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【基礎 世界史(通史)】Module 23:21世紀の挑戦
本モジュールの目的と構成
21世紀の幕開けは、人類に、かつてないほどの技術的進歩と経済的繁栄の可能性を提示すると同時に、その生存基盤そのものを揺るしかねない、複雑かつ相互に関連した地球規模の挑戦を突きつけました。本モジュールでは、現代世界が直面するこれらの根源的な課題を、単なる個別の問題としてではなく、グローバル化された世界のシステムが生み出す、構造的な緊張関係として捉え直すことを目的とします。我々は、気候変動やパンデミックといった、国境を無力化する「惑星的」な危機を探求し、それらが難民問題や国際秩序の動揺にいかに連鎖していくかを分析します。また、情報通信革命や生命科学の飛躍的な進歩が、社会のあり方を根底から変容させる光の側面と、倫理的なジレンマや新たな分断を生み出す影の側面を併せ持つことを検証します。そして、これらの複雑な課題に対する人類の応答として、SDGs(持続可能な開発目標)のような国際的な協調の試みと、それが直面するグローバル資本主義の構造的課題や人権をめぐる相克を深く考察します。
本モジュールは、以下の10の学習項目で構成されており、21世紀という時代を特徴づける、避けては通れない挑戦の数々を、その本質から理解するための知的な枠組みを提供します。
- 故郷を追われる人々:難民問題の深刻化シリア内戦などを背景に、人為的な紛争と自然災害が、いかにして第二次世界大戦後で最大規模の難民・国内避難民を生み出し、国際社会に人道的・政治的な難題を突きつけているかを分析します。
- 地球からの警告:気候変動とパリ協定人類の経済活動が引き起こす地球温暖化の科学的根拠と、その壊滅的な影響を回避するために、国際社会が「パリ協定」という画期的な枠組みをいかにして構築し、それがどのような困難に直面しているかを検証します。
- デジタル化する世界:情報通信革命(IT革命)インターネットとスマートフォンの普及が、社会に遍在する「プラットフォーム」を生み出し、我々の生活や経済、民主主義のあり方をいかに根底から変容させ、新たな機会と脅威をもたらしているかを解明します。
- 見えざる敵の襲来:新型コロナウイルスのパンデミック一つのウイルスが、グローバル化した世界をいかにして停止させ、医療体制の脆弱性、国家間のエゴイズム、そして社会経済的な格差を白日の下に晒したか、その歴史的なインパクトを考察します。
- 揺らぐ「戦後の常識」:現代の国際秩序の動揺アメリカが主導してきた自由主義的な国際秩序が、中国やロシアといった権威主義国家からの挑戦と、欧米内部からのポピュリズムによって、いかにしてその基盤を揺るがされているかを分析します。
- 誰一人取り残さない未来へ:持続可能な開発目標(SDGs)貧困、飢餓から、ジェンダー平等、気候変動対策まで、人類が直面する広範な課題を統合的に解決しようとする、国連の壮大な目標「SDGs」の理念と、その実現に向けた世界の取り組みを探ります。
- 普遍的価値の追求と相克:ジェンダーと人権人権という理念が、フェミニズムやLGBTQ+の権利運動を通じて、いかにその普遍性を拡張してきたか、そしてその進展が、なぜ今、文化的なバックラッシュや権威主義国家からの挑戦に直面しているのかを考察します。
- フロンティアへの回帰:宇宙開発の新たな展開国家主導の競争から、SpaceXに代表される民間企業が主役となる「NewSpace」の時代へと、宇宙開発が大きなパラダイムシフトを遂げ、月や火星を目指す新たな競争が始まった現状を分析します。
- 「神の領域」に踏み込む技術:生命科学の進歩と倫理ゲノム編集技術CRISPR-Cas9の登場に象徴される生命科学の革命的な進歩が、難病治療に光明をもたらす一方で、「デザイナーベビー」のような深刻な倫理的ジレンマを社会にいかに突きつけているかを論じます。
- 成長の限界と格差のジレンマ:グローバル資本主義の課題冷戦終結後の世界を席巻したグローバル資本主義が、なぜ深刻な経済格差の拡大と、地球環境の持続可能性の危機という、自らの成功の果実によって、そのシステム自体の正当性を問われるに至ったのか、その構造的課題を総括します。
このモジュールを通じて、我々は21世紀という複雑な時代を生きる上で不可欠な、地球規模の課題を構造的に理解し、未来を構想するための批判的な視座を養います。
1. 難民問題の深刻化
1.1. 現代の難民・避難民:その定義と規模
21世紀に入り、世界は、第二次世界大戦後で最も深刻な人々の強制移動の危機に直面しています。故郷を追われる人々の数は年々増加し、1億人を超えるという、驚異的な数字に達しています。これらの人々は、しばしば一括りに「難民」と呼ばれますが、その背景や法的地位は様々です。
- 難民(Refugee):国際法(1951年の「難民の地位に関する条約」)で明確に定義されており、「人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員であること、または政治的意見を理由に迫害を受けるという十分に理由のある恐怖のために、自国の外にいる者であって、その国の保護を受けることができない、またはそのような恐怖のために受けることを望まない者」を指します。重要なのは、国境を越えて他国に庇護を求めている点です。
- 国内避難民(Internally Displaced Person, IDP):難民と極めて似た理由(紛争、暴力、人権侵害など)で故郷を追われながらも、国境内に留まっている人々を指します。彼らは、国際的な難民保護の枠組みの対象外であり、しばしば支援が届きにくい、より脆弱な立場に置かれます。実際には、難民の数をはるかに上回る、数千万人の国内避難民が存在します。
- 庇護申請者(Asylum Seeker):他国に到着し、難民としての認定を求めて庇護を申請中の人々を指します。審査の結果、難民と認定される場合もあれば、却下される場合もあります。
これらの人々に加え、経済的な理由でより良い生活を求めて国境を越える「経済移民」もいますが、彼らは迫害を理由とする難民とは、国際法上、区別されます。しかし、現実には、紛争と貧困が複雑に絡み合っており、その境界線を引くことは、しばしば困難です。
1.2. 危機を駆動する要因:紛争、国家の崩壊、気候変動
現代において、これほどまでに難民・避難民が増加している背景には、いくつかの深刻な要因が絡み合っています。
