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【基礎 数学(数学B)】Module 1:数列(1) 等差数列と等比数列
本モジュールの目的と構成
数学という広大な知の領域において、「数列」という分野は、一見すると単なる数の列挙に過ぎないように見えるかもしれません。しかしその実体は、変化し続ける現象の中に潜む「規則性」を抽出し、その構造を解き明かすための極めて強力な言語であり、思考の道具です。このモジュールでは、その第一歩として、最も基本的かつ重要な二つの数列、すなわち等差数列と等比数列の探求から始めます。
本モジュールの学習を通じて、皆さんは単に公式を暗記し問題を解くというレベルを超えて、数列という概念が持つ本質的な意味を理解することを目指します。それは、数の並びの背後にある普遍的なパターンを見抜く洞察力であり、具体的な事象を抽象的な数式へと翻訳し、そこから再び具体的な結論を導き出す論理的な思考力です。数列の学習は、後の微分積分、確率統計、さらには物理学や経済学といった多様な学問分野で現れる様々なモデルを理解するための盤石な基礎を築くことに繋がります。
この知的探求の旅は、以下のステップで構成されています。
- 数列の定義、項と一般項: まず、数列を記述するための基本的な「言語」を習得します。項、一般項といった言葉の正確な意味を理解し、数列の構造を数式で表現する基礎を固めます。
- 等差数列の一般項と和: 最もシンプルな規則性を持つ等差数列の世界を探検します。その構造を一般項で表現し、項の総和を求めるエレガントな方法を学びます。
- 等比数列の一般項と和: 等差数列と対をなす、もう一つの基本的な数列である等比数列を学びます。乗算によって変化していく世界のダイナミズムを数式で捉えます。
- 等差中項と等比中項: 三つの項の間に成り立つ美しい関係性を探求します。これは数列の局所的な性質を捉える鋭い視点を提供してくれます。
- 調和数列: 一見複雑に見える数列も、「逆数をとる」という視点の転換によって、よく知る等差数列の問題に帰着できることを学びます。
- 等差数列と一次関数の関係: 数列を「関数」という別の視点から眺めます。等差数列が直線的な変化を表現するモデルであることを視覚的に理解します。
- 等比数列と指数関数の関係: 同様に、等比数列が指数関数的な爆発的増加や減少を表現するモデルであることを、グラフを通じて直感的に把握します。
- 利息計算への応用: 数列が私たちの実生活、特に経済活動の中でどのように活かされているかを、単利と複利の計算を通じて具体的に学びます。
- 数列のグラフ的解釈: これまでの知識を統合し、数列の振る舞いをグラフ上で解釈する手法を学びます。これにより、数列の将来的な挙動を予測する力を養います。
- 数列の基本問題演習: 最後に、獲得した知識と思考法を具体的な問題に応用する訓練を行います。解法パターンの習得だけでなく、問題の本質を見抜くための戦略的思考を磨きます。
このモジュールを終えるとき、皆さんは数の並びの中に秩序と構造を見出し、それを自在に操るための知的「方法論」を手にしているはずです。それでは、変化の法則性を解き明かす、数列の世界への探求を始めましょう。
1. 数列の定義、項と一般項
1.1. 「数列」とは何か?―規則性の探求への序章
私たちの身の回りには、様々な「数の並び」が存在します。例えば、カレンダーの日付 1, 2, 3, ...
、偶数の列 2, 4, 6, 8, ...
、あるいは携帯電話の電話番号など、枚挙にいとまがありません。これらのうち、特に何らかの規則性に従って一列に並べられた数の列のことを、数学では数列 (sequence) と呼びます。
数列の学習の核心は、この「規則性」を見抜き、それを数学の言葉で厳密に表現することにあります。規則性が分かれば、その列が次にどのような数になるかを予測したり、はるか遠く、例えば100番目に来る数が何であるかを正確に計算したりすることが可能になります。これは、混沌とした現象の中から法則を発見し、未来を予測しようとする科学的思考の根幹に通じるものです。
1.2. 数列を構成する要素:項、初項、末項
数列を構成している一つ一つの数のことを項 (term) と呼びます。そして、数列の先頭から順に、第1項、第2項、第3項、…と名付けます。特に、第1項のことを初項 (first term) と呼び、数列の議論の出発点として非常に重要です。
例えば、数列 2, 5, 8, 11, 14
を考えてみましょう。
- この数列の項は
2, 5, 8, 11, 14
の5つです。 - 第1項(初項)は
2
です。 - 第2項は
5
です。 - 第3項は
8
です。 - …
このように項が有限個で終わる数列を有限数列と呼び、その最後の項を末項 (last term) と呼びます。上の例では、14
が末項です。また、項の個数をその数列の項数 (number of terms) といい、この例では項数は 5
となります。
一方で、3, 6, 12, 24, ...
のように、限りなく続いていく数列を無限数列と呼びます。大学受験の数学Bで扱う数列は、文脈に応じて有限数列と無限数列の両方が対象となります。
1.3. 数列の「設計図」:一般項の威力
数列の規則性を表現するための最も強力な道具が一般項 (general term) です。一般項とは、第 n
項の値が n
の式でどのように表されるかを示したものです。通常、数列の第 n
項を \( a_n \) や \( b_n \) のように、アルファベットの添え字付きで表します。この \( a_n \) を n
の式で表現したものが一般項です。
一般項は、いわばその数列の「設計図」や「生成規則」に相当します。この設計図さえ手に入れれば、私たちは n
に好きな自然数(1, 2, 3, …)を代入するだけで、その数列の任意の項をピンポイントで計算することができます。
具体例1:偶数の数列
数列 2, 4, 6, 8, 10, … を考えます。
- 第1項 \( a_1 = 2 = 2 \times 1 \)
- 第2項 \( a_2 = 4 = 2 \times 2 \)
- 第3項 \( a_3 = 6 = 2 \times 3 \)この規則性から、第 n 項は 2 に n を掛けたものであると推測できます。したがって、この数列の一般項は、\[ a_n = 2n \]と表されます。この式があれば、例えば第100項が \( a_{100} = 2 \times 100 = 200 \) であることが即座にわかります。
具体例2:平方数の数列
数列 1, 4, 9, 16, 25, … を考えます。
- 第1項 \( a_1 = 1 = 1^2 \)
- 第2項 \( a_2 = 4 = 2^2 \)
- 第3項 \( a_3 = 9 = 3^2 \)この規則性から、第 n 項は n の2乗であるとわかります。よって、一般項は、\[ a_n = n^2 \]となります。これを使えば、第30項は \( a_{30} = 30^2 = 900 \) であると計算できます。
1.4. 数列の表現方法
数列を表す際には、一般項を用いて {a_n}
のように中括弧で囲んで示すことがあります。例えば、一般項が \( a_n = 2n-1 \) で与えられる数列(奇数の数列)は、{2n-1}
と表記することができます。これは、1, 3, 5, 7, ...
という具体的な項の列挙と同じ意味を持ちますが、よりコンパクトかつ厳密に数列の構造そのものを表現する方法です。
1.5. 数列と関数の密接な関係
ここで、少し視点を変えてみましょう。一般項 \( a_n = f(n) \) は、自然数 n
(1, 2, 3, …) を入力すると、それに対応する値 \( a_n \) が一つ定まる、という関係を示しています。これは、まさしく関数の定義そのものです。
つまり、数列とは、定義域が自然数全体の集合であるような特別な関数と見なすことができるのです。
- 通常の関数: \( y = f(x) \) (
x
は実数全体など、連続的な値をとる) - 数列: \( a_n = f(n) \) (
n
は 1, 2, 3, … という離散的な値をとる)
この「数列は関数の仲間である」という視点は、後のセクションで学ぶ「数列のグラフ的解釈」や、等差数列と一次関数の関係、等比数列と指数関数の関係を理解する上で、極めて重要な鍵となります。代数的な式の操作だけでなく、グラフという視覚的なイメージを伴って数列を理解することで、その性質をより深く、直感的に捉えることができるようになるのです。
このセクションでは、数列を学ぶ上での基本的な言語と概念を定義しました。項、初項、そして何よりも強力な一般項。これらの道具を手に、次からは具体的な規則性を持つ代表的な数列、等差数列と等比数列の探求へと進んでいきましょう。
2. 等差数列の一般項と和
2.1. 等差数列とは何か?―一定の差が織りなす秩序
数ある数列の中で、最も基本的でシンプルな構造を持つのが等差数列 (arithmetic sequence) です。等差数列とは、隣り合うどの二つの項をとっても、その差が常に一定である数列のことを指します。
例えば、数列 3, 7, 11, 15, 19, ...
