【共通テスト 数学 ②】Module 7: 数学C領域の統合的攻略 – 複素数平面と平面上の曲線

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本記事の目的と構成

本モジュールは、大学入学共通テスト「数学Ⅱ・B・C」のフィナーレを飾る数学Cの領域、すなわち複素数平面と平面上の曲線を、その根底にある「代数と幾何の融合」という視点から統合的に攻略することを目的とします。この分野は、新課程において多くの受験生が新たに取り組む内容であり、その学習の質が総合的な得点力を大きく左右します。

複素数平面は、これまで1次元の数直線上のものであった「数」に、2次元の「幾何学的な意味(回転・拡大)」を与えます。一方、平面上の曲線(楕円・双曲線)は、特定の幾何学的条件(2つの定点からの距離の和や差が一定)を満たす点の軌跡を、美しい代数方程式として表現します。この2つのテーマは、一見すると別々の分野に見えますが、「代数的な式で幾何学的な図形を表現する」という共通の思想で貫かれています。

本稿では、まず第1章で複素数平面を取り上げ、基本的な演算の幾何学的意味から、図形方程式の表現、そして共通テストで問われる回転移動や図形の変換といった応用的な内容までを解説します。続く第2章では、平面上の曲線に焦点を当て、楕円・双曲線の定義と標準形、そしてそれらのグラフの性質や直線との共有点問題といった、典型的な問題へのアプローチを詳述します。最後に第3章では、これら2つのテーマがどのように融合し、あるいは媒介変数表示といった発展的なテーマと結びついて出題されるのかを、共通テスト特有の誘導形式に即して分析します。このモジュールを通じて、代数と幾何の言葉を自在に翻訳する能力を身につけ、数学Cの領域を確固たる得点源としましょう。


目次

1. 複素数平面 – 回転と拡大縮小の幾何学

複素数平面は、数を点として可視化し、特に「積」の演算に「回転と拡大」というダイナミックな幾何学的意味を与えることで、平面図形の問題に新しい解法をもたらします。

1.1. 複素数の演算と幾何学的解釈

  • 複素数と点の対応
    • 複素数 $z = x + yi$ は、座標平面上の点 $(x, y)$、あるいは原点を始点とする位置ベクトル $(x, y)$と一対一に対応します。この対応関係が、代数と幾何を繋ぐ最初の架け橋です。
    • 和・差$z_1 + z_2$ はベクトルの和(平行四辺形)、$z_2 - z_1$ は点 $z_1$ から点 $z_2$ へ向かうベクトル $\vec{z_1 z_2}$ を表します。したがって、$|z_2 - z_1|$ は2点間の距離を意味します。これは図形問題を解く上で最も基本的な事実です。
  • 積・商の幾何学:回転と拡大縮小
    • 複素数 $z$ を掛けるという操作は、原点を中心とした回転拡大・縮小の合成変換です。
      • $|z_1 z_2| = |z_1| |z_2|$ (大きさは積になる)
      • $\arg(z_1 z_2) = \arg(z_1) + \arg(z_2)$ (偏角は和になる)
    • この性質を最も明確に表現するのが極形式 $z = r(\cos\theta + i\sin\theta)$ です。ここで $r = |z|$$\theta = \arg(z)$ です。

1.2. ド・モアブルの定理と方程式への応用

極形式の乗法は、$n$ 乗の計算においてド・モアブルの定理という強力な公式に繋がります。

  • ド・モアブルの定理
    • $[r(\cos\theta + i\sin\theta)]^n = r^n(\cos(n\theta) + i\sin(n\theta))$
    • これは「$n$ 乗するとは、大きさを $n$ 乗し、偏角を $n$ 倍すること」を意味します。
  • 方程式 $z^n = w$ の解法
    1. まず、複素数 $w$ を極形式で表します:$w = R(\cos\phi + i\sin\phi)$
    2. 求める解 $z$ も極形式で $z = r(\cos\theta + i\sin\theta)$ とおきます。
    3. ド・モアブルの定理を適用して $z^n = r^n(\cos(n\theta) + i\sin(n\theta))$
    4. $z^n = w$ より、大きさと偏角を比較します。
      • $r^n = R \implies r = \sqrt[n]{R}$
      • $n\theta = \phi + 2k\pi$ ($k$ は整数) $\implies \theta = \frac{\phi + 2k\pi}{n}$
    5. $k=0, 1, 2, ..., n-1$ を代入することで、$n$ 個の異なる解が得られます。これらの解は、複素数平面上で原点を中心とする半径 $r$ の円に内接する正$n$角形の頂点をなします。

