【明治 全学部 現代文】Module 1: 合格への基礎体力養成 – 精密読解のための語彙と文法
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本モジュールの目的と概要
このModule 1は、明治大学の現代文で要求される高度な読解力と得点力を養成するための、最も根幹となる「基礎体力」を構築することを目的とする。ここでいう基礎体力とは、単なる知識の集合体ではない。それは、あらゆる評論・小説文に通用する、盤石かつ柔軟な「思考のOS」である。具体的には、**「語彙力」「文法力」**という二つの側面から、文章を精密に、かつスピーディーに解体し、筆者の論理を正確に再構築するための技術を徹底的に解説する。多くの受験生が感覚やフィーリングで処理してしまいがちなこれらの要素を、意識的かつ戦略的に運用可能な「武器」へと昇華させることが、本モジュールの最終目標である。
目次
1. 『評論語彙の血肉化:抽象概念を具体的に把握する技術』
1.1. なぜ明治大学現代文で抽象語彙が「合否の分水嶺」となるのか
- 明治大学・現代文の特性:抽象性の高いテーマ
- 明治大学の全学部統一入試で出題される評論は、その多くが「近代批判」「メディア論」「言語と認識」「グローバリゼーションと文化の変容」といった、極めて抽象度の高いテーマを扱っている。
- これらのテーマを論じる文章では、日常会話ではほとんど使用されない学術的な専門用語や、多義的な解釈を許す抽象概念が必然的に多用される。
- 例えば、過去の出題文では、「ナショナルな境界」「シンボル環境」「近代」「共同体」「アイデンティティ」「ニヒリズム」「アウラ」といった言葉が、文章全体の論理を支えるキーストーンとして機能している。
- これらの語彙の意味を、辞書的な定義のレベルでしか理解していない場合、筆者がその言葉に込めた文脈特有のニュアンスや、他の概念との関係性(対立、包含、因果など)を読み取ることができない。その結果、文章の核心的な主張を完全に見失い、設問の選択肢を正確に吟味することが不可能になる。
- 語彙力不足が引き起こす「読解の歪み」
- 意味のブラックボックス化:知らない、あるいは曖昧にしか理解していない抽象語が登場すると、その部分が思考の「ブラックボックス」となり、その語を含む一文、ひいてはその段落全体の意味が不明瞭になる。
- 文脈の誤解:抽象語は文脈によってその意味合いを微妙に変化させる。例えば「近代」という言葉一つをとっても、「合理主義の時代」という肯定的な文脈で使われることもあれば、「人間性の疎外をもたらした時代」という否定的な文脈で使われることもある。この文脈判断を誤ると、筆者の主張を180度取り違える危険性がある。
- 選択肢の罠への陥穽:内容合致問題や空所補充問題の選択肢は、本文で使われた抽象語を巧みに言い換えたり、意図的にニュアンスをずらしたりして作成される。語彙の正確な理解がなければ、これらの巧妙な罠を見抜くことはできず、失点に直結する。
- 結論:抽象語彙の克服なくして、合格点はない
- 明治大学の現代文は、単語の意味を知っているかどうかを問うレベルを超え、抽象的な概念を具体的にイメージし、文脈の中でその機能を正確に把握する能力を要求している。
- 抽象語彙を制する者は、文章の論理構造を根底から理解し、設問に対して盤石の根拠をもって解答を導き出すことができる。逆に、ここから逃げる者は、常に不安定な読解を強いられ、合格点に到達することは極めて困難となる。したがって、抽象語彙の攻略は、単なる知識のインプットではなく、合格を勝ち取るための最重要戦略なのである。
1.2. 抽象語を「自分ごと」にするための3ステップ思考法
- ステップ1:辞書的定義の確認(「守」の段階)
- 目的:まずはその語の客観的で中核的な意味を把握する。これが全ての土台となる。
- 実践:知らない抽象語に出会ったら、必ず辞書(国語辞典や現代用語辞典)でその基本的な意味を調べる。この段階では、複数の意味が記載されていても、最も中心的と思われる定義を一つ、頭にインププットすることに集中する。
- 例:「アイデンティティ (identity)」
- 辞書的定義:「自己同一性。自分が自分であるという確信や、帰属意識。他と区別された自己の存在証明。」
