【基礎 物理(波動)】Module 10:光の干渉(2)薄膜とニュートンリング

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本モジュールの目的と構成

Module 9では、ヤングの実験という「波面の分割」によって、光の波動性を示す干渉現象を探求しました。本モジュールでは、光の干渉が引き起こす、もう一つの、そして私たちの日常風景に深く溶け込んだ、美しくも不思議な現象の世界へと足を踏み入れます。雨上がりのアスファルトに広がる油膜や、宙を舞うシャボン玉が、なぜ虹色に輝くのか。この問いの答えは、**「薄膜(はくまく)」**における光の干渉に隠されています。

このモジュールで私たちが解き明かすのは、「振幅の分割」という新しいタイプの干渉メカニズムです。一本の光線が、薄い膜の「表面」と「裏面」という、ごく近接した二つの境界で反射されるとき、二つの光の波へと分割されます。もとは同じ一本の光から生まれたこれらの波は、再び出会うときに互いに干渉し、特定の色の光を強め、また別の色の光を弱めることで、色彩豊かなパターンを創り出すのです。

この光と薄膜が織りなす芸術の探求は、以下の論理的なステップで進められます。

  1. 干渉の新たなメカニズム: まず、薄膜による光の干渉が、膜の表と裏からの二つの反射光の重ね合わせによって起こるという、その基本的な仕組みを理解します。
  2. 反射における位相のルール: 干渉の条件を決定づける、極めて重要なルール、「反射の際の位相のずれ」について学びます。光が屈折率の低い媒質から高い媒質へ反射するときにだけ、位相が反転するという法則をマスターします。
  3. 光が旅する見かけの距離(光路差): 二つの反射光が生じる「経路の差」を、膜の厚さと屈折率を考慮した「光路差」として計算する方法を習得します。
  4. 色彩の起源: シャボン玉や油膜が色づいて見える現象が、白色光が薄膜で干渉し、膜の厚さに応じて特定の波長の光が強められる結果であることを解き明かします。
  5. 明暗の条件式: 反射の際の位相のずれと、光路差を組み合わせることで、薄膜干渉における強めあい(明)と弱めあい(暗)の条件を、普遍的な数式として導出します。
  6. くさび形の干渉: 二枚のガラス板で作る「くさび形の空気層」という、厚さが連続的に変化する薄膜での干渉を学び、そこに現れる直線状の干渉縞の原理を探ります。
  7. ニュートンリングの世界: 平凸レンズと平面ガラスで作る、同心円状の薄膜構造「ニュートンリング」の実験装置と、そこに円環状の干渉縞が現れる原理を学びます。
  8. 円環の干渉条件: ニュートンリングにおける明環・暗環の条件を、くさび形空気層の考え方を応用して理解します。
  9. 円環の半径の計算: 干渉縞の半径と、レンズの曲率半径、光の波長を結びつける公式を、幾何学的に導出します。
  10. 科学技術への応用: 最後に、薄膜干渉の原理が、カメラレンズの「反射防止膜」など、現代の光学技術にどのように応用されているかを探ります。

このモジュールを終えるとき、あなたは、シャボン玉の儚い輝きの背後に、光の位相と経路差が織りなす厳密な物理法則が隠されていることを見抜く「眼」を手にしているはずです。それは、日常の何気ない美しさの中に、自然界の精緻な秩序と論理を発見する、感動的な体験となるでしょう。

目次

1. 薄膜による光の干渉のメカニズム

ヤングの実験では、一つの波面を二つのスリットで分割し、二つの新しい波源を作り出すことで干渉を発生させました。これを**「波面の分割 (wavefront splitting)」による干渉と呼びます。

一方、シャボン玉や水面に広がる油膜が示す美しい干渉色は、これとは異なるメカニズム、「振幅の分割 (amplitude splitting)」**によって生じます。この章では、この振幅の分割という、薄膜干渉の根幹をなす基本原理について学びます。

1.1. 薄膜とは何か

物理学でいう薄膜 (thin film) とは、その厚さが、光の波長と同程度の、非常に薄い膜のことを指します。

  • :
    • シャボン玉の膜
    • 水たまりの表面に広がった油の膜
    • カメラのレンズ表面に施されたコーティング層
    • 金属の酸化膜(熱せられた鉄の表面が青みがかって見えるなど)

これらの膜の厚さは、ナノメートル (nm) からマイクロメートル (μm) のオーダーであり、可視光の波長(約 400 nm ~ 700 nm)と比較できるほど薄い、という共通点があります。

1.2. 振幅の分割のプロセス

この非常に薄い膜に、一本の光線(入射光)が当たると、何が起こるでしょうか。

  1. 第一の反射(表面での反射):入射光が薄膜の表面(例えば、空気とシャボン膜の境界)に到達すると、その一部は反射され、一部は膜の内部へと屈折して進みます。ここで反射された光を**「反射光1」**とします。
  2. 第二の反射(裏面での反射):膜の内部に屈折して進んだ光は、やがて薄膜の裏面(例えば、シャボン膜と空気の境界)に到達します。ここで、再びその一部が反射されます。
  3. 第二の光の射出:裏面で反射された光は、再び膜の内部を逆向きに進み、最終的に膜の表面から、最初の反射光1と同じ方向(空気中)へと射出していきます。この光を**「反射光2」**とします。

[Diagram showing amplitude splitting: an incident ray hits a thin film, producing reflected ray 1 from the top surface and reflected ray 2 from the bottom surface.]

1.3. 二つの反射光の干渉

このプロセスによって、もともと一本だった入射光が、振幅を分割される形で、**二本の反射光(反射光1と反射光2)**へと分けられました。

この二本の光には、安定した干渉を引き起こすための、極めて重要な性質があります。

  • 可干渉性(コヒーレンス):反射光1と反射光2は、もとは全く同じ一本の光線から生まれています。したがって、両者の振動数は完全に等しく、位相関係も完全に固定されています。つまり、この二つの光は、**互いに可干渉(コヒーレント)**なのです。
  • 干渉の発生:この二つのコヒーレントな反射光が、私たちの眼(あるいは観測装置)に同時に入射すると、それらは重ね合わせの原理に従って干渉します。観測される光の強さは、この二つの波が、眼の位置で強めあうか、弱めあうかによって決まるのです。

1.4. 干渉条件を決める二大要因

では、反射光1と反射光2が、強めあうか弱めあうかを決定する要因は何でしょうか。それは、以下の二つの「ズレ」の組み合わせによって決まります。

要因1:光路差による位相のズレ

反射光2は、反射光1に比べて、薄膜の中を往復するという、余分な道のりを旅しています。この道のりの差を光路差と呼びます。この光路差の分だけ、反射光2の位相は、反射光1の位相に対して遅れることになります。このズレは、膜の厚さ d、膜の屈折率 n、そして光の入射角に依存します。

