【共通テスト 英語】Module 5: 論説・説明文の論理構造解析

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【本記事の目的と概要】

本モジュールでは、共通テストリーディングの最高峰、大問6(および一部の長文説明文)で出題される論説・説明文を、論理的に、かつ構造的に解体し、筆者の主張を正確に読み解くための高度な読解戦略を伝授します。これらの文章は、単なる情報の検索や時系列の追跡とは異なり、抽象的な概念、複雑な因果関係、対比、譲歩といった、論理の骨格そのものを理解する能力を要求します。ここで高得点を獲得できるかどうかが、9割以上のスコア、ひいては最難関大学合格を達成するための分水嶺となります。本稿では、**「文章全体の構造分析」「パラグラフ・リーディング」「ディスコースマーカーの活用」「抽象と具体の往還」「複雑な論理関係の把握」「主題の抽出」**という6つのスキルを統合し、難解な英文の核心を突くための思考プロセスを徹底的に解説します。


目次

23. 論説文の構造分析:序論・本論・結論の役割と筆者の主張の特定

23.1. マクロの視点:文章全体の設計図を読む

  • 論説文や説明文は、筆者が自身の主張を読者に効果的に伝えるために、明確な設計図に基づいて構築されています。その最も基本的な構造が**「序論(Introduction)」「本論(Body)」「結論(Conclusion)」**の3部構成です。
  • このマクロな構造を最初に意識することで、自分が今、文章全体のどの部分を読んでいるのか、そしてその部分がどのような役割を担っているのかを把握しながら読み進めることができ、迷子になるのを防ぎます。
  • ① 序論 (Introduction) の役割
    • テーマの提示: これから何について論じるのか、文章全体のテーマを読者に示します。
    • 問題提起: 読者の興味を引きつけ、論じるべき問題や疑問を投げかけます。(例:「なぜ人々は一度信じたことを変えるのが難しいのだろうか?」)
    • 筆者の主張の予告: これから展開する議論の結論や、筆者の基本的な立場を簡潔に示唆することもあります。
    • : 2022年度追試験 大問6A “Belief Perseverance” の第1パラグラフでは、「信念固執(belief perseverance)」という心理的傾向を定義し、これが「個人的な問題から社会現象まで、対立を引き起こす可能性がある」と問題提起しています。この時点で、読者はこの記事が「信念固執」の性質とその影響について論じるものだと予測できます。
  • ② 本論 (Body) の役割
    • 序論で提示されたテーマや主張を、具体的な根拠や事例を用いて多角的に展開する、文章の心臓部です。
    • 主張の補強: 筆者の主張を支えるための理由や根拠を述べます。
    • 具体例の提示: 抽象的な概念を分かりやすく説明するための具体例や実験データ、逸話などを挙げます。(例:消防士の実験、セメルヴェイスの逸話)
    • 対比・比較: 複数の概念や事例を比較し、共通点や相違点を明らかにすることで、論点を明確にします。
    • 反論への言及(譲歩・反駁): 予想される反対意見に触れ(譲歩)、それに対して再反論する(反駁)ことで、自身の主張の説得力を高めます。
  • ③ 結論 (Conclusion) の役割
    • 文章全体の議論を締めくくり、筆者の最終的なメッセージを読者に刻み込む部分です。
    • 議論の要約: 本論で展開された内容を簡潔にまとめます。
    • 主張の再確認: 筆者の中心的な主張を、改めて力強く述べます。
    • 将来への展望・提案: 問題の解決策を提案したり、読者への行動を促したり、今後の展望を示したりして終わることが多いです。
    • : 上記の “Belief Perseverance” の最後のパラグラフでは、「信念固執の性質を理解することが、バランスの取れた人生を送る鍵の一つである」と述べ、単なる現象の説明に留まらない、読者への実践的なメッセージで締めくくっています。

24. パラグラフ・リーディングの実践:各段落の主題(トピック)と機能を把握する

24.1. パラグラフは「思考のブロック」である

  • 論理的な文章において、一つのパラグラフは、通常**一つの中心的なアイデア(主題・トピック)**について述べるための「思考のブロック」として機能します。
  • パラグラフ・リーディングとは、このブロックごとの主題と、それが文章全体の中でどのような役割(機能)を果たしているのかを把握しながら読んでいく技術です。これにより、本論部分の複雑な議論の流れを整理し、理解を深めることができます。

