【基礎 物理】Module 4: 古典力学Ⅲ:回転運動と万有引力
【本モジュールの学習目標】
これまでのモジュールでは、物体を「質点」として扱い、その並進運動(場所の移動)を解析してきました。しかし、現実の物体は大きさや形を持ち、並進運動と同時に「回転運動」も行います。このモジュールでは、古典力学の最後のフロンティアとして、まず剛体の回転運動の力学を体系的に学びます。並進運動との見事なアナロジー(類推)を手がかりに、力のモーメントや慣性モーメント、そして回転の世界の運動量である角運動量といった新しい概念を導入し、回転に関するエネルギー保存則、角運動量保存則を確立します。次に、視点を地上から宇宙へと一気に広げ、我々を地球に引きつけ、惑星を太陽の周りに公転させる根源的な力、万有引力の法則を探求します。最終的には、ニュートンの力学が、ケプラーによって経験的に見出された惑星運動の法則を、いかにして理論的に証明し、天と地の力学を統一したかという、物理学史上最も偉大な成果の一つを追体験します。このモジュールを学ぶことで、質点から剛体へ、そして地上から宇宙へと、あなたの力学的な世界観は完成の域に達するでしょう。
1. 剛体の回転:並進運動との見事なアナロジー
剛体の回転運動の力学は、一見すると複雑に思えますが、実はこれまで学んできた並進運動の力学と、驚くほど美しい**アナロジー(類推)**の関係にあります。この対応関係を常に意識することが、回転運動を理解するための最も強力な道しるべとなります。
項目 | 並進運動 (Translational Motion) | 回転運動 (Rotational Motion) |
位置・変位 | 位置 x [m] | 角度 θ [rad] |
速度 | 速度 v=dtdx [m/s] | 角速度 ω=dtdθ [rad/s] |
加速度 | 加速度 a=dtdv [m/s²] | 角加速度 α=dtdω [rad/s²] |
慣性(動きにくさ) | 質量 m [kg] | 慣性モーメント I [kg・m²] |
運動の原因 | 力 F [N] | 力のモーメント(トルク) N [N・m] |
運動方程式 | ma=F | Iα=N |
運動エネルギー | K=21mv2 | Krot=21Iω2 |
運動量 | 運動量 p=mv | 角運動量 L=Iω |
保存則 | 運動量保存則 | 角運動量保存則 |
1.1. 回転運動を記述する物理量
まず、回転運動そのものを記述するための運動学的な量(キネマティクス)を定義します。
- 角変位 θ: 物体が回転した角度。単位はラジアン (rad) を用います。(360∘=2π rad)
- 角速度 ω: 単位時間あたりの角変位、すなわち回転の「速さ」。v=rω の関係で、回転中心から距離 r の点の速さ v と結びつきます。
- 角加速度 α: 単位時間あたりの角速度の変化率、すなわち回転の「速まり方」。at=rα の関係で、接線方向の加速度 at と結びつきます。
- 等角加速度回転の公式: 並進運動の等加速度直線運動の公式と全く同じ形をしています。
- ω=ω0+αt
- θ=ω0t+21αt2
- ω2−ω02=2αθ
1.2. 慣性モーメント:回転の「慣性質量」
- 慣性モーメント (I) の定義
- 並進運動における質量 m が「並進運動させにくさ(慣性の大きさ)」を表したように、回転運動における慣性モーメント I は「回転させにくさ」を表す量です。
- 慣性モーメントが大きい物体ほど、回転の状態を変化させる(角加速度を生じさせる)のが難しくなります。
- 質点の場合:
- 回転軸から距離 r の位置にある質量 m の質点の慣性モーメントは、I=mr2
- 剛体の場合:
- 剛体は質点の集まりなので、剛全体の慣性モーメントは、各部分の質点(質量 Δmi, 回転軸からの距離 ri)の慣性モーメントをすべて足し合わせたものになります。I=i∑(Δmi)ri2
- 重要な性質: 慣性モーメントは、物体の総質量だけでなく、その質量が回転軸からどのように分布しているかに強く依存します。同じ質量の物体でも、質量が回転軸から遠くに分布しているほど、慣性モーメントは大きくなります(回転させにくくなります)。
