【基礎 物理】Module 9: 電磁気学Ⅲ:交流と電磁波

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【本モジュールの学習目標】

これまでの電磁気学の旅路で、我々は静止した電荷が創る「静電場」、定常的に流れる電流が創る「定常磁場」、そしてそれらの変化が互いを誘起する「電磁誘導」を学んできました。このモジュールは、電磁気学の探求の最終章であり、その理論が到達した最も輝かしい頂点です。まず、電圧と電流の向きと大きさが周期的に変化し続ける**「交流回路」の世界を探求します。直流回路とは全く異なる抵抗、コイル、コンデンサーの振る舞いを理解し、回路全体の性質を決定づけるインピーダンスや共振といった重要な概念を学びます。これは、現代の電力システムや通信技術の根幹をなす、極めて実践的な知識です。次に、視点を個別の回路から、電磁気学のすべての法則を統べる天空へと移します。物理学者マクスウェルが、どのようにして既存の法則を一つの完璧な理論体系「マクスウェルの方程式」へと統合し、その方程式から、驚くべきことに、空間を伝わる電磁場の波「電磁波」の存在を純粋に理論的に預言したのか、その知的な冒険を追体験します。最終的に、その預言された電磁波こそが、我々がよく知る「光」の正体であり、電波からガンマ線に至る広大な電磁波スペクトル**の一部であることを理解します。このモジュールを終えるとき、あなたは電気、磁気、そして光が、すべて「電磁気学」という一つの壮大な理論によって支配されていることを知り、古典物理学が到達した最高の知性の営みを目撃することになるでしょう。


目次

1. 交流の基本と回路素子の振る舞い

直流が一定の「流れ」なら、交流は絶え間ない「振動」です。この振動する電源に対して、回路素子(抵抗、コイル、コンデンサー)はそれぞれ個性的な応答を示します。

1.1. 交流とは何か:正弦波交流

  • 交流(Alternating Current, AC):電圧や電流の大きさと向きが、周期的に変化する電源、およびそれによって生じる電流のこと。
  • 正弦波交流:その変化が三角関数(正弦波、sin波)で表される、最も基本的で重要な交流。家庭用のコンセントに来ている電気も、ほぼ正弦波交流です。
    • 交流電圧: v=V0​sin(ωt)
    • 交流電流: i=I0​sin(ωt+ϕ)
  • 交流を表す量:
    • 瞬時値 (v,i): ある時刻 t における電圧や電流の値。
    • 最大値 (V0​,I0​): 振幅の最大値。
    • 角振動数 ω: 変化の速さを表す。ω=2πf=2π/T で、振動数 f や周期 T と関係づけられる。
    • 実効値 (Ve​,Ie​): 交流の大きさを示す、直流に換算したときの「平均的な」値。交流が抵抗で消費する平均電力が、同じ抵抗で同じ電力を消費する直流の値に等しくなるように定義されます。正弦波交流の場合、Ve​=2​V0​​,Ie​=2​I0​​
    • 家庭用コンセントの「100V」は、この実効値のことです。

1.2. 抵抗の応答:電圧と電流は同位相

  • 抵抗 R に交流電圧 v=V0​sin(ωt) をかけると、オームの法則 i=v/R が各瞬間にそのまま成り立ちます。i=RV0​​sin(ωt)
  • 特徴:
    • 電流の最大値は I0​=V0​/R となります。
    • 電圧と電流の位相はずれておらず、常に同じタイミングで変化します(同位相)。

1.3. コイルの応答:電圧は電流より位相が90°進む

  • 自己インダクタンス L のコイルに交流電流 i=I0​sin(ωt) が流れると考えます。
  • コイルには自己誘導により、電流の変化を妨げる向きに誘導起電力 v=LΔtΔi​ が生じます。(ここでは逆起電力の大きさを考えています)
  • 微分計算により、i=I0​sin(ωt) の時間変化率は dtdi​=I0​ωcos(ωt) となります。v=L(I0​ωcos(ωt))=(ωLI0​)sin(ωt+2π​)
  • 特徴:
    • 電圧の最大値は V0​=ωLI0​ です。
    • 電圧の位相 (ωt+π/2) は、電流の位相 (ωt) よりも π/2 (90°) 進んでいます
    • 物理的意味: コイルは電流の変化を嫌う「慣性」を持つため、まず電圧をかけて電流を流そうとし、電流の変化がそれに遅れてついてくる、と解釈できます。電流の変化率が最大のとき(i=0 の瞬間)に、電圧が最大になります。

