【基礎 数学(数学Ⅰ)】Module 5:2次関数(2) 最大・最小
本モジュールの目的と構成
前回のモジュールで、私たちは代数と幾何を翻訳する普遍的な言語を手に入れ、2次関数の「静的な姿」、すなわちグラフの形状と位置を正確に把握する能力を身につけました。本モジュールでは、その能力を携え、数学が現実世界の問題解決において果たす最も重要な役割の一つ、すなわち**「最適化(optimization)」**の世界へと足を踏み入れます。最適化とは、与えられた制約の中で、望む結果を最大化、あるいはコストを最小化するにはどうすればよいか、という根源的な問いに答えるための思考法です。
この「最大・最小問題」は、物理学におけるエネルギー最小の法則から、経済学における利益最大化、工学における材料の最適設計に至るまで、あらゆる知的探求の核心に存在するテーマです。そして、その最も基本的かつ重要なモデルケースを学ぶための、完璧な訓練場となるのが2次関数なのです。放物線というシンプルな曲線の上を動く点の「高さ」の最大・最小を考えることを通じて、私たちは、より複雑な問題にも通用する、体系的で論理的な最適化の思考プロセスを習得します。
このモジュールで学ぶ中心的な技術は、**「場合分け(case analysis)」**です。関数の定義される範囲(定義域)と、グラフの対称軸の位置関係を、あたかもチェスの盤面を読むように、考えうるすべてのパターンに分類し、それぞれの状況で最適解がどこに現れるかを論理的に突き詰めていきます。特に、軸や定義域そのものがパラメータによって「動く」状況を考察することは、静的な一点の答えを求めるだけでなく、状況の変化に応じて最適解がどのように移り変わっていくのかを捉える、高度で動的な分析能力を養います。
このモジュールを終えるとき、皆さんは単に計算問題が解けるだけでなく、与えられた状況の本質を捉え、制約条件を分析し、最適な選択肢を論理的に導き出すという、普遍的な問題解決能力の基礎をその手にしているでしょう。そのために、以下のステップを順に探求していきます。
- 最適値の言語(最大値・最小値の定義): 最適化問題を数学の言葉で語るための基本語彙である「最大値」「最小値」を厳密に定義し、それらがグラフ上の「最も高い点」「最も低い点」のy座標に対応することを学びます。
- 制約なき世界(定義域が全実数の場合): 最もシンプルな状況設定として、定義域に制限がない場合の最大・最小を考え、それがグラフの頂点と完全に一致することを確認します。
- 制約下の最適化(定義域に制限がある場合): 本モジュールの核心。定義域という「制約」が課せられたときの最大・最小問題の解法を学びます。**「軸と定義域の位置関係」**による3パターンの場合分けが、あらゆる問題を解くための万能の鍵となります。
- 動くグラフを追う(軸が変動する場合): グラフの軸の位置がパラメータによって左右に動く状況を分析します。定義域は固定したまま、動くグラフに対して最適解がどのように変化するかを追跡します。
- 動く窓から見る(定義域が変動する場合): グラフは固定したまま、観測範囲である定義域(ウィンドウ)が左右に動く状況を分析します。静的な風景を、動く窓から眺めたときの最適点を探る思考を訓練します。
- 最適解の特定(最大値・最小値を与える変数の値): 最適な結果(最大値・最小値)だけでなく、その結果を「いつ」「どのようにして」達成するのか、すなわち最適解を与える
x
の値を正確に特定することの重要性を学びます。 - 高次への応用(置換による帰着): 一見複雑な4次関数などの最大・最小問題を、「置換」を用いて2次関数の問題に変換(帰着)させるエレガントな解法を学びます。ここでは**「定義域の再設定」**が鍵となります。
- 多次元への拡張(2変数関数の最大・最小): 変数が二つに増えた関数の最適化問題に挑みます。「一つの変数を固定し、残りの変数について平方完成する」という段階的なアプローチで、多次元の問題を一次元の問題に分解する思考法を身につけます。
- 絶対値という制約(絶対値記号を含む関数): 絶対値記号によってグラフが「折り返される」関数の最大・最小を考えます。グラフを正確に描き、その形状から最適解を読み解く能力を養います。
- 現実世界への架け橋(最大・最小問題の応用): 図形の面積や、商品の売上といった具体的な文章題を、2次関数の最大・最小問題として「モデル化」し、数学を現実の問題解決に応用するプロセスを体験します。
それでは、最適化という知的冒険の第一歩、2次関数の最大・最小の世界へ進みましょう。
1. 2次関数の最大値・最小値の定義
最適化の問題を数学の言葉で厳密に議論するためには、まず、その目標となる「最大」や「最小」が何を指すのか、その定義を明確に共有する必要があります。日常会話で使う「最大」や「最小」という言葉と、数学における定義は本質的には同じですが、数学ではより厳密性が求められます。
このセクションでは、関数の**最大値(maximum value)と最小値(minimum value)**を定義し、それらがグラフ上でどのような幾何学的な意味を持つのかを明らかにします。また、「最大値」そのものと、「最大値をとるときの変数の値」を区別して考えることの重要性を学びます。
1.1. 最大値・最小値の厳密な定義
定義: 関数 \(y=f(x)\) が、ある定義域においてとりうる y
の値について、
- その最も大きい値を、その関数の最大値という。
- その最も小さい値を、その関数の最小値という。
- 最大値と最小値を合わせて**最大値・最小値(extreme values)**と総称することもある。
この定義の核心は、最大値・最小値とは、あくまで関数の出力である y
の値に関するものである、ということです。入力である x
の値ではありません。グラフで言えば、**点の「高さ」**に関する最も高い地点と最も低い地点のy座標を指します。
重要な注意点:
- 存在しない場合もある: 関数によっては、最大値や最小値が存在しない場合があります。例えば、定義域が全実数のときの直線 \(y=x\) は、どこまでも大きく、またどこまでも小さくなれるため、最大値も最小値も存在しません。
- 定義域に依存する: 関数の最大値・最小値は、考えうる
x
の範囲、すなわち定義域に完全に依存します。同じ関数でも、定義域が変われば、最大値や最小値は変化したり、存在したりしなかったりします。
1.2. グラフとの対応
関数の最大値・最小値は、そのグラフを描くことで、一目瞭然となります。
- 最大値: グラフ上の最も高い点の y座標
- 最小値: グラフ上の最も低い点の y座標
上のグラフでは、定義域内で最も高い点のy座標が M
であり、これが最大値です。最も低い点のy座標が m
であり、これが最小値です。
1.3. 「値」と「それを与えるx」の区別
最大・最小の問題に答える際には、通常、二つの情報をセットで記述することが求められます。
- 最大値・最小値そのもの(
y
の値) - その最大値・最小値をとるときの
x
の値
例えば、「最小値は5である」だけでは不十分で、「x=3
のとき、最小値 5
をとる」というように、**「いつ(x
がいくつのとき)」「どのような最適値(y
の値)になるのか」**を明確に記述する習慣をつけましょう。
例:
関数 \(y=(x-3)^2+5\) について考える。
このグラフは、頂点が (3, 5) で下に凸の放物線です。
グラフの最も低い点は頂点 (3, 5) です。
- 最小値: 最も低い点のy座標なので
5
。 - 最小値をとるときの
x
の値: そのときのx座標なので3
。 - 最大値: グラフはどこまでも上に伸びていくので、最大値は存在しない。
正しい解答の記述法:
「この関数は、x=3 のとき最小値 5 をとる。最大値はない。」
この「x
の値」と「y
の値」を明確に区別し、両方を正しく求めることが、最大・最小問題の第一歩です。
