【基礎 数学(数学Ⅱ)】Module 11:積分法(1) 不定積分と定積分
本モジュールの目的と構成
前章までの微分法で、私たちは、関数という動的な対象の「瞬間的な変化率」を捉えるための、強力な顕微鏡を手に入れました。それは、複雑な現象をその最小構成単位へと分解していく「解析 (Analysis)」の思考でした。本モジュールから始まる積分法は、その対となる、もう一つの偉大な思考の柱です。すなわち、微分によって細分化された無数の断片を、再び一つに統合 (Synthesis)し、全体の姿を復元する思考、それが積分です。
積分法は、歴史的には、全く異なる二つの問いに答えるために発展してきました。
第一の問いは、微分の逆問題です。「ある関数の変化率(導関数)がわかっているとき、元の関数は何だったのか?」—速度から位置を、加速度から速度を求めるこの問いは、不定積分という概念を生み出します。
第二の問いは、求積問題です。「曲線で囲まれた図形の面積は、どのようにして正確に求められるのか?」—古代ギリシャのアルキメデスにまで遡るこの難問は、図形を無限に薄い長方形の集まりとして捉え、その和の極限を考える区分求積法と、そこから生まれる定積分という概念へと我々を導きます。
一見すると、この「微分の逆」と「面積の計算」は、全く無関係な問題に見えます。しかし、ニュートンとライプニッツによって打ち立てられた微分積分学の基本定理は、この二つの概念の間に、驚くほど深く、そして美しい橋が架かっていることを明らかにしました。不定積分(微分の逆演算)が、定積分(面積)を驚くほど簡単に計算するための鍵となるのです。この定理こそが、微積分学を一つの壮大な理論体系として完成させ、近代科学技術の発展を駆動させた、人類の知性の金字塔です。
本モジュールでは、この二つの源流から積分法を学び、その核心にある基本定理の感動を体験します。そして、この新しい強力な計算ツールを用いて、様々な関数の積分を計算し、その応用を探求していきます。
本モジュールは、積分の二つの側面を明らかにし、それらを統合するために、以下の論理的な順序で構成されています。
- 不定積分の定義(微分の逆演算): まず、積分を「微分の逆の操作」として定義し、導関数から元の関数(原始関数)を求める「不定積分」とその記法を学びます。
- 不定積分の基本公式: 微分の公式を裏返すことで、
x^n
などの基本的な関数の不定積分を求める公式を確立します。 - 定積分の定義(区分求積法): 次に、全く異なる問題意識、すなわち「曲線の面積」から出発し、図形を無限個の長方形の和として捉え、その極限として「定積分」を定義します。
- 微分積分学の基本定理: 本モジュールのクライマックスとして、「微分の逆」と「面積」という二つの概念を結びつける、微分積分学の基本定理を学び、その絶大な威力を体感します。
- 定積分の基本公式と性質: 基本定理を用いて、定積分の計算を機械的に行うための公式と、計算を簡略化するための様々な性質を探求します。
- 偶関数・奇関数の定積分: 関数の対称性を利用して、特定の区間における定積分の計算を劇的に簡単にするテクニックを学びます。
- 絶対値を含む関数の定積分: 被積分関数に絶対値が含まれる場合の、区間を分割して計算する手法を習得します。
- 定積分で表された関数の微分: 積分区間に変数が含まれる、一見奇妙な関数を「微分する」という操作を通じて、微分と積分の深い関係を再確認します。
- 積分方程式: 未知の関数が積分記号の中に含まれる「積分方程式」の、典型的なパターンの解法を学びます。
- 置換・部分積分法(初歩): 数学IIIで本格的に学ぶ、より高度な積分計算技術である置換積分と部分積分の、初歩的な考え方に触れます。
この一連の学習は、あなたに微分と対をなす「積分」という強力な思考の枠組みを与え、変化を積み重ねて全体を理解する、新しい数学的視座を提供するものとなるでしょう。
1. 不定積分の定義(微分の逆演算)
微分法は、関数 f(x) が与えられたときに、その導関数 f'(x) を求める操作でした。
f(x) \xrightarrow{\text{微分}} f'(x)
例えば、f(x)=x^2 ならば f'(x)=2x です。
積分法の最初のアプローチは、この矢印を完全に逆向きにすることから始まります。「ある関数 f(x) が与えられたとき、それを導関数とするような、元の関数 F(x) は何か?」すなわち、
F(x) \xleftarrow{\text{積分}} f(x)
を満たす F(x) を探す問題です。例えば、f(x)=2x が与えられたとき、微分して 2x になる元の関数 F(x) は何でしょうか。F(x)=x^2 は明らかに一つの答えです。なぜなら (x^2)’=2x だからです。
この「微分の逆演算」という考え方が、不定積分 (indefinite integral) の基本的なアイデアです。
1.1. 原始関数と積分定数
原始関数の定義
関数 f(x) に対して、
F'(x) = f(x)
を満たす関数 F(x) を、f(x) の原始関数 (primitive function / antiderivative) の一つという。
先ほどの例で言えば、F(x)=x^2 は f(x)=2x の原始関数の一つです。
しかし、答えは x^2 だけでしょうか。F(x)=x^2+1 を微分しても (x^2+1)’ = 2x+0 = 2x となります。F(x)=x^2-100 を微分しても (x^2-100)’=2x です。
一般に、C を任意の定数とすると、
(x^2+C)’ = 2x
となり、x^2+C という形の関数はすべて f(x)=2x の原始関数になります。
逆に、f(x) の原始関数は、F(x)+C の形のもの以外には存在しないことが、以下の定理によって保証されます。
定理: F(x) と G(x) がともに f(x) の原始関数ならば、G(x) = F(x)+C(Cは定数)と書ける。
(証明の概略) F'(x)=f(x), G'(x)=f(x) なので、{G(x)-F(x)}’ = G'(x)-F'(x) = f(x)-f(x)=0。導関数が常に0である関数は、定数関数しかないので、G(x)-F(x)=C となる。
この、微分すると消えてしまう定数 C
の任意性を、積分定数 (constant of integration) と呼びます。
1.2. 不定積分の定義と記法
f(x)
の原始関数は無数に存在しますが、それらはすべて定数の違いしかありません。この**f(x)
の原始関数の全体の集合を、f(x)
の不定積分**と呼びます。
不定積分の定義
関数 f(x) の不定積分を、記号 \int (インテグラル)を用いて
\[ \int f(x) dx \]
と表す。F'(x)=f(x) であるとき、
\[ \int f(x) dx = F(x) + C \quad (\text{Cは積分定数}) \]
である。
\int
: インテグラル(積分記号)f(x)
: 被積分関数 (integrand)dx
: 積分変数がx
であることを示す記号。x
で積分するという意味。
\int f(x) dx
を求めることを、f(x)
を積分するといいます。
【記法の読み方】
\int 2x dx = x^2+C は、「2x を x で積分すると、x^2+C という関数の集合が得られる」と読みます。
積分定数 C を書き忘れるのは、不定積分の計算における最も典型的なミスの一つです。必ず書く習慣をつけましょう。
1.3. 微分と積分の関係
定義から明らかなように、微分と(不)積分は互いに逆の操作です。
- ある関数を積分してから微分すると、元に戻る:\frac{d}{dx} \left( \int f(x) dx \right) = \frac{d}{dx} (F(x)+C) = F'(x)+0 = f(x)
- ある関数を微分してから積分すると、積分定数の分だけずれる可能性がある:\int f'(x) dx = f(x)+C
1.4. まとめ:微分の逆の旅
不定積分は、微分のプロセスを逆向きにたどる、という純粋に代数的な操作として定義されます。
- 原始関数: 求めたいのは「微分すると
f(x)
になる関数」。 - 積分定数: 微分すると消えてしまう定数項の任意性を
+C
で表現する。 - 記法:
\int \dots dx
という記法に慣れ、積分とは原始関数の集合全体を求めることであると理解する。
この「微分の逆」という視点だけで積分を捉えるのが不定積分です。次節以降では、これとは全く異なる「面積」という概念から定積分が生まれ、最終的に両者が微分積分学の基本定理によって結びつく、という壮大な物語が展開されます。
2. 不定積分の基本公式
不定積分が微分の逆演算である以上、不定積分の公式は、微分の公式を逆から読むことで、すべて導き出すことができます。例えば、(x^3)'=3x^2
であったことを思い出せば、\int 3x^2 dx = x^3+C
であることがわかります。
このセクションでは、この原理に基づき、x^n
のような基本的な関数の不定積分の公式と、和・差・実数倍に関する線形の性質を確立します。これらは、多項式関数を積分するための基本的な計算ツールとなり、積分計算の大部分は、これらの公式の組み合わせによって実行されます。
2.1. x^n
の不定積分
x^n の積分公式
n を0または正の整数とするとき、
\[ \int x^n dx = \frac{1}{n+1}x^{n+1} + C \]
(C は積分定数)
【公式の導出】
この公式が正しいことを確かめるには、右辺を微分して、被積分関数 x^n に戻ることを確認すればよい。
\left( \frac{1}{n+1}x^{n+1} + C \right)’ = \frac{1}{n+1} (x^{n+1})’ + (C)’
x^n の微分公式 (x^k)’=kx^{k-1} を k=n+1 として用いると、
= \frac{1}{n+1} \cdot (n+1)x^{(n+1)-1} + 0
= x^n
となり、確かに元の被積分関数に戻る。
【公式の覚え方】
微分の操作が「指数を前に出し、指数を1減らす」であったのに対し、積分の操作はその逆で、「指数を1増やし、その新しい指数で割る」と覚えます。
例:
\int x^2 dx = \frac{1}{2+1}x^{2+1} + C = \frac{1}{3}x^3+C
\int x dx = \int x^1 dx = \frac{1}{1+1}x^{1+1}+C = \frac{1}{2}x^2+C
\int 1 dx = \int x^0 dx = \frac{1}{0+1}x^{0+1}+C = x+C
【公式の拡張】
この公式は、n が整数だけでなく、n \neq -1 である任意の実数に対しても成り立ちます。
例: \int \sqrt{x} dx = \int x^{1/2} dx = \frac{1}{1/2+1}x^{1/2+1} + C = \frac{1}{3/2}x^{3/2}+C = \frac{2}{3}x\sqrt{x}+C
(n=-1 の場合、すなわち \int x^{-1} dx = \int \frac{1}{x} dx は、数学IIIで \ln|x|+C となることを学びます)
2.2. 不定積分の線形性
微分が持っていた線形性(和・差・実数倍の法則)は、その逆演算である積分にもそのまま受け継がれます。
不定積分の性質
k を定数、f(x), g(x) を積分可能な関数とするとき、
- 実数倍: \int k f(x) dx = k \int f(x) dx(定数倍は、積分の外に出せる)
- 和: \int \{ f(x)+g(x) \} dx = \int f(x) dx + \int g(x) dx(和の積分は、積分の和)
- 差: \int \{ f(x)-g(x) \} dx = \int f(x) dx – \int g(x) dx(差の積分は、積分の差)
これらの性質の証明も、両辺を微分して結果が等しくなることを確認すればよい。例えば、性質2の証明は以下のようになります。
(右辺)’ = (\int f(x)dx + \int g(x)dx)’ = (\int f(x)dx)’ + (\int g(x)dx)’ = f(x)+g(x)
(左辺)’ = (\int \{f(x)+g(x)\}dx)’ = f(x)+g(x)
両辺の導関数が等しいので、元の関数は定数の差しかなく、その差は積分定数の中に含めることができる。
2.3. 多項式の積分
これらの公式と性質を組み合わせることで、すべての多項式関数を積分することが可能になります。
例題1:不定積分 \int (3x^2 – 4x + 2) dx を求めよ。
解法:
積分の線形性により、項ごとに積分できる。
= \int 3x^2 dx – \int 4x dx + \int 2 dx
係数を積分の外に出す。
= 3\int x^2 dx – 4\int x dx + 2\int 1 dx
x^n の積分公式を適用する。
= 3 \left(\frac{1}{3}x^3\right) – 4 \left(\frac{1}{2}x^2\right) + 2(x) + C
【注意】 各項の積分から積分定数が出てきますが、それらをすべてまとめた一つの積分定数 C を最後に書けば十分です。
= x^3 – 2x^2 + 2x + C
【検算】
得られた結果を微分して、元の被積分関数に戻るかを確認する習慣をつけると、計算ミスが大幅に減ります。
(x^3-2x^2+2x+C)’ = 3x^2-4x+2+0 = 3x^2-4x+2 (OK)
例題2:F'(x) = (x-1)(x-2) で、F(0)=1 を満たす関数 F(x) を求めよ。
思考プロセス:
F(x)
はF'(x)
の原始関数であるから、F'(x)
を不定積分することでF(x)
の一般形が(\dots)+C
として求まる。F(0)=1
という条件(初期条件と呼ばれる)を用いて、積分定数C
の値を具体的に決定する。
解法:
F(x) = \int F'(x) dx = \int (x-1)(x-2) dx
まず、被積分関数を展開する。
= \int (x^2-3x+2) dx
項ごとに積分する。
= \frac{1}{3}x^3 – 3\cdot\frac{1}{2}x^2 + 2x + C
= \frac{1}{3}x^3 – \frac{3}{2}x^2 + 2x + C
これが F(x) の一般形である。
次に、条件 F(0)=1 を用いて C を求める。x=0 を代入すると、
F(0) = 0 – 0 + 0 + C = C
よって、C=1。
したがって、求める関数 F(x) は、
F(x) = \frac{1}{3}x^3 – \frac{3}{2}x^2 + 2x + 1
2.4. まとめ:微分公式の逆引き
不定積分の計算は、その定義に忠実に、「微分の逆操作」として実行されます。
- 基本は
x^n
: 多項式の積分は、\int x^n dx = \frac{1}{n+1}x^{n+1}+C
という単一の公式と、 - 線形性: 和・差・実数倍の性質、の組み合わせに尽きます。
- 積分定数
C
: 不定積分においては、積分定数C
を忘れないことが絶対のルールです。C
の値は、F(a)=b
のような、関数が通る一点の条件が与えられることで、一意に定まります。
この機械的な計算に習熟することは、積分法を学ぶ上での基礎体力をつけることに他なりません。
3. 定積分の定義(区分求積法)
不定積分が「微分の逆」という純粋に代数的な操作であったのに対し、定積分 (definite integral) は、全く異なる歴史と問題意識、すなわち「曲線で囲まれた図形の面積を求める」という、幾何学的な求積問題から生まれました。
その面積を求めるための根源的なアイデアが、古代ギリシャのアルキメデスにまで遡る区分求積法 (method of exhaustion / quadrature) です。これは、曲線で囲まれた捉えどころのない図形を、面積が簡単に計算できる無数の細長い長方形に分割し、それらの面積の和を考える、というアプローチです。そして、その長方形の幅を限りなくゼロに近づける(=長方形の個数を無限にする)という極限操作によって、真の面積を確定させます。
この、**「分割(divide)・近似(approximate)・総和(sum)・極限(limit)」**というプロセスこそが、定積分の本質的な定義です。このセクションでは、この定義を丁寧に追い、定積分が「無限和の極限」であることを深く理解します。
