【基礎 化学】Module 2: 原子構造と周期律

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本モジュールの学習目標

Module 1では、化学の世界を探求するための基本的な「言語」と「道具」、すなわち物質の分類、基本粒子、化学法則、そしてモルの概念を学びました。私たちは「原子」を、それ以上分割できない究極の粒子として扱ってきましたが、それはあくまで19世紀の描像です。このModule 2では、その「原子」というブラックボックスの蓋をあけ、その驚くほど精緻でダイナミックな内部構造に迫ります。科学者たちがどのようにして原子の真の姿を解き明かしてきたのか、その知的な挑戦の物語を追いながら、原子の中心に鎮座する「原子核」と、その周りを飛び交い、あらゆる化学現象の主役となる「電子」の世界を探検します。そして、この原子の内部構造、特に電子の配置が、なぜ元素ごとに特有の性質を生み出し、その性質が「周期律」という美しい法則性に従うのか、その根源的な謎を解き明かします。このモジュールを終えるとき、あなたは単に周期表を覚えているだけでなく、「なぜ周期表がその形をしているのか」を、原子レベルの言葉で語れるようになっているでしょう。これは、次のモジュールで学ぶ「化学結合」、すなわち原子が互いに手を取り合って分子や物質を形成する仕組みを理解するための、絶対不可欠な理論的基盤となります。


目次

1. 原子像の探求:科学者たちの挑戦の物語

現代の私たちが当たり前のように受け入れている「原子は原子核と電子からなる」という描像は、決して一朝一夕に得られたものではありません。それは、100年以上にわたる科学者たちの絶え間ない探求、鋭い洞察、そして時として常識を覆す発見の積み重ねの末に築き上げられた、壮大な知的建造物です。この章では、原子の姿「原子モデル」が、ドルトンの単純な球から、現代的な量子論的描像の入り口であるボーアモデルへと、どのように変遷していったのか、その感動的な歴史を追体験します。

1.1. すべての始まり:ドルトンの「硬い球」モデル (Dalton’s Model, 1803年)

  • モデルの描像: 原子は、内部構造を持たない、ビリヤードの球のように硬く、均質で、それ以上分割できない究極の粒子である。
    • 元素の種類ごとに、固有の大きさと質量を持つ球が存在する。
    • 化学反応とは、これらの球の組み合わせが変わることである。
  • 提唱の背景: Module 1で学んだ質量保存の法則、定比例の法則、そしてドルトン自身が発見した倍数比例の法則といった、当時の化学実験の成果を矛盾なく説明するために、このモデルは提唱されました。
    • 例えば、化学反応で原子が消えたり生まれたりしないと考えれば質量保存則が、化合物が原子の決まった数の組み合わせでできていると考えれば定比例の法則が、見事に説明できたのです。
  • 成功と限界:
    • 成功: 化学量論の基礎を築き、化学を定量的な科学へと飛躍させる原動力となりました。19世紀の化学は、このドルトンの原子像を基盤として大きく発展しました。
    • 限界: このモデルは、原子がなぜ特定の比率で結合するのか、その「手」の正体を説明できませんでした。また、19世紀末に次々と発見されることになる、原子と電気が関わる現象(静電気、電気分解、放電現象など)に対しては、全くの無力でした。原子が単なる中性の球であるならば、電気現象を説明することはできないからです。

1.2. 電子の発見と「ぶどうパン」モデル (Thomson’s Model, 1904年頃)

  • 新たな実験事実:陰極線の発見: 19世紀後半、ガラス管内の気圧を下げて高電圧をかけると、負極(カソード)から何かが飛び出して正極(アノード)に向かって飛んでいく「陰極線」という現象が発見されました。
  • J.J. トムソンの実験 (1897年): イギリスの物理学者J.J. トムソンは、この陰極線の正体を突き止めるため、画期的な実験を行いました。
    • 彼は陰極線が電場や磁場によって曲げられることを発見し、その曲がり具合から、陰極線が負の電荷を持つ粒子の流れであることを突き止めました。
    • さらに、その粒子の電荷と質量の比(比電荷 e/m)を測定したところ、その値は気体の種類や電極の材料によらず、常に一定でした。
    • そして驚くべきことに、この粒子の質量は、最も軽い原子である水素原子の質量の約1840分の1という、非常に小さな値であることが判明しました。
  • 「電子」の発見: この実験結果から、トムソンは「原子よりもはるかに小さい、負の電荷を持った粒子が存在し、それはあらゆる原子に共通の構成要素である」と結論付けました。この粒子は、のちに電子 (electron) と名付けられます。原子が「分割できない究極の粒子」ではなかったことが証明された、歴史的な瞬間でした。
  • ぶどうパンモデル(またはプラムプディングモデル):
    • モデルの描像: 原子は、全体として正の電荷を持つ球状の「パン」のようなもので、その中に負の電荷を持つ電子が「ぶどう(レーズン)」のように散らばっている。
      • 正電荷の総量と、電子の負電荷の総量が等しいため、原子全体としては電気的に中性である。
    • 意義: このモデルは、原子が電子を含むことを初めて明示し、原子から電子が飛び出したり(イオン化)、原子が電気を帯びたりする現象を説明可能にしました。ドルトンモデルでは説明できなかった電気的性質に、初めて光を当てたのです。
    • 限界: しかし、このモデルにおける正電荷の正体や、それがどのように分布しているのかは全くの謎でした。正電荷が原子全体に均一に広がっているという描像は、あくまで仮説に過ぎませんでした。

1.3. 原子核の発見と「惑星」モデル (Rutherford’s Model, 1911年)

