【基礎 数学(数学B)】Module 3:数列(3) 漸化式

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本モジュールの目的と構成

これまでのモジュールで、私たちは数列を「一般項」という形で、いわば完成された設計図として捉えてきました。一般項 \(a_n = f(n)\) があれば、私たちはいつでも好きな項 \(a_k\) の値を直接計算することができます。これは数列に対する静的で、全体を見渡す視点と言えるでしょう。

本モジュールで探求する漸化式は、数列に対する全く新しい、動的な視点を提供します。漸化式は、数列の全体像を一度に示すのではなく、「ある項が分かっていれば、次の項がどのように決まるか」という、項から項へと連鎖していく生成ルールそのものを記述します。それはまるで、最初のドミノを倒せば、次々とドミノが倒れていく様子を規定する物理法則のようなものです。この視点は、ステップごとに状態が変化していくような現象、例えば人口の推移、物体の運動、確率的な試行、アルゴリズムの動作などを数学的にモデル化する上で、極めて強力な言語となります。

この動的な数列の世界を理解し、その挙動を最終的に静的な一般項の形で捉え直すための知的探求は、以下のステップで構成されます。

  1. 漸化式の定義: まず、漸化式という新しい数列の定義方法を学びます。初項(初期条件)と漸化式(生成ルール)が揃って初めて一つの数列が定まる、その構造を理解します。
  2. 二項間漸化式の基本形とその解法: 最も基本的な2つの項の関係式を解く方法を学びます。未知の数列を、既知の「等比数列」へと変形させる、鮮やかな発想転換がここでの鍵となります。
  3. 特性方程式: 上記の変形を機械的に行うための強力な道具、「特性方程式」を導入します。これがなぜ有効なのか、その論理的背景を探ります。
  4. 三項間漸化式の基本形とその解法: 3つの項の間に成り立つ、より複雑な関係式に挑みます。特性方程式の考え方を拡張し、二つの等比数列を組み合わせることで問題を解決します。
  5. 様々な形の漸化式の解法(置換、対数をとるなど): 一見すると複雑で解けないように見える漸化式も、適切な「置換」や「対数をとる」といった操作によって、私たちがすでに知っている基本形に帰着させられることを学びます。問題解決のための「変換」という発想を磨きます。
  6. 連立漸化式: 二つの数列が互いに影響を及ぼし合いながら変化していく状況をモデル化し、その連動した動きを解き明かす手法を学びます。
  7. 確率漸化式: 確率的な試行の推移を漸化式でモデル化します。ある状態になる確率が、前のステップの確率からどのように決まるかを定式化し、未来の確率を予測します。
  8. 図形と漸化式: 図形の分割や構成の仕方の数え上げなど、幾何学的な問題の中に潜む漸化的な構造を見抜き、数え上げの問題を数列の一般項を求める問題へと変換します。
  9. 行列と漸化式(発展): 線形代数の道具である「行列」を用いることで、特に連立漸化式や三項間漸化式を、より統一的かつエレガントに解くことができる、発展的な視点に触れます。
  10. 不定方程式と漸化式: 整数論の世界と数列の意外な繋がりを探求します。ある種の不定方程式の整数解が、漸化式によって次々と生成される様子を観察します。

このモジュールを終えるとき、皆さんは単に漸化式の解法パターンを暗記しただけでなく、あるシステムの「状態遷移のルール」からその「長期的な振る舞い」を予測するという、科学の根幹に関わる思考法を数学的に実践する力を手に入れているはずです。それでは、項から項へと繋がる、数列のダイナミクスを解き明かす旅を始めましょう。

目次

1. 漸化式の定義

1.1. 数列を定義する二つの方法:静的な視点と動的な視点

これまで私たちが主に扱ってきたのは、「一般項」によって与えられる数列でした。

一般項による定義(静的な定義):

第 n 項 \(a_n\) の値を、n の式 \(f(n)\) で直接的に表現する方法。

例:\( a_n = 3n – 1 \)

この定義は、数列の全体像が一目でわかる「設計図」や「地図」に例えることができます。n=100 の値が知りたければ、式に代入するだけで \(a_{100} = 299\) と即座に分かります。

これに対し、本モジュールで学ぶ漸化式は、数列を全く異なる視点から定義します。

漸化式による定義(動的な定義):

いくつかの**最初の項(初期条件)**と、隣り合う項の間に成り立つ関係式の二つをセットにして数列を定義する方法。

例:

  • 初期条件:\( a_1 = 2 \)
  • 関係式:\( a_{n+1} = a_n + 3 \) (n=1, 2, 3, ...)

この定義は、「最初の場所」と「次の場所への行き方」を示した「道案内」に例えることができます。\(a_2\) の値は \(a_1\) を使って \(a_2 = a_1 + 3 = 2+3 = 5\) と計算できます。\(a_3\) の値は \(a_2\) を使って \(a_3 = a_2+3 = 5+3=8\) と計算できます。このように、一歩一歩、項を順にたどっていくことで数列が生成されます。\(a_{100}\) の値を直接知ることはできませんが、\(a_1\) から \(a_{99}\) までが分かっていれば計算できる、という構造になっています。

この関係式のことを漸化式 (recurrence relation) と呼びます。

1.2. 漸化式の構成要素

漸化式によって一つの数列を完全に定めるためには、二つの要素が不可欠です。

  1. 初期条件 (Initial Condition(s)):数列の出発点となる、いくつかの項の値。通常は初項 \(a_1\) が与えられますが、関係式によっては \(a_1\) と \(a_2\) の二つが必要になることもあります。初期条件がなければ、関係式だけでは具体的な数列は一つに定まりません。例えば、\( a_{n+1} = a_n + 3 \) という関係式だけでは、初項が2の数列 2, 5, 8, … なのか、初項が10の数列 10, 13, 16, … なのか区別がつきません。
  2. 漸化式 (Recurrence Relation):\(a_n, a_{n+1}, a_{n+2}, \dots\) といった、隣接するいくつかの項の間に成り立つ関係式。これが数列の生成ルール、すなわちダイナミクスを規定します。

1.3. 最も基本的な漸化式:等差数列と等比数列

実は、私たちはすでに最も基本的な漸化式を学んでいます。Module 1で学んだ等差数列と等比数列の定義は、まさに漸化式の言葉で表現することができます。

等差数列の漸化式

数列 \({a_n}\) が初項 a、公差 d の等差数列であることは、次の初期条件と漸化式で定義されます。

  • 初期条件:\( a_1 = a \)
  • 漸化式:\( a_{n+1} = a_n + d \) (または \( a_{n+1} – a_n = d \))

これは「次の項は、現在の項に定数 d を足したものである」という関係を示しています。

等比数列の漸化式

数列 \({a_n}\) が初項 a、公比 r の等比数列であることは、次の初期条件と漸化式で定義されます。

  • 初期条件:\( a_1 = a \)
  • 漸化式:\( a_{n+1} = r \cdot a_n \) (または \( a_{n+1}/a_n = r \))

これは「次の項は、現在の項に定数 r を掛けたものである」という関係を示しています。

1.4. 「漸化式を解く」とは?