1.3. 複素数による図形方程式

特定の幾何学的条件を満たす点 $z$ の軌跡は、複素数を用いた方程式で簡潔に表現できます。

  • 円の方程式:中心が $c$、半径が $r$ の円は、$|z-c| = r$
  • 垂直二等分線:2点 $\alpha, \beta$ を結ぶ線分の垂直二等分線は、$|z-\alpha| = |z-\beta|$
  • 直線と角度
    • 3点 $\alpha, \beta, \gamma$ があり、$\angle \beta\alpha\gamma$ を考えるには、複素数 $\frac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha}$ を考察します。
    • この複素数の偏角が $\angle \beta\alpha\gamma$ に、絶対値が辺の長さの比 $A\gamma/A\beta$ に対応します。
    • 特に、直線ABと直線ACが垂直である条件は、$\arg(\frac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha}) = \pm\frac{\pi}{2}$、すなわち $\frac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha}$ が純虚数(実部が0の虚数)であることと同値です。
    • 2025年度 旧課程 第7問では、この垂直条件が $w = \frac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha}$ とおいたとき $w+\bar{w}=0$ と同値であることが示されています。これは、純虚数 $bi$ の共役複素数 $\bar{bi}$ が $-bi$ となるため、和が0になるという性質に基づいています。この代数的な条件への翻訳が、共通テストで問われる重要な思考プロセスです。

2. 平面上の曲線 – 楕円と双曲線の構造

平面上の曲線は、特定の代数方程式を満たす点の集合として定義されます。特に楕円と双曲線は、幾何学的な定義と方程式の標準形、そしてそのパラメータの意味を正確に結びつけて理解することが重要です。

2.1. 楕円と双曲線の定義と標準形

  • 楕円
    • 定義:平面上の2つの定点(焦点)F, F’ からの距離のが一定であるような点Pの軌跡。$PF + PF' = 2a$(一定)。
    • 標準形: $\frac{x^2}{a^2} + \frac{y^2}{b^2} = 1$ ($a>b>0$)
    • 各要素の関係
      • $a$:長半径(中心からx軸との交点までの距離)
      • $b$:短半径(中心からy軸との交点までの距離)
      • 焦点の座標:$F(c, 0), F'(-c, 0)$。ここで $c = \sqrt{a^2 - b^2}$
    • 共通テストでの出題例2025年度 新課程 第7問では、まさにこの定義式 $|z-1| + |z+1| = 4$ から出発し、$z=x+yi$ を代入して計算を進めることで、標準形 $\frac{x^2}{4} + \frac{y^2}{3} = 1$ を導出させています。これは $a=2, c=1$ の楕円であり、$b^2=a^2-c^2=3$ となって、すべての関係が一致します。
  • 双曲線
    • 定義:平面上の2つの定点(焦点)F, F’ からの距離のの絶対値が一定であるような点Pの軌跡。$|PF - PF'| = 2a$(一定)。
    • 標準形$\frac{x^2}{a^2} - \frac{y^2}{b^2} = 1$(左右に開く)または $\frac{x^2}{a^2} - \frac{y^2}{b^2} = -1$(上下に開く)。
    • 各要素の関係
      • $a$:中心から頂点までの距離。
      • 焦点の座標:$F(c, 0), F'(-c, 0)$。ここで $c = \sqrt{a^2 + b^2}$
      • 漸近線$y = \pm \frac{b}{a}x$。これは双曲線の概形を描く上で不可欠なガイドラインです。

2.2. 平行移動と直線との共有点

  • 平行移動
    • 標準形 $\frac{x^2}{a^2} + \frac{y^2}{b^2} = 1$ をx軸方向に$p$、y軸方向に$q$だけ平行移動した楕円の方程式は、$$\frac{(x-p)^2}{a^2} + \frac{(y-q)^2}{b^2} = 1$$となります。中心が $(0,0)$ から $(p,q)$ に移動し、焦点や頂点もそれに伴って平行移動します。
  • 直線との共有点の個数
    • 2次曲線の方程式と直線の方程式 $y=mx+n$ を連立させ、$y$ を消去すると、$x$ に関する2次方程式が得られます。
    • この2次方程式の判別式を $D$ とすると、共有点の個数は以下のように判別できます。
      • $D > 0$:共有点は2個(交わる)
      • $D = 0$:共有点は1個(接する)
      • $D < 0$:共有点は0個(交わらない)
    • この判別式の利用は、微分法における接線問題と同様の考え方であり、代数計算によって幾何学的な位置関係を決定する強力な手法です。

