【基礎 数学(数学Ⅰ)】Module 4:2次関数(1) グラフと平方完成

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本モジュールの目的と構成

これまでのモジュールで、私たちは数学の「語彙」(数と式)と「文法」(集合と論理)を習得してきました。いわば、思考の道具と規則を揃えた段階です。本モジュールからは、いよいよそれらの道具と規則を駆使して、数学の世界で最もダイナミックで中心的な概念の一つである**「関数(function)」**の探求へと入っていきます。関数とは、もはや静的な「式」ではなく、一つの量の変化が、もう一つの量の変化にどのように対応するかという、動的な「関係性」そのものを記述する数学の言葉です。

その中でも、私たちが最初に深く学ぶ2次関数は、直線という一次元の世界から、曲線が織りなす二次元の豊かな世界への扉を開く、極めて重要な存在です。2次関数が描く**放物線(parabola)**という美しい曲線は、物を投げたときの軌道、吊り橋のケーブルが作るアーチ、パラボラアンテナの反射面など、自然界や人工物の至るところに現れる普遍的な形です。このモジュールの目的は、\(y=ax^2+bx+c\) という抽象的な「代数」の言葉で書かれた2次関数の式を、放物線という具体的な「幾何」の言葉、すなわちグラフへと、自在に「翻訳」する能力を身につけることにあります。

この代数と幾何という、二つの異なる数学の側面を結びつけるための万能の翻訳ツール、それこそが本モジュールの核心をなす**「平方完成(completing the square)」**という名の錬金術です。一見すると無味乾燥な式の集まりに見える一般形を、平方完成によって、グラフのすべての情報(位置、形、向き)が凝縮された「標準形」へと変形させる技術をマスターすることで、皆さんは数式を見るだけで、その背後にある放物線の姿を鮮やかに思い描くことができるようになります。

このモジュールは、代数的世界と幾何的世界を自由に行き来するためのパスポートを手に入れるための旅です。以下のステップを通じて、2次関数の本質を解き明かしていきましょう。

  1. 動的関係性の記述(関数の定義とグラフ): 「関数」という概念を、入力(独立変数)に対して出力(従属変数)がただ一つ決まる厳密なルールとして定義し、その関係性を座標平面上に可視化したものが「グラフ」であることを理解します。
  2. 放物線の原点(2次関数の基本形): すべての放物線の原型である \(y=ax^2\) のグラフを探求し、係数 aがグラフの開き方(向きと幅)を決定づける様子を学びます。
  3. 変形の魔術(平方完成の技術): 2次式から意図的に (x-p)^2 という平方の形を作り出す「平方完成」のアルゴリズムを習得します。これは、式の本質を見抜くための最も重要な変形技術です。
  4. グラフのカルテ(2次関数の標準形と頂点・軸): 平方完成によって導かれる \(y=a(x-p)^2+q\) という「標準形」が、グラフの最も重要な特徴である頂点の座標 (p, q) と対称の軸 x=p を一目で教えてくれることを学びます。
  5. グラフの引っ越し(平行移動): あるグラフを、形を変えずに座標平面上で上下左右に移動させる「平行移動」の原理を学び、それが数式上ではどのような操作に対応するのかを理解します。
  6. グラフの鏡映し(対称移動): グラフをx軸、y軸、または原点に関して折り返す「対称移動」の原理と、それに対応する数式上の操作をマスターします。
  7. 一般形から本質へ(一般形から標準形への変換): \(y=ax^2+bx+c\) という「一般形」を、平方完成を用いて「標準形」に変換する具体的な手順を習熟し、どんな2次関数からでもグラフの情報を読み取れるようにします。
  8. 情報から式を復元する(グラフから2次関数の式を決定): 頂点や通る点の座標といった断片的な情報から、元の2次関数の式全体を復元するという、これまでとは逆の思考プロセスを訓練します。
  9. 係数の意味を解読する(係数の符号とグラフの形状の関係)a, b, c といった各係数の符号や大きさが、グラフの向き、y切片、頂点の位置といった幾何学的な特徴にどのように影響を与えるのか、その因果関係を体系的に整理します。
  10. 動きを捉える(パラメータを含む2次関数のグラフ): 係数に文字(パラメータ)を含む2次関数が、その文字の値に応じてどのように変化し、動いていくのか、その軌跡を追う動的な視点を養います。

このモジュールを修了する時、皆さんは2次関数という代数的な対象を、放物線という幾何的な実体として完全に理解し、両者の間を翻訳する普遍的な言語をその手にしていることでしょう。


目次

1. 関数の定義とグラフ

数学が「科学の女王」と呼ばれる所以は、それが単に数を計算する学問であるからではなく、森羅万象に潜む様々な「関係性」を、厳密な言葉で記述し、分析するための普遍的な枠組みを提供するからです。その中でも、近代数学以降の中心的な役割を担ってきた、最も重要な概念が**関数(function)**です。

私たちは Module 1, 2 で「式」の扱い方を学びましたが、あれはあくまで静的な対象でした。関数は、その静的な式に生命を吹き込み、ある量が変化すると、それに伴って別の量がどのように変化するか、という動的な関係性を捉えるためのものです。

1.1. 関数の厳密な定義

日常的に「yはxの関数である」という言葉を使うことがありますが、数学における関数の定義はより厳密です。

定義:二つの変数 x と y があり、x の値を一つ定めると、それに対応して y の値がただ一つだけ定まるとき、y は x の関数であるという。

この定義には、二つの極めて重要なポイントが含まれています。

  1. x を決めると y が決まるx が原因(入力)、y が結果(出力)という、明確な因果関係の方向性があります。x は自分で勝手に値を変えることができる独立変数(independent variable)y は x の値に従って決まる**従属変数(dependent variable)**と呼ばれます。
  2. y の値は「ただ一つだけ」定まる: 一つの入力 x に対して、二つ以上の y が対応するような関係は、関数とは呼びません。例えば、x=2 を入力したら、y=3 と y=5 の両方が出てくる、ということはあり得ません。自動販売機で一つのボタンを押したら、二つの違う飲み物が出てくることはないのと同じです。

この関係を、x を入力すると y が出力される「ブラックボックス f」としてイメージすることができます。

x → [ f ] → y

この関係を、数式では

\(y = f(x)\)

と表します。f は function の頭文字で、x と y の間の具体的な対応規則(rule)の名前です。例えば、\(f(x) = x^2+1\) のような具体的な式で与えられます。

定義域と値域

  • 定義域(domain): 入力 x がとりうる値の範囲(集合)。特に断りがなければ、その関数が意味を持つような実数全体を考えます。
  • 値域(range)x が定義域全体を動くときに、出力 y がとりうる値の範囲(集合)。

例: \(y=x^2\) (定義域はすべての実数)

  • x=2 を入力すると y=4 がただ一つ定まる。
  • x=-3 を入力すると y=9 がただ一つ定まる。
  • x がすべての実数を動くとき、\(x^2\) は負になることはないので、値域は y \ge 0 となります。

関数ではない例: 「x の平方根 y

  • x=4 のとき、その平方根は 2 と -2 の二つあります。y がただ一つに定まらないため、これは y が x の関数であるとは言えません。(ただし、y=\sqrt{x} のように正の平方根に限定すれば、これは関数になります)

1.2. 関数のグラフ

関数という抽象的な「対応規則」を、人間の目が直感的に理解できる形に可視化したものが、**グラフ(graph)**です。

定義:関数 \(y=f(x)\) について、入力 x の値と、それに対応する出力 y の値の組 (x, y) を座標とする点の集合を、その関数のグラフという。

グラフは、関数という関係性の「地図」のようなものです。x という経度を決めれば、その場所の y という標高がただ一つ決まる、という点の集まりがグラフの曲線や直線を描き出します。