漸化式の学習における中心的な課題は、「漸化式を解く」ことです。

これは、動的な定義(初期条件と漸化式)で与えられた数列の、静的な定義(一般項 \(a_n\))を求めることを意味します。

動的な定義は、数列の項を一つずつ生成するには便利ですが、n が大きいとき、例えば第1000項の値を求めるには999回の計算が必要となり、非常に非効率です。もし一般項が分かっていれば、n=1000 を代入するだけで済みます。

漸化式を解くという作業は、いわば「道案内」の情報から「地図」全体を復元する作業に例えられます。この復元作業には、様々なパターンに応じたテクニックが存在します。次節以降では、その代表的なテクニックを一つずつ学んでいきます。

2. 二項間漸化式の基本形とその解法

漸化式の中で最も基本的かつ重要なのが、隣り合う2つの項 \(a_{n+1}\) と \(a_n\) の関係だけで記述される二項間漸化式です。その中でも、特に頻出する基本形が \(a_{n+1} = p a_n + q\) の形です。

2.1. 基本形 \(a_{n+1} = p a_n + q\) の構造

この漸化式は、等差数列 \(a_{n+1} = a_n + q\) (p=1 の場合) と、等比数列 \(a_{n+1} = p a_n\) (q=0 の場合) の性質を併せ持った、いわば「ハイブリッド型」の構造をしています。

  • \(p a_n\) の部分:等比数列的な、拡大・縮小の要素
  • \(+ q\) の部分:等差数列的な、平行移動の要素

このままでは直接一般項を求めることはできません。そこで、私たちの目標は、この漸化式を巧妙な式変形によって、よく知る「等比数列」の形に帰着させることになります。

2.2. 解法の核心:等比数列への変形

もし、漸化式が次のような形に変形できたと想像してみてください。

\[ a_{n+1} – \alpha = p(a_n – \alpha) \]

ここで、\(\alpha\) は何か適当な定数です。

この式は、数列 \({a_n}\) の各項からある定数 \(\alpha\) を引いて作った新しい数列 \({b_n = a_n – \alpha}\) を考えると、

\[ b_{n+1} = p \cdot b_n \]

と書けることを意味しています。これは、数列 \({b_n}\) が公比 p の等比数列であることを示しています。

等比数列の一般項なら、私たちは求めることができます。

  • 数列 \({b_n}\) の初項は \( b_1 = a_1 – \alpha \)
  • 数列 \({b_n}\) の公比は pよって、その一般項は \( b_n = b_1 \cdot p^{n-1} = (a_1 – \alpha) p^{n-1} \) となります。

最後に、\( b_n = a_n – \alpha \) だったので、これを \(a_n\) について解けば、

\[ a_n = b_n + \alpha = (a_1 – \alpha) p^{n-1} + \alpha \]

となり、元の数列 \({a_n}\) の一般項が求められます。

2.3. 魔法の定数 \(\alpha\) の見つけ方

この解法の成否は、元の漸化式 \(a_{n+1} = p a_n + q\) を、目標の形 \(a_{n+1} – \alpha = p(a_n – \alpha)\) に変形できるような、都合の良い定数 \(\alpha\) を見つけられるかどうかにかかっています。

では、その \(\alpha\) はどうやって見つければよいのでしょうか。

目標の式 \(a_{n+1} – \alpha = p(a_n – \alpha)\) を展開して、元の式と比較してみましょう。

\( a_{n+1} = p a_n – p\alpha + \alpha = p a_n + (1-p)\alpha \)

これが、元の式 \(a_{n+1} = p a_n + q\) と完全に一致するためには、定数項の部分が等しくなければなりません。

\[ q = (1-p)\alpha \]

この \(\alpha\) に関する方程式を解けば、必要な \(\alpha\) の値が求まります。

もし \( p \neq 1 \) ならば、\( \alpha = \frac{q}{1-p} \) となります。

2.4. 特性方程式という近道

毎回この計算をするのは少し面倒です。実は、この \(\alpha\) を見つけるための、もっと簡単な方法があります。

元の漸化式 \(a_{n+1} = p a_n + q\) の \(a_{n+1}\) と \(a_n\) の両方を、ある変数 x で置き換えた方程式を考えます。

\[ x = px + q \]

この x についての方程式を解くと、

\( (1-p)x = q \)

\( x = \frac{q}{1-p} \) (ただし \(p \neq 1\))

となり、先ほど求めた \(\alpha\) の値と全く同じになります。

この補助的な方程式 \(x = px + q\) のことを、この漸化式の特性方程式 (characteristic equation) と呼びます。特性方程式を解くことで、等比数列に変形するために必要な「ずらす量」\(\alpha\) を機械的に見つけ出すことができるのです。

2.5. 解法のステップまとめ

漸化式 \(a_{n+1} = p a_n + q\) (p≠1) の解法

  1. Step 1: 特性方程式を解く\(a_{n+1}\) と \(a_n\) を x で置き換えた方程式 \(x = px + q\) を作り、その解を \(\alpha\) とする。
  2. Step 2: 漸化式を変形する元の漸化式を、\(a_{n+1} – \alpha = p(a_n – \alpha)\) の形に変形する。
  3. Step 3: 新しい数列の一般項を求める数列 \({b_n = a_n – \alpha}\) は、初項 \(b_1 = a_1 – \alpha\)、公比 p の等比数列である。その一般項 \(b_n = (a_1 – \alpha)p^{n-1}\) を求める。
  4. Step 4: 元の数列の一般項を求める\(a_n = b_n + \alpha\) の関係から、\(a_n = (a_1 – \alpha)p^{n-1} + \alpha\) を計算する。

【p=1 の場合】

もし \(p=1\) の場合、漸化式は \(a_{n+1} = a_n + q\) となり、これは公差 q の等差数列そのものです。したがって、一般項は \(a_n = a_1 + (n-1)q\) となります。

2.6. 計算演習

ミニケーススタディ

問題: \( a_1 = 3 \), \( a_{n+1} = 2a_n – 1 \) で定められる数列 \({a_n}\) の一般項を求めよ。

思考プロセス:

  1. Step 1: 特性方程式を解く\(p=2, q=-1\) の形。特性方程式は \(x = 2x – 1\)。これを解くと、\(-x = -1 \implies x = 1\)。よって \(\alpha = 1\)。
  2. Step 2: 漸化式を変形する元の漸化式は \(a_{n+1} – 1 = 2(a_n – 1)\) の形に変形できる。(検算:右辺を展開すると \(2a_n – 2\)。\(-1\) を移項して \(a_{n+1} = 2a_n – 1\)。元の式に戻ることを確認。)
  3. Step 3: 新しい数列の一般項を求める新しい数列 \({b_n = a_n – 1}\) を考える。この数列は公比 2 の等比数列である。初項は \(b_1 = a_1 – 1 = 3 – 1 = 2\)。よって、\(b_n\) の一般項は \(b_n = 2 \cdot 2^{n-1} = 2^n\)。
  4. Step 4: 元の数列の一般項を求める\( a_n – 1 = b_n = 2^n \)したがって、\( a_n = 2^n + 1 \)。

解答: \( a_n = 2^n + 1 \)

この「特性方程式を用いて等比数列に帰着させる」という手法は、二項間漸化式を解く上での最も基本的かつ強力な戦略です。

3. 特性方程式

前節で、漸化式 \(a_{n+1} = p a_n + q\) を解くための鍵として、補助的な方程式 \(x = px + q\) が登場しました。この方程式を特性方程式 (characteristic equation) と呼びます。このセクションでは、特性方程式が持つ意味と、その役割についてさらに深く掘り下げていきます。

3.1. 特性方程式とは何か?―その役割の再確認

特性方程式は、漸化式を解くための「道具」です。その主な役割は、元の漸化式を等比数列の形 \(a_{n+1} – \alpha = p(a_n – \alpha)\) へと変形するために必要な、適切な定数 \(\alpha\) を見つけ出すことです。

なぜ \(a_{n+1}\) と \(a_n\) を x に置き換えるとうまくいくのでしょうか。

\( a_{n+1} = p a_n + q \) … (1)

\( \alpha = p \alpha + q \) … (2) (特性方程式の解 \(\alpha\) はこの式を満たす)

(1) – (2) を計算すると、

\( a_{n+1} – \alpha = (p a_n – p \alpha) + (q – q) \)

\( a_{n+1} – \alpha = p(a_n – \alpha) \)

