【基礎 数学(数学Ⅱ)】Module 4:図形と方程式(2) 円と軌跡
本モジュールの目的と構成
前モジュール「点と直線」で、私たちは座標平面という強力な舞台装置を手に入れ、幾何学の最も基本的な構成要素を代数の言葉で語る術を学びました。しかし、点と直線だけで描ける世界は、あまりにも整然としすぎています。自然界やデザイン、そして数学自身の内に見出される美しさは、しばしば「曲線」の内に宿っています。本モジュールでは、直線に次いで最も基本的かつ完全な図形である円を解析幾何学の俎上に載せ、その性質を徹底的に解き明かします。
「中心からの距離が一定である点の集まり」—この極めてシンプルな幾何学的定義が、\((x-a)^2+(y-b)^2=r^2\) という美しい二次方程式に翻訳される瞬間から、私たちの探求は始まります。円と直線の交わり、円に引かれる接線、そして二つの円が織りなす位置関係。これらすべてが、判別式や距離の公式といった代数的なツールによって、精密に分析され、分類されていきます。
そして、本モジュールの後半では、視点を大きく飛躍させます。特定の図形(円)を記述するだけに留まらず、「ある条件を満たす点の集まりは、どのような図形を描くのか?」という、より根源的な問い、すなわち軌跡の問題へと進みます。さらに、等式が描く「線」の世界から、不等式が描き出す領域という「面」の世界へと認識を拡張します。この領域という概念は、最適化問題(線形計画法)など、現実社会の問題解決にも直結する強力な応用分野を持っています。
Module 3が解析幾何学の「語彙」と「文法」を学ぶ場であったとすれば、本モジュールはそれらを駆使して美しい「詩」(円の方程式)を詠み、さらには自ら新しい「物語」(軌跡と領域)を創造する場です。ここで培われる、幾何学的な条件を代数的な式に変換し、それを解き明かす思考法は、解析幾何学の真髄であり、より高度な数学の世界を探求するための不可欠な羅針盤となるでしょう。
本モジュールは、具体的な図形の分析から、より一般的・抽象的な概念へと、以下のように論理的に展開していきます。
- 円の方程式(標準形、一般形): まず、円の幾何学的定義から、その方程式を導出し、中心と半径が一目でわかる「標準形」と、すべての円を表現できる「一般形」を学びます。
- 円と直線の位置関係(共有点): 円と直線という二つの異なる図形が、どのように関わり合うか(2点で交わる、接する、離れている)を、代数計算によって判別する二つの方法(判別式、中心と直線の距離)を探求します。
- 円の接線の方程式: 円との関係で最も重要な直線である「接線」の方程式を、与えられる条件(円周上の点、傾き、外部の点)に応じて求めるための体系的な手法を確立します。
- 2つの円の位置関係: 次に、二つの円同士の位置関係を、中心間の距離と半径の和・差を比較することで、5つのパターンに完全に分類します。
- 2つの円の交点を通る円・直線: Module 3で学んだ「束」の考え方を円に応用し、2円の交点の座標を計算することなく、その交点を通る新たな円や直線の方程式を求める洗練された技術を学びます。
- 軌跡と方程式: ここで視点を一般化し、「ある条件を満たす点の集合」すなわち軌跡の方程式を求めるための、普遍的な手順と思考法を確立します。
- パラメータを含む軌跡: 点の座標が媒介変数(パラメータ)によって与えられる場合の軌跡の求め方を学びます。パラメータを消去し、その動く範囲を考慮することが鍵となります。
- 不等式の表す領域: 等式が描く「線」から、不等式が表現する「面」すなわち領域へと概念を拡張します。円の内部・外部や直線の上下などを不等式で表現する方法を学びます。
- 線形計画法: 不等式が表す領域の応用として、制約条件下で特定の量の最大値・最小値を求める最適化問題である線形計画法の基本的な考え方と解法を探求します。
- 円に関する応用問題: 最後に、本モジュールで学んだ円に関するすべての知識を総動員して、より発展的で総合的な問題解決に挑みます。
この一連の学習は、静的な図形の分析から動的な軌跡の探求へ、そして方程式が描く線から不等式が描く領域へと、あなたの数学的視野を大きく広げるものとなるでしょう。
1. 円の方程式(標準形、一般形)
直線が「2点から等距離にある点の集まり(垂直二等分線)」や「傾きが一定の点の集まり」として特徴づけられるように、円 (circle) もまた、非常にシンプルで美しい幾何学的定義を持っています。それは、「平面上のある定点(中心)から、一定の距離(半径)にある点の集まり(軌跡)」というものです。
解析幾何学の最も重要な仕事は、このような幾何学的な定義を、座標平面上で代数的な方程式に翻訳することです。このセクションでは、円のこの基本的な定義と、Module 3で学んだ「2点間の距離の公式」だけを武器に、円の方程式を導出します。そして、その方程式が、中心と半径の情報を直接的に示す「標準形」と、展開されて一列に並んだ「一般形」という、二つの主要な表現形式を持つことを見ていきます。この二つの形式を自在に行き来する能力は、円に関するあらゆる問題を解くための基礎体力となります。
1.1. 円の方程式の標準形
円の方程式を導出するプロセスは、解析幾何学における「軌跡を求める」という行為の最も基本的な雛形です。
1.1.1. 公式の導出
- 条件の設定:円の中心となる定点を \(C(a, b)\)、一定の距離である半径を \(r\) (ただし \(r>0\))とします。この円周上にある任意の点を \(P(x, y)\) とします。
- 幾何学的条件の立式:円の定義によれば、点Pは、中心Cからの距離が常に \(r\) であるという条件を満たします。これを式で表すと、\[ CP = r \]
- 距離の公式の適用:左辺のCPは、2点 \(C(a, b)\) と \(P(x, y)\) の間の距離なので、「2点間の距離の公式」を用いて \(x, y, a, b\) の式で表すことができます。\[ \sqrt{(x-a)^2 + (y-b)^2} = r \]
- 方程式の完成:根号をなくすために両辺を2乗すると、円の方程式の最も基本的な形である「標準形」が得られます。
円の方程式の標準形
中心が点 \((a, b)\)、半径が \(r\) の円の方程式は、
\[ (x-a)^2 + (y-b)^2 = r^2 \]
特に、中心が原点 \((0, 0)\)、半径が \(r\) の円の方程式は、\(a=0, b=0\) を代入して、
\[ x^2 + y^2 = r^2 \]
となります。これは最もシンプルな円の方程式です。
【思考のポイント】
この標準形の方程式は、円の幾何学的な情報(中心と半径)を、そのままの形で保持しているという点で非常に優れています。\((x-a)^2\) の部分を見れば中心のx座標が \(a\) であることが、\(r^2\) の部分を見れば半径が \(r\) であることが、一目で読み取れます。
例題1:中心が (2, -3) で、半径が 5 の円の方程式を求めよ。
解法:
\(a=2, b=-3, r=5\) を標準形の公式に代入するだけです。
\[ (x-2)^2 + (y-(-3))^2 = 5^2 \]
\[ (x-2)^2 + (y+3)^2 = 25 \]
例題2:2点 A(1, 2), B(5, 4) を直径の両端とする円の方程式を求めよ。
思考プロセス:
円の方程式を決定するには、「中心」と「半径」の情報が必要です。
- 中心: 直径の両端がA, Bなので、円の中心は線分ABの中点である。
- 半径: 半径は、中心とA(またはB)との距離である。あるいは、直径ABの長さの半分である。
解法:
- 中心の座標を求める:中心は線分ABの中点なので、その座標は、\[ \left( \frac{1+5}{2}, \frac{2+4}{2} \right) = (3, 3) \]
- 半径を求める:半径 \(r\) は、中心(3, 3)と点A(1, 2)との距離なので、\(r^2 = (3-1)^2 + (3-2)^2 = 2^2 + 1^2 = 4+1=5\)よって、半径は \(r=\sqrt{5}\)。
- 方程式を立てる:中心(3, 3)、半径 \(\sqrt{5}\) の円なので、その方程式は、\[ (x-3)^2 + (y-3)^2 = (\sqrt{5})^2 \]\[ (x-3)^2 + (y-3)^2 = 5 \]
1.2. 円の方程式の一般形
円の標準形 \((x-a)^2 + (y-b)^2 = r^2\) を展開し、すべての項を左辺に集めて整理すると、
\[ (x^2-2ax+a^2) + (y^2-2by+b^2) – r^2 = 0 \]
\[ x^2+y^2-2ax-2by+(a^2+b^2-r^2) = 0 \]
ここで、\(-2a=l, -2b=m, a^2+b^2-r^2=n\) とおくと、
\[ x^2+y^2+lx+my+n=0 \]
という形の方程式が得られます。これを円の方程式の一般形と呼びます。
1.2.1. 一般形から標準形への変換(平方完成)
一般形の利点は、展開されて整理されているため、式として扱いやすい場合があることです。しかし、この形から円の中心や半径を読み取ることはできません。一般形から円の幾何学的な情報を得るためには、平方完成を行って標準形に戻す操作が不可欠です。
例題3:方程式 \(x^2+y^2-6x+4y-12=0\) が表す図形を求めよ。
解法:
xについての項とyについての項をそれぞれ集め、平方完成を行います。
- 項のグループ化:\((x^2-6x) + (y^2+4y) – 12 = 0\)
- 平方完成:\({x^2-6x+(\frac{-6}{2})^2} – (\frac{-6}{2})^2 + {y^2+4y+(\frac{4}{2})^2} – (\frac{4}{2})^2 – 12 = 0\)\({x-3}^2 – 9 + {y+2}^2 – 4 – 12 = 0\)
- 標準形への整理:\((x-3)^2 + (y+2)^2 – 25 = 0\)\[ (x-3)^2 + (y+2)^2 = 25 = 5^2 \]この結果、与えられた方程式は、中心が (3, -2)、半径が 5 の円を表すことがわかります。
1.2.2. 方程式が円を表すための条件
一般形のすべての方程式 \(x^2+y^2+lx+my+n=0\) が円を表すとは限りません。
平方完成のプロセスを一般的に見てみましょう。
\[ (x^2+lx) + (y^2+my) + n = 0 \]