グラフを描くという行為の本質

グラフを描くことは、単なるお絵描きではありません。それは、

  1. 演繹的プロセス: 関数という一般的な「規則」から、
  2. 具体化: 個別の x の値に対する y の値を計算し、点 (x, y) を求めるという「具体例」を多数集め、
  3. 帰納的推論: それらの点の並びから、関数が持つ全体的な形や性質(増加するのか、減少するのか、どこで曲がるのかなど)という「新たな知見」を推測・理解する、という、極めて知的な探求のプロセスなのです。

1.3. グラフから関数を読み解く

逆に、グラフが与えられたとき、それが関数を表しているかどうかを判定することもできます。

垂直線テスト(Vertical Line Test)

あるグラフが関数のものであるかどうかを調べるには、座標平面上で**垂直な直線(y軸に平行な直線)**を引いてみます。

その垂直線を、グラフの定義域内で左右に動かしたとき、常にグラフと1点でしか交わらないのであれば、そのグラフは関数を表しています。

もし、ある場所でグラフと2点以上で交わるような垂直線が引けるなら、それは一つの x の値に対して複数の y の値が対応していることを意味するため、関数ではありません。

例:

  • 放物線 \(y=x^2\): どこに垂直線を引いても、グラフとは1点でしか交わらない。よって関数である。
  • 原点を中心とする円 \(x^2+y^2=1\): 例えば x=0.5 のところに垂直線を引くと、グラフと2点(\((0.5, \sqrt{0.75})\) と \((0.5, -\sqrt{0.75})\))で交わる。よって関数ではない。(陽関数表示 y = \pm\sqrt{1-x^2}とすれば、y=\sqrt{1-x^2} と y=-\sqrt{1-x^2} という二つの関数のグラフを合わせたもの、と解釈できます)

このセクションでは、数学の根幹をなす関数という概念を定義し、その視覚的表現であるグラフとの関係を学びました。この「式(代数)とグラフ(幾何)の対応関係」という視点は、今後の数学の学習全体を貫く、最も重要なテーマの一つです。


2. 2次関数の基本形(y=ax^2)

関数という広大な世界を探求するにあたり、まず私たちが拠点とすべきは、最もシンプルで、かつ本質的な特徴をすべて備えた「基本形」です。すべての2次関数のグラフ、すなわち放物線の原型となるのが、基本形 \(y=ax^2\) (ただし \(a \neq 0\) ) です。

この関数は、\(y=ax^2+bx+c\) という一般形から、最も複雑さを削ぎ落とした形をしています。b=0c=0 とすることで、グラフは原点 (0,0) を通り、y軸を対称の軸とする、最も美しい左右対称の姿を見せてくれます。

この基本形を徹底的に分析し、特に係数 a がグラフの形状にどのような影響を与えるのかを理解することは、今後のより複雑な2次関数のグラフを理解するための、揺るぎない土台となります。

2.1. グラフの形状:放物線

まず、最も単純な \(a=1\) の場合、すなわち \(y=x^2\) のグラフを描いてみましょう。

いくつかの x の値に対して y の値を計算し、座標平面上に点をプロットしていきます。

x-2-1012
y41014

これらの点を滑らかに結ぶと、以下のようなU字型の曲線が得られます。

この特徴的な曲線を**放物線(parabola)**と呼びます。

\(y=x^2\) のグラフには、以下の重要な特徴があります。

  • 頂点(vertex): 曲線の最も低い(または最も高い)点。このグラフでは原点 (0,0) です。
  • 軸(axis of symmetry): グラフが線対称となる、その対称の軸。このグラフではy軸(直線 x=0)です。
  • 下に凸(convex downward): グラフがお椀のように、下に膨らんだ形をしていることを指します。

2.2. 係数 a の役割:グラフの向きと開き方

では、係数 a の値を変えると、この基本的な放物線はどう変化するのでしょうか。a の役割は、大きく分けて二つあります。

2.2.1. a の符号:グラフの向き(凸性)

  • a > 0 の場合(例:\(y=2x^2\), \(y=0.5x^2\))
    • x が 0 でない限り \(x^2 > 0\) なので、y = ax^2 も常に正となります(x=0 のとき y=0)。
    • グラフはx軸の上側(y \ge 0 の範囲)に描かれ、頂点が最も低い点となります。
    • このような形を「下に凸」であるといいます。
  • a < 0 の場合(例:\(y=-x^2\), \(y=-2x^2\))
    • a が負なので、y = ax^2 は常に負または 0 となります(y \le 0)。
    • グラフはx軸の下側(y \le 0 の範囲)に描かれ、頂点が最も高い点となります。
    • このような形を「上に凸」であるといいます。

結論: a の符号は、放物線が上下どちらに開くかを決定する。

[Image comparing graphs of y=x^2 and y=-x^2]

y=-x^2 のグラフは、y=x^2 のグラフを x軸に関して対称移動したものである、ということも見て取れます。

2.2.2. a の絶対値 \(|a|\):グラフの開き具合

次に、a の符号は正のままで、その絶対値(大きさ)を変えてみましょう。

y=x^2 (a=1), y=2x^2 (a=2), y=0.5x^2 (a=0.5) の3つのグラフを比較します。

同じ x の値、例えば x=1 を代入してみると、

  • y=x^2 → y=1
  • y=2x^2 → y=2
  • y=0.5x^2 → y=0.5となります。

x=1 における y の値は、a の値が大きいほど大きくなります。これは、a が大きいほど、グラフがy軸方向に急速に増加(または減少)することを意味します。

その結果、グラフの形は以下のようになります。

  • \(|a|\) が大きいほど(例:y=2x^2)、グラフの開きは狭くなる(y軸に近づく)。
  • \(|a|\) が小さいほど(例:y=0.5x^2)、グラフの開きは広くなる(x軸に近づく)。

結論: a の絶対値は、放物線の「尖り具合」を決定する。

[Image comparing graphs of y=2x^2, y=x^2, and y=0.5x^2]

2.3. 基本形のまとめ

関数 \(y=ax^2\) のグラフについて、以下の性質をまとめます。

  • グラフの形状: 放物線
  • 頂点: 原点 (0,0)
  • : y軸(直線 x=0
  • a>0 のとき:
    • 下に凸
    • 値域は y \ge 0
    • x<0 の範囲で減少し、x>0 の範囲で増加する。
  • a<0 のとき:
    • 上に凸
    • 値域は y \le 0
    • x<0 の範囲で増加し、x>0 の範囲で減少する。
  • |a| の効果:
    • |a| が大きいほど、グラフはシャープになる。
    • |a| が小さいほど、グラフはブロードになる。

この基本形 \(y=ax^2\) の性質、特に係数 a が持つ幾何学的な意味を完全に理解することが、次に行うグラフの移動や、より複雑な2次関数の理解の鍵となります。このシンプルな形の中に、すべての放物線のDNAが凝縮されているのです。


3. 平方完成の技術

2次関数を学ぶ旅において、私たちは今、一つの極めて重要な岐路に立っています。それは、\(y=ax^2+bx+c\) という、一見すると特徴の掴みにくい「一般形」から、グラフの性質を一目で明らかにできる「標準形」へと式を変形させる、魔法のような技術を習得するかどうかです。その技術こそが**平方完成(completing the square)**です。

平方完成は、単なる計算テクニックではありません。それは、与えられた2次式の中から、意図的に (x-p)^2のような「完全な平方の形(perfect square)」 を作り出すという、明確な目的を持った戦略的な代数操作です。この操作は、古代バビロニアやギリシャの数学者たちが、幾何学的な図形を用いて2次方程式を解いた手法にその起源を持ちます。彼らは、文字通り「正方形を完成させる」ことで、未知の辺の長さを求めたのです。

このセクションでは、その古代の知恵を受け継ぐ、平方完成のアルゴリズムを習得します。これは、2次関数という山を登るための、最も信頼できる万能ツール(アーミーナイフ)を手に入れることに等しいのです。

