【明治 全学部 古文】Module 1: 古典文法の完全掌握 – 読解を支える論理的基盤

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本モジュールの目的と概要

明治大学の古文で合格点を獲得するための第一歩、それは、一見すると暗号のように見える文章の中から、論理的な意味を正確に抽出するための「解読器」を手に入れることである。その解読器の正体こそが、古典文法に他ならない。多くの受験生が、文法を単なる無味乾燥な暗記科目として敬遠するが、それは致命的な誤りである。古典文法は、省略された主語を特定し、登場人物の心情を読み解き、そして文章全体の論理構造を把握するための、最も強力かつ信頼性の高い**「思考のOS」**なのである。

本Module 1では、明治大学の入試で特に問われる**「助動詞」「助詞」「敬語」「用言活用」そして「必須単語」**という5つの柱に焦点を当てる。単なる知識の羅列ではなく、それぞれが文中でどのような「機能」を果たし、いかにして読解を支えるのかという構造的・論理的な視点から徹底的に解説する。このモジュールを終えるとき、あなたは古文の世界を論理的に分析する盤石な基盤を手に入れているだろう。

目次

1. 『助動詞体系の構造的理解:意味と接続から機能を断定する』

1.1. なぜ助動詞が古文読解の「王」なのか

  • 情報量の圧倒的な凝縮
    • 現代語では複数の文節を使って表現されるような複雑な情報(時制、推量、否定、願望、敬意など)が、古文ではしばしばたった一文字か二文字の助動詞に凝縮されている。例えば、「~だろう」という推量、「~ない」という否定、「~なさる」という尊敬の意は、すべて助動詞が担う核心的な情報である。
  • 論理関係の決定打
    • 助動詞の意味を取り違えることは、文章の論理関係そのものを見誤ることに直結する。例えば、完了の助動詞「ぬ」を、打消の助動詞「ず」の連体形と混同すれば、肯定文と否定文を取り違えるという致命的なミスを犯す。助動詞を制する者は、古文の文脈を正確に制することができるのである。

1.2. 接続で絞り、文脈で断定する「2段階識別法」

助動詞の識別は、暗記だけに頼ると思わぬ罠にはまる。以下の2段階の思考プロセスを徹底することが、正確な読解への最短ルートである。

  • ステップ1:接続(上の語の活用形)で可能性を絞り込む
    • 全ての助動詞は、その直前の用言(動詞、形容詞など)がどの活用形になるかという厳格なルール(接続)を持っている。
    • 例えば、助動詞「る・らる」は未然形に接続し、「き」は連用形に、「べし」は終止形(ラ変型には連体形)に接続する。
    • まずはこの「接続」ルールを用いて、文法的にあり得る助動詞の候補を数個にまで絞り込む。
  • ステップ2:文脈(意味)で最終的な機能を断定する
    • 候補が複数残った場合(例:「る」には受身・尊敬・自発・可能の4つの意味がある)、あるいは一つの助動詞が複数の意味を持つ場合(例:「ぬ」には完了と強意がある)、最終的にはその文が置かれている文脈によって意味を判断する。
    • 「誰が、誰に、何をしているのか」という人間関係や状況を把握し、最も自然で論理的な意味を選択する。例えば、主語が帝や高貴な人物であれば尊敬、動作の受け手が明確であれば受身、自然発生的な心情であれば自発、といった具合に判断していく。

1.3. 明治大学頻出・最重要助動詞 特講

明治大学の入試で特に狙われやすい、合否を分ける助動詞について、その核心的な機能と識別法を解説する。

1.3.1. 過去の助動詞「き」と「けり」―視点の違いを見抜け

  • き(直接過去): 話し手自身が直接体験した過去を表す。「~た」。回想シーンなどで用いられることが多い。
    • 接続:連用形
  • けり(間接過去・詠嘆):
    1. 間接過去: 人から伝え聞いた過去を表す。「~たそうだ」。物語の地の文で頻出する。
    2. 詠嘆: 今まさに気づいた、という驚きや感動を表す。「~だなあ」「~たことよ」。和歌や会話文で頻出する。
  • 戦略: 地の文で出てくる「けり」は基本的に間接過去。和歌や会話文中の「けり」は詠嘆の可能性をまず疑う。「き」は、登場人物自身の回想や体験談の中に出てくると判断する。