となり、目標としていた等比数列の形が自動的に導かれます。

つまり、特性方程式を解くという行為は、この引き算を実行して q を消去し、美しい等比数列の形を作り出すための準備作業に他ならないのです。

3.2. 特性方程式の解が持つ幾何学的な意味

特性方程式の解 \(\alpha\) には、興味深い幾何学的な解釈があります。

数列の項の推移を、関数 f(x) = px + q を使って考えてみましょう。漸化式は \(a_{n+1} = f(a_n)\) と書けます。

これは、\(a_n\) という値を関数 f に入力すると、次の値 \(a_{n+1}\) が出力される、というプロセスを繰り返していることを意味します。

では、特性方程式 \(x = px + q\) すなわち \(x = f(x)\) の解 \(x=\alpha\) は何を意味するでしょうか。

これは、関数 f に入力しても値が変化しない点、いわゆる不動点 (fixed point) を表しています。

もし、ある項 \(a_k\) がたまたま \(\alpha\) になったとしたら、次の項 \(a_{k+1}\) は \(f(a_k) = f(\alpha) = \alpha\) となり、その次の \(a_{k+2}\) も \(\alpha\) となります。つまり、一度 \(\alpha\) に到達すると、数列は永遠にその値を取り続ける「安定状態」になるのです。

漸化式を解く際に \({a_n – \alpha}\) という数列を考えたのは、この「安定状態 \(\alpha\) からのズレ」がどのように変化していくかに注目した、と解釈することができます。そして、その「ズレ」が公比 p で変化する等比数列になる、というのが前節の結論だったわけです。

  • |p| < 1 の場合:ズレは 0 に収束していく。つまり、\(a_n\) は不動点 \(\alpha\) に近づいていきます。
  • |p| > 1 の場合:ズレは発散していく。つまり、\(a_n\) は不動点 \(\alpha\) から遠ざかっていきます。

このように、特性方程式の解は、単なる計算上の道具であるだけでなく、その数列の長期的な振る舞いを理解する上での中心的な役割を果たす、重要な値なのです。

3.3. 「特性方程式」という名前の由来(発展)

「特性」という言葉は、数学や物理学の様々な分野で、そのシステムの本質的な性質を決定づける方程式や値に対して使われます。例えば、行列の分野では「特性方程式」と「固有値」が登場し、微分方程式の分野でも同様の概念が現れます。

実は、これらの概念は全て深く関連しています。

二項間漸化式 \(a_{n+1} = p a_n + q\) は、線形代数の言葉を使えば1次元のアフィン変換と見なせます。そして、その不動点を求める操作が、特性方程式を解くことに対応します。

後で学ぶ三項間漸化式の特性方程式 \(x^2 + px + q = 0\) は、その漸化式を行列で表現した際の、行列の特性方程式(固有値を求めるための方程式)と一致します。

高校数学の段階でこれらの背景を完全に理解する必要はありませんが、「特性方程式」というものが、単なるその場しのぎのテクニックではなく、より広範な数学の理論に根差した、本質的な概念であると感じておくことは、知的好奇心を刺激し、学習を深める上で有益でしょう。

4. 三項間漸化式の基本形とその解法

二項間漸化式からステップアップし、今度は隣り合う3つの項 \(a_{n+2}, a_{n+1}, a_n\) の関係で記述される三項間漸化式の解法を探求します。代表的な形は次の通りです。

\[ a_{n+2} + p a_{n+1} + q a_n = 0 \quad (q \neq 0) \]

(または \(a_{n+2} = p’ a_{n+1} + q’ a_n\) の形)

このタイプの漸化式を解く鍵もまた、特性方程式にあります。

4.1. 三項間漸化式の特性方程式

二項間の場合、\(a_{n+1}\) を x, \(a_n\) を 1 に置き換えるイメージで \(x=px+q\) を作りました。

三項間の場合は、これを拡張し、\(a_{n+2}\) を \(x^2\), \(a_{n+1}\) を x, \(a_n\) を 1 に置き換えた二次方程式を考えます。

三項間漸化式の特性方程式

漸化式 \( a_{n+2} + p a_{n+1} + q a_n = 0 \) に対する特性方程式は、

\[ x^2 + px + q = 0 \]

この二次方程式の解を利用して、元の漸化式を等比数列の形に変形することが目標となります。二次方程式なので、解の個数や種類によって、解法のパターンが分かれます。

4.2. ケース1:特性方程式が異なる二つの実数解 \(\alpha, \beta\) を持つ場合

これが最も基本的なパターンです。

特性方程式 \(x^2 + px + q = 0\) の解が \(x = \alpha, \beta\) (\(\alpha \neq \beta\)) であるとします。

解と係数の関係から、\( \alpha + \beta = -p \) かつ \( \alpha\beta = q \) が成り立ちます。

これを使って、元の漸化式 \( a_{n+2} = -p a_{n+1} – q a_n \) を変形します。

\( a_{n+2} = (\alpha+\beta)a_{n+1} – \alpha\beta a_n \)

この式を、巧妙に二通りの方法で変形します。

変形A: \(\beta a_{n+1}\) を移項する

\( a_{n+2} – \beta a_{n+1} = \alpha a_{n+1} – \alpha\beta a_n = \alpha (a_{n+1} – \beta a_n) \)

この式は何を意味しているでしょうか?

数列 \({b_n = a_{n+1} – \beta a_n}\) を考えると、\( b_{n+1} = \alpha b_n \) となっています。

つまり、数列 \({a_{n+1} – \beta a_n}\) は、公比 \(\alpha\) の等比数列です。

変形B: \(\alpha a_{n+1}\) を移項する

\( a_{n+2} – \alpha a_{n+1} = \beta a_{n+1} – \alpha\beta a_n = \beta (a_{n+1} – \alpha a_n) \)

同様に、数列 \({c_n = a_{n+1} – \alpha a_n}\) を考えると、\( c_{n+1} = \beta c_n \) となっています。

つまり、数列 \({a_{n+1} – \alpha a_n}\) は、公比 \(\beta\) の等比数列です。

これで、未知の数列 \({a_n}\) の問題が、二つの既知の等比数列 \({b_n}\), \({c_n}\) の問題に分解されました。

それぞれの一般項を求めましょう。

  • \( a_{n+1} – \beta a_n = (a_2 – \beta a_1)\alpha^{n-1} \) … (1)
  • \( a_{n+1} – \alpha a_n = (a_2 – \alpha a_1)\beta^{n-1} \) … (2)

あとは、この二つの式を \(a_{n+1}\) と \(a_n\) に関する連立方程式と見なして解けば、\(a_n\) の一般項が求まります。

(1) – (2) を計算すると、\(a_{n+1}\) の項が消えます。

\( (\alpha – \beta)a_n = (a_2 – \beta a_1)\alpha^{n-1} – (a_2 – \alpha a_1)\beta^{n-1} \)

\(\alpha \neq \beta\) なので、両辺を \(\alpha – \beta\) で割れば \(a_n\) が求まります。

結果は \( A\alpha^{n-1} + B\beta^{n-1} \) のような形になります。

4.3. ケース2:特性方程式が重解 \(\alpha\) を持つ場合

次に、特性方程式 \(x^2 + px + q = 0\) が \((x-\alpha)^2 = 0\) となり、重解 \(x=\alpha\) を持つ場合を考えます。

このとき、解と係数の関係から \( 2\alpha = -p \) かつ \( \alpha^2 = q \) です。

元の漸化式は \( a_{n+2} = 2\alpha a_{n+1} – \alpha^2 a_n \) と書けます。

この式を変形すると、

\( a_{n+2} – \alpha a_{n+1} = \alpha a_{n+1} – \alpha^2 a_n = \alpha (a_{n+1} – \alpha a_n) \)