\[ (x+\frac{l}{2})^2 – (\frac{l}{2})^2 + (y+\frac{m}{2})^2 – (\frac{m}{2})^2 + n = 0 \]
\[ (x+\frac{l}{2})^2 + (y+\frac{m}{2})^2 = \frac{l^2}{4}+\frac{m^2}{4}-n = \frac{l^2+m^2-4n}{4} \]
この式が円の方程式であるためには、右辺が半径の2乗 \(r^2\) に対応するので、正の数でなければなりません。
したがって、方程式 \(x^2+y^2+lx+my+n=0\) が円を表すための条件は、
\[ l^2+m^2-4n > 0 \]
となります。
もし \(l^2+m^2-4n=0\) であれば、方程式は \((x+l/2)^2+(y+m/2)^2=0\) となり、これを満たすのは点 \((-l/2, -m/2)\) のみなので、1点を表すことになります。
もし \(l^2+m^2-4n<0\) であれば、これを満たす実数 \(x,y\) の組は存在しないため、図形を表さないことになります。
また、より一般的な二次方程式 \(Ax^2+Bxy+Cy^2+Dx+Ey+F=0\) が円を表すためには、
- \(xy\) の項が存在しない(\(B=0\))
- \(x^2\) の係数と \(y^2\) の係数が等しい(\(A=C \neq 0\))という条件がまず必要になります。この条件を満たした上で、両辺をAで割って一般形に直し、上記の半径の条件を調べます。
1.3. まとめ:円の二つの顔
円の方程式は、その表現形式によって異なる「顔」を持っています。
- 標準形 \((x-a)^2+(y-b)^2=r^2\): 幾何学的な情報(中心、半径)を直感的に示す「解析の顔」。図形的な性質から方程式を立てたり、方程式から図をイメージしたりする際に非常に強力です。
- 一般形 \(x^2+y^2+lx+my+n=0\): 展開され整理された代数的な「計算の顔」。3点を通る円の方程式を求めるときや、複数の図形との関係を連立方程式で解く際に便利です。
解析幾何学において円を自在に扱うためには、状況に応じてこの二つの顔を使い分け、平方完成という操作によって両者をスムーズに行き来できる熟練度が求められます。
2. 円と直線の位置関係(共有点)
座標平面上で、円と直線という二つの基本的な図形が与えられたとき、それらの位置関係はどのように決まるのでしょうか。幾何学的に考えれば、その関係は「2点で交わる」「1点で接する」「共有点を持たない(離れている)」の3パターンに分類されることは明らかです。
解析幾何学の課題は、この視覚的な位置関係を、代数的な計算によって厳密に、そして機械的に判定する方法を確立することです。この判定には、大きく分けて二つのアプローチが存在します。一つは、両者の方程式を連立させて得られる2次方程式の解の個数を調べる「判別式」を用いる方法。もう一つは、円の中心と直線の距離を、円の半径と比較する、より幾何学的な「距離」を用いる方法です。これらの手法を理解し、使い分けることで、円と直線の関係を深く、そして効率的に分析することができます。
2.1. アプローチ1:判別式による判定
この方法は、円と直線の「共有点」が、両者の方程式を同時に満たす点、すなわち連立方程式の解であるという事実に基づいています。
判定手順
- 円の方程式と直線の方程式を連立させる。
- 円:\(x^2+y^2=r^2\) (簡単のため中心を原点とする)
- 直線:\(y=mx+c\)
- 直線の方程式を円の方程式に代入し、\(y\) を消去して \(x\) のみの方程式を作る。\(x^2+(mx+c)^2=r^2\)\(x^2+(m^2x^2+2mcx+c^2)=r^2\)\[ (1+m^2)x^2 + (2mc)x + (c^2-r^2) = 0 \]この方程式は、\(x\) に関する2次方程式です。
- この2次方程式の実数解の個数が、円と直線の共有点の個数に対応します。実数解の個数は、判別式 \(D\) の符号によって決まります。判別式 \(D = (2mc)^2 – 4(1+m^2)(c^2-r^2)\)
- 判別式の符号を調べる。
- \(D > 0\) \(\Leftrightarrow\) 異なる2つの実数解 \(\Leftrightarrow\) 共有点2個(2点で交わる)
- \(D = 0\) \(\Leftrightarrow\) 1つの実数解(重解) \(\Leftrightarrow\) 共有点1個(接する)
- \(D < 0\) \(\Leftrightarrow\) 実数解なし(2つの虚数解) \(\Leftrightarrow\) 共有点0個(離れている)
【思考のポイント】
このアプローチは、共有点の「座標」を直接求めようとするプロセスと連動しており、非常に代数的で直接的な方法です。共有点の座標も知りたい場合には、この方法で得られた2次方程式を解けばよいということになります。しかし、判別式の計算が煩雑になることが多いのが難点です。
例題1:円 \(x^2+y^2=5\) と直線 \(y=2x+k\) が共有点を持つような、定数 \(k\) の値の範囲を求めよ。
解法(判別式を用いる)
直線の方程式を円の方程式に代入する。
\(x^2+(2x+k)^2=5\)
\(x^2+4x^2+4kx+k^2=5\)
\(5x^2+4kx+k^2-5=0\)
このxの2次方程式が実数解を持てばよい(「共有点を持つ」とは、接する場合も含むので、実数解が1個または2個の場合)。
したがって、判別式 \(D \ge 0\) となればよい。
\[ \frac{D}{4} = (2k)^2 – 5(k^2-5) \ge 0 \]
\[ 4k^2 – 5k^2 + 25 \ge 0 \]
\[ -k^2+25 \ge 0 \]
\[ k^2 – 25 \le 0 \]
\[ (k-5)(k+5) \le 0 \]
この2次不等式を解くと、
\[ -5 \le k \le 5 \]
これが求める \(k\) の値の範囲である。
2.2. アプローチ2:円の中心と直線の距離による判定
この方法は、円の幾何学的な性質をより直接的に利用した、視覚的にも分かりやすいアプローチです。
判定手順
- 円の中心の座標 \((a,b)\) と半径 \(r\) を求める。
- 円の中心 \((a,b)\) と直線 \(l: Ax+By+C=0\) との距離 \(d\) を、「点と直線の距離の公式」を用いて計算する。\[ d = \frac{|Aa+Bb+C|}{\sqrt{A^2+B^2}} \]
- 計算した距離 \(d\) と、円の半径 \(r\) の大小を比較する。
- \(d < r\) \(\Leftrightarrow\) 共有点2個(2点で交わる)
- \(d = r\) \(\Leftrightarrow\) 共有点1個(接する)
- \(d > r\) \(\Leftrightarrow\) 共有点0個(離れている)
【思考のポイント】
この方法は、共有点の座標を求めるプロセスを完全に省略し、位置関係の判定に特化しています。多くの場合、判別式を用いる方法よりも計算が遥かに簡潔であり、ミスも少なくなります。特に、直線が接するときの条件(\(d=r\))は、接線の方程式を求める際に極めて重要な役割を果たします。
例題1(再掲):円 \(x^2+y^2=5\) と直線 \(y=2x+k\) が共有点を持つような、定数 \(k\) の値の範囲を求めよ。
解法(距離を用いる)
- 円の情報を整理:中心は原点 (0, 0)、半径は \(r=\sqrt{5}\)。
- 直線の方程式を一般形に:\(y=2x+k \Rightarrow 2x-y+k=0\)
- 中心と直線の距離 \(d\) を計算:\[ d = \frac{|2(0)-(0)+k|}{\sqrt{2^2+(-1)^2}} = \frac{|k|}{\sqrt{5}} \]
- \(d\) と \(r\) の関係を立式:共有点を持つ条件は、\(d \le r\) である。\[ \frac{|k|}{\sqrt{5}} \le \sqrt{5} \]
- 不等式を解く:両辺に \(\sqrt{5}\) を掛けると、\(|k| \le 5\)絶対値の定義より、\[ -5 \le k \le 5 \]判別式を用いた方法と同じ結果が、より少ない計算で得られました。
2.3. 円が直線から切り取る弦の長さ
円と直線が2点で交わるとき、その2つの交点を結ぶ線分を弦 (chord) といいます。この弦の長さを求める問題も、中心と直線の距離を利用すると簡単に解くことができます。
- 円の中心をO、半径を \(r\) とする。
- 直線 \(l\) が円と交わる2点をA, Bとする。
- 中心Oから直線 \(l\)(弦AB)に垂線を下ろし、その足をHとする。このとき、OHの長さが距離 \(d\) である。
- 三角形OAHは、角Hを直角とする直角三角形となる。
- 三平方の定理より、\(OA^2 = OH^2 + AH^2\) が成り立つ。\(r^2 = d^2 + AH^2\)\[ AH = \sqrt{r^2-d^2} \]
- 弦ABの長さは \(2 \times AH\) なので、弦の長さ \(L = 2\sqrt{r^2-d^2}\)
2.4. まとめ:代数的アプローチ vs 幾何学的アプローチ
円と直線の位置関係を判定するには、二つの強力な方法があります。
- 判別式法: 共有点の存在を、連立方程式の実数解の存在問題に帰着させる、純粋に代数的な方法。共有点の座標が必要な場合に有効だが、計算が煩雑になりがち。
- 距離法: 円の中心と直線の距離 \(d\) と半径 \(r\) を比較する、幾何学的な方法。位置関係の判定だけなら、こちらの方が計算が簡潔で直感的。
どちらの方法も、その根底にある考え方を理解し、問題の状況に応じて最適なアプローチを選択できることが重要です。特に、\(d=r\) という「接する」条件は、次節で学ぶ接線の方程式を導くための鍵となります。
3. 円の接線の方程式
円と直線が「1点で接する」という特別な関係は、幾何学において非常に重要です。このときの直線を円の接線 (tangent line)、その共有点を接点 (point of tangency) と呼びます。接線は、その接点を通る半径と必ず垂直に交わるという、決定的な性質を持っています。
