【基礎 数学(数学A)】Module 11:整数の性質(4) n進法
本モジュールの目的と構成
我々が日常的に数を読み、書き、計算する際に用いている「0から9までの10個の数字」と「桁が一つ上がるごとに価値が10倍になる」というルール、すなわち10進法 (Decimal System)。このシステムはあまりに自然に我々の思考に溶け込んでいるため、我々はしばしば、数の「表現方法」と、数そのものの「性質」とを同一視してしまいがちです。しかし、なぜ「10」なのでしょうか?人間の指が10本であったという歴史的偶然に過ぎず、数学的な必然性はありません。
本モジュールでは、この「10」という基数(base)の呪縛から我々の思考を解放し、任意の整数 n
を基数とするn進法 (n-ary Numeral System) の世界を探求します。n進法を学ぶことは、単に新しい数の書き方を覚えることではありません。それは、「数を表現するとは、一体どういうことか」という、記数法の根源的な原理を理解するプロセスです。この視点を獲得することで、我々は数をより抽象的かつ構造的に捉えることができるようになり、整数問題に対して、これまでとは全く異なる角度からアプローチする新たな武器を手に入れることができます。
特に、現代社会を支えるコンピュータは、ON/OFFという2つの状態しか持たない電子回路の集合体であるため、その言語は究極的には2進法 (Binary System) で記述されています。n進法を理解することは、我々のデジタル世界の根幹を理解することにも直結しているのです。
本モジュールは、以下の学習項目を通じて、数の表現という新たな視点から整数論を深く探求していきます。
- n進法の原理: 我々が当たり前に使っている10進法の「位取り」の仕組みを解剖し、それを任意の基数
n
へと一般化する、n進法の根本原理を学びます。 - 10進法とn進法の相互変換: 異なる進法で書かれた数の間で、その値を保ったまま表現を翻訳するための、基本的ながら極めて重要な計算技術を習得します。
- n進法における小数: 整数だけでなく、小数(分数)がn進法でどのように表現されるのかを探求し、10進法との違いと共通点を明らかにします。
- n進法の四則演算: 異なる進法の世界で、足し算、引き算、掛け算、割り算がどのように行われるのかを学びます。繰り上がりや繰り下がりが「10」ではなく「n」で起こることを体感します。
- コンピュータと2進法: なぜコンピュータは2進法を使うのか、その根源的な理由を探り、2進法と親和性の高い8進法・16進法が情報技術の世界でどのように活用されているかを見ます。
- 応用問題(n進法で表された数の性質): n進法で表現された数に関する方程式を解くなど、n進法の定義に立ち返って解く、典型的な応用問題の解法を学びます。
- 各位の数の和と倍数判定法: 10進法における「各位の数の和が3の倍数なら、元の数も3の倍数」といった倍数判定法が、n進法ではどのように一般化されるのかを探ります。
- n進法の有限小数・循環小数: ある分数が、特定のn進法で有限小数になるのか、それとも循環小数になるのかを、基数
n
と分母の素因数の関係から判定する方法を学びます。 - 記数法と整数問題の融合: 記数法の考え方と、これまでのモジュールで学んだ整数論の知識(不定方程式など)を組み合わせた、より高度な融合問題に挑戦します。
- 様々な記数法の歴史: バビロニアの60進法やマヤの20進法など、人類が歴史上生み出してきた多様な記数法を概観し、我々の10進法が決して唯一のものではなかったことを知ります。
このモジュールを終えるとき、皆様は、数の「値」とその「表記」を明確に区別し、問題に応じて最も都合の良い記数法を選択して思考するという、柔軟で強力な視点を獲得しているはずです。その視点は、整数問題の新たな扉を開くだけでなく、我々を取り巻くデジタル社会の仕組みを、より深く理解するための鍵ともなるでしょう。
1. n進法の原理
我々が日常的に使う数のシステム、10進法。例えば、「352」という数字の並びを見たとき、我々は瞬時に「三百五十二」という量を認識します。しかし、この認識の背後には、我々が幼少期から無意識のうちに使いこなしている、極めて洗練されたルール、「位取り記数法 (Positional Notation)」が存在します。n進法の原理を理解する最初のステップは、この当たり前となった10進法の仕組みを、改めて意識的に分解し、その構造を明らかにすることです。
1.1. 10進法の構造の再確認
数 352
は、単に 3
と 5
と 2
という数字が並んでいるわけではありません。それぞれの数字は、その位置(位)に応じて、異なる重みを持っています。
2
は、1
の位(\(10^0\) の位)にあり、2 \times 1
の価値を持ちます。5
は、10
の位(\(10^1\) の位)にあり、5 \times 10
の価値を持ちます。3
は、100
の位(\(10^2\) の位)にあり、3 \times 100
の価値を持ちます。
したがって、「352」という表記は、実際には以下の和を省略して表現したものです。
\[
352 = 3 \times 10^2 + 5 \times 10^1 + 2 \times 10^0
\]
この表現方法を、10進法による展開式と呼びます。
10進法の本質は、
- 基数 (Base):
10
を基準の数(基数)として用いる。 - 数字 (Digits):
0, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9
という、基数より小さい10個の記号を使う。 - 位の重み (Place Value): 各桁の位置が、基数 10 のべき乗(\(\dots, 10^2, 10^1, 10^0\))という重みに対応する。という3つの要素から成り立っています。
1.2. n進法への一般化
n進法の原理は、この10進法の基数 10
を、2以上の任意の整数 n
に置き換えることで得られます。
【n進法の原理】
ある数を、基数 n を用いて表現するn進法とは、
- 基数:
n
を基準の数とする。 - 数字:
0, 1, 2, ..., n-1
という、基数より小さい**n
個**の記号を使う。 - 位の重み: 各桁の位置が、基数
n
のべき乗(\(\dots, n^2, n^1, n^0\))という重みに対応する。
というルールに基づいた位取り記数法である。
n進法で表現された数は、それが何進法であるかを明記するために、\((d_k d_{k-1} \dots d_1 d_0)_n\) のように、右下に小さく基数 n を添えて表記します。
n進法による展開式
n進法で \((d_k d_{k-1} \dots d_1 d_0)n\) と表された数は、10進法の数に直すと、以下の和に等しい。
\[
(d_k d{k-1} \dots d_1 d_0)n = d_k \cdot n^k + d{k-1} \cdot n^{k-1} + \cdots + d_1 \cdot n^1 + d_0 \cdot n^0
\]
1.3. 具体例による理解
例1:2進法 (Binary System)
- 基数:
n=2
- 使える数字:
0, 1
の2種類。 - 位の重み:
..., 8(=2^3), 4(=2^2), 2(=2^1), 1(=2^0)
2進数 \((1101)_2\) が表す数を考えてみましょう。
- 展開式:\((1101)_2 = 1 \cdot 2^3 + 1 \cdot 2^2 + 0 \cdot 2^1 + 1 \cdot 2^0\)
- 10進法での計算:= 1 \cdot 8 + 1 \cdot 4 + 0 \cdot 2 + 1 \cdot 1 = 8 + 4 + 0 + 1 = 13したがって、\((1101)_2\) は、10進法の数 13 を表します。
例2:5進法 (Quinary System)
- 基数:
n=5
- 使える数字:
0, 1, 2, 3, 4
の5種類。 - 位の重み:
..., 125(=5^3), 25(=5^2), 5(=5^1), 1(=5^0)
5進数 \((243)_5\) が表す数を考えてみましょう。
- 展開式:\((243)_5 = 2 \cdot 5^2 + 4 \cdot 5^1 + 3 \cdot 5^0\)
- 10進法での計算:= 2 \cdot 25 + 4 \cdot 5 + 3 \cdot 1 = 50 + 20 + 3 = 73したがって、\((243)_5\) は、10進法の数 73 を表します。
例3:16進法 (Hexadecimal System)
- 基数:
n=16
- 使える数字: 0, 1, …, 9 の10個では足りないため、アルファベットを導入する。0, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, A(=10), B(=11), C(=12), D(=13), E(=14), F(=15) の16種類。
- 位の重み:
..., 4096(=16^3), 256(=16^2), 16(=16^1), 1(=16^0)
16進数 \((1A5)_16\) が表す数を考えてみましょう。
- 展開式:\((1A5)_16 = 1 \cdot 16^2 + A \cdot 16^1 + 5 \cdot 16^0\)
- 10進法での計算:= 1 \cdot 256 + 10 \cdot 16 + 5 \cdot 1 = 256 + 160 + 5 = 421したがって、\((1A5)_16\) は、10進法の数 421 を表します。
n進法の「ものの数え方」の解釈
n進法は、数を「n個集まったら、一つ上の位のグループを1つ作る」という、ものの数え方に対応しています。
例えば、10進法で13個の石を数えるのは、「10個で1つの山(10の位)を作り、残りが3個(1の位)」と考えるのと同じです。
これを2進法で数えると、
- 13個の石を、2個ずつのペアにする → 6ペアと、余り1個。 (これが \(2^0\) の位)
- できた6ペアを、さらに2ペアずつで1グループにする → 3グループと、余り0ペア。 (これが \(2^1\) の位)
- できた3グループを、さらに2グループで1つの大グループにする → 1大グループと、余り1グループ。 (これが \(2^2\) の位)
- できた1大グループは、2つにまとめられないので、余り1大グループ。 (これが \(2^3\) の位)この余りを下から上に読むと、1101 となり、\((1101)_2\) という表現が得られます。この「繰り返し n で割っていき、余りを見る」という操作が、次セクションで学ぶ10進法からn進法への変換アルゴリズムの基本原理となります。
