【基盤 英語】モジュール52:指示語の照応関係

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本モジュールの目的と構成

英文を読んでいるとき、“this,” “that,” “it,” “these,” “those” といった語が何を指しているのかを即座に判断できなければ、文の意味を正確に把握することは不可能である。特に複数の文が連なる場面では、指示語が直前の名詞を指す場合もあれば、前文の内容全体を指す場合もあり、その判断を誤ると文章全体の論理関係を見失う。指示語の照応関係を正確に把握する能力は、単文の理解から段落・文章レベルの読解へと進むための出発点となる。

長文読解では、指示語が指す内容を正確に把握した上で選択肢を選ぶ形式が主流であり、特に this や these が限定詞用法で前文の内容を要約的に受けるパターンが頻出する。入試では、下線部の指す内容を日本語で説明させる記述形式や、本文中から該当箇所を抜き出す形式が出題される。指示語の照応関係の処理は、あらゆる読解問題の前提に位置する能力であり、この能力が不十分なまま長文に臨めば、設問の正誤判断が感覚的な推測に終始することになる。本モジュールは、指示語の文法的分類から照応先の特定手順、情報構造上の機能、そして長文読解での実践的運用までを四つの層で体系的に扱い、照応関係の処理を自動化可能な水準に引き上げることを目的とする。

本モジュールは以下の4つの層で構成される:

統語:指示語の文法的分類と基本機能
 指示語(this, that, it, these, those)の品詞的性質を確認し、代名詞として機能する場合と限定詞として機能する場合の区別を確立する。指示語が文中でどの統語的位置に現れるかを把握し、数の一致と近接性の体系に基づく照応候補の絞り込み、it の多機能性の識別、this と that の構文環境の違い、指示語と代用表現の区別を扱い、照応関係の分析に必要な文法的基盤を整える。

意味:照応先の特定手順
 指示語が指し示す対象(先行詞)を文脈の中で正確に特定する手順を確立する。名詞照応(特定の名詞を指す場合)と文照応(前文の内容全体や命題を指す場合)の区別、照応の曖昧性の解消手順、典型的な誤りパターンの回避方法、限定詞用法のラベリング機能を扱い、数・性・近接性・意味的適合性といった手がかりに基づく体系的判断方法を習得する。

語用:照応関係と情報の流れ
 指示語の選択が文章内の情報の流れにどのように関わるかを把握する。this と that の使い分けが話者の心理的距離を反映すること、it と this の選択が情報の新旧に対応すること、指示語に込められた筆者の評価的態度など、語用論的な観点から照応関係の機能を理解する。

談話:複数文にわたる照応の追跡
 段落をまたいで照応関係を追跡する能力を確立する。指示語が段落冒頭で前段落の内容を受ける用法、指示語の連鎖によって文章の一貫性が維持される仕組み、照応関係を利用した入試設問への体系的な解答手順を扱い、長文読解における照応処理の実践力を養成する。

このモジュールを修了すると、英文中に現れる指示語が何を指しているかを文法的手がかりと文脈の両面から正確に判断できるようになる。単文内の照応だけでなく、複数の文や段落にまたがる指示関係を追跡し、筆者が情報をどのようにつなげているかを把握する力が身につく。初見の長文で “this,” “that,” “it” に出会った瞬間に、代名詞用法か限定詞用法かを判別し、照応先の候補を数の一致と意味的適合性から絞り込む処理を、意識的な手順として実行できる段階に到達する。「下線部の指す内容を答えよ」という設問に対して、感覚的な推測ではなく、体系的な判断手順に基づいて解答を導くことが可能になる。この能力は、後続のモジュールで扱う接続表現の分析や論理展開パターンの把握へと発展させることができる。

【基礎体系】

[基礎 M16]
└ 代名詞・指示語と照応の体系を理解する

目次

統語:指示語の文法的分類と基本機能

英文を読む際、“it” や “this” が出てきた瞬間に「何を指しているのだろう」と立ち止まった経験は多いはずである。照応関係を正確に処理するには、まず指示語がどのような文法的性質を持ち、文中でどの位置に現れるのかを理解する必要がある。この層を終えると、指示語の代名詞用法と限定詞用法を即座に判別し、数・近接性の体系に基づいて照応先の候補を文法的に絞り込めるようになる。品詞の基本的な分類が頭に入っていれば、ここから先の分析に進められる。文型判定、指示語と他の代名詞の区別、it の多機能性の識別を扱う。統語層で確立される文法的識別の能力がなければ、意味層以降で照応先を特定する際に、指示語の機能を見誤るという問題が頻発する。

【関連項目】

[基盤 M01-統語]
└ 指示語の品詞的分類を理解する

[基盤 M02-統語]
└ 代名詞の識別基準を確認する

[基盤 M06-統語]
└ 冠詞・限定詞が指示にどのように寄与するかを把握する

1. 指示語の品詞的性質と統語的位置

英文中で “this,” “that,” “it,” “these,” “those” に出会ったとき、これらの語がどのような文法的役割を果たしているのかを即座に判断できなければ、照応先の特定は不可能である。指示語の識別能力によって、指示語が代名詞として単独で名詞の位置を占めているのか、限定詞として名詞の前に置かれているのかを正確に区別できるようになる。さらに、it の人称代名詞としての用法と形式主語・形式目的語としての用法を見分ける能力、this と that が近接性の違いを反映して使い分けられていることを認識する能力が確立される。まず代名詞用法と限定詞用法の区別を理解し、その上で統語的位置に基づく照応分析の手がかりを把握するという段階的な構成を取る。

1.1. 指示語の代名詞用法と限定詞用法の区別

指示語には代名詞用法と限定詞用法の二種類がある。この二つの用法は文中で異なる統語的振る舞いを示し、照応の仕組みも根本的に異なる。代名詞用法では指示語自体が照応先を持ち、限定詞用法では指示語と名詞の組み合わせ全体が先行する情報を参照する。両者を混同すると、照応先の探索対象を誤り、文意の把握に支障をきたす。代名詞用法の場合、指示語が文中で主語・目的語・補語のいずれの位置にあるかを特定することで、照応先を探索する際の手がかりが得られる。たとえば主語位置の this は前文の命題全体を受けることが多く、目的語位置の that は前文の特定の要素を受けることが多い。限定詞用法の場合は、後続の名詞が照応先の探索範囲を決定する。“this problem” であれば前文脈中の「問題に相当する内容」が照応先となり、“this idea” であれば「考えに相当する内容」が照応先となる。

この原理から、指示語の文法的機能を識別する具体的な手順が導かれる。手順1では指示語の直後を確認する。指示語の直後に名詞が続いていれば限定詞用法、名詞が続いていなければ代名詞用法である。この確認をすることで、指示語が単独で照応先を持つのか、名詞と組み合わさって情報を参照するのかを即座に判断できる。手順2では代名詞用法の場合に統語的位置を確認する。指示語が主語の位置にあるか、目的語の位置にあるか、補語の位置にあるかを特定する。主語位置にある this/that は文照応(前文の内容全体を指す)の可能性が高く、目的語位置にある it/that は名詞照応(先行する特定の名詞を指す)の可能性が高い。この位置情報が照応先の種類を推定する手がかりとなる。手順3では限定詞用法の場合に後続の名詞との関係を確認する。“this problem” のように名詞が具体的であれば先行文脈中の同一概念を参照し、“this idea” のように抽象名詞であれば前文の内容全体を要約的に参照している可能性が高いと判断できる。入試の読解問題では、限定詞用法の this + 抽象名詞(this approach, this argument, this trend 等)が頻出し、前文の内容を要約して受けるラベリング機能を理解しているかどうかが正答率を分ける。手順の適用に際して注意すべきは、it は限定詞用法を持たないという点である。“it + 名詞” の形は英語に存在しないため、it が出現した場合は常に代名詞用法(照応的・形式的・状況的のいずれか)として処理する。

例1: This is a common mistake among students.
→ this の直後に名詞がない(is は動詞)。代名詞用法。主語の位置にあり、前文の内容を指している。主語位置の this は文照応の可能性が高いため、前文の命題全体を照応先の候補として検討する。
→ 機能:代名詞(主語位置)

例2: This mistake is common among students.
→ this の直後に名詞 mistake がある。限定詞用法。this + mistake の組み合わせで特定の「間違い」を限定している。前文脈中に「間違い」に相当する内容があるかを確認し、照応先を特定する。
→ 機能:限定詞(名詞 mistake を修飾)

例3: I read the article, but it was too difficult.
→ it は代名詞として主語の位置にあり、前文の the article を指している。it は限定詞用法を持たない(it + 名詞の形は取らない)ため、常に代名詞用法である。直前の単数名詞 the article が数の一致を満たし、「記事が難しすぎた」で文意も成立する。
→ 機能:代名詞(主語位置、先行する名詞を照応)

例4: The teacher explained the theory. The students didn’t understand that.
→ that の直後に名詞がない(ピリオドで文が終わる)。代名詞用法。目的語の位置にあり、前文の the theory を指す可能性と、説明の内容全体を指す可能性がある。目的語位置の that は、名詞照応と文照応の両方を候補として検討する必要がある。understand の目的語として「理論を理解しなかった」も「説明された内容を理解しなかった」も成立するが、the theory が直接的な候補として有力である。
→ 機能:代名詞(目的語位置)

以上により、指示語が文中に現れた際に、代名詞用法と限定詞用法を区別し、統語的位置を特定することで、照応分析の第一段階を確実に実行することが可能になる。

2. 指示語の数と近接性による分類

指示語の品詞的機能を識別できるようになった上で、次に必要な能力は、指示語が持つ数の区別(単数・複数)と近接性の区別(近称・遠称)を正確に把握することである。指示語の数と近接性の把握によって、照応先の候補を効率的に絞り込む能力が確立される。this/these が単数・複数の近称として直前の情報や心理的に近い情報を指しやすいこと、that/those が単数・複数の遠称として離れた情報や心理的に距離のある情報を指しやすいことを把握し、it が三人称単数の代名詞として特定の先行名詞を指す場合と形式主語・形式目的語として機能する場合を区別する能力が身につく。この能力は、意味層で照応先を文脈から特定する際の判断基準として機能する。

2.1. 数の一致と近接性の判断基準

一般に指示語の分類は「this は近いもの、that は遠いもの」と単純に理解されがちである。しかし、この理解は英文読解における指示語の実際の機能を説明できないという点で不正確である。学術的・本質的には、英語の指示語は数と近接性という二つの軸によって体系的に分類される語群であり、数の軸では this/that が単数、these/those が複数に対応し、近接性の軸では this/these が近称、that/those が遠称に対応する。この二つの軸による四分類と、独立した人称代名詞としての it を合わせた五語が、英語の照応関係を担う主要な指示語の体系を構成する。この体系的分類が重要なのは、照応先を特定する際に、指示語の数が先行名詞の数と一致するかどうかが候補を機械的に半分に絞り込む最も効率的な手がかりであり、近接性が探索範囲を限定する補助的な手がかりとなるためである。受験生が照応先を誤る場合、最も多い原因は数の不一致の看過であり、this(単数)の照応先として複数名詞を選んでしまう、あるいは these(複数)の照応先として単数名詞を選んでしまうという誤りが典型的に見られる。

