本講義(応用問題 解法研究:複数資料・融合問題(講義編))の概要
本講義は、Module 5「設問解法の実践と戦略」の応用編として、近年の大学入試現代文で増加傾向にある、より複雑で高度な思考力を要求する「応用問題」、特に**複数の資料(二つ以上の文章、あるいは文章と図表・グラフなど)を組み合わせて考察させる「複数資料・融合問題」**の解法に特化して研究します。単一の文章を深く読み解くだけでなく、複数の情報源から的確に情報を抽出し、それらを相互に関連付け、比較・対照し、統合して新たな知見を導き出す能力は、現代の情報化社会において極めて重要なスキルであり、大学での学術的な探求活動においても必須となる能力です。本講義では、まず複数資料・融合問題が出題される背景と意図を理解し、典型的な出題パターンを把握します。その上で、これらの問題に対応するために不可欠なスキルセット(各資料の読解力、関連性分析力、情報統合力、多角的思考力など)を確認し、具体的な解法プロセスを段階的に解説します。図表・グラフの基本的な読み取り方にも触れ、多様な情報を効果的に処理し、設問の要求に的確に応えるための総合的な実戦力を養成することを目指します。
1. 応用問題(複数資料・融合問題)とは何か
1.1. 定義:複数の情報源を組み合わせた問題形式
- 複数資料・融合問題とは、設問を解くにあたって、単一の文章だけでなく、二つ以上の文章、あるいは文章と図表、グラフ、写真、年表などの異なる種類の資料を参照し、それらの情報を**組み合わせて(融合させて)**考え、解答することが求められる問題形式のことです。
1.2. 出題の意図:なぜこの形式が重視されるのか
このような応用問題が出題される背景には、現代社会や大学での学びで求められる能力の変化があります。出題者は、この形式を通して以下のような能力を測定しようとしています。
- 複数情報源からの読解・分析能力: 現実世界では、情報は単一の源から得られるとは限りません。様々な情報源(テキスト、データ、視覚情報など)から、必要な情報を正確に読み取り、その意味や特徴を分析する能力。
- 情報間の関連性を見抜く能力: 個々の情報を独立して理解するだけでなく、それらの情報が互いにどのように関連しているのか(共通点、相違点、因果関係、補完関係、対立関係など)を見抜き、その関係性を構造的に把握する能力。
- 情報の統合・整理・再構成能力: 複数の情報源から得られた断片的な情報を、設問の要求に合わせて取捨選択し、論理的に矛盾なく整理・統合し、新たな知見や結論として再構成する能力。
- 多角的・複眼的な思考力: 一つの資料や視点に偏ることなく、複数の異なる視点や情報を比較検討し、物事をより客観的かつ多角的に捉える思考力。
- 批判的思考力の応用: 複数の情報を比較検討する中で、各資料の信頼性や妥当性、主張の偏りなどを吟味し、より深いレベルでの批判的思考を実践する能力。
- (図表等を含む場合)非言語情報の読解・活用能力: グラフや表などの数値データや視覚情報を正確に読み取り、それを言語情報と結びつけて解釈・活用する能力。
1.3. 単一文章問題との違い
- 情報量の増大: 複数の資料を読む必要があるため、処理すべき情報量が格段に増えます。効率的な読解と情報整理がより重要になります。
- 関係性の複雑化: 資料間の関係性を正確に把握するという、新たな分析のステップが必要になります。
- 思考の多角性要求: 単一の論理を追うだけでなく、複数の論理や視点を比較・統合する必要があり、より高度で多角的な思考が求められます。
2. 応用問題の主なパターン
複数資料・融合問題には、いくつかの典型的な出題パターンがあります。
2.1. パターン1:複数文章の比較・対照
- 概要: 同じテーマや問題について、異なる立場や視点から書かれた二つ以上の文章を提示し、それらを比較・対照させる問題。
- 設問例:
- 「文章Aと文章Bの筆者の主張における共通点と相違点を、それぞれ〇〇字以内で述べよ。」
- 「文章Aの筆者の立場から、文章Bで述べられている〇〇という考え方をどのように評価すると考えられるか、説明せよ。」
- 「文章A、Bを踏まえ、〇〇という問題について、あなたの考えを述べよ。」
