- 本記事は生成AIを用いて作成しています。内容の正確性には配慮していますが、保証はいたしかねますので、複数の情報源をご確認のうえ、ご判断ください。
【基礎 英語】Module 5:態の選択と文の焦点(フォーカス)
本モジュールの目的と構成
これまでのモジュールで、私たちは文の構造、時間表現、そして話者の主観といった、情報を伝達するための基本的な論理システムを学んできました。しかし、同じ客観的な事実であっても、その伝え方によって聞き手や読み手が受け取る印象は大きく異なります。例えば、「犬が男を噛んだ」と「男が犬に噛まれた」では、事実関係は同じでも、情報の**焦点(フォーカス)が全く異なります。この焦点の制御を可能にする文法的な仕組みが「態(Voice)」**です。
本モジュール「態の選択と文の焦点」は、態を単なる能動態から受動態への機械的な書き換えルールとしてではなく、書き手が情報の焦点を戦略的に操作するための論理的な選択として捉え直すことを目的とします。能動態が「行為の主体」に焦点を当てるのに対し、受動態は「行為の対象」に焦点を当てます。なぜ書き手は一方の態を選択したのか、その背後にある文脈的な意図を理解することは、文章の表面的な意味を超え、その修辞的な戦略までを読み解くことにつながります。
この目的を達成するため、本モジュールは**[規則]→ [分析]→ [構築]→[展開]**という4段階の論理連鎖を採用します。
- [規則] (Rules): まず、態が文の焦点を決定する選択肢であるという基本概念を定義します。能動態の文が受動態の文へと変換される際の、構造的なプロセスと普遍的な規則を学びます。第四文型や第五文型、あるいは句動詞といった、より複雑な構造の受動態についても、その論理的な形成ルールを体系的に整理します。
- [分析] (Analysis): 次に、確立された規則を分析ツールとして用い、書き手がなぜ受動態を選択したのか、その文脈的な意図を「分析」します。行為の主体が不明、あるいは意図的に隠蔽されている場合や、客観性を強調したい場合など、受動態が持つ多様な修辞的機能を解明します。
- [構築] (Construction): 分析によって得た理解を元に、今度は自らの意図に応じて、能動態と受動態を戦略的に使い分けることで、焦点の明確な文を「構築」する段階へ進みます。客観的な科学的記述や、行為の対象を主題としたい場合など、目的に応じて最適な文体を構築する能力を養います。
- [展開] (Development): 最後に、態の選択という視点を、科学技術系の論文やニュース記事といった、特定のジャンルの文章分析へと「展開」させます。これらの分野でなぜ受動態が多用されるのか、その機能的な理由と効果を理解することで、各ジャンルに特有の論理的な文体を深く読解するための、専門的な分析能力を確立します。
このモジュールを完遂したとき、あなたはもはや態を単なる書き換え問題として捉えることはないでしょう。態は、あなたにとって、情報の流れを巧みに操り、文章の焦点を定め、自らの主張を最も効果的な形で提示するための、知的で戦略的なツールとなっているはずです。
1. [規則] 態の概念:動作の主体と客体のどちらに焦点を当てるかの選択
**態(Voice)**とは、一つの出来事について記述する際に、**動作の主体(行為者、Agent)と動作の客体(被行為者、Patient)のどちらを文の主語、すなわち情報の中心的な焦点(フォーカス)として提示するかを選ぶための、文法的な仕組みです。英語には主に能動態(Active Voice)と受動態(Passive Voice)**の二つの態が存在します。
1.1. 能動態 (Active Voice)
- 構造: S (動作の主体) + V (動詞) + O (動作の客体)
- 機能: **動作の主体(誰が・何が〜したか)**に焦点を当てます。文の主語が、動詞の示す行為を能動的に行う、最も標準的で直接的な表現形式です。
- 例文: Shakespeare wrote “Hamlet”. (シェイクスピアが『ハムレット』を書いた。)
- 分析: この文の主語は
Shakespeare
であり、彼がwrote
(書いた) という行為の主体です。情報の焦点は、行為者であるシェイクスピアにあります。
- 分析: この文の主語は
1.2. 受動態 (Passive Voice)
- 構造: S (動作の客体) + be動詞 + 過去分詞 (+ by + 動作の主体)
- 機能: **動作の客体(誰が・何が〜されたか)**に焦点を当てます。能動態の目的語が文の主語の位置に来ることで、その出来事の影響を受けた側が情報の中心となります。
- 例文: “Hamlet” was written by Shakespeare. (『ハムレット』はシェイクスピアによって書かれた。)
- 分析: この文の主語は
Hamlet
であり、これはwrite
(書く) という行為の客体(書かれたもの)です。情報の焦点は、行為者ではなく、行為の対象である『ハムレット』に移っています。
- 分析: この文の主語は
1.3. 態の選択という戦略
同じ事実関係 (シェイクスピアがハムレットを書いた
) であっても、能動態と受動態のどちらを選択するかによって、文が伝えるニュアンスや情報の重み付けは大きく異なります。
項目 | 能動態 | 受動態 |
主語 | 動作の主体 (Agent) | 動作の客体 (Patient) |
焦点 | 誰が行ったか | 何がされたか |
文の例 | Shakespeare wrote “Hamlet”. | “Hamlet” was written by Shakespeare. |
適した文脈 | 行為者を強調したい場合 | 行為の対象を強調したい場合 |
態の選択は、単なる文法的な操作ではありません。それは、書き手が文の中でどの情報を前景化し、どの情報を後景化するかを決定する、修辞的・論理的な戦略なのです。この選択の背後にある意図を理解することが、態を深く理解する上での鍵となります。
2. [規則] 受動態の基本構造と、その形成プロセス
受動態の文は、能動態の文から一定の規則に従って、機械的・論理的に作り出すことができます。この構造的な形成プロセスを理解することは、受動態の文を正確に構築し、また正しく分析するための基礎となります。
2.1. 受動態に変換できる文の条件
受動態は、能動態の文の目的語 (Object) を主語にする構文です。したがって、受動態に変換できるのは、目的語を持つ文型、すなわち第三文型 (SVO)、第四文型 (SVOO)、第五文型 (SVOC) のみです。目的語を持たない第一文型 (SV) と第二文型 (SVC) は、原則として受動態にすることはできません。
- SV: I went there. → 目的語がないため受動態不可。
- SVC: He became a doctor. →
a doctor
は目的語ではなく補語であるため受動態不可。
2.2. 能動態から受動態への形成プロセス (第三文型 SVO)
能動態の文を受動態に変換するには、以下の3つのステップを踏みます。
- 能動態の目的語 (O) を、受動態の主語 (S’) にする。
- 能動態の動詞 (V) を、「be動詞 + 過去分詞 (p.p.)」の形に変える。
- 能動態の主語 (S) を、「by + 行為者」の形で文末に置く。
- 能動態: I love you.
- S:
I
- V:
love
- O:
you
- S:
- 受動態への変換:
you
を主語にする → You …love
をbe + p.p.
にする → … are loved …I
をby
の後につける → … by me.
- 受動態 (完成): You are loved by me.
2.3. 時制と助動詞を持つ文の受動態
受動態の時制や助動詞は、be
動詞の部分を変化させることで表現します。
- 否定文:
be
動詞の後にnot
を置きます。- He is not loved by her.
- 疑問文:
be
動詞を主語の前に置きます。疑問詞がある場合は、さらにその前に置きます。- By whom was this letter written?
- 助動詞:
助動詞 + be + p.p.
の形になります。- This computer can be used by everybody.
- 進行形:
be動詞 + being + p.p.
の形になります。- That car is being used by him.
- 完了形:
have/has/had + been + p.p.
の形になります。- The work has just been finished by him.
この形成プロセスは、受動態の全ての基本となる論理的な手順です。このプロセスを習得することで、どのような時制や助動詞を持つ文であっても、正確に受動態の形を導き出すことができます。
3. [規則] 第四文型(SVOO)と第五文型(SVOC)の受動態
目的語を二つ持つ第四文型 (SVOO) や、目的語と補語を持つ第五文型 (SVOC) も、その構造的な規則に従って受動態に変換することができます。
3.1. 第四文型 (SVOO) の受動態
第四文型は、間接目的語 (O1: 主に人) と直接目的語 (O2: 主に物) という、二つの目的語を持ちます。そのため、原則として、それぞれの目的語を主語にした、二種類の受動態を作ることが可能です。
- 能動態: He gave her this watch. (彼は彼女にこの時計を与えた。)
- S:
He
- V:
gave
- O1:
her
- O2:
this watch
- S:
3.1.1. 間接目的語 (O1) を主語にする受動態
間接目的語(人)を主語にするパターンです。こちらの方が一般的で、より自然な表現とされることが多いです。
- 構造: O1 + be動詞 + 過去分詞 + O2 (+ by S).
- 例文: She was given this watch by him. (彼女はこの時計を彼から与えられた。)
3.1.2. 直接目的語 (O2) を主語にする受動態
直接目的語(物)を主語にするパターンです。この場合、残った間接目的語(人)の前に、多くの場合前置詞 (to
または for
) が必要となります。
- 構造: O2 + be動詞 + 過去分詞 + [to/for + O1] (+ by S).