を見てみましょう。
- 第2項 – 第1項 =
7 - 3 = 4
- 第3項 – 第2項 =
11 - 7 = 4
- 第4項 – 第3項 =
15 - 11 = 4
- …
このように、どの隣り合う項の差も 4
で一定です。このような数列が等差数列です。そして、この一定の差のことを公差 (common difference) と呼び、通常はアルファベットの d
(difference の頭文字) で表します。上の例では、公差は d=4
となります。
公差は正の数だけでなく、負の数やゼロであっても構いません。
- 公差が正の数 (d > 0): 数列は増加していく。(例:
1, 3, 5, ...
d=2) - 公差が負の数 (d < 0): 数列は減少していく。(例:
10, 7, 4, ...
d=-3) - 公差がゼロ (d = 0): 数列の全ての項が同じ値になる。(例:
5, 5, 5, ...
d=0)
等差数列は、いわば「一定のペースで数が変化していく」モデルであり、そのシンプルさゆえに、様々な現象の基礎的なモデルとして応用されます。
2.2. 等差数列の一般項―構造を解き明かす公式
等差数列の規則性が「公差 d
を次々と足していく」ことにあるとすれば、その一般項 \( a_n \) は、初項 \( a_1 \) と公差 d
を使って表現できるはずです。実際にその構造を調べてみましょう。
初項を \( a_1 \)、公差を d
とする等差数列 \({a_n}\) を考えます。
- 第1項: \( a_1 \)
- 第2項: \( a_2 = a_1 + d \) (\(a_1\) に
d
を1回足す) - 第3項: \( a_3 = a_2 + d = (a_1 + d) + d = a_1 + 2d \) (\(a_1\) に
d
を2回足す) - 第4項: \( a_4 = a_3 + d = (a_1 + 2d) + d = a_1 + 3d \) (\(a_1\) に
d
を3回足す)
この規則性に着目すると、第 n
項 \( a_n \) を求めるには、初項 \( a_1 \) に公差 d
を (n-1)
回足せばよいことがわかります。なぜ n
回ではなく (n-1)
回なのでしょうか。それは、n
個の項の間には、 (n-1)
個の「すきま」があり、そのすきま一つひとつで公差 d
が足されているとイメージすると分かりやすいでしょう。
この考察から、等差数列の一般項の公式が導かれます。
等差数列の一般項
初項 \( a_1 \)、公差 d の等差数列 \({a_n}\) の一般項は、
\[ a_n = a_1 + (n-1)d \]
この公式は単に暗記するのではなく、「初項に、(n-1)回だけ公差を加えたもの」という構造的な意味を理解することが極めて重要です。この理解があれば、公式を忘れても自力で導出できますし、応用問題にも柔軟に対応できます。
具体例:
初項が 5、公差が -3 の等差数列の一般項を求めてみましょう。
公式に \( a_1 = 5, d = -3 \) を代入して、
\( a_n = 5 + (n-1)(-3) = 5 – 3n + 3 = -3n + 8 \)
よって、一般項は \( a_n = -3n + 8 \) となります。
この式を使えば、第20項は \( a_{20} = -3 \times 20 + 8 = -60 + 8 = -52 \) と簡単に計算できます。
2.3. 等差数列の和―ガウスの閃きに学ぶ
次に、等差数列の初項から第 n 項までの和 \( S_n \) を求める方法を考えます。つまり、
\( S_n = a_1 + a_2 + a_3 + \dots + a_n \)
を計算する公式を導出します。
ここで有名な逸話があります。後に大数学者となるカール・フリードリヒ・ガウスが小学生のとき、先生が「1から100までの自然数を全て足しなさい」という問題を出しました。多くの生徒が 1+2+3+...
と地道に計算する中、ガウスは瞬時に答えを出したと言われています。彼はどのように考えたのでしょうか。
ガウスは、和 S を次のように考えました。
S = 1 + 2 + 3 + … + 99 + 100
そして、この式の順番を逆にしたものを下に並べます。
S = 100 + 99 + 98 + … + 2 + 1
この二つの式を、項ごとに縦に足し合わせます。
2S = (1+100) + (2+99) + (3+98) + … + (99+2) + (100+1)
すると、驚くべきことに、カッコの中の和はすべて 101 になります。
2S = 101 + 101 + 101 + … + 101 + 101
101 は全部で何個あるでしょうか? もちろん、1から100までなので100個です。
したがって、
2S = 101 \times 100
S = (101 \times 100) / 2 = 5050
この天才的な発想は、一般の等差数列の和を求める際にも全く同じように適用できます。
初項 \( a_1 \)、末項 \( a_n \)(この場合 \( a_n \) を l と書くことも多い)、項数 n の等差数列の和を \( S_n \) とします。
\( S_n = a_1 + a_2 + \dots + a_{n-1} + a_n \)
順番を逆にして書きます。
\( S_n = a_n + a_{n-1} + \dots + a_2 + a_1 \)
この二つの式を辺々足し合わせます。
\( 2S_n = (a_1+a_n) + (a_2+a_{n-1}) + \dots + (a_{n-1}+a_2) + (a_n+a_1) \)
ここで、等差数列の性質を思い出してみましょう。
\( a_2 = a_1 + d \)
\( a_{n-1} = a_n – d \)
なので、\( a_2 + a_{n-1} = (a_1+d) + (a_n-d) = a_1 + a_n \) となります。
同様に、他のどのペア \( (a_k + a_{n-k+1}) \) を計算しても、その和は常に \( a_1 + a_n \) となります。
この和 \( (a_1 + a_n) \) が n 個並ぶことになるので、
\( 2S_n = n(a_1 + a_n) \)
これにより、等差数列の和の公式が導かれます。
等差数列の和の公式 (1)
初項 \( a_1 \)、末項 \( a_n \)、項数 n の等差数列の和 \( S_n \) は、
\[ S_n = \frac{n(a_1 + a_n)}{2} \]
この公式は「(項数)×(初項と末項の平均値)」と解釈できます。非常に直感的で美しい形をしています。
2.4. 和の公式のもう一つの形
和の公式(1)は末項 \( a_n \) が分かっている場合に便利ですが、初項 \( a_1 \) と公差 d
しか分かっていない場合もあります。その場合は、公式(1)に一般項の公式 \( a_n = a_1 + (n-1)d \) を代入することで、\( a_1, n, d \) だけで和を表す公式を導くことができます。
\( S_n = \frac{n(a_1 + a_n)}{2} = \frac{n(a_1 + {a_1 + (n-1)d})}{2} = \frac{n{2a_1 + (n-1)d}}{2} \)
等差数列の和の公式 (2)
初項 \( a_1 \)、公差 d、項数 n の等差数列の和 \( S_n \) は、
\[ S_n = \frac{n{2a_1 + (n-1)d}}{2} \]
この二つの和の公式は、問題で与えられている条件によって使い分けることが重要です。
- 初項、末項、項数が分かっている → 公式(1)
- 初項、公差、項数が分かっている → 公式(2)
等差数列は、その構造の単純さから、多くの数学的問題の基礎となります。一般項と和の公式を、その導出プロセスと構造的な意味とともに深く理解しておくことは、今後の学習において大きな力となるでしょう。
3. 等比数列の一般項と和
3.1. 等比数列とは何か?―一定の比が生み出すダイナミズム
等差数列が「一定の差」によって定義されたのに対し、もう一つの重要な基本数列である等比数列(geometric sequence) は、「一定の比」によって定義されます。つまり、等比数列とは、隣り合うどの二つの項をとっても、その比が常に一定である数列のことです。(ただし、どの項も0ではないとします。)
例えば、数列 2, 6, 18, 54, ...