この性質と、前節で学んだ「円の中心と直線の距離 \(d\) = 半径 \(r\) 」という条件は、接線の方程式を求めるための二大原理となります。このセクションでは、接線の方程式を求める問題を、与えられる条件に応じて3つの主要なパターンに分類し、それぞれに対する体系的な解法を確立します。円の接線を自在に操ることは、微分法における曲線の接線を考える上での重要な基礎ともなります。
3.1. パターン1:円周上の点が与えられている場合
問題設定: 円 \((x-a)^2+(y-b)^2=r^2\) の周上の点 \(P(x_1, y_1)\) における接線の方程式を求めよ。
3.1.1. 公式の導出
方法1:半径と接線の垂直性を利用する
- 半径の傾き:円の中心を \(C(a, b)\) とする。接点Pと中心Cを結ぶ半径CPの傾きは、\(m_{CP} = \frac{y_1-b}{x_1-a}\)
- 接線の傾き:接線は半径CPと垂直に交わるので、その傾き \(m_{tan}\) は、\(m_{tan} \cdot m_{CP} = -1\) より、\(m_{tan} = -\frac{1}{m_{CP}} = -\frac{x_1-a}{y_1-b}\)
- 方程式を立てる:求める接線は、傾きが \(m_{tan}\) で、点 \(P(x_1, y_1)\) を通る直線である。点傾き形を用いて、\[ y-y_1 = -\frac{x_1-a}{y_1-b} (x-x_1) \]分母を払うと、\((y-y_1)(y_1-b) = -(x_1-a)(x-x_1)\)\(yy_1-yb-y_1^2+y_1b = -x_1x+x_1^2+ax-ax_1\)この式を整理すると、最終的に後述の公式の形になるが、計算はやや複雑である。
方法2:公式の暗記と利用
このパターンの接線の方程式は、非常に覚えやすい形の公式として知られています。
円周上の点における接線の公式
円 \((x-a)^2+(y-b)^2=r^2\) 上の点 \((x_1, y_1)\) における接線の方程式は、
\[ (x_1-a)(x-a) + (y_1-b)(y-b) = r^2 \]
特に、中心が原点の円 \(x^2+y^2=r^2\) 上の点 \((x_1, y_1)\) における接線の方程式は、
\[ x_1x + y_1y = r^2 \]
【公式の覚え方】
この公式は、元の円の方程式 \((x-a)^2 + (y-b)^2 = r^2\) を
\((x-a)(x-a) + (y-b)(y-b) = r^2\)
と書き直し、2つある \(x\) のうちの1つを接点のx座標 \(x_1\) に、2つある \(y\) のうちの1つを接点のy座標 \(y_1\) に置き換えると覚えると、非常に記憶しやすいです。この置き換えルールは、楕円や双曲線など、他の二次曲線の接線の公式にも通用する普遍的なものです。
例題1:円 \(x^2+y^2=25\) 上の点 (3, -4) における接線の方程式を求めよ。
解法:
\(x_1=3, y_1=-4, r^2=25\) を公式 \(x_1x+y_1y=r^2\) に代入する。
\[ 3x + (-4)y = 25 \]
\[ 3x-4y=25 \]
これが求める接線の方程式である。
3.2. パターン2:傾きが与えられている場合
問題設定: 円 \((x-a)^2+(y-b)^2=r^2\) に接し、傾きが \(m\) である直線の方程式を求めよ。
解法:
この問題を解く鍵は、「円の中心と接線の距離 \(d\) が、半径 \(r\) に等しい」 (\(d=r\)) という条件です。
- 接線の方程式を仮定する:求める接線は傾きが \(m\) なので、その方程式はy切片を \(c\) として \(y=mx+c\)、すなわち \(mx-y+c=0\) と置ける。
- \(d=r\) の条件を立式する:円の中心 \((a,b)\) と直線 \(mx-y+c=0\) との距離 \(d\) を計算する。\[ d = \frac{|ma-b+c|}{\sqrt{m^2+(-1)^2}} = \frac{|ma-b+c|}{\sqrt{m^2+1}} \]この距離が半径 \(r\) に等しいので、\[ \frac{|ma-b+c|}{\sqrt{m^2+1}} = r \]
- \(c\) について解く:\[ |ma-b+c| = r\sqrt{m^2+1} \]\[ ma-b+c = \pm r\sqrt{m^2+1} \]\[ c = -ma+b \pm r\sqrt{m^2+1} \]
- 接線の方程式を完成させる:求めた \(c\) を \(y=mx+c\) に代入する。\(y = mx -ma+b \pm r\sqrt{m^2+1}\)\[ y-b = m(x-a) \pm r\sqrt{m^2+1} \]
この結果は公式として利用できますが、導出過程である「\(d=r\) を使う」という考え方を理解しておくことの方が重要です。
例題2:円 \(x^2+y^2=4\) に接し、傾きが3の直線の方程式を求めよ。
解法:
中心(0,0)、半径\(r=2\)、傾き\(m=3\)。
求める接線の方程式を \(y=3x+c\)、すなわち \(3x-y+c=0\) とおく。
中心(0,0)とこの直線の距離が半径2に等しいので、
\[ d = \frac{|3(0)-(0)+c|}{\sqrt{3^2+(-1)^2}} = \frac{|c|}{\sqrt{10}} = 2 \]
\[ |c| = 2\sqrt{10} \Rightarrow c = \pm 2\sqrt{10} \]
よって、求める接線の方程式は \(y=3x \pm 2\sqrt{10}\)。
(傾きが同じ接線は、円の上側と下側に2本存在します)
3.3. パターン3:円外の点が与えられている場合
問題設定: 円外の点 \(P(x_1, y_1)\) から、円 \((x-a)^2+(y-b)^2=r^2\) に引いた接線の方程式を求めよ。
このパターンは最も計算量が多くなりますが、解法は主に2通りあります。
解法A:接点を \((x_0, y_0)\) とおく方法
- 円周上の接点を \(Q(x_0, y_0)\) と仮定する。
- 点Qは円周上にあるので、\((x_0-a)^2+(y_0-b)^2=r^2 \quad \dots (1)\) が成り立つ。
- 点Qにおける接線の方程式(パターン1の公式)を立てる。\((x_0-a)(x-a) + (y_0-b)(y-b) = r^2\)
- この接線は、円外の点 \(P(x_1, y_1)\) を通るので、\(x, y\) に \(x_1, y_1\) を代入する。\((x_0-a)(x_1-a) + (y_0-b)(y_1-b) = r^2 \quad \dots (2)\)
- 連立方程式(1), (2)を解いて、接点 \((x_0, y_0)\) の座標を求める。(通常、2組の解が得られる)
- 求めた接点の座標を用いて、接線の方程式を立てる。
解法B:傾きを \(m\) とおく方法
- 求める接線は点 \(P(x_1, y_1)\) を通るので、その傾きを \(m\) とおくと、方程式は \(y-y_1=m(x-x_1)\) と書ける。すなわち、\(mx-y-mx_1+y_1=0\)。
- この直線と円の中心 \((a,b)\) との距離が、半径 \(r\) に等しい(\(d=r\))という条件を立式する。\[ d = \frac{|m(a) – (b) -mx_1+y_1|}{\sqrt{m^2+(-1)^2}} = r \]
- この方程式は \(m\) についての方程式となる。これを解いて傾き \(m\) の値を求める。(通常、2つの解が得られる)
- 求めた \(m\) の値を、ステップ1の式に戻して接線の方程式を完成させる。
- (注意) この方法では、y軸に平行な接線(傾きが定義できない)が見落とされる可能性がある。最初に、\(x=x_1\) が接線にならないかを図などで確認する必要がある。
【ミニケーススタディ:どちらの解法を選ぶか】
点(3, 1)から円 \(x^2+y^2=2\) に引いた接線を求める。
- 解法A(接点をおく): 接点を \((x_0, y_0)\) とすると、(1) \(x_0^2+y_0^2=2\)(2) \(3x_0+y_0=2\)(2)から \(y_0=2-3x_0\) を(1)に代入して \(x_0^2+(2-3x_0)^2=2\) を解く。
- 解法B(傾きをおく): 接線を \(y-1=m(x-3)\) とおき、中心(0,0)との距離が \(\sqrt{2}\) に等しいとすると、\(\frac{|-3m+1|}{\sqrt{m^2+1}}=\sqrt{2}\)\(|-3m+1|^2 = 2(m^2+1)\) を解く。多くの場合、解法B(傾きをおく)の方が、2次方程式を解くだけで済むため計算が楽になる傾向があります。
3.4. まとめ:接線の条件を方程式に
円の接線の方程式を求める問題は、与えられた条件に応じて最適な解法を選択する、戦略的な思考が求められます。
- パターン1(円周上の点): 公式 \(x_1x+y_1y=r^2\) を使うのが最も速い。
- パターン2(傾き): 条件 \(d=r\) を用いてy切片を決定するのが基本方針。
- パターン3(円外の点): 傾きを \(m\) とおき、\(d=r\) の条件に持ち込む方法が計算しやすいことが多いが、垂直な接線の可能性を忘れない注意が必要。
これらの解法の根底に流れる「半径と接線は垂直」という幾何学的性質と、「中心と接線の距離は半径に等しい」という代数的な条件を深く理解することが、あらゆる接線問題を解き明かす鍵となります。
4. 2つの円の位置関係
座標平面上に2つの円が与えられたとき、それらの位置関係は、一方が他方の内側や外側にあったり、接したり、交わったりと、円と直線の場合よりも多様なパターンが考えられます。これらの複雑な位置関係を、代数的な数値を用いて厳密に、かつ網羅的に分類することは可能でしょうか。
その鍵を握るのは、2つの円の中心間の距離 \(d\) と、それぞれの半径 \(r_1, r_2\) です。この3つの量の大きさを比較することで、2つの円が互いにどのような位置関係にあるのかを、5つの明確なケースに分類することができます。このセクションでは、それぞれのケースがどのような幾何学的な配置に対応し、どのような代数的な条件式で表現されるのかを、図と共に詳しく見ていきます。
4.1. 位置関係を決定する2つの指標
2つの円 \(C_1, C_2\) の位置関係を分類するために、以下の2つの量を計算します。