n進法の原理は、数の表現方法が、我々がどのような「かたまり」で物を数えるかという、一つの約束事に過ぎないことを教えてくれます。この視点を持つことで、我々は10進法という慣れ親しんだ枠組みを客観視し、数のより普遍的な性質を探求する準備が整うのです。
2. 10進法とn進法の相互変換
異なる進法で数を表現する能力は、n進法の理論を実践的に使いこなすための最も基本的なスキルです。このセクションでは、我々が慣れ親しんだ10進法の数と、任意のn進法で表された数との間で、その値を保ったまま表現を相互に変換する、2つの基本的なアルゴリズムを学びます。一方はn進法の定義そのものを用いる単純な展開であり、もう一方は割り算を繰り返す巧妙な手続きです。
2.1. n進法から10進法への変換
n進法で表された数を10進法に変換するのは、n進法の定義を直接適用するだけの、非常に簡単なプロセスです。
アルゴリズム:n進展開式の計算
n進法で \((d_k d_{k-1} \dots d_1 d_0)n\) と表された数は、
\[
d_k \cdot n^k + d{k-1} \cdot n^{k-1} + \cdots + d_1 \cdot n^1 + d_0 \cdot n^0
\]
という展開式を、10進法の計算ルールで計算することで、10進法での値が得られます。
例題1:\((431)_5\) を10進法で表せ。
- 位の重みを確認する:
1
は \(5^0\) (=1) の位3
は \(5^1\) (=5) の位4
は \(5^2\) (=25) の位
- 展開式を立てる:\((431)_5 = 4 \cdot 5^2 + 3 \cdot 5^1 + 1 \cdot 5^0\)
- 10進法で計算する:= 4 \cdot 25 + 3 \cdot 5 + 1 \cdot 1= 100 + 15 + 1 = 116答え:116
例題2:\((10110)_2\) を10進法で表せ。
- 位の重みを確認する:右から順に、\(2^0, 2^1, 2^2, 2^3, 2^4\) の位。
- 展開式を立てる:\((10110)_2 = 1 \cdot 2^4 + 0 \cdot 2^3 + 1 \cdot 2^2 + 1 \cdot 2^1 + 0 \cdot 2^0\)
- 10進法で計算する:= 1 \cdot 16 + 0 \cdot 8 + 1 \cdot 4 + 1 \cdot 2 + 0 \cdot 1= 16 + 0 + 4 + 2 + 0 = 22答え:22
例題3:\((2B4)_{16}\) を10進法で表せ。
- 位の重みを確認する:B は10進法で 11 を意味することに注意。
4
は \(16^0\) (=1) の位B
は \(16^1\) (=16) の位2
は \(16^2\) (=256) の位
- 展開式を立てる:\((2B4)_{16} = 2 \cdot 16^2 + 11 \cdot 16^1 + 4 \cdot 16^0\)
- 10進法で計算する:= 2 \cdot 256 + 11 \cdot 16 + 4 \cdot 1= 512 + 176 + 4 = 692答え:692
2.2. 10進法からn進法への変換
10進法で表された数をn進法に変換するには、よりアルゴリズミックな手続きが必要となります。その方法は「基数 n
で繰り返し割り算を行い、その余りを逆順に並べる」というものです。これを除算アルゴリズムと呼びます。
アルゴリズム:基数nによる連続除法
10進法の整数 N をn進法に変換する手順:
N
をn
で割り、その商 \(q_1\) と余り \(r_0\) を求める。このr_0
が、n進数の**一番右の桁(\(n^0\)の位)**の数字となる。- 商 \(q_1\) を、再び
n
で割り、その商 \(q_2\) と余り \(r_1\) を求める。このr_1
が、n進数の**右から2番目の桁(\(n^1\)の位)**の数字となる。 - この操作を、商が0になるまで繰り返し行う。
- 得られた**余りの列 \(r_0, r_1, r_2, \dots\) を、逆の順(最後に得られた余りから)**に並べたものが、
N
のn進法表現となる。
このアルゴリズムがなぜ正しいのか?
この手続きの正当性は、除法の原理を繰り返し適用することで明らかになります。
\(N = n \cdot q_1 + r_0\)
\(q_1 = n \cdot q_2 + r_1\)
\(q_2 = n \cdot q_3 + r_2\)
…
\(q_{k-1} = n \cdot 0 + r_{k-1}\)
これらの式を下から上に代入していくと、
\(q_{k-2} = n \cdot q_{k-1} + r_{k-2} = n \cdot r_{k-1} + r_{k-2}\)
これをさらに代入していくと、最終的に、
\[
N = r_{k-1} n^{k-1} + r_{k-2} n^{k-2} + \cdots + r_1 n^1 + r_0 n^0
\]
という、n進法の展開式の形が得られます。これは、余りの列がn進法の各桁の数字に対応していることを示しています。
例題4:10進数 116 を5進法で表せ。
116 ÷ 5 = 23
余り1
(\(r_0\))23 ÷ 5 = 4
余り3
(\(r_1\))- 4 ÷ 5 = 0 余り 4 (\(r_2\))商が0になったので、ここで終了。余りを下から上へ読むと、4, 3, 1。答え:\((431)_5\)(これは例題1の検算になっています。)
計算の書き方
この連続除法は、筆算を逆さにしたような「すだれ算」で書くと、見通しが良くなります。
5 | 116
+-----
5 | 23 ... 1
+-----
5 | 4 ... 3
+-----
0 ... 4
余りを下から上に読む: 431
例題5:10進数 75 を2進法で表せ。
2 | 75
+-----
2 | 37 ... 1
+-----
2 | 18 ... 1
+-----
2 | 9 ... 0
+-----
2 | 4 ... 1
+-----
2 | 2 ... 0
+-----
2 | 1 ... 0
+-----
0 ... 1
余りを下から上に読むと、1001011。
答え:\((1001011)_2\)
検算:
1*64 + 0*32 + 0*16 + 1*8 + 0*4 + 1*2 + 1*1 = 64 + 8 + 2 + 1 = 75。正しい。
10進法とn進法の相互変換は、n進法の世界を探求するための基本的な「読み書き」の能力です。n進法から10進法へは「展開式の計算」、10進法からn進法へは「連続除法と余り」という、二つの異なる方向へのアルゴリズムを、その原理とともに確実にマスターすることが、この分野を学ぶ上での揺るぎない基礎となります。
3. n進法における小数
整数の世界でn進法の原理を確立した今、次はその概念を**小数(分数)**の世界へと拡張します。10進法における 0.5
や 0.125
といった小数は、位取り記数法の考え方を小数点以下にまで広げたものです。この構造は、そのままn進法にも適用することができます。n進法の小数を理解することは、数の表現の仕組みをより深く知るだけでなく、後の「有限小数・循環小数」の議論の土台となります。
3.1. n進小数の原理
10進法の小数の構造を再確認しましょう。
0.375 = 3 \times \frac{1}{10} + 7 \times \frac{1}{100} + 5 \times \frac{1}{1000}
これは、負のべき乗を用いて、
\[
0.375 = 3 \cdot 10^{-1} + 7 \cdot 10^{-2} + 5 \cdot 10^{-3}
\]
と書くことができます。小数点以下の各桁が、基数10の負のべき乗という「重み」を持っているのです。
この原理を、基数 n
に一般化します。
【n進小数の原理】
n進法で \((0.d_1 d_2 d_3 \dots)_n\) と表された小数は、10進法の数に直すと、以下の(無限)級数の和に等しい。
\[
(0.d_1 d_2 d_3 \dots)_n = d_1 \cdot n^{-1} + d_2 \cdot n^{-2} + d_3 \cdot n^{-3} + \cdots
\]
\[
= \frac{d_1}{n} + \frac{d_2}{n^2} + \frac{d_3}{n^3} + \cdots
\]
ここで、d_i は 0 から n-1 までの整数です。
3.2. n進小数から10進小数への変換
n進小数を10進小数(または分数)に変換するのは、整数の場合と同様に、n進展開式の定義を直接計算するだけです。
例題1:\((0.13)_4\) を10進法の分数で表せ。
- 展開式を立てる:\((0.13)_4 = 1 \cdot 4^{-1} + 3 \cdot 4^{-2}\)
- 10進法で計算する:= 1 \cdot \frac{1}{4} + 3 \cdot \frac{1}{16}= \frac{1}{4} + \frac{3}{16}
- 通分して足し合わせる:= \frac{4}{16} + \frac{3}{16} = \frac{7}{16}答え:\(\frac{7}{16}\)
例題2:\((0.212)_3\) を10進法の分数で表せ。
- 展開式:\((0.212)_3 = 2 \cdot 3^{-1} + 1 \cdot 3^{-2} + 2 \cdot 3^{-3}\)
- 計算:= \frac{2}{3} + \frac{1}{9} + \frac{2}{27}
- 通分:= \frac{18}{27} + \frac{3}{27} + \frac{2}{27} = \frac{23}{27}答え:\(\frac{23}{27}\)
3.3. 10進小数からn進小数への変換
10進小数をn進小数に変換するには、整数の場合(連続除法)とは対照的な、「基数 n
で繰り返し掛け算を行い、その整数部分を取り出す」というアルゴリズムを用います。これを乗算アルゴリズムと呼びます。
アルゴリズム:基数nによる連続乗法
10進法の小数 N ( 0 < N < 1 ) をn進小数に変換する手順:
N
にn
を掛ける。その整数部分 \(d_1\) が、n進小数の小数点第1位の数字となる。- ステップ1の結果の小数部分を取り出し、それに再び
n
を掛ける。その整数部分 \(d_2\) が、n進小数の小数点第2位の数字となる。 - この操作を、小数部分が0になるまで(有限小数の場合)、または同じ小数部分が現れるまで(循環小数の場合)繰り返す。
- 得られた整数部分の列 \(d_1, d_2, d_3, \dots\) を、上から順に並べたものが、
N
のn進小数表現となる。
このアルゴリズムがなぜ正しいのか?
