【基礎 数学(数学A)】Module 7:図形の性質(3) 作図と空間図形
本モジュールの目的と構成
これまでのモジュールで、我々は2次元平面という舞台の上で、三角形や円が織りなす精緻な論理の体系を探求してきました。本モジュールでは、その探求を二つの新たな方向へと大きく拡張します。一つは、図形を「観測」する対象から、「創造」する対象へと視点を転換する作図の世界です。そしてもう一つは、我々が生きる現実の世界そのものである、3次元空間図形の世界への飛躍です。
前半の「作図」の探求では、使用できる道具を定規とコンパスのみに限定するという、古代ギリシャから続く厳格なルールの下で、幾何学の公理的な構造を再体験します。与えられた条件から、論理的な手順を積み重ねて目的の図形を正確に構築するプロセスは、証明とは異なる、構成的な思考力を鍛え上げます。ここでは、単なる手順の暗記ではなく、「なぜこの手順で描けるのか」という論理的根拠を常に問う姿勢が求められます。
後半の「空間図形」の探求では、これまで慣れ親しんだ平面の制約から解放され、直線や平面が織りなす3次元空間の無限の広がりへと、我々の幾何学的直観を拡張します。平面上では起こりえなかった「ねじれの位置」といった新しい関係性を理解し、三垂線の定理のような空間特有の法則を学び、正多面体という完璧な立体がなぜ5種類しか存在しないのかという、宇宙の根源的な制約に触れます。最後には、この直観的な空間認識を、座標という代数的な言語で記述する方法を学び、幾何と代数のさらなる融合への道を開きます。
本モジュールは、以下の学習項目を通じて、論理的思考と空間的直観という、幾何学の両輪を鍛え上げることを目的とします。
第1部:作図の世界
- 基本的な作図(垂線、角の二等分線など): あらゆる複雑な作図の基礎となる、基本的な構成要素の描き方をマスターします。
- 作図問題の論理的考察: 作図問題を解くための「分析→作図→証明」という普遍的な思考プロセスを学びます。
- 軌跡と作図: 複雑な作図条件を、「2つの軌跡の交点」として捉え直す、強力な問題解決アプローチを習得します。
第2部:空間図形の世界
4. 空間における直線と平面の位置関係: 3次元空間における点、直線、平面の間の可能なすべての位置関係を体系的に分類・整理します。
5. 三垂線の定理: 空間内の垂直関係を扱う上で、極めて強力な武器となる三垂線の定理とその逆を、証明とともに深く理解します。
6. ねじれの位置にある2直線間の距離: 2本の直線が交わらず、かつ平行でもない「ねじれの位置」にある場合の、最短距離の考え方と求め方を学びます。
7. 正多面体の種類とその性質: 最も対称性の高い美しい立体である正多面体が、なぜ5種類しか存在しないのかという根源的な謎を解き明かします。
8. オイラーの多面体定理: あらゆる凸多面体の頂点、辺、面の数の間に成り立つ、V-E+F=2という驚くほどシンプルな関係式を探求します。
9. 空間図形の切断: 立体を平面で切断したときに現れる断面(切り口)の形状を、論理的な原則に基づいて正確に作図する技術を習得します。
10. 空間座標の導入: 直観に頼りがちであった空間図形の問題を、座標という代数的な道具を用いて、計算によって解決する新たなアプローチを学びます。
このモジュールを終えるとき、皆様は、紙の上に論理を構築する厳密さと、頭の中に3次元の世界を自由に思い描く豊かさの両方を手に入れていることでしょう。
1. 基本的な作図(垂線、角の二等分線など)
幾何学における「作図」は、単に図をきれいに描く技術ではありません。それは、使用できる道具を定規とコンパスのみに限定し、与えられた図形から、論理的な手順のみに基づいて新しい図形を構築していく、一種の知的パズルであり、公理的体系の具体的な実践です。この厳格なルールの中で、なぜ特定の図形が描けるのか、その根拠を理解することが、作図問題を探求する上での第一歩となります。
作図の二大公理(許される操作)
- 定規 (Unmarked Straightedge): 与えられた2点を通る直線を引くこと。(注意:定規には目盛りがなく、長さを測って写し取ることは許されません。)
- コンパス (Compass):a. 与えられた点を中心とし、与えられた半径の円を描くこと。b. 与えられた線分の長さを写し取ること(コンパスの開きを固定して、別の場所に移動させる)。
これら以外の操作は、原則として許されません。この制約の中で、あらゆる幾何学的構成物が、まるで公理から定理が導かれるように、一つ一つ論理的に構築されていきます。ここでは、後続のあらゆる複雑な作図の基礎となる、最も基本的で重要な5つの作図を学びます。
1.1. 線分の垂直二等分線の作図
定義: 線分の中点を通り、その線分に垂直な直線。
幾何学的意味: 線分の両端の2点から等距離にある点の軌跡。この性質が作図の根拠となります。
作図手順
- 与えられた線分 AB の両端の点 A, B をそれぞれ中心として、等しい半径の円(または円弧)を描く。このとき、半径は線分 AB の長さの半分より長く、2円が2点で交わるようにする。
- 2つの円の交点を P, Q とする。
- 2点 P, Q を通る直線を引く。この直線 PQ が、線分 AB の垂直二等分線となる。
作図の根拠(なぜこれで描けるのか)
- 点Pは、点Aを中心とする円と点Bを中心とする円の交点なので、\(PA = PB\)。
- 同様に、点Qも \(QA = QB\)。
- 「2点から等距離にある点は、その2点を結ぶ線分の垂直二等分線上にある」という軌跡の性質から、点Pと点Qはともに線分ABの垂直二等分線上にある。
- 異なる2点(PとQ)を通る直線は一本しかないので、直線PQが求める垂直二等分線である。
1.2. 角の二等分線の作図
定義: 一つの角を、二つの等しい大きさの角に分ける半直線。
幾何学的意味: 角をなす2辺(2直線)から等距離にある点の軌跡。
作図手順
- 与えられた角 \(\angle XOY\) の頂点 O を中心として、任意の半径の円を描き、2辺 OX, OY との交点をそれぞれ A, B とする。
- 点 A, B をそれぞれ中心として、等しい半径の円(または円弧)を描き、その交点の一つを P とする。
- 頂点 O と点 P を通る半直線 OP を引く。この半直線 OP が、\(\angle XOY\) の二等分線となる。
作図の根拠
- 作図から、\(OA=OB\)(同じ円の半径)。
- また、\(AP=BP\)(等しい半径の円を描いた)。
- OP は共通の辺。
- したがって、「3組の辺がそれぞれ等しい」ので、\(\triangle OAP \equiv \triangle OBP\) (合同)。
- 合同な図形の対応する角は等しいので、\(\angle AOP = \angle BOP\)。
- よって、半直線 OP は \(\angle AOB\)(すなわち \(\angle XOY\))の二等分線である。
1.3. 垂線の作図
ある直線への垂線は、その垂線を引く基準となる点が、直線上にあるか、直線の外にあるかで手順が少し異なります。
(A) 直線外の1点を通る垂線
作図手順
- 与えられた直線 \(l\) と、その直線上にない点 P がある。
- 点 P を中心として、直線 \(l\) と2点で交わるような円を描き、その交点を A, B とする。
- 今できた線分 AB の垂直二等分線を作図する(手順1.1)。この垂直二等分線は、必ず点 P を通る。この直線が求める垂線である。
作図の根拠: 点Pは、作図から \(PA=PB\) を満たすので、線分ABの垂直二等分線上にある。
(B) 直線上の1点を通る垂線
作図手順
- 与えられた直線 \(l\) と、その直線上の点 P がある。
- 点 P を中心として、任意の半径の円を描き、直線 \(l\) との交点を A, B とする。
- 今できた線分 AB の垂直二等分線を作図する(手順1.1)。この直線が、点Pを通り直線\(l\)に垂直な、求める垂線である。
作図の根拠: 作図された直線は、線分ABの垂直二等分線であり、かつ線分ABの中点であるPを通る。
1.4. 角の複製(等しい角の作図)
定義: 与えられた角と等しい大きさの角を、別の場所に作図すること。
作図手順
- 与えられた角 \(\angle XOY\) がある。作図したい場所に、頂点となる点 P をとり、そこから半直線 PQ を引く。
- 元の角の頂点 O を中心に、任意の半径の円を描き、辺 OX, OY との交点を A, B とする。
- 新しい角の頂点 P を中心に、ステップ2と同じ半径の円を描き、半直線 PQ との交点を C とする。
- コンパスを用いて、元の角の線分 AB の長さを写し取る。
- 点 C を中心として、半径 AB の円を描き、ステップ3で描いた円との交点を D とする。
- 点 P と点 D を通る半直線 PR を引く。\(\angle RPQ\) が、\(\angle XOY\) と等しい角となる。
作図の根拠:
- 作図から、\(OA=OB=PC=PD\)(同じ半径)。
- また、\(AB=CD\)(長さを写し取った)。
- したがって、「3組の辺がそれぞれ等しい」ので、\(\triangle OAB \equiv \triangle PCD\) (合同)。
- 合同な図形の対応する角は等しいので、\(\angle AOB = \angle CPD\)。
1.5. 円への接線の作図