を見てみましょう。
- 第2項 / 第1項 =
6 / 2 = 3
- 第3項 / 第2項 =
18 / 6 = 3
- 第4項 / 第3項 =
54 / 18 = 3
- …
このように、隣り合う項の比(後ろの項 ÷ 前の項)が 3
で一定です。このような数列が等比数列です。そして、この一定の比のことを公比 (common ratio) と呼び、通常はアルファベットの r
(ratio の頭文字) で表します。上の例では、公比は r=3
となります。
公比 r
の値によって、等比数列は様々な振る舞いを見せます。
r > 1
: 項の絶対値は指数関数的に増加していく。(例:1, 2, 4, 8, ...
r=2)0 < r < 1
: 項の絶対値は0に収束していく。(例:16, 8, 4, 2, ...
r=1/2)r < -1
: 項は符号を変えながら、絶対値は指数関数的に増加していく(振動しながら発散)。(例:1, -2, 4, -8, ...
r=-2)-1 < r < 0
: 項は符号を変えながら、絶対値は0に収束していく(振動しながら収束)。(例:8, -4, 2, -1, ...
r=-1/2)r = 1
: 全ての項が同じ値になる(定数列)。r = -1
: 初項とその符号を交互に変える(振動)。(例:5, -5, 5, -5, ...
)r = 0
: 第2項以降がすべて0になる。
等比数列は、人口増加、放射性物質の崩壊、複利計算など、前の状態に比例して次の状態が決まるような「自己増殖的」な現象をモデル化する際に不可欠な数学的ツールです。
3.2. 等比数列の一般項―乗算の構造を捉える
等比数列の規則性が「公比 r
を次々と掛けていく」ことにあるならば、その一般項 \( a_n \) は、初項 \( a_1 \) と公比 r
を使って表現できるはずです。等差数列の時と同様に、その構造を分析してみましょう。
初項を \( a_1 \)、公比を r
とする等比数列 \({a_n}\) を考えます。
- 第1項: \( a_1 \)
- 第2項: \( a_2 = a_1 \times r = a_1 r^1 \) (\(a_1\) に
r
を1回掛ける) - 第3項: \( a_3 = a_2 \times r = (a_1 r) \times r = a_1 r^2 \) (\(a_1\) に
r
を2回掛ける) - 第4項: \( a_4 = a_3 \times r = (a_1 r^2) \times r = a_1 r^3 \) (\(a_1\) に
r
を3回掛ける)
この規則性から、第 n
項 \( a_n \) を求めるには、初項 \( a_1 \) に公比 r
を (n-1)
回掛ければよいことがわかります。等差数列の時と同様に、n
個の項の間には (n-1)
回の乗算が行われると考えることができます。
この考察から、等比数列の一般項の公式が導かれます。
等比数列の一般項
初項 \( a_1 \)、公比 r の等比数列 \({a_n}\) の一般項は、
\[ a_n = a_1 r^{n-1} \]
この公式もまた、「初項に、(n-1)回だけ公比を掛けたもの」という構造を理解することが重要です。指数の部分が n
ではなく n-1
になる理由を明確に意識してください。
具体例:
初項が 3、公比が 2 の等比数列の一般項を求めてみましょう。
公式に \( a_1 = 3, r = 2 \) を代入して、
\( a_n = 3 \cdot 2^{n-1} \)
となります。
この式を使えば、第10項は \( a_{10} = 3 \cdot 2^{10-1} = 3 \cdot 2^9 = 3 \cdot 512 = 1536 \) と計算できます。等比数列は項数が大きくなると急激に値が大きくなる(または小さくなる)特徴があります。
3.3. 等比数列の和―「ずらして引く」という叡智
次に、等比数列の初項から第 n 項までの和 \( S_n \) を求める公式を導出します。
\( S_n = a_1 + a_2 + a_3 + \dots + a_n \)
\( S_n = a_1 + a_1 r + a_1 r^2 + \dots + a_1 r^{n-1} \)
等差数列の時のように単純に逆から足す方法ではうまくいきません。ここで、非常に巧妙かつ重要なテクニックが登場します。それは、和 \( S_n \) 全体に公比 r
を掛けたものを考え、元の式から引き算をするという方法です。この「ずらして引く」という発想は、後の様々な数列の和を求める際にも応用される強力な手法なので、ぜひマスターしてください。
まず、\( S_n \) の両辺に公比 r を掛けます。
\( rS_n = a_1 r + a_1 r^2 + a_1 r^3 + \dots + a_1 r^{n-1} \cdot r \)
\( rS_n = a_1 r + a_1 r^2 + a_1 r^3 + \dots + a_1 r^n \)
ここで、元の \( S_n \) の式と、今作った \( rS_n \) の式を上下に並べてみましょう。
S_n = a_1 + a_1 r + a_1 r^2 + … + a_1 r^{n-1}
rS_n = a_1 r + a_1 r^2 + … + a_1 r^{n-1} + a_1 r^n
上の式から下の式を引きます(S_n – rS_n)。すると、中間の項が全て打ち消し合い、最初と最後の項だけが残ります。
\( S_n – rS_n = a_1 – a_1 r^n \)
左辺を \( S_n \) でくくります。
\( (1-r)S_n = a_1 (1-r^n) \)
ここで、公比 r が 1 ではない場合 (\( r \neq 1 \))、両辺を (1-r) で割ることができます。
\( S_n = \frac{a_1(1-r^n)}{1-r} \)
分母と分子にそれぞれ -1
を掛ければ、\( S_n = \frac{a_1(r^n-1)}{r-1} \) という同値な形も得られます。一般的に、|r|<1
のときは前者の式、|r|>1
のときは後者の式を使うと、分母が正になり計算しやすいです。
では、公比 r が 1 の場合はどうなるでしょうか?
この場合、そもそも 1-r=0 となるため、上の式で割ることはできません。議論の出発点に戻って考える必要があります。
もし \( r=1 \) ならば、数列は a_1, a_1, a_1, … となり、全ての項が初項 \( a_1 \) と等しくなります。
したがって、その和 \( S_n \) は、\( a_1 \) を n 個足したものになります。
\( S_n = a_1 + a_1 + \dots + a_1 = na_1 \)
以上をまとめると、等比数列の和の公式が得られます。
等比数列の和の公式
初項 \( a_1 \)、公比 r、項数 n の等比数列の和 \( S_n \) は、
- \( r \neq 1 \) のとき:\[ S_n = \frac{a_1(1-r^n)}{1-r} = \frac{a_1(r^n-1)}{r-1} \]
- \( r = 1 \) のとき:\[ S_n = na_1 \]
具体例:
初項 2、公比 3、項数 5 の等比数列の和を求めます。
\( a_1 = 2, r = 3, n = 5 \) であり、\( r \neq 1 \) なので、
\( S_5 = \frac{2(3^5-1)}{3-1} = \frac{2(243-1)}{2} = 242 \)
実際に数列を書き出してみると 2, 6, 18, 54, 162
であり、その和は 2+6+18+54+162 = 242
となり、公式が正しいことが確認できます。
等比数列の一般項と和の公式は、等差数列と並んで数列分野の根幹をなすものです。特に和の公式の導出で用いられた「ずらして引く」というテクニックは、数学的な問題解決におけるエレガントな発想の典型例として、その考え方自体を深く理解しておく価値があります。
4. 等差中項と等比中項
数列全体の構造を捉える一般項や和の公式とは異なり、数列の局所的な性質、すなわち連続する三つの項の間に成り立つ関係性に焦点を当てた概念が等差中項と等比中項です。これらの概念は、問題文で与えられた条件を数式に翻訳する際に強力な武器となります。
4.1. 等差中項―算術平均とのつながり
定義
三つの数 a, b, c がこの順で等差数列をなすとき、真ん中の数 b を a と c の等差中項 (arithmetic mean) といいます。
この定義から、a, b, c の間に成り立つ関係式を導いてみましょう。
a, b, c が等差数列をなすということは、隣り合う項の差(公差)が等しいことを意味します。
したがって、
\[ b – a = c – b \]
が成り立ちます。この式を b について整理すると、
\[ 2b = a + c \]
\[ b = \frac{a+c}{2} \]
という関係式が得られます。
この結果は非常に重要です。b
は a
と c
の算術平均(相加平均)に他なりません。つまり、「b
が a
と c
の等差中項である」という条件は、「b
が a