24.2. トピックセンテンスとパラグラフの機能を見抜く

  • トピックセンテンス(Topic Sentence)を探す
    • 各パラグラフの主題は、多くの場合、そのパラグラフの第1文(または第2文)に要約されています。この文をトピックセンテンスと呼びます。
    • 各パラグラフのトピックセンテンスを拾い読みしていくだけで、本論全体の論理展開の骨格を掴むことができます。
  • パラグラフの機能を分類する
    • 各パラグラフが果たしている「機能」を意識すると、文章の構造がより明確になります。
      • 定義・説明: 新しい概念や用語の意味を説明する。(例:「Belief perseverance is the psychological characteristic of…」)
      • 原因・理由: ある現象がなぜ起こるのか、その原因や理由を列挙する。
      • 具体例・証拠: 抽象的な主張を裏付けるための具体的な事例、実験、統計データなどを提示する。
      • 対比・比較: 二つ以上の事柄を並べて、その違いや共通点を明らかにする。
      • 譲歩・反論: 「確かにAという側面もあるが(譲歩)、しかしBである(反論)」という形で、議論を深める。
  • 【実践例:2023年度本試験 大問4 “How to Study Effectively”】
    • Tim Oxford氏の記事:
      • 第1段落: 「多くの生徒が反復学習に頼っているが、すぐに忘れてしまう」という問題提起を行う。
      • 第2段落: その解決策として「contextual learning(文脈学習)」を定義し、岩の学習という具体例を挙げてその有効性を説明する。
    • Cheng Lee氏の記事:
      • 第1段落: Oxford氏の意見に同意しつつも(譲歩)、反復学習にも効果的な方法があると新たな視点を提示する。「massed learning(集中学習)」と「spaced learning(分散学習)」を対比させる。
      • 第2段落: 分散学習がなぜ効果的かの理由を説明する。(忘却により、思い出す努力が必要になるため、注意が高まる)
      • 第3段落: 分散学習の有効性を示すための、動物の名前を記憶する実験という具体的な証拠を提示する。
    • このように各パラグラフの役割を把握することで、二人の筆者が異なる角度から「効果的な学習法」という共通のテーマを論じている構造が明確に理解できます。

25. ディスコースマーカーの活用法:論理展開を予告する信号を読み解く

25.1. ディスコースマーカーは「道路標識」

  • ディスコースマーカー(Discourse Markers)とは、文と文、あるいはパラグラフとパラグラフの関係性を示し、話の展開を予告する「道路標識」のような語句です。
  • これらを意識的に拾いながら読むことで、次にどのような内容が来るかを予測する**「予測読み」**が可能になり、読解のスピードと正確性が飛躍的に向上します。

25.2. 覚えておくべき主要なディスコースマーカー

機能主要なマーカー意味・役割
順接・因果ThereforeThusAs a resultConsequentlyHence「したがって」「その結果」→ 前の内容が原因で、後ろに結果が来る。
逆接・対比HoweverButNeverthelessOn the other handIn contrast「しかし」「その一方で」→ 前の内容とは反対・対照的な内容が来る。最重要。
譲歩AlthoughThoughWhileEven though「〜だけれども」→ 後ろに来る主節の内容を強調するための前置き。
追加・列挙In additionMoreoverFurthermoreAlsoFirstSecond「さらに」「加えて」→ 前の内容と同じ方向性の情報が追加される。
具体例For exampleFor instance「例えば」→ 前の抽象的な記述を、具体的な例で説明する合図。
要約・結論In conclusionTo sum upIn shortIn summary「結論として」「要するに」→ これまでの議論をまとめ、結論を述べる合図。
  • 【実践例】
    • Although some might argue that zoos are prisons for animals, they play a vital role in conservation.
      • Although があることで、「動物園は牢獄だという主張がある(譲歩)」が、筆者が本当に言いたいのはその後の「保護において重要な役割を果たしている(主張)」であることが分かります。However と並び、筆者の主張を見抜く上で最も重要なマーカーです。
    • Repetitive learning can be dull. Moreover, it is often ineffective for long-term retention.
      • Moreover があることで、「退屈である」というマイナス面に加えて、「長期的記憶に効果がない」という別のマイナス面が追加されることが予測できます。

26. 抽象と具体の往還:具体例が支える抽象的論理の理解

26.1. 具体例は抽象的主張の「証拠」である

  • 論説文の筆者は、自身の抽象的な主張(例:「文脈学習は効果的だ」)を読者に納得させるために、必ず具体的な事例や証拠(例:「私が生徒に様々な種類の岩を触らせた授業では…」)を提示します。
  • 受験生が陥りがちなのは、具体例の細かい内容に気を取られ、その具体例が**「何のために挙げられているのか」**、すなわち、どの抽象的な主張を支えるためのものなのかを見失ってしまうことです。
  • 重要なのは、常に**「抽象(主張)⇔具体(事例)」**の往復運動を意識することです。具体例を読んだら、「つまり、この例が言いたいことは、こういうことだな」と、もう一度抽象的なレベルで要約する癖をつけましょう。