要因2:反射における位相のズレ

Module 3で学んだように、波が境界で反射する際には、その境界の性質によって位相が π (180°) ずれる(反転する)場合と、ずれない場合があります。

反射光1(表面での反射)と反射光2(裏面での反射)が、それぞれどのような反射(固定端型か、自由端型か)を経験したかによって、両者の間に初期的な位相のズレが生じることがあります。

薄膜による光の干渉を完全に理解するためには、これら**「光路差による位相差」と「反射による位相差」という、二種類の位相差を正しく計算し、それらを合算した全位相差**を求める必要があります。

この全位相差が 2mπ(2π の整数倍)なら強めあい、(2m+1)π(π の奇数倍)なら弱めあうのです。

次の章では、このうち、特に注意が必要な「反射における位相のズレ」について、そのルールを詳しく見ていきます。

2. 表面での反射と裏面での反射における位相のずれ

薄膜干渉の運命を左右する、二つの重要な要因のうち、最も見過ごされやすく、かつ決定的に重要なのが**「反射における位相のずれ(位相シフト)」**です。光が薄膜の表面で反射するときと、裏面で反射するときとで、位相の振る舞いが異なる場合があるのです。このわずかな違いが、干渉の条件を根本から変えてしまいます。

この反射のルールは、Module 3で学んだ、波の固定端反射と自由端反射のアナロジーで理解することができます。

2.1. 位相シフトの基本法則

光が、屈折率の異なる二つの媒質の境界面で垂直に反射するときの位相シフトのルールは、以下の通りです。

ルール1:屈折率の小さい媒質から大きい媒質へ

光が、屈折率の小さい媒質から屈折率の大きい媒質へと進み、その境界面で反射する場合、反射光の位相は、入射光の位相に対して π [rad] (180°) ずれる(反転する)。

n_small → n_large での反射 ⇒ 位相がπずれる

  • アナロジー: これは、ロープの波が壁に当たって跳ね返る**「固定端反射」**に相当します。屈折率が大きい媒質は、光にとって「硬い」あるいは「動きにくい」媒質と見なすことができ、波はそこで反転させられます。
  • : 空気 (n ≈ 1) 中の光が、ガラス (n ≈ 1.5) の表面で反射する場合。

ルール2:屈折率の大きい媒質から小さい媒質へ

光が、屈折率の大きい媒質から屈折率の小さい媒質へと進み、その境界面で反射する場合、反射光の位相は、入射光の位相から変化しない(ずれは0)。

n_large → n_small での反射 ⇒ 位相はずれない

  • アナロジー: これは、ロープの端が自由に動ける**「自由端反射」**に相当します。屈折率が小さい媒質は、光にとって「柔らかい」あるいは「動きやすい」媒質と見なすことができ、波は反転せずにそのままの形で跳ね返ります。
  • : ガラス (n ≈ 1.5) の中を進んできた光が、空気 (n ≈ 1) との境界面で反射する場合。

この二つのルールは絶対的なものです。薄膜干渉の問題を解く際には、必ず最初に、表面での反射と裏面での反射が、それぞれどちらのタイプの反射に当たるのかを確認する作業が必要になります。

2.2. シャボン玉の膜における位相シフトの分析

このルールを、具体的な薄膜の例であるシャボン玉の膜に適用してみましょう。

シャボン玉は、空気中に存在しています。シャボン膜の主成分は水なので、その屈折率 n_film は、空気の屈折率 n_air よりも大きい (n_film > n_air)。

  • 媒質の構成空気 (n_air) ― 薄膜 (n_film) ― 空気 (n_air)

この系で、二つの反射光の位相シフトを調べます。

  1. 反射光1(表面での反射):
    • この反射は、空気 (n_air) から 薄膜 (n_film) へと進む光が、その境界面で起こす反射です。
    • 屈折率の関係は、n_air < n_film なので、**「小 → 大」**の反射です。
    • したがって、ルール1に従い、反射光1の位相はπずれます
  2. 反射光2(裏面での反射):
    • この反射は、一度、膜の中に入った光が、薄膜 (n_film) から 空気 (n_air) へと進み、その境界面で起こす反射です。
    • 屈折率の関係は、n_film > n_air なので、**「大 → 小」**の反射です。
    • したがって、ルール2に従い、反射光2の位相はずれません

結論:

シャボン玉の膜の場合、反射光1(表面)と反射光2(裏面)の間には、反射の段階で、すでに π の位相差が生じていることになります。

これは、光路差がゼロ(膜の厚さがゼロ)の極限を考えても、二つの波は逆位相となり、弱めあうことを意味します。シャボン玉の上端の、膜が非常に薄くなっている部分が暗く見えるのは、このためです。

2.3. ガラスに挟まれた空気層における位相シフトの分析

もう一つの典型的な例として、二枚のガラス板の間に、薄い空気の層が挟まれている場合(くさび形空気層など)を考えてみましょう。

  • 媒質の構成ガラス (n_glass) ― 空気層 (n_air) ― ガラス (n_glass)
  • 屈折率の関係n_glass > n_air
  1. 反射光1(表面での反射):
    • この反射は、ガラス (n_glass) から 空気層 (n_air) へと進む光が、その境界面で起こす反射です。
    • n_glass > n_air なので、**「大 → 小」**の反射です。
    • よって、反射光1の位相はずれません
  2. 反射光2(裏面での反射):
    • この反射は、空気層を通過した光が、空気層 (n_air) から 下のガラス (n_glass) へと進み、その境界面で起こす反射です。
    • n_air < n_glass なので、**「小 → 大」**の反射です。
    • よって、反射光2の位相はπずれます

結論:

この場合も、シャボン玉のケースとは反射の順番が逆ですが、やはり片方の反射だけで位相がπずれ、もう一方ではずれないため、反射光1と反射光2の間には、反射の段階で π の位相差が生じます。

この「反射による位相差」が 0 になるか π になるかは、最終的な干渉条件(強めあい・弱めあい)を完全に逆転させてしまうため、その確認は、薄膜干渉の問題を解く上で、絶対に省略できない、最も重要なステップなのです。

3. 光路差の計算

薄膜干渉の条件を決める第二の要因は、表面で反射した光(反射光1)と、裏面で反射してから出てきた光(反射光2)との間の**「道のりの差」です。反射光2は、反射光1に比べて、薄膜の中を往復する分だけ、余計な距離を進んでいます。

この「道のりの差」を、単なる幾何学的な距離ではなく、媒質の屈折率を考慮に入れた光路差 (Optical Path Difference)** として正しく計算することが、干渉条件を定量的に導くための鍵となります。

3.1. なぜ「光路差」で考える必要があるのか?