- 注意点:この段階で満足してはならない。これはあくまでスタートラインに過ぎない。
- ステップ2:具体例への変換(「破」の段階)
- 目的:抽象的な概念を、自分の身の回りや既知の知識と結びつけ、具体的なイメージに落とし込む。これが「血肉化」の核心である。
- 実践:「〜とは、たとえば〜のようなことだ」という形で、自分自身で具体例を生成する訓練を行う。
- 例:「アイデンティティ」の具体例変換
- 「たとえば、私が『日本人である』と感じること。これは国籍という所属への帰属意識であり、アイデンティティの一種だ。」
- 「たとえば、部活動で『自分はこのチームの一員だ』と感じること。これも集団への帰属意識であり、アイデンティティだ。」
- 「たとえば、『自分は将来、医者になる』という目標を持つこと。これは将来の自己像との連続性であり、これもまたアイデンティティの現れだ。」
- 「たとえば、『他人は他人、自分は自分』と考え、他人の評価に流されずに自分の信念を貫くこと。これもまた、他者と区別された自己の確立であり、アイデンティティだ。」
- ポイント:一つの抽象語に対して、複数の角度から具体例を考えることで、その概念が持つ意味の多面性を体感できる。
- ステップ3:対立概念(二項対立)の設定(「離」の段階)
- 目的:その語がどのような概念と対比されることで、その意味を明確にするのかを理解する。評論は、多くの場合、二項対立によって論理を構築する。
- 実践:「〜の反対は、おそらく〜だろう」と考え、その語の対義語や対立的な状況を想定する。これにより、その語の輪郭がよりシャープになる。
- 例:「アイデンティティ」の対立概念設定
- 「アイデンティティ(自己同一性)の対立概念は、おそらく『アノニマス(匿名性)』や『自己喪失』だろう。」
- 「グローバリゼーションによって個々の文化のアイデンティティが失われる」という文脈ならば、対立概念は「均質化」や「無国籍化」となる。
- 「共同体への帰属がアイデンティティを与える」という文脈ならば、対立概念は「孤立」や「疎外」となる。
- 効果:この訓練を積むことで、本文中で筆者がその抽象語をどのような対立軸の中に位置づけて論を展開しているのかを、瞬時に見抜くことができるようになる。これは、文章全体の構造を把握する上で絶大な効果を発揮する。
1.3. 明治大学・頻出テーマ別 抽象語彙ミニ辞典
- テーマ1:近代批判・西洋中心主義
- 近代 (Modernity)
- 具体的イメージ:科学技術の発展、合理主義、産業革命、国民国家の成立。「進歩」を信じた時代。時計で時間をきっちり管理する生活。
- 対立概念:前近代(神話的・共同体的世界)、ポストモダン(近代の普遍性への懐疑)。
- 明治大学的文脈:「近代」がもたらした光(便利さ、自由)と影(人間疎外、環境破壊、伝統の喪失)の両側面を問い、その超克の可能性を論じる文章で頻出する。
- 合理主義 (Rationalism)
- 具体的イメージ:感情や伝統よりも、論理的で計算可能な思考を優先する態度。物事を効率化・マニュアル化しようとする考え方。
- 対立概念:非合理(感情、神秘、伝統)、経験主義。
- 主体 (Subject)
- 具体的イメージ:自由な意志を持ち、自律的に判断し、行動する個人。デカルトの「我思う、ゆえに我あり」における「我」。
- 対立概念:客体(Object、認識・操作される対象)、共同体の中に埋没した個人。
- 西洋中心主義 (Eurocentrism)
- 具体的イメージ:西洋の価値観(自由、民主主義、キリスト教など)が普遍的で最も優れているとみなし、非西洋文化を劣ったものと見なす考え方。「アメリカ大陸をコロンブスが『発見』した」という歴史観は、その典型例としてしばしば批判される。
- 対立概念:文化相対主義(Cultural Relativism)、多文化主義(Multiculturalism)。
- 近代 (Modernity)
- テーマ2:メディア論・情報社会
- メディア (Media)
- 具体的イメージ:新聞、テレビ、インターネットなど、情報を媒介(medium)するもの。単なる道具ではなく、我々の認識の仕方を規定する環境そのものと捉えられることが多い。
