目次
問題 / 解答
解答例・解説
問題 1
- 解答例:
- (1) とうや
- (2) しゅんべつ
- (3) きそん
- (4) 専門家集団(または 認識共同体)
- (5) 規範の転換(または 思考様式の根本的変化)
- 解説:
- (1) 陶冶:人格や才能を円満に育て上げること。
- (2) 峻別:厳しく区別すること。
- (3) 毀損:こわしたり、傷つけたりすること。
- (4) エピステミック・コミュニティ:特定の専門知識や信念を共有する専門家の集団。文脈から「専門家集団」「認識共同体」など。
- (5) パラダイムシフト:その時代や分野において当然とされていた認識や価値観などが、革命的に変化すること。「規範の転換」「思考様式の根本的変化」など。
- 最難関レベルでは、基本的な漢字に加え、学術的な文脈で用いられるカタカナ語の知識や、文脈に応じた適切な訳語選択能力が求められます。
問題 2
- 解答例: 理性を持つ人間には知が普遍的に開かれ共有されるべきだという考えに基づき、教育制度や学術出版、図書館といった制度によって、誰もが知にアクセスし理性的な議論に参加できると考えられていた。(80字)
- 解説:
- ①設問分析: 傍線部①「知の公共性」の理念について、「どのような考えに基づき」「どのような制度によって実現されると考えられていたか」を【1】段落から説明。80字以内。
- ②根拠特定: 【1】段落。「知、とりわけ科学的な知は、理性を持つ人間すべてに普遍的に開かれ、共有されるべき公共財として構想」「真理は唯一であり、客観的な手続きによって検証可能であるならば、それは~人類共通の資産となるはず」「教育制度の普及や、学術出版、図書館といった制度は、この~理念を社会的に実現するための装置」。
- ③要素抽出: [基盤となる考え:知は普遍的・公共財、理性によるアクセス・共有可能] + [実現手段(制度):教育制度、学術出版、図書館]
- ④構成案: まず理念の基盤となる考え方(知の普遍性・公共性)を説明し、次にそれを実現するための制度的装置を具体的に挙げる。
- ⑤記述のポイント: 「考えに基づき」「制度によって実現される」という設問の要求に応える構成にする。「普遍的」「公共財」「理性」「アクセス」「共有」といったキーワードを含める。
- ⑥自己チェック: 考えと制度の両方が説明されているか?【1】段落の内容に基づいているか?字数は適切か?
問題 3 (※難易度:高)
- 解説:
- ①設問分析: 傍線部②「深刻な疑問」が提起された背景・理由(=近代的な知の公共性が抱える課題・矛盾)を、【3】~【5】の内容から三つの観点で説明。各40字程度、合計120字程度。
- ②根拠特定: 【3】専門知の高度化・閉鎖化による市民社会との断絶、価値判断の必要性。【4】科学的知識自体の不確実性と社会的合意形成の必要性。【5】知の生産・流通プロセスへの経済的・政治的利害の介入、知の中立性の喪失。
- ③要素抽出・整理(三観点):
- 観点1(専門知と市民社会):知が高度に専門化・閉鎖化し、市民には難解となり、多様な価値判断が必要な課題について断絶が生じた。(【3】)
- 観点2(知の不確実性):科学的知識自体が不確実性を伴い、絶対的な正解がないため、社会的な熟議と合意形成が不可欠になった。(【4】)
- 観点3(知と権力・利害):知の生産・流通が経済的利害や政治的力関係の影響を強く受けるようになり、中立的な公共財とは言えなくなった。(【5】)
- ④構成案: 上記三つの観点をそれぞれ簡潔にまとめ、接続詞などで繋いで記述する。各観点が40字程度になるように調整する。
- ⑤解答例: 第一に、知の高度な専門化・閉鎖化が進み、多様な価値判断が必要な現代的課題について市民社会との間に断絶が生じている点。第二に、科学的知識自体が不確実性を伴い、社会的な熟議と合意形成が不可欠となった点。第三に、知の生産・流通が経済的・政治的利害と不可分になり、中立性を失った点。(120字)
- ⑥記述ポイント: 設問の要求通り、三つの観点を明確に区別して記述すること。「第一に~点。第二に~点。第三に~点。」のように整理すると分かりやすい。各観点の核心(専門知の閉鎖性、不確実性、権力・利害との結びつき)を的確に捉える。
- ⑦自己チェック: 三つの観点は挙げられているか?【3】~【5】の内容は踏まえられているか?各観点は明確に区別されているか?字数は適切か?