3.1. 平方完成の目標

まず、私たちのゴールを明確にしておきましょう。

平方完成の目標は、\(ax^2+bx\) という x の2次と1次の項の組み合わせを、

a(x-p)^2 + (定数)

という形に変形することです。

なぜこの形を目指すのか?それは、(x-p)^2 という部分が、x=p のときに最小値 0 をとる、非常に性質の良い形だからです。この形を作り出すことで、関数の最小値(または最大値)や、グラフの対称軸の位置が、直接的に読み取れるようになるのです。

3.2. 平方完成のアルゴリズム (a=1の場合)

まず、最も基本的な \(x^2\) の係数が 1 の場合から始めましょう。

目標:\(x^2+bx\) を \((x-p)^2 + (\text{定数})\) の形にする。

私たちは、展開公式 \((x+p)^2 = x^2+2px+p^2\) を知っています。

この公式を逆から見ると、x の2次の項と1次の項(\(x^2+2px\))があれば、あと p^2 を足すことで、完全な平方の形 (x+p)^2 が作れる、ということを示唆しています。

では、p は何でしょうか? x の係数を比較すると、b = 2p なので、p = b/2 となります。

つまり、p^2 とは、「x の係数の半分の2乗」 のことです。

アルゴリズム:

  1. x の項(\(x^2\) と bx)に着目する。
  2. x の係数 b を取り出し、その半分 b/2 を計算する。
  3. その半分の2乗 (b/2)^2 を、勝手に足して、同時に引く。(これで式の値は変わらない)
  4. 足した部分までを使って、平方の形 (x+b/2)^2 を作る。
  5. 残った部分(引いた部分と、元の定数項)を計算する。

例題 1: \(y=x^2+6x+5\) を平方完成せよ。

  1. x の項は x^2+6x
  2. x の係数 6 の半分は 3
  3. その2乗である 3^2=9 を足して引く。\(y = (x^2+6x+9) – 9 + 5\)(式の値は変わっていないことを確認)
  4. カッコの中が、平方の形 (x+3)^2 になる。\(y = (x+3)^2 – 9 + 5\)
  5. 残りの定数項を計算する。\(y = (x+3)^2 – 4\)

これで平方完成が完了しました。

3.3. 平方完成のアルゴリズム (a≠1の場合)

次に、\(x^2\) の係数が 1 でない、より一般的な場合を扱います。

この場合、最初の一手間として、x^2 の係数 a で、x の項を無理やり括り出すという操作が必要になります。

アルゴリズム:

  1. x の2次の項と1次の項を、x^2 の係数 a で括る。
  2. 括弧の中にできた x の2次式に対して、a=1 の場合と同様の平方完成を行う。
  3. 最後に、括弧の外にある係数 a を分配法則で処理し、全体の定数項をまとめる。

例題 2: \(y=2x^2-12x+19\) を平方完成せよ。

  1. x^2 の係数 2 で括る:\(y = 2(x^2 – 6x) + 19\)(定数項 19 は括弧の外に置いておくのがコツ)
  2. 括弧の中で平方完成:括弧の中は x^2-6x。x の係数 -6 の半分は -3。その2乗は 9。9 を足して引く。\(y = 2{(x^2 – 6x + 9) – 9} + 19\)
  3. 括弧の中で平方を作る:\(y = 2{(x-3)^2 – 9} + 19\)
  4. 分配法則で括弧を外す:外側の係数 2 を、中の (x-3)^2 と -9 の両方に掛け合わせる。\(y = 2(x-3)^2 – 2 \times 9 + 19\)\(y = 2(x-3)^2 – 18 + 19\)
  5. 定数項をまとめる:\(y = 2(x-3)^2 + 1\)

これで完了です。

ミニケーススタディ:係数が分数の場合

\(y = -\frac{1}{2}x^2 – 2x + 1\)

  1. \(-\frac{1}{2}\) で括る:\(y = -\frac{1}{2}(x^2 + 4x) + 1\)(-2x を -\frac{1}{2} で割ると +4x になる点に注意)
  2. 括弧の中で平方完成:x の係数 4 の半分は 2。2乗は 4。\(y = -\frac{1}{2}{(x^2+4x+4)-4} + 1\)
  3. 括弧の中で平方を作る:\(y = -\frac{1}{2}{(x+2)^2-4} + 1\)
  4. 分配法則:\(y = -\frac{1}{2}(x+2)^2 – \frac{1}{2}(-4) + 1\)\(y = -\frac{1}{2}(x+2)^2 + 2 + 1\)
  5. 定数項をまとめる:\(y = -\frac{1}{2}(x+2)^2 + 3\)

平方完成は、一見すると複雑な手順に見えるかもしれません。しかし、その一つ一つのステップは、「平方の形を作る」という明確な目的に導かれた、完全に論理的な操作の連鎖です。この技術を習熟し、どんな2次式でも無意識レベルで変形できるようになるまで練習を重ねることが、2次関数をマスターするための、避けては通れない道なのです。


4. 2次関数の標準形と頂点・軸

平方完成という強力な変形技術を手に入れたことで、私たちはついに、2次関数の「隠された素顔」を見ることができるようになります。\(y=ax^2+bx+c\) という一般形は、いわば普段着のようなもので、ぱっと見ではその関数の個性(グラフの正確な位置や形)は分かりません。

それに対して、平方完成によって得られる

\(y = a(x-p)^2 + q\)

という形は、その関数のすべての特徴が明記された「カルテ」や「身分証明書」のようなものです。この形を、2次関数の**標準形(standard form)**と呼びます。標準形が「標準」と呼ばれる所以は、まさしく、グラフの最も重要な幾何学的特徴を、最も標準的で分かりやすい形で表現しているからです。

4.1. 標準形が示すグラフの情報

標準形 \(y=a(x-p)^2+q\) は、基本形 \(y=ax^2\) のグラフを、どのように移動させたものであるかを、一目で教えてくれます。

  1. 係数 a:これは基本形と同じで、グラフの向き(凸性)と開き具合を決定します。a の値は、平方完成の前後で変化しません。
  2. p と q:これらは、グラフの位置を決定します。具体的には、グラフの最も特徴的な点である頂点の座標を示しています。

結論:2次関数 \(y=a(x-p)^2+q\) のグラフは、

  • 頂点が点 (p, q)
  • 軸が直線 x=p
  • 基本形 \(y=ax^2\) のグラフを平行移動したものである放物線となる。

4.2. なぜ頂点が (p, q) になるのか?

この結論の論理的な根拠を探ってみましょう。

標準形 \(y=a(x-p)^2+q\) の構造を分析します。

x は実数なので、2乗の項 (x-p)^2 は常に 0 以上の値をとります。

\((x-p)^2 \ge 0\)

この項が最小値 0 をとるのは、x-p=0、すなわち x=p のときです。

  • a>0(下に凸)の場合:
    • y の値は、a(x-p)^2 の部分が最小になるときに、全体としても最小になります。
    • x=p のとき、a(x-p)^2 は最小値 a \cdot 0 = 0 をとります。
    • そのときの y の値は、\(y = a \cdot 0 + q = q\) となります。
    • したがって、この関数は x=p のときに最小値 q をとります。
    • グラフ上で最も低い点、すなわち頂点の座標は (p, q) となります。
  • a<0(上に凸)の場合:
    • a が負なので、a(x-p)^2 \le 0 となります。
    • y の値は、a(x-p)^2 の部分が最大になるときに、全体としても最大になります。
    • x=p のとき、a(x-p)^2 は最大値 a \cdot 0 = 0 をとります。
    • そのときの y の値は、\(y = a \cdot 0 + q = q\) となります。
    • したがって、この関数は x=p のときに最大値 q をとります。
    • グラフ上で最も高い点、すなわち頂点の座標は (p, q) となります。