- 対立概念:直接体験、生身のコミュニケーション。
- 明治大学的文脈:複製技術(写真、デジタルデータ)が「オリジナル」の価値をいかに変容させたか(「アウラの消滅」)、あるいはSNSのような新しいメディアが従来の「世間」や「国家」のあり方をどう変えるか、といった文脈で論じられる。
- シンボル (Symbol)
- 具体的イメージ:あるものを別のものによって表現する記号。鳩が平和のシンボルであるように、具体的な形を持つものから、言語や数式のような抽象的なものまで含まれる。
- 対立概念:実在、物理的環境。
- 明治大学的文脈:人間は実在の世界に直接触れるのではなく、言葉という「シンボル環境」を通して世界を認識している、という言語論・認識論の文脈で頻出する。
- 複製技術 (Reproduction Technology)
- 具体的イメージ:写真、映画、レコード、デジタルコピーなど、オリジナルを大量に複製する技術。
- 対立概念:一回性、オリジナル、アウラ(ベンヤミンが用いた、オリジナルだけが持つ権威や雰囲気)。
- 明治大学的文脈:複製技術が芸術作品から「アウラ」を奪い、その価値を根本から変えたという議論(ヴァルター・ベンヤミン)や、デジタル化による「オリジナルなき複製」がもたらす知的所有権の問題などで扱われる。
- メディア (Media)
- テーマ3:グローバリゼーションと文化
- グローバリゼーション (Globalization)
- 具体的イメージ:ヒト、モノ、カネ、情報が国境を越えて地球規模で一体化していく動き。マクドナルドが世界中にあること。インターネットで瞬時に海外の情報が手に入ること。
- 対立概念:ナショナリズム、ローカリズム、国民国家。
- 明治大学的文脈:グローバリゼーションが、各地域の固有の文化(アイデンティティ)を均質化してしまうという危機感や、逆にそれに抵抗して新たな文化混淆(ハイブリッド)が生まれる現象などが論じられる。
- 共同体 (Community)
- 具体的イメージ:地縁や血縁など、伝統的なつながりに基づく集団。村社会や大家族など。情緒的な安定や所属感を与える。
- 対立概念:近代社会、個人、アソシエーション(機能的・利益的な集団)。
- 明治大学的文脈:近代化によって失われた「共同体」への郷愁や、その負の側面(同調圧力、排他性)を論じる文脈、あるいはネット上に新しい形の「共同体」は可能か、といった問いで登場する。
- アイデンティティ (Identity)
- 具体的イメージ:(前述の通り)「自分は何者か」という問いに対する答え。国籍、性別、職業、所属集団などによって形成される。
- 対立概念:自己喪失、匿名性、均質化。
- 明治大学的文脈:グローバリゼーションや情報化社会の中で、個人の、あるいは国民や文化のアイデンティティが揺らいでいる、という文脈で頻繁に用いられる最重要語彙の一つ。
- グローバリゼーション (Globalization)
2. 『接続語のナビゲーション機能:論理展開を正確に予測する』
2.1. 接続語は「論理の信号機」であるという戦略的認識
- 接続語を軽視する受験生の末路
- 多くの受験生は、接続語を単なる「文と文をつなぐ飾り」程度にしか考えていない。そのため、接続語を読み飛ばしたり、意味を正確に捉えずに感覚で読み進めたりする。
- しかし、明治大学レベルの評論において、接続語は筆者の論理展開の意図を明示する**「論理の信号機」**である。これを無視することは、信号無視で交差点に突入するようなものであり、確実に「読解事故」を引き起こす。
- 「しかし」とあれば、これから逆のことが来ると身構える。「つまり」とあれば、要約や言い換えが来ると予測する。この一瞬の予測が、読解のスピードと正確性を劇的に向上させる。
- 接続語から次の展開を「予測」する
- 優れた読者は、接続語を見た瞬間に、次にどのような内容が来るかを予測する。
- 例:「たしかに、Aだ。しかし、Bだ。」 という構文。
- 「たしかに」が見えた瞬間、その後に続くAは、筆者が最終的に主張したいことではなく、譲歩(いったん認める)の内容だと予測できる。
- そして、その後に来る「しかし」こそが、筆者の本命の主張(B)を導入するシグナルであると瞬時に判断する。
