【基礎 物理(波動)】Module 4:波の干渉と定常波

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本モジュールの目的と構成

これまでのモジュールで、私たちは単一の波がどのように振る舞うかを学び、その性質を記述する言語を習得してきました。しかし、波動現象の真の面白さ、そしてその奥深さは、複数の波が出会い、互いに影響を及ぼしあうときにこそ現れます。本モジュールでは、Module 1で学んだ「重ね合わせの原理」を主役の座に据え、それが織りなす二つの壮大な現象、**「干渉」「定常波」**を探求します。

ここで私たちが目撃するのは、単なる波の足し算ではありません。それは、無秩序に見える個々の波の動きから、驚くほど秩序だった時空間的なパターンが自己組織化される、「創発」のプロセスです。場所によって常に強く響き合う場所と、静寂に包まれる場所が生まれる「干渉」。そして、まるで波がその場に生命を宿したかのように、進行を止めて振動し続ける「定常波」。これらは、波動現象のクライマックスとも言える、美しくも重要な帰結です。

この知的探求は、以下の論理的なステップで進行します。

  1. 干渉の基本条件: まず、複数の波が意味のあるパターンを安定して生み出すための大前提、すなわち「干渉可能である」とはどういうことか、その条件(特に同位相・逆位相)を学びます。
  2. 運命を分ける距離(経路差と位相差): 二つの波が出会う点での振る舞いが、それぞれの波がたどってきた道のりの差、すなわち「経路差」によって、いかにして決定づけられるのか、そのメカニズムを「位相差」との関係から解き明かします。
  3. 強弱の法則: 経路差の条件から、波が強めあう条件と弱めあう条件を、普遍的な数式として導出します。
  4. パターンの可視化(腹線と節線): 干渉によって生じる強弱のパターンを、地図のように可視化するための「腹線」と「節線」の作図方法を学びます。
  5. 定常波という存在: 干渉の最も重要かつ特殊な現れである「定常波」が、我々がよく知る「進行波」と、どのように本質的に異なるのかを比較・対照します。
  6. 定常波の誕生: 定常波が、互いに逆向きに進む二つの波の重ね合わせによって生まれる、という形成メカニズムを、作図を通して視覚的に追体験します。
  7. 定常波の解剖(腹と節): 定常波の構造を特徴づける、最も激しく振動する「腹」と、全く動かない「節」の性質と、その空間的な配置のルールを探ります。
  8. 定常波の数式表現: 一見複雑な定常波の振る舞いが、三角関数の和積公式を用いることで、いかにエレガントな数式で表現されるかを示し、その式が持つ物理的な意味を解読します。
  9. 反射による定常波: 最も一般的な定常波の発生源である「反射」において、境界の性質(自由端・固定端)が、腹と節の位置にどのような違いをもたらすのかを学びます。
  10. 定常波とエネルギー: 最後に、「定常波はエネルギーを運ぶのか?」という本質的な問いに答え、その特殊なエネルギーの振る舞いに迫ります。

このモジュールを終えるとき、あなたは、重ね合わせの原理という極めてシンプルなルールから、いかにして複雑で秩序のある現象が立ち現れるのかという、物理学の最もエキサイティングな側面の一つを体験しているはずです。それは、自然界が内包する、自己組織化の神秘に触れる旅となるでしょう。

目次

1. 波の干渉の条件:同位相・逆位相

重ね合わせの原理によれば、二つ以上の波が同じ場所に来ると、その点の変位は各波の変位の和となります。この重ね合わせは常に起こっていますが、その結果として生じる強弱のパターンが、時間が経っても変化せず、空間的に安定した模様として観測されるとき、私たちはその現象を特別に干渉 (interference) と呼びます。

干渉は、ランダムな波の集まりからは生じません。干渉が起こるためには、重ね合わさる波たちが、ある特別な関係性を持っている必要があります。この章では、安定した干渉パターンを生み出すための前提条件、特に波源の位相の関係性について、その重要性を深く掘り下げていきます。

1.1. 干渉が起こるための大前提(可干渉性)

美しい干渉縞や、はっきりとした強弱のパターンが観測されるためには、重ね合わさる波が**「干渉可能(コヒーレント, coherent)」**である必要があります。波が干渉可能であるための条件は、主に以下の二つです。

条件1:振動数が等しいこと

重ね合わさるすべての波の振動数 f(したがって周期 T と波長 λ も)が、互いに等しい必要があります。

もし、振動数が異なる波(例えば、ドの音とソの音)が重なり合った場合、一方の波の位相は他方の波の位相に対して絶えず変化し続けます。ある瞬間には山と山が重なって強めあっても、次の瞬間には山と谷が重なって弱めあう、ということが目まぐるしく起こります。その結果、合成波の振幅は複雑に時間変化し(これは「うなり」という別の現象につながります)、安定した空間的な強弱のパターンは形成されません。

条件2:位相関係が一定であること

波を発生させる複数の波源(例えば、二つのスピーカー S₁S₂)の間の位相差が、時間が経っても常に一定に保たれている必要があります。

例えば、S₁ と S₂ が、完全に同じタイミングで振動を始めたとします(位相差が0)。この関係が、1秒後も10秒後もずっと維持されていなければなりません。もし、二つの波源の振動のタイミングがてんでんばらばらにずれていくようでは、観測点での強めあいや弱めあいの条件も刻一刻と変化してしまい、やはり安定した干渉は起こりません。

日常生活において、二つの独立した光源(例えば、二つの電球)の光が干渉しないのは、この条件が満たされないためです。電球の光は、無数の原子がてんでんばらばらのタイミングで出す光の集まりなので、二つの電球の間の位相関係はランダムに激しく変動しています。安定した光の干渉を観測するためには、一つの光源から出た光を二つに分けるなどして、この位相関係を人為的に固定してあげる必要があるのです(ヤングの実験など)。

1.2. 干渉を考える上での重要な位相関係

高校物理で扱う干渉の問題では、上記の二つの条件は常に満たされていると仮定されます。その上で、波源の「一定な位相関係」として、特に重要な二つのケースが登場します。

ケース1:同位相 (In-phase)

同位相とは、二つの波源 S₁S₂ の位相差が 0(または  の整数倍)で、常に一定である状態を指します。

  • 物理的イメージ: 二つの波源が、完全に足並みをそろえて振動している状態です。S₁ が山の波を送り出す瞬間に、S₂ も全く同じタイミングで山の波を送り出します。S₁ が谷を送り出せば、S₂ も谷を送り出します。
  • アナロジー: 二人の人が、声をそろえて「いっせーのーで」と同じ言葉を同時に発し続けるようなイメージです。
  • 標準的な設定: 特に断りがない限り、干渉の問題では波源は同位相であると仮定するのが一般的です。

ケース2:逆位相 (Anti-phase / Out-of-phase)

逆位相とは、二つの波源 S₁S₂ の位相差が π (180°) で、常に一定である状態を指します。

  • 物理的イメージ: 二つの波源が、完全に正反対のタイミングで振動している状態です。S₁ が山の波を送り出す瞬間に、S₂ は谷の波を送り出します。S₁ が谷を送り出せば、S₂ は山を送り出します。
  • アナロジー: スピーカーのプラスとマイナスの配線を、片方だけ逆につないだ状態に相当します。一方が空気を押しているとき、もう一方は引いている、という動きになります。

1.3. 位相関係が干渉条件に与える影響

なぜ、波源の位相関係がこれほど重要なのでしょうか。それは、観測点 P における最終的な強めあい・弱めあいの条件が、この波源での初期位相差に直接影響されるからです。

ある観測点 P に、S₁ からの波と S₂ からの波が到達したとします。この二つの波が P 点で干渉するときの全位相差 Δφ_total は、以下の二つの要因の和で決まります。