3.1. 面積を求めるという問題
関数 f(x)
が区間 [a, b]
で常に f(x) \ge 0
であるとき、曲線 y=f(x)
とx軸、および2直線 x=a, x=b
で囲まれた部分の面積 S
を求めることを考えます。
3.2. 区分求積法のプロセス
ステップ1:区間の分割
区間 [a, b] を、n 個の等しい幅を持つ小区間に分割します。
各小区間の幅 \Delta x は、
\Delta x = \frac{b-a}{n}
となります。
分割点を x_0, x_1, x_2, \dots, x_n とすると、
x_0=a, x_1=a+\Delta x, x_2=a+2\Delta x, …, x_k = a+k\Delta x, …, x_n=b
となります。
ステップ2:長方形による近似と、その面積の和
各小区間 [x_{k-1}, x_k] の上に、長方形を作ります。高さの決め方にはいくつか流儀がありますが、ここでは小区間の右端の x の値 x_k における関数の値 f(x_k) を、その長方形の高さとします。
k
番目の長方形の面積= (\text{高さ}) \times (\text{幅}) = f(x_k) \cdot \Delta x
これらの n 個の長方形の面積の和を S_n とすると、
S_n = f(x_1)\Delta x + f(x_2)\Delta x + \dots + f(x_n)\Delta x
総和記号 \Sigma(シグマ)を用いると、
\[ S_n = \sum_{k=1}^{n} f(x_k) \Delta x \]
と書けます。
x_k = a+k\Delta x = a+k \frac{b-a}{n} を代入すると、
\[ S_n = \sum_{k=1}^{n} f\left(a+k\frac{b-a}{n}\right) \frac{b-a}{n} \]
この S_n は、真の面積 S の近似値を与えます。
ステップ3:極限をとる
分割数 n を限りなく大きくしていくと (n \to \infty)、長方形の幅 \Delta x は限りなく小さくなり (\Delta x \to 0)、長方形の面積の和 S_n は、真の面積 S に限りなく近づいていきます。
この極限値をもって、面積 S の定義とします。
\[ S = \lim_{n \to \infty} S_n = \lim_{n \to \infty} \sum_{k=1}^{n} f\left(a+k\frac{b-a}{n}\right) \frac{b-a}{n} \]
3.3. 定積分の定義
この「無限和の極限」という、区分求積法の考え方によって定義される量が、定積分です。
定積分の定義
関数 f(x) の区間 [a,b] における定積分を、記号 \int_a^b を用いて
\[ \int_a^b f(x) dx \]
と表し、その値を区分求積法による極限値として定義する。
\[ \int_a^b f(x) dx = \lim_{n \to \infty} \sum_{k=1}^{n} f(x_k) \Delta x \]
(ただし \Delta x = \frac{b-a}{n}, x_k = a+k\Delta x)
a
: 積分区間の下端 (lower limit)b
: 積分区間の上端 (upper limit)
【不定積分と定積分の違い】
この時点では、不定積分と定積分は、全く異なる概念であることに注意してください。
- 不定積分
\int f(x)dx
: 微分の逆演算。結果は関数 (F(x)+C
)。 - 定積分 \int_a^b f(x)dx: 無限和の極限(面積)。結果は定数(具体的な数値)。両者が同じ \int の記号を使っているのは、偶然ではありません。次節で学ぶ基本定理によって、両者が奇跡的に結びつくからです。
3.4. 区分求積法による計算例
この定義に従った計算が、いかに大変であるかを体験してみましょう。
例題:区分求積法を用いて、\int_0^1 x^2 dx の値を求めよ。
(これは y=x^2 のグラフとx軸、直線 x=1 で囲まれた部分の面積を求めることに相当する)
解法:
- 区間と \Delta x, x_k を設定:区間 [0,1], a=0, b=1。\Delta x = \frac{1-0}{n} = \frac{1}{n}x_k = 0+k\Delta x = \frac{k}{n}
- S_n を立式:f(x)=x^2 なので f(x_k) = (\frac{k}{n})^2 = \frac{k^2}{n^2}。S_n = \sum_{k=1}^{n} f(x_k)\Delta x = \sum_{k=1}^{n} \left(\frac{k^2}{n^2}\right) \frac{1}{n}
- S_n を計算:\Sigma の中では k が変数であり、n は定数と見なせるので、1/n^3 を \Sigma の外に出す。S_n = \frac{1}{n^3} \sum_{k=1}^{n} k^2ここで、自然数の2乗の和の公式 \sum_{k=1}^{n}k^2 = \frac{1}{6}n(n+1)(2n+1) を用いる。S_n = \frac{1}{n^3} \cdot \frac{1}{6}n(n+1)(2n+1)n で約分し、n の多項式として整理する。= \frac{1}{6} \frac{(n+1)(2n+1)}{n^2} = \frac{1}{6} \frac{2n^2+3n+1}{n^2}= \frac{1}{6} \left(2 + \frac{3}{n} + \frac{1}{n^2}\right)
- 極限をとる:n \to \infty の極限をとる。\lim_{n \to \infty} S_n = \lim_{n \to \infty} \frac{1}{6} \left(2 + \frac{3}{n} + \frac{1}{n^2}\right)n \to \infty のとき、3/n \to 0, 1/n^2 \to 0 となるので、= \frac{1}{6}(2+0+0) = \frac{2}{6} = \frac{1}{3}
結論: \int_0^1 x^2 dx = \frac{1}{3}。
この面倒な計算が、次節の基本定理を使えば [\frac{1}{3}x^3]_0^1 = \frac{1}{3}-0=\frac{1}{3} と、わずか数秒で終わるようになります。
3.5. まとめ:無限和の極限としての積分
定積分の定義である区分求積法は、積分の本質を理解する上で極めて重要です。
- 分割・近似・総和・極限: この4ステップのプロセスが、定積分の根源的な意味です。
- 面積との関係:
f(x) \ge 0
のとき、定積分は曲線下の面積を厳密に定義します。f(x)
が負の値もとる場合は、x軸より下側の部分の面積が負の値として計算され、符号付き面積の和となります。 - 基本定理への動機付け: 区分求積法による計算は、和の公式を知っている単純な多項式でさえ、非常に煩雑です。この計算の困難さが、より効率的な計算方法、すなわち微分積分学の基本定理の発見への、強力な動機付けとなったのです。
4. 微分積分学の基本定理
不定積分(微分の逆演算)と定積分(無限和の極限、面積)。これら二つは、その起源も、定義も、そして計算方法も、全く異なる、独立した概念に見えます。片や代数的な逆操作、片や幾何学的な極限計算。しかし、数学の歴史において最も輝かしい発見の一つは、この二つの全く異なる概念が、実は深く、そして美しく結びついているという事実の発見でした。
この奇跡的な橋渡しをするのが、微分積分学の基本定理 (The Fundamental Theorem of Calculus) です。この定理は、定積分(面積)の値を、不定積分(原始関数)を用いて驚くほど簡単に計算する方法を与えてくれます。区分求積法の、あの絶望的に長かった \lim \Sigma
計算は、この定理の前に、もはや不要となります。この定理の登場によって、微分と積分は一つの壮大な理論体系「微分積分学」として統合され、その応用範囲は爆発的に広がりました。
4.1. 微分積分学の基本定理
微分積分学の基本定理