1.4. コンデンサーの応答:電圧は電流より位相が90°遅れる

  • 電気容量 C のコンデンサーに交流電圧 v=V0​sin(ωt) をかけます。
  • コンデンサーに蓄えられる電荷は q=Cv=CV0​sin(ωt) です。
  • 回路を流れる電流 i は、コンデンサーの電荷の時間変化率に等しいので、i=ΔtΔq​。
  • 微分計算により、i=dtd​(CV0​sin(ωt))=(ωCV0​)cos(ωt)=(ωCV0​)sin(ωt+2π​)
  • この式を電圧基準に書き直すと、v=V0​sin(ωt) に対して i=I0​sin(ωt+π/2) となり、電流が電圧より位相が90°進んでいることがわかります。これはすなわち、電圧は電流より位相が90°遅れることと同じです。
  • 特徴:
    • 電流の最大値は I0​=ωCV0​ です。
    • 電圧の位相は、電流の位相よりも π/2 (90°) 遅れています
    • 物理的意味: コンデンサーはまず電流が流れ込んで電荷が蓄積し、その結果として電圧(電位差)が上昇します。そのため、電圧の変化は電流の変化より遅れます。電圧の変化率が最大のとき(v=0の瞬間)に、電流が最大になります。

1.5. リアクタンス:コイルとコンデンサーの「抵抗」

  • コイルとコンデンサーは、直流電流は通しませんが(定常状態のコイルはただの導線、コンデンサーは断線)、交流電流に対しては、あたかも抵抗のような働きをします。この、交流に対する「見かけの抵抗」をリアクタンスと呼びます。
  • 誘導性リアクタンス XL​ (コイル):V0​=(ωL)I0​ の関係から、オームの法則 V=RI と比較すると、ωL が抵抗に相当する量と見なせます。XL​=ωL=2πfL
    • 交流の振動数 f が高いほど、電流が激しく変化するため、コイルはそれに強く抵抗し、リアクタンスは大きくなります。
  • 容量性リアクタンス XC​ (コンデンサー):V0​=(ωC1​)I0​ の関係から、同様に ωC1​ が抵抗に相当します。XC​=ωC1​=2πfC1​
    • 交流の振動数 f が高いほど、電荷の充放電が素早く行われ、電流は流れやすくなるため、リアクタンスは小さくなります。

2. RLC直列回路と共振

抵抗、コイル、コンデンサーを直列につないだRLC回路は、交流回路の最も基本的で重要なモデルです。

2.1. インピーダンス:回路全体の「抵抗」

  • RLC直列回路では、各素子での電圧と電流の位相がずれているため、回路全体の抵抗を単純な足し算で求めることはできません。
  • インピーダンス Z とは、位相のずれも考慮に入れた、交流回路全体の抵抗に相当する量です。
  • 回路全体での電圧の最大値 V0​ と電流の最大値 I0​ の間に、V0​=ZI0​ の関係が成り立ちます。単位はオーム[Ω]です。

