3円順列とじゅず順列:固定する考え方をマスターしよう

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一列に並べる「順列」の考え方を理解したら、次は少し特殊な並べ方、「円順列」と「じゅず順列」について学びましょう。これらは、テーブルに人を配置したり、ビーズでネックレスを作ったりする際に登場する考え方です。一見難しそうに見えますが、「1つを固定する」という考え方を理解すれば、直線的な順列の問題に帰着させることができます。ここでは、円順列とじゅず順列の定義、計算方法、そしてその核心となる「固定する」考え方について解説します。


目次

第1章:円順列とは? – 回転を区別しない並べ方

まず、円順列がどのようなものか、通常の順列(直線順列)とどう違うのかを見ていきましょう。

1. 円順列の定義と具体例

  • 異なる n 個のものを円形に並べる並べ方の総数を「円順列」といいます。
  • 最大の特徴は、回転して同じになる並び方は、同じものとして数える点です。
  • 具体例:
    • A, B, C の3人を円卓に並べる場合を考えます。
    • 直線に並べるなら、ABC, ACB, BAC, BCA, CAB, CBA の 3! = 6 通りです。
    • しかし、円卓に並べると、例えば (Aが北、Bが南東、Cが南西) という配置は、回転させると (Bが北、Cが南東、Aが南西)、(Cが北、Aが南東、Bが南西) と同じ配置になります。
    • 図で考えると、ABC, BCA, CAB は回転で重なるため1通りと数えます。同様に、ACB, CBA, BAC も回転で重なるため1通りと数えます。
    • 結果として、A, B, C の3人を円卓に並べる円順列は 2通り となります。

2. なぜ直線順列と違うのか?

  • 直線順列では、「端」があるため、絶対的な位置(左から何番目など)が意味を持ちます。
  • 円順列では、「端」がなく、回転させると位置関係が変わってしまうため、絶対的な位置ではなく、**隣接関係(誰の隣に誰がいるか)**が重要になります。
  • 上記の A, B, C の例では、ABC (BはAの右隣、CはBの右隣) と BCA (CはBの右隣、AはCの右隣) と CAB (AはCの右隣、BはAの右隣) は、すべて「時計回りに A→B→C となっている」という点で同じ隣接関係を持っています。これらを同一視するのが円順列です。

3. 「固定する」考え方

  • 円順列の計算で最も重要なのが「1つを固定する」という考え方です。
  • n 個のうち、どれか1つ(例えば A さん)の位置を特定の一か所に固定します。
  • A さんを固定すると、回転させても A さんの位置は変わりません。これにより、回転による重複を防ぐことができます。
  • A さんを固定した後、残りの (n – 1) 個のものを、A さんを基準とした相対的な位置に並べることになります。これは、(n – 1) 個のものを直線に並べる順列と同じ問題になります。
  • 例えば、A, B, C の円順列では、A を固定すると、残りの B, C を A から見て時計回りに並べる方法は (B, C) と (C, B) の 2 通りになります。これは、残りの (3 – 1) = 2 人の直線順列 2! = 2 通りと同じです。

第2章:円順列の計算方法

「固定する」考え方に基づいて、円順列の計算公式を導き、実際に使ってみましょう。

1. (n-1)! の公式

  • 異なる n 個のものの円順列の総数は、次の公式で計算できます。
    • 円順列の総数 = (n – 1)!

2. 公式の導出(固定する方法)

  • 上記の「固定する」考え方を一般化したものです。
  • n 個の中から特定の1つを選んで、円周上のある位置に固定します。
  • 残りの (n – 1) 個のものを、固定したものの右隣から時計回りに順番に並べていきます。
  • この並べ方は、(n – 1) 個の異なるものを一列に並べる順列と同じなので、その総数は (n – 1)! 通りとなります。

3. 公式の導出(重複を除く方法)

  • 別の考え方として、まず n 個のものを直線に並べる順列 n! を考えます。
  • この n! 通りの中には、円形に並べた場合に回転すると同じになるものが含まれています。
  • 具体的には、ある1つの円順列に対して、回転させることで n 通りの異なる直線順列が得られます。(例えば、ABCDE の円順列からは、直線順列として ABCDE, BCDEA, CDEAB, DEABC, EABCD が対応します)
  • したがって、直線順列の総数 n! を、この重複度 n で割ることで、円順列の総数を求めることができます。
    • 円順列の総数 = n! / n = {n × (n – 1)!} / n = (n – 1)!
  • 結果として、どちらの考え方でも同じ (n – 1)! という公式が得られます。