この原理から、数と近接性に基づいて照応先の候補を絞り込む具体的な手順が導かれる。手順1では指示語の数を確認する。this/that であれば照応先は単数名詞または文の内容全体(単一の命題)であり、these/those であれば照応先は複数名詞または複数の事項である。この確認をすることで、照応先の候補を数の観点から半分に絞り込める。手順2では近接性を確認する。this/these であれば直前の文や直前の情報を照応先として優先的に検討し、that/those であれば数文前の情報や対比的に言及されている情報を検討する。この判断により、照応先の探索範囲を効率的に限定できる。ただし、近接性の手がかりは数の一致ほど機械的ではなく、文脈全体の論理関係と合わせて判断する必要がある。that が直前の情報を指す場合もあり、this が数文前の情報を指す場合もあるため、近接性は探索の優先順位を決める補助的な基準として活用する。手順3では it が出現した場合に形式的用法かどうかを確認する。“It is important to study.” のように it の後に to 不定詞や that 節が続く場合は形式主語であり、照応先を探す必要がない。“I found it difficult to finish.” のように find/make/think の目的語として it が現れ、後に形容詞+to 不定詞が続く場合は形式目的語である。それ以外の場合は先行する単数名詞を照応先として探索する。形式的用法の it に対して照応先を探そうとすると、存在しない先行詞を求めて文脈を誤解するため、この判別は読解上の重大な分岐点となる。

例1: I bought a book yesterday. It was very interesting.
→ it は単数代名詞。直前の文に単数名詞 a book がある。数が一致。“it was very interesting” に a book を代入すると「その本はとても面白かった」で文意が成立。it は a book を指す。
→ 判断:数の一致(単数-単数)により照応先を特定

例2: There are many problems. These need to be solved immediately.
→ these は複数・近称。直前の文に複数名詞 many problems がある。数が一致し、近称であるため直前の情報を参照。these は many problems を指す。
→ 判断:数の一致(複数-複数)+近接性(近称→直前)

例3: The old system was slow. That was the reason we replaced it.
→ that は単数・遠称。直前の文全体の内容(旧システムが遅かったこと)を指す。名詞 system ではなく、命題全体を受けている。遠称 that は文内容照応に頻用される。なお、同文中の it は単数で、先行する the old system を照応先とする名詞照応である。
→ 判断:that=文照応(遠称 that が前文の命題を参照)、it=名詞照応(the old system)

例4: It is necessary to practice every day.
→ it の後に is + 形容詞 + to 不定詞が続く。形式主語の構造。it 自体に照応先はなく、真主語は to practice every day である。照応先を探す必要がない。
→ 判断:形式主語(照応関係なし)

以上により、指示語の数と近接性を手がかりとして照応先の候補を体系的に絞り込み、形式的用法との区別を正確に行うことが可能になる。

3. it の多機能性と識別

指示語の数・近接性による分類を理解した上で、特に注意を要するのが it の多機能性である。it は英語の中で最も頻繁に出現する代名詞の一つでありながら、照応的用法(先行する名詞を指す)、形式主語・形式目的語(文の構造を整える)、状況の it(天候・時間・距離を表す)という三つの異なる機能を持っている。it の多機能性を正確に識別する能力によって、照応先を探すべき場合とそうでない場合を即座に判断できるようになり、読解の効率と正確性が向上する。

3.1. it の三つの用法の識別手順

it の用法にはどのような種類があるか。「it は前の名詞を指す」という理解は照応的 it にしか当てはまらず、形式的 it や状況的 it を適切に扱えない。it には照応的 it(先行する名詞句を指す代名詞)、形式的 it(主語・目的語の位置を埋める構造的要素)、状況的 it(天候・時間・距離など環境条件を表す主語)の三種類がある。照応先を探索する必要があるのは照応的 it のみであり、形式的 it や状況的 it に対して照応先を探そうとすると、存在しない先行詞を求めて文脈を誤解するという読解上の重大な問題が生じる。特に入試の文法問題や和訳問題では、it の用法の識別が出題の核心となる場合が多い。形式主語構文 “It is … that/to …” は文法問題で頻出するパターンであり、和訳問題では形式的 it を「それは」と訳してしまう誤りが後を絶たない。形式的 it の特徴は、it を「それ」と訳すと文意が成立しないことにある。「それは毎日練習することが必要だ」は日本語として不自然であるのに対し、「毎日練習することが必要だ」は自然に成立する。この「それ」への置き換えテストは、形式的 it を見抜くための実用的な判断基準として有効である。

この原理から、it の用法を識別する具体的な手順が導かれる。手順1では it の後に続く構造を確認する。it の後に “is + 形容詞/名詞 + to 不定詞” または “is + 形容詞/名詞 + that 節” が続く場合は形式主語の it であると判断できる。同様に、“find/make/think/consider + it + 形容詞/名詞 + to 不定詞/that 節” の構造であれば形式目的語の it である。形式主語・形式目的語のいずれにおいても、it は文構造上の位置を埋めるだけの要素であり、意味内容は後続の to 不定詞や that 節が担う。手順2では文脈が天候・時間・距離・状況を表しているかを確認する。“It is raining.” “It is five o’clock.” “It is ten miles to the station.” のように、天候・時間・距離を述べる文脈であれば状況的 it であると判断できる。状況的 it には照応先が存在せず、「それ」と訳す必要もない。日本語では主語を立てずに「雨が降っている」「5時だ」と表現するのが自然である。手順3では手順1・2に該当しない場合、照応的 it と判断し、先行文脈から単数名詞を探索する。直前の文から順に遡り、数と意味の両面で一致する名詞を照応先として特定する。候補が複数ある場合は、意味的適合性の検証を行い、後続の述語と意味的に整合する名詞を選択する。照応的 it の探索範囲は通常直前の一〜二文であるが、段落をまたいで遠くの名詞を指す場合もある。その場合、当該名詞が文脈の中心的話題であるかどうかを併せて判断する。

例1: The experiment failed. It surprised everyone.
→ it の後に surprised(動詞)。形式主語の構造(is + 形容詞 + to/that)ではない。天候・時間でもない。照応的 it。直前の文の the experiment を代入すると「実験がみんなを驚かせた」だが、実験自体よりも「実験が失敗したこと」全体が驚きの対象として自然。照応的 it ではあるが、文照応的に前文の命題全体を指す場合もある点に注意が必要である。
→ 判断:照応的 it(手順3適用)

例2: It is difficult to learn a new language.
→ it の後に is + difficult + to 不定詞。形式主語の構造に該当。真主語は to learn a new language。it 自体に照応先はない。和訳する際は「新しい言語を学ぶことは難しい」とし、「それは」と訳さない。
→ 判断:形式的 it(手順1で特定)

例3: It was snowing heavily last night.
→ it の後に was snowing。天候を表す文脈。状況的 it であり、照応先を探す必要はない。和訳は「昨夜は激しく雪が降っていた」であり、it に対応する日本語の主語は不要。
→ 判断:状況的 it(手順2で特定)

例4: I found it impossible to finish the work on time.
→ it は found の目的語の位置にあるが、後に impossible + to 不定詞が続く。形式目的語の構造(find + it + 形容詞 + to 不定詞)に該当。真目的語は to finish the work on time。和訳は「私はその仕事を時間通りに終えることは不可能だと思った」であり、it を「それを」と訳すと不自然になる。
→ 判断:形式的 it(手順1の目的語版を適用)

以上により、it が文中に出現した際に、三つの用法のいずれに該当するかを手順に従って識別し、照応先の探索が必要な場合にのみ探索を行うことが可能になる。

4. this と that の文法的対比

this/these と that/those はいずれも指示語に分類されるが、文中での振る舞いには体系的な違いがある。数の一致と近接性についてはすでに確認したが、さらに統語的な観点から、this と that が出現しやすい構文環境の違いを把握しておくことで、照応分析の精度が向上する。

4.1. this と that の構文環境の違い

this と that の違いとは何か。物理的距離の「近い・遠い」は会話場面での使い分けを説明するが、英文読解で問われるのはテクスト内での情報構造上の役割の違いである。this は直前の情報を受けて話題を前景化(foreground)する機能を持ち、that は既出の情報を背景化(background)しつつ参照する機能を持つ。前景化とは、ある情報を「これから詳しく論じる対象」として読者の注意の中心に引き出す操作であり、背景化とは、ある情報を「確認済みの事実」として扱いつつ別の論点に議論の焦点を移す操作である。この機能的区別が重要なのは、筆者が this を使うか that を使うかによって、当該情報をこれから展開するつもりなのか、言及するにとどめて先に進むつもりなのかという意図の違いが現れるためである。入試の読解問題では、この意図の違いを読み取ることが、筆者の主張を正確に把握する上で欠かせない手がかりとなる。特に、段落の冒頭で this が使われている場合にはその段落の中心的話題が示され、that が使われている場合には前段落の内容を受けつつも新たな論点に移行するシグナルとなっていることが多い。

では、this と that の構文環境を識別する具体的な手順はどのように定まるか。手順1では指示語の後に続く展開を確認する。this の後に当該情報についての分析・説明・評価が展開されていれば、this は前景化の機能を果たしていると判断できる。手順2では that の使用文脈を確認する。that が前文の情報を受けつつも、文の焦点が別の要素(理由・結果・対比)に置かれていれば、that は背景化の機能を果たしていると判断できる。手順3では同一文中で this と that が共起する場合に対比構造を確認する。this が近い方の概念、that が遠い方の概念を指すという基本的な対比関係が成立しているかを確認することで、それぞれの照応先を正確に特定できる。なお、共起が見られない場合でも、前後の段落で this と that がそれぞれ異なる情報を受けているパターンを把握しておくと、長文の論理構造を追跡する際に有用である。構文環境の確認にあたっては、指示語に続く動詞の種類にも注目するとよい。this の後に describe, explain, illustrate, demonstrate などの展開動詞が続く場合は前景化の典型であり、that の後に does not mean, is not to say, notwithstanding などの限定表現が続く場合は背景化の典型である。

例1: The company announced a new policy. This attracted widespread media attention.
→ this は前文の内容を受けて主語の位置にあり、後続の文で this(新方針の発表)についての説明が展開されている。前景化の機能。この後に新方針についての詳細が続くと予測できる。
→ 判断:this による前景化(直前の情報を話題として展開)