2.2. ベクトル図(フェーザ図)による解析

  • 位相のずれを考慮して、RLC回路全体の電圧を求めるには、各素子の電圧を回転ベクトルとして描画する**ベクトル図(フェーザ図)**を用いるのが極めて有効です。
  • 作図法:
    1. 回路に共通な電流 i の位相を基準とし、水平右向きにベクトル I0​​ を描く。
    2. 抵抗の電圧 VR​​ は電流と同位相なので、同じ向きに描く。大きさは VR​=RI0​。
    3. コイルの電圧 VL​​ は電流より90°進むので、真上向きに描く。大きさは VL​=XL​I0​。
    4. コンデンサーの電圧 VC​​ は電流より90°遅れるので、真下向きに描く。大きさは VC​=XC​I0​。
  • インピーダンスの導出:
    • 回路全体の電圧 V0​​ は、これら3つの電圧ベクトルのベクトル和になります。
    • VL​​ と VC​​ は逆向きなので、その合成は ∣VL​−VC​∣。
    • V0​​ の大きさは、VR​​ と (VL​​−VC​​) の合成ベクトルの長さなので、三平方の定理より、V02​=VR2​+(VL​−VC​)2=(RI0​)2+(XL​I0​−XC​I0​)2V0​=I0​R2+(XL​−XC​)2
    • V0​=ZI0​ と比較して、インピーダンス Z が求まります。Z=R2+(XL​−XC​)2​=R2+(ωL−ωC1​)2

2.3. 電気共振:電流が最大になる現象

  • 共振条件:インピーダンスの式を見ると、角振動数 ω を変化させると Z の値が変わることがわかります。もし、XL​=XC​ となるような特定の角振動数 ω0​ があれば、インピーダンスは Z=R2+02​=R となり、最小値をとります。
    • このとき、回路には最大の電流が流れます。この現象を電気共振と呼び、そのときの振動数を共振振動数と呼びます。
    • XL​=XC​ より、ω0​L=ω0​C1​⇔ω0​=LC​1​
    • 共振時、コイルとコンデンサーのリアクタンスは互いに打ち消し合い、回路はあたかも純粋な抵抗回路のように振る舞います。
  • 応用:ラジオやテレビのチューニング回路は、この共振の原理を利用しています。アンテナが受信した様々な周波数の電波の中から、特定の放送局の周波数(共振振動数)に回路を合わせることで、その局の信号だけを選択的に増幅しています。

2.4. 交流回路の電力

  • 交流回路では、電圧と電流が常に変化するため、消費電力も刻一刻と変化します。通常、重要になるのは、その時間的な平均値である平均消費電力 Pˉ です。
  • 平均消費電力:Pˉ=Ve​Ie​cosϕ=21​V0​I0​cosϕ
  • 力率 cosϕ:
    • ϕ は、回路全体の電圧と電流の間の位相差です。
    • cosϕ を力率と呼び、電源から供給された電力が、どれだけ効率よく実際に消費されるか(熱や仕事に変わるか)を表す指標です。
    • cosϕ=R/Z で与えられます。
    • 共振時(Z=R)には cosϕ=1 となり、電力は最大かつ最も効率的に消費されます。

2. 電磁気学の完成と光の預言

交流回路という動的な世界を見た後、我々は再び電磁気学の基本法則に立ち返ります。そこには、一つの「欠けたピース」がありました。

3.1. これまでの法則の集大成

19世紀半ば、物理学者たちが手にしていた電磁気学の法則は、主に以下の4つでした。

  1. 静電場に関するガウスの法則: 電荷が電場を作る。
  2. 磁場に関するガウスの法則: 磁気単極子は存在せず、磁力線は必ず閉じる。
  3. アンペールの法則: 電流が磁場を作る。
  4. ファラデーの電磁誘導の法則: 変化する磁場が電場(起電力)を作る。

3.2. アンペールの法則の矛盾と変位電流の導入

  • スコットランドの物理学者ジェームズ・クラーク・マクスウェルは、これらの法則を一つの数学的な体系にまとめようとする中で、アンペールの法則に理論的な欠陥があることを見抜きました。
  • 矛盾: コンデンサーを充電する回路を考えると、導線部分には電流が流れているため、その周りにはアンペールの法則に従って磁場ができます。しかし、コンデンサーの極板間には電流が流れていないにもかかわらず、実験的には磁場が存在します。アンペールの法則は、この空間の磁場を説明できません。
  • 変位電流:マクスウェルは、この矛盾を解決するために、天才的なアイデアを提唱しました。変化する電場もまた、電流と同様に、その周りに磁場を創り出す。
    • 彼は、この「変化する電場」を、あたかも電流が流れているかのように見なせるものとして変位電流と名付けました。
    • 変位電流 ID​ は、極板間の電束(ΦE​=ϵ0​ES)の時間変化率で与えられます。ID​=ΔtΔΦE​​
  • 完成されたアンペール・マクスウェルの法則:マクスウェルは、アンペールの法則にこの変位電流の項を付け加え、法則を完成させました。磁場は、伝導電流と変位電流(変化する電場)によって作られる。

