【共通テスト 古文】Module 6: 実戦形式演習─共通テスト過去問を用いた総合戦術の適用と検証

当ページのリンクには広告が含まれています。

本モジュールの目標:「技術」を「戦術」へ─完全なる得点力の完成

全6モジュールにわたる古文攻略戦略、その最終章へようこそ。Module 1から5にかけて、あなたは古文という言語を解剖するための精密な「技術」と、時間を支配し得点を最大化するための「戦略」を習得してきました。文法、敬語、和歌、設問解体、タイムマネジメント――その一つ一つが、あなたの得点力を構成する不可欠なパーツです。

本モジュールは、それら全てのパーツを組み上げ、共通テストという実戦の場で確実に機能する、一つの完成された「総合戦術」を確立することを目的とします。ここでは、共通テスト古文で出題される主要な3つの文章ジャンル――「物語」「日記・随筆」「説話」――を取り上げ、それぞれの特性に応じた最適な戦術適用法を、実際の過去問を用いたシミュレーション形式で徹底的に解説します。

これは、単なる過去問解説ではありません。「もしあなたが、試験本番でこの問題に遭遇したら、どの知識を、どの順番で、どのように適用して思考を進めるべきか」という、あなたの頭の中で起こるべき思考プロセスそのものを実況中継するものです。

さらに、演習を通じて露呈したであろう、あなた自身の弱点を科学的に分析し、克服するための具体的な処方箋を提示します。そして最後に、満点を狙うための最終思考プロセスと、答案を確定させるための「作法」を伝授します。

この最終モジュールを終えたとき、あなたはもはや単なる技術の習得者ではありません。あなたは、いかなる文章、いかなる設問に対しても、自らが持つ全ての知識と技術を最適に組み合わせ、冷静に、そして論理的に正解を導き出すことができる、真の「古文戦略家」となっているはずです。


目次

1. 物語文の読解戦略―時間軸と心情曲線の可視化

物語文(『源氏物語』『とりかへばや物語』など)は、共通テスト古文で最も頻繁に出題されるジャンルです。その読解の核心は、登場人物たちの「人間関係」が、ある出来事をきっかけにどのように「変化」し、それに伴って彼らの「心情」がどのように揺れ動くのか、その軌跡を正確に追跡することにあります。

1.1. 物語文読解のゴール設定

  • プロットの把握: 物語の出来事の因果関係(何が起こり、その結果どうなったか)を整理する。
  • 心情曲線の可視化: 主要登場人物の感情が、物語の展開に応じてどのように変化していくか(例:喜び→不安→悲しみ→決意)を、グラフのように頭の中で描く。

1.2. 適用すべきツールキット

物語文を攻略するためには、以下のモジュールで学んだ技術を総動員します。

  • 最重要ツール:
    • 人物相関図の作成(Module 3): リード文と敬語を手がかりに、まず人物関係の初期設定を行う。これが全ての土台。
    • 敬語による主格復元(Module 3): 省略された主語を常に補い、「誰が」何をしたのかを確定させる。
    • 心情の根拠抽出(Module 4): 行動、セリフ、表情、情景描写から、心情を客観的に読み取る。
  • 補強ツール:
    • 和歌の5W1H分析(Module 4): 和歌は心情が凝縮された場面。文脈から主題を特定する。
    • 時間軸の整理(Module 4): 回想や時間の跳躍に注意し、出来事の因果関係を正しく把握する。

1.3. 【実践シミュレーション】『とりかへばや物語』(2025年度試作 第4問)を解く

【フェーズ1】情報整理・戦略立案(3分)

  1. リード文の分析と相関図作成:
    • 「女君(主人公、女性だが男性として宮仕え)」と「権中納言(殿)」が秘密の関係を持ち、「若君」を出産。
    • 女君は宇治に隠れ住んでいたが、そこからひそかに脱出
    • 本文は、権中納言が女君の失踪を知る場面から始まる。
    • →相関図: (権中納言) —(恋仲・子あり)— (女君)
    • 予測: 物語の主題は「愛する女君に逃げられた権中納言の悲嘆と混乱」であると、この時点でほぼ確定。
  2. 注・設問の先読み:
    • 注から、乳母が女君の逃亡に協力していることが示唆される。
    • 設問を見ると、権中納言の心情を問う問題、乳母の発言の意図を問う問題など、登場人物の心理状態が中心であることがわかる。