  • トムソンの弟子、ラザフォードの挑戦: ニュージーランド出身の物理学者アーネスト・ラザフォードは、師であるトムソンの原子モデルを検証するため、独創的な実験を計画しました。当時、彼は放射性物質から放出されるアルファ(α)粒子(正の電荷を持つヘリウムの原子核)の専門家でした。
  • α線散乱実験:
    • 実験内容: 非常に薄く延ばした金箔に、高速のα粒子を打ち込み、その軌跡がどのように変化するかを、周りに配置した蛍光スクリーンで観測しました。
    • トムソンモデルに基づく予測: もし原子が「ぶどうパン」のように、電荷が均一に拡散した構造ならば、正の電荷を持つα粒子は、原子の中をほとんどまっすぐ通り抜けるはずでした。たまにわずかに軌道が曲がることはあっても、大きく弾き返されることはないだろう、と予測されていました。
    • 衝撃的な実験結果:
      • 予測通り、ほとんどのα粒子(99.9%以上)は、金箔をまっすぐ通り抜けました
      • しかし、ごく少数(約2万分の1)のα粒子が、90度以上の大きな角度で散乱され、中にはほぼ180度、真後ろに跳ね返ってくるものさえあったのです。
  • ラザフォードの驚きと結論: この結果を聞いたラザフォードは、後に「まるでティッシュペーパーに向かって撃った15インチ砲の砲弾が、跳ね返ってきて自分に当たったようなものだ」と語ったほど、深く衝撃を受けました。
    • この結果を説明できる唯一の解釈は、トムソンのモデルが根本的に間違っているということでした。彼は以下のような結論を導き出しました。
      1. 原子核の存在: 原子の中には、正の電荷と質量のほとんどが集中した、非常識なほど小さく、密度の高い中心核が存在する。これを原子核 (nucleus) と名付けた。
      2. 原子の構造: 原子は、中心にある原子核と、その周りを回る電子からなる。原子の体積のほとんどは、電子が飛び回る何もない空間である。(ほとんどのα粒子が通り抜けた理由)
      3. α粒子が大きく散乱されるのは、原子核に非常に接近し、その強烈な正電荷による静電気的な反発力(クーロン力)で弾き飛ばされたためである。
  • 惑星モデル:
    • モデルの描像: 原子核を太陽 (Sun) とし、その周りを電子が惑星 (Planet) のように公転している、太陽系のようなモデル。
    • 成功: α線散乱実験の結果を完璧に説明し、現代まで続く「原子核と電子」という原子の基本構造を確立しました。
    • 致命的な欠陥(古典物理学との矛盾): このモデルには、当時の物理学(古典電磁気学)の観点から、説明不可能な致命的な問題がありました。
      • 問題1(原子の安定性): 古典電磁気学によれば、電荷を持った粒子が加速度運動(円運動は加速度運動の一種)をすると、電磁波を放出してエネルギーを失うはずです。もしそうなら、電子はエネルギーを失いながら螺旋状に原子核に引き寄せられ、あっという間に原子核に墜落してしまいます。原子は安定に存在できなくなるはずです(原子の崩壊)。しかし、現実の原子は安定です。
      • 問題2(輝線スペクトル): もし電子が連続的にエネルギーを失うなら、放出される電磁波(光)の波長も連続的になり、虹のような「連続スペクトル」を示すはずです。しかし、気体を放電管に入れて加熱すると、特定の波長の光だけが観測される、とびとびの「輝線スペクトル」を示すことが知られていました。惑星モデルはこの事実を説明できませんでした。

1.4. 量子論の曙光:「ボーアの原子モデル」 (Bohr’s Model, 1913年)

  • デンマークの若き天才、ボーアの登場: ニールス・ボーアは、ラザフォードのもとで研究していた若き物理学者でした。彼は、ラザフォードモデルの困難を克服するには、古典物理学の枠組みを捨て、当時芽生えつつあった新しい物理学「量子論」の考え方を大胆に取り入れる必要があると考えました。
  • 背景となる量子論の考え方:
    • プランクの量子仮説 (1900年): マックス・プランクは、物体から放射される光のエネルギーが、とびとびの値しかとれないと仮定しました (E=hν, hはプランク定数, νは振動数)。
    • アインシュタインの光量子仮説 (1905年): アルベルト・アインシュタインは、光は波であると同時に、「光子(光量子)」というエネルギーの粒子の集まりであるという考えを提唱しました。
  • ボーアの大胆な仮説: ボーアは、これらの量子論のアイデアを原子構造に適用し、以下の2つの革命的な仮説(要請)を立てました。これは古典物理学の常識を完全に無視したものでした。
    1. 量子条件(定常状態仮説):
      • 原子内の電子は、特定のとびとびのエネルギーを持つ円軌道(電子殻)上にある限り、電磁波を放出することなく安定に存在できる。
      • これらの安定な状態を定常状態と呼び、電子はこれらの軌道の間を「ジャンプ」することはあっても、その中間には存在できない。
      • これは、電子が原子核に墜落しない理由を、説明ではなく「公理」として仮定したものです。
    2. 振動数条件:
      • 電子が、エネルギーの高い外側の軌道 (Em​) から、エネルギーの低い内側の軌道 (En​) へと遷移(ジャンプ)するとき、そのエネルギー差に相当するエネルギーを持つ1個の光子を放出する。
      • その光の振動数 ν は、hν=Em​−En​ の関係を満たす。
      • 逆に、電子はちょうどこのエネルギー差に等しいエネルギーを持つ光子を吸収することで、内側の軌道から外側の軌道へと遷移することができる。
  • ボーアモデルの輝かしい成功と限界:
    • 成功:
      • このモデルは、水素原子の輝線スペクトルの波長を、驚くべき精度で理論的に説明することに成功しました。なぜスペクトルがとびとびの値になるのか(エネルギー準位がとびとびだから)、その理由を見事に示したのです。
      • 原子の安定性の問題を、定常状態という仮説によってクリアしました。
    • 限界:
      • 水素原子にしか適用できない: ボーアモデルは、電子を1つしか持たない水素原子(または He+や Li2+ のようなイオン)に対しては完璧でしたが、電子を2つ以上持つ多電子原子のスペクトルは全く説明できませんでした。
      • なぜ量子条件が成り立つのか?: 電子がなぜ特定の軌道しか許されないのか、その根本的な理由を説明していません。これはあくまで天下り的な仮定でした。(後に、ド・ブロイの物質波の考えによって、電子の波が軌道上で定常波を作ることとして説明されるようになります。)
      • スペクトル線の強度: 輝線スペクトルの線の「明るさ(強度)」がなぜ異なるのかを説明できませんでした。

ボーアモデルは、古典物理学と量子論の過渡期に生まれた、いわば「つぎはぎ」のモデルでした。しかし、原子の世界が我々の日常的な直感とは全く異なる「量子化された」法則に支配されていることを明確に示し、その後のハイゼンベルクやシュレーディンガーらによる本格的な量子力学の構築へと道を開いた、物理学史上極めて重要なマイルストーンなのです。


2. 原子の中の「太陽」:原子核の構造と安定性

ラザフォードの実験によって、原子の中心には正の電荷と質量の大部分が集中した「原子核」が存在することが明らかになりました。Module 1でも触れましたが、ここでは原子核の構造、そしてその安定性や不安定性(放射能)について、さらに一歩深く踏み込んでいきます。原子核は、化学反応においてはほとんど変化しませんが、その性質は元素の質量や安定性を決定づける重要な要素です。

2.1. 原子核の構成要素:陽子と中性子

  • 陽子 (Proton, p):
    • ラザフォードは、様々な原子核にα粒子を衝突させる実験を続ける中で、水素の原子核が他の原子核から飛び出してくることを発見しました(1919年)。彼は、この水素の原子核こそが、すべての原子核を構成する基本的な正電荷の粒子であると考え、これを陽子と名付けました。
    • 性質:
      • 電荷: +e(電気素量, 約 +1.602×10−19 C)。電子の電荷と大きさが等しく、符号が逆です。
      • 質量: 約 1.673×10−27 kg。電子の質量の約1836倍。
    • 原子番号 (Atomic Number, Z): 原子核に含まれる陽子の数。この数が元素の種類を決定づける、最も重要な番号です。Z=1なら水素、Z=6なら炭素、Z=92ならウランです。
  • 中性子 (Neutron, n):
    • 原子番号と原子の質量を比較すると、奇妙なことに気づきます。例えば、ヘリウム(原子番号2)の質量は、陽子2個分の質量の約2倍ではなく、約4倍あります。この「余分な質量」の正体は長らく謎でした。
    • 1932年、ラザフォードの弟子であるジェームズ・チャドウィックが、ベリリウムにα線を照射する実験で、電荷を持たないが陽子とほぼ同じ質量を持つ新粒子を発見し、これを中性子と名付けました。
    • 性質:
      • 電荷: 0(電気的に中性)。
      • 質量: 約 1.675×10−27 kg。陽子よりわずかに重い。
  • 核子 (Nucleon): 陽子と中性子は、原子核を構成する粒子として、まとめて核子と呼ばれます。
  • 質量数 (Mass Number, A): 原子核に含まれる陽子の数と中性子の数の合計。すなわち、核子の総数です。
    • A=(陽子の数 Z)+(中性子の数 N)
  • 原子の表記法:
    • 元素記号をXとして、その左下に原子番号Z、左上に質量数Aを書いて、原子の種類を特定します。ZA​X
    • 例: 612​C (質量数12の炭素原子:陽子6個、中性子6個)、92235​U (質量数235のウラン原子:陽子92個、中性子143個)