- 中心間の距離 \(d\):円 \(C_1\) の中心を \(O_1\)、円 \(C_2\) の中心を \(O_2\) とすると、\(d\) は線分 \(O_1O_2\) の長さです。これは「2点間の距離の公式」で計算できます。
- 半径の和と差:円 \(C_1\) の半径を \(r_1\)、円 \(C_2\) の半径を \(r_2\) とします(簡単のため \(r_1 \ge r_2\) と仮定します)。このとき、半径の和 \(r_1+r_2\) と、半径の差 \(r_1-r_2\) が、位置関係を判定するための基準値となります。
4.2. 5つの位置関係の分類
中心間の距離 \(d\) と、基準値 \(r_1+r_2, r_1-r_2\) の大小関係によって、2つの円の位置関係は以下の5つに完全に分類されます。
ケース1:互いに外部にある(離れている)
- 幾何学的状況: 2つの円は離れており、共有点を持たない。
- 代数的条件: 中心間の距離が、半径の和よりも大きい。\[ d > r_1 + r_2 \]
- 共有点の個数: 0個
ケース2:外接する
- 幾何学的状況: 2つの円が外側で1点を共有して接する。
- 代数的条件: 中心間の距離が、半径の和にちょうど等しい。\[ d = r_1 + r_2 \]
- 共有点の個数: 1個
ケース3:2点で交わる
- 幾何学的状況: 2つの円が2つの異なる共有点を持つ。
- 代数的条件: 中心間の距離が、半径の差より大きく、半径の和より小さい。\[ r_1 – r_2 < d < r_1 + r_2 \]
- 共有点の個数: 2個
ケース4:内接する
- 幾何学的状況: 一方の円が他方の円の内側で1点を共有して接する。
- 代数的条件: 中心間の距離が、半径の差にちょうど等しい。\[ d = r_1 – r_2 \quad (d \neq 0) \]
- 共有点の個数: 1個
ケース5:一方が他方の内部にある
- 幾何学的状況: 一方の円が他方の円の内部に完全に含まれ、共有点を持たない。中心が一致する場合(同心円)もこのケースに含まれる。
- 代数的条件: 中心間の距離が、半径の差より小さい。\[ 0 \le d < r_1 – r_2 \]
- 共有点の個数: 0個
4.3. 分類の実践
例題:円 \(C_1: x^2+y^2=4\) と円 \(C_2: (x-3)^2+(y-4)^2=r^2\) (\(r>0\)) がある。2つの円が外接するとき、および内接するときの半径 \(r\) の値をそれぞれ求めよ。
思考プロセス:
- 各円の中心と半径を特定する。
- 2つの円の中心間の距離 \(d\) を計算する。
- 外接の条件 \(d=r_1+r_2\) と内接の条件 \(d=|r_1-r_2|\) を立式し、\(r\) について解く。
解法:
- 円の情報の整理:
- 円 \(C_1\): 中心 \(O_1(0, 0)\)、半径 \(r_1 = \sqrt{4} = 2\)。
- 円 \(C_2\): 中心 \(O_2(3, 4)\)、半径 \(r_2 = r\)。
- 中心間の距離 \(d\) の計算:\[ d = \sqrt{(3-0)^2+(4-0)^2} = \sqrt{9+16} = \sqrt{25} = 5 \]
- 条件に応じて \(r\) を求める:
- (a) 2つの円が外接するとき:条件は \(d = r_1+r_2\)。\(5 = 2+r\)よって、\(r=3\)。
- (b) 2つの円が内接するとき:条件は \(d = |r_1-r_2|\)。\(5 = |2-r|\)絶対値の定義より、\(2-r=5\) または \(2-r=-5\)。
- \(2-r=5 \Rightarrow r=-3\)。半径は正なので不適。
- \(2-r=-5 \Rightarrow r=7\)。よって、\(r=7\)。(このとき、円 \(C_1\) が円 \(C_2\) の内部にあり内接する形になる)
したがって、外接するときの半径は \(r=3\)、内接するときの半径は \(r=7\) となる。
【思考の深化:共有点の個数からの考察】
この例題で、共有点が2個となる(2点で交わる)ような \(r\) の範囲を求めてみましょう。
条件は \(|r_1-r_2| < d < r_1+r_2\) です。
\(|2-r| < 5 < 2+r\)
この連立不等式を解きます。
- 右側の不等式:\(5 < 2+r \Rightarrow r > 3\)。
- 左側の不等式:\(|2-r| < 5 \Rightarrow -5 < 2-r < 5\)。
- \(-5 < 2-r \Rightarrow r < 7\)
- \(2-r < 5 \Rightarrow r > -3\)\(r>0\) という条件と合わせると、\(0 < r < 7\)。両方の範囲 \(r>3\) と \(0<r<7\) を満たす共通範囲は、\(3 < r < 7\)。よって、\(3 < r < 7\) のときに2点で交わることがわかります。
4.4. まとめ:3つの数値による完全分類
2つの円の位置関係という、一見複雑な幾何学的問題が、中心間の距離 \(d\)、半径の和 \(r_1+r_2\)、半径の差 \(|r_1-r_2|\) という、わずか3つの数値を比較するだけの代数的な問題に帰着されることを見ました。
- 基準値の重要性: 半径の和と差が、位置関係のパターンが切り替わる「境界」の役割を果たしています。
- 幾何学的イメージとの連動: \(d > r_1+r_2\)(離れている)から \(d\) が小さくなっていくと、\(d=r_1+r_2\)(外接)、\(|r_1-r_2|<d<r_1+r_2\)(交わる)、\(d=|r_1-r_2|\)(内接)、\(d<|r_1-r_2|\)(内部にある)と、状態が連続的に変化していく様子をイメージすることが重要です。
- 計算の基本: この分類を行うための計算は、すべてこれまで学んだ「円の方程式からの中心・半径の読み取り」と「2点間の距離の公式」という基本的なツールに基づいています。
この体系的な分類法を身につけることで、2円が関わる問題に対して、その状況を正確に把握し、適切な解法へと進むための確かな足場を築くことができます。
5. 2つの円の交点を通る円・直線
Module 3で学んだ「2直線の交点を通る直線の方程式(束)」の考え方は、幾何学的な条件を、交点の座標を求めずに代数的に扱う、非常に強力な発想法でした。このエレガントなアイデアは、円の世界にもそのまま拡張することができます。
2つの円が2点で交わっているとき、その2つの交点を通る図形は無数に存在します。その中には、様々な大きさの「円」もあれば、ただ一本の「直線」も含まれます。この2円の交点を通る円や直線の束を、2直線のときと同様に、ただ一つのパラメータ \(k\) を用いた一本の式で表現する、それがこのセクションのテーマです。この手法をマスターすれば、交点の複雑な座標計算を回避し、問題の本質をより直接的に捉えることが可能になります。
5.1. 「円の束」の考え方とその方程式
2つの円が2点 A, B で交わっているとします。
円 \(C_1: x^2+y^2+l_1x+m_1y+n_1 = 0\)
円 \(C_2: x^2+y^2+l_2x+m_2y+n_2 = 0\)
(円の方程式は、この考え方を用いる際は一般形で表現するのが基本です)
このとき、実数の定数 \(k\) を用いて、次のような方程式を考えます。
2円の交点を通る図形の方程式
\[ (x^2+y^2+l_1x+m_1y+n_1) + k(x^2+y^2+l_2x+m_2y+n_2) = 0 \]
この方程式が持つ意味を、2直線の束のときと同様に論理的に分析します。
5.1.1. なぜこの式が「交点を通る」のか
交点 A, B の座標は、円 \(C_1\) と \(C_2\) の両方の方程式を満たします。
つまり、交点の座標を \((x, y)\) とすると、
- \(x^2+y^2+l_1x+m_1y+n_1 = 0\)
- \(x^2+y^2+l_2x+m_2y+n_2 = 0\)が同時に成り立っています。この交点の座標を束の方程式に代入すると、\[ (0) + k(0) = 0 \]となり、この等式は \(k\) がどのような値であっても常に成り立ちます。したがって、この方程式が表す図形は、\(k\) の値に関わらず、必ず2円の交点 A, B を通ることが保証されます。
5.1.2. この方程式はどのような「図形」を表すのか
この方程式を \(x, y\) について整理してみましょう。
\[ (1+k)x^2 + (1+k)y^2 + (l_1+kl_2)x + (m_1+km_2)y + (n_1+kn_2) = 0 \]
この式が表す図形は、\(k\) の値によって変化します。
- ケース1:\(k \neq -1\) の場合\(1+k \neq 0\) なので、両辺を \(1+k\) で割ることができます。\[ x^2+y^2 + \frac{l_1+kl_2}{1+k}x + \frac{m_1+km_2}{1+k}y + \frac{n_1+kn_2}{1+k} = 0 \]これは、円の方程式の一般形をしています。したがって、\(k \neq -1\) のとき、この方程式は2円の交点を通る円を表します。
- ケース2:\(k = -1\) の場合\(k=-1\) を束の方程式に代入すると、\((x^2+y^2+l_1x+m_1y+n_1) – (x^2+y^2+l_2x+m_2y+n_2) = 0\)このとき、\(x^2\) と \(y^2\) の項が綺麗に消去されます。\[ (l_1-l_2)x + (m_1-m_2)y + (n_1-n_2) = 0 \]これは、\(x, y\) の一次方程式であり、直線を表します。この直線は、2円の交点 A, B を通るので、2つの交点を結ぶ直線(共通弦の方程式)となります。この直線を、2つの円の根軸 (radical axis) と呼びます。
【注意点(表せない円)】
2直線の束のときと同様に、この束の方程式は、交点を通る円のうち、円 \(C_2\) そのものだけは表すことができません。
5.2. 「円の束」の応用
例題1:2つの円 \(x^2+y^2=5\) と \(x^2+y^2-6x-2y+5=0\) の2つの交点と、点(0, 3)を通る円の方程式を求めよ。
解法
求める円は、2つの円の交点を通るので、定数 \(k\) を用いて、
\[ (x^2+y^2-5) + k(x^2+y^2-6x-2y+5) = 0 \]
と表すことができる。
この円が点(0, 3)を通るので、\(x=0, y=3\) を代入して \(k\) の値を求める。