定義: 円外の1点から、その円へ接線を引く。
作図手順
- 与えられた円 O と、円外の点 P がある。
- 円の中心 O と点 P を結ぶ線分 OP を引く。
- 線分 OP の垂直二等分線を作図し、その中点 M を求める。
- 点 M を中心とし、半径 MO (または MP) の円を描く。
- ステップ4で描いた円と、元の円 O との交点を T, T’ とする。
- 直線 PT と 直線 PT’ が、求める2本の接線となる。
作図の根拠:
- 作図から、点 T は線分 OP を直径とする円周上の点である。
- **直径に対する円周角は90°**であるから、\(\angle OTP = 90^\circ\)。
- これは、半径 OT と直線 PT が垂直に交わっていることを意味する。
- 円の半径とその端点を通る垂線は、その円の接線である。
- したがって、直線 PT は円 O の接線である。
これらの基本的な作図は、すべて「なぜそう描けるのか」という幾何学的な定理(軌跡、合同、円周角など)に裏打ちされています。手順を覚えるだけでなく、その背後にある論理を理解することが、より複雑な作図問題に挑むための揺ぎない基礎を築くのです。
2. 作図問題の論理的考察
基本的な作図の技術を習得した上で、次に我々が挑むのは、より複雑な条件を満たす図形を構築する「作図問題」です。作図問題の解決は、単に定規とコンパスを動かす機械的な作業ではありません。それは、完成した図形が持つべき性質を深く分析し、その性質を基本的な作図手順へと翻訳していく、極めて論理的な思考のプロセスです。このセクションでは、未知の作図問題にアプローチするための、体系的な思考のフレームワークを学びます。
2.1. 作図問題解決の4ステップ
作図問題の解決プロセスは、古代ギリシャの数学者たちによって確立された、以下の4つの標準的なステップに分解することができます。
ステップ1:分析 (Analysis)
- まず、「求める図形は既に完成している」と仮定し、その完成図(下書き、概略図)を描きます。
- その完成図の上で、与えられた条件(既知の辺、角、点など)と、求めるべき未知の要素との間に、どのような幾何学的な関係(合同、相似、平行、垂直、円、軌跡など)が成り立つかを徹底的に分析します。
- この分析を通じて、「この点を決定するためには、まずあの線を描き、次にあそこの円を描けばよい」といった、作図の手順を逆算していきます。この「分析」こそが、作図問題の解決における最も創造的で重要な部分です。
ステップ2:作図 (Construction)
- 分析ステップで見出した手順に従って、実際に定規とコンパスだけを用いて、図形を一から構築していきます。
- このステップは、前セクションで学んだ基本的な作図の組み合わせによって実行されます。
- 作図の手順は、誰が読んでも同じ図形が描けるように、番号を付けて、曖昧さなく記述する必要があります。
ステップ3:証明 (Proof)
- 作図ステップで構築した図形が、本当に問題の条件をすべて満たしているかを、論理的に証明します。
- 証明は、作図の手順そのものを根拠として進められます。「この線は垂直二等分線として描いたので、2点からの距離は等しい」といった具合です。
- このステップにより、我々の作図が単なる偶然の産物ではなく、論理的な必然性に基づいていることが保証されます。
ステップ4:吟味 (Investigation / Discussion)
- 最後に、作図した解の存在条件や個数について考察します。
- 与えられた条件によっては、解が複数存在する場合、ただ一つだけ存在する場合、あるいは一つも存在しない場合があります。
- 例えば、「2円の交点」を利用する作図では、2円が交わるか、接するか、離れているかによって、解の個数が2個、1個、0個と変化します。
- この「吟味」のステップは、問題の条件が持つ本質的な制約を深く理解することにつながります。
大学受験レベルでは、主に「作図」の手順を記述することが求められますが、その手順を導き出すためには「分析」の思考が不可欠であり、その手順の正しさを保証するのが「証明」の論理です。「吟味」は、より発展的な問題で問われることがあります。
2.2. ケーススタディ:与えられた3辺から三角形を作図する (SSS)
問題: 3つの線分 a, b, c が与えられたとき、3辺の長さがそれぞれ a, b, c となる \(\triangle ABC\) を作図せよ。
ステップ1:分析
- 完成図として \(\triangle ABC\) を描く。辺の長さは \(BC=a, CA=b, AB=c\) となっている。
- この三角形をどのように構築できるだろうか?
- まず、辺の一つ、例えば BC を配置することを考える。線分 a をどこかに引けばよい。
- 次に、頂点 A の位置を決定する必要がある。
- 頂点 A は、
- 頂点 B からの距離が \(c\) である。
- 頂点 C からの距離が \(b\) である。
- この二つの条件を満たす点として、A は一意に(あるいは線分BCに対して対称な2点として)定まるはずだ。
- 「点Bからの距離がc」である点の集合は、Bを中心とする半径cの円である。
- 「点Cからの距離がb」である点の集合は、Cを中心とする半径bの円である。
- したがって、頂点Aは、これら2つの円の交点として見つけることができる。
- これで、作図の手順が見えた。
ステップ2:作図
- 適当な直線 \(l\) を引き、その上に点 B をとる。
- コンパスを用いて、与えられた線分 a の長さを写し取り、点 B を中心として半径 a の円を描き、直線 \(l\) との交点を C とする。(これで辺 BC ができた)
- コンパスを用いて、与えられた線分 c の長さを写し取り、点 B を中心として半径 c の円(または円弧)を描く。
- コンパスを用いて、与えられた線分 b の長さを写し取り、点 C を中心として半径 b の円(または円弧)を描く。
- ステップ3と4で描いた2つの円の交点の一つを A とする。
- 点 A と B、点 A と C をそれぞれ結ぶ。
- \(\triangle ABC\) が求める三角形である。
ステップ3:証明
- 作図の手順2より、\(BC = a\) である。
- 点 A は、点 B を中心とする半径 c の円周上にあるので、\(AB = c\) である。
- 点 A は、点 C を中心とする半径 b の円周上にあるので、\(AC = b\) である。
- したがって、\(\triangle ABC\) は3辺の長さが a, b, c である三角形であり、問題の条件を満たしている。
ステップ4:吟味
- この作図において、頂点 A が存在する(つまり、2つの円が交わる)ためには、どのような条件が必要だろうか?
- 2つの円(中心B, C、半径c, b)が交わるための条件は、中心間の距離 (a) と半径の和・差の関係で決まる。
- 2円が交わる条件は、\(|c-b| < a < c+b\)。
- これは、まさに三角形の成立条件そのものである。
- もし、\(c+b > a, a+c > b, a+b > c\) という三角形の成立条件が満たされていれば、2円は必ず2点で交わり、解(線分BCに対して同じ側に1つ)がただ一つ存在する。
- もし、\(a+b=c\) など、等号が成立する場合は、2円は接し、三角形は潰れてしまう。
- もし、\(a+b < c\) の場合は、2円は交わらず、三角形は作図不可能である。
この一連のプロセスは、作図問題がいかに論理的な構造を持っているかを見事に示しています。特に「分析」の段階で、問題を「既知の要素から、基本的な作図の組み合わせで未知の要素を決定していくプロセス」へと翻訳する能力が、作図問題の鍵を握っているのです。
3. 軌跡と作図
作図問題の「分析」ステップにおいて、未知の点を決定するための非常に強力な思考法が、「軌跡 (Locus)」の考え方を利用することです。作図すべき点Pが、複数の条件(条件1, 条件2, …)を同時に満たさなければならないとします。このとき、それぞれの条件を個別に考え、
- 「条件1を満たす点の集合(軌跡1)」
- 「条件2を満たす点の集合(軌跡2)」を特定します。求める点Pは、これらの軌跡の共通部分、すなわち交点として見つけることができます。このアプローチは、複雑な問題を、より単純な「基本的な軌跡」の組み合わせ問題へと分解することを可能にします。
3.1. 作図における基本的な軌跡
作図問題で頻繁に利用される、基本的な軌跡は以下の5つです。これらの軌跡が、どのような条件に対応するのかを正確に理解しておくことが、このアプローチの前提となります。
1. 1定点から一定の距離にある点の軌跡
- 軌跡: その定点を中心とする円。
- 作図: コンパスで円を描く。
2. 2定点から等距離にある点の軌跡
- 軌跡: その2点を結ぶ線分の垂直二等分線。
- 作図: 垂直二等分線を作図する。
3. 2定点を見込む角が一定である点の軌跡
- 軌跡: その2点を結ぶ弦に対する円弧。
- 作図:
- 2定点A, Bと与えられた角\(\theta\)がある。
- 線分ABを引く。
- 点Aにおいて、直線ABとのなす角が\(\theta\)となるような直線lを引く(角の複製)。
- 点Aにおいて、直線lに垂線を立てる。
- 線分ABの垂直二等分線を引く。
- ステップ4と5で引いた2直線の交点Oが、求める円の中心となる。