となります。

これは、数列 \({b_n = a_{n+1} – \alpha a_n}\) を考えると、\(b_{n+1} = \alpha b_n\) が成り立つことを意味します。

よって、数列 \({b_n}\) は初項 \(b_1 = a_2 – \alpha a_1\)、公比 \(\alpha\) の等比数列です。

その一般項は \( b_n = (a_2 – \alpha a_1)\alpha^{n-1} \) となります。

さて、\(b_n\) が分かったので、元の関係式は

\[ a_{n+1} – \alpha a_n = (a_2 – \alpha a_1)\alpha^{n-1} \]

となります。これは \(a_n\) に関する二項間漸化式ですが、右辺に n の式が含まれているため、単純な \(a_{n+1} = pa_n + q\) の形ではありません。

このような漸化式を解くには、両辺を \(\alpha^{n+1}\) で割る、というテクニックが有効です。

\[ \frac{a_{n+1}}{\alpha^{n+1}} – \frac{\alpha a_n}{\alpha^{n+1}} = \frac{(a_2 – \alpha a_1)\alpha^{n-1}}{\alpha^{n+1}} \]

\[ \frac{a_{n+1}}{\alpha^{n+1}} – \frac{a_n}{\alpha^n} = \frac{a_2 – \alpha a_1}{\alpha^2} \]

ここで、\( c_n = \frac{a_n}{\alpha^n} \) と新しい数列 \({c_n}\) を考えると、

\[ c_{n+1} – c_n = \frac{a_2 – \alpha a_1}{\alpha^2} \quad (\text{定数}) \]

これは、数列 \({c_n}\) が等差数列であることを示しています。

\({c_n}\) の初項は \( c_1 = a_1/\alpha \)、公差は \( d = \frac{a_2 – \alpha a_1}{\alpha^2} \) です。

よって、\({c_n}\) の一般項は \( c_n = c_1 + (n-1)d \) で求まります。

最後に、\( a_n = c_n \cdot \alpha^n \) の関係から \(a_n\) を求めます。

結果は \( a_n = (An + B)\alpha^n \) という形になります。

4.4. 計算演習

ミニケーススタディ(異なる2解)

問題: \( a_1=1, a_2=5, a_{n+2} – 5a_{n+1} + 6a_n = 0 \) で定められる数列 \({a_n}\) の一般項を求めよ。

思考プロセス:

  1. 特性方程式を立てて解く:\( x^2 – 5x + 6 = 0 \)\( (x-2)(x-3) = 0 \)解は \(x=2, 3\)。異なる二つの実数解のパターン。\(\alpha=3, \beta=2\) とする。
  2. 二通りの変形を行う:
    • 変形A: \( a_{n+2} – 2a_{n+1} = 3(a_{n+1} – 2a_n) \)
    • 変形B: \( a_{n+2} – 3a_{n+1} = 2(a_{n+1} – 3a_n) \)
  3. 二つの等比数列の一般項を求める:
    • 数列 \({a_{n+1} – 2a_n}\) は公比 3 の等比数列。初項は \( a_2 – 2a_1 = 5 – 2(1) = 3 \)。よって、\( a_{n+1} – 2a_n = 3 \cdot 3^{n-1} = 3^n \) … (1)
    • 数列 \({a_{n+1} – 3a_n}\) は公比 2 の等比数列。初項は \( a_2 – 3a_1 = 5 – 3(1) = 2 \)。よって、\( a_{n+1} – 3a_n = 2 \cdot 2^{n-1} = 2^n \) … (2)
  4. 連立方程式を解いて a_n を求める:(1) – (2) を計算する。\( (a_{n+1} – 2a_n) – (a_{n+1} – 3a_n) = 3^n – 2^n \)\( a_n = 3^n – 2^n \)

解答: \( a_n = 3^n – 2^n \)

三項間漸化式の解法は、計算のステップが多く複雑に見えますが、その根底にあるのは「特性方程式を利用して、既知の等比数列の問題に分解・帰着させる」という、二項間の場合と共通する戦略です。

5. 様々な形の漸化式の解法(置換、対数をとるなど)

これまでに学んだ \(a_{n+1}=pa_n+q\) や \(a_{n+2}+pa_{n+1}+qa_n=0\) といった線形の漸化式は、解法の定石が確立されています。しかし、入試などで登場する漸化式は、一見するとこれらの基本形には当てはまらない、より複雑な形をしていることが少なくありません。

このような非線形、あるいは複雑な形の漸化式に立ち向かうための強力な戦略が、**「適切な変換を施すことで、既知の基本形に帰着させる」**というものです。ここでは、その代表的な変換テクニックである「置換」と「対数をとる」方法を中心に学びます。

5.1. テクニック1:階差数列の利用 (\(a_{n+1}=pa_n+f(n)\) 型)

漸化式が \(a_{n+1} = a_n + f(n)\) の形をしている場合、これは数列 \({a_n}\) の階差数列が \({f(n)}\) であることを意味します。これはセクション3で学んだ通り、\( a_n = a_1 + \sum_{k=1}^{n-1} f(k) \) で解くことができます。

では、\(a_{n+1} = p a_n + f(n)\) のように p が 1 でない場合はどうでしょうか。

もし \(f(n)\) が n の多項式であれば、両辺の階差をとる、すなわち \(a_{n+2} – a_{n+1}\) を計算することで、より簡単な漸化式に変換できることがあります。

\( a_{n+2} = p a_{n+1} + f(n+1) \)

\( a_{n+1} = p a_n + f(n) \)

辺々引くと、

\( a_{n+2} – a_{n+1} = p(a_{n+1} – a_n) + {f(n+1)-f(n)} \)

ここで \(b_n = a_{n+1} – a_n\) と置くと、

\( b_{n+1} = p b_n + g(n) \) (ただし \(g(n) = f(n+1)-f(n)\))

もし \(f(n)\) が d 次式なら、\(g(n)\) は d-1 次式となり、式の次数が下がります。この操作を繰り返すことで、最終的に解ける形に帰着させることができます。

5.2. テクニック2:対数をとる (指数・累乗の形)

漸化式の中に、指数や累乗の形で項が含まれている場合、両辺の対数をとることで、乗除の演算を加減の演算に変換し、線形な漸化式に帰着させることができます。

パターンA:\(a_{n+1} = p \cdot a_n^q\) 型

問題: \(a_1=2, a_{n+1} = 2a_n^3\) の一般項を求めよ。

思考プロセス:

  1. 変換: \(a_n^3\) という累乗の形があるので、対数をとるのが有効と判断。底は係数の 2 に合わせて 2 を選択するのが便利。
  2. 対数をとる:\( \log_2 a_{n+1} = \log_2 (2a_n^3) \)対数の性質を使って右辺を分解する。\( \log_2 a_{n+1} = \log_2 2 + \log_2 (a_n^3) \)\( \log_2 a_{n+1} = 1 + 3 \log_2 a_n \)
  3. 置換: ここで、\(b_n = \log_2 a_n\) と置換する。すると、漸化式は \( b_{n+1} = 3b_n + 1 \) となる。
  4. 基本形を解く: これは見慣れた二項間漸化式の基本形。特性方程式は \(x = 3x+1 \implies -2x=1 \implies x=-1/2\)。よって、\( b_{n+1} + 1/2 = 3(b_n + 1/2) \)。数列 \({b_n + 1/2}\) は公比 3 の等比数列。初項は \(b_1 + 1/2 = \log_2 a_1 + 1/2 = \log_2 2 + 1/2 = 1 + 1/2 = 3/2\)。したがって、\( b_n + 1/2 = \frac{3}{2} \cdot 3^{n-1} = \frac{1}{2} \cdot 3^n \)。\( b_n = \frac{1}{2} \cdot 3^n – \frac{1}{2} \)。
  5. 元に戻す: \(b_n\) を \(a_n\) に戻す。\( \log_2 a_n = \frac{1}{2}(3^n – 1) \)対数の定義から、\( a_n = 2^{\frac{1}{2}(3^n – 1)} \)。