いずれの場合も、x=p のときに y が最大または最小となり、その点がグラフの頂点 (p, q) となることが分かります。

そして、放物線は頂点を通り、軸に垂直な直線に関して対称なので、その対称の軸は、頂点のx座標を通る垂直線、すなわち直線 x=p となります。

4.3. 標準形からグラフを読み解く

例題: 関数 \(y=2(x-3)^2+1\) の頂点と軸を求め、そのグラフの概形を描け。

  1. 標準形との比較:\(y = a(x-p)^2 + q\)\(y = 2(x-3)^2 + 1\)係数を比較すると、a=2, p=3, q=1 であることが分かります。(x-3 なので p=3 であり、p=-3 ではないことに注意)
  2. 頂点と軸の特定:
    • 頂点(p, q) = (3, 1)
    • : 直線 x=p なので x=3
  3. グラフの形状の特定:
    • a=2 であり、a>0 なので、グラフは下に凸の放物線。
    • a=2 なので、基本形 y=2x^2 と同じ開き具合。
  4. グラフの描画:
    • まず、頂点 (3, 1) をプロットする。
    • 次に、軸 x=3 を点線で描く。
    • a=2 > 0 なので、頂点から上に向かって開く、下に凸の放物線を描く。
    • より正確に描くために、もう一点、計算しやすい点の座標を求めると良い。例えば、**y軸との交点(y切片)**を求めるには x=0 を代入する。\(y = 2(0-3)^2+1 = 2(-3)^2+1 = 2 \times 9 + 1 = 19\)よって、点 (0, 19) を通ることが分かる。
    • 軸 x=3 に関して対称なので、点 (0, 19) と対称な点 (6, 19) も通ることが分かる。
    • これらの点を通るように、滑らかな放物線を描く。

標準形は、2次関数の代数的な表現と、そのグラフという幾何学的な実体とを結びつける、完璧な架け橋です。平方完成によってどんな2次関数も標準形に変換できるようになった今、私たちはすべての放物線の「カルテ」を読み解き、その姿を正確に把握する能力を手に入れたのです。


5. グラフの平行移動

私たちは、2次関数の標準形 \(y=a(x-p)^2+q\) のグラフが、基本形 \(y=ax^2\) のグラフを**平行移動(parallel translation)**したものである、という事実を知りました。平行移動とは、図形をその形や向きを一切変えずに、座標平面上で一定の方向に、一定の距離だけ滑らせるように動かす操作です。

このセクションでは、この平行移動という幾何学的な操作が、数式の上ではどのような代数的な操作に対応するのか、その一般法則を探求します。この法則は2次関数に限らず、今後学ぶすべての関数のグラフの移動を理解するための、普遍的な原理となります。

5.1. 平行移動の一般法則

ある関数 \(y=f(x)\) のグラフを、

  • x軸方向に p
  • y軸方向に qだけ平行移動して得られる新しいグラフの方程式は、どうなるでしょうか。

結論:

元の式 \(y=f(x)\) の、

  • x を (x-p) に置き換える
  • y を (y-q) に置き換えることで得られます。すなわち、新しい方程式は \(y-q = f(x-p)\) となります。これを y について解いた形、\(y = f(x-p) + q\) が、一般的に使われます。

この法則、特にx軸方向の移動において「p だけ移動するのに、式の上では x-p とマイナスになる」という点が、直感に反するように感じられ、多くの学習者が混乱するポイントです。次のセクションで、この「なぜ?」を解き明かします。

5.2. なぜ x を x-p に置き換えるのか?

この直感に反するルールの背景には、二つの異なる捉え方があります。

5.2.1. 捉え方1:点の移動からの逆算

  1. 元のグラフ上の任意の点を (X, Y) とします。この点は、元の関数の方程式を満たすので、\(Y=f(X)\) が成り立っています。
  2. この点 (X, Y) を、x軸方向に p、y軸方向に q だけ平行移動した先の、新しいグラフ上の点を (x, y) とします。
  3. 点の移動の関係から、x = X + py = Y + qが成り立ちます。
  4. 私たちの目標は、新しいグラフ上の点 (x, y) が満たすべき関係式(方程式)を見つけることです。そのために、この関係式を X と Y について解き直します。X = x – pY = y – q
  5. この X と Y を、ステップ1で確認した、常に成り立つ関係式 \(Y=f(X)\) に代入します。
  6. すると、\(y-q = f(x-p)\) という、新しい点 (x, y) が満たすべき方程式が導かれます。

この証明から分かるように、私たちは移動「後」の点 (x, y) の方程式を知るために、それが元々どの点 (X, Y)から来たのかを「逆算」しているのです。その逆算の過程で x-p という形が必然的に現れる、というわけです。

5.2.2. 捉え方2:座標系の移動というアナロジー

もう一つの捉え方は、「グラフを動かす」のではなく、「座標系(軸)の方を逆向きに動かす」と考えるアナロジーです。

  • 元のグラフ: \(y=f(x)\) が描かれている、元の (x, y) 座標系を考えます。
  • グラフの移動: グラフを「右に p、上に q」動かす、という操作は、
  • 座標系の移動: グラフは固定したままで、「座標軸の方を、左に p、下に q」動かすことと、相対的に同じ状況になります。
  • 新しい座標系: この動かした後の新しい座標系の目盛りを (x’, y’) とすると、x’ = x – py’ = y – qという関係が成り立ちます。
  • 新しい方程式: 元のグラフは、この新しい座標系 (x’, y’) から見れば、\(y’ = f(x’)\) という、全く同じ形の式で表せるはずです。ここに x’ = x-p, y’ = y-q を代入することで、元の (x, y) 座標系から見た移動後のグラフの方程式 \(y-q = f(x-p)\) が得られます。

「グラフを右に動かすのは、背景(座標軸)を左に動かすのと同じ」という相対的な見方は、この x-p の謎を解き明かす、強力なメンタルモデルとなります。

5.3. 2次関数への適用

この一般法則を、2次関数の基本形 \(y=ax^2\) に適用してみましょう。

問題: 放物線 \(y=ax^2\) のグラフを、x軸方向に p、y軸方向に q だけ平行移動したグラフの方程式を求めよ。

  1. 一般法則の適用:元の式の x を (x-p) に、y を (y-q) に置き換えます。\(y-q = a(x-p)^2\)
  2. y について解く:\(y = a(x-p)^2 + q\)

この結果は、まさしく私たちが学んだ2次関数の標準形そのものです。

これにより、「標準形 \(y=a(x-p)^2+q\) は、基本形 \(y=ax^2\) をx軸方向にp, y軸方向にqだけ平行移動したものである」という事実が、より一般的なグラフの移動の法則から、演繹的に導かれたことになります。

例題: 放物線 \(y = -2x^2 + 4x + 1\) を、x軸方向に 3、y軸方向に -5 だけ平行移動した放物線の方程式を求めよ。

  • アプローチ1:頂点を移動させる
    1. まず、移動前の放物線の頂点を求めるために、平方完成する。\(y = -2(x^2-2x) + 1\)\(= -2{(x-1)^2-1} + 1\)\(= -2(x-1)^2 + 2 + 1 = -2(x-1)^2 + 3\)移動前の頂点は (1, 3)。
    2. この頂点の点を、x軸方向に 3、y軸方向に -5 だけ移動させる。新しい頂点 (p’, q’) は、p’ = 1+3 = 4q’ = 3+(-5) = -2よって、新しい頂点は (4, -2)。
    3. 平行移動では、グラフの開き具合(a の値)は変わらないので、a=-2 のまま。
    4. 新しい頂点と a の値から、標準形で方程式を組み立てる。\(y = -2(x-4)^2 – 2\)
  • アプローチ2:一般法則を直接適用する
    1. 移動後のグラフの方程式は、元の式の x を (x-3) に、y を (y-(-5)) すなわち (y+5) に置き換えることで得られる。\(y+5 = -2(x-3)^2 + 4(x-3) + 1\)
    2. この式を y について解き、整理する。\(y = -2(x^2-6x+9) + 4x – 12 + 1 – 5\)\(y = -2x^2+12x-18 + 4x – 16\)\(y = -2x^2+16x-34\)
    3. ちなみに、アプローチ1で求めた式を展開してみると、\(y = -2(x^2-8x+16) – 2 = -2x^2+16x-32-2 = -2x^2+16x-34\)となり、結果が一致することが確認できる。