2.2. 同位体(アイソトープ)の多様な世界

  • 定義の再確認原子番号 (Z) が同じで、中性子の数 (N) が異なるために質量数 (A) が異なる原子同士同位体 (Isotope) といいます。「同じ場所(周期表上の位置)の元素」という意味のギリシャ語に由来します。
  • 性質:
    • 化学的性質はほぼ同じ: 原子番号、すなわち陽子の数が同じであれば、原子核の周りの電子の数も同じになります。化学的性質は、主として最外殻電子の振る舞いによって決まるため、同位体間の化学的性質の差は非常に小さいです。
    • 物理的性質は異なる: 質量が異なるため、密度、拡散速度、反応速度(同位体効果)などにわずかな差が生じます。また、最も重要な違いは、原子核の安定性です。
  • 安定同位体と放射性同位体:
    • 安定同位体 (Stable Isotope): 原子核が安定で、時間が経っても崩壊しない同位体。天然に存在する元素の多くは、複数の安定同位体の混合物です。(例: 12C と 13C、35Cl と 37Cl)
    • 放射性同位体 (Radioisotope): 原子核が不安定で、自発的に放射線を放出して別の原子核に変化(壊変)する性質を持つ同位体。天然に存在するもののほか、原子炉や加速器で人工的に作られるものも多数あります。(例: 14C, 3H, 60Co, 131I)

2.3. 放射性壊変:不安定な原子核の変身

原子核が不安定になる主な原因は、陽子と中性子のバランスの崩れです。陽子同士は正電荷のために強く反発しあっていますが、これを打ち消して核子同士を固く結びつけているのが「核力」という非常に強い近距離力です。中性子はこの核力には寄与しますが、電気的な反発はしないため、いわば原子核内の「かすがい」や「緩衝材」の役割を果たしています。このバランスが悪いと、原子核はより安定な状態を目指して、粒子や電磁波を放出して別の原子核に変わります。これを放射性壊変(または放射性崩壊)といい、放出されるものを総称して放射線といいます。

  • α崩壊 (Alpha Decay):
    • 現象: 原子核からα粒子(ヘリウムの原子核, 24​He)が放出される壊変。
    • 特徴: 陽子の多い(重い)原子核で起こりやすい。
    • 変化: 原子番号 Z が 2 減り、質量数 A が 4 減る。
    • 例: ウラン238のα崩壊92238​U→90234​Th+24​He
  • β崩壊 (Beta Decay):
    • 現象: 原子核からβ粒子(実体は電子, −10​e)が放出される壊変。
    • メカニズム: 原子核内の中性子1個が、陽子1個と電子1個(と反電子ニュートリノ)に変化する現象。n→p+e−+νˉe​
    • 特徴: 中性子が陽子に対して過剰な原子核で起こりやすい。
    • 変化: 原子番号 Z が 1 増え、質量数 A は変化しない。
    • 例: 炭素14のβ崩壊(年代測定に利用される)614​C→714​N+−10​e
    • (発展)β+崩壊と電子捕獲 (EC): 陽子が中性子に対して過剰な原子核では、陽子が中性子に変わることで安定化することもあります。これには、陽電子(電子と質量が同じで電荷が逆の反粒子)を放出するβ+崩壊や、原子核が軌道電子(主にK殻)を捕獲する電子捕獲 (Electron Capture) があります。いずれも原子番号が1減り、質量数は変わりません。PET(陽電子放出断層撮影)は、このβ+崩壊を利用した医療診断技術です。
  • γ崩壊 (Gamma Decay):
    • 現象: α崩壊やβ崩壊の後に、励起状態(エネルギーが高い不安定な状態)にある原子核が、余分なエネルギーをγ線(波長の短い高エネルギーの電磁波)として放出し、基底状態(最も安定な状態)に落ち着く現象。
    • 特徴: γ崩壊だけでは原子番号 Z も質量数 A も変化しない。原子核のエネルギー準位間の遷移であり、ボーアモデルにおける電子の遷移の原子核版と考えることができます。

2.4. 半減期と放射能

  • 半減期 (Half-life, T1/2​):
    • 定義: 放射性同位体の原子核の数が、壊変によって元の数の半分に減少するまでにかかる時間
    • 特徴: 半減期は、それぞれの放射性同位体に固有の値であり、温度、圧力、化学状態などの外部条件には一切影響されません。
    • 減衰の様子: 放射性原子の数は、半減期が経過するごとに、N0​→21​N0​→41​N0​→81​N0​… と指数関数的に減少していきます。
    • 応用:
      • 放射年代測定: 14C(半減期 約5730年)は生物の遺骸に含まれる量を測定することで数万年前までの年代を、238U(半減期 約45億年)は岩石に含まれる量を測定することで地球や隕石の年齢を推定するのに用いられます。
  • 放射能 (Radioactivity):
    • 定義: 放射性物質が放射線を出す能力のこと。より厳密には、単位時間あたりに壊変する原子核の数を指します。
    • 単位:
      • ベクレル (Becquerel, Bq): 放射能の強さを表す国際単位(SI単位)。1 Bq は、1秒間に1個の原子核が壊変することを意味します。
      • (参考)グレイ (Gray, Gy) と シーベルト (Sievert, Sv): これらは人体への影響を表す単位です。グレイは物質が吸収した放射線のエネルギー量(吸収線量)、シーベルトは放射線の種類や影響を受ける組織の違いを考慮した生物学的な影響の度合い(実効線量)を表します。

2.5. 質量の謎:質量欠損と結合エネルギー

  • 質量欠損 (Mass Defect):
    • 原子核の質量を精密に測定すると、不思議なことに、その原子核を構成している陽子と中性子の質量の総和よりも、わずかに軽くなっていることがわかります。
    • : ヘリウム原子核 (24​He)
      • 陽子2個の質量: 1.0073 u×2=2.0146 u
      • 中性子2個の質量: 1.0087 u×2=2.0174 u
      • 構成粒子の質量の合計: 2.0146+2.0174=4.0320 u
      • 実際のヘリウム原子核の質量: 4.0015 u
      • 失われた質量(質量欠損): 4.0320−4.0015=0.0305 u
  • 結合エネルギー (Binding Energy):
    • この失われた質量は、どこへ消えたのでしょうか? アインシュタインの有名な関係式 E=mc2 によれば、質量とエネルギーは等価であり、相互に変換可能です。
    • ばらばらの陽子と中性子が集まって原子核を形成するとき、この質量欠損に相当する質量が、莫大なエネルギーとなって放出されるのです。この放出されるエネルギーを結合エネルギーといいます。
    • 逆に言えば、結合エネルギーは、その原子核をばらばらの核子に分解するために必要なエネルギーでもあります。結合エネルギーが大きいほど、原子核はより強く結びついており、より安定であることを意味します。
    • 核子1個あたりの結合エネルギーをグラフにすると、質量数56の鉄 (56Fe) 付近で最大となります。これが、鉄が宇宙で最も安定な元素である理由です。
    • 核分裂 (Fission) と 核融合 (Fusion):
      • ウランのような重い原子核が、より軽い原子核に分裂する核分裂では、生成物のほうが結合エネルギーが大きいため、その差額がエネルギーとして放出されます(原子力発電の原理)。
      • 水素のような軽い原子核同士が融合して、より重い原子核になる核融合でも、生成物のほうが結合エネルギーが大きいため、莫大なエネルギーが放出されます(太陽のエネルギー源)。