最大の要因は、紛争の激化と長期化です。2011年に始まったシリア内戦は、21世紀最大の難民危機を引き起こしました。アサド政権、反体制派、イスラム国(IS)などが入り乱れる凄惨な内戦は、人口の半分以上にあたる1300万人以上を国内外への避難へと追いやりました。また、アフガニスタン、南スーダン、イエメン、コンゴ民主共和国などでの、終わりの見えない紛争も、数百万単位の難民・避難民を生み出し続けています。ミャンマーにおける、イスラム系少数民族ロヒンギャに対する迫害は、「民族浄化」の様相を呈し、多くの人々が隣国バングラデシュへの避難を余儀なくされています。
第二に、**国家の崩壊(破綻国家)**です。リビアやソマリアのように、中央政府がその統治能力を失い、武装勢力が割拠する無政府状態に陥った国々では、国民の安全が全く保障されず、多くの人々が、国外への脱出を試みます。これらの国々は、アフリカからヨーロッパを目指す、危険な移住ルートの中継地ともなっています。
第三に、新たな、そして今後ますます深刻化すると懸念される要因が、気候変動です。干ばつの長期化、砂漠化の進行、海面上昇、そして巨大なハリケーンや洪水といった異常気象の頻発は、人々の生活基盤を奪い、居住不能な地域を拡大させています。これにより故郷を追われる人々は「気候難民」と呼ばれますが、現在の国際法では、彼らを難民として保護する明確な枠組みは、まだ確立されていません。
1.3. 2015年欧州難民危機とその政治的影響
これらの要因が複合的に絡み合い、頂点に達したのが、2015年にヨーロッパを揺るがした「欧州難民危機」でした。この年、シリア内戦の激化や、リビアの混乱などを背景に、100万人を超える難民・移民が、地中海を渡り、あるいはバルカン半島を陸路で北上し、ヨーロッパへと殺到しました。
その多くは、人道主義的価値を重んじ、比較的寛容な難民政策をとっていたドイツやスウェーデンを目指しました。ドイツのメルケル首相は、「我々にはできる(Wir schaffen das)」と述べ、一時的に多くのシリア難民を受け入れる決断をしましたが、これはドイツ社会、そしてEU全体に、大きな政治的・社会的な波紋を広げました。
難民の受け入れをめぐって、EU加盟国間の足並みは大きく乱れました。難民が最初に到着する「玄関口」となったギリシャやイタリアは、その負担の大きさに悲鳴を上げ、ハンガリーなどの東欧諸国は、国境にフェンスを建設し、難民の受け入れを強硬に拒否しました。EUが定めた難民の分担受け入れ案は、多くの国で抵抗に遭い、EUの結束と連帯の理念は、大きく揺らぎました。
この危機は、ヨーロッパ各国の国内政治にも、深刻な影響を及ぼしました。難民・移民の急増は、文化的な摩擦や社会保障への負担増への懸念を煽り、反移民・反イスラムを掲げる右派ポピュリズム政党の支持を、急速に拡大させました。ドイツでは「ドイツのための選択肢(AfD)」が国政で議席を獲得し、フランス、イタリア、スウェーデンなどでも、同様の政党が躍進しました。イギリスのEU離脱(ブレグジット)をめぐる国民投票でも、移民問題が主要な争点の一つとなりました。
2015年の危機は、人道主義の理想と、国家の主権や安全保障という現実との間で、先進民主主義国家がいかに困難な舵取りを迫られているかを、浮き彫りにしたのです。
2. 気候変動とパリ協定
2.1. 科学からの警告:IPCCの役割
21世紀における人類の持続可能性に対する、最も根源的な脅威が、気候変動、とりわけ地球温暖化です。地球温暖化とは、人間活動、主に化石燃料(石炭、石油、天然ガス)の燃焼によって、大気中に放出される二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスが増加し、地球の平均気温が上昇する現象を指します。
この問題に関する、最も権威ある科学的知見を提供してきたのが、国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)によって1988年に設立された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」です。IPCCは、自ら研究を行う機関ではなく、世界中の数千人の科学者が発表した、査読済みの最新の科学論文を収集・評価し、数年おきに、気候変動の現状に関する「評価報告書」を発表しています。その報告書は、各国政府の政策決定者にとって、科学的根拠に基づいた判断を下すための、最も重要な参照資料となっています。
IPCCは、その報告書の中で、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには、疑う余地がない」と断定しています。そして、このまま温暖化が進行すれば、熱波、豪雨、干ばつといった異常気象の頻度と強度が増し、海面の上昇が沿岸の都市や島嶼国を脅かし、食糧生産や生態系に、不可逆的な、壊滅的影響をもたらすと、繰り返し警告してきました。この科学的コンセンサスが、国際社会に、気候変動対策の緊急性を認識させる上で、決定的な役割を果たしてきたのです。
2.2. 国際交渉の歩み:京都議定書からパリ協定へ
気候変動という地球規模の課題に対応するため、国際社会は、1990年代から、困難な交渉の道のりを歩んできました。
- 地球サミットと国連気候変動枠組条約(1992年):ブラジルのリオデジャネイロで開催された「地球サミット」で、気候変動への国際的な取り組みの基本原則を定めた**国連気候変動枠組条約(UNFCCC)**が採択されました。この条約は、温室効果ガスの排出を抑制することを共通の目標としましたが、具体的な削減義務は定めませんでした。
- 京都議定書(1997年採択、2005年発効):UNFCCCのもとで開かれた第3回締約国会議(COP3)で採択された京都議定書は、初めて、先進国に対して、温室効果ガスの具体的な削減義務(日本はマイナス6%など)を法的に課した、画期的なものでした。しかし、京都議定書は、いくつかの深刻な問題を抱えていました。第一に、当時、世界最大の排出国であったアメリカが、国内の産業界の反対で、最後まで批准しなかったことです。第二に、中国やインドといった、急成長する途上国には、削減義務が課されていなかったことです。この「先進国と途上国の二分論」が、その後の交渉の大きな壁となりました。
- パリ協定(2015年採択):京都議定書の限界を乗り越えるため、長年の交渉の末、COP21で採択されたのが「パリ協定」です。この協定は、いくつかの点で、京都議定書とは根本的に異なる、新しい国際的な枠組みを構築しました。
- 普遍的な参加:先進国だけでなく、中国やインドを含む、全ての国が参加し、削減目標を提出する義務を負う、初めての普遍的な枠組みとなりました。
