【基礎 数学(数学Ⅱ)】Module 9:微分法(1) 微分係数と導関数

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本モジュールの目的と構成

これまでの数学の旅は、静的な世界、すなわち固定された図形、確定した数、安定した関係性を扱うものでした。しかし、私たちが生きる現実の世界は、常に「変化」しています。物体の運動、人口の変動、経済の成長、気温の推移。これらの動的な現象を数学の言葉で記述し、その「瞬間の変化」を精密に捉えるための革命的な道具こそが、本モジュールから始まる微分積分学、その第一歩である微分法です。

代数や幾何学が世界の「状態」を記述する言語であったとすれば、微分法は世界の「変化のプロセス」を記述する言語です。その核心には、「高速道路を時速100kmで走る車は、ある特定の『瞬間』に、どれほどの速さを持っているのか?」という、古代ギリシャの哲学者ゼノンをも悩ませた根源的な問いがあります。2点間の「平均の速さ」なら簡単に計算できますが、幅を持たない「瞬間」の速さを捉えるにはどうすればよいか。

この難問に答える鍵が、数学における最も深遠で強力な概念の一つ、極限 (limit) です。極限とは、ある値を「そのもの」にすることなく、限りなくそれに「近づける」という操作です。この極限の考え方を用いて、時間や空間の間隔を限りなくゼロに近づけることで、私たちは「平均変化率」から「瞬間変化率」を導き出します。これこそが微分係数であり、その幾何学的な現れが、曲線の特定の点における「接線の傾き」なのです。

本モジュールでは、この微分法の基本的な思想を、平均変化率から極限、そして微分係数、導関数へと、論理の階段を一歩ずつ登るようにして構築していきます。そして、この新しい強力な計算ツールを用いて、曲線の接線の方程式を求めるという、解析幾何学への最初の応用を果たします。これは、数学の歴史における一大転換点であり、あなたの数学的思考を、静的な世界から動的な世界へと飛躍させる、決定的なモジュールとなるでしょう。

本モジュールは、微分という新しい概念をその根源から体系的に構築するために、以下の順序で構成されています。

  1. 平均変化率と微分係数: まず、2点間を結ぶ直線の傾きである「平均変化率」を定義し、極限の概念を用いて、ある一点における「瞬間変化率」である「微分係数」を導入します。
  2. 微分係数の幾何学的意味(接線の傾き): 微分係数が、幾何学的には曲線のグラフ上の点における「接線の傾き」を意味することを、割線が接線に近づく極限の様子を通じて理解します。
  3. 導関数の定義: 微分係数の考え方を一般化し、各点 x における接線の傾きを与える新しい関数、「導関数」 f'(x) を定義します。
  4. 微分法の基本公式(x^n, 定数)x^n や定数といった、最も基本的な関数の導関数を、定義に従って計算し、公式化します。
  5. 和・差・実数倍の微分: 関数の和・差・実数倍の導関数が、それぞれの導関数の和・差・実数倍と一致するという、微分の線形性を学びます。
  6. 接線の方程式: 微分法最初の応用として、導関数を用いて計算した接線の傾きから、接線の方程式を求める手法を確立します。
  7. 法線の方程式: 接線と接点で直交する「法線」の方程式を求める方法を学びます。
  8. 微分可能性と連続性: 関数が「微分可能」であることと「連続」であることの間の、論理的に厳密な関係性を探求します。
  9. 極限値の計算(不定形): 微分の定義の根幹をなす、0/0 の不定形をはじめとする極限値の計算手法に習熟します。
  10. 関数の積・商の微分法(発展): より複雑な関数の微分を可能にする、積の微分法と商の微分法を、数学IIIへの橋渡しとして紹介します。

この一連の学習は、あなたに「変化」を捉える新しい数学の目を与え、科学技術のあらゆる分野を支える近代数学の根幹へとあなたを導くものとなるでしょう。


目次

1. 平均変化率と微分係数

「変化」を測定するための最も素朴で基本的な方法は、2つの時点を比較し、その間に「平均して」どれくらい変化したかを調べることです。例えば、車が2時間で120km進んだなら、その「平均の速さ」は 120km / 2h = 60km/h と計算できます。関数 y=f(x) の世界では、この「平均の速さ」に相当する概念が平均変化率です。

しかし、私たちが本当に知りたいのは、しばしば「瞬間」の変化です。スピードメーターが指す、まさに「今この瞬間」の速さ。関数のグラフで言えば、ある一点における「険しさ」。この捉えどころのない「瞬間」の変化を数学的に厳密に定義するための鍵が、極限 (limit) の考え方です。平均変化率を計算する2点間の間隔を、極限を用いて限りなくゼロに近づけることで、私たちは「平均」から「瞬間」への飛躍を遂げ、微分係数という、微分法の根幹概念にたどり着きます。

1.1. 平均変化率

平均変化率の定義

関数 y=f(x) において、x の値が a から b まで変化するとき、

  • x の変化量 \Delta x = b-a
  • y の変化量 \Delta y = f(b)-f(a)である。このとき、x の変化量に対する y の変化量の割合、すなわち\[ \frac{\Delta y}{\Delta x} = \frac{f(b)-f(a)}{b-a} \]を、x が a から b まで変化するときの、関数 f(x) の平均変化率 (average rate of change) という。(\Delta はギリシャ文字のデルタで、差 (Difference) を表す記号としてよく用いられる)

【幾何学的意味】

平均変化率の式は、座標平面上の2点 A(a, f(a)) と B(b, f(b)) を結ぶ直線AB(割線、secant line)の傾きの定義式そのものです。

例題:関数 f(x)=x^2+1 について、x が 1 から 3 まで変化するときの平均変化率を求めよ。

解法:

a=1, b=3 とする。

f(1) = 1^2+1 = 2

f(3) = 3^2+1 = 10

平均変化率は、

\frac{f(3)-f(1)}{3-1} = \frac{10-2}{2} = \frac{8}{2} = 4

これは、放物線 y=x^2+1 上の2点 (1, 2) と (3, 10) を結ぶ直線の傾きが4であることを意味します。

1.2. 極限の考え方と微分係数

車のスピードメーターが示す「瞬間の速さ」とは何でしょうか。それは、例えば午後2時から午後2時0.1秒までの極めて短い時間の平均の速さを計算し、さらにその時間間隔を0.01秒、0.001秒と、限りなくゼロに近づけていったときに、その平均の速さが収束していく先の「極限値」と考えるのが自然です。

この考え方を、関数の平均変化率に適用します。

x の変化量を \Delta x = h とおき、b=a+h とします。

すると、x が a から a+h まで変化するときの平均変化率は、

\frac{f(a+h)-f(a)}{(a+h)-a} = \frac{f(a+h)-f(a)}{h}

と書けます。

ここで、時間間隔をゼロに近づけること、すなわち h \to 0 の極限をとることを考えます。

微分係数の定義

関数 y=f(x) の x=a における微分係数 (differential coefficient) または変化率 (rate of change) f'(a) は、以下の極限値で定義される。

\[ f'(a) = \lim_{h \to 0} \frac{f(a+h)-f(a)}{h} \]

この極限値が存在するとき、関数 f(x) は x=a で微分可能 (differentiable) であるという。

(f'(a) は「エフ プライム エー」と読む)

微分係数 f'(a) は、x が a という値をとる、まさにその瞬間における y の変化率を表します。

1.3. 微分係数の計算

定義に従って、具体的な関数の微分係数を計算してみましょう。

例題:関数 f(x)=x^2 について、x=3 における微分係数 f'(3) を求めよ。

解法:

定義式 f'(a) = \lim_{h \to 0} \frac{f(a+h)-f(a)}{h} に、f(x)=x^2, a=3 を代入する。

f(3) = 3^2 = 9

f(3+h) = (3+h)^2 = 9+6h+h^2

よって、

f'(3) = \lim_{h \to 0} \frac{(9+6h+h^2)-9}{h}

分子を整理すると、

= \lim_{h \to 0} \frac{6h+h^2}{h}

h \to 0 の極限を考えるので、h は0に限りなく近いが0そのものではない。したがって、分母と分子を h で約分することができる。

= \lim_{h \to 0} (6+h)

最後に、h を 0 とすると、

= 6+0 = 6

したがって、f'(3)=6。

これは、関数 f(x)=x^2 は、x=3 の瞬間において、x が1増加すると y が6増加するペースで変化している、ということを意味します。

【ミニケーススタディ:0/0 の不定形】

微分係数の定義式に h=0 をいきなり代入しようとすると、分母は 0、分子も f(a)-f(a)=0 となり、0/0 という形になってしまいます。これを不定形 (indeterminate form) といい、このままでは値が定まりません。

微分係数を計算するプロセスは、この 0/0 の不定形を、約分などの式変形によって解消し、極限値が定まる形へと導く作業に他なりません。

1.4. まとめ:平均から瞬間への飛躍

平均変化率と微分係数は、変化を捉える二つの異なるレベルを表しています。

  • 平均変化率: 2つの時点(区間)における、大局的な変化の平均。幾何学的には割線の傾き
  • 微分係数: ただ1つの時点(瞬間)における、局所的な変化の勢い。平均変化率の区間の幅を極限によってゼロに近づけることで定義される。

この「区間」から「点」へ、「平均」から「瞬間」へという飛躍こそが、微分法の本質であり、その操作を可能にする「極限」という概念が、解析学全体の礎となります。次節では、この微分係数が幾何学的に何を意味するのかを、さらに深く探求します。


2. 微分係数の幾何学的意味(接線の傾き)

前節で、私たちは平均変化率の極限として、微分係数 f'(a) を代数的に定義しました。f'(a) は x=a における「瞬間の変化率」を表しますが、この抽象的な概念は、グラフの世界において、極めて明確で直感的な幾何学的意味を持っています。

平均変化率が、グラフ上の2点 A(a, f(a)) と B(a+h, f(a+h)) を結ぶ割線(secant line)の傾きであったことを思い出してください。微分係数は、この h を限りなくゼロに近づけたときの極限でした。では、このとき、割線ABは、グラフ上でどのように振る舞うでしょうか。その極限の姿こそが、微分係数の幾何学的な正体、すなわち接線 (tangent line) の傾きなのです。

2.1. 割線から接線へ

関数 y=f(x) のグラフを考えます。

  1. グラフ上に、固定された点 A(a, f(a)) をとります。
  2. 点Aの近くに、別の点 B(a+h, f(a+h)) をとります。
  3. この2点を結ぶ直線(割線)ABを引きます。この割線の傾きは、平均変化率 \frac{f(a+h)-f(a)}{h} です。
  4. ここで、点Bを、曲線上を滑らせるようにして、点Aに限りなく近づけていきます。これは、h \to 0 の極限をとることに対応します。
  5. 点Bが点Aに近づくにつれて、割線ABは、点Aを中心に回転していきます。そして、h \to 0 の極限において、割線ABはある一本の直線に限りなく近づいていきます。

この、割線の極限として得られる直線を、曲線 y=f(x) の x=a における接線と定義します。

2.2. 微分係数 = 接線の傾き

上記のプロセスを、傾きに着目してもう一度見てみましょう。

  • 割線ABの傾きは、\frac{f(a+h)-f(a)}{h} です。
  • 接線は、割線ABの極限の姿です。
  • したがって、接線の傾きは、割線の傾きの極限の姿、ということになります。

割線の傾きの h \to 0 での極限値は、まさに微分係数 f'(a) の定義そのものです。

\lim_{h \to 0} (\text{割線の傾き}) = (\text{接線の傾き})

\lim_{h \to 0} \frac{f(a+h)-f(a)}{h} = f'(a)

この二つの事実から、微分係数の幾何学的な意味に関する、以下の極めて重要な結論が導かれます。

微分係数の幾何学的意味

関数 y=f(x) の x=a における微分係数 f'(a) は、

そのグラフ上の点 (a, f(a)) における接線の傾きに等しい。

【物理的意味と幾何学的意味の対応】

  • 物理的(時間的)な意味: x=a における瞬間の変化率
  • 幾何学的(空間的)な意味: 点 (a, f(a)) における接線の傾き

この二つの意味が、微分係数 f'(a) という一つの数学的概念によって、完全に結びつけられます。時刻と位置の関係を表すグラフを考えれば、瞬間の速さ(変化率)が、その時刻におけるグラフの接線の傾きに対応することは、直感的にも理解できるでしょう。

2.3. 具体例による確認

例題:放物線 y=x^2 の x=1 における接線の傾きを求めよ。

解法:

この問題は、「関数 f(x)=x^2 の x=1 における微分係数 f'(1) を求めよ」という問題と全く同じです。

定義に従って f'(1) を計算します。

f(1) = 1^2 = 1

f(1+h) = (1+h)^2 = 1+2h+h^2

f'(1) = \lim_{h \to 0} \frac{f(1+h)-f(1)}{h} = \lim_{h \to 0} \frac{(1+2h+h^2)-1}{h}

= \lim_{h \to 0} \frac{2h+h^2}{h} = \lim_{h \to 0} (2+h) = 2

よって、求める接線の傾きは 2 です。

2.4. まとめ:瞬間の「険しさ」を測る

微分係数の幾何学的な解釈は、微分という抽象的な計算に、具体的な視覚的イメージを与えてくれます。

  • 接線の定義: 接線とは、もはや「曲線と1点で交わる直線」という曖昧な定義ではなく、「割線の極限」として、数学的に厳密に定義されます。
  • 微分係数と傾きの一致: x=a における微分係数 f'(a) は、グラフの点 (a, f(a)) がどれほど「険しい」か、その傾き具合を正確に数値化したものです。
  • 後の応用への布石: この「微分係数=接線の傾き」という関係は、次節以降で学ぶ、接線の方程式を求めるための、直接的な出発点となります。

この幾何学的な意味をしっかりと理解することで、微分法の計算が、単なる記号操作ではなく、曲線の形を分析するための強力なツールであることが実感できるでしょう。


3. 導関数の定義

前節までで、私たちは、特定の点 x=a における微分係数 f'(a)(瞬間の変化率、接線の傾き)を求める方法を学びました。しかし、曲線の傾きは、点が変わればその値も変化します。もし、グラフ上のすべての点における接線の傾きを、いちいち極限計算で求めていたのでは、あまりに非効率です。

そこで、発想を一般化します。「x=a という特定の点」ではなく、「任意の点 x」における微分係数を、x の関数として表現できないだろうか。この要求から生まれるのが、導関数 (derivative function) の概念です。導関数 f'(x) は、元の関数 f(x) から「導かれた」新しい関数であり、その値は、元の関数の各点 x における接線の傾きを与えます。この導関数を求める操作こそが、微分する (differentiate) という行為の核心です。