5.3. テクニック3:逆数をとる (分数形)

漸化式が分数の形をしている特定のパターンでは、両辺の逆数をとることで、線形の漸化式に変換できます。

パターンB:\(a_{n+1} = \frac{a_n}{pa_n+q}\) 型

問題: \(a_1=1, a_{n+1} = \frac{a_n}{3a_n+1}\) の一般項を求めよ。

思考プロセス:

  1. 変換: 分子も分母も \(a_n\) を含む分数形。逆数をとる戦略を試す。
  2. 逆数をとる:\( \frac{1}{a_{n+1}} = \frac{3a_n+1}{a_n} = \frac{3a_n}{a_n} + \frac{1}{a_n} = 3 + \frac{1}{a_n} \)
  3. 置換: ここで、\(b_n = \frac{1}{a_n}\) と置換する。すると、漸化式は \( b_{n+1} = b_n + 3 \) となる。
  4. 基本形を解く: これは公差 3 の等差数列。初項は \(b_1 = \frac{1}{a_1} = \frac{1}{1} = 1\)。したがって、\(b_n\) の一般項は \( b_n = 1 + (n-1)3 = 3n – 2 \)。
  5. 元に戻す: \(b_n\) を \(a_n\) に戻す。\( \frac{1}{a_n} = 3n – 2 \)よって、\( a_n = \frac{1}{3n-2} \)。

5.4. その他の分数形

分数形の漸化式は様々なパターンがあり、逆数をとるだけではうまくいかない場合もあります。

例えば、\(a_{n+1} = \frac{pa_n+q}{ra_n+s}\) のような一般形は、特性方程式 \(x = \frac{px+q}{rx+s}\) の解を利用して、\( \frac{1}{a_{n+1}-\alpha} \) などを考えることで解ける場合がありますが、これは非常に発展的な内容です。

重要なのは、「式の特徴を見抜き、それを単純化するような変換(対数、逆数など)は何か?」と試行錯誤する姿勢です。未知の漸化式に出会ったとき、これらの変換テクニックは、問題を既知の領域に引き込むための強力な武器となります。

6. 連立漸化式

これまでは一つの数列 \({a_n}\) のみの関係式を扱ってきましたが、現実の多くのシステムでは、複数の要素が互いに影響を及ぼし合いながら変化していきます。このような状況は、二つの数列 \({a_n}\) と \({b_n}\) が連動して変化する連立漸化式 (system of recurrence relations) によってモデル化されます。

典型的な形は、次のような線形のものです。

\[ a_{n+1} = p a_n + q b_n \]

\[ b_{n+1} = r a_n + s b_n \]

(\(p, q, r, s\) は定数)

この連立漸化式を解き、\(a_n\) と \(b_n\) の一般項を求めるには、主に二つの戦略があります。

6.1. 戦略1:一文字消去による三項間漸化式への帰着

この方法は、通常の連立方程式で一文字消去を行うのと同様の発想に基づいています。目標は、\(b_n\) を消去して \(a_n\) だけの漸化式を作り出すことです。

解法ステップ

  1. 式を準備する:\( a_{n+1} = p a_n + q b_n \) … (1)\( b_{n+1} = r a_n + s b_n \) … (2)
  2. \(b_n\) を \(a\) の式で表現する:式(1)を変形して、\(b_n\) を \(a_{n+1}\) と \(a_n\) で表します。(ただし \(q \neq 0\))\( q b_n = a_{n+1} – p a_n \)\( b_n = \frac{1}{q}(a_{n+1} – p a_n) \) … (3)
  3. \(b_{n+1}\) も同様に表現する:式(3)の n を n+1 に置き換えることで、\( b_{n+1} = \frac{1}{q}(a_{n+2} – p a_{n+1}) \) … (4)
  4. 代入して \(b\) を消去する:\(b_n\) と \(b_{n+1}\) の表現である式(3), (4)を、元の式(2)に代入します。\( \frac{1}{q}(a_{n+2} – p a_{n+1}) = r a_n + s \cdot \frac{1}{q}(a_{n+1} – p a_n) \)
  5. 整理して三項間漸化式を得る:両辺に q を掛けて整理します。\( a_{n+2} – p a_{n+1} = qr a_n + s(a_{n+1} – p a_n) \)\( a_{n+2} – (p+s)a_{n+1} + (ps-qr)a_n = 0 \)これは、\(a_n\) に関する三項間漸化式です。あとは、セクション4で学んだ方法(特性方程式 \(x^2 – (p+s)x + (ps-qr) = 0\) を解く)に従って \(a_n\) の一般項を求めることができます。
  6. \(b_n\) の一般項を求める:\(a_n\) の一般項が求まれば、それを式(3)に代入することで、\(b_n\) の一般項も計算できます。

この方法は確実ですが、計算がやや煩雑になる傾向があります。

6.2. 戦略2:等比数列を作り出す線形結合

よりエレガントな方法として、\(a_n\) と \(b_n\) の線形結合 \(a_n + k b_n\) の形で、都合よく等比数列になるような新しい数列を作り出す、というものがあります。

解法アイデア

新しい数列 \({c_n = a_n + k b_n}\) を考えます。この数列が公比 \(\lambda\) の等比数列になる、すなわち \(c_{n+1} = \lambda c_n\) が成り立つような、都合の良い k と \lambda のペアを見つけたい。

\( c_{n+1} = a_{n+1} + k b_{n+1} \)

ここに元の漸化式を代入すると、

\( = (p a_n + q b_n) + k(r a_n + s b_n) \)

\( = (p+kr)a_n + (q+ks)b_n \)

一方、\( \lambda c_n = \lambda(a_n + k b_n) = \lambda a_n + \lambda k b_n \) です。

この二つの式が恒等的に等しくなるためには、\(a_n\) と \(b_n\) の係数がそれぞれ一致する必要があります。

\( p+kr = \lambda \)

\( q+ks = \lambda k \)

この連立方程式から \lambda を消去すると、k に関する二次方程式が得られ、それを解くことで適切な k が(通常は二つ)見つかります。

しかし、この方法は少し技巧的です。より見通しの良い方法は、行列の固有値の考え方(セクション9で詳述)につながります。

6.3. 計算演習

ミニケーススタディ

問題: \( a_1=2, b_1=1 \) で、\( a_{n+1}=a_n+b_n, b_{n+1}=a_n-b_n \) を満たす数列 \({a_n}, {b_n}\) の一般項を求めよ。

思考プロセス(戦略1を使用):

  1. 式を準備:\( a_{n+1} = a_n + b_n \) … (1)\( b_{n+1} = a_n – b_n \) … (2)
  2. \(b_n\) を表現: (1)より \( b_n = a_{n+1} – a_n \) … (3)
  3. \(b_{n+1}\) を表現: (3)より \( b_{n+1} = a_{n+2} – a_{n+1} \) … (4)
  4. 代入: (3), (4)を(2)に代入。\( a_{n+2} – a_{n+1} = a_n – (a_{n+1} – a_n) \)
  5. 整理:\( a_{n+2} – a_{n+1} = 2a_n – a_{n+1} \)\( a_{n+2} = 2a_n \) または \( a_{n+2} – 2a_n = 0 \)これは少し特殊な三項間漸化式です。特性方程式は \(x^2 – 2 = 0\)、解は \(x=\pm\sqrt{2}\)。よって、\(a_n\) の一般項は \( a_n = A(\sqrt{2})^n + B(-\sqrt{2})^n \) の形になります。
  6. 初期条件からA, Bを決定:\( a_1 = A\sqrt{2} – B\sqrt{2} = 2 \)\( a_2 \) を計算する必要がある。元の式から \( a_2 = a_1 + b_1 = 2+1 = 3 \)。\( a_2 = A(\sqrt{2})^2 + B(-\sqrt{2})^2 = 2A + 2B = 3 \)連立方程式\( \sqrt{2}(A-B) = 2 \implies A-B = \sqrt{2} \)\( 2(A+B) = 3 \implies A+B = 3/2 \)を解くと、\( A = \frac{3+2\sqrt{2}}{4}, B = \frac{3-2\sqrt{2}}{4} \)。よって、\( a_n = \frac{3+2\sqrt{2}}{4}(\sqrt{2})^n + \frac{3-2\sqrt{2}}{4}(-\sqrt{2})^n \)。
  7. \(b_n\) を求める: (3)に代入する。計算は複雑なので省略しますが、同様に求まります。