と c
の算術平均である」という条件と全く同じことを意味しているのです。
等差中項の性質
三つの数 a, b, c がこの順で等差数列をなすとき、
\[ 2b = a+c \]
が成り立つ。
ミニケーススタディ:等差中項の活用
問題: 3つの数 x-1, x+3, 3x-1 がこの順で等差数列をなすとき、x の値を求めよ。
思考プロセス:
- 問題文の「この順で等差数列をなす」というキーワードに注目します。これは、真ん中の項
x+3
が、最初と最後の項x-1
と3x-1
の等差中項であることを意味しています。 - 等差中項の性質 2b = a+c を適用します。ここで、a = x-1, b = x+3, c = 3x-1 です。
- 関係式を立てます。2(x+3) = (x-1) + (3x-1)
- この方程式を解いて x を求めます。2x + 6 = 4x – 28 = 2xx = 4
解答: x=4
このように、等差中項の性質を知っていると、問題の条件を簡潔な方程式に変換し、スムーズに解を導くことができます。
4.2. 等比中項―幾何平均との関連
次に、等比数列における同様の関係性を考えます。
定義
0でない三つの数 a, b, c がこの順で等比数列をなすとき、真ん中の数 b を a と c の等比中項 (geometric mean) といいます。
この定義から関係式を導きましょう。
a, b, c が等比数列をなすということは、隣り合う項の比(公比)が等しいことを意味します。
したがって、
\[ \frac{b}{a} = \frac{c}{b} \]
が成り立ちます。この式の両辺に ab を掛けて分母を払うと、
\[ b^2 = ac \]
という美しい関係式が得られます。
この関係式を満たす b
は、a
と c
の幾何平均(相乗平均)と呼ばれます。特に a
と c
が正の数の場合、b
も正であれば \( b = \sqrt{ac} \) となります。相加・相乗平均の関係 \( \frac{a+c}{2} \geq \sqrt{ac} \) は、等差中項が等比中項以上であること(a, c > 0
の場合)を示していると解釈することもでき、知識のつながりが見えてきます。
等比中項の性質
0でない三つの数 a, b, c がこの順で等比数列をなすとき、
\[ b^2 = ac \]
が成り立つ。
ミニケーススタディ:等比中項の活用
問題: 3つの正の数 x, x+2, x+5 がこの順で等比数列をなすとき、x の値を求めよ。
思考プロセス:
- 「この順で等比数列をなす」というキーワードから、真ん中の項
x+2
が、最初と最後の項x
とx+5
の等比中項であると判断します。 - 等比中項の性質 b^2 = ac を適用します。ここで、a = x, b = x+2, c = x+5 です。
- 関係式を立てます。(x+2)^2 = x(x+5)
- この二次方程式を解いて x を求めます。x^2 + 4x + 4 = x^2 + 5x4x + 4 = 5xx = 4
- 問題文に「正の数」という条件があるので、得られた解
x=4
がこれを満たすか確認します。x=4
のとき、3数は4, 6, 9
となり、すべて正の数なので問題ありません。(公比は6/4 = 9/6 = 3/2
)
解答: x=4
4.3. 活用上の注意と比較
等差中項と等比中項は、数列の問題だけでなく、方程式の問題や図形問題など、様々な場面で応用される重要な関係式です。
- 等差数列をなす3数: \( a-d, a, a+d \) と置く
- 等比数列をなす3数: \( a/r, a, ar \) または \( a, ar, ar^2 \) と置く
といった問題解決のテクニックも、これらの「中項」の考え方が背景にあります。
等差中項 (b) | 等比中項 (b) | |
条件 | a, b, c が等差数列 | a, b, c が等比数列 |
関係式 | \( 2b = a+c \) | \( b^2 = ac \) |
数学的意味 | 算術平均 | 幾何平均 |
この二つの中項の概念を明確に区別し、それぞれの性質をいつでも引き出せるようにしておくことで、問題解決の選択肢が大きく広がります。
5. 調和数列
等差数列と等比数列は数列の世界の二大巨頭ですが、これらと密接な関係を持つ、少し特殊な数列として調和数列 (harmonic sequence) があります。調和数列は一見すると複雑な規則性を持っているように見えますが、ある一つの「視点の転換」によって、我々がよく知る等差数列の問題へと姿を変えます。
5.1. 調和数列の定義―「逆数」が鍵
定義
どの項も0でなく、各項の逆数をとって作った数列が等差数列になるとき、元の数列を調和数列といいます。
例えば、数列 \({a_n}\) が調和数列であるとは、数列 \( \left{ \frac{1}{a_n} \right} \)、すなわち
\[ \frac{1}{a_1}, \frac{1}{a_2}, \frac{1}{a_3}, \dots, \frac{1}{a_n}, \dots \]
が等差数列をなすことを意味します。
具体例
数列 12, 6, 4, 3, … を考えてみましょう。
隣り合う項の差を見てみると、-6, -2, -1 となり、一定ではありません。等差数列ではないようです。
隣り合う項の比を見てみると、1/2, 2/3, 3/4 となり、これも一定ではありません。等比数列でもありません。
しかし、この数列の各項の逆数をとってみると、
\[ \frac{1}{12}, \frac{1}{6}, \frac{1}{4}, \frac{1}{3}, \dots \]
この新しい数列の隣り合う項の差を計算してみましょう。
- \( \frac{1}{6} – \frac{1}{12} = \frac{2}{12} – \frac{1}{12} = \frac{1}{12} \)
- \( \frac{1}{4} – \frac{1}{6} = \frac{3}{12} – \frac{2}{12} = \frac{1}{12} \)
- \( \frac{1}{3} – \frac{1}{4} = \frac{4}{12} – \frac{3}{12} = \frac{1}{12} \)差が常に \( \frac{1}{12} \) で一定です。つまり、逆数の数列は初項 \( \frac{1}{12} \)、公差 \( \frac{1}{12} \) の等差数列になっています。したがって、元の数列 12, 6, 4, 3, … は調和数列であると言えます。
この「逆数をとる」という操作は、未知の問題を既知の問題に変換するための強力な思考ツールです。複雑に見える問題も、適切な変換を施すことで、基本的な問題に帰着させることができるという好例です。
5.2. 調和数列の一般項の求め方
調和数列の一般項を求めるには、定義に忠実に従い、以下の3ステップを踏みます。
- Step 1: 逆数をとる元の調和数列を \({a_n}\) とし、その逆数の数列を \( b_n = \frac{1}{a_n} \) とおく。
- Step 2: 等差数列として一般項を求める数列 \({b_n}\) は等差数列なので、その初項 \( b_1 = \frac{1}{a_1} \) と公差 d を求め、一般項 \( b_n = b_1 + (n-1)d \) を計算する。
- Step 3: 再び逆数をとる求めた \( b_n \) を再び逆数に戻すことで、元の調和数列の一般項 \( a_n = \frac{1}{b_n} \) を得る。
ミニケーススタディ:調和数列の一般項
問題: 第2項が 3、第5項が 6 である調和数列 \({a_n}\) の一般項を求めよ。
思考プロセス:
- Step 1: 逆数をとる数列 \({a_n}\) は調和数列なので、その逆数の数列 \( b_n = \frac{1}{a_n} \) は等差数列である。問題の条件を \({b_n}\) の言葉に翻訳する。\( a_2 = 3 \implies b_2 = \frac{1}{3} \)\( a_5 = 6 \implies b_5 = \frac{1}{6} \)
- Step 2: 等差数列として一般項を求める等差数列 \({b_n}\) の初項を \( b_1 \)、公差を d とする。\( b_2 = b_1 + (2-1)d = b_1 + d = \frac{1}{3} \) … (1)\( b_5 = b_1 + (5-1)d = b_1 + 4d = \frac{1}{6} \) … (2)(2) – (1) より、\( (b_1 + 4d) – (b_1 + d) = \frac{1}{6} – \frac{1}{3} \)\( 3d = \frac{1}{6} – \frac{2}{6} = -\frac{1}{6} \)\( d = -\frac{1}{18} \)これを(1)に代入して \( b_1 \) を求める。\( b_1 + (-\frac{1}{18}) = \frac{1}{3} \)\( b_1 = \frac{1}{3} + \frac{1}{18} = \frac{6}{18} + \frac{1}{18} = \frac{7}{18} \)これで等差数列 \({b_n}\) の初項と公差が分かったので、一般項を求める。\( b_n = b_1 + (n-1)d = \frac{7}{18} + (n-1)(-\frac{1}{18}) \)\( b_n = \frac{7 – (n-1)}{18} = \frac{7 – n + 1}{18} = \frac{8-n}{18} \)