\[ (0^2+3^2-5) + k(0^2+3^2-6(0)-2(3)+5) = 0 \]
\[ (9-5) + k(9-6+5) = 0 \]
\[ 4 + k(8) = 0 \]
\[ 8k = -4 \Rightarrow k = -\frac{1}{2} \]
この \(k = -1/2\) を束の式に戻して整理する。
\[ (x^2+y^2-5) – \frac{1}{2}(x^2+y^2-6x-2y+5) = 0 \]
両辺を2倍して分母を払う。
\[ 2(x^2+y^2-5) – (x^2+y^2-6x-2y+5) = 0 \]
\[ 2x^2+2y^2-10 – x^2-y^2+6x+2y-5 = 0 \]
\[ x^2+y^2+6x+2y-15=0 \]
これが求める円の方程式である。
例題2:2つの円 \(x^2+y^2-4=0\) と \((x-3)^2+(y-1)^2=5\) の2つの交点を通る直線の方程式を求めよ。
解法
求める直線は、2円の交点を通る直線(共通弦、根軸)なので、束の考え方で \(k=-1\) とした場合に相当する。
これは、単純に一方の円の方程式から、もう一方の円の方程式を引くことで得られる。
まず、両方の円の方程式を一般形に直す。
\(C_1: x^2+y^2-4=0\)
\(C_2: (x^2-6x+9)+(y^2-2y+1)=5 \Rightarrow x^2+y^2-6x-2y+5=0\)
\(C_1 – C_2\) を計算する。(\(C_2-C_1\) でも同じ直線を表す)
\[ (x^2+y^2-4) – (x^2+y^2-6x-2y+5) = 0 \]
\(x^2, y^2\) が消えて、
\[ -4 – (-6x-2y+5) = 0 \]
\[ -4+6x+2y-5=0 \]
\[ 6x+2y-9=0 \]
これが求める直線の方程式である。
5.3. まとめ:交点を経由しないエレガントな解法
2円の交点を通る図形の束の考え方は、解析幾何学における抽象化の威力を示す好例です。
- 統一的な表現: 2円の交点を通る無数の円とただ一本の直線を、\((…)+k(…)=0\) という一本の式で統一的に扱うことができます。
- \(k\) の値の役割: パラメータ \(k\) が \(-1\) かどうかで、図形の種類が円から直線へと劇的に変化します。特に \(k=-1\) は、\(x^2, y^2\) の項を消去し、共通弦(根軸)を与えるという特別な意味を持ちます。
- 計算の回避: この手法の最大の利点は、2円の交点(しばしば複雑な無理数や虚数になる)の座標を具体的に求めるという、煩雑でミスの多い計算を完全にバイパスできる点にあります。
この強力なツールは、一見すると難解な図形問題を、驚くほどシンプルな代数操作へと変換してくれます。その背景にある論理を理解し、自在に使いこなせるようになりましょう。
6. 軌跡と方程式
これまでのセクションでは、直線や円といった、あらかじめ形が分かっている図形を方程式で表現する方法を学んできました。しかし、解析幾何学のより深く、より創造的な側面は、ここから始まります。それは、「ある特定の幾何学的な条件を満たす点の集まりは、結果としてどのような図形を描くのだろうか?」という問いに答えることです。
このような、ある条件を満たす点の集合を軌跡 (locus) と呼びます。そして、その軌跡が描く図形を、方程式を用いて明らかにすること、それが「軌跡を求める」という問題です。このプロセスは、未知の図形を探求する、まさに数学的な冒険です。このセクションでは、軌跡の問題を解くための、体系的で普遍的な手順を確立します。この手順をマスターすれば、どんなに複雑に見える軌跡の問題も、論理の力で解き明かすことが可能になります。
6.1. 軌跡を求めるための基本手順
軌跡の方程式を求める問題は、以下の厳密なステップに従って解くのが定石です。
軌跡の解法手順
- 動点を設定する:求めたい軌跡の上にある点を \(P(x, y)\) とする。
- 条件を翻訳する:問題文で与えられている、点Pが満たすべき幾何学的な条件を、\(x, y\) を用いた数式(方程式)に翻訳する。このステップが最も創造性を要する部分であり、距離の公式や内分点の公式など、これまでに学んだツールが総動員される。
- 方程式を整理する:得られた \(x, y\) の方程式を、知っている図形(直線、円など)の方程式になるように、できるだけ簡単な形に整理する。
- 軌跡を確認する(吟味・逆の確認):ステップ3で得られた図形上のすべての点が、本当に与えられた条件を満たすかどうかを確認する。これを「軌跡の吟味」あるいは「逆の確認」と呼び、論理的に完璧な答案には不可欠なステップである。
- 除外点はないか? (例:分母が0になる点、定義域の制約など)
- 逆に、図形上の任意の点が条件を満たすか?
6.2. 基本的な軌跡の例
例題1:2点 A(1, 0), B(3, 0) からの距離の2乗の差が常に 4 であるような点Pの軌跡を求めよ。
解法
ステップ1:動点を設定する
求める軌跡上の点を \(P(x, y)\) とする。
ステップ2:条件を翻訳する
条件は \(PA^2 – PB^2 = 4\) である。(\(|PA^2 – PB^2| = 4\) の可能性もあるが、ここでは差が4の場合を考える)
2点間の距離の公式(の2乗)を用いて、この条件を \(x, y\) の式で表す。
\(PA^2 = (x-1)^2 + (y-0)^2 = x^2-2x+1+y^2\)
\(PB^2 = (x-3)^2 + (y-0)^2 = x^2-6x+9+y^2\)
よって、条件式は、
\[ (x^2-2x+1+y^2) – (x^2-6x+9+y^2) = 4 \]
ステップ3:方程式を整理する
\[ x^2-2x+1+y^2 – x^2+6x-9-y^2 = 4 \]
\(x^2, y^2\) の項が消える。
\[ 4x – 8 = 4 \]
\[ 4x = 12 \]
\[ x = 3 \]
ステップ4:軌跡を確認する(吟味)
ステップ3で得られた図形は、直線 \(x=3\) である。
逆に、この直線 \(x=3\) 上の任意の点を \(P(3, y)\) として、条件を満たすか確認する。
\(PA^2 = (3-1)^2 + (y-0)^2 = 4+y^2\)
\(PB^2 = (3-3)^2 + (y-0)^2 = 0+y^2 = y^2\)
\(PA^2 – PB^2 = (4+y^2) – y^2 = 4\)
よって、直線 \(x=3\) 上のすべての点は、与えられた条件を満たす。
したがって、除外点はない。
結論:
求める軌跡は、直線 \(x=3\) である。
【ミニケーススタディ:「吟味」の重要性】
もし例題1の条件が「PA=2PB」だったらどうなるか。
\(PA^2 = 4PB^2\)
\((x-1)^2+y^2 = 4{(x-3)^2+y^2}\)
これを整理すると、\(3x^2-22x+3y^2+35=0\) となり、円の方程式が得られる。
この場合、円周上のすべての点が条件を満たすため、逆の確認は問題なく成立する。
しかし、例えば条件に根号が含まれていて、途中で2乗する操作があった場合、同値性が崩れ、余計な図形(無縁解)が現れることがある。また、パラメータの動く範囲に制限がある場合(次節で学ぶ)、軌跡が図形の一部だけになることもある。
「得られた方程式を逆にたどって、元の条件が成立するか」を常に意識する姿勢が、軌跡の問題をマスターする鍵である。
例題2:点 Q が円 \(x^2+y^2=4\) 上を動くとき、点 A(4, 0) と点 Q を結ぶ線分AQの中点Pの軌跡を求めよ。
解法
ステップ1:動点を設定する
求める軌跡上の点を \(P(x, y)\) とする。
また、条件を支配する動点(従属変数)を \(Q(s, t)\) とする。
ステップ2:条件を翻訳する
点P, Q, Aの間には、以下の関係が成り立っている。
(1) Qは円周上の点: \(s^2+t^2=4\)
(2) PはAQの中点:
\(x = \frac{4+s}{2}\)
\(y = \frac{0+t}{2}\)
ステップ3:方程式を整理する
私たちの目標は、\(s, t\) を消去して、\(x, y\) だけの関係式を導くことである。
中点の関係式(2)を、\(s, t\) について解く。
\(s = 2x-4\)
\(t = 2y\)
この \(s, t\) の式を、円の方程式(1)に代入する。
\[ (2x-4)^2 + (2y)^2 = 4 \]
\[ 4(x-2)^2 + 4y^2 = 4 \]
両辺を4で割る。
\[ (x-2)^2 + y^2 = 1 \]
ステップ4:軌跡を確認する(吟味)
ステップ3で得られた図形は、中心が(2, 0)、半径が1の円である。
逆に、この円上の任意の点を \(P(x,y)\) とする。このとき、\((x-2)^2+y^2=1\) が成り立つ。
この点Pに対して、\(s=2x-4, t=2y\) で点 \(Q(s,t)\) を定めると、
\(s^2+t^2 = (2x-4)^2+(2y)^2 = 4(x-2)^2+4y^2 = 4{(x-2)^2+y^2} = 4(1)=4\)
となり、点Qは円 \(s^2+t^2=4\) 上に存在する。
また、\(x=(4+s)/2, y=(0+t)/2\) も明らかに成り立つので、点Pは線分AQの中点である。
よって、得られた円周上のすべての点が条件を満たす。
結論:
求める軌跡は、中心が (2, 0)、半径が 1 の円である。
6.3. まとめ:未知の図形を描き出す論理
軌跡を求める問題は、解析幾何学の思考法の集大成です。
- 普遍的な手順: 「動点を(x,y)とおく → 条件を立式する → 式を整理する → 吟味する」という4ステップは、あらゆる軌跡問題に通用する黄金律です。
- 条件の翻訳能力: 問題の核心は、与えられた幾何学的な条件を、いかに正確に \(x,y\) の方程式に翻訳できるかにかかっています。
- 論理の厳密性(吟味): 特に「逆の確認」は、得られた結果が必要十分条件であることを保証するための、論理的な厳密性を担保する重要なプロセスです。
この手順に従うことで、一見して形が想像できないような点の集まりも、論理のメスを入れることで、我々がよく知る直線や円といった図形として、その正体を現すのです。
7. パラメータを含む軌跡