連立漸化式は、複数の要素が絡み合う動的なシステムを記述する基本的なモデルです。その解法は、一見複雑な系を、より単純な既知のコンポーネント(三項間漸化式や等比数列)に分解・帰着させるという、数学の重要な思考法を訓練する良い題材となります。

7. 確率漸化式

漸化式は、ある操作を繰り返し行ったときの状態の推移を記述するのに非常に適したツールです。特に、その操作が確率的に決まる場合、確率漸化式 (probabilistic recurrence relation) を用いることで、n 回目の試行後にある状態である確率を求めることができます。

7.1. 確率漸化式の考え方

確率漸化式の問題では、通常、いくつかの状態(例:点Aにいる、点Bにいる、白玉を引く、赤玉を引く)が登場します。

私たちが求めたいのは、「n 回目の試行後に、ある特定の状態 X にいる確率 \(P_n\)」です。

これを求めるための基本的な考え方は、以下の通りです。

状態遷移の図式化と立式

n+1 回目に状態 X にいるためには、n 回目の時点でどの状態にいなければならなかったか?を考え、場合分けして確率を足し合わせます。

\[ P_{n+1} = (\text{n回後に状態Aにいて、そこからXに移る確率}) \]

\[ + (\text{n回後に状態Bにいて、そこからXに移る確率}) \]

\[ + \dots \]

これを数式で書くと、

\[ P_{n+1} = P_A(n) \cdot P(A \to X) + P_B(n) \cdot P(B \to X) + \dots \]

となります。ここで、\(P_S(n)\) は n 回後に状態 S にいる確率、\(P(S \to X)\) は状態 S から状態 X へ1回の試行で遷移する確率(推移確率)です。

7.2. 典型的な問題パターン

多くの場合、状態は二つしかなく、全ての確率の和が 1 になるという事実(全事象の確率)をうまく利用します。

ミニケーススタディ

問題:

数直線上の点Pが、原点 O から出発する。1枚の硬貨を投げ、表が出れば +1、裏が出れば -1 だけ移動する。

(1) n 回硬貨を投げた後、点Pの座標が偶数である確率を \(P_n\) とする。\(P_{n+1}\) を \(P_n\) で表せ。

(2) \(P_n\) を求めよ。

思考プロセス:

(1) 漸化式を立てる

n+1 回後に座標が偶数になるのは、どのような場合かを考えます。

そのためには、n 回後の状態を場合分けする必要があります。

  • 場合1:n 回後に座標が偶数であった場合このときの確率は \(P_n\)。n+1 回後に偶数になるためには、ここから +1 または -1 の移動をした結果が偶数でなければならない。(偶数) + (奇数) = (奇数)なので、この場合、n+1 回後の座標は必ず奇数になる。つまり、n 回後偶数 ⇒ n+1 回後偶数 という遷移は起こらない。遷移確率は 0。
  • 場合2:n 回後に座標が奇数であった場合n 回後に座標が奇数である確率はいくらか?座標は偶数か奇数しかないので、これは 1 – P_n と表せる。(全事象の確率を利用)n+1 回後に偶数になるためには、ここから +1 または -1 の移動をした結果が偶数でなければならない。(奇数) + (奇数) = (偶数)なので、この場合、n+1 回後の座標は必ず偶数になる。つまり、n 回後奇数 ⇒ n+1 回後偶数 という遷移は必ず起こる。遷移確率は 1。

以上をまとめて、n+1 回後に偶数である確率 \(P_{n+1}\) は、

\[ P_{n+1} = (\text{n回後偶数}) \times 0 + (\text{n回後奇数}) \times 1 \]

\[ P_{n+1} = P_n \cdot 0 + (1 – P_n) \cdot 1 \]

\[ P_{n+1} = 1 – P_n \]

これが求める漸化式です。

(見方を変えると、\( P_{n+1} = -P_n + 1 \) であり、これは二項間漸化式の基本形 \(a_{n+1}=pa_n+q\) の一種です)

(2) 漸化式を解く

漸化式 \( P_{n+1} = -P_n + 1 \) を解きます。

  • 初期条件: n=0 のとき(出発時)、Pの座標は 0(偶数)なので、\(P_0=1\)。(注:問題によっては n=1 から考える。n=1 のとき、座標は +1 か -1 で必ず奇数。よって P_1=0)ここでは \(P_1=0\) からスタートします。
  • 特性方程式: \( x = -x + 1 \implies 2x=1 \implies x=1/2 \)。
  • 変形: \( P_{n+1} – 1/2 = -1 \cdot (P_n – 1/2) \)。
  • 新しい数列: 数列 \({P_n – 1/2}\) は公比 -1 の等比数列。初項は \( P_1 – 1/2 = 0 – 1/2 = -1/2 \)。
  • 一般項:\( P_n – 1/2 = (-\frac{1}{2}) \cdot (-1)^{n-1} = \frac{1}{2} \cdot (-1) \cdot (-1)^{n-1} = \frac{1}{2}(-1)^n \)
  • 最終的な解:\( P_n = \frac{1}{2} + \frac{1}{2}(-1)^n \)

解答:

(1) \( P_{n+1} = 1 – P_n \)

(2) \( P_n = \frac{1}{2} {1 + (-1)^n} \)

(この結果は、n が偶数なら \(P_n=1\)、n が奇数なら \(P_n=0\) となることを意味しており、直感的にも正しいことが分かります。)

確率漸化式は、問題文の状況を正確に把握し、「n 回目の状態」と「n+1 回目の状態」の関係性を過不足なく定式化する能力が問われます。一度、二項間漸化式に帰着させてしまえば、あとはこれまでに学んだテクニックで解くことができます。

8. 図形と漸化式

数列は代数的な概念ですが、その応用範囲は図形問題(幾何学)にも及びます。図形の個数、領域の数、長さや面積の推移など、ある操作を繰り返すことで変化していく幾何学的な量を、漸化式を用いて解析することができます。

8.1. 図形問題に潜む漸化的な構造

図形問題で漸化式を立てる際の基本的なアプローチは、確率漸化式と似ています。

図形問題における漸化式の立式

n 番目のステップの状態 \(a_n\) が分かっているとして、n+1 番目のステップで何が付け加わり、状態がどのように変化するかを考え、\(a_{n+1}\) を \(a_n\) の式で表す。

多くの場合、これは「n 個で構成された図形に、n+1 個目の要素を加えたとき、元の量 \(a_n\) がいくつ増えるか?」という形で、階差数列 \(b_n = a_{n+1} – a_n\) を考えることに繋がります。

8.2. パターン1:平面の分割

問題:

平面上に n 本の直線があり、どの2本も平行でなく、どの3本も1点で交わらないとする。これらの直線によって、平面は \(a_n\) 個の領域に分割される。\(a_n\) の一般項を求めよ。