- Step 3: 再び逆数をとる求めた \( b_n \) の逆数をとって、\( a_n \) を得る。\( a_n = \frac{1}{b_n} = \frac{18}{8-n} \)
解答: \( a_n = \frac{18}{8-n} \)
5.3. 調和中項
等差中項、等比中項と同様に、調和数列にも調和中項 (harmonic mean) という概念が存在します。
定義
0でない三つの数 a, b, c がこの順で調和数列をなすとき、真ん中の数 b を a と c の調和中項といいます。
この定義によれば、逆数 \( \frac{1}{a}, \frac{1}{b}, \frac{1}{c} \) がこの順で等差数列をなすことになります。
したがって、逆数について等差中項の関係が成り立ちます。
\[ 2 \cdot \frac{1}{b} = \frac{1}{a} + \frac{1}{c} \]
この式を整理してみましょう。
\[ \frac{2}{b} = \frac{c+a}{ac} \]
両辺の逆数をとって、b について解くと、
\[ \frac{b}{2} = \frac{ac}{a+c} \]
\[ b = \frac{2ac}{a+c} \]
これが調和中項の公式です。算術平均、幾何平均と並べて比較すると、その構造の違いがよくわかります。
- 算術平均(等差中項): \( \frac{a+c}{2} \)
- 幾何平均(等比中項): \( \sqrt{ac} \) (a,c>0の場合)
- 調和平均(調和中項): \( \frac{2ac}{a+c} \)
これら三つの平均値の間には、有名な大小関係((算術平均)≧(幾何平均)≧(調和平均))が成り立ちます。
調和数列自体が入試で直接的に頻出するというわけではありませんが、その定義と解法プロセスは「未知を既知に帰着させる」という数学の王道的な思考法を学ぶ上で、非常に教育的な題材と言えるでしょう。
6. 等差数列と一次関数の関係
これまで数列を、数が順番に並んだ「離散的な」ものとして扱ってきました。しかし、第1セクションで触れたように、数列は「定義域が自然数である関数」と見なすことができます。この視点の転換は、数列の代数的な性質を、関数のグラフという幾何的・視覚的なイメージと結びつけ、より深い理解をもたらしてくれます。本セクションでは、最も基本的な等差数列が、一次関数とどのように対応するのかを探求します。
6.1. 視点の転換:数列を座標平面上の点として見る
数列 \({a_n}\) の一般項が与えられたとき、横軸に n、縦軸に \( a_n \) をとることで、その数列を座標平面上にプロットすることができます。
つまり、ペア (n, a_n) を点として、(1, a_1), (2, a_2), (3, a_3), … といった点を座標平面上に打っていくのです。
これにより、数の列という抽象的な存在が、具体的な点の配置という視覚的なパターンとして現れます。
6.2. 等差数列の一般項を「nの関数」として再解釈する
初項 \( a_1 \)、公差 d の等差数列の一般項は、
\[ a_n = a_1 + (n-1)d \]
でした。この式を、変数 n に着目して整理し直してみましょう。
\[ a_n = a_1 + dn – d \]
\[ a_n = dn + (a_1 – d) \]
この式を、独立変数を x、従属変数を y とする一次関数 y = mx + c の形と見比べてみてください。
\[ y = mx + c \]
\[ a_n = dn + (a_1 – d) \]
見事に一致していることがわかります。
- 関数の傾き
m
に相当するのが、等差数列の公差d
です。 - 関数の y切片
c
に相当するのが、\( a_1 – d \) という値です。
この対応関係が意味することは、極めて重要です。
等差数列と一次関数の関係
数列 \({a_n}\) が等差数列であることと、点 (n, a_n) が一直線上にあることは同値である。
このとき、直線の傾きは公差 d に等しい。
つまり、等差数列とは、一次関数のグラフ \( y = dx + (a_1 – d) \) 上の、x
座標が 1, 2, 3, ...
となる点を集めたものなのです。
6.3. グラフによる視覚的理解
この関係をグラフで確認してみましょう。
例:初項 2, 公差 3 の等差数列
一般項は \( a_n = 2 + (n-1)3 = 3n – 1 \) です。
この数列の最初の数項は 2, 5, 8, 11, … となります。
点をプロットすると (1, 2), (2, 5), (3, 8), (4, 11), … となります。
これらの点は、見事に直線 \( y = 3x – 1 \) 上に乗っています。
- 公差
d=3
が、直線の傾き3
に対応しています。n
が1増えるごとに(右に1進むごとに)、\( a_n \) の値が3
増える(上に3進む)という等差数列の性質が、傾きの定義そのものであることがわかります。 y
切片は-1
ですが、これは \( a_1 – d = 2 – 3 = -1 \) と計算でき、式の上でも一致します。n=0
のときの仮想的な値 \( a_0 \) がy
切片に対応すると考えることもできます。
6.4. この関係から得られる洞察
この関数的な視点は、等差数列に関する様々な事実を直感的に理解する助けとなります。
- 公差の符号とグラフの向き:
d > 0
ならば、数列は増加し、グラフは右上がりになります。d < 0
ならば、数列は減少し、グラフは右下がりになります。d = 0
ならば、数列は一定で、グラフは水平な直線になります。
- 一般項の決定:もし、ある数列が等差数列であることが分かっていれば、その一般項は n の一次式 \( a_n = An + B \) の形をしていると最初から仮定することができます。これは、計算を大幅に簡略化することがあります。
- 問題解決への応用:例えば、「第5項が10、第10項が25である等差数列の一般項を求めよ」という問題は、座標平面上の2点 (5, 10) と (10, 25) を通る直線の式を求める問題と全く同じです。傾き(公差 d)は、\( d = \frac{25-10}{10-5} = \frac{15}{5} = 3 \)直線の式は \( y – 10 = 3(x – 5) \implies y = 3x – 5 \) となるので、一般項は \( a_n = 3n – 5 \) であると即座に分かります。これは、連立方程式を解くよりも遥かに迅速かつ直感的です。
数列を単なる数の列としてだけでなく、関数というより広い枠組みの中で捉え、そのグラフ的な振る舞いをイメージする能力は、数学的なセンスを磨く上で非常に重要です。この視点は、次に学ぶ等比数列と指数関数の関係においても、同様の力を発揮します。
7. 等比数列と指数関数の関係
等差数列が一次関数という「線形的な(直線的な)増加」のモデルであったのに対し、等比数列は指数関数という「非線形的な(爆発的な)増加・減少」のモデルと密接に対応しています。この関係を理解することは、複利計算や物理現象など、現実世界の様々なダイナミックな変化を数学的に捉えるための鍵となります。
7.1. 等比数列の一般項を「nの関数」として再解釈する
初項 \( a_1 \)、公比 r の等比数列の一般項は、
\[ a_n = a_1 r^{n-1} \]
でした。この式も、n を変数とする関数と見なしてみましょう。指数法則 \( r^{n-1} = r^n \cdot r^{-1} = \frac{r^n}{r} \) を用いて、式を少し変形します。
\[ a_n = a_1 \cdot \frac{r^n}{r} = \left(\frac{a_1}{r}\right) r^n \]
この式を、底が r の指数関数 y = c \cdot r^x の形と見比べてみましょう。
\[ y = c \cdot r^x \]
\[ a_n = \left(\frac{a_1}{r}\right) r^n \]
ここでも、両者が非常によく似た形をしていることがわかります。
係数 c に相当するのが \( \frac{a_1}{r} \) という値です。
この対応関係が意味することは、以下の通りです。
等比数列と指数関数の関係
数列 \({a_n}\) が公比 r の等比数列であることと、点 (n, a_n) が指数関数 \( y = c \cdot r^x \) (ただし \( c = a_1/r \))のグラフ上に乗ることは同値である。
つまり、等比数列とは、指数関数のグラフ上の、x
座標が 1, 2, 3, ...