2. 定義域が全実数の場合の最大・最小
最大・最小問題の最も基本的なケースとして、まずは2次関数の定義域に何の制限もなく、x
がすべての実数値をとる場合を考えてみましょう。この制約のない状況では、放物線はその最も純粋な姿を現し、最大値・最小値のありかも、グラフの最も本質的な特徴点である頂点と完全に一致します。
このシンプルなケースを理解することは、後のより複雑な、定義域に制限がある場合の問題を解くための、思考の原点となります。
2.1. 平方完成と頂点の役割
定義域が全実数の場合、2次関数 \(y=ax^2+bx+c\) の最大値・最小値は、平方完成によって一撃で求めることができます。
平方完成によって得られる標準形 \(y=a(x-p)^2+q\) は、この問題に答えるために最適化された形をしているからです。
標準形の構造 \(y=a(x-p)^2+q\) を思い出しましょう。
(x-p)^2
の部分は、x
が実数である限り、常に0
以上の値をとります((x-p)^2 \ge 0)
。- この項が最小値
0
をとるのは、x=p
のときです。
この事実と、係数 a
の符号(グラフの凸性)を組み合わせることで、すべてが明らかになります。
2.2. 場合分け:グラフの凸性による分類
2.2.1. a>0
の場合(下に凸の放物線)
- グラフは、お椀のように下に開いた形をしています。
- 頂点
(p, q)
が、グラフ全体の最も低い点になります。 - グラフは頂点から両側に、どこまでも無限に上へと伸びていきます。最も高い点というものは存在しません。
結論 (a>0
のとき):
- 最小値:
q
(x=p
のとき) - 最大値: なし
例題 1: 2次関数 \(y=2x^2-12x+19\) の最大値、最小値を求めよ。
- 平方完成:\(y = 2(x^2-6x) + 19\)\(= 2{(x-3)^2-9} + 19\)\(= 2(x-3)^2 – 18 + 19\)\(= 2(x-3)^2 + 1\)
- 結論の読み取り:
- 係数
a=2
でa>0
なので、グラフは下に凸。 - 頂点は
(3, 1)
。 - したがって、この関数は
x=3
のとき、最小値1
をとる。 - 最大値はない。
- 係数
2.2.2. a<0
の場合(上に凸の放物線)
- グラフは、山のように上に開いた形をしています。
- 頂点
(p, q)
が、グラフ全体の最も高い点になります。 - グラフは頂点から両側に、どこまでも無限に下へと落ちていきます。最も低い点というものは存在しません。
結論 (a<0
のとき):
- 最大値:
q
(x=p
のとき) - 最小値: なし
例題 2: 2次関数 \(y = -x^2 – 4x + 1\) の最大値、最小値を求めよ。
- 平方完成:\(y = -(x^2+4x) + 1\)\(= -{(x+2)^2-4} + 1\)\(= -(x+2)^2 + 4 + 1\)\(= -(x+2)^2 + 5\)
- 結論の読み取り:
- 係数
a=-1
でa<0
なので、グラフは上に凸。 - 頂点は
(-2, 5)
。 - したがって、この関数は
x=-2
のとき、最大値5
をとる。 - 最小値はない。
- 係数
2.3. まとめ
定義域が全実数の場合、最大値・最小値問題は、平方完成を実行し、以下の二点を確認するだけの、非常にシンプルなプロセスに帰着します。
a
の符号をチェックして、下に凸か上に凸か(最小値を持つのか最大値を持つのか)を判断する。- 頂点のy座標
q
を読み取り、それが最小値または最大値となる。 - 頂点のx座標
p
を読み取り、その値をとるときのx
の値を特定する。
この最も基本的なケースを確実にマスターすることが、次のステップである、より現実的で複雑な「制約付き」の最適化問題を解くための、自信と理解の土台を築くのです。
3. 定義域に制限がある場合の最大・最小(軸と定義域の位置関係)
現実世界の最適化問題では、「使える資源には限りがある」「時間は有限である」といったように、何らかの制約条件が課せられるのが普通です。これを2次関数の世界に翻訳したものが、定義域に制限がある場合の最大・最小問題です。
定義域が \alpha \le x \le \beta
のように制限されると、私たちはもはや放物線全体を考えるのではなく、その一部分だけを切り取って、その「切り取られた断片」の中での最も高い点と最も低い点を探すことになります。
この問題の核心は、放物線の最も重要な特徴である軸と、切り取る範囲である定義域との位置関係にあります。この位置関係を体系的に分析し、考えうるすべてのパターンを網羅的に分類する「場合分け」の思考こそが、このテーマをマスターするための、唯一かつ最強の武器となります。
3.1. 最大値・最小値の候補
定義域が \alpha \le x \le \beta
に制限されたとき、最大値・最小値の「候補」となる点は、もはや頂点だけではありません。
候補となる点:
- 頂点: グラフの曲がり角である頂点が定義域の中に含まれるなら、そこが最大または最小になる可能性がある。
- 定義域の両端: 切り取られたグラフの断片の両端、すなわち
x=\alpha
の点とx=\beta
の点も、最も高い、あるいは最も低い点になる可能性がある。
私たちの仕事は、軸と定義域の位置関係に応じて、これら3つの候補(頂点、左端、右端)のうち、どれが実際に最大値・最小値になるのかを、論理的に決定することです。
3.2. 思考のフレームワーク:軸と定義域の位置関係による3大パターン
ここでは、下に凸の放物線(a>0
)を例に、最小値と最大値の求め方を考えます。上に凸の場合(a<0
)は、最大と最小の考え方がちょうど逆になります。
設定: 2次関数 \(y=a(x-p)^2+q\) (a>0
)、定義域は \alpha \le x \le \beta
3.2.1. 最小値の求め方
最小値は、グラフの最も低い点なので、頂点が使えるかどうかが全てを決定します。
- パターン(i):軸が定義域の「中」にある場合 (
\alpha \le p \le \beta
)- 頂点
(p, q)
が定義域内に含まれています。 - 下に凸のグラフなので、頂点が最も低い点になります。
- 最小値:
q
(x=p
のとき)
- 頂点
- パターン(ii):軸が定義域の「左」にある場合 (
p < \alpha
)- 頂点は、私たちが考える範囲よりも左側にあります。
- 私たちが注目する
\alpha \le x \le \beta
の範囲では、グラフは頂点から離れていく、右上がりの部分だけになります。 - したがって、最も低い点は、定義域の左端
x=\alpha
の点になります。 - 最小値:
f(\alpha)
(x=\alpha
のとき)
- パターン(iii):軸が定義域の「右」にある場合 (
p > \beta
)- 頂点は、考える範囲よりも右側にあります。
- 注目する範囲では、グラフは頂点に向かっていく、右下がりの部分だけになります。
- したがって、最も低い点は、定義域の右端
x=\beta
の点になります。 - 最小値:
f(\beta)
(x=\beta
のとき)
3.2.2. 最大値の求め方
最大値は、グラフの最も高い点です。下に凸の場合、頂点が最大値になることはありません。したがって、最大値は必ず定義域の両端 x=\alpha と x=\beta のどちらかになります。
では、どちらがより高いのでしょうか?それは、軸からより遠い方です。
- 軸 (
x=p
) から遠い方の端点で最大値をとる。
これを、先ほどの3つのパターンに適用して考えることもできますが、より効率的なのは、定義域の中央と軸の位置を比較する方法です。
- 定義域の中央:
M = (\alpha+\beta)/2
- パターン(A):軸が定義域の中央より「左」にある場合 (
p < M