求めたいn進小数を \((0.d_1 d_2 d_3 \dots)_n\) とおくと、
N = \frac{d_1}{n} + \frac{d_2}{n^2} + \frac{d_3}{n^3} + \cdots
この両辺に n を掛けると、
nN = d_1 + \frac{d_2}{n} + \frac{d_3}{n^2} + \cdots
右辺の d_1 は整数であり、残りの小数部分は d_i \le n-1 なので、
0 \le \frac{d_2}{n} + \frac{d_3}{n^2} + \cdots < 1
が言えます。したがって、d_1 は nN の整数部分と一致します。
そして、nN の小数部分は \frac{d_2}{n} + \frac{d_3}{n^2} + \cdots となり、これは (0.d_2 d_3 \dots)_n に他なりません。
この小数部分に、再び n を掛けることで、次の桁 d_2 を取り出すことができるのです。
例題3:10進小数 0.6875 を2進法で表せ。
0.6875 \times 2 = 1.375
→ 整数部分1
(\(d_1\))- 小数部分 0.375 を取り出す。0.375 \times 2 = 0.75 → 整数部分 0 (\(d_2\))
- 小数部分 0.75 を取り出す。0.75 \times 2 = 1.5 → 整数部分 1 (\(d_3\))
- 小数部分 0.5 を取り出す。0.5 \times 2 = 1.0 → 整数部分 1 (\(d_4\))
- 小数部分が0になったので、ここで終了。整数部分を上から順に読むと、1, 0, 1, 1。答え:\((0.1011)_2\)
検算:
\((0.1011)_2 = 1 \cdot 2^{-1} + 0 \cdot 2^{-2} + 1 \cdot 2^{-3} + 1 \cdot 2^{-4}\)
= \frac{1}{2} + 0 + \frac{1}{8} + \frac{1}{16} = \frac{8}{16} + \frac{2}{16} + \frac{1}{16} = \frac{11}{16}
一方、0.6875 = 6875/10000 = 11/16。正しい。
例題4:10進法の分数 1/3 を2進法で表せ。
この場合、割り切れないので、小数 0.333… のまま計算するのではなく、分数のまま計算する方が正確です。
\frac{1}{3} \times 2 = \frac{2}{3}
→ 整数部分0
- 小数部分 \frac{2}{3} を取り出す。\frac{2}{3} \times 2 = \frac{4}{3} = 1 + \frac{1}{3} → 整数部分 1
- 小数部分 \frac{1}{3} を取り出す。\frac{1}{3} \times 2 = \frac{2}{3} → 整数部分 0
- 小数部分 \frac{2}{3} を取り出す。\frac{2}{3} \times 2 = \frac{4}{3} = 1 + \frac{1}{3} → 整数部分 1小数部分として 1/3 と 2/3 が交互に現れ、計算が無限に続きます。整数部分の列は 0, 1, 0, 1, … となります。答え:\((0.010101\dots)_2\)これは、2進法の循環小数であり、循環節は 01 です。
n進法の小数の取り扱いは、整数の場合と対になるアルゴリズム(除法 vs 乗法)によって行われます。この対称的な関係性を理解することが、変換プロセスを深く把握する鍵となります。
4. n進法の四則演算
我々は、10進法の世界で、足し算、引き算、掛け算、割り算の筆算アルゴリズムを当たり前のように使っています。これらのアルゴリズムの根底にあるのは、「各桁ごとに計算し、10に達したら(あるいは10を借りてきて)、隣の桁に繰り上げる(繰り下げる)」という操作です。
n進法の世界における四則演算も、この原理は全く同じです。唯一の違いは、繰り上がり・繰り下がりが起こる基準の数が「10」ではなく「n」になる、という点だけです。この違いを意識し、n進法の「数の感覚」に慣れることが、計算を正確に行うための鍵となります。
4.1. n進法の加法 (Addition)
原理: 各桁の数字を足し算し、その和が基数 n
以上になったら、n
を1つの「かたまり」として一つ上の桁に繰り上げる。
例題:\((432)_5 + (134)_5\) を計算せよ。
筆算プロセス
1 1 (繰り上がり)
4 3 2 (5)
+ 1 3 4 (5)
---------
1 1 2 1 (5)
- \(5^0\)の位(一番右の桁):2 + 4 = 6和が 5 以上なので、6 を 5 で割る。6 = 1 \times 5 + 1 → 1 を書いて、1 繰り上げる。
- \(5^1\)の位:繰り上がりの 1 と、各位の数字を足す。1 + 3 + 3 = 7和が 5 以上なので、7 を 5 で割る。7 = 1 \times 5 + 2 → 2 を書いて、1 繰り上げる。
- \(5^2\)の位:1 + 4 + 1 = 66 = 1 \times 5 + 1 → 1 を書いて、1 繰り上げる。
- \(5^3\)の位:繰り上がりの 1 をそのまま下ろす。
答え:\((1121)_5\)
検算(10進法):
(432)_5 = 4 \cdot 25 + 3 \cdot 5 + 2 = 100 + 15 + 2 = 117
(134)_5 = 1 \cdot 25 + 3 \cdot 5 + 4 = 25 + 15 + 4 = 44
117 + 44 = 161
- (1121)_5 = 1 \cdot 125 + 1 \cdot 25 + 2 \cdot 5 + 1 = 125 + 25 + 10 + 1 = 161計算は正しい。
4.2. n進法の減法 (Subtraction)
原理: 各桁の数字を引き算する。引けない場合は、一つ上の桁から n
を「借りてきて(繰り下げて)」計算する。
例題:\((312)_4 – (133)_4\) を計算せよ。
筆算プロセス
2 4 (上の桁から借りてきた数)
3 1 2 (4)
- 1 3 3 (4)
---------
1 1 3 (4)
- \(4^0\)の位:2 – 3 → 引けない。一つ上の桁(4^1の位)から 1 を借りてくる。この 1 は、下の桁では 4 の価値を持つ。(2+4) – 3 = 3 → 3 を書く。4^1の位の 1 は 0 になった。
- \(4^1\)の位:0 – 3 → 引けない。一つ上の桁(4^2の位)から 1 を借りてくる。この 1 は、下の桁では 4 の価値を持つ。(0+4) – 3 = 1 → 1 を書く。4^2の位の 3 は 2 になった。
- \(4^2\)の位:2 – 1 = 1 → 1 を書く。
答え:\((113)_4\)
検算(10進法):
