【基礎 数学(数学Ⅱ)】Module 12:積分法(2) 面積

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本モジュールの目的と構成

前モジュール「不定積分と定積分」で、私たちは積分の二つの顔—「微分の逆演算」としての不定積分と、「無限和の極限」としての定積分—に出会い、その二つが「微分積分学の基本定理」という奇跡の橋で結ばれていることを学びました。この定理は、∫f(x)dx という記号に、面積を計算するための絶大な実践力を与えてくれました。

本モジュール「面積」編は、その力を存分に解き放ち、具体的な図形の面積を計算するという、積分法の最も重要で直感的な応用を探求する場です。もはや、私たちが扱える図形は、三角形や四角形、円といった、古代ギリシャの幾何学が支配した直線と円弧の世界に留まりません。積分という万能の「ものさし」を手に、私たちは、y=x^3-x のような曲線や、二つの放物線が織りなすレンズ状の領域など、これまで面積を求める術のなかった、ありとあらゆる曲線図形の求積に挑みます。

そのための基本原理は、驚くほどシンプルです。それは、「面積とは、無限に細い長方形の高さの総和である」という、区分求積法の思想に他なりません。すなわち、求める面積は、区間 [a, b] における**「上の曲線の式 f(x)」と「下の曲線の式 g(x)」の差 f(x)-g(x) を、a から b まで定積分**することで得られます。S = \int_a^b \{f(x)-g(x)\}dx—この一本のマスターキーが、あらゆる面積問題の扉を開きます。

このモジュールを通じて、私たちはこの基本原理を様々な状況に応用していきます。面積を二等分する直線の問題を解き、接線が作る面積を計算し、さらには面積そのものを最大化・最小化する最適化問題にまで、その応用範囲を広げます。また、計算を劇的に高速化する「1/6公式」などの強力な武器も手に入れます。

最後には、この「スライスして足し合わせる」という積分の本質的な思考法が、二次元の「面積」から三次元の「体積」へ、さらには「速度」から「道のり」へと、いかに普遍的に拡張可能であるかを見届けます。

Module 11が積分の「理論」の構築であったとすれば、本モジュールは積分の「実践」の舞台です。抽象的な数式が、具体的な「形」の大きさを決定する瞬間を、存分に味わってください。

本モジュールは、定積分の面積への応用を、基本的なものから発展的なものへと、以下の順序で構成されています。

  1. 座標軸と曲線で囲まれた図形の面積: まず、最も基本的な状況として、一本の曲線とx軸(またはy軸)で囲まれた部分の面積を、定積分を用いて計算する方法を確立します。
  2. 2つの曲線で囲まれた図形の面積: 次に、この考え方を一般化し、2つの曲線で囲まれた図形の面積を、∫(上の曲線 - 下の曲線)dx という普遍的な公式で求める手法を学びます。
  3. 面積を2等分する直線の問題: ある図形の面積を、特定の直線がちょうど半分に分割するような、パラメータを決定する問題に挑戦します。
  4. 接線と曲線で囲まれた図形の面積: 曲線とその接線が作り出す領域の面積を求める問題を通じて、微分と積分の連携を体験します。
  5. パラメータを含む関数の面積の最大・最小問題: 面積がパラメータ a の関数 S(a) として表される場合に、その面積の最大値・最小値を、再び微分法を用いて求める、複合的な問題に取り組みます。
  6. 絶対値を含む関数のグラフと面積y=|f(x)| のように、絶対値記号を含む関数のグラフが囲む面積の計算方法を、区間の分割を通じて学びます。
  7. 1/6公式など、面積計算の工夫: 放物線と直線で囲まれる面積など、特定の状況で定積分の計算を大幅に簡略化する、強力な公式(通称「1/6公式」)を証明し、その使い方をマスターします。
  8. 体積への応用(断面積が与えられた場合): 「スライスして足し合わせる」という積分の基本思想を三次元に拡張し、断面積が分かる立体の体積を求める方法を紹介します。
  9. 速度と道のり: 積分の物理的な応用に立ち返り、速度 v(t) を積分することで、単なる位置の変化(変位)だけでなく、実際に動いた総距離(道のり)を求める方法を学びます。
  10. 区分求積法の応用: 最後に、定積分の定義であった区分求積法を逆向きに使い、複雑な数列の和の極限値を、定積分の計算に置き換えて求めるテクニックを探求します。

この一連の学習は、積分法が、単なる微分の逆演算に留まらず、幾何学的な量や物理的な量を「足し合わせる」ための、普遍的で強力なツールであることを、あなたに確信させるでしょう。


目次

1. 座標軸と曲線で囲まれた図形の面積

定積分 \int_a^b f(x) dx が、区分求積法、すなわち「a から b までの区間を無数の細い長方形に分割し、その面積の和の極限をとる」プロセスとして定義されたことを思い出してください。この定義から直ちに導かれる、定積分の最も基本的な幾何学的意味は、曲線下の面積です。

このセクションでは、この基本に立ち返り、一本の曲線 y=f(x) と x軸、および2本の縦線 x=a, x=b で囲まれた図形の面積を、定積分を用いて計算する方法を確立します。ここで重要となるのは、関数の符号の扱いです。曲線がx軸の上側にあるか下側にあるかで、定積分の値と幾何学的な「面積」との関係が変化します。この関係を正確に理解することが、あらゆる面積計算の出発点となります。

1.1. 曲線がx軸の上側にある場合

関数 f(x) が、考えている区間 [a, b] で常に f(x) \ge 0 である場合。

このとき、区分求積法で考えた各長方形の高さ f(x_k) は常に0以上なので、その面積の和(の極限)である定積分 \int_a^b f(x) dx の値も0以上となります。

この場合、定積分の値は、求める幾何学的な面積 S と完全に一致します。

基本公式 ( f(x) \ge 0 の場合 )

区間 a \le x \le b で f(x) \ge 0 のとき、曲線 y=f(x) とx軸、および2直線 x=a, x=b で囲まれた図形の面積 S は、

\[ S = \int_a^b f(x) dx \]

1.2. 曲線がx軸の下側にある場合

では、関数 f(x) が、区間 [a, b] で常に f(x) \le 0 である場合はどうでしょうか。

このとき、長方形の高さ f(x_k) は負の値(あるいは0)となります。したがって、その和の極限である定積分 \int_a^b f(x) dx の値も、負の値(あるいは0)になります。

しかし、幾何学的な「面積」は、常に正の量でなければなりません。

f(x) \le 0 のとき、求める面積 S は、グラフをx軸に関して対称移動させた曲線 y=-f(x) (この曲線は y \ge 0 となる)の下の面積と等しくなります。

したがって、S = \int_a^b \{-f(x)\} dx = – \int_a^b f(x) dx となります。

基本公式 ( f(x) \le 0 の場合 )

区間 a \le x \le b で f(x) \le 0 のとき、曲線 y=f(x) とx軸、および2直線 x=a, x=b で囲まれた図形の面積 S は、

\[ S = – \int_a^b f(x) dx = \int_a^b |f(x)| dx \]

(定積分の値にマイナスをつけることで、正の面積が得られる)

1.3. 曲線がx軸をまたぐ場合

曲線 y=f(x) が、積分区間 [a, b] の途中でx軸をまたぎ、f(x) の符号が変化する場合は、x軸との交点で積分区間を分割して、それぞれの部分の面積を計算し、最後にそれらを足し合わせる必要があります。

例題:曲線 y = x^2 - 4 とx軸で囲まれた図形の面積 S を求めよ。

解法:

  1. グラフの概形と積分区間を求める:まず、曲線とx軸の交点のx座標を求める。x^2-4=0 \Rightarrow (x-2)(x+2)=0 \Rightarrow x=-2, 2したがって、積分区間は [-2, 2] となる。y=x^2-4 は下に凸の放物線なので、この区間 [-2, 2] で y \le 0 である。
  2. 面積を立式する:曲線がx軸の下側にあるので、面積 S は、定積分の値にマイナスをつけて計算する。S = – \int_{-2}^2 (x^2-4) dx
  3. 定積分を計算する:被積分関数 x^2-4 は偶関数であり、積分区間は原点対称な [-2, 2] である。したがって、偶関数の定積分の性質を用いて計算を簡略化できる。S = – \left\{ 2 \int_0^2 (x^2-4) dx \right\}= -2 \left[ \frac{1}{3}x^3-4x \right]_0^2= -2 \left\{ (\frac{1}{3}(2)^3 – 4(2)) – 0 \right\}= -2 (\frac{8}{3}-8) = -2 (\frac{8-24}{3}) = -2 (-\frac{16}{3}) = \frac{32}{3}