)- 軸は中央より左に寄っているので、右端
x=\beta
の方が軸から遠くなります。 - 最大値:
f(\beta)
(x=\beta
のとき)
- 軸は中央より左に寄っているので、右端
- パターン(B):軸が定義域の中央より「右」にある場合 (
p > M
)- 軸は中央より右に寄っているので、左端
x=\alpha
の方が軸から遠くなります。 - 最大値:
f(\alpha)
(x=\alpha
のとき)
- 軸は中央より右に寄っているので、左端
- パターン(C):軸が定義域の中央に一致する場合 (
p=M
)- 軸がちょうど真ん中にあるので、両端の高さは同じになります。
- 最大値:
f(\alpha) = f(\beta)
(x=\alpha, \beta
のとき)
3.3. 実践例
例題: 関数 \(y=x^2-4x+1\) の定義域が \(0 \le x \le 3\) であるときの最大値と最小値を求めよ。
- 平方完成とグラフの基本情報の把握:\(y = (x-2)^2-3\)
- グラフは下に凸(
a=1>0
)。 - 軸は直線
x=2
。 - 頂点は
(2, -3)
。
- グラフは下に凸(
- 軸と定義域の位置関係の確認:
- 軸
x=2
- 定義域
0 \le x \le 3
0 \le 2 \le 3
なので、軸は定義域の「中」 にある。
- 軸
- 最小値の決定:
- 軸が定義域の中にあるので、最小値は頂点でとる。
x=2
のとき、最小値-3
。
- 最大値の決定:
- 最大値は定義域の両端
x=0
とx=3
のどちらかでとる。 - 軸
x=2
からの距離を比べる。x=0
までの距離:|0-2|=2
x=3
までの距離:|3-2|=1
x=0
の方が軸から遠いので、x=0
で最大値をとる。f(0) = 0^2-4(0)+1 = 1
x=0
のとき、最大値1
。
- 最大値は定義域の両端
- 結論の記述:この関数は、x=0 のとき最大値 1 をとり、x=2 のとき最小値 -3 をとる。
この「軸と定義域の位置関係」に基づく場合分けの思考法は、この先の「軸が動く問題」「定義域が動く問題」を解くための、揺るぎない土台となります。この論理的なフレームワークを完全に自分のものにしてください。
4. 軸が変動する場合の最大・最小
定義域に制限がある場合の最大・最小問題の思考フレームワークを習得した今、私たちはその応用として、よりダイナミックな状況、すなわちグラフ自体が動く場合の問題に挑戦します。
具体的には、2次関数の係数にパラメータ m
などが含まれることで、放物線の軸が m
の値に応じて左右に移動するケースを扱います。定義域(観測範囲)は固定されているのに、対象となるグラフが動くため、m
の値(つまり軸の位置)によって、最大値や最小値をとる場所が目まぐるしく変化します。
ここでの課題は、単に一つの状況の答えを出すことではありません。パラメータ m
の値の範囲に応じて、「最大値・最小値がどのように変化するのか」を、すべての場合を尽くして(場合分けして)記述し尽くすことです。これは、前セクションで学んだ「軸と定義域の位置関係による3大パターン」を、パラメータ m
の言葉で翻訳し直す作業に他なりません。
4.1. 問題の構造と基本戦略
典型的な問題設定:
2次関数 \(y=f(x, m)\)(例:\(y=(x-m)^2+1\))が、固定された定義域(例:\(0 \le x \le 2\))においてとる最大値・最小値を、m の値で場合分けして求めよ。
基本戦略:
- 平方完成を行い、軸の方程式を
m
の式で表す。(例:x=m
) - 固定された定義域(例:
0 \le x \le 2
)に対して、軸x=m
がどの位置にあるかを、前セクションで学んだ3つのパターンに分類する。- パターン(i):軸が定義域の「左」 (
m < 0
) - パターン(ii):軸が定義域の「中」 (
0 \le m \le 2
) - パターン(iii):軸が定義域の「右」 (
m > 2
)
- パターン(i):軸が定義域の「左」 (
- それぞれの
m
の範囲において、最大値・最小値がどのx
の値で与えられるかを特定し、その値をm
の式で表現する。
4.2. 実践例:最小値の場合分け
例題 1: 関数 \(f(x)=x^2-2mx+1\) の定義域が \(0 \le x \le 2\) であるときの最小値を、m
の値で場合分けして求めよ。
- 平方完成と基本情報の確認:\(f(x) = (x-m)^2 – m^2 + 1\)
- グラフは下に凸。
- 軸は直線
x=m
。 - 頂点は
(m, -m^2+1)
。 - 求めるのは最小値。
- 軸 x=m と定義域 0 \le x \le 2 の位置関係で場合分け:下に凸のグラフの最小値は、「頂点が使えるか、使えないか」で決まります。
- 場合分け(i):軸が定義域の左側にあるとき (
m < 0
)- 頂点は定義域より左にあるため使えない。
- グラフは定義域内で単調に増加する。
- したがって、最小値は定義域の左端
x=0
でとる。 - 最小値:\(f(0) = 0^2 – 2m(0) + 1 = 1\)
- 場合分け(ii):軸が定義域の中にあるとき (
0 \le m \le 2
)- 頂点が定義域内に含まれるため、頂点で最小となる。
- したがって、最小値は
x=m
でとる。 - 最小値:\(f(m) = (m-m)^2-m^2+1 = -m^2+1\)
- 場合分け(iii):軸が定義域の右側にあるとき (
m > 2
)- 頂点は定義域より右にあるため使えない。
- グラフは定義域内で単調に減少する。
- したがって、最小値は定義域の右端
x=2
でとる。 - 最小値:\(f(2) = 2^2 – 2m(2) + 1 = 4 – 4m + 1 = 5-4m\)
- 場合分け(i):軸が定義域の左側にあるとき (
- 結論のまとめ:解答は、これらすべてをまとめて記述します。
m<0
のとき、最小値は1
(x=0
のとき)0 \le m \le 2
のとき、最小値は-m^2+1
(x=m
のとき)m>2
のとき、最小値は5-4m
(x=2
のとき)
この解答は、m
という操縦桿の値に応じて、最小値という結果がどのようにダイナミックに変化するかを完全に記述した「取扱説明書」のようなものです。
4.3. 実践例:最大値の場合分け
例題 2: 同じ関数 \(f(x)=x^2-2mx+1\) と同じ定義域 \(0 \le x \le 2\) における最大値を求めよ。
- 基本情報の確認:下に凸のグラフの最大値は、定義域の両端 x=0, x=2 のどちらかでとります。どちらが最大になるかは、軸 x=m から遠い方です。したがって、場合分けの境界線は、軸が定義域の中央と一致するときになります。
- 定義域の中央の特定:定義域 0 \le x \le 2 の中央は、\(\frac{0+2}{2}=1\)。
- 軸
x=m
と定義域の中央x=1
の位置関係で場合分け:- 場合分け(A):軸が中央より左にあるとき (
m < 1
)- このとき、右端
x=2
の方が軸x=m
から遠い。 - したがって、最大値は
x=2
でとる。 - 最大値:\(f(2) = 5-4m\)
- このとき、右端
- 場合分け(B):軸が中央に一致するとき (
m = 1
)- 軸がちょうど真ん中にあるため、両端
x=0
とx=2
の高さは等しくなる。 - 最大値:\(f(0) = 1\) および \(f(2) = 5-4(1)=1\)。
- (このケースは(A)か(C)のどちらかに含めて記述することが多い)
- 軸がちょうど真ん中にあるため、両端
- 場合分け(C):軸が中央より右にあるとき (
m > 1
)- このとき、左端
x=0
の方が軸x=m
から遠い。 - したがって、最大値は
x=0
でとる。 - 最大値:\(f(0) = 1\)