Δφ_total = (波源 S₁S₂ の位相差) + (経路差によって生じる位相差)

  • 波源の位相差: 上で述べた、同位相(0)か逆位相(π)か、という初期設定です。
  • 経路差による位相差P 点までの道のりの長さが違うこと (L₁ ≠ L₂) によって生じる、到着タイミングのズレです。これについては、次章で詳しく学びます。

最終的に強めあうか弱めあうかは、この Δφ_total が 2π の整数倍になるか、π の奇数倍になるかで決まります。

したがって、波源が同位相か逆位相かによって、経路差が満たすべき強弱の条件が、そっくり逆転することになるのです。

問題を解く際には、まず第一に「波源は同位相か、逆位相か」という条件を問題文から正確に読み取ることが、正しい結論へ至るための第一歩となります。この初期条件の確認を怠ると、たとえその後の計算がすべて正しくても、答えは正反対になってしまいます。

2. 経路差と位相差の関係

波の干渉において、ある場所が強めあう点になるか、弱めあう点になるかを運命づける、最も重要な幾何学的要因が経路差 (path difference) です。二つの波源から観測点までの「道のりの差」が、そこに到達する二つの波の「出会い方(位相の差)」を決定づけるのです。

この章では、この幾何学的な量である「経路差」と、波の振動状態を表す物理的な量である「位相差」とが、どのようにして結びついているのか、その数学的な関係を導出し、その意味を深く理解します。この関係式は、あらゆる干渉問題を解く上での理論的な背骨となります。

2.1. 用語の定義

まず、二つの重要な用語を厳密に定義し直します。

経路差 (Path Difference)

二つの波源 S₁ と S₂ があり、空間のある一点(観測点)を P とします。

  • L₁: 波源 S₁ から観測点 P までの直線距離。
  • L₂: 波源 S₂ から観測点 P までの直線距離。

このとき、経路差 ΔL は、これら二つの距離の差の絶対値として定義されます。

[ \Delta L = |L_1 – L_2| ]

経路差は、純粋に幾何学的な量であり、単位はメートル [m] です。観測点 P の場所を動かせば、L₁ と L₂ の値が変わり、それに伴って経路差 ΔL も変化します。

位相差 (Phase Difference)

位相差 Δφ は、観測点 P において、S₁ から来た波と S₂ から来た波が重なり合う瞬間の、両者の位相の差を指します。

[ \Delta\phi = |\phi_1(P) – \phi_2(P)| ]

位相差は、波の振動状態のズレを表す量であり、単位はラジアン [rad] です。この位相差の値によって、その点で波が強めあうか弱めあうかが決まります。

2.2. 関係式の導出:波長の数で考える

経路差 ΔL と位相差 Δφ の関係を導出するのは、実は非常にシンプルです。鍵となるのは、「波長 λ」が、距離と位相を結びつける仲介役となるという事実です。

波の定義を思い出してみましょう。

  • 波長 λ: 空間的に波一つ分の長さ。
  • 位相 : 振動が一周期(360°)することに対応する角度。

つまり、波が空間を 1 波長 (λ) 進むごとに、その位相はちょうど 2π [rad] 変化するのです。

この基本的な比例関係が、すべての出発点です。

さて、観測点 P を考えます。S₁ から P までの距離は L₁、S₂ から P までの距離は L₂ です。

波源 S₁, S₂ が同位相で波を送り出したと仮定します。

  • S₁ から P までに、波は何個分含まれているでしょうか? → L₁ / λ 個です。
  • S₂ から P までに、波は何個分含まれているでしょうか? → L₂ / λ 個です。

したがって、P 点に到達するまでに経験した「波の数の差」は、(L₁ / λ) – (L₂ / λ) = (L₁ – L₂)/λ となります。

これが、二つの波の「振動回数のズレ」に相当します。

一方、波が1個進むごとに位相は  変化するのですから、P 点での位相差 Δφ は、この「波の数の差」に を掛けてあげれば求まります。

[ \Delta\phi = 2\pi \times (\text{波の数の差}) = 2\pi \times \frac{|L_1 – L_2|}{\lambda} ]

経路差 ΔL = |L₁ - L₂| を用いて、この関係を書き直すと、

[ \Delta\phi = \frac{2\pi}{\lambda} \Delta L ]

という、極めて重要で美しい関係式が得られます。

この式は、**「二つの波の位相差は、その経路差に比例する」**という、干渉現象の核心を数学的に表現しています。比例定数 2π/λ は、距離を位相に変換するための「換算レート」のようなものです。

2.3. 全位相差の考え方

前章で触れたように、観測点 P での最終的な位相差は、二つの要因から決まります。

Δφ_total (観測点での全位相差) = Δφ_source (波源での初期位相差) + Δφ_path (経路差による位相差)

ここで、

  • Δφ_source:
    • 波源が同位相なら Δφ_source = 0
    • 波源が逆位相なら Δφ_source = π
  • Δφ_path:
    • これが、上で導出した (2π/λ)ΔL です。

したがって、

  • 波源が同位相の場合Δφ_total = (2π/λ)ΔL
  • 波源が逆位相の場合Δφ_total = π + (2π/λ)ΔL

となります。

この全位相差 Δφ_total の値を使って、次の章では、強めあい・弱めあいの条件を具体的に数式で導出していきます。

2.4. 具体例で理解する

水面上で、20cm離れた二つの波源 S₁, S₂ が、波長 λ = 4 cm の波を同位相で出しているとします。

S₁ から 30cm、S₂ から 40cm の距離にある点 P での位相差はいくらでしょうか。

  1. 経路差を計算する:L₁ = 30 cm, L₂ = 40 cmΔL = |L₁ – L₂| = |30 – 40| = 10 cm
  2. 波の数の差を計算する:経路差 10 cm の間に、波長 4 cm の波がいくつ含まれるか。波の数の差 = ΔL / λ = 10 / 4 = 2.5 個。つまり、二つの波は P 点で 2.5 回分だけ振動がずれていることになります。
  3. 位相差を計算する:波が1個ずれると位相は 2π ずれるので、2.5個のずれは、Δφ = 2.5 × 2π = 5π [rad]となります。公式 Δφ = (2π/λ)ΔL を使っても、もちろん同じ結果になります。Δφ = (2π / 4) × 10 = 5π [rad]

この点 P では、位相差が π の奇数倍)なので、二つの波は互いに逆の動きをすることになり、弱めあうことが予測できます。このように、経路差と位相差の関係式は、干渉の運命を予言する強力なツールなのです。

3. 強めあう条件と弱めあう条件の導出

二つの波が重なり合う点での運命、すなわち、そこが永遠に揺れ続ける「強めあいの点」になるのか、あるいは静寂に包まれる「弱めあいの点」になるのかは、その点に到達した二つの波の全位相差 Δφ_total によって、完全に決定されます。

この章では、重ね合わせの原理に立ち返り、強めあい・弱めあいの条件を位相差の観点から明確にした上で、それを前章で学んだ「経路差 ΔL」の条件へと翻訳していきます。この導出プロセスを理解することは、干渉の問題を機械的な暗記ではなく、物理的な原理から解き明かす能力を養う上で不可欠です。

3.1. 位相差による条件:すべての基本

まず、波の重ね合わせを数学的に考えてみましょう。

観測点 P に到達した二つの波の変位を、それぞれ

y₁ = A cos(ωt)

y₂ = A cos(ωt – Δφ_total)