前節では、軌跡を求める基本的な手順を学びました。その中には、点Pの座標 \((x, y)\) が、別の動点Qの座標 \((s, t)\) を介して決まるような問題がありました。このような、他の変数の値に応じて変化する変数を媒介変数またはパラメータ (parameter) と呼びます。
点の座標が、\(x = f(t), y = g(t)\) のように、あるパラメータ \(t\) を用いて表現されている場合、その点が描く軌跡を求めるにはどうすればよいでしょうか。基本的な戦略は、「パラメータ \(t\) を消去して、\(x\) と \(y\) の直接的な関係式を導く」ことです。しかし、そこには一つ、非常に重要な注意点があります。それは、**パラメータが動くことのできる範囲(変域)**です。この変域が、\(x\) や \(y\) の取りうる値の範囲に制約を及ぼし、軌跡が曲線全体ではなく、その一部だけになることがあるのです。このセクションでは、パラメータを消去する技術と、その変域を正しく扱う方法を学びます。
7.1. パラメータの消去
パラメータ \(t\) を含む2つの式 \(x=f(t), y=g(t)\) から \(t\) を消去し、\(x, y\) の関係式を導くのが最初のステップです。
消去の基本パターン
- 代入法:一方の式を \(t=\dots\) の形に変形し、もう一方の式に代入する。最も基本的な方法です。
- 三角関数の相互関係の利用:\(x=\cos t, y=\sin t\) のように三角関数で表されている場合、\(\cos^2 t + \sin^2 t = 1\) という関係式を利用して、\(x^2+y^2=1\) のように \(t\) を消去します。
- 加減法など:式の形によっては、2式を足したり引いたりすることで、うまく \(t\) が消去できる場合があります。
例題1:\(t\) がすべての実数値をとって変化するとき、点 \(P(x, y)\) の座標が \(x=t+1, y=2t+3\) で与えられている。点Pの軌跡を求めよ。
解法
ステップ1:パラメータを消去する
\(x=t+1\) より、\(t=x-1\)。
これを \(y=2t+3\) に代入する。
\[ y = 2(x-1)+3 \]
\[ y = 2x-2+3 \]
\[ y = 2x+1 \]
これは直線の方程式である。
ステップ2:変域を確認する
パラメータ \(t\) は「すべての実数値をとる」とされている。
\(t=x-1\) なので、\(t\) がすべての実数値をとるとき、\(x\) もすべての実数値をとることができる。
また、そのとき \(y\) もすべての実数値を取りうる。
したがって、軌跡に除外される点はない。
結論:
求める軌跡は、直線 \(y=2x+1\) である。
7.2. パラメータの変域がもたらす制約
パラメータの動く範囲に制限がある場合、それが軌跡にどのように影響するかを見ていきましょう。
例題2:\(t\) が \(t \ge 0\) の範囲を動くとき、点 \(P(x, y)\) の座標が \(x=t-1, y=t^2+1\) で与えられている。点Pの軌跡を求めよ。
解法
ステップ1:パラメータを消去する
\(x=t-1\) より、\(t=x+1\)。
これを \(y=t^2+1\) に代入する。
\[ y = (x+1)^2+1 \]
\[ y = x^2+2x+1+1 \]
\[ y = x^2+2x+2 \]
これは放物線の方程式である。
ステップ2:変域を確認する
ここが最も重要なステップです。
パラメータ \(t\) の変域は \(t \ge 0\) と定められている。
\(t=x+1\) なので、この関係から \(x\) の変域を求める。
\[ x+1 \ge 0 \quad \Rightarrow \quad x \ge -1 \]
つまり、この軌跡は、放物線 \(y=x^2+2x+2\) の全体ではなく、\(x \ge -1\) の部分だけである。
\(x=-1\) のとき、\(t=0\) であり、\(y=(-1)^2+2(-1)+2=1\)。
したがって、軌跡の端点は \((-1, 1)\) となる。
結論:
求める軌跡は、放物線 \(y=x^2+2x+2\) の \(x \ge -1\) の部分である。
(解答の際には、グラフを描き、どの部分が軌跡になるのかを明示することが重要です)
【ミニケーススタディ:隠れた変域】
受験生Jさんは、\(t\) が実数全体を動くとき、\(x=t^2, y=t+1\) で表される点の軌跡を求めようとした。
彼は \(y=t+1\) から \(t=y-1\) を導き、\(x=t^2\) に代入した。
\(x=(y-1)^2\)
彼はこれを「放物線」と答えたが、不十分な解答だった。
なぜなら、\(x=t^2\) という関係から、\(t\) がどんな実数であっても、\(x\) は常に0以上(\(x \ge 0\))となるからである。この「隠れた変域」を見抜かなければならない。
\(y\) については、\(t\) が実数全体を動くので、\(y=t+1\) も実数全体を動く。
したがって、正しい軌跡は「放物線 \(x=(y-1)^2\) の \(x \ge 0\) の部分」となる。(この場合は放物線全体と一致するが、常に変域をチェックする習慣が重要)
7.3. 2つの動点が関わる軌跡(応用)
前節の例題2「線分AQの中点Pの軌跡」も、このパラメータを含む軌跡の問題として捉え直すことができます。
点 \(Q(s,t)\) が円 \(x^2+y^2=4\) 上を動くとき、\(s, t\) は \(s=2\cos\theta, t=2\sin\theta\) (\(0 \le \theta < 2\pi\))とパラメータ表示できます。
中点Pの座標 \((x,y)\) は、
\(x = \frac{4+s}{2} = \frac{4+2\cos\theta}{2} = 2+\cos\theta\)
\(y = \frac{0+t}{2} = \frac{2\sin\theta}{2} = \sin\theta\)
となり、\((x,y)\) がパラメータ \(\theta\) で表現されました。
ここからパラメータ \(\theta\) を消去します。
\(x-2 = \cos\theta\)
\(y = \sin\theta\)
三角関数の相互関係 \(\cos^2\theta+\sin^2\theta=1\) に代入すると、
\[ (x-2)^2+y^2 = 1 \]
となり、同じく中心(2,0)、半径1の円が得られます。
パラメータ \(\theta\) は \(0 \le \theta < 2\pi\) の範囲を一周するので、\(x,y\) に特別な制約は生まれず、円全体が軌跡となります。
7.4. まとめ:パラメータを消去し、変域を追跡する
パラメータを含む軌跡の問題は、一見複雑に見えますが、その解法は明確な二つの柱に基づいています。
- パラメータの消去: まずは、与えられた関係式から媒介変数(パラメータ)を消去し、軌跡上の点の座標 \(x, y\) が満たすべき直接的な関係式(方程式)を導き出します。これが軌跡の「形」を決定します。
- 変域の追跡: 次に、パラメータが動くことのできる範囲(変域)が、\(x\) や \(y\) の取りうる値の範囲にどのような制約を課すかを慎重に分析します。これが軌跡の「範囲」を決定します。
この「消去」と「変域の追跡」という二つの操作をセットで実行する習慣を身につけることが、パラメータで表現された動的な図形を正確に捉えるための鍵となります。
8. 不等式の表す領域
これまで、「図形と方程式」の世界では、等式(\(f(x,y)=0\))が描く「線」(直線や円など)を扱ってきました。等式は、座標平面を、その条件を満たす点の集合(線)と、満たさない点の集合(それ以外)の2つに分割します。
では、等号を不等号(\(>, <, \ge, \le\))に変えた、不等式(例:\(y > 2x+1\) や \(x^2+y^2 < 4\))は、座標平面上で何を表現するのでしょうか。その答えは、領域 (region)、すなわち「面」としての広がりを持つ図形です。方程式が「境界線」を定めるのに対し、不等式はその境界線のどちらか一方の「側」にある点の集合全体を表現します。このセクションでは、直線や円に関する不等式がどのような領域を表すのかを学び、複数の不等式を組み合わせることで、より複雑な領域を表現する方法を探求します。
8.1. 領域の基本概念
境界線 (boundary)
不等式に対応する等式が表す図形(直線や円など)を、その領域の境界線と呼びます。
領域の判定法
不等式が表す領域が、境界線のどちら側になるかを判定する最も簡単な方法は、代表点を一つ選んで、その座標を不等式に代入してみることです。
- 境界線上にない、計算しやすい点(多くの場合、**原点(0,0)**が便利)を選ぶ。
- その点の座標を、与えられた不等式に代入する。
- もし不等式が成り立つなら、その代表点を含む側が、求める領域である。
- もし不等式が成り立たないなら、その代表点を含まない反対側が、求める領域である。
また、不等号に等号が含まれるか(\(\ge, \le\))どうかで、境界線自体を領域に含むかどうかが決まります。
- \(>, <\) の場合:境界線を含まない。グラフでは破線で描く。
- \(\ge, \le\) の場合:境界線を含む。グラフでは実線で描く。
8.2. 直線の不等式が表す領域
直線 \(y=mx+c\) は、座標平面を「直線の上側」と「直線の下側」の2つの領域に分割します。
- 不等式 \(y > mx+c\) は、直線の上側の領域を表す。
- 不等式 \(y < mx+c\) は、直線の下側の領域を表す。
一般形 \(ax+by+c=0\) の場合は、少し注意が必要です。\(y\) の式に変形して考えるのが最も安全です。
\(by > -ax-c\)
- \(b>0\) ならば、\(y > -\frac{a}{b}x-\frac{c}{b}\) となり、直線上側。
- \(b<0\) ならば、不等号の向きが逆転し、\(y < -\frac{a}{b}x-\frac{c}{b}\) となり、直線下側。
例題1:不等式 \(2x-3y+6 > 0\) の表す領域を図示せよ。
解法
- 境界線を求める:境界線は、直線 \(2x-3y+6=0\) である。これを \(y\) について解くと、\(3y=2x+6 \Rightarrow y=\frac{2}{3}x+2\)。y切片が2、傾きが2/3の右上がりの直線である。不等号に等号がないので、破線で描く。