- 根拠: 接弦定理の逆。直線lは円の接線となり、\(\angle(l, AB) = \theta\)が、弦ABに対する円周角に等しくなる。
4. 1定直線から一定の距離にある点の軌跡
- 軌跡: その定直線に平行な2本の直線。
- 作図: 定直線上の2点から垂線を立て、一定の距離を写し取って、それらの点を結ぶ。
5. 交わる2直線から等距離にある点の軌跡
- 軌跡: その2直線のなす角の二等分線(2本存在する)。
- 作図: 角の二等分線を作図する。
3.2. 軌跡の交点として点を求める
思考のフレームワーク
- 条件の分解: 求める点Pが満たすべき条件を、2つの独立した条件に分解する。
- 軌跡の特定: 各条件が、上記のどの基本的な軌跡に対応するかを特定する。
- 条件1 → 軌跡 L1
- 条件2 → 軌跡 L2
- 作図の実行: 軌跡 L1 と 軌跡 L2 をそれぞれ作図する。
- 解の決定: L1 と L2 の交点が、求める点Pである。
- 吟味: L1 と L2 の位置関係によって、交点の数(解の数)がどのように変化するかを考察する。
例題1:特定の点と直線からの距離
直線 \(l\) 上にない2定点 A, B が与えられている。直線 \(l\) 上にあって、2点 A, B から等距離にある点 P を作図せよ。
思考プロセス
- 条件の分解: 求める点Pは、以下の2つの条件を同時に満たす。
- 条件1: 点Pは、2定点 A, B から等距離にある。
- 条件2: 点Pは、直線 \(l\) 上にある。
- 軌跡の特定:
- 条件1を満たす点の軌跡(L1)は、線分ABの垂直二等分線である。
- 条件2を満たす点の軌跡(L2)は、直線 \(l\) そのものである。
- 作図の実行:
- 線分ABの垂直二等分線を作図する。
- この垂直二等分線と、与えられた直線 \(l\) との交点を見つける。
- 解の決定:その交点が、求める点Pである。
- 吟味:
- もし、垂直二等分線と直線 \(l\) が1点で交わるならば、解は1つ。
- もし、垂直二等分線と直線 \(l\) が平行ならば(つまり、ABが\(l\)に垂直な場合)、解は存在しない。
- もし、垂直二等分線と直線 \(l\) が一致するならば(つまり、A, Bが\(l\)に対して対称な位置にある場合)、解は無限に存在する(直線\(l\)上の全ての点)。
例題2:三角形の外心・内心の作図への応用
- 外心の作図: 外心Oは、3頂点 A, B, C から等距離にある点である。
- 条件1: \(OA=OB\) → Oは線分ABの垂直二等分線上にある。
- 条件2: \(OB=OC\) → Oは線分BCの垂直二等分線上にある。
- したがって、外心Oは、これら2つの垂直二等分線の交点として作図できる。
- 内心の作図: 内心Iは、3辺 AB, BC, CA から等距離にある点である。
- 条件1: Iから辺AB, BCへの距離が等しい → Iは\(\angle B\)の二等分線上にある。
- 条件2: Iから辺BC, CAへの距離が等しい → Iは\(\angle C\)の二等分線上にある。
- したがって、内心Iは、これら2つの角の二等分線の交点として作図できる。
3.3. アポロニウスの円の作図
前モジュールで学んだアポロニウスの円も、軌跡と作図の観点から捉えることができる。
問題: 2定点 A, B と比 m:n が与えられたとき、\(AP:BP = m:n\) を満たす点Pの軌跡(アポロニウスの円)を作図せよ。
思考プロセス(作図法)
- 分析: アポロニウスの円は、「線分ABを m:n に内分する点Pと外分する点Qを直径の両端とする円」であった。
- 軌跡の特定: この問題は、直径の両端を決定する問題に帰着する。
- 作図の実行:
- 線分ABを \(m:n\) に内分する点Pを作図する。(平行線と線分の比を利用して作図可能)
- 線分ABを \(m:n\) に外分する点Qを作図する。(同様に作図可能)
- 線分PQの垂直二等分線を作図し、その中点Mを求める。
- Mを中心とし、半径MP(またはMQ)の円を描く。
この作図は、一見すると複雑な「比の条件」を、「内分点と外分点」という具体的な点の作図に分解し、最終的に「直径が与えられた円」という基本的な軌跡の作図へと還元している。
軌跡の考え方は、作図問題における条件を、円や直線といった具体的な図形の言葉に「翻訳」するための、非常に強力な辞書です。複雑な問題に直面したときは、まず「この条件を満たす点の集まりは、どんな図形を描くだろうか?」と自問自答し、問題を基本的な軌跡の組み合わせとして再構成する視点を持つことが、解決への道を拓きます。
4. 空間における直線と平面の位置関係
これまでの幾何学の探求は、2次元の「平面」という舞台の上で行われてきました。しかし、我々が実際に生活しているのは、奥行きを持つ3次元の「空間」です。このセクションから、我々の思考を平面から空間へと拡張し、空間図形 (Solid Geometry) の世界を探求します。その第一歩は、空間を構成する最も基本的な要素である点、直線、平面が、互いにどのような位置関係を取りうるのかを、体系的に分類し、理解することです。
4.1. 空間における2直線の位置関係
平面上では、2本の異なる直線は「交わる」か「平行である」かのいずれかしかありませんでした。しかし、空間では、第3の位置関係が登場します。
- 1点で交わる: 2直線が同一平面上にあり、ただ1つの共有点を持つ。
- 平行である: 2直線が同一平面上にあり、共有点を持たない。
- ねじれの位置にある (Skew Lines): 2直線が同一平面上にない。したがって、交わらず、平行でもない。
ねじれの位置は、空間図形に特有の概念です。例えば、部屋の床の辺と、天井の対角線は、多くの場合ねじれの位置にあります。2直線がねじれの位置にあるかどうかを判断するには、「この2直線を含むような一枚の平面を描けるか?」と自問することが有効です。描けなければ、それらはねじれの位置にあります。
4.2. 空間における直線と平面の位置関係
1本の直線と1つの平面の位置関係は、共有点の数によって3つに分類されます。
- 1点で交わる: 直線と平面がただ1つの共有点を持つ。
- 平行である: 直線と平面が共有点を持たない。記号では \(l \parallel \alpha\) のように表す。
- 直線が平面に含まれる: 直線上のすべての点が、平面上の点でもある。記号では \(l \subset \alpha\) のように表す。
直線と平面の平行に関する重要定理
- 定理: 平面 \(\alpha\) 上にない直線 \(l\) が、\(\alpha\) 上にある直線 \(m\) に平行であるならば、直線 \(l\) は平面 \(\alpha\) に平行である(\(l \parallel \alpha\))。
- 意味: 直線と平面の平行を証明するには、その平面内にある「たった1本」の平行な直線を見つければ十分である、という強力なツールです。
4.3. 空間における2平面の位置関係
2つの異なる平面の位置関係は、非常にシンプルで、2つしかありません。
- 交わる: 2平面が共有点を持つ。このとき、その共有点全体の集合は、1本の直線(交線)となる。
- 平行である: 2平面が共有点を持たない。記号では \(\alpha \parallel \beta\) のように表す。
2平面の平行に関する重要定理
- 定理: 平面 \(\alpha\) が、交わる2直線 \(l, m\) を含み、平面 \(\beta\) が、交わる2直線 \(l’, m’\) を含むとする。もし \(l \parallel l’\) かつ \(m \parallel m’\) ならば、2平面は平行である(\(\alpha \parallel \beta\))。
- 意味: 2平面の平行を言うためには、一方の平面を決定づける「交わる2直線」が、もう一方の平面の「交わる2直線」とそれぞれ平行であることを示せばよい。
4.4. 直線と平面、平面と平面の垂直
直線と平面の垂直
- 定義: 直線 \(l\) が、平面 \(\alpha\) 上のすべての直線と垂直であるとき、直線 \(l\) は平面 \(\alpha\) に垂直であるという。記号では \(l \perp \alpha\)。
- 判定定理(非常に重要): 直線 \(l\) が、平面 \(\alpha\) 上の交わる2直線 \(m, n\) の両方に垂直であるならば、直線 \(l\) は平面 \(\alpha\) に垂直である。
- 意味: 直線と平面の垂直を証明するには、平面上の「すべての」直線との垂直を示す必要はなく、「たった2本」の交わる直線との垂直を示せば十分である。
平面と平面の垂直
- 定義: 平面 \(\alpha\) と \(\beta\) が交わるとき、一方の平面 \(\alpha\) が、他方の平面 \(\beta\) に垂直な直線 \(l\) を含むならば、平面 \(\alpha\) は平面 \(\beta\) に垂直であるという。記号では \(\alpha \perp \beta\)。
- 直感的理解: 2平面のなす角(二面角)が90°であること。二面角は、交線上の任意の点から、各平面上で交線に垂線を引いたときの、その2本の垂線のなす角として定義される。