- 長期目標の設定:世界の平均気温の上昇を、産業革命以前に比べて「2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求する」という、野心的な長期目標を掲げました。
- ボトムアップ方式:各国の削減目標(国が決定する貢献, NDC)は、国際的に強制されるのではなく、各国が自らの事情に応じて自主的に設定し、5年ごとに見直し、より野心的な目標を提出することが求められる、という「ボトムアップ」方式を採用しました。
2.3. 「1.5℃目標」への険しい道のり
パリ協定は、全世界が気候変動対策に向けて協調する、歴史的な一歩となりました。しかし、その後の道のりは、決して平坦ではありません。
最大の障害の一つが、2017年のアメリカのトランプ政権によるパリ協定からの離脱宣言でした(バイデン政権下で復帰)。世界第2位の排出国であるアメリカの離脱は、国際的な協調体制に大きな打撃を与えました。
また、IPCCの報告書は、気温上昇を1.5℃に抑えるというパリ協定の努力目標を達成するためには、2030年までに、世界のCO2排出量を、2010年比で約45%削減し、2050年頃には、排出量と吸収量を差し引きゼロにする「カーボンニュートラル(脱炭素)」を達成する必要があると指摘しています。しかし、各国が現在提出している削減目標(NDC)をすべて足し合わせても、この目標達成には、全く届かないのが現状です。
この目標達成のためには、エネルギーシステムを、化石燃料から、太陽光や風力といった再生可能エネルギーへと、根本的に転換する必要があります。しかし、この「エネルギー転換」は、多大な投資を必要とし、また、石炭産業などに依存する地域の雇用をどう守るか、という「公正な移行(Just Transition)」の課題も伴います。
スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんに代表される、若い世代による気候危機への抗議運動(「未来のための金曜日」)は、各国政府に対して、より大胆な行動を求める、大きな政治的圧力となっています。気候変動は、もはや単なる環境問題ではなく、経済、社会、そして世代間の公正をめぐる、21世紀の中心的な課題となっているのです。
3. 情報通信革命(IT革命)
3.1. PCからインターネット、そしてスマートフォンへ
20世紀末から21世紀にかけて、人類の社会は、「情報通信革命(IT革命またはICT革命)」と呼ばれる、産業革命に匹敵する、巨大な技術的変革を経験しました。この革命は、大きく三つの波を経て、社会の隅々まで浸透していきました。
第一の波は、1980年代から始まった「パーソナルコンピュータ(PC)革命」です。それまで、大企業や研究機関の専門家しか使えなかったコンピュータが、小型化・低価格化し、オフィスや家庭に普及しました。これにより、情報の処理と作成が、個人レベルで、爆発的に行われるようになりました。
第二の波は、1990年代半ばから本格化した「インターネット革命」です。世界中のコンピュータを相互に接続するネットワークであるインターネットが、商用化され、一般の人々にも開放されました。ウェブブラウザの登場により、誰でも簡単に、世界中の情報にアクセスし、電子メールで瞬時にコミュニケーションを取ることが可能になりました。AmazonやGoogleといった、今日の世界を代表する企業は、このインターネットの黎明期に誕生しました。
そして、第三の、そして最も社会へのインパクトが大きかった波が、2007年のAppleによるiPhoneの登場に象徴される「スマートフォン革命」です。これにより、インターネットは、机の上のPCから解放され、常に持ち歩き、いつでもどこでも接続できる、ユビキタスな存在となりました。スマートフォンの普及は、フェイスブック、ツイッター、インスタグラムといった**ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)**の爆発的な利用拡大を促し、情報の生産と消費のあり方を、再び根底から変えました。誰もが、情報の受け手であると同時に、発信者にもなれる「Web 2.0」の時代が到来したのです。
3.2. プラットフォーム企業の支配とデータ資本主義
この情報通信革命が生み出した、現代社会の最も重要な特徴が、「プラットフォーム企業」の出現と、その圧倒的な支配力です。
プラットフォームとは、多くの異なるグループ(例えば、商品の売り手と買い手、情報の提供者と検索者)が、相互にやり取りをするための「場」を提供する、デジタルな基盤のことです。アメリカの**GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)や、中国のBAT(Baidu, Alibaba, Tencent)**に代表される巨大IT企業は、検索エンジン、OS、SNS、電子商取引といった、現代のデジタル社会に不可欠なプラットフォームを独占しています。
これらの企業の強さの源泉は、二つあります。一つは、「ネットワーク効果」です。利用者が増えれば増えるほど、そのサービスの価値が高まり、さらに多くの利用者を惹きつけるという、正のフィードバックループが働きます。これにより、一度、市場を支配したプラットフォームは、競合他社を寄せ付けない、勝者総取りの「独占」的な地位を築きやすくなります。
もう一つの、そしてより本質的な力の源泉が、「データ」です。我々が、これらのプラットフォームを(多くの場合、無料で)利用する際に、検索履歴、購買履歴、位置情報、友人関係といった、膨大な個人データが、プラットフォーム企業によって収集・分析されています。このデータを活用して、企業は、個人の興味や関心に合わせた、極めて精度の高い広告(ターゲティング広告)を配信し、莫大な利益を上げています。この、個人のデータを資源として、人間の行動を予測・誘導することで利益を生み出す新しい資本主義の形態は、「監視資本主義」あるいは「データ資本主義」と呼ばれています。
3.3. デジタル社会の光と影
情報通信革命は、我々の社会に、計り知れないほどの恩恵をもたらしました。情報の民主化は、個人のエンパワーメントを促し、「アラブの春」に象徴されるように、市民が独裁政権に立ち向かうための、強力なツールとなりました。電子商取引は、消費者に無限の選択肢を与え、リモートワークは、働き方の多様性を広げました。
しかし、その一方で、デジタル社会は、深刻な影の側面も露呈させています。
- 偽情報と社会の分断:SNSは、真偽不明の情報や、特定の意図を持った偽情報(フェイクニュース)、そして過激な陰謀論が、瞬時に拡散されるための、温床となっています。また、アルゴリズムが、ユーザーの好みに合わせた情報ばかりを表示することで、人々が、自分と同じ意見ばかりに囲まれ、異なる意見を許容しなくなる「エコーチェンバー」や「フィルターバブル」といった現象を生み出し、社会の分d断と政治的な対立を、深刻化させています。