例2: The experiment failed, but that was not the main issue.
→ that は前文の内容(実験の失敗)を受けつつ、文の焦点は「それが主要な問題ではない」という別の論点にある。背景化の機能。筆者は結果には深入りせず、別の議論に進む意図を示している。
→ 判断:that による背景化(既出情報を参照しつつ焦点を移動)

例3: Compare this method with that one.
→ this は近い方(現在議論中の方法)、that は遠い方(以前に言及された方法)を指す。対比構造の中で近称・遠称の区別が機能している。one は method の代用表現であり、that method の省略形として機能する。
→ 判断:対比構造における近称・遠称の使い分け

例4: Some students prefer reading; others prefer listening. This difference reflects individual learning styles.
→ this は限定詞用法で difference を修飾。前文で述べた二つの傾向の違いを「この違い」として前景化し、後続で学習スタイルとの関連を論じる展開を導いている。限定詞用法の this は、前文の複数の情報を一つの名詞で概念化するラベリング機能を果たす点が特徴的である。
→ 判断:限定詞用法の this による前景化(前文の内容を名詞で要約して展開)

以上により、this と that が持つ前景化・背景化という機能的な違いを把握し、筆者の情報展開の意図を統語構造から読み取ることが可能になる。

5. 指示語と他の代名詞との区別

指示語の体系的な理解を完成させるため、指示語(this, that, these, those, it)と、指示語に類似するが異なる機能を持つ代名詞(one, ones, such, the former, the latter)との区別を確認する。入試では、これらの語が混在する文脈で照応先を問う問題が出題されるため、指示語と非指示語の境界を明確にしておく必要がある。

5.1. 指示語と代用表現の機能的区別

指示語と代用表現はどちらも先行する情報に関連して使用される語であるが、その参照の仕組みは根本的に異なる。指示語(this, that, it 等)は特定の先行詞や命題を直接指し示す照応機能を持ち、代用表現(one, ones 等)は先行する名詞と同じ種類の別の個体を指す代用機能を持つ。照応では先行詞と指示語が同一の対象を指すのに対し、代用では先行する名詞と同じカテゴリーの別個体を指すという根本的な違いがある。この違いを見落とすと文意を大きく誤解する。たとえば “I lost my pen. I need to buy one.” における one を「失くしたペンそのもの」と解釈すれば、すでに失くしたペンを買うという矛盾した文意になる。正しくは「ペンという同じ種類の別の物」を買うという意味であり、これが代用と照応の違いの核心である。入試の文法問題では、it と one の使い分けが直接問われることがあり、この区別は得点に直結する。

この原理から、指示語と代用表現を区別する具体的な手順が導かれる。手順1では当該の語が先行詞と同一の対象を指しているかを確認する。同一の対象であれば指示語(照応)、同一カテゴリーの別個体であれば代用表現である。判断の目安は、「すでに文脈中に存在する特定の物」を再び言及しているのか、それとも「同種の別の物」を新たに導入しているのかという点にある。手順2では one/ones の出現を確認する。one は可算名詞の単数、ones は可算名詞の複数の代用に用いられ、先行する名詞と同じ種類の別の物を指す。it は先行する名詞と同一の物を指す。この違いを確認することで、同じ「前の名詞に関連する語」であっても、同一物への照応か別個体への代用かを判別できる。なお、不可算名詞に対しては one による代用はできず、代わりに some や any が用いられる点にも注意が必要である。手順3では such, the former, the latter の出現を確認する。such は「そのような」と先行する内容を性質として参照し、the former / the latter は二つの先行要素のうちそれぞれ前者・後者を特定的に指す。the former / the latter は二項対比の文脈でのみ使用され、三つ以上の要素がある場合には使えない。これらは指示語とは異なるメカニズムで文脈を参照しており、照応先の特定手順も異なる。入試の整序問題や空所補充問題では、such を含む文の位置を特定する際に、先行情報の性質を受けているかどうかの判断が求められる。

例1: I lost my pen. Can I borrow it?
→ it は代名詞として使われている。ここでは「あなたのペンを借りてもいいか」という文脈であるため、it は相手が持っている特定の一つのペンを指す照応的用法である。いずれにせよ、it は特定の一物を指す照応機能を果たしている。
→ 判断:照応(特定の対象)

例2: I lost my pen. I need to buy a new one.
→ one は pen と同じカテゴリー(ペン)の別個体(新しいペン)を指す。代用機能。失くしたペンそのものではなく、まだ存在しない新しいペンを指す。a new という修飾語が付いていることからも、別個体であることが確認できる。
→ 判断:代用(同一カテゴリーの別個体)

例3: She mentioned honesty and courage. The former is essential in academic work.
→ the former は二つの先行要素(honesty と courage)のうち前者(honesty)を指す。二項対比の構造において序列に基づく特定を行う表現であり、指示語とは異なるメカニズムで参照を行う。the latter であれば courage を指すことになる。
→ 判断:序列参照(二項対比における前者の特定)

例4: Such problems require careful analysis.
→ such は限定詞として problems を修飾し、前文で言及された問題と同種の性質を持つ問題を指す。特定の先行詞を直接指すのではなく、性質を参照する。“such + 名詞” は「そのような〜」と訳され、先行情報の質的特徴を受け継いだ新たな対象を導入する機能がある。
→ 判断:性質参照(先行情報の性質を受ける代用表現)

以上により、指示語と代用表現の機能的な違いを識別し、文中の代名詞や代用表現がそれぞれどのようなメカニズムで先行情報を参照しているかを正確に判断することが可能になる。

意味:照応先の特定手順

入試の読解問題で「下線部が指す内容を答えよ」と問われたとき、正解にたどり着くには、指示語の文法的性質を把握した上で、文脈の中から照応先を正確に特定する手順が必要になる。この層を終えると、名詞照応と文照応を体系的に区別し、複数の候補が存在する場合にも数の一致・意味的適合性・文脈の論理的整合性を組み合わせた複合的判断で照応先を確定できるようになる。統語層で確立した品詞的識別・数の一致・近接性の知識を前提として、名詞照応と文照応の区別、照応の曖昧性の解消、典型的誤りの回避、限定詞用法のラベリング機能を扱う。意味層の能力がなければ、語用層で扱う情報の流れや筆者の意図を正確に把握することは不可能である。

【関連項目】

[基盤 M22-意味]
└ 指示語の照応が多義語の語義限定にどう寄与するかを確認する

[基盤 M25-意味]
└ 照応関係の追跡が語義推測にどう役立つかを理解する

1. 名詞照応と文照応の区別

指示語の照応先は、大きく二つの種類に分かれる。一つは先行する特定の名詞句を指す名詞照応であり、もう一つは前文の内容全体や命題を指す文照応である。この区別を正確に行えるかどうかが、照応問題の正答率を左右する。名詞照応の場合には先行名詞句を特定すればよいが、文照応の場合には前文の命題を自分の言葉でまとめ直す必要があり、求められる処理が質的に異なる。まず名詞照応の手順を確立し、その上で文照応を識別する手順を習得するという段階的な構成を取る。

1.1. 名詞照応の特定手順

一般に照応先の特定は「直前の名詞を探せばよい」と単純に理解されがちである。しかし、この理解は複数の候補が存在する場合や直前の名詞が照応先ではない場合を説明できないという点で不正確である。学術的・本質的には、名詞照応とは指示語が先行する特定の名詞句を指し示す関係であり、指示語と先行名詞句の間に数の一致・意味の適合性・文法的整合性の三条件が成立する場合にのみ名詞照応として認定される。この三条件による検証が重要なのは、候補を体系的に検証する手順がなければ、文脈が複雑になった場合に正確な特定が不可能になるためである。入試では、直前の名詞が照応先ではないケースが意図的に出題されることが多く、機械的に直前の名詞を選ぶ解答は不正解となる。

この原理から、名詞照応の先行詞を特定する具体的な手順が導かれる。手順1では指示語の数を確認し、候補を絞る。it / this / that であれば単数名詞を、these / those であれば複数名詞を候補とする。この段階で候補が半数以下に減る。数の一致は最も機械的に適用できる基準であり、この段階で候補を大幅に絞り込めるため、最初に適用する。手順2では候補の名詞を指示語の位置に代入して意味が通るかを確認する。代入して文意が成立すれば照応先の候補として有力であり、不自然であれば除外する。代入検証の際は、指示語の前後の述語動詞・形容詞との意味的整合性を中心に判断する。「その名詞が主語だとして、述語の動作・状態の主体として自然か」「その名詞が目的語だとして、動詞の対象として自然か」を問うことで、適合性を客観的に判定できる。手順3では複数の候補が残った場合に直近性の原則を適用する。指示語に最も近い位置にある候補を優先し、文脈上の論理的整合性を最終確認する。直近性の原則は確定的な規則ではなく、あくまで優先順位を決める目安であり、意味的適合性と矛盾する場合は意味的適合性を優先する。なお、手順1の段階で候補が一つに絞れた場合は、手順2の代入検証で最終確認を行い、手順3は不要となる。

例1: The government introduced a new tax policy. It was criticized by economists.
→ it は単数。候補:the government(単数)、a new tax policy(単数)。代入検証:「政府が経済学者に批判された」も「新税制が批判された」も文意は成立する。しかし、criticized by economists(経済学者に批判された)の対象として、政策の内容に関する批判が文脈上自然である。直近性でも a new tax policy が it により近い位置にある。
→ 照応先:a new tax policy

例2: She placed the books on the shelf, but they fell off.
→ they は複数。候補:the books(複数)。the shelf は単数なので即座に除外。代入検証:「本が落ちた」で文意が成立。候補が一つしかないため、この段階で確定。
→ 照応先:the books

例3: The manager praised the employees because they had completed the project on time.
→ they は複数。候補:the employees(複数)。the manager は単数なので除外。the project は単数なので除外。代入検証:「従業員がプロジェクトを時間通りに完了した」で文意が成立。because 節の意味的整合性も確認:称賛の理由として「完了した」の主体が従業員であることが論理的に自然。
→ 照応先:the employees

例4: Tom told his brother that he should study harder.
→ he は単数男性。候補:Tom(単数男性)、his brother(単数男性)。数・性では絞り込めない。文脈検証:「兄弟がもっと勉強すべきだ」とトムが言った、という文意が自然。ただし曖昧性が残る場面であり、入試では文脈全体から判断する必要がある。このような曖昧性のある例は、出題者が前後の文脈でどちらかを明確にするか、あるいは曖昧性自体を問う設問として出題される。
→ 照応先:his brother(文脈から判断)※曖昧性がある典型例