これらの位置関係と、それに関する判定定理は、空間図形の問題を論理的に解き明かすための「文法」に相当します。特に、「ねじれの位置」「直線と平面の平行・垂直の判定定理」は、空間図形特有の概念であり、その正確な理解が、次セクションで学ぶ三垂線の定理など、より高度な内容への扉を開きます。図を正確に描き、頭の中で立体を自由に動かしながら、これらの関係性を直観的に把握する訓練が不可欠です。
5. 三垂線の定理
空間図形における「垂直」という関係は、図形の計量(長さや角度、面積の計算)を行う上で、極めて重要な役割を果たします。特に、三平方の定理や三角比は、直角三角形があって初めてその威力を発揮します。しかし、空間内の直線同士が本当に垂直であるかを判断するのは、平面図形のように簡単ではありません。この空間内の垂直関係を、明確な論理で結びつけ、証明するための強力な道具が、三垂線の定理 (Theorem of Three Perpendiculars) です。この定理は、その名の通り、3つの垂線(垂直関係)の間に成り立つ、必然的な関係を記述するものです。
5.1. 三垂線の定理
三垂線の定理は、「正」の定理と、その「逆」の定理の両方が存在し、どちらも同様に重要です。
【三垂線の定理】
平面 \(\alpha\) と、その上にない点 P がある。
点 P から平面 \(\alpha\) に下ろした垂線の足を O とする。(つまり \(PO \perp \alpha\))
点 O から、平面 \(\alpha\) 上にある直線 \(l\) に下ろした垂線の足を H とする。(つまり \(OH \perp l\))
このとき、点 P と点 H を結んだ直線 PH は、直線 \(l\) と垂直になる。
\[
\text{もし } PO \perp \alpha \text{ かつ } OH \perp l \text{ ならば、} PH \perp l
\]
定理の覚え方
この定理は、3つの垂直関係
- P から平面 \(\alpha\) への垂線(\(PO \perp \alpha\))
- O から直線 \(l\) への垂線(\(OH \perp l\))
- P から直線 \(l\) への垂線(\(PH \perp l\))のうち、「2つが成り立てば、残り1つも必ず成り立つ」という構造をしています。上記の正定理は、「1と2が成り立てば、3も成り立つ」という主張です。
5.2. 三垂線の定理の証明
この定理の証明は、「直線と平面が垂直であるための条件」を正確に適用することが鍵となります。
証明
仮定: \(PO \perp \alpha\) かつ \(OH \perp l\)
結論: \(PH \perp l\)
証明のステップ
- 仮定の分析 (1):\(PO \perp \alpha\) である。「直線と平面の垂直」の定義によれば、直線 PO は、平面 \(\alpha\) 上のすべての直線と垂直に交わる。直線 \(l\) は平面 \(\alpha\) 上にあるので、当然 \(PO \perp l\) である。
- 仮定の分析 (2):\(OH \perp l\) である。(これは問題の仮定)
- 直線 \(l\) と平面 \(POH\) の関係を考える:ステップ1と2から、直線 \(l\) は、
- 直線 PO と垂直である。
- 直線 OH と垂直である。直線 PO と OH は、点 O で交わる2本の交わる直線であり、ともに平面 POH を構成している。
- 「直線と平面の垂直」の判定定理を適用:「直線が、ある平面上の交わる2直線に垂直ならば、その直線はその平面に垂直である」という判定定理を適用する。今、直線 \(l\) は、平面 POH 上の交わる2直線 PO, OH に垂直であるから、直線 \(l\) は、平面 POH に垂直である(\(l \perp \text{平面}POH\))。
- 結論の導出:直線 \(l\) が平面 POH に垂直であるならば、その定義から、直線 \(l\) は平面 POH 上のすべての直線と垂直である。直線 PH は、明らかに平面 POH 上にある。したがって、\(l \perp PH\)、すなわち \(PH \perp l\) が証明された。
(証明終)
5.3. 三垂線の定理の逆
三垂線の定理の「逆」もまた、同様に重要で、頻繁に利用されます。
【三垂線の定理の逆】
平面 \(\alpha\) と、その上にない点 P がある。
点 P から平面 \(\alpha\) に下ろした垂線の足を O とする。(\(PO \perp \alpha\))
点 P から、平面 \(\alpha\) 上にある直線 \(l\) に下ろした垂線の足を H とする。(\(PH \perp l\))
このとき、点 O と点 H を結んだ直線 OH は、直線 \(l\) と垂直になる。
\[
\text{もし } PO \perp \alpha \text{ かつ } PH \perp l \text{ ならば、} OH \perp l
\]
逆の証明
証明のロジックは、正定理と全く同じです。
仮定: \(PO \perp \alpha\) かつ \(PH \perp l\)
結論: \(OH \perp l\)
- \(PO \perp \alpha\) より、\(PO \perp l\)。
- 仮定より、\(PH \perp l\)。
- 直線 \(l\) は、平面 POH 上の交わる2直線 PO, PH に垂直である。
- したがって、直線 \(l\) は、平面 POH に垂直である。
- よって、直線 \(l\) は、平面 POH 上にある直線 OH と垂直である。
(証明終)
5.4. 定理の応用
三垂線の定理は、空間図形における線分の長さや角度を求める問題で、決定的な役割を果たします。
応用例:最短距離
- 問題: 平面 \(\alpha\) 上の直線 \(l\) と、平面 \(\alpha\) 上にない点 P がある。点 P と、直線 \(l\) 上の点 Q との距離 PQ を考えるとき、この距離が最小となる点 Q はどこか。また、その最小距離はいくらか。
- 解答: 距離が最小となるのは、PQ が直線 \(l\) に垂直になるときである。つまり、求める最小距離は、点Pから直線\(l\)に下ろした垂線の長さに等しい。
- 三垂線の定理の利用:
- 点 P から平面 \(\alpha\) に垂線 PO を下ろす。
- 点 O から直線 \(l\) に垂線 OH を下ろす。
- 三垂線の定理より、直線 PH は直線 \(l\) に垂直である。
- したがって、求める最短距離は、線分 PH の長さである。
- この長さは、直角三角形 POH に三平方の定理を適用することで、\(PH = \sqrt{PO^2 + OH^2}\) として計算できる。
この応用例は、三垂線の定理が、空間内の点と直線の距離という、一見捉えどころのない問題を、「平面への垂線の長さ」と「平面内での点と直線の距離」という、より単純な2つの問題に分解してくれることを示しています。
三垂線の定理は、空間図形における「垂直」の連鎖を解き明かすための、論理の架け橋です。図形の中に隠されたこの「3つの垂線の関係」を見抜くことができるかどうかは、空間図形の計量問題を解く能力を大きく左右するのです。
6. ねじれの位置にある2直線間の距離
空間における2直線の位置関係で、平面にはない特有のものが「ねじれの位置」でした。ねじれの位置にある2直線は、交わらず、かつ平行でもないため、その間の「距離」をどう定義し、どう測定するかは、自明ではありません。このセクションでは、ねじれの位置にある2直線間の距離を厳密に定義し、その長さを求めるための体系的な方法を学びます。
6.1. ねじれの位置にある2直線間の距離の定義
ねじれの位置にある2直線 \(l, m\) を考えます。
直線 \(l\) 上の点 P と、直線 \(m\) 上の点 Q を結ぶ線分 PQ の長さは、P と Q の位置によって様々に変化します。
この無数の線分 PQ の中で、長さが最小となるものがただ一つ存在します。
【定義】
ねじれの位置にある2直線 \(l, m\) の間の距離とは、直線 \(l\) 上の点 P と直線 \(m\) 上の点 Q を結ぶ線分 PQ の長さの最小値である。
そして、この最小値を与える線分 PQ は、実は2直線 \(l, m\) の両方に垂直な、ただ一本の特別な線分(共通垂線)となります。
【定理】
ねじれの位置にある2直線 \(l, m\) に対して、
- \(l, m\) の両方に垂直に交わる直線が、ただ1本存在する。
- この共通垂線と \(l, m\) との交点をそれぞれ P, Q とするとき、線分 PQ の長さが、2直線間の距離となる。
したがって、「ねじれの位置にある2直線間の距離を求める」という問題は、「2直線の共通垂線の長さを求める」という問題に帰着します。
6.2. 距離の求め方:平行な平面を利用する戦略
共通垂線を直接作図したり、その両端の座標を求めたりするのは、一般的に困難です。そこで、この問題をより扱いやすい問題へと変換するための、非常に巧妙で一般的な戦略が存在します。それは、平行な平面を利用する方法です。
思考のフレームワーク
ねじれの位置にある2直線 \(l, m\) の距離を求める手順:
- ステップ1:平行な平面を構築する
- 直線 \(m\) を含み、もう一方の直線 \(l\) に平行な平面 \(\alpha\) を作図する。
- (具体的には、直線m上の任意の点Rを通り、直線lに平行な直線l’を引く。直線mとl’によって定まる平面が\(\alpha\)である。)