思考プロセス:

  1. 初期状態を調べる:
    • n=1: 1本の直線は平面を2つの領域に分ける。\(a_1=2\)。
    • n=2: 2本の直線は4つの領域に分ける。\(a_2=4\)。
    • n=3: 3本の直線は7つの領域に分ける。\(a_3=7\)。数列は 2, 4, 7, … となり、階差数列は 2, 3, … となっていることから、階差が n+1 になるのではと推測できる。
  2. n から n+1 への推移を考える:n 本の直線によって平面が \(a_n\) 個の領域に分割されている状態を考える。ここに、n+1 本目の新しい直線を引く。この新しい直線は、既存の n 本の直線と、それぞれ1回ずつ、合計 n 個の異なる点で交わる。n 個の交点によって、この新しい直線自身が n+1 個の線分(または半直線)に分割される。これらの n+1 個の線分は、それぞれが既存の領域を2つに引き裂く役割を果たす。つまり、新しい直線を1本加えることで、領域は新たに n+1 個増えることになる。
  3. 漸化式を立てる:以上の考察から、次の関係式が成り立つ。\[ a_{n+1} = a_n + (n+1) \]これは、階差数列 \(b_n = a_{n+1} – a_n\) が \(b_n = n+1\) であることを意味する。
  4. 漸化式を解く:n \geq 2 のとき、\( a_n = a_1 + \sum_{k=1}^{n-1} b_k = a_1 + \sum_{k=1}^{n-1} (k+1) \)\( a_1 = 2 \) であり、\( \sum_{k=1}^{n-1} (k+1) = \sum_{k=1}^{n-1} k + \sum_{k=1}^{n-1} 1 \)\( = \frac{1}{2}(n-1)n + (n-1) \)\( = (n-1)(\frac{n}{2} + 1) = \frac{(n-1)(n+2)}{2} \)よって、\( a_n = 2 + \frac{n(n-1)}{2} + (n-1) = 2 + \frac{n^2-n+2n-2}{2} = \frac{4+n^2+n-2}{2} = \frac{n^2+n+2}{2} \)n=1 のとき、\(a_1 = (1+1+2)/2 = 2\)。一致するので、この式は全ての n で成り立つ。

解答: \( a_n = \frac{n^2+n+2}{2} \)

8.3. パターン2:数え上げ(場合の数)

問題:

n 個の点を円周上に等間隔にとり、それらを互いに線分で結ぶ。ただし、円の内部で3本以上の線分が1点で交わることはないものとする。

(1) 線分の本数 \(l_n\) を求めよ。

(2) 円の内部にある交点の数 \(p_n\) を求めよ。

思考プロセス (漸化式ではなく組合せで解く方が有名だが、漸化的な視点も可能):

ここでは組合せ論的な解法を示す。

(1) 線分の本数: n 個の点から2点を選べば1本の線分が決まる。

\[ l_n = {}_n\mathrm{C}_2 = \frac{n(n-1)}{2} \]

(2) 交点の数: 円の内部の交点は、4つの異なる頂点を選ぶと、その4点を結んでできる四角形の対角線の交点として、ただ一つ定まる。

したがって、交点の数は、n 個の点から4点を選ぶ組合せの数に等しい。

\[ p_n = {}_n\mathrm{C}_4 = \frac{n(n-1)(n-2)(n-3)}{4 \cdot 3 \cdot 2 \cdot 1} = \frac{n(n-1)(n-2)(n-3)}{24} \]

漸化的な視点:

n 個の点がある状態から、n+1 個目の点を追加すると、線分や交点がいくつ増えるかを考える。

  • 線分の増加: 新しい点と既存の n 個の点を結ぶので、n 本増える。\( l_{n+1} = l_n + n \)。これは階差数列。
  • 交点の増加: 新しい点 P_{n+1} と既存の点 P_i を結んだ線分が、既存の線分と交わる数を数える。線分 P_{n+1}P_i が線分 P_jP_k と交わるのは、4点 P_{n+1}, P_i, P_j, P_k がこの順で円周上にある場合。P_iの片側にある i-1 個の点と、反対側にある n-i 個の点から1つずつ選ぶ組合せの数だけ交点が増える。これを全ての i について足し合わせる…など、非常に複雑になる。

この例は、問題によっては漸化式よりも組合せ論など、別の数学分野のアプローチが遥かに有効であることを示している。適切な道具を選択する判断力も、数学の問題解決においては重要です。

9. 行列と漸化式(発展)

連立漸化式や三項間漸化式は、線形代数の行列 (matrix) を用いることで、非常にすっきりと、そして統一的に表現・解決することができます。この視点は、大学レベルの数学への橋渡しとなる、極めて重要で強力なものです。

9.1. 連立漸化式の行列表現

まず、セクション6で扱った連立漸化式を再掲します。

\[ a_{n+1} = p a_n + q b_n \]

\[ b_{n+1} = r a_n + s b_n \]

この関係は、ベクトルと行列の積を用いて、次の一つの式にまとめることができます。

\[ \begin{pmatrix} a_{n+1} \ b_{n+1} \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} p & q \ r & s \end{pmatrix} \begin{pmatrix} a_n \ b_n \end{pmatrix} \]

ここで、\( \vec{v}n = \begin{pmatrix} a_n \ b_n \end{pmatrix} \) というベクトル(縦ベクトル)と、\( A = \begin{pmatrix} p & q \ r & s \end{pmatrix} \) という行列を導入すると、この漸化式は

\[ \vec{v}{n+1} = A \vec{v}_n \]

と、驚くほどシンプルな形になります。

これは、ベクトル \(\vec{v}n\) で表される状態が、行列 A を掛けるという操作(線形変換)によって、次の状態 \(\vec{v}{n+1}\) へと移っていくことを意味します。

この関係を繰り返し用いると、

\[ \vec{v}n = A \vec{v}{n-1} = A(A \vec{v}{n-2}) = A^2 \vec{v}{n-2} = \dots = A^{n-1} \vec{v}_1 \]

となり、n 番目の状態 \(\vec{v}_n\) は、初期状態 \(\vec{v}_1\) に行列 A を n-1 回掛けたもの、すなわち A の n-1 乗 を計算することで求められることが分かります。

つまり、連立漸化式を解く問題は、行列の n 乗を計算する問題に帰着されるのです。

9.2. 三項間漸化式の行列表現

一見すると一つの数列しか登場しない三項間漸化式も、うまい工夫で行列の形に持ち込むことができます。

\[ a_{n+2} + p a_{n+1} + q a_n = 0 \implies a_{n+2} = -p a_{n+1} – q a_n \]

ここで、\( b_n = a_{n+1} \) という新しい数列を導入します。すると、\( b_{n+1} = a_{n+2} \) です。

この二つの式から、次の連立漸化式を作ることができます。

\[ a_{n+1} = 0 \cdot a_n + 1 \cdot b_n \]

\[ b_{n+1} = -q a_n – p b_n \]

これを行列で表現すると、

\[ \begin{pmatrix} a_{n+1} \ b_{n+1} \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0 & 1 \ -q & -p \end{pmatrix} \begin{pmatrix} a_n \ b_n \end{pmatrix} \]

となり、やはり行列の n 乗の問題に帰着させることができます。

9.3. 行列のn乗と対角化

では、行列の n 乗 \(A^n\) はどうやって計算するのでしょうか。ここで鍵となるのが、行列の対角化(diagonalization) という概念です。(これは数学Cの範囲ですが、アイデアを紹介します)

多くの行列 A は、ある正則行列 P と対角行列 D を用いて、

\[ A = PDP^{-1} \]

の形に分解できます。ここで、D は

\[ D = \begin{pmatrix} \alpha & 0 \ 0 & \beta \end{pmatrix} \]