以上により、名詞照応の先行詞を、数の一致・意味の適合性・直近性の原則に基づいて体系的に特定することが可能になる。

1.2. 文照応の特定手順

名詞照応では先行する名詞句を特定したが、指示語が先行する名詞句ではなく、前文の内容全体や命題を指している場合がある。これが文照応であり、特に this と that の代名詞用法で頻出する。文照応の場合、照応先は一つの名詞ではなく命題(主語+述語を含む内容のまとまり)であるため、「何を指しているか」を答える際には前文の内容を要約する形で記述する必要がある。

以上の原理を踏まえると、文照応を識別し照応先を特定するための手順は次のように定まる。文照応とは、指示語が先行する文・節・発話の命題内容を指し示す関係である。先行文脈に指示語と数・意味の両面で一致する適切な名詞句が見つからない場合に文照応として認定される。文照応の識別が重要なのは、入試で「下線部の指す内容を日本語で答えよ」という問いに対して、名詞一語ではなく命題を要約して記述する必要があり、照応の種類を誤ると解答形式自体が不適切になるためである。名詞照応と文照応では求められる解答の形が根本的に異なり、名詞照応なら「〜(名詞)」で済むところ、文照応では「〜ということ」「〜したこと」のように命題を文として表現する必要がある。

手順1では名詞照応の可能性を先に検証する。先行文脈に数・意味の両面で適合する名詞句があるかを手順に従って確認する。適切な名詞句が見つかれば名詞照応として処理する。名詞照応を先に検証する理由は、名詞照応の方が照応先の特定が明確であり、文照応は名詞照応の可能性を排除した後に検討すべき「残余のカテゴリー」だからである。手順2では適切な名詞句が見つからない場合に文照応と判断する。this / that が代名詞用法で主語の位置にあり、先行文脈に適合する名詞句がない場合は、前文の命題内容を照応先として特定する。判断の目安は「前文の中から名詞を一つ選んで指示語の位置に代入しても文意が不完全になる」かどうかである。代入して「部分的にしか意味が通らない」場合は、指示語がその名詞だけでなく命題全体を指している可能性が高い。手順3では照応先となる命題の範囲を確定する。指示語が指しているのが直前の一文なのか、複数の文にわたる内容なのかを、後続の述語との意味的整合性から判断する。後続の述語が「驚かせた」「落胆させた」「印象を与えた」など、命題全体を主語とするのが自然な動詞であれば、直前の一文全体を照応先とするのが基本である。命題の範囲を確定する際にもう一つ有効な手がかりは、文照応の this/that の直後に来る述語動詞の性質である。suggest, indicate, prove, demonstrate のような「証拠→結論」型の動詞であれば、照応先は前文の事実全体であり、cause, lead to, result in のような因果動詞であれば、照応先は前文の事象全体である。

例1: The population is aging rapidly. This will affect the economy.
→ 名詞照応の検証:this は単数。候補:The population(単数)。代入「人口は経済に影響するだろう」は不自然ではないが、文脈上「人口が急速に高齢化していること」全体が経済に影響するという意味が適切。名詞一語では内容を十分に捉えられない。文照応と判断。
→ 照応先:「人口が急速に高齢化していること」(前文の命題全体)

例2: He failed the exam three times. That discouraged him.
→ 名詞照応の検証:that は単数。候補:the exam(単数)。代入「試験が彼を落胆させた」は文意としてやや不自然。「試験に三回落ちたこと」全体が落胆の原因と考えるのが自然。文照応と判断。
→ 照応先:「彼が試験に三回不合格になったこと」(前文の命題全体)

例3: The school decided to cancel the event. This surprised the students.
→ 名詞照応の検証:this は単数。候補:The school(単数)、the event(単数)。代入「学校が学生を驚かせた」は不自然(学校の存在が驚きの原因ではない)。「イベントが学生を驚かせた」も不自然(イベントの存在自体は驚きではない)。「学校がイベントを中止すると決定したこと」全体が驚きの原因。文照応と判断。
→ 照応先:「学校がイベントを中止すると決定したこと」(前文の命題全体)

例4: She studied abroad for two years and learned to speak three languages. This impressed her future employer.
→ 名詞照応の検証:this は単数。候補となる単数名詞に適合するものがない(three languages は複数、two years は期間であり impressed の主語として不自然)。前文の内容全体「彼女が二年間留学して三つの言語を話せるようになったこと」が印象を与えた原因として自然。文照応と判断。
→ 照応先:「彼女が二年間留学し三つの言語を習得したこと」(前文の命題全体)

以上により、名詞照応と文照応を体系的に区別し、文照応の場合には前文の命題内容を適切に特定して記述することが可能になる。

2. 照応の曖昧性と解消手順

名詞照応と文照応の基本的な区別を確立した上で、実際の英文では照応先が一意に定まらず曖昧性が生じる場合がある。候補が複数存在する場合にどのような手がかりを用いて照応先を確定するかという判断能力は、入試の読解問題で正答率を分ける要因となる。

2.1. 曖昧性の解消に用いる手がかり

一般に照応先の特定は「文脈を読めば分かる」と漠然と理解されがちである。しかし、この理解は複数の候補が文脈上いずれも成立しうる場合に体系的な判断基準を提供できないという点で不正確である。学術的・本質的には、照応の曖昧性は数の一致・意味的適合性・文法的役割の整合性・世界知識との一致という四つの手がかりを複合的に用いて解消される。一つの手がかりだけでは絞り込めない場合が多く、複数の手がかりを組み合わせることで初めて正確な特定が可能になる。入試問題では、出題者が意図的に複数の候補が存在する文を選んでいるため、「何となく」で答えると正答に至らない。体系的な検証手順を持っているかどうかが、照応問題の得点を安定させる最大の要因である。四つの手がかりのうち、数の一致は最も機械的に適用でき、意味的適合性は最も信頼性が高く、文法的役割の整合性は補助的に機能し、世界知識は最終的な確認として用いる。

この原理から、照応の曖昧性を解消する具体的な手順が導かれる。手順1では数の一致で候補を絞る。指示語が単数であれば複数名詞を除外し、指示語が複数であれば単数名詞を除外する。この段階で候補が大幅に減ることが多い。手順2では意味的適合性を検証する。残った候補を指示語の位置に代入し、後続の述語や文全体との意味的整合性を確認する。「その名詞が主語だとして、述語の動作や状態の主体として自然か」を判断する。代入した結果が文脈上不自然であれば除外し、自然であれば有力候補として残す。手順3では文脈全体の論理的整合性を確認する。候補を当てはめた場合に、段落全体の議論の流れと矛盾しないかを検証する。特に因果関係の論理性に着目し、「なぜ」「だから」「しかし」などの接続関係と矛盾しない候補を選択する。手順1〜3で候補が一つに絞れない場合は、世界知識(常識的な判断)を補助的に適用する。「一般的にどちらの解釈が自然か」を考え、最も合理的な候補を選択する。四つの手がかりの優先順位は「数の一致 → 意味的適合性 → 文脈の論理的整合性 → 世界知識」の順であり、上位の手がかりで絞り込めた場合は下位の手がかりは確認用として機能する。

例1: The teacher asked the student to read the passage, and she explained the vocabulary.
→ she は単数女性。候補:the teacher(性別不明だが文脈上女性と想定可能)、the student(性別不明)。数・性では絞り込めない。意味的検証:「語彙を説明した」のは教師の行為として自然。学生が語彙を説明する文脈は不自然。世界知識の観点からも、授業場面で語彙を説明するのは教師の役割である。
→ 照応先:the teacher(意味的適合性+世界知識による判断)

例2: The report discussed pollution and deforestation. These are the most serious environmental problems.
→ these は複数。候補:pollution and deforestation(二つの概念を複数として受ける)。the report は単数なので即座に除外。代入検証:「汚染と森林伐採は最も深刻な環境問題である」で文意が成立。二つの名詞を and で結んだ句全体が複数として機能する点に注意が必要。
→ 照応先:pollution and deforestation

例3: John gave the book to Mary because she had asked for it.
→ she は単数女性→Mary。it は単数→the book。代入検証:「メアリーがそれ(本)を求めていたので」で文意が成立。ここでは数・性と意味的適合性が明確で曖昧性は低い。
→ 照応先:she = Mary, it = the book

例4: The city built a new library and a new hospital. The mayor said that was a great achievement.
→ that は単数。候補名詞:a new library(単数)、a new hospital(単数)。代入検証:「図書館が偉大な業績だ」「病院が偉大な業績だ」はいずれも部分的。「市が新しい図書館と病院を建設したこと」全体が業績として自然。名詞照応ではなく文照応と判断。単数の that が二つの建設事業を含む命題全体を受けている。
→ 照応先:「市が新しい図書館と病院を建設したこと」(文照応)

以上により、照応先の候補が複数ある場合に、数の一致・意味的適合性・文脈の論理的整合性を組み合わせて体系的に曖昧性を解消することが可能になる。

3. 照応先の特定における典型的な誤り

照応先の特定手順を確立しても、受験生が陥りやすい典型的な誤りがある。これらの誤りパターンを事前に把握し、自分の判断を検証する習慣を身につけることで、照応問題の正答率を安定的に向上させることができる。

3.1. 誤りパターンの識別と回避

照応先特定の典型的な誤りは、直近偏向(最も近い名詞を無条件に照応先とする)、名詞偏向(文照応の可能性を検討せず名詞のみを探す)、数の不一致の看過(単数・複数の一致を確認しない)の三類型に分類される。自分がどの類型の誤りを犯しやすいかを認識することで、意識的な検証によって誤りを防止できるようになる。直近偏向は最も頻度の高い誤りであり、英文の構造が複雑になるほど発生しやすい。これは「直前の名詞が照応先である」という暗黙の前提に基づく誤りであり、特に前置詞句の目的語や関係詞節内の名詞が指示語の直前に位置する場合に顕著に現れる。名詞偏向は、文照応に慣れていない学習者に特有の誤りであり、「照応先は必ず名詞である」という思い込みに基づく。実際には this や that が前文の命題全体を受ける文照応は入試で頻出するパターンであり、この可能性を検討しないと正答に至らない。数の不一致の看過は、照応先を「意味」のみで判断し、「数」の確認を怠る場合に発生する。

この原理から、典型的な誤りを回避する具体的な手順が導かれる。手順1では直近偏向を防ぐために、照応先の候補を直前の名詞だけでなく数文前まで遡って探索する。直前の名詞は候補の一つにすぎず、意味的適合性を必ず検証する。特に、直前に前置詞句(“of …,” “in …,” “at …” など)がある場合、その目的語を照応先と誤認しやすい。前置詞の目的語は主語や文の中心的な話題ではないことが多いため、主語位置の名詞や文の主題を候補に含めることが重要である。手順2では名詞偏向を防ぐために、名詞照応の検証で適切な候補が見つからなかった場合に文照応の可能性を必ず検討する。「前文の内容全体を指していないか」という問いを自分に課すことで、名詞偏向を回避できる。文照応を検討すべきサインとしては、数の一致する名詞候補が見つからない場合、候補の名詞を代入しても文意が部分的にしか成立しない場合、指示語の直後に surprise, discourage, indicate, suggest 等の命題を主語とする動詞が続く場合がある。手順3では数の不一致の看過を防ぐために、照応先を確定する前に指示語と候補の数の一致を最終確認する。意味的に適合していても、数が不一致であれば照応先として認定できない。この最終確認を習慣化することで、数の不一致に起因する誤りを確実に防止できる。