3. 電子の居場所を定めるルール:電子殻と電子配置

ボーアモデルは、原子内の電子が特定のとびとびのエネルギー準位(電子殻)にしか存在できない、という画期的な考えを導入しました。この章では、この電子殻の概念をさらに発展させ、量子力学が明らかにした電子の「住所」を記述するためのルール、すなわち電子配置の原理を学びます。原子の化学的性質は、最外殻にいる電子(価電子)の数と振る舞いによってほぼ決定されます。したがって、電子配置を正しく理解することは、元素の性質を理解し、化学結合を予測するための根幹となります。

3.1. ボーアモデルを超えて:電子殻の概念の深化

  • 電子殻 (Electron Shell):
    • ボーアモデルで導入された、電子が存在できる特定のエネルギーを持つ軌道のこと。
    • 原子核に近い(エネルギーが低い)方から順に、K殻, L殻, M殻, N殻, … と名付けられています。これらは、後述する主量子数 (n) が、n = 1, 2, 3, 4, … に対応します。
  • 各電子殻の最大収容電子数:
    • 実験的な事実から、各電子殻には収容できる電子の最大数があることが知られています。
    • n番目の電子殻(主量子数 n の電子殻)に収容できる電子の最大数は 2n2 個という簡単な式で表されます。
      • K殻 (n=1): 2×12=2 個
      • L殻 (n=2): 2×22=8 個
      • M殻 (n=3): 2×32=18 個
      • N殻 (n=4): 2×42=32 個
  • なぜ 2n2 なのか?: この魔法のような数字の理由は、ボーアモデルでは説明できませんでした。この謎を解く鍵は、電子の状態をより詳細に記述する「量子数」という概念にあります。電子殻は、実はさらにいくつかの「小部屋」(副殻や軌道)に分かれていたのです。

3.2. 電子の住所録:量子数というパラメータ

量子力学によれば、原子内の個々の電子の状態は、4種類の量子数 (Quantum Number) の組み合わせによって、一意に(重複なく)記述されます。これは、個人の住所が「都道府県」「市区町村」「番地」「部屋番号」で特定されるのに似ています。

  1. 主量子数 (Principal Quantum Number, n)
    • 役割: 電子のエネルギー準位の大きさと、電子が存在する大まかな領域(電子殻)を決定します。
    • とりうる値: n=1,2,3,… といった正の整数。
    • 対応する電子殻: n=1→K殻, n=2→L殻, n=3→M殻, …
    • n が大きいほど、電子のエネルギーは高く、原子核からの平均的な距離も遠くなります。
  2. 方位量子数 (Azimuthal Quantum Number, l)
    • 役割: 同じ電子殻(同じn)の中にある、電子の軌道の形状を決定します。これは、電子殻がさらにいくつかの副殻 (subshell) に分かれていることを意味します。
    • とりうる値: l は、与えられた n に対して、l=0,1,2,…,(n−1) までの整数値をとります。
    • 対応する副殻(軌道記号):
      • l=0→ s軌道 (sharp)
      • l=1→ p軌道 (principal)
      • l=2→ d軌道 (diffuse)
      • l=3→ f軌道 (fundamental)
    • :
      • K殻 (n=1) では、l=0 のみ。つまり、1s副殻しかない。
      • L殻 (n=2) では、l=0,1 の2種類。つまり、2s副殻と2p副殻がある。
      • M殻 (n=3) では、l=0,1,2 の3種類。つまり、3s, 3p, 3d副殻がある。
  3. 磁気量子数 (Magnetic Quantum Number, ml​)
    • 役割: 同じ副殻(同じ l)の中にある、空間内での軌道の向き(配向)を決定します。これは、副殻がさらにいくつかの軌道 (orbital) に分かれていることを意味します。
    • とりうる値: ml​ は、与えられた l に対して、ml​=−l,−(l−1),…,0,…,(l−1),+l までの整数値をとります。その個数は (2l+1) 個です。
    • 対応する軌道の数:
      • s軌道 (l=0): ml​=0 の1種類のみ。
      • p軌道 (l=1): ml​=−1,0,+1 の3種類 (px​,py​,pz​)。
      • d軌道 (l=2): ml​=−2,−1,0,+1,+2 の5種類。
      • f軌道 (l=3): ml​=−3,…,+3 の7種類。
  4. スピン量子数 (Spin Quantum Number, ms​)
    • 役割: 電子自身の「自転」のような性質を表します。この自転には「上向き」と「下向き」の2つの状態しかなく、電子が小さな磁石のように振る舞う原因となります。
    • とりうる値: ms​=+1/2 (上向きスピン, ↑) と ms​=−1/2 (下向きスピン, ↓) の2種類のみ。
    • この量子数は、電子に固有の性質であり、他の3つの量子数(軌道の性質)とは少し毛色が異なります。

3.3. 電子配置の三大原理

さて、これらの量子数というルールを使って、多数の電子を原子核の周りに配置していくには、さらに3つの重要な原理に従う必要があります。

  1. 構成原理 (Aufbau Principle)
    • 内容: 電子は、利用可能な軌道のうち、エネルギー準位が最も低い軌道から順に入っていく。
    • エネルギー準位の順序:
      • 基本的には、主量子数 n が小さいほどエネルギーは低い。
      • 同じ n の中では、方位量子数 l が小さいほどエネルギーは低い (s < p < d < f)。
      • しかし、多電子原子では、内殻電子による核電荷の遮蔽効果などにより、エネルギー準位の逆転が起こります。これが非常に重要です。
      • 覚えるべき順序:1s<2s<2p<3s<3p<4s<3d<4p<5s<4d<…特に、3d軌道よりも4s軌道の方がエネルギーが低いという逆転は、遷移元素の性質を理解する上で鍵となります。
  2. パウリの排他原理 (Pauli Exclusion Principle)
    • 提唱者: ヴォルフガング・パウリ
    • 内容「一つの原子内において、4つの量子数 (n,l,ml​,ms​) の組がすべて同じであるような2つ以上の電子は存在できない。」
    • 帰結: この原理から、1つの軌道(n,l,ml​ の組が同じ)には、スピンの向きが互いに逆な(ms​ が +1/2 と −1/2)電子が、最大で2個しか入ることができない、という極めて重要なルールが導かれます。
      • s軌道 (1つ) → 最大2個
      • p軌道 (3つ) → 最大 2×3=6 個
      • d軌道 (5つ) → 最大 2×5=10 個
    • この原理こそが、各電子殻の最大収容電子数が 2n2 となる理由です。例えば、M殻 (n=3) は、3s(2個), 3p(6個), 3d(10個)の軌道からなり、合計 2+6+10=18 個、すなわち 2×32 個の電子を収容できるのです。
  3. フントの規則 (Hund’s Rule)
    • 内容: エネルギー準位が等しい複数の軌道(例えば px​,py​,pz​ のような縮重軌道)に電子が入るとき、可能な限りスピンを平行に(同じ向きに)保ったまま、別々の軌道に1個ずつ入っていく。すべての軌道に1個ずつ電子が入ってから、初めて2個目の電子が対になって入る。
    • 理由(少し発展的):
      • 電子間の反発: 同じ軌道に2個の電子が入ると、空間的に近くなるため、静電気的な反発力が大きくなります。別々の軌道に入ることで、この反発を避けることができます。
      • 交換エネルギー: スピンが平行な電子は、量子力学的な効果により、互いを避ける傾向が強まります。これにより系全体が安定化し、この安定化エネルギーを交換エネルギーと呼びます。フントの規則は、この交換エネルギーを最大化する配置が最も安定である、と解釈できます。
    • 例:窒素原子 (N, Z=7)
      • 電子配置: 1s22s22p3
      • 2p軌道には3個の電子が入ります。このとき、(↑↓,↑,空) や (↑↓,↓,空) のような入り方ではなく、フントの規則に従い、(↑,↑,↑) のように、3つのp軌道 (px​,py​,pz​) に1個ずつ、スピンをそろえて入るのが最も安定となります。