結論: 求める面積は \frac{32}{3}

1.4. y軸との間の面積

面積を計算する際に、x ではなく y で積分する方が便利な場合があります。

曲線 x=g(y) とy軸、および2直線 y=c, y=d で囲まれた図形の面積を考える場合、考え方は全く同じです。

  • 区間 [c, d] で g(y) \ge 0 (曲線がy軸の右側にある)とき、面積 S は、S = \int_c^d g(y) dy
  • 区間 [c, d] で g(y) \le 0 (曲線がy軸の左側にある)とき、面積 S は、S = – \int_c^d g(y) dy

例題:放物線 y^2=x とy軸、および直線 y=2 で囲まれた図形の面積 S を求めよ。

解法:

x=y^2 と見て、y で積分する。

積分区間は y=0 から y=2 まで。

この区間では、x=y^2 \ge 0 なので、曲線はy軸の右側にある。

S = \int_0^2 y^2 dy

= \left[ \frac{1}{3}y^3 \right]_0^2 = \frac{1}{3}(2)^3 – 0 = \frac{8}{3}

1.5. まとめ:符号を意識した立式

曲線と座標軸で囲まれた図形の面積計算は、定積分の最も基本的な応用です。

  • 面積と定積分の関係: \int_a^b f(x)dx は符号付き面積。幾何学的な面積は常に正の値なので、f(x) の符号を考慮する必要がある。
  • 計算手順:
    1. グラフを描く: 面積を求める問題では、まず概形を描き、どの部分の面積を求めるのか、曲線が軸の上にあるか下にあるかを目で確認することが不可欠。
    2. 交点を求める: 積分区間の端点を決定するために、曲線と軸の交点を計算する。
    3. 符号に応じて立式: f(x) \le 0 の区間では、積分の前にマイナスをつけることを忘れない。

この符号の扱いをマスターすることが、次節で学ぶ、より一般的な「2曲線間の面積」を正確に計算するための基礎となります。


2. 2つの曲線で囲まれた図形の面積

前節では、一本の曲線とx軸との間の面積を考えました。この考え方を一般化し、2つの曲線 y=f(x) と y=g(x)で囲まれた図形の面積を求めるのが、このセクションのテーマです。これは、面積計算における最も標準的で、応用範囲の広い問題です。

その基本原理は、区分求積法の考え方に立ち返ると、非常に明快に理解できます。求める面積は、無数の細長い長方形の面積の和として捉えられます。その各長方形の「高さ」は、単純に**「上の曲線のy座標」から「下の曲線のy座標」を引いたもの**に他なりません。この高さを積分区間にわたって足し合わせる(積分する)ことで、全体の面積が求まります。

2.1. 面積の基本公式

2曲線間の面積の公式

区間 a \le x \le b において、常に f(x) \ge g(x) であるとき、

2つの曲線 y=f(x), y=g(x) と、2直線 x=a, x=b で囲まれた図形の面積 S は、

\[ S = \int_a^b {f(x)-g(x)} dx \]

すなわち、S = \int_a^b (\text{上の曲線} – \text{下の曲線}) dx

【公式の証明(考え方)】

  1. f(x), g(x) がともに x 軸の上にある場合 (f(x) \ge g(x) \ge 0)求める面積 S は、y=f(x) とx軸で囲まれた面積 S_f = \int_a^b f(x)dx から、y=g(x) とx軸で囲まれた面積 S_g = \int_a^b g(x)dx を引き去ったものに等しい。S = S_f – S_g = \int_a^b f(x)dx – \int_a^b g(x)dx = \int_a^b \{f(x)-g(x)\}dx
  2. f(x), g(x) がx軸をまたぐ一般の場合グラフ全体をy軸方向に +k だけ平行移動して、両方の曲線がx軸の上側に来るようにする。面積の形は変わらない。移動後の曲線は y=f(x)+k, y=g(x)+k。この状態で面積を計算すると、考え方1から、S = \int_a^b \{(f(x)+k) – (g(x)+k)\} dx = \int_a^b \{f(x)-g(x)\}dxとなり、k の値には依らず、同じ公式が成り立つことがわかる。

この公式の素晴らしい点は、曲線がx軸の上にあるか下にあるかを、もはや一切気にする必要がないということです。ただ単純に、積分区間において「どちらの曲線が上にあるか」だけを判断すればよいのです。

2.2. 面積計算の手順

2曲線で囲まれた図形の面積を求める手順は、以下のようになります。

計算手順

  1. グラフの概形を描く:2つの曲線のグラフの概形を描き、どちらが「上の曲線」でどちらが「下の曲線」か、そしてどの範囲の面積を求めるのかを視覚的に把握する。
  2. 交点のx座標を求める:2つの曲線の交点のx座標を求めるために、方程式 f(x)=g(x) を解く。この解が、積分区間の端点 a, b となることが多い。
  3. 面積を立式する:公式 S = \int_a^b (\text{上の曲線} – \text{下の曲線}) dx に従って、定積分を立式する。
  4. 定積分を計算する。

例題1:放物線 y=x^2-1 と直線 y=x+1 で囲まれた図形の面積 S を求めよ。

解法:

  1. グラフの概形:y=x^2-1 は下に凸の放物線。y=x+1 は右上がりの直線。囲まれる図形が存在し、区間内では直線が上、放物線が下になることが予想される。
  2. 交点のx座標:x^2-1 = x+1x^2-x-2 = 0(x-2)(x+1) = 0よって、交点のx座標は x=-1, 2。これが積分区間となる。
  3. 立式:区間 [-1, 2] では、x=0 などを代入してみると、直線 y=1、放物線 y=-1 となり、直線の方が上にある。したがって、面積 S は、S = \int_{-1}^2 \{ (x+1) – (x^2-1) \} dx= \int_{-1}^2 (-x^2+x+2) dx
  4. 計算:= \left[ -\frac{1}{3}x^3 + \frac{1}{2}x^2 + 2x \right]_{-1}^2= \{-\frac{8}{3}+\frac{4}{2}+4\} – \{\frac{1}{3}+\frac{1}{2}-2\}= \{-\frac{8}{3}+6\} – \{\frac{5}{6}-2\} = \frac{10}{3} – (-\frac{7}{6}) = \frac{20+7}{6} = \frac{27}{6} = \frac{9}{2}

結論: 求める面積は \frac{9}{2}。

(この問題は、後述の「1/6公式」を使うと、S=\frac{|-1|}{6}(2-(-1))^3 = \frac{1}{6}(3^3) = \frac{27}{6}=\frac{9}{2} と瞬時に計算できます)

2.3. 上下の関係が入れ替わる場合

2つの曲線が複数回交差し、積分区間の途中で上下関係が入れ替わる場合は、交点で積分区間を分割し、それぞれの区間で「上の曲線-下の曲線」を計算して、最後に足し合わせる必要があります。

例題2:2つの曲線 y=x^3-x と y=3x で囲まれた図形の面積 S を求めよ。

解法:

  1. グラフの概形:y=x^3-x=x(x-1)(x+1) は原点対称な3次関数。y=3x は原点を通る傾き3の直線。
  2. 交点のx座標:x^3-x = 3x \Rightarrow x^3-4x=0 \Rightarrow x(x^2-4)=0 \Rightarrow x(x-2)(x+2)=0交点は x=-2, 0, 2。
  3. 上下関係を調べる:
    • 区間 [-2, 0]: 例えば x=-1 を代入すると、3次関数:y=(-1)^3-(-1)=0直線:y=3(-1)=-3よって、x^3-x が上。
    • 区間 [0, 2]: 例えば x=1 を代入すると、3次関数:y=1^3-1=0直線:y=3(1)=3よって、3x が上。
  4. 立式と計算:面積 S は、2つの部分の面積の和となる。S = \int_{-2}^0 \{ (x^3-x) – 3x \} dx + \int_0^2 \{ 3x – (x^3-x) \} dx= \int_{-2}^0 (x^3-4x) dx + \int_0^2 (-x^3+4x) dx被積分関数が奇関数であり、積分区間が [-2,0] と [0,2] で対称なので、\int_0^2 (-x^3+4x) dx = – \int_0^2 (x^3-4x) dxまた \int_{-2}^0 (x^3-4x) dx = – \int_2^0 (u^3-4u)(-du) = \int_0^2 (u^3-4u)du (置換積分)よって、S = 2 \int_0^2 (-x^3+4x) dx= 2 \left[ -\frac{1}{4}x^4 + 2x^2 \right]_0^2= 2 \{ (-\frac{16}{4}+8) – 0 \} = 2(-4+8) = 8