関数 f(x) が区間 [a,b] で連続で、F(x) を f(x) の原始関数の一つ(すなわち F'(x)=f(x))とするとき、
\[ \int_a^b f(x) dx = F(b) – F(a) \]
が成り立つ。
【記法】
F(b)-F(a) は、しばしば [F(x)]_a^b と略記される。
\[ \int_a^b f(x) dx = [F(x)]_a^b = F(b)-F(a) \]
【定理が語ること】
この定理が語っているのは、信じられないほど強力な事実です。
区間 [a,b] での f(x) の定積分(曲線下の面積)の値は、
f(x)
の原始関数F(x)
を一つ見つけ(不定積分を計算し)、- その原始関数に、積分区間の上端
b
と下端a
を代入し、 - その差をとるだけで、完全に計算できる、ということです。あの無限和の極限計算 \lim \Sigma は、原始関数 F(x) の中に、いわば「圧縮」されてしまっているのです。
4.2. 基本定理の心(直感的証明)
この定理はなぜ成り立つのでしょうか。その核心に迫るための、直感的な証明を紹介します。
証明の戦略
区間 [a,x] までの面積を表す、新しい関数 S(x) を定義します。
S(x) = \int_a^x f(t) dt (積分変数が x と被らないように t を使う)
この面積関数 S(x) を x で微分したらどうなるか、すなわち S'(x) を考えます。
- 面積の変化を考える:x が x から x+h まで微小に変化したときの、面積の変化量 S(x+h)-S(x) を考えます。これは、グラフ上で、底辺が x から x+h までの、幅 h の非常に細い帯状の領域の面積に対応します。
- 長方形で近似する:h が非常に小さいとき、この細い帯の形は、幅が h、高さがほぼ f(x) の長方形で近似できます。S(x+h)-S(x) \approx f(x) \cdot h
- 平均変化率から微分係数へ:両辺を h で割ると、\frac{S(x+h)-S(x)}{h} \approx f(x)これは、面積関数 S(x) の平均変化率が、元の関数の値 f(x) にほぼ等しいことを意味します。ここで、h \to 0 の極限をとると、近似は厳密な等号になります。左辺は、S(x) の導関数 S'(x) の定義そのものです。\[ S'(x) = \lim_{h \to 0} \frac{S(x+h)-S(x)}{h} = f(x) \]
- 結論を導く:S'(x)=f(x) という結果は、「面積関数 S(x) は、元の関数 f(x) の原始関数の一つである」ということを示しています。さて、F(x) も f(x) の原始関数でした。原始関数どうしは、定数の差しかないので、S(x) = F(x) + Cと書けます。この式に x=a を代入すると、S(a) = \int_a^a f(t)dt = 0 (幅のない領域の面積は0)F(a)+Cよって、0 = F(a)+C なので、積分定数は C=-F(a) と決まります。したがって、面積関数は S(x) = F(x)-F(a) となります。最後に、我々が求めたかった面積 S=\int_a^b f(x)dx は、S(b) に他ならないので、この式に x=b を代入すると、S(b) = F(b)-F(a)すなわち、\int_a^b f(x) dx = F(b)-F(a)となり、基本定理が証明されました。 [証明終]
この証明は、「面積の変化率が、元の関数の高さになる」という、微分と積分の間の根源的な関係を明らかにしています。
4.3. 基本定理を用いた計算
例題:定積分 \int_1^2 (3x^2+2) dx
を計算せよ。
解法:
- 不定積分を求める:被積分関数 f(x)=3x^2+2 の原始関数 F(x) を求める。F(x) = \int (3x^2+2)dx = 3(\frac{1}{3}x^3) + 2x = x^3+2x(定積分の計算では、積分定数 C は F(b)-F(a) の計算で相殺されるので、書く必要はない)
- 基本定理を適用する:\int_1^2 (3x^2+2) dx = [x^3+2x]_1^2= F(2) – F(1)= (2^3+2 \cdot 2) – (1^3+2 \cdot 1)= (8+4) – (1+2) = 12 – 3 = 9
区分求積法による計算の労苦と比べると、その効率性は圧倒的です。
4.4. まとめ:二つの世界の統一
微分積分学の基本定理は、数学の歴史における最も重要な成果の一つです。
- 二つの積分の統一: 「微分の逆」としての不定積分と、「面積」としての定積分という、全く異なる起源を持つ二つの概念を、
\int_a^b f(x)dx = [F(x)]_a^b
という一つの式で見事に結びつけました。 - 計算の革命: 面積や体積といった、無限和の極限としてしか定義できなかった量の計算を、原始関数を求めるという、有限回の代数的な操作へと変換し、積分の応用範囲を爆発的に広げました。
- 微分と積分の逆対応: この定理は、「面積の変化率が元の関数になる」(
(\int_a^x f(t)dt)' = f(x)
)という、微分と積分が互いに逆の操作であるという関係性を、最も明確な形で示しています。
この定理の発見なくして、近代科学技術の発展はあり得ませんでした。その意味と力を理解することは、微積分学を学ぶ上で最大の目標の一つです。
5. 定積分の基本公式と性質
微分積分学の基本定理 \int_a^b f(x)dx = F(b)-F(a)
は、定積分の計算を、対応する不定積分(原始関数)の計算に帰着させることを可能にしました。これにより、私たちが不定積分で学んだ基本公式や線形性は、ほぼそのままの形で定積分の計算にも適用することができます。
ただし、定積分は「区間 [a,b]
での積分」という概念であるため、不定積分にはなかった、積分区間に関するいくつかのユニークで重要な性質も持っています。このセクションでは、微分積分学の基本定理を基盤として、定積分の計算を正確かつ効率的に行うための、基本的な公式と性質を体系的に整理します。
5.1. 定積分の基本公式
不定積分の公式から、直ちに以下の定積分の公式が得られます。
x^n の定積分
n を0または正の整数とするとき、
\[ \int_a^b x^n dx = \left[ \frac{1}{n+1}x^{n+1} \right]_a^b = \frac{1}{n+1}b^{n+1} – \frac{1}{n+1}a^{n+1} \]
定数の定積分
\[ \int_a^b k dx = [kx]_a^b = k(b) – k(a) = k(b-a) \]
(これは、高さ k、幅 b-a の長方形の面積と一致する)
5.2. 定積分の性質(線形性)
不定積分と同様に、定積分も線形性を持ちます。これは、微分積分学の基本定理と、不定積分の線形性から明らかです。
定積分の線形性
k, l を定数とするとき、
\[ \int_a^b {k f(x) \pm l g(x)} dx = k \int_a^b f(x) dx \pm l \int_a^b g(x) dx \]
この性質により、多項式関数の定積分は、項ごとに積分し、その結果を足し引きすることで計算できます。
例題1:\int_{-1}^2 (x^2-2x+3)dx を計算せよ。
解法:
= \left[ \frac{1}{3}x^3 – 2\cdot\frac{1}{2}x^2 + 3x \right]_{-1}^2
= \left[ \frac{1}{3}x^3 – x^2 + 3x \right]_{-1}^2
= \left(\frac{1}{3}(2)^3 – (2)^2 + 3(2)\right) – \left(\frac{1}{3}(-1)^3 – (-1)^2 + 3(-1)\right)
= \left(\frac{8}{3}-4+6\right) – \left(-\frac{1}{3}-1-3\right)
= \left(\frac{8}{3}+2\right) – \left(-\frac{1}{3}-4\right) = \frac{14}{3} – (-\frac{13}{3}) = \frac{14+13}{3} = \frac{27}{3} = 9
