場合の数は、数学の中でも特に日常生活と関連が深く、確率を考える上での基礎となる重要な分野です。何か物事を行う際に「何通りの方法があるか」を正確に数え上げるための考え方を学びます。ここでは、その最も基本的な考え方である「和の法則」「積の法則」、そしてそれらを視覚的に理解する助けとなる「樹形図」について、基礎から丁寧に解説していきます。
目次
第1章:場合の数とは何か?
まず、「場合の数」という考え方の基本と、なぜそれが重要なのかについて理解しましょう。
1. 場合の数の定義
- 場合の数とは、ある事柄について、起こりうる結果や選択肢が全部で何通りあるかを示した数です。
- 例えば、「サイコロを1回投げたときに出る目の場合の数」は、1, 2, 3, 4, 5, 6 の「6通り」となります。
- 「コインを1枚投げたときの結果の場合の数」は、表か裏の「2通り」です。
2. なぜ場合の数を学ぶのか?
- 確率の基礎: ある事象が起こる確率を計算するには、まず「起こりうるすべての結果(全事象)の場合の数」と「注目する事象の場合の数」を正確に知る必要があります。
- 論理的思考力: 物事を整理し、漏れなく、重複なく数え上げるプロセスは、論理的な思考力を養います。
- 問題解決能力: 日常生活やビジネスにおける様々な選択肢の中から、最適なものを選んだり、可能性を網羅的に検討したりする際に役立ちます。
3. 基本となる考え方
- 場合の数を数え上げる基本的な法則として「和の法則」と「積の法則」があります。
- これらを視覚的に整理し、数え上げを助けるツールとして「樹形図」があります。
- この3つを理解することが、場合の数をマスターするための第一歩となります。
第2章:和の法則 – 「または」で考える
複数の選択肢がある場合、それらが同時には起こらないケースで使うのが「和の法則」です。
1. 和の法則の定義
- いくつかの事柄があり、それらが同時には起こらない場合、いずれか一方が起こる場合の数は、それぞれの事柄の場合の数を足し合わせたものになります。
- キーワードは「または」「あるいは」「どちらか一方」です。
2. 和の法則の使い方と具体例
- 例1:大小2つのサイコロを同時に投げるとき、目の和が4または5になる場合の数
- 目の和が4になる場合: (1, 3), (2, 2), (3, 1) の3通り。
- 目の和が5になる場合: (1, 4), (2, 3), (3, 2), (4, 1) の4通り。
- 目の和が4になることと、目の和が5になることは同時には起こりません。
- したがって、和の法則を使い、3 + 4 = 7通りとなります。
- 例2:A地点からB地点へ行く方法が、電車で3通り、バスで2通りある場合、A地点からB地点へ行く方法は何通りか?
- 電車で行く場合:3通り。
- バスで行く場合:2通り。
- 電車とバスに同時に乗ることはできません(通常)。
- したがって、和の法則を使い、3 + 2 = 5通りとなります。
3. 和の法則の注意点
- 同時に起こる可能性がないか確認する: 和の法則が適用できるのは、それぞれの事柄が互いに排反(同時に起こらない)である場合のみです。もし、同時に起こる場合があるなら、単純に足し合わせるだけでは重複して数えてしまうため、別の考え方(集合の考え方など)が必要になります。
- 例えば、「1から10までの整数から1つ選ぶとき、偶数または3の倍数である場合の数」を考えます。
- 偶数は 2, 4, 6, 8, 10 の5通り。
- 3の倍数は 3, 6, 9 の3通り。
- 単純に 5 + 3 = 8 とすると、「6」が重複して数えられています。この場合は、重複分を引く必要があります(5 + 3 – 1 = 7通り)。
第3章:積の法則 – 「そして」「連続して」考える
一連の動作や、複数の独立した選択を組み合わせる場合などに使うのが「積の法則」です。
1. 積の法則の定義
- いくつかの事柄があり、それらが連続して起こる場合や、それぞれ独立して選択される場合、起こりうるすべての場合の数は、それぞれの事柄の場合の数を掛け合わせたものになります。
- キーワードは「かつ」「そして」「〜して、さらに〜する」です。
2. 積の法則の使い方と具体例
- 例1:コインを3回投げるとき、表裏の出方は何通りか?
- 1回目のコインの出方:表か裏の2通り。
- 2回目のコインの出方:表か裏の2通り。
- 3回目のコインの出方:表か裏の2通り。
- それぞれの回の結果は独立しています。
- したがって、積の法則を使い、2 × 2 × 2 = 8通りとなります。
- 例2:A地点からB地点へ行く方法が3通り、B地点からC地点へ行く方法が4通りある場合、A地点からB地点を経由してC地点へ行く方法は何通りか?
- AからBへの行き方:3通り。
- BからCへの行き方:4通り。
- AからBへ行く方法それぞれに対して、BからCへ行く方法が4通りずつあります(連続した動作)。
- したがって、積の法則を使い、3 × 4 = 12通りとなります。
- 例3:Tシャツを5種類、ズボンを3種類持っているとき、上下の組み合わせは何通りか?