問題 4 (※難易度:高)
- 解説:
- ①設問分析: 傍線部(a)「万能人や一般知識人の存在が現実的でない」理由と、それが引き起こす問題を説明。本文全体を踏まえ、合わせて120字以内。
- ②根拠特定:
- 理由: 傍線部(a)の直前【2】段落後半。「知の高度な専門化・細分化」「各分野の知識が膨大かつ複雑に」なったこと。
- 問題点: その結果として【3】段落で述べられている「専門家と市民社会との間の深刻な断絶」。専門家は他分野に疎く、市民は専門知を理解できず、専門家は市民の懸念を軽視し、不信感が生まれる状況。
- ③要素抽出: [理由:知の高度な専門化・細分化、知識の膨大化・複雑化] → [結果((a)の状況):万能人・一般知識人の不在] → [引き起こされる問題:専門家と市民の断絶、相互不信、意思決定の困難]
- ④構成案: まず理由(知の専門化・複雑化)を説明する。次に、その結果として生じている問題(専門家と市民の断絶、相互不信)を具体的に説明する。「理由は~であり、その結果~という問題が生じている」という構成。
- ⑤解答例: 理由は、科学技術の発展により各分野の知識が高度に専門化・細分化し、膨大かつ複雑になったためである。その結果、専門家は他分野や社会全体への影響を考慮しきれず、市民は専門知を理解できず専門家への不信感を抱き、本来必要な社会全体での理性的な討論や意思決定が困難になるという問題が生じている。(119字)
- ⑥記述ポイント: 理由と問題点を明確に区別して記述する。理由は【2】段落から、問題点は【3】段落の内容を中心にまとめる。「専門化」「断絶」「不信感」「意思決定困難」といったキーワードを入れる。
- ⑦自己チェック: 理由と問題点の両方が説明されているか?それぞれの根拠は本文にあるか?因果関係は明確か?字数は適切か?
問題 5
- 解説:
- ①設問分析: 傍線部⑥「現実の複雑性」とは、現代において「知の公共性」再考で直視すべきどのような状況か、具体的な要素を【2】~【5】から三つ挙げて説明。100字以内。
- ②根拠特定: 【2】~【5】で述べられている、近代的な「知の公共性」の理想が現実には機能しなくなっている状況、すなわち課題や矛盾点を具体的に挙げればよい。問3で整理した三つの観点がそのまま使える。
- 【2】(【3】と関連):専門知の閉鎖性と市民社会との断絶。
- 【4】:科学的知識自体の不確実性。
- 【5】:知の生産・流通への経済的・政治的利害の介入(知の中立性の喪失)。
- ③要素抽出: [要素1:専門知の閉鎖性と市民社会との断絶] + [要素2:科学的知識の不確実性] + [要素3:知への経済的・政治的利害の介入]
- ④構成案: 上記三つの要素を簡潔に列挙する形でまとめる。
- ⑤解答例: 知の高度な専門化・閉鎖化による市民社会との断絶、科学的知識自体の不確実性の増大、そして知の生産・流通プロセスへの経済的・政治的利害の介入という、知がもはや単純な公共財とは言えない複雑な状況。(100字)
- ⑥記述ポイント: 【2】~【5】から、現代の「知」が抱える課題・問題点を具体的に三つ選び出すこと。各要素を簡潔な言葉で表現する。
- ⑦自己チェック: 三つの要素は挙げられているか?【2】~【5】の内容に基づいているか?「複雑性」を示す内容になっているか?字数は適切か?