- 様々な形状の剛体の慣性モーメントは、積分計算によって求めることができますが、大学入試では通常、問題文で与えられます。(例:半径R、質量Mの一様な円盤の中心軸周りの慣性モーメントは I=21MR2)
1.3. 力のモーメント(トルク):回転を生み出す原因
- 力のモーメント (N) の定義
- ドアを開けるとき、蝶番(回転軸)から遠いドアノブを押す方が、蝶番の近くを押すより楽に回せます。このように、物体を回転させる能力は、力の大きさだけでなく、力が働く位置や向きにも依存します。この物体を回転させようとする能力を定量化したものが力のモーメント(またはトルク)です。
- 回転軸から位置ベクトル r の点に力 F が働くとき、力のモーメント N は、これらのベクトルの外積として定義されます。N
=r
×F
- その大きさは、N=∣r
∣∣F
∣sinθ=rFsinθ
- ここで θ は r
と F
のなす角です。rsinθ は回転軸から力の作用線(力を延長した直線)までの垂直距離(腕の長さ)を表すため、力のモーメントの大きさは以下のように解釈できます。N=(腕の長さ)×(力の大きさ)
- 向き:
- 力のモーメントはベクトル量であり、その向きは回転の軸方向を向きます。高校物理では、回転の向きとして反時計回りを正、時計回りを負と約束することが多いです。
1.4. 回転の運動方程式:Iα=N
- 導出:
- 並進運動の運動方程式 ma=F とアナロジーで類推することもできますが、ニュートンの法則から直接導くことができます。
- 回転軸の周りを円運動する質量 m の質点を考えます。接線方向の運動方程式は mat=Ft です。
- at=rα を代入すると、m(rα)=Ft。
- 両辺に r を掛けると、mr2α=rFt。
- 左辺の mr2 は慣性モーメント I、右辺の rFt は力のモーメント N に他なりません。
- したがって、質点一つについて Iα=N が成り立ち、剛体全体に対してもこの関係が成立します。
- 回転の運動方程式:Iα=N
- 意味:
- この方程式は、並進の運動方程式 ma=F と完全に同じ構造をしています。
- 物体に働く力のモーメントの合力 N が、その物体の角加速度 α を生み出す原因であることを示しています。
- 慣性モーメント I が大きいほど、同じ力のモーメントを加えても、生じる角加速度 α は小さくなります。
2. 回転運動におけるエネルギーと運動量
回転運動においても、エネルギー保存則や運動量保存則に対応する、極めて強力な保存則が存在します。
2.1. 回転運動のエネルギー
- 回転運動の運動エネルギー (Krot)
- 回転している剛体は、無数の質点がそれぞれ運動エネルギーを持っています。
- 回転軸から距離 ri の位置にある質量 Δmi の部分の速さは vi=riω なので、その運動エネルギーは 21(Δmi)vi2=21(Δmi)(riω)2=21(Δmiri2)ω2。
- 剛体全体の運動エネルギーは、これをすべて足し合わせたものなので、Krot=i∑(21(Δmiri2)ω2)=21(i∑Δmiri2)ω2
- 括弧の中は慣性モーメント I の定義そのものです。したがって、Krot=21Iω2
- これも並進運動の運動エネルギー K=21mv2 と全く同じ形をしています。
- 剛体の全運動エネルギー
- 物体が転がる運動のように、並進運動と回転運動を同時に行う場合、その全運動エネルギーは、重心の並進運動のエネルギーと、重心周りの回転運動のエネルギーの和で表されます。Ktotal=Ktrans+Krot=21MvG2+21IGω2
- ここで M は全質量、vG は重心の速度、IG は重心周りの慣性モーメントです。
2.2. 角運動量:回転の「運動量」
- 角運動量 (L) の定義
- 並進運動における運動量 p=mv が運動の勢いを表したように、角運動量 L は回転の勢いを表す量です。
- 慣性モーメント I の剛体が角速度 ω で回転しているとき、その角運動量は、L=Iω