- 解法ポイント:
- まず、各文章の主題、中心的な主張、主要な論拠を個別に正確に把握する。
- 次に、両方の文章に共通するテーマや論点を見つけ出し、その点について、両者の主張や根拠、視点がどのように共通し、どのように異なっているのかを比較・対照する。
- 比較の観点(例:問題の原因認識、解決策の方向性、価値観など)を明確にすると整理しやすい。
- 比較表などを作成するのも有効。
2.2. パターン2:文章と図表・グラフの関連付け
- 概要: 文章の内容に関連する図表やグラフなどのデータ資料を提示し、両者を関連付けて考察させる問題。
- 設問例:
- 「文章中の傍線部〇〇の内容を最もよく裏付けている(あるいは反論している)グラフはどれか、記号で答え、その理由を説明せよ。」
- 「図表Aから読み取れる傾向と、文章Bで述べられている主張との関係について、〇〇字以内で説明せよ。」
- 「文章CとグラフDを踏まえ、〇〇について考えられることを述べよ。」
- 解法ポイント:
- 文章の内容(主張、論旨)を正確に理解する。
- 図表・グラフの情報を正確に読み取る(タイトル、軸、単位、傾向、特徴的な数値など)。(後述)
- 文章で述べられている事柄と、図表が示すデータの間にどのような関連性(裏付け、反証、具体例、補足など)があるのかを結びつけて考える。
- 両方の情報を根拠として、論理的に説明する。
2.3. パターン3:複数の資料を踏まえた意見論述
- 概要: 複数の文章や資料(時には異なる種類の資料)を提示し、それらの内容を総合的に踏まえた上で、特定のテーマについて受験生自身の考えを述べさせる問題。小論文に近い形式。
- 設問例:
- 「資料A、B、Cを読み、現代社会における〇〇の意義について、あなたの考えを800字以内で論じなさい。」
- 「資料Xと資料Yの対立点を明確にした上で、あなたはどちらの立場を支持するか、理由とともに述べなさい。」
- 解法ポイント:
- 各資料の要点を正確に把握し、その主張や論点を理解することが大前提。
- 資料間の関係性(共通点、相違点、対立点など)を分析する。
- 設問の要求(論点、字数など)を正確に把握する。
- 提示された資料を根拠として適切に引用・参照しながら、自身の主張を論理的に構成し、明確な言葉で表現する。
- 単なる資料の要約や感想に留まらず、自身の考察や見解を深めることが重要。
- (小論文としての構成(序論・本論・結論)や、より深い議論の展開については、別途小論文対策が必要となる。)
2.4. パターン4:複数資料からの情報統合・要約
- 概要: 複数の資料(文章、データなど)から、特定のテーマに関する情報を抽出し、それらを統合して、一つのまとまった文章として要約させる問題。
- 設問例:
- 「資料Aと資料Bから、〇〇問題の原因に関する記述を抜き出し、150字以内でまとめなさい。」
- 「複数の資料で共通して指摘されている〇〇の重要性について、要点を整理し、200字で述べよ。」
- 解法ポイント:
- 各資料から、設問で指定されたテーマや観点に関連する情報を正確に抽出する。
- 抽出した情報の中から、重複する内容や重要度の低い情報を整理・取捨選択する。
- 残った要素を、論理的な一貫性を持たせながら、一つの文章として自然に繋ぎ合わせ、再構成する。
- 出典(どの資料からの情報か)を明記する必要がある場合もある。
3. 解答に必要なスキルセット
複数資料・融合問題に効果的に対応するためには、以下のスキルを総合的に活用する必要があります。
3.1. 各資料の正確な読解・分析能力
- 基礎スキル: Module 1~4で習得した、精読解(文構造、語彙、ニュアンス)、構造分析(段落、マクロ構造)、論証分析、レトリック解釈といった、個々の文章や資料を正確かつ深く読み解くための基本的な能力が、全ての土台となります。
3.2. 図表・グラフの基本的な読解能力
- 情報抽出: 図表やグラフから客観的な情報を正確に読み取る能力。(詳細は後述)
- 傾向・特徴把握: データ全体の傾向(増加、減少、横ばい、相関など)、最大値・最小値、特異な点、他のデータとの比較などを把握する能力。