- 代表点で判定する:原点(0,0)を不等式 \(2x-3y+6>0\) に代入してみる。\(2(0)-3(0)+6 = 6 > 0\)不等式は成り立つ。
- 結論:求める領域は、直線 \(y=\frac{2}{3}x+2\) を境界とし、原点(0,0)を含む側である。これは、直線の下側の領域に対応する。(図示する際には、領域を斜線などで塗りつぶし、「境界線を含まない」と明記する)
8.3. 円の不等式が表す領域
円 \((x-a)^2+(y-b)^2=r^2\) は、座標平面を「円の内部」と「円の外部」の2つの領域に分割します。
左辺の \((x-a)^2+(y-b)^2\) は、点\((x,y)\)と中心\((a,b)\)との距離の2乗を表すことを思い出すと、以下の関係は直感的に明らかです。
- 不等式 \((x-a)^2+(y-b)^2 < r^2\) は、円の内部の領域を表す。
- 不等式 \((x-a)^2+(y-b)^2 > r^2\) は、円の外部の領域を表す。
例題2:不等式 \(x^2+y^2+2x-4y-4 \le 0\) の表す領域を図示せよ。
解法
- 境界線を求める:境界線は、円 \(x^2+y^2+2x-4y-4=0\) である。平方完成して、中心と半径を求める。\((x^2+2x) + (y^2-4y) – 4 = 0\)\((x+1)^2-1 + (y-2)^2-4 – 4 = 0\)\((x+1)^2 + (y-2)^2 = 9 = 3^2\)中心が (-1, 2)、半径が 3 の円である。不等号に等号があるので、実線で描く。
- 領域を判定する:不等式は \((\dots) \le r^2\) の形なので、円の内部を表す。(念のため、中心(-1, 2)を元の不等式に代入すると、\(1+4-2-8-4 = -9 \le 0\) で成立)
- 結論:求める領域は、中心が (-1, 2)、半径が 3 の円の周および内部である。
8.4. 連立不等式の表す領域
複数の不等式が同時に与えられた場合(連立不等式)、その表す領域は、それぞれの不等式が表す領域の共通部分 (intersection) となります。
例題3:連立不等式 \(x-y+1 \ge 0, \quad x+y-3 \le 0, \quad x \ge 0\) の表す領域Dを図示せよ。
解法
それぞれの不等式が表す領域を、一つの座標平面上に図示していく。
- \(x-y+1 \ge 0 \Rightarrow y \le x+1\):直線 \(y=x+1\) の周および下側の領域。
- \(x+y-3 \le 0 \Rightarrow y \le -x+3\):直線 \(y=-x+3\) の周および下側の領域。
- \(x \ge 0\):y軸の周および右側の領域。
これら3つの領域の共通部分を求める。
境界となる3直線の交点を計算すると、
- \(y=x+1, y=-x+3 \Rightarrow x=1, y=2\)
- \(y=x+1, x=0 \Rightarrow x=0, y=1\)
- \(y=-x+3, x=0 \Rightarrow x=0, y=3\)となり、求める領域は 3点 (1, 2), (0, 1), (0, 3) を頂点とする三角形の周および内部となる。
8.5. まとめ:「線」から「面」への拡張
不等式は、座標平面上で図形を「線」としてだけでなく「面」として捉えることを可能にする、強力な表現ツールです。
- 境界線と代表点: 不等式の表す領域を決定する基本は、まず等式で境界線を描き、次に代表点を代入してどちらの側かを判定することです。
- 直感的な解釈: 直線の上側・下側、円の内部・外部といった直感的なイメージと、不等式の形を結びつけて理解することが重要です。
- 共通部分としての領域: 連立不等式は、複数の条件を同時に満たす領域を定義し、その領域は各条件が定める領域の共通部分として求められます。
この「領域」という概念は、単に図形を塗りつぶすだけの作業ではありません。次節で学ぶ線形計画法のように、制約のある状況下での最適解を探すといった、より高度で実用的な問題解決の舞台を提供するのです。
9. 線形計画法
これまで学んできた「連立不等式の表す領域」は、数学的に美しいだけでなく、実は経済学や経営工学、オペレーションズ・リサーチといった分野で、現実の問題を解決するための極めて強力なツールとして利用されています。その代表的な応用例が線形計画法 (Linear Programming) です。
線形計画法とは、いくつかの線形な(一次の)不等式で表される制約条件の下で、ある線形な(一次の)目的関数の値を最大または最小にするような変数の値を見つけ出すための手法です。例えば、「限られた予算と材料の中で、利益を最大にするには、製品Aと製品Bをそれぞれいくつ生産すればよいか」といった、資源配分の最適化問題に適用されます。このセクションでは、線形計画法の基本的な考え方を学び、幾何学的な解法、すなわち領域の頂点に注目する方法をマスターします。
9.1. 線形計画法の基本要素
線形計画問題は、主に以下の3つの要素で構成されます。
- 決定変数 (Decision Variables):最適化したい対象の量。例えば、製品Aの生産量を \(x\)、製品Bの生産量を \(y\) とする。通常、\(x \ge 0, y \ge 0\) のような非負条件が付きます。
- 制約条件 (Constraints):決定変数が満たさなければならない条件。資源の限界(材料、労働時間、予算など)によって定まる、\(x, y\) についての連立一次不等式で与えられます。これらの不等式が定める領域を実行可能領域 (feasible region) と呼びます。
- 目的関数 (Objective Function):最大化または最小化したい対象。利益やコストなど、\(x, y\) の一次式 \(k = ax+by\) で与えられます。
9.2. 幾何学的な解法
線形計画法の問題を、解析幾何学を用いて解く手順は以下の通りです。
線形計画法の解法手順
- 実行可能領域を図示する:与えられた制約条件の連立不等式が表す領域(通常は凸多角形)を座標平面上に図示する。
- 目的関数を直線として解釈する:目的関数 \(k = ax+by\) を、\(y\) について解くと \(y = -\frac{a}{b}x + \frac{k}{b}\) となる。これは、傾きが \(-\frac{a}{b}\) で、y切片が \(\frac{k}{b}\) の直線を表す。\(k\) の値が変化すると、この直線は傾きを保ったまま平行移動する。\(k\) を最大(最小)にすることは、この直線のy切片を最大(最小)にすることに対応する。(ただし \(b>0\) の場合)
- 最適解を探す:この直線を、実行可能領域と共有点を持つように平行移動させていく。
- y切片が最も大きくなる(直線が最も「上」に来る)瞬間が、\(k\) の最大値を与える。
- y切片が最も小さくなる(直線が最も「下」に来る)瞬間が、\(k\) の最小値を与える。
- 最適解は頂点にある:この平行移動を考えると、最大値または最小値を与える直線は、必ず実行可能領域の頂点 (vertex) を通ることがわかる。
- 結論を出す:実行可能領域のすべての頂点の座標を求め、それぞれの頂点における目的関数の値を計算する。その中で最も大きい値が最大値、最も小さい値が最小値となる。
9.3. 解法の実践
例題:変数 \(x, y\) が4つの不等式 \(x \ge 0, y \ge 0, 2x+y \le 8, x+3y \le 9\) を満たすとき、\(x+y\) の最大値と最小値を求めよ。
解法
ステップ1:実行可能領域を図示する
4つの不等式が表す領域の共通部分を図示する。
- \(x \ge 0\): y軸とその右側
- \(y \ge 0\): x軸とその上側
- \(2x+y \le 8 \Rightarrow y \le -2x+8\): 直線 \(y=-2x+8\) とその下側
- \(x+3y \le 9 \Rightarrow y \le -\frac{1}{3}x+3\): 直線 \(y=-\frac{1}{3}x+3\) とその下側
これらの領域の共通部分は、4つの頂点を持つ四角形となる。
- 頂点O: 原点 \((0,0)\)
- 頂点A: 直線 \(y=-2x+8\) とx軸 (\(y=0\)) の交点。\(0=-2x+8 \Rightarrow x=4\)。よって \(A(4,0)\)。
- 頂点B: 直線 \(y=-\frac{1}{3}x+3\) とy軸 (\(x=0\)) の交点。\(y=3\)。よって \(B(0,3)\)。
- 頂点C: 2直線 \(y=-2x+8\) と \(y=-\frac{1}{3}x+3\) の交点。\(-2x+8 = -\frac{1}{3}x+3 \Rightarrow -6x+24=-x+9 \Rightarrow 5x=15 \Rightarrow x=3\)\(y=-2(3)+8=2\)。よって \(C(3,2)\)。
実行可能領域は、4点 O(0,0), A(4,0), C(3,2), B(0,3) を頂点とする四角形の周および内部である。
ステップ2:目的関数を解釈し、最適解を探す
目的関数は \(k=x+y\)。これは \(y=-x+k\) と変形できる。
これは、傾きが-1で、y切片が \(k\) である直線を表す。
この直線を、実行可能領域と共有点を持つように平行移動させ、y切片 \(k\) が最大・最小になる瞬間を探す。
- 最小値: 直線が原点O(0,0)を通るとき、y切片 \(k\) は最小となる。
- 最大値: 直線が頂点C(3,2)を通るとき、y切片 \(k\) は最大となる。
ステップ3:頂点における値を計算し、結論を出す
各頂点における \(k=x+y\) の値を計算する。
- O(0,0) のとき: \(k = 0+0 = 0\)
- A(4,0) のとき: \(k = 4+0 = 4\)
- B(0,3) のとき: \(k = 0+3 = 3\)
- C(3,2) のとき: \(k = 3+2 = 5\)
計算結果からも、
- 最大値は \(5\)(\(x=3, y=2\) のとき)
- 最小値は \(0\)(\(x=0, y=0\) のとき)であることが確認できる。
結論:
\(x+y\) は、\(x=3, y=2\) のとき最大値 5 をとり、\(x=0, y=0\) のとき最小値 0 をとる。
9.4. まとめ:領域上の最適化問題
線形計画法は、不等式が表す領域という幾何学的な概念が、いかに実用的な問題解決に応用されるかを示す好例です。