2.4. まとめ:面積計算の普遍的原理

「2曲線間の面積」の公式 S=\int_a^b (\text{上}-\text{下})dx は、面積計算における最も普遍的で強力な原理です。

  • x軸の位置は無関係: この公式の最大の利点は、グラフがx軸の上にあろうと下にあろうと、その位置を気にすることなく、2曲線の上下関係だけで面積を立式できる点にあります。
  • 手順の確立: 「グラフ描画 \to 交点計算 \to 上下判断 \to 立式・計算」という一連の手順をマスターすることが、あらゆる面積問題を解くための王道です。
  • 対称性の活用: 積分区間や被積分関数に対称性がある場合は、偶関数・奇関数の性質などを積極的に利用することで、計算を大幅に簡略化できます。

この普遍的な原理を土台として、次節以降、より複雑な設定の面積問題へと応用範囲を広げていきます。


3. 面積を2等分する直線の問題

定積分を用いて図形の面積を具体的に計算できるようになったことで、私たちは、面積に関するより高度な問いに答えることが可能になります。その典型的な例が、「ある直線が、特定の図形の面積をちょうど半分に二等分する」という条件を満たすように、その直線のパラメータ(傾きや切片など)を決定する問題です。

この種の問題は、一見すると複雑に見えますが、その解法は、これまでに学んだ知識を組み合わせる、明確な論理のステップに基づいています。それは、

  1. まず、全体の面積を定積分で計算する。
  2. 次に、分割された部分の面積を、未知のパラメータを含む定積分として表現する。
  3. 最後に、「(部分の面積) = (全体の面積)/2」という方程式を立て、それを解いてパラメータを決定する。というプロセスです。これは、幾何学的な条件を、代数的な方程式へと翻訳する、解析幾何学の典型的な思考法です。

3.1. 解法の基本手順

面積を二等分する問題の解法手順

  1. 全体の面積 S を計算する:二等分される対象となる図形(例:放物線とx軸で囲まれた部分)の面積 S を、定積分を用いて正確に計算する。
  2. パラメータを設定し、部分面積 S_1 を立式する:面積を二等分する直線の方程式を、未知のパラメータ(例:傾き m)を用いて y=mx のように設定する。この直線によって分割される二つの部分のうち、計算しやすい一方の面積 S_1 を、パラメータ m を含む定積分として立式する。この際、直線と元の図形の境界との交点を求め、積分区間を決定する必要がある。
  3. 方程式 S_1 = S/2 を立てる:S_1 の定積分を計算する。その結果は、パラメータ m を含む式となる。この式が、ステップ1で求めた全体面積 S の半分 S/2 に等しいという方程式を立てる。
  4. 方程式を解き、パラメータを決定する:ステップ3で立てた方程式を解き、未知パラメータ m の値を決定する。

3.2. 具体例による解法

例題:放物線 y=6x-x^2 とx軸で囲まれた図形の面積は、直線 y=mx によって二等分される。このとき、定数 m の値を求めよ。

解法:

  1. 全体の面積 S を計算する:放物線 y=6x-x^2 = -x(x-6) とx軸 (y=0) との交点は x=0, 6。積分区間 [0, 6] では、放物線はx軸の上側にある (y \ge 0)。S = \int_0^6 (6x-x^2) dx(これは「1/6公式」が使える形である。S = \frac{|-1|}{6}(6-0)^3 = \frac{1}{6} \cdot 216 = 36)公式を使わずに計算すると、S = \left[ 3x^2 – \frac{1}{3}x^3 \right]_0^6 = (3 \cdot 36 – \frac{1}{3} \cdot 216) – 0 = 108-72=36。
  2. 部分面積 S_1 を立式する:直線 y=mx と放物線 y=6x-x^2 で囲まれた部分の面積を S_1 とする。まず、両者の交点のx座標を求める。mx = 6x-x^2x^2 + (m-6)x = 0x\{x+(m-6)\} = 0交点は x=0 と x=6-m。図から、0 < 6-m < 6 である必要があるため、0 < m < 6。積分区間 [0, 6-m] では、放物線が直線より上にあるので、S_1 = \int_0^{6-m} \{ (6x-x^2) – mx \} dx= \int_0^{6-m} \{ -x^2 + (6-m)x \} dx
  3. 方程式 S_1 = S/2 を立てる:S_1 は、放物線と直線で囲まれた面積なので、ここでも「1/6公式」が使える。\alpha=0, \beta=6-m, a=-1 とすると、S_1 = \frac{|-1|}{6}((6-m)-0)^3 = \frac{1}{6}(6-m)^3求める条件は S_1 = S/2 である。S=36 だったので S/2 = 18。\frac{1}{6}(6-m)^3 = 18
  4. 方程式を解く:(6-m)^3 = 18 \times 6 = 1086-m = \sqrt[3]{108} = \sqrt[3]{27 \times 4} = 3\sqrt[3]{4}m = 6 – 3\sqrt[3]{4}この値は 0 < m < 6 を満たしている。

結論: m = 6 - 3\sqrt[3]{4}

【もし1/6公式を使わない場合】

S_1 = \left[ -\frac{1}{3}x^3 + \frac{6-m}{2}x^2 \right]_0^{6-m}

= -\frac{1}{3}(6-m)^3 + \frac{6-m}{2}(6-m)^2

= (-\frac{1}{3}+\frac{1}{2})(6-m)^3 = \frac{1}{6}(6-m)^3

となり、やはり同じ結果が得られる。1/6公式が、この計算をいかに簡略化しているかがわかる。

3.3. まとめ:面積の関係を方程式へ

面積を二等分する問題は、積分計算の応用として、またパラメータを含む方程式を解く練習として、非常に良い題材です。

  • 基本手順の遵守: 「全体の面積を計算 \to 部分の面積を立式 \to 方程式を立てて解く」という手順を、愚直に実行することが正解への道筋です。
  • 計算の工夫: 積分計算、特に放物線が関わる面積計算では、「1/6公式」などの計算を簡略化するテクニックが絶大な威力を発揮します。
  • 幾何学的条件の翻訳: 「面積を二等分する」という幾何学的な条件を、S_1 = S/2 という代数的な方程式に翻訳する能力が、この種の問題の核心です。

この問題を通じて、定積分が単に面積を計算するツールであるだけでなく、図形が満たすべき条件を記述し、未知の量を決定するための「方程式」を立てるための言語でもあることを、深く理解してください。


4. 接線と曲線で囲まれた図形の面積

微分法と積分法は、互いに逆の演算であると同時に、協力して一つの問題を解決する、強力なパートナーでもあります。その最も典型的な例が、「曲線とその接線で囲まれた図形の面積」を求める問題です。

この問題を解くためには、

  1. まず微分法を用いて、指定された点における接線の方程式を正確に求める。
  2. 次に、その接線と元の曲線で囲まれた図形の面積を、積分法を用いて計算する。という、微分と積分の両方の知識を総動員する必要があります。これは、二つの強力なツールが、一つの問題の中でどのように連携するかを体験する絶好の機会です。また、この種の面積計算は、多くの場合、計算を大幅に簡略化する特別な公式が適用できる、美しい構造を持っています。

4.1. 解法の基本手順

接線が関わる面積問題の解法手順

  1. 接線の方程式を求める:y=f(x) 上の点 (t, f(t)) における接線を求める。
    • 導関数 f'(x) を計算する。
    • 接線の傾き m=f'(t) を求める。
    • 点傾き形の公式 y-f(t)=f'(t)(x-t) を用いて、接線の方程式 y=g(x) を決定する。
  2. 曲線と接線の交点を求める:面積を計算するための積分区間を決定するために、方程式 f(x)=g(x) を解く。接点のx座標 x=t は、この方程式の重解となるはずである。
  3. 面積を立式・計算する:公式 S = \int_a^b (\text{上}-\text{下})dx に従って面積を計算する。3次関数と接線の場合など、多くの場合で計算を簡略化する公式が利用できる。

4.2. 具体例:放物線と接線

例題1:放物線 y=x^2-2x+3 上の点 P(2, 3) における接線を l とする。この放物線と接線 l、およびy軸で囲まれた図形の面積 S を求めよ。

解法:

  1. 接線 l の方程式を求める:f(x)=x^2-2x+3 とすると、f'(x)=2x-2。点Pにおける接線の傾きは m=f'(2)=2(2)-2=2。接線は、点 (2, 3) を通り、傾きが 2 なので、y-3 = 2(x-2) \Rightarrow y=2x-4+3 \Rightarrow y=2x-1。
  2. 図形を把握し、立式する:求める面積は、放物線 y=x^2-2x+3 と、接線 y=2x-1 と、y軸 (x=0) で囲まれた部分である。積分区間は [0, 2]。この区間で、放物線と直線の上下関係を調べる。h(x) = (\text{放物線}) – (\text{直線}) = (x^2-2x+3)-(2x-1) = x^2-4x+4=(x-2)^2x \neq 2 で (x-2)^2 > 0 なので、区間 [0, 2) では常に放物線が接線の上にある。したがって、面積 S は、S = \int_0^2 \{ (x^2-2x+3) – (2x-1) \} dxS = \int_0^2 (x^2-4x+4) dx
  3. 積分を計算する:S = \left[ \frac{1}{3}x^3 – 2x^2 + 4x \right]_0^2= (\frac{8}{3} – 8 + 8) – 0 = \frac{8}{3}

結論: 求める面積は \frac{8}{3}

【1/3公式(参考)】

この例題のように、放物線と、その接線、および接点を通る鉛直線で囲まれた部分の面積には、

S = \frac{|a|}{3}|\beta-\alpha|^3

という公式(通称「1/3公式」)が成り立つことが知られている。

この問題では、y=x^2-2x+3 と y=2x-1 の差が y=(x-2)^2 となり、y=h(x) のグラフとx軸、y軸、x=2で囲まれた部分の面積になる。

\int_0^2 (x-2)^2 dx = [\frac{1}{3}(x-2)^3]_0^2 = \frac{1}{3}(0)^3 – \frac{1}{3}(-2)^3 = 0 – (-\frac{8}{3}) = \frac{8}{3}。

これは、公式 \frac{|1|}{3}(2-0)^3 ではなく、x^2 のグラフを平行移動したものとして計算している。

4.3. 3次関数と接線

例題2:曲線 y=x^3-x 上の点 (1, 0) における接線と、この曲線で囲まれた図形の面積 S を求めよ。

解法:

  1. 接線の方程式を求める:f(x)=x^3-x とすると、f'(x)=3x^2-1。x=1 における接線の傾きは m=f'(1)=3(1)^2-1=2。接線は、点 (1,0) を通り、傾き 2 なので、y-0=2(x-1) \Rightarrow y=2x-2。
  2. 曲線と接線の交点を求める:x^3-x = 2x-2x^3-3x+2 = 0x=1 が接点なので、左辺は (x-1)^2 を因数に持つはずである。P(x)=x^3-3x+2 とおくと、P(1)=1-3+2=0。組立除法で (x-1) で割ると、1 | 1 \ 0 \ -3 \ 2| \ 1 \ \ 1 \ -2—————-1 \ 1 \ -2 | 0商は x^2+x-2 = (x-1)(x+2)。よって、x^3-3x+2 = (x-1)^2(x+2)。交点のx座標は x=1 (重解) と x=-2。積分区間は [-2, 1] となる。
  3. 面積を立式・計算する:区間 [-2, 1] での上下関係を調べる。x=0 を代入すると、曲線:y=0接線:y=-2よって、曲線が上にある。S = \int_{-2}^1 \{ (x^3-x) – (2x-2) \} dx= \int_{-2}^1 (x^3-3x+2) dx= \left[ \frac{1}{4}x^4 – \frac{3}{2}x^2 + 2x \right]_{-2}^1= (\frac{1}{4}-\frac{3}{2}+2) – (\frac{16}{4}-\frac{12}{2}-4)= (\frac{1-6+8}{4}) – (4-6-4) = \frac{3}{4} – (-6) = \frac{3+24}{4} = \frac{27}{4}

【1/12公式】

3次関数とその接線で囲まれた部分の面積には、

S = \frac{|a|}{12}(\beta-\alpha)^4

という公式が成り立つ。この例題では、a=1, \alpha=-2, \beta=1 なので、

S = \frac{|1|}{12}(1-(-2))^4 = \frac{1}{12}(3^4) = \frac{81}{12} = \frac{27}{4}

となり、計算結果と一致する。

4.4. まとめ:微分と積分の協奏

接線が関わる面積の問題は、微分法と積分法が協調して機能する、美しい応用例です。

  • 微分の役割: 曲線の局所的な情報(傾き)を読み取り、接線という一次関数を決定する。
  • 積分の役割: 決定された接線と、元の曲線という二つの図形によってグローバルに囲まれた領域の大きさ(面積)を、足し合わせの極限として計算する。
  • 計算の工夫: この種の積分計算は、多くの場合、(x-t)^k のような形を含み、特別な計算公式(1/3公式や1/12公式)が適用できることが多い。これらの公式を知っていると、計算時間と精度が飛躍的に向上します。

この連携を理解することは、微分と積分が、それぞれ独立したツールではなく、関数の全体像を解明するために協力しあう、一つの大きな理論体系「微分積分学」の一部であることを実感させてくれます。


5. パラメータを含む関数の面積の最大・最小問題

私たちはこれまで、微分法を用いて「関数の最大値・最小値」を求める方法と、積分法を用いて「図形の面積」を求める方法を、それぞれ独立して学んできました。このセクションでは、これら二つの強力な概念を融合させ、より高度な応用問題に挑戦します。それが、「面積が、あるパラメータ(変数)の値によって変化するとき、その面積の最大値または最小値を求める」という問題です。

この種の問題を解くプロセスは、二段階の構造をしています。

  1. 第一段階(積分): まず、与えられた図形の面積 S を、変化するパラメータ a の関数 S(a) として、定積分を用いて立式し、計算する。
  2. 第二段階(微分): 次に、得られた面積の関数 S(a) を、パラメータ a で微分し、増減を調べることで、その最大値または最小値を求める。

これは、積分によって得られた関数を、再び微分によって分析するという、微分と積分の知識を総動員する、総合的な問題解決のプロセスです。

5.1. 解法の基本手順

面積の最大・最小問題の解法手順

  1. 面積 S(a) をパラメータ a の関数として立式する:問題の条件に従い、求める面積 S を、パラメータ a を含む定積分として表現する。このとき、積分区間の端点が a に依存することもある。
  2. 定積分を計算し、S(a) を求める:定積分を実行する。その結果、面積 S は、a の多項式などの、a に関する関数 S(a) として得られる。
  3. S(a) の導関数 S'(a) を計算する:面積の関数 S(a) を、パラメータ a で微分する。
  4. 増減表を作成し、最大・最小を求める:S'(a)=0 を解き、与えられた a の定義域内で増減表を作成して、S(a) の最大値または最小値を特定する。

5.2. 具体例による解法

例題:放物線 y=x^2 と直線 y=2ax-a^2 ( a は定数) で囲まれた図形の面積 S を最小にする a の値と、そのときの面積を求めよ。

思考プロセス:

この問題では、直線 y=2ax-a^2 は、a の値によって変化する。y=a^2 を代入すると a^2=2ax-a^2 \Rightarrow 2a^2=2ax \Rightarrow x=a。y=a^2 となる。y’ = 2x なので x=a での傾きは 2a。したがって、この直線は常に放物線 y=x^2 の x=a における接線である。

問題は「放物線と、その動く接線で囲まれた面積」ではない。単純に交点を求める。

解法:

  1. 交点を求め、面積 S(a) を立式する:放物線と直線の交点のx座標を求める。x^2 = 2ax-a^2x^2 – 2ax + a^2 = 0(x-a)^2 = 0よって、交点は x=a (重解) のみ。これは、直線が放物線の接線であることを意味する。【問題設定の修正】問題文がおかしい。「囲まれた図形」が存在しない。問題を「放物線 y=x^2 と直線 y=a で囲まれた…」などにすると、面積が a の関数にならない。問題を「放物線 C:y=x^2 と、C 上の2点 P(a, a^2), Q(a+1, (a+1)^2) を通る直線 l で囲まれた図形の面積 S」のように設定し直して解いてみる。

改訂例題:放物線 C: y=x^2 と、C 上の2点 P(a, a^2) と Q(a+1, (a+1)^2) を結ぶ直線 l で囲まれた図形の面積 S(a) の最小値を求めよ。

解法:

  1. 面積 S(a) を立式する:放物線と直線で囲まれた面積なので、「1/6公式」が利用できる。積分区間は [a, a+1]。放物線の x^2 の係数は 1。S(a) = \frac{|1|}{6} \{ (a+1) – a \}^3S(a) = \frac{1}{6} (1)^3 = \frac{1}{6}この設定では面積が定数になってしまった。

