【基礎 数学(数学Ⅱ)】Module 8:対数関数

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本モジュールの目的と構成

前モジュール「指数関数」で、私たちは y=a^x という、爆発的な成長や急速な減衰を記述する強力な関数を探求しました。これは、指数 x(時間や回数など)を与えられたときに、結果として得られる量 y を求めるプロセスでした。しかし、科学的な探求はしばしば、その逆の問いを我々に投げかけます。「量が特定の値 y に達するには、どれだけの指数 x が必要なのか?」—例えば、「バクテリアが100万匹に達するには、何時間かかるのか?」「放射性物質が安全なレベルまで減衰するには、何年待てばよいのか?」

この、結果から原因となる「指数」を逆算するための数学的な道具こそが、本モジュールで学ぶ対数 (logarithm) です。17世紀初頭にジョン・ネイピアによって発明された対数は、天文学や航海術に不可欠な、煩雑で巨大な数の掛け算や割り算を、遥かに簡単な足し算や引き算へと変換する画期的な計算ツールとして、科学の発展を劇的に加速させました。コンピュータのない時代において、対数はまさに「計算の高速道路」だったのです。

本モジュールでは、まず対数を指数関数の「逆の操作」として厳密に定義し、その性質を探求します。そこで明らかになるのは、対数のすべての計算法則(\log(MN) = \log M + \log N など)が、実は指数法則を別の視点から読み替えたものに過ぎないという、美しい対応関係です。この対数の概念を関数へと拡張した対数関数y=\log_a x は、指数関数のグラフと y=x に関して完全な鏡像関係にあり、両者が表裏一体の存在であることを視覚的に示してくれます。

この新しいツールを手に、私たちは対数が関わる方程式や不等式の解法を学び、さらには常用対数を用いて、天文学的な数の桁数を推定するといった、その驚くべき応用力を体験します。最後には、pHやデシベルといった、現実世界で巨大なスケールの量を扱うために使われる対数スケールの本質に触れます。

Module 7が「指数が支配する世界」の探求であったとすれば、本モジュールは、その世界の構造を読み解くための「鍵」を手に入れる旅です。

本モジュールは、対数の基本概念からその応用までを、以下の論理的な順序で構成されています。

  1. 対数の定義とその性質: まず、対数を指数の逆の言葉として定義し、その計算を支配する基本的な性質が、すべて指数法則から導かれることを見ます。
  2. 底の変換公式: 異なる底を持つ対数を、共通の底で表現し直すための、極めて実用的な「底の変換公式」を学びます。
  3. 対数関数のグラフとその性質: 対数関数 y=\log_a x のグラフを描き、それが指数関数のグラフの鏡像であることを通じて、その性質(定義域、値域、単調性)を探求します。
  4. 対数方程式の解法: 対数関数の一対一対応性を利用して、対数を含む方程式を解くための戦略を学びます。特に「真数条件」の確認の重要性を強調します。
  5. 対数不等式の解法: 対数不等式を解く際に、底の値によって不等号の向きが変わるという、指数不等式と共通の原理を学びます。
  6. 対数関数の大小比較: 対数の性質を利用して、複雑な対数の値の大小を比較するテクニックを習得します。
  7. 常用対数と桁数・小数首位: 底を10とする常用対数を用いて、巨大な数の桁数や、その最上位の数字を推定するという、対数の強力な応用を探ります。
  8. 自然対数: 底をネイピア数 e とする自然対数を導入し、それがなぜ科学の世界で標準的な対数として用いられるのかを理解します。
  9. 指数関数と対数関数の逆関数の関係: 両者が互いに逆関数であるという関係を、グラフと式の両面から改めて整理し、その対称性を深く理解します。
  10. 対数スケール(pH, dB): 非常に大きな幅を持つ物理量を、人間が直感的に理解しやすい尺度に圧縮する「対数スケール」の実例として、pHやデシベルを取り上げ、その本質に迫ります。

この一連の学習は、あなたに指数と対数の二つの言語を自在に操る能力を与え、巨大な数や急激な変化を扱うための新しい数学的思考の枠組みを提供するものとなるでしょう。


目次

1. 対数の定義とその性質

指数関数 y=a^x は、指数 x を与えると、その結果である y が定まる関数でした。対数は、この関係を逆の視点から捉えます。すなわち、「底 a を何乗すれば M になるか?」という問いに対する答え、その「何乗」の部分にあたる指数そのものを、対数 (logarithm) と呼びます。

このセクションでは、この指数との表裏一体の関係から、対数を厳密に定義します。そして、対数が持つ基本的な性質(計算法則)が、実は私たちがよく知る指数法則を、単に別の言語で書き直したものに過ぎないことを明らかにします。この指数と対数の間の「翻訳ルール」をマスターすることが、対数の世界を理解するための第一歩となります。

1.1. 対数の定義

対数の定義

a > 0, a \neq 1 とする。正の数 M に対して、

a^p = M

となるような実数 p が、ただ一つ存在する。この p を、a を底とする M の対数といい、

\[ p = \log_a M \]

と書く。このとき、M をこの対数の真数 (antilogarithm) という。

この定義は、指数表現と対数表現が完全に等価であることを示しています。以下の「翻訳ルール」は、対数に関するあらゆる思考の原点となります。

指数と対数の関係

\[ a^p = M \quad \Leftrightarrow \quad p = \log_a M \]

【対数の言葉の読み方】

\log_a M は、「a を M にするための(a の右肩に乗せるべき)指数」と読むことができます。

例えば、\log_2 8 とは、「2を8にするための指数」を意味します。2^3=8 なので、その答えは 3 です。

\log_2 8 = 3

例:

  • 3^4 = 81 \Leftrightarrow \log_3 81 = 4
  • 5^{-2} = \frac{1}{25} \Leftrightarrow \log_5 \frac{1}{25} = -2
  • 4^{1/2} = \sqrt{4} = 2 \Leftrightarrow \log_4 2 = \frac{1}{2}

1.1.1. 底の条件と真数条件

対数が意味を持つためには、その構成要素である「底」と「真数」に、指数関数から受け継がれた重要な制約条件が課せられます。

底の条件と真数条件

対数 \log_a M において、

  • 底の条件: a>0 かつ a \neq 1
  • 真数条件: M>0

【なぜこの条件が必要か】

  • 底の条件 (a>0, a \neq 1): これは、対数の元となった指数関数 y=a^x の底の条件と全く同じです。
    • a>0: 指数を実数全体に拡張するために必要でした。
    • a=11^p=1 となり、M=1 以外では p が定まらず、M=1 では p が無数に存在するため、一対一の関係が成り立ちません。
  • 真数条件 (M>0): 指数関数 y=a^x の値域は y>0 でした。つまり、a^p = M となる M は、常に正の数です。したがって、対数の真数 M も常に正でなければなりません。

この真数条件は、対数が関わる方程式や不等式を解く際に、解の存在範囲を限定するという極めて重要な役割を果たします。常にこの条件を意識することが、対数をマスターする上で不可欠です。

1.2. 対数の基本的な性質

対数の計算法則は、すべて指数法則から導出できます。その導出プロセスを理解することで、公式を単なる暗記ではなく、指数法則の自然な帰結として捉えることができます。

以下、a>0, a \neq 1 とし、M>0, N>0 とする。

1. 基本的な値

  • \log_a a = 1(理由:a^1 = a だから)
  • \log_a 1 = 0(理由:a^0 = 1 だから)

2. 積の対数 → 対数の和

  • \log_a (MN) = \log_a M + \log_a N(証明)\log_a M = p, \log_a N = q とおく。対数の定義より、M=a^p, N=a^q。このとき、積 MN は、指数法則より MN = a^p \times a^q = a^{p+q}。再び対数の定義を用いると、\log_a(MN) = p+q。p, q を元に戻すと、\log_a(MN) = \log_a M + \log_a N。 [証明終]**【意味】**掛け算(MN)の世界が、足し算(p+q)の世界に変換されました。これが対数の最も強力な性質です。