- この予測能力は、文章のどこに力を入れて読み、どこを軽く流すかという、緩急をつけた読解を可能にする。結果として、時間内に正確に筆者の主張を捉えることができる。
2.2. 機能別・接続語マトリクスと明治大学的注意点
- 順接(論理が同じ方向に進む)
- 接続語:だから、したがって、それゆえ、そこで
- 機能:原因・理由から結果・結論を導く。A(原因)だからB(結果)。
- 明治大学的注意点:「だから」の前後には、単純な事実関係だけでなく、筆者の解釈や価値判断が含まれることが多い。なぜ筆者がその因果関係を「論理的」だと考えているのか、その思考の根拠まで踏み込んで理解することが求められる。
- 逆接(論理が反対方向に進む)
- 接続語:しかし、だが、けれども、ところが
- 機能:前の内容とは対立・対比的な内容を導く。A。しかしB。
- 明治大学的注意点:逆接の後ろにこそ、筆者の最も言いたいことがある。 これは現代文読解の鉄則中の鉄則である。「しかし」という語は、単なる反対意見の提示だけでなく、議論の前提を覆したり、より深い次元へと議論を移行させたりする強力な転換点となる。傍線部が引かれやすい最重要箇所である。
- 並立・添加(情報を並べ、付け加える)
- 接続語:そして、また、さらに、かつ、しかも
- 機能:同列の情報を並べたり、情報を付け加えたりする。A。そしてB。
- 明治大学的注意点:「しかも」は単なる添加ではない。「A。しかもB。」という場合、BはAよりもさらに重要度が高い、あるいは意外な情報であることが多い。筆者の強調の意図を読み取ることが重要。
- 対比・選択(情報を比較する)
- 接続語:一方、あるいは、もしくは、それとも
- 機能:二つの事柄を比較したり、どちらか一方を選ばせたりする。A。一方B。
- 明治大学的注意点:二項対立的な論理構造で書かれることが多い明治大学の評論では、「A 対 B」という構造そのものが筆者の世界認識を示す。対比されるAとBが、それぞれどのような価値(例:西洋vs日本、近代vs前近代、精神vs物質)を担っているのかを整理することが、文章全体の理解につながる。
- 説明・補足(情報を詳しく説明する)
- 接続語:なぜなら、というのは、ただし、もっとも
- 機能:前の内容の理由を述べたり、例外や補足事項を加えたりする。
- 明治大学的注意点:「ただし」は重要。一見、些細な補足に見えるが、ここで論の適用範囲を限定したり、例外を認めたりすることで、筆者は自説の論理的な厳密さを担保している。この限定条件を見落とすと、内容一致問題で誤った選択肢を選んでしまう。
- 転換(話題を変える)
- 接続語:さて、ところで、では
- 機能:それまでの議論を一旦区切り、新しい話題に移る。
- 明治大学的注意点:単に話題が変わるだけでなく、議論の次元が変わることがある。例えば、具体的な事例の話から、その事例が持つ抽象的な意味合いの考察へ、といったジャンプが「さて」「では」を合図に行われることがある。
- 換言・要約(言い換え・まとめ)
- 接続語:つまり、すなわち、要するに、いわば
- 機能:前の内容を別の言葉で言い換えたり、要約したりする。
- 明治大学的注意点:「つまり」や「すなわち」の後は、抽象的で難解だった前の部分を、より具体的で分かりやすい言葉で説明してくれることが多い。ここも筆者の主張の核心が凝縮されているため、設問で問われる可能性が極めて高い。絶対に読み飛ばしてはならない。
2.3. 「しかし」の多義性を見抜け:逆接の強度と論理の転換点を読む
- レベル1:単純な対比・反対
- 機能:前述の事柄と反対の事柄を提示する。
- 例文:「一般的に、近代化は幸福をもたらすと考えられている。しかし、それは環境破壊という大きな代償を伴うものだった。」
- 戦略:AとBの対立関係を明確に把握する。(幸福 vs 環境破壊)
- レベル2:譲歩からの主張
- 機能:「たしかに〜」「もちろん〜」などで一旦相手の主張や一般論を認めた上で、それに反論し、自説を強調する。
- 例文:「たしかに、グローバリゼーションは経済的な効率性を高める。しかし、その過程で切り捨てられるローカルな文化の価値を忘れてはならない。」
- 戦略:「しかし」以降が筆者の本心であると見抜く。譲歩部分は、反論のための「前フリ」に過ぎない。