のように、対角成分以外が 0 の行列です。

この形にできれば、A の n 乗の計算は非常に簡単になります。

\[ A^2 = (PDP^{-1})(PDP^{-1}) = PD(P^{-1}P)DP^{-1} = PDIDP^{-1} = PD^2P^{-1} \]

\[ A^n = PD^n P^{-1} \]

対角行列の n 乗は、単に各成分を n 乗するだけです。

\[ D^n = \begin{pmatrix} \alpha^n & 0 \ 0 & \beta^n \end{pmatrix} \]

したがって、\(A^n\) の計算は、対角化さえできれば容易に実行できます。

そして、この対角成分 \(\alpha, \beta\) は、実は行列 A の固有値 (eigenvalue) と呼ばれるものであり、それを求めるための特性方程式が、

\[ \det(A – xI) = 0 \]

となります。

\(A = \begin{pmatrix} 0 & 1 \ -q & -p \end{pmatrix}\) の場合、この方程式は \(x(-p-x) – (-q) = 0 \implies x^2+px+q=0\) となり、セクション4で定義した三項間漸化式の特性方程式と完全に一致するのです。

9.4. 統一的な視点

行列という視点を持つことで、これまでバラバラに見えていた漸化式の解法が、一つの理論で統一的に理解できることが分かります。

  • 特性方程式の解 \(\alpha, \beta\) は、線形変換 A の固有値であり、そのシステムの振る舞いの本質(拡大・縮小率)を決定づける。
  • 一般項が \(c_1 \alpha^n + c_2 \beta^n\) の形になるのは、初期ベクトルを固有ベクトル(変換の方向を変えない特別なベクトル)で分解し、各成分が固有値に応じてスケールしていく様子を記述していることに対応する。

この強力な枠組みは、大学以降で学ぶ線形代数学や力学系理論の入り口であり、漸化式が持つ数学的な構造の深さを示しています。

10. 不定方程式と漸化式

最後に、数列の理論が整数論、特に不定方程式 (indeterminate equation) の分野とどのように関わるか、その興味深い接点を探ります。不定方程式とは、整数解を求める方程式のことです。

10.1. ペル方程式とその解の構造

代表的な例として、ペル方程式 (Pell’s equation) と呼ばれる不定方程式を考えます。

\[ x^2 – 2y^2 = 1 \]

この方程式の整数解 (x, y) を見つける問題です。

少し探すと、(1, 0) (自明な解) や (3, 2) といった解が見つかります。(\(3^2 – 2 \cdot 2^2 = 9 – 8 = 1\))

(3, 2) をこの方程式の最小解と呼びます。

驚くべきことに、この最小解が一つ分かれば、そこから無限に多くの解を生成することができます。その生成メカニズムに、漸化式が深く関わっています。

10.2. 解の生成と漸化式

\(x^2 – 2y^2=1\) は、\((x+y\sqrt{2})(x-y\sqrt{2})=1\) と因数分解できます。

最小解 (3, 2) に対応する式は \(3+2\sqrt{2}\) です。

ここで、\( (3+2\sqrt{2})^2 \) を計算してみましょう。

\( (3+2\sqrt{2})^2 = 9 + 12\sqrt{2} + 4\cdot2 = 17 + 12\sqrt{2} \)

この結果から得られる整数のペア (17, 12) は、果たして元のペル方程式の解になっているでしょうか。

\( 17^2 – 2 \cdot 12^2 = 289 – 2 \cdot 144 = 289 – 288 = 1 \)

確かに、これも解になっています。

一般に、\(x_1+y_1\sqrt{2} = 3+2\sqrt{2}\) とし、

\[ x_n + y_n\sqrt{2} = (3+2\sqrt{2})^n \]

と定義すると、ここから得られる整数のペア \((x_n, y_n)\) は全て \(x^2-2y^2=1\) の解となります。

では、この \(x_n, y_n\) はどのような漸化式を満たすでしょうか。

\( x_{n+1} + y_{n+1}\sqrt{2} = (3+2\sqrt{2})^{n+1} = (3+2\sqrt{2})^n (3+2\sqrt{2}) \)

\( = (x_n + y_n\sqrt{2})(3+2\sqrt{2}) \)

右辺を展開すると、

\( = 3x_n + 2\sqrt{2}x_n + 3y_n\sqrt{2} + 2y_n\sqrt{2}\cdot\sqrt{2} \)

\( = (3x_n + 4y_n) + (2x_n + 3y_n)\sqrt{2} \)

左辺と右辺の整数部分と \(\sqrt{2}\) の係数部分を比較することで、次の連立漸化式が得られます。

\[ x_{n+1} = 3x_n + 4y_n \]

\[ y_{n+1} = 2x_n + 3y_n \]

これはまさに、セクション6で学んだ連立漸化式です。

つまり、ペル方程式の解の列は、ある線形な連立漸化式によって統制されているのです。

10.3. 整数論と数列の架け橋

この例は、一見すると無関係に見える「整数論」と「数列(漸化式)」という二つの分野が、深く結びついていることを示しています。

  • 不定方程式の解の構造が、線形漸化式という形で記述される。
  • 逆に、線形漸化式を解くテクニック(行列の理論など)が、不定方程式の解の性質を調べるのに役立つ。

例えば、この連立漸化式を解けば、\(x_n\) と \(y_n\) の一般項(\( (3+2\sqrt{2})^n \) を二項展開したものに相当する、いわゆるビネの公式のような形)を求めることができます。

このような分野横断的なつながりを発見し、異なる分野の道具を組み合わせて問題を解決することは、数学の最もダイナミックで面白い側面の一つです。漸化式は、そのための強力な架け橋となる概念なのです。

Module 3:数列(3) 漸化式の総括:変化のルールから未来を予測する

本モジュールでは、数列を捉える新たな視点、すなわち「漸化式」という動的なレンズを通して世界を見る方法を学びました。これは、数列の全体像を一度に示す静的な「設計図」(一般項)とは対照的に、ある項から次の項が生まれる「生成のルール」そのものに焦点を当てるアプローチです。私たちは、初項という最初の種と、漸化式という遺伝暗号さえあれば、無限に続く数列の全体像が必然的に定まるという、ダイナミックな世界の構造を探求してきました。

この知的挑戦の核心は、一見複雑な「状態遷移のルール」を解読し、未来の任意の時点での姿を直接描き出す「設計図」(一般項)を発見することにありました。そのための最も強力な戦略が、未知の数列を、私たちがすでによく知る等比数列という単純なモデルへと変換(帰着)させるという発想です。そして、その変換を可能にする魔法の鍵が特性方程式でした。この統一的なアプローチによって、二項間、さらには三項間という、より複雑な関係式も、その背後にある等比数列的な構造を暴き、解き明かすことができたのです。

さらに、私たちの探求は基本的な型に留まりませんでした。対数をとる、逆数をとるといった巧妙な「置換」の技術は、非線形な漸化式ですら、私たちのよく知る線形な世界に引きずり込むことを可能にしました。この「未知を既知に変換する」という思考法は、連立漸化式という連動するシステム、確率漸化式という不確実な推移、そして図形と漸化式という幾何学的な構成問題に至るまで、驚くほど広範な領域でその威力を発揮することを見ました。

漸化式とは、単なる一分野の問題類型ではありません。それは、ある瞬間の状態が次の瞬間の状態を決定するという、時間と共に発展していくあらゆるシステムの振る舞いを記述するための、普遍的な言語です。漸化式を解くということは、局所的なルールから、システム全体の長期的な挙動や最終的な運命を予測する能力を手にすることに他なりません。ここで身につけた動的な思考のフレームワークは、次に学ぶ数学的帰納法による厳密な論理検証の対象となり、数学という学問のさらなる深みへと私たちを導いてくれるでしょう。

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