設問分析と解答設計：要求の精密把握（講義編）

本講義（設問分析と解答設計：要求の精密把握（講義編））の概要

本講義は、Module 5「設問解法の実践と戦略」の出発点として、あらゆる設問に解答するための最も基本的かつ重要なステップである「設問分析」と「解答設計」の技術を徹底的に解説します。大学入試の現代文において、文章の内容を理解する読解力はもちろん重要ですが、それだけでは十分ではありません。出題者が何を問い、どのような形で答えることを求めているのか、その要求を精密に把握し、それに応じた適切な解答を計画的に作成する能力が、最終的な得点力を大きく左右します。本講義では、まず設問文そのものを一つの重要な「テクスト」として捉え、その一語一句に注意を払い、要求されている内容（What）と条件（How）を正確に読み解く「設問分析」の具体的な着眼点を学びます。さらに、特に記述式問題や要約問題において、質の高い解答を作成するために不可欠な、解答の骨子を事前に組み立てる「解答設計（アウトライン作成）」のプロセスとそのメリットについて詳しく解説します。この講義を通して、設問の意図を的確に捉え、解答への道筋を明確に描くための基礎技術を習得し、的外れな解答や非効率な作業を防ぎ、確実な得点へと繋げるための第一歩を踏み出します。

1. 設問文も「テクスト」である：設問分析の重要性

1.1. なぜ設問分析が不可欠か：解答の方向性を決定する羅針盤

• 解答の出発点: 現代文の設問に答えるという作業は、まずその設問文を読むことから始まります。設問文は、これから自分が何をすべきか、どこに向かうべきかを示す「指示書」であり、「羅針盤」です。この最初のステップである設問分析を疎かにすると、解答全体の方向性が定まらず、的外れな努力をしてしまうことになりかねません。
• 要求の多様性: 前のモジュール概要でも触れたように、現代文の設問形式は非常に多様であり、それぞれ異なるアプローチを要求します。「どういうことか説明せよ」「なぜか説明せよ」「要約せよ」「抜き出せ」「選べ」など、問いかけの言葉一つで、解答の内容も形式も全く異なります。設問分析は、これらの多様な要求に的確に対応するための第一歩です。

1.2. 設問の意図の読み違いが招く悲劇：的外れな解答、大幅な失点

• 致命的なミス: 設問の意図を読み違えることは、現代文の解答において最も避けたいミスの一つです。例えば、「理由」を問われているのに「内容」を説明してしまったり、「どういうことか」を問われているのに自分の意見を述べてしまったりすると、たとえ本文の理解が正しくても、設問に答えていないと判断され、大幅な減点、あるいは全く点数が与えられない可能性さえあります。
• 時間と労力の浪費: 設問の要求を誤解したまま解答を作成することは、貴重な試験時間と労力を無駄にすることに繋がります。正確な設問分析は、効率的な解答プロセスにとっても不可欠です。

1.3. 設問文に対する精読の必要性：一語一句にヒントが隠されている

• 設問文の精読: 本文を読む際と同様に、設問文に対しても「精読」の姿勢で臨む必要があります。使われている言葉（特に動詞、疑問詞、指示語、接続詞、副詞など）、表現のニュアンス、付帯されている条件などを、注意深く、精密に読み取らなければなりません。
• 隠されたヒント: 設問文の中には、解答の手がかりとなる重要なヒント（例：解答に含めるべき観点、対比すべき対象、参照すべき箇所など）が隠されていることが少なくありません。一見単純に見える設問文でも、細部まで注意深く読むことで、出題者の意図をより深く理解することができます。

1.4. 設問分析＝出題者とのコミュニケーションの第一歩

• 意図の推測: 設問分析は、単なる作業ではありません。それは、「出題者はこの問いを通して、私のどのような能力を測ろうとしているのだろうか？」「どのような解答を期待しているのだろうか？」と、出題者の意図を推測し、理解しようとする、**出題者との対話（コミュニケーション）**の第一歩とも言えます。この意識を持つことで、より的確な解答へと近づくことができます。

2. 設問の「要求」を精密に把握する：何を問われているか (What)