- 例文: This watch was given to her by him. (この時計は彼によって彼女に与えられた。)
【より詳しく】前置詞の選択
to を使うか for を使うかは、元の動詞の性質によります。これは、第四文型を第三文型に書き換える際のルールと同じです。
give
,tell
,show
,send
など →to
を用いるbuy
,make
,cook
,find
など →for
を用いる- My father bought me a bicycle. → A bicycle was bought for me by my father.
3.2. 第五文型 (SVOC) の受動態
第五文型では、目的語 (O) と目的格補語 (C) の間に O = C
という関係があります。受動態では、目的語 (O) のみが主語になり、補語 (C) はそのままの位置に残ります。
- 能動態: We elected him captain of the team. (私たちは彼をチームのキャプテンに選んだ。)
- S:
We
- V:
elected
- O:
him
- C:
captain of the team
- S:
- 受動態: He was elected captain of the team by us. (彼は私たちによってチームのキャプテンに選ばれた。)
- 分析: 能動態の目的語
him
が主語He
になっています。補語captain of the team
は、動詞の後にそのまま残ります。受動態の文の中でも、He = captain
という関係は維持されています。
- 分析: 能動態の目的語
これらの複雑な文型の受動態を正確に構築するためには、元の能動態の文において、どの要素が目的語で、どの要素が補語であるかを正確に識別する分析能力が前提となります。
4. [規則] by以外の前置詞を用いる、群動詞の受動態
受動態では、行為者は通常 by
を用いて示されますが、特定の動詞、特に話者の感情や状態を表す動詞の場合や、複数の語で一つの動詞として機能する「句動詞」の場合には、by
以外の前置詞が用いられたり、動詞と前置詞がセットで扱われたりします。
4.1. by
以外の前置詞を用いる受動態(感情・状態)
話者の感情や、何らかの状態を表す受動態の表現では、その感情の原因や状態の材料を示すために、by
以外の特定の決まった前置詞が慣用的に用いられます。これらは熟語として覚える必要があります。
be surprised at/by
: 〜に驚くbe interested in
: 〜に興味があるbe satisfied with
: 〜に満足しているbe pleased with
: 〜を喜んでいるbe known to
: (人)に知られているbe known for
: 〜で有名であるbe covered with
: 〜で覆われているbe filled with
: 〜で満たされているbe made of
: 〜(材料)で作られているbe made from
: 〜(原料)から作られている- 例文:
- I was surprised at the news. (私はその知らせに驚いた。)
- This desk is made of wood. (この机は木でできている。)
4.2. 句動詞(群動詞)の受動態
動詞 + 副詞
や 動詞 + 前置詞
の組み合わせで、一つの他動詞として機能する句動詞 (Phrasal Verbs) は、受動態になってもその組み合わせは崩れません。動詞と副詞・前置詞を一つの塊として扱います。
4.2.1. 動詞 + 前置詞
のパターン
このパターンでは、能動態の前置詞が過去分詞の直後にそのまま残ります。結果として、... at by ...
や ... of by ...
のように前置詞が二つ並ぶ形になりますが、これは文法的に正しい形です。
- 能動態: She smiled at me.
- 受動態: I was smiled at by her. (私は彼女に微笑みかけられた。)
- その他の例:
laugh at
(〜を笑う) → be laughed at byspeak to
(〜に話しかける) → be spoken to bytake care of
(〜の世話をする) → be taken care of bylook up to
(〜を尊敬する) → be looked up to by
4.2.2. 動詞 + 副詞
のパターン
- 能動態: We put off our party for a week. (私たちはパーティーを1週間延期した。)
- 受動態: Our party was put off for a week (by us). (私たちのパーティーは1週間延期された。)
- その他の例:
turn on
(〜をつける) → be turned onbring up
(〜を育てる) → be brought up
これらの表現を正確に用いるためには、個々の動詞の語法や、句動詞の知識が不可欠です。特に句動詞の受動態では、動詞と前置詞・副詞の結びつきを崩さずに一つの単位として扱うという論理的な原則を理解することが重要です。
5. [規則] 使役動詞・知覚動詞の受動態(原形不定詞の変化)
第五文型 (SVOC) を作る動詞の中でも、使役動詞 (Causative Verbs) の make
と、知覚動詞 (Perceptive Verbs) の see
, hear
, feel
などは、能動態の文では補語 (C) の位置に**原形不定詞(to
のない不定詞)**をとるという、特殊な性質を持っています。
これらの動詞を含む文が受動態に変換される際には、この原形不定詞が to
不定詞に変化するという、極めて重要な規則が存在します。
5.1. 形成プロセス
- 能動態の文を特定する: S + (使役・知覚動詞) + O + C (原形不定詞)
- 目的語 (O) を主語にする: 能動態の目的語が、受動態の主語になります。
- 動詞を
be + 過去分詞
にする: - 原形不定詞を
to
不定詞に変化させる: これが最も重要なステップです。 - 能動態の主語を
by
… にする:
5.2. 知覚動詞の受動態
- 能動態: We saw him cross the street. (私たちは彼が通りを渡るのを見た。)
- V:
saw
(知覚動詞) - O:
him
- C:
cross
(原形不定詞)
- V:
- 受動態への変換:
him
をHe
にして主語に置く。saw
をwas seen
にする。cross
をto cross
に変化させる。We
をby us
にする。
- 受動態 (完成): He was seen to cross the street (by us). (彼は通りを渡るのを見られた。)
その他の知覚動詞:
hear someone say
→someone is heard to say
feel something touch
→something is felt to touch
5.3. 使役動詞 make
の受動態
使役動詞 make
も同様に、受動態では to
不定詞を伴います。
- 能動態: My mother made me clean my room. (母は私に部屋の掃除をさせた。)
- V:
made
(使役動詞) - O:
me
- C:
clean
(原形不定詞)
- V:
- 受動態: I was made to clean my room by my mother. (私は母に部屋の掃除をさせられた。)
5.4. 例外:使役動詞 have
と let
have
:have O do
の形は、通常、受動態では使われません。let
:let O do
の形が受動態になる場合、let
は使われず、be allowed to do
という別の表現で代用されるのが一般的です。- 能動態: They didn’t let their daughter use cosmetics. (彼らは娘に化粧品を使わせなかった。)
- 受動態 (代用表現): Their daughter was not allowed to use cosmetics. (彼らの娘は化粧品を使うことを許されていなかった。)
この「原形不定詞が to
不定詞に変わる」という規則は、能動態と受動態の間の構造的な非対称性を示す重要な例です。この規則を理解することは、使役動詞・知覚動詞を含む文を正確に運用するために不可欠です。
6. [規則] 能動態では表現できない、あるいは不自然な受動態構文
受動態は能動態の目的語を主語にする構文ですが、全ての他動詞が自然な受動態を作れるわけではありません。また、逆に、能動態の形が存在しない、あるいは極めて不自然で、事実上、受動態の形でしか使われない表現も存在します。
6.1. 受動態になりにくい他動詞
目的語をとる他動詞であっても、その動詞が示す意味が、目的語に影響を及ぼす「行為」ではなく、**「状態」**を表す場合、受動態にすると不自然になります。
have
(所有): 「持っている」という状態を表すため、受動態にはなりません。- 能動態: He has a large house.
- 不自然な受動態: A large house is had by him. (不可)
resemble
(〜に似ている): 「似ている」という状態を表します。- 能動態: She resembles her mother.
- 不自然な受動態: Her mother is resembled by her. (不可)
lack
(〜に欠けている): 「欠けている」という状態を表します。- 能動態: He lacks experience.
- 不自然な受動態: Experience is lacked by him. (不可)
- その他:
fit
(〜に合う),cost
(費用がかかる),weigh
(重さがある) など。
これらの動詞に共通するのは、主語が行う動作によって目的語が変化したり影響を受けたりしないという点です。受動態は行為の受け手に焦点を当てる構文であるため、受け手に変化が生じない「状態」を表す動詞とは、論理的に相性が悪いのです。
6.2. 受動態でのみ、あるいは主に受動態で使われる表現
一方で、能動態の形が存在しないか、あるいは日常的にはほとんど使われず、慣用的に受動態の形で定着している表現があります。
be born
(生まれる):- I was born in Tokyo. (私は東京で生まれた。)
bear
(〜を産む) という動詞の受動態ですが、能動態でMy mother bore me in Tokyo.