5.3. 積分区間に関する性質
定積分に特有の、積分区間 [a,b]
に関する性質を整理します。これらは、計算を簡略化したり、式を変形したりする上で非常に重要です。
1. 上端と下端が同じ場合
\[ \int_a^a f(x) dx = 0 \]
(証明) [F(x)]_a^a = F(a)-F(a)=0。
幾何学的には、幅が0の領域の面積は0であることに対応します。
2. 上端と下端を入れ替える場合
\[ \int_b^a f(x) dx = – \int_a^b f(x) dx \]
(証明) [F(x)]_b^a = F(a)-F(b) = -(F(b)-F(a)) = -[F(x)]_a^b。
積分区間を逆にすると、値の符号が反転します。
3. 積分区間の加法性
\[ \int_a^c f(x) dx + \int_c^b f(x) dx = \int_a^b f(x) dx \]
(証明)
(左辺) = \{F(c)-F(a)\} + \{F(b)-F(c)\} = F(b)-F(a) = [F(x)]_a^b = (右辺)。
幾何学的には、a から c までの面積と c から b までの面積を足せば、a から b までの面積になるという、直感的に明らかな事実に対応します。この性質は、a, b, c の大小関係によらず、常に成り立ちます。
例題2:\int_1^3 (x^2-1)dx + \int_3^1 (x^2-1)dx を計算せよ。
解法:
被積分関数が同じであることに注目する。
性質2を用いて、第2項の積分区間を入れ替える。
\int_3^1 (x^2-1)dx = – \int_1^3 (x^2-1)dx
よって、
(与式) = \int_1^3 (x^2-1)dx – \int_1^3 (x^2-1)dx = 0
例題3:\int_{-1}^1 x^2 dx + \int_1^2 x^2 dx を計算せよ。
解法:
被積分関数が同じで、積分区間が [-1, 1] と [1, 2] でつながっている。
性質3を用いて、積分区間を合体させる。
= \int_{-1}^2 x^2 dx
= \left[\frac{1}{3}x^3\right]_{-1}^2 = \frac{1}{3}(2)^3 – \frac{1}{3}(-1)^3 = \frac{8}{3} – (-\frac{1}{3}) = \frac{9}{3} = 3
5.4. まとめ:定積分計算の道具箱
微分積分学の基本定理によって、定積分の計算は、不定積分を求めて値を代入する、という機械的な作業へと変換されました。
- 基本公式は不定積分と同じ:
x^n
の積分や線形性といった基本ルールは、不定積分と全く同じです。 - 積分区間の性質: 定積分に特有の性質(区間の反転、加法性など)は、計算を工夫し、簡略化するための重要な武器となります。
- 定積分は「数値」: 不定積分の結果が「関数」であったのに対し、定積分の結果は、常に具体的な「数値」となることを忘れないでください。
これらの基本的な公式と性質を自在に使いこなすことが、次節以降で学ぶ、より高度な定積分の計算や、面積・体積を求める問題への応用への第一歩となります。
6. 偶関数・奇関数の定積分
定積分の計算、特に \int_{-a}^a f(x)dx
のように、積分区間が原点に関して対称 [-a, a]
である場合、被積分関数 f(x)
が持つ対称性を利用することで、計算を劇的に簡略化できることがあります。
ここでいう対称性とは、f(x)
が偶関数 (even function) または奇関数 (odd function) であるか、ということです。
- 偶関数:
f(-x)=f(x)
が成り立つ関数。グラフがy軸に関して対称。(例:x^2, x^4, \cos x
) - 奇関数:
f(-x)=-f(x)
が成り立つ関数。グラフが原点に関して対称。(例:x, x^3, \sin x, \tan x
)
この関数の対称性が、原点対称な区間での定積分(符号付き面積)に、どのような影響を与えるのかを探求します。
6.1. 奇関数の定積分
奇関数の性質
f(x) が奇関数(f(-x)=-f(x))のとき、
\[ \int_{-a}^a f(x) dx = 0 \]
【幾何学的な証明】
奇関数のグラフは原点に関して対称です。
したがって、積分区間 [-a, a] において、
[0, a]
の区間のグラフとx軸で囲まれた部分の面積S
- [-a, 0] の区間のグラフとx軸で囲まれた部分の面積は、合同な図形であり、面積の大きさは等しくなります。しかし、奇関数の性質から、x>0 で f(x)>0 ならば x<0 では f(x)<0 となり、符号が逆になります。定積分は符号付き面積なので、\int_0^a f(x)dx = S\int_{-a}^0 f(x)dx = -Sとなります。積分区間の加法性より、\int_{-a}^a f(x)dx = \int_{-a}^0 f(x)dx + \int_0^a f(x)dx = -S + S = 0となり、正の面積と負の面積が完全に打ち消し合って 0 になります。
6.2. 偶関数の定積分
偶関数の性質
f(x) が偶関数(f(-x)=f(x))のとき、
\[ \int_{-a}^a f(x) dx = 2 \int_0^a f(x) dx \]
【幾何学的な証明】
偶関数のグラフはy軸に関して対称です。
したがって、積分区間 [-a, a] において、
[0, a]
の区間のグラフとx軸で囲まれた部分の面積S
- [-a, 0] の区間のグラフとx軸で囲まれた部分の面積は、y軸を挟んで合同であり、面積の大きさも符号も等しくなります。\int_0^a f(x)dx = S\int_{-a}^0 f(x)dx = S積分区間の加法性より、\int_{-a}^a f(x)dx = \int_{-a}^0 f(x)dx + \int_0^a f(x)dx = S+S = 2S = 2\int_0^a f(x)dxとなり、全体の積分は、半分の区間 [0,a] での積分を計算して2倍すればよいことになります。
6.3. 計算への応用
この性質は、積分区間が [-a, a]
の形である場合に、計算量を減らすための強力なショートカットとなります。
応用手順
- 積分区間が
[-a, a]
の形であることを確認する。 - 被積分関数 f(x) を、奇関数の項と偶関数の項に分解する。f(x) = (\text{偶関数の項の和}) + (\text{奇関数の項の和})(多項式の場合、x の偶数乗の項が偶関数、奇数乗の項が奇関数)
- 積分の線形性を用いて、積分を分解する。\int_{-a}^a f(x)dx = \int_{-a}^a (\text{偶関数})dx + \int_{-a}^a (\text{奇関数})dx
- 奇関数の項の積分は
0
になるので消去する。 - 偶関数の項の積分は 2\int_0^a (\text{偶関数})dx として計算する。積分区間の下端が 0 になることで、代入計算が非常に楽になる。
例題:定積分 \int_{-1}^1 (x^3+3x^2-5x+2) dx
を計算せよ。
解法:
- 積分区間の確認:
[-1, 1]
なので、原点対称である。 - 関数の分解:被積分関数を、奇関数と偶関数の部分に分ける。
- 奇関数:
x^3, -5x
- 偶関数:
3x^2, 2
- 奇関数:
- 積分の分解と消去:(\text{与式}) = \int_{-1}^1 (3x^2+2)dx + \int_{-1}^1 (x^3-5x)dx第2項の被積分関数は奇関数なので、この積分の値は 0 である。= \int_{-1}^1 (3x^2+2)dx + 0
- 偶関数の積分計算:第1項の被積分関数は偶関数なので、= 2 \int_0^1 (3x^2+2)dx= 2 \left[ x^3+2x \right]_0^1= 2 \{(1^3+2\cdot 1) – (0^3+2\cdot 0)\}= 2(1+2-0) = 2 \times 3 = 6
【もし普通に計算すると】
\left[ \frac{1}{4}x^4+x^3-\frac{5}{2}x^2+2x \right]_{-1}^1
