【共通テスト 数学1】Module 2: 第1問(必答)攻略:計算精度と誘導読解の統合

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【本記事の目的と概要】

本稿は、共通テスト数学Ⅰ・Aのスコアの土台を築く「第1問(配点30点)」を完全攻略するための戦術マニュアルである。第1問は、数学Ⅰ・Aの広範な分野から、基本的な概念の深い理解と、それらを迅速かつ正確に運用する能力を問う問題群で構成される。特に、一見すると単純な計算問題に見えて、巧みな誘導が隠されていることが多く、その「思考のレール」をいかに素早く見抜き、乗りこなすかが高得点の鍵を握る。本モジュールでは、**「数と式」「集合と論理」「2次関数」「図形と計量」といった頻出分野における核心的テーマを掘り下げるとともに、共通テスト特有の「会話文形式」や「段階的誘導」**を読み解くための思考プロセスを徹底的に解説する。ここに記された戦略を習得し、計算の精度と読解の精度を高い次元で統合することで、試験開始直後から盤石のアドバンテージを確立することを目指す。


目次

1. 第1問の構造と全体戦略

1.1. 第1問の構成要素

  • 第1問は、配点30点を持ち、通常、2つの独立した、あるいは緩やかに関連するテーマの小問集合(例:[1]と[2])で構成される。
  • 出題範囲は数学Ⅰの「数と式」「集合と論理」「2次関数」「図形と計量」と、数学Aの「データの分析」を除く分野から選ばれることが多い。
    • 注意: 「データの分析」は第1問で出題される可能性は極めて低い。この分野は主に第2問の担当領域であると認識しておくこと。

1.2. 第1問における時間配分と心構え

  • Module 1で提示した通り、第1問の目標解答時間は約20分である。これは1点あたり40秒という計算になる。
  • この時間内で高得点を確保するためには、以下の心構えが不可欠である。
    1. 「ウォーミングアップ」ではない: 第1問は基礎的な内容を問うことが多いが、決して易しい「ウォーミングアップ」ではない。むしろ、ここで時間と思考のリズムを確立できなければ、後の大問に深刻な影響を及ぼす。試験開始からトップスピードで、しかし冷静に問題に取り組む必要がある。
    2. 計算ミスは致命傷: 第1問の計算ミスは、単なる失点以上のダメージをもたらす。後の設問が前の結果を利用する誘導形式の場合、序盤の計算ミスが連鎖的な失点を引き起こすからである。高速でありながら、絶対的な正確性が求められる。
    3. 誘導の意図を即座に見抜け: 出題者は、受験生を正解へ導くための「思考のレール」を敷いている。このレールから外れ、我流で解こうとすると、無駄な計算や時間浪費に繋がる。設問の流れそのものが最大のヒントであると心得よ。

2. [数と式・集合と論理] 分野の攻略法

2.1. 展開・因数分解の応用:対称性と交代式の構造的理解

  • 高校1年で学ぶ展開・因数分解の公式は、そのままの形で問われることは稀である。共通テストでは、それらを応用し、式の構造的特徴(特に対称性)を見抜く力が試される。
  • 典型例:2022年度本試験 第1問〔1〕1111
    • この問題では、a+b+c=1 2と a^2+b^2+c^2=13 3という条件から ab+bc+ca の値を求めさせている。これは、対称式の基本である (a+b+c)^2 = a^2+b^2+c^2 + 2(ab+bc+ca) の関係を理解しているかを直接的に問うている 4
    • 戦略的思考:
      1. a+b+cab+bc+caa^2+b^2+c^2 という3つの基本対称式がセットで登場した場合、上記の展開公式が利用できないか、即座に想起する。
      2. 次に (a-b)^2+(b-c)^2+(c-a)^2 の値を求めさせている 5。これも闇雲に展開するのではない。
      3. 展開すると 2(a^2+b^2+c^2) - 2(ab+bc+ca) となることを知っていれば、先程求めた値を代入するだけで瞬時に解答できる。この式変形は、難関大受験生にとっては常識レベルの知識として備えておくべきである。
      4. さらに、b-c=xc-a=y とおくことで、x+y=-(a-b) の関係を導き、連立方程式を解かせるなど、文字の置き換えによる誘導にもスムーズに乗ることが求められる。
  • 教訓: 単純な公式暗記ではなく、「なぜこの式が問われるのか」という構造的視点を持つこと。対称式・交代式の問題は、誘導に従えば計算量が少なくなるように設計されていることが多い。