3.1. 導関数の定義

導関数の定義は、微分係数の定義式において、定数 a を変数 x に置き換えるだけで得られます。

導関数の定義

関数 y=f(x) の導関数 f'(x) は、以下の極限値で定義される。

\[ f'(x) = \lim_{h \to 0} \frac{f(x+h)-f(x)}{h} \]

関数 f(x) から、その導関数 f'(x) を求めることを、f(x) を**x で微分する**という。

導関数の様々な表記法

導関数を表す記号には、f'(x) の他にも、いくつかの表記法があります。これらはすべて同じ意味です。

  • ラグランジュの記法: f'(x), y'
  • ライプニッツの記法: \frac{dy}{dx}, \frac{df}{dx}, \frac{d}{dx}f(x)ライプニッツの記法 \frac{dy}{dx} は、y の微小変化量 dy を x の微小変化量 dx で割ったもの、という \frac{\Delta y}{\Delta x} の極限としての意味合いを強く反映しており、物理学や工学で頻繁に用いられます。

3.2. 定義に従った導関数の計算

導関数 f'(x) は、入力として x を受け取り、出力としてその点での接線の傾きを返す、新しい関数です。定義に従って、いくつかの基本的な関数の導関数を求めてみましょう。

例題1:関数 f(x)=c (c は定数)を微分せよ。

解法:

f(x+h) = c

f(x) = c

導関数の定義より、

f'(x) = \lim_{h \to 0} \frac{c-c}{h} = \lim_{h \to 0} \frac{0}{h} = \lim_{h \to 0} 0 = 0

よって、(c)’=0。

【幾何学的意味】 y=c のグラフは水平な直線であり、その傾きはどの点においても 0 です。

例題2:関数 f(x)=x を微分せよ。

解法:

f(x+h) = x+h

f(x) = x

f'(x) = \lim_{h \to 0} \frac{(x+h)-x}{h} = \lim_{h \to 0} \frac{h}{h} = \lim_{h \to 0} 1 = 1

よって、(x)’=1。

【幾何学的意味】 y=x のグラフは傾き 1 の直線であり、その傾きはどの点においても 1 です。

例題3:関数 f(x)=x^2 を微分せよ。

解法:

f(x+h) = (x+h)^2 = x^2+2xh+h^2

f(x) = x^2

f'(x) = \lim_{h \to 0} \frac{(x^2+2xh+h^2)-x^2}{h} = \lim_{h \to 0} \frac{2xh+h^2}{h}

= \lim_{h \to 0} (2x+h) = 2x+0 = 2x

よって、(x^2)’=2x。

【意味】 この導関数 f'(x)=2x は、放物線 y=x^2 の各点 x における接線の傾きを与える公式になっています。

  • x=1 なら、傾きは f'(1)=2(1)=2
  • x=3 なら、傾きは f'(3)=2(3)=6 (前節の例題と一致)
  • x=-2 なら、傾きは f'(-2)=2(-2)=-4

3.3. 微分するということ

「微分する」という操作は、元の関数 f(x) を入力とし、その導関数 f'(x) を出力とする、一種の「演算子 (operator)」と見なすことができます。

f(x) \xrightarrow{\text{微分}} f'(x)

x^2 \xrightarrow{\text{微分}} 2x

c \xrightarrow{\text{微分}} 0

この演算は、いわば「傾き測定マシン」のようなものです。どんな関数のグラフでも、このマシンに通せば、各点での傾きの値を教えてくれるグラフ(導関数のグラフ)が出力されます。

3.4. まとめ:傾きを返す関数

導関数は、微分法の中心的な概念であり、一点の情報を一般化する、数学における強力な思考法を体現しています。

  • 微分係数の一般化: 特定の点 a における微分係数 f'(a) を、任意の点 x での関数 f'(x) へと一般化しました。
  • 傾きの公式: 導関数 f'(x) は、元の関数 f(x) のグラフの、各点における接線の傾きを与える公式として機能します。
  • 「微分する」という操作: 関数からその導関数を求めるプロセス、すなわち「微分」は、これから学ぶ微分法のすべての計算の基礎となります。

次節からは、この「微分する」という操作を、毎回極限計算の定義に戻ることなく、より効率的に実行するための微分公式を構築していきます。


4. 微分法の基本公式(x^n, 定数)

導関数の定義 \lim_{h \to 0} \frac{f(x+h)-f(x)}{h} は、微分の本質を理解する上で不可欠ですが、新しい関数に出会うたびにこの極限計算を実行するのは非常に手間がかかります。自動車の仕組みを理解していても、毎回部品から組み立てるのではなく、完成車に乗る方が便利なように、数学でも、一度証明された結果は「公式」として活用し、より高度な問題に思考を集中させるのが賢明です。

このセクションでは、最も基本的で重要な関数である、定数関数 f(x)=c と、べき関数 f(x)=x^n (n は正の整数) の導関数を、定義に従って一度だけ厳密に証明し、その結果を公式として確立します。特に、x^n の微分公式 (x^n)'=nx^{n-1} は、多項式をはじめとする多くの関数を微分する上での、基本中の基本となる最重要公式です。

4.1. 定数関数の微分

公式:(c)' = 0 (c は定数)

証明:

f(x)=c とすると、x の値によらず、関数の値は常に c です。

したがって f(x+h)=c。

導関数の定義より、

f'(x) = \lim_{h \to 0} \frac{f(x+h)-f(x)}{h} = \lim_{h \to 0} \frac{c-c}{h} = \lim_{h \to 0} \frac{0}{h}

h は0に限りなく近いが0ではないので、0/h=0。

= \lim_{h \to 0} 0 = 0

よって、(c)’=0。 [証明終]

【幾何学的解釈】

y=c のグラフは、x軸に平行な直線です。その傾きは、どの点においても 0 です。導関数が 0 になるという計算結果は、この幾何学的な事実と完全に一致します。

4.2. x の微分

公式:(x)' = 1

証明:

f(x)=x とすると、f(x+h)=x+h。

f'(x) = \lim_{h \to 0} \frac{f(x+h)-f(x)}{h} = \lim_{h \to 0} \frac{(x+h)-x}{h} = \lim_{h \to 0} \frac{h}{h} = \lim_{h \to 0} 1 = 1

よって、(x)’=1。 [証明終]

【幾何学的解釈】

y=x のグラフは、傾き 1 の直線です。その傾きは、どの点においても 1 です。

4.3. x^n の微分(nは正の整数)

公式:(x^n)' = nx^{n-1}

この公式は、微分法における最も強力な武器の一つです。指数 n が係数として前に降りてきて、元の指数は 1 減る、と覚えます。

例:(x^2)’=2x^{2-1}=2x, (x^3)’=3x^{3-1}=3x^2, (x^5)’=5x^4

証明:

f(x)=x^n とする。f(x+h)=(x+h)^n。

導関数の定義は f'(x) = \lim_{h \to 0} \frac{(x+h)^n – x^n}{h}。

ここで、分子の (x+h)^n を二項定理を用いて展開します。

(x+h)^n = {}_nC_0 x^n + {}_nC_1 x^{n-1}h + {}_nC_2 x^{n-2}h^2 + \dots + {}_nC_n h^n

= x^n + nx^{n-1}h + \frac{n(n-1)}{2}x^{n-2}h^2 + \dots + h^n

これを分子に代入すると、

f'(x) = \lim_{h \to 0} \frac{(x^n + nx^{n-1}h + \frac{n(n-1)}{2}x^{n-2}h^2 + \dots + h^n) – x^n}{h}

