総合演習:多様な出題形式への戦略的対応(演習編)

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はじめに:本演習(応用問題 解法研究:実践演習(演習編))の概要

本演習は、前講義「応用問題 解法研究:複数資料・融合問題」で学んだ理論と戦略を、最難関大学の入試レベルを想定した具体的な問題演習を通して実践的に習得し、応用力を高めることを目的とします。現代社会の複雑な問題を理解し、考察するためには、単一の情報源だけでなく、複数の異なる視点やデータ(文章、図表など)を読み解き、それらを批判的に比較・統合する能力が不可欠です。本演習では、現代における「移動(モビリティ)」の変容と、それが都市空間や人間関係、環境意識に与える影響という、社会学、都市論、環境論などが交差する学際的なテーマについて、**二つの異なる視点の評論(文章A、文章B)と、関連する統計データ(図表C)**を組み合わせた問題に取り組みます。各資料を正確に読解する力はもちろんのこと、資料間の論点や主張の共通点・相違点を見抜き、データを文章内容と関連付けて分析し、それらを踏まえて設問の要求に的確に応える、高度な情報処理能力と多角的思考力、そして論理的な表現力が問われます。解説においては、単に解答を示すだけでなく、複数の資料をどのように読み解き、関連付け、統合して解答を構築していくか、その思考プロセスを詳細に示します。この実践を通じて、複雑な応用問題にも自信を持って対応できる実戦力を養成します。

目次

問題(※試験時間:約70~90分目安。文章読解時間を除く)

次の文章A、文章B、および図表Cを読んで、後の問い(問1~6)に答えなさい。

(文章) (※これは演習用に生成された架空の文章です)

(文章A:自動車中心社会の功罪に関する評論) (※架空の文章)

【1】20世紀を通じて、自動車は単なる移動手段を超え、近代社会のあり方を象徴するテクノロジーとして、我々の生活空間、社会関係、そして文化そのものを深く形作ってきた。エンジンがもたらす圧倒的な移動能力は、人々に①かつてない行動範囲の自由を与え、都市の郊外化を加速させ、広域的な経済活動の基盤となった。自動車は、個人の自立性やプライバシーを象徴する空間ともなり、家族旅行の思い出から青春時代のドライブまで、多くの人々のライフヒストリーと分かちがたく結びついている。モータリゼーションの進展は、まさしく近代社会の「進歩」と「豊かさ」の象徴であったと言えるだろう。

【2】しかし、この自動車中心社会の「光」の側面は、同時に②深刻な「影」をもたらしてきたことを忘れてはならない。第一に、都市構造への影響である。自動車の利便性を最優先する都市計画(道路網の拡充、駐車場の確保など)は、歩行者や自転車利用者、あるいは公共交通機関の利用者を③都市空間の周縁へと追いやった。歩いて楽しい街並みや、人々が偶然に出会う広場のような空間は失われ、都市は移動のための機能的な空間へと変貌した。これは、地域コミュニティの希薄化や、住民の孤立を招く一因ともなった。

【3】第二に、環境への負荷である。化石燃料の大量消費による大気汚染や地球温暖化、道路建設のための自然破壊、そして交通事故による人命の損失。これらの④負の外部性は、自動車がもたらす利便性や経済効果の陰で、長らく社会全体によって負担されてきた。自動車の所有と利用が個人の自由として擁護される一方で、そのコストは社会全体、あるいは将来世代へと転嫁されやすい構造があったと言える。

【4】さらに、自動車への過度な依存は、⑤人間の身体感覚や移動に対する意識そのものをも変容させた。歩くこと、自分の身体を使って移動することから得られる世界との直接的な触れ合いや、道中の偶然の発見、他者との出会いといった経験は希薄になった。自動車という閉じた空間は、外部世界との間に壁を作り、移動を単なるA地点からB地点への効率的な「通過」へと変えてしまう。その結果、我々は自らが生きる環境に対する感受性や、身体的なスケール感を失いつつあるのではないだろうか。

【5】現代において、環境問題への意識の高まりや、都市部での交通渋滞、高齢化社会における移動手段確保といった課題が顕在化する中で、自動車中心社会のあり方は大きな転換点を迎えている。公共交通機関の見直し、自転車利用の促進、コンパクトシティ構想、そして自動運転技術やシェアリングエコノミーの発展。これらは、**(a)<u>単に自動車を代替するだけでなく、移動(モビリティ)の意味そのものを問い直し、より持続可能で人間的な都市空間と生活様式を再構築しようとする試み</u>**と捉えることができるだろう。

(文章B:デジタル時代の移動と身体感覚に関する評論) (※架空の文章、約1100字)

【1】情報通信技術の飛躍的な発展、特にインターネットとスマートフォンの普及は、「移動」という概念に新たな次元を加えつつある。我々は、物理的な身体を移動させることなくして、瞬時に世界の出来事を知り、遠く離れた人々とコミュニケーションをとり、様々なサービスやコンテンツにアクセスすることが可能になった。⑥仮想空間における「移動」や「接続」は、現実空間における移動の必要性を相対化し、時間と空間の制約から我々を解放したかに見える。リモートワークやオンライン学習、仮想現実(VR)による旅行体験などは、その具体的な現れである。