3. 商の対数 → 対数の差

  • \log_a \frac{M}{N} = \log_a M – \log_a N(証明)上記と同様に M=a^p, N=a^q とおくと、商 M/N は M/N = a^p / a^q = a^{p-q}。よって \log_a(M/N) = p-q = \log_a M – \log_a N。 [証明終]**【意味】**割り算の世界が、引き算の世界に変換されました。

4. べき乗の対数 → 対数の定数倍

  • \log_a M^k = k \log_a M (k は実数)(証明)\log_a M = p とおくと、M=a^p。べき乗 M^k は、M^k = (a^p)^k = a^{pk}。よって \log_a(M^k) = pk = k \log_a M。 [証明終]**【意味】**べき乗という複雑な計算が、掛け算という単純な計算に変換されました。

1.3. 性質の応用

例題:次の式を計算せよ。

(1) \log_2 32

(2) \log_3 \frac{1}{27}

(3) \log_{10} 4 + \log_{10} 25

(4) 2\log_3 6 – \log_3 4

解法

(1) 32=2^5 なので、\log_2 32 = \log_2 (2^5) = 5 \log_2 2 = 5 \times 1 = 5

(2) 1/27 = 3^{-3} なので、\log_3 \frac{1}{27} = \log_3(3^{-3}) = -3 \log_3 3 = -3

(3) \log_{10} 4 + \log_{10} 25 = \log_{10}(4 \times 25) = \log_{10} 100 = \log_{10}(10^2) = 2

(4) 2\log_3 6 – \log_3 4 = \log_3 (6^2) – \log_3 4 = \log_3 36 – \log_3 4 = \log_3 \frac{36}{4} = \log_3 9 = \log_3(3^2) = 2

1.4. まとめ:指数法則の鏡像

対数は、指数と表裏一体の概念であり、その性質はすべて指数法則の鏡像です。

  • 定義がすべて: a^p=M \Leftrightarrow p=\log_a M という関係は、あらゆる対数計算の原点であり、迷ったときに立ち返るべき場所です。
  • 条件反射: 真数条件(真数>0)と底の条件(底>0, ≠1)は、対数を扱う上での絶対的なルールであり、常に意識する必要があります。
  • 計算の本質: 対数の計算法則は、複雑な乗除・べき乗の世界を、単純な加減・乗除の世界へと翻訳するための、強力な言語変換ツールです。

この新しい言語をマスターすることで、私たちは指数関数が作り出す巨大な数の世界を、より人間的なスケールで、そしてより簡潔な計算で扱えるようになるのです。


2. 底の変換公式

対数の性質 \log_a(MN) = \log_a M + \log_a N などを用いるためには、計算に関わるすべての対数の底 a がそろっている必要があります。しかし、実際の問題では、\log_2 3 と \log_4 5 のように、異なる底を持つ対数が混在することがあります。また、私たちが利用できる対数表や電卓の機能は、通常、底が10の常用対数か、底が e の自然対数に限られています。

このような状況で、異なる底を持つ対数を自由に、そして柔軟に扱うために不可欠な道具が底の変換公式 (change of base formula) です。この公式は、ある底で書かれた対数を、私たちが望む任意の底を持つ対数の商として表現し直すことを可能にします。これは、対数計算におけるいわば「通貨の両替」のようなものであり、その実用性は計り知れません。

2.1. 底の変換公式の導出

底の変換公式

a, b, c は正の数で a\neq 1, c \neq 1 とし、b>0 とする。

このとき、

\[ \log_a b = \frac{\log_c b}{\log_c a} \]

が成り立つ。

【証明】

この公式の証明は、対数の定義と性質を組み合わせることで、鮮やかに示すことができます。

  1. 出発点を設定:求めたい値である \log_a b を、ある文字 p で置く。p = \log_a b
  2. 指数表現に翻訳:対数の定義に従って、これを指数表現に直す。a^p = b
  3. 両辺の対数をとる:この等式の両辺に、新しい底 c を持つ対数をとる。\log_c (a^p) = \log_c b
  4. 対数の性質を適用:左辺の \log_c(a^p) に、べき乗の性質 \log_M(N^k) = k \log_M N を適用する。p \log_c a = \log_c b
  5. p について解く:この式を p について解く。a \neq 1 なので \log_c a \neq 0 であり、両辺を \log_c a で割ることができる。p = \frac{\log_c b}{\log_c a}
  6. 結論:p を元の \log_a b に戻すと、\log_a b = \frac{\log_c b}{\log_c a}となり、公式が証明された。 [証明終]

この公式は、「元の底 a は分母の真数に、元の真数 b は分子の真数に来る」と覚えるとよいでしょう。新しい底 c は、問題の状況に応じて、計算が最も楽になるような都合の良い正の数(1以外)を自由に選ぶことができます。

2.2. 底の変換公式から導かれる便利な性質

底の変換公式からは、いくつかの特に有用な関係式が導かれます。

1. 底と真数を入れ替える

公式で、新しい底 c として、元の真数 b を選んでみます (c=b)。

\log_a b = \frac{\log_b b}{\log_b a}

\log_b b = 1 なので、

\[ \log_a b = \frac{1}{\log_b a} \]

これは、対数の底と真数を入れ替えると、値が逆数になるという、非常に便利な性質です。

2. 積に関する性質

\log_a b \times \log_b c = \log_a c

(証明) 左辺の \log_b c の底を a に変換する。

\log_a b \times \frac{\log_a c}{\log_a b} = \log_a c

(\log_a b が打ち消し合う)

2.3. 公式の応用

例題1:\log_8 16 の値を求めよ。

解法1:定義に戻る

\log_8 16 = x とおくと、8^x=16。

(2^3)^x = 2^4 \Rightarrow 2^{3x}=2^4 \Rightarrow 3x=4 \Rightarrow x=4/3。

解法2:底の変換公式を用いる

8 も 16 も 2 のべき乗なので、底を 2 に変換するのが自然である。

\log_8 16 = \frac{\log_2 16}{\log_2 8}

\log_2 16 = \log_2(2^4) = 4

\log_2 8 = \log_2(2^3) = 3

よって、\log_8 16 = \frac{4}{3}。

例題2:式 \log_2 3 \times \log_3 4 を簡単にせよ。

解法:

底が 2 と 3 で異なっているので、そろえる必要がある。どちらにそろえてもよいが、ここでは底を 2 に統一する。

\log_3 4 に底の変換公式を適用する。

\log_3 4 = \frac{\log_2 4}{\log_2 3}

\log_2 4 = \log_2(2^2)=2 なので、\log_3 4 = \frac{2}{\log_2 3}。

よって、

(\text{与式}) = \log_2 3 \times \frac{2}{\log_2 3}

\log_2 3 が約分されて、

= 2

(先に紹介した性質 \log_a b \times \log_b c = \log_a c を使うと、\log_2 3 \times \log_3 4 = \log_2 4 = 2 と瞬時に計算できる)

例題3:\log_2 3 = a, \log_3 5 = b のとき、\log_{12} 45 を a, b を用いて表せ。

思考プロセス:

  1. 与えられた対数の底は 2 と 3。求めたい対数の底は 12。これらを統一する必要がある。
  2. どの底に統一するのが最も効率的か。a, b の定義から、底 2 または 3 が候補となる。
  3. 求めたい対数の真数 45 と底 12 を素因数分解し、登場する素数が 2, 3, 5 であることを確認する。
  4. \log_2 3=a, \log_3 5=b から、\log_2 5 を a, b で表すことを試みる。\log_2 5 = \log_2 3 \times \log_3 5 = ab
  5. これで、\log_2 2=1, \log_2 3=a, \log_2 5=ab と、すべての素数 (2,3,5) の対数が、底 2 で表現できた。
  6. \log_{12} 45 の底を 2 に変換し、計算を進める。