と表します。ここで A は振幅、Δφ_total は全位相差です。簡単のため、一方の位相を 0 としました。

重ね合わせの原理により、合成波の変位 y は y = y₁ + y₂ となります。

y = A {cos(ωt) + cos(ωt – Δφ_total)}

ここで、三角関数の和積公式 cosA + cosB = 2cos((A+B)/2)cos((A-B)/2) を用いると、

y = A \left[ 2 \cos\left(\frac{\omega t + \omega t – \Delta\phi_{total}}{2}\right) \cos\left(\frac{\omega t – (\omega t – \Delta\phi_{total})}{2}\right) \right]

y = 2A \cos\left(\omega t – \frac{\Delta\phi_{total}}{2}\right) \cos\left(\frac{\Delta\phi_{total}}{2}\right)

この式を並べ替えると、

[ y = \left[ 2A \cos\left(\frac{\Delta\phi_{total}}{2}\right) \right] \cos\left(\omega t – \frac{\Delta\phi_{total}}{2}\right) ]

この式が、干渉のすべてを物語っています。

合成波は、[…] で囲まれた部分を新たな振幅として、角振動数 ω で振動することを示しています。

したがって、強めあうか弱めあうかは、この振幅部分 |2A cos(Δφ_total / 2)| が最大になるか最小になるかで決まります。

強めあう条件(建設的干渉)

振幅が最大になるのは、|cos(Δφ_total / 2)| が最大値 1 を取るときです。

これは、Δφ_total / 2 が 0, ±π, ±2π, … すなわち mπ (mは整数) のときです。

したがって、Δφ_total = 2mπ。

強めあいの位相条件Δφ_total = 2mπ = 0, 2π, 4π, ... (m = 0, 1, 2, …)

これは、二つの波の位相がぴったり合う(または 360° の整数倍ずれる)ことを意味し、直感的にも明らかです。

弱めあう条件(破壊的干渉)

振幅が最小になるのは、cos(Δφ_total / 2) が 0 を取るときです。

これは、Δφ_total / 2 が ±π/2, ±3π/2, … すなわち (m+1/2)π (mは整数) のときです。

したがって、Δφ_total = (2m+1)π。

弱めあいの位相条件Δφ_total = (2m+1)π = π, 3π, 5π, ... (m = 0, 1, 2, …)

これは、二つの波の位相が 180° (またはそれに 360° の整数倍を加えた角度) ずれていることを意味します。山と谷が重なり、打ち消しあう条件です。

3.2. 経路差への翻訳:波源が同位相の場合

それでは、この普遍的な位相条件を、より具体的な経路差の条件に変換してみましょう。まずは最も標準的な、二つの波源 S₁, S₂ が同位相 (Δφ_source = 0) の場合を考えます。

このとき、全位相差は経路差によるものだけなので、

Δφ_total = Δφ_path = (2π/λ)ΔL

強めあう条件(同位相波源)

強めあいの位相条件 Δφ_total = 2mπ に代入すると、

[ \frac{2\pi}{\lambda}\Delta L = 2m\pi ]

両辺を 2π で割ると、

[ \frac{\Delta L}{\lambda} = m \quad \Rightarrow \quad \Delta L = m\lambda ]

強めあいの経路差条件(同位相波源):

ΔL = mλ (m = 0, 1, 2, …)

経路差が、波長の整数倍

<h4>弱めあう条件(同位相波源)</h4>

弱めあいの位相条件 Δφ_total = (2m+1)π に代入すると、

[ \frac{2\pi}{\lambda}\Delta L = (2m+1)\pi ]

両辺を 2π で割ると、

[ \frac{\Delta L}{\lambda} = \frac{2m+1}{2} = m + \frac{1}{2} \quad \Rightarrow \quad \Delta L = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda ]

弱めあいの経路差条件(同位相波源):

ΔL = (m + 1/2)λ (m = 0, 1, 2, …)

経路差が、波長の半整数倍((半波長)の奇数倍)

3.3. 経路差への翻訳:波源が逆位相の場合

次に、やや特殊なケースですが、二つの波源 S₁, S₂ が逆位相 (Δφ_source = π) の場合を考えます。

このとき、全位相差は、

Δφ_total = Δφ_source + Δφ_path = π + (2π/λ)ΔL

強めあう条件(逆位相波源)

強めあいの位相条件 Δφ_total = 2mπ に代入すると、

[ \pi + \frac{2\pi}{\lambda}\Delta L = 2m\pi ]

[ \frac{2\pi}{\lambda}\Delta L = (2m-1)\pi ]

2m-1 は奇数を表すので、2m’+1 (m’は整数) と書いても同じことです。

[ \Delta L = \frac{2m’+1}{2}\lambda = \left(m’ + \frac{1}{2}\right)\lambda ]

強めあいの経路差条件(逆位相波源):

ΔL = (m + 1/2)λ (m = 0, 1, 2, …)

経路差が、波長の半整数倍

弱めあう条件(逆位相波源)

弱めあいの位相条件 Δφ_total = (2m+1)π に代入すると、

[ \pi + \frac{2\pi}{\lambda}\Delta L = (2m+1)\pi ]

[ \frac{2\pi}{\lambda}\Delta L = 2m\pi ]

[ \Delta L = m\lambda ]

弱めあいの経路差条件(逆位相波源):

ΔL = mλ (m = 0, 1, 2, …)

経路差が、波長の整数倍

3.4. 結論:条件の逆転

以上の結果を比較すると、極めて重要な結論が導かれます。

波源が同位相の場合と逆位相の場合とでは、強めあいと弱めあいの経路差条件が、そっくりそのまま逆転する。

条件波源が同位相の場合波源が逆位相の場合
強めあうΔL = mλΔL = (m + 1/2)λ
弱めあうΔL = (m + 1/2)λΔL = mλ

この事実を理解せず、ただ mλ が強めあう条件だと暗記していると、波源が逆位相の問題が出たときに必ず間違えてしまいます。

干渉の問題に取り組む際は、

  1. まず、波源の位相関係(同位相か逆位相か)を確認する。
  2. 次に、その設定に基づいて、経路差 ΔL が mλ と (m+1/2)λ のどちらが強めあいの条件になるかを確定させる。という思考プロセスを徹底することが、ミスを防ぎ、安定して高得点を取るための鍵となります。

4. 腹線と節線の作図

干渉によって空間に生じる、強めあいの点と弱めあいの点の分布は、ランダムなものではなく、美しい幾何学的な模様を描きます。この干渉模様を地図のように可視化するためのツールが、腹線 (antinodal line) と節線 (nodal line) の作図です。この作図を通じて、干渉条件が空間的なパターンとしてどのように現れるかを、直感的に理解することができます。

4.1. 腹線と節線の定義

  • 腹線 (Antinodal Line):空間内で、波が常に強めあう点を連ねてできる線(3次元なら面)のことです。腹線上の点は、二つの波源からの波が常に同位相で重なり、大きく振動します。
  • 節線 (Nodal Line):空間内で、波が常に弱めあう点を連ねてできる線(3次元なら面)のことです。節線上の点は、二つの波源からの波が常に逆位相で重なり、ほとんど、あるいは全く振動しません。

「腹」という言葉は、後で学ぶ定常波の最も大きく振動する部分を指す言葉であり、「節」は全く振動しない部分を指す言葉です。干渉模様は、定常波の空間的な広がりと見なすこともできるため、同じ用語が使われます。

4.2. 作図の準備:波面の可視化

腹線と節線を作図するためには、まず二つの波源 S₁S₂ から広がる波の様子を、ある瞬間のスナップショットとして描く必要があります。これは、ホイヘンスの原理で用いた作図法と似ています。

  1. 波源の配置: まず、二つの波源 S₁ と S₂ を紙の上に描きます。
  2. 波面の作図: 各波源を中心として、同心円状に波面を描いていきます。このとき、波の「山」と「谷」を区別して描くのがポイントです。
    • 山の波面: 例えば、半径が λ, 2λ, 3λ, ... となる円を実線で描きます。これらは、ある瞬間に波の山が到達している位置を示します。
    • 谷の波面: 例えば、半径が 0.5λ, 1.5λ, 2.5λ, ... となる円を破線で描きます。これらは、山のちょうど中間に位置する、波の谷が到達している位置を示します。

この実線と破線の同心円群が、干渉模様を作図するための「下敷き」となります。

4.3. 作図の実行:交点から線を見出す

下敷きとなる波面図が描けたら、S₁ からの波面(円群)と S₂ からの波面(円群)の交点に注目します。これらの交点が、干渉の起こる点です。

腹線の作図

腹線は、常に強めあう点の集まりです。強めあいが起こるのは、

  • 山と山が重なる点
  • 谷と谷が重なる点です。

作図上では、

  • S₁ からの実線と S₂ からの実線が交わる点を探します。
  • S₁ からの破線と S₂ からの破線が交わる点を探します。

これらの交点をすべて拾い出し、滑らかな線で結んでいくと、それが腹線となります。

なぜこれらの点が腹線になるのか?

