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【基礎 数学(数学B)】Module 2:数列(2) 様々な数列の和
本モジュールの目的と構成
Module 1では、数列という世界の基本的な構成要素である等差数列と等比数列を探求し、その規則性を一般項と和の公式によって捉える方法を学びました。それは、秩序だった変化のパターンを理解するための第一歩でした。しかし、私たちが現実世界や数学のより深い領域で出会う数列は、常にそれほど単純な構造をしているとは限りません。本モジュールでは、その探求をさらに一歩進め、より複雑で多様な数列の「和」を計算するための、普遍的かつ強力な手法と思考の枠組みを構築します。
「和を求める」という行為は、単なる地道な足し算ではありません。それは、一見混沌として見える数の列の背後にある構造を深く洞察し、代数的な変形や巧妙な発想の転換によって、その総量をエレガントに導き出す知的挑戦です。この挑戦に立ち向かうため、私たちはまず、和を記述するための新しい言語、**シグマ記号(\(\sum\))**を習得します。この記号は、複雑な和を驚くほど簡潔に表現するだけでなく、それ自体が強力な計算ルールを備えた分析の道具となります。
この新たな言語を手に、私たちは以下のステップで、和の世界の奥深くへと分け入っていきます。
- シグマ記号の定義とその性質: まず、和を自在に操るための普遍的な言語、シグマ記号の文法と基本法則を学びます。これが本モジュール全体の基盤となります。
- べき乗の和の公式: シグマ記号を用いて、自然数の1乗、2乗、3乗の和を計算する基本公式を習得します。これは、多項式で表される多くの数列の和を求めるための基本的な武器となります。
- 階差数列と元の数列の一般項: 一般項が直接的には分からない数列も、その「変化の仕方(階差)」に着目することで、元の数列の姿を復元する手法を学びます。
- 群数列: 数列が特定の規則でグループ分けされている「群数列」という特殊な構造を解き明かすための、体系的な思考法と戦略を探求します。
- 部分分数分解を用いた和の計算: 分数で表される数列の和を求めるための強力な代数的手法を学びます。中間項が劇的に消えていく計算の美しさを体験します。
- 等差数列と等比数列の積の和: 等差数列と等比数列の性質を併せ持つ、より複雑な数列の和に挑みます。Module 1で学んだ「ずらして引く」という発想が、ここでも再び力を発揮します。
- 格子点の個数問題: 数列の和の計算を、座標平面上の図形問題に応用します。領域内の点の個数を数え上げるという問題が、シグマ計算によってどのように解決されるかを見ます。
- 和の公式の証明: 私たちが用いるべき乗和の公式が、いかにして論理的に導出されるのか、その証明の過程を追体験し、数学の体系的な美しさに触れます。
- シグマ計算の工夫: 実戦的な計算の場面で役立つ、和の区間変更や添字の変換など、より高度で効率的な計算テクニックを磨きます。
- 様々な数列の応用問題: 最後に、これまでに獲得した全ての知識と技術を総動員し、複数の概念が融合した応用問題に挑戦することで、真の問題解決能力を養います。
このモジュールを修了する時、皆さんはもはや単に公式を適用する学習者ではなく、複雑な数列の和という問題に対して、その構造を分析し、適切な戦略を選択し、体系的なアプローチで解を導き出すことのできる「問題解決者」へと変貌しているはずです。それでは、和の構造を解き明かすための、新たな知的探求を始めましょう。
1. シグマ記号の定義とその性質
1.1. 新しい言語の必要性:なぜシグマなのか?
Module 1では、等差数列や等比数列の和を \( S_n \) という記号で表し、その計算公式を学びました。しかし、数列の種類が多様化してくると、単に「初項から第n項までの和」と書くだけでは不十分になります。例えば、
1^2 + 2^2 + 3^2 + … + n^2
のような和を考えたいとき、これを毎回言葉や「…」を使って書くのは非常に煩雑であり、誤解を生む可能性もあります。
数学は、複雑な概念を簡潔かつ厳密に表現するための言語を進化させてきました。数列の和を表現するために生み出されたのが、ギリシャ文字のシグマ(大文字の \(\Sigma\))です。シグマは、英語の “Summation”(和)の頭文字 “S” に対応するギリシャ文字であり、まさに「和」を計算するための記号です。
1.2. シグマ記号の定義と読み方
シグマ記号は、ある規則に従う一連の数の和を、次のように表現します。
sum_k=1na_k
これは、以下のような和を意味します。
a_1+a_2+a_3+dots+a_n
この記号の各部分には、次のような意味があります。
- \(\sum\): シグマ記号本体。後に続く式を足し合わせることを指示します。
- \(a_k\): 和の対象となる一般項の式。
k
を使った式で表されます。 - \(k=1\): 下の端(下端)。
k
という文字(添字またはインデックスと呼ばれる)が、1
からスタートすることを示します。 - \(n\): 上の端(上端)。
k
が1
から始まり、1ずつ増えながら、最終的にn
になるまで続くことを示します。
つまり、\( \sum_{k=1}^{n} a_k \) という記号は、「変数 k
を 1
から n
まで、1ずつ変化させながら、式 \(a_k\) に代入したものを全て足し合わせなさい」という命令文なのです。
具体例で理解する
- \( \sum_{k=1}^{5} k \)これは、\( a_k = k \) という式の k を 1 から 5 まで変化させて足すことを意味します。\( \sum_{k=1}^{5} k = 1 + 2 + 3 + 4 + 5 = 15 \)
- \( \sum_{k=1}^{4} k^2 \)これは、\( a_k = k^2 \) という式の k を 1 から 4 まで変化させて足すことを意味します。\( \sum_{k=1}^{4} k^2 = 1^2 + 2^2 + 3^2 + 4^2 = 1 + 4 + 9 + 16 = 30 \)
- \( \sum_{i=3}^{6} (2i-1) \)添字の文字は k でなければならないわけではありません。i や j など、他の文字も同様に使えます。この文字はシグマの内部でのみ意味を持つため、束縛変数と呼ばれます。また、下の端は常に 1 である必要もありません。これは、i を 3 から 6 まで変化させて足すことを意味します。\( \sum_{i=3}^{6} (2i-1) = (2\cdot3-1) + (2\cdot4-1) + (2\cdot5-1) + (2\cdot6-1) \)\( = 5 + 7 + 9 + 11 = 32 \)
1.3. シグマ計算を支える基本性質(線形性)
シグマ記号が単なる略記法にとどまらず、強力な計算ツールとなるのは、それが持ついくつかの重要な性質、特に線形性 (linearity) のおかげです。
性質1:和・差の分解
数列 \({a_k}\) と \({b_k}\) の和(または差)のシグマは、それぞれのシグマの和(または差)に分解できます。
sum_k=1n(a_k+b_k)=sum_k=1na_k+sum_k=1nb_k
sum_k=1n(a_k−b_k)=sum_k=1na_k−sum_k=1nb_k
(なぜ成り立つのか?)
これは、和の交換法則と結合法則から明らかです。
\( \sum_{k=1}^{n} (a_k + b_k) = (a_1+b_1) + (a_2+b_2) + \dots + (a_n+b_n) \)
\( = (a_1+a_2+\dots+a_n) + (b_1+b_2+\dots+b_n) \)
\( = \sum_{k=1}^{n} a_k + \sum_{k=1}^{n} b_k \)
性質2:定数倍の分離
一般項が定数 c で倍されている場合、その定数をシグマ記号の前に出すことができます。
sum_k=1nca_k=csum_k=1na_k
(なぜ成り立つのか?)