- プライバシーの侵害と監視社会:巨大IT企業による個人データの独占と、その不透明な利用は、深刻なプライバシー上の懸念を引き起こしています。さらに、国家が、このテクノロジーを、国民を監視し、管理するためのツールとして利用する危険性も、現実のものとなっています。特に中国では、顔認証技術や、個人の行動を点数化する「社会信用システム」といった、大規模な監視システムが、社会統制のために導入されています。
- デジタル・デバイド(情報格差):インターネットやデジタル機器を使いこなせる層と、そうでない層との間に、情報へのアクセスや、経済的な機会の面で、新たな格差(デジタル・デバイド)が生まれています。
情報通信革命がもたらした、これらの光と影にいかに向き合い、テクノロジーを、社会の利益のために、いかに賢く、そして倫理的に統御していくかは、21世紀の社会にとって、最も重要な課題の一つとなっているのです。
4. 新型コロナウイルスのパンデミック
4.1. グローバル化した世界の急停止
2019年末、中国の武漢市で、原因不明の肺炎患者が報告された時、それが、21世紀の世界を根底から揺るがす、歴史的な出来事の始まりであると予測できた者は、ほとんどいませんでした。この新しいウイルスは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)と名付けられ、それが引き起こす感染症はCOVID-19と命名されました。
グローバル化によって、ヒトとモノが緊密に結びついた現代世界では、ウイルスは、航空機ネットワークに乗って、瞬く間に世界中へと拡散していきました。2020年3月11日、世界保健機関(WHO)は、ついに、COVID-19がパンデミック(世界的な大流行)の状態にあると宣言しました。
これを受けて、世界各国は、感染拡大を抑え込むため、国境の閉鎖、都市の封鎖(ロックダウン)、外出制限、学校の閉鎖といった、平時には考えられなかったような、 drastic な措置を次々と導入しました。グローバル化の象徴であった、国境を越える人々の自由な移動は、ほぼ完全に停止。世界経済は、あたかも心臓が止まったかのように、急激な収縮に陥り、その規模は、世界恐慌以来、最悪のものとなりました。パンデミックは、グローバル化がもたらす繁栄の裏側に、システム全体を瞬時に麻痺させかねない、巨大な脆弱性が存在することを、白日の下に晒したのです。
4.2. 露呈した格差と国家の役割の再浮上
パンデミックは、社会の平時では見えにくかった、様々な格差を、残酷なまでに浮き彫りにしました。
医療従事者や、スーパーの店員、配送業者といった、社会機能を維持するために不可欠な「エッセンシャルワーカー」の多くが、低賃金で、かつ感染のリスクが高い環境で働き続けなければならなかった一方で、知識労働者の中には、リモートワークで、安全な自宅から仕事を続けることができた層もいました。また、人種的マイノリティや、貧困層ほど、感染率や死亡率が高い傾向が、多くの国で見られ、健康における社会経済的な格差が、改めて露呈しました。
この未曾有の危機に対応する中で、これまで「小さな政府」を志向してきた新自由主義的な風潮とは逆に、「国家の役割」が、再び大きくクローズアップされたことも、重要な変化でした。各国政府は、国民の生命と健康を守るため、私権を制限する強力な措置を発動し、経済の崩壊を防ぐため、巨額の財政出動による、個人への現金給付や、企業への支援を行いました。パンデミックは、市場原理だけでは対応できない危機に際して、国民を守る最後の砦としての、国家の重要性を、人々に再認識させたのです。
4.3. ワクチン開発競争と国際協調の課題
パンデミックという暗闇の中で、人類の科学技術は、驚異的な光明をもたらしました。mRNAワクチンという、全く新しい技術を用いたワクチンが、通常であれば10年以上かかるところを、わずか1年足らずという、前代未聞のスピードで開発され、実用化されたのです。これは、世界中の科学者と、アメリカの「ワープ・スピード作戦」に代表される、国家による巨額の資金援助が結実した、歴史的な科学的偉業でした。
しかし、この希望の光は、同時に、国際社会の醜い側面も照らし出しました。開発に成功した先進国は、自国民の分を優先的に確保することに走り、「ワクチン・ナショナリズム」と呼ばれる、熾烈な囲い込み競争を繰り広げました。その結果、多くの発展途上国では、ワクチンへのアクセスが大幅に遅れ、世界的なワクチン格差が生まれました。「ウイルスに国境はない」にもかかわらず、国際協調は、各国のエゴイズムの前に、十分には機能しませんでした。
WHOなどの国際機関も、パンデミックの初期対応の遅れや、中国への配慮をめぐる政治的な対立などから、その権威とリーダーシップの限界を露呈しました。
新型コロナウイルスのパンデミックは、人類が、グローバルな相互依存と、国家という単位の間の、根源的な緊張関係の中に生きていることを、改めて突きつけました。それは、気候変動と同様に、一国だけでは解決できない地球規模の課題に対して、国際社会がいかにして有効な協調体制を築くことができるかという、21世紀における、最も根本的な問いを、我々に投げかけているのです。
5. 現代の国際秩序の動揺
5.1. 「リベラル国際秩序」とその黄昏
第二次世界大戦後、特に冷戦終結後に、世界の基軸となってきた国際秩序は、「リベラル国際秩序(Liberal International Order)」と呼ばれます。これは、アメリカの圧倒的な国力を背景として、①国連やWTOといった多国間の国際機関、②NATOや日米同盟といった同盟関係、そして③自由貿易、民主主義、人権、法の支配といった共通の価値観(リベラルな価値)という、三つの要素によって支えられてきました。この秩序のもとで、世界は、程度の差こそあれ、比較的安定し、経済的な繁栄を享受してきたと考えられています。
しかし、21世紀に入り、このリベラル国際秩序は、内外からの深刻な挑戦に晒され、大きく揺らぎ始めています。フランシス・フクヤマが、冷戦終結時に楽観的に予測した「歴史の終わり」、すなわち、リベラル民主主義の最終的な勝利の時代は、訪れませんでした。むしろ、世界は、価値観や秩序をめぐる、新たな競争の時代へと突入しています。
5.2. 外部からの挑戦:権威主義国家の台頭
リベラル国際秩序に対する、最も明確な挑戦は、中国とロシアという、二つの権威主義的な大国から来ています。
