週間・月間の「振り返り」フレームワーク：KPT法で学習効果を最大化する

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「一生懸命勉強しているのに、なぜか同じようなミスを繰り返してしまう…」

「学習計画を立てても、いつも途中で崩れてしまい、改善方法も分からない…」

多くの受験生が、このような「やりっぱなし学習」の壁にぶつかります。日々の努力を、確かな学力向上に繋げるためには、学習そのものと同じくらい、定期的に立ち止まって自分の学習を「振り返る」時間が不可欠です。

学力を着実に伸ばしていく生徒は、例外なくこの「振り返り」を非常に大切にしています。なぜなら、自分の行動の結果を客観的に分析し、次の行動を改善していくプロセスこそが、成長の原動力であることを知っているからです。

この記事では、誰でも簡単に、そして効果的に実践できる振り返りのフレームワーク（思考の枠組み）である「KPT（ケプト）法」を中心に、あなたの学習効果を最大化するための具体的な振り返りの技術について、詳しく解説していきます。

なぜ「やりっぱなし」の勉強では成績が伸びないのか？

まず、なぜ「振り返り」を行わない「やりっぱなし」の学習が、非効率で危険なのか、その理由を理解しましょう。

自分の弱点や課題に気づけない

自分では「頑張っている」つもりでも、客観的に見ると、学習方法に問題があったり、特定の分野に弱点があったりすることはよくあります。振り返りを行わなければ、これらの課題に気づくことができません。

例: 毎日3時間英語を勉強していても、そのほとんどが長文読解の時間で、合格に不可欠な単語や文法の学習がおろそかになっている、という事実に気づけないかもしれません。

効果のない勉強法を、延々と続けてしまう

「この参考書を、ただひたすら読んでいる。でも、本当にこのやり方で身についているのだろうか？」

そんな疑問を感じながらも、やり方を変えるきっかけがなく、効果の薄い勉強法を続けてしまうことがあります。振り返りは、自分の学習法が本当に成果に繋がっているのかを点検し、より良い方法に改善していくための絶好の機会です。

学習のPDCAサイクルが回らない

ビジネスの世界などでよく使われる「PDCAサイクル」は、学習においても非常に重要です。

P (Plan): 計画を立てる
D (Do): 実行する
C (Check): 評価・分析する（＝振り返り）
A (Action): 改善する

このサイクルを回すことで、学習は継続的に改善され、らせん階段を上るように成長していくことができます。「振り返り」は、このサイクルを回すための、まさにエンジンの役割を果たすのです。やりっぱなしの学習は、「P」と「D」だけで、成長のない同じ場所をぐるぐると回り続けている状態なのです。

学習の改善サイクルを生み出す「振り返り」とは

では、効果的な「振り返り」とは、どのようなものでしょうか。

「振り返り」の目的：過去の行動から学び、未来の行動を改善すること

振り返りの目的は、**過去の失敗を責めたり、後悔したりすることではありません。その目的は、あくまで「過去の行動（事実）から、学びや教訓を引き出し、未来の行動（次の計画）を、より良いものに改善していくこと」**にあります。常に前向きな視点で行う、未来のための作戦会議なのです。

シンプルで強力なフレームワーク「KPT（ケプト）法」の紹介

「振り返り」と聞くと、難しく感じるかもしれませんが、非常にシンプルで誰でも実践できる「KPT法」というフレームワークがあります。これは、もともとIT業界などで、プロジェクトの改善のために使われている手法です。

KPT法では、以下の3つの視点で、学習を振り返ります。

K (Keep): 良かったこと。うまくいったこと。今後も続けたいこと。
P (Problem): 悪かったこと。問題点。改善したいこと。
T (Try): Problemを解決するために、次に挑戦すること、試すこと。

なぜKPT法は、受験勉強の振り返りに適しているのか？

シンプルで分かりやすい: 3つの視点に分けるだけなので、誰でもすぐに始めることができます。
前向きな気持ちで始められる: まず「Keep（良かったこと）」から書き出すため、ポジティブな気持ちで振り返りをスタートできます。これにより、「Problem（問題点）」と向き合う際の心理的な抵抗が和らぎます。
必ず改善アクションに繋がる: 「Problem」を挙げるだけでなく、その解決策である「Try」までをセットで考えるため、振り返りが単なる反省会で終わらず、必ず次の具体的な行動に繋がります。