これは、分配法則に基づいています。
\( \sum_{k=1}^{n} c a_k = ca_1 + ca_2 + \dots + ca_n \)
\( = c(a_1+a_2+\dots+a_n) \)
\( = c \sum_{k=1}^{n} a_k \)
これらの線形性により、私たちは複雑な多項式で表される数列の和を、より単純なパーツ(べき乗の和など)に分解して計算することが可能になります。
例: \( \sum_{k=1}^{n} (3k^2 – 2k) \) は、
\( \sum_{k=1}^{n} 3k^2 – \sum_{k=1}^{n} 2k \) (性質1)
\( = 3 \sum_{k=1}^{n} k^2 – 2 \sum_{k=1}^{n} k \) (性質2)
のように分解でき、\(\sum k^2\) と \(\sum k\) の公式を知っていれば、全体の和を計算できるのです。
1.4. もう一つの重要な性質:定数の和
一般項が k に依存しない定数 c である場合はどうなるでしょうか。
sum_k=1nc
これは、「k を 1 から n まで動かすが、足すものは常に c である」という意味です。
sum_k=1nc=underbracec+c+c+dots+c_n個=nc
性質3:定数の和
sum_k=1nc=nc
(注意) c は k に依存しない文字(定数)でなければなりません。例えば \( \sum_{k=1}^{n} m \) を計算する場合、m が k と無関係であれば答えは nm となりますが、もし m が k の関数であればこの公式は使えません。
1.5. シグマ計算における注意点
シグマ記号は非常に便利ですが、誤用しやすい点もあります。特に以下の二つは厳禁です。
- 積のシグマは、シグマの積にはならないsum_k=1na_kb_kneqleft(sum_k=1na_kright)left(sum_k=1nb_kright)(具体例: \( \sum_{k=1}^{2} k \cdot k = 1\cdot1 + 2\cdot2 = 5 \)。一方、\( (\sum_{k=1}^{2} k)(\sum_{k=1}^{2} k) = (1+2)(1+2) = 9 \)。明らかに一致しません。)
- 商のシグマは、シグマの商にはならないsum_k=1nfraca_kb_kneqfracsum_k=1na_ksum_k=1nb_k
シグマ記号は、和と差、そして定数倍(つまり線形演算)に対してのみ、分解や分離が可能です。このルールを厳守することが、正しいシグマ計算の第一歩です。
この新しい言語、シグマ記号とその性質をマスターした今、次はこの道具を使って具体的な和、すなわち「べき乗の和」を計算するための強力な公式を学んでいきましょう。
2. べき乗の和の公式
シグマ記号の基本的な操作を学んだところで、次はそのシグマ計算の核となる、最も基本的かつ重要なべき乗の和の公式を習得します。これらの公式は、一般項が k
の多項式で表されるような数列の和を計算する際の、基本的な部品(ビルディングブロック)となります。ここではまず公式を提示し、その使い方をマスターすることに焦点を当てます。(公式の厳密な証明はセクション8で行います。)
2.1. 自然数の和 (1乗の和)
まずは、自然数を1からnまで足した和です。
sum_k=1nk=1+2+3+dots+n
これは、Module 1で学んだ、初項 1、末項 n、項数 n の等差数列の和に他なりません。
和の公式 \( S_n = \frac{n(a_1+a_n)}{2} \) を適用すると、
sum_k=1nk=frac12n(n+1)
この公式は、全てのべき乗和の公式の中で最も基本となり、他の公式の証明にも用いられます。
2.2. 自然数の平方の和 (2乗の和)
次に、自然数の2乗を1からnまで足した和です。
sum_k=1nk2=12+22+32+dots+n2
この和の公式は、次のようになります。
sum_k=1nk2=frac16n(n+1)(2n+1)
この公式は少し複雑に見えますが、登場する因数は n
, n+1
, 2n+1
の3つです。最後の 2n+1
は、前の二つ n
と n+1
を足したもの (n + (n+1) = 2n+1
) になっている、と覚えると記憶の助けになるかもしれません。分母が 6
であることも忘れないようにしましょう。
2.3. 自然数の立方の和 (3乗の和)
最後に、自然数の3乗を1からnまで足した和です。
sum_k=1nk3=13+23+33+dots+n3
この和の公式は、非常に美しい形をしています。
sum_k=1nk3=leftfrac12n(n+1)right2
驚くべきことに、3乗の和の公式は、1乗の和の公式をそのまま2乗した形になっているのです。この美しい関連性は、数学の奥深さを感じさせてくれます。
べき乗の和の公式まとめ
- sum_k=1nk=frac12n(n+1)
- sum_k=1nk2=frac16n(n+1)(2n+1)
- sum_k=1nk3=leftfrac12n(n+1)right2=frac14n2(n+1)2
これらの公式は、シグマ計算の基本ツールとして、いつでも正確に使えるようにしておく必要があります。
2.4. 公式を用いた計算演習
それでは、これらの公式とシグマの線形性を組み合わせて、具体的な数列の和を計算してみましょう。
ミニケーススタディ:多項式で表される数列の和
問題: 和 \( S = \sum_{k=1}^{n} (k^2 – 3k + 2) \) を求めよ。
思考プロセス:
- シグマの線形性を用いて分解する:和(差)はそれぞれのシグマに分解できる。\( S = \sum_{k=1}^{n} k^2 – \sum_{k=1}^{n} 3k + \sum_{k=1}^{n} 2 \)
- 定数倍を前に出す:第2項の 3 と、第3項の 2 は k に無関係な定数なので、前に出せる。(第3項は定数の和の公式そのもの)\( S = \sum_{k=1}^{n} k^2 – 3\sum_{k=1}^{n} k + \sum_{k=1}^{n} 2 \)
- 各パーツにべき乗和の公式(および定数の和の公式)を適用する:
- \( \sum_{k=1}^{n} k^2 = \frac{1}{6}n(n+1)(2n+1) \)
- \( \sum_{k=1}^{n} k = \frac{1}{2}n(n+1) \)
- \( \sum_{k=1}^{n} 2 = 2n \)
- 式を整理・因数分解する:ここからの計算は、単に展開するのではなく、共通因数でくくることを強く意識するのが、計算ミスを防ぎ、美しい結果を得るためのコツです。まず、分数を通分します。分母を 6 に合わせましょう。\( S = \frac{1}{6}n(n+1)(2n+1) – \frac{9}{6}n(n+1) + \frac{12n}{6} \)全体の共通因数は何でしょうか? n/6 が共通していますね。これでくくります。\( S = \frac{n}{6} \left{ (n+1)(2n+1) – 9(n+1) + 12 \right} \)中括弧 {} の中を展開して整理します。\( (n+1)(2n+1) = 2n^2 + 3n + 1 \)\( -9(n+1) = -9n – 9 \)よって、中括弧の中は、\( (2n^2 + 3n + 1) – (9n + 9) + 12 = 2n^2 – 6n + 4 \)この式は 2 でくくれますね。\( 2(n^2 – 3n + 2) \)。さらに因数分解できます。\( 2(n-1)(n-2) \)。これを元の式に戻します。\( S = \frac{n}{6} \cdot 2(n-1)(n-2) \)\( S = \frac{n(n-1)(n-2)}{3} \)
解答: \( S = \frac{1}{3}n(n-1)(n-2) \)