例えば、S₁ からの半径 3λ の実線と、S₂ からの半径 2λ の実線の交点 P を考えてみましょう。

この点 P までの経路は L₁=3λ, L₂=2λ なので、経路差は ΔL = |3λ – 2λ| = λ = 1・λ となり、m=1 の強めあいの条件 ΔL = mλ を満たしています。

同様に、S₁ からの半径 2.5λ の破線と、S₂ からの半径 1.5λ の破線の交点では、ΔL = |2.5λ – 1.5λ| = λ = 1・λ となり、これも強めあいの条件を満たします。

節線の作図

節線は、常に弱めあう点の集まりです。弱めあいが起こるのは、

  • 山と谷が重なる点です。

作図上では、

  • S₁ からの実線と S₂ からの破線が交わる点を探します。
  • S₁ からの破線と S₂ からの実線が交わる点を探します。

これらの交点をすべて拾い出し、滑らかな線で結んでいくと、それが節線となります。

なぜこれらの点が節線になるのか?

例えば、S₁ からの半径 3λ の実線と、S₂ からの半径 1.5λ の破線の交点 Q を考えてみましょう。

この点 Q までの経路は L₁=3λ, L₂=1.5λ なので、経路差は ΔL = |3λ – 1.5λ| = 1.5λ = (1+1/2)λ となり、m=1 の弱めあいの条件 ΔL = (m+1/2)λ を満たしています。

4.4. 干渉模様の形状:双曲線

この作図を丁寧に行うと、腹線と節線が、それぞれ二つの波源 S₁, S₂ を焦点とする、一連の双曲線 (hyperbola) を描くことが分かります。

数学における双曲線の定義は、「二つの定点(焦点)からの距離の差が一定である点の軌跡」です。

これは、まさに干渉の条件そのものです。

  • 腹線: 経路差 ΔL = |L₁ - L₂| が (一定値)となる点の集まり。
  • 節線: 経路差 ΔL = |L₁ - L₂| が (m+1/2)λ(一定値)となる点の集まり。

したがって、干渉によって生じる腹線と節線のパターンは、数学的に美しい双曲線群を形成するのです。

ただし、m=0 に対応する中央の腹線 (ΔL = 0) だけは、S₁ と S₂ を結ぶ線分の垂直二等分線となり、直線になります。

この作図は、抽象的な干渉の条件式を、目に見える具体的な空間パターンへと変換する強力なプロセスです。水面に二つの波源を置いたときに実際に現れる波模様が、この作図と一致することを想像することで、理論と現実の美しい対応関係を実感することができるでしょう。

5. 進行波と定常波の違い

これまでのモジュールで私たちが主に扱ってきたのは、波形そのものが一定の速さで一方向に伝わっていく進行波 (traveling wave / progressive wave) でした。しかし、波の干渉を学んだ今、私たちは波のもう一つの存在形態、定常波 (standing wave / stationary wave) に出会います。

定常波は、進行波とは似て非なる、極めてユニークで重要な性質を持っています。その名の通り、波形が空間的に「定常」、すなわち移動せずにその場に留まっているように見える波です。この現象は、楽器の音の発生やレーザー共振器など、物理学の様々な場面で中心的な役割を果たします。

進行波と定常波の違いを明確に理解することは、波動分野の学習を一段階引き上げる上で欠かせません。この章では、両者の性質を様々な角度から比較・対照していきます。

5.1. 波形の振る舞い:移動するか、留まるか

最も根本的で、見た目にも明らかな違いは、波形の巨視的な振る舞いです。

  • 進行波:波形全体(山や谷)が、一定の速さ v で、一方向に移動していきます。ある瞬間の波形は、次の瞬間には平行移動した形になっています。ロープを伝わる波や、水面に広がる波紋がこれにあたります。
  • 定常波:波形全体は、左右に移動しません。その代わりに、波の各点が、それぞれの持ち場で上下に振動します。波形は、まるで生き物が呼吸をするかのように、振幅を大きくしたり小さくしたりを繰り返しますが、山や谷の位置そのものは変わりません。

5.2. 媒質の振幅:すべての点が同じか、場所によるか

次に、媒質の各点の振動の「激しさ」、すなわち振幅に着目してみましょう。

  • 進行波:(減衰がなければ)媒質のすべての点が、同じ最大振幅 A で振動します。どの点も、いずれは山の頂点(変位 +A)や谷の底(変位 -A)を経験します。
  • 定常波:振動の振幅は、場所 x によって異なります。
    • 腹 (Antinode): 振幅が最大(入射波の2倍の 2A)になる点が周期的に存在します。ここは常に激しく振動します。
    • 節 (Node): 振幅が常に 0 となる点が、腹と腹の間に周期的に存在します。ここは全く振動しません。
    • 腹と節以外の点では、0 と 2A の間の、その場所固有の振幅で振動します。

5.3. 媒質の位相:連続的に伝わるか、ブロックで揃うか

波の振動の「タイミング」、すなわち位相の伝わり方も、両者で決定的に異なります。

  • 進行波:位相は、波の進行方向に沿って、連続的に変化しながら伝わっていきます。隣り合う二つの点は、ごくわずかに位相がずれています。この位相のずれが積み重なることで、波は全体として進んでいくように見えます。
  • 定常波:位相の伝播という概念がありません。その代わり、特徴的な位相分布を示します。
    • **一つの節と次の節の間(ループの中)**にあるすべての点は、すべて同位相で振動します。つまり、ループ内の全点が、同じタイミングで上向きに動き、同じタイミングで下向きに動くのです。
    • 隣り合うループ同士は、互いに逆位相で振動します。一方のループが山のとき、隣のループは谷になっています。境目となる「節」を挟んで、位相が π (180°) だけ不連続にジャンプするのです。

5.4. エネルギーの伝播:運ぶか、蓄えるか

波の最も本質的な役割の一つは、エネルギーの輸送でした。この点において、両者は最大の違いを見せます。

  • 進行波:波源から送り出されたエネルギーを、波形と共に**一方向へ輸送(伝播)**します。エネルギーは、波の先端と共に媒質中を駆け巡っていきます。
  • 定常波:波はエネルギーを一方向へ輸送しません。エネルギーは、節と節の間の各ループ内に閉じ込められ、局在化します。各ループの中では、媒質の運動エネルギーとポテンシャルエネルギーが周期的に相互変換を繰り返しますが、エネルギーが節を越えて隣のループへ移動することはありません。定常波は、エネルギーを「運ぶ」波ではなく、「蓄える」波なのです。