3. 融合問題への戦略的アプローチ

数学Cの真価は、複素数平面と平面上の曲線、あるいは他の分野との融合問題で発揮されます。

3.1. 複素数平面上の点の変換と軌跡

  • 回転移動の応用
    • 点 $z$ を原点の周りに角 $\theta$ だけ回転させた点 $w$ は $w = z(\cos\theta + i\sin\theta)$ と表せます。
    • 2025年度 新課程 第7問(2) はこの応用です。楕円 $|z-1| + |z+1| = 4$ 上の点 $z$ を $\pi/4$ 回転させた点 $w$ が満たす方程式を求める問題です。
    • 解法アルゴリズム(軌跡問題の王道)
      1. 動く点と求める点の関係を立式$w = z(\cos\frac{\pi}{4} + i\sin\frac{\pi}{4})$
      2. 元の点について解く$z = w(\cos(-\frac{\pi}{4}) + i\sin(-\frac{\pi}{4}))$ のように、$z$ を $w$ で表す。
      3. 元の点の軌跡の方程式に代入:$|z-1| + |z+1| = 4$ の $z$ に、$w$ の式を代入する。$$|w(\cos(-\frac{\pi}{4}) + i\sin(-\frac{\pi}{4})) – 1| + |w(\cos(-\frac{\pi}{4}) + i\sin(-\frac{\pi}{4})) + 1| = 4$$
      4. 得られた $w$ の方程式が、求める軌跡です。この「逆の関係を代入する」という手法は、媒介変数表示された点の軌跡を求める際にも共通する重要な戦略です。

3.2. 媒介変数表示された曲線の追跡

  • 媒介変数(パラメータ)の消去
    • $x = f(t), y = g(t)$ のように、$x, y$ が別の変数 $t$ を介して関係づけられている場合、$t$ を消去することで $x, y$ の直接的な関係式(軌跡の方程式)を求めることができます。
    • 例えば、楕円は $x=a\cos t, y=b\sin t$ と媒介変数表示できます。このとき、$\frac{x}{a} = \cos t, \frac{y}{b} = \sin t$ であり、$\cos^2 t + \sin^2 t = 1$ という関係から、$(\frac{x}{a})^2 + (\frac{y}{b})^2 = 1$ というよく知られた方程式が導かれます。

結論:Module 7の総括

数学Cで扱われる複素数平面と平面上の曲線は、代数と幾何が最も密接に結びついた美しい分野です。共通テストでは、この二つの分野の概念を正確に理解し、それらを問題の文脈に応じて柔軟に使い分ける能力が求められます。

  1. 複素数平面は「変換」の言語:複素数の積は「回転と拡大」を表します。図形の回転や相似変換を、代数計算として処理できるのが最大の強みです。特に、垂直条件 $w+\bar{w}=0$ のような代数的な言い換えは確実にマスターすべきです。
  2. 平面上の曲線は「定義」に立ち返る:楕円は「2焦点からの距離の和が一定」、双曲線は「距離の差が一定」という幾何学的な定義が、その方程式の根源です。2025年度新課程 第7問のように、定義から出発して方程式を導出するプロセスを理解しておくことが、応用問題への対応力を高めます。
  3. 軌跡問題は「逆代入」が定石:変換された点や媒介変数で表された点の軌跡を求める際は、元の点が満たすべき関係式に、変換後の点から逆算した式を代入するのが王道のアプローチです。

共通テストの数学Cの問題は、丁寧な誘導が特徴です。問題文を正確に読み解き、一つ前の設問の結果を次のステップにどう活かすかを考えることが、完答への道筋を示してくれます。本モジュールで示した戦略的視点を持ち、代数と幾何の世界を自由に行き来する訓練を積むことで、数学Cを得意分野とし、合格を確実なものにしてください。

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