このように、シグマ計算は「分解→公式適用→整理」という流れが基本となります。特に最後の「整理」のステップでは、共通因数を見つけて丁寧に因数分解を進める計算力が求められます。展開してから因数分解しようとすると、計算が複雑になりがちなので注意が必要です。
3. 階差数列と元の数列の一般項
これまでは、数列の一般項 \(a_n\) が n
の式として分かっている状態から、その和を求める方法を考えてきました。しかし、時には一般項がすぐには分からない数列も存在します。そのような場合に有効な手段の一つが、階差数列 (sequence of differences) に着目する方法です。
3.1. 階差数列の定義
数列 \({a_n}: a_1, a_2, a_3, \dots, a_n, a_{n+1}, \dots\) を考えます。
この数列の隣り合う二つの項の差、
\( a_2-a_1, a_3-a_2, \dots, a_{n+1}-a_n, \dots \)
を項とする新しい数列を作ることができます。この新しい数列を、元の数列 \({a_n}\) の階差数列といい、\({b_n}\) で表すことが多いです。
つまり、
b_n=a_n+1−a_n
具体例
数列 \({a_n}: 1, 3, 7, 13, 21, \dots\)
この数列は、等差数列でも等比数列でもありません。そこで、階差数列を調べてみます。
- \( b_1 = a_2 – a_1 = 3 – 1 = 2 \)
- \( b_2 = a_3 – a_2 = 7 – 3 = 4 \)
- \( b_3 = a_4 – a_3 = 13 – 7 = 6 \)
- \( b_4 = a_5 – a_4 = 21 – 13 = 8 \)階差数列 \({b_n}\) は 2, 4, 6, 8, … となっています。これは、初項 2、公差 2 の等差数列です。このように、元の数列の規則性が不明でも、その階差数列が我々のよく知る単純な数列になることがあるのです。
3.2. 階差数列から元の数列の一般項を求める
階差数列 \({b_n}\) の正体が分かれば、それを利用して元の数列 \({a_n}\) の一般項を求めることができます。その仕組みを考えてみましょう。
\( b_k = a_{k+1} – a_k \) という定義から、\( a_{k+1} = a_k + b_k \) となります。
これを使って、\(a_n\) を \(a_1\) から順にたどっていくと、
- \( a_2 = a_1 + b_1 \)
- \( a_3 = a_2 + b_2 = (a_1+b_1) + b_2 = a_1 + b_1 + b_2 \)
- \( a_4 = a_3 + b_3 = (a_1+b_1+b_2) + b_3 = a_1 + b_1 + b_2 + b_3 \)
このパターンから、\(a_n\) は、初項 \(a_1\) に、階差数列 \({b_k}\) の初項 \(b_1\) から 第 \((n-1)\) 項 \(b_{n-1}\) までを足し合わせたものであることが分かります。
なぜ \(b_n\) ではなく \(b_{n-1}\) までなのか?
\(a_n\) を作るには、\(a_1\) からスタートして n-1 回の「ジャンプ」が必要です。その k 番目のジャンプの大きさが \(b_k\) なので、n-1 回のジャンプで足されるのは \(b_1\) から \(b_{n-1}\) までとなります。
この関係をシグマ記号を使って書くと、次の公式が得られます。
階差数列と一般項の関係
数列 \({a_n}\) の階差数列を \({b_n}\) とするとき、\(n \geq 2\) の場合において、
a_n=a_1+sum_k=1n−1b_k
【最重要注意点】
この公式は、\( \sum_{k=1}^{n-1} \) という形から分かるように、n-1 が 1 以上、つまり \(n \geq 2\) のときにのみ成り立ちます。
n=1 のときは、シグマの上端が 0 となってしまい意味をなしません。
したがって、n=1 の場合、すなわち初項 \(a_1\) は、この公式で計算された値と一致するかどうかを別途確認する必要があります。
3.3. 計算演習
ミニケーススタディ:階差数列の利用
問題: 数列 \({a_n}: 1, 3, 7, 13, 21, \dots\) の一般項を求めよ。
思考プロセス:
- 階差数列を求める:\(b_n = a_{n+1} – a_n\) を計算すると、数列 \({b_n}\) は 2, 4, 6, 8, … となる。
- 階差数列の一般項を求める:\({b_n}\) は初項 2、公差 2 の等差数列なので、その一般項は、\( b_n = 2 + (n-1)2 = 2n \)
- 公式を適用して \(a_n\) を求める (\(n \geq 2\) の場合):\( a_n = a_1 + \sum_{k=1}^{n-1} b_k \)ここで \( a_1 = 1 \) で、\( b_k = 2k \) なので、\( a_n = 1 + \sum_{k=1}^{n-1} 2k \)シグマ計算を実行する。\( \sum_{k=1}^{n-1} 2k = 2 \sum_{k=1}^{n-1} k \)ここで、\( \sum_{k=1}^{m} k = \frac{1}{2}m(m+1) \) の公式の m を n-1 に置き換えて適用する。\( = 2 \cdot \frac{1}{2}(n-1){(n-1)+1} = (n-1)n = n^2 – n \)よって、\( a_n = 1 + (n^2 – n) = n^2 – n + 1 \) (これは \(n \geq 2\) で成り立つ)
- n=1 の場合を確認する:上で求めた式に n=1 を代入してみる。\( a_1 = 1^2 – 1 + 1 = 1 \)これは、問題で与えられた実際の初項 1 と一致する。
- 結論をまとめる:n=1 の場合も成り立ったので、求める一般項は全ての自然数 n について、\( a_n = n^2 – n + 1 \)
解答: \( a_n = n^2 – n + 1 \)
もし n=1
の確認で一致しなかった場合は、「\( a_1 = (\text{実際の初項}) \)、\( n \geq 2 \) のとき \( a_n = (\text{計算した式})) \)」のように、場合分けして答える必要があります。
階差数列の考え方は、一見して構造が掴めない数列に対する強力な分析ツールです。それは、数列そのものではなく、その「変化の仕方」に注目することで、問題のレベルを一段階下げる(より単純な数列に帰着させる)という、数学における重要な問題解決戦略の一つを体現しています。
4. 群数列
数列の問題の中には、単調な規則で数が並んでいるのではなく、あるかたまり(群 (group))ごとに区切って考えると、そこに美しい規則性が見えてくるものがあります。これを群数列の問題と呼びます。群数列を攻略するには、特別な公式を覚えるのではなく、問題の構造を分析するための体系的な思考手順を身につけることが重要です。
4.1. 群数列とは何か?
例えば、次のような数列を考えてみましょう。
1 | 2, 3 | 4, 5, 6 | 7, 8, 9, 10 | 11, …
この数列は、自然数を順番に並べたものですが、縦棒 | で区切られています。
- 最初の区切り(第1群)には、
1
が1個。 - 次の区切り(第2群)には、
2, 3
が2個。 - その次の区切り(第3群)には、4, 5, 6 が3個。このように、第 m 群には m 個の自然数が含まれる、という構造が見えます。このような数列が群数列です。
群数列の問題では、主に次のようなことが問われます。
- 第
m
群の最初の数(または最後の数、あるいは和)は何か? - 元の数列の第
N
項は、第何群の何番目の数か? - 元の数列の第
N
項の値は何か?