解法:

底を 2 に変換する。

\log_{12} 45 = \frac{\log_2 45}{\log_2 12}

分子と分母をそれぞれ素因数分解し、対数の性質を用いて分解する。

  • 分子: \log_2 45 = \log_2(3^2 \times 5) = \log_2(3^2) + \log_2 5 = 2\log_2 3 + \log_2 5
  • 分母: \log_2 12 = \log_2(2^2 \times 3) = \log_2(2^2) + \log_2 3 = 2\log_2 2 + \log_2 3 = 2+\log_2 3

ここで、与えられた条件から \log_2 3 = a。

また、\log_2 5 = \log_2 3 \times \log_3 5 = a \times b = ab。

これらを代入する。

\log_{12} 45 = \frac{2a+ab}{2+a}

2.4. まとめ:対数計算の自由度を高める

底の変換公式は、対数計算における柔軟性と自由度を飛躍的に高める、必須のツールです。

  • 導出の理解: p=\log_a b とおき、指数表現に直してから新しい底の対数をとる、という導出プロセスを理解しておくことで、公式を忘れても自力で再構築できます。
  • 底の選択: 新しい底 c は、問題に含まれる数の素因数などを考慮して、最も計算が簡単になるように戦略的に選ぶ必要があります。
  • 逆数関係: 底と真数を入れ替えると逆数になる \log_a b = 1/\log_b a という関係は、特に覚えておくと計算が速くなる便利な公式です。

この公式を使いこなすことで、どんな底の対数が現れても、自分の得意な、あるいは問題に適した土俵(共通の底)へと引き込んで、計算を進めることが可能になります。


3. 対数関数のグラフとその性質

指数関数 y=a^x が指数 x の変化に伴う量の変化を記述する関数であったように、その逆の問いに答える対数もまた、y = \log_a x という形で関数として捉えることができます。これを対数関数 (logarithmic function)と呼びます。

指数関数と対数関数は、互いに逆関数の関係にあります。この事実は、両者のグラフの間に、直線 y=x に関して対称であるという、極めて美しく、そして本質的な幾何学的関係があることを意味します。このセクションでは、指数関数のグラフの鏡像として対数関数のグラフを描き、そこからその重要な性質(定義域、値域、単調性など)をすべて導き出します。

3.1. 対数関数の定義と逆関数関係

対数関数の定義

a は 1 ではない正の定数 (a>0, a \neq 1) とするとき、

y=\log_a x

で表される関数を、a を底とする対数関数という。

この定義 y=\log_a x は、指数表現に直すと x = a^y となります。

これは、指数関数 y=a^x の x と y を入れ替えたものに他なりません。関数とその逆関数は、x と y を入れ替えることで得られる関係にあるので、対数関数 y=\log_a x は、指数関数 y=a^x の逆関数です。

3.2. 対数関数のグラフ

逆関数のグラフは、元の関数のグラフを直線 y=x に関して線対称に折り返すことで得られます。この原理を用いて、指数関数のグラフから対数関数のグラフを描いてみましょう。

3.2.1. ケース1:底 a > 1 の場合

y=a^x (a>1) のグラフは、(0,1) を通り、単調増加する右上がりの曲線でした。

このグラフを y=x に関して対称移動させると、y=\log_a x (a>1) のグラフが得られます。

  • 指数関数の点 (0, 1) は、対数関数の点 (1, 0) に移る。
  • 指数関数の漸近線 y=0 (x軸) は、対数関数の漸近線 x=0 (y軸) に移る。
  • 指数関数の単調増加性は、対数関数でも保たれる。

y=\log_a x (a>1) のグラフの性質

  • 定義域: x は正の実数全体 (x>0)。(真数条件)
  • 値域: y は実数全体。
  • グラフの形: 右上がりの曲線(増加関数)。x が増加すると y も増加するが、その増加のペースはどんどん緩やかになる。
  • 通る定点: 必ず点 (1, 0) を通る。(\log_a 1=0
  • 漸近線: y軸 (x=0) を漸近線に持つ。

3.2.2. ケース2:底 0 < a < 1 の場合

y=a^x (0<a<1) のグラフは、(0,1) を通り、単調減少する右下がりの曲線でした。

このグラフを y=x に関して対称移動させると、y=\log_a x (0<a<1) のグラフが得られます。

  • 指数関数の点 (0, 1) は、対数関数の点 (1, 0) に移る。
  • 指数関数の漸近線 y=0 (x軸) は、対数関数の漸近線 x=0 (y軸) に移る。
  • 指数関数の単調減少性は、対数関数でも保たれる。

y=\log_a x (0<a<1) のグラフの性質

  • 定義域: x は正の実数全体 (x>0)。
  • 値域: y は実数全体。
  • グラフの形: 右下がりの曲線(減少関数)。
  • 通る定点: 必ず点 (1, 0) を通る。
  • 漸近線: y軸 (x=0) を漸近線に持つ。

3.3. グラフの性質のまとめと大小比較

底 a > 1底 0 < a < 1
グラフの形増加関数減少関数
定義域x>0x>0
値域実数全体実数全体
通る定点(1, 0)(1, 0)
漸近線y軸 (x=0)y軸 (x=0)
大小関係0 < p < q \Leftrightarrow \log_a p < \log_a q (順序が保存される)0 < p < q \Leftrightarrow \log_a p > \log_a q (順序が逆転する)

この単調性は、指数関数の場合と同様に、対数不等式を解く上で決定的に重要となります。

例題:3つの数 \log_2 5\log_{0.5} 52 の大小を比較せよ。

解法:

  1. 値を評価する:
    • \log_2 5: 底 2 は 1 より大きい。\log_2 4 < \log_2 5 < \log_2 8 であり、\log_2 4=2\log_2 8=3 なので、2 < \log_2 5 < 3
    • \log_{0.5} 5: 底 0.5 は 1 より小さい。\log_{0.5} (0.5)^{-2} = -2 であり 5 > (0.5)^{-2}=4。底が 0.5 (<1)なので、真数の大小と全体の大小は逆転し \log_{0.5} 5 < \log_{0.5} 4 = -2。したがって、この値は負の数である。
    • 2: この値は、\log_2 4 と等しい。
  2. 比較する:
    • \log_2 5 > \log_2 4 = 2
    • 2 は正の数、\log_{0.5} 5 は負の数なので、2 > \log_{0.5} 5
    以上を統合すると、\log_{0.5} 5 < 2 < \log_2 5

3.4. まとめ:指数関数の鏡像

対数関数のグラフと性質は、すべてが指数関数との逆関数関係から導かれます。

  • 対称性: y=\log_a x のグラフは、y=a^x のグラフを y=x に関して対称移動したものである、という事実がすべての性質の源泉です。
  • 定義域と値域の交換: 指数関数の定義域(実数全体)と値域(正の実数)が、対数関数では逆転し、定義域が(正の実数)、値域が(実数全体)となります。
  • 単調性の継承: 指数関数の単調性(a>1で増加、0<a<1で減少)は、対数関数にもそのまま受け継がれます。この性質が、対数不等式の解法の論理的基盤となります。

指数関数と対数関数のグラフを、一対の鏡像として頭の中にイメージしておくことは、両者の関係性を深く、そして直感的に理解する上で、大きな助けとなるでしょう。


4. 対数方程式の解法

対数関数 y=\log_a x は、指数関数と同様に、厳格な単調性を持つ一対一の関数です。この性質は、対数を含む方程式(対数方程式)を解くための基本原理となります。すなわち、

\log_a M = \log_a N であれば、M=N と結論できる

という関係です。

したがって、対数方程式を解くための基本的な戦略は、対数の性質や底の変換公式を駆使して、方程式を \log_a (\text{式1}) = \log_a (\text{式2}) または \log_a (\text{式}) = (\text{定数}) という形に変形することにあります。