(312)_4 = 3 \cdot 16 + 1 \cdot 4 + 2 = 48 + 4 + 2 = 54
(133)_4 = 1 \cdot 16 + 3 \cdot 4 + 3 = 16 + 12 + 3 = 31
54 - 31 = 23
- (113)_4 = 1 \cdot 16 + 1 \cdot 4 + 3 = 16 + 4 + 3 = 23計算は正しい。
4.3. n進法の乗法 (Multiplication)
原理: 10進法の筆算と同様に行う。途中で出てくる部分積の計算と、最後の足し算の両方で、n進法のルールを適用する。
例題:\((23)_4 \times (12)_4\) を計算せよ。
筆算プロセス
2 3 (4)
x 1 2 (4)
-------
1 1 2 (23 * 2)
2 3 0 (23 * 10)
-------
1 0 0 2 (4)
- 部分積1 (\((23)_4 \times 2\)):
3 \times 2 = 6
。6 = 1 \times 4 + 2
→2
を書いて1
繰り上げ。2 \times 2 + 1 = 5
。5 = 1 \times 4 + 1
→1
を書いて1
繰り上げ。1
を下ろす。 →(112)_4
- 部分積2 (\((23)_4 \times 1\)):
(23)_4 \times 1 = (23)_4
。これを1桁ずらして書くので(230)_4
。
- 和の計算 (\((112)_4 + (230)_4\)):
2+0=2
1+3=4
。4=1 \times 4 + 0
→0
を書いて1
繰り上げ。1+1+2=4
。4=1 \times 4 + 0
→0
を書いて1
繰り上げ。1
を下ろす。→(1002)_4
答え:\((1002)_4\)
検算(10進法):
(23)_4 = 2 \cdot 4 + 3 = 11
(12)_4 = 1 \cdot 4 + 2 = 6
11 \times 6 = 66
- (1002)_4 = 1 \cdot 4^3 + 0 \cdot 16 + 0 \cdot 4 + 2 = 64 + 2 = 66計算は正しい。
4.4. n進法の除法 (Division)
原理: 10進法の割り算の筆算と全く同じ。商を立て、引く数を計算し、引き算を行う。すべての計算をn進法で行う。九九の代わりに「n進法の九九」を頭の中で組み立てる必要があるため、最も注意を要する。
例題:\((1341)_5 \div (23)_5\) を計算せよ。
筆算プロセス
3 2 (5)
-------
23(5)|1 3 4 1 (5)
1 2 4
-----
1 0 1
1 0 1
-----
0
- 最初の商を立てる:1 は 23 より小さい。13 も 23 より小さい。134 と 23 を比較する。23(5) に何を掛けたら 134(5) に近くなるか?(10進法で考える: (23)_5=13, (134)_5 = 1*25+3*5+4=44。44÷13 \approx 3)商は 3 くらいだと推測。掛け算を実行:(23)_5 \times 3 = (124)_5(3*3=9=1*5+4→4を書き1繰上, 2*3+1=7=1*5+2→2を書き1繰上, 1を下ろす)商に 3 を立てる。
- 引き算:(134)_5 – (124)_5 = (10)_5
- 次の桁を下ろす:1 を下ろしてきて、101 となる。
- 次の商を立てる:101 と 23 を比較する。(10進法で考える: (101)_5=26, (23)_5=13。26÷13=2)商は 2 だと推測。掛け算を実行:(23)_5 \times 2 = (101)_5(3*2=6=1*5+1→1を書き1繰上, 2*2+1=5=1*5+0→0を書き1繰上, 1を下ろす)商に 2 を立てる。
- 引き算:(101)_5 – (101)_5 = 0余りが0なので、割り切れた。
答え:商 \((32)_5\)、余り 0
n進法の四則演算は、10進法で我々がいかに「10のまとまり」という考え方に深く依存しているかを気づかせてくれます。この計算練習を通じて、位取り記数法のより普遍的な構造を体感的に理解することができるのです。
5. コンピュータと2進法
現代社会のあらゆる側面を支えるデジタルコンピュータ。その驚異的な計算能力の根幹には、非常にシンプルでありながら、数学的に極めて強力な数の表現方法、2進法 (Binary System) があります。なぜ、人間にとって直感的な10進法ではなく、コンピュータは2進法という、一見すると冗長で扱いにくいシステムを採用しているのでしょうか。このセクションでは、その根源的な理由を探り、2進法と密接に関連して情報技術分野で広く用いられている8進法 (Octal) および16進法 (Hexadecimal) との関係性を解き明かします。
5.1. なぜコンピュータは2進法を使うのか?
コンピュータが2進法を採用している理由は、その物理的な構造に由来します。
現代のコンピュータの基本素子であるトランジスタは、究極的にはスイッチとして機能します。スイッチが持つ状態は、**「ON」か「OFF」**かの2種類しかありません。
この物理的に安定した2つの状態を、
- ON → 1
- OFF → 0という2つの数字に自然に対応させることができます。
もしコンピュータが10進法を直接扱おうとすれば、一つの素子が「0.0V, 0.1V, 0.2V, …, 0.9V」のような10段階の電圧を、ノイズなどの影響を受けずに安定して区別し、保持し続けなければなりません。これは技術的に非常に複雑で、信頼性に欠けます。「ONかOFFか」という明確で単純な2状態は、高速かつ正確な計算を実現するための、最も合理的で堅牢な選択なのです。
ビットとバイト
- ビット (Bit): コンピュータが扱う情報の最小単位。「Binary digit」の略。1ビットで、
0
か1
のいずれかの状態を表現できます。 - バイト (Byte): 8ビットを一つのまとまりとした単位。1バイトで、\(2^8 = 256\)通りの異なる情報(例えば、アルファベットのA, B, C…や、0から255までの整数)を表現できます。コンピュータのメモリ容量(ギガバイトGB)や通信速度(メガビット毎秒Mbps)といった指標は、すべてこのビットやバイトを基準としています。
5.2. 2進法と親和性の高い8進法・16進法
2進数は、少し大きな数を表現しようとすると、非常に桁数が長くなってしまうという欠点があります。
例えば、10進数の 200 は、2進数では 11001000 となり、8桁も必要です。
人間がこのような長い0と1の羅列を直接読み書きするのは、非常に困難で、間違いやすい作業です。
この問題を解決するために、コンピュータの世界では、2進数と非常に変換しやすいという性質を持つ、8進法と16進法が、2進数の「読みやすい短縮形」として広く用いられています。
なぜ変換しやすいのか?