4.2. 群数列を攻略する4つのステップ
これらの問いに答えるための万能な公式はありません。代わりに、以下の4つのステップに従って、情報を整理していくのが王道の解法戦略です。
Step 1: 各群に含まれる項の個数を調べる
まず、第 m 群に項がいくつ入っているかを m の式で表します。
上の例では、第 m 群には m 個の項が含まれています。
Step 2: 第 m 群の末尾までの項の総数を調べる
次に、第1群の初めから、第 m 群の終わりまでに、合計でいくつの項があるかを計算します。これは、Step 1で求めた各群の項数を、1から m まで足し合わせることで得られます。
上の例では、第 m 群の末尾までの項の総数は、
sum_k=1mk=frac12m(m+1)
となります。
例えば、第3群の終わりまでには、\(\frac{1}{2}\cdot3(3+1) = 6\) 個の項があり、これは元の数列の第6項に相当します。実際、第3群の末尾の 6 は、元の数列の6番目の数です。
この「第 m 群の末尾が、元の数列の第何項にあたるか」という情報は、群数列の問題を解く上で最も重要な鍵となります。
Step 3: 第 m 群の最初の項(または最後の項)の値を調べる
Step 2の情報を使えば、特定の群の最初の項や最後の項が何であるかが分かります。
上の例では、数列の中身は単なる自然数の列なので、「第 k 項の値は k」です。
したがって、
- 第 m 群の最後の項の値は、第 m 群の末尾までの項の総数そのものです。値 = \( \frac{1}{2}m(m+1) \)
- 第 m 群の最初の項の値は、第 (m-1) 群の最後の項の値に 1 を足したものです。(ただし m \geq 2)第 (m-1) 群の末尾までの項の総数は \( \frac{1}{2}(m-1)m \) なので、その次の項である第 m 群の初項の値は、値 = \( \frac{1}{2}(m-1)m + 1 \)
Step 4: 第 m 群の k 番目の項の値を調べる
第 m 群の最初の項の値が分かれば、その群の中での規則性(例えば、1ずつ増える等差数列など)を利用して、群の中の特定の項の値を求めることができます。
上の例では、第 m 群の中は公差 1 の等差数列です。
第 m 群の k 番目の項の値は、(第 m 群の最初の項の値) + (k-1) で計算できます。
値 = \( \left(\frac{1}{2}(m-1)m + 1\right) + (k-1) = \frac{1}{2}m(m-1) + k \)
この4つのステップで得られる情報を組み合わせることで、様々な問いに答えることができます。
4.3. 計算演習
ミニケーススタディ:群数列の応用
問題: 数列 1 | 3, 5 | 7, 9, 11 | 13, 15, 17, 19 | … (奇数の列を群に分けたもの)について、以下の問いに答えよ。
(1) 第 m 群の最初の項の値を求めよ。
(2) 101 は第何群の何番目の項か。
思考プロセス:
まず、4つのステップに従って情報を整理します。
元の数列は、一般項 \(a_n = 2n-1\) の奇数の列です。
Step 1: 各群の項数
第 m 群には m 個の項が含まれる。
Step 2: 第 m 群の末尾までの項の総数
\( \sum_{k=1}^{m} k = \frac{1}{2}m(m+1) \)
(1) 第 m 群の最初の項の値を求める
これは Step 3 の問いです。
第 m 群の最初の項は、元の数列の何番目の項でしょうか?
それは、第 (m-1) 群の末尾までの項の総数に 1 を足した番号です。
項番号 N = \( \frac{1}{2}(m-1)m + 1 \)
元の数列の一般項は \(a_N = 2N-1\) なので、この N を代入します。
値 = \( 2\left{ \frac{1}{2}m(m-1) + 1 \right} – 1 \)
= \( m(m-1) + 2 – 1 = m^2 – m + 1 \)
(1)の解答: \( m^2 – m + 1 \)
(2) 101 は第何群の何番目の項か
まず、101 が元の数列の第何項 N なのかを求めます。
2N – 1 = 101
2N = 102
N = 51
つまり、「元の数列の第51項は、第何群の何番目か?」という問いに変換できました。
次に、第51項が第 m 群に含まれると仮定します。
これは、第51項が「第 (m-1) 群の末尾」と「第 m 群の末尾」の間にあることを意味します。
(第 (m-1) 群の末尾までの項数) < 51 \( \le \) (第 m 群の末尾までの項数)
\( \frac{1}{2}(m-1)m < 51 \le \frac{1}{2}m(m+1) \)
この不等式を満たす自然数 m を見つけます。勘で m に値を代入してみるのが早いです。
\( m(m+1) \) が 51 \times 2 = 102 に近くなる m を探します。
m=9 のとき: 9 \times 10 = 90
m=10 のとき: 10 \times 11 = 110
よって、\( m=10 \) が適当だとわかります。
実際に確認すると、
m=10 のとき、不等式は \( \frac{1}{2} \cdot 9 \cdot 10 < 51 \le \frac{1}{2} \cdot 10 \cdot 11 \)
\( 45 < 51 \le 55 \) となり、確かに成り立っています。
したがって、101 (第51項) は 第10群 に含まれることが分かりました。
最後に、第10群の中で何番目かを求めます。
第9群の終わりまでには45個の項があります。
第51項は、その次の項から数えて 51 – 45 = 6 番目です。
よって、第10群の 6番目 の項となります。
(2)の解答: 第10群の6番目の項
群数列の問題は、複雑に見えますが、このように情報を一つずつ整理していくことで、必ず解への道筋が見えてきます。焦らず、構造を丁寧に見抜くことが成功の鍵です。
5. 部分分数分解を用いた和の計算
シグマ計算では、べき乗の和のように公式が使える形ばかりではありません。特に、一般項が分数の形をしている場合、これまで学んだ方法では手も足も出ないことがあります。そのような状況で絶大な威力を発揮するのが、部分分数分解 (partial fraction decomposition) という代数的なテクニックです。
5.1. なぜ部分分数分解が必要か?