26.2. 抽象化のトレーニング

  • 【実践例:2023年度本試験 大問4】
    • 具体例Students examined the rocks and identified their names based on the characteristics they observed.(生徒たちは岩を調べ、観察した特徴に基づいて名前を特定した。)
    • 抽象化: この具体例が支えている抽象的な主張は何か? → new knowledge is constructed through students' own experiences.(新しい知識は生徒自身の経験を通じて構築される。)これが「contextual learning」の核心です。
    • 設問では、この抽象的なレベルでの理解が問われます。「岩の授業」という個別の話ではなく、「経験を通じた学習」という一般化された概念を理解しているかが試されるのです。

27. 原因と結果、対比と譲歩:複雑な論理関係の精密な把握

  • Module 5で学んだスキルを総動員し、より複雑な論理関係を精密に読み解く練習をします。特に「原因と結果」「対比」「譲歩」は論説文の根幹をなす要素です。
  • 原因と結果 (Cause and Effect)
    • 「なぜそうなったのか?」を常に意識します。ディスコースマーカー(becausedue toas a result)だけでなく、動詞(causelead toresult in)にも注目し、因果の連鎖を追跡します。
  • 対比 (Contrast)
    • 何と何が、どのような点で比べられているのかを明確にします。
    • : 2022年度本試験 大問6A “When Does the Day Begin for You?” では、「larks(朝型人間)」と「owls(夜型人間)」が、健康、富、賢さ、性格など、様々な観点から対比されています。この対比構造を把握することが、文章全体の理解につながります。
  • 譲歩と反駁 (Concession and Rebuttal)
    • 筆者が自身の主張の説得力を高めるために用いる高等技術です。
    • While A is true, B is more important.」(確かにAは事実だが、Bの方が重要だ。)
    • この構文が出てきたら、Bに筆者の真の主張があると判断してください。Aの部分は、反対意見に配慮していることを示すための「クッション」に過ぎません。

28. 文章全体の要約と主題の抽出:筆者の最終的メッセージを捉える

28.1. 筆者は最後に何を伝えたかったのか?

  • 大問の最後には、しばしば「この文章の主題は何か?」「筆者の主な目的は何か?」といった、文章全体の理解度を問う設問が置かれます。
  • これに正答するためには、木(各文、各パラグラフ)の理解だけでなく、森(文章全体)としてのメッセージを捉える必要があります。

28.2. 主題抽出のアルゴリズム

  1. 序論と結論を再読する: 序論で提示された問題意識と、結論で述べられている最終的なメッセージや提案が、主題を特定する上で最も強力な手がかりとなります。
  2. 本論の展開を要約する: 本論で挙げられた具体例や対比が、最終的にどのような結論を支えるために使われていたかを考え、全体の議論の流れを一言で要約します。
  3. 選択肢の吟味:
    • 範囲が狭すぎないか?: 選択肢が、本文の一部分(例えば一つの具体例)についてしか述べていない場合、それは主題ではありません。
    • 範囲が広すぎないか?: 選択肢が、本文の範囲を超えて一般化しすぎている場合も誤りです。
    • 趣旨がずれていないか?: 本文の議論の方向性と、選択肢の趣旨が一致しているかを確認します。
  4. 最適な選択肢の決定: 文章全体の議論を最もよく包括し、筆者の最終的な意図を的確に表現している選択肢を選びます。
  • 【実践例:2022年度追試験 大問6A “Belief Perseverance”】
    • この文章の主題は、単に「信念固執という心理現象がある」ことを説明するだけではありません。結論部分では、インターネット社会における偽情報から身を守るために信念固執が役立つ側面にも触れつつ、「人間性を理解し、バランスを保つことが重要だ」と述べています。
    • したがって、「信念固執の定義」や「セメルヴェイスの逸話」だけを述べた選択肢は範囲が狭すぎます。この現象の功罪両面に触れ、その上で現代社会における我々の心構えを説いている、というニュアンスを捉えた選択肢が、最も優れた主題の要約となります。

【結論・要約】

論説・説明文の読解は、単語力や文法力に加え、論理的思考力が試される総合的な知的活動です。本モジュールで詳述したように、まず文章全体の構造(序論・本論・結論)をマクロに捉え、次にパラグラフごとの機能をミクロに分析する視点が重要です。ディスコースマーカーという標識を頼りに、抽象と具体の往還を意識しながら、複雑な論理関係を解きほぐしていくことで、筆者の主張の核心に迫ることができます。この体系的な読解法を習得すれば、共通テスト最難関の大問6も、恐れるに足らない論理パズルとして攻略できるでしょう。

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