のように言うことは極めて稀です。「生まれる」という出来事は、本人の意志や行為ではなく、受け身の出来事であるため、受動態が表現として定着しています。
be killed / be injured / be wounded
(死ぬ・怪我をする):- 事故や災害、戦争などで死傷した場合、
die
よりも受動態を用いて、その原因となった外的要因を暗示することが多くあります。 - Many people were killed in the accident. (その事故で多くの人々が亡くなった。)
- 事故や災害、戦争などで死傷した場合、
be located / be situated
(位置している):- 建物や都市などの場所を表す際に、状態として用いられます。
- The hotel is located near the station. (そのホテルは駅の近くに位置しています。)
be caught in
((雨などに)遭う):- I was caught in a shower on my way home. (家に帰る途中でにわか雨に遭った。)
これらの表現は、出来事の性質上、主語が「行為者」ではなく「経験者」や「受け手」であることが自明であるため、受動態が最も自然で論理的な表現形式として選択されています。
7. [分析] 筆者が受動態を選択した文脈的意図(動作主の隠蔽、客観性の強調など)の分析
書き手が能動態ではなく受動態を選択する背景には、単なる文体の変化だけでなく、特定の情報を強調したり、逆に隠したり、あるいは文章全体のトーンを調整したりといった、明確な文脈的・修辞的な意図が存在します。受動態の文に遭遇した際、その背後にある意図を分析することは、筆者の隠れたスタンスや主張を読み解く上で重要です。
7.1. 焦点(フォーカス)の移動
最も基本的な意図は、文の焦点を**行為の主体(Agent)から行為の客体(Patient)**へと移動させることです。
- 能動態: The scientist discovered a new particle. (焦点は「科学者」)
- 受動態: A new particle was discovered (by the scientist). (焦点は「新粒子」)
- 分析: 筆者が「誰が」発見したかよりも、「何が」発見されたかという事実そのものを読者の注意の中心に置きたい場合、受動態が選択されます。
7.2. 行為の主体(動作主)が重要でない、あるいは不明な場合
- 行為の主体が不明:
- My bicycle was stolen yesterday. (昨日、私の自転車が盗まれた。)
- 分析: 誰が盗んだのか(犯人)が不明であるため、盗まれた対象である自転車を主語にする受動態が最も自然な表現となります。
- 行為の主体が自明:
- He was elected president. (彼は大統領に選ばれた。)
- 分析: 選んだのが国民(有権者)であることは自明なので、
by the people
を付け加える必要はなく、受動態が簡潔で効果的です。
- 行為の主体が重要でない:
- This bridge was built in 1950. (この橋は1950年に建設された。)
- 分析: 読者の関心は「誰が」建設したか(個々の作業員)ではなく、「いつ」建設されたかという事実にあるため、受動態が選択されます。
7.3. 客観性と非人称性の強調
特に科学技術系の論文、レポート、ニュース記事など、客観性や非人称性が求められる文体では、受動態が意図的に多用されます。
- 能動態: I heated the solution to 100 degrees. (私は溶液を100度に加熱した。)
- 受動態: The solution was heated to 100 degrees. (その溶液は100度に加熱された。)
- 分析: 能動態では
I
という個人的な行為が強調されますが、受動態にすることで、行為の主体(実験者)を文の表面から消し、実験プロセスそのものを客観的な事実として記述することができます。これにより、「誰が行っても同じ結果が得られる」という科学的な普遍性を示唆する効果が生まれます。
7.4. 行為の主体(動作主)の意図的な隠蔽・責任回避
受動態は、行為の主体を曖昧にする機能を持つため、責任の所在を意図的に隠蔽する目的で使われることがあります。
- 能動態: We made a mistake. (我々はミスを犯した。) → 責任の主体が明確。
- 受動態: Mistakes were made. (ミスが犯された。)
- 分析: 政治家や組織の公式発表などで頻繁に見られる表現です。
by us
を省略することで、誰がミスを犯したのかという最も重要な情報が隠蔽され、責任を回避しようとする意図がうかがえます。
受動態の文を読む際には、単に「〜された」と訳すだけでなく、「なぜここでは能動態ではなく受動態が使われているのか?」「省略された by ...
に入るのは誰か、そしてそれはなぜ省略されているのか?」と問う批判的な視点を持つことが、書き手の真の意図を分析する上で不可欠です。
8. [分析] by …以下が省略されている場合の、動作主の推測
受動態の文では、行為の主体を示す by ...
の部分が省略されることが非常に多くあります。この省略はランダムに行われるのではなく、特定の論理的な理由に基づいており、省略された行為者を文脈から正確に推測する能力は、受動態を深く理解するために不可欠です。
8.1. 省略される論理的な理由
by ...
が省略されるのは、主に以下の4つのケースです。
- 行為者が不明 (Unknown)
- 例文: My car was stolen last night. (昨夜、私の車が盗まれた。)
- 分析: 誰が盗んだのか(犯人)がわからないため、
by someone
を付け加えることは無意味であり、省略するのが自然です。
- 行為者が自明または一般的 (Obvious or General)
- 例文: English is spoken in many countries. (英語は多くの国で話されている。)
- 分析: 英語を話すのが「人々 (people)」であることは言うまでもなく自明です。
by people
を付け加えることは冗長であるため、省略されます。 - 例文: He was arrested for theft. (彼は窃盗で逮捕された。)
- 分析: 逮捕するのが「警察 (the police)」であることは社会的な常識から自明なので、
by the police
は通常省略されます。
- 行為者が重要でない (Unimportant)
- 例文: This skyscraper was built in 2010. (この超高層ビルは2010年に建設された。)
- 分析: この文の焦点は「いつ建設されたか」という事実にあり、個々の建設作業員が誰であったかは、文脈上、重要ではありません。筆者が読者の注意を重要な情報(年号)に集中させたい場合、重要でない行為者は省略されます。
- 客観性の強調・行為者の意図的隠蔽 (Objectivity / Intentional Obfuscation)
- 例文: The experiment was conducted under strict conditions. (その実験は厳格な条件下で実施された。)
- 分析: 科学的な記述では、行為の主体(研究者)を消し、プロセスそのものを客観的に見せるために、
by us
やby the researchers
が意図的に省略されます。 - 例文: It has been decided that the factory will be closed. (その工場が閉鎖されることが決定された。)
- 分析: 誰が決定したのか(経営陣か、政府か)という責任の所在を曖昧にするために、行為者が意図的に省略されることがあります。
8.2. 省略された行為者を推測するプロセス
- 文脈を確認する: まず、その文がどのような種類の文章(ニュース、科学論文、物語など)の一部であるかを確認します。
- 動詞の意味を考える: 動詞が示す行為(
arrest
,speak
,build
など)を、通常誰が行うものかを考えます。 - 論理的な可能性を検討する: 上記の省略理由のいずれに該当するかを検討します。
- 「誰が」という情報が本当に不明なのか?
- 「誰が」という情報は、常識的に考えて明らかか?
- 「誰が」という情報は、この文脈で重要か?
- 筆者には、「誰が」という情報を隠したい、あるいは客観的に見せたいという意図があるか?
この推測プロセスを通じて、読者は単に文の表面的な意味を理解するだけでなく、書き手が情報をどのように取捨選択し、提示しているのかという、より深いレベルでコミュニケーションの意図を読み解くことができます。
9. [分析] getを用いた受動態の、口語的なニュアンスの読解
標準的な受動態が be動詞 + 過去分詞
で形成されるのに対し、特に口語では be
動詞の代わりに get
を用いた get + 過去分詞
の形の受動態(get
受動態)が頻繁に使われます。get
受動態は、be
受動態とは異なる特定のニュアンスを持ち、その意味合いを正確に解釈することは、インフォーマルなコミュニケーションを理解する上で重要です。
9.1. get
受動態の核心的な意味
get
は本来「(努力して)得る」「〜の状態になる」という、変化や達成のプロセスを含意する動詞です。この核心的な意味が受動態にも反映されます。be
受動態が単に「〜される」という状態を示すのに対し、get
受動態は「〜されるという変化が起こる」「〜されるという事態になる」という、動作や変化のプロセスに焦点を当てます。
9.2. get
受動態が示す特有のニュアンス
9.2.1. 突然・偶発的な出来事
get
受動態は、予期せぬ、突然の出来事が主語に降りかかった、というニュアンスを表現するためによく用いられます。特に、被害や損害を伴うネガティブな出来事の描写で多用されます。
be
受動態: He was injured in the accident. (彼は事故で怪我をした。) → 客観的な事実の報告。get
受動態: He got injured in the accident. (彼は事故で怪我をしてしまった。) → 事故が突然起こり、彼が怪我をするという変化が生じた、というプロセスをより動的に表現する。- その他の例:
- My wallet got stolen. (財布が盗まれてしまった。)
- She got caught in the rain. (彼女は雨に降られてしまった。)
- He got fired from his job. (彼は仕事をクビになった。)
9.2.2. 主語の責任・関与の示唆
get