次のような和を考えてみましょう。
S_n=sum_k=1nfrac1k(k+1)=frac11cdot2+frac12cdot3+frac13cdot4+dots+frac1n(n+1)
この和は、通分して計算しようとすると非常に複雑になり、現実的ではありません。しかし、もし一般項 \( \frac{1}{k(k+1)} \) を、
frac1k(k+1)=fracAk+fracBk+1
のような、より単純な分数の差や和の形に「分解」できれば、何か新しい道が開けるかもしれません。
5.2. 部分分数分解の公式
一般項の分母が二つの因数の積で表されている場合、次の恒等式が成り立ちます。
frac1AcdotB=frac1B−Aleft(frac1A−frac1Bright)quad(textただしAneqB)
(この公式の成り立ち)
右辺のカッコの中を計算してみると、
\( \frac{1}{A} – \frac{1}{B} = \frac{B-A}{A \cdot B} \)
となるので、両辺に \( \frac{1}{B-A} \) を掛ければ、左辺の \( \frac{1}{A \cdot B} \) と一致することがわかります。
この公式を使って、先ほどの \( \frac{1}{k(k+1)} \) を分解してみましょう。
A=k, B=k+1 と考えます。B-A = (k+1) – k = 1 なので、
frac1k(k+1)=frac11left(frac1k−frac1k+1right)=frac1k−frac1k+1
このように、一般項を二つの分数の差の形に分解することができました。
5.3. 伸縮する和 (Telescoping Sum)
一般項を差の形に分解できたことで、和の計算は劇的な変化を見せます。
S_n=sum_k=1nleft(frac1k−frac1k+1right)
このシグマを、具体的な和の形で書き下してみましょう。
S_n=left(frac11−frac12right)quad(k=1textの項)
+left(frac12−frac13right)quad(k=2textの項)
+left(frac13−frac14right)quad(k=3textの項)
+dots
+left(frac1n−1−frac1nright)quad(k=n−1textの項)
+left(frac1n−frac1n+1right)quad(k=ntextの項)
この式をよく見てください。
第1項の (-1/2) と、第2項の (+1/2) が打ち消し合います。
第2項の (-1/3) と、第3項の (+1/3) が打ち消し合います。
この相殺がドミノ倒しのように次々と起こり、中間の項が全て消えてしまうのです。
最終的に生き残るのは、一番最初の 1/1 と、一番最後の -1/(n+1) だけです。
S_n=frac11−frac1n+1=1−frac1n+1=frac(n+1)−1n+1=fracnn+1
このように、中間の項が望遠鏡(Telescope)のように縮んで消えてしまうような和を、伸縮和 (Telescoping Sum) と呼びます。部分分数分解は、この伸縮和を作り出すための非常に強力なテクニックなのです。
5.4. 計算演習
ミニケーススタディ:少し複雑な部分分数分解
問題: 和 \( S = \sum_{k=1}^{n} \frac{1}{(2k-1)(2k+1)} \) を求めよ。
思考プロセス:
- 一般項を部分分数分解する:\( a_k = \frac{1}{(2k-1)(2k+1)} \)A = 2k-1, B = 2k+1 と考える。B-A = (2k+1) – (2k-1) = 2公式を適用する。\( a_k = \frac{1}{2} \left( \frac{1}{2k-1} – \frac{1}{2k+1} \right) \)
- 和を計算する:\( S = \sum_{k=1}^{n} \frac{1}{2} \left( \frac{1}{2k-1} – \frac{1}{2k+1} \right) \)定数 1/2 をシグマの前に出す。\( S = \frac{1}{2} \sum_{k=1}^{n} \left( \frac{1}{2k-1} – \frac{1}{2k+1} \right) \)シグマの中身を書き下して、どの項が消えるかを確認する。sum(dots)=left(frac11−frac13right)quad(k=1)+left(frac13−frac15right)quad(k=2)+left(frac15−frac17right)quad(k=3)+dots+left(frac12n−1−frac12n+1right)quad(k=n)この場合も、(-1/3) と (+1/3)、(-1/5) と (+1/5) などが次々と消えていく。生き残るのは、最初の 1/1 と最後の -1/(2n+1)。\( \sum (\dots) = 1 – \frac{1}{2n+1} \)
- 最終的な結果をまとめる:前に出した 1/2 を掛けるのを忘れないように。\( S = \frac{1}{2} \left( 1 – \frac{1}{2n+1} \right) = \frac{1}{2} \left( \frac{(2n+1)-1}{2n+1} \right) \)\( = \frac{1}{2} \cdot \frac{2n}{2n+1} = \frac{n}{2n+1} \)
解答: \( S = \frac{n}{2n+1} \)
部分分数分解は、一見複雑な分数の和を、鮮やかに解決する強力なツールです。一般項の分母が因数の積になっている数列の和を見たら、まずこの手法を試してみる価値があります。
6. 等差数列と等比数列の積の和
これまで、一般項が k
の多項式で表される数列(べき乗和の公式で対応)や、分数の形をした数列(部分分数分解で対応)の和を考えてきました。ここでは、さらに別の種類の数列、すなわち一般項が (等差数列の項) × (等比数列の項) という形をしている数列の和を求める方法を探求します。
6.1. 問題の構造
このような数列の和は、具体的には次のような形をしています。
S_n=sum_k=1nkcdotrk−1=1cdotr0+2cdotr1+3cdotr2+dots+ncdotrn−1
この式の各項を見ると、1, 2, 3, …, n という部分は初項 1, 公差 1 の等差数列になっており、r^0, r^1, r^2, …, r^{n-1} という部分は初項 1, 公比 r の等比数列になっています。
この和 S_n
は、シグマの線形性を使っても分解できませんし、部分分数分解も適用できません。全く新しいアプローチが必要となります。
6.2. 必殺技:「公比を掛けて、ずらして引く」
ここで登場するのが、Module 1で等比数列の和の公式を導いた際に使った、あの強力なテクニックです。
「和 S_n 全体に、等比数列部分の公比 r を掛けて、元の式から1項分ずらして引き算する」
この手法が、この種の問題を解決する鍵となります。
6.3. 計算プロセスの詳述
実際に、\( S_n = \sum_{k=1}^{n} k \cdot 2^{k-1} \) を例に、計算プロセスをステップバイステップで見ていきましょう。
問題: 和 \( S_n = 1\cdot1 + 2\cdot2 + 3\cdot2^2 + \dots + n\cdot2^{n-1} \) を求めよ。
Step 1: 和 S_n を書き下す
S_n=1cdot20+2cdot21+3cdot22+dots+(n−1)cdot2n−2+ncdot2n−1
Step 2: S_n の両辺に公比 r (この場合は 2) を掛ける
2S_n=1cdot21+2cdot22+3cdot23+dots+(n−1)cdot2n−1+ncdot2n
Step 3: 1項ずらして引き算 (S_n – rS_n) を実行する
S_n の式から 2S_n の式を引きます。このとき、同じ 2 のべき乗の項がそろうように、2S_n の式を1つ右にずらして書くと分かりやすいです。
Sn = 1・2^0 + 2・2^1 + 3・2^2 + ... + n・2^(n-1)
-) 2Sn = 1・2^1 + 2・2^2 + ... + (n-1)・2^(n-1) + n・2^n
------------------------------------------------------------------
Sn - 2Sn = 1・2^0 + (2-1)2^1 + (3-2)2^2 + ... + (n-(n-1))2^(n-1) - n・2^n
Step 4: 引き算の結果を整理する
左辺は \( S_n – 2S_n = -S_n \) となります。
右辺を見てみましょう。
- 最初の項
1・2^0 = 1
はそのまま残ります。 - 中間の項の係数は、
(2-1)=1
,(3-2)=1
, …,(n-(n-1))=1
と、すべて1
になります。 - 最後の項
-n・2^n
は、引き算によって新しく現れます。
したがって、右辺は
1cdot20+1cdot21+1cdot22+dots+1cdot2n−1−ncdot2n
となります。
この式の 1・2^0 から 1・2^{n-1} までの部分は、
sum_k=1n2k−1=20+21+dots+2n−1
であり、これは初項 1, 公比 2, 項数 n の等比数列の和そのものです。
Step 5: 等比数列の和の公式を適用し、S_n を求める
等比数列の和の部分を公式で計算します。
\( \frac{1(2^n-1)}{2-1} = 2^n – 1 \)
よって、引き算の結果の式全体は、
\( -S_n = (2^n – 1) – n\cdot2^n \)
となります。
あとは、この式を S_n について解くだけです。
\( -S_n = (1-n)2^n – 1 \)
両辺に -1 を掛けて、
\( S_n = -(1-n)2^n – (-1) = (n-1)2^n + 1 \)
解答: \( S_n = (n-1)2^n + 1 \)
6.4. この手法の本質
なぜ「公比を掛けてずらして引く」とうまくいくのでしょうか?
その本質は、元の数列の等差数列部分 (1, 2, 3, …) が持つ「差をとると定数になる」という性質を利用している点にあります。
S_n – rS_n を計算することで、各項の係数が k – (k-1) = 1 のように単純化され、問題が「係数がすべて1の等比数列の和」という、我々がすでに解ける問題に帰着されるのです。
この手法は、一見複雑な問題も、適切な操作によって既知の単純な問題に変換するという、数学における強力な問題解決パラダイムの一例です。等比数列の和の公式の導出と本質的に同じ操作であるため、一つの考え方が異なる場面で再利用されるという、数学の構造的な面白さも示唆しています。
7. 格子点の個数問題
これまでは純粋に数列の代数的な計算に焦点を当ててきましたが、数列、特にシグマ計算の考え方は、座標平面上の図形問題、具体的には格子点の個数を数え上げる問題にも強力な応用が可能です。
7.1. 格子点とは?