- レベル3:議論の深化・次元転換
- 機能:表面的な議論から、より本質的な問題へと議論のレベルを引き上げる。
- 例文:「情報化社会は、人々に多くの知識を与えた。しかし、問題は知識の量ではない。むしろ、その知識をいかに解釈し、意味づけるかという『知性の質』こそが問われているのだ。」
- 戦略:単なるAの否定ではなく、「A(量)ではなく、より重要なのはB(質)だ」という、議論の次元のシフトを捉える。こうした箇所は、文章全体のテーマを提示する重要な転換点となる。
3. 『指示語の解明:省略された論理の鎖を復元する』
3.1. 「こそあど」が引き起こす失点のメカニズム
- 指示語は「論理の代名詞」
- 指示語(これ、それ、あれ、どれ、この、その、あの、どの、など)は、単語や語句を指すだけでなく、文全体、段落全体、さらには文章中の**論理関係そのものを指し示す「論理の代名詞」**である。
- 多くの受験生は、指示語の内容を特定しないまま読み進めてしまう。これは、代名詞の意味がわからないまま英文を読むのと同じくらい無謀な行為である。
- 指示語の内容を曖昧にしたままでは、傍線部説明問題や内容一致問題で、指示語を含む選択肢の正誤を正確に判断することは絶対にできない。
- 明治大学の指示語問題の特徴
- 明治大学の評論では、指示語が指す内容が、単なる名詞ではなく、前述の複数の文で説明された複雑な概念や抽象的な事態であることが多い。
- 例:「このような状況において、近代的な主体は自らのアイデンティティを見失いがちである。」
- この「このような状況」が何を指すのか。直前の単語だけでは不十分で、「近代化による共同体の解体」「グローバル化による価値観の多様化」「情報過多による自己認識の困難さ」といった、前の段落全体で述べられてきた内容を要約して理解する必要がある。
- この特定作業を怠ると、論理の連鎖が断ち切られ、読解が破綻する。
3.2. 指示語の内容を特定する3段階探索法(思考アルゴリズム)
- 原則:指示語が出たら立ち止まり、指す内容を言語化する
- 指示語を見つけたら、機械的に読み進めるのではなく、一度立ち止まる。そして、それが「何を」指しているのかを自分の言葉で確認する癖をつける。
- ステップ1:直前探索(ミクロの視点)
- 方法:まずは、指示語の直前の文、あるいは直前の名詞句に指す内容がないかを探す。これが最も基本的な探索範囲である。
- 例文:「筆者は近代を批判している。その批判の核心は、合理主義への懐疑にある。」
- 「その批判」=「近代への批判」
- 適用:約70%の指示語は、この直前探索で解決できる。
- ステップ2:広域探索(マクロの視点)
- 方法:直前に適切な内容が見つからない場合、探索範囲を広げる。指示語を含む文の文頭、あるいは段落の冒頭に遡って探す。筆者が段落の冒頭で提示した問題を、段落の最後で「この問題は〜」と受ける場合などがある。
- 例文:(段落冒頭)「現代社会において、メディアは我々の認識をどのように変容させるのだろうか。」……(中略)……(段落末尾)「この問いに答えることは容易ではない。」
- 「この問い」=「現代社会において、メディアは我々の認識をどのように変容させるのかという問い」
- 適用:より複雑な論理構造を持つ文章で有効。
- ステップ3:要約探索(概念の抽出)
- 方法:指示語が、特定の語句ではなく、複数の文、あるいは段落全体で述べられてきた抽象的な内容を指している場合。その内容を自分の言葉で要約し、指示語に当てはめてみる。
- 例文:「西洋近代は、自然を克服すべき対象とみなし、科学技術によってそれを支配してきた。その結果、人間はかつてない物質的豊かさを手に入れたが、同時に深刻な環境破壊と精神的な空虚さを生み出した。こうした事態を前に、我々は立ちすくんでいる。」
- 「こうした事態」=「西洋近代が自然を支配の対象とみなし、物質的豊かさと引き換えに環境破壊や精神的空虚さを生み出してしまった事態」
- 適用:これが明治大学レベルの読解で最も要求される能力。この作業が正確にできるかどうかが、合否を分ける。
4. 『一文の構造解析:複文・重文を瞬時に解体する統語論的アプローチ』
4.1. なぜ文構造の把握が速読と精読を両立させるのか
- 一文が読めない原因は「構造」にある