= (\frac{1}{4}+1-\frac{5}{2}+2) – (\frac{1}{4}-1-\frac{5}{2}-2)
= (\frac{1}{4}-\frac{5}{2}+3) – (\frac{1}{4}-\frac{5}{2}-3)
= 3 – (-3) = 6
となり結果は一致するが、計算が煩雑で、ミスをしやすくなる。
6.4. まとめ:対称性を利用した計算の効率化
偶関数・奇関数の定積分の性質は、対称性という幾何学的な洞察が、いかに代数的な計算を簡略化するかを示す好例です。
- 条件は「原点対称な区間」: このテクニックが使えるのは、積分区間が
[-a, a]
の形の場合に限定されます。 - 奇関数は消える: 奇関数(
x
の奇数乗など)の項は、この区間では積分すると0
になり、計算から完全に消去できます。 - 偶関数は半分で: 偶関数(
x
の偶数乗や定数項)の項は、[0, a]
の区間で積分して2倍すればよく、0
の代入計算は楽なので、計算量が大幅に削減されます。
複雑な定積分に出会ったときは、まず積分区間を確認し、もし原点対称であれば、この強力なショートカットが使えないかを常に検討する習慣をつけましょう。
7. 絶対値を含む関数の定積分
絶対値記号 |f(x)| は、f(x) の値が 0 以上か負かによって、その振る舞いを変える関数です。
|f(x)| = \begin{cases} f(x) & (f(x) \ge 0 \text{ のとき}) \\ -f(x) & (f(x) < 0 \text{ のとき}) \end{cases}
したがって、被積分関数に絶対値記号が含まれる場合、この場合分けの定義に従って、積分を適切に処理する必要があります。
そのための基本的な戦略は、f(x)
の符号が変化する点を境界として、積分区間を分割することです。分割された各区間内では、f(x)
の符号は一定なので、絶対値記号を安全に外すことができ、あとは通常の定積分計算に持ち込むことができます。
7.1. 絶対値を含む定積分の計算手順
計算手順
- 絶対値の中身 f(x) の符号を調べる:まず、方程式 f(x)=0 を解き、f(x) が x 軸と交わる点(符号が変わる点)を見つける。
- 積分区間を分割する:f(x)=0 となる点が、元の積分区間 [a, b] の内部にあれば、その点で積分区間を分割する。例:c が a<c<b なる交点なら、\int_a^b |f(x)|dx = \int_a^c |f(x)|dx + \int_c^b |f(x)|dx
- 絶対値記号を外す:分割された各区間について、f(x) の符号に応じて、|f(x)| を f(x) または -f(x) に置き換える。
- 各区間で定積分を計算し、その和をとる。
【幾何学的意味】
\int_a^b |f(x)|dx は、曲線 y=f(x) のグラフにおいて、x 軸より下側にある部分を、x 軸に関して上に折り返したグラフ y=|f(x)| と、x 軸、x=a, x=b で囲まれた部分の面積を計算することに相当します。定積分が符号付き面積であるのに対し、絶対値付きの定積分は、純粋な幾何学的面積を求める操作となります。
7.2. 具体例による計算
例題1:定積分 \int_0^3 |x-1| dx
を計算せよ。
解法:
- 符号を調べる:絶対値の中身は f(x)=x-1。x-1=0 となるのは x=1。
x \ge 1
のとき、x-1 \ge 0
なので|x-1|=x-1
x < 1
のとき、x-1 < 0
なので|x-1|=-(x-1) = -x+1
- 積分区間を分割する:符号が変わる点 x=1 は、積分区間 [0, 3] の内部にある。よって、積分を [0, 1] と [1, 3] の二つに分割する。\int_0^3 |x-1| dx = \int_0^1 |x-1| dx + \int_1^3 |x-1| dx
- 絶対値を外す:
0 \le x \le 1
の区間では|x-1| = -x+1
- 1 \le x \le 3 の区間では |x-1| = x-1= \int_0^1 (-x+1) dx + \int_1^3 (x-1) dx
- 計算する:= \left[ -\frac{1}{2}x^2+x \right]_0^1 + \left[ \frac{1}{2}x^2-x \right]_1^3= \{ (-\frac{1}{2}+1) – 0 \} + \{ (\frac{9}{2}-3) – (\frac{1}{2}-1) \}= \frac{1}{2} + \{ \frac{3}{2} – (-\frac{1}{2}) \} = \frac{1}{2} + \frac{4}{2} = \frac{1}{2}+2 = \frac{5}{2}
例題2:定積分 \int_0^\pi |\cos x| dx
を計算せよ。
解法:
- 符号を調べる:絶対値の中身は f(x)=\cos x。積分区間 [0, \pi] で \cos x = 0 となるのは x=\pi/2。
0 \le x \le \pi/2
のとき、\cos x \ge 0
なので|\cos x|=\cos x
\pi/2 \le x \le \pi
のとき、\cos x \le 0
なので|\cos x|=-\cos x
- 積分区間を分割する:\int_0^\pi |\cos x|dx = \int_0^{\pi/2} |\cos x|dx + \int_{\pi/2}^\pi |\cos x|dx
- 絶対値を外す:= \int_0^{\pi/2} \cos x dx + \int_{\pi/2}^\pi (-\cos x) dx
- 計算する:= [\sin x]_0^{\pi/2} – [\sin x]_{\pi/2}^\pi= \{\sin(\pi/2)-\sin 0\} – \{\sin\pi – \sin(\pi/2)\}= (1-0) – (0-1) = 1 – (-1) = 2
7.3. まとめ:場合分けによる区間分割
絶対値を含む関数の定積分は、一見すると複雑ですが、その解法は「場合分けをして絶対値を外す」という、絶対値の定義に忠実な、極めてシンプルな原理に基づいています。
- 境界の特定: まず、絶対値の中身が
0
になる点を探し、積分区間を分割する境界を決定します。 - 区間ごとの処理: 分割された各区間では、被積分関数は絶対値を含まない単純な関数になるため、通常の定積分計算に帰着します。
- 面積との対応: この計算プロセスは、グラフのx軸より下の部分を折り返して、全体の幾何学的な面積を求めている操作と完全に一致します。
この区間分割の考え方は、次章で学ぶ面積計算の基本となるだけでなく、複数の関数で定義された区分的関数を扱う際にも応用できる、重要な思考法です。
8. 定積分で表された関数の微分
微分と積分が互いに逆の操作であるという、微分積分学の基本定理の最も根源的な思想は、
\frac{d}{dx} \int_a^x f(t)dt = f(x)
という、一見すると奇妙な形の等式に、その本質が凝縮されています。
この式が表しているのは、積分の上端に変数 x
を含む、新しいタイプの関数 g(x) = \int_a^x f(t)dt
です。この関数 g(x)
は、「a
から x
までの面積」を表す関数ですが、これを x
で微分すると、驚くべきことに、元の被積分関数 f(x)
そのものに戻る、というのです。このセクションでは、この重要な関係式の意味を解き明かし、これを利用して、定積分で定義された関数を含む方程式や、関数の極値を求める問題に応用します。
8.1. 定積分で表された関数
g(x) = \int_a^x f(t)dt
(a
は定数)という形の関数について考えます。
f(t)
は、積分される元の関数です。t
は、積分を実行するための変数(ダミー変数)です。x
は、積分区間の上端であり、この関数の独立変数です。x
の値が変わると、積分区間が変わり、面積の値(g(x)
の値)も変わります。
8.2. 定積分で表された関数の微分
定理:定積分で表された関数の微分
a を定数とするとき、x の関数 \int_a^x f(t)dt の導関数について、
\[ \frac{d}{dx} \int_a^x f(t)dt = f(x) \]
が成り立つ。
【証明】
f(t) の原始関数の一つを F(t) とする (F'(t)=f(t))。