3.4. 実際の電子配置の書き方

これらの原理を使って、原子番号の順に原子の電子配置を記述してみましょう。

  • 表記法: (n)(l)k のように、主量子数、軌道記号、そしてその軌道にある電子数を右肩に書きます。
  • :
    • H (Z=1): 1s1
    • He (Z=2): 1s2 (K殻が閉殻)
    • Li (Z=3): 1s22s1
    • Be (Z=4): 1s22s2
    • B (Z=5): 1s22s22p1
    • C (Z=6): 1s22s22p2 (フントの規則により、2p軌道には ↑,↑,空 のように入る)
    • N (Z=7): 1s22s22p3 (2p軌道は ↑,↑,↑)
    • O (Z=8): 1s22s22p4 (2p軌道は ↑↓,↑,↑)
    • F (Z=9): 1s22s22p5
    • Ne (Z=10): 1s22s22p6 (L殻が閉殻。希ガス)
    • Na (Z=11): 1s22s22p63s1 または [Ne]3s1 (閉殻構造は希ガスの記号で省略できる)
    • Ar (Z=18): 1s22s22p63s23p6 (M殻のp軌道までが満たされる)
  • 遷移元素の電子配置(注意点):
    • K (Z=19): [Ar]4s1
    • Ca (Z=20): [Ar]4s2
    • Sc (Z=21): [Ar]4s23d1 (構成原理に従い、4sの次に3dに電子が入る)
    • Cr (Z=24): 予想される配置は [Ar]4s23d4 だが、実際の配置は [Ar]4s13d5
    • Cu (Z=29): 予想される配置は [Ar]4s23d9 だが、実際の配置は [Ar]4s13d10
    • 例外の理由: d軌道がちょうど半分満たされた半閉殻 (d5) や、すべて満たされた全閉殻 (d10) の状態は、電子配置として特に安定になります。CrやCuでは、4s軌道から電子が1個昇位してd軌道を半閉殻または全閉殻にすることで、原子全体としてより安定な状態をとることができるため、このような例外的な電子配置となります。
  • 価電子 (Valence Electron):
    • 定義: 原子の一番外側の電子殻(最外殻)にある電子のこと。
    • 重要性: 価電子は、原子核からの束縛が最も弱く、化学反応に最も直接的に関与します。原子が結合を作るとき、やり取りされたり共有されたりするのは、この価電子です。
    • 元素の化学的性質は、価電子の数によってほぼ決まると言っても過言ではありません。
    • 典型元素: 価電子の数は、族番号の一の位と同じです。(例: 1族は1個, 14族は4個, 17族は7個)
    • 遷移元素: 最外殻のs電子と、その内側のd電子の一部が価電子として振る舞うことが多く、少し複雑です。通常、最外殻のs電子(1個または2個)を価電子とすることが多いです。
    • 希ガス (18族): 最外殻が閉殻で安定なため、価電子の数は 0 とします。

4. 電子の「雲」の形:原子軌道という現代的描像

ボーアモデルでは、電子は原子核の周りを回る「粒子」として描かれていました。しかし、その後の量子力学の発展は、電子が粒子としての性質と同時に波としての性質も併せ持つという、より奇妙で、しかしより本質的な描像を明らかにしました。この章では、現代の原子モデルにおける「原子軌道」の概念を学びます。これは、電子の存在を「雲」のような確率の濃淡として捉える、革命的な考え方です。

4.1. 量子力学が描く原子像:確率としての電子

  • ド・ブロイの物質波 (1924年): フランスの物理学者ルイ・ド・ブロイは、「光が波と粒子の二重性を持つのなら、電子のような粒子もまた、波としての性質を持つのではないか」という大胆な仮説を提唱しました。この電子が伴う波を物質波といいます。
  • シュレーディンガー方程式 (1926年): オーストリアの物理学者エルヴィン・シュレーディンガーは、この物質波の考えに基づき、原子内の電子の状態を記述する基本的な方程式を導き出しました。これがシュレーディンガー方程式です。
    • この方程式を解くと、とびとびのエネルギー準位(固有エネルギー)と、それに対応する波動関数 (ψ) が得られます。
    • この波動関数 ψ こそが、原子軌道 (Atomic Orbital) の数学的な実体です。
  • 波動関数と確率密度:
    • 波動関数 ψ 自体に直接的な物理的意味はありません。
    • しかし、その二乗 ∣ψ∣2 は、原子核の周りのある点において、電子を見出す確率の密度を表します。
    • つまり、∣ψ∣2 の値が大きい場所ほど、電子がそこに存在する確率が高い、ということになります。
  • 電子雲モデル: この確率の分布を、濃淡のある「雲」のように視覚化したものが電子雲です。雲の濃い部分が、電子の存在確率が高い領域に対応します。これは、電子が特定の軌跡を描いて運動しているのではなく、原子核の周りにぼんやりと広がって存在している、という現代的な原子像です。
  • ハイゼンベルクの不確定性原理 (1927年):
    • ヴェルナー・ハイゼンベルクは、「粒子の位置と運動量(質量×速度)を、両方同時に正確に知ることは原理的に不可能である」ことを見出しました。
    • これは、観測という行為自体が、観測対象の状態を乱してしまうために生じます。例えば、電子の位置を正確に見ようとすれば、波長の短い光(高エネルギーの光子)をぶつける必要があり、その結果、電子の運動量が大きく変わってしまいます。
    • この原理は、ボーアモデルのように電子の「位置」と「運動(軌道)」を同時に確定しようとする考え方が、ミクロの世界では成り立たないことを示しています。量子力学が確率的な記述にならざるを得ない、根源的な理由がここにあります。