干渉の条件は、二つの波の位相差で決まります。そして、波の位相は、進んだ幾何学的な距離 L だけでなく、その空間の波長 λ’ にも依存します。

媒質(屈折率 n)の中では、光の波長は λ’ = λ/n に短縮されます。

そのため、同じ幾何学的距離 L を進んだとしても、

  • 空気中 (n≈1) を進んだ場合の位相変化 ∝ L/λ
  • 媒質中 (n>1) を進んだ場合の位相変化 ∝ L/λ’ = L/(λ/n) = nL/λとなり、位相の変化量が n 倍だけ異なります。

この違いを補正し、異なる媒質を進んだ経路を、共通の「ものさし(真空中の距離)」で測り直すための概念が光路長 (OPL = nL) でした。

したがって、薄膜干渉における経路の差を考える際も、単純な往復距離 2d ではなく、その光路長を計算する必要があるのです。

3.2. 光路差の計算(垂直入射の場合)

計算をシンプルにするため、まずは光が薄膜に対して、ほぼ垂直に入射する場合を考えます。高校物理で扱う薄膜干渉の問題のほとんどは、この「垂直入射」または「ほぼ垂直入射」として扱うことができる状況設定になっています。

[Diagram showing nearly normal incidence on a thin film of thickness d and refractive index n.]

  • 状況設定:
    • 薄膜の厚さ: d
    • 薄膜の屈折率: n
    • 周囲の媒質の屈折率: n₀ (通常は空気なので n₀≈1)
  • 二つの光の経路:
    • 反射光1: 表面で即座に反射。
    • 反射光2: 膜の内部に進入し、厚さ d を進んで裏面に到達。裏面で反射し、再び厚さ d を戻って表面から射出。
  • 光路差の計算:反射光2が、反射光1に比べて余分に進んだ幾何学的な距離は、膜の内部での往復分、すなわち 2d です。この経路は、すべて屈折率 n の媒質の中で起こっています。したがって、この経路に対応する光路長は、\[ \text{光路長} = (\text{屈折率}) \times (\text{幾何学的距離}) \]となります。よって、二つの反射光の光路差 ΔL は、\[ \Delta L = n \times (2d) = 2nd \]

これが、垂直入射における薄膜干渉の光路差を求める基本式です。

3.3. 光が斜めに入射する場合(発展)

光が、空気中から入射角 i で、薄膜に斜めに入射する場合は、計算が少し複雑になります。

  1. 膜の内部での経路:光は、膜の内部ではスネルの法則に従って、屈折角 r で進みます。膜の厚さを d とすると、反射光2が膜の内部で進む幾何学的な経路の長さは、図形的に計算すると 2d / cos(r) となります。
  2. 空気中での経路の差:さらに、反射光1と反射光2が、同じ波面から出て、再び同じ波面に到達するまでを比較する必要があるため、空気中での経路の差も考慮しなければなりません。

これらの効果をすべて精密に計算した結果、斜め入射の場合の光路差 ΔL は、

\[ \Delta L = 2nd \cos r \]

となることが知られています。

  • cos r の項は、r が (垂直入射)から 90° に向かうにつれて、1 から 0 へと減少します。これは、光が斜めに入射するほど、同じ厚さの膜でも、実効的な光路差は小さくなることを意味しています。
  • 高校物理の範囲では、ほとんどの場合、cos r ≈ 1 とみなせる、ほぼ垂直な入射を扱うため、ΔL = 2nd という公式をマスターしておけば十分です。しかし、より厳密には cos r の項がつく、ということは頭の片隅に置いておくと、大学レベルの物理学への橋渡しとなります。

この光路差 2nd が、二つの反射光の間に生じる「位相のズレ」の第一の要因となります。次の章からは、この光路差による位相差と、前章で学んだ「反射による位相差」を組み合わせて、最終的な干渉条件を導き出していきます。

4. シャボン玉や油膜の色づきの原因

私たちの日常で、薄膜干渉が織りなす最も身近で美しい光景が、シャボン玉や、雨上がりの路上の油膜が虹色に輝く現象です。なぜ、もともとは透明なシャボン液や油が、このような鮮やかな色彩を見せるのでしょうか。その答えは、「白色光」と「膜の厚さの変化」、そして**「干渉」**という三つの要素の相互作用にあります。

4.1. 前提:白色光と干渉条件

まず、二つの重要な前提を思い出しましょう。

  1. 白色光の性質:太陽光や多くの照明の光である白色光は、単一の色の光ではなく、虹のすべての色(赤、橙、黄、緑、青、藍、紫)の光が混ざり合ったものです。そして、それぞれの色の光は、固有の波長 λ を持っています(赤が最も長く、紫が最も短い)。
  2. 薄膜干渉の条件:薄膜からの反射光が強めあうか弱めあうかは、その膜の厚さ d、屈折率 n、そして光の波長 λ によって決まります。
    • 強めあいの条件2nd = (m + 1/2)λ
    • 弱めあいの条件: 2nd = mλ(※これは、シャボン玉のように、反射で位相が1回だけπずれる場合の条件です。)

この干渉条件の式を見ると、ある特定の厚さ d の膜があったとき、強めあいや弱めあいの条件を満たす波長 λは、特定の値に限られることがわかります。

4.2. 色づきのメカニズム:波長の選択的反射

この二つの前提を組み合わせることで、色づきのメカニズムが明らかになります。

  1. 白色光の入射:シャボン玉の膜に、白色光が当たります。この白色光には、様々な波長 λ の光がすべて含まれています。
  2. 膜の厚さ d による波長の選択:シャボン玉の膜のある一点に注目します。その点の膜の厚さを d とします。入射した様々な波長の光のうち、この特定の厚さ d に対して、ちょうど強めあいの条件 2nd = (m+1/2)λ を満たす特定の波長 λ の光だけが、二つの反射光(表面からと裏面から)が同位相となり、非常に強く反射されます。
  3. 他の波長の運命:一方、弱めあいの条件 2nd = mλ を満たす波長の光は、二つの反射光が逆位相となり、打ち消しあってほとんど反射されません(これらの光は、膜を透過していきます)。また、強めあいも弱めあいも満たさない、中間の条件の波長の光は、ある程度は反射されますが、それほど強くはありません。
  4. 色の知覚:その結果、私たちの眼には、強めあいの条件を満たした特定の色の光だけが、選択的に強く届くことになります。例えば、ある厚さの場所で、緑色の光の波長が強めあいの条件をぴったり満たしたとします。すると、その場所は、私たちの眼には鮮やかな緑色に輝いて見えるのです。

4.3. なぜ模様が変化し続けるのか?

