、各電極で起こる反応の優先順位ルールを学んだことで、私たちは、様々な電解質と電極の組み合わせに対して、最終的にどのような物質が生成するのかを体系的に予測する準備が整いました。このセクションでは、いくつかの典型的なケーススタディを通じて、これらのルールを実際に適用する思考プロセスを練習します。
9.1. 予測の思考フレームワーク
ある水溶液の電気分解の結果を予測するには、以下のステップに従います。
- 電解質水溶液中のイオンを特定する:
- 溶質が電離して生じる陽イオンと陰イオンは何か。
- 溶媒である水に由来する H⁺ と OH⁻ も(ごく微量だが)存在する。そして、水分子 H₂O 自身が反応の候補となる。
- 陰極(還元)での反応を予測する:
- 陰極に引き寄せられるのは、陽イオンと水分子。
- 優先順位ルールを適用:
- イオン化傾向がH₂より小さい金属イオン (Cu²⁺, Ag⁺など) があれば、それが還元されて金属が析出する。
- そうでなければ、水が還元されて H₂ ガスが発生する。
- (酸性なら H⁺ が還元されて H₂ ガスが発生する。)
- 陽極(酸化)での反応を予測する:
- 陽極に引き寄せられるのは、陰イオンと水分子。
- まず、電極材料を確認する:
- もし活性電極 (Cu, Agなど) であれば、電極自身が酸化されて溶け出す反応が最優先で起こる。
- もし不活性電極 (Pt, C) であれば、陰イオンと水分子の競合を考える。
- 優先順位ルールを適用(不活性電極の場合):
- ハロゲン化物イオン (Cl⁻, Br⁻, I⁻) があれば、それが酸化されてハロゲン単体が発生する。
- なければ、水が酸化されて O₂ ガスが発生する。(塩基性なら OH⁻ が酸化されて O₂ が発生する。)
9.2. ケーススタディ
ケース1:塩化ナトリウム (NaCl) 水溶液の電気分解(不活性電極)
- 溶液中の主な粒子: Na⁺, Cl⁻, H₂O
- 陰極(-):
- 候補: Na⁺, H₂O
- 優先順位: Naのイオン化傾向はH₂よりはるかに大きい。→ H₂O が反応。
- 反応:
2H₂O + 2e⁻ → H₂(g) + 2OH⁻
- 生成物: 水素ガス
- 陽極(+):
- 電極: 不活性電極 (Pt or C)
- 候補: Cl⁻, H₂O
- 優先順位: ハロゲン化物イオンである Cl⁻ は、H₂O より酸化されやすい。→ Cl⁻ が反応。
- 反応:
2Cl⁻ → Cl₂(g) + 2e⁻
- 生成物: 塩素ガス
- 全体の反応:2NaCl + 2H₂O → 2NaOH + H₂ + Cl₂(工業的な**食塩電解(イオン交換膜法)**の原理)
ケース2:硫酸銅(II) (CuSO₄) 水溶液の電気分解(不活性電極)
- 溶液中の主な粒子: Cu²⁺, SO₄²⁻, H₂O
- 陰極(-):
- 候補: Cu²⁺, H₂O
- 優先順位: Cuのイオン化傾向はH₂より小さい。→ Cu²⁺ が反応。
- 反応:
Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu(s)
- 生成物: 銅(金属)
- 陽極(+):
- 電極: 不活性電極 (Pt or C)
- 候補: SO₄²⁻, H₂O
- 優先順位: SO₄²⁻ は非常に酸化されにくい。→ H₂O が反応。
- 反応:
2H₂O → O₂(g) + 4H⁺ + 4e⁻
- 生成物: 酸素ガス
- 全体の反応:2CuSO₄ + 2H₂O → 2Cu + O₂ + 2H₂SO₄(電気分解が進むと、H⁺ が生成されるため、水溶液は酸性になる。)
ケース3:硫酸銅(II) (CuSO₄) 水溶液の電気分解(活性電極 Cu)
- 溶液中の主な粒子: Cu²⁺, SO₄²⁻, H₂O
- 陰極(-):
- 電極: 銅 (Cu)
- 候補: Cu²⁺, H₂O
- 優先順位: ケース2と同じ。→ Cu²⁺ が反応。
- 反応:
Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu(s)
- 結果: 陰極の銅板の上に、さらに純粋な銅が析出し、電極は太くなる。
- 陽極(+):
- 電極: 活性電極である銅 (Cu)
- 候補: SO₄²⁻, H₂O, 電極のCu