微分積分学の基本定理より、
\int_a^x f(t)dt = [F(t)]_a^x = F(x)-F(a)
この式の両辺を x で微分すると、
\frac{d}{dx} \int_a^x f(t)dt = \frac{d}{dx} \{F(x)-F(a)\}
= F'(x) – (F(a))’
F'(x) = f(x) であり、F(a) は x にとっては定数なので、その導関数は 0 である。
= f(x) – 0 = f(x) [証明終]
【直感的な解釈】
この定理は、「面積 \int_a^x f(t)dt の x に関する瞬間的な増加率(変化率)は、その瞬間の曲線の高さ f(x) に等しい」と解釈できます。これは、基本定理の証明の核心部分で見たアイデアそのものです。
8.3. 公式の応用
この定理は、定積分を含む等式を、微分することで単純化する際に、絶大な威力を発揮します。
例題1:等式 \int_a^x f(t)dt = x^2 - 3x + 2
を満たす関数 f(x)
と定数 a
の値を求めよ。
解法:
- f(x) を求める:与えられた等式の両辺を x で微分する。左辺:\frac{d}{dx}\int_a^x f(t)dt = f(x)右辺:\frac{d}{dx}(x^2-3x+2) = 2x-3したがって、f(x) = 2x-3
- a の値を求める:与えられた元の等式は、x についての恒等式なので、どのような x の値を代入しても成り立つ。特に、積分区間の上端と下端がそろう x=a を代入するのが定石である。x=a を代入すると、左辺:\int_a^a f(t)dt = 0右辺:a^2 – 3a + 2よって、a^2 – 3a + 2 = 0(a-1)(a-2) = 0a=1, 2
結論: f(x)=2x-3
, a=1
または a=2
。
8.4. 積分区間に複雑な式を含む場合(発展)
積分区間の上端や下端が、x だけでなく 2x や x^2 のようになっている場合、合成関数の微分法(数学III)が必要となりますが、その考え方を紹介します。
g(x) = \int_a^{u(x)} f(t)dt を x で微分するには、
\frac{dg}{dx} = \frac{dg}{du} \cdot \frac{du}{dx} (連鎖律)
\frac{dg}{du} = f(u) なので、
g'(x) = f(u(x)) \cdot u'(x) となります。
例題2:関数 g(x) = \int_1^{x^2} (t+1) dt を x で微分せよ。
f(t)=t+1, u(x)=x^2 とすると u'(x)=2x。
g'(x) = f(u(x)) \cdot u'(x) = f(x^2) \cdot 2x = (x^2+1) \cdot 2x = 2x^3+2x
8.5. まとめ:微分と積分の逆対応の再確認
「定積分で表された関数の微分」は、微分と積分の間の、深く美しい逆対応関係を象徴しています。
- 積分して微分すれば元に戻る:
\frac{d}{dx}\int_a^x f(t)dt = f(x)
という関係は、この逆対応を最も直接的に表現した式です。 - 計算のテクニック: この関係は、単に理論的に美しいだけでなく、
- 両辺を微分する:
\int
を外すための強力な操作。 - 上端と下端をそろえる値を代入する: \int_a^a = 0 を利用して、未知の定数を決定する。という、次節で学ぶ積分方程式を解くための二大テクニックを提供します。
- 両辺を微分する:
この一見抽象的な関係式をマスターすることは、微分と積分の両方を、より高い視点から統一的に理解するために不可欠です。
9. 積分方程式
積分方程式 (integral equation) とは、その名の通り、未知の関数 f(x)
が、積分記号 \int
の中に含まれている方程式のことです。例えば、f(x) = 2x + \int_0^1 f(t)dt
のような形をしています。
一見すると、f(x)
自身が f(x)
の積分で定義されており、堂々巡りのように見えて解くのが困難に思えるかもしれません。しかし、定積分の性質と、前節で学んだ「定積分で表された関数の微分」というテクニックを組み合わせることで、これらの特殊な方程式を、体系的に解くことができます。積分方程式には、大きく分けて二つの典型的なパターンが存在します。
9.1. パターン1:積分区間が定数の場合
方程式の形:
f(x) = g(x) + \int_a^b f(t)dt
(g(x) は既知の関数、a, b は定数)
解法の鍵:定積分は「定数」である
この方程式の核心は、積分 \int_a^b f(t)dt の部分にあります。
積分区間の上端 b も下端 a も定数なので、この定積分の計算結果は、x には依存しない、ある定数になります。
この事実に着目し、この定数部分を文字で置き換えるのが、解法の第一歩です。
解法手順
- 定積分部分を定数 C とおく:C = \int_a^b f(t)dt とおく。
- f(x) を C で表す:元の式に代入すると、f(x) = g(x) + C という、f(x) の具体的な形(ただし定数 C を含む)が得られる。
- C の方程式を立てる:ステップ1の C の定義式 C = \int_a^b f(t)dt に、ステップ2で得られた f(t) = g(t)+C を代入する。C = \int_a^b (g(t)+C) dtこの式は、未知数が C だけの方程式となる。
- C を求めて、f(x) を決定する:ステップ3の方程式を解いて定数 C の値を求め、それを f(x)=g(x)+C に代入して、最終的な f(x) を決定する。
例題1:等式 f(x) = 3x^2 + \int_0^2 f(t)dt
を満たす関数 f(x)
を求めよ。
解法:
- 定数とおく:\int_0^2 f(t)dt は定数なので、C = \int_0^2 f(t)dt とおく。
- f(x) を表現:f(x) = 3x^2 + C
- C の方程式:C の定義式に、f(t) = 3t^2+C を代入する。C = \int_0^2 (3t^2+C) dt右辺の定積分を計算する。= \left[ t^3+Ct \right]_0^2= (2^3+C \cdot 2) – (0^3+C \cdot 0)= 8+2Cよって、C = 8+2C という C の方程式が得られた。
- C と f(x) を決定:C = 8+2C \Rightarrow -C=8 \Rightarrow C=-8。C の値がわかったので、f(x) の式に代入する。f(x) = 3x^2-8
9.2. パターン2:積分区間に変数が含まれる場合
方程式の形:
\int_a^x f(t)dt = g(x)
(g(x) は既知の関数、a は定数、上端が変数 x)
解法の鍵:両辺を微分する
このタイプの方程式を解くための二大テクニックは、前節で学んだ通りです。
- 両辺を
x
で微分することで、積分記号\int
を外す。 - 元の式で上端と下端がそろう値
x=a
を代入することで、未知の定数に関する情報を得る。
解法手順
- 両辺を x で微分する:\frac{d}{dx} \int_a^x f(t)dt = \frac{d}{dx} g(x)左辺は f(x) となるので、f(x)=g'(x) が得られる。
- (必要なら)定数を決定する:もし g(x) に未知の定数が含まれている場合、元の式に x=a を代入する。\int_a^a f(t)dt = g(a)0 = g(a)この条件式を用いて、未知の定数を決定する。
例題2:等式 \int_1^x f(t)dt = x^2+ax-3
を満たす関数 f(x)
と定数 a
の値を求めよ。
解法:
- 両辺を x で微分する:\frac{d}{dx}\int_1^x f(t)dt = \frac{d}{dx}(x^2+ax-3)f(x) = 2x+a
- a の値を求める:元の等式の両辺に x=1 を代入する。左辺:\int_1^1 f(t)dt = 0右辺:1^2+a(1)-3 = a-2よって、0 = a-2 \Rightarrow a=2。
- f(x) を決定:a=2 を f(x)=2x+a に代入する。f(x)=2x+2