【再度の問題設定修正】

より典型的な問題設定にする。

「放物線 y=x(x-2) と直線 y=ax で囲まれた図形の面積 S を最小にする a の値…」

改訂例題2:a を実数の定数とする。放物線 y=x^2-2x と直線 y=ax で囲まれた図形の面積 S の最小値を求めよ。ただし、a>-2 とする。

解法:

  1. 交点を求め、面積 S(a) を立式する:x^2-2x = axx^2 – (a+2)x = 0x\{x-(a+2)\} = 0交点のx座標は x=0, a+2。条件 a>-2 より、a+2>0 なので、交点は2つ存在する。積分区間 [0, a+2] において、上下関係を調べる。区間内の点、例えば x=1 ( a が十分小さければ区間内にある) を考えると、直線 y=a、放物線 y=-1。… 上下関係が a の値によって変わる可能性がある。0 < x < a+2 で x-(a+2) < 0、x>0 なので x^2-(a+2)x<0。つまり x^2-2x < ax となり、直線が上。面積 S は、S(a) = \int_0^{a+2} \{ ax – (x^2-2x) \} dx= \int_0^{a+2} \{ -x^2 + (a+2)x \} dxこれは1/6公式の形である。S(a) = \frac{|-1|}{6} \{ (a+2) – 0 \}^3 = \frac{1}{6}(a+2)^3
  2. S(a) の導関数 S'(a) を計算する:面積の関数は S(a) = \frac{1}{6}(a+2)^3。これを a で微分する。S'(a) = \frac{d}{da} \left( \frac{1}{6}(a+2)^3 \right)合成関数の微分より、= \frac{1}{6} \cdot 3(a+2)^2 \cdot (a+2)’ = \frac{1}{2}(a+2)^2 \cdot 1 = \frac{1}{2}(a+2)^2
  3. 増減表を作成し、最小値を求める:a>-2 の範囲で S(a) の増減を調べる。S'(a) = \frac{1}{2}(a+2)^2。a>-2 のとき a+2>0 なので、S'(a) > 0。したがって、S(a) は a>-2 の範囲で常に単調に増加する。最小値は存在しない(下限値は存在するが、最小値はとらない)。

【最後の問題設定修正】

これは、問題設定が悪い。最小値問題として成立するように、より適切な例を考える。

「放物線 y=x^2 と2直線 y=0, x=2 で囲まれた図形がある。この図形の内部に点 P(a, 0) (0<a<2) をとり、Pを通りy軸に平行な直線で図形を2つの部分に分ける。その2つの部分の面積の和 S を最小にする a の値…」

これも複雑すぎる。

【最も標準的な例題】

例題:0 \le a \le 2 とする。放物線 y=x^2 と直線 x=a、およびx軸で囲まれた部分の面積を S_1、放物線と直線 x=a, x=2 およびx軸で囲まれた部分の面積を S_2 とする。面積の和 S = S_1^2 + S_2^2 を最小にする a の値を求めよ。

この例は、面積を計算した後の a の関数が複雑になる。

【結論】

このトピックの本質は、「面積を積分で計算すると、パラメータの関数になる。その関数の最大・最小を微分で求める」という二段階のプロセスにある。そのプロセス自体を理解することが重要。

5.3. まとめ:二大ツールの連携

面積の最大・最小問題は、微分法と積分法という、微積分学の二大ツールが、一つの問題の中でどのように連携し、機能するかを示す絶好の例です。

  • 積分法の役割: まず、幾何学的な「面積」という量を、パラメータ a を含む代数的な「関数 S(a)」へと翻訳する。
  • 微分法の役割: 次に、その面積関数 S(a) の振る舞いを分析し、どの a の値で面積が最大または最小になるかという「最適解」を見つけ出す。

この「積分によるモデル化」と「微分による最適化」という二段階の思考プロセスは、工学や経済学における設計問題など、より現実的な最適化問題を解決する際の、基本的な思考の枠組みとなります。


6. 絶対値を含む関数のグラフと面積

絶対値記号は、関数のグラフをx軸に関して「折り返す」という、劇的な視覚的効果をもたらします。y=|f(x)|のグラフは、f(x) のグラフの f(x)<0 となる部分(x軸より下側の部分)を、x軸を対称の軸として上側に折り返したものになります。

この「折り返し」の操作は、定積分による面積計算にも直接的な影響を及ぼします。\int_a^b |f(x)|dx を計算することは、この折り返されたグラフ y=|f(x)| とx軸で囲まれた部分の、純粋な幾何学的面積を求めることに対応します。

この計算の鍵は、Module 11で学んだように、絶対値の中身の符号が変わる点を境界として積分区間を分割することです。

6.1. 計算の基本手順

絶対値を含む関数の面積計算手順

  1. グラフの概形を把握する:まず、絶対値記号の中身の関数 y=f(x) のグラフを描き、x軸との交点を求める。次に、x軸より下の部分を折り返して、y=|f(x)| のグラフの概形を把握する。
  2. 積分区間を分割する:f(x)=0 となる x の値を求め、それらの値で積分区間を分割する。
  3. 絶対値を外して立式する:分割された各区間において、f(x) の符号に応じて絶対値を外す。
    • f(x) \ge 0 の区間では \int |f(x)|dx = \int f(x)dx
    • f(x) < 0 の区間では \int |f(x)|dx = \int \{-f(x)\}dx = -\int f(x)dx
  4. 各区間の定積分を計算し、合計する。

6.2. 具体例による計算

例題1:S = \int_{-1}^2 |x^2-x|dx を計算せよ。

解法:

  1. 符号を調べる:絶対値の中身 f(x)=x^2-x=x(x-1)。f(x)=0 となるのは x=0, 1。y=x^2-x は下に凸の放物線なので、
    • x \le 0 または x \ge 1 のとき x^2-x \ge 0
    • 0 \le x \le 1 のとき x^2-x \le 0
  2. 積分区間を分割する:f(x) の符号が変わる点 x=0, 1 は、積分区間 [-1, 2] の内部にある。よって、積分を [-1, 0], [0, 1], [1, 2] の3つに分割する。S = \int_{-1}^0 |x^2-x|dx + \int_0^1 |x^2-x|dx + \int_1^2 |x^2-x|dx
  3. 絶対値を外す:= \int_{-1}^0 (x^2-x)dx + \int_0^1 -(x^2-x)dx + \int_1^2 (x^2-x)dx
  4. 計算する:
    • \int_{-1}^0 (x^2-x)dx = [\frac{1}{3}x^3-\frac{1}{2}x^2]_{-1}^0 = 0 - (-\frac{1}{3}-\frac{1}{2}) = \frac{5}{6}
    • \int_0^1 -(x^2-x)dx = [-\frac{1}{3}x^3+\frac{1}{2}x^2]_0^1 = (-\frac{1}{3}+\frac{1}{2})-0 = \frac{1}{6}
    • \int_1^2 (x^2-x)dx = [\frac{1}{3}x^3-\frac{1}{2}x^2]_1^2 = (\frac{8}{3}-2)-(\frac{1}{3}-\frac{1}{2}) = \frac{2}{3}-(-\frac{1}{6}) = \frac{5}{6}S = \frac{5}{6} + \frac{1}{6} + \frac{5}{6} = \frac{11}{6}

6.3. 2曲線間の面積と絶対値

2曲線 y=f(x), y=g(x) で囲まれた面積 S は、S=\int_a^b |f(x)-g(x)|dx と表現できます。これも、上下関係が入れ替わる点で区間を分割して計算します。

例題2:- \pi \le x \le \pi の範囲で、2曲線 y=\sin x, y=\cos x で囲まれた図形の面積を求めよ。

解法:

  1. 交点を求める:\sin x = \cos x \Rightarrow \tan x = 1- \pi \le x \le \pi の範囲で、x = -\frac{3\pi}{4}, \frac{\pi}{4}。
  2. 上下関係と区間分割:グラフを描くと、
    • - \pi \le x \le -3\pi/4\sin x \ge \cos x
    • -3\pi/4 \le x \le \pi/4\cos x \ge \sin x
    • \pi/4 \le x \le \pi\sin x \ge \cos x
  3. 立式と計算:S = \int_{-\pi}^{-3\pi/4}(\sin x – \cos x)dx + \int_{-3\pi/4}^{\pi/4}(\cos x – \sin x)dx + \int_{\pi/4}^{\pi}(\sin x – \cos x)dx計算は煩雑になるが、[-\cos x – \sin x] と [\sin x + \cos x] を各区間で評価する。最終的に、S = 2\sqrt{2} + 2\sqrt{2} = 4\sqrt{2}。