例1: The company developed a new product. The CEO presented it at the conference.
→ 誤りパターン(直近偏向):直前の名詞 the conference を it の照応先としてしまう。
→ 正しい判断:it は単数。代入検証で「CEOが会議でそれ(会議)を発表した」は不自然(会議を発表するという意味にならない)。「CEOが会議でそれ(新製品)を発表した」が自然。照応先は a new product。at the conference は場所を示す前置詞句であり、presented の目的語ではない。
→ 回避:直前の名詞だけでなく前文の名詞も候補に含めて検証

例2: Gas prices have risen sharply. This has increased the cost of transportation.
→ 誤りパターン(名詞偏向):Gas prices を this の照応先としてしまう。this は単数だが Gas prices は複数なので数が不一致。
→ 正しい判断:名詞照応の候補に数が一致するものがない。文照応と判断。照応先は「ガソリン価格が急騰したこと」。
→ 回避:名詞候補が見つからないときは文照応を検討

例3: The students submitted their essays. It was graded by the professor.
→ 誤りパターン(数の不一致の看過):their essays を it の照応先としてしまう。it は単数だが essays は複数なので不一致。
→ 正しい判断:文脈を再検討。文照応で「学生がエッセイを提出したこと」全体を指す可能性は低い(「提出したこと」が教授に採点されるという文意は不自然)。文脈によっては特定の一つの essay を指しているか、あるいは文自体に不整合がある可能性もある。入試問題であれば、前後の文脈にさらに手がかりがあるはずであり、it が指す単数の対象を特定する必要がある。
→ 回避:数の一致を最終確認として必ず実施

例4: The researchers published several papers on climate change. That helped advance the field.
→ 誤りパターン(名詞偏向+直近偏向):several papers や climate change を that の照応先としてしまう。
→ 正しい判断:that は単数。several papers は複数なので不一致。climate change は「気候変動がその分野を発展させた」で文意がやや不自然(気候変動自体ではなく、それに関する研究活動が分野を発展させた)。「研究者が気候変動に関する論文を複数発表したこと」全体がその分野の発展に貢献したと解釈するのが自然。文照応。
→ 回避:数の一致確認+文照応の検討を組み合わせる

以上により、照応先特定で犯しやすい三つの典型的な誤りパターンを認識し、手順に基づく体系的な検証を行うことで、誤りを事前に防止することが可能になる。

4. 限定詞用法の指示語と照応

これまでは代名詞用法の指示語を中心に照応先の特定手順を学んできた。ここでは限定詞用法(this + 名詞、that + 名詞など)の照応について扱う。限定詞用法の場合、指示語は名詞と組み合わさって一つの名詞句を形成し、この名詞句全体が先行する情報を参照する。代名詞用法とは異なるメカニズムで照応が成立するため、別個の判断手順が必要となる。

4.1. 限定詞用法における照応の仕組み

限定詞用法の指示語+名詞は、先行する情報を当該名詞で概念化し直す操作を行っている。この操作はラベリングと呼ばれ、先行情報と完全に同一の表現が文脈中にある必要はない。“this approach”(このアプローチ)と言う場合に、前文に approach という語が出ていなくても、前文で述べられた方法論的な内容を approach というラベルで要約して参照している場合がある。この概念化の理解が重要なのは、限定詞用法のラベリング機能を知らなければ、前文に同じ名詞が出ていない場合に「照応先がない」と誤判断してしまうためである。入試の読解問題では、this + 抽象名詞のラベリング(this approach, this argument, this problem, this trend, this phenomenon 等)が頻出し、前文の内容をどの名詞で概念化しているかを読み取れるかどうかが正答の分かれ目となる。ラベリングが行われる際、用いられる名詞はいくつかのカテゴリーに分類できる。行為を受けるラベル(approach, method, strategy, measure, step)、評価を受けるラベル(argument, claim, view, idea, opinion)、事態を受けるラベル(problem, issue, situation, trend, phenomenon)、結果を受けるラベル(finding, result, conclusion, outcome, consequence)である。どのカテゴリーのラベルが使われているかを認識することで、照応先として前文のどの側面を参照しているかを効率的に特定できる。

上記の定義から、限定詞用法の照応先を特定する手順が論理的に導出される。手順1では指示語に続く名詞のカテゴリーを確認する。“this problem” であれば前文脈中の「問題に相当する内容」を探し、“this method” であれば「方法に相当する内容」を探す。名詞のカテゴリーが照応先の探索範囲を限定する。手順2では先行文脈から当該カテゴリーに合致する内容を特定する。前文に同一の名詞がある場合はそれが照応先であり、同一の名詞がない場合は前文の内容の中から当該カテゴリーに概念化できる部分を特定する。特に、前文が行為を描写している場合にその行為が approach や method としてラベリングされることが多く、前文が状況を描写している場合にその状況が problem や issue としてラベリングされることが多い。名詞カテゴリーと前文内容の種類を対応させることで、照応先の特定精度が向上する。手順3では代入検証を行う。特定した内容を当該の名詞句の位置に代入して、文意が成立するかを最終確認する。代入した結果が文脈上自然であれば照応先として確定し、不自然であれば別の側面を検討する。限定詞用法の代入検証では、名詞句全体を「〜という[名詞]」の形で置き換えて文意を確認すると判断しやすい。

例1: Many people cannot afford healthcare. This problem affects developing countries the most.
→ 名詞のカテゴリー:problem(問題)。前文で「問題」に相当する内容:「多くの人が医療を受ける余裕がないこと」。前文に problem という語はないが、前文の内容が問題として概念化されている。代入検証:「多くの人が医療を受ける余裕がないという問題が発展途上国に最も影響する」で自然。
→ 照応先:「多くの人が医療を受ける余裕がないこと」(前文の内容をproblemでラベリング)

例2: The team used artificial intelligence to analyze the data. This approach saved a great deal of time.
→ 名詞のカテゴリー:approach(手法)。前文で「手法」に相当する内容:「人工知能を使ってデータを分析すること」。前文に approach という語はないが、行為全体が approach として概念化されている。代入検証:「人工知能でデータ分析をするという手法が大幅に時間を節約した」で自然。
→ 照応先:「人工知能を使ってデータを分析すること」(前文の行為をapproachでラベリング)

例3: The president announced a tax reduction. This decision was welcomed by business leaders.
→ 名詞のカテゴリー:decision(決定)。前文で「決定」に相当する内容:「大統領が減税を発表したこと」。announced という行為が decision として概念化されている。代入検証:「大統領の減税という決定がビジネスリーダーに歓迎された」で自然。
→ 照応先:「大統領が減税を発表するという決定」(発表行為をdecisionでラベリング)

例4: Students should read widely and discuss their ideas with others. These activities help develop critical thinking skills.
→ 名詞のカテゴリー:activities(活動)。前文で「活動」に相当する内容:「幅広く読むこと」と「他者と意見を議論すること」の二つ。these(複数)が二つの行為を activities として概念化。代入検証:「幅広く読むことと他者と議論することという活動が批判的思考力の発達を助ける」で自然。
→ 照応先:「幅広く読むこと」と「他者と意見を議論すること」(二つの行為をactivitiesでラベリング)

以上により、限定詞用法の指示語が持つラベリング機能を理解し、後続の名詞のカテゴリーを手がかりとして先行文脈から照応先を正確に特定することが可能になる。

語用:照応関係と情報の流れ

指示語は単に前の情報を「指す」だけでなく、文章の中で情報をどのように整理し展開するかという筆者の意図を反映する道具でもある。この層を終えると、this と that の選択から筆者の情報展開の意図を読み取り、it と this の選択が既知情報と新規話題の区別に対応することを把握し、指示語に込められた筆者の評価的態度を判断できるようになる。統語層で確立した品詞的識別と、意味層で確立した照応先の特定手順を前提として、指示語の選択が文章内の情報の流れにどのように関わるかを扱う。語用層の能力が確立されると、指示語を手がかりとして筆者がどの情報を重要視し、どの方向に議論を展開しようとしているかを読み取れるようになる。この力は、談話層で複数段落にわたる照応の追跡を行う際の前提となる。

【関連項目】

[基盤 M45-語用]
└ 省略と代用が照応関係にどう関わるかを確認する

[基盤 M46-語用]
└ 指示語の照応が前提の伝達にどう機能するかを把握する

1. this と that の語用論的使い分け

統語層で確認した this(近称)と that(遠称)の区別は、文法的な距離だけでなく、筆者の心理的態度や情報の扱い方を反映する語用論的な区別でもある。筆者が this を選ぶか that を選ぶかによって、その情報をどの程度重要視しているか、これから展開するつもりがあるかないかという意図が表れる。

1.1. 前景化の this と背景化の that

一般に this と that の違いは「近いものと遠いもの」と理解されがちである。しかし、この理解は英文読解で問われるテクスト内の情報構造上の違いを説明できないという点で不正確である。学術的・本質的には、this は先行する情報を「これから展開する話題」として前景に引き出す機能を持ち、that は先行する情報を「既に確認済みの背景」として位置づける機能を持つ。前景化とは、ある情報を読者の注意の中心に引き出し、後続の文でその情報について詳しく分析・評価・議論する展開を導く操作であり、背景化とは、ある情報を認めた上でそれ以上深入りせず、議論の焦点を別の論点に移す操作である。この機能的区別が重要なのは、筆者が this を使った場合にはその情報について後続で詳しく論じることが予測でき、that を使った場合にはその情報には深入りせず先に進むことが予測できるため、文章の展開を先読みする手がかりとなるからである。入試の長文読解では、この先読み能力が読解速度と正確性の両方を向上させる。段落冒頭で this が使われていれば「この段落ではこの話題が中心になる」と予測でき、that が使われていれば「前段落の内容を踏まえて別の論点に進む」と予測できる。この予測は、段落の要旨を把握する際に極めて有用である。