- これは並進運動の p=mv と完全に同じ形です。
- 質点の角運動量(より根源的な定義)
- 原点Oの周りを運動する質量 m の質点を考えます。位置ベクトルを r、運動量を p=mv とすると、角運動量 L はこれらの外積で定義されます。L
=r
×p
- その大きさは L=rpsinθ であり、θ は r
と p
のなす角です。これは、「回転軸から運動量のベクトルまでの垂直距離」×「運動量の大きさ」と解釈できます。
- 原点Oの周りを運動する質量 m の質点を考えます。位置ベクトルを r、運動量を p=mv とすると、角運動量 L はこれらの外積で定義されます。L
2.3. 角運動量と力のモーメントの関係
- 並進運動では、運動量の時間変化率が力に等しい(ΔtΔp=F)という関係がありました。回転運動でも全く同様の関係が成り立ちます。
- 回転の運動方程式 Iα=N から出発し、α=ΔtΔω を代入すると、IΔtΔω=N⇔ΔtΔ(Iω)=N
- Iω は角運動量 L なので、ΔtΔL=N
- 意味: 角運動量の時間変化率は、物体に働く力のモーメントの合力に等しい。
- これは、回転の運動方程式の別表現にすぎませんが、次に述べる角運動量保存則を導く上で極めて重要です。
2.4. 角運動量保存則
- 法則の導出と主張
- ΔtΔL=N の関係から、もし物体に働く力のモーメントの合力がゼロ(N=0)ならば、角運動量の時間変化率はゼロ、すなわち角運動量 L は一定に保たれることになります。物体(または系)に働く外部からの力のモーメントの合力がゼロならば、その物体(または系)の全角運動量は保存される。Lまえ=Lあと⇔Iまえωまえ=Iあとωあと
- 物理的な例と意味
- フィギュアスケート選手がスピン中に腕を広げたり縮めたりする現象は、角運動量保存則の典型例です。
- 腕を広げる(I が大きくなる)と、角速度 ω は小さくなる(ゆっくり回る)。
- 腕を縮める(I が小さくなる)と、角速度 ω は大きくなる(速く回る)。
- この法則は、衝突や合体・分裂で運動量が保存されるのと同様に、回転する物体が変形したり、複数の物体が相互作用したりする系で威力を発揮します。
- フィギュアスケート選手がスピン中に腕を広げたり縮めたりする現象は、角運動量保存則の典型例です。
2.5. 回転運動におけるエネルギー保存則
- 回転運動においても、もちろんエネルギー保存則は成り立ちます。
- 非保存力(摩擦など)が仕事をしない場合、並進と回転の運動エネルギー、そして位置エネルギーの和である力学的エネルギーが保存されます。E=Ktrans+Krot+U=21MvG2+21IGω2+U=一定
- 例えば、斜面を転がり落ちる球の運動を考えるとき、初期の位置エネルギー (Mgh) が、最終的に並進の運動エネルギーと回転の運動エネルギーに分配されます。
- この法則を用いることで、途中の力のモーメントなどを考えずに、始状態と終状態を直接結びつけて速さなどを求めることができます。
3. 万有引力の法則:天と地の統一
これまでは地上の物体の運動を中心に学んできました。ここからは、その法則が天体の運動にまで普遍的に適用できること、そしてその運動を支配する根源的な力が「万有引力」であることを見ていきます。
3.1. ニュートンの慧眼:リンゴと月の統一
- アイザック・ニュートンの最大の功績の一つは、地上のリンゴを落とす力と、月を地球の周りの軌道に留めている力が、本質的に同じ一つの力であることを見抜いた点にあります。
- 彼は、「もしリンゴを落とす力がもっと高いところまで及んでいるなら、月の高さまで及んでいてもおかしくない。月は地球に向かって『落ち続けている』からこそ、軌道から飛び去らずに円運動を続けているのではないか」という思考実験を行いました。
- この力を**万有引力(Universal Gravitation)**と名付け、その性質を定量的に明らかにしました。
3.2. 万有引力の法則の定式化
- ニュートンは、ケプラーの法則(後述)や自身の力学体系から、万有引力が以下の性質を持つことを導き出しました。質量 M と m を持つ二つの物体は、互いに引き合う力を及ぼしあう。その力の大きさ F は、両物体の質量の積に比例し、物体間の距離 r の2乗に反比例する。F=Gr2Mm