4. 具体的な計算例題

  • 例題1: 6人の生徒が円形のテーブルに着席する方法は何通りあるか?
    • 考え方: 異なる6人を円形に並べる円順列の問題です。
    • 計算: (6 – 1)! = 5! = 5 × 4 × 3 × 2 × 1 = 120
    • 答え: 120通り
  • 例題2: 両親と子供4人の合計6人が円卓を囲むとき、両親が隣り合うような座り方は何通りあるか?
    • 考え方:
      • まず、「隣り合う」考え方を使います。両親を「ひとかたまり」と見ます。
      • すると、「両親のかたまり」と子供4人の合計5つの要素を円形に並べる円順列と考えます。
      • この5つの要素の円順列は (5 – 1)! = 4! 通り。
      • 次に、「両親のかたまり」の中で、父・母の並び方(父が右か、母が右か)が 2! = 2 通りあります。
      • 積の法則により、これらを掛け合わせます。
    • 計算: (5 – 1)! × 2! = 4! × 2! = (4 × 3 × 2 × 1) × (2 × 1) = 24 × 2 = 48
    • 答え: 48通り

第3章:じゅず順列(ネックレス順列)とは?

円順列の考え方をさらに一歩進め、裏返しも区別しないのが「じゅず順列」です。

1. じゅず順列の定義 – 裏返しも区別しない

  • 異なる n 個のものを円形に並べる際、回転して同じになるものに加えて、裏返して(左右反転させて)同じになるものも同一視する並べ方を「じゅず順列」または「ネックレス順列」といいます。
  • ビーズでネックレスを作る場合などを想像すると分かりやすいです。ネックレスは裏返しても同じものとして使えます。

2. 円順列との違い

  • 円順列:回転のみ同一視。
  • じゅず順列:回転+裏返し(左右反転)を同一視。
  • したがって、一般的に、じゅず順列の総数は円順列の総数以下になります。

3. 具体例:異なるビーズで作るネックレス

  • A, B, C, D の4つの異なる色のビーズでネックレスを作る場合を考えます。
  • まず、円順列を計算します。(4 – 1)! = 3! = 6 通り。
    • 具体的な配置(時計回り):(ABCD), (ACBD), (ADBC), (ACDB), (ABDC), (ADCB)
  • 次に、これらの円順列の中に、裏返すと重なるものがないか確認します。
    • (ABCD) を裏返すと (ADCB) になります。これらはじゅず順列では同じものと数えます。
    • (ACBD) を裏返すと (ADBC) になります。これらも同じもの。
    • (ACDB) を裏返すと (ABDC) になります。これらも同じもの。
  • 結果として、この場合のじゅず順列は、円順列のペア (ABCD と ADCB), (ACBD と ADBC), (ACDB と ABDC) をそれぞれ1つと数えるので、6 ÷ 2 = 3通り となります。

第4章:じゅず順列の計算方法

じゅず順列は、円順列の考え方をベースに計算します。

1. 基本的な計算:円順列 ÷ 2

  • ほとんどの場合、じゅず順列の総数は、対応する円順列の総数を 2 で割ることで求められます。
  • なぜなら、裏返す操作によって、通常は異なる2つの円順列が1つのじゅず順列に対応するからです。
    • じゅず順列の総数 ≈ (円順列の総数) / 2 = (n – 1)! / 2

2. 計算の注意点:左右対称な場合

  • 上記の「÷ 2」が常に成り立つわけではありません。それは、裏返しても自分自身と同じ配置になる円順列、つまり「左右対称な配置」が存在する場合です。
  • 左右対称な配置は、裏返しても変わらないため、円順列としてもじゅず順列としても1通りと数えられます。ペアになる相手が存在しません。
  • したがって、正確な計算方法は以下のようになります。
    • ステップ1: 円順列の総数 (n – 1)! を計算する。
    • ステップ2: その中に左右対称な配置がいくつあるか調べる (対称なものの個数 A)。
    • ステップ3: 左右非対称な配置の数を計算する (非対称なものの個数 B = (n – 1)! – A)。
    • ステップ4: 左右非対称なものは裏返すとペアになるので、じゅず順列では B / 2 通りとなる。
    • ステップ5: 左右対称なものはそのまま A 通り。
    • ステップ6: じゅず順列の総数は A + B / 2 = A + {(n – 1)! – A} / 2 = {(n – 1)! + A} / 2 となる。
  • 高校数学の範囲では、左右対称な配置がないか、あっても単純なケース(例:nが小さい場合)を扱うことが多いです。対称性の判定は一般には難しい場合があります。