格子点 (lattice point) とは、xy
座標平面上で、x
座標と y
座標がともに整数である点 (m, n)
のことを指します。方眼紙のマス目の交点をイメージすると分かりやすいでしょう。
格子点の個数問題では、直線や曲線(放物線など)で囲まれた特定の領域 D
が与えられ、その領域の内部および周上に含まれる格子点の総数を求めることが要求されます。
7.2. 数え上げの基本戦略:「縦に切る」か「横に切る」か
領域内の格子点を、やみくもに数えようとすると、数え漏らしたり二重に数えたりするミスが起こりがちです。そこで、シグマ計算の発想を応用した、体系的な数え上げ戦略が必要となります。基本戦略は次の二つです。
戦略1:x
を固定して、縦に数える(縦切り)
- 領域内の
x
座標が取りうる整数の範囲を特定します。 x
の値をある整数k
に固定します。これは、領域を直線x=k
で縦にスライスすることに相当します。- このスライス(線分)上に、格子点が何個あるかを数えます。この個数は、
y
座標の範囲を調べることで、k
の式で表すことができます。この個数を \( N_k \) とします。 - k の値を、1で特定した範囲の最初から最後まで動かしていきます。求める格子点の総数は、各スライス上の格子点の個数 \( N_k \) を全て足し合わせたものになるので、シグマ計算で求めることができます。text総数=sum_k=(textxの最小整数)(textxの最大整数)N_k
戦略2:y
を固定して、横に数える(横切り)
- 領域内の
y
座標が取りうる整数の範囲を特定します。 y
の値をある整数k
に固定します(直線y=k
で横にスライス)。- この線分上に格子点が何個あるかを、
x
座標の範囲を調べることでk
の式で表します。 k
を動かして、シグマ計算で総和を求めます。
どちらの戦略を選ぶかは、領域を定義している不等式や境界線の形によって決まります。y
の範囲を k
の式で表しやすいなら戦略1、x
の範囲を k
の式で表しやすいなら戦略2、と使い分けるのが賢明です。
7.3. 計算演習
ミニケーススタディ:直線と放物線で囲まれた領域
問題: 領域 D が不等式 \( x \ge 0, y \ge 0, y \le -x+4 \) で定められるとき、領域 D 内の格子点の個数を求めよ。
思考プロセス:
- 領域を図示する:x=0 (y軸), y=0 (x軸), y=-x+4 (直線) で囲まれた、直角二等辺三角形の領域です。
- 数え上げ戦略を選択する:この場合、縦に切っても横に切っても難易度は変わりませんが、ここでは戦略1(xを固定)で進めます。
x=k
でスライスして、その上の格子点を数える:x
座標が取りうる整数の範囲は、図から0, 1, 2, 3, 4
です。よってk
は0
から4
まで動きます。x=k
という縦の直線上で、y
座標が満たすべき条件は、元の不等式から0 \le y \le -k+4
となります。- この範囲にある整数 y の個数はいくつでしょうか?0, 1, 2, …, -k+4 の (-k+4) – 0 + 1 = -k+5 個です。よって、直線 x=k 上の格子点の個数 \( N_k \) は \( -k+5 \) 個です。(確認: k=0 のとき yは0から4の5個。k=1のとき yは0から3の4個。合っています。)
- シグマ計算で総和を求める:k は 0 から 4 まで動くので、求める総数は、text総数=sum_k=04(−k+5)シグマの下端が 0 なので注意が必要です。
- 方法A(直接計算):k=0: 5k=1: 4k=2: 3k=3: 2k=4: 1総和 = 5+4+3+2+1 = 15 個。
- 方法B(シグマ公式を使うために変形):\( \sum_{k=0}^{4} (-k+5) = (-0+5) + \sum_{k=1}^{4} (-k+5) \)\( = 5 + \left( -\sum_{k=1}^{4} k + \sum_{k=1}^{4} 5 \right) \)\( = 5 + \left( -\frac{1}{2}\cdot4\cdot5 + 5\cdot4 \right) \)\( = 5 + (-10 + 20) = 5 + 10 = 15 \) 個。
解答: 15個
より複雑な例:放物線
問題: 領域 D が不等式 \( y \ge x^2, y \le 4 \) で定められるとき、領域 D 内の格子点の個数を求めよ。
思考プロセス:
- 領域を図示する:放物線 \( y=x^2 \) と水平線 \( y=4 \) で囲まれた領域です。
- 数え上げ戦略を選択する:この領域を x=k で縦に切ると、y の範囲は k^2 \le y \le 4 となり、数えやすそうです。一方、y=k で横に切ると、x の範囲は x^2 \le k すなわち \( -\sqrt{k} \le x \le \sqrt{k} \) となり、x の整数を数えるのが少し面倒です(k が平方数かどうかで変わる)。よって、**横切り(y を固定)**の方が賢明です。
y=k
でスライスして、その上の格子点を数える:y
座標が取りうる整数の範囲は、図から0, 1, 2, 3, 4
です。よってk
は0
から4
まで動きます。y=k
という横の直線上で、x
座標が満たすべき条件は、\( -\sqrt{k} \le x \le \sqrt{k} \) です。- この範囲にある整数 x の個数を、各 k について調べます。k=0: x=0 の1個。k=1: -1 \le x \le 1 より x=-1, 0, 1 の3個。k=2: -1.41 \le x \le 1.41 より x=-1, 0, 1 の3個。k=3: -1.73 \le x \le 1.73 より x=-1, 0, 1 の3個。k=4: -2 \le x \le 2 より x=-2, -1, 0, 1, 2 の5個。
- 総和を求める:これらの個数を全て足し合わせます。総数 = 1 + 3 + 3 + 3 + 5 = 15 個。
解答: 15個
格子点の個数問題は、数列の和の考え方が、離散的な個数を数え上げるという幾何学的な問題に直結することを示す好例です。どの方向にスライスするかという戦略的な判断と、不等式を正確に処理して整数解の個数を数える能力が問われます。
8. 和の公式の証明
私たちはこれまで、べき乗の和の公式を便利な道具として使ってきました。しかし、数学の学習においては、「なぜその公式が成り立つのか?」という根源的な問いを探求することが、本質的な理解と応用力を育む上で不可欠です。このセクションでは、これまで天下り的に与えられてきた公式が、いかにして論理的に導出されるのか、その証明のプロセスを追体験します。
8.1. \(\sum k\) の証明(再訪)
sum_k=1nk=frac12n(n+1)
この証明は、Module 1で等差数列の和を求めた「ガウスの方法」そのものです。和 S を順方向と逆方向に並べて足し合わせることで、エレガントに導出できます。
S = 1 + 2 + … + n
S = n + (n-1) + … + 1
2S = (n+1) + (n+1) + … + (n+1) = n(n+1)
よって S = n(n+1)/2。
8.2. \(\sum k^2\) の証明 ― 恒等式を利用した鮮やかな手法
平方の和の公式の証明には、巧妙なトリックが用いられます。その核心は、次数を一つ上げた式の差を考えるというアイデアにあります。具体的には、恒等式 \( (k+1)^3 – k^3 \) を利用します。
Step 1: 恒等式を展開・整理する
(k+1)3−k3=(k3+3k2+3k+1)−k3=3k2+3k+1
この恒等式は、全ての k について成り立ちます。
Step 2: この恒等式の両辺に、\(\sum_{k=1}^{n}\) を適用する
左辺と右辺、それぞれで k を 1 から n まで動かして足し合わせます。