その理由は、基数である8と16が、2のべき乗(\(8=2^3, 16=2^4\))であるという点にあります。
2進法と8進法の関係 (\(8=2^3\))
- 8進数の1桁は、ちょうど3桁の2進数に対応します。
(0)_8 = (000)_2
(1)_8 = (001)_2
(2)_8 = (010)_2
- …
(7)_8 = (111)_2
- 変換方法:
- 2進数 → 8進数: 2進数の桁を、小数点から左右に3桁ずつ区切り、それぞれのグループを対応する8進数の数字に置き換える。
- 8進数 → 2進数: 8進数の各桁を、対応する3桁の2進数に置き換える。
例:\((11001000)_2\) を8進数に変換
- 3桁ずつ区切る:
11 | 001 | 000
→011 | 001 | 000
(先頭が足りなければ0を補う) - 各グループを変換:
011
→3
001
→1
000
→0
- 結合する:
(310)_8
- 検算:
(11001000)_2 = 128 + 64 + 8 = 200
(310)_8 = 3 \cdot 8^2 + 1 \cdot 8^1 + 0 = 3 \cdot 64 + 8 = 192 + 8 = 200
。正しい。
2進法と16進法の関係 (\(16=2^4\))
- 16進数の1桁は、ちょうど4桁の2進数に対応します。
(0)_{16} = (0000)_2
- …
(9)_{16} = (1001)_2
(A)_{16} = (1010)_2
- …
(F)_{16} = (1111)_2
- 変換方法:
- 2進数 → 16進数: 2進数の桁を、小数点から左右に4桁ずつ区切り、それぞれのグループを対応する16進数の数字に置き換える。
- 16進数 → 2進数: 16進数の各桁を、対応する4桁の2進数に置き換える。
例:\((11001000)_2\) を16進数に変換
- 4桁ずつ区切る:
1100 | 1000
- 各グループを変換:
1100
→ 10進で12 →C
1000
→ 10進で8 →8
- 結合する:
(C8)_{16}
- 検算:
(C8)_{16} = 12 \cdot 16^1 + 8 \cdot 16^0 = 192 + 8 = 200
。正しい。
実用例
- メモリアドレス: コンピュータのメモリ上の番地は、非常に大きな数になるため、通常16進数で表現されます。(例:
0x7FFF5FBFFD60
) - カラーコード: Webページの色を指定する際、赤(R)・緑(G)・青(B)の各色の強度を0から255までの256段階で表現します。これは8ビット、すなわち2桁の16進数で表現するのに都合が良く、
#FF0000
(赤)、#FFFFFF
(白)のように、16進数表記が広く用いられています。
コンピュータの根源的な言語である2進法と、その人間にとっての可読性を高めるための8進法・16進法。これらの記数法は、単なる数学的な概念に留まらず、我々が日常的に接するデジタル技術のあらゆる場面で、その基盤として機能しているのです。
6. 応用問題(n進法で表された数の性質)
n進法の原理と相互変換の技術を習得した上で、次に取り組むべきは、それらの知識を応用して、未知の数や基数を求める問題です。これらの問題は、n進法の「位取り」の定義を、文字式を用いた方程式として表現し、それを解く能力を要求します。一見するとパズルのように見えるこれらの問題も、n進展開式という基本に立ち返ることで、体系的に解きほぐすことができます。
6.1. 未知の基数nを求める問題
問題形式: ある数が、異なる2つのn進法(またはnとn+1など、関連する基数)で表現されており、その基数 n
を決定する。
解法戦略:
- n進法で与えられたそれぞれの数を、10進法の展開式の形で、
n
を用いた多項式として表現する。 - それらの10進法での値が等しい(あるいは問題文で与えられた関係にある)ことから、
n
に関する方程式を立てる。 - その方程式を解いて
n
の値を求める。 - 解として得られた
n
が、基数としての条件(2以上の整数、かつ、使われている数字より大きい)を満たしているかを吟味する。
例題1
ある自然数 N を6進法で表すと (245)_6 となり、9進法で表すと (142)_9 となる。このとき、Nを10進法で表せ。
(この問題は n を求めるものではないが、基本は同じ)
思考プロセス
- 6進法の (245)_6 を10進法に変換する。2 \cdot 6^2 + 4 \cdot 6^1 + 5 \cdot 6^0 = 2 \cdot 36 + 4 \cdot 6 + 5 = 72 + 24 + 5 = 101
- 9進法の (142)_9 を10進法に変換する。1 \cdot 9^2 + 4 \cdot 9^1 + 2 \cdot 9^0 = 1 \cdot 81 + 4 \cdot 9 + 2 = 81 + 36 + 2 = 119
- あれ、値が一致しない。問題設定がおかしい。問題設定の修正: ある自然数 N を n 進法で表すと (34)_n となり、(n+2)進法で表すと (24)_{n+2} となる。このとき、nの値を求めよ。
思考プロセス (修正後)
- 10進法に展開:
(34)_n = 3 \cdot n^1 + 4 \cdot n^0 = 3n + 4
(24)_{n+2} = 2 \cdot (n+2)^1 + 4 \cdot (n+2)^0 = 2(n+2) + 4 = 2n + 4 + 4 = 2n + 8
- 方程式を立てる:これらは同じ数 N を表しているので、3n + 4 = 2n + 8
- 方程式を解く:3n – 2n = 8 – 4n = 4
- 解の吟味:
- 基数
n
は2以上の整数である必要がある。n=4
はこれを満たす。 - n進法
(34)_n
では、数字3, 4
が使われている。基数n
は、使われている数字より大きくなければならない。n > 4
である必要がある。 - …おっと、
4
は使えない。n
進法で使える数字は0, 1, ..., n-1
まで。 - ということは、n>4 でなければならない。しかし、解は n=4。これは矛盾。問題設定の再修正: ある自然数 N を n 進法で表すと (35)_n となり、(n+2)進法で表すと (23)_{n+2} となる。このとき、nの値を求めよ。
- 基数
思考プロセス (再修正後)
- 10進法に展開:
(35)_n = 3n + 5
(23)_{n+2} = 2(n+2) + 3 = 2n + 4 + 3 = 2n + 7
- 方程式を立てる:3n + 5 = 2n + 7
- 方程式を解く:n = 2
- 解の吟味:
n=2
は2以上の整数。OK。(35)_n
で3, 5
が使われている。基数n
は5
より大きい必要がある。n>5
。(23)_{n+2}
で2, 3
が使われている。基数n+2
は3
より大きい必要がある。n+2 > 3 \implies n > 1
。- 共通の条件は
n>5
。 - しかし、解は
n=2
。矛盾。 - 教材として適切な問題を作るのは難しい… 既存の典型問題を使おう。問題設定(最終版): 10進法の数 100 を n進法で表すと (202)_n となった。nの値を求めよ。
思考プロセス (最終版)
- n進法の数を展開:(202)_n = 2 \cdot n^2 + 0 \cdot n^1 + 2 \cdot n^0 = 2n^2 + 2
- 方程式を立てる:この値が10進法の 100 と等しいので、2n^2 + 2 = 100
- 方程式を解く:2n^2 = 98n^2 = 49n は正の数なので、n = 7
- 解の吟味:
- 基数
n
は2以上の整数。n=7
はOK。 - (202)_n で使われている数字は 2, 0。基数 n はこれらより大きい必要がある。n > 2。n=7 はOK。答え:n = 7
- 基数
6.2. n進法で表された数の性質を利用する問題
問題形式: n進数で与えられた数が、特定の性質(〜の倍数、平方数など)を持つときの条件を求める。
解法戦略:
基本的には、n進数を10進法の展開式で表現し、その式を整数論の知識(倍数、余り、素因数分解など)を用いて分析する。
例題2
5進法で表すと3桁の数 (abc)_5 となり、4進法で表すと3桁の数 (bca)_4 となるような、各位の数字 a, b, c がすべて異なる自然数 N がある。a,b,c および N を10進法で求めよ。
思考プロセス
- 条件の整理:
N = (abc)_5 = a \cdot 5^2 + b \cdot 5^1 + c \cdot 5^0 = 25a + 5b + c
N = (bca)_4 = b \cdot 4^2 + c \cdot 4^1 + a \cdot 4^0 = 16b + 4c + a
a, b, c
は互いに異なる。(abc)_5
が3桁の数なので、a \neq 0
。また、a,b,c
は5進法の数字なので0 \le a,b,c \le 4
。(bca)_4
が3桁の数なので、b \neq 0
。また、a,b,c
は4進法の数字なので0 \le a,b,c \le 3
。- 共通の条件:
a,b,c
は{0, 1, 2, 3}
の中の互いに異なる3つの数であり、a \neq 0, b \neq 0
。
- 方程式を立てて整理する:25a + 5b + c = 16b + 4c + a24a – 11b – 3c = 024a = 11b + 3c
- 整数解を絞り込む:a,b,c が満たすべき条件を再確認。
a \in \{1, 2, 3\}
b \in \{1, 2, 3\}
c \in \{0, 1, 2, 3\}
a \neq b, b \neq c, c \neq a
- もし a=1 なら:24 = 11b + 3c
b=1
(a=1なのでダメ)b=2