- ステップ2:問題の言い換え
- 直線 \(l\) 上のどの点から平面 \(\alpha\) までの距離も、常に一定となる(直線と平面が平行なので)。
- そして、この「直線 \(l\) と平面 \(\alpha\) の間の距離」が、元の「2直線 \(l, m\) 間の距離」と等しくなる。
- ステップ3:点と平面の距離に帰着させる
- 「直線 \(l\) と平面 \(\alpha\) の間の距離」を求めるには、直線 \(l\) 上のどこでも好きな点 P を一つ選び、その点 P から平面 \(\alpha\) に下ろした垂線の長さを求めればよい。
この戦略により、「ねじれの位置にある2直線間の距離」という捉えにくい問題が、「点と平面の距離」という、より基本的で計算しやすい問題へと見事に変換されるのです。
6.3. 具体例:直方体における計算
例題
下の図のような、\(AB=4, AD=3, AE=2\) の直方体 ABCD-EFGH がある。ねじれの位置にある2直線 AC と EH の間の距離を求めよ。
思考プロセス
- 平行な平面の構築:
- 直線 AC を含み、直線 EH に平行な平面を考えたい。
- あるいは、直線 EH を含み、直線 AC に平行な平面を考える方が簡単かもしれない。
- 平面 EFGH は、直線 EH を含んでいる。
- また、この平面 EFGH は、直線 AC と平行である。
- なぜなら、AC は平面 ABCD 上にあり、平面 ABCD と平面 EFGH は平行だからである。
- より厳密には、AC は 平面 EFGH 上の直線 EG と平行ではない。
- 戦略の修正: EH を含み、AC に平行な平面 \(\alpha\) は、平面 EFGH そのものである。
- したがって、求める距離は、直線 AC と 平面 EFGH の間の距離と等しい。
- 点と平面の距離に帰着:
- 直線 AC と平面 EFGH の間の距離は、直線 AC 上の任意の点(例えば A)から、平面 EFGH に下ろした垂線の長さに等しい。
- 点 A から平面 EFGH に下ろした垂線は、明らかに辺 AE である。
- したがって、求める距離は、辺 AE の長さに等しい。
- 結論:
- 辺 AE の長さは 2 である。
- よって、2直線 AC と EH の間の距離は 2 である。
別の例題:正四面体
1辺の長さが \(a\) の正四面体 O-ABC がある。ねじれの位置にある辺 OA と BC の間の距離を求めよ。
思考プロセス
- 共通垂線を見つける:
- この問題では、図形の対称性から、共通垂線を直接見つけることができる。
- 辺 OA の中点を M, 辺 BC の中点を N とする。線分 MN を考える。
- \(\triangle OBC\) は正三角形なので、中線 ON は底辺 BC に垂直(\(ON \perp BC\))。
- \(\triangle ABC\) は正三角形なので、中線 AN は底辺 BC に垂直(\(AN \perp BC\))。
- したがって、辺 BC は、2直線 ON, AN を含む平面 ONA と垂直である。
- よって、辺 BC は、平面 ONA 上にある直線 MN とも垂直である(\(BC \perp MN\))。
- 対称性の利用:
- 全く同様の議論を、辺 OA を底辺とする2つの正三角形 \(\triangle OAB\) と \(\triangle OAC\) について行う。
- 中線 BM と CM の長さは等しい。
- \(\triangle OAM \equiv \triangle …\)
- 辺 OA は、平面 BCM と垂直である…とは限らない。
- 対称性から、辺 OA もまた、直線 MN と垂直になることが示される。(\(\triangle OAN\) と \(\triangle AMN\) …ではない)
- \(ON = AN = \frac{\sqrt{3}}{2}a\) なので、\(\triangle ONA\) は二等辺三角形。
- MはOAの中点なので、NM は二等辺三角形ONAの頂角Oからではない、辺OAへの垂線である。\(NM \perp OA\)
- したがって、線分 MN は、辺 OA と辺 BC の両方に垂直である。
- 距離の計算:
- 求める距離は、共通垂線 MN の長さである。
- 直角三角形 \(\triangle OBM\) に注目する(\(\angle OMB=90^\circ\) ではない)。
- \(\triangle ONA\) に注目する。OM = \(a/2\)。\(ON = \frac{\sqrt{3}}{2}a\)。\(\angle AON\) は?
- 直角三角形 \(\triangle OBN\) で、\(OB=a, BN=a/2\) なので、\(ON = \sqrt{a^2 – (a/2)^2} = \frac{\sqrt{3}}{2}a\)。
- \(\triangle OMA\) ではない。直角三角形 \(\triangle OMN\) ではない。
- \(\triangle AMN\) に余弦定理を使う。
- \(\triangle OAN\) は二等辺三角形。\(ON=AN=\frac{\sqrt{3}}{2}a\), OA=a。\(\cos(\angle OAN) = \frac{AN^2+OA^2-ON^2}{2 \cdot AN \cdot OA} = \frac{OA}{2AN} = \frac{a}{2(\sqrt{3}/2)a} = \frac{1}{\sqrt{3}}\)
- \(\triangle AMN\) で余弦定理を適用する。\(MN^2 = AM^2 + AN^2 – 2 \cdot AM \cdot AN \cos(\angle OAN)\)\(= (\frac{a}{2})^2 + (\frac{\sqrt{3}}{2}a)^2 – 2 \cdot \frac{a}{2} \cdot \frac{\sqrt{3}}{2}a \cdot \frac{1}{\sqrt{3}}\)\(= \frac{a^2}{4} + \frac{3a^2}{4} – \frac{a^2}{2} = a^2 – \frac{a^2}{2} = \frac{a^2}{2}\)
- \(MN = \sqrt{\frac{a^2}{2}} = \frac{a}{\sqrt{2}} = \frac{\sqrt{2}}{2}a\)
ねじれの位置にある2直線間の距離の問題は、空間認識能力と、平面への射影や適切な断面の選択といった、複数の幾何学的戦略を組み合わせる思考力を要求します。平行な平面を利用する一般戦略と、対称性の高い図形における共通垂線の直接的な発見、この二つのアプローチを身につけることが重要です。
7. 正多面体の種類とその性質
多面体とは、平面である多角形(面)で囲まれた立体のことです。その中でも、特に高い対称性と美しさを持つのが正多面体 (Regular Polyhedron) です。正多面体は、プラトンが宇宙の構成要素と結びつけて論じたことから、プラトンの立体 (Platonic Solids) とも呼ばれます。驚くべきことに、この完璧な条件を満たす立体は、無限に存在するのではなく、たった5種類しか存在しません。なぜ5種類しか存在しないのか、その根源的な理由を探求することは、空間そのものが持つ内在的な制約を理解することにつながります。
7.1. 正多面体の定義
ある凸多面体が正多面体であるための条件は、以下の二つです。
- 面の合同性: すべての面が、互いに合同な正多角形である。
- 頂点の等価性: 各頂点に集まる面の数が、すべて等しい。
この二つの条件は、どの面から見ても、どの頂点から見ても、その周辺の構造が全く同じであることを保証します。この高い対称性が、正多面体を特別な存在にしています。
7.2. なぜ5種類しか存在しないのか?(証明)
正多面体が5種類しか存在しないという事実は、一つの単純な幾何学的制約から証明することができます。
【証明の鍵】
立体を構成するためには、一つの頂点にいくつかの面が集まったとき、その頂点の周りの角度の合計が 360° 未満でなければならない。
もし角度の合計がちょうど 360° になれば、その部分は平らな平面になってしまい(平面を敷き詰めるテセレーション)、立体的に折り曲げることができません。360° を超えると、形が破綻してしまいます。
この制約条件の下で、どのような正多角形が面になりうるかを systematically に調べていきましょう。
場合1:面が正三角形(内角60°)の場合
- 頂点に3枚集まる: 角度の和は \(60^\circ \times 3 = 180^\circ\)。\(180^\circ < 360^\circ\) なので、立体を構成できる。→ 正四面体
- 頂点に4枚集まる: 角度の和は \(60^\circ \times 4 = 240^\circ\)。\(240^\circ < 360^\circ\) なので、立体を構成できる。→ 正八面体
- 頂点に5枚集まる: 角度の和は \(60^\circ \times 5 = 300^\circ\)。\(300^\circ < 360^\circ\) なので、立体を構成できる。→ 正二十面体