sum_k=1nleft(k+1)3−k3right=sum_k=1n(3k2+3k+1)
Step 3: 左辺を計算する
左辺は、まさに伸縮和 (Telescoping Sum) の形をしています。具体的に書き下してみましょう。
(23−13)quad(k=1)
+(33−23)quad(k=2)
+(43−33)quad(k=3)
+dots
+left(n+1)3−n3rightquad(k=n)
2^3 が消え、3^3 が消え、と次々に中間の項が相殺され、生き残るのは最初の -1^3 と最後の (n+1)^3 だけです。
よって、左辺 = \( (n+1)^3 – 1^3 = (n+1)^3 – 1 \)。
Step 4: 右辺をシグマの性質で分解する
sum_k=1n(3k2+3k+1)=sum_k=1n3k2+sum_k=1n3k+sum_k=1n1
=3sum_k=1nk2+3sum_k=1nk+n
Step 5: 左辺と右辺を等号で結び、\(\sum k^2\) について解く
Step 3 と Step 4 の結果から、
(n+1)3−1=3sum_k=1nk2+3sum_k=1nk+n
この式の中に、我々が求めたい \( \sum k^2 \) と、すでに知っている \( \sum k = \frac{1}{2}n(n+1) \) が含まれています。
\( \sum k^2 \) を左辺に残し、他の項を移項します。
3sum_k=1nk2=(n+1)3−1−3left(frac12n(n+1)right)−n
右辺を整理していきます。共通因数 (n+1) に注目するのがコツです。
\( (n+1)^3 – n – 1 = (n+1)^3 – (n+1) = (n+1){(n+1)^2-1} \)
\( = (n+1)(n^2+2n) = n(n+1)(n+2) \)
よって、
3sum_k=1nk2=n(n+1)(n+2)−frac32n(n+1)
共通因数 n(n+1) でくくります。
=n(n+1)left((n+2)−frac32right)=n(n+1)left(frac2n+4−32right)
=n(n+1)frac2n+12=frac12n(n+1)(2n+1)
最後に両辺を 3 で割ります。
sum_k=1nk2=frac16n(n+1)(2n+1)
これで、公式が証明されました。
8.3. \(\sum k^3\) の証明 ― 同じ戦略の適用
立方の和の公式も、全く同じ戦略で証明できます。今度は次数をさらに一つ上げた恒等式 \((k+1)^4 – k^4\) を利用します。
(k+1)4−k4=(k4+4k3+6k2+4k+1)−k4=4k3+6k2+4k+1
この両辺に \(\sum_{k=1}^{n}\) を適用します。
左辺は同様に伸縮和となり、\( (n+1)^4 – 1^4 \) となります。
右辺は \( 4\sum k^3 + 6\sum k^2 + 4\sum k + \sum 1 \) となります。
(n+1)4−1=4sum_k=1nk3+6sum_k=1nk2+4sum_k=1nk+n
この式に、すでに証明済みの \(\sum k^2\) と \(\sum k\) の公式を代入し、式を根気よく整理していくことで、\(\sum k^3 = \left{\frac{1}{2}n(n+1)\right}^2\) を導くことができます(計算は複雑なのでここでは省略します)。
これらの証明は、単なる計算練習ではありません。それは、**「未知の和を求めるために、既知の和と伸縮和を用いて方程式を立てる」**という、極めて高度で創造的な問題解決のプロセスを示しています。公式は単に覚えるだけでなく、その背後にある導出のアイデアを理解することで、より深いレベルで数学を味わうことができるのです。
9. シグマ計算の工夫
これまで学んできたシグマの性質と公式は、計算の基本ツールです。しかし、実際の入試問題などでは、これらのツールをより巧みに、そして効率的に使いこなすための計算テクニックが求められることがあります。ここでは、知っていると計算が楽になったり、見通しが良くなったりするいくつかの工夫を紹介します。
9.1. 和の区間の変更
シグマの公式は、下の端が k=1
であることを前提としています。もし、和の区間が k=1
から始まらない場合、例えば \( \sum_{k=5}^{10} k^2 \) を計算したい場合はどうすればよいでしょうか。
これは、**「一旦、1から最後まで足しておいて、不要な部分(1から始まる手前の部分)を引き算する」**という考え方で対処できます。
sum_k=mna_k=(text1からnまでの和)−(text1からm−1までの和)=sum_k=1na_k−sum_k=1m−1a_k
例:
\( \sum_{k=5}^{10} k^2 = \sum_{k=1}^{10} k^2 – \sum_{k=1}^{4} k^2 \)
\( = \frac{1}{6}\cdot10(11)(21) – \frac{1}{6}\cdot4(5)(9) \)
\( = 385 – 30 = 355 \)
9.2. 添字の変換(平行移動)
シグマ記号の中身が複雑な場合、添字を置き換えることで、見慣れた形に変換できることがあります。
例: \( S = \sum_{k=1}^{n} (k+2)^2 \) を考えます。
これをそのまま展開して \( \sum (k^2+4k+4) \) として計算することもできますが、添字の変換を使ってみましょう。
j = k+2 と新しい添字 j を導入します。
k
が1
からn
まで動くとき、j
はどう動くでしょうか?k=1
のとき、j = 1+2 = 3
k=n
のとき、j = n+2
- よって、
j
は3
からn+2
まで動きます。
したがって、元の和は次のように書き換えられます。
S=sum_j=3n+2j2
あとは、9.1で学んだ区間変更のテクニックを使えば計算できます。
S=sum_j=1n+2j2−sum_j=12j2
この方法は、シグマの中身がより複雑になったり、漸化式の変形などを行ったりする際に有効な場合があります。
9.3. 和の順序交換
二つの添字を持つ和(二重和)の場合、和をとる順序を交換できることがあります。これは、格子点の個数を数える際に「縦に切るか、横に切るか」という戦略の選択に対応しており、高度なテクニックですが、その考え方は重要です。
sum_i=1msum_j=1na_ij=sum_j=1nsum_i=1ma_ij
長方形領域の格子点を数える場合、先に i (x方向) で足してから j (y方向) で足しても、先に j で足してから i で足しても結果は同じ、というイメージです。計算が難しい方の順序から、計算が簡単な方の順序へ交換することで、問題解決の糸口が見えることがあります。
9.4. ペアを作って計算する工夫
対称性の高い和の場合、項をペアにすることで計算が劇的に簡単になることがあります。
例: \( S = \sum_{k=0}^{n} (k-n/2)^2 \) (簡単のため n は偶数とする)
この和は、k=0 の項と k=n の項、k=1 の項と k=n-1 の項が、対称的な関係になっています。
k=j の項: \( (j – n/2)^2 \)
k=n-j の項: \( (n-j – n/2)^2 = (n/2 – j)^2 = (j – n/2)^2 \)
このように、両端から同じ距離にある項の値が等しくなります。この性質を利用して和を計算することができます。
9.5. 偶数・奇数の和
1
から 2n
までの自然数の中で、奇数だけ、あるいは偶数だけの和を求めたい場合があります。
奇数の和: 1, 3, 5, …, 2n-1
これは、初項 1, 公差 2 の等差数列です。第 k 項は 2k-1。
sum_k=1n(2k−1)=2sum_k=1nk−sum_k=1n1=2cdotfrac12n(n+1)−n=n(n+1)−n=n2