受動態は、主語がその出来事に何らかの形で責任があったり、関与していたりするニュアンスを帯びることがあります。
be
受動態: The window was broken. (窓が割られていた。) → 誰が割ったかは不明。窓の状態を客観的に述べている。get
受動態: He got the window broken. (彼は窓を割られてしまった。) → 彼が不注意だった、あるいは彼が原因で窓が割られる事態を招いた、というニュアンスを含みうる。
9.2.3. 困難を乗り越えての達成
ポジティブな文脈では、「(困難を乗り越えて)〜してもらう」「なんとか〜される」という、努力や達成のニュアンスを表すことがあります。
be
受動態: She was invited to the party. (彼女はパーティーに招待された。)get
受動態: She finally got invited to the party. (彼女はついにパーティーに招待された。) → 彼女が招待されることを望んでいた、あるいは招待されるまでに何らかの経緯があったことを示唆する。- その他の例:
- He got elected president. (彼は大統領に選出された。)
- The work got done in the end. (その仕事は最終的になんとか終わった。)
get
受動態は、be
受動態よりもダイナミックで主観的、そして口語的な表現です。その文に遭遇した場合、単に「〜された」と訳すだけでなく、そこに込められた「変化のプロセス」「偶発性」「主語の関与」といった微妙なニュアンスを読み取ることが、話し手の意図をより正確に理解する鍵となります。
10. [分析] 態の転換によって、文の主題がどのように変化するかを理解する
能動態と受動態の間の態の転換は、単なる文法的な操作ではなく、文が伝える情報の構造を根本的に変化させる行為です。特に、文の主題(Topic)、すなわち「その文が何についての文であるか」は、態の選択によって大きく左右されます。この主題の変化を理解することは、書き手が読者の注意をどこに誘導しようとしているのかを分析する上で不可欠です。
10.1. 主語 = 文の主題(トピック)
英語では、特別な強調構文などを除き、文の主語がその文の**主題(トピック)**となるのが原則です。文の冒頭に置かれる主語は、読者が最初に目にする情報であり、その文がこれから何について述べるのかを示す出発点としての役割を果たします。
10.2. 能動態における主題
能動態の構造は S (行為者) + V + O (被行為者)
です。したがって、能動態では、行為者が文の主題となります。
- 能動態の文: A powerful earthquake hit the city. (強力な地震がその都市を襲った。)
- 分析:
- 主語: A powerful earthquake
- 主題: 地震についての文。
- 情報の流れ: 文は「地震」というトピックから始まり、それが「都市を襲った」という情報を展開します。読者の関心は、まず第一に「地震」に向けられます。
10.3. 受動態における主題
受動態の構造は S (被行為者) + be V-ed + by (行為者)
です。したがって、受動態では、**被行為者(行為の受け手)**が文の主題となります。
- 受動態の文: The city was hit by a powerful earthquake. (その都市は強力な地震に見舞われた。)
- 分析:
- 主語: The city
- 主題: 都市についての文。
- 情報の流れ: 文は「都市」というトピックから始まり、それが「地震に見舞われた」という情報を展開します。読者の関心は、まず第一に「都市」に向けられます。
10.4. 態の転換による主題シフトの分析
能動態 | 受動態 | |
文 | Columbus discovered America in 1492. | America was discovered by Columbus in 1492. |
主語 | Columbus | America |
主題(トピック) | コロンブスについて | アメリカについて |
焦点 | コロンブスが何をしたか | アメリカに何が起こったか |
同じ客観的な事実(コロンブスが1492年にアメリカを発見した)を述べていても、能動態を選択した文は「コロンブスの伝記」の一節として自然であり、受動態を選択した文は「アメリカの歴史」の一節として自然です。
このように、態の転換は、文の主題を行為者から被行為者へと意図的にシフトさせる効果を持ちます。文章を読む際に、筆者がなぜ特定の主題を主語として選択したのかを分析することで、「このパラグラフの中心的な話題は何か」「筆者はこの出来事を誰の視点から語ろうとしているのか」といった、文章全体の構成や意図をより深く理解することができます。
11. [分析] 行為の受け手の視点を、強調するための受動態の機能
受動態の最も重要な修辞的機能の一つは、行為の受け手(被行為者)の視点を際立たせ、その存在や経験を強調することです。能動態が行為者の視点から出来事を語るのに対し、受動態は、いわばカメラの向きを180度転換し、出来事の影響を受けた側に焦点を当てて物語を再構成します。
11.1. 被害者や受益者の視点の強調
出来事によって影響を受けるのが人間である場合、受動態はその人物の経験を情報の中心に据えます。
- 能動態: The speeding car hit the boy. (猛スピードの車がその少年をはねた。)
- 分析: 焦点は「車」の行動にあります。文の主題は車です。
- 受動態: The boy was hit by the speeding car. (その少年は猛スピードの車にはねられた。)
- 分析: 焦点は「少年」が経験した出来事に移ります。文の主題は少年であり、彼の被害者としての立場が強調されます。ニュース報道などで、被害者の状況を伝える際にこの形式が多用されます。
同様に、何かを与えられた受益者の視点を強調する際にも、第四文型の受動態が有効です。
- 能動態: The committee awarded her the prize. (委員会は彼女にその賞を授与した。)
- 受動態: She was awarded the prize by the committee. (彼女はその賞を委員会から授与された。)
- 分析: 彼女の受賞という事実が文の主題となり、彼女の功績がより際立ちます。
11.2. 発見物や創造物の価値の強調
科学的な発見や芸術作品の創造について語られる際、受動態は、行為者(科学者や芸術家)よりも、発見されたものや創造されたもの自体の価値や重要性を強調する機能を持っています。
- 能動態: Marie Curie discovered radium in 1898. (マリー・キュリーは1898年にラジウムを発見した。)
- 分析: 焦点はキュリー夫人の業績にあります。
- 受動態: Radium was discovered in 1898 by Marie Curie. (ラジウムは1898年にマリー・キュリーによって発見された。)
- 分析: 焦点は「ラジウム」という物質そのものに移ります。科学史の文脈で、ラジウムの発見という出来事の重要性を述べたい場合に、この表現がより適していることがあります。
11.3. 読者の共感の誘導
行為の受け手を主語に据えることで、読者はその主語の立場に感情移入しやすくなります。書き手は、読者の共感や同情を特定の対象に誘導するために、戦略的に受動態を選択することがあります。
- 能動態: The storm destroyed many houses. (嵐が多くの家を破壊した。)
- 受動態: Many houses were destroyed by the storm. (多くの家が嵐によって破壊された。)
- 分析: 受動態の文は、家を失った人々の視点を示唆し、被害の大きさをより人間的なレベルで感じさせます。
受動態を分析する際には、単に文の構造を理解するだけでなく、「この文は、誰の視点から出来事を語っているのか」「その視点を選択することで、筆者はどのような感情的・修辞的効果を狙っているのか」という問いを立てることが、文章の深層的な意図を読み解く鍵となります。
12. [構築] 自分が最も強調したい情報が主語になるよう、能動態と受動態を戦略的に使い分ける
文を構築する際、能動態と受動態のどちらを選択するかは、書き手がどの情報を文の主題(トピック)として最も強調したいかという戦略的な判断に基づきます。英語では文の主語が主題となるため、最も伝えたい、あるいは焦点を当てたい要素を主語の位置に配置するように、態を使い分ける必要があります。
12.1. 行為者(誰が)を強調する場合 → 能動態
出来事を引き起こした行為者や原因を文の中心に据えたい場合は、能動態を選択します。
- 意図: エジソンが電球を発明した、という事実を伝えたい。焦点は「エジソン」。
- 構築: Thomas Edison invented the light bulb.
- 意図: 新しいソフトウェアが、私たちの作業効率を改善することを伝えたい。焦点は「新しいソフトウェア」。
- 構築: The new software improves our work efficiency.
12.2. 被行為者(何が)を強調する場合 → 受動態
行為の対象となったものや、出来事の影響を受けた側を文の中心に据えたい場合は、受動態を選択します。
- 意図: 電球がエジソンによって発明された、という事実を伝えたい。焦点は「電球」。
- 構築: The light bulb was invented by Thomas Edison.
- 意図: 私たちの作業効率が、新しいソフトウェアによって改善されることを伝えたい。焦点は「私たちの作業効率」。
- 構築: Our work efficiency is improved by the new software.
12.3. 戦略的な使い分けの例
シナリオ1: 会社の業績報告
- 意図: 我々のチームが目標を達成したことを強調したい。(行為者中心)
- 態の選択: 能動態
- 構築: Our team achieved the sales target for this quarter.
シナリオ2: 製品の歴史に関する説明
- 意図: その製品がいつ、どこで発明されたかを説明したい。(製品中心)
- 態の選択: 受動態
- 構築: This product was first developed in our German laboratory in the 1980s.
シナリオ3: 事故のニュース報道
- 意図: 事故の被害者の状況を第一に伝えたい。(被害者中心)
- 態の選択: 受動態
- 構築: Three people were seriously injured in the accident.