となる点を集めたものなのです。
7.2. グラフによる視覚的理解
この関係性をグラフで具体的に見ていきましょう。
例:初項 3, 公比 2 の等比数列
一般項は \( a_n = 3 \cdot 2^{n-1} \) です。
この数列の最初の数項は 3, 6, 12, 24, … となります。
点をプロットすると (1, 3), (2, 6), (3, 12), (4, 24), … となります。
これらの点は、指数関数 \( y = (\frac{3}{2}) \cdot 2^x \) のグラフ上に綺麗に乗っています。n
が1つ増えるごとに値が2倍になるという等比数列の性質が、グラフの急激な立ち上がりとして視覚的に表現されています。
7.3. 公比の値とグラフの形状
公比 r
の値によって、指数関数のグラフの形状は大きく変化します。これは等比数列の振る舞いの多様性を反映しています。
- r > 1 の場合 (例: r=2)グラフは急激に増加(指数関数的増加)します。n が大きくなるにつれて、値は爆発的に増大します。
- 0 < r < 1 の場合 (例: r=1/2)グラフは急激に減少し、x 軸に漸近していきます。数列の項は 0 に収束します。これは放射性物質の半減期などのモデルです。
- r < 0 の場合 (例: r=-2)項の符号が n の偶奇によって交互に変わるため、点は x 軸を挟んで上下にプロットされます。
r < -1
ならば、点のx
軸からの距離は指数関数的に増加し、振動しながら発散します。-1 < r < 0
ならば、点のx
軸からの距離は指数関数的に減少し、振動しながら0
に収束します。
[Image comparing four graphs: exponential growth (r>1), exponential decay (0<r<1), oscillating divergence (r<-1), and oscillating convergence (-1<r<0)]
このグラフ的なイメージを持つことで、「公比 r
の絶対値が1より大きいか小さいか」が、数列の長期的な振る舞い(発散するか収束するか)を決定づける極めて重要な要素であることが直感的に理解できるでしょう。この考え方は、数学IIIで学ぶ「数列の極限」の概念に直結します。
7.4. 対数を用いた線形化
等比数列と指数関数の関係は、対数 (logarithm) を用いることで、さらに面白い側面を見せます。
一般項 \( a_n = a_1 r^{n-1} \) の両辺の対数をとってみましょう(底は任意ですが、ここでは常用対数 log を使います)。
\[ \log a_n = \log(a_1 r^{n-1}) \]
対数の性質(積は和に、指数は係数に)を使うと、
\[ \log a_n = \log a_1 + \log(r^{n-1}) \]
\[ \log a_n = \log a_1 + (n-1)\log r \]
この式を n について整理します。
\[ \log a_n = (\log r)n + (\log a_1 – \log r) \]
ここで、\( b_n = \log a_n \) と新しい数列 \({b_n}\) を考えると、
\[ b_n = (\log r)n + (\log a_1 – \log r) \]
この式は、n の一次式です。これは何を意味するでしょうか?
そうです、新しい数列 \({b_n}\) は等差数列になっているのです。その公差は log r、初項は log a_1 です。
等比数列と対数の関係
公比が正の等比数列 \({a_n}\) の各項の対数をとって作られた新しい数列 \({ \log a_n }\) は、等差数列になる。
この事実は、一見すると指数関数的で扱いにくい現象も、対数をとるという操作によって、線形的で扱いやすい等差数列の世界に変換できることを示唆しています。
例えば、両対数グラフ(縦軸も横軸も対数目盛のグラフ)上で、等比数列(や指数関数)が直線としてプロットされるのは、この原理に基づいています。
等差数列と一次関数、等比数列と指数関数。この二つの美しい対応関係を理解することは、数列という分野に座標幾何学的な視点と関数的な思考をもたらし、皆さんの数学的視野を大きく広げてくれるはずです。
8. 利息計算への応用
数学の概念が、私たちの日常生活や経済活動とどのように結びついているのかを理解することは、学習の動機付けを高め、知識をより実践的なものにする上で非常に重要です。数列、特に等差数列と等比数列は、金融の世界における利息計算の基本的なモデルを記述するための完璧な言語を提供してくれます。
8.1. 単利計算―等差数列モデル
単利 (simple interest) とは、預金や借金の元金 (principal) に対してのみ、毎回一定の利率で利息が計算される方式です。途中で発生した利息は元金には加えられず、次の期間の利息計算の対象にはなりません。
設定
- 元金:
P
円 - 年利率:
r
(例えば、年利5%ならr=0.05
) - 期間:
n
年
各年の元利合計(元金+利息の合計)がどのように増えていくかを見ていきましょう。
- 1年後:利息は \( P \times r = Pr \) 円。元利合計は \( P + Pr = P(1+r) \) 円。
- 2年後:2年目にも、最初の元金 P に対して利息 \( Pr \) 円が加算されます。元利合計は \( (P + Pr) + Pr = P + 2Pr = P(1+2r) \) 円。
- 3年後:3年目にも、同様に利息 \( Pr \) 円が加算されます。元利合計は \( (P + 2Pr) + Pr = P + 3Pr = P(1+3r) \) 円。
この規則性から、n 年後の元利合計を \( A_n \) とすると、
\[ A_n = P(1+nr) = P + n(Pr) \]
となることがわかります。
では、この元利合計の推移を数列として捉えてみましょう。
初項を n=0 年後の元金 P と考えることもできますが、ここでは1年後を初項 \( a_1 \) とします。
- 第1項 (1年後): \( a_1 = P+Pr \)
- 第2項 (2年後): \( a_2 = P+2Pr \)
- 第3項 (3年後): \( a_3 = P+3Pr \)
この数列 \({a_n}\) の隣り合う項の差を見てみると、
\( a_{n+1} – a_n = {P+(n+1)Pr} – {P+nPr} = Pr \)
となり、常に一定です。
これは、数列 \({a_n}\) が初項 \( P+Pr \)、公差 \( Pr \) の等差数列であることを意味しています。
単利計算の世界では、資産は毎年一定額ずつ、直線的に増加していくのです。これは、等差数列が一次関数と対応するという事実とも整合性がとれています。
8.2. 複利計算―等比数列モデル
複利 (compound interest) とは、一定期間ごとに発生した利息を元金に繰り入れ、その新しい元金に対して次の期間の利息が計算される方式です。利息が利息を生む、という構造になっています。アインシュタインが「人類最大の発明は複利だ」と語ったとも言われるほど、その効果は長期的には絶大です。
設定
- 元金:
P
円 - 年利率:
r
- 期間:
n
年
各年の元利合計がどのように増えていくかを見ていきましょう。
- 1年後:元利合計は単利と同じです。\( P(1+r) \) 円。
- 2年後:2年目の利息は、1年後の元利合計 \( P(1+r) \) に対して利率 r が掛かります。2年目の利息額は \( {P(1+r)} \times r \) です。2年後の元利合計は、(1年後の元利合計) + (2年目の利息) なので、\( P(1+r) + P(1+r)r = P(1+r)(1+r) = P(1+r)^2 \) 円。
- 3年後:3年目の利息は、2年後の元利合計 \( P(1+r)^2 \) に対して利率 r が掛かります。3年後の元利合計は、\( P(1+r)^2 + {P(1+r)^2}r = P(1+r)^2(1+r) = P(1+r)^3 \) 円。
この規則性から、n 年後の元利合計を \( A_n \) とすると、
\[ A_n = P(1+r)^n \]
となることがわかります。
この元利合計の推移を数列として捉え、1年後を初項 \( a_1 \) とします。
- 第1項 (1年後): \( a_1 = P(1+r) \)
- 第2項 (2年後): \( a_2 = P(1+r)^2 \)
- 第3項 (3年後): \( a_3 = P(1+r)^3 \)一般に、n 年後の元利合計は第 n 項 \( a_n = P(1+r)^n \) となります。
この数列 \({a_n}\) の隣り合う項の比を見てみると、
\( \frac{a_{n+1}}{a_n} = \frac{P(1+r)^{n+1}}{P(1+r)^n} = 1+r \)
となり、常に一定です。
これは、数列 \({a_n}\) が初項 \( P(1+r) \)、公比 \( 1+r \) の等比数列であることを意味しています。
複利計算の世界では、資産は毎年一定の比率で、指数関数的に増加していくのです。
8.3. 単利と複利の比較―数列モデルの威力
ミニケーススタディ:100万円を年利10%で10年間預けたら?