どちらのアプローチも正しいですが、2次関数の場合は頂点を移動させる方が計算が楽な場合が多いです。しかし、一般法則を理解しておくことは、より複雑な関数を扱う上で不可欠となります。


6. グラフの対称移動(x軸、y軸、原点)

平行移動がグラフを「滑らせる」操作であったのに対し、**対称移動(symmetric translation / reflection)**は、ある線や点を「鏡」として、グラフを「折り返す」操作です。この操作もまた、2次関数に限らずすべての関数に共通する、基本的なグラフの変換です。

対称移動には、高校数学で主に扱うものとして、x軸対称y軸対称原点対称の3種類があります。これらの幾何学的な操作が、数式上ではどのような単純な操作に対応するのかを理解しましょう。

6.1. x軸に関する対称移動

ある点 (x, y) を、x軸を鏡として折り返した先の点の座標はどうなるでしょうか。

  • x座標は変わりません。
  • y座標は、符号がちょうど反対になります。y → -y

この「y を -y に置き換える」というルールが、そのままグラフ全体の対称移動にも適用されます。

法則:関数 \(y=f(x)\) のグラフをx軸に関して対称移動したグラフの方程式は、\(-y = f(x)\) すなわち \(y = -f(x)\) である。

例: 放物線 \(y=2x^2-4x+3\) をx軸に関して対称移動する。

  • 元の式の y を -y に置き換える。\(-y = 2x^2-4x+3\)
  • 両辺に -1 を掛けて y について解く。\(y = -(2x^2-4x+3) = -2x^2+4x-3\)

この操作により、下に凸だった放物線が、上に凸の放物線に変わります。係数 a の符号が反転するのも、この法則から説明できます。y=ax^2 をx軸対称移動すると y=-ax^2 となります。

6.2. y軸に関する対称移動

次に、点 (x, y) をy軸を鏡として折り返した先の点の座標を考えます。

  • x座標は、符号がちょうど反対になります。x → -x
  • y座標は変わりません。

この「x を -x に置き換える」というルールが、グラフの対称移動の法則となります。

法則:関数 \(y=f(x)\) のグラフをy軸に関して対称移動したグラフの方程式は、\(y = f(-x)\) である。

例: 放物線 \(y=2(x-3)^2+1\) をy軸に関して対称移動する。

  • 元の式の x を -x に置き換える。\(y = 2((-x)-3)^2+1\)
  • 式を整理する。\(y = 2(-x-3)^2+1\)\(= 2(-(x+3))^2+1\)\(= 2(x+3)^2+1\)

この結果を見ると、頂点 (3,1) が (-3,1) に移動していることが分かります。これは、y軸対称移動の幾何学的な性質と一致しています。

6.3. 原点に関する対称移動

最後に、点 (x, y) を原点 (0,0) を中心に180度回転させた(点対称移動した)先の点の座標を考えます。

  • x座標、y座標の両方の符号が反対になります。x → -xy → -y

この「x を -x に、y を -y に置き換える」というルールが、グラフの対称移動の法則です。

法則:関数 \(y=f(x)\) のグラフを原点に関して対称移動したグラフの方程式は、\(-y = f(-x)\) すなわち \(y = -f(-x)\) である。

これは、x軸対称移動とy軸対称移動を両方連続して行った結果と同じである、と解釈することもできます。

例: 放物線 \(y=2(x-3)^2+1\) を原点に関して対称移動する。

  • 元の式の x を -x に、y を -y に置き換える。\(-y = 2((-x)-3)^2+1\)\(-y = 2(x+3)^2+1\)
  • y について解く。\(y = -2(x+3)^2-1\)

この結果、頂点 (3,1) が (-3,-1) に移動し、かつグラフの凸性も下に凸から上に凸に変わっていることが分かります。

6.4. まとめと応用

対称移動の種類座標の変換式の変換 (y=f(x) → ?)2次関数 y=a(x-p)^2+q の例
x軸対称(x, y) → (x, -y)y → -y (y=-f(x))y=-a(x-p)^2-q
y軸対称(x, y) → (-x, y)x → -x (y=f(-x))y=a(-x-p)^2+q = a(x+p)^2+q
原点対称(x, y) → (-x, -y)x→-x, y→-y (y=-f(-x))y=-a(-x-p)^2-q = -a(x+p)^2-q

例題: ある放物線を、x軸方向に 2、y軸方向に -1 だけ平行移動した後、x軸に関して対称移動したところ、放物線 \(y=x^2-4x+7\) になった。元の放物線の方程式を求めよ。

このような問題では、行われた操作を逆から辿っていくのが定石です。

  1. 最終結果: \(y=x^2-4x+7\)。平方完成すると \(y=(x-2)^2+3\)。
  2. 操作の逆を辿る:
    • 逆操作1: 「x軸に関して対称移動」の逆操作は、もう一度「x軸に関して対称移動」すること。\(y=(x-2)^2+3\) をx軸対称移動する。y → -y: \(-y=(x-2)^2+3 \implies y=-(x-2)^2-3\)これが、平行移動「前」の状態。
    • 逆操作2: 「x軸方向に 2、y軸方向に -1 だけ平行移動」の逆操作は、「x軸方向に -2、y軸方向に +1 だけ平行移動」すること。\(y=-(x-2)^2-3\) のグラフを、この逆操作で移動させる。頂点 (2, -3) を移動させると考えれば、新しい頂点は (2+(-2), -3+1) = (0, -2)。a=-1 は変わらない。よって、元の放物線の方程式は \(y=-(x-0)^2-2 = -x^2-2\)。

これらの移動の法則は、代数的な操作と幾何学的な変換を結びつける美しい対応関係を示しています。この対応を理解することで、私たちは式を見るだけでグラフの動きを、グラフを見るだけで式の変化を、自在に想像できるようになるのです。


7. 2次関数の一般形から標準形への変換

私たちは、2次関数を表す二つの主要な形式、一般形標準形について学んできました。

  • 一般形: \(y=ax^2+bx+c\)
    • メリット:3つの点が与えられた場合に式を決定しやすい。c がy切片を直接示す。
    • デメリット:グラフの頂点や軸の位置が、一目では分からない。
  • 標準形: \(y=a(x-p)^2+q\)
    • メリット:グラフの頂点が (p,q)、軸が x=p であることが一目で分かる。
    • デメリット:展開しないとy切片などが分かりにくい。

多くの場合、2次関数の問題は、そのグラフの形状や位置、最大値・最小値といった幾何学的な性質を問うものです。これらの情報を得るためには、一般形を標準形に変換する能力が不可欠となります。そのための唯一無二の道具が、私たちがセクション3で習得した平方完成です。

このセクションは、これまでの知識を統合し、平方完成の技術を駆使して、任意の2次関数(一般形)のグラフの正体を暴く(標準形にする)ための、実践的な訓練の場です。

7.1. 変換プロセス:平方完成の再確認

一般形 \(y=ax^2+bx+c\) を標準形 \(y=a(x-p)^2+q\) に変換するプロセスは、まさしくセクション3で学んだ平方完成のアルゴリズムそのものです。

ステップ・バイ・ステップの変換手順:

  1. 準備x の2次の項と1次の項(ax^2+bx)に着目する。定数項 c は最後に調整するので、一旦横に置いておく。
  2. 係数で括る: x^2 の係数 a で、x の項を括り出す。\(y = a(x^2 + \frac{b}{a}x) + c\)
  3. 平方を完成させる: 括弧の中 (x^2 + \frac{b}{a}x) に、x の係数の半分の2乗を足して、引く。
    • x の係数は \(\frac{b}{a}\)。
    • その半分は \(\frac{b}{2a}\)。
    • その2乗は \((\frac{b}{2a})^2 = \frac{b^2}{4a^2}\)。\(y = a \left{ \left(x^2 + \frac{b}{a}x + \frac{b^2}{4a^2}\right) – \frac{b^2}{4a^2} \right} + c\)
  4. 平方の形を作る: 足した部分までを使って、平方の形 (x+…)^2 を作る。\(y = a \left{ \left(x + \frac{b}{2a}\right)^2 – \frac{b^2}{4a^2} \right} + c\)
  5. 分配法則: 括弧の外の a を、中の2つの項に分配して掛ける。\(y = a\left(x + \frac{b}{2a}\right)^2 – a \cdot \frac{b^2}{4a^2} + c\)\(y = a\left(x + \frac{b}{2a}\right)^2 – \frac{b^2}{4a} + c\)
  6. 定数項をまとめる: 最後の定数部分を、通分して一つの項にまとめる。\(y = a\left(x + \frac{b}{2a}\right)^2 – \frac{b^2-4ac}{4a}\)

7.2. 頂点の座標の公式

上記の変換プロセスから、一般形 \(y=ax^2+bx+c\) のグラフの頂点の座標を、係数 a, b, c を用いて一般的に表す公式が導かれます。

標準形 \(y=a(x-p)^2+q\) と比較すると、

  • p = -\frac{b}{2a}
  • q = -\frac{b^2-4ac}{4a}

結論:2次関数 \(y=ax^2+bx+c\) のグラフの頂点の座標は、

\(\left( -\frac{b}{2a}, \ -\frac{b^2-4ac}{4a} \right)\)

であり、軸の方程式は、

\(x = -\frac{b}{2a}\)

である。

この公式をどう扱うか?

  • 丸暗記は非推奨: この公式、特にy座標は非常に複雑で、符号のミスなどをしやすいため、丸暗記に頼るのは危険です。
  • 都度、平方完成を実行するのが基本: どのような問題であっても、基本に立ち返り、平方完成のプロセスを自分の手で実行する方が、確実で応力もつきます。
  • x座標 p = -b/(2a) は覚えておくと便利: 頂点のx座標(軸の方程式) p = -b/(2a) は比較的シンプルな形なので、覚えておくと検算や素早い概算に役立つことがあります。y座標は、求めたx座標を元の式に代入して計算する方が、間違いが少ないでしょう。q = f(p) = f(-b/(2a))

7.3. 実践的な変換例

例題: 2次関数 \(y=-3x^2+6x-1\) のグラフの頂点と軸を求めよ。

  1. 係数で括る:\(y = -3(x^2-2x) – 1\)
  2. 平方を完成させる:括弧の中の x の係数 -2 の半分は -1。その2乗は 1。1 を足して引く。\(y = -3{(x^2-2x+1)-1} – 1\)
  3. 平方の形を作る:\(y = -3{(x-1)^2-1} – 1\)
  4. 分配法則:\(y = -3(x-1)^2 -3(-1) – 1\)\(y = -3(x-1)^2 + 3 – 1\)
  5. 定数項をまとめる:\(y = -3(x-1)^2 + 2\)

結論の読み取り:

  • 標準形 \(y=a(x-p)^2+q\) と比較して、a=-3, p=1, q=2
  • 頂点(1, 2)
  • x=1

公式による検算:

  • 頂点のx座標: \(x = -\frac{b}{2a} = -\frac{6}{2(-3)} = -\frac{6}{-6} = 1\)。一致。
  • 頂点のy座標: x=1 を元の式に代入。\(y = -3(1)^2+6(1)-1 = -3+6-1=2\)。一致。

この「一般形から標準形へ」という変換は、2次関数を扱う上での、いわば「基本素振り」です。どんな形のボール(一般形)が来ても、即座に美しいフォーム(標準形)に打ち返せるよう、反復練習を通じて、この操作を体に染み込ませてください。これが、後の最大・最小問題や、方程式・不等式の問題へと繋がる、すべての基礎となります。


8. グラフから2次関数の式を決定する問題

これまでのセクションでは、与えられた2次関数の「式」から、その「グラフ」の情報を読み解く、という一方向のプロセスを学んできました。しかし、数学の問題はしばしば、その逆のプロセスを要求します。すなわち、グラフに関する断片的な情報(頂点の座標、通るいくつかの点など)から、元の関数の「式」を特定(復元)するという問題です。

この「情報から式を決定する」問題は、観測されたデータ(具体的な事象)から、その背後にある普遍的な法則(一般式)を推測するという、科学的思考の根幹に通じるものです。ここでは、与えられる情報の種類に応じて、どの形の2次関数(標準形、一般形、あるいは後述の因数分解形)を出発点として思考を始めるべきか、その戦略的な判断力が試されます。

8.1. 戦略1:頂点や軸の情報が与えられている場合

与えられる情報:

  • 頂点の座標 (p, q) と、グラフが通る他の1点 (x_1, y_1)
  • 軸の方程式 x=p と、グラフが通る他の2点

この場合、グラフの位置に関する最も重要な情報である「頂点」や「軸」が分かっているため、標準形 \(y=a(x-p)^2+q\) を出発点とするのが最も効率的です。

例題 1: 頂点が点 (2, -3) で、点 (4, 5) を通る放物線をグラフにもつ2次関数を求めよ。

  1. 出発点の選択:頂点が (2, -3) と分かっているので、求める2次関数は標準形で\(y = a(x-2)^2 – 3\)と置くことができる。この時点で、未知の定数は a のみ。
  2. 残りの情報の利用:このグラフは点 (4, 5) を通るので、この座標 x=4, y=5 を上記の方程式に代入したときに、等式が成り立たなければならない。\(5 = a(4-2)^2 – 3\)
  3. 未知数の決定:この a についての方程式を解く。\(5 = a(2)^2 – 3\)\(5 = 4a – 3\)\(8 = 4a\)\(a = 2\)
  4. 結論:未知数 a が 2 と決定されたので、求める2次関数は\(y = 2(x-2)^2 – 3\)である。(問題の要求によっては、これを展開して y=2x^2-8x+5 と一般形で答える)

8.2. 戦略2:グラフが通る3点が与えられている場合

与えられる情報: グラフが通る、同一直線上にない3点 (x_1, y_1), (x_2, y_2), (x_3, y_3)

この場合、頂点に関する情報が直接与えられていないため、標準形で考えると逆に計算が煩雑になります。代わりに、一般形 \(y=ax^2+bx+c\) を出発点とします。未知数が a, b, c の3つであるため、3つの点の座標を代入することで、3つの未知数に関する連立3元1次方程式を立てて解く、という方針になります。