- 中国は、驚異的な経済成長を背景に、自信を深め、アメリカが主導する既存の秩序に対して、公然と異議を唱えるようになりました。中国は、南シナ海での一方的な領有権の主張や、軍事拠点の建設によって、国際法(法の支配)を無視する行動をとり、既存の秩序に挑戦しています。また、AIIB(アジアインフラ投資銀行)の設立や、「一帯一路」構想の推進を通じて、アメリカ主導のブレトン・ウッズ体制とは異なる、自国中心の経済的な秩序を、ユーラシア大陸からアフリカにかけて、構築しようと試みています。さらに、国内での人権抑圧を強化しながら、その「国家資本主義」モデルを、途上国にとって、西側の民主主義に代わる、もう一つの魅力的な選択肢として提示しています。
- ロシアは、プーチン大統領のもとで、「強いロシア」の復活を掲げ、NATOの東方拡大を、自国の安全保障に対する脅威と見なしてきました。2014年のクリミア併合、そして2022年のウクライナへの全面侵攻は、第二次世界大戦後、ヨーロッパでタブーとされてきた、武力による国境変更を、公然と行うものであり、リベラル国際秩序の根幹である、国家主権の尊重と、武力行使の禁止という原則を、正面から破壊する行為でした。ロシアはまた、サイバー攻撃や偽情報の拡散といった「ハイブリッド戦争」を通じて、西側民主主義国家の内部から、その結束を揺さぶろうとしています。
5.3. 内部からの挑戦:ポピュリズムと米国の内向き志向
リベラル国際秩序の動揺は、外部からの挑戦だけでなく、その中心である西側民主主義国家の内部からの要因によっても、引き起こされています。
その最大の要因が、前章で見た、ポピュリズムとナショナリズムの台頭です。2016年のイギリスのEU離脱(ブレグジット)や、アメリカのドナルド・トランプ大統領の誕生は、その象徴でした。トランプ大統領は、「アメリカ・ファースト(自国第一主義)」を掲げ、国連やWTOといった多国間協調の枠組みを軽視し、NATOの同盟国に対しても、その負担のあり方を厳しく問い、時には保護主義的な貿易戦争も辞さない姿勢を示しました。これは、これまで秩序の最大の担い手であったアメリカ自身が、その役割を放棄しかねないという、深刻な事態でした。
この背景には、グローバル化の過程で、国内の格差が拡大し、取り残されたと感じる人々の間で、国際協調や自由貿易が、自らの利益ではなく、一部のエリート層の利益にしか資さない、という強い不信感が広がったことがあります。
冷戦終結後、一時的に、アメリカが唯一の超大国として君臨する「ユニポール(単極)」の時代が現出しましたが、今や、世界は、米中二極対立を軸としながらも、ロシア、インド、ヨーロッパなどが、それぞれに影響力を行使する、「マルチポール(多極)」の時代へと移行しています。共通のルールや価値観が揺らぎ、剥き出しの国益がぶつかり合う、より不安定で、予測困難な時代が、始まろうとしているのです。
6. 持続可能な開発目標(SDGs)
6.1. MDGsの成果と限界を超えて
21世紀の人類が直面する、貧困、格差、環境破壊といった、複雑に絡み合った課題に対し、国際社会が、包括的な解決を目指して掲げた壮大な目標が、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, SDGs)」です。
SDGsは、2001年から2015年まで、国際社会の貧困削減の取り組みの指針となった「ミレニアム開発目標(MDGs)」の後継として、策定されました。MDGsは、極度の貧困と飢餓の撲滅、初等教育の完全普及、乳幼児死亡率の削減といった、8つの目標を掲げ、特に途上国の開発課題に焦点を当てていました。この取り組みは、一定の成果を上げ、世界の貧困人口の割合を半減させるなど、具体的な改善をもたらしました。
しかし、MDGsには、いくつかの限界も指摘されていました。それは、主に途上国の課題に限定されており、先進国自身の役割が明確でなかったこと、そして、経済、社会、環境という、開発の三つの側面が、十分に統合されていなかったことなどです。
これらの反省に基づき、2015年9月の国連サミットで、MDGsの達成期限である2015年から、2030年までを目標期間とする、新たな国際目標として、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が、193の全加盟国の合意のもとで採択されました。その中核をなすのが、SDGsです。
6.2. 17の目標と「誰一人取り残さない」理念
SDGsは、17の目標(ゴール)と、それを具体化した169のターゲットから構成されています。その内容は、MDGsから引き継がれた「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」といった目標に加え、より広範な課題を網羅しています。
- 社会:すべての人に健康と福祉を、質の高い教育をみんなに、ジェンダー平等を実現しよう
- 経済:働きがいも経済成長も、つくる責任つかう責任、人や国の不平等をなくそう
- 環境:安全な水とトイレを世界中に、エネルギーをみんなにそしてクリーンに、気候変動に具体的な対策を、海の豊かさを守ろう、陸の豊かさも守ろう
- 平和と制度:平和と公正をすべての人に
- パートナーシップ:パートナーシップで目標を達成しよう
これらの目標が示すように、SDGsは、経済成長、社会的包摂、そして環境保護という、三つの側面を、不可分なものとして統合的に捉えている点が、大きな特徴です。
そして、この17の目標全体を貫く、最も重要な基本理念が、「誰一人取り残さない(Leave No One Behind)」という誓いです。これは、開発の恩恵を、最も貧しい人々や、社会的に弱い立場に置かれた人々にこそ、優先的に届けるという、強い決意の表明です。
また、MDGsが主に途上国向けの目標であったのに対し、SDGsは、先進国を含む、すべての国が、国内的にも、国際的にも、その達成に取り組むべき「普遍的(ユニバーサル)」な目標である、という点も、大きな違いです。
6.3. 理想の実現に向けた挑戦
SDGsは、2030年のあるべき世界の姿を描いた、極めて野心的なビジョンです。しかし、それは、法的な拘束力を持つ条約ではなく、その達成は、各国政府、地方自治体、企業、そして市民社会の一人ひとりの、自主的な取り組みに委ねられています。
その実現に向けた道のりは、平坦ではありません。目標を達成するために必要な資金は、莫大であり、特に途上国を支援するための、先進国からの資金援助は、十分とは言えない状況です。また、各目標の進捗を測るための、信頼できるデータを収集・分析することも、大きな課題となっています。
さらに、2020年から世界を襲った新型コロナウイルスのパンデミックは、世界の貧困と格差を再び拡大させ、SDGsの達成に向けた努力に、深刻な後退をもたらしました。