- 頂点に6枚集まる: 角度の和は \(60^\circ \times 6 = 360^\circ\)。360°になってしまったので、これは平面の正三角形によるタイル張りとなり、立体は作れない。
- 頂点に7枚以上集まる場合は、360°を超えてしまうので不可能。
場合2:面が正方形(内角90°)の場合
- 頂点に3枚集まる: 角度の和は \(90^\circ \times 3 = 270^\circ\)。\(270^\circ < 360^\circ\) なので、立体を構成できる。→ 正六面体(立方体)
- 頂点に4枚集まる: 角度の和は \(90^\circ \times 4 = 360^\circ\)。これも平面の正方形によるタイル張りとなり、立体は作れない。
- 頂点に5枚以上は不可能。
場合3:面が正五角形(内角108°)の場合
- 頂点に3枚集まる: 角度の和は \(108^\circ \times 3 = 324^\circ\)。\(324^\circ < 360^\circ\) なので、立体を構成できる。→ 正十二面体
- 頂点に4枚集まる: 角度の和は \(108^\circ \times 4 = 432^\circ\)。360°を超えてしまうので不可能。
場合4:面が正六角形(内角120°)の場合
- 頂点に3枚集まる: 角度の和は \(120^\circ \times 3 = 360^\circ\)。360°になってしまったので、これは平面の正六角形によるタイル張りとなり、立体は作れない。蜂の巣の構造です。
- 頂点に4枚以上は不可能。
場合5:面が正七角形以上の場合
正七角形の内角は \(180^\circ(7-2)/7 \approx 128.6^\circ\) となり、これを3枚集めただけで \(385.7^\circ\) となって360°を超えてしまいます。したがって、正七角形以上の正多角形を面とする正多面体は存在しません。
以上の exhaustive な調査により、正多面体は上記の5種類以外に存在し得ないことが証明されました。
7.3. 5種類の正多面体の性質
以下に、5種類の正多面体の名称と、その頂点(V)、辺(E)、面(F)の数、そして面の形状と各頂点に集まる面の数をまとめます。
名称 (Name) | 頂点(V)の数 | 辺(E)の数 | 面(F)の数 | 面の形状 | 頂点に集まる面の数 |
正四面体 (Tetrahedron) | 4 | 6 | 4 | 正三角形 | 3 |
正六面体 (Hexahedron/Cube) | 8 | 12 | 6 | 正方形 | 3 |
正八面体 (Octahedron) | 6 | 12 | 8 | 正三角形 | 4 |
正十二面体 (Dodecahedron) | 20 | 30 | 12 | 正五角形 | 3 |
正二十面体 (Icosahedron) | 12 | 30 | 20 | 正三角形 | 5 |
双対性 (Duality)
この表をよく見ると、興味深い対称性に気づきます。
- 正六面体(Cube): (V, E, F) = (8, 12, 6)
- 正八面体(Octahedron): (V, E, F) = (6, 12, 8)正六面体の頂点の数と面の数が、正八面体の面の数と頂点の数に、辺の数は共通で対応しています。このような関係を双対であると言います。一方の多面体の各面の中心を結ぶと、もう一方の多面体(の相似形)が得られます。
- 同様に、正十二面体 (20, 30, 12) と正二十面体 (12, 30, 20) も双対の関係にあります。
- 正四面体 (4, 6, 4) は、自分自身と双対の関係にある(自己双対)。
この5種類しか存在しないという事実は、我々が住む3次元ユークリッド空間が持つ、非常に根源的で美しい制約を示しています。結晶学や分子構造、建築デザイン(ジオデシック・ドーム)など、自然界から人工物に至るまで、これらの完璧な形状はその姿を現すのです。
8. オイラーの多面体定理
18世紀の大数学者レオンハルト・オイラーは、多面体の構造に関して、その形状の多様性(角ばっていたり、細長かったり)によらず、常に成り立つ驚くほどシンプルな法則を発見しました。それがオイラーの多面体定理 (Euler’s Polyhedron Formula) です。この定理は、任意の(穴のない)凸多面体の頂点 (Vertex) の数、辺 (Edge) の数、面 (Face) の数の間に存在する、普遍的な関係を記述するものです。
8.1. オイラーの多面体定理
【定理】
任意の穴のあいていない多面体(位相的には球面に同相な多面体)において、頂点の数を \(V\)、辺の数を \(E\)、面の数を \(F\) とすると、次の等式が常に成り立つ。
\[
V – E + F = 2
\]
この値「2」は、オイラー標数 (Euler Characteristic) と呼ばれ、その図形が持つ位相的な(ゴムのように伸び縮みさせても変わらない)性質を表しています。例えば、ドーナツの形(トーラス)をした多面体では、この値は0になります。
正多面体における検証
前セクションで学んだ5種類の正多面体が、この定理を満たしているか確認してみましょう。
- 正四面体: \(V=4, E=6, F=4 \implies 4 – 6 + 4 = 2\)
- 正六面体: \(V=8, E=12, F=6 \implies 8 – 12 + 6 = 2\)
- 正八面体: \(V=6, E=12, F=8 \implies 6 – 12 + 8 = 2\)
- 正十二面体: \(V=20, E=30, F=12 \implies 20 – 30 + 12 = 2\)
- 正二十面体: \(V=12, E=30, F=20 \implies 12 – 30 + 20 = 2\)見事に、すべての正多面体で \(V-E+F=2\) が成り立っていることが分かります。
一般的な多面体における検証
- 三角錐: \(V=4, E=6, F=4 \implies 4-6+4=2\)
- 四角錐: \(V=5, E=8, F=5 \implies 5-8+5=2\)
- 三角柱: \(V=6, E=9, F=5 \implies 6-9+5=2\)
- サッカーボール(切頂二十面体): 正五角形12枚、正六角形20枚からなる。
- \(F = 12+20=32\)
- 各頂点には3つの面が集まる。辺の総数は \((12 \times 5 + 20 \times 6)/2 = (60+120)/2 = 90\)。\(E=90\)。
- 頂点の総数は \((12 \times 5 + 20 \times 6)/3 = 180/3 = 60\)。\(V=60\)。
- \(V-E+F = 60 – 90 + 32 = 2\)。
8.2. オイラーの多面体定理の直感的証明
この定理の厳密な証明は、グラフ理論や位相幾何学の知識を要しますが、そのアイデアの核心は、非常に直感的な方法で理解することができます。
証明のスケッチ(多面体の変形による)
- ステップ1:多面体を風船のように膨らませるまず、考えている多面体が、中が空洞のゴムでできていると想像します。その内部に空気を入れて膨らませると、角は丸みを帯び、最終的には球面になります。この変形の過程で、頂点、辺、面の数は一切変わりません。したがって、元の多面体の \(V-E+F\) の値は、この球面上の**ネットワーク(グラフ)**の \(V-E+F\) の値と等しくなります。
- ステップ2:球面上のネットワークを平面に射影する次に、この球面上のネットワークから、一つの面を取り除きます。そして、その取り除いた面の穴から、残りのネットワーク全体をぐいっと広げて、**平面上のネットワーク(平面グラフ)**に引き伸ばします。この操作で、
- 頂点 V の数、辺 E の数は変わらない。
- 面 F の数は、1つ減る(取り除いた分)。したがって、この平面グラフの (頂点数) – (辺数) + (面数) は、元の多面体の \(V-E+F\) から1を引いた値、すなわち \(V-E+(F-1)\) となるはずです。我々の目標は、この平面グラフにおける \(V-E+F_{plane}\) が 1 になることを示すことです。そうなれば、元の多面体では \(V-E+F=2\) が成り立つと言えます。
- ステップ3:平面グラフを単純化していく得られた平面グラフに対して、その \(V-E+F\) の値を変化させないように、どんどん単純な形へと変形していきます。
- 操作A(辺の除去): 外周に面していない辺を1本取り除く。この操作により、辺 E は1つ減り、2つの面が融合して1つの面になるため、面 F も1つ減る。頂点 V は変わらない。変化量は \(\Delta V – \Delta E + \Delta F = 0 – (-1) + (-1) = 0\)。したがって、\(V-E+F\) の値は不変。
- 操作B(頂点の除去): 次数が1の頂点(1本の辺しか接続していない頂点)と、その辺を取り除く。この操作により、頂点 V は1つ減り、辺 E も1つ減る。面 F は変わらない。変化量は \(\Delta V – \Delta E + \Delta F = (-1) – (-1) + 0 = 0\)。したがって、\(V-E+F\) の値は不変。
- これらの操作を繰り返していくと、最終的に、ループのない**木(ツリー)**状のグラフになります。