- 元金
P=1,000,000
円 - 年利率
r=0.1
- 期間
n=10
年
単利の場合(等差数列モデル):
1年あたりの利息は \( 1,000,000 \times 0.1 = 100,000 \) 円。
10年間の利息合計は \( 100,000 \times 10 = 1,000,000 \) 円。
10年後の元利合計は \( 1,000,000 + 1,000,000 = 2,000,000 \) 円。
複利の場合(等比数列モデル):
10年後の元利合計は、
\( 1,000,000 \times (1+0.1)^{10} = 1,000,000 \times (1.1)^{10} \)
ここで、\( (1.1)^{10} \approx 2.5937 \) なので、
\( 1,000,000 \times 2.5937 = 2,593,700 \) 円。
結果の比較:
- 単利: 200万円
- 複利: 約259万円
その差は約59万円にもなります。期間が長くなればなるほど、この差は雪だるま式に開いていきます。これが「複利の力」であり、等比数列(指数関数)の持つ爆発的な増加の性質の現れです。
このように、等差数列と等比数列は、単なる机上の計算ではなく、私たちの資産形成や経済計画を考える上で不可欠な、実践的な思考の枠組みを提供してくれるのです。
9. 数列のグラフ的解釈
これまで、等差数列が一次関数と、等比数列が指数関数と深く関連していることを見てきました。この「数列をグラフ上の点の集まりとして解釈する」という視点をさらに推し進めることで、数列の振る舞い、特に項番号 n
が非常に大きくなったときの長期的な挙動を直感的に把握することができます。これは、数学IIIで本格的に学ぶ「数列の極限」の概念への重要な橋渡しとなります。
9.1. グラフ化の基本:(n, a_n) のプロット
復習になりますが、数列 \({a_n}\) をグラフで解釈する基本は、横軸(x
軸)に項番号 n
、縦軸(y
軸)にその項の値 \( a_n \) をとり、座標 (n, a_n)
を点としてプロットすることです。
(1, a_1)
(2, a_2)
(3, a_3)
- …
この点の列がどのようなパターンを描くかを観察することで、数列の持つ性質を視覚的に捉えます。
9.2. グラフから読み解く数列の振る舞い
数列の一般項からグラフの形状を予測し、またグラフの形状から数列の性質を推測する能力は、問題解決において大きな助けとなります。
1. 増加・減少
- 増加数列:
n
が大きくなるにつれて \( a_n \) の値も大きくなる。グラフは全体として右上がりの傾向を示します。- 例:等差数列で公差
d>0
- 例:等比数列で初項
a_1>0
, 公比r>1
- 例:等差数列で公差
- 減少数列:
n
が大きくなるにつれて \( a_n \) の値が小さくなる。グラフは全体として右下がりの傾向を示します。- 例:等差数列で公差
d<0
- 例:等比数列で初項
a_1>0
, 公比0<r<1
- 例:等差数列で公差
2. 上限・下限の存在(有界性)
- プロットされた全ての点が、ある一本の水平線より下にある(上に有界)。
- プロットされた全ての点が、ある一本の水平線より上にある(下に有界)。
- 例:\( a_n = 1 – \frac{1}{n} \) は
1, 1/2, 2/3, 3/4, ...
となり、全ての点は直線y=1
より下にあり、上に有界です。
- 例:\( a_n = 1 – \frac{1}{n} \) は
3. 収束・発散・振動
n を限りなく大きくしていくと、点の y 座標(\(a_n\) の値)はどうなっていくでしょうか。この長期的な挙動の分類が、極限の考え方の核心です。
- 収束 (Converge):
n
が大きくなるにつれて、点がある一つの水平線(y=α
)に限りなく近づいていく。このとき、数列はα
に収束するといいます。- 例:\( a_n = \frac{1}{n} \) のグラフは、
y=0
(x
軸)に近づいていきます。 - 例:公比
r
が-1 < r < 1
の等比数列のグラフは、y=0
に近づいていきます。r<0
の場合は、x
軸を挟んで交互に近づいていきます(振動しながら収束)。
- 例:\( a_n = \frac{1}{n} \) のグラフは、
- 発散 (Diverge):
n
が大きくなるにつれて、点のy
座標が限りなく大きくなる(正の無限大に発散)、または限りなく小さくなる(負の無限大に発散)。- 例:公差
d>0
の等差数列のグラフは、どこまでも右上がりに伸びていき、正の無限大に発散します。 - 例:公比
r>1
の等比数列のグラフは、急激に立ち上がり、正の無限大に発散します。
- 例:公差
- 振動 (Oscillate):
n
が大きくなっても、点が一つの値に近づかず、かといって無限大にもならず、複数の値の間を行き来したり、不規則に動いたりする。- 例:\( a_n = (-1)^n \) は
-1, 1, -1, 1, ...
となり、グラフはy=1
とy=-1
の間を永遠に行き来します。これは収束しない振動です。 - 例:公比
r \le -1
の等比数列は、振動しながら発散します。
- 例:\( a_n = (-1)^n \) は
9.3. 漸化式とグラフ―蜘蛛の巣図法
数列の定義の仕方には、一般項で与える方法の他に、漸化式で与える方法があります。漸化式とは、初項と、隣り合う項の関係式(例:\( a_{n+1} = 2a_n + 1 \))で数列を定義するものです。
この漸化式で定義された数列の振る舞いも、グラフを用いて視覚的に調べることができます。特に、\( y=f(x) \) のグラフと、直線 \( y=x \) を利用する方法は「蜘蛛の巣図法」や「ウェブダイアグラム」と呼ばれ、極限値を予測するのに非常に有効です。(この手法の詳細はModule 3で学びます)
基本的な考え方
- 座標平面上に、漸化式の関係を表すグラフ \( y=f(x) \)(例:\( y=2x+1 \))と、補助線として直線 \( y=x \) を描きます。
x
軸上の \( x=a_1 \) からスタートします。- 垂直に線を引き、グラフ \( y=f(x) \) との交点を探します。この交点の
y
座標が \( f(a_1) = a_2 \) の値です。 - この点から水平に線を引き、直線 \( y=x \) との交点を探します。この交点の
x
座標は、y
座標と等しいので、\( a_2 \) となります。 - 再び垂直に線を引き、\( y=f(x) \) との交点を探します。この交点の
y
座標が \( f(a_2) = a_3 \) となります。 - この操作(垂直に \( y=f(x) \) へ → 水平に \( y=x \) へ)を繰り返します。
この操作によって描かれるカクカクとした線の軌跡が、数列の項の値の変遷を表します。そして、この軌跡が最終的にどこへ向かうかを見ることで、数列の極限を視覚的に捉えることができます。多くの場合、軌跡は \( y=f(x) \) と \( y=x \) の交点に吸い込まれていくか、遠くへ離れていきます。
数学Bの段階では、数列の極限を厳密に計算することは求められませんが、このようにグラフを用いて数列の「行く末」をイメージする力は、より高度な数学へ進むための直観力を養う上で計り知れない価値があります。数列はただの数の列ではなく、時間と共に変化していく「システムのダイナミクス」を表現している、という動的な視点を持つことができれば、数列の学習はさらに面白くなるでしょう。
10. 数列の基本問題演習
これまでに学んだ等差数列、等比数列、そしてそれらに関連する概念の理解を確かなものにするため、いくつかの典型的な問題を通して、知識を実践で使うための思考プロセスを確認していきましょう。解答そのものだけでなく、問題文のどこに着目し、どの知識を引き出し、どのように論理を組み立てるかに焦点を当てて解説します。
10.1. 類型1:一般項・和を直接計算する問題
このタイプの問題は、公式を正しく適用できるかを問う、最も基本的なものです。
問題1-1
初項が 15、公差が -4 である等差数列 \({a_n}\) について、以下の問いに答えよ。
(1) 一般項 \(a_n\) を求めよ。
(2) 第何項が初めて負の数になるか。
(3) 初項から第10項までの和 \(S_{10}\) を求めよ。
思考プロセス
(1) 「等差数列の一般項」 が問われている。必要な情報は「初項」と「公差」。両方とも問題文に与えられている (a_1=15, d=-4)。
公式 \( a_n = a_1 + (n-1)d \) に代入するだけ。