シャボン玉の表面の色が、常にゆらゆらと動き、変化し続けるのはなぜでしょうか。

その原因は、シャボン膜の厚さ d が、場所によって、そして時間と共に、常に変化しているからです。

  • 場所による厚さの変化:シャボン玉の膜は、重力によって、上部の液が下部へと流れ落ちていくため、一般的に上部ほど薄く、下部ほど厚い、という厚さの分布を持っています。
    • 上部の薄い領域d が小さいので、強めあいの条件 2nd = (m+1/2)λ を満たすのは、m=0 で λ が小さい、すなわち青や紫の光になります。
    • 中間の領域d が少し厚くなると、今度は緑や黄色の光が強めあいの条件を満たします。
    • 下部の厚い領域: d がさらに厚くなると、波長が長い赤色の光が強めあいの条件を満たします。このため、静止したシャボン玉には、上から下へ、青→緑→赤といった順で色が変化する、水平な帯状の模様が見えることがあります。
  • 時間による厚さの変化:シャボン膜は、風や内部の空気の対流、そして液の蒸発や重力による流動によって、その厚さが絶えずゆらめいています。ある点の厚さ d が変化すれば、そこで強めあう光の波長 λ も変化します。緑に見えていた場所が、次の瞬間には青に見えたり、赤に見えたりするのです。この膜厚のダイナミックな変化が、シャボン玉の表面に、あの幻想的で絶え間なく変化する色彩模様を生み出しているのです。

最終的に、シャボン玉の上部が非常に薄くなり、その厚さ d が光の波長に比べて無視できるほど小さくなると (d → 0)、光路差 2nd もほぼゼロになります。このとき、干渉の結果は、反射の際の位相シフト(1回だけπずれる)だけで決まります。つまり、すべての波長の光が弱めあうため、その部分は光を反射せず、**黒く(暗く)**見えます。これが、シャボン玉が割れる直前に見られる兆候です。

5. 干渉条件(強めあい・弱めあい)

薄膜による干渉を定量的に分析するためには、光路差反射による位相シフトという二つの効果を組み合わせて、最終的な干渉条件を数式として導出する必要があります。この条件式を正しく立てられるかどうかが、薄膜干渉に関する問題を解く上での、すべての鍵となります。

この章では、代表的な薄膜のモデル(空気中のシャボン玉など)を例にとり、強めあい(明)と弱めあい(暗)の条件式を、その物理的な意味に立ち返りながら導出します。

5.1. 全位相差の計算

観測点における二つの反射光(表面からの反射光1と裏面からの反射光2)の干渉の結果は、両者の全位相差 Δφ_total によって決まります。

全位相差は、二つの要因の和で与えられます。

\[ \Delta\phi_{\text{total}} = \Delta\phi_{\text{reflection}} + \Delta\phi_{\text{path}} \]

  • Δφ_reflection: 反射の際に生じる位相差。
  • Δφ_path: 光路差によって生じる位相差。

シャボン玉モデルでの計算

空気中に浮かぶ、屈折率 n、厚さ d のシャボン玉の膜を考えます。

  • 媒質の構成: 空気 (n₀≈1) – 膜 (n) – 空気 (n₀≈1)
  • 屈折率の関係n > n₀
  1. 反射による位相差 Δφ_reflection:
    • 表面での反射(空気→膜):n₀ < n なので、「小→大」の反射。位相がπずれる
    • 裏面での反射(膜→空気):n > n₀ なので、「大→小」の反射。位相はずれない。したがって、二つの反射光の間には、反射の段階で π – 0 = π の位相差が生じます。\[ \Delta\phi_{\text{reflection}} = \pi \]
  2. 光路差による位相差 Δφ_path:光が膜の中を垂直に往復する場合、その光路差は 2nd でした。光路差 λ が位相差 2π に相当するので、光路差 2nd が生む位相差は、\[ \Delta\phi_{\text{path}} = \frac{2\pi}{\lambda} \times (\text{光路差}) = \frac{2\pi}{\lambda} (2nd) \]となります。ここで λ は、真空(空気)中での光の波長です。
  3. 全位相差 Δφ_total:以上を合計すると、\[ \Delta\phi_{\text{total}} = \pi + \frac{4\pi nd}{\lambda} \]

5.2. 干渉条件の導出

この全位相差 Δφ_total を、普遍的な強めあい・弱めあいの位相条件に当てはめます。

  • 強めあいの位相条件Δφ_total = 2mπ (m = 1, 2, 3, …)
  • 弱めあいの位相条件: Δφ_total = (2m-1)π (m = 1, 2, 3, …)(※ここでは、m を自然数とするため、(2m-1)π や (2m+1)π を用いるのが一般的です。m=0 を含める場合は (m+1/2)λ などと表現します。)

強めあいの条件(明)

\[ \pi + \frac{4\pi nd}{\lambda} = 2m\pi \]

両辺を π で割り、整理します。

\[ 1 + \frac{4nd}{\lambda} = 2m \]

\[ \frac{4nd}{\lambda} = 2m – 1 \]

\[ 2nd = \frac{2m-1}{2} \lambda = \left(m – \frac{1}{2}\right)\lambda \]

m は1以上の整数なので、m-1/2 は 1/2, 3/2, 5/2, … という半整数値を表します。これは、m を0から始まる整数 m=0, 1, 2, … を使って (m+1/2) と表現するのと全く同じことです。

強めあいの条件(反射光):

\[ 2nd = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \dots) \]

光路差が、半波長の奇数倍

弱めあいの条件(暗)

\[ \pi + \frac{4\pi nd}{\lambda} = (2m-1)\pi \]

両辺を π で割り、整理します。

\[ 1 + \frac{4nd}{\lambda} = 2m – 1 \]

\[ \frac{4nd}{\lambda} = 2m – 2 = 2(m-1) \]

m は1以上の整数なので、m-1 は 0, 1, 2, … という0以上の整数を表します。これを改めて m と書き直します。

\[ \frac{2nd}{\lambda} = m \]

弱めあいの条件(反射光):

\[ 2nd = m\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \dots) \]

光路差が、波長の整数倍

5.3. 結果の解釈と注意点

シャボン玉モデル(空気-膜-空気)における干渉条件は、以下のようになりました。

  • 強めあい(明)2nd = (m+1/2)λ
  • 弱めあい(暗)2nd = mλ

これは、ヤングの実験のような、通常の干渉条件とは、強弱が逆転していることに気づくでしょう。

  • ヤングの実験では  が強めあいの条件でした。
  • 薄膜干渉では  が弱めあいの条件になっています。

この条件の逆転を引き起こした原因は、反射の際の位相シフト Δφ_reflection = π に他なりません。

反射の段階で、あらかじめ位相が π(半波長分)だけずれているため、光路差が波長の整数倍 mλ(位相差 2mπ)になっても、全位相差は π + 2mπ = (2m+1)π となり、結果として弱めあってしまうのです。