設問分析の最初のステップは、「いったい何が問われているのか？」を正確に特定することです。

2.1. 問いの種類の特定

まず、設問がどのような種類の問いであるかを明確に識別します。これは解答の基本的な方向性を決定します。

• 内容説明（「どういうことか」「～を説明せよ」）：
  • 傍線部や特定の語句・文が示す意味内容を、本文全体の文脈を踏まえつつ、より分かりやすく、具体的に説明することが求められます。単なる辞書的な意味ではなく、その文脈における意味合いや含意まで捉える必要があります。比喩表現の説明なども含まれます。
• 理由説明（「なぜか」「理由を説明せよ」）：
  • 傍線部で述べられている事柄や、特定の現象・行動がなぜ起こったのか、その原因・理由・根拠を本文中から探し出し、因果関係が明確になるように論理的に説明することが求められます。通常、複数の理由・根拠を組み合わせて説明します。
• 要旨・要約（「要旨を述べよ」「～字で要約せよ」）：
  • 文章全体、あるいは指定された部分の**中心的な内容（論旨、要点）**を、指定された形式（字数など）で簡潔にまとめることが求められます。主要な主張と根拠を押さえ、論理的な流れを再現する必要があります。
• 心情説明（「どのような気持ちか」「心情を説明せよ」）：
  • 文学的文章（特に小説）で多く見られます。特定の場面における登場人物の感情、思考、心理状態を、本文中の描写（言動、表情、状況など）を客観的な根拠として説明することが求められます。（Module 4参照）
• 目的・意図（「何のためか」「どのような意図があるか」）：
  • 筆者（あるいは登場人物）の特定の表現や行為が、どのような目的や意図を持って行われたのかを説明することが求められます。
• 比較・対照（「どこが違うか」「共通点は何か」「比較して述べよ」）：
  • 二つ以上の対象について、その共通点や相違点を、指定された観点（あるいは自分で観点を設定して）に基づいて明確に示すことが求められます。
• 評価・意見（「あなたの考えを述べよ」「筆者の考えを評価せよ」）：
  • （大学入試現代文では少ないが、小論文などで）本文の内容を踏まえた上で、自分自身の考えや評価を、根拠とともに論理的に述べることが求められます。設問で明確に指示されない限り、自分の意見を述べるべきではありません。
• その他: 抜き出し、空欄補充、選択肢、漢字・語彙、指示語の対象特定、構成把握など、多様な形式があります。

2.2. 問いの対象の特定

次に、その問いが文章のどの部分について尋ねているのか、その範囲（対象）を正確に特定します。

• 傍線部: 最も一般的な形式。傍線が引かれている語句や文そのものが直接の対象です。ただし、その意味や理由は、傍線部だけでなく、前後の文脈全体から判断する必要があります。
• 特定の語句: 傍線がなくても、「〇〇という言葉について説明せよ」のように、特定の語句が対象となる場合があります。
• 特定の段落: 「第〇段落の要旨を述べよ」「第〇段落で筆者が主張していることは何か」のように、特定の段落が対象となる場合があります。
• 文章全体: 「文章全体の要旨を述べよ」「筆者の最終的な結論は何か」のように、文章全体が対象となる場合があります。
• 設問文中の指示語: 設問文自体に「これについて説明せよ」「その理由を述べよ」といった指示語が含まれる場合があります。この指示語が本文中の何を指しているのかを正確に把握することが不可欠です。指示対象の誤解は、致命的な解答のズレに繋がります。

2.3. 問いの焦点の特定

問いの種類と対象を特定した上で、さらにその問いが特に何に焦点を当てて尋ねているのか、そのポイント（焦点）を見極めます。

• 観点の指定: 「～の観点から説明せよ」「～と対比して説明せよ」「～という点に注意して述べよ」のように、解答の際に重視すべき特定の観点が指示されている場合があります。この指示は絶対的な条件です。
• 理由のレベル: 理由説明問題でも、「直接的な理由」を問うているのか、「根本的な原因」を問うているのか、「複数の理由」を問うているのかなど、求められる理由のレベルや数が異なる場合があります。設問文のニュアンスから読み取る必要があります。
• 説明の方向性: 内容説明問題でも、単なる言い換えだけでなく、「具体的に説明せよ」「比喩の意味を説明せよ」「筆者の意図を踏まえて説明せよ」など、説明の方向性が指定されている場合があります。

3. 設問の「条件」を精密に把握する：どのように答えるか (How)

何を問われているか（What）を把握したら、次に、どのように答えるべきか、解答の形式や条件（How）を正確に確認します。

3.1. 解答形式

• 選択肢問題: 正しい（または誤っている）選択肢の記号（ア、イ、ウ…）を答える。
• 抜き出し問題: 本文中の語句や文をそのまま書き抜く。
• 記述式問題: 自分の言葉で文章を作成して答える。
• その他: 空欄補充（語句や記号）、漢字・語彙（読み、書き、意味）など。
• 設問で指定された解答形式を厳守します。