1.3.2. 完了の助動詞「つ」と「ぬ」―完了・強意のニュアンス

  • つ(完了・強意): 人為的、意図的な動作の完了を表すことが多い。「~てしまった」「きっと~」。
  • ぬ(完了・強意): 自然的、非意図的な動作の完了を表すことが多い。「~てしまった」「きっと~」。
  • 戦略: 完了か強意かの判断は文脈によるが、「てしまう」と訳して不自然でなければ完了、「きっと・必ず」と訳してしっくりくれば強意と考えるのが基本。いずれにせよ、その動作が確実に行われたことを示す強い信号であると認識することが重要。

1.3.3. 推量グループ「む・らむ・けむ・べし」―確信度と時制の軸で整理せよ

推量の助動詞は古文の頻出事項であり、登場人物の主観的な判断を読み解く鍵となる。確信度の強弱と、どの時点についての推量かで整理するのが効果的である。

助動詞接続意味ニュアンス・戦略
む(ん)未然形推量・意志・勧誘・仮定・婉曲最も基本的な推量。「~だろう」。主語が一人称なら意志(~よう)、二人称なら勧誘(~てはどうか)の可能性が高い。婉曲は「~ような」と訳す。2019年度の『発心集』では「言はまほしけれど、…あやしかりぬべし」と、願望と推量が組み合わさって登場人物の葛藤を描写している。
らむ終止形現在推量今ごろ~しているだろう。目の前にない現在の事態を推量する。
けむ連用形過去推量**(あの時)**~ただろう。過去の事柄の原因や背景を推量する。
べし終止形推量・意志・可能・当然・命令・適当確信度の高い推量。「~にちがいない」「~はずだ」。主語や文脈により「~するつもりだ(意志)」「~できる(可能)」「~すべきだ(当然)」など多様な意味に訳し分ける必要がある。

1.3.4. 助動詞「なり」の二つの顔―断定か、伝聞・推定か

「なり」は接続によって意味が全く異なるため、出題の最重要ターゲットの一つである。

  • 断定の助動詞「なり」:
    • 接続:体言・連体形
    • 意味:「~である」「~だ」
  • 伝聞・推定の助動詞「なり」:
    • 接続:終止形(ラ変型には連体形)
    • 意味:「~そうだ(伝聞)」「~ようだ(推定)」
  • 戦略とにかく接続を見ること。「月なり」であれば「月である」という断定。「月出づなり」であれば「月が出るようだ」という推定になる。この違いが文意を決定的に左右する。

2. 『最重要助詞の機能判別法:「てにをは」の文脈的意味を特定する』

2.1. 助詞は文の「交通整理官」である

助詞は、単語と単語の関係性を規定し、文全体の構造を決定づける「交通整理官」である。特に、現代語とは用法が異なる助詞や、多機能な助詞の識別が、精密な読解の鍵となる。

2.2. 格助詞「の」「が」の多機能性―主格と「同格」を見抜け

現代語の「の」「が」は主に連体修飾(~の)や主格(~が)で使われるが、古文ではさらに重要な用法がある。

  • 主格: 「~が」。特に漢文訓読調の文章で主語を示すことが多い。
  • 連体修飾格: 「~の」。
  • 同格: 「~で、~が」と訳す。**「体言+の+体言+が~」**の形で、前の体言と後の体言が同一であることを示し、後の文が前の体言を説明する構造になる。これは長文の構造を把握する上で極めて重要。
    • 例:「中納言、ただいま参りたるが、~」→「中納言、ただいま参上したが、その人は~」