例題 2: 3点 (1, 2), (-1, 8), (2, 5) を通る放物線をグラフにもつ2次関数を求めよ。

  1. 出発点の選択:求める2次関数を一般形で \(y=ax^2+bx+c\) と置く。
  2. 各点の座標を代入:
    • 点 (1, 2) を通ることから: \(2 = a(1)^2+b(1)+c \implies a+b+c=2\) … ①
    • 点 (-1, 8) を通ることから: \(8 = a(-1)^2+b(-1)+c \implies a-b+c=8\) … ②
    • 点 (2, 5) を通ることから: \(5 = a(2)^2+b(2)+c \implies 4a+2b+c=5\) … ③
  3. 連立方程式を解く:この連立方程式を解いて a, b, c を求める。
    • ① – ②: (a+b+c) - (a-b+c) = 2-8 \implies 2b = -6 \implies b=-3
    • b=-3 を①に代入: a-3+c=2 \implies a+c=5 … ④
    • b=-3 を③に代入: 4a+2(-3)+c=5 \implies 4a-6+c=5 \implies 4a+c=11 … ⑤
    • ⑤ – ④: (4a+c) - (a+c) = 11-5 \implies 3a=6 \implies a=2
    • a=2 を④に代入: 2+c=5 \implies c=3
  4. 結論:a=2, b=-3, c=3 と決定されたので、求める2次関数は\(y = 2x^2-3x+3\)である。

8.3. 戦略3:x軸との交点が与えられている場合

与えられる情報: x軸との交点 (\alpha, 0), (\beta, 0) と、グラフが通る他の1点

x軸との交点(x切片)は、y=0 としたときの2次方程式 ax^2+bx+c=0 の解です。

2次方程式の解が \alpha, \beta であるとき、その2次式は a(x-\alpha)(x-\beta) の形に因数分解できるはずです。

この性質を利用し、因数分解形 \(y=a(x-\alpha)(x-\beta)\) を出発点とします。

例題 3: x軸と2点 (-1, 0), (3, 0) で交わり、点 (2, -6) を通る放物線をグラフにもつ2次関数を求めよ。

  1. 出発点の選択:x軸との交点が -1 と 3 なので、求める2次関数は\(y = a(x-(-1))(x-3) = a(x+1)(x-3)\)と置くことができる。未知数は a のみ。
  2. 残りの情報の利用:このグラフは点 (2, -6) を通るので、x=2, y=-6 を代入する。\(-6 = a(2+1)(2-3)\)
  3. 未知数の決定:\(-6 = a(3)(-1)\)\(-6 = -3a\)\(a = 2\)
  4. 結論:求める2次関数は\(y = 2(x+1)(x-3)\)(展開すると y=2x^2-4x-6)である。

このように、与えられた情報の種類を的確に分析し、最も合理的な出発点(標準形、一般形、因数分解形)を選択することが、問題を効率的に解くための鍵となります。


9. 係数の符号とグラフの形状の関係

2次関数の一般形 \(y=ax^2+bx+c\) と標準形 \(y=a(x-p)^2+q\) に含まれる各係数 a, b, c, p, q は、単なる数ではありません。それぞれが、グラフの形状や位置に関する特定の幾何学的な意味を持っています。これらの係数がグラフに与える影響、すなわち両者の因果関係を体系的に理解することは、式の数値を幾何学的なイメージへと瞬時に翻訳する能力を養う上で非常に重要です。

このセクションでは、各係数の符号や大きさが、グラフのどの特徴に対応しているのかを整理し、それらの知識を統合して、グラフの概形から係数の情報を読み取る問題に対応できるようにします。

9.1. 各係数が示す幾何学的意味

9.1.1. a の符号と大きさ

これは基本形 \(y=ax^2\) で学んだ通り、最も基本的な形状を決定します。

  • a の符号: グラフの**向き(凸性)**を決定する。
    • a>0 \iff 下に凸
    • a<0 \iff 上に凸
  • a の絶対値 |a|: グラフの開き具合を決定する。
    • |a| が大きいほど、開きは**狭く(シャープに)**なる。
    • |a| が小さいほど、開きは**広く(ブロードに)**なる。

9.1.2. c の意味(一般形より)

一般形 \(y=ax^2+bx+c\) において、x=0 を代入すると y=c となります。

x=0 とはy軸上の点のことなので、c はグラフとy軸との交点、すなわち**y切片(y-intercept)**のy座標を直接示しています。

  • c>0 \iff y軸と正の部分で交わる。
  • c<0 \iff y軸と負の部分で交わる。
  • c=0 \iff 原点を通る。

9.1.3. pq の意味(標準形より)

標準形 \(y=a(x-p)^2+q\) において、p と q はグラフの位置を決定します。

  • p頂点のx座標であり、軸の方程式 x=p を示す。
    • p>0 \iff 軸はy軸より右側にある。
    • p<0 \iff 軸はy軸より左側にある。
    • p=0 \iff 軸はy軸と一致する。
  • q頂点のy座標であり、関数の最大値または最小値を示す。
    • a>0 のとき、q は最小値
    • a<0 のとき、q は最大値

9.2. b の符号が示す隠れた意味

a と c の意味は直接的ですが、一般形における b の役割は少し捉えにくいです。b は単独ではなく、a との組み合わせで軸の位置を決定します。

軸の方程式は \(x = p = -\frac{b}{2a}\) でした。この式から、b の符号の意味を読み解くことができます。

  • 軸がy軸の右側にある(p>0)場合:\(-\frac{b}{2a} > 0 \implies \frac{b}{2a} < 0\)b と 2a の符号が異なることを意味するので、b と a の符号も異なります。a>0, b<0 または a<0, b>0。つまり、a と b は異符号。
  • 軸がy軸の左側にある(p<0)場合:\(-\frac{b}{2a} < 0 \implies \frac{b}{2a} > 0\)b と 2a の符号が同じことを意味するので、b と a の符号も同じです。a>0, b>0 または a<0, b<0。つまり、a と b は同符号。
  • 軸がy軸に一致する(p=0)場合:\(-\frac{b}{2a} = 0 \implies b=0\)b=0。

まとめ(b の符号の判定法):

グラフの軸がy軸の左側にあれば a, b は同符号、右側にあれば a, b は異符号と覚えることができます(「左同右異」など)。

また、微分を学習すると、y'=2ax+b となり、y軸上(x=0)での接線の傾きが y'=b となることがわかります。つまり、b はy軸との交点におけるグラフの傾きを表しています。

  • b>0 \iff y軸との交点でグラフは右上がり
  • b<0 \iff y軸との交点でグラフは右下がり
  • b=0 \iff y軸との交点が頂点

9.3. 判別式とグラフの関係

2次方程式 ax^2+bx+c=0 の解の個数を判定する判別式(discriminant) \(D=b^2-4ac\) は、2次関数 y=ax^2+bx+c のグラフとx軸との共有点の個数に対応します。なぜなら、共有点のx座標は、y=0 としたときの方程式の実数解だからです。

  • D > 0: 方程式は異なる2つの実数解を持つ \(\iff\) グラフはx軸と異なる2点で交わる。
  • D = 0: 方程式は重解を持つ \(\iff\) グラフはx軸と1点で接する。
  • D < 0: 方程式は実数解を持たない \(\iff\) グラフはx軸と共有点を持たない。(常にx軸の上側または下側にある)

これは、頂点のy座標 \(q = -\frac{b^2-4ac}{4a} = -\frac{D}{4a}\) からも説明できます。

  • a>0(下に凸)の場合:
    • D>0 なら q<0 (頂点がx軸より下) → 2点で交わる
    • D=0 なら q=0 (頂点がx軸上) → 接する
    • D<0 なら q>0 (頂点がx軸より上) → 交わらない

9.4. 総合的な読解

例題: 2次関数 \(y=ax^2+bx+c\) のグラフが下図のように与えられているとき、a, b, c, b^2-4ac, a-b+c の符号を判定せよ。

  1. a の符号: グラフは上に凸なので、a<0
  2. c の符号: グラフはy軸と正の部分で交わっているので(y切片が正)、c>0
  3. b の符号: 軸(頂点のx座標)はy軸の右側にある。a と b は異符号である。a<0 なので、b>0。(y切片での傾きが右上がりであることからも分かる)
  4. b^2-4ac の符号: グラフはx軸と異なる2点で交わっているので、判別式 D=b^2-4ac は正。よって、b^2-4ac>0
  5. a-b+c の符号: この式の形は、元の関数 \(y=ax^2+bx+c\) に x の特定の値を代入したものではないか、と推測する。x=-1 を代入すると、\(y = a(-1)^2+b(-1)+c = a-b+c\) となる。つまり、a-b+c の値は、グラフ上の x=-1 における y 座標の値に等しい。グラフを見ると、x=-1 の点(y軸の左側)では、グラフはx軸よりも下にある。したがって、そのy座標は負である。よって、a-b+c<0。