分子の x^n が打ち消し合います。

= \lim_{h \to 0} \frac{nx^{n-1}h + \frac{n(n-1)}{2}x^{n-2}h^2 + \dots + h^n}{h}

分子のすべての項は h を少なくとも一つ含んでいるので、分母の h と約分できます。

= \lim_{h \to 0} \left( nx^{n-1} + \frac{n(n-1)}{2}x^{n-2}h + \dots + h^{n-1} \right)

ここで、h \to 0 の極限をとると、第2項以降の h を含む項はすべて 0 になります。

= nx^{n-1} + 0 + \dots + 0

= nx^{n-1}

よって、(x^n)’=nx^{n-1} が証明されました。 [証明終]

【公式の拡張】

この公式は、n が正の整数だけでなく、すべての実数(0、負の整数、有理数、無理数)に対しても成り立つ、非常に強力なものです。数学IIIでその証明を学びますが、数学IIの段階でも、例えば負の整数や有理数の場合に成り立つことを(商の微分法などを用いて)確認できます。

  • (x^{-2})' = -2x^{-3}
  • (\sqrt{x})' = (x^{1/2})' = \frac{1}{2}x^{-1/2} = \frac{1}{2\sqrt{x}}

4.4. まとめ:微分計算の自動化

これらの基本公式を確立したことで、私たちは、特定の関数については、もはや微分の定義に戻る必要がなくなりました。

  • 定数は消える: (c)'=0
  • x^n は次数が下がる: (x^n)'=nx^{n-1}

この x^n の微分公式は、その単純な形とは裏腹に、微分法の計算の大部分を支える、極めて重要な柱です。次節で学ぶ微分の線形性と組み合わせることで、私たちはすべての多項式関数を、機械的に、そして迅速に微分する能力を手に入れることになります。これは、微分計算の「自動化」への第一歩です。


5. 和・差・実数倍の微分

前節で、私たちは x^n という基本的な「部品」を微分するための公式を手にしました。しかし、実際に私たちが扱う関数の多くは、3x^2 - 5x + 7 のように、これらの部品が足し算、引き算、定数倍によって組み合わされた多項式です。

このような、より複雑な関数を微分するために、私たちは「微分」という操作が、これらの基本的な演算(和・差・実数倍)とどのように関わるのか、そのルールを明らかにする必要があります。幸いなことに、そのルールは非常にシンプルで直感的です。微分は、これらの演算を「すり抜けて」、各部品に個別に作用させることができます。この性質を線形性 (linearity) と呼び、これにより、私たちはどんな多項式でも、項ごとにバラバラに微分して、その結果を後で足し合わせる、という単純な作業で導関数を求めることが可能になります。

5.1. 微分の線形性

k を定数、f(x), g(x) を x で微分可能な関数とするとき、以下の性質が成り立ちます。

微分の計算法則

  1. 実数倍: \{ kf(x) \}’ = k f'(x)(定数倍は、微分の外に出せる)
  2. 和: \{ f(x)+g(x) \}’ = f'(x)+g'(x)(和の微分は、微分の和)
  3. 差: \{ f(x)-g(x) \}’ = f'(x)-g'(x)(差の微分は、微分の差)

これらの性質は、導関数の定義と、極限の性質 \lim(A+B)=\lim A + \lim B などから、簡単に証明できます。

【性質1(実数倍)の証明】

y = kf(x) とする。導関数の定義より、

y’ = \lim_{h \to 0} \frac{kf(x+h)-kf(x)}{h}

分子を k でくくる。

= \lim_{h \to 0} \frac{k\{f(x+h)-f(x)\}}{h}

定数 k は極限の外に出せるので、

= k \lim_{h \to 0} \frac{f(x+h)-f(x)}{h}

\lim の部分は f'(x) の定義そのものである。

= k f'(x) [証明終]

【性質2(和)の証明】

y=f(x)+g(x) とする。

y’ = \lim_{h \to 0} \frac{\{f(x+h)+g(x+h)\} – \{f(x)+g(x)\}}{h}

分子を f の項と g の項に並べ替える。

= \lim_{h \to 0} \frac{\{f(x+h)-f(x)\} + \{g(x+h)-g(x)\}}{h}

分数を2つに分ける。

= \lim_{h \to 0} \left( \frac{f(x+h)-f(x)}{h} + \frac{g(x+h)-g(x)}{h} \right)

極限の性質より、和の極限は極限の和に等しい。

= \lim_{h \to 0} \frac{f(x+h)-f(x)}{h} + \lim_{h \to 0} \frac{g(x+h)-g(x)}{h}

= f'(x) + g'(x) [証明終]

5.2. 多項式の微分

これらの法則と、前節の (x^n)'=nx^{n-1}(c)'=0 を組み合わせることで、私たちはすべての多項式関数を微分する能力を獲得します。

例題1:関数 y = 3x^2 – 5x + 7 を微分せよ。

解法:

和・差の法則により、項ごとに微分できる。

y’ = (3x^2)’ – (5x)’ + (7)’

実数倍の法則により、係数を外に出せる。

= 3(x^2)’ – 5(x)’ + (7)’

基本公式を適用する。(x^2)’=2x, (x)’=1, (7)’=0

= 3(2x) – 5(1) + 0

= 6x – 5

例題2:関数 f(x) = (x-1)(2x+3) を微分せよ。

解法1:展開してから微分する

まず、f(x) を展開して多項式の形にする。

f(x) = 2x^2+3x-2x-3 = 2x^2+x-3

次に、項ごとに微分する。

f'(x) = (2x^2)’ + (x)’ – (3)’

= 2(2x) + 1 – 0 = 4x+1

解法2:積の微分法を用いる(発展)

後述する積の微分法 (uv)’=u’v+uv’ を用いると、展開せずに微分できる。

u=x-1, v=2x+3 とすると、u’=1, v’=2。

f'(x) = (1)(2x+3) + (x-1)(2) = 2x+3+2x-2 = 4x+1

5.3. 微分係数の計算への応用

導関数 f'(x) が求まれば、特定の点 x=a における微分係数 f'(a) は、単に x=a を代入するだけで計算できます。

例題3:関数 f(x) = x^3 - 4x について、x=-1 における微分係数を求めよ。

解法:

  1. 導関数を求める:f'(x) = (x^3)’ – (4x)’ = 3x^2 – 4(x)’ = 3x^2 – 4
  2. x=-1 を代入する:f'(-1) = 3(-1)^2 – 4 = 3(1) – 4 = -1

これは、曲線 y=x^3-4x の x=-1 における接線の傾きが -1 であることを意味します。定義に従って \lim_{h\to 0}の計算をするよりも、遥かに迅速かつ簡単です。

5.4. まとめ:微分の機械化

微分の線形性(和・差・実数倍の法則)は、微分計算を劇的に単純化、機械化する、極めて重要な性質です。

  • 分解して攻略: 複雑な多項式も、項という単純な部品に「分解」し、それぞれを微分してから、結果を「再構成」することができます。
  • 計算の自動化: この法則のおかげで、多項式の微分は、もはや極限を意識する必要のない、ほとんど自動的なアルゴリズムとなります。
  • 構造の保存: 微分という操作が、基本的な代数構造(和、差、実数倍)を保存するという事実は、微分が非常に「素直な」演算であることを示しています。