(面白いことに、最初の n 個の奇数の和は n^2 になります。1=1^2, 1+3=4=2^2, 1+3+5=9=3^2, …)
偶数の和: 2, 4, 6, …, 2n
第 k 項は 2k。
sum_k=1n2k=2sum_k=1nk=2cdotfrac12n(n+1)=n(n+1)
これらの公式を覚えておく必要はありませんが、このようにシグマ記号を使って様々なパターンの和を自在に計算できることが重要です。
シグマ計算は、慣れれば強力な武器になりますが、慣れるまでは計算ミスをしやすい分野でもあります。特に、因数分解による式の整理、和の区間の確認、添字の扱いは、常に注意を払うべきポイントです。地道な練習を通じて、これらの工夫を自然に使いこなせるようになることを目指しましょう。
10. 様々な数列の応用問題
本モジュールの締めくくりとして、これまでに学んできた複数の知識やテクニックを組み合わせて解く、応用的な問題に挑戦しましょう。これらの問題は、単一の解法パターンを適用するだけでは解けず、問題の構造を分析し、適切な戦略を立てる総合的な思考力が求められます。
10.1. 融合問題のタイプ
応用問題は、主に以下のような形で複数の概念を融合させてきます。
- 階差数列とシグマ計算: 階差数列を求めたら、その一般項が
k
の多項式になり、和を求めるのにべき乗和の公式が必要になるタイプ。 - 群数列とシグマ計算: 「第
m
群の項の和を求めよ」といった設問で、群内の数列の和をシグマで計算する必要があるタイプ。 - 漸化式と数列の和:(Module 3で詳述)漸化式から一般項を求め、さらにその数列の和を計算するタイプ。
- 図形問題との融合: 格子点の問題のように、図形的な条件を数式に落とし込み、最終的にシグマ計算に帰着させるタイプ。
10.2. ミニケーススタディ:階差数列の和
問題: 数列 \({a_n}\) は、初項が 1 であり、その階差数列 \({b_n}\) の一般項が \(b_n = 3n-1\) で与えられている。
(1) 数列 \({a_n}\) の一般項を求めよ。
(2) 数列 \({a_n}\) の初項から第 n 項までの和 \(S_n\) を求めよ。
思考プロセス:
(1) 一般項 a_n を求める
これはセクション3で学んだ階差数列の典型問題です。
n \geq 2 のとき、公式 \( a_n = a_1 + \sum_{k=1}^{n-1} b_k \) を使います。
a_n=1+sum_k=1n−1(3k−1)
シグマ計算を実行します。
sum_k=1n−1(3k−1)=3sum_k=1n−1k−sum_k=1n−11
\( \sum_{k=1}^{m} k = \frac{1}{2}m(m+1) \) の m に n-1 を代入して、
=3cdotfrac12(n−1)(n−1)+1−(n−1)
=frac32n(n−1)−(n−1)
共通因数 (n-1) でくくります。
=(n−1)left(frac32n−1right)=frac12(n−1)(3n−2)
これを \(a_n\) の式に戻します。
a_n=1+frac12(n−1)(3n−2)quad(textfornge2)
展開して整理します。
a_n=1+frac12(3n2−5n+2)=frac2+3n2−5n+22=frac3n2−5n+42
n=1 の場合を確認します。
求めた式に n=1 を代入すると、\( a_1 = \frac{3-5+4}{2} = \frac{2}{2} = 1 \)。
これは与えられた初項と一致します。
よって、この一般項は全ての n で成り立ちます。
(1)の解答: \( a_n = \frac{1}{2}(3n^2 – 5n + 4) \)
(2) 和 S_n を求める
次に、この \(a_n\) の和 \( S_n = \sum_{i=1}^{n} a_i \) を求めます。(シグマの添字が n と被らないように i を使います)
S_n=sum_i=1nfrac12(3i2−5i+4)
定数 1/2 を前に出し、シグマを分解します。
S_n=frac12left(3sum_i=1ni2−5sum_i=1ni+sum_i=1n4right)
べき乗和の公式を適用します。
S_n=frac12left(3cdotfrac16n(n+1)(2n+1)−5cdotfrac12n(n+1)+4nright)
=frac12left(frac12n(n+1)(2n+1)−frac52n(n+1)+4nright)
中括弧の中の共通因数 n/2 でくくります。
=frac12cdotfracn2left((n+1)(2n+1)−5(n+1)+8right)
=fracn4left((2n2+3n+1)−(5n+5)+8right)
=fracn4(2n2−2n+4)
カッコの中からさらに共通因数 2 を出せます。
=fracn4cdot2(n2−n+2)=fracn(n2−n+2)2
(2)の解答: \( S_n = \frac{1}{2}n(n^2 – n + 2) \)
この問題のように、応用問題では一つの問題の中に複数の計算ステップが含まれます。各ステップでどの知識を使うべきかを判断し、計算を正確に実行していくことが求められます。
10.3. 問題解決への心構え
複雑な数列の問題に直面したとき、闇雲に計算を始めるのではなく、まず次のような自問自答をすることが有効です。
- この数列の「正体」は何か?
- 等差数列か?等比数列か?
- 一般項は
n
の多項式で書けそうか? → べき乗和の公式 - 階差をとったら単純な数列にならないか? → 階差数列
- 群に分けると規則性が見えないか? → 群数列
- 分数の形か? → 部分分数分解
- (等差)×(等比)の形か? → 公比を掛けてずらして引く
- 問われていることは何か?
- 一般項を求めるのか?
- 特定の項の値を求めるのか?
- 和を求めるのか?
この分析を通じて、問題のタイプを特定し、適切な解法戦略(武器)を選択することが、応用問題を攻略するための第一歩となります。そして、選択した戦略に沿って、計算を一つ一つ丁寧に進めていく粘り強さが、最終的な正解へと繋がります。
Module 2:数列(2) 様々な数列の和の総括:和の計算は構造分析の芸術である
本モジュールにおいて、私たちは「和を求める」という行為が、単なる作業ではなく、数列の内部構造を解き明かす知的探求であることを学んできました。その探求の共通言語としてシグマ記号を導入し、その線形性を頼りに、複雑な和をより単純な構成要素へと分解する視点を獲得しました。べき乗の和の公式は、その最も基本的な構成要素(ビルディングブロック)として機能しました。
しかし、私たちの旅はそこで終わりませんでした。階差数列というレンズを通して数列の「変化率」に着目することで、元の数列の姿を復元する手法を学びました。群数列の問題では、数列に課せられたメタレベルの構造を読み解くための体系的な分析手法を身につけました。さらに、部分分数分解や「公比を掛けてずらして引く」といった巧妙な代数的操作は、一見すると手に負えない和を、伸縮和や等比数列の和といった既知の形へと鮮やかに変形させる、数学的変形の美しさと力を示してくれました。
格子点の個数問題は、これらの代数的な計算技術が、離散的な対象を数え上げるという幾何学的な問題解決に直結することを示唆しています。そして、公式の証明を追体験する中で、私たちはこれらの強力なツールが論理的な必然性から生み出されるものであることを確認し、数学という学問の堅牢な体系性を再認識しました。
このモジュールを通じて皆さんが手にしたのは、個々の解法パターンのリストだけではありません。それは、未知の数列に対峙したときに、その構造を見抜き、分類し、適切な分析ツールを選択し、論理的な手順に沿って問題を解き明かすという、一連の「戦略的思考プロセス」です。この能力は、次に待ち受ける漸化式や数学的帰納法といった、より抽象的で高度な数列の世界を探求する上で、不可欠な羅針盤となるでしょう。