- 優先順位: 電極の銅は、水分子よりもはるかに酸化されやすい。→ 電極のCuが反応。
- 反応:
Cu(s) → Cu²⁺ + 2e⁻
- 結果: 陽極の銅板が、イオンとなって溶け出し、電極は細くなる。
- 全体の変化:陽極で溶け出した銅イオンが、陰極で析出する。溶液中の CuSO₄ 濃度は変化しない。この原理は、次に学ぶ「電気精錬」に応用される。
ケース4:硝酸銀 (AgNO₃) 水溶液の電気分解(不活性電極)
- 溶液中の主な粒子: Ag⁺, NO₃⁻, H₂O
- 陰極(-):
- 候補: Ag⁺, H₂O
- 優先順位: Agのイオン化傾向はH₂より小さい。→ Ag⁺ が反応。
- 反応:
Ag⁺ + e⁻ → Ag(s)
- 生成物: 銀(金属)
- 陽極(+):
- 電極: 不活性電極 (Pt or C)
- 候補: NO₃⁻, H₂O
- 優先順位: NO₃⁻ は非常に酸化されにくい。→ H₂O が反応。
- 反応:
2H₂O → O₂(g) + 4H⁺ + 4e⁻
- 生成物: 酸素ガス
この思考フレームワークを適用すれば、未知の組み合わせであっても、各電極で何が起こるのかを、自信を持って予測することができます。
10. 電気精錬と電気めっきへの応用
電気分解は、単に物質を分解するだけでなく、その原理を巧みに利用することで、物質を精製したり、物体の表面に機能的な金属膜を形成したりする、高度な工業技術として広く応用されています。ここでは、その代表例である「電気精錬」と「電気めっき」について、その仕組みと、これまで学んできた電気分解の原理がどのように活かされているかを見ていきます。
10.1. 電気精錬 (Electrorefining)
電気精錬とは、電気分解を利用して、金属の純度を極めて高くする精製法です。
工業的に最も重要な例が、銅 (Cu) の電気精錬です。鉱石から製錬された粗銅(そどう)は、純度が99%程度で、亜鉛(Zn)や鉄(Fe)といった、よりイオン化傾向の大きい金属や、金(Au)や銀(Ag)といった、よりイオン化傾向の小さい貴金属を不純物として含んでいます。この粗銅から、純度99.99%以上の純銅(電気銅)を得るために、電気精錬が行われます。
装置のセットアップ:
- 電解液: 硫酸銅(II) (CuSO₄) の酸性水溶液
- 陽極 (+): 精製したい粗銅の板
- 陰極 (-): 純粋な銅の薄い板(種板)
各極での反応(ケース3の応用):
- 陽極(酸化):
- 陽極では、イオン化傾向の異なる様々な金属(Zn, Fe, Cu, Ag, Au)が、酸化される候補となります。
- イオン化傾向の序列: Zn > Fe > Cu > Ag > Au
- 起こる反応: 陽極の電位では、銅よりもイオン化傾向が大きい(酸化されやすい)亜鉛 (Zn)、鉄 (Fe)、そして銅 (Cu) 自身が、陽イオンとなって溶け出します。[ Zn \rightarrow Zn^{2+} + 2e^- ][ Fe \rightarrow Fe^{2+} + 2e^- ][ Cu \rightarrow Cu^{2+} + 2e^- ]
- 起こらない反応: 銅よりもイオン化傾向が小さい(酸化されにくい)銀 (Ag) や金 (Au) は、イオン化せずに、そのまま陽極の下に剥がれ落ちて溜まります。これが「陽極泥 (Anode Slime)」となり、貴重な貴金属を回収する源となります。
- 陰極(還元):
- 陰極では、電解液中に存在する陽イオン(Zn²⁺, Fe²⁺, Cu²⁺, H⁺)が、還元される候補となります。
- イオン化傾向の序列(還元のされやすさ): Cu²⁺ > H⁺ > Fe²⁺ > Zn²⁺
- 起こる反応: これらのイオンの中で、最もイオン化傾向が小さい(最も還元されやすい)銅(II)イオン (Cu²⁺) だけが、選択的に還元されて、純粋な銅 (Cu) として陰極の種板上に析出します。[ Cu^{2+} + 2e^- \rightarrow Cu ]
- 起こらない反応: Zn²⁺ や Fe²⁺、H⁺ は、Cu²⁺ よりも還元されにくいため、イオンのまま溶液中に留まります。
全体のプロセス:
陽極では不純物を含む銅が溶け出し、陰極では純粋な銅だけが析出する。このプロセスを通じて、粗銅中の不純物が効果的に分離され、極めて高純度の銅が得られるのです。