問題 6 (※難易度:高)
- 解説:
- ①設問分析: 傍線部⑦の問い(信頼、対話、合意形成をどう可能にするか)に対する筆者の解決の方向性を、⑩「制度設計と実践的工夫」の具体例と⑨「専門知の位置づけ」に触れて説明。150字以内。
- ②根拠特定: 解決の方向性は【6】~【8】段落で述べられている。【6】ではトランス・サイエンスなどの考え方を紹介し、対話と協働、多様な知の尊重を提示。⑨「専門知の位置づけ」は【6】段落末尾(絶対的権威でなく、対話し吟味されるべき声)。⑩「制度設計と実践的工夫」の具体例は【7】段落(情報公開、対話の場、ファシリテーター、政策反映の仕組み)。
- ③要素抽出: [解決の方向性:多様な主体間の対話と協働による意思決定] + [そのための制度・工夫(⑩):情報公開、対話の場設定、ファシリテーター、政策反映] + [求められる専門知の位置づけ(⑨):絶対的権威ではなく、他の知と対話し吟味される一つの声]
- ④構成案: まず、解決の方向性が多様な主体間の対話と協働にあることを示す。次に、それを実現するための具体的な制度設計や実践的工夫(⑩の例)に触れる。そして、その対話プロセスにおける専門知の新たな位置づけ(⑨)を説明して締めくくる。
- ⑤解答例: 専門家と市民等が対等に対話し協働する意思決定を目指し、情報公開を進め、サイエンスカフェ等の対話の場を設け、ファシリテーターが多様な意見を調整し、その結果を政策決定に反映させる制度設計と実践的工夫(⑩)が必要だと示している。その際、専門知は絶対的な権威ではなく、市民の経験知等と対話し社会的な文脈で吟味されるべき一つの声(⑨)として位置づけ直される。(149字)
- ⑥記述ポイント: 設問の要求通り、⑩の具体例と⑨の位置づけの両方を盛り込むこと。「対話」「協働」「多様な主体」「合意形成」といったキーワードを使う。専門知が絶対視されるのではなく、相対化され、他の知と対等な関係で議論されるようになる、という変化を明確に示す。
- ⑦自己チェック: 解決の方向性は示されているか?⑩の具体例は?⑨の位置づけは?両者の関連は?字数は適切か?
問題 7
- 解説:
- ①設問分析: 傍線部(c)「健全な信頼関係再構築と公共的利益への方向づけ」のために最も重要な「根源的な態度」を、【8】段落と【10】段落から根拠箇所を各15字以内で抜き出し、統合して80字以内で説明。
- ②根拠特定:
- 【8】段落:最も重要と考えられる態度は、末尾の「倫理的な熟慮を深めていく必要があるだろう」あるいは「主体的な選択と責任が問われる」あたり。15字以内だと「倫理的な熟慮」(6字)や「主体的な選択と責任」(9字)、「社会的議論」(6字)など。
- 【10】段落:根源的な態度として「自らの知と社会のあり方を反省的に問い続ける姿勢」が挙げられている。15字以内だと「反省的に問い続ける姿勢」(11字)。
- ③要素抽出・統合: 根拠箇所からは「倫理的な熟慮」「主体的な選択と責任」「反省的に問い続ける姿勢」といった要素が抽出できる。これらを統合し、(c)の目的(信頼再構築、公共的利益)に繋がる根源的な態度として説明する。
- ④構成案: 【8】と【10】から抜き出した根拠(例:「倫理的な熟慮」「反省的に問い続ける姿勢」)を示し、それらを統合して、専門知の限界や社会への影響を自覚し、倫理観を持って主体的に関与し、常に問い続ける姿勢が重要である、と説明する。
- ⑤解答例: 【8】倫理的な熟慮(6字)、【10】反省的に問い続ける姿勢(11字)。専門知の限界や社会的影響を自覚し、倫理観を持って主体的に関与し、知と社会のあり方を常に反省的に問い続ける姿勢が、健全な信頼関係の再構築と公共的利益への方向づけに不可欠である。(80字)
- ⑥記述のポイント: 設問通り、二つの段落から根拠箇所を15字以内で正確に抜き出すこと。抜き出した語句を単に繋げるだけでなく、それらが示す「態度」を統合し、分かりやすく説明すること。
- ⑦自己チェック: 二箇所からの抜き出しは正確か?統合された説明は「根源的な態度」を示しているか?(c)との繋がりは?字数は適切か?