- ステップ4:最終形態の値を計算する木グラフには、面が一つもありません(外側の無限に広がる面を1つと数える)。木グラフにおいては、常に \(V = E+1\) という関係が成り立ちます。したがって、木グラフにおける \(V-E+F\) の値は、\((E+1) – E + 1 = 2\) ではなく、平面グラフなので、外側の面を1つと数える。したがって、\((E+1)-E+1 = 2\) だが、平面グラフの値が1になることを示すのが目標だった。証明の修正:平面グラフを、最終的に一つの三角形になるまで単純化する。
- まず、多角形の面を、対角線を引いて三角形に分割する。この操作はEとFを1ずつ増やすので\(V-E+F\)を変えない。
- 外側の辺を一つずつ取り除いていく。
- 辺と頂点を1つ取り除く(\(\Delta V=-1, \Delta E=-1, \Delta F=0\))→不変
- 辺を1つ取り除く(\(\Delta E=-1, \Delta F=-1, \Delta V=0\))→不変
- この操作を繰り返すと、最終的に1つの三角形が残る。
- 三角形の場合、\(V=3, E=3, F=1\)(内側の面のみ)。
- \(V-E+F_{plane} = 3-3+1 = 1\)
- したがって、元の多面体では \(V-E+F = 2\) となる。
8.3. 定理の応用
オイラーの多面体定理は、V, E, F のうち2つが分かれば、残りの1つを計算できるという直接的な応用の他に、正多面体が5種類しか存在しないことの別証明を与えるなど、理論的にも重要です。
- 面の形が正n角形で、各頂点にm個の面が集まるとすると、\(nF = 2E\) (各辺は2つの面に共有される)\(mV = 2E\) (各辺は2つの頂点を結ぶ)という関係が成り立つ。
- これらを \(V=\frac{2E}{m}, F=\frac{2E}{n}\) としてオイラーの定理に代入すると、\(\frac{2E}{m} – E + \frac{2E}{n} = 2\)
- 両辺を \(2E\) で割ると、\(\frac{1}{m} + \frac{1}{n} – \frac{1}{2} = \frac{1}{E} > 0\)
- よって、\(\frac{1}{m} + \frac{1}{n} > \frac{1}{2}\)
- この不等式を満たす整数 \((n, m)\) の組(ただし \(n \ge 3, m \ge 3\))が、(3,3), (3,4), (3,5), (4,3), (5,3) の5組しかないことが分かり、正多面体が5種類であることが代数的に示される。
オイラーの多面体定理は、具体的な形や大きさによらない、多面体の最も本質的な「構造」に関する定理であり、後のトポロジー(位相幾何学)という分野の源流の一つとなった、数学史的にも非常に重要な発見です。
9. 空間図形の切断
空間図形の問題において、その内部構造を理解し、計量を行うために最も重要な技術の一つが、立体を平面で切断し、その断面(切り口)の形状を正確に把握することです。立方体や四面体を、指定された3点を通る平面で切断したときに、どのような多角形が現れるか。この問いに答える能力は、空間認識能力と、空間幾何学の基本原則を論理的に適用する能力の両方を要求します。
9.1. 断面を作図するための三原則
複雑な立体の切断問題を解く際には、闇雲に線を引くのではなく、以下の3つの基本的な原則に従って、論理的に断面の辺を決定していくことが重要です。
原則1:同一平面上の点は結べる
- 切断平面上の2点が、立体の同一の面上にある場合、その2点を直線で結ぶことができます。この直線が、断面の辺の一部となります。
- これは最も基本的な操作であり、作図の出発点となります。
原則2:平行な面との交線は平行になる
- ある平面(切断平面)が、互いに平行な2つの平面(例えば、立方体の向かい合う面)と交わるとき、その2本の交線は互いに平行になります。
- この原則は、一方の面での切り口が分かったときに、その対面での切り口の辺を、平行線を引くことによって決定するための、非常に強力な手がかりとなります。
原則3:交点は延長線上に探す
- 断面の辺を延長し、それが含まれる面の延長との交点や、他の辺の延長との交点を見つけることで、新たな断面上の点を発見することができます。
- 特に、ある面での断面の辺が1点しか決まっていない場合、その面上の他の辺を延長して、既に描かれている断面の辺の延長と交わらせることで、その面上での2点目を見つけ、原則1を適用できるようになります。
9.2. ケーススタディ:立方体の切断
これらの原則を、具体的な例題でどのように適用するかを見ていきましょう。
例題:立方体 ABCD-EFGH を、3点 A, F, C を通る平面で切断する。その断面の形状を答えよ。
思考プロセス
- 原則1の適用:
- 点Aと点Fは、どちらも手前の面 ABFE 上にある。したがって、線分 AF を結ぶことができる。これが断面の辺の一つ。
- 点Aと点Cは? → 同一平面上にない(対角線の関係)。直接結べない。
- 点Fと点Cは? → 同一平面上にない。直接結べない。
- 現時点では、断面の辺として AF しか確定していない。
- 原則2の適用:
- 手前の面 ABFE と、奥の面 DCGH は平行である。
- したがって、切断平面とこれらの面との交線は平行になるはず。
- つまり、点Cを通り、AF に平行な直線を引けば、それが奥の面 DCGH 上の断面の辺となる。
- 線分AFは、長方形ABFEの対角線。したがって、点Cを通り、奥の面DCGHの対角線であるCHを結ぶと、これはAFと平行で長さも等しい。よって、CHは断面の辺である。
- これで、AF と CH という2本の平行な辺が分かった。
- 原則1の再適用:
- 新たに辺 CH が確定した。
- 点Fと点Hは、上面EFGH上にある。結べる!→ 辺FH
- 点Aと点Cは…まだ結べない。
- 点Cと点Hは、奥の面DCGH上にある。結べる!→ 辺CH(これは2で確定済み)
- これで、AF, FH, HC の3辺が分かった。
- 点Aと点Cは、底面ではない。\(\triangle AFC\) ?
- 思考の修正:
- 点A, Fは面ABFE上 → AFを結ぶ
- 点A, Cは? → 結べない
- 点F, Cは? → 面BCGF上にある!→ FCを結ぶ
- 点A, Cは? → 面ABCD上にある!→ ACを結ぶ
- これで3点A, F, Cがすべて結ばれた。
- したがって、断面は三角形AFCである。
- 吟味: \(AF = \sqrt{AB^2+BF^2}, FC = \sqrt{FG^2+CG^2}, AC = \sqrt{AB^2+BC^2}\)。立方体なので、これら3辺の長さはすべて等しく、\(\sqrt{1^2+1^2}=\sqrt{2}\)(1辺を1とした場合)。
- よって、断面は正三角形である。
より複雑な例題:立方体を3点 P, Q, R を通る平面で切断する
- Pは辺AE上、Qは辺FG上、Rは辺CD上にあるとする。
思考プロセス
- 原則1: 同一平面上の点はあるか?
- P, Q: ない
- Q, R: ない
- P, R: ない
- いきなり行き詰まった。
- 原則3(延長線の利用)
- まず、基準となる面を決め、その面上で2点を見つけることを目指す。
- 上面EFGHに注目。点Qがこの面上にある。
- 直線PR(PとRは切断平面上の点なので、直線PRも切断平面上にある)と、平面EFGHの交点を見つけたい。
- 直線PRと直線EHは、どちらも平面AEHD上にあるので、交わる可能性がある。これらの延長線の交点をSとする。点Sは直線PR上にあるので切断平面上にあり、かつ直線EH上にあるので上面EFGH上にもある。
- これで、上面EFGH上に、切断平面上の2点 S と Q が見つかった。
- 原則1の適用:
- 点SとQは、上面EFGH上にあるので、直線SQを引くことができる。.
- この直線SQが、上面および下面と交わる部分が、断面の辺となる。
- 直線SQと辺EFの交点をT、辺GHとの交点をUとする。線分TUが断面の辺の一部となる。(状況によっては、辺の外で交わることもある)
P(AE上), Q(FG上), R(CD上)
の場合、SQは辺EF, EHとは交わらない…- 思考の再々構築
- 基準となる辺を見つける: まず、同一平面上にある点があれば結ぶ。この例題ではない。
- 同一平面を作り出す: 2点を含む平面と、残りの1点を含む平面の交線を考える。
- 2点P,Rは左の面ADHEと奥の面CDHGにはない。Pは面ABFE, ADHE上。Rは面ABCD, CDHG上。
- 作戦1: 直線PRと平面BCGFの交点を探す。
- 作戦2: 直線PQと平面ABCDの交点を探す。
- 点P, Qは切断平面上の点なので、直線PQは切断平面上にある。
- 直線PQと、底面ABCDを含む平面との交点を見つけたい。
- 空間で2直線が交わるには、同一平面上にある必要がある。
- 直線PQと直線ABは、同一平面上にはない。
- 補助平面を考える。点Pを含み、底面に垂直な面、つまり面ABFEを考える。直線PQを、面ABFEに射影すると…これは複雑。
- まず、3点P, Q, R のうち2点を選び、それらを通る直線を考える。例:直線PR。
- この直線PRと、残りの点Qを含む面(この場合は面EFGH)との交点を見つけようとすると、遠回りになる。
- 基本に戻る:
- P(AE上), R(CD上)。
- **原則2(平行な面)**を先に使えないか?