- 言語情報との連携: 図表から読み取った情報を、文章で述べられている内容と結びつけ、その意味や意義を解釈する能力。
3.3. 資料間の関連性を見抜く分析力
- 比較・対照: 複数の資料間で、共通するテーマ、論点、主張、根拠、キーワードなどを発見し、同時に、相違点や対立点を明確にする能力。
- 関係性の特定: 資料同士がどのような関係(補完、対立、具体例、原因と結果、前提と結論など)にあるのかを正確に特定する能力。
- 構造化: 複数の資料の関係性を、頭の中だけでなく、簡単な図(関係図、対比表など)に整理して構造化する能力。
3.4. 情報の統合・整理・再構成能力
- 取捨選択: 複数の資料から得られた情報の中から、設問の要求に応じて必要な情報を的確に選び出し、不要な情報を切り捨てる能力。
- 統合: 複数の資料からの情報を、矛盾なく、論理的に一貫性のある形でまとめ上げる能力。
- 再構成: 統合した情報を、設問の要求する形式(要約、説明、意見論述など)に合わせて、分かりやすく、かつ指定された条件(字数など)の中で再構成する能力。
3.5. 多角的な思考力
- 複眼的視点: 単一の資料や一方的な見方に固執せず、複数の資料が提示する異なる視点や情報を踏まえて、物事をより客観的かつ多角的に捉える能力。
- 批判的検討: 各資料の情報や主張の信頼性や妥当性を吟味し、比較検討する中で、より深いレベルでの批判的思考を行う能力。
4. 複数資料・融合問題への解法プロセス
これらの問題を解く際には、以下のステップを意識的に実行することが有効です。
4.1. ステップ1:設問分析の徹底
- 最優先事項: まず設問文を注意深く読み、何を問われているのか(問いの種類、内容、焦点)、どの資料をどのように使う必要があるのか、**解答の形式や条件(字数、語句指定など)**は何か、を完全に把握します。複数の資料が関わるため、どの資料のどの部分を参照すべきかの指示を見落とさないことが特に重要です。
4.2. ステップ2:各資料の読解・分析
- 個別撃破: 提示された全ての資料(文章、図表など)を、一つ一つ丁寧に読み解きます。
- 文章資料: 主題、主張、論拠、構造などを把握します。(Module 1~4のスキル活用)
- 図表資料: タイトル、軸、単位、凡例などを確認し、データの傾向や特徴を読み取ります。(後述)
- 要点のメモ: 各資料の要点や重要な情報を、後で参照しやすいように簡潔にメモしておくと効率的です。
4.3. ステップ3:資料間の関連性の分析
- 比較・対照: 各資料の要点を踏まえ、それらの間の共通点、相違点、関連性(補完、対立、具体例、根拠など)を分析します。
- 整理・構造化: 分析した関連性を、簡単な比較表や関係図などを用いて視覚的に整理すると、複雑な関係性も把握しやすくなります。
4.4. ステップ4:設問要求との照合
- 解答要素の特定: 設問が要求している情報や考察が、ステップ2, 3で分析した資料内容や資料間の関連性とどのように結びつくかを考えます。解答の核となる要素(キーワード、論点、データなど)を、複数の資料から特定・抽出します。
4.5. ステップ5:解答の構成(アウトライン作成)
- 設計図の作成: 特定した解答要素を、設問の要求(説明、比較、要約、意見など)と字数制限に合わせて、論理的で分かりやすい順序に構成します。
- 情報の統合: 複数の資料からの情報をどのように組み合わせ、関連付けて提示するかを計画します。引用や参照の仕方も考慮します。
- 意見論述の場合: 自分の主張、それを支える根拠(資料からの引用・参照を含む)、予想される反論への言及、結論といった構成を考えます。
4.6. ステップ6:記述・表現
- 構成案に基づき記述: 作成したアウトラインに沿って、解答を文章化します。
- 情報の正確な引用・参照: 他の資料の内容に言及する際は、その情報を正確に引用または参照します。出典(資料Aによれば~、など)を明記することが求められる場合もあります。
- 論理的な接続: 資料間の関係性や、自身の考察の論理的な繋がりが明確になるように、適切な接続表現を用います。
- 明確で分かりやすい表現: 専門用語の説明(必要な場合)や、複雑な内容の平易な言い換えなどを心がけます。