4.2. s軌道:球形の電子雲

  • 方位量子数 l=0 に対応する軌道です。
  • 形状球形。電子を見出す確率は、原子核からの距離だけに依存し、方向に依存しません。
  • 種類: 各主量子数n(n=1, 2, 3, …)に、それぞれ1種類ずつ存在します (1s, 2s, 3s, …)。
  • 大きさ: 主量子数 n が大きくなるほど、電子雲の広がりは大きくなります(原子核からより遠くまで分布する)。
  • 節 (Node): 2s軌道以上のs軌道には、電子の存在確率がゼロになる球状の面が存在します。これをといいます。節の数は (n−1) 個です。(例: 1sは0個, 2sは1個, 3sは2個)

4.3. p軌道:亜鈴(アレイ)形の電子雲

  • 方位量子数 l=1 に対応する軌道です。
  • 形状: 原子核を挟んで、正負の符号を持つ2つの領域(葉、ローブ)が向き合った、亜鈴(鉄アレイ)形をしています。原子核の中心では、電子の存在確率はゼロです(節面)。
  • 種類:
    • 主量子数 n=2 以上の電子殻に存在します (2p, 3p, 4p, …)。
    • 磁気量子数 ml​ が -1, 0, +1 の3つの値をとるため、p軌道は空間的な向きが異なる3種類が存在します。
    • これらは互いに直交するx, y, z軸の方向に沿って配向しており、それぞれ px​軌道, py​軌道, pz​軌道 と呼ばれます。この3つの軌道は、エネルギー準位が等しい縮重した状態にあります。

4.4. d軌道とf軌道:より複雑な形の電子雲

  • d軌道 (l=2):
    • 主量子数 n=3 以上の電子殻に存在します (3d, 4d, …)。
    • 磁気量子数 ml​ が -2, -1, 0, +1, +2 の5つの値をとるため、5種類のd軌道が存在し、これらも縮重しています。
    • 形状はさらに複雑で、4つのローブを持つクローバー形のもの(dxy​,dyz​,dzx​,dx2−y2​)と、p軌道にドーナツ状のリングがついたような形のもの(dz2​)があります。
    • d軌道に電子が入り始めると、その元素は遷移元素としての性質を示します。遷移元素が多様な酸化数をとったり、錯体を形成したり、触媒として働いたりするのは、このd軌道の性質と深く関わっています。
  • f軌道 (l=3):
    • 主量子数 n=4 以上の電子殻に存在します (4f, 5f, …)。
    • 7種類の軌道が存在し、形状は極めて複雑です。
    • f軌道に電子が充填されていく元素群は、ランタノイド(4f)やアクチノイド(5f)と呼ばれます。

4.5. 軌道のエネルギー準位(多電子原子の場合)

水素原子では、同じ主量子数nを持つ軌道(例: 2sと2p)はすべて同じエネルギー準位にありますが、電子が2個以上ある多電子原子では、事情が異なります。

  • エネルギー準位の分裂: 同じ主量子数nの中でも、方位量子数 l が異なると、エネルギー準位が分裂します。その順序は、s<p<d<fとなります。つまり、同じM殻(n=3)でも、3s < 3p < 3d の順にエネルギーが高くなります。
  • 分裂の理由:核電荷の遮蔽効果と軌道の浸透:
    • 遮蔽効果 (Shielding effect): 多電子原子では、ある電子は、原子核の正電荷と、他の電子(特に内殻の電子)の負電荷の両方から力を受けます。内殻電子が原子核の正電荷を部分的に打ち消す(遮蔽する)ため、外側の電子が感じる正電荷は、実際の核電荷Zよりも小さくなります。この見かけの核電荷を有効核電荷 (Zeff​) といいます。
    • 軌道の浸透 (Penetration): s軌道は、p軌道やd軌道に比べて、原子核の近くに存在する確率(浸透する度合い)が大きいです。そのため、s軌道の電子は、内殻電子による遮蔽を比較的受けにくく、より強い有効核電荷を感じることができます。
    • 結果として、s軌道はp軌道やd軌道よりも原子核に強く引きつけられ、エネルギー準位が低く(安定に)なります。この効果により、ns軌道と(n-1)d軌道のエネルギー準位が近接し、原子番号が大きくなると、ついに4s軌道のエネルギーが3d軌道よりも低くなるというエネルギー準位の逆転が生じるのです。これが、構成原理において、電子が3p軌道の次に3dではなく4s軌道に入る理由です。

5. 元素たちの地図:周期律と周期表

原子の内部構造、特に電子配置のルールが明らかになった今、私たちはついに化学における最も偉大な発見の一つである「周期律」の謎に迫る準備ができました。性質の似た元素が周期的に現れるのはなぜか? その答えは、これまで学んできた電子配置の中に隠されています。周期表は、単なる元素のリストではありません。それは、原子構造に基づいて元素の性質を整理し、未知の性質さえも予言する力を持つ、究極の「元素の地図」なのです。

5.1. 周期律の発見:メンデレーエフの偉業

  • 周期律への道: 19世紀半ば、ドルトンの原子説によって元素の「原子量」という概念が確立されると、多くの化学者が元素を原子量の順に並べ、何らかの法則性を見出そうと試みました。ニューランズの「オクターブ説」など、いくつかの先駆的な試みがありましたが、決定的な成功には至りませんでした。
  • メンデレーエフの洞察 (1869年): ロシアの化学者ドミトリ・メンデレーエフは、当時知られていた約60種類の元素を、性質の類似性も考慮しながら、根気強く原子量の順に並べていきました。その過程で、彼はいくつかの天才的な洞察に至ります。
    1. 性質の類似性を優先: 彼は、原子量の順序が多少逆転しても、化学的性質が似ている元素が縦の列に並ぶように、元素を配置しました。例えば、テルル(Te, 原子量127.6)とヨウ素(I, 原子量126.9)は、原子量の順ではTe-Iですが、性質の類似性からIをTeの右隣(ハロゲンの列)に置くという大胆な決断をしました。
    2. 空欄の設置と未発見元素の予言: 周期性を維持するために、彼は表の中にいくつかの空欄を設け、そこにはまだ発見されていない未知の元素が入るはずだと考えました。さらに驚くべきことに、彼はその未知の元素の性質(原子量、密度、酸化物の化学式など)を、周期表上の位置から驚くほど正確に予言したのです。
      • : アルミニウム(Al)の下の空欄を「エカアルミニウム」、ケイ素(Si)の下の空欄を「エカケイ素」と名付け、その性質を予言しました。
  • 予言の的中と周期律の確立: その後、フランスのボアボードランがガリウム(Ga, 1875年)、ドイツのウィンクラーがゲルマニウム(Ge, 1886年)を発見すると、その性質はメンデレーエフが予言したエカアルミニウム、エカケイ素の性質と驚くほど一致していました。この輝かしい成功により、メンデレーエフの周期律と周期表は、化学の世界で不動の地位を確立しました。

5.2. 現代の周期表:原子番号順という改良

  • メンデレーエフ周期表の課題: メンデレーエフの周期表は偉大でしたが、なぜ原子量の順序を一部入れ替える必要があったのか、その根本的な理由は説明できませんでした。
  • モーズリーの法則 (1913年): イギリスの物理学者ヘンリー・モーズリーは、様々な元素にX線を照射し、発生する特性X線の波長を調べました。その結果、特性X線の振動数の平方根が、原子核の正電荷の量と正確な直線関係にあることを発見しました。
  • 原子番号の確立: これにより、元素の最も基本的な性質を決定するのは、原子量ではなく**原子番号(原子核の陽子の数)**であることが実験的に証明されたのです。
  • 現代の周期律: モーズリーの発見に基づき、周期律は以下のように再定義されました。「元素を原子番号の順に並べると、その性質が周期的に変化する。」この原子番号順に並べ替えることで、メンデレーエフが直面した原子量の逆転の問題(ArとK, CoとNi, TeとI)はすべて解消され、現代の周期表の骨格が完成しました。