【2】この「移動の仮想化」は、多くの利便性をもたらす一方で、我々の身体感覚や現実認識に⑦微妙かつ深刻な影響を及ぼしている可能性について、我々はもっと自覚的になるべきだろう。物理的な移動には、目的地に到達するまでの時間的な経過、身体的な疲労、天候や地形といった環境からの抵抗、そして予期せぬ出来事との遭遇が伴う。これらの**(b)<u>身体的で偶有的な経験</u>を通して、我々は世界のリアリティや自己の存在感を肌で感じ取り、環境に対する適応能力や実践的な知恵を育んできた。

【3】しかし、仮想空間における移動や体験は、これらの身体的・偶有的な要素を⑧極限までフィルタリングし、効率化・最適化しようとする。クリック一つで目的地に「ジャンプ」し、不快な情報は遮断され、常に快適で予測可能な環境が提供される。そこでは、現実世界が持つ「ノイズ」や「抵抗感」、すなわち、身体的な疲労や他者との摩擦、予期せぬ回り道といった要素は、可能な限り排除される。その結果、我々の経験は、⑨均質化され、現実感が希薄化し、身体的な実感や深い学びから切り離されてしまう危険性がある。

【4】さらに、物理的な移動の減少は、他者との偶然の出会いや、地域社会との具体的な関わりを減少させる可能性がある。仮想空間での繋がりは、選択的で同質的なものになりやすく、現実社会で多様な他者と共存していくために必要な、⑩異質性への寛容さやコミュニケーション能力を十分に育む機会を損なうかもしれない。移動の仮想化が、結果として社会的な孤立や分断を深めてしまう逆説もありうるのだ。

【5】重要なのは、物理的な移動と仮想的な移動を対立的に捉えるのではなく、両者の特性を理解し、それらを⑪人間的な経験の豊かさを損なわない形でいかに統合・補完させていくか**、という視点であろう。テクノロジーが可能にする新たな移動の形態を享受しつつも、身体を通して世界と直接関わることの意味や価値を再認識し、現実空間における移動や他者との出会いを意識的に選択していくこと。そこに、デジタル時代の新たなモビリティ・デザインの課題がある。

(図表C:架空の統計データ)

図:主要都市における通勤・通学手段の変化(1990年 vs 2020年)

(※調査対象:東京、大阪、名古屋圏の就業者・通学者)

通勤・通学手段1990年 回答割合(%)2020年 回答割合(%)増減 (%)
公共交通機関(鉄道・バス)65.268.5+3.3
自家用自動車18.515.1-3.4
自転車8.110.3+2.2
徒歩5.54.2-1.3

その他/無回答は省略

出典:架空の国土交通省「大都市交通センサス」より作成

表:テレワーク(在宅勤務)の実施率と今後の意向(2023年 企業調査)

業種現在の実施率(%)今後も継続/拡大意向(%)
情報通信業75.885.1
学術研究・専門技術62.170.5
金融・保険業55.365.8
製造業35.245.1
卸売・小売業28.932.5
宿泊・飲食サービス15.518.3
建設業20.125.6
運輸・郵便業18.822.4
全産業平均38.446.2

出典:架空の民間調査機関「ワークスタイル研究所」調べ

(設問)

問1

文章Aで述べられている**「自動車中心社会」(【2】~【4】段落)がもたらしたとされる都市や生活の変化について、図表Cの図(通勤・通学手段の変化)は、どのような限定的な側面**を示していると考えられるか。グラフの具体的な傾向に触れながら、80字以内で説明しなさい。

問2

文章Bで述べられている**「移動の仮想化」(【1】【2】段落)の進行を示唆するデータとして、図表Cの表(テレワーク実施率)**のどの点に着目できるか。具体的な業種と数値を挙げて説明し、さらにそのデータが文章Bの論旨(仮想化の利便性と問題点)とどのように関連するか、120字以内で述べなさい。

問3

文章Aの傍線部**(a)<u>単に自動車を代替するだけでなく、移動(モビリティ)の意味そのものを問い直し、より持続可能で人間的な都市空間と生活様式を再構築しようとする試み</u>と、文章Bの傍線部⑪<u>人間的な経験の豊かさを損なわない形でいかに統合・補完させていくか</u>**という視点は、現代の「移動」が抱える課題に対する向き合い方として、どのような点で共通し、どのような点で異なっているか。150字以内で説明しなさい。

問4

文章Bの傍線部**(b)<u>テクノロジーによる「経験の拡張」が、逆説的にも「経験の貧困化」を招く**</u>とはどういうことか。仮想体験の特性とその結果について、100字以内で説明しなさい。

問5

文章AとBを踏まえると、現代社会における「移動(モビリティ)」は、テクノロジーによってどのように変容し、それが人間の経験や社会にどのような肯定的な可能性否定的な課題をもたらしていると考えられるか。両方の側面に触れながら、200字以内でまとめなさい。

問6

あなたは、文章A、B、図表Cを踏まえ、今後の都市や社会において、「移動(物理的移動と仮想的移動を含む)」はどのようにデザインされるべきだと考えるか。重視すべき点を一つ挙げ、その理由を文章A・Bの内容と関連付けながら、150字程度で述べなさい。(唯一の正解はありません)


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