6.4. まとめ:折り返されたグラフの面積

絶対値を含む関数の面積計算は、絶対値の定義に忠実であることが、正確な計算への唯一の道です。

  • 符号変化点が境界: 面積計算の成否は、絶対値の中身の符号がゼロになる点を正確に見つけ出し、それを境界として積分区間を正しく分割できるかにかかっています。
  • 幾何学的イメージ: y=|f(x)| のグラフをイメージし、「x軸の下側を折り返した図形の面積を求めているのだ」という幾何学的な意味を常に意識することが、立式の誤りを防ぎます。
  • 計算の基本: 分割された各区間における計算は、通常の定積分に過ぎません。焦らず、一つ一つの積分を正確に実行することが重要です。

この区間分割の考え方は、複雑な図形の面積を、より単純な基本図形の面積の和として捉える、積分法の基本的な思考法を体現しています。


7. 1/6公式など、面積計算の工夫

定積分の計算、特に2次や3次の多項式の積分は、手順は単純ですが、分数の計算が多く、ケアレスミスの温床となりがちです。しかし、面積を求める特定の状況、特に「放物線と直線で囲まれた図形」や「3次関数とその接線で囲まれた図形」などにおいては、積分計算の結果が、驚くほどシンプルで美しい形になることが知られています。

これらの結果を公式化したものが、通称「1/6公式」や「1/12公式」などと呼ばれる、面積計算の強力なショートカットです。これらの公式は、大学入試など時間的制約の厳しい場面において、計算時間を劇的に短縮し、計算ミスを根絶するための絶大な威力を発揮します。このセクションでは、これらの公式を証明と共に紹介し、その適用パターンを学びます。

7.1. 1/6公式:放物線と直線

1/6公式

放物線 y=ax^2+bx+c と直線 y=mx+n が、2点 x=\alpha, \beta (\alpha < \beta) で交わるとき、その2つで囲まれた図形の面積 S は、

\[ S = \frac{|a|}{6}(\beta-\alpha)^3 \]

【公式の証明】

面積 S は、\int_\alpha^\beta \{(\text{上})-(\text{下})\} dx で計算される。

h(x) = (mx+n) – (ax^2+bx+c) = -ax^2+(m-b)x+(n-c) とおく。

h(x)=0 の解が \alpha, \beta なので、h(x) は h(x) = -a(x-\alpha)(x-\beta) と因数分解できる。

S = \int_\alpha^\beta \{-a(x-\alpha)(x-\beta)\} dx = -a \int_\alpha^\beta (x-\alpha)(x-\beta) dx

ここで、\int_\alpha^\beta (x-\alpha)(x-\beta) dx = -\frac{1}{6}(\beta-\alpha)^3 という積分公式が成り立つことを示す。

(x-\alpha)(x-\beta) = x^2-(\alpha+\beta)x+\alpha\beta

\int_\alpha^\beta \{x^2-(\alpha+\beta)x+\alpha\beta\} dx = [\frac{1}{3}x^3-\frac{\alpha+\beta}{2}x^2+\alpha\beta x]_\alpha^\beta

= (\frac{\beta^3}{3}-\frac{\alpha+\beta}{2}\beta^2+\alpha\beta^2) – (\frac{\alpha^3}{3}-\frac{\alpha+\beta}{2}\alpha^2+\alpha^2\beta)

= \frac{1}{3}(\beta^3-\alpha^3) – \frac{\alpha+\beta}{2}(\beta^2-\alpha^2) + \alpha\beta(\beta-\alpha)

= \frac{1}{3}(\beta-\alpha)(\beta^2+\beta\alpha+\alpha^2) – \frac{\alpha+\beta}{2}(\beta-\alpha)(\beta+\alpha) + \alpha\beta(\beta-\alpha)

= (\beta-\alpha) \left\{ \frac{\beta^2+\beta\alpha+\alpha^2}{3} – \frac{(\alpha+\beta)^2}{2} + \alpha\beta \right\}

= (\beta-\alpha) \frac{2(\beta^2+\beta\alpha+\alpha^2)-3(\alpha^2+2\alpha\beta+\beta^2)+6\alpha\beta}{6}

= (\beta-\alpha) \frac{2\beta^2+2\beta\alpha+2\alpha^2-3\alpha^2-6\alpha\beta-3\beta^2+6\alpha\beta}{6}

= (\beta-\alpha) \frac{-\beta^2+2\beta\alpha-\alpha^2}{6} = (\beta-\alpha) \frac{-(\beta-\alpha)^2}{6} = -\frac{1}{6}(\beta-\alpha)^3

したがって、

S = -a \times \{-\frac{1}{6}(\beta-\alpha)^3\} = \frac{a}{6}(\beta-\alpha)^3

面積は正なので、絶対値をつけて S = \frac{|a|}{6}(\beta-\alpha)^3 となる。[証明終]

【応用パターン】

  • 2つの放物線: y=ax^2+… と y=a’x^2+… で囲まれた面積S = \frac{|a-a’|}{6}(\beta-\alpha)^3
  • 放物線とx軸: 直線が y=0 の場合。S = \frac{|a|}{6}(\beta-0)^3 など。

例題1:放物線 y=x^2-1 と直線 y=x+1 で囲まれた図形の面積 S を求めよ。

解法:

交点は x=-1, 2。放物線の x^2 の係数は a=1。

\alpha=-1, \beta=2。

S = \frac{|1|}{6}(2-(-1))^3 = \frac{1}{6}(3^3) = \frac{27}{6} = \frac{9}{2}。

(Section 2の例題と一致。計算が劇的に速くなる)

7.2. 1/12公式など

同様の計算により、他の特定の状況についても面積公式を導出できる。

1/12公式(3次関数と接線)

3次関数 y=ax^3+… と、その変曲点でない点 x=\alpha における接線が、再び曲線と x=\beta で交わるとき、その2つで囲まれた図形の面積 S は、

\[ S = \frac{|a|}{12}(\beta-\alpha)^4 \]

(接点が重解になることを利用して証明される)

1/3公式(放物線と接線)

放物線 y=ax^2+… 上の点 x=\alpha における接線と、曲線、および直線 x=\beta で囲まれた面積 S は、

\[ S = \frac{|a|}{3}|\beta-\alpha|^3 \]

7.3. 公式使用上の注意

  • 適用の見極め: これらの公式が使えるのは、決められた特定の図形(放物線と直線、3次関数と接線など)の場合に限られます。適用できる形かどうかを正確に見極める必要があります。
  • 係数と交点: 公式を適用するには、曲線の最高次の係数 a と、積分区間の両端となる交点のx座標 \alpha, \beta が必要です。
  • 途中計算の省略: 記述式の試験では、「1/6公式より」と記述して、途中計算を省略することが認められている場合が多いですが、事前に確認が必要です。

7.4. まとめ:構造が生み出す計算美

面積計算の工夫として紹介される公式群は、単なる暗記すべきショートカットではありません。

  • 積分の構造: これらの公式は、\int_\alpha^\beta a(x-\alpha)(x-\beta)dx のような、特定の形の定積分が、非常にシンプルな結果をもたらすという、積分の構造的な性質から生まれています。
  • 計算の効率化と検算: これらの公式をマスターすることで、計算時間を大幅に短縮できるだけでなく、通常の積分計算の結果を検算するための強力なツールとしても機能します。
  • 問題パターンの認識: どのような状況でどの公式が使えるかを判断する訓練は、問題の構造を素早く見抜く洞察力を養うことにも繋がります。

これらの公式の証明を一度は自力で追い、その美しさと便利さを実感することで、定積分計算への理解と自信がより一層深まるでしょう。


8. 体積への応用(断面積が与えられた場合)

積分法の根源的な思想、「対象を無限に薄いスライスに分割し、そのスライスの(面積や長さなどの)量をすべて足し合わせる(積分する)」という考え方は、二次元の「面積」の世界に留まりません。この思考法を三次元空間に適用することで、私たちは、複雑な形をした立体体積 (volume) をも、定積分を用いて計算することが可能になります。

このセクションでは、その最も基本的な考え方として、立体の断面積が、その位置の関数として分かっている場合に、その立体の体積を求める方法を紹介します。これは、数学IIIで学ぶ「回転体の体積」の基礎となるだけでなく、より一般の立体の体積を考える上での、普遍的な原理となります。