このように、各係数が持つ幾何学的な意味を理解することで、グラフの概形から代数的な情報を、代数的な情報からグラフの概形を、豊かに読み解くことが可能になります。


10. パラメータを含む2次関数のグラフ

これまでの議論では、2次関数の係数 a, b, c は、具体的な「定数」でした。その結果、グラフは座標平面上の一つの決まった位置に、静的に描かれるものでした。しかし、数学の面白さは、静的な対象を動的なものとして捉え直すところにあります。

このセクションでは、係数に m などの**パラメータ(parameter / 媒介変数)**を含む2次関数を扱います。

例:\(y=x^2-2mx+3m\)

このような関数は、もはや一つの放物線を表すものではありません。パラメータ m の値が変化するのに応じて、グラフの形状や位置が連続的に変化していきます。いわば、m という名の操縦桿で動かすことができる、放物線の「群れ」を考えるのです。

ここでの目標は、単に m が特定の値のときのグラフを描くことではありません。m の変化に応じて、グラフ(特に頂点)がどのように動いていくのか、その軌跡を追跡し、その動きの全体像を把握することにあります。

10.1. 基本戦略:頂点の座標をパラメータで表す

パラメータを含む2次関数の動きを捉えるための最も基本的な戦略は、その関数の頂点の座標を、パラメータ m の式で表すことです。グラフ全体の動きは複雑に見えても、その最も重要な特徴点である頂点の動きに注目することで、全体の挙動を支配する法則性が見えてきます。

例題 1: 2次関数 \(y = x^2 – 2mx + m^2 – 2m + 3\) のグラフの頂点の座標を求めよ。また、m がすべての実数値をとって変化するとき、頂点はどのような図形上を動くか。

  1. 平方完成を実行する:まず、与えられた関数を x について平方完成し、頂点の座標を m で表します。\(y = (x^2 – 2mx) + m^2 – 2m + 3\)x の係数 -2m の半分は -m。その2乗は m^2。幸い、この式には既に +m^2 が含まれているので、\(y = (x-m)^2 – 2m + 3\)と、簡単に平方完成できます。
  2. 頂点の座標を m で表す:標準形 \(y=a(x-p)^2+q\) と比較すると、頂点の座標 (p, q) は(m, -2m+3)となります。
  3. 頂点の軌跡を求める:m が変化すると、この頂点 (m, -2m+3) も座標平面上を動いていきます。この動く点 (x, y) が満たす関係式(軌跡の方程式)を求めます。頂点の座標を (X, Y) とおくと、X = m … ①Y = -2m + 3 … ②という関係が成り立っています。私たちの目標は、パラメータ m を消去して、X と Y の間の直接的な関係式を導くことです。①より、m=X です。これを②に代入します。Y = -2(X) + 3Y = -2X + 3
  4. 結論:頂点の座標 (X, Y) は、常に関係式 Y = -2X + 3 を満たすことが分かりました。これは、直線 y=-2x+3 の方程式です。したがって、この2次関数の頂点は、m の値が変化するとき、直線 y=-2x+3 上を動きます。

10.2. 応用:解の配置問題への布石

パラメータを含む2次関数のグラフの動きを考察することは、後のモジュールで学ぶ「解の配置問題」(2次方程式の解が 1 より大きい、など)を解くための、極めて重要な基礎となります。

例題 2: 2次関数 \(y=x^2-4x+m\) のグラフについて考える。

  1. 平方完成:\(y = (x^2-4x) + m\)\(= (x-2)^2 – 4 + m\)
  2. グラフの動きの考察:
    • 頂点は (2, m-4)
    • 軸は常に直線 x=2 で固定されています。
    • パラメータ m は、頂点のy座標にのみ影響を与えます。
    • したがって、m の値が変化すると、この放物線は、軸 x=2 に沿って、上下にのみ平行移動することが分かります。

この「m の変化がグラフの上下移動に対応する」という理解が、例えば「グラフがx軸と異なる2点で交わるための m の条件」を考える際に役立ちます。

グラフがx軸と異なる2点で交わるのは、頂点のy座標が 0 より小さいとき、すなわち

m-4 < 0

m < 4

のときである、と幾何学的に、そして瞬時に判断することができるようになります。

10.3. パラメータの役割を見抜く

パラメータを含む関数に遭遇したときの思考法をまとめます。

  1. まず平方完成せよ: 何はともあれ、頂点の座標をパラメータで表すことが第一歩。
  2. パラメータがどの係数に影響するかを分析せよ:
    • a に含まれる → グラフの開き方や向きが変化する。
    • p(頂点のx座標)に含まれる → グラフが左右に動く。
    • q(頂点のy座標)に含まれる → グラフが上下に動く。
  3. 頂点の軌跡を求めよ: 頂点の座標を (X, Y) とおき、X と Y をパラメータの式で表した後、パラメータを消去して X と Y の関係式を導く。

パラメータを扱う問題は、静的な数学から動的な数学への移行を象徴するものです。一つの m の値に固定して考えるのではなく、m が動くことで生じるグラフ全体の「変化のパターン」や「普遍的な性質」を捉えようとする、より高次の視点が求められます。

Module 4:2次関数(1) グラフと平方完成 の総括:代数と幾何を翻訳する普遍的言語

本モジュールを通じて、私たちは2次関数という、数学の風景を一変させる重要な対象の探求を行いました。この旅は、抽象的な記号の羅列である「代数」の世界と、直感的な図形の世界である「幾何」の世界とを、いかにして結びつけるかという、壮大なテーマを巡るものでした。そして、その二つの世界を自在に行き来するための、完璧な翻訳ツールが「平方完成」と、それによって導かれる「標準形」であったことを見てきました。

私たちはまず、すべての放物線の原型である基本形 \(y=ax^2\) から始め、係数 a が持つ、グラフの向きと開きを支配するという純粋な役割を学びました。そして、平方完成という名の代数的な手術によって、どんな複雑な2次関数(一般形)も、その本質的な構造(頂点と軸の位置)が剥き出しになった標準形へと姿を変えることができることを発見しました。この変換プロセスは、単なる計算技術ではなく、式の奥に隠された幾何学的な意味を「解読」するための、普遍的な手続きだったのです。

平行移動や対称移動の法則は、この代数と幾何の対応関係をさらに強固なものにしました。式の x を x-p に置き換えるという代数的操作が、グラフをx軸方向に p だけ平行移動させるという幾何学的操作に、y を -y に置き換えることがグラフをx軸で折り返すことに、寸分違わず対応する様は、数学の異なる側面が、いかに深く、そして美しく結びついているかを示しています。

最終的に、係数にパラメータを含む関数を考察することで、私たちの視点は、静的な一つのグラフから、パラメータの値に応じて変幻自在に動くグラフの「群れ」へと引き上げられました。頂点の軌跡を追うことを通じて、私たちは変化そのものを捉え、その背後にある法則性を見出すという、より動的で高次な数学の視点を獲得しました。

このモジュールで習得した「代数と幾何を翻訳する言語」は、2次関数という枠を超え、今後皆さんが学ぶであろうあらゆる関数を理解するための、強力な知的基盤となります。数式を見てグラフを思い描き、グラフを見て数式を組み立てる。この能力こそが、数学の世界を豊かに、そして深く探求していくための、不可欠な翼となるのです。

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