しかし、SDGsは、世界の国々が、これからの15年間で、どのような世界を目指すべきかという、共通の言語と、具体的な羅針盤を提供したという点で、計り知れない価値を持っています。気候変動対策や、ジェンダー平等といった課題が、企業の投資判断や、消費者の商品選択においても、重要な基準となりつつあるように、SDGsは、政府だけでなく、経済や社会のあり方そのものを、持続可能な方向へと変革していくための、強力な触媒として、その重要性を増しているのです。
7. ジェンダーと人権
7.1. 人権概念の発展と普遍性
「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」
1948年に国連総会で採択された「世界人権宣言」の第一条は、人権が、国籍、人種、性別、宗教にかかわらず、すべての人々が、生まれながらに持つ、固有の権利であることを、高らかに宣言しました。第二次世界大戦中の、ホロコーストに代表される、国家による大規模な人権侵害への痛烈な反省から生まれたこの宣言は、その後の国際人権法の発展の礎となりました。
その後、この理念は、法的拘束力を持つ、国際人権規約(社会権規約、自由権規約)や、人種差別撤廃条約、女子差別撤廃条約、子どもの権利条約といった、個別の条約として具体化され、人権を保護することは、もはや各国の国内問題ではなく、国際社会全体の責務であるという考え方が、確立されていきました。
しかし、この「人権の普遍性」という理念は、常に挑戦に晒されてきました。一部の国々は、「アジア的価値」や「イスラムの価値」といった、地域の文化的・歴史的特殊性を持ち出し、人権の概念が、西欧的な価値観の押し付けであると批判してきました(文化的相対主義)。また、権威主義的な国家は、「主権の尊重」や「内政不干渉」を盾に、自国の深刻な人権侵害に対する、国際社会からの批判を、拒絶し続けています。
7.2. フェミニズムの波とジェンダー平等への道
人権概念が、その普遍性を拡張していく上で、最も重要な役割を果たした運動の一つが、フェミニズムです。この運動は、歴史的に、いくつかの「波」として説明されることがあります。
- 第一波フェミニズム(19世紀末〜20世紀初頭):主に、女性の参政権の獲得を目指す運動でした。
- 第二波フェミニズム(1960年代〜1980年代):法的な権利の平等だけでなく、雇用、教育、家庭内における、事実上の差別や、性的な役割分業の撤廃を求める、より広範な社会・文化的な変革を目指しました。
- 第三波・第四波フェミニズム(1990年代以降):これまでのフェミニズムが、主に白人の中産階級の女性の視点に偏っていたことを批判し、人種や階級、性的指向といった、様々な要素が交差する、多様な女性の経験を重視する「インターセクショナリティ」の考え方を提示しました。
国際的な舞台では、1995年に北京で開催された第4回世界女性会議が、大きな転換点となりました。この会議では、「女性の権利は人権である」というスローガンが掲げられ、女性に対する暴力などが、普遍的な人権問題として、明確に位置づけられました。
今日、ジェンダー平等は、SDGsの独立した目標の一つとしても掲げられ、国際社会の共通の課題となっています。しかし、同一労働同一賃金が実現していない「ジェンダー賃金格差」や、政治・経済分野における女性の過小代表、そして、依然として世界中で後を絶たない、女性に対する暴力など、その達成に向けた課題は、山積しています。2017年にSNSから始まった「#MeToo」運動は、これまで見過ごされてきた、職場などでのセクシャル・ハラスメントの実態を告発し、社会の意識を大きく変えるきっかけとなりました。
7.3. LGBTQ+の権利と新たなバックラッシュ
近年、人権をめぐる議論の新たなフロンティアとなっているのが、LGBTQ+(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィアなど、性的少数者)の権利です。
2001年にオランダが、世界で初めて同性婚を法制化したのを皮切りに、21世紀に入り、欧米の多くの国々で、同性カップルの権利を保障する動きが、急速に進展しました。これは、性的指向や性自認にかかわらず、すべての個人が、尊厳を持って、平等に扱われるべきであるという、人権の普遍性の理念を、さらに拡張する動きと捉えられます。
しかし、ジェンダー平等やLGBTQ+の権利をめぐる、こうした進歩的な動きは、同時に、保守的な宗教勢力や、右派ポピュリズム勢力からの、強い**バックラッシュ(反動)**にも直面しています。彼らは、これらの動きを、伝統的な家族観や、道徳的価値を破壊するものと見なし、激しく攻撃します。ロシアや、一部のアフリカ、中東諸国では、同性愛を犯罪と見なす法律が、依然として存在、あるいは強化されるなど、世界の状況は、一様ではありません。
人権とジェンダーをめぐる問題は、個人のアイデンティティや、社会の根幹をなす価値観と、深く結びついています。それは、普遍的な理念の追求と、文化的な多様性や、伝統的価値との間の、緊張と対話が、絶えず続けられる、21世紀の社会における、最も重要な思想的闘争の場の一つとなっているのです。
8. 宇宙開発の新たな展開
8.1. 冷戦の代理戦争から国際協調へ
20世紀の宇宙開発は、その始まりから、米ソの冷戦という、イデオロギーと国家の威信をかけた、熾烈な競争と、分かちがたく結びついていました。1957年のソ連による世界初の人工衛星「スプートニク」の打ち上げ成功は、アメリカに「スプートニク・ショック」を与え、宇宙開発競争の火蓋を切りました。その後、ソ連のガガーリンによる人類初の有人宇宙飛行、そして、アメリカのアポロ計画による人類初の月面着陸と、両国は、国威発揚の巨大な舞台として、宇宙開発に莫大な国家予算を投じました。
しかし、冷戦が終結に向かうにつれて、宇宙開発の様相は、競争から協調へと、大きく変化していきます。その最大の象徴が、1998年から建設が始まり、2000年から宇宙飛行士の長期滞在が開始された「国際宇宙ステーション(ISS)」です。このプロジェクトには、かつてのライバルであったアメリカとロシアを中心に、日本、ヨーロッパ、カナダが参加し、人類が、地球周回軌道上に、恒久的な実験施設を共同で建設・運用するという、壮大な国際協力が実現しました。ISSは、冷戦後の国際協調の時代の、輝かしいシンボルとなったのです。
8.2. 「NewSpace」の時代:民間企業の参入
21世紀に入り、宇宙開発は、再び、大きなパラダイムシフトの時代を迎えています。その最大の変化は、これまで国家の独占事業であった宇宙開発に、革新的な技術とビジネスモデルを持つ民間企業が、主要なプレイヤーとして参入してきたことです。この新しい潮流は、「NewSpace」と呼ばれています。