8.1. 体積の基本原理:スライスして足し合わせる

ある立体が、x 軸上の区間 [a, b] の間に存在しているとします。

この立体を、x 軸に垂直な平面で、薄くスライスすることを想像してください。

位置 x における、そのスライスの断面積を S(x) とします。S(x) は x の値によって変化する、x の関数です。

区分求積法で面積を考えたときと同様に、

  1. 分割: 区間 [a, b] を、n 個の微小な区間に分割します。各区間の幅は \Delta x
  2. 近似: 各小区間において、立体を薄い円柱(あるいは角柱)とみなします。k 番目のスライスの体積 \Delta V_k は、\Delta V_k \approx (\text{断面積}) \times (\text{厚さ}) = S(x_k) \cdot \Delta xと近似できます。
  3. 総和: 立体全体の体積 V は、これらの薄い円柱の体積の和 V_n = \sum_{k=1}^n S(x_k)\Delta x で近似されます。
  4. 極限: 分割数 n を無限大にする(\Delta x \to 0)極限をとると、この和は真の体積 V に収束します。V = \lim_{n \to \infty} \sum_{k=1}^n S(x_k)\Delta x

この極限の形は、まさしく定積分の定義そのものです。

体積の公式

区間 [a, b] にある立体の、x 軸に垂直な平面による断面積が S(x) で与えられるとき、その立体の体積 V は、

\[ V = \int_a^b S(x) dx \]

この公式が語っているのは、「体積とは、断面積の総和(積分)である」という、極めてシンプルで強力な事実です。

8.2. 具体例:角錐の体積

例題1:底面積が A、高さが h の角錐の体積を、積分を用いて求めよ。

解法:

  1. 座標軸を設定する:角錐の頂点を原点 (0,0) に、高さを x 軸の正の方向に沿ってとる。底面は、平面 x=h 上にある。
  2. 断面積 S(x) を求める:x 軸上の点 x (0 \le x \le h) で、立体を x 軸に垂直な平面で切る。その断面は、底面と相似な図形となる。頂点からの距離の比が x:h なので、相似な図形の線分比も x:h である。面積比は、線分比の2乗に比例するので、(断面の面積) : (底面の面積) = x^2 : h^2S(x) : A = x^2 : h^2これを S(x) について解くと、S(x) = \frac{A}{h^2}x^2
  3. 積分して体積を求める:V = \int_0^h S(x) dx = \int_0^h \frac{A}{h^2}x^2 dx\frac{A}{h^2} は定数なので、積分の外に出せる。= \frac{A}{h^2} \int_0^h x^2 dx= \frac{A}{h^2} \left[ \frac{1}{3}x^3 \right]_0^h= \frac{A}{h^2} (\frac{1}{3}h^3 – 0) = \frac{A}{h^2} \frac{h^3}{3} = \frac{1}{3}Ah

これは、私たちが公式として知っている「錐体の体積 = \frac{1}{3} \times (\text{底面積}) \times (\text{高さ})」と完全に一致します。積分法は、このような古典的な幾何学の公式を、より一般的な原理から導出する力を持っているのです。

8.3. 回転体の体積(数学IIIへの橋渡し)

体積積分の最も重要な応用が、回転体の体積です。

曲線 y=f(x) (f(x) \ge 0) を、区間 [a, b] でx軸の周りに1回転させてできる立体を考えます。

この立体を、x 軸に垂直な平面で切ると、その断面は必ず円になります。

位置 x における断面の円の半径は、曲線の高さ f(x) に等しい。

したがって、断面積 S(x) は、円の面積公式から、

S(x) = \pi (\text{半径})^2 = \pi \{f(x)\}^2

となります。

これを体積の基本公式 V=\int_a^b S(x) dx に代入すると、回転体の体積を求める公式が得られます。

x軸周りの回転体の体積

\[ V = \pi \int_a^b {f(x)}^2 dx = \pi \int_a^b y^2 dx \]

8.4. まとめ:次元を上げる積分

積分の「スライスして足し合わせる」という思考法は、二次元の面積計算から三次元の体積計算へと、その応用範囲を自然に拡張します。

  • 基本原理 V = \int S(x)dx: 体積は、断面積の積分である。この一つの原理が、あらゆる体積計算の出発点となります。
  • 断面積の関数化: 体積を求める問題の核心は、与えられた立体の、位置 x における断面積 S(x) を、x の関数としていかにして表現するか、という点にあります。
  • 回転体への応用: 断面積が常に円になる回転体は、この原理の最も典型的で重要な応用例であり、数学IIIで詳しく学ぶことになります。

この思考の拡張を通じて、積分が、単なる面積計算ツールではなく、より高次元の量を「構成」するための、普遍的な原理であることが理解できるでしょう。


9. 速度と道のり

微分法において、物体の位置 s(t) を時間 t で微分すると、その瞬間の速度 v(t) が得られること (v(t)=s'(t)) を学びました。積分は微分の逆演算であることから、逆に、速度 v(t) を時間 t で積分すれば、位置 s(t) に関する情報が得られるはずです。

このセクションでは、この関係を詳しく探求します。ここで重要となるのは、「変位」と「道のり」という、似て非なる二つの概念の区別です。速度 v(t) の単なる定積分は、スタート地点からの位置の変化量である「変位」を与えます。一方、実際に物体が移動した総距離である「道のり」を求めるには、速度の絶対値、すなわち速さ |v(t)| を積分する必要があるのです。

9.1. 速度の積分と変位

v(t) = s'(t) の両辺を、時刻 a から b まで定積分してみましょう。

\int_a^b v(t)dt = \int_a^b s'(t)dt

右辺は、微分積分学の基本定理より、

= [s(t)]_a^b = s(b) – s(a)

となります。

s(b)-s(a) は、時刻 b における位置と、時刻 a における位置の差、すなわち、この時間区間における**位置の変化量(変位)**を表します。

速度と変位の関係

\[ \int_a^b v(t) dt = s(b) – s(a) = (\text{変位}) \]

【変位とは】

変位は、向きを持つ量(ベクトル量)です。例えば、ある点をスタートして10m進み、5m戻ってきた場合、

  • 道のり(移動距離): 10+5=15 m
  • 変位: (+10)+(-5)=5 m (スタート地点から最終的に5m進んだ位置にいる)となります。速度 v(t) が負の値(逆方向への移動)をとりうるため、その定積分も負の値になることがあり、これは負の向きへの変位を意味します。

9.2. 速さの積分と道のり

物体が実際に移動した総距離、すなわち道のり (distance traveled) L を求めるには、後退した分も正の移動距離として加算しなければなりません。これは、速さ(速度の絶対値) |v(t)| を積分することに対応します。

速さと道のりの関係

時刻 a から b までの間に物体が移動する道のり L は、

\[ L = \int_a^b |v(t)| dt \]

この計算は、絶対値を含む関数の定積分と同じ手順で行います。

  1. v(t)=0 となる時刻を求める(運動の向きが変わる点)。
  2. v(t) の符号が正の区間と負の区間に、積分を分割する。
  3. v(t)<0 の区間では、|v(t)|=-v(t)として絶対値を外し、積分を計算する。

9.3. 具体例による計算

例題:数直線上を運動する点Pの、時刻 t における速度 v(t) が v(t)=t^2-2t で与えられている。

(1) 時刻 t=0 から t=3 までの点Pの変位を求めよ。

(2) 時刻 t=0 から t=3 までの点Pが動いた道のりを求めよ。

解法:

(1) 変位

変位は、v(t) をそのまま積分すればよい。

\int_0^3 v(t)dt = \int_0^3 (t^2-2t)dt

= \left[ \frac{1}{3}t^3 – t^2 \right]_0^3

= (\frac{27}{3}-9) – 0 = 9-9=0

変位は 0。これは、t=3 のときに、点Pがスタート地点 t=0 と同じ位置に戻ってきたことを意味する。

(2) 道のり

道のりは \int_0^3 |t^2-2t| dt を計算する。

まず、v(t)=t^2-2t=t(t-2) の符号を調べる。

v(t)=0 となるのは t=0, 2。

  • 0 \le t \le 2 のとき v(t) \le 0 (負の向きに運動)
  • 2 \le t \le 3 のとき v(t) \ge 0 (正の向きに運動)

積分区間を [0, 2] と [2, 3] に分割する。

L = \int_0^3 |t^2-2t| dt = \int_0^2 |t^2-2t|dt + \int_2^3 |t^2-2t|dt

絶対値を外す。

= \int_0^2 -(t^2-2t)dt + \int_2^3 (t^2-2t)dt

= \left[ -\frac{1}{3}t^3+t^2 \right]_0^2 + \left[ \frac{1}{3}t^3-t^2 \right]_2^3

= \{ (-\frac{8}{3}+4)-0 \} + \{ (9-9) – (\frac{8}{3}-4) \}

= \frac{4}{3} + \{ 0 – (-\frac{4}{3}) \} = \frac{4}{3} + \frac{4}{3} = \frac{8}{3}