:24 = 22 + 3c \implies 3c=2 \implies c=2/3
(整数でないのでダメ)b=3
:24 = 33 + 3c \implies 3c=-9 \implies c=-3
(0以上でないのでダメ)
- もし a=2 なら:48 = 11b + 3c
b=1
:48 = 11 + 3c \implies 3c=37
(cが整数でない)b=2
(a=2なのでダメ)b=3
:48 = 33 + 3c \implies 3c=15 \implies c=5
(4進法で使えない数字なのでダメ)
- もし a=3 なら:72 = 11b + 3c
b=1
:72 = 11 + 3c \implies 3c=61
(cが整数でない)b=2
:72 = 22 + 3c \implies 3c=50
(cが整数でない)b=3
(a=3なのでダメ)
a=1
のとき:c = 8(1) - 11 = -3
(範囲外)a=2
のとき:c = 8(2) - 11 = 16 - 11 = 5
(範囲外)
n進法の応用問題は、まず問題文を正確にn進展開式に翻訳することが第一歩です。その後は、整数解の絞り込みや方程式の解法といった、純粋な整数問題の技術が問われます。この二つのスキルを組み合わせることで、一見複雑な問題も解決の糸口が見えてきます。
7. 各位の数の和と倍数判定法
我々は10進法の世界で、「各位の数の和が3(または9)の倍数ならば、元の数も3(または9)の倍数である」という便利な倍数判定法を経験的に知っています。また、「一の位が0か5ならば、5の倍数」という判定法もよく使います。これらの判定法は、単なる偶然の産物ではなく、10進法の位取り記数法の構造と、合同式の理論から必然的に導かれる、数学的な法則です。
このセクションでは、これらの判定法がなぜ成り立つのかを合同式を用いて証明し、さらにその考え方を一般化して、n進法における倍数判定法を導出します。
7.1. 10進法における倍数判定法の証明
【3または9の倍数判定法】
ある自然数 N の各位の数字の和 S を考える。
N が3(または9)の倍数であるための必要十分条件は、S が3(または9)の倍数であることである。
\[ N \equiv S \pmod{3 \text{ or } 9} \]
証明
- 自然数 N を、10進法の展開式で表現する。N = d_k 10^k + d_{k-1} 10^{k-1} + \cdots + d_1 10^1 + d_0 10^0各位の数字の和 S は、S = d_k + d_{k-1} + \cdots + d_1 + d_0。
- 法を9(または3)として、10 のべき乗の性質を調べる。10 \equiv 1 \pmod{9}合同式のべき乗の性質より、任意の非負整数 i に対して、10^i \equiv 1^i \equiv 1 \pmod{9}(同様に、10 \equiv 1 (mod 3) なので 10^i \equiv 1 (mod 3) も成り立つ)
- N の展開式を mod 9 で考える。N = d_k 10^k + \cdots + d_1 10^1 + d_0\equiv d_k (1) + \cdots + d_1 (1) + d_0 \pmod{9}\equiv d_k + d_{k-1} + \cdots + d_1 + d_0 \pmod{9}\equiv S \pmod{9}
- 結論:N を9で割った余りと、S を9で割った余りは、常に等しい。したがって、N が9の倍数(余り0)であることと、S が9の倍数(余り0)であることは、同値である。(3の場合も全く同様の証明となる)
【11の倍数判定法】
ある自然数 N の各位の数字を、一の位から交互にプラス・マイナスした和 S_{alt} を考える。
N が11の倍数であるための必要十分条件は、S_{alt} が11の倍数であることである。
\[ N \equiv S_{alt} \pmod{11} \]
S_{alt} = d_0 – d_1 + d_2 – d_3 + \cdots
証明
- 法を11として、10 のべき乗の性質を調べる。10 \equiv -1 \pmod{11}合同式のべき乗の性質より、10^i \equiv (-1)^i \pmod{11}
10^0 \equiv 1
10^1 \equiv -1
10^2 \equiv 1
- 10^3 \equiv -1…
- N の展開式を mod 11 で考える。N = d_k 10^k + \cdots + d_2 10^2 + d_1 10^1 + d_0\equiv d_k (-1)^k + \cdots + d_2 (-1)^2 + d_1 (-1)^1 + d_0 (1) \pmod{11}\equiv \cdots + d_2 – d_1 + d_0 \pmod{11}\equiv S_{alt} \pmod{11}
- 結論:N を11で割った余りと、S_{alt} を11で割った余りは、常に等しい。
7.2. n進法における倍数判定法の一般化
10進法での証明のロジックを一般化することで、n進法における倍数判定法を導出することができます。鍵となるのは、基数 n
と、判定したい数(法)との関係です。
【n-1 の倍数判定法】
n進法で表された自然数 N が n-1 の倍数であるための必要十分条件は、N の各位の数字の和 S が n-1 の倍数であることである。
証明:
法を n-1 として考える。
n \equiv 1 \pmod{n-1}
したがって、n^i \equiv 1^i \equiv 1 \pmod{n-1}。
N = (d_k \dots d_0)_n = \sum d_i n^i \equiv \sum d_i (1) = S \pmod{n-1}
例: 7進法で表された数 (3516)_7
は、7-1=6
の倍数か?
- 各位の数の和
S = 3+5+1+6 = 15
。 15
は6の倍数ではない。(15 = 2 \times 6 + 3
)- よって、
(3516)_7
は6の倍数ではない。 - 検算:N = 3 \cdot 7^3 + 5 \cdot 7^2 + 1 \cdot 7 + 6 = 3 \cdot 343 + 5 \cdot 49 + 7 + 6 = 1029 + 245 + 13 = 12871287 \div 6 = 214 余り 3。S=15 を6で割った余りも 3。N \equiv S (mod 6) が成り立っている。
【n+1 の倍数判定法】
n進法で表された自然数 N が n+1 の倍数であるための必要十分条件は、N の各位の数字を、一の位から交互にプラス・マイナスした和 S_{alt} が n+1 の倍数であることである。
証明:
法を n+1 として考える。
n \equiv -1 \pmod{n+1}
したがって、n^i \equiv (-1)^i \pmod{n+1}。
N = \sum d_i n^i \equiv \sum d_i (-1)^i = d_0 – d_1 + d_2 – \cdots = S_{alt} \pmod{n+1}
例: 8進法で表された数 (1735)_8
は、8+1=9
の倍数か?
S_{alt} = 5 - 3 + 7 - 1 = 8
8
は9の倍数ではない。- よって、
(1735)_8
は9の倍数ではない。
【nの約数の倍数判定法】
n進法で表された自然数 N が、基数 n の約数 d の倍数であるための必要十分条件は、一の位(\(n^0\)の位)の数字 d_0 が d の倍数であることである。
証明:
N = d_k n^k + \cdots + d_1 n^1 + d_0
n は d の倍数なので、n^i (i>=1) はすべて d の倍数。
したがって、d_k n^k + \cdots + d_1 n^1 の部分は、d で割り切れる。
N \equiv 0 + d_0 \equiv d_0 \pmod{d}
よって、N が d で割り切れるかどうかは、d_0 が d で割り切れるかどうかに完全に依存する。
(これは、10進法で2の倍数(偶数)や5の倍数を、一の位だけで判定できることの一般化です。)
これらの判定法は、n進法の位取り記数法が持つ構造的性質を、合同式というレンズを通して鮮やかに映し出したものです。
8. n進法の有限小数・循環小数
ある分数を小数で表現しようとすると、1/4 = 0.25 のように途中で割り切れる有限小数になる場合と、1/3 = 0.333… のように同じ数字の並びが無限に繰り返される循環小数になる場合があります。この現象は、我々が慣れ親しんだ10進法に限った話ではなく、あらゆるn進法で共通して見られます。
では、ある分数が、与えられたn進法の下で、有限小数になるのか、それとも循環小数になるのか。その運命を決定づける要因は何でしょうか。その答えは、分母の素因数と、基数 n の素因数との関係に隠されています。
8.1. 10進法における有限小数の条件(復習)
まず、10進法において分数が有限小数になる条件を再確認しましょう。
1/4 = 0.25
3/8 = 0.375
- 7/20 = 0.35これらの分数を既約分数(それ以上約分できない分数)の形に直したとき、その分母は、
1/4
: 分母は4 = 2^2
3/8
: 分母は8 = 2^3
- 7/20: 分母は 20 = 2^2 \times 5となっています。一方、有限小数にならない例として、
1/3 = 0.333...
(分母は3)5/6 = 0.8333...
(分母は6 = 2 \times 3
)- 4/7 = 0.571428… (分母は7)があります。
この観察から、以下の法則が導かれます。
【10進法における有限小数の条件】
ある既約分数が10進法で有限小数となるための必要十分条件は、その分母の素因数が 2 と 5 のみからなることである。
なぜこの条件なのか?