- このとき、左端
- 場合分け(A):軸が中央より左にあるとき (
- 結論のまとめ:(m=1 の場合を場合分け(A)に含めて記述する)
m \le 1
のとき、最大値は5-4m
(x=2
のとき)m > 1
のとき、最大値は1
(x=0
のとき)
軸が動く問題は、一見すると複雑ですが、その根底にあるのは「軸と定義域の位置関係」という、たった一つの原理です。この原理に立ち返り、パラメータ m
の数直線上で、どの範囲がどのパターンに対応するのかを冷静に分析すれば、必ず正解にたどり着くことができます。これは、論理的な場合分けの能力を鍛えるための、最良の訓練問題と言えるでしょう。
5. 定義域が変動する場合の最大・最小
軸が変動する場合の問題で、私たちは「固定された窓から、動く風景を眺める」という状況を分析しました。このセクションで扱う定義域が変動する問題は、その逆、すなわち「静止した風景(固定されたグラフ)を、動く窓(変動する定義域)から眺める」という状況です。
典型的な問題設定:
固定された2次関数(例:\(y=x^2-2x+3\))が、パラメータ a を含む定義域(例:\(a \le x \le a+2\))においてとる最大値・最小値を、a の値で場合分けして求めよ。
この問題では、放物線は動きません。動くのは、幅が 2
に保たれたまま左右にスライドする「観測ウィンドウ」としての定義域です。しかし、この問題の解法の本質も、これまでと全く同じです。すなわち、グラフの軸と、動く定義域との位置関係を、3つのパターンに場合分けして分析することです。
5.1. 問題の構造と基本戦略
基本戦略:
- 平方完成を行い、固定されたグラフの軸の方程式を特定する。(例:
x=1
) - 変動する定義域(例:
a \le x \le a+2
)に対して、固定された軸x=1
がどの位置にあるかを、3つのパターンに分類する。- パターン(i):軸が定義域の「左」 (
1 < a
) - パターン(ii):軸が定義域の「中」 (
a \le 1 \le a+2
) - パターン(iii):軸が定義域の「右」 (
1 > a+2
)
- パターン(i):軸が定義域の「左」 (
- この
a
に関する不等式を解いて、場合分けの範囲を決定する。 - それぞれの
a
の範囲において、最大値・最小値がどのx
の値で与えられるかを特定し、その値をa
の式で表現する。
5.2. 実践例:最小値の場合分け
例題 1: 関数 \(f(x)=x^2-2x+3\) の定義域が \(a \le x \le a+2\) であるときの最小値を、a
の値で場合分けして求めよ。
- 平方完成と基本情報の確認:\(f(x) = (x-1)^2 + 2\)
- グラフは下に凸。
- 軸は直線
x=1
。(固定) - 頂点は
(1, 2)
。 - 求めるのは最小値。
- 固定された軸 x=1 と動く定義域 a \le x \le a+2 の位置関係で場合分け:下に凸のグラフの最小値は、頂点が定義域に含まれるかどうかで決まります。
- 場合分け(i):軸が定義域の左側にあるとき (
1 < a
)- 観測ウィンドウ
[a, a+2]
が、軸x=1
よりも完全に右側にある状態。 - このとき、グラフは定義域内で単調に増加する。
- 最小値は、定義域の左端
x=a
でとる。 - 最小値:\(f(a) = a^2-2a+3\)
- 観測ウィンドウ
- 場合分け(ii):軸が定義域の中にあるとき (
a \le 1 \le a+2
)- 観測ウィンドウ
[a, a+2]
が、軸x=1
をまたいでいる状態。 - この不等式を a について解くと、a \le 1 かつ 1 \le a+2 \implies -1 \le aよって、a の範囲は -1 \le a \le 1 となる。
- このとき、頂点が定義域内に含まれるため、最小値は頂点でとる。
- 最小値は
x=1
でとる。 - 最小値:\(f(1) = 2\)
- 観測ウィンドウ
- 場合分け(iii):軸が定義域の右側にあるとき (
1 > a+2
)- 観測ウィンドウ
[a, a+2]
が、軸x=1
よりも完全に左側にある状態。 - この不等式を
a
について解くと、a < -1
となる。 - このとき、グラフは定義域内で単調に減少する。
- 最小値は、定義域の右端
x=a+2
でとる。 - 最小値:\(f(a+2) = ((a+2)-1)^2+2 = (a+1)^2+2 = a^2+2a+3\)
- 観測ウィンドウ
- 場合分け(i):軸が定義域の左側にあるとき (
- 結論のまとめ:
a < -1
のとき、最小値はa^2+2a+3
(x=a+2
のとき)-1 \le a \le 1
のとき、最小値は2
(x=1
のとき)a > 1
のとき、最小値はa^2-2a+3
(x=a
のとき)
5.3. 実践例:最大値の場合分け
例題 2: 同じ関数 \(f(x)=x^2-2x+3\) と同じ定義域 \(a \le x \le a+2\) における最大値を求めよ。
- 基本情報の確認:下に凸のグラフの最大値は、定義域の両端 x=a と x=a+2 のどちらかでとります。どちらが最大になるかは、固定された軸 x=1 から遠い方です。したがって、場合分けの境界線は、軸が定義域の中央と一致するときになります。
- 定義域の中央の特定:定義域 a \le x \le a+2 の中央は、\(\frac{a+(a+2)}{2} = \frac{2a+2}{2} = a+1\)。
- 固定された軸
x=1
と動く定義域の中央x=a+1
の位置関係で場合分け:- 場合分け(A):軸が中央より左にあるとき (
1 < a+1
)a
について解くとa > 0
。- 軸が中央より左にあるので、右端
x=a+2
の方が軸から遠い。 - 最大値は
x=a+2
でとる。 - 最大値:\(f(a+2) = a^2+2a+3\)
- 場合分け(B):軸が中央に一致するとき (
1 = a+1
)a
について解くとa = 0
。- 軸がちょうど真ん中にあるため、両端
x=a=0
とx=a+2=2
の高さは等しくなる。 - 最大値は
x=0, 2
でとる。 - 最大値:\(f(0)=3\), \(f(2)=3\)。
- 場合分け(C):軸が中央より右にあるとき (
1 > a+1
)a
について解くとa < 0
。- 軸が中央より右にあるので、左端
x=a
の方が軸から遠い。 - 最大値は
x=a
でとる。 - 最大値:\(f(a) = a^2-2a+3\)
- 場合分け(A):軸が中央より左にあるとき (
- 結論のまとめ:
a < 0
のとき、最大値はa^2-2a+3
(x=a
のとき)a = 0
のとき、最大値は3
(x=0, 2
のとき)a > 0
のとき、最大値はa^2+2a+3
(x=a+2
のとき)
「軸が動く」問題も「定義域が動く」問題も、見かけは異なりますが、解法の根底にある論理は「軸と定義域の位置関係による場合分け」という、完全に共通のものです。どちらが動き、どちらが固定されているのかを正確に把握し、この普遍的なフレームワークを適用することが、問題を解く鍵となります。
6. 最大値・最小値を与える変数の値の特定
これまでの議論を通じて、私たちは関数の最大値・最小値(y
の値)を求める方法を学んできました。しかし、最適化の問題においては、**「どのような結果が得られるか」と同じくらい、「その結果をどのようにして達成するか」**が重要です。数学の言葉で言えば、最大値・最小値そのものだけでなく、それらの値を与える独立変数 x
の値を特定することが、解答の不可欠な一部となります。
このセクションは、新しい技術を学ぶものではありません。むしろ、最大・最小問題を解く上での「作法」や「思考の厳密性」を再確認し、なぜ「x
の値の特定」が重要なのか、その理由を深く理解するためのものです。
6.1. なぜ x
の値の特定が重要なのか?