この微分の線形性を完全にマスターすることで、私たちは、より複雑な関数の振る舞いを分析するという、微分法の本来の目的へと、思考のリソースを集中させることができるようになるのです。


6. 接線の方程式

「微分係数は、接線の傾きに等しい」。この微分法の根幹をなす事実が、具体的な応用として最初に結実するのが、接線の方程式を求める問題です。これは、微分法(新しい計算ツール)と、図形と方程式(既存の知識)とが融合する、解析幾何学のハイライトの一つです。

曲線の特定の点における接線の方程式を求めるための手順は、非常に明確です。必要な情報は、直線がただ一つに決まるための条件、すなわち「通る1点」と「傾き」です。

  • 通る1点: これは問題で与えられる接点 (a, f(a)) です。
  • 傾き: これこそが、微分法によって計算される微分係数 f'(a) です。

この二つの要素がそろえば、あとはModule 3で学んだ直線の「点傾き形」の公式に当てはめるだけで、機械的に接線の方程式を導き出すことができます。

6.1. 接線の方程式の公式

接線の方程式

関数 y=f(x) のグラフ上の点 (a, f(a)) における接線の方程式は、

\[ y – f(a) = f'(a)(x-a) \]

導出の手順

  1. 接線が通る点(接点)の座標は (a, f(a)) である。
  2. 接線の傾き m は、x=a における微分係数 f'(a) に等しい。
  3. 通る1点 (x_1, y_1) = (a, f(a)) と傾き m = f'(a) が分かっているので、直線の方程式の点傾き形 y-y_1 = m(x-x_1) に代入する。

6.2. 接線の方程式を求める

例題1:曲線 y=x^2-3x+1 上の点 (3, 1) における接線の方程式を求めよ。

解法:

  1. 導関数を求める:f(x) = x^2-3x+1 とすると、f'(x) = 2x-3
  2. 接線の傾きを計算する:接点は x=3 なので、傾きは f'(3) である。m = f'(3) = 2(3)-3 = 6-3 = 3
  3. 方程式を立てる:通る点(接点)は (3, 1)、傾きは 3。点傾き形の公式 y-y_1 = m(x-x_1) に代入する。y-1 = 3(x-3)y-1 = 3x-9y = 3x-8

6.3. 異なるパターンの問題

接線の方程式を求める問題には、接点が直接与えられていない、より応用的なパターンが存在します。

6.3.1. 傾きが与えられている場合

例題2:曲線 y=x^2-x の接線で、傾きが 3 であるものの方程式を求めよ。

思考プロセス:

  1. この問題では、傾きは分かっているが、接点が不明である。
  2. まず、接点の座標を文字(例:t)で設定する。接点は (t, t^2-t) となる。
  3. この点 t における接線の傾きが 3 になる、という条件から、t の値を決定するための方程式を立てる。
  4. t の値がわかれば、接点の座標が確定する。
  5. 接点の座標と、与えられた傾き 3 を用いて、接線の方程式を立てる。

解法:

  1. f(x)=x^2-x とすると、f'(x)=2x-1
  2. 接点のx座標を t とすると、その点における接線の傾きは f'(t) = 2t-1
  3. この傾きが 3 に等しいので、2t-1 = 3 \Rightarrow 2t=4 \Rightarrow t=2
  4. 接点のx座標が 2 であることがわかった。接点のy座標は f(2)=2^2-2 = 2。よって、接点は (2, 2)。
  5. 求める接線は、点 (2, 2) を通り、傾きが 3 の直線である。y-2 = 3(x-2)y-2 = 3x-6 \Rightarrow y=3x-4

6.3.2. 曲線外の点から引いた接線

例題3:点 (0, -4) から、曲線 y=x^2-3x に引いた接線の方程式を求めよ。

思考プロセス:

これは最も複雑なパターンである。与えられた点 (0, -4) は接点ではないことに注意する。

  1. この問題でも、接点が不明なので、まず接点の座標を (t, t^2-3t) と文字で設定する。
  2. この接点における接線の方程式を、t を用いた式で表現する。
  3. この接線が、曲線外の点 (0, -4) を通るという条件を立式する。
  4. この条件式は t についての方程式となる。これを解いて、接点のx座標 t を決定する。(通常、2つの解が得られる)
  5. 求めた t の値を、ステップ2で立てた接線の方程式に代入し、具体的な方程式を求める。

解法:

  1. f(x)=x^2-3x とすると、f'(x)=2x-3
  2. 曲線上の接点の座標を (t, f(t)) = (t, t^2-3t) とおく。
  3. この点における接線の傾きは f'(t)=2t-3
  4. したがって、接線の方程式は、y – (t^2-3t) = (2t-3)(x-t)
  5. この接線が、点 (0, -4) を通るので、x=0, y=-4 を代入する。-4 – (t^2-3t) = (2t-3)(0-t)-4-t^2+3t = -2t^2+3t
  6. この t の方程式を解く。t^2 – 4 = 0(t-2)(t+2) = 0よって、t=2 または t=-2。これは、接点が2つ存在することを意味する。
  7. それぞれの t の値に対応する接線の方程式を求める。
    • t=2 のとき:接点は (2, 2^2-3(2)) = (2, -2)傾きは 2(2)-3 = 1方程式:y-(-2) = 1(x-2) \Rightarrow y=x-4
    • t=-2 のとき:接点は (-2, (-2)^2-3(-2)) = (-2, 10)傾きは 2(-2)-3 = -7方程式:y-10 = -7(x-(-2)) \Rightarrow y-10 = -7x-14 \Rightarrow y=-7x-4

結論: 求める接線の方程式は、y=x-4 と y=-7x-4 の2本である。

6.4. まとめ:微分による傾きの特定

接線の方程式を求める問題は、微分法の最初の、そして最も重要な応用例です。

  • 基本形: 接点 (a, f(a)) が与えられている場合は、f'(a) を計算し、点傾き形の公式に代入する。
  • 応用形: 接点が不明な場合は、まず接点のx座標を t とおくことが、すべての解法の出発点となります。
  • 戦略:
    • 傾きが与えられている場合 → f'(t) = (\text{傾き}) から t を求める。
    • 曲線外の点が与えられている場合 → t で表した接線の方程式が、その点を通る、という条件から t を求める。

微分によって「傾き」という幾何学的な量を代数的に計算できるようになったことで、私たちは曲線の局所的な振る舞いを、方程式という形で正確に捉えることができるようになったのです。


7. 法線の方程式

曲線の特定の点における接線が、その点での曲線の「進行方向」を示すとすれば、その接線と接点で垂直に交わる直線もまた、幾何学的に重要な意味を持ちます。この直線を法線 (normal line) と呼びます。

法線は、光学における光の反射(入射角と反射角が法線に対して等しい)や、力学における曲面からの抗力の方向など、物理学の様々な場面で現れます。解析幾何学において法線の方程式を求めることは、接線の方程式を求める問題の、直接的な応用となります。必要なのは、Module 3で学んだ「2直線の垂直条件」の知識だけです。

7.1. 法線の方程式の公式

接線の方程式と同様に、法線の方程式も、通る1点(接点)と傾きが分かれば、点傾き形の公式から求めることができます。

法線の方程式

関数 y=f(x) のグラフ上の点 (a, f(a)) における法線の方程式は、

  • f'(a) \neq 0 のとき、\[ y – f(a) = -\frac{1}{f'(a)}(x-a) \]
  • f'(a) = 0 のとき(接線が水平)、法線は鉛直な直線となり、その方程式は\[ x=a \]