5.3. 周期表の構造:周期と族

  • 周期 (Period): 周期表の横の行のこと。第1周期から第7周期まであります。同じ周期に属する元素は、電子が満たされている最も外側の電子殻(主量子数n)が同じです。
    • 短周期: 第1周期(2元素)、第2周期(8元素)、第3周期(8元素)
    • 長周期: 第4周期以降。第4, 5周期は18元素、第6, 7周期は32元素。
  • 族 (Group): 周期表の縦の列のこと。1族から18族まであります。
    • 同じ族に属する元素は、価電子の数が等しく、その結果として互いに非常によく似た化学的性質を示します。これこそが周期律の核心です。
    • 特定の名前を持つ族:
      • 1族アルカリ金属(Hを除く)
      • 2族アルカリ土類金属
      • 17族ハロゲン
      • 18族希ガス
  • 典型元素と遷移元素:
    • 典型元素 (Main Group Elements): 1, 2族と12~18族の元素。周期表の両翼に位置します。価電子がs軌道またはp軌道に収容され、族ごとに非常に典型的な、はっきりとした性質の変化を示します。
    • 遷移元素 (Transition Elements): 3~11族の元素。周期表の中央部分を占めます。価電子がd軌道に収容されていきます。隣り合う元素同士の性質の差は比較的緩やかですが、複数の酸化数をとる、有色のイオンや錯体を作る、触媒として働くなど、多彩で複雑な化学的性質を示します。

5.4. s, p, d, fブロック元素:電子配置との完璧な対応

周期表の構造は、これまで学んできた原子軌道への電子の入り方(構成原理)と見事に対応しています。最後に電子が入る軌道の種類によって、元素は4つのブロックに分類できます。

  • sブロック元素: 1族と2族。電子がs軌道に充填されていく元素群。
  • pブロック元素: 13~18族。電子がp軌道に充填されていく元素群。
  • dブロック元素: 3~12族。(遷移元素とほぼ同義)。電子がd軌道に充填されていく元素群。
  • fブロック元素: ランタノイドとアクチノイド。周期表の本体から下に分離して表示されることが多い。電子がf軌道に充填されていく元素群。

このように、周期表のどの位置に元素があるかを見れば、その原子の電子配置、特に価電子の状態を即座に推測することができます。そして、その価電子の状態こそが、次の章で見る元素の様々な性質を支配しているのです。


6. 周期表が予言する力:元素の周期的性質

周期表は、元素の性質が周期的に変化することを視覚的に示したものです。では、具体的にどのような性質が、どのように変化するのでしょうか。この章では、原子半径、イオン化エネルギー、電子親和力、電気陰性度といった、原子の基本的な物理的・化学的性質を取り上げ、それらが周期表上で示す美しい傾向(周期性)について学びます。そして最も重要なのは、それらの傾向がなぜ生じるのか、その根本的な理由を原子構造の言葉で説明できるようになることです。

6.1. 周期的性質を支配する2大要因

元素の周期的性質の変化は、突き詰めれば、原子構造における以下の2つの要因のせめぎ合いとして、ほぼすべてを説明することができます。

  1. 原子核の正電荷 (Effective Nuclear Charge, Zeff​):
    • 原子番号が大きくなるほど、原子核の陽子の数が増え、正電荷が大きくなります。これにより、原子核が電子を引きつける力は強くなります。
    • しかし、内殻電子による遮蔽効果があるため、価電子が感じる核電荷は、実際の核電荷Zよりも小さい有効核電荷となります。
    • **同一周期(横)**では、右に行くほど原子番号Zが増えますが、遮蔽に寄与する内殻電子の数は変わらないため、有効核電荷は右に行くほど大きくなります。
    • **同一族(縦)**では、下に行くほどZは大きくなりますが、同時に内殻の電子殻も増えるため、遮蔽効果も大きくなり、有効核電荷の増加は比較的緩やかです。
  2. 電子配置(電子殻の数と原子軌道):
    • 電子殻の数: **同一族(縦)**では、下に行くほど電子が収容される主量子数nの最も大きい電子殻(最外殻)が外側になります (K→L→M…)。これにより、価電子と原子核との平均距離が大きくなります。
    • 原子軌道: 電子がどの軌道 (s, p, d) に入っているか、またその軌道が満たされているか(閉殻)、半分満たされているか(半閉殻)といった電子配置の微妙な違いも、性質に影響を与えます。

6.2. 原子半径:原子の「大きさ」の傾向

  • 定義: 原子は電子雲によって輪郭がぼやけているため、厳密な半径の定義は難しいですが、一般的には、同種の原子2個が結合したときの原子核間の距離の半分を原子半径とします。
  • 周期性の傾向:
    • 同一周期(横)右に行くほど、原子半径は小さくなる。
      • 理由: 右に行くほど有効核電荷が大きくなり、原子核が電子雲全体をより強く内側へ引きつけるため。電子は同じ電子殻に追加されていくため、原子核からの距離の増大はあまり寄与しません。
      • 例外: 18族の希ガスは、ファンデルワールス半径で定義されるため、この傾向からは外れて大きくなります。
    • 同一族(縦)下に行くほど、原子半径は大きくなる。
      • 理由: 下に行くほど、最外殻の主量子数nが大きくなり、より外側の電子殻に電子が入るため。有効核電荷の増加の効果よりも、電子殻が増える効果の方が圧倒的に大きいためです。
  • イオン半径:
    • 陽イオン: 元の原子から電子を失ってできるため、電子間の反発が減少し、また時には最外殻が一つ内側になるため、元の原子よりも半径は必ず小さくなります。(例: Na>Na+)
    • 陰イオン: 元の原子が電子を受け取ってできるため、電子間の反発が増大し、電子雲が膨張するため、元の原子よりも半径は必ず大きくなります。(例: Cl<Cl−)
    • 等電子イオン: O2−,F−,Ne,Na+,Mg2+ のように、電子配置が同じイオン同士を比較すると、原子番号が大きい(=核電荷が大きい)ほど、電子を強く引きつけるため、イオン半径は小さくなります。