2.2. 絶対値・根号を含む方程式・不等式の条件分岐と場合分け

  • 絶対値記号 | | や根号  が含まれる問題は、場合分けと思考の整理が鍵となる。出題者は、受験生が正確に条件分岐できるかを見ている。
  • 絶対値の攻略法: 絶対値記号を見たら、機械的に「中身の正負」で場合分けする思考を始動させる。
    • 典型例1:2023年度本試験 第1問〔1〕6
      • 最初に |x+6| <= 2 77 という単純な不等式を解かせる。これは -2 <= x+6 <= 2 へと即座に変換できなければならない。
      • 重要なのはその後の誘導である。|(1-√3)(a-b)(c-d)+6| <= 2 88 という複雑な式が登場するが、これは x = (1-√3)(a-b)(c-d) と置き換えることで、先程解いた不等式と全く同じ構造をしていることに気づけるか、が問われている。
      • 共通テストでは、このように**「具体的な問題で解法を確認させた後、同じ構造の抽象的な問題に応用させる」**という誘導が頻繁に用いられる。
    • 典型例2:令和4年度追試験 第1問〔1〕9
      • |3x-3c+1| = (3-√3)x-1 10 という方程式では、3x-3c+1 >= 0 の場合と < 0 の場合で、絶対値の外れ方が変わる。
      • それぞれの条件(x >= c - 1/3 と x < c - 1/3)の下で解を求め、その解が**場合分けの条件を満たすか(解の吟味)**を検証する必要がある 11111111。この吟味を怠ると、存在しない解を解答してしまうことになる。
  • 根号の攻略法: 無理数の計算では、有理化と整数部分・小数部分の評価がポイントとなる。
    • 典型例:2024年度追試験 第1問〔1〕12
      • n < 2√13 < n+1 13 を満たす整数 n を問うている。これは n^2 < (2√13)^2 < (n+1)^2 すなわち n^2 < 52 < (n+1)^2 を考え、7^2=498^2=64 から n=7 を導く。平方数の知識が迅速な処理を可能にする。
      • その後、a = 2√13 - 7 とおくことで、a が 2√13 の小数部分であることを示唆している。
      • b = 1/a の計算では、1/(2√13 - 7) の有理化を正確に行う必要がある 14
  • 教訓: 絶対値は「場合分けと解の吟味」、根号は「有理化と整数・小数部分の評価」が定石である。そして、前の設問が後の設問のヒントになっている構造を常に見抜くこと。

2.3. 集合と論理:必要条件・十分条件の的確な判断

  • 第1問では、集合の包含関係や、命題の真偽、必要条件・十分条件の判断が問われることがある。
  • 戦略的思考:
    1. 定義の再確認: 「AはBであるための必要条件」は B ⇒ A、「十分条件」は A ⇒ B、「必要十分条件」は A ⇔ B。この論理関係を矢印で視覚的に表現する癖をつける。
    2. 具体例と反例: 抽象的で分かりにくい場合は、具体的な数値を代入して考える。命題が偽であることを示すには、反例を一つ見つければ十分である。
    3. 集合の包含関係で捉える: 条件 p を満たすものの集合を P、条件 q を満たすものの集合を Q とする。
      • p が q の十分条件 ⇔ P ⊂ Q
      • p が q の必要条件 ⇔ Q ⊂ P
      • p が q の必要十分条件 ⇔ P = Q
      • 数直線やベン図を用いて包含関係を視覚化すると、判断ミスが劇的に減少する。

3. [2次関数] 分野の攻略法

  • 第1問における2次関数は、第2問で扱われるような複雑な応用問題ではなく、グラフの基本的な性質(頂点、軸、判別式)の正確な理解を問う問題が中心となる。
  • 平方完成と頂点の座標:
    • y = ax^2 + bx + c の形の式を見たら、反射的に平方完成して頂点の座標を求める準備をする。計算ミスが多発するポイントなので、丁寧な式変形を心がける。
    • 典型例:令和4年度追試験 第2問〔1〕(iii) 15 では、y = 1/4x^2 - 1/2x - 1 の頂点を求める計算が、グラフの概形を把握する上で不可欠となる。
  • グラフとx軸の共有点:
    • 「共有点の個数」というキーワードを見たら、判別式 D = b^2 - 4ac を即座に想起する。
      • D > 0 ⇔ 異なる2個の共有点
      • D = 0 ⇔ 1個の共有点(接する)
      • D < 0 ⇔ 共有点なし
    • 注意: 多くの受験生が見落とすが、これはあくまで「2次関数」の場合である。x^2 の係数が0になる可能性も常に考慮すること。
  • 第1問における2次関数の役割:
    • 第1問の2次関数は、それ自体がゴールであることよりも、後続の問題(例:絶対値を含む関数の場合分け、図形問題の最大・最小)の「部品」として機能することが多い。
    • 例えば、絶対値を含む関数の場合分けは、中の2次式が正になるか負になるか、つまり2次不等式を解くことに帰着する 16
    • したがって、基本的な計算(平方完成、判別式、不等式)を迅速かつ正確に行う能力が、第1問全体を安定させる上で極めて重要となる。