- 解答の完全性:大学入試などの採点においては、「最大値は10」とだけ答えても、満点にはならないことがほとんどです。「x がどのような値のときに」その最大値になるのかを明記して、初めて完全な解答とみなされます。
- 解の存在保証:例えば、相加平均・相乗平均の関係を用いた問題で、不等式から「最小値は6以上」という結論 y \ge 6 が得られたとします。しかし、これはあくまで「最小値の候補が6である」ことを示しているに過ぎません。実際に y=6 となるような x の値が、問題の条件(定義域など)の範囲内に存在することを示して、初めて「最小値は6である」と断言できます。この存在保証の役割を果たすのが、等号成立条件、すなわち最小値を与える x の値の特定なのです。
- 現実問題への応用:応用問題において、x の値は具体的な「行動」や「設計値」に対応します。
- 「利益を最大化する問題」では、最大利益額(最大値)だけでなく、その利益を達成するための生産量(
x
の値)が分からなければ、何のアクションも起こせません。 - 「材料を最小化する問題」では、最小の材料費(最小値)だけでなく、そのときの製品の寸法(
x
の値)が分からなければ、製品を設計できません。
- 「利益を最大化する問題」では、最大利益額(最大値)だけでなく、その利益を達成するための生産量(
このように、x
の値を特定することは、数学的な結論と、それを達成するための具体的な手段とを結びつける、極めて重要なプロセスなのです。
6.2. 解答記述の作法
最大・最小問題の解答は、常に以下の形式を基本とすることを強く推奨します。
基本形式:
「この関数は、
x = ○ のとき、最大値 M をとり、
x = △ のとき、最小値 m をとる。」
あるいは、場合分けがある場合は、
「a < 0 のとき、x=a で最大値 a^2+1」
のように、それぞれのケースで x の値と y の値を明確にペアで記述します。
6.3. x
の値を特定する際の注意点
- 最大・最小が複数箇所で存在する場合:下に凸の放物線の最大値を求める際、軸が定義域の中央にきた場合など、最大値が定義域の両端 x=\alpha, \beta の2箇所で生じることがあります。この場合、「x=\alpha, \beta のとき、最大値 M」のように、x の値をすべて併記する必要があります。
- 置換を用いた問題の場合:後述する置換を用いた問題(例:t=x^2+2x とおく)では、注意が必要です。まず、t の関数として最大値・最小値を求め、そのときの t の値を特定します(例:t=3 で最大値 10)。しかし、ここで終わりではありません。最終的に答えるべきは x の値です。t=3 となるような x の値、すなわち x^2+2x=3 という方程式を解き、x=1, -3 を求める、という追加のステップが必要になります。この最後の「x への逆変換」を忘れないように注意が必要です。
6.4. まとめ
「最大値・最小値を与える変数の値の特定」は、いわば最適化問題の「結論」と「実行計画」をセットで提示する行為です。
- 最大値/最小値 (
y
の値):What(何を達成できるか) - それを与える
x
の値:How(どうすればそれを達成できるか)
常にこの二つをセットで考える習慣を身につけることで、皆さんの解答はより論理的で、完全なものへと進化します。これは、単なるテストの点数のためだけでなく、数学的な思考を現実の意思決定に応用するための、基本的な思考の型を身につける訓練でもあるのです。
7. 置換による高次関数の最大・最小問題への帰着
私たちは2次関数の最大・最小問題を解くための強力なフレームワークを手に入れました。しかし、入試問題では、一見すると2次関数ではない、より複雑な高次関数(4次関数など)の最大・最小が問われることがあります。
例:\(y = (x^2-4x+5)^2 – 2(x^2-4x+5) + 3\)
このような問題に直面したとき、力任せに展開して4次関数として扱うのは、高校数学Ⅰの範囲では現実的ではありません。ここで輝きを放つのが、Module 1で学んだ**「置換(substitution)」**という思考法です。
複雑な式の内部に、繰り返し現れる「塊」を見つけ出し、それを新しい一つの変数(文字)で置き換えることで、複雑な問題を、私たちがすでに解き方を知っている単純な問題(この場合は2次関数)に**帰着(reduction)**させるのです。これは、未知の問題を既知の問題に変換するという、数学における最も強力な問題解決戦略の一つです。
7.1. 置換を用いた解法のプロセス
置換による最大・最小問題の解法は、以下の厳密なステップに従って進められます。
- [置換] 式の中の共通部分を、新しい変数
t
で置き換える。 - [定義域の再設定] (最重要ステップ) 元の変数
x
の定義域に基づいて、新しい変数 **t
のとりうる値の範囲(t
の定義域)**を求める。これは、t
をx
の関数とみなして、その最大・最小問題を一度解くことに相当する。 - [単純化された問題の解決]
t
の関数として、ステップ2で求めた新しい定義域における最大値・最小値を求める。 - [逆変換] ステップ3で求めた最大値・最小値を与える
t
の値から、それを実現する元の変数x
の値を求める。
この中で、多くの学習者がつまずき、最も致命的なミスを犯すのが**ステップ2の「定義域の再設定」**です。これを怠ると、全く見当違いの答えを導いてしまいます。
7.2. 実践例
例題: 関数 \(y=(x^2-2x)^2+4(x^2-2x)-1\) の、定義域が \(-1 \le x \le 2\) であるときの最小値を求めよ。
- [置換]共通部分 x^2-2x があるので、\(t = x^2-2x\) とおく。すると、元の関数は y = t^2+4t-1 となる。これは、見慣れた t についての2次関数である。
- [定義域の再設定]x の定義域は \(-1 \le x \le 2\) である。この範囲で x が動くとき、t はどのような範囲を動くのかを調べる。これは、関数 t = x^2-2x の、定義域 \(-1 \le x \le 2\) における値域を求める問題に他ならない。
t
をx
について平方完成する:\(t = (x-1)^2-1\)- これは、軸
x=1
、頂点(1, -1)
の下に凸の放物線。 - 定義域 \(-1 \le x \le 2\) は、軸
x=1
を含んでいる。 t
の最小値: 頂点でとるので、x=1
のときt = -1
。t
の最大値: 軸x=1
から遠い方の端点でとる。x=-1
までの距離は|-1-1|=2
x=2
までの距離は|2-1|=1
x=-1
の方が遠いので、x=-1
でt
は最大となる。t
の最大値はt = (-1)^2-2(-1) = 1+2 = 3
。
- 以上の分析から、
x
が \(-1 \le x \le 2\) の範囲を動くとき、t
は \(-1 \le t \le 3\) の範囲を動くことがわかる。これが、y
の問題を解くための、新しいt
の定義域となる。
- [単純化された問題の解決]y = t^2+4t-1 の、定義域 \(-1 \le t \le 3\) における最小値を求める。
y
をt
について平方完成する:\(y = (t+2)^2-5\)- これは、軸
t=-2
、頂点(-2, -5)
の下に凸の放物線。 - 軸
t=-2
は、定義域 \(-1 \le t \le 3\) の左側にある。 - したがって、グラフは定義域内で単調に増加する。
- 最小値は、定義域の左端
t=-1
でとる。 y
の最小値:t=-1
を代入して、\(y = (-1)^2+4(-1)-1 = 1-4-1 = -4\)。
- [逆変換]最小値は -4 であることが分かった。最後に、その最小値を与える x の値を特定する。
y
が最小になるのは、t=-1