【フェーズ2】本文読解(7分)

  • 主語の補い読み:
    • 敬語を手がかりに主語を確定させながら読む。「かうかうと聞こえさすれば」→謙譲語なので、主語は身分の低い者(乳母たち)で、相手は権中納言。「うち聞きたまふより」→尊敬語なので、主語は権中納言。
  • 心情の根拠にマーキング:
    • 権中納言の心情:
      • 行動: 「かきくらし心まどひたまひて(悲しみにくれて途方に暮れなさって)」「ものもおぼえたまはず(茫然自失でいらっしゃる)」
      • セリフ: 「さても、いかなりしことぞ。(中略)古里のわたりより訪れ寄る人やありし」→混乱し、原因を探ろうとしている。
      • 地の文での描写: 「胸くだけてくやしくいみじく」「よよと泣かれたまふ」「足摺りといふらむこともしつべく」→極度の悲しみ、悔しさ、怒り、そして幼児のような取り乱し様。
    • 乳母の心情(推測):
      • 「我さへ騒がれぬべければ、乳母もえ申し出でず」→事実(逃亡に協力したこと)を言えば自分も罰せられるため、嘘をついている。保身の気持ち。

【フェーズ3】解答・マーク(10分)

  • 問3(権中納言の問いに対する乳母の返答の意図)
    • 思考プロセス: 乳母は、権中納言に「実家から誰か来たのか?」と問われる。しかし、乳母は女君の兄弟が来たこと(=逃亡の手引き)を知っているが、それを言えば自分の罪が発覚する。したがって、彼女の返答は**「事実を隠し、自分に疑いがかからないようにするための、巧妙な嘘」**であるはずだ。この文脈に合致する選択肢を選ぶ。
  • 問5(内容合致問題)
    • 思考プロセス: Module 2で学んだ消去法を適用する。
      • 選択肢①: 「乳母は、(中略)暗い気持ちになった」→本文にそのような記述はない。【本文に記述なし】→×
      • 選択肢③: 「権中納言は、(中略)女君を責める気にならなかった」→本文には「人の御つらさも限りなく思ひ知らる(女君の薄情さが限りなく身に染みて感じられる)」とあり、女君を恨んでいる。明確に矛盾。【本文との矛盾】→×
      • 選択肢④: 「権中納言は、(中略)恋情を抑えきれなくなっている」→本文の「臥したまひし御座所に脱ぎ捨てたまへりし御衣どものとまれるにほひ、ただありし人なるを、引き着て、よよと泣かれたまふ」という描写は、女君への未練と愛情の深さを示しており、選択肢の内容と合致する。→○

2. 日記・随筆文の読解戦略―筆者の視点と主題の追跡

日記・随筆文(『蜻蛉日記』『枕草子』など)は、作者自身の体験や思索が、「私(筆者)」という一人称の視点で綴られます。物語文が「登場人物たちのドラマ」を客観的に描くのに対し、日記・随筆文は筆者の「内面」そのものが主題となります。読解のゴールは、筆者が**「何を見て、何を感じ、何を考えたのか」**、その心の軌跡を追体験することにあります。

2.1. 日記・随筆文の核心:筆者の「内面」と「眼差し」

  • 筆者の主観が全て: 文章は、筆者のフィルターを通して描かれた世界です。客観的な事実よりも、その事実に対する筆者の意見・感想・評価が重要になります。
  • 眼差しの追跡: 筆者の「眼差し」が、何に向けられているかを常に意識してください。
    • 外的世界へ: 自然の美しさ、宮中の出来事、他人の言動など。
    • 内的世界へ: 自分自身の過去の回想、現在の心境、将来への不安など。
  • 主題の深化: 多くの場合、個別の出来事の記述から始まり、次第に**「無常観」「あはれ」「をかし」**といった、より普遍的な主題へと議論が深化していきます。この展開を捉えることが重要です。

2.2. 【実践シミュレーション】『蜻蛉日記』(2022年度追試 第3問)を解く

【フェーズ1】情報整理・戦略立案(3分)

  1. リード文の分析:
    • ジャンル: 『蜻蛉日記』→作者自身の体験を綴った日記文学。
    • 筆者: 作者(藤原道綱母)。
    • 状況: 療養先の山寺で母が死去し、ひどく嘆き悲しんでいる。
    • 予測: 主題は**「母の死をめぐる筆者の悲哀と、それによる心境の変化」**であると確定。