4. [図形と計量] 分野の攻略法

4.1. 平面図形:正弦・余弦定理の戦略的選択

  • 「図形と計量」では、与えられた情報から正弦定理と余弦定理のどちらを使うべきかを瞬時に判断する能力が求められる。
  • 定理の選択基準:
    • 余弦定理:
      • 3辺の長さが分かっていて、角の大きさ(の余弦)を求めたいとき。
      • 2辺とその間の角の大きさが分かっていて、残りの1辺の長さを求めたいとき。
    • 正弦定理:
      • 外接円の半径が絡む問題。
      • 1辺とその対角の大きさが分かっていて、他の辺や角について求めたいとき。
  • 典型例:2023年度本試験 第1問〔2〕17
    • 円O(半径5)と弦AB(長さ6)が与えられている 18。この時点で、△OABは二等辺三角形であり、余弦定理や垂線を利用して角の情報を得ることができる。
    • sin∠ACB を求める設問 19 では、円周角の定理と、△ABCの外接円が円Oであることから、正弦定理 AB/sin∠ACB = 2R (Rは外接円の半径)を用いるのが最も直接的である。AB=6R=5 なので、sin∠ACB = 6 / (2*5) = 3/5 と即座に求まる。
    • この問題のように、図形の中に複数の三角形が見える場合、どの三角形に注目し、どの定理を適用するかを戦略的に選択する必要がある。

4.2. 空間図形:断面図の作成と垂線の戦略的利用

  • 空間図形の問題が出題された場合、多くの受験生が苦手意識を持つが、本質は「必要な平面を抜き出して2次元の問題に落とし込む」ことにある。
  • 攻略のステップ:
    1. 状況把握: 問題文と図から、点の位置関係、与えられた長さや角度を正確に把握する。
    2. 平面の抽出: 求めたい量(長さ、角度、面積など)が含まれる、あるいは計算の助けとなる「都合の良い平面」を見つけ出し、それを2次元の図として計算用紙に描き出す。
    3. 垂線の活用: 空間における距離や角度の問題では、垂線を引くことで直角三角形を作り出すことが定石である。これにより、三平方の定理や三角比が適用可能となる。
  • 典型例1:2023年度本試験 第1問〔2〕(2)20
    • 球Sと、その上にある3点P, Q, Rが与えられている。三角錐TPQRの体積が最大になる状況を考えさせている 21
    • 体積が最大になるのは、高さが最大になるとき。高さは、平面PQRから最も離れた球面上に頂点Tがあるとき、すなわち、平面PQRに垂直で球の中心を通る直線と球面との交点がTとなるときである。この幾何学的考察ができるかが第一の関門。
    • 高さが分かれば、あとは底面積△PQRを求めればよい。3辺の長さが与えられているので、余弦定理で一つの角のcosを求め、sin^2θ + cos^2θ = 1 からsinを求め、面積公式 S = 1/2 bc sinA を使うのが王道である 22
  • 典型例2:2024年度追試験 第1問〔2〕23232323
    • 電柱の影が地面と坂にまたがる問題。一見複雑だが、これは「電柱の先端、根もと、影の先端を含む一つの平面」を抜き出して考えることで、2次元の三角比の問題に帰着する 24
    • 「坂の傾斜7%」という情報を tan の値として捉え、三角比の表を用いて角度に変換する 25 など、現実の情報を数学の言葉に翻訳するプロセスが求められる。
  • 教訓: 空間図形に臆することはない。基本は「平面を抜き出す」「垂線を引いて直角三角形を作る」の2つである。

5. 第1問における誘導形式と会話文への最終アプローチ

  • Module 1でも触れたが、第1問は誘導形式の宝庫である。
  • 構造の再認識:
    • (1)で具体的な計算 → (2)で文字を用いた一般化: このパターンでは、(1)の計算プロセスそのものが(2)を解くためのヒントになっている。
    • 前半で定理の確認 → 後半でその応用: (例: |x|<=a の解法を確認させ、それを利用して複雑な絶対値不等式を解かせる 26262626)
    • 会話文によるヒント: 太郎さんと花子さんの会話は、思考の道筋を示唆している。「~に着目してみよう」という発言は、出題者からの「ここに注目せよ」というメッセージである 27
  • 第1問攻略の極意: それは、**「出題者の思考のレールに素直に乗ること」**である。奇抜な発想やテクニックは不要。問題文を丁寧に読み、設問の順番に沿って、基本的な定義と定理を正確に適用していく。この「素直さ」と「正確性」こそが、第1問を安定して、かつ迅速に攻略するための最強の武器となる。

結論:第1問は「得点源」であり「ペースメーカー」である

第1問は、単なる30点分の問題ではない。それは、試験全体の流れを決定づける「ペースメーカー」であり、高得点を狙う上での確固たる「得点源」である。ここで紹介した各分野の戦略的ポイントと、誘導形式への対処法をマスターし、計算の正確性を極限まで高めること。それができれば、試験開始20分後、諸君は大きな自信と時間的余裕を持って、第2問以降の戦いに臨むことができるだろう。反復演習を通じて、これらの戦略を血肉と化してほしい。

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