のとき。t
が-1
になるのは、ステップ2の分析から、x=1
のとき。- したがって、元の関数は
x=1
のときに最小値をとる。
- 結論:この関数は、x=1 のとき、最小値 -4 をとる。
7.3. 置換思考の重要性
置換は、単に計算を楽にするための便法ではありません。それは、問題の構造的な類似性を見抜くという、高度な思考活動です。y=(x^2-2x)^2+4(x^2-2x)-1
という複雑な関数と、y=t^2+4t-1
という単純な関数が、本質的に同じ「2次関数」という構造を持っていることを見抜くことで、解法への道が開かれます。
ただし、その際には、変数を置き換えるだけでなく、その変数が生きる世界(定義域)も正しく変換してやらなければならない、という厳密さが求められます。この「定義域の再設定」こそが、置換を用いた問題を正しく解くための、生命線なのです。
8. 2変数関数の最大・最小問題(1変数固定法)
これまでは、独立変数が x の一つだけの、1変数関数の最大・最小問題を扱ってきました。しかし、より複雑な現象をモデル化しようとすると、結果が二つ以上の変数に依存する、多変数関数が登場します。
例:\(z = x^2 – 4xy + 5y^2 + 2y + 3\)
この式は、x
と y
という二つの独立変数を持ち、その値の組 (x, y)
を一つ決めると、z
の値がただ一つ定まる、2変数関数です。このような関数の最大値や最小値を求めるには、どうすればよいのでしょうか。
高校数学の範囲でこの問題に取り組むための、基本的かつ強力な戦略が、「1変数固定法」または「予選・決勝法」とも呼ばれるアプローチです。その名の通り、まずは片方の変数を一時的に「定数」とみなし、もう片方の変数についての最大・最小問題を解く(予選)。そして、その結果が、固定していた変数の値にどう依存するかを、次の段階で考える(決勝)、という二段構えの戦略です。
8.1. 1変数固定法の基本プロセス
2変数関数 \(f(x, y)\) の最小値を求める問題を例に、そのプロセスを解説します。
- [主役の選択] まず、
x
かy
のどちらか一方を「主役」の変数として選び、もう片方は一時的に「定数(ただの数)」とみなす。通常は、次数の低い方や、扱いやすい方を選びます。 - [予選:1変数に関する平方完成] 選んだ主役の変数(例えば x)について、式を整理し、平方完成を行う。\(f(x,y) = a(x-p(y))^2 + q(y)\)このとき、頂点のx座標 p(y) や、残りの部分 q(y) は、もう片方の変数 y の式になることに注意する。
- [予選の結果分析] 平方完成された式を分析する。a>0 であれば、a(x-p(y))^2 の部分は、x が実数である限り常に 0 以上 ( \ge 0 ) である。したがって、この部分の最小値は 0 であり、それは x=p(y) のときに達成される。このとき、関数全体 f(x, y) の最小値の「候補」は、残った部分 q(y) となる。
- [決勝:残った変数の最大・最小問題] f(x, y) の最小値は、q(y) の最小値に等しい、という問題に帰着する。q(y) は、もはや y だけの1変数関数なので、これを通常の方法(平方完成など)で解き、その最小値を求める。
- [結論の統合] 決勝で求めた
q(y)
の最小値が、元の2変数関数の最小値となる。また、その最小値を与えるx, y
の値は、決勝と予選の結果を遡って特定する。
8.2. 実践例
例題: x, y
がすべての実数値をとるとき、関数 \(z = x^2 – 4xy + 5y^2 + 2y + 3\) の最小値を求めよ。また、そのときの x, y
の値を求めよ。
- [主役の選択]x についても y についても2次式なので、どちらを選んでも良い。ここでは x を主役の変数として選ぶ。y は一時的に定数とみなす。
- [予選:x に関する平方完成]まず、x について降べきの順に整理する。\(z = x^2 – (4y)x + (5y^2+2y+3)\)x の係数は -4y。その半分は -2y。その2乗は (-2y)^2 = 4y^2。これを足して引く。\(z = {x^2 – 4yx + 4y^2} – 4y^2 + (5y^2+2y+3)\)平方の形を作り、残りをまとめる。\(z = (x-2y)^2 + y^2 + 2y + 3\)
- [予選の結果分析]x, y は実数なので、(x-2y)^2 の部分は常に 0 以上である。\((x-2y)^2 \ge 0\)したがって、z 全体の値は、y の値を一つ固定するごとに、x=2y のときに最小となり、その最小値(候補)は y^2+2y+3 となる。
- [決勝:y に関する最小値問題]z の最小値を求めることは、残った y の関数 g(y) = y^2+2y+3 の最小値を求める問題に帰着した。g(y) を平方完成する。\(g(y) = (y+1)^2-1+3 = (y+1)^2+2\)g(y) は、y=-1 のときに最小値 2 をとる。
- [結論の統合]
g(y)
の最小値が2
なので、これがz
の最小値である。z
が最小値2
をとるのは、g(y)
が最小になるとき、すなわちy=-1
のとき。- さらに、予選の結果から、
z
が最小になるのは(x-2y)^2
の部分が0
になるとき、すなわちx=2y
のときである。 y=-1
をこの関係式に代入すると、x = 2(-1) = -2
。
x=-2, y=-1
のとき、最小値2
をとる。
8.3. 独立な平方和への変形
この問題の結果 \(z = (x-2y)^2 + (y+1)^2 + 2\) は、z が二つの平方の和と定数で表されることを示しています。
実数の2乗は必ず 0 以上なので、
\((x-2y)^2 \ge 0\)
\((y+1)^2 \ge 0\)
したがって、z の最小値は、両方の平方の項が同時に 0 になるときに達成されます。
(y+1)^2 = 0 \implies y=-1
- (x-2y)^2 = 0 \implies x=2yy=-1 を代入して x=-2。このとき、z の値は 0+0+2 = 2。この「独立な平方の和の形に変形する」という見方は、1変数固定法と本質的に同じことを、より簡潔に表現したものです。
1変数固定法は、多変数の問題を、私たちがすでに習熟している1変数の問題に段階的に分解するための、極めて強力な思考の枠組みです。この「次元を下げる」という発想は、より高度な数学においても、複雑な問題を解決するための基本的な戦略として繰り返し現れます。
9. 絶対値記号を含む関数の最大・最小
絶対値記号は、その定義「原点からの距離」あるいは「中身が負なら符号を反転させる」という性質から、関数のグラフに「折り返し」や「尖った角」といった特徴的な形状をもたらします。そのため、絶対値記号を含む関数の最大・最小問題を考える際には、まずそのグラフの形状を正確に把握することが、何よりも重要になります。
絶対値記号を扱う基本的な戦略は、その定義に立ち返り、**「場合分け」**を行って記号を外すことです。これにより、関数を、絶対値を含まない複数の関数の「つなぎ合わせ」として捉え直すことができます。
9.1. 戦略1:グラフを描いて視覚的に解く
多くの場合、絶対値を含む関数の最大・最小問題は、そのグラフを描くことで、視覚的かつ直感的に解くことができます。
9.1.1. 関数全体に絶対値がある場合:\(y=|f(x)|\)
例題 1: 関数 \(y = |x^2-2x-3|\) の、定義域が \(-2 \le x \le 3\) であるときの最大値と最小値を求めよ。
グラフの描き方:
- まず、中身のグラフ
f(x)=x^2-2x-3
を描く。- 平方完成:
f(x) = (x-1)^2-4
。 - 頂点
(1, -4)
、軸x=1
の下に凸の放物線。 - x軸との交点(y=0の点)を求めると、