2.3. 接続助詞「ば」の確定条件・偶然条件

  • 已然形+ば → 確定条件: 「~ので」「~ところ、いつも」
    • 原因・理由を表す。「Aなので、B」。
    • 恒常的な条件を表す。「Aすると、必ずB」。
  • 未然形+ば → 仮定条件: 「もし~ならば」
    • まだ起きていないことを仮定する。「もしAならば、B」。
  • 戦略: 接続助詞「ば」が出てきたら、必ず上の活用形を確認する。已然形か未然形かで文の意味が180度変わるため、ここは絶対に疎かにしてはならない。

2.4. 係り結びの法則―単なる文法ルールではなく「強調」のサイン

  • **「ぞ・なむ→連体形」「や・か→連体形」「こそ→已然形」**というルールは絶対である。
  • しかし、重要なのは文末の活用形が変わることだけではない。係り結びは、筆者や登場人物が特に強調したい、あるいは疑問に思っている箇所を示す強力なサインである。
  • ぞ・なむ・こそ(強意): これらの係助詞がある文は、筆者の主張や登場人物の強い感情が込められた部分である可能性が高い。
  • や・か(疑問・反語):
    • 疑問: 「~か」。
    • 反語: 「~か、いや~ない」。文脈から判断するが、文末に推量系の助動詞(む、らむ、まし等)を伴うと反語になることが多い。

3. 『敬語システムの徹底解析:主体・客体・話者間の関係性を見抜く』

3.1. 敬語は「人間関係の座標軸」である

主語が頻繁に省略される古文において、敬語は、誰がその動作を行っているのか(主語)、誰に対して行われているのか(客体)を特定するための最も重要な手がかりである。敬語を制する者は、古文の人間関係を制する。

3.2. 尊敬・謙譲・丁寧の「ベクトル」を理解する

  • 尊敬語動作の主体を高める
    • 「~なさる」「お~になる」と訳す。
    • 思考プロセス: この尊敬語が使われているから、この動作の主語は高貴な人物(帝、中宮、大臣など)のはずだ。
  • 謙譲語動作の客体(受け手)を高める。(そのために、動作の主体はへりくだる)
    • 「~申し上げる」「お~する」と訳す。
    • 思考プロセス: この謙譲語が使われているから、この動作の**目的語や補語(~に、~を)**は高貴な人物のはずだ。
  • 丁寧語会話の聞き手(読者)に対して丁寧に表現する。
    • 「~です」「~ます」「~でございます」と訳す。
    • 思考プロセス: この丁寧語が使われているから、これは作者から読者への語りかけ、あるいは登場人物間の丁寧な会話だ。

3.3. 明治大学頻出敬語動詞リストと識別法

以下の動詞は、明治大学の過去問でも頻繁に登場する。本動詞か補助動詞か、またその敬意の方向を瞬時に判断できるようにしておくこと。

動詞種類主な意味・用法過去の出題例
給ふ(たまふ)尊敬(四段活用)
謙譲(下二段活用)
尊敬:「お与えになる」「~なさる」(補助動詞)。最重要動詞の一つ。
謙譲:「いただく」「~させていただく」。謙譲は主に補助動詞として用いられ、会話文や手紙文で使われることが多い。
2019年度『発心集』で「居給へらむ所」と尊敬の補助動詞として登場。
おはす・おはします尊敬「いらっしゃる」「おありだ」「~ていらっしゃる」。存在・移動を表す最高敬語。2020年度『うつほ物語』で「東宮におはしましける時」と冒頭から登場。
申す・聞こゆ謙譲申す:「申し上げる」。
聞こゆ:「申し上げる」「~と評判だ」「わかる」。客体が帝や中宮などの最高位の人物であることが多い。
2015年度『松浦宮物語』で「申しのがるる」や「聞こえしらせ給ふ」など頻出。
侍り・候ふ(さぶらふ)丁寧・謙譲丁寧:「~です」「~ます」。地の文では作者から読者へ、会話文では話者から聞き手へ。
謙譲:「お仕えする」。丁寧語との区別が重要。
2020年度『今鏡』で「下﨟に侍りけるに」と丁寧の補助動詞として登場。