5.5. 比較まとめ

比較項目進行波 (Traveling Wave)定常波 (Standing Wave)
波形の移動移動する (速さ v)移動しない
振幅一定 (すべての点で A)場所による (0 から 2A まで)
位相連続的に伝播ループ内は同位相、ループ間は逆位相
エネルギー一方向へ輸送する輸送せず、ループ内に局在
発生メカニズム単一の波源から一方向へ伝播逆向きに進む二つの波の重ね合わせ

このように、定常波は進行波とは全く異なる物理的実体です。しかし、次章で学ぶように、この定常波自身が、実は二つの進行波の重ね合わせによって生まれる、という点が波動現象の面白さであり、重ね合わせの原理の威力を物語っています。この両者の違いを明確に意識することが、波動分野全体を深く理解するための鍵となります。

6. 定常波の形成メカニズム

定常波という、波形がその場に留まる不思議な現象は、一体どのようにして生まれるのでしょうか。その答えは、驚くほどシンプルです。定常波は、**「同じ振幅、同じ波長(振動数)を持つ二つの進行波が、互いに逆向きに進んで重なり合った」**ときに形成されます。

この形成メカニズムを、重ね合わせの原理に基づいて、作図を通して視覚的に理解することは、定常波の本質を掴む上で極めて効果的です。この章では、時間を少しずつ進めながら、二つの波がどのようにして一つの定常波を織りなしていくのか、そのプロセスを追体験します。

6.1. 重ね合わせの基本設定

作図を始める前に、基本設定を確認します。

  • 波1(右向きの進行波): 振幅 A、波長 λ を持つ正弦波が、x軸の正の向き(右向き)に進んでいる。
  • 波2(左向きの進行波): 波1と全く同じ振幅 A、同じ波長 λ を持つ正弦波が、x軸の負の向き(左向き)に進んでいる。
  • 重ね合わせ: ある瞬間の合成波の変位は、その点における波1の変位と波2の変位の和に等しい (y = y₁ + y₂)。

ここでは、時刻 t=0 で、二つの波の山と谷が原点 x=0 でちょうど重なり合う(y₁ = -y₂ となり、合成波の変位が0になる)ような状況からスタートしてみましょう。

6.2. 作図による定常波の形成プロセス

時間を周期 T の 1/8 ずつ (T/8) 進めながら、各瞬間の波1、波2、そしてその合成波の様子を観察していきます。

時刻 t = 0

  • 波1 (右進): 原点 x=0 が谷の始まり、x=λ/2 が山の始まりとなるような波形。(実線で描く)
  • 波2 (左進): 原点 x=0 が山の始まり、x=λ/2 が谷の始まりとなるような波形。(破線で描く)
  • 合成波 (定常波): すべての点 x で、波1と波2の変位がちょうど逆符号で同じ大きさ (y₁ = -y₂) となるため、互いに完全に打ち消しあいます。合成波の変位は、すべての点で y = 0 となります。媒質は一直線の状態です。

時刻 t = T/8

  • 波1t=0 の状態から、波形が λ/8 だけ右に移動します。
  • 波2t=0 の状態から、波形が λ/8 だけ左に移動します。
  • 合成波: 二つの波を点ごとに足し合わせます。x=λ/43λ/4, … の点では、二つの波の変位が共に正で重なり、大きな山ができます。一方、x=0λ/2λ, … の点では、変位は 0 のままです。

時刻 t = 2T/8 = T/4

  • 波1: さらに λ/8 だけ右に移動。原点 x=0 はちょうど谷の底になります。
  • 波2: さらに λ/8 だけ左に移動。原点 x=0 はちょうど山の頂点になります。
  • 合成波x=λ/43λ/4, … の点では、二つの波の変位(山と山、谷と谷)が完全に重なり、振幅は最大の 2Aに達します。一方、x=0λ/2λ, … の点では、変位は依然として 0 のままです。

時刻 t = 3T/8

  • 波1, 波2: それぞれさらに λ/8 ずつ移動。
  • 合成波: 振幅は最大時から少し小さくなりますが、山の位置や変位が0の点の位置は変わりません。

時刻 t = 4T/8 = T/2

  • 波1, 波2t=0 の状態から、ちょうど半周期が経過しました。波1は λ/2 右へ、波2は λ/2 左へ移動しています。
  • 合成波: 再び、すべての点 x で二つの波が互いに打ち消しあい、合成波の変位はすべての点で y = 0 となります。媒質は再び一直線の状態に戻ります。

t = T/2 以降

t=T/2 から t=T までの後半の半周期では、これまでの動きと上下が逆の動きが起こります。t=T/4 で山だった場所は、t=3T/4 で谷となり、振幅 -2A に達します。そして t=T で、再びすべての点の変位が0となり、t=0 の状態に完全に戻ります。

6.3. 作図から明らかになること

この一連の作図プロセスから、定常波の重要な性質がすべて導き出されます。

  1. 波形が移動しない: 合成波の「山」や「谷」の位置は、時間が経っても左右に移動しません。x=λ/4 の点は、常に大きく振動する場所であり続け、決して隣に移動はしません。
  2. 腹と節の存在:
    • 全く振動しない点が存在します。x=0, λ/2, λ, ... の点では、常に二つの進行波が互いに打ち消しあうため、変位は常に 0 です。これが節 (Node) です。
    • 振幅が最大になる点が存在します。x=λ/4, 3λ/4, ... の点では、二つの波が効果的に強めあい、その振幅は入射波の2倍である 2A に達します。これが腹 (Antinode) です。
  3. 定常波の波長:定常波の形を見ると、腹から次の腹まで、あるいは節から次の節までが、一つの「繰り返し」の単位のように見えます。この距離は λ/2 です。しばしば、これを「定常波の波長」と呼ぶことがありますが、元の進行波の波長 λ と混同しないよう注意が必要です。定常波は、元の進行波の波長の半分の長さ (λ/2) ごとに、同じパターンを繰り返します。

6.4. なぜこのメカニズムが重要なのか

定常波の最も一般的な発生源は、波の反射です。壁や媒質の境界に向かって進む波(入射波)と、そこで反射されて逆向きに戻ってくる波(反射波)が、まさに「逆向きに進む同じ波」という条件を満たします。

したがって、弦を弾いたときに弦の上に生じる振動や、管楽器の中で空気が共鳴する現象は、すべてこの入射波と反射波の重ね合わせによる定常波の形成として説明されるのです。

定常波の形成メカニズムを、重ね合わせの原理から視覚的に理解しておくことは、これらのより具体的な応用例(弦の振動や気柱の共鳴)を学ぶ上で、揺るぎない基礎となります。

7. 定常波の腹と節

定常波の最も際立った特徴は、その波形が空間的に固定されていること、そして、その固定された波形の中に、振動の様子が全く異なる二種類の特別な点、腹 (antinode) と節 (node) が存在することです。この腹と節の性質と、その空間的な配置のルールを理解することは、定常波という現象を把握する上で中心的な課題となります。

7.1. 腹 (Antinode) の定義と性質

とは、定常波において、媒質の振動の振幅が最大になる点のことです。

  • 振幅の大きさ: 腹における振幅は、重ね合わせの元となった進行波の振幅 A の 2倍、すなわち 2A に達します。これは、二つの進行波の山と山、谷と谷が、その場所で常に重なり合うことで、最大限に強めあう結果です。
  • 振動の様子: 腹は、定常波の中で最も激しく振動する場所です。媒質は、+2A から -2A までの範囲を、周期 T で往復運動(単振動)します。
  • エネルギー: 腹は、振動のエネルギーが最も集中している場所です。媒質の運動エネルギーもポテンシャルエネルギーも、腹において最大値をとります。