【フェーズ2】本文読解(7分)

  • 筆者の心情にマーキング:
    • 「夜、目もあはぬままに、嘆き明かしつつ」→悲しみで眠れない。
    • 「生くる人ぞいとつらきや」→生きているのがつらい。
    • 「いと知らまほしう、悲しうおぼえて」→母の霊に会いたいという切ない思い。
  • 対比構造の発見: 山寺へ行く「来し時」と、母を亡くして帰る「此度」の対比に注目する。
    • 来し時: 母が存命。「さりともと思ふ心そひて、頼もしかりき」→母が助かるかもしれないという希望があった。
    • 此度: 母は亡骸に。「いと安らかにて、あさましきまでくつろかに乗られたるにも、道すがらいみじう悲し」→希望が絶たれ、母が亡くなったという現実を突きつけられる絶望と悲しみ

【フェーズ3】解答・マーク(10分)

  • 問3(帰りの車中での心境)
    • 思考プロセス: 上記の「来し時」と「此度」の対比構造を根拠とする。往路では、母の回復を願う希望と、介抱の苦労があった。しかし復路では、その希望も苦労も全てなくなり、母がもはやいないという**「喪失感」**だけが残る。この「喪失感」を的確に表現している選択肢を選ぶ。
    • 正解選択肢⑤「帰りの車の中では、介抱する苦労がなくなったために、かえって母がいないことを強く感じてしまった。」は、この対比と喪失感を正確に捉えている。
  • 問4(和歌解釈)
    • 思考プロセス: 引用されている古歌(本歌)「ひとむらすすき虫の音の」は、荒れ果てた庭の寂しさを詠んでいる。作者は、母が亡くなったことで手入れされずに荒れてしまった自宅の庭を見て、この古歌を思い出し、自らの状況と重ね合わせている。母という存在を失った家の荒廃自らの心の荒廃を、庭の様子に託して表現している。この文脈に合致する選択肢を選ぶ。

3. 説話文の読解戦略―構造分析と教訓の客観的抽出

説話文(『今昔物語集』『宇治拾遺物語』など。幸若舞などの語り物も類する)は、仏教的な逸話や、世俗の面白い話、不思議な話などを通じて、読者・聞き手に何らかの**「教訓」**を伝えることを目的とした、構造の定型性が高いジャンルです。

3.1. 説話文の核心:「構造」と「教訓」

  • 定型的な構造: 多くの説話は、以下のパターンで構成されています。
    1. 導入: 「今は昔、~」(いつ)、「~に」(どこで)、「~といふ人ありけり」(誰が)
    2. 展開: 物語の中心となる出来事の発生。
    3. 結末: 出来事の結果、登場人物がどうなったか。
    4. 教訓・批評: 物語の最後に、作者や編者が「~とぞ語り伝へたるとや」「~とおぼゆる」といった形で、この話から得られる教訓や、登場人物への批評を付け加える。
  • 読解のゴール: この構造を意識し、最終的に作者がこの話を通して伝えたかった「教訓」は何かを客観的に抽出することです。

3.2. 【実践シミュレーション】『景清』(2022年度追試 第3問)を解く

  • ジャンル: この作品は「幸若舞」という語り物ですが、物語構造は説話に非常に近いです。
  1. 【Step 1】構造分析
    • 導入: 平家の残党・景清が追われる身となる。
    • 展開: 妻・阿古王が、夫を裏切る立て札を発見し、自らの意思で頼朝に密告することを決意する。
    • 結末: 阿古王は頼朝から褒美を受け、景清は何も知らずに妻のもとへ帰り、罠にはまる。
    • 批評(作者のコメント): 「思ひすました阿古王が心の内ぞ恐ろしき」「情けなうこそ聞こえけれ」といった形で、作者の阿古王に対する批判的・否定的な視点が随所に挿入されています。
  2. 【Step 2】教訓・主題の特定
    • この物語は、単なる裏切り物語ではありません。源平の争乱という大きな時代の変化の中で、かつての英雄(景清)が落ちぶれ、一方で妻(阿古王)が生き残りのために非情な決断を下す。ここには、人間の情愛や信義が、現実的な利害や時代の流れの前ではかなくも崩れ去るという、世の無常や人間の業(ごう)の深さという主題が横たわっています。作者の批評も、この主題を強調する形で挿入されています。
  3. 【Step 3】設問解答
    • 問3(阿古屋の考え): 彼女の決断の根拠を、地の文の心理描写「二人の若を世に立てて、後の栄華に誇らむ」から正確に抜き出します。「子供たちの将来の栄華のため」という、極めて現実的な動機であることが分かります。
    • 問5(『出世景清』との比較): 『景清』における阿古王の「打算性」を、『出世景清』では兄・十蔵が引き受け、妻・阿古屋は「貞淑な女性」として描かれている。この役割分担とキャラクターの改変という構造を読み解くことが求められます。