- G は万有引力定数と呼ばれる普遍的な比例定数で、その値は G≈6.67×10−11 N⋅m2/kg2 です。非常に小さな値であり、日常的なスケールの物体間では、万有引力は弱すぎて感知できません。
- 法則の重要な特徴:
- 普遍性: この法則は、宇宙のどこでも、どんな物体間でも成り立つと考えられています。
- 中心力: 力は常に二つの物体を結ぶ直線方向を向きます。
- 逆2乗法則: 力が距離の2乗に反比例する「逆2乗法則」に従う点は、後の電磁気学で学ぶクーロンの法則と共通する、自然界の基本的な力の形です。
3.3. 万有引力による位置エネルギー
- 万有引力は、仕事が経路によらない保存力であるため、位置エネルギーを定義することができます。
- 位置エネルギーの基準は、二つの物体が無限に遠く離れているとき(r→∞)を U=0 とするのが慣例です。
- この基準のもとで、距離 r だけ離れているときの万有引力による位置エネルギー U(r) は、U(r)=−GrMm
- マイナス符号の意味:
- 万有引力は引力なので、無限遠から物体を近づけるとき、引力は正の仕事をします。位置エネルギーの定義(U=−Wc)により、位置エネルギーは負になります。
- これは、二つの物体が引力によって束縛されている**「束縛状態」**にあることを意味します。この系に外部から正の仕事(エネルギー)を加えて、合計のエネルギーをゼロ以上にしない限り、物体は無限遠に飛び去ることができません。
3.4. (発展)重力と万有引力の関係
- 我々が日常で経験する「重力」は、地球という巨大な質量が地上の物体を引く万有引力に他なりません。
- 地球の質量を ME、半径を RE とすると、地表にある質量 m の物体が受ける万有引力は、F=GRE2MEm
- これが重力 mg に等しいので、mg=GRE2MEm⇔g=GRE2ME
- この式は、地表での重力加速度 g の値が、地球の質量と半径だけで決まることを示しています。また、この関係を用いると、GME=gRE2 のように、万有引力の計算に現れる GM の項を、g と R で書き換えることができ、計算が簡便になる場合があります。
4. ケプラーの法則と天体の力学
ニュートンが万有引力の法則を発見する半世紀以上前、ドイツの天文学者ヨハネス・ケプラーは、ティコ・ブラーエの膨大な観測データを基に、惑星の運動に関する3つの経験法則を発見しました。ニュートンの力学の偉大さは、これらの経験則が、万有引力の法則と運動法則からすべて導出できることを示した点にあります。
4.1. ケプラーの第1法則:楕円軌道の法則
惑星は、太陽を一つの焦点とする楕円軌道を描く。
- これは、それまで信じられていた「天体の運動は完全な円である」という常識を覆すものでした。
- ニュートンは、万有引力のような逆2乗の中心力のもとで運動する物体の軌道は、その物体が持つエネルギーによって、楕円、放物線、双曲線のいずれか(円錐曲線)になることを数学的に証明しました。惑星のように太陽に束縛されている天体は、エネルギーが負の楕円軌道を描くのです。
4.2. ケプラーの第2法則:面積速度一定の法則
惑星と太陽を結ぶ線分が、単位時間に掃過する(通り過ぎる)面積(面積速度)は、一定である。
- 物理的意味: これは、惑星が太陽に近い近日点では速く動き、太陽から遠い遠日点では遅く動くことを意味します。
- 角運動量保存則との関係: ケプラーの第2法則は、実は角運動量保存則の別の表現に他なりません。
- 太陽から惑星に働く万有引力は、常に太陽の方向を向く中心力です。
- したがって、太陽を回転の中心として考えたとき、万有引力が惑星に及ぼす力のモーメントは常にゼロです。(r
と F
のなす角が 180∘ なので N=rFsin(180∘)=0)
- 力のモーメントがゼロなので、惑星の角運動量 L は保存されます。
- 微小時間 Δt に掃過する面積 ΔA は、底辺が vtΔt(vtは速度の垂直成分)、高さが r の三角形の面積と近似でき、ΔA≈21r(vtΔt)。