7.2. 節 (Node) の定義と性質

とは、定常波において、媒質の振動の振幅が常にゼロである点のことです。

  • 振幅の大きさ: 節における振幅は、常に 0 です。
  • 振動の様子: 節は、全く振動しません。周りの媒質がどれだけ激しく振動していても、節だけは静止したままです。
  • メカニズム: なぜ節は動かないのでしょうか。それは、節の位置では、互いに逆向きに進む二つの進行波が、いかなる時刻においても、常に互いの変位を打ち消しあっているからです。一方の波が山として到達すれば、もう一方は谷として到達し、合成変位は y = A + (-A) = 0 となります。一方の波が変位 +y' であれば、もう一方は -y' となり、常に和はゼロに保たれるのです。

7.3. 腹と節の空間的な配置ルール

定常波において、腹と節はランダムに分布しているわけではなく、極めて規則正しい周期的なパターンで並んでいます。この配置ルールは、元の進行波の波長 λ によって決まります。

腹と腹の間隔

隣り合う二つの腹の間の距離は、常に波長 λ の半分です。

[ \text{腹-腹間の距離} = \frac{\lambda}{2} ]

節と節の間隔

隣り合う二つの節の間の距離もまた、常に波長 λ の半分です。

[ \text{節-節間の距離} = \frac{\lambda}{2} ]

腹と節の間隔

最も近い腹と節の間の距離は、波長 λ の4分の1です。

[ \text{腹-節間の距離} = \frac{\lambda}{4} ]

ループ (Loop)

一つの節から次の節までの区間を、定常波のループまたは腹と呼ぶことがあります(「腹」という言葉は、振幅最大の点を指す場合と、このループ全体を指す場合があるので文脈に注意が必要です)。

このループの長さは λ/2 であり、定常波の基本的な繰り返し単位となっています。

7.4. 配置ルールの物理的な意味

なぜ、このような λ/2 という美しい間隔が生まれるのでしょうか。これは、定常波を形成する二つの進行波の位相関係から説明できます。

  • 腹の位置: 腹では、二つの波が常に同位相で重なり合います。ある腹から、次の腹までの距離を考えてみましょう。右に進む波も左に進む波も、この距離 Δx を進む間に、その位相が同じだけ変化する必要があります。しかし、進行方向が逆なので、位相変化の符号が逆になります。y₁ = A sin(ωt – kx)y₂ = A sin(ωt + kx)腹では、kx が mπ の整数倍で y = ±2A sin(ωt) のような形になる点でした(後の数式で詳述)。kx = mπ → (2π/λ)x = mπ → x = m(λ/2)。したがって、腹は x=0, λ/2, λ, 3λ/2, … というように、λ/2 の間隔で現れることがわかります。
  • 節の位置: 節では、二つの波が常に逆位相で重なり合います。kx が (m+1/2)π となる点で、cos(kx)=0 となり振幅がゼロになります。kx = (m+1/2)π → (2π/λ)x = (m+1/2)π → x = (m+1/2)(λ/2)。したがって、節は x=λ/4, 3λ/4, 5λ/4, … というように、こちらも λ/2 の間隔で現れることがわかります。

この λ/2 という間隔のルールは、非常に実践的で重要です。

例えば、ギターの弦の長さを L とすると、その弦で出せる最も低い音(基本振動)は、弦全体が大きな一つのループを描くような定常波に対応します。このとき、弦の長さ L は、ループの長さ λ/2 に等しくなります (L = λ/2)。ここから、その音の波長 λ = 2L が決まり、弦を伝わる波の速さ v が分かっていれば、振動数 f = v/λ = v/(2L) を計算することができるのです。

このように、腹と節の空間的な配置を理解することは、定常波の性質を把握するだけでなく、それを応用した楽器の音程や共鳴現象を定量的に分析するための、強力な武器となります。

8. 定常波の式とその解釈

これまで、定常波の形成メカニズムや性質を作図や言葉で説明してきましたが、物理学の真骨頂は、これらの現象を一つの数式でエレガントに表現し、その数式から現象のすべての性質を演繹的に導き出すところにあります。この章では、重ね合わせの原理と三角関数の公式を用いて、定常波の一般式を導出し、その式が持つ豊かな物理的意味を解読していきます。

8.1. 定常波の式の導出

定常波は、**「振幅 A、角振動数 ω、波数 k が等しい二つの正弦波が、互いに逆向きに進んで重なり合ったもの」**として定義されます。

  1. 二つの進行波の式:
    • x軸正の向き(右向き)に進む波 y₁:[ y_1(x, t) = A \sin(\omega t – kx) ]
    • x軸負の向き(左向き)に進む波 y₂:[ y_2(x, t) = A \sin(\omega t + kx) ]ここで、ω = 2π/T = 2πf、k = 2π/λ です。
  2. 重ね合わせの原理の適用:合成波である定常波の変位 y(x, t) は、y = y₁ + y₂ で与えられます。[ y(x, t) = A \sin(\omega t – kx) + A \sin(\omega t + kx) ][ y(x, t) = A \left{ \sin(\omega t – kx) + \sin(\omega t + kx) \right} ]
  3. 和積公式の利用:この式の {…} の部分を簡単にするために、三角関数の和積公式を用います。sin α + sin β = 2 \sin\left(\frac{\alpha + \beta}{2}\right) \cos\left(\frac{\alpha - \beta}{2}\right)この公式で、α = ωt + kxβ = ωt - kx とおいてみましょう。(順番はどちらでも構いません)
    • (\alpha + \beta) / 2 = ((\omega t + kx) + (\omega t - kx)) / 2 = (2ωt) / 2 = ωt
    • (\alpha - \beta) / 2 = ((\omega t + kx) - (\omega t - kx)) / 2 = (2kx) / 2 = kx
    これを和積公式に代入すると、sin(ωt + kx) + sin(ωt – kx) = 2 sin(ωt) cos(kx)となります。
  4. 定常波の式の完成:この結果を元の式に戻すと、定常波を表す最終的な式が得られます。[ y(x, t) = 2A \cos(kx) \sin(\omega t) ]

8.2. 定常波の式の解釈

この y(x, t) = 2A cos(kx) sin(ωt) という式は、定常波のすべての性質を内包しています。この式を、二つの部分に分けて解釈してみましょう。

[ y(x, t) = \underbrace{\left[ 2A \cos(kx) \right]}{\text{振幅に関する部分}} \times \underbrace{\sin(\omega t)}{\text{時間変化に関する部分}} ]

第1部:振幅を表す項 A'(x) = 2A cos(kx)

  • 2A cos(kx) の部分は、時間 t を含んでいません。これは、この項が時間的に変化しない、空間的な位置 xだけで決まる量であることを意味します。
  • この項が、位置 x における振動の振幅 A'(x) を表しています。
  • この式から、定常波の振幅が場所 x によって異なるという、最も重要な特徴が数学的に示されています。進行波の振幅 A が定数であったのとは対照的です。

この振幅項 A'(x) から、の位置を導出できます。

  • 腹 (Antinode) の条件:振幅 |A'(x)| が最大値 2A となる点。これは、|cos(kx)| が最大値 1 をとるときです。kx = mπ (m = 0, 1, 2, …)(2π/λ)x = mπ[ x = m \frac{\lambda}{2} ]腹は、x = 0, λ/2, λ, 3λ/2, … の位置に、λ/2 の間隔で現れます。
  • 節 (Node) の条件:振幅 A'(x) がゼロとなる点。これは、cos(kx) が 0 となるときです。kx = (m + 1/2)π (m = 0, 1, 2, …)(2π/λ)x = (m + 1/2)π[ x = \left(m + \frac{1}{2}\right)\frac{\lambda}{2} ]節は、x = λ/4, 3λ/4, 5λ/4, … の位置に、やはり**λ/2 の間隔で**現れます。

第2部:時間変化を表す項 sin(ωt)