3.2. 字数制限

• 厳守が原則: 記述問題や要約問題には、通常、字数制限が設けられています（例：「80字以内」「100字程度」「150字～200字」）。この制限は厳守する必要があります。
  • 「～字以内」: 指定された字数を超えてはいけません。通常、8割～満たすのが目安とされますが、内容が十分なら短くても問題ない場合もあります。
  • 「～字程度」: 指定された字数の前後1割程度（例：100字程度なら90～110字）の範囲内に収めるのが一般的です。多少の過不足は許容されることが多いですが、大幅に異なると減点対象となる可能性があります。
  • 「～字以上～字以内」: 指定された範囲内に収める必要があります。
• 句読点・記号の扱い: 字数に句読点（。、）、記号（「」、『』、（）など）を含むかどうかの指示がある場合は、それに従います。指示がない場合は、通常、句読点や記号も1字として数えます（大学や試験によって異なる場合があるので、事前に確認できるならしておくのが望ましい）。
• 字数から内容を推測: 指定された字数は、解答に含めるべき情報の詳しさや要素の数を示唆しています。短い字数なら要点を絞り、長い字数ならより詳しく説明する必要があります。

3.3. 使用語句の指定

• 「本文中の言葉を用いて」: 解答の核となるキーワードや表現は、本文中の言葉を正確に引用するか、適切に活用する必要があります。ただし、単なる丸写し（特に長い部分）が良いとは限りません。必要な語句を抽出し、自分の言葉で繋ぎ合わせたり、論理的に再構成したりする作業が必要です。
• 「～という語句を使って」: 指定された語句を解答の中に必ず含める必要があります。その語句が解答の中で自然に、かつ意味のある形で使われているかがポイントになります。
• 「自分の言葉で」: 本文の内容を踏まえつつも、丸写しではなく、自分自身の言葉で言い換えたり、説明したりすることが求められます。読解力だけでなく、表現力も問われます。

3.4. その他の付帯条件

• 除外指定: 「ただし、〇〇に関する記述は除く」といった、解答に含めてはいけない内容が指定されている場合があります。
• 要素指定: 「～について、二点を挙げよ」「～と～の両方に触れて述べよ」のように、解答に含めるべき要素の数や種類が指定されている場合があります。
• これらの細かな条件を見落とすと、解答の内容が正しくても減点される可能性があるので、細心の注意が必要です。

4. 設問分析の実践：設問例を用いたポイント解説

設問例1（内容説明）： 傍線部「近代的な主体の確立」とはどういうことか、本文全体の文脈を踏まえ、80字以内で説明しなさい。

• 分析ポイント:
  • 問いの種類: 内容説明
  • 対象: 傍線部「近代的な主体の確立」
  • 焦点: 「どういうことか」（意味内容の明確化）
  • 条件: 「本文全体の文脈を踏まえ」（傍線部だけでなく、文章全体の内容と関連付けて説明する必要がある）、「80字以内」（簡潔な説明が求められる）
  • 解答の方向性: 「近代」「主体」というキーワードの本文中での意味を特定し、「確立」が何を意味するのかを、文章全体のテーマ（例：近代批判、自己認識の変化など）と関連付けながら、80字に収まるように要点をまとめる。

設問例2（理由説明）： 傍線部「筆者がこのように考えるのはなぜか」、その理由を、本文中のAとBという二つの観点に触れながら、120字程度で説明しなさい。

• 分析ポイント:
  • 問いの種類: 理由説明
  • 対象: 傍線部「筆者がこのように考える」ことの理由
  • 焦点: 「なぜか」（原因・理由・根拠）
  • 条件: 「本文中のAとBという二つの観点に触れながら」（解答に含めるべき要素が指定されている）、「120字程度」（ある程度の詳しさが必要）
  • 解答の方向性: 傍線部の内容（筆者の考え）を確認し、その理由となる箇所を本文中から探す。特に、Aという観点からの理由と、Bという観点からの理由を明確に区別して抽出し、それらがどのように筆者の考えに繋がるのか、因果関係を明らかにして120字程度で記述する。「～から。」で終えるのが基本。

設問例3（抜き出し）： 筆者が考える「真の豊かさ」とはどのようなものか、本文中から最もよく表している一文を、句読点も含めて35字以内で抜き出しなさい。

• 分析ポイント:
  • 問いの種類: 抜き出し
  • 対象: 「真の豊かさ」の内容
  • 焦点: 「どのようなものか」を示す表現
  • 条件: 「本文中から」、「最もよく表している一文」、「句読点も含めて」、「35字以内」
  • 解答の方向性: 本文全体から「真の豊かさ」について述べられている箇所を探し、その中でも筆者の考えを最も端的に（かつ一文で）表現している箇所を特定する。その一文が35字以内であり、句読点も含まれることを確認し、正確に書き抜く。