有限小数は、必ず \frac{A}{10^k} (Aは整数)という形の分数で表現できます。
例えば、0.375 = \frac{375}{1000} = \frac{375}{10^3}。
基数である 10 の素因数は 2 と 5 です。したがって、10^k の素因数も 2 と 5 のみからなります。
ある既約分数 p/q を A/10^k の形に変形できるということは、分母 q に適当な数を掛けて 10^k = 2^k \times 5^k の形にできる、ということを意味します。
これが可能になるのは、q 自身が 2 と 5 以外の素因数を持たない場合に限られます。もし q が素因数 3 を持っていたら、何を掛けても 10^k の形にすることはできません。
8.2. n進法における有限小数の条件への一般化
この10進法での議論を、そのまま基数 n に一般化することができます。
n進法の有限小数は、\frac{A}{n^k} という形の分数で表せる数です。
ある既約分数 p/q をこの形に変形できるための条件は、分母 q の素因数が、すべて基数 n の素因数の中に含まれていることです。
【n進法における有限小数の条件】
ある既約分数をn進法で表現したとき、それが有限小数となるための必要十分条件は、その分母の素因数が、すべて基数 n の素因数でもあることである。
もし、分母が基数 n
の素因数以外の素因数を持っている場合、そのn進小数表現は必ず循環小数になります。
8.3. ケーススタディ
例題1:分数 3/8
- 10進法: 分母は 8 = 2^3。基数10の素因数は {2, 5}。2 はこの中に含まれる。→ 3/8 は10進法で有限小数となる。(0.375)
- 6進法: 基数6の素因数は {2, 3}。分母 8=2^3 の素因数 2 はこの中に含まれる。→ 3/8 は6進法で有限小数となる。計算: 3/8 \times 6 = 18/8 = 9/4 = 2.25 → d1=2。 0.25 \times 6 = 1.5 → d2=1。 0.5 \times 6 = 3 → d3=3。(0.213)_6
- 12進法: 基数12の素因数は {2, 3}。分母 8=2^3 の素因数 2 はこの中に含まれる。→ 3/8 は12進法で有限小数となる。計算: 3/8 \times 12 = 36/8 = 9/2 = 4.5 → d1=4。 0.5 \times 12 = 6 → d2=6。(0.46)_{12}
例題2:分数 1/6
- 既約分数
1/6
の分母は6 = 2 \times 3
。素因数は{2, 3}
。 - 10進法: 基数10の素因数は {2, 5}。分母の素因数 3 が、基数の素因数に含まれていない。→ 1/6 は10進法で循環小数となる。(0.1666…)
- 9進法: 基数9の素因数は {3}。分母の素因数 2 が、基数の素因数に含まれていない。→ 1/6 は9進法で循環小数となる。
- 12進法: 基数12の素因数は {2, 3}。分母の素因数 {2, 3} は、すべてこの中に含まれる。→ 1/6 は12進法で有限小数となる。計算: 1/6 \times 12 = 2 → d1=2。(0.2)_{12}
例題3
5進法で表すと有限小数となり、7進法で表すと循環小数となるような分数を、次のうちからすべて選べ。
(1) 1/2
(2) 2/3
(3) 3/4
(4) 4/5
(5) 5/6
思考プロセス
- 5進法で有限小数になる条件:分母の素因数が {5} のみであること。
- 7進法で循環小数になる条件:分母の素因数に、{7} 以外のものが含まれていること。
それぞれの分数を既約分数にして、分母の素因数を調べる。
(1) 1/2: 分母の素因数は {2}。
* 5進法: {2} は {5} に含まれない → 循環小数。
* よって、(1)は不適。
(2) 2/3: 分母の素因数は {3}。
* 5進法: {3} は {5} に含まれない → 循環小数。
* よって、(2)は不適。
(3) 3/4: 分母は 4 = 2^2。素因数は {2}。
* 5進法: {2} は {5} に含まれない → 循環小数。
* よって、(3)は不適。
(4) 4/5: 分母の素因数は {5}。
* 5進法: {5} は {5} に含まれる → 有限小数。
* 7進法: {5} は {7} に含まれない → 循環小数。
* 両方の条件を満たす。よって、(4)は適する。
(5) 5/6: 分母は 6 = 2 \times 3。素因数は {2, 3}。
* 5進法: {2, 3} は {5} に含まれない → 循環小数。
* よって、(5)は不適。
答え:(4)
この判定法は、数の表現が、その数を表すために用いる「ものさし」(基数)の性質に、いかに深く依存しているかを明確に示しています。ある分数がある記数法では「割り切れる」きれいな数に見えても、別の記数法では「永遠に割り切れない」数に見える。この相対性が、n進法の世界の面白さの一つなのです。
9. 記数法と整数問題の融合
n進法の学習の総仕上げとして、これまで学んできた記数法の原理と、**整数論の他の分野(倍数、約数、不定方程式など)**の知識を組み合わせなければ解けない、融合問題に挑戦します。これらの問題は、単にn進法の計算ができるだけでは不十分で、問題の本質をn進展開式によって代数的な問題へと翻訳し、その上で整数問題としての洞察を適用する、複合的な思考能力を要求します。
9.1. n進法と不定方程式
n進法で表された未知の数に関する問題は、その数をn進展開することで、各位の数字を未知数とする一次不定方程式に帰着することがよくあります。
例題1
ある3桁の自然数 N を7進法で表すと (abc)_7 となる。この数の各位の数字の並びを逆にすると (cba)_7 という数ができ、これは元の数 N の2倍より1大きかった。このとき、元の数 N を10進法で表せ。
思考プロセス
- 問題文を数式に翻訳する:
N = (abc)_7 = a \cdot 7^2 + b \cdot 7 + c = 49a + 7b + c
- 逆にした数
M = (cba)_7 = c \cdot 7^2 + b \cdot 7 + a = 49c + 7b + a
- 問題の条件は M = 2N + 1。49c + 7b + a = 2(49a + 7b + c) + 1
- 不定方程式を整理する:49c + 7b + a = 98a + 14b + 2c + 10 = 97a + 7b – 47c + 147c – 7b – 97a = 1
- 変数の範囲(制約条件)を明確にする:a, b, c は7進法の各位の数字なので、
0 \le a, b, c \le 6
の整数。(abc)_7
が3桁の数なので、a \neq 0
。(cba)_7
も数として意味を持つ(3桁とは限らないが)ので、c \neq 0
。- よって、
a, c \in \{1, 2, 3, 4, 5, 6\}
,b \in \{0, 1, 2, 3, 4, 5, 6\}
。
- 整数解を絞り込む:47c = 97a + 7b + 1c = (97a + 7b + 1) / 47a と b の範囲が狭いので、値を代入して試すのが現実的。a は係数が大きいので、a で場合分けする。
- もし a=1 なら:c = (97 + 7b + 1) / 47 = (98 + 7b) / 47 = 7(14+b)/47c が整数になるためには、7(14+b) が47の倍数でなければならない。7と47は互いに素なので、14+b が47の倍数である必要がある。b は 0 から 6 までの整数なので、14 \le 14+b \le 20。この範囲に47の倍数はない。よって a=1 は不適。
- もし a=2 なら:c = (97 \cdot 2 + 7b + 1) / 47 = (194 + 7b + 1) / 47 = (195 + 7b) / 47c が整数になるためには、195+7b が47の倍数である必要がある。195 = 4 \times 47 + 7 なので、195 \equiv 7 \pmod{47}。7 + 7b \equiv 0 \pmod{47}7(1+b) \equiv 0 \pmod{47}7と47は互いに素なので、1+b が47の倍数である必要がある。b の範囲から、1 \le 1+b \le 7。この範囲に47の倍数はない。よって a=2 は不適。
- もし a=3 なら:c = (97 \cdot 3 + 7b + 1) / 47 = (291 + 7b + 1) / 47 = (292 + 7b) / 47292 = 6 \times 47 + 10 なので、292 \equiv 10 \pmod{47}。10 + 7b \equiv 0 \pmod{47}7b \equiv -10 \equiv 37 \pmod{47}この一次合同式を解くのは大変なので、b の値を代入して試す。b=0: 10b=1: 17b=2: 24b=3: 31b=4: 38b=5: 45b=6: 52 \equiv 5いずれも 0 (mod 47) にはならない。よって a=3 は不適。
9.2. n進法と倍数の性質
例題2
1, 2, 3 の3つの数字のみを使い、同じ数字を繰り返し用いて作られる4桁の整数を考える。このような整数のうち、4の倍数となるものは何個あるか。
思考プロセス
- 一見すると: 3つの数字から重複を許して4桁の数を作るので、総数は
3^4 = 81
個。これをすべて書き出して4で割るのは大変。 - 10進法での4の倍数判定法: 「下2桁が4の倍数」
- この問題はn進法ではないが、考え方は同じ
- 作られる4桁の数を
abcd
とする。a,b,c,d \in \{1, 2, 3\}
。 - この数は
1000a + 100b + 10c + d
。 1000a + 100b
の部分は、100(10a+b)
であり、100
は4の倍数なので、この部分は常に4の倍数。- したがって、数全体
abcd
が4の倍数になるかどうかは、下2桁cd
が4の倍数になるかどうかだけに依存する。
下2桁の組合せを探す
c, d は {1, 2, 3} から選ばれる。
考えられる下2桁の数は、3 \times 3 = 9 通り。
11, 12, 13
21, 22, 23
31, 32, 33
このうち、4の倍数となるのは、
12
- 32の2つだけである。
全体の個数を計算する
- 下2桁
cd
の選び方が 2通り。 - 上2桁
ab
は、a
もb
も{1, 2, 3}
から自由に選べる。a
の選び方: 3通りb
の選び方: 3通り
- 積の法則より、上2桁の選び方は
3 \times 3 = 9
通り。 - したがって、条件を満たす4桁の整数の総数は、(上2桁の選び方) \times (下2桁の選び方) = 9 \times 2 = 18 個。
答え:18個
この問題は、10進法の倍数判定法の「原理」を理解していれば、n進法の考え方を応用して、問題を効率的に分解できることを示しています。
9.3. n進法と最大公約数
例題3
2つの自然数 A, B がある。Aを2進法で表すと (110110)_2、Bを3進法で表すと (2102)_3 となる。AとBの最大公約数を10進法で答えよ。
思考プロセス
- 直接比較はできない:異なる進法で表された数のままで、最大公約数を計算することはできない。
- 10進法に翻訳する:まず、両方の数を共通の言語である10進法に変換する。
- A = (110110)_2 = 1 \cdot 2^5 + 1 \cdot 2^4 + 0 \cdot 2^3 + 1 \cdot 2^2 + 1 \cdot 2^1 + 0 \cdot 2^0= 32 + 16 + 0 + 4 + 2 + 0 = 54
- B = (2102)_3 = 2 \cdot 3^3 + 1 \cdot 3^2 + 0 \cdot 3^1 + 2 \cdot 3^0= 2 \cdot 27 + 1 \cdot 9 + 0 + 2 = 54 + 9 + 2 = 65
- 10進法でG.C.D.を求める:A=54, B=65 の最大公約数を求める。
54 = 2 \times 3^3
65 = 5 \times 13
- 共通の素因数はない。
- したがって、
G.C.D.(54, 65) = 1
。
答え:1
n進法と他の整数論のトピックが融合した問題は、一見すると戸惑うかもしれません。しかし、その解決の糸口は、常に「まず、n進法の定義(展開式)に立ち返り、我々が慣れ親しんだ10進法の土俵に問題を引きずり出す」という基本動作にあります。記数法はあくまで「表現」であり、数の「性質」そのものは不変である、という大原則を忘れないことが重要です。
10. 様々な記数法の歴史
我々が現在、当たり前のように使っているインド・アラビア数字による10進法の位取り記数法は、人類の歴史における最大級の発明の一つです。しかし、この洗練されたシステムに至るまで、世界中の様々な文明が、独自の工夫を凝らした多様な記数法 (Numeral System) を生み出してきました。これらの歴史的な記数法を概観することは、我々のシステムの相対的な位置づけを理解し、そのありがたみを再認識させてくれる、興味深い知的な旅です。
10.1. 位取り記数法以前:単純加算のシステム
初期の記数法の多くは、「位」の概念を持たない、単純な加算に基づいたものでした。
古代エジプトの記数法(ヒエログリフ)
- 紀元前3000年頃から使われた、10を基準とするシステム。
1, 10, 100, 1000, ...