  • sin(ωt) の部分は、位置 x を含んでいません。これは、この項が場所によらず、すべての点で共通の時間変化をすることを示しています。
  • この式 y(x, t) = A'(x) sin(ωt) は、**「媒質の各点 x が、それぞれに固有の振幅 A'(x) を持って、一斉に角振動数 ω の単振動をしている」**と読むことができます。
  • この「一斉に」という部分が、定常波の位相の性質、すなわち「ループ内は同位相」という事実を反映しています。cos(kx) の符号が同じである区間(例えば 0 < x < λ/4 では正)では、すべての点が同じ sin(ωt) に従って動きます。cos(kx) の符号が切り替わる点(節)を越えると(例えば λ/4 < x < 3λ/4 では負)、振幅 A'(x) の符号が逆転するため、隣のループとは逆位相で振動することになります。

このように、y(x, t) = 2A cos(kx) sin(ωt) という式は、変数 x を含む項と t を含む項が分離して積の形になっていることが特徴です。これが、波形がその場に「定常」であることの数学的な表現なのです。進行波の式 y = A sin(ωt - kx) では、t と x が (ωt - kx) のように一つの項にまとまっており、これが位相の「伝播」を意味していました。この構造的な違いを理解することが、両者の本質的な違いを理解することに繋がります。

9. 自由端・固定端反射による定常波

定常波は、「逆向きに進む二つの同じ波の重ね合わせ」によって生じますが、そのような状況が自然界で最も一般的に実現するのが波の反射の場面です。境界面に向かう入射波と、境界面で跳ね返って戻ってくる反射波が、まさしくこの条件を満たします。

しかし、Module 3で学んだように、反射には自由端反射固定端反射の二種類があり、反射波の位相が異なるのでした。この違いは、生成される定常波の様子、特に腹と節の位置に決定的な影響を及ぼします。

9.1. 固定端反射による定常波

【状況設定】

x軸の正の向きに進む入射波が、位置 x=L にある固定端で反射する状況を考えます。

境界条件:反射点は「節」

固定端の定義は、「媒質の端が固定されていて動けない点」でした。つまり、位置 x=L における媒質の変位は、いかなる時刻 t においても、常に 0 でなければなりません。

[ y(L, t) = 0 ]

これは、固定端は、定常波の「節」にならなければならないという、極めて強力な境界条件を意味します。

なぜなら、節は「全く振動しない点」であり、固定端の物理的な条件と完全に一致するからです。入射波と反射波は、固定端の位置 x=L で常に互いに打ち消しあい、合成波の変位をゼロに保つのです。(これは、固定端反射で位相がπずれることからも説明できます。)

定常波のパターン

固定端 x=L が節となるためには、そこから波源側に向かって、λ/2 の間隔で次々と節が、そしてその中間に腹が形成されるような定常波のパターンでなければなりません。

  • 節の位置x = L, L - λ/2, L - 2(λ/2), ...
  • 腹の位置x = L - λ/4, L - 3(λ/4), ...

具体例:弦楽器

ギターやピアノの弦は、両端が駒やナットで固く固定されています。したがって、弦の両端は、定常波の節となります。

弦の長さを L とすると、弦の上に生じることができる定常波(これを固有振動という)は、x=0 と x=L の両方が節になるという条件を満たすものに限られます。

  • 基本振動 (n=1): 最も単純なパターンは、弦全体で一つの大きなループを描くものです。このとき、L はループの長さ λ/2 に等しくなります。L = 1 × (λ₁/2) → λ₁ = 2L
  • 2倍振動 (n=2): 次に可能なのは、弦が二つのループを描くパターンです。L = 2 × (λ₂/2) → λ₂ = L = (1/2)λ₁
  • n倍振動: 一般に、n 個のループを持つ定常波が可能です。L = n × (λ_n/2) → λ_n = 2L/n

このように、固定端という境界条件が、弦の上に存在できる波の波長(ひいては音の高さ=振動数)を、特定のとびとびの値に制限するのです。これを「量子化」と呼び、量子力学の世界にも通じる重要な考え方です。

9.2. 自由端反射による定常波

【状況設定】

x軸の正の向きに進む入射波が、位置 x=L にある自由端で反射する状況を考えます。

境界条件:反射点は「腹」

自由端の定義は、「媒質の端が何の束縛もなく自由に動ける点」でした。入射波が到達すると、自由端は入射波の2倍の振幅で激しく振動します。

これは、自由端は、定常波の「腹」にならなければならないという境界条件を意味します。

なぜなら、腹は「振幅が最大になる点」であり、自由端の物理的な振る舞いと完全に一致するからです。入射波と反射波は、自由端の位置 x=L で常に互いに強めあい、合成波の振幅を最大にするのです。(これは、自由端反射で位相がずれないことからも説明できます。)

定常波のパターン

自由端 x=L が腹となるためには、そこから波源側に向かって、λ/2 の間隔で次々と腹が、そしてその中間に節が形成されるような定常波のパターンでなければなりません。

  • 腹の位置x = L, L - λ/2, L - 2(λ/2), ...
  • 節の位置x = L - λ/4, L - 3(λ/4), ...

具体例:管楽器(開管)

管楽器の一種であるリコーダーやフルートのように、両端が開いている管(開管)を考えます。管の開いている端(開口端)では、空気は外の広い空間と接しており、自由に振動することができます。そのため、**開口端は、気柱の振動(音波の定常波)における「腹」**とみなすことができます。(厳密には、腹の位置は開口端から少し外にずれますが、ここでは理想的な状況を考えます。)

管の長さを L とすると、開管に生じる定常波は、両端 x=0 と x=L が腹になるという条件を満たすものに限られます。

  • 基本振動 (n=1): 両端が腹になる最も単純なパターンは、中央に節が一つある、腹-節-腹の形です。このとき、管の長さ L は、腹から腹までの距離 λ/2 に等しくなります。L = 1 × (λ₁/2) → λ₁ = 2L (弦の基本振動と同じ)
  • 3倍振動 (n=3): 次に可能なのは、腹-節-腹-節-腹の形です。このとき、管の中に3つの λ/2 の半分、つまり (3/2)λ ではない。ループが1.5個…でもない。腹-腹の間隔は λ/2。両端が腹なので、L は λ/2 の整数倍でなければならない。L = n × (λ_n/2) (n=1, 2, 3, …)λ_n = 2L/n。あれ、弦の場合と同じ式になった。どこかがおかしい。【思考の修正】
    • 弦の場合:両端がL = n (λ_n/2)
    • 開管の場合:両端が腹。L = n (λ_n/2)。数学的な条件は同じになる。λ_n = 2L/n。したがって、f_n = v/λ_n = n(v/2L) となり、基本振動数 f₁ = v/2L の整数倍の振動数(倍音)がすべて出せる。

具体例:管楽器(閉管)

では、片端が閉じていて、片端が開いている管(閉管、クラリネットなど)の場合はどうでしょうか。

管の長さを L とすると、

  • 閉じている端(閉口端)は、空気が動けないのでになる (x=0)。
  • 開いている端(開口端)は、空気が自由に動けるのでになる (x=L)。

この「一端が節、他端が腹」という境界条件を満たす定常波は、

  • 基本振動 (n=1): 節-腹という最も単純なパターン。このとき、管の長さ L は、節と腹の間隔 λ/4 に等しくなる。L = 1 × (λ₁/4) → λ₁ = 4L
  • 3倍振動 (n=3): 次に可能なのは、節-腹-節-腹のパターン。このとき、L は (λ/4) が3つ分。L = 3 × (λ₃/4) → λ₃ = 4L/3 = (1/3)λ₁
  • 5倍振動 (n=5): 節-腹-節-腹-節-腹のパターン。L = 5 × (λ₅/4) → λ₅ = 4L/5 = (1/5)λ₁