文を作成する前に、まず「この文で最も重要な役者は誰か(何か)?」と自問する習慣が重要です。その答えが「行為者」であれば能動態を、「被行為者」であれば受動態を基本の構造として選択することで、情報の焦点が明確な、意図通りのメッセージを構築することができます。
13. [構築] 客観的な事実や、科学的なプロセスを記述する際の、受動態の適切な使用
科学論文、実験レポート、技術マニュアル、ニュース記事といった、客観性と非人称性が重視される文体では、受動態が極めて重要な役割を果たします。個人的な視点や主観を排し、事実やプロセスそのものに焦点を当てるために、受動態を意図的に用いて文を構築します。
13.1. 客観的な事実の報告
行為者が誰であるかよりも、何が起こったか、何が発見されたかという事実そのものが重要な場合、受動態を用います。
- 主観的な表現 (能動態): I observed that the temperature increased. (私は温度が上昇するのを観察した。)
- 客観的な構築 (受動態): It was observed that the temperature increased. (温度が上昇するのが観察された。)
- 分析:
I
という主観的な観察者を消し、観察された事実そのものを主題とすることで、客観性が高まります。
- 分析:
- その他の構築例:
- A new species of insect has been discovered in the rainforest. (熱帯雨林で新種の昆虫が発見された。)
- The law was passed by the parliament last month. (その法律は先月、議会で可決された。)
13.2. 科学的なプロセスの記述
実験や研究の方法 (Methods) を記述する際、そのプロセスが個人的な行為ではなく、誰が実施しても再現可能な客観的な手順であることを示すために、受動態が標準的に用いられます。
- 主観的な表現 (能動態): First, I mixed solution A and solution B. Then, I heated the mixture to 50°C. (まず、私は溶液Aと溶液Bを混ぜた。次に、私はその混合物を50℃に加熱した。)
- 客観的な構築 (受動態): First, solution A and solution B were mixed. The mixture was then heated to 50°C. (まず、溶液Aと溶液Bが混合された。その混合物は次に50℃に加熱された。)
- 分析: 行為者である
I
(私) を主語から排除することで、実験手順そのものに焦点が当たり、記述の客観性と科学的な厳密性が向上します。
- 分析: 行為者である
13.3. 構築のガイドライン
客観的な文章を構築する際には、以下の点を意識して受動態を活用します。
- 行為者よりも行為や対象を優先する: 「誰が」行ったかよりも、「何が」なされたか、「何に」変化が起こったかを文の主題とします。
- 非人称主語を用いる:
It is said that...
(〜と言われている),It is believed that...
(〜と信じられている) といった構文は、一般的な見解や通説を、特定の個人の意見としてではなく、客観的な情報として提示する際に有効です。 - 一貫性を保つ: レポートの「方法」セクションなど、特定のセクションでは、文体の一貫性を保つために、受動態で統一して記述することが望ましいです。
受動態を適切に使いこなすことは、単に文法的に正しいだけでなく、フォーマルで客観性が求められる文脈において、信頼性と説得力のある文章を構築するための必須のスキルです。
14. [構築] 行為の主体よりも、行為そのものや、その対象を強調したい場合の受動態
コミュニケーションにおいて、常に行為の主体(誰がやったか)が最も重要な情報であるとは限りません。文脈によっては、行為そのものや、その行為が向けられた対象の方が、はるかに重要な場合があります。このような状況で、受動態は情報の焦点を意図通りに設定するための効果的なツールとなります。
14.1. 行為の対象を主題として際立たせる
文の主題にしたい要素を行為の対象(被行為者)に設定し、それを主語に置くことで、その重要性を強調します。
- シナリオ: レオナルド・ダ・ヴィンチの最も有名な作品について語りたい。
- 能動態: Leonardo da Vinci painted the Mona Lisa. (レオナルド・ダ・ヴィンチがモナ・リザを描いた。)
- 分析: この文の主題は「レオナルド・ダ・ヴィンチ」。彼の多くの業績の一つとして語る文脈では自然。
- 受動態による構築: The Mona Lisa was painted by Leonardo da Vinci. (モナ・リザはレオナルド・ダ・ヴィンチによって描かれた。)
- 分析: この文の主題は「モナ・リザ」。作品そのものに焦点を当て、その作者を補足情報として提示する構成。美術史の文脈で、作品を中心に論じる際に非常に効果的。
14.2. 行為の主体が不明・自明・無関係な場合
行為の主体に関する情報が、コミュニケーション上、価値が低い、あるいは不要な場合には、受動態を用いてその情報を背景に退かせるか、完全に省略します。
- 行為の主体が不明:
- 意図: 財布が盗まれたという事実を伝えたい。犯人は不明。
- 構築: My wallet was stolen on the train. (電車で財布が盗まれた。)
- 行為の主体が自明:
- 意図: 新大統領が選出されたというニュースを伝えたい。選んだのが有権者であることは明らか。
- 構築: A new president has been elected. (新しい大統領が選出された。)
- 行為の主体が無関係:
- 意図: この製品がどこで製造されているかを伝えたい。個々の工員の名前は無関係。
- 構築: This product is made in Japan. (この製品は日本で作られています。)
14.3. 文の流れを自然にする
前の文で言及された要素を次の文の主語にすることで、文と文の繋がりがスムーズになります。受動態は、この情報の流れを制御するためにも用いられます。
- 不自然な流れ: The company launched a new product last month. Many customers bought it. (能動態 + 能動態)
- 自然な流れの構築: The company launched a new product last month. It was bought by many customers.(能動態 + 受動態)
- 分析: 2番目の文では、前の文の目的語である
a new product
を指すIt
を主語にしています。これにより、「新製品」というトピックが一貫して維持され、情報の流れがより論理的で自然になります。
- 分析: 2番目の文では、前の文の目的語である
このように、受動態は単に能動態の裏返しではありません。文の主題を何に設定するか、どの情報を強調し、どの情報を省略するかという、書き手の積極的な意図を反映した、戦略的な構文なのです。
15. [構築] 第四文型・第五文型の、正確な受動態の構築
第四文型 (SVOO) と第五文型 (SVOC) は、構造が複雑なため、受動態に変換する際には、それぞれの文型が持つ論理的な関係性を正確に維持しながら、構造規則に従って文を構築する必要があります。
15.1. 第四文型 (SVOO) 受動態の構築
第四文型は目的語を二つ持つため、二通りの受動態を構築できます。どちらの目的語を主題としたいかによって、選択します。
- 能動態: My friend sent me an email. (私の友人が私にEメールを送った。)
パターン1: 間接目的語(人)を主語にする
- 意図: 「私」が受け取ったという事実を主題にしたい。
- プロセス:
- 間接目的語
me
を主語I
にする。 - 動詞
sent
をwas sent
にする。 - 直接目的語
an email
はそのまま後ろに置く。 - 能動態の主語
My friend
をby my friend
として文末に置く。
- 間接目的語
- 構築: I was sent an email by my friend. (私は友人からEメールを送られた。)
パターン2: 直接目的語(物)を主語にする
- 意図: 「Eメール」が送られたという事実を主題にしたい。
- プロセス:
- 直接目的語
an email
を主語にする。 - 動詞
sent
をwas sent
にする。 - 間接目的語
me
の前に、適切な前置詞 (to
またはfor
) を補う。send
の場合はto
。 - 能動態の主語
My friend
をby my friend
として文末に置く。
- 直接目的語
- 構築: An email was sent to me by my friend. (一通のEメールが友人によって私に送られた。)
15.2. 第五文型 (SVOC) 受動態の構築
第五文型では、目的語 (O) と補語 (C) の間の O=C
という関係を維持することが重要です。目的語のみが主語になり、補語はそのままの位置に残ります。
- 能動態: They call the dog Hachi. (彼らはその犬をハチと呼ぶ。)
- 意図: 「その犬」がどのように呼ばれているかを主題にしたい。
- プロセス:
- 目的語
the dog
を主語にする。 - 動詞
call
をis called
にする。 - 補語
Hachi
はそのまま後ろに置く。 - 能動態の主語
They
は一般的・不明確な人々を指すため、by them
は通常省略する。
- 目的語
- 構築: The dog is called Hachi. (その犬はハチと呼ばれている。)
- 分析: 受動態の文の中でも
The dog = Hachi
という論理関係は保持されています。
- 分析: 受動態の文の中でも
使役・知覚動詞の場合の注意点
補語が原形不定詞の場合は、to
不定詞に変化させる規則を適用します。
- 能動態: I saw him enter the room.
- 構築: He was seen to enter the room.
これらの複雑な文型の受動態を正確に構築する能力は、元の文の論理構造(誰に何を、何をどうする)を正確に分析し、それを維持したまま焦点だけを移動させる、高度な文法運用能力の証です。
16. [構築] 能動態ばかりの単調な文章を避けるための、受動態の活用
文章を作成する際、特に初心者は、思考の流れに沿って自然な能動態の文 (S+V+O
) を連続して使いがちです。しかし、能動態の文ばかりが続くと、文章は単調で、リズム感に欠けるものになってしまいます。受動態を効果的に文章に織り交ぜることは、**文体(Style)**に変化を与え、より洗練され、読みやすい文章を構築するための重要な技術です。
16.1. 単調さの原因:主語の固定化
能動態ばかりの文章が単調になる主な原因は、文の主語が特定の行為者に固定化されやすい点にあります。
- 単調な例:
- I went to the museum yesterday. I saw many famous paintings. I took a lot of pictures. I felt very inspired.
- 分析: 全ての文が
I
を主語とする能動態で始まっており、単調な印象を与えます。
16.2. 受動態による主語の多様化
受動態を用いることで、文の主語を行為者以外(行為の対象など)に設定でき、主語が多様化することで文章のリズムが改善されます。
- 改善例:
- I went to the museum yesterday. Many famous paintings were exhibited there. I was particularly impressed by a portrait of the 17th century. It was painted by a Dutch artist. I felt very inspired.