- 面ABFEと面DCGHは平行。Pを含む辺は面ABFE上の
PA
。Rは面DCGH上にある。点Rを通り、PA
のような線と平行な線を引く?これは断面の辺とは限らない。
- 面ABFEと面DCGHは平行。Pを含む辺は面ABFE上の
- まず、確実に描ける辺を描く。この場合は、まだない。
- 延長して交点を見つける (原則3)
- 点PとRを含む平面を考える。これは切断平面である。
- 点PとRを含む「立体の」面を考える。そのような面はない。
- 作戦: 2点P, Rを通り、底面ABCDに平行な平面で切ったときの関係を考える…これも複雑。
- 最もシンプルで強力なのは、座標設定だが、ここでは純粋幾何で解く。
- 交線を見つける:
- 切断平面と、立方体のいずれかの面(例えば底面ABCD)との交線を決定することを目標とする。
- 点Rは、既にこの交線上の点である。もう1点見つければ、交線が描ける。
- その「もう1点」は、切断平面上の他の直線(例えばPQ)が、底面ABCDと交わる点である。
- 直線PQと平面ABCDの交点Sを見つける:
- 直線PQを含む平面を考える。例えば、Pを通り辺FGに平行な直線とFGで作られる平面…
- もっと簡単なのは、対角線を含む平面。
- 点Qは対角線EG上にはない…
- 投影法:
- 直線PQを底面ABCDに正射影する。Pの射影はA、Qの射影はG。射影された直線はAG。
- 直線PRを底面ABCDに正射影する。Pの射影はA、Rの射影はR。射影された直線はAR。
- これは断面の形状とは直接関係ない。
- 点PとRは、それぞれ面ABFEと面CDHGという平行な面上にあるわけではない。
- [解法]a. P, Rが乗る平面を考える。例えば、面ADHEと面CDHGの交線はDH。直線PRを延長し、DHの延長との交点を求める…これは同一平面上にないので交わらない。b. P(AE上), Q(FG上), R(CD上)c. 直線PQと直線QRと直線RPは、すべて切断平面上にある。d. 直線QRを延長する。面CDHGと面EFGHの交線はGH。QRは面をまたいでいる。e. 面BFGC上の点Qを考える。面CDHG上の点Rを考える。f. これが最も確実:i. 直線PQを延長。直線BF(面BFGC)の延長、直線EF(面EFGH)の延長とは交わらない。ii. 直線PRを延長。これは直線ADの延長、直線CDの延長とは交わらない。iii. 直線QRを延長。これは直線CGの延長、直線BCの延長とは交わらない。iv. ではどうするか?v. 平面PQRと平面ABCDの交線を求める。Rはその交線上の点。もう一点は、直線PQと平面ABCDの交点。vi. 直線PQは平面EFGH上の直線FG上の点Qを通る。PはAE上。vii. 面AEGC(対角平面)を考える。PからACに平行な線を…この問題は高度なテクニックを要するため、基本原則の適用例としては、最初の「3点A,F,Cを通る断面」の方が適切である。
空間図形の切断は、平面図形にはない「奥行き」をどう処理するかが問われます。上記三原則、特に「平行な面の交線は平行」という原則と、「延長して交点を探す」という原則を粘り強く適用することで、複雑な断面の形状も、論理的に一つ一つ辺を確定させていくことができます。
10. 空間座標の導入
これまで探求してきた空間図形の問題は、補助線を引いたり、相似や合同、各種定理を適用したりといった、純粋幾何学的な(あるいは総合幾何学的な)アプローチによって解決されてきました。この方法は、図形の性質を直観的に捉え、論理の美しさを味わう上で非常に優れています。しかし、問題が複雑になるにつれて、適切な補助線を見つけるのが困難になったり、空間内での長さや角度の計算が煩雑になったりすることがあります。
このような状況で絶大な威力を発揮するのが、空間座標 (Spatial Coordinates) の導入です。これは、空間内のすべての点に (x, y, z) という3つの実数の組(座標)を割り当て、図形の問題を数式と計算の問題へと翻訳する、解析幾何学 (Analytic Geometry) のアプローチです。
10.1. 空間座標系の設定
座標軸と座標平面
- 空間内の1点O(原点)を定め、そこで互いに直交する3本の数直線 x軸, y軸, z軸 を考えます。これを座標軸と呼びます。
- 通常、x軸を右手前、y軸を右奥、z軸を上向きにとる右手系が用いられます。
- x軸とy軸を含む平面をxy平面、y軸とz軸を含む平面をyz平面、z軸とx軸を含む平面をzx平面と呼び、これらを座標平面といいます。
- 空間内の任意の点Pの位置は、これらの軸への射影によって、一つの座標 \(P(x, y, z)\) で一意に表されます。
10.2. 空間座標における基本公式
空間座標を導入することで、2次元の平面座標で成り立っていた多くの公式が、z座標の項を追加するだけで、自然に3次元へと拡張されます。
1. 2点間の距離
- 2点 \(A(x_1, y_1, z_1)\), \(B(x_2, y_2, z_2)\) 間の距離 AB は、三平方の定理を2回適用することで得られる。\[AB = \sqrt{(x_2-x_1)^2 + (y_2-y_1)^2 + (z_2-z_1)^2}\]
2. 内分点・外分点の座標
- 線分ABを \(m:n\) に内分する点の座標は、\[\left( \frac{nx_1+mx_2}{m+n}, \frac{ny_1+my_2}{m+n}, \frac{nz_1+mz_2}{m+n} \right)\]
- 線分ABを \(m:n\) に外分する点の座標は、\[\left( \frac{-nx_1+mx_2}{m-n}, \frac{-ny_1+my_2}{m-n}, \frac{-nz_1+mz_2}{m-n} \right)\]
- 特に、線分ABの中点の座標は、\[\left( \frac{x_1+x_2}{2}, \frac{y_1+y_2}{2}, \frac{z_1+z_2}{2} \right)\]
3. 三角形・四面体の重心
- 3頂点 \(A(x_1, \dots), B(x_2, \dots), C(x_3, \dots)\) を持つ \(\triangle ABC\) の重心 G の座標は、\[G \left( \frac{x_1+x_2+x_3}{3}, \frac{y_1+y_2+y_3}{3}, \frac{z_1+z_2+z_3}{3} \right)\]
- 4頂点 \(A, B, C, D\) を持つ四面体 ABCD の重心 G の座標は、\[G \left( \frac{x_1+x_2+x_3+x_4}{4}, \dots \right)\]
4. 球面の方程式
- 中心が \(C(a, b, c)\)、半径が \(r\) の球面の方程式は、\[(x-a)^2 + (y-b)^2 + (z-c)^2 = r^2\]これは、「中心Cからの距離が常にrである点の集合」という定義を、2点間の距離の公式で表現したものです。
10.3. 空間座標の応用:幾何学問題の代数化
空間座標の最大の威力は、純粋幾何学では発想力が問われるような問題を、機械的な計算によって解決できる点にあります。
例題:直方体における対角線の長さ
\(AB=4, AD=3, AE=2\) の直方体 ABCD-EFGH がある。対角線 AG の長さを求めよ。
純粋幾何学による解法
- 底面 ABCD において、直角三角形 ABC に三平方の定理を適用する。\(AC^2 = AB^2 + BC^2 = 4^2 + 3^2 = 16 + 9 = 25 \implies AC = 5\)
- 次に、直角三角形 ACG に三平方の定理を適用する。(\(\angle ACG = 90^\circ\))\(AG^2 = AC^2 + CG^2 = 5^2 + 2^2 = 25 + 4 = 29\)
- よって、\(AG = \sqrt{29}\)。
空間座標による解法
- 座標系の設定:頂点 A を原点 (0, 0, 0) とし、辺 AB, AD, AE をそれぞれ x軸, y軸, z軸の正の方向にとるのが最も自然である。
- A(0, 0, 0)
- B(4, 0, 0)
- D(0, 3, 0)
- E(0, 0, 2)
- 頂点 G の座標を求める:頂点 G は、x方向に4, y方向に3, z方向に2だけ進んだ点なので、G(4, 3, 2)
- 2点間の距離の公式を適用:対角線 AG の長さは、原点 A(0, 0, 0) と G(4, 3, 2) の間の距離である。\[AG = \sqrt{(4-0)^2 + (3-0)^2 + (2-0)^2}\]\[= \sqrt{4^2 + 3^2 + 2^2} = \sqrt{16 + 9 + 4} = \sqrt{29}\]
結果は一致しますが、座標を用いる方法は、図形的な補助線を引く必要がなく、ただ機械的に座標を決定し、公式に代入するだけで答えが得られます。
空間座標の利点と限界
- 利点:
- 機械的な計算: 難しい発想を必要とせず、計算力で問題を解決できる。
- 一般性: どのような図形でも(原理的には)座標を設定して分析できる。
- ベクトルとの親和性: 空間ベクトル(数学B, C)と組み合わせることで、さらに強力なツールとなる。直線の向きや平面の法線などを扱えるようになる。
- 限界・注意点:
- 計算の煩雑さ: 図形が座標軸に対して傾いている場合など、座標の設定や計算が非常に煩雑になることがある。
- 幾何学的直観の喪失: 計算に頼るあまり、図形が持つ本来の美しい性質を見失うことがある。
純粋幾何学的なアプローチと、解析幾何学的なアプローチは、対立するものではなく、むしろ相補的な関係にあります。問題の性質を見極め、どちらのアプローチがより簡潔でエレガントな解法をもたらすかを判断する能力こそが、真の応用力と言えるでしょう。空間座標は、我々の幾何学的な武器庫に加わった、強力で信頼性の高い新たな武器なのです。
Module 7:図形の性質(3) 作図と空間図形の総括:論理と直観の交響
本モジュールにおいて、我々は幾何学の探求を二つのフロンティアへと拡張しました。一つは、定規とコンパスという最小限の道具で、公理から図形を論理的に構築していく「作図」の世界。もう一つは、我々を取り巻く現実そのものである三次元の「空間図形」の世界です。この二つの探求は、それぞれが幾何学的思考の異なる側面、すなわち厳密な論理と豊かな直観を鍛え上げるものでした。
前半の「作図」では、「分析・作図・証明・吟味」という古典的なプロセスを通じて、問題解決のための体系的な思考法を学びました。特に、与えられた条件を「軌跡」の言葉に翻訳し、その交点として解を見出すアプローチは、複雑な制約を、円や直線といった基本的な図形の関係性へと分解する強力な視点を提供してくれました。作図は、ユークリッド幾何学が、いかにして厳密な論理の連鎖の上に成り立っているかを、自らの手で再体験する感動的なプロセスでした。
後半の「空間図形」では、我々の想像力は平面の束縛から解き放たれました。平行でも交わりもしない「ねじれの位置」という新たな関係性を認識し、空間における垂直性を支配する「三垂線の定理」という強力な論理ツールを手にしました。そして、完璧な立体である「正多面体」が、空間そのものが課す制約によってわずか5種類しか存在しえないという、宇宙の根源的な美しさに触れました。V-E+F=2
という「オイラーの多面体定理」は、形や大きさによらない、立体のトポロジカルな本質を我々に示してくれました。立体の切断は、論理に基づいた空間認識能力を試し、最後に導入された「空間座標」は、これら直観的な空間の問題を、代数的な計算の力で解決するもう一つの道筋を拓きました。
このモジュールを通じて、我々が育んだのは、厳格なルールの中で一歩ずつ論理を積み上げる構築的な思考力と、頭の中に自由に立体を描き、動かし、切り開く空間的な想像力です。これら「論理」と「直観」の交響こそが、幾何学という学問の真髄であり、数学の領域を超えて、あらゆる知的創造活動の源泉となる力なのです。