10.2. 電気めっき (Electroplating)
電気めっきとは、電気分解を利用して、ある物体の表面に、別の金属の薄い膜をコーティングする技術です。
「めっき」と読むこの漢字は、金属を滅して(イオン化させて)再び生じさせる(析出させる)という意味に由来するとも言われます。
目的:
- 装飾: 金めっきや銀めっきのように、安価な金属の表面に貴金属の美しい光沢を与える。
- 防錆: 鉄製品の表面を、より錆びにくい亜鉛(トタン)やスズ(ブリキ)で覆い、腐食を防ぐ。
- 機能性の付与: 摩耗に強いクロムめっきや、はんだ付けしやすいためのスズめっきなど、表面に特定の機能を持たせる。
装置のセットアップ:
- 陰極 (-): めっきをしたい品物(例: スプーン、アクセサリー)
- 陽極 (+): めっきに使いたい金属の板(例: 銀、銅、亜鉛)
- 電解液: 陽極の金属のイオンを含む水溶液(例: 硝酸銀水溶液、硫酸銅(II)水溶液)
各極での反応(銀めっきの例):
- 陽極(酸化):
- 陽極の銀 (Ag) 板が、酸化されて銀イオン (Ag⁺) として溶け出します。[ Ag \rightarrow Ag^+ + e^- ]
- これにより、電解液中の銀イオン濃度が一定に保たれます。
- 陰極(還元):
- 陰極となっている品物の表面に、電解液中の銀イオン (Ag⁺) が引き寄せられ、電子を受け取って還元され、銀 (Ag) の単体として析出・付着します。[ Ag^+ + e^- \rightarrow Ag ]
全体のプロセス:
陽極の金属が溶け出し、それが陰極の品物の表面に析出する、というサイクルが回り続けます。これにより、品物の表面に、均一で密着性の高い金属の薄膜が形成されるのです。
電気精錬と電気めっきは、電気分解の優先順位のルールを巧みに利用し、目的の金属イオンだけを選択的に析出させる、高度に制御された化学技術の好例です。
Module 13:電池と電気分解の総括:化学と電気のインターフェースを制する
本モジュールでは、化学反応の中でも特に「電子の移動」が主役となる、電気化学の二つの大きな柱、「電池」と「電気分解」の世界を探求しました。この二つは、化学エネルギーと電気エネルギーの変換という、互いに鏡像のような関係にあります。
旅の前半で探求した「電池」は、自然(自発的)に起ころうとする酸化還元反応の力を、巧みに電気エネルギーとして取り出す装置でした。私たちはダニエル電池の精緻な構造を解剖し、イオン化傾向の差が電子を駆動する「負極(酸化)」と「正極(還元)」の役割を学びました。さらに、このイオン化傾向を「標準電極電位」という普遍的な数値で捉え、二つの電極の電位差から、電池が生み出す起電力を理論的に予測する力を得ました。そして、マンガン乾電池や鉛蓄電池といった実用電池、さらには未来のクリーンエネルギーである燃料電池の内部で、どのような化学のドラマが繰り広げられているのかを解き明かしました。
旅の後半では、立場を逆転させ、電気エネルギーという外部の力を用いて、自然には起こらない化学反応を強制的に引き起こす「電気分解」の世界に足を踏み入れました。電源との接続によって定義される「陽極(酸化)」と「陰極(還元)」の役割を明確にし、流した電気の量と生成する物質の量を「ファラデーの法則」によって厳密に結びつけました。水溶液の電気分解という、複数の反応が競合する複雑な状況においても、イオン化傾向や電極の種類に基づいた「反応の優先順位」というルールを適用することで、生成物を論理的に予測する体系的な思考法を身につけました。最終的に、この原理が銅の純度を極限まで高める「電気精錬」や、物に新たな価値を与える「電気めっき」といった、現代産業に不可欠な技術を支えていることを学びました。
このモジュールを完遂した皆さんは、化学反応を、単なる物質の変化としてだけでなく、エネルギー変換のプロセスとして捉える、より深い視点を獲得したはずです。自発的な電子の流れから電気を生み出すか、あるいは電気の力で電子の流れを操り物質を創り出すか。この化学と電気のインターフェースを制することは、エネルギー問題から材料科学まで、現代社会が直面する多くの課題を理解し、解決に貢献するための、強力な知的基盤となるでしょう。