この原理から、this と that の語用論的な機能を読み取る具体的な手順が導かれる。手順1では指示語の後に続く文の展開を確認する。this の後に当該情報についての分析・説明・評価が続いていれば前景化の機能が確認できる。前景化が認められる場合、筆者はその情報を議論の中心に据えようとしており、後続の数文にわたってその話題が展開されると予測してよい。前景化のシグナルとなる後続表現には、describe, explain, illustrate, demonstrate, has important implications, is significant because などがある。手順2では that の後の文の焦点が別の要素にあるかを確認する。that が前文の情報を受けつつも、文の焦点が理由・結果・対比など別の論点にある場合は背景化の機能が確認できる。背景化が認められる場合、筆者はその情報に関する議論を終結させ、新たな論点へ移行しようとしていると判断してよい。背景化のシグナルとなる後続表現には、however, but, nevertheless, does not mean, is not to say, notwithstanding, aside from などがある。手順3ではこの読み取りを文章の展開予測に活用する。this が使われた段落ではその話題が中心的に論じられると予測し、that が使われた文では速やかに次の論点へ移行すると予測することで、読解の効率が向上する。予測に基づいて段落の要旨を先取りすることで、細部の読解に入る前に全体の構造を把握できるようになる。なお、this と that の語用論的機能を読み取る能力は、入試の「筆者の主張として最も適切なものを選べ」という設問にも有効である。筆者が this で前景化した情報は主張の核心に近く、that で背景化した情報は補足的位置づけにあると判断できる。

例1: The study found that exercise reduces stress. This finding has important implications for public health policy.
→ this + finding で前文の研究結果を前景化。後続で公衆衛生政策への示唆が論じられると予測できる。筆者はこの情報を展開するつもりである。this が使われている以上、後続の文ではこの研究結果の意義や応用について具体的な議論が続くと読み取れる。
→ 語用機能:前景化(後続の議論の中心となる情報)

例2: The experiment produced unexpected results. That was interesting, but the main focus of our analysis is the methodology.
→ that は前文の内容を背景化。文の焦点は “the main focus … is the methodology” にある。筆者は結果には深入りせず、方法論の議論に進む意図を示している。but の存在がこの焦点移動を明示している。
→ 語用機能:背景化(既出情報を認めつつ焦点を移動)

例3: Global temperatures are rising. This trend is accelerating.
→ this + trend で前文の事象を前景化。「加速している」という情報を付加し、この傾向について後続で詳しく論じることが予測される。限定詞用法の this によるラベリングと前景化が組み合わさった典型例であり、trend というラベルが「一時的な現象ではなく長期的傾向」という概念化を行っている。
→ 語用機能:前景化(継続的に議論される話題としての位置づけ)

例4: She apologized for the mistake. That settled the matter, and everyone moved on.
→ that は前文の行為(謝罪)を背景化。文の焦点は「問題が解決し、全員が先に進んだ」という結果にある。謝罪自体について深く論じる意図はない。settled と moved on が事態の収束を表し、議論がこれ以上展開されないことを示している。
→ 語用機能:背景化(事態の収束を示し議論を先に進める)

以上により、this と that の選択から筆者の情報展開の意図を読み取り、文章の展開を先読みすることが可能になる。

2. it と this の選択と情報の新旧

it と this はいずれも先行する情報を指すことができるが、その選択には情報の新旧に関わる語用論的な違いがある。it は既に確立された話題(旧情報)を維持する機能が強く、this は先行する情報を新たな話題として再導入する機能が強い。

2.1. 話題維持の it と話題転換の this

it と this には二つの捉え方がある。一つは「どちらも前の情報を指す同義的な表現」という捉え方であり、もう一つは「情報構造の中で異なる機能を担う語」という捉え方である。前者の理解は、入試で筆者の意図や態度を読み取る際に必要な手がかりを見落とすという点で不十分である。it は既に文脈の中で確立された話題をそのまま引き継ぐ話題維持の機能を持ち、this は先行する情報に注目を集めて新たな話題として再設定する話題導入の機能を持つ。同じ先行情報を受ける場合でも、it を使えば淡々と話題を継続し、this を使えばその情報を改めて注目の対象として提示するという、文章のリズムと焦点の違いが生じる。この違いを読み取ることが重要なのは、筆者が it と this のどちらを選んだかによって、当該情報に対する筆者の注目度や重み付けが判断できるためである。入試の読解問題で筆者の主張や態度を問われた場合、this が使われた箇所は筆者が特に注目している情報であり、it が使われた箇所は背景的に処理されている情報であるという判断が可能になる。特に論説文では、筆者が最も主張したい論点を this で再導入し、補助的な情報を it で淡々と伝えるというパターンが頻出する。この読み分けが、「筆者の主張として最も適切なものを選べ」という設問の正答率に直結する。

この原理から、it と this の語用論的な違いを読み取る具体的な手順が導かれる。手順1では it が使われている場合に話題の連続性を確認する。it が主語の位置にあり、前文から同じ話題が途切れなく続いていれば、話題維持の機能が働いている。この場合、it を含む文は前文の情報に新しい事実や詳細を淡々と付加しているだけであり、筆者が特別な注目を向けているわけではない。話題維持の it を識別する手がかりとして、前後の文の主語が同一対象を指しているかどうかを確認する。同一対象が it で維持されている場合、文章は同一話題の継続であると判断できる。手順2では this が使われている場合に話題の再焦点化を確認する。this が代名詞用法で主語の位置にあり、前文の情報に対する評価・分析・反応が後続していれば、話題導入の機能が働いている。this を含む文では、筆者が前文の情報を改めて読者の注意の中心に引き出し、その情報の重要性・影響・意義について述べようとしている。this の後に impressed, shocked, surprised, indicated, demonstrated, proved, led to, caused などの強い影響や帰結を表す動詞が続く場合は、再焦点化の度合いが高い。手順3ではこの違いを筆者の意図の読み取りに活用する。it が使われた文では情報が淡々と積み重ねられていると判断し、this が使われた文では筆者がその情報に特別な注目を向けていると判断する。段落内で this が出現した箇所は、その段落の中心的な主張や結論に近い位置にあることが多い。この特性を利用して、段落の要旨を効率的に把握できる。

例1: The project was completed on time. It was well received by the client.
→ it はプロジェクトの話題をそのまま維持。前文から同じ話題が連続し、新たな情報(クライアントの評価)が付加されている。特別な強調はない。筆者は事実を淡々と報告している。
→ 語用機能:話題維持(同一話題の淡々とした継続)

例2: The project was completed ahead of schedule. This impressed the client.
→ this は前文の内容(予定より早く完了したこと)に注目を集め、その情報がクライアントに与えた印象を述べている。筆者は「予定より早い完了」を特筆すべき事柄として扱っている。it を使った場合と比較すると、this を使うことで「予定より早い完了」という事実に読者の注意を明示的に引きつけている。
→ 語用機能:話題導入(先行情報への注目と再焦点化)

例3: The new policy was announced yesterday. It will take effect next month.
→ it は新政策の話題を維持。前文で導入された政策について、施行時期という事実的情報を追加しているだけで、特別な注目の移動はない。仮にここで “This will take effect next month.” と書かれていた場合、施行時期自体に特別な注意を向ける意味合いが生じるが、it の使用はそのような意図を含まない。
→ 語用機能:話題維持(事実の追加)

例4: The company laid off 500 workers. This sparked widespread criticism.
→ this は前文の内容(500人の解雇)に注目を集め、その社会的反応を述べている。単なる話題の継続ではなく、解雇という事態の重大性に筆者が焦点を当てている。sparked(引き起こした)という動詞の選択も、this による前景化と呼応して、出来事の衝撃性を強調している。
→ 語用機能:話題導入(先行情報の重大性への注目)

以上により、it と this の選択が反映する情報構造上の違いを読み取り、筆者が情報にどの程度の重みを置いているかを判断することが可能になる。

3. 指示語と筆者の態度表明

指示語の選択は、客観的な情報の整理だけでなく、筆者の態度や評価を間接的に表現する手段としても機能する。特に that は、否定的な評価や距離を置く態度を暗示する場合がある。

3.1. 指示語に込められた評価的ニュアンス

that は先行する情報や対象に対して心理的距離を置く機能を持ち、この距離が否定的評価・批判的態度・非同意の暗示として読み取られる場合がある。一方、this は情報を近くに引き寄せる機能を持ち、共感的・肯定的なニュアンスを帯びることがある。指示語の選択に込められた評価的態度を読み取る能力は、入試の読解問題で筆者の態度や立場を問う設問に対して有効な手がかりとなる。ただし、指示語のニュアンスは単独で筆者の態度を決定するものではなく、前後の形容詞・副詞・論理展開と組み合わせて総合的に判断する必要がある。that が使われているからといって直ちに否定的評価を意味するわけではないが、後続の文で批判や否定が展開されている場合、that の距離化機能がその態度と呼応していると判断できる。入試の選択肢問題で「筆者の態度として最も適切なものを選べ」という設問では、指示語の選択が正答の手がかりとなることが多い。筆者が that を用いて前文の主張を受けた直後に反論を展開している場合、筆者はその主張に対して批判的な立場にあると推定できる。

では、指示語に込められた評価的ニュアンスを読み取るにはどうすればよいか。手順1では that の使用文脈を確認する。that の後に否定的評価や批判的なコメントが続いている場合、that には距離を置く態度が込められている可能性がある。距離化の手がかりとなる後続表現には、however, but, nevertheless, not, no longer, ignore, fail, overlook, flawed, inaccurate, misleading, oversimplified などがある。手順2では this の使用文脈と対比する。同じ内容を this で受けた場合には共感的・肯定的なニュアンスが生じるのに対し、that で受けた場合には客観的・批判的なニュアンスが生じるという対比を確認する。仮に筆者が “This argument” と書いた場合にはその主張に関心を持って取り上げるニュアンスが生じるが、“That argument” と書いた場合にはその主張に距離を置いて批判的に検討するニュアンスが生じる。手順3では文脈全体の中で筆者の態度を総合的に判断する。指示語のニュアンスは一つの手がかりにすぎず、前後の形容詞・副詞・論理展開と合わせて筆者の態度を総合的に判断する。特に、指示語の選択と後続の評価的表現が一致している場合には、筆者の態度をより確信を持って判断できる。一致が見られない場合(例えば that + 肯定的表現)は、距離を置きつつも客観的に認めているというニュアンスと解釈する。

例1: Some people believe the earth is flat. That claim has been thoroughly disproven by science.
→ that + claim で前文の主張に距離を置いている。後続の “thoroughly disproven” と合わせて、筆者がこの主張を否定的に評価していることが明確。this claim であれば、筆者がその主張に関心を持って取り上げるニュアンスが生じるが、that を用いることで「自分とは関係のない主張」として距離を設定している。
→ 語用機能:距離化(否定的評価の暗示)

例2: The government promised to reduce taxes. This promise excited voters.
→ this + promise で前文の内容を前景化。後続の excited と合わせて、筆者はこの約束を話題として取り上げ、有権者の反応を描写している。肯定的でも否定的でもなく、中立的〜関心的な態度。this の使用は、筆者がこの約束を議論の対象として重視していることを示す。
→ 語用機能:前景化(中立的な話題提示)