しかし、対数方程式には、指数方程式にはなかった、極めて重要な「落とし穴」が存在します。それが、底の条件真数条件です。いかなる計算を始める前にも、まずこれらの条件を確認し、得られた解がその条件を満たしているかを最後に吟味する、という手続きが不可欠です。

4.1. 対数方程式の解法における絶対的なルール

対数方程式の鉄則

  1. 最初に、真数条件と底の条件を確認する。
    • 真数 > 0
    • 底 > 0, 底 ≠ 1これにより、変数が取りうる値の範囲が定まる。
  2. 方程式を解く。対数の性質を用いて式を変形し、x の値を求める。
  3. 最後に、解を吟味する。得られた x の値が、ステップ1で確認した条件の範囲内にあるかどうかを必ず確認する。範囲外の解は、無縁解として棄却する。

このプロセスを怠ると、誤った解を導き出す致命的なミスにつながります。

4.2. 基本的な対数方程式

例題1:方程式 \log_2(x-1) = 3 を解け。

解法:

  1. 真数条件の確認:真数は x-1 なので、x-1 > 0 \Rightarrow x > 1。
  2. 方程式を解く:対数の定義 p=\log_a M \Leftrightarrow a^p=M を直接用いる。x-1 = 2^3x-1 = 8x = 9
  3. 解の吟味:x=9 は、ステップ1で求めた条件 x>1 を満たしている。結論: 解は x=9。

例題2:方程式 \log_3 x + \log_3(x-8) = 2 を解け。

解法:

  1. 真数条件の確認:二つの対数が存在するので、両方の真数が正でなければならない。
    • x > 0
    • x-8 > 0 \Rightarrow x > 8両方を同時に満たす範囲は x>8 である。
  2. 方程式を解く:対数の性質 \log_a M + \log_a N = \log_a(MN) を用いて、左辺を一つの対数にまとめる。\log_3 \{x(x-8)\} = 2対数の定義を用いて、指数表現に直す。x(x-8) = 3^2x^2 – 8x = 9x^2 – 8x – 9 = 0因数分解して、(x-9)(x+1) = 0。解の候補は x=9, -1。
  3. 解の吟味:
    • x=9 は、条件 x>8 を満たしている。
    • x=-1 は、条件 x>8 を満たしていないので、不適。結論: 解は x=9。

【ミニケーススタディ:吟味を怠った悲劇】

もし、ステップ1の真数条件の確認を怠ると、x=9 と x=-1 の両方を解として答えてしまい、誤答となる。対数方程式において、最初の真数条件の確認と、最後の解の吟味は、生命線とも言えるほど重要です。

4.3. 置き換えや底の変換が必要な方程式

例題3:方程式 (\log_2 x)^2 - \log_2 x^2 - 3 = 0 を解け。

解法:

  1. 真数条件: x>0 および x^2>0x^2>0 は x\neq 0 を意味する。両方を満たすのは x>0
  2. 式の変形と置き換え:\log_2 x^2 = 2\log_2 x なので、(\log_2 x)^2 – 2\log_2 x – 3 = 0t = \log_2 x とおくと、t^2 – 2t – 3 = 0(t-3)(t+1) = 0t=3, -1
  3. x の値を求める:
    • t=3 のとき: \log_2 x = 3 \Rightarrow x = 2^3 = 8
    • t=-1 のとき: \log_2 x = -1 \Rightarrow x = 2^{-1} = 1/2
  4. 解の吟味: x=8 と x=1/2 は、ともに真数条件 x>0 を満たしている。結論: 解は x=8, 1/2。

例題4:方程式 \log_2 x = \log_4(x+2) を解け。

解法:

  1. 真数条件: x>0 かつ x+2>0 \Rightarrow x>-2。よって、x>0
  2. 底を統一する: 底の変換公式を用いて、底を 2 にそろえる。\log_4(x+2) = \frac{\log_2(x+2)}{\log_2 4} = \frac{\log_2(x+2)}{2}方程式は \log_2 x = \frac{\log_2(x+2)}{2}2\log_2 x = \log_2(x+2)\log_2 (x^2) = \log_2(x+2)
  3. 真数を比較:x^2 = x+2x^2 – x – 2 = 0(x-2)(x+1) = 0解の候補は x=2, -1。
  4. 解の吟味:
    • x=2 は x>0 を満たす。
    • x=-1 は x>0 を満たさないので不適。結論: 解は x=2。

4.4. まとめ:条件を確認し、形をそろえる

対数方程式の解法は、明確な手順に基づいています。

  • 最優先事項は「条件確認」: 計算を始める前に、まず真数と底の条件から変数の範囲を確定させ、最終的な解がその範囲内にあるかを必ず吟味します。
  • 基本戦略は「形の統一」: 対数の性質や底の変換公式を駆使して、方程式を \log_a M = \log_a N や \log_a M = C の形に持ち込み、対数を外すことを目指します。
  • 置き換えも有効: 式の構造が2次式などになっている場合は、置き換えによって既知の代数方程式の問題に帰着させます。

この体系的なアプローチを守ることで、対数方程式に潜む「無縁解」の罠を回避し、正確に解を導き出すことができます。


5. 対数不等式の解法

対数を含む不等式(対数不等式)の解法は、方程式の場合と同様の戦略に基づきますが、指数不等式と同じく、底 a の値によって不等号の向きが変わるという、極めて重要な注意点が存在します。これは、対数関数 y=\log_a x が、a>1 で増加関数、0<a<1 で減少関数であるという、グラフの単調性に起因します。

さらに、対数不等式を解く上で、方程式のとき以上に厳格さが求められるのが真数条件の扱いです。不等式を解いて得られた範囲と、最初に確認した真数条件による範囲との共通部分をとる、という最後のステップを忘れると、正しい答えにはたどり着けません。

5.1. 対数不等式の基本原理

対数関数 y=\log_a x の単調性から、以下の関係が成り立ちます。

対数不等式の基本原理

a>0, a \neq 1 とし、M>0, N>0 とする。

  1. 底 a > 1 の場合(増加関数):グラフは右上がりなので、真数の大小関係と、対数値全体の大小関係は一致する。\[ \log_a M < \log_a N \quad \Leftrightarrow \quad M < N \](不等号の向きはそのまま)
  2. 底 0 < a < 1 の場合(減少関数):グラフは右下がりなので、真数の大小関係と、対数値全体の大小関係は逆転する。\[ \log_a M < \log_a N \quad \Leftrightarrow \quad M > N \](不等号の向きが逆になる)

5.2. 対数不等式の解法手順

対数不等式の鉄則

  1. 最初に、真数条件と底の条件から、変数の範囲を求める。
  2. 不等式を変形し、\log_a(\text{式1}) < \log_a(\text{式2}) の形にする。
  3. 底 a の値を確認し、a>1 か 0<a<1 かに応じて、不等号の向きを判断しながら真数部分の不等式を作る。
  4. ステップ3で得られた不等式を解く。
  5. 最後に、ステップ4で得られた解の範囲と、ステップ1で求めた真数条件の範囲との共通部分をとる。

5.3. 基本的な対数不等式

例題1:不等式 \log_2(x-3) < 4 を解け。

解法:

  1. 真数条件: x-3 > 0 \Rightarrow x > 3
  2. 形をそろえる: 右辺の 4 を、底 2 の対数で表す。4 = 4 \log_2 2 = \log_2(2^4) = \log_2 16。不等式は \log_2(x-3) < \log_2 16。
  3. 真数を比較: 底は 2 で 2>1 なので、不等号の向きはそのまま。x-3 < 16
  4. 不等式を解く: x < 19
  5. 共通部分をとる: ステップ1の x>3 と、ステップ4の x<19 の共通部分をとる。結論: 3 < x < 19。

例題2:不等式 \log_{1/3}(5-x) \ge -2 を解け。

解法:

  1. 真数条件: 5-x > 0 \Rightarrow x < 5
  2. 形をそろえる: 右辺の -2 を、底 1/3 の対数で表す。-2 = -2 \log_{1/3}(1/3) = \log_{1/3}\{(1/3)^{-2}\} = \log_{1/3} 9。不等式は \log_{1/3}(5-x) \ge \log_{1/3} 9。
  3. 真数を比較: 底は 1/3 で 0 < 1/3 < 1 なので、不等号の向きは逆転する。5-x \le 9
  4. 不等式を解く: -x \le 4 \Rightarrow x \ge -4
  5. 共通部分をとる: ステップ1の x<5 と、ステップ4の x \ge -4 の共通部分をとる。結論: -4 \le x < 5。

5.4. 応用的な対数不等式

例題3:不等式 2\log_2(x-1) \le \log_2(7-x) を解け。

解法:

  1. 真数条件:
    • x-1 > 0 \Rightarrow x > 1
    • 7-x > 0 \Rightarrow x < 7よって、1 < x < 7。
  2. 形をそろえる: 左辺の係数 2 を、対数の性質を用いて真数の指数に入れる。\log_2(x-1)^2 \le \log_2(7-x)
  3. 真数を比較: 底は 2 で 2>1 なので、不等号の向きはそのまま。(x-1)^2 \le 7-x
  4. 不等式を解く: これは x の2次不等式である。x^2-2x+1 \le 7-xx^2-x-6 \le 0(x-3)(x+2) \le 0解は -2 \le x \le 3。
  5. 共通部分をとる:ステップ1の 1 < x < 7 と、ステップ4の -2 \le x \le 3 の共通部分をとる。結論: 1 < x \le 3。

5.5. まとめ:条件、底、そして共通部分

対数不等式の解法は、その手順の厳格さが特徴です。

  • 出発点は「真数条件」: いかなる計算よりも先に、対数が存在する大前提である真数条件(および底の条件)から、変数の動ける範囲を確定させます。
  • 分水嶺は「底の値」: 不等式の核心部分である真数の比較を行う際には、底が 1 より大きいか小さいかを確認し、不等号の向きを維持するか、反転させるかを正しく判断します。
  • 終着点は「共通部分」: 不等式を解いて得られた解の範囲と、最初に設定した真数条件の範囲との共通部分をとることで、初めて最終的な答えが確定します。

この「条件 → 底の確認 → 共通部分」という三段階の論理的なプロセスを、常に忠実に実行することが、対数不等式をマスターするための最も確実な道筋です。


6. 対数関数の大小比較

対数で表された複数の数の大小を比較する問題は、対数関数のグラフの単調性(増加または減少)を、その論理的な基盤としています。基本的な戦略は、指数関数の場合と酷似しており、「比較の土俵をそろえる」こと、すなわち底を統一することにあります。

底をそろえた後は、\log_a M と \log_a N の大小は、

  • a>1 ならば、真数 M と N の大小関係と一致する。
  • 0<a<1 ならば、真数 M と N の大小関係と逆転する。という、対数関数の単調性に基づいて判定します。このセクションでは、底の変換公式を駆使して底をそろえ、対数の大小を正確に比較する技術を学びます。

6.1. 基本戦略:底をそろえて真数を比較

大小比較の手順

  1. 底を統一する:比較したい対数が異なる底を持つ場合、底の変換公式を用いて、すべての対数を同じ底にそろえる。底は 1 より大きい数にそろえる方が、大小関係が逆転しないため、計算ミスが少なくなる傾向がある。
  2. 係数を真数に入れる:k \log_a M のような形は、\log_a (M^k) の形に直し、\log_a(\dots) の形に統一する。
  3. 真数の大小を比較する:そろえた底 a の値に応じて、真数の大小を比較し、全体の大小関係を決定する。
    • a>1 ならば、真数が大きい方が大きい。
    • 0<a<1 ならば、真数が大きい方が小さい。

例題1:3つの数 \log_4 7\log_2 3\log_8 25 の大小を比較せよ。

解法:

  1. 底を 2 に統一する:底が 4=2^2, 2, 8=2^3 なので、底を 2 にそろえるのが合理的である。
    • \log_4 7 = \frac{\log_2 7}{\log_2 4} = \frac{\log_2 7}{2} = \frac{1}{2}\log_2 7
    • \log_2 3 はそのまま。
    • \log_8 25 = \frac{\log_2 25}{\log_2 8} = \frac{\log_2 5^2}{3} = \frac{2\log_2 5}{3} = \frac{2}{3}\log_2 5
  2. 係数を真数に入れる:比較する3つの数は、\frac{1}{2}\log_2 7, \log_2 3, \frac{2}{3}\log_2 5。\log_2(\dots) の形にする。
    • \frac{1}{2}\log_2 7 = \log_2 (7^{1/2}) = \log_2 \sqrt{7}
    • \log_2 3
    • \frac{2}{3}\log_2 5 = \log_2 (5^{2/3}) = \log_2 \sqrt[3]{5^2} = \log_2 \sqrt[3]{25}
  3. 真数の大小を比較する:\sqrt{7}, 3, \sqrt[3]{25} の大小を比較する。根号の種類が異なるので、すべてを6乗(2と3の最小公倍数)して比較する。
    • (\sqrt{7})^6 = 7^3 = 343
    • 3^6 = 729
    • (\sqrt[3]{25})^6 = 25^2 = 625よって、343 < 625 < 729 なので、(\sqrt{7})^6 < (\sqrt[3]{25})^6 < 3^6。6乗根をとっても大小関係は変わらないので、\sqrt{7} < \sqrt[3]{25} < 3。
  4. 全体の大小を決定する:底は 2 で 2>1 なので、真数の大小関係がそのまま全体の大小関係になる。\log_2 \sqrt{7} < \log_2 \sqrt[3]{25} < \log_2 3元の数に戻すと、\log_4 7 < \log_8 25 < \log_2 3

6.2. 基準となる値との比較

ときには、すべての底をそろえるのが困難な場合があります。その場合は、1 や 0、あるいは 1/2 などの計算しやすい基準値と比較することで、大小関係のあたりをつけることができます。

例題2:2つの数 \log_3 5 と \log_4 5 の大小を比較せよ。

解法1:底をそろえる

底を 10(常用対数)に変換してみる。

\log_3 5 = \frac{\log_{10} 5}{\log_{10} 3}

\log_4 5 = \frac{\log_{10} 5}{\log_{10} 4}

分子はともに \log_{10} 5 で正の数である。

分母は \log_{10} 3 と \log_{10} 4。底 10 は 1 より大きいので、真数 3 < 4 から \log_{10} 3 < \log_{10} 4。

分母が小さい方が、分数全体のの値は大きくなる。

したがって、\frac{\log_{10} 5}{\log_{10} 3} > \frac{\log_{10} 5}{\log_{10} 4}。

よって、\log_3 5 > \log_4 5。

解法2:グラフを利用する

2つの関数 y=\log_3 x と y=\log_4 x のグラフを考える。

どちらも底が 1 より大きい増加関数で、点 (1,0) を通る。

x>1 の範囲では、底が小さい y=\log_3 x の方が、底が大きい y=\log_4 x よりもグラフが上側にある。

(例:x=3 のとき \log_3 3=1, \log_4 3 < 1)

したがって、x=5 ( >1 ) を代入した値も、\log_3 5 > \log_4 5 となる。

6.3. まとめ:単調性の応用

対数の大小比較は、対数関数のグラフが持つ単調性という性質の、直接的な応用です。

  • 基本は底の統一: 底の変換公式は、異なる対数を同じ土俵に乗せるための不可欠なツールです。
  • 真数の勝負: 底を 1 より大きい数にそろえれば、問題は真数の大小比較に帰着します。
  • グラフのイメージ: y=\log_a x のグラフの形を頭に描くことは、特に底が異なる場合の大小関係を直感的に把握する上で、大きな助けとなります。