- 分析: 受動態 (
were exhibited
,was painted
) を挿入することで、文の主語がI
だけでなくMany famous paintings
やIt
にもなり、文章全体の構造に変化が生まれています。
16.3. 構築の戦略
- 文の焦点を意識する: 各文で最も伝えたい情報は何かを考えます。常に行為者が中心であるとは限りません。時には、行為の対象や、作られた物、発見された事実に焦点を当てることで、より効果的な表現になります。
- 文と文の繋がりを滑らかにする: 前の文の目的語を次の文の主語にしたい場合、受動態が有効なツールとなります([構築]17で詳述)。
- 客観的な視点を導入する: 個人的な経験を語る中でも、客観的な事実(例:その建物がいつ建てられたか)を説明する部分では、受動態を用いることで、視点の切り替えが明確になり、文章に深みが出ます。
16.4. 注意点:乱用の回避
受動態は有効なツールですが、不必要に多用すると、文章が回りくどく、活気に欠ける印象を与える可能性もあります。特に、行為者が明確で重要であるにもかかわらず、あえて受動態にする必要はありません。
- 不自然な例: A good time was had by me. (より自然なのは I had a good time.)
能動態を基本としつつ、文章のリズム、焦点、客観性を調整するための戦略的な選択肢として、受動態を効果的に活用することが、成熟した書き手への道です。
17. [構築] 文の流れをスムーズにするための、態の選択
個々の文が文法的に正しくても、それらが集まってできたパラグラフが、論理的に滑らかで読みやすいとは限りません。文と文の間の**繋がり(Cohesion)**は、文章の質を決定する重要な要素です。態(能動態・受動態)の選択は、この文と文の繋がりをスムーズにする上で、戦略的な役割を果たします。
17.1. 「旧情報 → 新情報」の原則
読みやすい文章の流れの基本原則は、「旧情報 (Old Information)」から「新情報 (New Information)」へと展開することです。
- 旧情報: すでに文脈に登場している、あるいは読者が知っている情報。
- 新情報: その文で新たに導入される情報。
英語では、文の主語(文頭)に旧情報を置き、文の述部(文末)に新情報を置くことで、この原則が実現され、自然な情報の流れが生まれます。
17.2. 受動態による情報の流れの制御
ある文で提示された新情報(目的語など)を、次の文で旧情報(主語)として受け、さらに新しい情報を展開したい場合、受動態が非常に有効なツールとなります。
- シナリオ: ある科学者が画期的な理論を発表し、その理論が後に多くの議論を呼んだ、という流れを構築したい。
- 不自然な流れ (能動態のみ):
- (文1) In 1905, Einstein published a groundbreaking theory.
- (文2) Many scientists around the world later discussed the theory.
- 分析: 文2は、文1の新情報である
a groundbreaking theory
をthe theory
として受けていますが、それが文の最後(目的語の位置)に置かれています。情報の流れが旧(Einstein)→新(theory)
、旧(scientists)→新(theory)
となり、少しぎこちない印象を与えます。
- スムーズな流れ (受動態を活用):
- (文1) In 1905, Einstein published a groundbreaking theory.
- (文2) The theory was later discussed by many scientists around the world.
- 分析: 文2では、文1の新情報であった
a groundbreaking theory
を、旧情報として主語の位置に置いています。これにより、theory
というトピックが一貫し、情報の流れが旧(Einstein)→新(theory)
、旧(The theory)→新(was discussed by scientists)
となり、非常に滑らかで論理的な繋がりが生まれます。
17.3. 構築のプロセス
- まず、伝えたい一連の情報を、いくつかの基本的な文に分解します。
- 文と文の間の情報の繋がりを考えます。「前の文のどの要素を、次の文の出発点としたいか」を決定します。
- 決定した出発点(旧情報)を、次の文の主語に設定します。
- その主語が、次の文の動詞の「行為者」であれば能動態を、「被行為者」であれば受動態を選択します。
このプロセスを意識することで、単に文を並べるのではなく、各文が前の文から情報を受け取り、次の文へと情報を手渡す、有機的で論理的なパラグラフを構築することができます。
18. [構築] レポートや論文における、適切な文体の構築
学術的なレポートや論文を作成する際には、個人的な感想や物語とは異なる、客観的 (objective)、非人称的 (impersonal)、そしてフォーマル (formal) な文体が求められます。受動態は、このようなアカデミックな文体を構築するための、中心的な文法要素の一つです。
18.1. 客観性と非人称性の確保
学術的な記述の目的は、個人的な経験を語ることではなく、客観的な事実や、誰が実施しても再現可能なプロセスを報告することです。そのため、行為者である「私 (I)」や「我々 (we)」を主語にすることを避け、行為の対象やプロセスそのものを主語にする受動態が好まれます。
- 避けるべき主観的な表現 (能動態):
- In this study, I interviewed thirty participants.
- We analyzed the data using SPSS.
- 推奨される客観的な構築 (受動態):
- In this study, thirty participants were interviewed. (本研究では、30名の参加者にインタビューが行われた。)
- The data was analyzed using SPSS. (データはSPSSを用いて分析された。)
18.2. 事実と意見の明確な分離
レポートや論文は、「事実の報告(結果など)」と「筆者の解釈や意見(考察など)」から構成されます。受動態は主に事実の報告部分で用いられ、筆者の意見を表明する際には、能動態 (I argue that...
, We suggest that...
) が用いられることもあります。この使い分けにより、客観的な事実と主観的な解釈が明確に分離されます。
- 事実報告(結果): A significant correlation was found between variable A and variable B. (変数Aと変数Bの間に有意な相関が見出された。)
- 解釈・意見(考察): Based on this result, we argue that variable A directly influences variable B. (この結果に基づき、我々は変数Aが変数Bに直接影響を与えると主張する。)
18.3. アカデミックライティングにおける構築ガイドライン
- 「方法 (Methods)」セクション: 実施した手順を記述するこのセクションでは、プロセスに焦点を当てるため、受動態を基調とします。
- Samples were collected…, The specimens were observed…, The results were recorded…
- 「結果 (Results)」セクション: 発見されたデータを客観的に報告するため、受動態が頻繁に用いられます。
- No significant differences were detected. (有意差は検出されなかった。)
- 行為者の明確化が必要な場合: 自身の研究の独自性や、特定の操作を強調したい場合には、あえて能動態 (
We developed a new method...
) を用いることも効果的です。 - 既存研究の引用: 先行研究を引用する際にも、その研究内容に焦点を当てるため、受動態がよく使われます。
- It has been suggested by Smith (2020) that… (Smith (2020) によって〜が示唆されている。)
レポートや論文において受動態を適切に活用することは、単なる文法上の正しさの問題ではなく、その文章を学術的なコミュニティの作法に則った、信頼性と客観性の高いものとして位置づけるための、重要な作法なのです。
19. [展開] 科学・技術系英文で多用される受動態表現の機能と効果の理解
科学論文や技術マニュアルなどの専門的な文章において、受動態が突出して多く用いられるのには、明確な論理的・修辞的な理由があります。これらの文章における受動態の機能と効果を理解することは、専門的なテクストを正確に読解し、また自ら記述するための鍵となります。
19.1. 機能1:非人称化による客観性の担保
科学・技術の分野では、報告される事実やプロセスが、特定の個人(実験者)の主観や技量に依存するものではなく、普遍的で再現可能なものであることが絶対的な前提となります。受動態は、行為者である研究者を文の主語から排除することで、この非人称性 (impersonality) を実現し、記述の客観性 (objectivity) を担保します。
- 能動態: We observed the cells under a microscope. (我々は細胞を顕微鏡で観察した。)
- →「我々」という特定の主体が行った一回限りの行為、という印象を与える。
- 受動態: The cells were observed under a microscope. (細胞は顕微鏡下で観察された。)
- → 細胞が観察されたという事実そのものに焦点が当たる。誰が観察しても同じように観察されるべき、という科学的な手続きとしてのニュアンスが生まれる。
19.2. 機能2:プロセスと対象への焦点化
科学・技術的な記述の関心は、「誰がやったか」ではなく、「何が」「どのように」行われ、「その結果どうなったか」という点にあります。受動態は、文の主題を実験の対象物、材料、あるいはプロセスそのものに設定することを可能にします。
- 例文: The sample was dissolved in distilled water and then heated to 80°C. The resulting solution was analyzed using chromatography.
- 分析: この一連の文の主語は
The sample
やThe resulting solution
であり、一貫して実験対象物に焦点が当てられています。これにより、読者は実験プロセスそのものの流れを、迷うことなく論理的に追跡することができます。
19.3. 効果:権威と信頼性の構築
非人称的で客観的な受動態の文体は、その記述が個人的な意見や感想ではなく、科学的な手続きに則った信頼できる事実であるという印象を読者に与えます。この文体自体が、科学コミュニティにおける権威 (authority) と信頼性 (credibility) を構築する修辞的な効果を持っています。
19.4. 読解への応用
科学・技術系の文章を読む際には、受動態で書かれた一連の文は、筆者が客観的な事実あるいは標準的な手順として提示している部分であると認識することが重要です。これにより、後に出てくるかもしれない筆者の解釈や考察(能動態で We propose that...