\( a_n = 15 + (n-1)(-4) = 15 – 4n + 4 = -4n + 19 \)
(2) 「初めて負の数になる」 という日本語を数式に翻訳する。これは \( a_n < 0 \) という不等式で表現できる。
(1)で求めた一般項を使って、n についての一次不等式を解く。
\( -4n + 19 < 0 \)
\( 19 < 4n \)
\( n > \frac{19}{4} = 4.75 \)
n は項番号なので自然数。この不等式を満たす最小の自然数 n を探す。
n=5 が最小の自然数。
よって、第5項で初めて負になる。念のため確認:\( a_4 = -4(4)+19 = 3 \), \( a_5 = -4(5)+19 = -1 \)。確かに第5項で初めて負になっている。
(3) 「等差数列の和」 が問われている。必要な情報は「初項」「公差」「項数」(a_1=15, d=-4, n=10)。
末項が分かっていないので、和の公式(2) \( S_n = \frac{n{2a_1 + (n-1)d}}{2} \) を使うのが効率的。
\( S_{10} = \frac{10{2 \cdot 15 + (10-1)(-4)}}{2} \)
\( = 5{30 + 9(-4)} = 5{30 – 36} = 5(-6) = -30 \)
(別解:第10項 \(a_{10} = -4(10)+19 = -21\) を計算し、公式(1) \( S_n = \frac{n(a_1+a_n)}{2} \) を使ってもよい。\(S_{10} = \frac{10(15-21)}{2} = 5(-6) = -30\))
解答
(1) \( a_n = -4n + 19 \)
(2) 第5項
(3) -30
問題1-2
第3項が 24、第6項が -192 である等比数列 \({a_n}\) の一般項と、初項から第5項までの和を求めよ。ただし、公比は実数とする。
思考プロセス
- 「等比数列」 の問題。一般項を求めるには「初項
a_1
」と「公比r
」が必要。どちらも直接は与えられていない。未知数が2つなので、条件式が2つ必要。 - 問題文の条件を数式に翻訳する。
- 第3項が 24 → \( a_3 = a_1 r^{3-1} = a_1 r^2 = 24 \) … (A)
- 第6項が -192 → \( a_6 = a_1 r^{6-1} = a_1 r^5 = -192 \) … (B)
- この連立方程式を解く。等比数列の連立方程式は、割り算 を実行するとうまくいくことが多い。(B) ÷ (A) を計算する。\( \frac{a_1 r^5}{a_1 r^2} = \frac{-192}{24} \)\( r^3 = -8 \)r は実数なので、\( r = -2 \)。公比が求まった。
- 求めた r を (A) に代入して a_1 を求める。\( a_1 (-2)^2 = 24 \)\( 4a_1 = 24 \)\( a_1 = 6 \)
- 初項と公比が分かったので、一般項を求める。\( a_n = 6 \cdot (-2)^{n-1} \)
- 次に**「等比数列の和」** を求める。初項から第5項までなので、n=5。必要な情報は「初項」「公比」「項数」(a_1=6, r=-2, n=5)。公比は 1 ではないので、和の公式 \( S_n = \frac{a_1(1-r^n)}{1-r} \) を使う。\( S_5 = \frac{6{1 – (-2)^5}}{1 – (-2)} = \frac{6{1 – (-32)}}{1+2} = \frac{6(33)}{3} = 2 \times 33 = 66 \)
解答
一般項: \( a_n = 6 \cdot (-2)^{n-1} \)
和: 66
10.2. 類型2:中項を利用する問題
問題2-1
3つの数 a, 9, b がこの順で等差数列をなし、9, b, a がこの順で等比数列をなすとき、実数 a, b の値を求めよ。
思考プロセス
- 問題文を二つのパートに分解する。
- パート1: 「
a, 9, b
がこの順で等差数列をなす」 - パート2: 「
9, b, a
がこの順で等比数列をなす」
- パート1: 「
- 各パートを数式に翻訳する。ここで中項の知識が活きる。
- パート1 → 9 は a と b の等差中項。よって、\( 2 \times 9 = a+b \implies a+b = 18 \) … (C)
- パート2 → b は 9 と a の等比中項。よって、\( b^2 = 9a \) … (D)
- これで、a, b についての連立方程式 (C), (D) が得られた。これを解く。(C) より \( a = 18-b \)。これを (D) に代入する(代入法)。\( b^2 = 9(18-b) \)\( b^2 = 162 – 9b \)\( b^2 + 9b – 162 = 0 \)この二次方程式を解く。因数分解を試みる。積が-162、和が9になるペアを探す。(18 と -9)\( (b+18)(b-9) = 0 \)よって、\( b = -18 \) または \( b = 9 \)。
- それぞれの
b
の値に対応するa
の値を求める。b = -18
のとき: (C)より \( a = 18 – (-18) = 36 \)b = 9
のとき: (C)より \( a = 18 – 9 = 9 \)
解答
\( (a,b) = (36, -18) \) または \( (9, 9) \)
10.3. 類型3:文章題・応用問題
問題3-1
ある貯金箱に、初日に10円入れ、次の日からは毎日、前日より5円多く入れていく。
(1) 30日目に入れる金額はいくらか。
(2) 30日間で貯金箱の中の金額は合計でいくらになるか。
思考プロセス
- 問題の状況を数学のモデルに翻訳する。「初日に10円」「前日より5円多く」という記述から、これは等差数列のモデルであると判断する。
- 初項
a_1
は初日の金額 →a_1 = 10
- 毎日増える額が公差
d
→d = 5
- 初項
- (1) 「30日目に入れる金額」 は、この等差数列の第30項 \(a_{30}\) を求めることに相当する。一般項の公式を使う。\( a_{30} = a_1 + (30-1)d = 10 + 29 \times 5 = 10 + 145 = 155 \)
- (2) 「30日間での合計金額」 は、この等差数列の初項から第30項までの和 \(S_{30}\) を求めることに相当する。初項、公差、項数が分かっているので、和の公式(2)を使う。\( S_{30} = \frac{30{2 \cdot 10 + (30-1) \cdot 5}}{2} \)\( = 15{20 + 29 \cdot 5} = 15{20 + 145} = 15 \times 165 \)計算すると、15 \times 165 = 2475。
解答
(1) 155円
(2) 2475円
これらの基本問題演習を通じて、公式をただ覚えているだけでなく、問題文のどの部分がどの数学的概念に対応しているのかを正確に読み取り、適切な道具を選択して論理的に解を導く訓練を積むことが重要です。
Module 1:数列(1) 等差数列と等比数列の総括:規則性の発見から現象のモデル化へ
本モジュールを通じて、私たちは数の列に潜む最も基本的な二つの規則性、「等差」と「等比」の世界を探求してきました。それは単なる計算ドリルの連続ではなく、現象を数学の言葉で記述し、その未来を予測するための第一歩でした。数列の定義から始め、その構造を一般項で、総量を和の公式で捉える方法を学びました。さらに、等差中項や等比中項といった局所的な性質、そして調和数列という視点転換の妙にも触れました。
特に重要だったのは、数列を関数というより広い文脈で捉え直し、グラフを用いてその振る舞いを視覚化することでした。等差数列が描く直線的な軌跡と、等比数列が描く指数関数的な曲線。この二つのパターンは、世の中に存在する「線形的な変化」と「指数関数的な変化」を理解するための根源的なモデルとなります。単利と複利の例が示したように、この違いを理解することは、極めて実践的な価値を持つのです。
ここで得た知識は、単体で完結するものではありません。数列の考え方は、今後学ぶ様々な数列の和(シグマ計算)、漸化式、そして数学的帰納法といった、より高度なトピックの根幹をなす土台となります。このモジュールで身につけた「規則性を発見し、数式で表現し、その性質を多角的に分析する」という思考法こそが、皆さんをさらなる数学の深みへと導く羅針盤となるでしょう。