4. 失点パターンの自己分析と克服のための処方箋

ここからは、これまでの演習で犯したであろう「誤り」を、未来への「成長の糧」に変えるための、自己分析の技術です。

4.1. 「誤りノート」で弱点を可視化する

模試や過去問演習で間違えた問題について、**「なぜ間違えたのか」を以下のパターンに分類し、記録する「誤りノート」**を作成してください。

分類原因克服のための処方箋(復習すべきモジュール)
① 知識系エラー単語・文法・敬語・古典常識の知識不足、暗記漏れ。Module 1の再徹底。単語帳・文法書の反復。
② 主格特定エラー敬語の誤解や文脈の誤読による主語・客体の取り違え。Module 3の徹底。敬語のベクトル分析を全ての文で行う訓練。
③ 文脈・状況把握エラーリード文・注を軽視し、物語の前提条件を理解していない。**Module 5(本モジュール)**の先読み戦略の徹底。
④ 和歌解釈エラー文脈を無視した解釈、修辞技法の見落とし、本歌取りの意図の誤解。Module 4の反復練習。5W1H分析と修辞分析の徹底。
⑤ 選択肢吟味エラー「主語すり替え」「言い過ぎ」「記述なし」等の罠に気づけない。Module 2の反復練習。誤答パターンの類型化と照合。

このノートを作成し、自分の失点にどのような「傾向」があるのか(例:「自分は②の主格特定エラーが多い」)を客観的に把握することで、あなたの弱点は明確になり、克服すべき課題が具体化します。


5. 満点を狙うための最終思考プロセスと答案確定の作法

最後に、全ての設問を解き終え、答案を確定させる際の、最終確認のプロセスです。満点を狙うためには、解答の精度を100%に近づけるための、最後の「詰め」が不可欠です。

5.1. 答案確定の3つのチェックリスト

  1. 【根拠の再確認】: 自分が選んだ全ての選択肢について、**「その根拠は、本文の何行目の、どの記述か?」**と自問し、指でさせますか?「なんとなく」で選んだ問題が一つでも残っていませんか?
  2. 【誤答の証明】: 選ばなかった4つの選択肢それぞれについて、**「なぜ、これは誤りなのか?」**を、Module 2で学んだ誤答パターン(主語すり替え、言い過ぎ、記述なし等)を使って、一言で説明できますか?
  3. 【全体との整合性】: 個々の設問の解答が、物語全体のテーマや、自分が構築した人物像と矛盾していませんか?(例:問2ではAを「優しい人物」と解釈したのに、問5では「冷酷な人物」と解釈するような矛盾はないか?)

この3つのチェックリストをクリアしたとき、あなたの解答は、もはや単なる「答え」ではなく、論理的に構築された「証明」となります。

5.2. 結論:古文は、論理と戦略で制圧できる知的探求である

全6モジュールにわたる我々の旅は、ここで終わります。あなたがこの旅で手にしたのは、古文という、一見すると曖昧で感覚的に見える世界を、**文法、敬語、和歌、設問構造、時間戦略といった、極めて論理的で再現性のあるツールを用いて、客観的に分析し、制圧するための「総合戦術」**です。

古文の読解は、決して古人の心を当てる超能力ではありません。それは、残された言葉という客観的な手がかりを元に、彼らの世界と心を、論理の力で再構築していく、スリリングな知的探探求なのです。

ここに示された全ての技術と戦略を、あなたの血肉としてください。そして、過去問という最高の演習場で、その切れ味を何度も、何度も試してください。その繰り返しの先に、共通テスト古文は、あなたにとって、もはや恐れるに足らない、安定した不動の得点源として、確かな姿を現すことでしょう。あなたの健闘を、心から祈っています。

目次