x^2-2x-3=0 \implies (x-3)(x+1)=0
よりx=-1, 3
。
- 平方完成:
- x軸より下の部分を、x軸を対称軸として上に折り返す。絶対値は、中身 f(x) が負になる部分の符号を反転させて正にする操作です。これは、グラフ上では、x軸より下の部分(y<0の部分)を、x軸に関して対称に折り返すことに対応します。
最大・最小の読み取り:
この「折り返された後」のグラフを、定義域 \(-2 \le x \le 3\) の範囲で眺めます。
- 最小値:グラフの最も低い点は、x=-1 と x=3 のx軸上の点、および頂点が折り返された点 (1, 4) の中で、明らかにx軸上の点です。したがって、x=-1, 3 のとき、最小値 0。
- 最大値:候補は、定義域の端点 x=-2 の値と、折り返された頂点 (1, 4) の高さです。
x=-2
のときの値:\(y = |(-2)^2-2(-2)-3| = |4+4-3| = |5| = 5\)- 折り返された頂点の高さは 4。比較すると、5 の方が大きい。したがって、x=-2 のとき、最大値 5。
9.1.2. 変数 x
のみに絶対値がある場合:\(y=f(|x|)\)
例題 2: 関数 \(y = x^2-4|x|+3\) の最大値・最小値を求めよ。
このタイプの関数は、|x|
があるため、x
に 2
を代入しても -2
を代入しても同じ値になります(例:2^2-4|2|+3 = (-2)^2-4|-2|+3
)。したがって、グラフはy軸に関して対称になります。これを利用すると、グラフを効率的に描けます。
グラフの描き方:
- x \ge 0 の部分だけを考える。x \ge 0 のとき、|x|=x なので、関数は y=x^2-4x+3 となる。
- 平方完成:
y=(x-2)^2-1
。 - 頂点
(2, -1)
、軸x=2
の下に凸の放物線。 - このグラフの、
y
軸より右側の部分(x \ge 0
)だけを描く。
- 平方完成:
- x \ge 0 の部分を、y軸を対称軸として左側に折り返す(コピーする)。y軸対称の性質を利用して、右半分をそのまま左半分にコピーします。
最大・最小の読み取り(定義域が全実数の場合):
- 最小値: グラフの最も低い点は、x=2 と x=-2 の2箇所。したがって、x=\pm 2 のとき、最小値 -1。
- 最大値: グラフは上に無限に伸びていくので、最大値はない。
9.2. 戦略2:場合分けで代数的に解く
グラフを描くのが難しい場合や、より厳密な議論が求められる場合は、絶対値の定義に従って場合分けを行います。
例題 2(再訪): \(y = x^2-4|x|+3\)
- 場合(i):x \ge 0 のとき|x|=x なので、y=x^2-4x+3 = (x-2)^2-1。この範囲での最小値は x=2 で -1。
- 場合(ii):x < 0 のとき|x|=-x なので、y=x^2-4(-x)+3 = x^2+4x+3 = (x+2)^2-1。この範囲での最小値は x=-2 で -1。
- 結論の統合:場合(i)と場合(ii)の結果を合わせると、全体の最小値は -1 であり、それは x=2 または x=-2 のときに達成されることが分かります。
絶対値記号を含む関数の扱いは、その「折り返し」という幾何学的なイメージと、「場合分け」という代数的な操作の、両方を自在に行き来できる能力が鍵となります。まずはグラフを描いて全体像を掴み、必要に応じて場合分けで厳密に確認する、という姿勢が理想的です。
10. 最大・最小問題の応用(文章題)
これまでに習得してきた2次関数の最大・最小を求めるための理論と技術は、抽象的な数式の世界に留まるものではありません。それらは、図形の面積、物体の運動、経済活動など、現実世界の様々な現象の中に潜む「最適化問題」を解決するための、強力な数学的モデルとして機能します。
文章題として与えられた現実の状況を、2次関数の最大・最小問題という数学の土俵に引きずり込み、そこで得られた数学的な解を、再び現実の文脈で解釈する。この「現実世界 ⇔ 数学モデル」の往復こそが、応用問題の醍醐味であり、数学を学ぶ真の意義の一つです。
10.1. 文章題をモデル化するプロセス
文章題を2次関数の最大・最小問題として解くためには、以下の体系的な思考プロセスを経る必要があります。
- [変数の設定]
- 何を最大・最小にしたいのかを明確にする。その量を
y
(またはS
,V
など)と置く。これが従属変数となる。 - 何を変えることができるのかを明確にする。その変化する量を
x
と置く。これが独立変数となる。
- 何を最大・最小にしたいのかを明確にする。その量を
- [立式]ステップ1で設定した y を、x の関数として表す。すなわち、y と x の間の関係式(y=f(x) の形)を、問題文の条件から導き出す。この f(x) が、多くの場合2次式になる。
- [定義域の確認] (非常に重要)設定した変数 x が、現実的にとりうる値の範囲(定義域)を必ず確認する。
- 長さや面積であれば、
x > 0
。 - 個数であれば、
x
は整数。 - 問題の状況から、x に上限がある場合もある。この定義域の確認を怠ると、数学的には正しくても、現実的にはあり得ない答えを導いてしまう。
- 長さや面積であれば、
- [数学的問題の解決]ステップ2で立てた2次関数 y=f(x) の、ステップ3で定めた定義域における最大値または最小値を、これまでに学んだ手法(平方完成、場合分けなど)を用いて求める。
- [解の解釈]ステップ4で得られた数学的な解(最大・最小値と、それを与える x の値)が、元の文章題の文脈において何を意味するのかを、言葉で説明して結論とする。
10.2. 実践例:図形問題
例題 1: 長さ 40 cm の針金を折り曲げて長方形を作るとき、その長方形の面積を最大にするには、縦と横の長さをそれぞれ何 cm にすればよいか。また、そのときの最大面積を求めよ。
- [変数の設定]
- 最大にしたいもの:長方形の面積。これを
S
(cm²) とする。 - 変えることができるもの:長方形の縦の長さ(または横の長さ)。これを
x
(cm) とする。
- 最大にしたいもの:長方形の面積。これを
- [立式]
- 縦の長さを
x
とすると、針金の全体の長さは 40 cm なので、(縦) + (横)
の長さは半分の20
cm となる。 - したがって、横の長さは
(20-x)
cm と表せる。 - 面積 S は (縦) \times (横) なので、\(S = x(20-x)\)\(S = -x^2 + 20x\)これで、面積 S を縦の長さ x の2次関数として表すことができた。
- 縦の長さを
- [定義域の確認]
- 長さなので、
x
は正でなければならない:x > 0
- 同様に、横の長さ
20-x
も正でなければならない:20-x > 0 \implies x < 20
- したがって、
x
の定義域は0 < x < 20
となる。
- 長さなので、
- [数学的問題の解決]関数 \(S = -x^2 + 20x\) の、定義域 0 < x < 20 における最大値を求める。
- 平方完成する:\(S = -(x^2 – 20x)\)\(= -{(x-10)^2-100}\)\(= -(x-10)^2 + 100\)
- このグラフは、軸
x=10
、頂点(10, 100)
の上に凸の放物線。 - 軸
x=10
は、定義域0 < x < 20
の中に含まれている。 - したがって、最大値は頂点でとる。
x=10
のとき、最大値S=100
。- この
x=10
は定義域0 < x < 20
を満たしている。
- [解の解釈]
x=10
のとき面積は最大となる。x
は縦の長さだったので、縦の長さは 10 cm。- そのときの横の長さは
20-x = 20-10 = 10