逆に、光路差が半波長の奇数倍 (m+1/2)λ(位相差 (2m+1)π)のときに、全位相差が π + (2m+1)π = (2m+2)π = 2(m+1)π となり、強めあうことになります。

薄膜干渉の問題を解く際には、

  1. まず、表面と裏面での反射の位相シフトを確認する。
    • 0回または2回πずれる → 条件はヤングの実験と同じ。
    • 1回だけπずれる → 条件はヤングの実験と逆転する。
  2. 次に、光路差を計算する (2nd など)。
  3. 最後に、確定した条件式に光路差を当てはめる。

という思考プロセスを常に守ることが、混乱を避け、正解に至るための最も確実な道筋です。

6. くさび形空気層による干渉

薄膜干渉は、シャボン玉のような均一な厚さの膜だけでなく、厚さが場所によって連続的に変化する膜でも、興味深い現象を引き起こします。その最も代表的な例が、くさび形空気層 (wedge-shaped air film) による干渉です。

二枚の平らなガラス板の間に、紙切れなどを挟んで、非常に小さな角度のくさび形の隙間を作り、そこに光を当てることで、美しく規則正しい干渉縞を観察することができます。

6.1. くさび形空気層の構造

くさび形空気層は、以下のようにして作られます。

  1. 二枚の平らなガラス板を用意する。
  2. 一方の端をぴったりと接触させ、もう一方の端に、薄い紙や金属箔などのスペーサーを挟む。
  3. これにより、二枚のガラス板の間に、接触点(頂点)で厚さがゼロとなり、スペーサーに向かって厚さが直線的に増していく、くさび形の空気の層ができます。

この実験では、この**「空気の層」が「薄膜」**としての役割を果たします。

6.2. 干渉のメカニズム

この装置に、上方から単色光を(ほぼ垂直に)入射させます。干渉は、以下の二つの光の重ね合わせによって生じます。

  • 反射光1: 上のガラス板の下面(ガラス → 空気 の境界)で反射される光。
  • 反射光2: 空気層を透過し、下のガラス板の上面(空気 → ガラス の境界)で反射され、再び空気層を透過して上方に出てくる光。

この二つの反射光が、可干渉(コヒーレント)な波として、干渉を起こします。

[Diagram of a wedge-shaped air film showing the two interfering rays.]

6.3. 干渉条件の決定

この系における強めあい・弱めあいの条件を、これまでと同様のプロセスで決定してみましょう。

  1. 反射による位相シフトの確認:
    • 反射光1(ガラス→空気): 屈折率 n_glass > n_air なので、「大→小」の反射。位相はずれない
    • 反射光2(空気→ガラス): 屈折率 n_air < n_glass なので、「小→大」の反射。位相がπずれる。結論: この系でも、シャボン玉と同様に、反射の際に1回だけ位相がπずれる。したがって、干渉条件はヤングの実験とは逆転します。
  2. 光路差の計算:くさびの頂点から水平方向に距離 x だけ離れた位置での、空気層の厚さを d とします。干渉を起こす二つの光の光路差は、空気層(屈折率 n_air ≈ 1)を往復する分なので、\[ \Delta L = 2 \times n_{\text{air}} \times d \approx 2d \]となります。
  3. 干渉条件式の導出:位相シフトがπずれる(条件が逆転する)ため、強めあいの条件(明線):光路差が、半波長の奇数倍。\[ 2d = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \dots) \]弱めあいの条件(暗線):光路差が、波長の整数倍。\[ 2d = m\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \dots) \]となります。

6.4. 干渉縞の様子

この干渉条件から、スクリーン(または上方から覗き込む眼)には、どのような模様が見えるでしょうか。

  • 頂点 (x=0) の様子:ガラス板が接触している頂点では、空気層の厚さ d=0 です。したがって、光路差は 2d = 0。これは、弱めあいの条件式 2d = mλ において m=0 の場合に相当します。よって、接触点は、必ず暗線となります。これは、光路差がなくても、反射の際の位相シフト π の効果だけで、二つの波が打ち消しあうためです。
  • 縞模様の形状と間隔:頂点から離れる(x が大きくなる)につれて、空気層の厚さ d は直線的に増加していきます。d が λ/4 になるところで、2d = λ/2 となり、最初の明線 (m=0) が現れます。d が λ/2 になるところで、2d = λ となり、次の暗線 (m=1) が現れます。d が 3λ/4 になるところで、2d = 3λ/2 となり、次の明線 (m=1) が現れます。…というように、厚さ d が λ/4 変化するごとに、明暗が入れ替わります。厚さ d は、頂点からの距離 x に比例して増加するため、明線と暗線は、くさびの頂点(接触線)に平行な、等間隔の直線状の縞模様として観測されます。

明線間隔の計算

くさびの角度を θ(非常に小さい)とすると、tanθ ≈ θ = d/x より、d = xθ。

隣り合う明線(または暗線)の間隔を Δx とすると、その間の厚さの変化 Δd は λ/2 です。

(例:m番目の暗線 2d_m = mλ と m+1番目の暗線 2d_{m+1} = (m+1)λ の厚さの差は d_{m+1}-d_m = λ/2)

Δd = Δx・θ = λ/2

したがって、明線間隔 Δx は、

\[ \Delta x = \frac{\lambda}{2\theta} \]

となります。

この関係から、くさびの角度 θ が小さいほど、縞の間隔 Δx は広くなることがわかります。

くさび形空気層の干渉は、ガラス表面の平坦度を検査したり、非常に薄い物体の厚さを測定したりするなど、精密な計測技術に応用されています。

7. ニュートンリングの実験装置と原理

薄膜干渉が作り出す模様の中で、くさび形空気層の直線状の縞模様と並んで、象徴的なのがニュートンリング (Newton’s rings) です。その名の通り、アイザック・ニュートンによって詳細に研究されたこの現象では、同心円状の美しい干渉縞が現れます。

ニュートンリングは、本質的には**「円形にくさび状の厚さを持つ空気層」**による干渉であり、これまで学んできた薄膜干渉の原理を、円対称な系に応用したものと考えることができます。

7.1. ニュートンリングの実験装置

ニュートンリングを観察するための実験装置は、非常にシンプルです。

  • 基本構成:
    1. 一枚の平面ガラス
    2. その上に、曲率半径 R が非常に大きい(ほぼ平らに近い)、平凸レンズを、その凸面を下にして重ねる。
  • 空気層の形成:この配置により、平凸レンズの球面と、下の平面ガラスとの間に、薄い空気の層が閉じ込められます。
    • レンズとガラスが接触している中心点では、空気層の厚さはゼロです。
    • 中心から離れるにつれて、レンズの曲面と平面ガラスの間の隙間は徐々に広がり、空気層の厚さは円対称に増加していきます。

この「中心が厚さゼロで、外側に向かって厚さが増していく、円形のくさび形空気層」が、ニュートンリングの舞台となります。

  • 観測方法:通常、この装置の上方から、単色光(ナトリウムランプなど)を、ハーフミラー(マジックミラー)などを使って垂直に入射させます。そして、同じく上方から、顕微鏡などを使って、ガラス板やレンズから反射してくる光を観察します。

[Diagram of the Newton’s rings apparatus: a plano-convex lens on a flat glass plate, with light incident from above.]