この大小比較の技術は、対数不等式を解く際の最終段階や、より複雑な関数の値域を評価する問題などで、その真価を発揮します。


7. 常用対数と桁数・小数首位

対数は、巨大な数の掛け算を足し算に変換する計算ツールとして発明されました。この「巨大な数を扱う」という対数の能力は、特に底を10とする対数、すなわち常用対数 (common logarithm) を用いることで、驚くべき応用を可能にします。それは、2^{100} のような、直接計算することが不可能な天文学的な数が、「何桁の数」で、その「一番上の位の数字(最高位の数)」が何であるかを、筆算だけで突き止める技術です。

この技術の根底にあるのは、我々が日常的に使っている10進法と、常用対数との間の深い関係性です。このセクションでは、常用対数の整数部分と小数部分が、それぞれ数の「スケール(桁数)」と「具体的な数字の並び」に関する情報を、いかにして保持しているかを探求します。

7.1. 常用対数とその整数部分・小数部分

常用対数の定義

底を10とする対数 \log_{10} M を常用対数という。\log M のように底を省略して書くことが多い。

任意の正の数 X の常用対数 \log_{10} X は、必ず整数部分 n と 0以上の1未満の小数部分 \alpha の和で表すことができます。

\log_{10} X = n + \alpha (nは整数, 0 \le \alpha < 1)

  • n を指標 (characteristic)
  • \alpha を仮数 (mantissa)と呼ぶことがあります。この指標 n と仮数 \alpha が、それぞれ数の大きさに関する異なる情報を担っています。

7.2. 桁数の推定

ある正の整数 N の桁数を推定する原理は、N を10のべき乗で挟み込むことから始まります。

  • 1桁の数 N1 \le N < 10 \Leftrightarrow 10^0 \le N < 10^1
  • 2桁の数 N10 \le N < 100 \Leftrightarrow 10^1 \le N < 10^2
  • 3桁の数 N100 \le N < 1000 \Leftrightarrow 10^2 \le N < 10^3

このパターンを一般化すると、

N が k 桁の整数である \Leftrightarrow 10^{k-1} \le N < 10^k

という関係が成り立ちます。

この不等式の各辺の常用対数をとります。底 10 は 1 より大きいので、不等号の向きは変わりません。

\log_{10}(10^{k-1}) \le \log_{10} N < \log_{10}(10^k)

\[ k-1 \le \log_{10} N < k \]

この結果は、\log_{10} N の整数部分が k-1 であることを意味します。

したがって、整数 N の桁数 k は、その常用対数の整数部分 n を用いて、

n = k-1 \Rightarrow k = n+1 と求められます。

桁数の公式

正の整数 N の桁数は、\log_{10} N の整数部分を n とすると、n+1 桁となる。

例題1:3^{30} は何桁の整数か。ただし \log_{10} 3 = 0.4771 とする。

解法:

  1. 常用対数をとる:\log_{10}(3^{30}) の値を計算する。\log_{10}(3^{30}) = 30 \times \log_{10} 3 = 30 \times 0.4771 = 14.313
  2. 整数部分を求める:\log_{10}(3^{30}) = 14.313 なので、整数部分は n=14。
  3. 桁数を計算する:桁数は n+1 なので、14+1 = 15。結論: 3^{30} は 15桁 の整数である。

7.3. 小数首位の推定

0 < N < 1 の小数、例えば (1/2)^{50} などが、小数第何位に初めて0でない数字が現れるか(小数首位)も、常用対数で推定できます。

  • 小数第1位に初めて0でない数字が現れる数 N0.1 \le N < 1 \Leftrightarrow 10^{-1} \le N < 10^0
  • 小数第2位に初めて0でない数字が現れる数 N0.01 \le N < 0.1 \Leftrightarrow 10^{-2} \le N < 10^{-1}

このパターンを一般化すると、

N が小数第 k 位に初めて0でない数字が現れる \Leftrightarrow 10^{-k} \le N < 10^{-k+1}

となります。

常用対数をとると、

\[ -k \le \log_{10} N < -k+1 \]

となります。

**【注意】**例えば \log_{10} N = -3.4 の場合、整数部分は -3 ではなく -4 です。

-3.4 = -4 + 0.6 と分解し、整数部分 n=-4、小数部分 \alpha=0.6 と考えます。

この場合、-4 \le \log_{10} N < -3 となるので、k=4、すなわち小数第4位に対応します。

小数首位の公式

正の小数 N について、\log_{10} N の値が n+\alpha (nは整数, 0 \le \alpha < 1)で n が負の整数のとき、N は小数第 -n 位に初めて0でない数字が現れる。

例題2:(1/5)^{20} は小数第何位に初めて0でない数字が現れるか。ただし \log_{10} 2 = 0.3010 とする。

解法:

  1. 常用対数をとる:\log_{10}(1/5)^{20} = 20 \log_{10}(1/5) = 20 \log_{10}(2/10) = 20(\log_{10}2 – \log_{10}10)= 20(0.3010 – 1) = 20(-0.6990) = -13.98
  2. 整数部分を正しく求める:-13.98 = -14 + 0.02整数部分は n=-14。
  3. 小数首位を計算する:小数第 -n 位なので、-(-14)=14 位。結論: (1/5)^{20} は 小数第14位 に初めて0でない数字が現れる。

7.4. 最高位の数の推定

3^{30} の一番上の位の数字は何でしょうか。これは、\log_{10}(3^{30}) の小数部分(仮数)\alpha が持つ情報からわかります。

\log_{10}(3^{30}) = 14.313 = 14 + 0.313

対数の定義に戻ると、

3^{30} = 10^{14.313} = 10^{14+0.313} = 10^{0.313} \times 10^{14}

  • 10^{14} は、数の「位取り」(小数点の位置)を決定します。これが15桁の数である根拠です。
  • 10^{0.313} は、具体的な数字の並び a.bcde… の部分を決定します。この 10^{0.313} が 1 から 10 の間のどの範囲にあるかを調べることで、最高位の数がわかります。1 \le 10^{0.313} < 10常用対数をとると、\log_{10} 1 \le 0.313 < \log_{10} 100 \le 0.313 < 1既知の対数の値と比較します。\log_{10} 2 = 0.3010\log_{10} 3 = 0.47710.3010 < 0.313 < 0.4771 なので、\log_{10} 2 < 0.313 < \log_{10} 3常用対数を外すと(底10は1より大きいので大小は不変)、2 < 10^{0.313} < 3したがって、3^{30} は 2.\dots \times 10^{14} という形で表される数です。結論: 最高位の数は 2 である。

7.5. まとめ:数のスケールを測る物差し

常用対数は、10進法の世界と密接に結びついた、数のスケールを測るための強力な物差しです。

  • 整数部分(指標)は桁数を語る: \log_{10} N の整数部分を見れば、N がどれくらい大きい(または小さい)数なのか、その「桁」がわかります。
  • 小数部分(仮数)は数字の並びを語る: \log_{10} N の小数部分を見れば、N の具体的な数字の並び、特にその先頭に来る最高位の数が何であるかがわかります。

この二つの情報を組み合わせることで、私たちは、直接計算することのできない巨大な数の「肖像」を、驚くほどの精度で描き出すことができるのです。


8. 自然対数

常用対数が、底を 10 とすることで10進法と結びつき、数の桁数といった実用的な計算で力を発揮したのに対し、自然対数 (natural logarithm) は、底をネイピア数 e とすることで、微積分学をはじめとする理論科学の世界で、より本質的で中心的な役割を果たします。

ネイピア数 e (\approx 2.718) は、Module 7で学んだように、y=e^x のグラフの x=0 における接線の傾きがちょうど 1 になるという、成長を記述する上で最も「自然な」底でした。この特別な底 e を持つ対数、すなわち自然対数 \log_e x (しばしば \ln x と略記される) は、その逆関数である指数関数 e^x の「自然さ」を受け継ぎ、微積分において極めてシンプルな性質を示します。このセクションでは、自然対数を定義し、その重要性について考察します。