導出の手順

  1. 法線が通る点(接点)の座標は (a, f(a)) である。
  2. 接線の傾き m_{tan} は f'(a) である。
  3. 法線の傾きを m_{norm} とすると、垂直条件 m_{tan} \cdot m_{norm} = -1 が成り立つ。よって、f'(a) \cdot m_{norm} = -1。f'(a) \neq 0 ならば、m_{norm} = -\frac{1}{f'(a)}。
  4. 通る1点と傾きが分かったので、点傾き形の公式に代入する。

7.2. 法線の方程式を求める

例題1:曲線 y=x^2 上の点 (2, 4) における接線および法線の方程式を求めよ。

解法:

  1. 導関数と接線の傾きを求める:f(x)=x^2 とすると、f'(x)=2x。接点のx座標は 2 なので、接線の傾きは m_{tan} = f'(2) = 2(2) = 4。
  2. 接線の方程式を求める:点 (2, 4) を通り、傾きが 4 の直線。y-4 = 4(x-2)y-4 = 4x-8 \Rightarrow y=4x-4
  3. 法線の傾きを求める:法線の傾き m_{norm} は、4 \cdot m_{norm} = -1 より、m_{norm} = -1/4。
  4. 法線の方程式を求める:点 (2, 4) を通り、傾きが -1/4 の直線。y-4 = -\frac{1}{4}(x-2)両辺を4倍して、4y-16 = -(x-2) = -x+2x+4y-18=0

結論:

接線の方程式は y=4x-4、法線の方程式は x+4y-18=0。

例題2:曲線 y=x^3-3x の、x=1 における法線の方程式を求めよ。

解法:

  1. f(x)=x^3-3x とすると、f'(x)=3x^2-3
  2. 接点のx座標は 1。接点のy座標は f(1)=1^3-3(1) = -2。よって接点は (1, -2)。接線の傾きは m_{tan} = f'(1) = 3(1)^2-3 = 0。
  3. 接線が水平な場合の法線:接線の傾きが 0 ということは、接線はx軸に平行な直線 y=-2 である。法線は、この水平な接線と点 (1, -2) で垂直に交わる直線である。したがって、法線はy軸に平行な鉛直な直線となる。その方程式は、接点のx座標をとって x=1。

結論: 法線の方程式は x=1

7.3. まとめ:接線の垂直パートナー

法線の方程式を求める問題は、接線の問題の論理的な延長線上にあります。

  • 垂直条件が鍵: 「接線の傾きと法線の傾きの積は-1」という、2直線の垂直条件がすべての計算の基礎となります。
  • 手順の明確化: (1)導関数を求める → (2)接線の傾きを計算する → (3)垂直条件から法線の傾きを計算する → (4)点傾き形で方程式を立てる、という明確な手順に従えば、機械的に解を導くことができます。
  • 特別なケースへの注意: 接線が水平(傾き0)になる場合、法線は鉛直(傾きが定義できない)になります。このような特別なケースでは、公式に頼るのではなく、図形的な状況をイメージして方程式を立てることが重要です。

法線の概念は、曲線の幾何学的な性質をより深く理解するための一つのツールであり、特に物理学的な応用において重要な役割を果たします。


8. 微分可能性と連続性

関数を扱う上で、「連続性 (continuity)」と「微分可能性 (differentiability)」は、その関数の「滑らかさ」を表現するための、極めて重要な二つの概念です。直感的には、

  • 連続: グラフが途切れることなく、つながっていること。
  • 微分可能: グラフが滑らかで、どの点においても「尖って」おらず、接線が一本だけ綺麗に引けること。を意味します。

これらの直感的なイメージは、数学的には極限を用いて厳密に定義されます。そして、この二つの概念の間には、「微分可能ならば、必ず連続である」という、一方通行の論理的な階層関係が存在します。このセクションでは、連続性と微分可能性を厳密に定義し、両者の関係性を証明と共に明らかにします。これは、微分法の理論的な基盤を理解する上で、避けては通れない重要なテーマです。

8.1. 関数の連続性

連続性の定義

関数 f(x) が x=a で連続であるとは、以下の3つの条件がすべて満たされることである。

  1. f(a) が定義されている(x=a での値が存在する)。
  2. x \to a のときの極限値 \lim_{x \to a} f(x) が存在する。
  3. その極限値と関数の値が一致する: \lim_{x \to a} f(x) = f(a)

平たく言えば、「x が a に近づくときの目標値」と、「実際に x=a に到達したときの値」が一致している、ということです。これにより、グラフが x=a で途切れたり、穴が開いたりしていないことが保証されます。

高校数学で扱うほとんどの多項式関数、有理関数(分母が0にならない点)、無理関数(根号の中が正である点)、三角関数、指数・対数関数は、その定義域内のすべての点で連続です。

8.2. 微分可能性

微分可能性の定義(再掲)

関数 f(x) が x=a で微分可能であるとは、x=a における微分係数

\[ f'(a) = \lim_{h \to 0} \frac{f(a+h)-f(a)}{h} \]

が、有限な値として存在することである。

幾何学的には、これはグラフ上の点 (a, f(a)) において、接線がただ一本だけ定まることを意味します。

8.3. 微分可能性と連続性の関係

この二つの概念の間には、以下の重要な関係があります。

定理:微分可能ならば連続

関数 f(x) が x=a で微分可能ならば、f(x) は x=a で連続である。

【証明】

f(x) が x=a で連続であることを示すには、\lim_{x \to a} f(x) = f(a)、すなわち \lim_{x \to a} \{f(x)-f(a)\} = 0 を示せばよい。

x=a+h とおくと、x \to a のとき h \to 0 なので、\lim_{h \to 0} \{f(a+h)-f(a)\} = 0 を示すことが目標となる。

f(x) は x=a で微分可能なので、

f'(a) = \lim_{h \to 0} \frac{f(a+h)-f(a)}{h}

という極限値が存在する。

ここで、f(a+h)-f(a) を、微分の定義式が現れるように、次のように変形する。

f(a+h)-f(a) = \frac{f(a+h)-f(a)}{h} \times h (ただし h \neq 0)

この両辺の h \to 0 での極限をとると、

\lim_{h \to 0} \{f(a+h)-f(a)\} = \lim_{h \to 0} \left( \frac{f(a+h)-f(a)}{h} \times h \right)

極限の性質 \lim(AB) = (\lim A)(\lim B) を用いると、

= \left( \lim_{h \to 0} \frac{f(a+h)-f(a)}{h} \right) \times \left( \lim_{h \to 0} h \right)

左側の極限は f'(a) であり、右側の極限は 0 である。

= f'(a) \times 0 = 0

よって、\lim_{h \to 0} \{f(a+h)-f(a)\} = 0 が示された。

したがって、f(x) は x=a で連続である。 [証明終]