【準備編】効果的な振り返りのための2つの下準備

KPT法を使って効果的な振り返りを行うために、日頃から簡単な準備をしておきましょう。

準備1：日々の「学習ログ（記録）」を用意する

正確な振り返りを行うためには、客観的な事実に基づいた「記録」が不可欠です。

記録する内容:
- いつ、どの科目を、どの教材で、何時間勉強したか。
- 可能であれば、その時の集中度や、タスクの達成度なども記録しておくと、より深い分析が可能になります。
方法: 手書きのノートでも、学習管理アプリ（Studyplusなど）でも構いません。自分が続けやすい方法で、日々の学習を記録する習慣をつけましょう。この学習ログが、振り返りの際の最も重要な資料となります。

準備2：「振り返りの時間」をあらかじめ確保する

忙しい毎日の中で、意識しないと振り返りの時間はなかなか取れません。

スケジューリング: 「毎週日曜日の夜20時から30分間」「毎月最終日の夜1時間」というように、振り返りの時間を、あらかじめ週間・月間計画に組み込んでしまいましょう。
習慣化: これを学習のルーティンの一部とすることで、忘れずに、かつ落ち着いて振り返りに取り組むことができます。

【実践編】KPT法を使った、具体的な振り返りの3ステップ

準備ができたら、いよいよKPT法で振り返りを実践してみましょう。紙とペンを用意し、大きくK・P・Tの3つのエリアに分けて書き出していきます。

ステップ1【Keep】：今週（今月）の学習で「良かったこと・続けたいこと」を書き出す

まず、ポジティブな側面から振り返りを始めます。この1週間（あるいは1ヶ月）の学習で、うまくいったこと、自分を褒めてあげたいこと、今後も継続したい習慣などを、できるだけ具体的に書き出します。

書き出しの例:
- 「毎朝、学校に行く前に30分、英単語の学習を継続できた」
- 「苦手な数学の問題に、諦めずに15分間しっかり向き合えた」
- 「週末の調整日を使って、計画の遅れをリセットできた」
- 「新しいノート術を試したら、復習がしやすくなった」
- 「スマートフォンを別の部屋に置いて勉強したら、集中力が上がった」

ステップ2【Problem】：今週（今月）の学習で「問題点・改善したいこと」を書き出す

次に、改善すべき点や、うまくいかなかったことを客観的に書き出します。自分を責めるのではなく、あくまで「事実」として、淡々と挙げていくのがコツです。

書き出しの例:
- 「計画していた世界史の復習が、半分しか終わらなかった」
- 「夜になると疲れで集中力が切れ、気づいたらスマホを見てしまっていた」
- 「模試の数学で、ケアレスミスによる失点が多かった」
- 「質問しようと思っていたことを、先生に聞きそびれてしまった」
- 「睡眠時間が平均6時間を切ってしまい、日中に眠気を感じることが多かった」

ステップ3【Try】：Problemを解決するために、次週（来月）「挑戦すること・試すこと」を具体的に決める

最後に、ステップ2で挙げた各「Problem」を解決するために、次に取り組むべき具体的な「Try（挑戦）」を考えます。これが、KPT法の最も重要な部分です。

Problemに対応したTryを考える:
- P: 世界史の復習が終わらなかった → T: 「来週は、世界史の学習時間を1日15分増やす。または、週末の調整日の午前中を、世界史の復習にあてる」
- P: 夜に集中力が切れてしまう → T: 「来週は、夜22時以降は暗記系の学習に切り替えることを試してみる」「ポモドーロ・テクニック（25分集中＋5分休憩）を導入してみる」
- P: ケアレスミスが多かった → T: 「来週の問題演習では、必ず見直しの時間を5分確保するルールを試す」

【具体例で見る】高3生A君の「週間KPTレビュー」

KPT法の流れを、より具体的にイメージするために、ある受験生の例を見てみましょう。

A君の1週間の学習状況

計画: 数学の問題集を20ページ、英語の長文を5題、世界史の教科書を1章分進める予定だった。
実績（学習ログより）: 数学は15ページ、英語は5題完了。世界史はほとんど手つかず。平日の夜は疲れで集中できない日が多かった。しかし、朝の英単語学習は毎日続けられた。