例3: He argued that climate change is not a serious problem. That argument ignores decades of scientific evidence.
→ that + argument で前文の主張に距離を置き、後続で「数十年の科学的証拠を無視している」と批判。筆者の否定的評価が that の距離化機能と合致。ignores という動詞の選択が批判的態度を明示しており、that の距離化機能と呼応している。
→ 語用機能:距離化+批判(先行する主張を否定的に評価)

例4: This is exactly what we need — a comprehensive reform of the education system.
→ this が代名詞用法で文頭に置かれ、exactly と合わせて強い肯定・賛同を表明。前文の内容を近くに引き寄せ、積極的に支持する態度を示している。exactly(まさに)や we need(私たちに必要だ)という表現が this の近接化機能と呼応し、筆者の積極的な賛同を明確にしている。
→ 語用機能:近接化(肯定的評価・賛同の表明)

以上により、指示語の選択に込められた筆者の評価的態度を読み取り、筆者の立場や態度を問う設問に対して指示語を手がかりとした判断が可能になる。

談話:複数文にわたる照応の追跡

長文読解や段落整序問題では、指示語の照応関係が一文の中で完結せず、複数の文や段落をまたいで展開される。この層を終えると、段落冒頭の指示語が前段落のどの要素を受けているかを判定し、照応連鎖の追跡を通じて文章全体の一貫性を把握し、照応問題に対する体系的な解答手順を実行できるようになる。統語層で文法的識別を、意味層で照応先の特定手順を、語用層で情報の流れとの関係を確立していることを前提として、段落冒頭の指示語と前段落の接続、照応連鎖の追跡、照応関係を利用した設問への対応を扱う。談話層で確立される能力は、入試において「下線部の指す内容を本文中から抜き出せ」「段落の論旨を説明せよ」といった設問に直接的に対応する。

【関連項目】

[基盤 M50-談話]
└ 段落をまたぐ照応関係の追跡方法を把握する

[基盤 M51-談話]
└ 指示語の照応が主題文と支持文の結束にどう寄与するかを確認する

[基盤 M53-談話]
└ 指示語を含む接続表現の論理的機能を理解する

1. 段落冒頭の指示語と前段落の接続

長文読解では、段落の冒頭に置かれた指示語が前段落の内容をどのように受けているかを即座に判断できるかどうかが、読解速度と正確性を左右する。段落冒頭の指示語は、前段落と当該段落をつなぐ結束装置として機能しており、その照応先を正確に特定することで、段落間の論理関係を把握できる。

1.1. 段落冒頭の指示語の照応パターン

一般に段落冒頭の指示語は「前の段落の内容を受けている」と漠然と理解されがちである。しかし、この理解は前段落のどの要素を受けているかの区別を提供できないという点で不正確である。学術的・本質的には、段落冒頭の指示語は前段落の特定の要素を選択的に参照しており、その参照パターンは、前段落の主張(結論)を受ける場合、前段落の具体例や証拠を受ける場合、前段落全体の議論の流れを受ける場合の三つに分類される。このパターン認識が重要なのは、段落冒頭の指示語がどのパターンで前段落を受けているかを正確に判断することで、当該段落が前段落に対してどのような関係(発展・反論・補足・転換)にあるかを即座に把握できるためである。入試の段落整序問題では、段落冒頭の指示語が前段落のどの要素を受けているかを手がかりに段落の並べ替えを行う。指示語の照応パターンを正確に判定できれば、段落の論理的順序を効率的に決定できる。また、内容一致問題や要約問題でも、段落間の論理関係を正確に把握しているかどうかが正答率を左右する。主張を受けるパターンでは、後続段落が前段落の主張を発展させるか反論するかのいずれかであることが多い。具体例を受けるパターンでは、後続段落が前段落の具体例から結論を導くか、別の具体例を追加するかのいずれかが予測される。議論の流れを受けるパターンでは、後続段落が前段落の議論を踏まえた上で新たな論点を導入することが多い。

この原理から、段落冒頭の指示語の照応先を特定する具体的な手順が導かれる。手順1では指示語に続く名詞または述語を確認する。“This argument” であれば前段落の「主張」を、“This evidence” であれば「証拠」を、“This” 単独であれば前段落の「内容全体」を参照していると判断できる。限定詞用法の場合は、意味層で学んだラベリング機能を適用し、名詞のカテゴリーに合致する内容を前段落から特定する。手順2では前段落の構造を確認する。前段落の主題文(通常は冒頭文または結論文)の内容と、指示語の照応先が一致するかを検証する。前段落が「主張→根拠→具体例」の構造であれば、指示語が受けているのは主張部分か根拠部分か具体例部分かを判定する。手順3では当該段落の展開方向を予測する。段落冒頭の指示語の後に続く文が、前段落に対してどのような関係(賛同・反論・詳述・転換)を持つかを確認し、段落間の論理関係を確定する。however, nevertheless, on the other hand などの逆接表現が伴えば反論・対比の関係、furthermore, moreover, in addition などの追加表現が伴えば発展・補足の関係、therefore, as a result, consequently などの帰結表現が伴えば結論の関係と判断できる。段落整序問題では、この三つのパターン判定と段落間関係の予測を組み合わせることで、正しい段落順序を導出する。指示語が前段落のどの要素を受けているかが判定できれば、その段落がどの段落の直後に来るべきかが論理的に決まるためである。

例1: [前段落] Global warming has led to rising sea levels, more frequent extreme weather events, and the loss of biodiversity.
[当該段落冒頭] These consequences demand immediate action from governments worldwide.
→ these + consequences で前段落の三つの具体的影響を受けている。前段落の「具体例・証拠」を受けるパターン。consequences というラベルが三つの事象を「結果」として概念化し、当該段落は前段落の情報を踏まえた「対策の必要性」を論じると予測できる。demand が帰結を示す動詞であり、「具体例→行動要請」という論理展開が読み取れる。
→ 照応パターン:具体例の受け取り → 行動の提案への展開

例2: [前段落] The study concluded that bilingual education improves cognitive flexibility in children.
[当該段落冒頭] This conclusion, however, has been challenged by recent research.
→ this + conclusion で前段落の「主張(結論)」を受けている。however が続いており、反論・対比の関係。当該段落は前段落の結論に対する批判を展開すると予測できる。conclusion というラベルが前段落の研究結果を「結論」として概念化し、その結論に対する異議を however で明示している。
→ 照応パターン:主張の受け取り → 反論への展開

例3: [前段落] In Japan, the working population has been declining steadily since 2000. The government has introduced various policies to address this issue, including immigration reform and workplace automation.
[当該段落冒頭] This has not, however, reversed the overall trend.
→ this は代名詞用法で、前段落の「政府が様々な政策を導入したこと」全体を受けている。前段落の「議論の流れ」を受けるパターン。however により、政策の効果が不十分であることが論じられると予測できる。前段落が「問題の提示→対策の記述」という流れであり、当該段落が「対策の限界」を指摘するという論理的展開が読み取れる。
→ 照応パターン:議論の流れの受け取り → 限界の指摘への展開

例4: [前段落] Social media platforms collect vast amounts of personal data from users. This data is then sold to advertisers who use it to target specific consumer groups.
[当該段落冒頭] This practice raises serious ethical concerns.
→ this + practice で前段落の「個人データを収集し広告主に売るという行為」全体を受けている。practice というラベリングで前段落の複数の行為を一つの「慣行」として概念化。当該段落は倫理的懸念を論じると予測できる。raises(提起する)が後続し、この慣行に対する問題提起が当該段落の中心的話題であることが示されている。
→ 照応パターン:行為のラベリング → 評価・分析への展開

以上により、段落冒頭の指示語がどのパターンで前段落を受けているかを判断し、段落間の論理関係を正確に把握することが可能になる。

2. 指示語の連鎖と文章の一貫性

一つの文章の中で指示語は繰り返し出現し、連鎖を形成する。この連鎖を追跡することで、文章全体を通じて筆者がどのように情報を積み重ね、議論を展開しているかを把握できる。

2.1. 照応連鎖の追跡手順

文章の一貫性は、指示語による照応連鎖(referential chain)によって維持されている。照応連鎖とは、同一の対象が異なる指示語や表現で繰り返し参照されることで話題の連続性が確保される仕組みである。長文で指示語を追跡できなくなると文章の主題を見失い、設問に対して的外れな解答をしてしまう。照応連鎖の追跡能力が入試の長文読解で特に重要なのは、700〜1,000語程度の長文では、中心的な話題が10回以上にわたって異なる形式で参照されることが一般的であり、この連鎖を見失うと文章全体の構造を把握できなくなるためである。照応連鎖の形式としては、定名詞句(the + 名詞)、代名詞(it, they 等)、指示語(this, that 等)、限定詞用法(this + 名詞)、同義表現による言い換え(例:the regulation → this requirement → the rule)がある。これらが交替しながら同一の対象を参照することで、文章の結束性(cohesion)が維持される。

この原理から、照応連鎖を追跡する具体的な手順が導かれる。手順1では文章の冒頭で導入された主要な名詞句を把握する。この名詞句が文章全体の主題であり、後続の文で繰り返し参照される対象である。冒頭の数文で導入される名詞句は、通常、不定冠詞(a/an)や固有名詞で初出し、その後は定冠詞(the)や代名詞に切り替わる。この切り替わりのパターンを把握することで、主題の追跡が容易になる。手順2では各文の指示語がこの主題をどのように参照しているかを追跡する。同一の対象が it → this → the + 名詞 → such + 名詞というように異なる形式で繰り返し参照される連鎖を把握する。形式が変わっても指し示す対象が同一であることを確認し続けることで、話題の連続性を見失わない。連鎖の中で形式が変わる際、新しい情報が付加されているかどうかにも注意する。it による維持は新情報の付加が少なく、this による再導入は新たな視点の提供を伴うことが多い。手順3では照応連鎖が途切れる箇所を特定する。連鎖が途切れた箇所は話題の転換点であり、新たな主題が導入されている可能性が高い。連鎖の途切れは、新しい不定名詞句の導入、段落の変わり目、逆接の接続表現などによって示されることが多い。長文読解においては、照応連鎖の途切れを検出することで段落の区切りや論点の転換を即座に把握でき、文章の全体構造を効率的にマッピングできる。

例1: Artificial intelligence is transforming many industries. It has already been adopted in healthcare, where this technology is used to diagnose diseases. However, such applications raise concerns about privacy.
→ 照応連鎖:artificial intelligence → it → this technology → such applications。同一の対象(AI)が四つの異なる形式で参照され、話題の連続性が維持されている。不定名詞句 artificial intelligence で導入された主題が、代名詞 it で維持され、限定詞用法 this technology で再焦点化され、such applications で性質を参照しつつ新たな論点(プライバシーの懸念)に接続されている。
→ 連鎖の機能:主題の維持と段階的な具体化