7.2. 干渉の原理

ニュートンリングの干渉縞が生じる原理は、くさび形空気層の干渉と全く同じです。

  1. 振幅の分割:上方から入射した光は、以下の二つの経路で反射され、干渉します。
    • 反射光1: 平凸レンズの下面(ガラス → 空気 の境界)で反射される光。
    • 反射光2: 空気層を透過し、下の平面ガラスの上面(空気 → ガラス の境界)で反射され、再び空気層とレンズを透過して上方に出てくる光。
  2. 可干渉な光:これら二つの反射光は、もとは同じ一本の光から分割されたものであるため、**コヒーレント(可干渉)**です。
  3. 干渉条件の決定要因:二つの光が強めあうか弱めあうかは、例によって二つの要因で決まります。
    • 反射による位相シフト:
      • 反射光1(ガラス→空気):n_glass > n_air なので「大→小」。位相シフトなし
      • 反射光2(空気→ガラス):n_air < n_glass なので「小→大」。位相シフトπ。結論: やはり、反射の際に1回だけ位相がπずれるため、干渉条件はヤングの実験とは逆転します。
    • 光路差:中心から半径 r の位置における、空気層の厚さを d とします。光は、この厚さ d の空気層を往復するため、その光路差は 2d となります(空気の屈折率は ≈1)。

7.3. なぜ「リング」状になるのか?

では、なぜ干渉縞は直線ではなく、同心円状の「リング」になるのでしょうか。

それは、干渉の条件を決める空気層の厚さ d が、中心からの距離 r だけで決まる、円対称な分布をしているからです。

  • 厚さが等しい点の軌跡:中心からの距離 r が等しい点は、すべて円周をなします。これらの点では、空気層の厚さ d もすべて同じ値です。
  • 干渉条件が等しい点の軌跡:厚さ d が同じであれば、光路差 2d も同じであり、したがって干渉の条件(強めあうか弱めあうか)も同じになります。
  • 結論:その結果、同じ干渉条件を満たす点(例えば、m番目の明線)は、中心を同じくする円環状に現れることになります。これが、ニュートン「リング」と呼ばれる所以です。

特に、装置の中心点では、レンズとガラスが接触しており、空気層の厚さ d=0 です。

この点では、光路差はゼロですが、反射の際にπの位相差が生じているため、二つの光は常に打ち消しあいます。

したがって、**ニュートンリングの中心は、必ず暗い点(暗斑)**となります。この事実は、ニュートン自身を悩ませ、彼の粒子説では説明が困難な現象でした。波動説の観点からは、この中心の暗斑は、反射における位相シフトの存在を明確に示す、力強い証拠となるのです。

8. ニュートンリングにおける干渉条件

ニュートンリングの美しい同心円状のパターンは、物理法則に厳密に従って形成されています。その円環が明るくなる(明環)か、暗くなる(暗環)かの条件は、これまで学んできた薄膜干渉の法則を、ニュートンリングの幾何学的な構造に適用することで、正確に導き出すことができます。

8.1. 基本的な考え方:くさび形空気層のアナロジー

ニュートンリングは、**「中心からの距離 r に応じて、厚さ d が変化する、円対称なくさび形空気層」**と見なすことができます。

したがって、その干渉条件は、前章で学んだ、直線状のくさび形空気層の場合と、本質的に全く同じです。

  1. 干渉する光:
    • レンズ下面(ガラス→空気)での反射光1
    • 平面ガラス上面(空気→ガラス)での反射光2
  2. 反射による位相シフト:
    • 反射光1:n_glass > n_air なので、「大→小」。位相シフトなし
    • 反射光2:n_air < n_glass なので、「小→大」。位相シフトπ。結論: 二つの反射光の間には、あらかじめ π の位相差が存在する。
  3. 光路差:中心から半径 r の位置での空気層の厚さを d とすると、光路差は空気層の往復分なので、\[ \Delta L = 2d \](空気の屈折率を 1 と近似)

8.2. 暗環(Dark Rings)の条件

暗環ができるのは、二つの反射光が**弱めあう(破壊的干渉)**場所です。

  • 通常の弱めあい条件: 経路差が半波長の奇数倍 ΔL = (m+1/2)λ
  • ニュートンリングの場合: 反射で位相が π ずれているため、条件は逆転します。

したがって、弱めあいの条件は、

光路差 2d + (反射による半波長分のずれ λ/2) = 半波長の奇数倍 (m+1/2)λ

と考えるよりも、

全位相差 = (反射による位相差 π) + (光路差 2d による位相差 2π(2d)/λ) = πの奇数倍 (2m+1)π

と考える方が、より根本的です。

π + 4πd/λ = (2m+1)π

4πd/λ = 2mπ

2d = mλ

ニュートンリングにおける暗環の条件式:

\[ 2d = m\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \dots) \]

光路差が、波長の整数倍

  • m=02d=0、すなわち d=0。これは、レンズとガラスが接触している中心点に対応します。したがって、**中心は第0番目の暗環(暗斑)**となります。
  • m=12d=λ となる厚さ d を持つ円周上が、1番目の暗環となります。
  • m=22d=2λ となる円周上が、2番目の暗環となります。

8.3. 明環(Bright Rings)の条件

明環ができるのは、二つの反射光が**強めあう(建設的干渉)**場所です。

  • 通常の強めあい条件: 経路差が波長の整数倍 ΔL = mλ
  • ニュートンリングの場合: 条件は逆転します。

全位相差の条件から導くと、

全位相差 = π + 4πd/λ = 2πの整数倍 2mπ

4πd/λ = (2m-1)π

2d = (m-1/2)λ or (m+1/2)λ

ニュートンリングにおける明環の条件式:

\[ 2d = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \dots) \]

光路差が、半波長の奇数倍

  • m=02d = λ/2 となる厚さ d を持つ円周上が、1番目の明環となります。(次数は暗環を基準に数えることが多いので、m=0 の明環と呼ぶのが一般的です。)
  • m=12d = 3λ/2 となる円周上が、2番目の明環となります。

8.4. 透過光における干渉(参考)