3.3. 完成されたマクスウェル方程式とその意味

  • マクスウェルは、変位電流の導入によって完成されたアンペールの法則を含む、電磁気学のすべての基本法則を、4つの美しい方程式にまとめ上げました。これをマクスウェルの方程式と呼びます。
    1. ガウスの法則(電場): 電荷が電場の源である。
    2. ガウスの法則(磁場): 磁場の源(磁気単極子)は存在しない。
    3. ファラデーの電磁誘導の法則: 変化する磁場は電場(渦を巻く)を生む。
    4. アンペール・マクスウェルの法則: 電流および変化する電場は磁場(渦を巻く)を生む。
  • 意味:この方程式系は、電気と磁気のすべての現象を完全に記述する、古典電磁気学の最終理論です。特に、最後の2つの法則が示す**「変化する磁場→電場」「変化する電場→磁場」**という相互作用の連鎖が、次の驚くべき預言を生み出します。

4. 電磁波の存在とその性質

4.1. 電磁波の発生メカニズム

  • マクスウェルの方程式が示す相互作用の連鎖を考えてみましょう。
    1. 空間のある点で電場が時間的に変化すると、その周りに磁場が誘起される。(アンペール・マクスウェルの法則)
    2. その誘起された磁場も時間的に変化するため、今度はその周りに電場が誘起される。(ファラデーの法則)
    3. その誘起された電場もまた…
  • このように、電場と磁場が互いを生成しあいながら、次々と連鎖反応的に空間を伝播していく、自己増殖的な波が存在しうることが理論的に導かれます。これが**電磁波(Electromagnetic Wave)**です。
  • 電磁波を発生させるには、この連鎖のきっかけ、すなわち加速度運動をする電荷が必要です。アンテナの中で電子を振動させると、その周りの電場と磁場が周期的に変化し、電磁波として放射されます。

4.2. 電磁波の伝播と横波としての性質

  • マクスウェルの方程式を解くことで、電磁波の性質が詳細にわかります。
  • 横波: 電磁波は、電場の振動方向、磁場の振動方向、そして波の進行方向が、互いにすべて直交している横波です。
  • 媒質不要: 電磁波は、電場と磁場という「場」そのものの振動が伝わる現象なので、力学的な波と異なり、媒質を必要としません。真空中を伝わることができます。

4.3. 電磁波の速さの預言と光速の一致

  • マクスウェルの方程式から電磁波の伝わる速さ v を計算すると、それは真空の誘電率 ϵ0​ と真空の透磁率 μ0​ という、純粋に電気と磁気の実験から得られる定数のみで決まることが示されます。v=ϵ0​μ0​​1​
  • 実際に、当時知られていた ϵ0​ と μ0​ の値をこの式に代入すると、v=(8.85×10−12)×(4π×10−7)​1​≈3.00×108 m/s
  • この値は、当時すでに測定されていた光の速さ c と、驚くべき精度で一致しました。
  • この劇的な一致から、マクスウェルは「光とは、電磁波の一種である」という、物理学史上最も偉大な結論の一つを導き出しました。これにより、何世紀にもわたって独立に研究されてきた電気、磁気、そして光学が、電磁気学という一つの理論のもとに完全に統一されたのです。

4.4. 電磁波のエネルギー

  • 電磁波は、電場のエネルギー(21​ϵ0​E2)と磁場のエネルギー(2μ0​1​B2)を運びます。
  • 単位時間に単位面積を通過する電磁波のエネルギーの流れの強さは、ポインティング・ベクトルによって記述され、その大きさは電場と磁場の強さに比例します。

5. 電磁波のスペクトル

光が電磁波の一種であることが分かると、可視光はその広大なスペクトルのごく一部に過ぎないことが明らかになりました。電磁波は、その**波長(または振動数)**によって分類されます。