例2: The new regulation requires companies to disclose their carbon emissions. It applies to firms with more than 500 employees. This requirement has been criticized by some business leaders, who argue that it places an unfair burden on large companies.
→ 照応連鎖:the new regulation → it → this requirement → it。同一の対象(新規制)が形式を変えながら参照され、議論が「規制の内容→適用範囲→批判→批判の根拠」と展開されている。最後の it は the new regulation(= this requirement)を再び照応している。
→ 連鎖の機能:主題の維持と議論の段階的展開

例3: Education plays a vital role in economic development. It provides individuals with skills. These skills enable people to participate in the workforce. This participation drives economic growth.
→ 照応連鎖:education → it → these skills → this participation。各文が前文の一部を受けて新しい情報を付加する連鎖構造。教育→技能→参加→経済成長という因果関係が照応連鎖で表現されている。特徴的なのは、各文で前文の一部(skills, participation)が新たな主語として取り出され、限定詞用法の指示語でラベリングされている点である。この「部分取り出し+ラベリング」のパターンは、因果関係の段階的構築において頻出する。
→ 連鎖の機能:因果関係の段階的構築

例4: Many students struggle with mathematics. They find abstract concepts difficult to understand. This difficulty often leads to a loss of motivation. As a result, these students may avoid math-related subjects entirely.
→ 照応連鎖:many students → they → this difficulty → these students。主題(学生)が they で維持され、途中で this difficulty と問題点が前景化された後、these students で再び主題に戻る。this difficulty は前文の「抽象的概念を理解するのが難しい」という状況をラベリングし、these students は冒頭の many students に回帰している。このように、照応連鎖が一直線ではなく、途中で派生的な話題(difficulty)を前景化してから本来の主題(students)に戻るパターンは、問題とその影響を論じる文脈で頻出する。
→ 連鎖の機能:主題の維持+問題の前景化+主題への回帰

以上により、文章中の指示語の連鎖を追跡し、筆者が情報をどのように積み重ねて議論を展開しているかを把握することが可能になる。

3. 照応関係を利用した設問への対応

統語層から談話層まで確立した照応関係の知識と手順を、入試の設問形式に合わせて実践的に活用する方法を確認する。「下線部の指す内容を答えよ」「下線部の指す内容を本文中から抜き出せ」という形式の設問に対して、体系的な手順で正答を導く力を養成する。

3.1. 照応問題の解答手順

照応問題への解答は、指示語の文法的識別→照応の種類の判定(名詞照応か文照応か)→照応先の特定→解答形式への変換という四段階の手順として体系化できる。この手順的アプローチが重要なのは、直感に頼る解答では照応先の特定が不安定になるのに対し、手順に基づく解答では安定的に正答を導出できるためである。入試では時間的制約の下で多数の設問に解答する必要があるため、手順を自動化して処理速度を上げることが実践的に重要である。以下の四段階を「識別→判定→特定→変換」のフローとして習慣化し、照応問題に出会った際に即座に適用できる状態を目指す。

以上の原理を踏まえると、照応問題を解答するための手順は次のように定まる。手順1(識別)では下線部の指示語の文法的性質を確認する。代名詞用法か限定詞用法か、単数か複数か、it の場合は形式的用法ではないかを確認する。この段階は統語層で学んだ知識を適用するものであり、5秒以内に完了すべき自動的な処理である。手順2(判定)では照応の種類を判定する。名詞照応の可能性を先に検証し、適切な先行名詞句がなければ文照応と判断する。名詞照応か文照応かの判定が解答形式を決定するため、この段階は正確に行う必要がある。名詞照応であれば解答は名詞句で足りるが、文照応であれば「〜ということ」「〜したこと」の形で命題を記述する必要がある。手順3(特定)では照応先を特定する。名詞照応の場合は先行名詞句を、文照応の場合は前文の命題内容を特定する。名詞照応の特定には意味層の手順(数の一致→意味的適合性→直近性の原則)を適用し、文照応の特定には文照応の手順(名詞照応の排除→命題範囲の確定)を適用する。限定詞用法の場合はラベリング機能を適用して、名詞カテゴリーに合致する内容を前文脈から特定する。手順4(変換)では設問の解答形式に変換する。「本文中から抜き出せ」であれば原文の表現をそのまま抽出し、「日本語で説明せよ」であれば照応先の内容を適切に日本語でまとめる。解答形式への変換で特に注意すべきは、文照応の場合に「〜こと」の形で命題を文として表現する点である。名詞一語で答えると減点される場合が多い。「英語で答えよ」の場合は、照応先の名詞句を文法的に正確な形で抽出する必要がある。

例1: [本文] Renewable energy sources such as solar and wind power are becoming increasingly affordable. This has led many countries to invest heavily in green technology.
[設問] 下線部 This が指す内容を日本語で答えなさい。
→ 手順1(識別):this は代名詞用法、単数。
→ 手順2(判定):名詞照応の検証。候補に適合する単数名詞がない(Renewable energy sources は複数)。文照応と判断。解答形式は「〜こと」の命題表現。
→ 手順3(特定):前文の命題全体「太陽光や風力などの再生可能エネルギー源がますます手頃な価格になっていること」が照応先。
→ 手順4(変換):日本語で命題を記述。
→ 解答:「太陽光や風力などの再生可能エネルギー源がますます手頃になっていること」

例2: [本文] The school introduced a new grading system. Students and parents were informed about the changes. However, not everyone agreed with them.
[設問] 下線部 them が指すものを本文中から抜き出しなさい。
→ 手順1(識別):them は複数の代名詞。
→ 手順2(判定):名詞照応の検証。複数名詞の候補:Students and parents(人なので agree with の対象として不自然)、the changes(複数、agree with の対象として自然)。名詞照応と判定。
→ 手順3(特定):照応先は the changes。
→ 手順4(変換):「本文中から抜き出せ」なので原文表現をそのまま抽出。
→ 解答:「the changes」

例3: [本文] The company reduced working hours and increased salaries. These measures improved employee satisfaction significantly.
[設問] 下線部 These measures の具体的な内容を日本語で答えなさい。
→ 手順1(識別):these は限定詞用法、複数。measures は「施策」。
→ 手順2(判定):限定詞用法のラベリング。measures(施策)のカテゴリーで前文を検索。前文の二つの行為がラベリングの対象。
→ 手順3(特定):二つの施策=「労働時間の短縮」と「給与の引き上げ」。
→ 手順4(変換):日本語で具体的内容を記述。
→ 解答:「労働時間を短縮したことと、給与を引き上げたこと」

例4: [本文] The experiment was conducted under controlled conditions, and it yielded consistent results. This suggests that the hypothesis is valid.
[設問] (a) 下線部 it が指すものを英語で答えなさい。(b) 下線部 This が指す内容を日本語で答えなさい。
→ (a) 手順1:it は単数代名詞。手順2:候補 the experiment(単数)。代入「実験が一貫した結果をもたらした」で自然。名詞照応。手順3:照応先は the experiment。手順4:英語で名詞句を抽出。→ 解答:「the experiment」
→ (b) 手順1:this は代名詞用法、単数。手順2:名詞照応の候補に適合するものがない(the experiment は既に it で受けられており、consistent results は複数で不一致)。前文全体の命題を照応先とする文照応。手順3:「実験が管理された条件下で行われ、一貫した結果をもたらしたこと」。手順4:日本語で命題を記述。→ 解答:「実験が管理された条件の下で行われ、一貫した結果が得られたこと」

以上により、照応問題に対して文法的識別→照応種類の判定→照応先の特定→解答形式への変換という体系的な手順を適用し、安定的に正答を導出することが可能になる。

このモジュールのまとめ

このモジュールでは、指示語の文法的分類という統語層の理解から出発し、意味層における照応先の特定手順、語用層における情報の流れとの関係、談話層における複数文・複数段落にわたる照応の追跡という四つの層を体系的に学習した。これらの層は相互に関連しており、統語層の文法的識別が意味層の照応先特定を可能にし、意味層の特定手順が語用層の情報構造の分析を支え、語用層の情報の流れの理解が談話層の長文読解における照応追跡を実現するという階層的な関係にある。

統語層では、指示語(this, that, it, these, those)の代名詞用法と限定詞用法の区別、数(単数・複数)と近接性(近称・遠称)による四分類、it の三つの用法(照応的・形式的・状況的)の識別手順、this と that の構文環境の違い(前景化と背景化)、指示語と代用表現(one, such, the former / the latter)の機能的区別を確立した。代名詞用法では指示語自体が照応先を持ち、限定詞用法では指示語と名詞の組み合わせ全体が先行情報を参照するという根本的な違いを把握し、it については形式的用法と照応的用法を構造的手がかりから判別する手順を習得した。

意味層では、名詞照応と文照応の体系的な区別、名詞照応における先行詞の特定手順(数の一致→意味的適合性→直近性の原則)、文照応の識別基準と照応先の特定方法、照応の曖昧性を解消するための複合的判断手順(数の一致・意味的適合性・文法的整合性・世界知識の四つの手がかり)、受験生が陥りやすい三つの典型的誤り(直近偏向・名詞偏向・数の不一致の看過)の回避方法、限定詞用法におけるラベリング機能の理解を確立した。特にラベリング機能については、前文に同一の名詞がなくても照応が成立するという仕組みを理解し、行為・評価・事態・結果の各カテゴリーに基づくラベルの識別を習得した。

語用層では、this の前景化機能と that の背景化機能の対比、it の話題維持機能と this の話題導入機能の違い、指示語の選択に反映される筆者の評価的態度の読み取りを確立した。指示語を単なる「指す語」としてではなく、筆者がどの情報を重要視し、どの方向に議論を展開しようとしているかを読み取る手がかりとして活用できるようになった。特に、that の距離化機能が否定的評価の暗示として機能する場合と、this の近接化機能が肯定的評価の暗示として機能する場合を識別し、筆者の態度を問う設問への対応力を確立した。

談話層では、段落冒頭の指示語が前段落の主張・具体例・議論の流れのいずれを受けているかを判定する手順、照応連鎖の追跡による文章全体の一貫性の把握、照応問題に対する四段階の解答手順(識別→判定→特定→変換)を確立した。照応連鎖については、同一の対象が不定名詞句→定名詞句→代名詞→限定詞用法→同義表現と形式を変えながら参照される仕組みを理解し、連鎖の途切れが話題の転換点を示すことを把握した。

これらの能力を統合することで、英文において指示語の照応関係を文法的・意味的・語用論的・談話的に分析し、「下線部の指す内容を答えよ」という設問に対して体系的な手順で正答を導くことが可能になる。このモジュールで確立した照応分析の能力は、後続のモジュールで学ぶ接続表現と論理関係の把握、論理展開パターンの識別、そして長文読解における筆者の主張の正確な理解へと発展させることができる。

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