4. 『用言活用の完全パターン化:動詞・形容詞・形容動詞の体系的整理』

4.1. 活用は「文法の背骨」である

用言(動詞・形容詞・形容動詞)の活用は、文法学習の根幹であり、いわば「背骨」である。活用を正確に理解していなければ、助動詞や助詞を正しく接続し、その機能を特定することはできない。明治大学の入試では、活用そのものを直接問う問題は少ないが、読解のあらゆる場面でその知識が前提とされる。

4.2. 動詞活用の9パターン―識別と重要動詞

  • 四段、上一段、下一段、上二段、下二段、カ変、サ変、ナ変、ラ変の9種類がある。
  • すべてを丸暗記するのではなく、「ず」をつけて未然形を見つける方法を基本とし、特に不規則な活用をする動詞を重点的に覚えるのが効率的である。
  • 最重要不規則動詞:
    • カ行変格活用: 「来(く)」のみ
    • サ行変格活用: 「す」「おはす」
    • ナ行変格活用: 「死ぬ」「往ぬ(去ぬ)」
    • ラ行変格活用: 「あり」「をり」「侍り」「いまそかり」

4.3. 形容詞・形容動詞の活用―「カリ活用」「ナリ・タリ活用」

  • 形容詞(ク活用・シク活用): 助動詞に接続するために、補助活用である「カリ活用」が生じる点を理解しておくことが重要(例:「美しかりけり」)。
  • 形容動詞(ナリ活用・タリ活用): こちらも助動詞への接続がポイント。漢語に付くことが多い「タリ活用」は特に注意が必要である。

5. 『明治大学頻出古典単語:文脈推測を可能にする語彙ネットワークの構築』

5.1. 丸暗記から「ネットワーク構築」へ

古典単語の学習は、一語一訳の単純な暗記作業ではない。一つの単語が持つコア・イメージを捉え、そこから派生する複数の意味や、関連する対義語・類義語をネットワークとして結びつけていくことが、生きた語彙力を養う鍵となる。文脈の中で意味を推測する力は、このネットワークの豊かさに比例する。

5.2. テーマ別・頻出単語ネットワーク

明治大学の過去問で頻出する単語を、テーマ別に整理する。

  • 感情・心理を表す語
    • あはれなり: 心が深く動かされるしみじみとした趣。感動、賞賛、同情、悲しみなど、文脈によってプラスにもマイナスにもなる。
    • をかし: 知的で明るい趣、面白み、風情があること。滑稽という意味も。
    • 心苦し(こころぐるし): 相手のことを思うと心が痛む、気の毒だ。また、自分がつらい。2013年度の『俊頼髄脳』では、夫を思う妻の心情として登場する。
    • ゆかし: なんとなく心が惹かれる、見たい、聞きたい、知りたい。好奇心や憧れの感情。
  • 評価・身分を表す語
    • やむごとなし: 高貴である、この上ない、尊い。身分や家柄が非常に高いことを示す。
    • ありがたし: めったにない、珍しい。そこから派生して、生きることが難しい、素晴らしい、という意味になる。
    • 才(ざえ): 学問、特に漢学の才能。政治的な手腕を指すこともある。
    • 下﨟(げらふ): 身分が低い者。対義語は「上﨟(じょうらふ)」。
  • 状況・様子を表す語
    • つれづれなり: することがなく退屈である、所在ない。
    • ことわり: 道理、当然であること。
    • あさまし: 驚きあきれるほどだ。意外なことに対するネガティブな驚き。
    • いみじ: 程度がはなはだしい。「すごく良い」も「すごく悪い」も表す。文脈判断が必須。

本モジュールのまとめ

本Module 1では、古文読解の論理的基盤となる、助動詞、助詞、敬語、活用、そして単語という5つの柱について、その構造と機能を学んだ。これらの文法知識は、もはや単なる暗記事項ではない。主語を特定し、人間関係を読み解き、筆者の意図を正確に捉えるための、あなただけの強力な「解読ツール」となったはずである。

この盤石な文法基盤の上に、次のModule 2では、実際の文章をどのように多角的に分析し、精密に読解していくかという、より実践的な「読解術」を確立していく。文法の知識を、生きた解釈力へと転換する段階へと進もう。

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