A君のKPT分析

【K：Keep（良かったこと・続けたいこと）】

毎朝30分の英単語学習を継続できた。これは自信になるので来週も続ける。
計画通りに終わった英語長文は、時間を計って取り組んだので集中できた。

【P：Problem（問題点・改善したいこと）】

数学の計画が未達（-5ページ）。応用問題に思ったより時間がかかった。
世界史に全く手がつかなかった。後回しにしてしまった。
平日の夜、特に水・木曜日の集中力が著しく低かった。

【T：Try（次に挑戦すること・試すこと）】

**（数学の遅れに対して）**来週は、数学の応用問題に取り組む時間を、1問あたり20分と多めに見積もって計画を立ててみる。
**（世界史について）**来週は、世界史の学習を、集中力が必要ない、通学の電車の中（音声教材など）や、夕食後の比較的元気な時間に行うようにしてみる。
**（夜の集中力低下について）**来週の水・木曜の夜は、無理に思考系の学習をせず、暗記やその日の復習など、負担の軽い学習にあてる計画を試してみる。

KPT分析から生まれた、A君の「翌週の改善アクション」

この振り返りにより、A君は「自分の集中力のパターン」や「タスクの見積もりの甘さ」という具体的な課題に気づき、それを解決するための、より現実的で効果的な翌週の計画を立てることができました。

【改善編】「Try（挑戦すること）」を次の学習計画に落とし込む

振り返りで最も大切なのは、「Try」で決めたことを、確実に次のアクションに繋げることです。

「Try」が具体的で、行動可能かを確認する

悪いTryの例: 「数学を頑張る」「集中力を高める」
良いTryの例: 「数学の計算ミスを減らすために、1問ごとに検算する習慣をつける」「集中力を維持するために、21時以降はスマートフォンを親に預ける」
このように、いつ、誰が、何を、どうするのかが明確で、すぐに行動に移せるレベルまで、具体的にすることが重要です。

翌週の週間学習計画表に、「Try」を具体的なタスクとして組み込む

決めた「Try」は、ただ頭で思っているだけでは忘れてしまいます。必ず、翌週の計画表に、具体的なタスクとして書き込みましょう。

例: 計画表の月曜日の欄に、「【Try】朝、英単語の前に世界史の教科書を15分読む」と書き込む。

多くの「Try」を一度にやろうとしない

改善したい点がたくさん見つかっても、一度にすべてを変えようとするのはやめましょう。多すぎる変更は、かえって混乱を招き、挫折の原因になります。

優先順位: まずは、最も効果が高いと思われる、あるいは最も簡単に始められる「Try」を、1〜3個程度に絞って、次週の目標としましょう。

振り返りを無理なく、効果的に続けるためのヒント

「Problem」だけでなく、「Keep」をしっかり見つけることの重要性

振り返りをすると、どうしてもできなかったこと、つまり「Problem」にばかり目が行きがちです。しかし、それと同じくらい、「Keep（できたこと）」を見つけ、自分を認めてあげることは重要です。ポジティブな側面を確認することが、振り返りを前向きな活動にし、継続していくためのモチベーションになります。

友人や仲間と、KPTを共有し合う

もし可能であれば、同じ目標を持つ友人と、お互いのKPTの結果を共有し合うのも非常に効果的です。他人のKeepやTryから新しいヒントが得られたり、お互いのProblemに共感し、励まし合ったりすることができます。

振り返りができなかった週があっても、自分を責めない

忙しかったり、疲れていたりして、振り返りができない週もあるかもしれません。そんな時は、自分を責める必要はありません。「できなかった」という事実を受け止め、次の週に2週間分をまとめて振り返るなど、柔軟に対応しましょう。大切なのは、完璧さではなく、継続することです。

結論

「振り返り」は、過去の自分を裁くための裁判ではありません。それは、未来の自分をより良くするための、前向きで、建設的な作戦会議です。

そして、KPT法というシンプルなツールは、その作戦会議を、誰でも効果的に進めるための、強力な味方となってくれます。

計画を立て、実行し、振り返り、改善する。

この学習のサイクルを、KPT法を使って毎週、毎月、着実に回し続けること。それこそが、他の誰でもない、あなた自身の力で成績を伸ばしていく「自立した学習者」への、最も確かな道です。

今週末、あなたのこの1週間の学習を、KPTの3つの視点で振り返ってみませんか？その小さな一歩が、あなたの学習の質を大きく変え、合格へと導く、大きな変化の始まりになるはずです。