- 一文が長くて複雑になると、多くの受験生は途中で意味が分からなくなる。これは単語力の問題だけではなく、**文の構造(主語-述語の関係、修飾-被修飾の関係)**を見失っていることが根本的な原因である。
- 明治大学の評論では、意図的に一文が長く、複雑に作られていることが多い。これは、受験生の論理的思考力、情報処理能力を試すためである。
- 構造分析がもたらすメリット
- 精読力の向上:文の骨格(主語と述語)と、肉付け(修飾語)を正確に見分けることで、筆者がその一文で何を言いたいのかをミリ単位の精度で理解できる。
- 速読力の向上:文構造を瞬時に把握できるようになると、どこが文の核心部分で、どこが補足的な情報なのかを瞬時に判断できる。これにより、重要な部分はじっくり、そうでない部分はスピーディーに読むという強弱をつけた読み方が可能になり、結果的に全体の読解スピードが上がる。
- 結論:文構造の解析能力は、精読と速読という、一見矛盾する二つの能力を同時に向上させるための必須スキルなのである。
4.2. 主語(S)と述語(V)を発見する基本原則
- 原則1:文末から述語(V)を探す
- 日本語の構造上、述語は基本的に文末に置かれる。まずは文末の動詞、形容詞、名詞+助動詞(〜である、〜だ)を見つけ、これをV(述語)と確定する。
- 原則2:述語に対応する主語(S)を探す
- 述語を見つけたら、「〜は」「〜が」といった主格助詞を伴う名詞句を探し、その述語の動作主・主体となるものをS(主語)と特定する。
- 例文:「グローバリゼーションの進展は、国民国家の枠組みを大きく揺るがしている。」
- 文末の「揺るがしている」を**V(述語)**と特定。
- 「何が」揺るがしているのか? → 「グローバリゼーションの進展は」が**S(主語)**となる。
- 文の骨格:進展は、揺るがしている。
4.3. 読解を妨げる「修飾-被修飾の長大化」と「入れ子構造」の解体術
- パターン1:修飾語が長く、主語と述語が離れている文
- 構造:S(主語)…長い修飾語…V(述語)
- 例文:「かつて共同体が担っていたような、個人のアイデンティティを安定させる機能が、急速な近代化の過程において失われた。」
- 解体法:
- まず文末の述語「失われた」を(V)として捉える。
- 次に、その述語に対応する主語「〜が」を探すと「機能が」が見つかる。これが(S)である。
- これで「機能が失われた」という文の骨格が確定する。
- 残りの「かつて共同体が担っていたような、個人のアイデンティティを安定させる」は、すべて主語「機能」を修飾する連体修飾節であるとわかる。
- 「急速な近代化の過程において」は、述語「失われた」を修飾する連用修飾語である。
- 戦略:修飾語はカッコに入れて一時的に無視し、まずS-Vの骨格を掴む。これが長文を正確に読むための最も有効な戦略である。
- 思考プロセス:(かつて〜させる)機能が、(急速な〜において)失われた。
- パターン2:入れ子構造(埋め込み文)
- 構造:大きな文の中に、別の小さな文が埋め込まれている構造。
- 例文:「多くの人々が**【近代化がもたらした豊かさは絶対的なものである】と信じていた**考え方が、今や根本から問い直されている。」
- 解体法:
- まず、文全体の述語を探す。文末の「問い直されている」が(大V)。
- それに対応する主語を探す。「〜が」の形の「考え方が」が(大S)。
- 文の骨格は「考え方が問い直されている」となる。
- では、どのような「考え方」か。それが「多くの人々が【〜】と信じていた」という修飾節である。
- さらに、その信じていた内容が【近代化がもたらした豊かさは絶対的なものである】という埋め込まれた文(入れ子文)になっている。この入れ子文の中にも、S’(豊かさは)とV’(ものである)が存在する。
- 戦略:引用の「と」や、連体修飾節を作る「〜という」などのサインに注目し、どこからどこまでが埋め込まれた部分なのかを見抜く。大きな文(入れ子)と小さな文(入れ子の中身)を区別して構造を把握する。
5. 『明治大学頻出漢字・語彙問題の類型と戦略的暗記術』
5.1. 過去問徹底分析:明治大学が問う漢字・語彙問題の5大類型
- はじめに:知識問題は「落とせない」問題