8.1. 自然対数の定義

自然対数の定義

ネイピア数 e を底とする対数を自然対数といい、\log_e x または \ln x と書く。

(ln はラテン語の logarithmus naturalis に由来する)

自然対数も対数の一種なので、これまで学んできた対数の性質はすべて成り立ちます。

  • 定義: y=\ln x \Leftrightarrow x=e^y
  • 性質:
    • \ln(MN) = \ln M + \ln N
    • \ln(M/N) = \ln M - \ln N
    • \ln(M^k) = k \ln M
    • \ln e = 1
    • \ln 1 = 0
  • グラフ: 底 e は e \approx 2.718 > 1 なので、y=\ln x のグラフは、y=\log_a x (a>1) と同じ形の、点 (1,0)を通る単調増加の曲線です。

8.2. 自然対数の「自然さ」

自然対数が「自然」と呼ばれる所以は、その**導関数(変化率)**の形にあります。

数学IIIで詳しく学びますが、対数関数 y=\log_a x の導関数は、

y’ = \frac{1}{x} \cdot \frac{1}{\log_e a}

となります。

この式で、底 a が e の場合を考えると、\log_e e = 1 なので、

\[ (\ln x)’ = \frac{1}{x} \]

となり、非常にシンプルな形になります。

常用対数 y=\log_{10} x の導関数は y’ = \frac{1}{x \ln 10} となり、余分な定数が付きまといます。

微積分という「変化」を扱う数学の言語において、e^x と \ln x は、その変化の法則が最も単純な形で記述される、いわば「標準語」の役割を果たしているのです。科学技術計算で対数が使われる場合、それはほとんどの場合、自然対数を意味します。

8.3. 常用対数と自然対数の関係

底の変換公式を用いることで、常用対数と自然対数を相互に変換することができます。

\log_{10} x = \frac{\log_e x}{\log_e 10} = \frac{\ln x}{\ln 10}

\ln x = \frac{\log_{10} x}{\log_{10} e}

\ln 10 \approx 2.3026\log_{10} e \approx 0.4343 であり、これらは互いに逆数の関係にあります。

8.4. まとめ:理論科学の標準言語

自然対数は、高校数学IIの段階では、常用対数ほど具体的な計算問題に登場する機会は多くありません。しかし、その重要性は計り知れません。

  • 微積分との親和性: (\ln x)'=1/x という導関数のシンプルさが、自然対数を理論科学における標準的な対数たらしめています。
  • 指数関数 e^x とのペア: 最も自然な指数関数 e^x の、最も自然なパートナー(逆関数)として存在します。
  • 高等数学への扉: 確率論における正規分布の記述や、情報理論におけるエントロピーの定義など、より高度な数学・科学の様々な場面で、自然対数は不可欠な構成要素として現れます。

常用対数が「実用計算の対数」であるとすれば、自然対数は「理論科学の対数」と言うことができるでしょう。その真価は、微積分を学んで初めて、完全に明らかになります。


9. 指数関数と対数関数の逆関数の関係

本モジュールと前モジュールを通じて、私たちは指数関数 y=a^x と対数関数 y=\log_a x という、二つの重要な関数を学んできました。対数の定義が指数の逆の問いに答えるものであったように、この二つの関数は、数学的に逆関数 (inverse function) の関係にある、という極めて密接なつながりを持っています。

この逆関数という関係性は、両者のグラフの間に見られる「直線 y=x に関する対称性」として、幾何学的に美しく表現されます。また、両者を合成して適用した際に現れる代数的な性質も、この関係性の本質を明らかにします。このセクションでは、指数関数と対数関数が互いに逆関数であるという意味を、グラフと式の両面から改めて整理し、その理解を深めます。

9.1. 逆関数とは

ある関数 y=f(x) を考えます。この関数は、入力 x を受け取って、出力 y を返す一つのルールです。

このプロセスの矢印を完全に逆向きにしたもの、すなわち、出力 y を受け取って、それを作り出した元の入力 x を返すルールが存在するとき、そのルールを元の関数 f(x) の逆関数といい、x = f^{-1}(y) と書きます。

通常、逆関数も x を入力、y を出力とする関数として表現したいため、x と y を入れ替えて y = f^{-1}(x) と表記します。

逆関数の求め方

  1. 元の関数 y=f(x) を、x について解き、x=g(y) の形にする。
  2. x と y を入れ替えて、y=g(x) を得る。これが逆関数 f^{-1}(x) となる。

9.2. 指数関数と対数関数の逆関数関係

指数関数 y=a^x (ただし a>0, a \neq 1) の逆関数を求めてみましょう。

  1. x について解く:y=a^x を x について解くとは、「a を y にするための指数 x は何か」を求めることに他なりません。これはまさしく、対数の定義そのものです。x = \log_a y
  2. x と y を入れ替える:y = \log_a x

この結果は、指数関数 y=a^x の逆関数が、対数関数 y=\log_a x であることを示しています。逆に、対数関数の逆関数を求めれば、指数関数が得られます。

9.3. グラフにおける対称性

関数とその逆関数のグラフは、直線 y=x に関して線対称になるという、普遍的な性質があります。これは、逆関数を作るプロセスが x と y を入れ替える操作であることに起因します。点 (p, q) が元の関数のグラフ上にあれば (q=f(p))、点 (q, p) が逆関数のグラフ上にある (p=f^{-1}(q)) ためです。

指数関数 y=a^x と対数関数 y=\log_a x のグラフは、この対称性を美しく体現しています。

  • a>1 の場合:右上がりの指数関数のグラフと、同じく右上がりの対数関数のグラフは、y=x を対称の軸として、互いに鏡に映したような形をしています。
  • 0<a<1 の場合:右下がりの指数関数のグラフと、同じく右下がりの対数関数のグラフも、同様に y=x に関して対称です。

幾何学的特徴の対応関係

この対称性により、両者のグラフの幾何学的な特徴は、x と y の役割を入れ替える形で対応します。

  • 通る定点:指数関数 y=a^x は必ず点 (0, 1) を通る。\leftrightarrow 対数関数 y=\log_a x は必ず点 (1, 0) を通る。
  • 漸近線:指数関数 y=a^x はx軸 (y=0) を漸近線に持つ。\leftrightarrow 対数関数 y=\log_a x はy軸 (x=0) を漸近線に持つ。
  • 定義域と値域:指数関数の定義域(実数全体)は、対数関数の値域となる。指数関数の値域(正の実数)は、対数関数の定義域となる。

9.4. 式における逆関数関係

関数 f とその逆関数 f^{-1} を続けて適用すると、元の値に戻ります。

f^{-1}(f(x)) = x

f(f^{-1}(x)) = x

この関係を、指数関数 f(x)=a^x と対数関数 f^{-1}(x)=\log_a x に当てはめてみると、

  • \log_a (a^x) = xこれは、対数の性質 \log_a M^k = k \log_a M で M=a, k=x としたものに他なりません。「a を a^x にするための指数は何か?」と問えば、答えが x であるのは自明です。
  • a^{\log_a x} = xこれは、少し分かりにくいかもしれませんが、対数の定義そのものです。p = \log_a x とおくと、定義より a^p=x です。この p を \log_a x に戻せば、a^{\log_a x}=x が得られます。「a の(aをxにするための指数)乗」は、当然 x になります。

9.5. まとめ:表裏一体のパートナー

指数関数と対数関数は、単に別々の単元として存在するのではなく、互いが互いを定義し、その性質を補完しあう、表裏一体のパートナーです。

  • 代数的な定義: y=\log_a x は x=a^y の言い換えであり、対数は指数の逆の概念である。
  • 幾何学的な対称性: 両者のグラフは、直線 y=x に関する美しい鏡像関係にある。
  • 性質の対応: 一方の関数の性質(定義域、値域、漸近線など)は、もう一方の関数の性質と、x と y の役割を入れ替えることで完全に対応する。