4.7. ステップ7:推敲・添削
- 最終確認: 書き上げた答案を読み返し、論理的な矛盾、情報の誤りや不足、表現の不適切さ、誤字脱字、そして設問の全ての要求・条件を満たしているか(特に参照すべき資料を全て使っているかなど)を厳しくチェックし、修正します。
5. 図表・グラフ読解の基本ポイント
文章と図表・グラフが組み合わされた問題に対応するために、基本的な読解ポイントを押さえておきましょう。
5.1. 全体像の把握
- タイトル: 何についてのデータか、主題を把握する。
- 軸(縦軸・横軸): それぞれ何を表しているか、単位は何かを確認する。(例:縦軸=人口(万人)、横軸=年)
- 凡例: グラフ内の線や棒、色が何を示しているかを確認する。
- 単位: 数値の単位(%、人、円、年など)を見落とさない。大きな桁数(百万円、億トンなど)にも注意。
- 出典: データの出所を確認し、信頼性を判断する(必要な場合)。
- 種類: グラフの種類(棒、折れ線、円、帯、散布図など)によって、表現される情報の特徴(量、推移、割合、相関など)が異なることを理解する。
5.2. 傾向の読み取り
- 全体的な推移: 折れ線グラフなどで、時間とともに増加しているか、減少しているか、横ばいか、変動しているか、といった全体的な傾向を読み取る。
- 増減の度合い: 変化の度合いが大きい箇所、小さい箇所を特定する。
- 分布: 棒グラフや円グラフ、帯グラフなどで、各項目の量の大小や割合、構成比などを読み取る。
- 相関関係: 散布図などで、二つの量の間にどのような関係(正の相関、負の相関、無相関)が見られるかを読み取る。(ただし、相関関係は必ずしも因果関係を意味しないことに注意!)
- 特徴的な値: 最大値、最小値、平均値との比較、急激な変化点、他の項目との比較で特に目立つ値などに注目する。
5.3. 比較
- 項目間の比較: 棒グラフや表などで、異なる項目間の数値を比較する。
- 時期による比較: 折れ線グラフや複数の時点のデータで、異なる時期の数値を比較する。
- グループ間の比較: 属性別(年齢別、地域別など)のデータを比較する。
5.4. 数値の解釈と文章との関連付け
- 数値の意味: 単に数値を読み取るだけでなく、その数値が具体的に何を意味するのかを考えます。
- 文脈での解釈: 読み取ったデータの傾向や特徴を、関連する文章の内容(主張、説明、問題意識など)と結びつけ、そのデータが文章の内容を裏付けているのか、反論材料となるのか、あるいは新たな視点を提供するのか、といった関係性を解釈します。
- 注意点: グラフや表の一部だけを見て早合点せず、全体像や他のデータとの比較も考慮します。グラフの表現方法(軸の取り方など)による印象操作にも注意が必要です。
6. まとめ:情報統合能力と多角的思考力を武器に
6.1. 複数資料・融合問題への対応力の重要性
- 現代社会や今後の学術的な探求において、複数の多様な情報源から情報を収集し、それらを批判的に吟味し、統合して新たな知見や解決策を生み出す能力は、ますます重要になっています。複数資料・融合問題は、まさにこれらの能力を測ろうとしています。
- このタイプの問題に的確に対応する力は、単なる入試対策にとどまらず、将来にわたって役立つ重要なスキルとなります。
6.2. 習得すべきスキルとプロセス
- 対応するためには、個々の資料を正確に読み解く基礎的な読解・分析力に加え、資料間の関連性を見抜く力、情報を統合・再構成する力、そして物事を多角的・批判的に捉える思考力が必要です。
- 解法プロセス(設問分析→各資料読解→関連性分析→要求照合→構成→記述→推敲)を意識し、着実に実行することが重要です。
6.3. 次の講義(応用問題 実践演習)への接続:具体的な問題演習を通して、解法プロセスを実践的に習得する
- 本講義では、複数資料・融合問題の特性、パターン、必要なスキル、そして解法プロセスについて理論的に学びました。次の講義「応用問題 解法研究:実践演習」では、これらの知識と戦略を、実際の入試問題を想定した具体的な演習問題を通して適用し、繰り返し練習することで、複雑な問題にも対応できる実戦的な能力を身につけていきます。