結論: f(x)=2x+2
, a=2
。
9.3. まとめ:定積分を処理する二つの戦略
積分方程式は、その形に応じて、明確な解法パターンを持っています。
- 積分区間が定数なら → 「定数とおいて」代入:定積分部分はただの数字 C であると見抜き、f(x) を C で表してから、C 自身の方程式を立てて解く。
- 積分区間に変数 x があれば → 「微分して」「x=a を代入」:両辺を x で微分することで \int を外し、f(x) を直接求める。さらに、x に下端の値を代入することで、\int_a^a=0 を利用して付随する情報を引き出す。
これらの定石的なアプローチを身につけることで、一見複雑な積分方程式も、体系的に解きほぐすことが可能になります。
10. 置換・部分積分法(初歩)
これまで私たちが積分できるようになったのは、x^n
の形の関数と、それらの和・差で表される多項式関数だけでした。しかし、実際の科学技術で現れる関数は、y=\sqrt{2x+1}
や y=(x+1)^5
のように、より複雑な形をしています。これらの関数を積分するためには、より高度なテクニックが必要となります。
数学IIIで本格的に学ぶ積分法の中から、その最も基本的で強力な二つのテクニック、置換積分法 (integration by substitution) と部分積分法 (integration by parts) の、初歩的な考え方を紹介します。これらは、微分の連鎖律(合成関数の微分)と積の微分法に、それぞれ対応する積分のテクニックであり、積分計算の世界を飛躍的に広げるものです。
10.1. 置換積分法:中身を置き換えて簡単にする
置換積分の心:複雑な塊を、一つの文字で置き換える
置換積分は、微分の連鎖律 \{f(g(x))\}’ = f'(g(x))g'(x) の逆の操作に対応します。
被積分関数の中に、ax+b や g(x) のように、ある「塊」が見えるとき、その塊を新しい変数 t で置き換える(置換する)ことで、積分がより簡単な形になる場合があります。
10.1.1. 線形置換 ax+b
の場合
数学IIの範囲では、主に (ax+b)^n
の形の積分を扱います。
公式
\[ \int (ax+b)^n dx = \frac{1}{a} \cdot \frac{1}{n+1}(ax+b)^{n+1} + C \]
【公式の導出(置換積分による)】
\int (ax+b)^n dx を計算する。
- 置き換え:
t=ax+b
とおく。 - dx と dt の関係: 両辺を x で微分すると、\frac{dt}{dx} = a。これを形式的に分数のように扱うと dt=a dx、よって dx = \frac{1}{a}dt。
- 式を t で書き換える:\int t^n \cdot \frac{1}{a}dt = \frac{1}{a} \int t^n dt
- t で積分する:= \frac{1}{a} \cdot \frac{1}{n+1}t^{n+1}+C
- t を x に戻す:= \frac{1}{a(n+1)}(ax+b)^{n+1}+C
【覚え方】
x の場合と同じように積分(指数を1増やして、新しい指数で割る)し、最後に x の係数 a の逆数 1/a を掛ける、と覚えます。
例題:\int (2x-3)^4 dx を計算せよ。
解法:
a=2, b=-3, n=4。
= \frac{1}{2} \cdot \frac{1}{4+1}(2x-3)^{4+1} + C
= \frac{1}{2} \cdot \frac{1}{5}(2x-3)^5 + C = \frac{1}{10}(2x-3)^5 + C
10.2. 部分積分法:積の形を別の積の形へ
部分積分の心:微分しやすい方と、積分しやすい方に役割分担させる
部分積分は、微分の積の公式 (fg)’ = f’g+fg’ の逆の操作に対応します。
fg = \int (fg)’ dx = \int (f’g+fg’)dx = \int f’g dx + \int fg’ dx
この式を移項すると、
\int f’g dx = fg – \int fg’ dx
という、部分積分の公式が得られます。
この公式は、f'
(微分された形)と g
(そのままの形)の積の積分を、f
(積分された形)と g'
(微分された形)の積の積分へと、形を変換するものです。被積分関数が、微分すると簡単になる部分と、積分しやすい部分の積でできている場合に、特に有効です。
部分積分の公式
\[ \int f(x)g'(x)dx = f(x)g(x) – \int f'(x)g(x)dx \]
例題(数学IIIの内容を含む参考):\int x e^x dx を計算せよ。
思考プロセス:
被積分関数は x と e^x の積。
x
: 微分すると1
になり、簡単になる。- e^x: 積分しても e^x のままで、扱いやすい。そこで、f(x)=x(微分する側)、g'(x)=e^x(積分する側)と役割分担させる。
解法:
f(x)=x, g'(x)=e^x とおく。
f'(x)=1, g(x)=\int e^x dx = e^x
部分積分の公式に代入する。
\int x e^x dx = x \cdot e^x – \int 1 \cdot e^x dx
= xe^x – \int e^x dx
= xe^x – e^x + C
10.3. まとめ:積分計算の地平を広げる
置換積分と部分積分は、積分計算の可能性を大きく広げる、数学IIIにおける二大テクニックです。
- 置換積分: 「塊」を一つの文字に置き換えることで、複雑な関数の積分を、より単純な関数の積分に帰着させます。微分の連鎖律の逆の操作です。
- 部分積分: 積の形の関数の積分を、別の(より簡単な)積の形の積分へと変換するテクニックです。微分の積の公式の逆の操作です。
数学IIの段階では、これらの手法の本格的な学習は行いませんが、その基本的な考え方、すなわち「複雑な積分を、計算可能な単純な形へと、論理的に変形していく」という思想に触れておくことは、積分という操作の奥深さと、その体系的な構造を理解する上で、大きな意味を持つでしょう。
Module 11:積分法(1) 不定積分と定積分の総括:微分の逆旅、そして無限和の極致。二つの道は、基本定理のもとに一つとなる
本モジュールは、微分法と対をなす、もう一つの雄大な山、積分法の登頂への第一歩でした。私たちは、二つの全く異なる登山ルートから、この山にアプローチしました。
一つは、「微分の逆」という、純粋に代数的な論理の道をたどるルートです。導関数という結果から、元の関数(原始関数)を探し出すこの旅は、私たちを不定積分の概念へと導きました。そこでは、微分によって失われる定数の情報を +C
という形で留保する、数学的な誠実さが求められました。
もう一つのルートは、「面積の追求」という、古代ギリシャから続く幾何学的な挑戦の道です。曲線下の領域を、無限に細い長方形の和として捉え、その極限を考える区分求積法。この無限の足し算は、私たちを定積分という、巨大な概念の麓へと導きました。
これら二つの登山ルートは、別々の頂を目指しているかのように見えました。しかし、その中腹で、私たちは数学史における最も壮麗な光景、微分積分学の基本定理という名の橋に出会いました。この定理は、「面積の変化率が、元の関数の高さに等しい」という深遠な真実を明らかにし、不定積分(微分の逆)と定積分(面積)が、実は同じ山の異なる側面であり、互いに行き来可能であることを示しました。この橋の発見により、無限和の極限という困難な道のりは、原始関数を求めて値を代入するだけ、という高速道路へと姿を変えたのです。
この基本定理という強力な装備を手に、私たちは定積分の計算を自動化し、対称性や絶対値といった、より複雑な地形にも対応する技術を磨きました。そして、積分方程式や、より高度な積分法の初歩に触れることで、この山の向こうに、さらに広大な数学の世界が広がっていることを予感しました。
微分の逆旅と、無限和の極致。二つの異なる道は、基本定理のもとに一つとなり、私たちに、変化を積み重ねて全体を捉えるという、新しい世界の見方を与えてくれました。次なるモジュールでは、この力を使い、具体的な面積を計算するという、積分法の最初の、そして最大の応用へと挑みます。