その筆頭を走るのが、南アフリカ出身の起業家、イーロン・マスクが率いる「SpaceX(スペースX)」社です。SpaceXは、打ち上げ後に、ロケットの第一段機体を、地上や海上の船に、垂直に着陸させて回収・再利用するという、画期的な技術を世界で初めて実用化しました。これにより、ロケットの打ち上げコストは、劇的に低下し、宇宙へのアクセスは、これまでとは比較にならないほど、容易になりました。SpaceXは、NASA(アメリカ航空宇宙局)からの委託を受け、ISSへの補給船や、宇宙飛行士を乗せた有人宇宙船の打ち上げも担っており、もはや、国家の宇宙計画に不可欠なパートナーとなっています。
SpaceXの他にも、Amazonの創業者ジェフ・ベゾスが率いる「ブルー・オリジン」社や、イギリスの富豪リチャード・ブランソンが率いる「ヴァージン・ギャラクティック」社などが、宇宙旅行ビジネスや、人工衛星打ち上げビジネスに参入し、激しい競争を繰り広げています。
8.3. 月、火星、そして新たな競争
民間企業の台頭は、国家主導の宇宙開発にも、新たな刺激と目標を与えています。
アメリカのNASAは、ISSの次の大きな目標として、再び人類を月面に送り、そこに持続的な拠点を築く「アルテミス計画」を推進しています。この計画では、月を、さらに遠い目的地である火星への、有人探査の中継基地と位置づけています。
この新たな月開発競争には、アメリカだけでなく、中国も、強力なプレイヤーとして名乗りを上げています。中国は、独自の宇宙ステーションを建設し、月の裏側への探査機の着陸を世界で初めて成功させるなど、急速に技術力を高めており、アメリカと並ぶ「宇宙強国」となることを、国家目標として掲げています。米中間の地政学的な対立は、地上だけでなく、宇宙空間にも、その舞台を広げているのです。
一方で、宇宙開発は、新たな課題も生み出しています。SpaceXの「スターリンク」計画に代表されるように、数千、数万という膨大な数の小型人工衛星を打ち上げる「衛星コンステレーション」は、全地球的なインターネット接続を可能にする一方で、軌道上の**スペースデブリ(宇宙ゴミ)**を急増させ、将来の宇宙活動の大きな障害となることが懸念されています。
国家間の新たな競争、民間による商業化、そして、より遠いフロンティアへの挑戦。21世紀の宇宙開発は、技術、ビジネス、そして国際政治が複雑に絡み合う、ダイナミックな新時代へと突入しているのです。
9. 生命科学の進歩と倫理
9.1. ゲノム革命の到来
20世紀後半の分子生物学の発展は、21世紀に入り、生命の設計図である「ゲノム」の全情報を解読し、さらにはそれを自在に書き換えることさえ可能な、革命的な時代を切り開きました。
その歴史的な出発点となったのが、2003年に完了が宣言された、国際的な「ヒトゲノム計画」です。このプロジェクトは、一人の人間の、約30億塩基対からなる、全遺伝情報を、13年という歳月をかけて、完全に解読しました。これにより、人類は、初めて自らの「生命の書」を、その手にしたのです。ヒトゲノムの解読は、がんや、遺伝性の難病の原因を、遺伝子レベルで解明し、個人の遺伝情報に基づいた、オーダーメイドの医療(個別化医療)への道を拓きました。
9.2. ゲノム編集技術「CRISPR-Cas9」の衝撃
ゲノム研究を、さらに加速させ、社会に巨大なインパクトを与えたのが、2012年頃に開発された、画期的な**ゲノム編集技術「CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)」**の登場です。
この技術は、これまでの遺伝子組換え技術とは比較にならないほどの、正確さ、速さ、そして安さで、生物のゲノム(DNA)の、狙った部分を、自在に切り貼りし、書き換えることを可能にしました。もともとは、細菌が持つ、ウイルスに対する免疫システムを応用したこの技術は、その簡便さから、世界中の研究室に、爆発的に普及しました。
CRISPR-Cas9は、医学や農学の分野に、無限の可能性をもたらしています。遺伝病の原因となる遺伝子を、正常なものに修復する「遺伝子治療」や、病気に強い、あるいは収穫量の多い、新しい品種の農作物の開発などが、現実的な目標となっています。
しかし、この「生命の設計図を書き換える」強力な技術は、同時に、深刻な倫理的・社会的なジレンマを、人類に突きつけています。もし、この技術が、病気の治療という目的を超えて、身長や知能、外見といった、人間の能力や容姿を向上させるために使われたらどうなるのか。親が、自らの望む特性を持った「デザイナーベビー」を、創り出すことが可能になった社会は、どのような社会になるのか。
そして、最も根源的な問いは、人間の**生殖細胞(精子や卵子、受精卵)**のゲノムを編集することの是非です。生殖細胞のゲノム編集は、その変更が、子孫へと、永続的に受け継がれていくことを意味します。これは、人類という種の、遺伝的なあり方そのものに、不可逆的な改変を加えることに他なりません。
この懸念は、2018年、中国の科学者が、CRISPR-Cas9を用いて、HIVに感染しにくいように、双子の女児の受精卵のゲノムを編集し、出産させたと発表したことで、現実のものとなりました。この発表は、科学界や社会から、倫理規範を逸脱した、極めて危険な行為であると、激しい非難を浴びました。
9.3. 再生医療とiPS細胞
ゲノム編集と並んで、21世紀の生命科学を象徴する、もう一つの革命的な進歩が、幹細胞を用いた再生医療の研究です。
2006年に、日本の京都大学の山中伸弥教授が、皮膚などの、普通の体細胞に、数種類の遺伝子を導入するだけで、ES細胞のように、体のあらゆる組織や臓器に分化する能力(多能性)と、無限に増殖する能力を持つ、新しいタイプの幹細胞を作り出すことに成功しました。この「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」の樹立は、世界に衝撃を与え、山中教授は、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
iPS細胞は、受精卵を破壊する必要がないため、ES細胞が抱えていた倫理的な問題を回避できるという、大きな利点があります。また、患者自身の細胞からiPS細胞を作製すれば、移植の際に、拒絶反応が起こらない、理想的な細胞や組織を作り出すことが可能です。iPS細胞技術は、パーキンソン病や、脊髄損傷、心不全といった、これまで治療が困難であった病気や怪我に対して、失われた機能を取り戻す、再生医療の実現に、大きな希望をもたらしています。