のように書かれることがある)と、客観的な事実報告とを明確に区別して読むことができます。
20. [展開] ニュース記事や公式発表における、客観性を高めるための受動態の使用
ニュース記事や、政府・企業による公式発表といった、公共性の高い情報を伝達する文章においても、受動態は客観性と信頼性を高めるための重要な修辞的ツールとして戦略的に用いられます。
20.1. 客観的な事実報道の演出
ニュース報道の基本的な原則は、記者の主観を排し、事実を客観的に伝えることです。受動態は、行為の主体を文の表面から消すことで、この客観的なトーンを演出するのに役立ちます。
- 能動態: The police arrested the suspect. (警察が容疑者を逮捕した。)
- 受動態: The suspect was arrested. (容疑者が逮捕された。)
- 分析: 見出しなどで頻繁に用いられる受動態の表現は、焦点を行為者(警察)ではなく、出来事の中心(容疑者)に当てると同時に、
by the police
という自明の情報を省略することで、簡潔かつ客観的な事実報告という体裁を整えています。
20.2. 情報の焦点の制御
ニュース記事では、最も重要で関心を引く情報を文頭に置くことが求められます。受動態は、出来事の被害者や影響を受けた側を主語に据えることで、読者の関心を喚起する効果があります。
- 能動態: The fire destroyed three buildings. (その火事が3棟の建物を破壊した。)
- 受動態: Three buildings were destroyed by the fire. (3棟の建物がその火事によって破壊された。)
- 分析: 後者の文は、被害の規模 (
Three buildings
) を最初に提示することで、出来事のインパクトをより直接的に伝えます。
20.3. 権威と公式性の付与
政府や企業による公式発表では、その決定が特定の個人の判断ではなく、組織としての公式な決定であることを示すために、受動態が用いられます。
- 能動態: The CEO has decided to close the factory. (CEOが工場の閉鎖を決定した。) → 個人の決定という印象。
- 受動態: It has been decided that the factory will be closed. (工場の閉鎖が決定されました。)
- 分析: 行為の主体を非人称的な
It
に置き換えることで、その決定が組織全体の総意であるかのような、権威と公式性を帯びた響きになります。
20.4. 責任の所在の曖昧化(批判的読解の視点)
前述の通り、この客観性や公式性の演出は、時として責任の所在を意図的に曖昧にするという、ネガティブな機能を持つことがあります。
- 例文: Mistakes were made during the process. (その過程でミスが犯された。)
- 分析: 誰がミスを犯したのかが明確にされず、組織としての責任を回避しようとする意図が見られます。
ニュース記事や公式発表を読む際には、受動態が客観性を高める正当な目的で使われているのか、それとも責任を曖昧にするための修辞的な操作として使われているのかを、批判的に分析する視点が求められます。
21. [展開] 実験や調査のプロセスを、時系列に沿って正確に追跡する
科学論文の「方法(Methods)」セクションや、調査レポートの「手順(Procedures)」セクションは、行われた実験や調査のプロセスを、他の研究者が追試(再現)できるように、正確かつ時系列に沿って記述する必要があります。この種の文章を読解する際には、受動態と時系列マーカーを手がかりに、一連のステップを正確に追跡することが目的となります。
21.1. プロセス記述の典型的な構造
プロセスの記述は、通常、以下の特徴を持っています。
- 基調となる態: 受動態。実験の客観性を保つため、行為者(研究者)は主語にされず、実験対象や物質が主語となります。
- 基調となる時制: 過去形。実際に行われた、完結した手順を報告するためです。
- 論理展開: 厳密な時系列順。手順が実行された順番に記述されます。
- 時系列マーカー: ステップ間の移行を明確にするため、
First
,Next
,Then
,Finally
などのマーカーが頻繁に使用されます。
21.2. 読解プロセスと分析例
- テキスト例(化学実験の記述):
- First, 5 grams of sodium chloride was dissolved in 100 mL of distilled water. Next, the solution was heated to 60°C while being stirred constantly. After the solution had cooled to room temperature, it was filtered to remove any impurities. Finally, the purified solution was stored in a sealed container for further analysis.
- 追跡・分析のステップ:
- 各ステップの主語と動詞を特定する: 主語はすべて実験対象(
sodium chloride
,the solution
など)、動詞はすべて受動態の過去形(was dissolved
,was heated
など)になっていることを確認します。 - 時系列マーカーを識別する:
First
,Next
,After...
,Finally
というマーカーが、手順の順序を明確に示しています。 - 各ステップの操作をリスト化する: 情報を時系列に沿って再構成します。
- ステップ1: 塩化ナトリウム (5g) が蒸留水 (100mL) に溶解させられた。
- ステップ2: その溶液が、絶えず撹拌されながら60℃に加熱された。
- ステップ3: 溶液が室温まで冷えた後、不純物を除くためにろ過された。(ここでは
had cooled
という過去完了形が、「ろ過」の前に「冷える」というステップが完了したことを明確に示している) - ステップ4: 精製された溶液が、さらなる分析のために密閉容器に保管された。
- 各ステップの主語と動詞を特定する: 主語はすべて実験対象(
この分析プロセスを通じて、読者は研究者が行った一連の操作を、その順序通りに、そして正確に頭の中で再現することができます。これは、その研究の妥当性を評価し、その結果を正しく理解するための、最も基本的な読解作業です。
22. [展開] 客観的な事実の記述と、仮説・推論の区別
科学的・論理的な文章は、客観的な事実の記述と、それらの事実に基づく筆者の主観的な仮説や推論という、二つの異なるレベルの情報から成り立っています。この二つを正確に区別して読むことは、何が証明された事実で、何がまだ証明されていない筆者の解釈なのかを理解する上で、決定的に重要です。態の選択は、この区別を行うための有力な手がかりの一つです。
22.1. 客観的な事実の記述
実験の結果、観察されたデータ、確立された理論など、客観的に検証可能な事実を記述する部分では、筆者の主観を排した表現が好まれます。
- 典型的な表現:
- 受動態: プロセスや結果を非人称的に報告する。
- A significant difference was observed between the two groups. (2つのグループ間で有意差が観察された。)
- 助動詞を含まない現在形・過去形:
- The data shows a clear trend. (そのデータは明確な傾向を示している。)
- 受動態: プロセスや結果を非人称的に報告する。
22.2. 仮説・推論の記述
事実(データ)に基づいて、筆者がその意味を解釈したり、原因を推測したり、あるいは今後の可能性を予測したりする部分が、仮説や推論です。これらは筆者の主観的な知的作業であり、その非断定的な性質を示すために、特定の表現が用いられます。
- 典型的な表現:
- 推量の助動詞: 特に
may
,might
,could
が多用され、結論が断定的ではないことを示します。- This result may suggest that the drug is effective. (この結果は、その薬が有効であることを示唆しているのかもしれない。)
- One possible explanation could be… (考えられる一つの説明は〜かもしれない。)
- 能動態による主観の明示:
I/we
を主語とし、suggest
,propose
,argue
といった動詞を用いて、その主張が筆者自身の解釈であることを明確にします。- We propose a new model to explain this phenomenon. (我々はこの現象を説明するための新しいモデルを提案する。)
- 推量の助動詞: 特に
22.3. 分析の応用
- テキスト例: The experiment was repeated three times. In all cases, the same result was obtained: the reaction rate doubled when the temperature was increased by 10 degrees. This finding suggests that the reaction is temperature-dependent. We believe that this may be because higher temperatures increase the kinetic energy of the molecules.
- 分析:
- 事実の記述:
The experiment was repeated...
(受動態・過去形)the same result was obtained...
(受動態・過去形)the reaction rate doubled...
(能動態・過去形)the temperature was increased...
(受動態・過去形)- → ここまでは、実験手順とその結果という客観的な事実の報告。
- 仮説・推論の記述:
This finding suggests that...
(能動態・現在形、解釈の導入)We believe that...
(能動態・現在形、筆者の見解)this may be because...