- 明治大学の現代文は、大問一が評論、大問二が小説(または随筆)、大問三が古文という構成が基本である。現代文の冒頭、特に評論の問一では、漢字の書き取りや読み、語彙の意味を問う知識問題が配置されることが多い。
- これらの問題は、読解力と思考力を問う他の設問とは異なり、知っていれば確実に得点できる問題である。ここで失点することは、他の受験生に大きなアドバンテージを与えることになり、合否に直結する。対策すれば必ず得点源になる、まさに戦略的な設問群である。
- 分析対象:
kbp118001m0.pdf
からkbp211001m0.pdf
までの全学部統一入試過去問。 - 頻出5大類型
- カタカナ語の漢字書き取り: 評論で用いられる抽象的な概念語や学術用語をカタカナで示し、漢字で書かせる問題。
- 文脈判断型の熟語・慣用句問題: 空所に四字熟語や慣用句、あるいは特定の意味合いを持つ熟語を補充させる問題。
- 同音・同訓異義語の識別: 同じ読みを持つが意味の異なる漢字・熟語を、文脈に応じて正しく選択・使用できるかを問う問題。
- 漢字の読み: 常用漢字だが、やや難しい読みや、文脈で判断が必要な読みを問う問題。
- カタカナ語(外来語)の意味理解: 本文の読解にも不可欠な、メディア論や文化論で頻出するカタカナ語の正確な意味を問う問題。
5.2. 類型1:カタカナ語の漢字書き取り
- 出題形式: 本文中のカタカナ部分を漢字に直させる。抽象的な概念を表す漢語が頻出する。
- 過去問の例:
- 「セツジツに感じる」→ 切実 (
kbp118001m0.pdf
) - 「思考のヘンセン」→ 変遷 (
kbp211001m0.pdf
) - 「浅薄な文化ナショナリズムにダしてしまう」→ 堕 (
kbp118001m0.pdf
) - 「シンボリックな思考をシサする事物」→ 示唆 (
kbp139001m0.pdf
) - 「ナチの暴虐をツイキョウする」→ 追及
- 「セツジツに感じる」→ 切実 (
- 戦略的対策:
- 頻出語彙の意識: 「概念」「示唆」「変遷」「象徴」「媒介」「相関」「脆弱」「依拠」「乖離」「陥穽」など、評論で頻出する「型」の語彙を重点的に練習する。
- 部首からの類推: 「乖離(かいり)」の「乖」は「そむく」という意味だが、「北」が背中合わせの形であることから連想する。「陥穽(かんせい)」の「陥」は「おちいる」、「穽」は「あな」であり、こざとへん(阝)や穴かんむりから意味を推測する。
- 音読み・訓読みのセット学習: 単に書きを覚えるだけでなく、「示唆(しさ)する」「示(しめ)す」のように、音訓を関連付けて覚えると記憶が定着しやすい。
5.3. 類型2:文脈判断型の熟語・慣用句問題
- 出題形式: 文脈に最も適合する熟語や慣用句を選択肢から選ばせる、あるいは空欄に補充させる。
- 過去問の例:
kbp129001m0.pdf
問六:空欄Zに「実需要対応の情報入力源」が入るなど、文脈に合わせた表現を選ぶ問題。kbp139001m0.pdf
問四:「この時に人間にとって『文化』が生まれたと言ってよい」理由を問う問題で、選択肢が「象徴言語」「定常化」「精神革命」といった熟語・概念語の理解を前提としている。
- 戦略的対策:
- 意味の正確な理解: 四字熟語や慣用句を、雰囲気で覚えるのではなく、構成する漢字一字一字の意味から理解する。例:「牽強付会(けんきょうふかい)」→「牽(ひ)っぱり」「強(し)いて」「付(つけ)」「会(あわせる)」、つまり道理に合わないことをこじつけること。
- 文脈との照合: 空所の前後を読み、どのような意味合いの言葉が入るべきか(肯定的か否定的か、具体的なのか抽象的なのか等)を判断してから選択肢を見る。
- 頻出テーマとの連携: 明治大学で頻出のテーマ(近代批判、メディア論等)で使われやすい慣用表現(例:「白日の下に晒す」「警鐘を鳴らす」「舵を取る」)に日頃から親しんでおく。
5.4. 類型3:同音・同訓異義語の識別
- 出題形式: 選択肢形式で、傍線部と同じ漢字を用いるものを探させる問題。
- 過去問の例:
kbp211001m0.pdf
問一:「ガンチク」→「含蓄」と同じ「含」を使う語を選ぶ。「センセン」→「変遷」と同じ「遷」を使う語を選ぶ(正解は「遷都」など)。kbp199001m0.pdf