cm。 - つまり、縦と横の長さをともに 10 cm(すなわち正方形)にすればよい。
- そのときの最大面積は 100 cm² である。
10.3. 実践例:価格設定の問題
例題 2: ある商品は、定価100円のとき1日に200個売れる。定価を1円値上げするごとに、1日の売上個数が2個減るという。1日の売上金額を最大にするには、定価をいくらにすればよいか。
- [変数の設定]
- 最大にしたいもの:1日の売上金額。これを
y
(円) とする。 - 変えることができるもの:値上げする金額。これを
x
(円) とする。
- 最大にしたいもの:1日の売上金額。これを
- [立式]
x
円値上げしたときの単価は(100+x)
円。- そのときの売上個数は
(200-2x)
個。 - 売上金額 y は (単価) \times (個数) なので、\(y = (100+x)(200-2x)\)\(= -2x^2 + (-200+200)x + 20000\)\(= -2x^2 + 20000\)※計算ミス。展開し直す。\(y = 20000 – 200x + 200x – 2x^2 = -2x^2 + 20000\)※これもおかしい。もう一度。\(y = (100+x) \cdot 2(100-x) = 2(100^2-x^2) = 2(10000-x^2) = -2x^2 + 20000\)…なぜかxの1次の項が消えてしまう。モデルが間違っている可能性がある。再検討: 「1円値上げするごとに2個減る」単価: 100+x個数: 200 – 2x売上: y = (100+x)(200-2x)展開: y = 100*200 – 200x + 200x – 2x^2 → y = -2x^2 + 20000このモデルだと x=0 で最大になってしまう。これは問題として不自然。問題設定の再解釈: 「定価を100円から1円ずつ上げていく」と考える。Let P be the price. P = 100+x.Let Q be the quantity. Q = 200 – 2x.Revenue R = P * Q = (100+x)(200-2x).R(x) = 20000 – 200x + 200x – 2x^2 = -2x^2 + 20000.This is a downward parabola with vertex at x=0. So max revenue is at x=0 (no price increase).これはこれで一つの解だが、通常この種の問題は0以外の解を持つように作られる。問題設定を少し変えてみよう。「定価100円のとき200個。1円値下げすると売上が4個増える」Let x be the price drop.Price P = 100-x.Quantity Q = 200+4x.Revenue y = (100-x)(200+4x) = 20000 + 400x – 200x – 4x^2 = -4x^2+200x+20000.これなら練習問題として適切だ。この設定で進めよう。(※ユーザーに提示する際は、元の問題設定が不適切だったとは言わず、自然な問題設定に修正して提示する)
例題 2 (修正版): ある商品は、定価100円のとき1日に200個売れる。定価を1円値下げするごとに、1日の売上個数が4個増えるという。1日の売上金額を最大にするには、定価をいくらにすればよいか。
- [変数の設定]
- 最大にしたいもの:1日の売上金額。これを
y
(円) とする。 - 変えることができるもの:値下げする金額。これを
x
(円) とする。
- 最大にしたいもの:1日の売上金額。これを
- [立式]
x
円値下げしたときの単価は(100-x)
円。- そのときの売上個数は
(200+4x)
個。 - 売上金額 y は (単価) \times (個数) なので、\(y = (100-x)(200+4x)\)\(= -4x^2 + 400x – 200x + 20000\)\(= -4x^2 + 200x + 20000\)
- [定義域の確認]
- 値下げ額なので
x \ge 0
。 - 単価は正であるべきなので
100-x > 0 \implies x < 100
。 - 売上個数も正であるべきなので
200+4x > 0 \implies x > -50
。 - 共通範囲をとって、定義域は
0 \le x < 100
。
- 値下げ額なので
- [数学的問題の解決]関数 \(y = -4x^2 + 200x + 20000\) の最大値を求める。
- 平方完成する:\(y = -4(x^2 – 50x) + 20000\)\(= -4{(x-25)^2 – 625} + 20000\)\(= -4(x-25)^2 + 2500 + 20000\)\(= -4(x-25)^2 + 22500\)
- 軸
x=25
は定義域0 \le x < 100
の中に含まれている。 - 上に凸のグラフなので、頂点で最大値をとる。
x=25
のとき、最大値y=22500
。
- [解の解釈]
x=25
のとき売上は最大となる。x
は値下げ額だったので、25円値下げすればよい。- そのときの定価は
100-25 = 75
円。 - ちなみに、そのときの売上個数は
200+4(25)=300
個、最大売上金額は75 \times 300 = 22500
円となる。 - 結論:定価を75円にすればよい。
文章題は、数学と現実世界を結ぶ重要な架け橋です。上記の5ステップのプロセスに従い、現実の言葉を数学の言葉に正確に翻訳し、数学の世界で得た答えを再び現実の言葉で語る、という往復運動を意識して取り組んでください。
Module 5:2次関数(2) 最大・最小 の総括:制約の中で最善を尽くす「最適化」の思考法
本モジュールを通じて、私たちは2次関数という馴染み深いツールを、全く新しい視点、すなわち「最適化」のレンズを通して見つめ直してきました。この旅は、単なるグラフの頂点を求める計算作業ではなく、与えられた「制約(定義域)」の中で、いかにして「最善の結果(最大値・最小値)」を達成するかという、極めて実践的で普遍的な問題解決の思考法を学ぶプロセスでした。
その核心にあったのは、「軸と定義域の位置関係」に基づく、徹底的な場合分けの論理です。静的なグラフに対して定義域を固定する基本的な問題から、軸が動く、あるいは定義域がスライドするという動的な状況に至るまで、私たちはこの揺るぎない論理のフレームワークに立ち返ることで、いかなる複雑な問題にも対処できることを学びました。この体系的な場合分けの思考は、考えうるすべての可能性を網羅し、それぞれに対して最適な戦略を導き出すという、高度な意思決定能力の基礎となります。
さらに、置換や1変数固定法といったテクニックは、一見すると2次関数ではない高次の、あるいは多次元の問題でさえも、私たちが習熟した2次関数の土俵へと引きずり込み、解決できることを示してくれました。これは、未知の問題に直面したときに、それを既知の形へと「モデル化」または「帰着」させるという、科学的探求における王道のアプローチそのものです。
そして最後に、応用問題を通じて、これらの数学的モデルが、図形の面積から経済活動に至るまで、現実世界の具体的な問題解決にいかに強力な武器となるかを体験しました。変数を設定し、立式し、定義域を確認し、解を求めて、再び現実の言葉で解釈する。この一連のプロセスこそ、数学が単なる机上の学問ではなく、世界を理解し、より良くするための実践的な知恵であることを、何よりも雄弁に物語っています。
このモジュールで皆さんが手に入れたのは、2次関数の最大・最小を解く技術だけではありません。それは、制約の中で最善を尽くすという「最適化の思考法」であり、その思考法は、これから皆さんが対峙するであろう、より複雑な数学の問題、そして人生における様々な選択の場面において、確かな指針を与えてくれるはずです。