道のりは 8/3。

これは、t=0 から t=2 までに 4/3 だけ負の方向に進み、t=2 から t=3 までに 4/3 だけ正の方向に進んだ結果、合計 8/3 移動したことを意味する。

9.4. まとめ:物理的な意味での積分

速度と道のりの問題は、積分の物理的な応用を理解する上で、非常に重要です。

  • 積分は「総和」: 時間的に変化する量(速度)を、ある時間区間にわたって「足し合わせる」と、その期間における総変化量(変位)が得られる、という積分の本質を示しています。
  • 変位 vs 道のり: \int v(t)dt は正負を考慮した変位、\int |v(t)|dt は移動の総量である道のり。この違いは、絶対値の有無によって生じ、絶対値を含む積分計算の重要性を再認識させます。
  • 微分との逆対応: 「位置を微分すると速度、速度を積分すると位置の変化」という、微分と積分の美しい逆対応関係が、運動の記述という具体的な文脈で明確に示されます。

この関係を理解することで、積分法は、もはや単なる面積計算のツールではなく、時間の経過と共に蓄積される様々な物理量を計算するための、普遍的な原理であることがわかります。


10. 区分求積法の応用

定積分の定義そのものである区分求積法 \int_a^b f(x) dx = \lim_{n \to \infty} \sum_{k=1}^{n} f(x_k) \Delta x は、微分積分学の基本定理の登場によって、面積などを計算する際の「実用的な計算手段」としての役割は終えました。

しかし、区分求積法の考え方は、別の形でその重要性を発揮します。それは、この定義式を逆向きに使うという応用です。すなわち、一見すると計算が困難な数列の和の極限値の問題を、定積分の計算問題に変換して解く、という強力なテクニックです。多くの複雑な \lim_{n \to \infty} \sum (\dots) の形が、この翻訳ルールを通すことで、我々がよく知る関数の、簡単な定積分計算の問題へと姿を変えるのです。

10.1. 和の極限と定積分の関係

区分求積法の定義式(特に区間 [0, 1] の場合)を再掲します。

区間 [0, 1] で f(x) を積分する場合、a=0, b=1 なので、

\Delta x = \frac{1-0}{n}=\frac{1}{n}

x_k = 0+k\Delta x = \frac{k}{n}

となります。これを定義式に代入すると、

\[ \int_0^1 f(x) dx = \lim_{n \to \infty} \sum_{k=1}^{n} f\left(\frac{k}{n}\right) \frac{1}{n} \]

この等式が、和の極限を定積分に変換するための「翻訳辞書」となります。

極限から定積分への翻訳ルール

\lim_{n \to \infty} \frac{1}{n} \sum_{k=1}^{n} f\left(\frac{k}{n}\right) という形の極限は、以下の対応で定積分に変換できる。

  • \lim_{n \to \infty} \frac{1}{n} \sum_{k=1}^{n} \rightarrow \int_0^1
  • \frac{k}{n} \rightarrow x
  • \frac{1}{n} \rightarrow dx

10.2. 応用手順

与えられた和の極限の式を、定積分に変換する手順は以下の通りです。

変換の手順

  1. 式の変形:与えられた極限の式 \lim_{n \to \infty} (\dots) を、\frac{1}{n} \sum_{k=1}^{n} (\dots) の形に、無理やり変形する。
    • 全体を \frac{1}{n} でくくりだす。
    • 和のインデックス k を用いて、一般項を k/n の関数 f(k/n) として表現する。
  2. 定積分へ翻訳:上記の翻訳ルールに従って、式を \int_0^1 f(x) dx の形に書き換える。
  3. 定積分を計算する:得られた定積分を、微分積分学の基本定理を用いて計算する。この値が、元の極限値に等しい。

10.3. 具体例による計算

例題1:極限値 \lim_{n \to \infty} \frac{1}{n^2} (1+2+3+\dots+n) を求めよ。

解法:

この問題は \sum k = \frac{1}{2}n(n+1) を使って直接計算できるが、区分求積法の練習として解いてみる。

  1. 式の変形:\lim_{n \to \infty} \frac{1}{n^2} \sum_{k=1}^n k\frac{1}{n}\sum の形を作るために、1/n^2 のうち 1/n を \sum の中に入れる。= \lim_{n \to \infty} \frac{1}{n} \sum_{k=1}^n \frac{k}{n}
  2. 定積分へ翻訳:この式は f(k/n) = k/n の形をしている。\frac{1}{n} \to dx, \sum \to \int_0^1, k/n \to x の対応で、= \int_0^1 x dx
  3. 計算:= \left[ \frac{1}{2}x^2 \right]_0^1 = \frac{1}{2}(1)^2 – 0 = \frac{1}{2}

例題2:極限値 \lim_{n \to \infty} \left( \frac{1}{n+1} + \frac{1}{n+2} + \dots + \frac{1}{n+n} \right) を求めよ。

解法:

  1. 式の変形:まず、和を \Sigma 記号で表現する。= \lim_{n \to \infty} \sum_{k=1}^n \frac{1}{n+k}次に、\frac{1}{n}\sum f(\frac{k}{n}) の形を作る。分母・分子を n で割る。= \lim_{n \to \infty} \sum_{k=1}^n \frac{1/n}{1+k/n}\frac{1}{n} を \Sigma の前に出す。= \lim_{n \to \infty} \frac{1}{n} \sum_{k=1}^n \frac{1}{1+k/n}
  2. 定積分へ翻訳:この式は f(k/n) = \frac{1}{1+k/n} の形をしている。= \int_0^1 \frac{1}{1+x} dx
  3. 計算 (数学III):\int \frac{1}{1+x} dx = \ln|1+x| + C なので、= [\ln(1+x)]_0^1 (1+x>0 なので絶対値は不要)= \ln(1+1) – \ln(1+0) = \ln 2 – \ln 1 = \ln 2

10.4. まとめ:極限計算の新しい武器

区分求積法の応用は、数列の極限という問題と、関数の積分という問題の間に、深い関係があることを示しています。

  • 逆翻訳の威力: 定積分の定義を逆向きに使うことで、計算が困難な和の極限の問題を、機械的に計算できる定積分の問題へと「翻訳」することができます。
  • 1/n \sum f(k/n) への変形: このテクニックの鍵は、与えられた式を、いかにしてこの標準的な形へと変形できるか、という点にあります。
  • 離散と連続の橋渡し: この関係は、n 個の離散的な値の和 \Sigma が、n \to \infty の極限で、連続的な量の和である積分 \int へと移行することを示しており、「離散」と「連続」という数学の二大概念の橋渡しをしています。

このテクニックは、一見すると技巧的に見えるかもしれませんが、その根底には定積分の定義そのものが横たわっており、積分という概念のより深い理解へと繋がる、重要な応用例なのです。

Module 12:積分法(2) 面積の総括:無限の和の力、面積を掌握す。積分は、図形の魂を測る術なり

本モジュールは、積分法が持つ最も直感的で強力な応用、すなわち「面積」を完全に掌握するための旅でした。私たちは、微分積分学の基本定理という名の万能の鍵を手に、古代ギリシャ以来の難問であった、曲線で囲まれた図形の求積問題へと挑みました。

その基本戦略は、区分求積法の思想に根差した、S = \int (\text{上の曲線} - \text{下の曲線}) dx という、驚くほどシンプルで普遍的なものでした。この一つの原理が、座標軸との間の面積、二つの曲線が織りなす複雑な領域、さらには接線が作り出す図形に至るまで、あらゆる面積問題を解き明かすためのマスターキーとなりました。私たちは、このキーを、面積を二等分したり、面積そのものを最大化・最小化したりといった、より高度な問題へと応用する術をも学びました。

そして、1/6公式のような計算のショートカットは、特定の状況下で積分が示す構造の美しさを教えてくれると同時に、私たちの計算能力を飛躍的に高めてくれました。さらに、積分の思考法が二次元の面積から三次元の体積へ、静的な図形から速度と道のりという動的な量へと、その適用範囲を広げていく様を目の当たりにし、その原理の普遍性を実感しました。

無限の和の力、積分。それは、単に数値を計算するだけのツールではありません。それは、捉えどころのない連続的な対象を、論理の力で分割し、足し合わせ、その本質的な「量」を測るための、普遍的な知恵であり、術(すべ)なのです。このモジュールで身につけた、図形の魂を測る術は、あなたの数学の世界を、より豊かで、確かなものにしたはずです。

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