この定理は、「グラフが滑らかで接線が引ける(微分可能)ならば、その点でグラフがつながっている(連続)のは当然だ」という直感を、数学的に裏付けるものです。

8.4. 逆は成り立たない:連続でも微分可能でない例

「微分可能 \Rightarrow 連続」という命題の逆、「連続 \Rightarrow 微分可能」は、成り立たない。

つまり、グラフがつながっていても、滑らかであるとは限らないのです。

代表的な反例:f(x)=|x| の x=0 における微分可能性

  1. 連続性の確認:f(0)=0。\lim_{x \to 0} |x| = 0。\lim_{x \to 0} f(x) = f(0) なので、f(x)=|x| は x=0 で連続である。グラフも原点でつながっている。
  2. 微分可能性の確認:x=0 における微分係数 f'(0) の存在を調べる。f'(0) = \lim_{h \to 0} \frac{f(0+h)-f(0)}{h} = \lim_{h \to 0} \frac{|h|-0}{h} = \lim_{h \to 0} \frac{|h|}{h}この極限値は、h が正の側から0に近づくか、負の側から0に近づくかで値が異なる。
    • 右側極限: h \to +0 のとき、h>0 なので |h|=h。\lim_{h \to +0} \frac{h}{h} = \lim_{h \to +0} 1 = 1
    • 左側極限: h \to -0 のとき、h<0 なので |h|=-h。\lim_{h \to -0} \frac{-h}{h} = \lim_{h \to -0} -1 = -1右側極限(1)と左側極限(-1)が一致しないため、h \to 0 の極限値は存在しない。したがって、f(x)=|x| は x=0 で微分可能ではない。

【幾何学的解釈】

y=|x| のグラフは、原点 (0,0) でV字型に「尖って」いる(尖点、cusp)。

  • x>0 の部分の接線(グラフ自身)の傾きは 1
  • x<0 の部分の接線(グラフ自身)の傾きは -1。原点において、右から近づく割線の傾きは 1 に、左から近づく割線の傾きは -1 に収束するため、ただ一つの接線を定めることができないのです。

8.5. まとめ:滑らかさの階層

連続性と微分可能性は、関数の「滑らかさ」に関する、異なるレベルの性質を表しています。

  • 連続: グラフが「つながっている」という、基本的な滑らかさ。
  • 微分可能: グラフが「滑らかで尖っていない」という、より強いレベルの滑らかさ。
  • 階層関係: 微分可能性は、連続性よりも厳しい条件であり、「微分可能 \Rightarrow 連続」という包含関係が成り立ちます。しかし、その逆は必ずしも真ではありません。

この二つの概念を厳密に区別し、その関係性を理解することは、微分法の理論的な全体像を正確に把握する上で不可欠です。


9. 極限値の計算(不定形)

微分係数 f'(a) = \lim_{h \to 0} \frac{f(a+h)-f(a)}{h} の定義からもわかるように、微分の計算は本質的に極限値の計算です。そして、その極限計算の核心部分は、そのままでは値が定まらない不定形 (indeterminate form)、特に \frac{0}{0} の形を、式変形によって解消するテクニックにあります。

このセクションでは、微分計算の準備として、不定形の極限値を求めるための基本的な代数的テクニックを習熟します。有理関数(分数関数)の場合は因数分解と約分、無理関数(根号を含む関数)の場合は有理化が、不定形を解消するための二大武器となります。これらの技術は、微分の定義に従った計算を遂行する上で直接的に必要となるだけでなく、極限という概念そのものへの理解を深める上でも重要です。

9.1. 不定形とは

極限 \lim_{x \to a} \frac{f(x)}{g(x)} を考えるとき、もし \lim_{x \to a} f(x) = 0 かつ \lim_{x \to a} g(x) = 0 となる場合、この極限は \frac{0}{0} の形となり、このままでは値が定まりません。

  • 分子が0に近づくので、値は0に近づくかもしれない。
  • 分母が0に近づくので、値は発散する(\infty または -\infty)かもしれない。
  • 分子と分母が0に近づく「速さ」の比によって、ある有限な値に収束するかもしれない。このように、結果がどうなるか「定まらない」形を不定形と呼びます。\frac{\infty}{\infty}, \infty-\infty, 0 \times \infty なども不定形の一種です。

9.2. テクニック1:因数分解と約分

有理関数の極限が 0/0 の不定形になる場合、その原因は、分子と分母が共通の因数 (x-a) を持っていることにあります。したがって、分子・分母を因数分解し、不定形の原因となっている共通因数を約分で取り除くことで、極限値が求まります。

例題1:\lim_{x \to 2} \frac{x^2-4}{x-2} を求めよ。

解法:

x \to 2 のとき、分子 x^2-4 \to 2^2-4=0、分母 x-2 \to 2-2=0 となり、0/0 の不定形である。

分子を因数分解する。

x^2-4 = (x-2)(x+2)

\lim_{x \to 2} \frac{(x-2)(x+2)}{x-2}

x \to 2 の極限では、x は 2 に限りなく近いが 2 ではないので、x-2 \neq 0。

よって、x-2 で約分できる。

= \lim_{x \to 2} (x+2)

= 2+2 = 4

例題2:\lim_{x \to 1} \frac{x^3-1}{x^2-3x+2} を求めよ。

解法:

x \to 1 のとき、分子 1-1=0、分母 1-3+2=0 となり、0/0 の不定形。

分子・分母を因数分解する。

  • x^3-1 = (x-1)(x^2+x+1)
  • x^2-3x+2 = (x-1)(x-2)\lim_{x \to 1} \frac{(x-1)(x^2+x+1)}{(x-1)(x-2)}共通因数 (x-1) を約分する。= \lim_{x \to 1} \frac{x^2+x+1}{x-2}= \frac{1^2+1+1}{1-2} = \frac{3}{-1} = -3

9.3. テクニック2:有理化

根号を含む関数の極限が 0/0 の不定形になる場合、分子または分母の有理化を行うことで、不定形の原因となる因数が現れ、約分できるようになることがあります。

例題3:\lim_{h \to 0} \frac{\sqrt{1+h}-1}{h} を求めよ。

解法:

h \to 0 のとき、分子 \sqrt{1}-1=0、分母 h \to 0 となり、0/0 の不定形。

分子に根号があるので、分子の有理化を行う。

分母・分子に \sqrt{1+h}+1 を掛ける。

\lim_{h \to 0} \frac{(\sqrt{1+h}-1)(\sqrt{1+h}+1)}{h(\sqrt{1+h}+1)}

分子を展開すると (A-B)(A+B)=A^2-B^2 の形。

= \lim_{h \to 0} \frac{(\sqrt{1+h})^2 – 1^2}{h(\sqrt{1+h}+1)} = \lim_{h \to 0} \frac{(1+h)-1}{h(\sqrt{1+h}+1)}

= \lim_{h \to 0} \frac{h}{h(\sqrt{1+h}+1)}

h \neq 0 なので、h で約分できる。

= \lim_{h \to 0} \frac{1}{\sqrt{1+h}+1}

= \frac{1}{\sqrt{1+0}+1} = \frac{1}{1+1} = \frac{1}{2}

【補足】 この極限は、f(x)=\sqrt{x} の x=1 における微分係数 f'(1) の計算そのものです。

9.4. まとめ:不定形の解消

極限値の計算、特に不定形の扱いは、微分法を支える基本的な計算技術です。

  • 不定形の認識: まず、x=a を代入してみて 0/0 の形になるかを確認することが第一歩です。
  • 原因の除去: 0/0 の不定形の原因は、分子・分母が共通に持つ (x-a) という因数にあります。
  • 解消の武器:
    • 有理関数 → 因数分解と約分
    • 無理関数 → 有理化という定石的な手法を用いて、この原因となる因数を式から取り除き、極限値が求まる形へと変形します。

これらの計算技術に習熟することは、微分の定義に従った計算を正確に行うために不可欠であり、極限という概念に対するより深い理解へと繋がります。


10. 関数の積・商の微分法(発展)