5.1. 波長による分類:電波からガンマ線まで

波長が長いものから順に、以下のように分類されます。波長が短いほど、振動数が高く、エネルギーも大きくなります。

  • 電波 (Radio Waves): 波長が最も長い (mm単位〜数km)。AM/FMラジオ、テレビ放送、携帯電話、Wi-Fiなどに利用される。
  • マイクロ波 (Microwaves): 波長が数mm〜数十cm。電子レンジ、衛星通信、レーダーなどに利用される。
  • 赤外線 (Infrared): 波長が約780nm〜1mm。熱を伝える作用が強く、リモコン、赤外線カメラ、暖房器具などに利用される。
  • 可視光線 (Visible Light): 波長が約380nm(紫)〜780nm(赤)。人間の目に見える、非常に狭い範囲の電磁波。
  • 紫外線 (Ultraviolet): 波長が約10nm〜380nm。化学作用が強く、日焼けの原因となるほか、殺菌灯などに利用される。
  • X線 (X-rays): 波長が非常に短い。透過性が高く、医療用のレントゲン写真や、物質の内部構造の解析に利用される。
  • ガンマ線 (Gamma Rays): 波長が最も短く、エネルギーが最も高い。放射性原子核の崩壊などによって放出され、非常に高い透過力と破壊力を持つ。

5.2. 各電磁波の性質と主な応用

  • 共通の性質: すべての電磁波は、真空中を同じ速さ(光速 c)で進む横波であり、反射、屈折、干渉、回折といった波の性質を共通して示します。
  • 波長による性質の違い: 波長が異なると、物質との相互作用の仕方が大きく変わります。これにより、それぞれの波長帯で特有の性質が現れ、多種多様な応用が生まれています。例えば、電波は建物を回り込んで(回折して)届きますが、波長の短い可視光はほとんど回り込みません。X線は体を透過しますが、可視光は透過しません。これらの違いが、現代の科学技術を支えています。

【Module 9 まとめ】

本モジュールは、古典電磁気学の理論の完成を告げる、壮大なフィナーレでした。

  1. 交流回路: 我々はまず、電圧と電流が絶えず変化する交流回路の世界を探求しました。コイルやコンデンサーが、直流とは全く異なるリアクタンスという「抵抗」を示し、電圧と電流の間に位相のずれを生むことを見ました。そして、回路全体の抵抗であるインピーダンスをベクトル図を用いて理解し、特定の振動数で電流が最大になる電気共振の現象を学びました。
  2. マクスウェルの方程式: 次に、個別の現象から普遍的な法則へと視点を移し、マクスウェルが変位電流という最後のピースを加えることで、それまでの電気と磁気の法則を、4つのマクスウェルの方程式として完璧に統一したことを見ました。この理論体系は、古典物理学の金字塔とされています。
  3. 電磁波の預言と光の正体: この完成された理論体系が必然的に導く結論こそ、電磁波の存在でした。変化する電場と磁場が互いを生成しあいながら空間を伝播する波が存在し、その速さが、電気と磁気の定数から計算した値と、当時測定されていた光速とが見事に一致したのです。これにより、光、電気、磁気は、すべて「電磁気」という一つの根源から生じる現象であることが証明されました。
  4. 電磁波スペクトル: 最後に、我々が見ている可視光は、電波からガンマ線まで広がる、広大な電磁波スペクトルのごく一部に過ぎないことを学びました。波長が違えば性質も応用も異なりますが、それらはすべて同じ物理法則に支配された、電磁波の「顔」違いであることがわかりました。

古典電磁気学は、マクスウェルによって一つの美しい理論体系として完成しました。しかし、この完璧に見えた理論の地平線の彼方には、いくつかの暗雲が立ち込めていました。それは、光の速さが観測者によらず一定であるという奇妙な事実や、黒体放射といった、古典論では説明できない現象です。

次のModule 10「現代物理学Ⅰ」からは、いよいよ20世紀物理学、すなわち現代物理学の世界に突入します。マクスウェルの理論と古典力学の間の矛盾を解消しようとする試みの中から生まれた、アインシュタインの相対性理論が、我々の時間と空間の常識をどのように覆したのかを探求していきます。

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