- 問題のモデル化: 現実の制約や目標を、不等式(実行可能領域)と一次式(目的関数)という数学の言葉に翻訳します。
- 幾何学的な解法: 目的関数を傾きが一定の平行な直線群とみなし、実行可能領域の上でスライドさせることで、最適解を視覚的に捉えます。
- 頂点の重要性: 最適解(最大値・最小値)は、必ず実行可能領域のいずれかの頂点で達成される、という基本原理が解法の核心です。
この手法は、解析幾何学が単なる図形の性質を調べる学問に留まらず、合理的な意思決定を支援するための科学的なツールでもあることを示しています。
10. 円に関する応用問題
これまでのセクションで、私たちは円に関する様々な基本的なツールを習得してきました。円の方程式(標準形・一般形)、円と直線の位置関係を判定する二つの方法(判別式と距離)、多彩な接線の公式、二つの円の位置関係の分類、そして束の考え方。この最終セクションでは、これらの知識を個別に使うだけでなく、有機的に組み合わせて解く、より総合的で発展的な応用問題に挑戦します。
これらの問題は、単一の公式を適用するだけでは解けず、問題の状況を正確に図示し、どのツールをどの順序で適用すべきかを戦略的に考える能力が求められます。これは、これまで学んできた知識が、断片的なものではなく、相互に関連し合った一つの体系であることを実感する良い機会となります。軌跡の問題や、最大・最小問題など、他の単元との融合も視野に入れていきましょう。
10.1. 軌跡と円の融合
例題1:2直線 \(l_1: x+y-2=0, l_2: x-y+4=0\) のなす角の二等分線の方程式を求めよ。
思考プロセス:
角の二等分線の幾何学的な性質は、「二等分線上の任意の点は、2直線までの距離が等しい」というものです。これが、軌跡を求めるための根源的な条件となります。
解法:
- 動点を設定する:求める角の二等分線上の任意の点を \(P(x, y)\) とする。
- 条件を立式する:点Pから2直線 \(l_1, l_2\) までの距離が等しいので、点と直線の距離の公式を用いて、\[ \frac{|x+y-2|}{\sqrt{1^2+1^2}} = \frac{|x-y+4|}{\sqrt{1^2+(-1)^2}} \]\[ \frac{|x+y-2|}{\sqrt{2}} = \frac{|x-y+4|}{\sqrt{2}} \]
- 方程式を整理する:分母の \(\sqrt{2}\) を払うと、\(|x+y-2| = |x-y+4|\)。絶対値の等式 \(|A|=|B|\) の解は \(A=B\) または \(A=-B\) なので、
- (a) \(x+y-2 = x-y+4\) の場合\(2y=6 \Rightarrow y=3\)
- (b) \(x+y-2 = -(x-y+4)\) の場合\(x+y-2 = -x+y-4\)\(2x = -2 \Rightarrow x=-1\)
- 吟味と結論:得られた2本の直線 \(y=3\) と \(x=-1\) は、互いに直交しており、元の2直線の交わる角を二等分しています。したがって、どちらも求める軌跡です。求める角の二等分線の方程式は、\(y=3\) と \(x=-1\) である。
10.2. 接線と他の条件の組み合わせ
例題2:点 A(3, 4) を通り、円 \(x^2+y^2=1\) に接する2本の接線の接点を P, Q とするとき、直線PQの方程式を求めよ。(この直線を極線という)
思考プロセス:
これは一見難問ですが、接線の公式を巧みに利用することで、鮮やかに解くことができます。
- 2つの接点をそれぞれ \(P(x_1, y_1), Q(x_2, y_2)\) とおく。
- それぞれの接点における接線の方程式を立てる。
- それらの接線が、ともに点A(3, 4)を通るという条件を立式する。
- 得られた2つの式が持つ幾何学的な意味を読み解く。
解法:
- 接点Pの座標を \((x_1, y_1)\)、接点Qの座標を \((x_2, y_2)\) とする。P, Qは円 \(x^2+y^2=1\) 上の点である。
- 点Pにおける接線の方程式は、接線の公式より、\(x_1x+y_1y=1\)この接線は点 A(3, 4) を通るので、\[ 3x_1+4y_1=1 \quad \dots(1) \]
- 点Qにおける接線の方程式は、同様に、\(x_2x+y_2y=1\)この接線も点 A(3, 4) を通るので、\[ 3x_2+4y_2=1 \quad \dots(2) \]
- ここで、(1)式と(2)式をよく見てみましょう。
- (1)式 \(3x_1+4y_1=1\) は、「点 \((x_1, y_1)\) が、直線 \(3x+4y=1\) 上にある」と解釈できます。
- (2)式 \(3x_2+4y_2=1\) は、「点 \((x_2, y_2)\) が、直線 \(3x+4y=1\) 上にある」と解釈できます。
- つまり、2つの異なる点 P\((x_1, y_1)\) と Q\((x_2, y_2)\) は、両方とも一本の直線 \(3x+4y=1\) 上に乗っていることになります。2点を通る直線はただ一本しか存在しないので、この直線 \(3x+4y=1\) こそが、求める直線PQに他なりません。
結論:
求める直線PQの方程式は、\(3x+4y=1\) である。
この解法は、途中で接点の座標を一切計算することなく、論理の力だけで結論にたどり着く、非常にエレガントなものです。
10.3. 円の束と位置関係の融合
例題3:2つの円 \(C_1: x^2+y^2=4\) と \(C_2: (x-1)^2+y^2=9\) がある。実数 \(a, b\) に対して、円 \(ax^2+ay^2+bx-4a=0\) が \(C_1, C_2\) のいずれか一方とのみ共有点を持つように、点\((a, b)\) の満たすべき条件を求め、その領域を図示せよ。
思考プロセス:
これは非常に複雑な問題に見える。
- まず、3番目の円C3の方程式を整理し、その正体を明らかにする。
- 「一方とのみ共有点を持つ」という条件を、位置関係の条件に翻訳する。(C3がC1と共有点を持つ) AND (C3がC2と共有点を持たない)OR(C3がC1と共有点を持たない) AND (C3がC2と共有点を持つ)
- それぞれの条件を、中心間距離と半径の関係式で表現し、\(a,b\) の不等式を導く。
解法:
- 円C3の分析:\(ax^2+ay^2+bx-4a=0\)。\(a\neq 0\)で割ると、\(x^2+y^2+\frac{b}{a}x-4=0\)平方完成すると、\((x+\frac{b}{2a})^2+y^2 = 4+(\frac{b}{2a})^2\)よって、C3は中心 \((-\frac{b}{2a}, 0)\)、半径 \(R=\sqrt{4+\frac{b^2}{4a^2}}\) の円である。中心はx軸上を動くことがわかる。
- C1, C2の分析:\(C_1\): 中心(0,0)、半径\(r_1=2\)\(C_2\): 中心(1,0)、半径\(r_2=3\)
- 位置関係の条件:
- C3とC1が共有点を持つ条件:2円が離れていない、または一方が他方の内部にない条件。中心間距離 \(d_{31} = |-\frac{b}{2a}-0|=|\frac{b}{2a}|\)。共有点を持つのは、\(|R-r_1| \le d_{31} \le R+r_1\) のとき。
- C3とC2が共有点を持つ条件:中心間距離 \(d_{32} = |-\frac{b}{2a}-1|\)。共有点を持つのは、\(|R-r_2| \le d_{32} \le R+r_2\) のとき。
この問題は、これらの複雑な不等式を解く必要があり、大学入試レベルとしてもかなり高度な部類に入ります。しかし、その根底にあるのは、本モジュールで学んだ「円の方程式の分析」と「2円の位置関係の分類」という基本的な考え方です。
10.4. まとめ:知識体系の統合
円に関する応用問題は、これまで学んできた知識が、いかに相互に関連し合っているかを教えてくれます。
- ツールの組み合わせ: 一つの問題を解くために、軌跡、接線、距離、束など、複数の概念を組み合わせて戦略を立てる必要があります。
- 幾何学的洞察: 式の計算を進めるだけでなく、その式が図形的に何を意味しているのかを常に考えることが、エレガントな解法への近道となります(例:極線の問題)。
- 論理の重要性: 特に軌跡の問題では、「必要条件」から絞り込み、「十分条件」で確認するという、論理的な思考の往復運動が不可欠です。
本モジュールで扱った内容は、解析幾何学の基盤であると同時に、それ自体が豊かで奥深い応用を持つ一つの完成された世界です。ここで身につけた多角的な視点と体系的な知識は、今後の数学の学習全体を支える力となるでしょう。
Module 4:図形と方程式(2) 円と軌跡の総括:静的な図形から動的な軌跡へ、方程式で描く無限の可能性
Module 3で点と直線を代数の言葉で語る術を学んだ私たちは、本モジュールでその応用範囲を劇的に広げました。まず、完全な対称性を持つ図形、円を方程式によって捉え、その性質を精密に分析しました。円と直線の関係、円に引かれる無数の接線、そして二つの円が織りなす多彩な位置関係。これらすべてが、判別式や距離の公式、そして束の考え方といった代数的なツールによって、見事に解き明かされていきました。
しかし、本モジュールの真のクライマックスは、その先、より一般的で強力な概念への飛躍にありました。「軌跡」という考え方は、あらかじめ与えられた図形を分析する受動的な姿勢から、与えられた条件を満たす点がどのような図形を「創造」するのかを探求する、能動的な姿勢への転換を促しました。さらに、「領域」という概念は、方程式が描く一次元の「線」の世界から、不等式が支配する二次元の「面」の世界へと、私たちの認識を拡張しました。線形計画法は、その領域という舞台の上で、現実的な最適化問題がいかにして解かれるかを示す、美しい応用例でした。
静的な図形の分析から、パラメータによる動的な軌跡の探求へ。そして、等式が定める境界線から、不等式が定める広大な領域へ。私たちは、方程式という道具が、単に既知の図形を記述するだけでなく、未知の図形を発見し、無限の可能性を描き出すための強力な創造のツールであることを学びました。ここで身につけた、幾何学的な条件を代数的な論理へと翻訳し、その結果を再び幾何学的に解釈する能力は、今後の数学のすべての分野において、あなたの思考を豊かにし、その可能性を大きく広げてくれるはずです。