これまでは、上方から観察する反射光の干渉を考えてきました。では、装置の下から、透過してきた光を観察すると、どのような干渉縞が見えるでしょうか。

  • 干渉する光:
    • 透過光1:そのまま直進して透過する光。
    • 透過光2:一度、空気層の上下で2回反射してから透過する光。(実際には多数回反射する光の重ね合わせだが、2回反射が主)
  • 反射による位相シフト:
    • 透過光2を構成する二つの反射(ガラス→空気、空気→ガラス)は、それぞれ位相シフトが「なし」と「π」です。しかし、光が媒質を透過する際には、位相シフトは起こりません。
    • より簡単な考え方は、エネルギー保存則です。反射光が弱めあう(エネルギーが反射されない)場所では、その分のエネルギーは透過しているはずなので、透過光は強めあわなければなりません。
  • 結論:透過光の干渉縞は、反射光の干渉縞と、明暗が完全に逆転したパターンになります。
    • 中心: 反射光では暗斑でしたが、透過光では明斑となります。
    • 条件式:
      • 明環(強めあい)2d = mλ
      • 暗環(弱めあい)2d = (m+1/2)λ

通常、ニュートンリングの実験では反射光を観察するため、特に断りがない限り、「中心が暗く、2d=mλ で暗環」という条件を用いるのが標準です。

9. 明環・暗環の半径の計算

ニュートンリングの干渉条件が、空気層の厚さ d によって決まることが分かりました。しかし、実験で私たちが直接測定できるのは、スクリーンや顕微鏡の視野に映る円環の半径 r です。したがって、物理学的に意味のある干渉条件の式を、測定可能な量である半径 r を用いた式へと変換する必要があります。

そのためには、空気層の厚さ d と、中心からの距離 r の間に、どのような幾何学的な関係があるかを導き出す必要があります。

9.1. 厚さ d と半径 r の関係式の導出

この関係式は、平凸レンズの球面の幾何学的性質から導かれます。

[Diagram for deriving the relationship between d and r in Newton’s rings, showing the large circle of the lens’s curvature.]

  • 状況設定:
    • 平凸レンズの曲率半径R (非常に大きい)
    • 円環の半径r (観測しているリングの半径)
    • 空気層の厚さd (半径 r の点における厚さ)
  • 幾何学的考察:レンズの球面部分を、半径 R の巨大な円の一部として考えます。図のように、円の中心、レンズの中心、そして半径 r の円環上の点を結ぶと、直角三角形ができます。
    • 斜辺R
    • 一つの辺r
    • もう一つの辺R - d
  • 三平方の定理の適用:この直角三角形に、三平方の定理(ピタゴラスの定理)を適用します。\[ r^2 + (R-d)^2 = R^2 \]この式を展開します。\[ r^2 + R^2 – 2Rd + d^2 = R^2 \]両辺の R² を消去します。\[ r^2 – 2Rd + d^2 = 0 \]
  • 近似の導入:ここで、ニュートンリングの実験で成り立つ、極めて重要な近似を導入します。レンズの曲率半径 R は、通常、数メートルといった非常に大きな値です。一方、空気層の厚さ d は、光の波長程度であり、極めて小さい値です。したがって、R は d に比べて、はるかに大きい (R >> d) と言えます。このため、上の式に含まれる d² の項は、他の項 r² や 2Rd に比べて無視できるほど小さいと見なすことができます。d² ≈ 0
  • 最終的な関係式:d² の項を無視すると、式は非常にシンプルになります。\[ r^2 – 2Rd \approx 0 \]\[ r^2 \approx 2Rd \]この式が、ニュートンリングにおける半径 r と厚さ d を結びつける、重要な近似関係式です。

9.2. 暗環の半径 r_m の計算

この関係式 r² ≈ 2Rd を、前章で導出した暗環の条件式に代入します。

  • 暗環の条件2d = mλ (m = 0, 1, 2, …)
  • 関係式より2d ≈ r² / R

この二つの式を組み合わせると、

\[ \frac{r^2}{R} \approx m\lambda \]

m 番目の暗環の半径を r_m とすると、

\[ r_m^2 \approx m\lambda R \]

暗環の半径の公式:

\[ r_m \approx \sqrt{m\lambda R} \quad (m = 0, 1, 2, \dots) \]

  • m=0r₀ = 0。中心は半径0の暗点です。
  • m=1r₁ ≈ √(λR)。これが1番目の暗いリングの半径です。
  • m=2r₂ ≈ √(2λR)

この式から、暗環の半径は、√m に比例して大きくなっていくことがわかります。r_m ∝ √m。

これは、ヤングの実験の干渉縞が等間隔 (x_m ∝ m) であったのとは対照的です。ニュートンリングでは、外側に行くほど、リングの間隔は次第に狭くなります。

(r₂ – r₁ = (√2-√1)√(λR) ≈ 0.41√(λR))

(r₃ – r₂ = (√3-√2)√(λR) ≈ 0.32√(λR))

9.3. 明環の半径 r_m の計算

同様に、明環の条件式にも r² ≈ 2Rd を代入します。

  • 明環の条件2d = (m + 1/2)λ (m = 0, 1, 2, …)

\[ \frac{r^2}{R} \approx \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \]

m 番目の明環の半径を r_m とすると、

\[ r_m^2 \approx \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda R \]

明環の半径の公式:

\[ r_m \approx \sqrt{\left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda R} \quad (m = 0, 1, 2, \dots) \]

  • m=0r₀ ≈ √(λR/2)。これが最も内側にある、1番目の明るいリングの半径です。

9.4. 応用:波長や曲率半径の測定

これらの半径の公式は、ニュートンリングが単に美しいだけでなく、精密な測定ツールとしても機能することを示しています。

例えば、m 番目の暗環の半径 r_m を顕微鏡で測定し、レンズの曲率半径 R が既知であれば、

λ = r_m² / (mR)

という式から、使用した光の波長 λ を非常に高い精度で決定することができます。

逆に、波長 λ が既知の単色光を用いれば、未知のレンズの曲率半径 R を測定することも可能です。これは、レンズの品質検査などに応用されています。

10. 光学薄膜(反射防止膜など)への応用

薄膜による光の干渉は、シャボン玉のような自然の美しさだけでなく、私たちの生活を支える高度な光学技術にも、不可欠な原理として応用されています。その最も代表的で重要な応用例が、カメラやメガネのレンズに施されている光学薄膜 (optical thin film)、特に反射防止膜 (anti-reflection coating) です。

10.1. なぜ反射防止が必要なのか?