ゲノム編集、再生医療、そして、AI(人工知能)を用いた創薬や診断技術。生命科学の進歩は、人類に、健康で、より長い寿命をもたらす可能性を秘めています。しかしそれは同時に、「生命とは何か」「人間とは何か」という、根源的な問いを、我々に投げかけています。「科学技術の進歩」と、「社会的な合意形成や倫理規範の構築」の間の、深刻な速度差を、いかに埋めていくかが、21世紀の大きな課題となっているのです。
10. グローバル資本主義の課題
10.1. 冷戦終結後の唯一のシステム
冷戦の終結は、ソ連型の社会主義計画経済に対する、西側の**市場経済(資本主義)**の、決定的な勝利を意味しました。20世紀末以降、グローバル化の波に乗って、資本主義は、文字通り、世界を覆う、唯一の、そして支配的な経済システムとなりました。このシステムは、競争と効率性を追求することで、技術革新を促し、全体として、世界の富を増大させ、多くの人々を貧困から救い出した、という輝かしい功績を持っています。
しかし、21世紀に入り、リーマン・ショックや、気候変動の深刻化、そして、ポピュリズムの台頭といった、一連の危機を経験する中で、このグローバル資本主義が内包する、構造的な課題や、矛盾が、ますます明らかになっています。
10.2. 資本主義が内包する三つの構造的課題
現代のグローバル資本主義が直面している、根源的な課題は、大きく三つに集約されます。
- 課題1:格差の拡大フランスの経済学者トマ・ピケティが、その著書『21世紀の資本』で、膨大なデータを用いて明らかにしたように、資本主義には、特別な抑制策がなければ、「資本収益率(r)が、経済成長率(g)を上回る(r > g)」という、構造的な傾向があります。これは、平たく言えば、労働によって得られる所得(給料)の伸びよりも、資産(株式、不動産など)が生み出す富の増えるスピードの方が速い、ということを意味します。その結果、富める者はますます富み、資産を持たない者との間の経済格差は、必然的に拡大していくことになります。グローバル化は、資本が、より有利な投資先を求めて、国境を自由に移動できるようにしたことで、この傾向を、さらに加速させました。この、一部の超富裕層への、極端な富の集中が、社会の分断と、ポピュリズムの温床となっているのです。
- 課題2:金融の不安定性現代の資本主義は、モノやサービスの生産よりも、金融市場での取引が、経済全体を支配する、「金融化(Financialization)」という特徴を強めています。金融工学の発展は、極めて複雑で、リスクの高い金融商品を次々と生み出し、それらが、グローバルなネットワークを通じて、瞬時に取引されています。このシステムは、短期的には、巨大な利益を生み出す可能性がありますが、2008年の世界金融危機が示したように、ひとたび、ある部分で綻びが生じると、その危機が、瞬く間に、システム全体、そして実体経済へと波及し、世界中を巻き込む、深刻な不況を引き起こす、という、構造的な脆弱性を抱えています。
- 課題3:環境の持続可能性との矛盾資本主義は、その本質として、絶え間ない「成長」を追求するシステムです。しかし、我々が住む地球の資源は、有限です。無限の経済成長を前提とするシステムと、有限な地球環境との間の、根本的な矛盾が、気候変動や、生物多様性の喪失といった、深刻な環境危機として、顕在化しています。企業の行動原理が、短期的な「株主価値の最大化」に置かれている限り、環境保全のような、長期的な視点を必要とする、社会全体の利益は、後回しにされがちです。
10.3. 新たな資本主義の模索
これらの構造的な課題に直面し、現代のグローバル資本主義は、そのあり方そのものが、大きな問いに付されています。
リーマン・ショック以降、金融に対する規制を再び強化する動きが見られ、ピケティが提案したような、富裕層への課税を強化することで、格差を是正しようという議論も、活発になっています。
また、企業の役割についても、従来の「株主第一主義」を見直し、従業員、顧客、地域社会、そして地球環境といった、すべての**利害関係者(ステークホルダー)**の利益を考慮に入れるべきだ、という「ステークホルダー資本主義」の考え方が、注目を集めています。環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)を重視する「ESG投資」の拡大も、この流れを反映したものです。
さらに、中国の台頭は、民主主義と結びつかない、国家主導の「国家資本主義」という、西側のモデルとは異なる、もう一つの強力な資本主義のあり方を示し、イデオロギー的な競争を再燃させています。
グローバル資本主義が、自らが内包する矛盾を乗り越え、より公平で、安定的で、そして持続可能なシステムへと、自らを変革できるのか。それは、21世紀の人類社会の未来を占う、最も大きな問いの一つと言えるでしょう。
Module 23:21世紀の挑戦の総括:惑星規模の危機と人類の応答
本モジュールで探求してきた21世紀の挑戦は、そのどれもが、一つの国や地域で完結するものではなく、相互に深く結びつき、地球全体を覆う「惑星規模(Planetary Scale)」の性質を帯びているという、共通の構造を持っています。気候変動という物理的な危機は、難民という社会的な危機を生み、情報通信革命という技術的な進歩は、パンデミックの拡散を加速させると同時に、その解決策であるワクチン開発をも高速化させました。
この緊密に結びついた世界において、我々は、二つの相反する力、すなわち、グローバルな協調を求める声と、ナショナルな利益を優先する内向きの衝動との間の、絶え間ない綱引きを目の当たりにしています。SDGsやパリ協定は、人類が共通の課題に対して、理性と連帯をもって応えようとする、崇高な試みの象徴です。しかし、その理想は、しばしば、国際秩序の動揺や、グローバル資本主義が助長する格差と競争の論理、そして、我々の内なる不安や恐怖に訴えかける、分断の政治によって、脅かされています。
生命科学や宇宙開発のフロンティアが、人類の可能性を無限に押し広げる一方で、我々は、その強大な力を、倫理的に、そして賢明に制御する術を、いまだ十分に手にしていません。ジェンダーや人権をめぐる普遍的価値の追求は、文化や伝統との間に、新たな緊張を生み出しています。
21世紀の挑戦とは、突き詰めれば、グローバル化した相互依存の現実と、我々が依然として、国民国家や、特定のアイデンティティの中に生きているという、現実との間の、巨大なギャップを、いかにして乗り越えるか、という問いに他なりません。このモジュールで学んだ一つひとつの課題は、その問いに対する、現代人類の、困難で、しかし希望を捨てない、応答の記録なのです。