一般に、閉管で可能な波長 λ_m は、

L = m × (λ_m/4) (m = 1, 3, 5, … 奇数のみ)

λ_m = 4L/m

したがって、振動数 f_m = v/λ_m = m(v/4L) となり、基本振動数 f₁ = v/4L の奇数倍の振動数しか出せません。

このため、閉管楽器は、開管楽器や弦楽器とは異なる、独特の「暗い」あるいは「温かい」と表現される音色を持つのです。

このように、反射点の境界条件(固定端か自由端か)が、定常波の腹と節の配置を決定し、それが最終的には楽器の構造と音色そのものを支配しているのです。

10. 定常波におけるエネルギーの伝播

進行波の最も本質的な役割が「エネルギーを一方向へ輸送すること」であったのに対し、定常波の振る舞いには大きな謎が残されています。波形がその場に留まっているように見える定常波では、エネルギーは一体どうなっているのでしょうか。エネルギーもまた、その場に留まっているのでしょうか、それとも目に見えない形で伝播しているのでしょうか。この問いに答えることは、定常波という現象の本質を理解する上で、最後の、そして最も重要なステップとなります。

10.1. 結論:定常波はエネルギーを伝播しない

まず結論から述べると、理想的な定常波は、正味のエネルギーを一方向へ輸送(伝播)しません。

進行波がエネルギーという「荷物」を運ぶ「ベルトコンベア」だとすれば、定常波はエネルギーをその場に**閉じ込めて振動させる「エネルギーの貯蔵庫」**のようなものです。このエネルギーが伝播しないという性質こそが、「定常 (standing / stationary)」という名前の物理的な由来なのです。

10.2. なぜエネルギーは伝播しないのか?

定常波がエネルギーを伝えない理由は、その形成メカニズムに立ち返ると明確になります。

定常波は、互いに逆向きに進む、同じエネルギーの流れを持つ二つの進行波(入射波と反射波)が重なり合ったものです。

  • 入射波: 右向きにエネルギーを運んでいます。(エネルギーの流れ: P_inc →
  • 反射波: 左向きに、入射波と全く同じ大きさのエネルギーを運んでいます。(エネルギーの流れ: ← P_ref, 但し |P_inc| = |P_ref|

ある領域を考えてみましょう。この領域には、右向きのエネルギーの流れと、左向きのエネルギーの流れが同時に存在しています。二つの流れは大きさが等しく、向きが逆なので、互いに完全に相殺しあいます。

その結果、この領域を通過する正味の(ネットの)エネルギーの流れはゼロになります。

P_net = P_inc – P_ref = 0

つまり、定常波の状態では、右向きのエネルギー輸送と左向きのエネルギー輸送が、あらゆる場所で常につり合っているため、マクロな視点ではエネルギーの移動が全く起こらないように見えるのです。

10.3. 定常波におけるエネルギーの振る舞い:局在と変換

では、伝播しないエネルギーは、定常波の中でどのように振る舞っているのでしょうか。

エネルギーの局在化 (Localization)

定常波のエネルギーは、節と節の間の各ループ(長さ λ/2 の区間)の中に、完全に閉じ込められています。

なぜなら、節は全く振動しない点であり、振幅も速度も常にゼロです。エネルギーを隣のループに伝えるための「媒体」の動きそのものが存在しないため、エネルギーは節の点を越えて移動することができません。

各ループは、エネルギー的に独立した閉鎖系のように振る舞うのです。

ループ内でのエネルギー変換

閉じ込められたエネルギーは、ループの中で消滅するわけではありません。それは、運動エネルギーポテンシャルエネルギーの間で、周期的にその形態を変換し続けます。

  1. 媒質の変位が最大になる瞬間 (合成波が山の頂点、または谷の底に達した瞬間)
    • この瞬間、媒質のすべての点(節を除く)の速度は一瞬ゼロになります。
    • したがって、運動エネルギーはゼロです。
    • 一方、媒質は釣り合いの位置から最も大きく引き伸ばされている(または圧縮されている)ため、ポテンシャルエネルギーは最大となります。
    • ループ内の全エネルギーは、弾性エネルギーや位置エネルギーといったポテンシャルエネルギーの形で蓄えられています。
  2. 媒質の変位がゼロになる瞬間 (合成波が一直線になる瞬間)
    • この瞬間、媒質のすべての点(節を除く)は、釣り合いの位置を通過しており、その速度は最大になります。
    • したがって、運動エネルギーは最大です。
    • 一方、媒質は釣り合いの位置にあるため、ポテンシャルエネルギーはゼロです。
    • ループ内の全エネルギーは、粒子の運動エネルギーの形で存在しています。
  3. その中間の時刻
    • エネルギーは、運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの両方の形で存在しており、両者の間で変換が進行中です。

このように、定常波におけるエネルギーは、ループという閉じた空間の中で、運動エネルギー  ポテンシャルエネルギーという変換を、波の周期の 1/4 の時間(T/4)ごとに行いながら、その総量を保存しているのです。これは、力学で学ぶ単一のばね振り子のエネルギー保存則が、空間的に連続な系(波)に拡張されたものと見なすことができます。

このエネルギーが伝播せず、特定の場所に局在するという性質こそが、ギターの弦や太鼓の膜、パイプオルガンの気柱が、安定した特定の高さの音を出し続けることができる理由なのです。エネルギーがすぐに逃げ去ってしまう進行波では、このような安定した振動を維持することはできません。定常波は、エネルギーを空間に「捕獲」するための、自然が生み出した巧妙なメカニズムなのです。

Module 4:波の干渉と定常波 の総括:重ね合わせが生む秩序

本モジュール「波の干渉と定常波」を通じて、私たちは、物理学における最も根源的で美しい原理の一つである「重ね合わせの原理」が、いかにして豊かで秩序ある現象を生み出すか、その壮大なプロセスを目撃してきました。個々には単純な振る舞いしかしない波が、複数出会うことで、単なる足し算以上の、全く新しい性質を持つ存在へと変貌を遂げる。これは、物理学における「創発」の最も鮮やかな一例です。

まず私たちは、複数の波が意味のあるパターンを織りなすための舞台設定、すなわち「干渉」の条件を学びました。振動数が等しく、位相関係が一定であるという前提のもと、二つの波源からの「経路差」が、観測点での運命を決定づける「位相差」へと翻訳されるメカニズムを解き明かしました。そして、その位相差から、波が互いを強めあう条件と打ち消しあう条件を、普遍的な数式として導出しました。干渉によって空間に描かれる腹線と節線のパターンは、目に見えない波の位相という性質が、目に見える強弱の縞模様として可視化された姿に他なりません。

後半では、干渉の最も特殊で重要な応用例である「定常波」に焦点を当てました。互いに逆向きに進む二つの波が重なり合うことで、波形がその場に留まり、エネルギーの伝播を停止させるという、この驚くべき現象。私たちはその形成メカニズムと、それを特徴づける「腹」と「節」の規則正しい配置、そしてその振る舞いを記述するエレガントな数式を探求しました。特に、反射という身近な現象が定常波を生み出す主要な原因であり、反射点の境界条件(固定端か自由端か)が、楽器の音色のような具体的な物理現象を決定づけていることを学びました。

このモジュールで得た最も重要な洞察は、**「シンプルなルールから、複雑で秩序だった構造が生まれる」**という物理的世界の階層性かもしれません。重ね合わせという単純な原理が、干渉の双曲線パターンや、定常波のループ構造、そして楽器の奏でるハーモニーといった、高度に組織化された現象のすべてを支配しているのです。この視点は、物理学の他の分野、ひいては自然科学全体を貫く、普遍的な思考の枠組みを与えてくれます。ここで手にした知識は、光の干渉や回折といった、さらなる波動現象の深淵を探るための、確かな羅針盤となるでしょう。

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