私たちは、微分の線形性 (f+g)'=f'+g' によって、多項式を項ごとに微分できるようになりました。では、関数がの形 f(x)g(x) やの形 f(x)/g(x) で与えられている場合、その導関数はどのようになるのでしょうか。(fg)'=f'g' のような単純な形には、残念ながらなりません。

これらの、より複雑な関数の組み合わせを微分するための公式が、積の微分法 (product rule) と商の微分法 (quotient rule) です。これらの公式は、数学IIIで本格的に扱われ、三角関数や指数・対数関数など、より多様な関数の微分を可能にするための必須ツールとなります。このセクションでは、数学IIの発展的な内容として、これらの公式をその証明と共に紹介し、微分法の世界のさらなる広がりを垣間見ます。

10.1. 積の微分法

積の微分法の公式

2つの微分可能な関数 f(x), g(x) の積 y=f(x)g(x) の導関数は、

\[ {f(x)g(x)}’ = f'(x)g(x) + f(x)g'(x) \]

(「前」微分「後」そのまま、足す、「前」そのまま「後」微分)

【証明】

導関数の定義 y’ = \lim_{h \to 0} \frac{y(x+h)-y(x)}{h} に従う。

y(x) = f(x)g(x)

y(x+h) = f(x+h)g(x+h)

y’ = \lim_{h \to 0} \frac{f(x+h)g(x+h)-f(x)g(x)}{h}

このままでは変形できない。ここで、分子に -f(x)g(x+h)+f(x)g(x+h) という、「引いて足す」巧みな項を挿入する。

= \lim_{h \to 0} \frac{f(x+h)g(x+h) – f(x)g(x+h) + f(x)g(x+h) – f(x)g(x)}{h}

前半と後半をグループ化する。

= \lim_{h \to 0} \left( \frac{\{f(x+h)-f(x)\}g(x+h)}{h} + \frac{f(x)\{g(x+h)-g(x)\}}{h} \right)

= \lim_{h \to 0} \left( \frac{f(x+h)-f(x)}{h} \cdot g(x+h) + f(x) \cdot \frac{g(x+h)-g(x)}{h} \right)

h \to 0 のとき、

  • \frac{f(x+h)-f(x)}{h} \to f'(x)
  • \frac{g(x+h)-g(x)}{h} \to g'(x)
  • g(x) は微分可能なので連続であり、g(x+h) \to g(x)したがって、= f'(x)g(x) + f(x)g'(x) [証明終]

例題1:y=(x^2+1)(x-2) を微分せよ。

解法: f(x)=x^2+1, g(x)=x-2 とすると、f'(x)=2x, g'(x)=1。

y’ = (2x)(x-2) + (x^2+1)(1)

= 2x^2-4x+x^2+1 = 3x^2-4x+1

(展開して y=x^3-2x^2+x-2 を微分すると y’=3x^2-4x+1 となり一致する)

10.2. 商の微分法

商の微分法の公式

y = \frac{f(x)}{g(x)} (g(x) \neq 0) の導関数は、

\[ \left{ \frac{f(x)}{g(x)} \right}’ = \frac{f'(x)g(x) – f(x)g'(x)}{{g(x)}^2} \]

(分母2乗の、分子微分分母そのまま、引く、分子そのまま分母微分)

【証明】

導関数の定義から証明することもできるが、積の微分法を利用する方がエレガントである。

y=\frac{f(x)}{g(x)} より、f(x)=y \cdot g(x)。

この両辺を x で微分する。左辺は f'(x)。右辺は積の微分法を用いる。

f'(x) = y’ g(x) + y g'(x)

この式を y’ について解く。

y’g(x) = f'(x) – y g'(x)

y’ = \frac{f'(x)-yg'(x)}{g(x)}

y を \frac{f(x)}{g(x)} に戻す。

y’ = \frac{f'(x) – \frac{f(x)}{g(x)}g'(x)}{g(x)}

分母・分子に g(x) を掛けて整理する。

y’ = \frac{f'(x)g(x)-f(x)g'(x)}{\{g(x)\}^2} [証明終]

例題2:y=\frac{1}{x} を微分せよ。

解法: f(x)=1, g(x)=x とすると、f'(x)=0, g'(x)=1。

y’ = \frac{(0)(x)-(1)(1)}{x^2} = -\frac{1}{x^2}

これは、y=x^{-1} と考えて、べき関数の微分公式 (x^n)’=nx^{n-1} を適用した結果 (x^{-1})’=-1 \cdot x^{-2} = -1/x^2 と一致する。これにより、x^n の微分公式が負の整数でも成り立つことが確認できる。

10.3. まとめ:微分世界の拡張

積の微分法と商の微分法は、私たちが微分できる関数の範囲を、多項式から、より複雑な有理関数や、さらには数学IIIで学ぶ様々な関数の組み合わせへと、大きく拡張してくれます。

  • 構造の認識: 微分したい関数が、どのような部品(f(x), g(x))の積や商として構成されているか、その構造を正確に認識することが第一歩です。
  • 公式の正確な適用: 特に商の微分法は、分子の引き算の順序を間違えやすいため、公式の形を正確に記憶し、適用する必要があります。
  • 数学IIIへの橋渡し: これらの公式は、三角関数、指数・対数関数といった超越関数と、x^n のような代数関数が組み合わさった、より現実的で複雑な関数を分析するための、数学IIIにおける必須の基礎知識となります。

これらの発展的な公式に触れることで、微分法というツールが、今後さらに強力で汎用性の高いものへと進化していく、その道筋を垣間見ることができます。

Module 9:微分法(1) 微分係数と導関数の総括:有限の差分から、無限小の世界へ。微分に、瞬間の変化を捉える知性を宿す

本モジュールは、数学の世界における一大革命、すなわち「変化」を捉える学問、微分法の幕開けでした。私たちの旅は、2点間の「平均変化率」という、誰もが理解できる素朴な概念から始まりました。しかし、その2点間の距離を「極限」という強力な望遠鏡を用いて限りなくゼロに近づけることで、私たちは、これまで捉えることのできなかった「瞬間変化率」、すなわち微分係数という、無限小の世界の値をその手に掴むことに成功しました。

この微分係数は、グラフの世界においては、曲線のある一点における「険しさ」を示す接線の傾きという、明確な幾何学的意味を持っていました。物理的な「変化率」と幾何学的な「傾き」。この二つの顔を持つ微分係数の概念を、特定の点からあらゆる点へと一般化したものが導関数 f'(x) です。それは、元の関数 f(x) のすべての点における「瞬間の変化」の情報を凝縮した、いわば「変化の設計図」とも呼べる新しい関数でした。

x^n の微分公式をはじめとする基本的な計算ルールを身につけたことで、私たちはこの設計図を、極限の定義に戻ることなく、迅速かつ機械的に描き出す能力を手に入れました。そして、その最初の応用として、微分によって特定された「傾き」を用いて、曲線の未来を予測する直線、接線の方程式を求めました。微分可能性と連続性の厳密な関係性の探求は、この新しい数学がいかに精緻な論理の上に築かれているかを教えてくれました。

有限の差分から、無限小の世界へ。微分法は、私たちに、止まっていた世界を動かし、その瞬間のダイナミズムを数学の言葉で語るための、新しい知性を与えてくれます。ここで手に入れた「微分する」という能力は、次なるモジュールで関数の増減や極値を分析し、そのグラフの全体像を明らかにするための、不可欠な鍵となるのです。

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