3. 具体的な計算例題

  • 例題1: 異なる5色のビーズでネックレスを作る方法は何通りあるか?
    • 考え方: じゅず順列の問題。まず円順列を計算し、左右対称な配置がないか考慮する。
    • ステップ1: 円順列の総数 = (5 – 1)! = 4! = 24通り。
    • ステップ2: 5つの異なるもので左右対称な配置は作れない(奇数個のため)。よって A = 0。
    • ステップ3, 4: 非対称なものは 24 – 0 = 24通り。じゅず順列では 24 / 2 = 12通り。
    • ステップ6: じゅず順列の総数 = (24 + 0) / 2 = 12通り。
    • 答え: 12通り
  • 例題2: 異なる6色のビーズでネックレスを作る方法は何通りあるか?
    • 考え方: じゅず順列。円順列を計算し、左右対称性を考える。
    • ステップ1: 円順列の総数 = (6 – 1)! = 5! = 120通り。
    • ステップ2: 6つの異なるもので左右対称な配置が存在するか? 存在します。例えば、特定の色を基準に、その対面の色を決め、残りの4色を左右対称に配置する場合などです。しかし、この対称な配置の数を数えるのは少し複雑です(※ここでは結果のみ示します。対称な配置は0個です)。A=0。
    • ステップ6: じゅず順列の総数 = (120 + 0) / 2 = 60通り。 (※もし対称なものが存在する場合は計算が変わる)
    • 答え: 60通り (※高校レベルでは対称性を深く問わないことが多い)

第5章:円順列・じゅず順列の応用

円順列の考え方は、他の問題に応用されることもあります。

1. 特定のものが隣り合う/隣り合わない円順列

  • 隣り合う場合: 直線順列の時と同様に、「ひとかたまり」として考えます。そのかたまりと残りの要素で円順列を作り、最後にかたまり内部の並び順(直線順列)を掛けます。
    • 例:両親と子供4人の例題(第2章 例題2)を参照。 (5つの要素の円順列) × (両親2人の並び) = (5-1)! × 2! = 48通り。
  • 隣り合わない場合:
    • 余事象: (全体の円順列) – (隣り合う円順列) で計算できる場合があります。
    • 間に入れる: 他のものを先に円形に並べ、その「間」に隣り合わないようにしたいものを入れる考え方もあります。先に (n-k) 個のものを円形に並べ ((n-k-1)!)、できた (n-k) 個の隙間に k 個のものを入れる順列 (n-k P k) を掛ける、といった計算になります。
    • 例:男子3人、女子4人が円卓に座るとき、男子が隣り合わない場合。
      • 先に女子4人を円形に並べる:(4-1)! = 3! = 6通り。
      • 女子の間にできた4つの隙間に男子3人を入れる:4P3 = 4×3×2 = 24通り。
      • よって、6 × 24 = 144通り。

2. 立方体の塗り分けなどへの応用(考え方)

  • 立方体の各面を異なる色で塗り分ける問題なども、回転による同一視を含むため、円順列と考え方が似ています。
  • まず1つの面の色を固定し(例えば底面)、次に上面の色を決め、最後に側面を円順列の考え方で塗り分ける、といった手順で解くことがあります。
  • ただし、3次元的な回転も考慮するため、単純な円順列よりも複雑になります(バーンサイドの補題やポリアの計数定理といった、より高度な数学が必要になることもあります)。

第6章:まとめと注意点

円順列とじゅず順列は、回転や裏返しによる対称性を考慮する点で特徴的です。

1. 円順列・じゅず順列のポイント整理

  • 円順列:
    • 異なる n 個を円形に並べる(回転して同じものは同一視)。
    • 計算方法: (n – 1)!
    • 考え方: 1つを固定して残りを直線に並べる。
  • じゅず順列 (ネックレス順列):
    • 異なる n 個を円形に並べる(回転・裏返しで同じものは同一視)。
    • 計算方法: {(n – 1)! + (左右対称な円順列の個数)} / 2
    • 左右対称な配置がなければ、単純に (n – 1)! / 2 で計算できることが多い。

2. 計算の核心「固定」と「対称性」

  • これらの問題を解く鍵は、「何を同一視するのか」を正確に把握することです。
  • 円順列では「回転」、じゅず順列では「回転と裏返し」による対称性を考慮します。
  • 「1つを固定する」という操作は、回転による重複を効率的に除くための重要なテクニックです。

3. 注意事項

  • 異なるものか確認: 円順列・じゅず順列の基本公式は「異なる n 個」が前提です。同じものを含む場合は、考え方が変わります。
  • じゅず順列の対称性: じゅず順列の計算では、左右対称な配置の有無とその個数が計算結果に影響します。この判定が難しい場合があるため注意が必要です。高校レベルの問題では、対称性が生じないか、簡単に判断できるケースが多い傾向にあります。
  • 問題文の読解: 「円形に並べる」「輪の形に並べる」といった言葉があれば円順列を疑いますが、「ネックレスを作る」「ブレスレットを作る」など、裏返しも同一視する文脈であればじゅず順列を考えます。

潜在的なリスクについて:

この記事では、円順列とじゅず順列の基本的な考え方と計算方法を解説しました。特にじゅず順列における「左右対称な配置」の扱いは、対称性の判定が複雑になる場合があり、高校数学の範囲を超える議論が必要になることもあります。本記事ではその基本的な考え方に留めています。また、立方体の塗り分け問題など、より複雑な空間的な対称性を考慮する問題は、円順列の考え方を応用しますが、それだけでは解けず、より高度な群論などの知識(バーンサイドの補題など)が必要となる場合があります。これらの発展的な内容については、別途専門的な学習が必要です。

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