この深く、そして美しい逆関数関係を理解することは、指数と対数の両方の世界を、より統一的で、より高い視点から俯瞰することを可能にします。


10. 対数スケール(pH, dB)

指数関数が、その値域において桁違いのスケール(2^{10} \approx 10002^{20} \approx 1,000,000)を扱うのに対し、対数関数はその逆の性質を持っています。すなわち、非常に広大な範囲にわたる数のスケールを、人間が扱いやすい、ごく狭い範囲の数値へと圧縮する能力です。

この対数の「スケール圧縮」能力は、現実世界の様々な場面で、直感的な理解を助けるための「ものさし」として活用されています。それが対数スケール (logarithmic scale) です。化学で用いられるpH(水素イオン指数)や、音の強さを表すdB(デシベル)、地震の規模を表すマグニチュードなどはすべて、対数スケールの一種です。このセクションでは、これらの具体例を通じて、対数が巨大な世界をどのようにして私たちの手の中に収めてくれるのか、その本質に迫ります。

10.1. 対数スケールの原理

通常の「線形スケール」(普通の目盛りのものさし)では、目盛りの 1 の差は、常に同じ「差」を意味します(例:1cmと2cmの差は1cm、9cmと10cmの差も1cm)。

一方、対数スケールでは、目盛りの 1 の差は、**同じ「比(倍率)」**を意味します。

y = \log_{10} x という関数を考えてみましょう。

  • x が 10 から 100 へと10倍になると、y は \log_{10} 10 = 1 から \log_{10} 100 = 2 へと、1 だけ増加します。
  • x が 1000 から 10000 へと10倍になると、y は \log_{10} 1000 = 3 から \log_{10} 10000 = 4 へと、やはり 1 だけ増加します。

このように、対数をとることで、掛け算の世界(\times 10)が、足し算の世界(+1)へと変換されます。これにより、1, 10, 100, 1000, \dots という、桁がどんどん増えていく広大な範囲の数を、0, 1, 2, 3, \dots という、非常にコンパクトな目盛りで表現できるようになるのです。

10.2. 実例1:pH(水素イオン指数)

水溶液の酸性・アルカリ性の度合いは、その中に含まれる水素イオン濃度 [H⁺] (単位: mol/L) によって決まります。しかし、この濃度は、例えば強酸性の胃液で 10^{-1} mol/L 程度、中性の純水で 10^{-7} mol/L、強アルカリ性の石鹸水で 10^{-12} mol/L と、非常に広範な桁にわたります。

この扱いにくい数値を、より直感的な尺度で表現するために、デンマークの化学者セーレンセンが導入したのが pH (potential of hydrogen) です。

pHの定義

\[ \text{pH} = -\log_{10} [\text{H}^+] \]

(マイナスがついているのは、[H⁺] が通常 1 より小さいため \log_{10}[H⁺] が負になり、pHの値を正の数にするためです)

この定義により、

  • pHが1減少する \Leftrightarrow 水素イオン濃度が10倍になる(酸性が強くなる)
  • pHが1増加する \Leftrightarrow 水素イオン濃度が1/10になる(アルカリ性が強くなる)という関係が成り立ちます。
  • 中性の水 ([H⁺]=10^{-7}): \text{pH} = -\log_{10}(10^{-7}) = -(-7) = 7
  • 胃液 ([H⁺]=10^{-1}): \text{pH} = -\log_{10}(10^{-1}) = -(-1) = 1

このように、10^{-14} から 1 という100兆倍もの濃度範囲を、14 から 0 という、わずか15段階の身近な尺度へと見事に圧縮しているのです。

10.3. 実例2:dB(デシベル)

音の強さ(エネルギーの大きさ、物理的には音響インテンシティ)も、人間が聞き取れる最小の音(聞閾)から、鼓膜が破れるほどの轟音まで、10^{13} 倍(10兆倍)以上もの非常に広い範囲にわたります。この音の強さを対数スケールで表現したものがデシベル (decibel) です。

人間が聞き取れる最小の音の強さを I_0 としたとき、強さ I の音のレベル L (dB) は、

\[ L = 10 \log_{10}\left(\frac{I}{I_0}\right) \text{ [dB]} \]

と定義されます。

(10 が掛けられているのは、もともとの単位「ベル(B)」を10分の1にした「デシ(d)ベル」で使うためです)

この定義により、

  • 音の強さが10倍 (I/I_0 = 10) になると、10 \log_{10} 10 = 10 dB 増加する。
  • 音の強さが100倍 (I/I_0 = 100) になると、10 \log_{10} 100 = 20 dB 増加する。
  • 音の強さが1000倍 (I/I_0 = 1000) になると、10 \log_{10} 1000 = 30 dB 増加する。

ささやき声(30dB)と普通の会話(60dB)の差は 30 dBですが、これは音のエネルギーが 1000 倍も違うことを意味します。対数スケールは、人間の感覚(音の大きさの感じ方)が、物理的なエネルギーの大きさそのものよりも、その比(対数)に近いという事実とも関連しています。

10.4. まとめ:巨大な世界を手のひらに

対数スケールは、対数が持つスケール圧縮能力を、現実世界の問題に応用した、優れた知恵です。

  • 原理は「掛け算を足し算に」: 桁が一つ上がる(10倍になる)ごとに、目盛りが一定量(1)だけ増える、という対数の基本性質を利用しています。
  • 広範な応用: 化学(pH)、物理学(デシベル)、地震学(マグニチュード)、天文学(等級)など、桁違いに大きな(あるいは小さな)数を扱うあらゆる科学分野で、対数スケールは標準的な「ものさし」として活躍しています。
  • 直感的な理解: 対数スケールを用いることで、私たちは、そのままでは想像もつかないような巨大なスケールの世界を、身近な数の範囲で議論し、直感的に理解することができるようになります。

対数が、単なる計算ツールに留まらず、世界の「見方」そのものを変える力を持つことを、これらの実例は示しています。

Module 8:対数関数の総括:指数の世界を反転させ、乗算を足し算に。対数に、巨大な世界の縮図を見る

本モジュールで、私たちは指数関数 y=a^x が投げかけた「指数 x から数 y へ」という問いを反転させ、「数 yから指数 x へ」と遡るための強力な道具、対数 x=\log_a y を手に入れました。この指数と対数の関係は、単なる逆の操作に留まらず、数学の世界における深い対称性、すなわち「逆関数」という普遍的な構造の現れでした。指数関数のグラフとその鏡像である対数関数のグラフは、その美しき対称性を雄弁に物語っています。

対数の真の力は、その計算法則 \log(MN)=\log M + \log N に集約されています。これは、天文学的な数の複雑な「乗算」の世界を、私たちにとって遥かに扱いやすい「加算」の世界へと翻訳する、魔法の呪文です。指数法則の単なる裏返しに過ぎないこの性質が、かつては科学計算の様相を一変させ、現代では常用対数による桁数の推定といった形で、その威力を示し続けています。

方程式や不等式を解く際には、真数条件や底の値への鋭敏な注意が求められました。これは、対数の世界が、指数関数の値域(正の数)という土台の上に成り立っていることの証左です。そして最後に、pHやデシベルといった対数スケールを通じて、対数が、広大で捉えどころのない現実世界のスケールを、人間の認識のスケールへと「圧縮」し、理解可能なものにするための普遍的な「知恵」であることを学びました。

指数が「増殖」のダイナミズムを表現する言語であったとすれば、対数はその結果として生まれた巨大な世界の「構造」を静かに読み解くための言語です。この二つの言語を自在に操ること。それは、変化のプロセスと、その結果としての状態の両方を、深く理解するための鍵となるのです。

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