- 面積速度は ΔtΔA=21rvt。
- 一方、角運動量の大きさは L=rpt=r(mvt)。
- これらを結びつけると、ΔtΔA=2mL
- L と m が一定なので、面積速度も一定となります。このように、経験則であった第2法則は、力学の基本法則から見事に説明されたのです。
4.3. ケプラーの第3法則:調和の法則
惑星の公転周期の2乗は、軌道の長半径(楕円の長い方の半径)の3乗に比例する。
T2∝a3⇔a3T2=一定
- この「一定値」は、中心天体(太陽)の質量のみに依存し、惑星自身の質量にはよりません。
- ニュートンによる証明(円軌道の場合):
- 惑星が半径 r の円軌道を描いていると仮定します。(円は楕円の特殊な場合)
- 惑星に働く万有引力が、円運動の向心力として働いているので、運動方程式は、Gr2Mm=mrv2
- ここで、v=T2πr (周期Tで円周2πrを進む速さ)を代入すると、Gr2Mm=mr(2πr/T)2=T2m⋅4π2r
- T2 について整理すると、T2=(GM4π2)r3
- この式は、まさしく T2 が r3 に比例することを示しており、比例定数 GM4π2 が中心天体Mの質量だけで決まることを明らかにしています。
4.4. ニュートンによるケプラーの法則の証明と拡張
- ニュートンの業績の核心は、ケプラーの3つの法則が、互いに独立したものではなく、万有引力の法則というたった一つの根本原因から導かれる必然的な結果であることを示した点にあります。
- さらに、彼はケプラーの法則を拡張しました。例えば、第3法則の比例定数から、惑星や太陽の質量を推定する方法を示しました。
- これにより、天体の運動はもはや神の領域ではなく、地上の物体と同じ物理法則で記述・予測できる、合理的な科学の対象となりました。これは、近代科学の成立を告げる、革命的な出来事でした。
【Module 4 まとめ】
本モジュールでは、古典力学の応用と集大成として、剛体の回転運動と万有引力という二つの大きなテーマを探求しました。
- 剛体の回転運動: 物体の運動を、質点の並進運動から大きさを持つ剛体の回転運動へと拡張しました。並進運動との美しいアナロジーを頼りに、回転を記述する物理量(角速度 ω, 角加速度 α)、回転のしにくさ(慣性モーメント I)、回転の原因(力のモーメント N)を定義し、回転の運動方程式 Iα=N を確立しました。
- 回転における保存則: 回転運動においても、並進運動と同様にエネルギーと運動量の概念が重要であることを学びました。回転の運動エネルギー (Krot=21Iω2) と、回転の勢いを表す角運動量 (L=Iω) を定義し、外部からの力のモーメントが働かない限り角運動量が保存されるという、極めて強力な角運動量保存則を導きました。
- 万有引力の法則: 視点を宇宙に広げ、すべての質量を持つ物体の間に働く根源的な引力、万有引力の法則(F=Gr2Mm) を学びました。また、それに関連する位置エネルギー (U=−GrMm) を定義し、天体の運動をエネルギーの観点から分析する道を開きました。
- 天体力学: ニュートンの力学が、ケプラーによって発見された惑星運動の3法則を、万有引力の法則から見事に説明できることを見ました。特に、第2法則が角運動量保存則の表れであり、第3法則が万有引力と運動方程式の直接的な帰結であることを理解しました。これは、物理法則の普遍性と予測能力を示す、壮大な実例です。
これで、古典力学の主要な体系の学習は一区切りとなります。あなたは、地上から天体まで、様々な物体の運動を分析・予測するための、一貫した論理体系と強力な思考ツールを身につけました。
次の**Module 5「熱力学」**では、視点が大きく変わります。これまでのように少数個の物体の確定的な運動を追うのではなく、気体のようにアボガドロ数個もの膨大な数の粒子(原子・分子)が集まった「多体系」を扱います。そこでは、個々の粒子の運動を追うことは不可能であり、温度、圧力、エントロピーといった、統計的・マクロな量を用いて系の振る舞いを記述する、全く新しい物理学の世界が広がっています。