(推量の助動詞、原因の推測)- → ここからは、その事実が何を意味するのかについての筆者の解釈。
- 事実の記述:
このように、態の選択や助動詞の有無に注目することで、読者は文章を「事実の層」と「解釈の層」に分離して読むことができます。これは、科学的な文章の論証構造を批判的に評価するための、基本的な読解スキルです。
23. [展開] 定義、分類、因果関係を重視する、論理的な文体
学術論文や専門的な説明文といった論理的な文体では、個人的な逸話や感情的な描写は避けられ、定義 (Definition)、分類 (Classification)、そして因果関係 (Causality) の三つの要素が、議論を構築するための中心的な骨格となります。受動態は、これらの論理的な関係性を客観的かつ明確に表現する上で、頻繁に用いられます。
23.1. 定義 (Definition)
専門用語や重要な概念の意味を明確に規定する際に、受動態がしばしば用いられます。これにより、定義が特定の個人の意見ではなく、その分野における普遍的な共通理解であるという客観的な響きが生まれます。
- 能動態: Biologists define “photosynthesis” as the process… (生物学者は「光合成」を〜のプロセスとして定義する。)
- 受動態による構築: Photosynthesis is defined as the process by which green plants use sunlight to synthesize foods. (光合成は、緑色植物が日光を用いて食物を合成するプロセスとして定義される。)
- 分析: 受動態を用いることで、定義される用語 (
Photosynthesis
) そのものが文の主題となり、定義内容に焦点が当たります。
23.2. 分類 (Classification)
ある事象や対象を、その特徴に基づいていくつかのカテゴリーに分ける際にも、客観的な記述のために受動態が有効です。
- 例文: Stars are generally classified into several types based on their spectral characteristics. (恒星は、そのスペクトルの特徴に基づいて、いくつかのタイプに一般的に分類される。)
- 分析: 「誰が」分類するか(天文学者たち)は自明であるため、分類される対象である
Stars
を主語にした受動態が、簡潔で客観的な表現となります。
23.3. 因果関係 (Causality)
ある事象が別の事象によって引き起こされる、という原因と結果の関係を記述する際、特に原因となる要素を強調したい場合に受動態が用いられます。
- 能動態: A sudden drop in temperature causes the phenomenon. (気温の急激な低下がその現象を引き起こす。)
- 受動態による構築: The phenomenon is caused by a sudden drop in temperature. (その現象は、気温の急激な低下によって引き起こされる。)
- 分析: 受動態にすることで、結果である
The phenomenon
を主題としつつ、by
以下でその原因を明確に提示することができます。be attributed to
(〜に起因するとされる),be triggered by
(〜によって引き起こされる) といった表現も同様の機能を持ちます。
これらの論理的な文体では、書き手の個人的な存在感を消し、概念や事象そのものの関係性に読者の注意を集中させることが目的とされます。受動態は、この目的を達成するための、極めて効果的な文法ツールなのです。
24. [展開] 研究の目的、仮説、結論の明確な把握
学術論文を読解する際の最終的な目標は、その研究が**「何を目的とし (Objective)」「何を予測し (Hypothesis)」「最終的に何を発見したのか (Conclusion)」**という、研究全体の論理的な核心を明確に把握することです。態の使われ方を含む文体の分析は、これらの核心部分を特定する上で役立ちます。
24.1. 研究の目的 (Objective)
研究の目的は、論文の序論(Introduction)の最後で述べられることが多く、この研究が「何を明らかにしようとしているのか」を示します。
- 典型的な表現: 能動態と受動態の両方が使われます。
- 能動態: In this paper, we aim to investigate the relationship between… (本稿では、我々は〜の間の関係を調査することを目的とする。)
- 受動態: The purpose of this study is to examine… (本研究の目的は〜を調査することである。) →
be to
不定詞が使われる。 - This study was designed to explore… (この研究は〜を探求するために計画された。)
- 読解のポイント:
aim
,purpose
,objective
,design
といったキーワードを探し、その研究が解決しようとしている問いを特定します。
24.2. 仮説 (Hypothesis)
仮説は、研究の目的となる問いに対する、研究者が実験前に立てた予測です。これも序論の終わりで提示されることが多いです。
- 典型的な表現: 仮説はまだ証明されていない予測であるため、客観的な受動態よりも、筆者の知的作業であることを示す能動態や、特定の表現が用いられます。
- We hypothesized that subjects in group A would show a faster reaction time than those in group B.(我々は、グループAの被験者はグループBの被験者よりも速い反応時間を示すであろうと仮説を立てた。)
- It was hypothesized that… (〜という仮説が立てられた。) → 受動態を用いて、より客観的に仮説を提示する場合もあります。
24.3. 結論 (Conclusion)
結論は、論文の最後(Conclusion / Discussion)で、研究結果が何を意味するのかを要約し、研究目的が達成されたかどうかを示す部分です。
- 典型的な表現:
- 研究結果の要約(過去形・受動態): The results showed that… (結果は〜を示した。), It was foundthat… (〜ということが見出された。)
- 結論の提示(現在形・助動詞): 研究結果が持つ一般的な意味合いを述べるため、現在形や推量の助動詞が用いられます。
- These findings suggest that… (これらの発見は〜を示唆する。)
- Therefore, we can conclude that our hypothesis was supported. (したがって、我々の仮説は支持されたと結論づけることができる。)
論文の読解とは、これらの「目的」「仮説」「結論」という論理的なランドマークを見つけ出し、それらを繋ぐ「方法」や「結果」の記述が、いかにして仮説を検証し、結論に至ったのか、その論証のプロセス全体を再構築する作業です。態の選択は、各部分が論証の中でどのような役割(客観的な手順の記述か、筆者の仮説提示か)を果たしているのかを示す、重要なサインとなります。
25. [展開] データや結果の解釈における、筆者の考察の読解
科学論文の「結果(Results)」セクションが、得られたデータを客観的に提示する(多くは受動態や過去形を用いて)のに対し、「考察(Discussion)」セクションは、それらのデータが何を意味するのかを筆者が解釈し、論じる部分です。このセクションを読解する際には、客観的な事実と、筆者の主観的な推論や主張とを区別することが極めて重要であり、助動詞や特定の動詞の使われ方がそのための鍵となります。
25.1. 結果の要約
考察セクションは、まず主要な結果を再度要約することから始まるのが一般的です。この部分は、客観的な事実の再提示であるため、過去形や受動態が用いられることがあります。
- 例文: As shown in Figure 1, a significant increase in cell growth was observed in the treated group. (図1に示されるように、処置群において細胞増殖の有意な増加が観察された。)
25.2. 結果の解釈と推論
次に、筆者はその結果がなぜ生じたのか、それが何を意味するのかについて、自らの解釈や推論を展開します。この部分は筆者の主観的な知的作業であるため、断定を避けるための控えめな表現が多用されます。
- 推量の助動詞 (
may
,might
,could
):- This increase may be attributed to the activation of the XYZ pathway. (この増加は、XYZ経路の活性化に起因するのかもしれない。)
- These results could suggest a new therapeutic strategy. (これらの結果は、新しい治療戦略を示唆している可能性がある。)
- 解釈を示す動詞 (
suggest
,indicate
,imply
):- Our findings suggest that the protein plays a crucial role. (我々の発見は、そのタンパク質が重要な役割を果たしていることを示唆している。)
25.3. 先行研究との比較・対照
筆者は、自身の研究結果を、既存の先行研究と比較・対照することで、その研究の新規性や重要性を主張します。
- 例文: Our results are consistent with the findings of Smith (2020), who also reported a similar effect. However, unlike the previous study, our data suggests that… (我々の結果は、同様の効果を報告したSmith (2020) の発見と一致している。しかし、先行研究とは異なり、我々のデータは〜であることを示唆している。)
25.4. 研究の限界と今後の展望
信頼性の高い論文では、筆者は自身の研究が持つ**限界(Limitations)を認め、今後の研究で何をすべきかという展望(Future directions)**を述べます。
- 例文: One limitation of this study is the small sample size. Therefore, further research with a larger cohort is needed to confirm these findings. Future studies should also focus on… (本研究の一つの限界は、サンプルサイズが小さいことである。したがって、これらの発見を確証するためには、より大規模な集団でのさらなる研究が必要とされる。今後の研究は〜に焦点を当てるべきである。)
考察セクションの読解とは、提示された客観的な「結果」から、筆者がどのようにして「結論」へと至るのか、その論理の飛躍や解釈の妥当性を、助動詞や特定の動詞の使われ方を手がかりに、批判的に検証していくプロセスなのです。
Module 5:態の選択と文の焦点(フォーカス)の総括:情報の焦点を制御する戦略的選択
本モジュールでは、**「態(Voice)」を、単なる能動態から受動態への文法的な書き換え規則としてではなく、文が伝える情報の焦点をどこに置くかを決定する、書き手の戦略的な選択として捉え直すことを目指しました。同じ事実関係であっても、態を選択することで、情報の主役を「行為者」にするか「被行為者」にするかを自在に制御できる、その論理的なメカニズムを[規則]→[分析]→[構築]→[展開]**の連鎖を通じて解明しました。
[規則]の段階では、能動態が「行為の主体」に、受動態が「行為の客体」に焦点を当てるという態の基本概念を定義しました。そして、SVO、SVOO、SVOCといった目的語を持つ文型が、どのような構造的ルールに従って受動態へと変換されるのか、その論理的なプロセスを体系的に学びました。
[分析]の段階では、その規則を基に、書き手がなぜ受動態を選択したのか、その背後にある多様な文脈的意図を分析しました。行為者が不明・自明である場合や、客観性を強調したい科学的な文脈、さらには責任の所在を意図的に曖昧にする修辞的な目的まで、受動態が持つ豊かな機能を読み解く視点を養いました。
[構築]の段階では、分析を通じて得た理解を元に、自らの表現意図に応じて、能動態と受動態を戦略的に使い分ける能力を養成しました。強調したい情報を主語に据えるという基本原則から、文と文の繋がりを滑らかにするための態の選択、そしてレポートや論文における客観的な文体の構築まで、焦点の定まった、効果的な文章を作成するための実践的な技術を習得しました。
そして[展開]の段階では、態の選択という視点を、科学技術系の文章やニュース記事といった、特定の専門分野のテクスト分析へと応用しました。これらの分野で受動態がなぜ多用されるのか、そのジャンル特有の機能と効果を理解することで、各文体の背後にあるコミュニケーション上の要請や論理構造を、より深いレベルで読解する能力を確立しました。
このモジュールを経て、態の選択はあなたにとって、もはや機械的な作業ではありません。それは、文の主題を定め、情報の流れを制御し、文章全体のトーンを設計するための、知的で能動的な修辞的戦略となったはずです。この能力は、自らの考えを最も効果的な形で他者に伝えるための、強力な論理的基盤となります。