ガラスの表面は、一見すると完全に透明に見えますが、実際には光の一部を反射しています。空気とガラスの境界面では、垂直に入射した光の約4%が反射されます。

たった4%と思うかもしれませんが、高性能なカメラのレンズは、十数枚ものレンズを組み合わせて作られています。レンズ一枚ごとに表と裏の二つの面があり、それぞれの面で光が反射されると、

  • 光量の損失: 像を作るための光が減ってしまい、写真が暗くなる。
  • ゴースト・フレアの発生: レンズ内部で意図しない多重反射が起こり、本来はないはずの光の斑点(ゴースト)や、画面全体が白っぽくなる(フレア)といった画質の低下を引き起こす。といった深刻な問題が生じます。

この不要な反射を、光の干渉を利用して意図的に打ち消してしまうのが、反射防止膜の役割です。

10.2. 反射防止膜の原理

反射防止膜は、レンズ(基材)の表面に、真空蒸着などの技術を用いて、特定の屈折率と厚さを持つ、極めて薄い透明な膜をコーティングしたものです。

その原理は、**「膜の表面からの反射光」と「膜の裏面からの反射光」が、互いに打ち消しあう(破壊的干渉を起こす)**ように、膜の性質を巧みに設計することにあります。

[Diagram of an anti-reflection coating on a lens, showing the two interfering rays.]

設計の条件

特定の波長の光(通常は可視光の中心である緑色の光、λ ≈ 550 nm)の反射をゼロにするために、以下の二つの条件を同時に満たすように、膜の屈折率 n_c と厚さ d を選びます。

条件1:振幅に関する条件(反射率の調整)

二つの反射光が完全に打ち消しあうためには、それらの振幅(強さ)が等しいことが理想的です。

  • 反射光1(空気 → コーティング膜)の振幅
  • 反射光2(コーティング膜 → レンズガラス)の振幅光の反射率は、境界面を挟む二つの媒質の屈折率の差によって決まります。二つの反射光の振幅が等しくなる条件を計算すると、コーティング膜の屈折率 n_c は、空気の屈折率 n_air とレンズガラスの屈折率 n_glass の相乗平均になればよいことが分かります。\[ n_c = \sqrt{n_{\text{air}} \cdot n_{\text{glass}}} \]空気の屈折率 n_air ≈ 1 なので、実質的には n_c ≈ √n_glass となります。例えば、ガラスの屈折率が n_glass = 1.5 であれば、理想的なコーティング材の屈折率は n_c ≈ √1.5 ≈ 1.22 となります。

条件2:位相に関する条件(干渉条件の調整)

二つの反射光が弱めあうように、膜の厚さ d を選びます。

  1. 反射による位相シフト:
    • 空気 (n_air≈1) < コーティング (n_c≈1.22) < ガラス (n_glass≈1.5) という屈折率の関係 n_air < n_c < n_glass を満たす材料を選びます。
    • 表面での反射(空気→膜): n_air < n_c なので、「小→大」。位相がπずれる
    • 裏面での反射(膜→ガラス): n_c < n_glass なので、「小→大」。位相がπずれる。結論: この場合、二つの反射光が、ともに位相がπずれます。したがって、反射による位相差は π – π = 0 となります。
  2. 光路差:垂直入射を考えると、光路差は膜の往復分なので ΔL = 2n_c d。
  3. 弱めあいの条件:反射による位相差がゼロなので、干渉条件はヤングの実験と同じになります。弱めあいの条件は、光路差が半波長の奇数倍となることです。\[ 2n_c d = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \dots) \]この条件を満たす最も薄い膜厚は、m=0 のときです。\[ 2n_c d = \frac{\lambda}{2} \quad \Rightarrow \quad d = \frac{\lambda}{4n_c} \]膜の光学的な厚さ (n_c d) が、対象とする光の波長の 1/4 になるように設計します。これを「λ/4 膜」と呼びます。

この二つの条件を満たす薄膜をレンズにコーティングすることで、特定の波長の光の反射を、理論的にはほぼゼロにまで抑えることができるのです。

10.3. 多層膜コーティングとその他の応用

実際の一眼レフカメラのレンズなどに見られる、緑や紫色の独特の輝きは、単層の反射防止膜ではなく、屈折率や厚さの異なる複数の薄膜を何層にも重ねた多層膜(マルチレイヤー)コーティングが施されている証拠です。

これにより、

  • より幅広い波長域(可視光全域)にわたって、高い反射防止効果を実現する。
  • 特定の波長の光だけを透過させ、他を反射するフィルター
  • 特定の波長の光だけを強く反射させる高反射ミラー(誘電体ミラー)。といった、より高度な光学性能を実現しています。

薄膜干渉の原理は、このように、私たちの目に見えないナノメートルの世界を精密に制御することで、光学機器の性能を飛躍的に向上させ、現代のデジタルイメージングやレーザー技術を根底から支えているのです。

Module 10:光の干渉(2)薄膜とニュートンリング の総括:境界が創り出す色彩の物理

本モジュール「光の干渉(2)薄膜とニュートンリング」の探求は、ヤングの実験で学んだ干渉の原理を、私たちの日常生活に溢れる、より身近で美しい現象へと接続する旅でした。シャボン玉の儚い虹色や、水面の油膜の幻想的な輝き。私たちは、これらの色彩が単なる偶然の産物ではなく、光が薄膜という舞台の上で繰り広げる、厳密な物理法則に基づいた干渉の芸術であることを解き明かしました。

その核心にあったのは、「振幅の分割」という新しい干渉メカニズムと、二つの極めて重要な物理的ルールでした。第一に、「反射における位相シフト」。光が屈折率の低い媒質から高い媒質との境界で反射するときにだけ、その位相がπ(半波長分)だけ反転するという、このわずかな違いが、干渉の条件を根本から支配していることを見抜きました。第二に、**「光路差」**の概念。膜の中を往復する光の「道のり」を、屈折率を考慮した見かけの距離として正しく計算することの重要性を学びました。

これらの原理を組み合わせることで、私たちは、薄膜の厚さ d と光の波長 λ が、2nd = mλ のようなシンプルな数式で結びつき、特定の色を選択的に強めたり弱めたりする、自然界の精緻なフィルターとして機能する様を理解しました。

さらに、くさび形の空気層やニュートンリングといった、厚さが連続的に変化する系へと応用することで、干渉が直線状や円環状の幾何学的なパターンを生み出すこと、そしてそのパターンの寸法から、レンズの曲率半径のようなマクロな量や、光の波長というミクロな量を精密に測定できることを示しました。

最後に、この薄膜干渉の原理が、カメラレンズの反射防止膜という、現代の高度な光学技術の根幹をなしていることを知りました。光の波動性を巧みにコントロールし、不要な反射を光自身の力で打ち消させるというこの技術は、物理学の理論が、いかにして私たちの生活を豊かにする実践的な価値を生み出すかを示す、輝かしい一例です。

このモジュールを通じて、私たちは、物質の「境界」という、ほんのわずかな界面が、光の波動性と出会うことで、いかに豊かで複雑な現象の舞台となりうるかを目の当たりにしました。それは、物理学が、世界の美しさの背後にある論理的な構造を解き明かす学問であることを、改めて教えてくれます。

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