5. 解答設計（アウトライン作成）：質の高いアウトプットのために

特に、解答に複数の要素を含んだり、論理的な構成が求められたりする記述式問題や要約問題では、解答に取りかかる前に「解答設計」を行うことが極めて有効です。

5.1. なぜ解答設計が必要か

• 思考の整理: 解答に含めるべき要素や論理の流れを事前に整理することで、頭の中がクリアになり、自信を持って記述に取りかかれます。
• 論理的な一貫性: 行き当たりばったりで書くのではなく、設計図に基づいて書くことで、論理的に一貫性のある、まとまりの良い答案を作成しやすくなります。
• 要素の過不足防止: 含めるべき要素をリストアップし、取捨選択するプロセスを経ることで、重要な要素の抜け漏れや、不要な要素の混入を防ぐことができます。
• 字数制限への対応: 各要素にどの程度の字数を割り当てるかを見積もることで、字数オーバーや字数不足を防ぎやすくなります。
• 時間効率の向上: 書き始めてから構成に迷ったり、大幅な修正が必要になったりする事態を防ぎ、結果的に解答作成時間を短縮できる可能性があります。

5.2. 解答設計が特に有効な設問タイプ

• 記述式問題: 内容説明、理由説明、心情説明、意見論述など、複数の要素を論理的に構成して文章化する必要がある問題。
• 要約問題: 文章全体の要点を抽出し、指定字数内で再構成する必要がある問題。

5.3. 解答設計の具体的なプロセス

1. 解答要素のリストアップ: 設問分析と本文読解に基づき、解答に含めるべきキーワード、キーフレーズ、根拠となる記述、論点などを、箇条書きなどで網羅的に書き出します。（ブレインストーミングに近い）
2. 要素の取捨選択と優先順位付け:
   • 設問の要求（特に焦点）と字数制限に照らし合わせ、リストアップした要素の中から、本当に必要な要素を選び出します。
   • 不要な要素（具体例の詳細、繰り返し、設問の焦点からずれる情報など）は削除します。
   • 含めるべき要素の中で、重要度（主張の核心、主要な根拠など）に応じて優先順位をつけます。
3. 構成（論理的な順序付け）：
   • 選択した要素を、最も分かりやすく、論理的な流れになるように並べ替えます。
   • 典型的な構成例:
     • 内容説明: ①説明対象の主要素 → ②補足説明・具体化・言い換え → ③文脈上の意味・含意
     • 理由説明: ①結論（問われている事柄）の確認（任意）→ ②理由・根拠１ → ③理由・根拠２ → … → ④（必要なら）まとめ
     • 時系列順、重要度順、原因→結果 など、内容に応じて最適な順序を考えます。
4. 接続表現の検討: 要素と要素をスムーズに繋ぐための接続詞や接続助詞（「まず」「次に」「さらに」「しかし」「なぜなら」「つまり」「したがって」など）を考え、メモしておきます。
5. 字数配分の概算: 各要素や各文にどの程度の字数を割り当てるか、大まかに見積もり、全体の字数が制限内に収まるかを確認します。

5.4. 解答設計の形式

• 形式は自由: 解答設計に決まった形式はありません。自分が分かりやすく、素早く作成できる方法で構いません。
  • キーワードや短いフレーズの箇条書き
  • 簡単なメモ書き
  • 矢印（→、↑、⇔）や記号を用いた関係図
  • 文の骨子（SVOなど）の書き出し
• 時間とのバランス: 試験本番では、あまり時間をかけすぎず、短時間（数分程度）で要点をまとめることを目指します。

5.5. 解答設計のメリット（再掲）

• 思考が整理され、論理的な構成が明確になる。
• 解答に必要な要素の過不足を防げる。
• 字数制限に対応しやすくなる。
• 記述中の迷いが減り、スムーズに書ける。
• 結果として、答案の質が向上し、時間短縮にも繋がる可能性がある。

6. まとめ：設問分析と解答設計は得点への第一歩

6.1. 設問を正確に分析し、解答を事前に設計することの重要性の再確認

• 現代文で安定して高得点を取るためには、本文を正確に読む力に加え、設問の要求を精密に把握する「設問分析力」と、それに基づいて解答の道筋を立てる「解答設計力」が不可欠です。
• これらは、全ての設問に取り組む上での最も基本的な、そして重要な第一歩となります。

6.2. 精密なインプット（設問分析）と周到な準備（解答設計）が質の高いアウトプット（解答）を生み出す

• 設問の意図という「的」を正確に見定め（設問分析）、そこに到達するための「計画」を周到に立てる（解答設計）ことによって初めて、質の高い「矢」（解答）を放つことが可能になります。
• このプロセスを意識的に実践することで、読解力を着実に得点力へと転換していくことができます。

6.3. 次の講義（選択肢問題 解答戦略）への接続：具体的な設問形式への戦略へ

本講義では、全ての設問形式に共通する基礎として、設問分析と解答設計を学びました。次の講義からは、いよいよ具体的な設問形式ごとの攻略法に入っていきます。まずは、多くの入試で出題される「選択肢問題」を取り上げ、その特徴、解法戦略、そして誤答選択肢を見抜くための具体的なポイントについて詳しく解説していきます。