6.3. イオン化エネルギー:電子を奪うのに必要なエネルギー

  • 定義: 気体状態の原子またはイオンから電子を1個取り去り、1価の陽イオンにするために必要な最小のエネルギー。これを第1イオン化エネルギーといいます。M(g)+E1​→M+(g)+e−同様に、1価の陽イオンからさらに電子を1個取り去るのに必要なエネルギーが第2イオン化エネルギーです。
  • 周期性の傾向: イオン化エネルギーが小さいほど、電子を失いやすく、**陽イオンになりやすい(陽性が強い)**ことを意味します。
    • 同一周期(横)右に行くほど、第1イオン化エネルギーは増大する傾向にある。
      • 理由: 右に行くほど有効核電荷が大きくなり、原子核が電子を強く引きつけているため、電子を取り去るのにより多くのエネルギーが必要になるからです。
      • 結果: 周期表の左側の元素(アルカリ金属など)はイオン化エネルギーが小さく陽イオンになりやすい。右側の元素(ハロゲン、希ガス)はイオン化エネルギーが非常に大きく、陽イオンにはなりにくい。
    • 同一族(縦)下に行くほど、第1イオン化エネルギーは減少する。
      • 理由: 下に行くほど原子半径が大きくなり、最外殻電子が原子核から遠くなるため、原子核からの束縛が弱まり、より少ないエネルギーで電子を取り去ることができるからです。
  • 細かな変動(逆転現象):
    • グラフを詳細に見ると、右肩上がりの傾向の中に、いくつかの「谷」があることに気づきます。
    • 2族 → 13族: Be (1s22s2) から B (1s22s22p1) になると、イオン化エネルギーは一度下がります。これは、取り去る電子が、安定なs軌道から、よりエネルギーの高いp軌道の電子に変わるためです。
    • 15族 → 16族: N (2p3) から O (2p4) になると、再びイオン化エネルギーは下がります。これは、Nではフントの規則に従い、p軌道が安定な半閉殻状態にあるのに対し、Oでは同じ軌道に2個目の電子が入っており、電子間の反発が大きくなっているため、その反発している電子を比較的容易に取り去ることができるからです。
  • 逐次イオン化エネルギー: 第1、第2、第3…と電子を取り去っていくと、イオン化エネルギーはどんどん大きくなります。特に、価電子をすべて失い、安定な閉殻構造から電子を取り去ろうとすると、イオン化エネルギーは急激に増大します。このエネルギーの「ジャンプ」がどこで起こるかを調べることで、その原子の価電子の数を推定することができます。

6.4. 電子親和力:電子を受け取ったときの安定化

  • 定義: 気体状態の中性原子が電子を1個受け取って、1価の陰イオンになるときに放出されるエネルギー。X(g)+e−→X−(g)+Eea​※定義によっては、このとき原子が受け取るエネルギー(放出エネルギーの負の値)とする場合もあります。ここでは「放出されるエネルギー」とします。
  • 周期性の傾向: 電子親和力が大きいほど、電子を受け取って安定化しやすく、**陰イオンになりやすい(陰性が強い)**ことを意味します。
    • 傾向: 周期表の右上に位置する元素ほど、電子親和力は大きくなる傾向があります。
    • 最大値17族のハロゲンで極めて大きな値を持ちます。ハロゲンは、あと電子が1個で希ガスと同じ安定な電子配置になれるため、電子を強く欲しがるからです。特に塩素 (Cl) が全元素中で最大の電子親和力を持ちます。
    • 希ガス: 18族の希ガスは、すでに安定な閉殻構造を持っているため、電子を受け取るとかえって不安定になります。そのため、電子親和力は非常に小さいか、負の値(エネルギーを吸収する)となります。
    • アルカリ土類金属(2族)や窒素族(15族)なども、s軌道が全閉殻、p軌道が半閉殻という比較的に安定な配置をとるため、電子親和力は小さい傾向にあります。

6.5. 電気陰性度:結合電子を引きつける強さの指標

  • 定義: これまでの性質は孤立した原子のものでしたが、電気陰性度は原子が化学結合を形成したときに、その結合に関与している電子(共有電子対)を自分の方に引きつける強さの度合いを相対的に数値化したものです。
  • 提唱者と尺度: アメリカの化学者ライナス・ポーリングが提唱したものが最も有名です。彼は、様々な結合エネルギーのデータを基に、最も電気陰性度の大きいフッ素(F)の値を4.0とし、他の元素の値を相対的に定めました。
  • 周期性の傾向イオン化エネルギーと電子親和力の両方の性質を総合したような指標と考えることができます。電子を失いにくく(イオン化エネルギー大)、かつ電子を受け取りやすい(電子親和力大)元素ほど、電気陰性度は大きくなります。
    • 同一周期(横)右に行くほど、電気陰性度は大きくなる。
    • 同一族(縦)下に行くほど、電気陰性度は小さくなる。
  • 結論:
    • 周期表の右上に位置する元素(F, O, N, Cl など)は電気陰性度が非常に大きく、陰性が強い非金属です。
    • 周期表の左下に位置する元素(Cs, Fr, Ba, Ra など)は電気陰性度が非常に小さく、陽性が強い金属です。
  • 重要性: 電気陰性度は、原子間の化学結合の性質を予測する上で、極めて重要な概念です。
    • 電気陰性度の差が大きい原子同士が結合すると、電子は一方の原子に大きく引き寄せられ、イオン結合に近くなります。
    • 電気陰性度の差が小さい原子同士が結合すると、電子は両原子間で共有され、共有結合を形成します。
    • このテーマは、まさに次のModule 3で詳しく学ぶ内容です。

Module 2:結論と次への展望

このModule 2では、原子という小さな宇宙の内部を探求する壮大な旅をしてきました。

  1. 原子モデルの変遷: 私たちは、ドルトンの硬い球から、トムソンのぶどうパン、ラザフォードの惑星モデル、そしてボーアの量子化モデルへと、科学者たちが実験事実と格闘しながら、いかにして原子の姿を精密に描き出していったかの歴史を学びました。これは、科学が自己修正を繰り返しながら真理に近づいていくプロセスそのものです。
  2. 原子核: 原子核が陽子と中性子からなること、同位体の存在、そして原子核の安定性を支配する放射性壊変や結合エネルギーの概念を理解しました。
  3. 電子配置の原理: 量子数という電子の住所録と、構成原理、パウリの排他原理、フントの規則という三大原理が、無数の電子を原子内に秩序正しく配置するルールであることを学びました。
  4. 原子軌道: 量子力学が明らかにした、電子の存在を確率的な「雲」として捉える原子軌道という現代的な描像に触れ、s, p, d軌道の形状とそのエネルギー準位について理解を深めました。
  5. 周期律と周期表: メンデレーエフの発見から現代の周期表へ至る歴史を学び、周期表の構造が原子の電子配置と完璧に対応していることを確認しました。
  6. 周期的性質: 原子半径、イオン化エネルギー、電子親和力、電気陰性度といった原子の基本的な性質が、なぜ周期表上で美しい規則性を示すのか、その理由を「有効核電荷」と「電子殻」という2つのキーワードで説明できるようになりました。

結論として、私たちは**「元素の化学的性質は、その原子の電子配置、特に価電子の配置によって決定される」**という、化学における最も根源的な原理にたどり着きました。周期表は、この原理が織りなす壮大なタペストリーなのです。

さて、個々の原子の構造とその性質を深く理解した今、次の問いは自ずと明らかです。「これらの原子は、どのようにして互いに結びつき、我々の目にする多種多様な分子や物質を形作るのだろうか?」

次の Module 3: 化学結合と分子の構造 では、いよいよ原子と原子が手を取り合う「化学結合」の世界に足を踏み入れます。電気陰性度の差がもたらすイオン結合、電子を共有する共有結合、そして金属原子を結びつける金属結合。これらの結合がどのようにして形成され、そしてその結果として、分子がどのような立体的な形をとるのかを探求していきます。このModule 2で得た原子構造の知識は、そのすべてを理解するための羅針盤となるでしょう。

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