問題 8
- 解説:
- ①設問分析: 文章全体の論旨要約。300字以内。
- ②文章構造・要素抽出(問1解説参照):
- (A) 近代の理想化された「知の公共性」観(普遍性、透明性)とその前提。
- (B) その理念が抱える現実的な課題・矛盾(専門知の閉鎖性と市民との断絶、知の不確実性、知への権力・利害の介入)。
- (C) 現代における新たな課題(デジタル化による知のあり方の変容も暗に含む)。
- (D) 解決の方向性(専門知と市民知の対話・協働、トランス・サイエンス)。
- (E) 求められる姿勢(制度設計・実践的工夫、専門知の相対化、倫理的熟慮、主体的関与、開かれた対話プロセス、未完のプロジェクトとしての認識)。
- ③構成案: 近代的な知の公共性の理念とその限界・課題(専門知の閉鎖性、不確実性、権力・利害の影響)をまず述べ、次に現代において専門家と市民の対話・協働を通じた新たな知の公共性を再構築する必要性を指摘し、最後にその実現のために求められる具体的な取り組みや個々人の姿勢(リテラシー、対話の場の設計、倫理的熟慮、主体的・反省的態度)を述べる、という流れで構成する。
- ④解答例: 近代において知は普遍的に開かれた公共財と構想されたが、知の高度な専門化・閉鎖化による市民社会との断絶、科学的知識自体の不確実性、そして知の生産・流通への経済的・政治的利害の介入により、その理想は現実との間に大きな矛盾を抱えるに至った。現代社会が直面する複雑な課題に対処するためには、専門家中心の意思決定モデルを脱却し、専門知と市民の経験知などが対等に対話し協働する、新たな知の公共性を再構築する必要がある。それには、情報公開や対話の場の設置といった制度設計と共に、専門家は自らの限界を認め、市民はリテラシーを高め、互いに敬意を持って熟議する姿勢が求められる。知のあり方を社会全体で問い直し、多様な価値が交差する対話的なプロセスを通じて、未来への責任ある選択を行っていくことが、現代の課題である。(299字)
- ⑤記述のポイント: 文章全体の論理の流れ(近代の理念→その問題点→現代の課題→解決の方向性)を明確に示すこと。各段階のキーワード(公共性、専門知、市民、断絶、不確実性、利害、対話、協働、リテラシー、倫理)を適切に盛り込むこと。300字という字数を考慮し、各要素の説明の詳しさを調整する。
- ⑥自己チェック: 全体の論旨は捉えられているか?主要な論点は含まれているか?論理的な流れは自然か?キーワードは適切か?字数は適切か?
学習上のポイント:
- 総合演習では、知識・読解・思考・表現の全ての能力が問われます。各設問に取り組む際に、どの能力が特に要求されているかを意識し、これまでの学習内容(各Module)を連携させて活用することが重要です。
- 時間配分は極めて重要です。100分という限られた時間内で、長文を読み、多様な設問(知識、選択肢、抜き出し、記述、要約)に対応するには、事前の時間配分計画と、解答中のペース管理・調整が不可欠です。(Module 5参照)
- 設問間の関連にも注意しましょう。前の設問の解答や考察が、後の設問を解く上でのヒントになることがあります。
- 記述・要約問題は配点が高いことが多く、合否を左右する鍵となります。解答設計(アウトライン作成)を丁寧に行い、論理的で分かりやすい答案を時間内に作成する練習を重点的に行いましょう。(Module 5参照)
- (※難易度:高)と付記された問題は、特に思考の深さ、多角的な視点、情報の統合・応用力が求められます。すぐに諦めず、粘り強く考え抜く姿勢が大切です。分からなくても、部分点を狙う意識を持ちましょう。
- 解答後は、必ず全問の詳細な自己分析を行い、課題を明確にして次に繋げることが、実戦力向上に不可欠です。