問一:「チ見」→「知見」と同じ「知」を使う語を選ぶ。「キ跡」→「軌跡」と同じ「軌」を使う語を選ぶ(正解は「軌道」など)。
- 戦略的対策:
- 熟語の分解と意味理解: 熟語を構成する個々の漢字の意味を正確に把握することが王道。例えば「追求(目的を追い求める)」「追及(責任などを問いただす)」「追究(学問などを深く研究する)」の違いを、それぞれの漢字の意味から理解する。
- 例文作成トレーニング: 紛らわしい同音異義語を使って、自分で短文を作成してみる。これにより、単語がどのような文脈で使われるかが身体的に理解できる。
- 市販の問題集の活用: 同音異義語・同訓異字に特化した問題集を一冊完璧に仕上げる。これが最も効率的かつ効果的な対策となる。
5.5. 類型4:漢字の読み
- 出題形式: 傍線部の漢字の読みをひらがなで答えさせる、あるいは選択肢から選ばせる。
- 過去問の例:
- 「鳥瞰」→ ちょうかん (
kbp149001m0.pdf
) - 「手沢」→ しゅたく (
kbp149001m0.pdf
) - 「遊弋」→ ゆうよく (
kbp149001m0.pdf
) - 「呻吟」→ しんぎん (
kbp199001m0.pdf
) - 「孕む」→ はらむ (
kbp118001m0.pdf
)
- 「鳥瞰」→ ちょうかん (
- 戦略的対策:
- 音符(音を表す部分)への注目: 漢字は形声文字が多く、音を表す部分(音符)を知っていると類推できる場合がある。例:「江」「工」「攻」「功」はすべて「コウ」と読む。
- 難読語リストの作成: 過去問や模試で間違えた、あるいは読めなかった漢字をノートにリストアップし、定期的に見直す。
- 文脈からの推測: 読みが分からなくても、前後の文脈から意味を推測し、その意味に合致する読みを考える。例えば「手沢」が分からなくても、「長年使い込んだ道具に『しゅたく』がつく」という文脈から、「手のあぶらによるつや」のような意味だと推測し、そこから読みを導き出す訓練も有効。
5.6. 類型5:カタカナ語(外来語)の意味理解
- 出題形式: 直接的に意味を問う設問は少ないが、本文の内容理解や選択肢の正誤判断において、その意味を知っていることが前提となる。
- 頻出語彙:
- アイデンティティ、アナロジー、イデオロギー、パラダイム、パラドックス、メタファー、ニヒリズム、ダイナミズム、ジレンマ、コンテクスト、グローバリゼーション、ナショナリズム、メディア、シンボル、バーチャル、コスモロジー、ヒエラルキー、アウラ、等々。
- 戦略的対策:
- 単語カードの作成: 現代文キーワード集などを活用し、意味の曖昧なカタカナ語を単語カードにまとめる。表に単語、裏に「簡潔な意味」と「具体的な例文」を書く。
- 語源の活用: 英語の語源(ラテン語、ギリシャ語など)を知ると、複数の単語を効率的に覚えられる。例:「para-」(超える、反する)を知っていれば、「paradox(逆説)」「paradigm(規範)」などを関連付けて理解できる。
- 抽象語の血肉化(1.2参照): これらのカタカナ語こそ、「抽象語を『自分ごと』にするための3ステップ思考法」を実践する格好の対象である。辞書的意味を確認し、具体例を考え、対立概念を設定することで、生きた知識として定着させる。
本モジュールのまとめ
以上、Module 1では、明治大学現代文を攻略するための最も基礎的な「体力」として、語彙力と文法力の養成に焦点を当てた。抽象語を具体的に捉える技術、接続語や指示語を手がかりに論理を予測・復元する技術、そして複雑な文構造を瞬時に解体する技術は、全ての読解の土台となる。また、明治大学特有の知識問題の傾向を把握し、戦略的に対策することで、確実な得点源を確保することができる。
これらのスキルは、単独で機能するものではなく、相互に連携することで真価を発揮する。語彙力がなければ文構造が分かっても意味は取れず、構造把握能力がなければ単語を知っていても論理を追うことはできない。
ここで身につけた「思考のOS」を土台として、次のModule 2では、よりマクロな視点から、評論全体の「論理構造の解読」へと進んでいく。二項対立、具体と抽象、因果関係といった、筆者が文章を設計するための「設計図」を暴く技術を学んでいこう。