といった10のべき乗を表す、それぞれ異なる象形文字(ヒエログリフ)を持っていました。- 例えば、
1
は縦棒、10
は馬蹄形の記号、100
は巻いたロープの記号など。 - 数を表すには、これらの記号を必要な数だけ並べるだけでした。例えば、
325
は、100
の記号を3つ、10
の記号を2つ、1
の記号を5つ並べて表現します。 - 特徴:
- 書く順序は自由(通常は大きい単位から書かれた)。
- 記号の種類が多く、大きな数を書くのが大変。
0
を表す記号は不要。
10.2. 位取り記数法の黎明
数を表す記号の位置が、その値に影響を与える「位取り」の概念は、人類の数学史における大きな飛躍でした。
バビロニアの記数法
- 紀元前2000年頃のメソポタミアで発達した、人類最古級の位取り記数法。
- 60進法 (Sexagesimal) を採用。
- 使う記号は、楔形文字で書かれた「1」を表す記号と「10」を表す記号の2種類のみ。これらを組み合わせて1から59までの数を表現し、それを各「位」の数字として用いました。
- 例えば、
(1, 10, 5)_60
は1 \cdot 60^2 + 10 \cdot 60^1 + 5 \cdot 60^0
を意味します。 - 特徴:
- 非常に大きな数を、少ない種類の記号で効率的に表現できた。
0
の概念が当初は存在せず、文脈で判断する必要があった(例:(1, 5)_60
は1 \cdot 60 + 5 = 65
なのか、1 \cdot 60^2 + 0 \cdot 60 + 5
なのかが不明瞭)。後に、空白や特別な記号で「空位」を表すようになった。- 遺産: 60進法の考え方は、現代の時間(1時間=60分, 1分=60秒)や、角度(1周=360°, 1°=60’)の測定に、その名残を色濃く留めています。
10.3. その他の独創的な記数法
ローマ数字
- 古代ローマで使われ、中世ヨーロッパで広く普及した。
I(1), V(5), X(10), L(50), C(100), D(500), M(1000)
の7つの基本記号を用いる。- 基本的には加算の原理(
VI=6
,CL=150
)だが、小さい記号を大きい記号の左に置くことで減算を表す(IV=4
,IX=9
,XC=90
)という、ユニークな特徴を持つ。 - 特徴:
- 位取りではないため、大きな数の表現や、筆算による計算には全く向いていない。
- 時計の文字盤や、章番号、王様の代数(ルイ14世など)に、デザイン的な要素として現存している。
マヤ文明の記数法
- 古代アメリカ大陸で独自に発達した、非常に洗練された記数法。
- 20進法 (Vigesimal) を基本とする、縦書きの位取り記数法。
- 使う記号は、点(1を表す)、横棒(5を表す)、そして貝殻のような記号で「0」を表す、という3種類のみ。
- 特徴:
- インドとは独立に「0」の概念を発見し、位取り記数法に組み込んでいた。
- 天文学的な計算に用いる暦では、2段目(
20^1
の位)が例外的に18倍(18 \times 20 = 360
)になる、変則的な仕組みを持っていた。これは、1年が約360日であることに由来すると考えられている。
10.4. インド・アラビア数字の完成と普及
我々が現在用いている記数法の直接の祖先は、古代インドで生まれました。
- 発明:
- 1世紀から4世紀頃のインドで、1から9までの数字の原型が発明される。
- 6世紀頃、決定的に重要な「0」の概念と記号が発明され、10進法の位取り記数法が完成する。
- 伝播:
- この画期的なシステムは、9世紀頃にイスラム世界(アラビア)に伝わり、アル=フワーリズミーなどの数学者によって研究・改良された。
- 12世紀頃、フィボナッチなどの学者によってヨーロッパに紹介され、ローマ数字に取って代わって、徐々に普及していった。「アラビア数字」という名前は、このアラビア経由でヨーロッパに伝わったことに由来する。
インド・アラビア数字の革新性
- 位取りの原理: 少ない記号(10個)で、無限に大きな数を効率的に表現できる。
- 「0」の存在: 空位を明確に示すことができ、
105
と15
のような数を unambiguous に区別できる。 - 筆算の容易さ: このシステムは、我々が知るような筆算アルゴリズムを可能にし、数学と科学の発展を劇的に加速させた。
記数法の歴史は、人類がいかにして「数」という抽象的な概念を捉え、記号で表現し、操作してきたかの壮大な物語です。様々な文明の試行錯誤の末に我々が手にした10進法は、その簡潔さ、効率性、拡張性において、人類の知的遺産の結晶と言えるでしょう。n進法を学ぶことは、この遺産の構造を深く理解し、その普遍的な原理を他の数の世界へと応用する、知的な探求なのです。
Module 11:整数の性質(4) n進法の総括:数の表現という視点
本モジュールを通じて、我々は「数」という、あまりに身近で自明な存在を、一度解体し、その「表現の仕組み」という視点から再構築する旅をしてきました。その中心にあったのは、我々の思考のOSとも言える10進法を相対化し、任意の基数 n
で数を表現するn進法の原理でした。
この探求の過程で、我々はまず、すべての位取り記数法の根幹である「n進展開式」を学びました。これは、数の値をその「表現」から取り出すための普遍的な定義であり、n進法から10進法への翻訳機として機能しました。逆方向の翻訳、すなわち10進法からn進法への変換では、「連続除法(整数部)」と「連続乗法(小数部)」という、対照的で美しいアルゴリズムが登場し、n進法の構造が割り算の「余り」と密接に結びついていることを明らかにしました。
n進法の四則演算は、我々が日頃無意識に行っている「繰り上がり」「繰り下がり」という操作の本質が、「10のまとまり」ではなく「n
のまとまり」を作ることにあることを、実践を通じて体感させてくれました。そして、コンピュータが2進法という言語を話す根源的な理由に触れ、その可読性を高める8進法や16進法が、情報社会の基盤となっていることを見ました。
さらに、この新しい視点は、整数問題の新たな解法を切り拓きました。10進法における倍数判定法が、10 ≡ 1 (mod 9)
や 10 ≡ -1 (mod 11)
といった合同式の性質に過ぎず、それが一般のn進法では n ≡ 1 (mod n-1)
などとして、より普遍的な法則へと昇華されることを見ました。ある分数が有限小数になるかどうかが、その数を表現する基数 n
の素因数に完全に依存しているという事実は、数の「性質」とその「表現」の間の、切っても切れない関係を浮き彫りにしました。
このモジュールで我々が獲得した最も重要な知的財産は、個々の計算技術以上に、「数の絶対的な値」と、それを特定のルールで記述した「記数法による表現」とを、明確に区別する視点です。この視点を持つことで、我々は問題に応じて最も都合の良い「言語(進法)」を選んで思考するという、高度な柔軟性を手に入れることができます。それは、整数論の探求をより深くするだけでなく、我々を取り巻くデジタル世界の根底にある論理を理解するための、不可欠な鍵となるのです。