- Tシャツの選び方:5通り。
- ズボンの選び方:3通り。
- Tシャツの選び方とズボンの選び方は独立しています。
- したがって、積の法則を使い、5 × 3 = 15通りとなります。
3. 積の法則の注意点
- 独立性の確認: 積の法則がシンプルに適用できるのは、各ステップの選択が他のステップの選択肢の数に影響を与えない場合です。もし、前の選択によって後の選択肢の数が変わる場合は、その変化を考慮して掛け合わせる必要があります(例:順列など)。
- 例えば、「1, 2, 3, 4 の数字が書かれたカードから3枚を選んで並べ、3桁の整数を作る場合」を考えます。
- 百の位の選び方:4通り。
- 十の位の選び方:百の位で使った数字を除く3通り。
- 一の位の選び方:百の位と十の位で使った数字を除く2通り。
- この場合は、4 × 3 × 2 = 24通りとなります。単純に 4 × 4 × 4 とはなりません。
第4章:樹形図 – すべての場合を書き出す
場合の数を数え上げる際に、漏れなくダブりなく整理するための強力なツールが「樹形図」です。
1. 樹形図とは
- 起こりうるすべての場合を、木の枝が分かれていくように図で表したものです。
- 事柄のステップごとに、考えられる選択肢を枝として書き出していきます。
- 最終的な枝の数が、求める場合の数になります。
2. 樹形図の書き方
- ステップ1: 最初のステップで起こりうる場合を、根元から出る枝として書き出します。
- ステップ2: 各枝の先から、次のステップで起こりうる場合を、さらに枝分かれさせて書き出します。
- ステップ3: すべてのステップが終わるまで、同様に枝分かれを繰り返します。
- ステップ4: 最終的に到達した枝の先端の数を数えます。これが総数となります。
3. 樹形図の具体例
- 例1:コインを2回投げるときの表裏の出方
- 1回目:表 (H) / 裏 (T)
- 2回目:1回目が表(H)の場合 → 表(H) / 裏(T) 1回目が裏(T)の場合 → 表(H) / 裏(T)
- 樹形図:
Start -- H -- H (HH) | `- T (HT) `- T -- H (TH) `- T (TT)
- 最終的な枝は (HH), (HT), (TH), (TT) の 4通り。これは積の法則 (2 × 2 = 4) と一致します。
- 例2:A, B, C の3人が横一列に並ぶときの並び方
- 1番目:A / B / C
- 2番目:1番目がAの場合 → B / C 1番目がBの場合 → A / C 1番目がCの場合 → A / B
- 3番目:1番目A, 2番目Bの場合 → C (ABC) 1番目A, 2番目Cの場合 → B (ACB) 1番目B, 2番目Aの場合 → C (BAC) 1番目B, 2番目Cの場合 → A (BCA) 1番目C, 2番目Aの場合 → B (CAB) 1番目C, 2番目Bの場合 → A (CBA)
- 樹形図を描くと、最終的な枝は ABC, ACB, BAC, BCA, CAB, CBA の 6通り。これは積の法則 (3 × 2 × 1 = 6) と一致します。
4. 樹形図のメリットとデメリット
- メリット:
- 漏れなく数えられる: すべての場合を視覚的に書き出すため、数え忘れを防ぎやすいです。
- 重複なく数えられる: 図の構造上、同じ場合を二度数えてしまうことを防ぎやすいです。
- 複雑な条件に対応しやすい: 和の法則や積の法則が直接使いにくい、少し複雑な条件の問題でも、丁寧に書き出すことで答えにたどり着けます。
- 法則の理解を助ける: なぜ和の法則や積の法則が成り立つのかを視覚的に理解する助けになります。
- デメリット:
- 場合の数が多くなると大変: 選択肢やステップ数が増えると、樹形図が非常に複雑になり、書くのが大変になったり、間違いやすくなったりします。
5. 樹形図と法則の関係
- 樹形図は、和の法則と積の法則の考え方を具体的に表したものです。
- 同じ階層(ステップ)での枝分かれの合計は、和の法則に対応することがあります(例:特定の条件を満たす枝の数を数える場合)。
- ステップが進むごとの枝分かれの掛け算が、積の法則に対応します。
- 法則を適用する前に、簡単なケースで樹形図を書いてみて、法則が正しく使えそうか確認するのも有効な手段です。
第5章:まとめ – 法則と樹形図の使い分け
和の法則、積の法則、樹形図は、場合の数を正確に求めるための基本的な道具です。
1. 使い分けのポイント
- 和の法則: 「AまたはB」のように、同時に起こらないいくつかの選択肢の中から1つを選ぶ場合に使う。足し算で計算する。
- 積の法則: 「Aして、さらにBする」のように、連続した動作や、独立した複数の選択を組み合わせる場合に使う。掛け算で計算する。
- 樹形図: 法則の適用が難しい場合、場合の数がそれほど多くない場合、すべての場合を漏れなくダブりなく書き出して確認したい場合に使う。視覚的な整理に役立つ。
2. 応用へのステップ
- これらの基本法則と樹形図の考え方をしっかりと理解することが、より複雑な「順列」や「組み合わせ」といった問題に取り組むための基礎となります。
- 問題をよく読み、「同時に起こらないか?(和の法則)」「連続・独立した選択か?(積の法則)」「書き出した方が確実か?(樹形図)」を判断する練習を重ねることが重要です。
3. 注意点(再掲)
- 和の法則は「同時に起こらない」ことが大前提です。重複がないか常に意識しましょう。
- 積の法則は「独立性」や「ステップごとの選択肢の変化」に注意が必要です。
- 樹形図は場合の数が多くなると現実的ではないため、法則と組み合わせて使うことが多くなります。
潜在的なリスクについて:
この記事では、場合の数の基本的な考え方を解説しています。しかし、より複雑な問題(例:円順列、重複順列、組み合わせ、重複組み合わせなど)には、ここで解説した内容だけでは対応できません。これらの応用的なトピックについては、別途学習が必要です。また、和の法則と積の法則の適用を誤ると、計算結果が大きく異なってしまうため、問題文の条件を正確に読み取ることが極めて重要です。樹形図も、書き間違いや数え間違いのリスクが伴うため、丁寧さが求められます。