Module 15: 積分法の応用設問パターン

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【概要】

Module 14では、関数という世界の「瞬間的な変化」を捉えるための顕微鏡、微分法を学びました。本モジュールで探求する積分法は、その微分法と対をなす、解析学のもう一つの巨大な柱です。積分法は、二つの異なる顔を持っています。一つは、微分の逆の演算として、変化率から元の関数を探し出す「不定積分」。もう一つは、無数の微小な量を「足し合わせる」ことで、面積や体積といった連続的な量を確定させる「定積分」です。一見すると無関係に見えるこの二つの概念が、「微分積分学の基本定理」という奇跡的な橋によって結ばれるとき、我々は複雑な幾何学量の計算を、単純な代数計算に帰着させるという、絶大な力を手に入れます。本稿では、まず不定積分を計算するための多様な技術体系を確立し、次にリーマン和に代表される定積分の本質的な意味を理解します。最終的には、微分積分学の基本定理を武器に、面積、体積、そして曲線の長さといった、様々な量を測定する応用問題のパターンを徹底的に解析します。


目次

1. 不定積分:微分の逆演算を探る技術

積分法の旅は、微分法の逆を辿る、というシンプルな問いから始まります。「この関数 f(x) は、一体どんな関数を微分したものだろうか?」この問いに答えるプロセスが、不定積分の探求です。

1.1. 原始関数と不定積分の概念

  • 原始関数 (Primitive Function)
    • 定義: 関数 F(x) の導関数が f(x) になるとき、すなわち F′(x)=f(x) が成り立つとき、F(x) を f(x) の原始関数といいます。
    • 一意性ではない: ある関数 f(x) の原始関数は、一つには定まりません。例えば、x2 の原始関数は 31​x3 ですが、(31​x3+1)′=x2 であり、(31​x3−100)′=x2 でもあるため、31​x3+1 や 31​x3−100 もまた原始関数です。
    • 微分して0になるのは定数関数のみであることから、ある原始関数 F(x) が見つかれば、他のすべての原始関数は F(x)+C(Cは任意の定数)の形で表せることがわかります。
  • 不定積分 (Indefinite Integral)
    • 定義: 関数 f(x) の原始関数をすべてまとめて表現したもの、すなわち F(x)+C を、f(x) の不定積分といい、∫f(x)dx で表します。
      • ∫f(x)dx=F(x)+C (ただし F′(x)=f(x))
    • 用語:
      • インテグラル (Integral sign)
      • f(x)被積分関数 (Integrand)
      • dx積分変数が x であることを示す記号。
      • C積分定数 (Constant of integration)

1.2. 基本公式と計算の技法

不定積分の計算は、微分公式を逆から見直すことで得られる基本公式と、より複雑な関数を既知の形に帰着させるためのいくつかの重要なテクニックに基づいています。

  • 基本公式と線形性
    • 基本公式:
      • ∫xadx=a+11​xa+1+C (a=−1)
      • ∫x1​dx=log∣x∣+C
      • ∫exdx=ex+C
      • ∫sinxdx=−cosx+C
      • ∫cosxdx=sinx+C
      • ∫cos2x1​dx=tanx+C
    • 線形性:
      • ∫{kf(x)+lg(x)}dx=k∫f(x)dx+l∫g(x)dx (k,lは定数)
      • この性質により、多項式などの関数の積分は、各項を個別に積分したものの和として計算できます。
  • 置換積分法 (Integration by Substitution)
    • 原理: 合成関数の微分法(連鎖律)の逆演算。
    • 公式: ∫f(g(x))g′(x)dx という形の積分は、t=g(x) と置換することで、∫f(t)dt という、より簡単な積分に変換できる。
    • 実践的テクニック:
      1. 被積分関数の一部を t とおく(t=g(x))。
      2. 両辺を x で微分し、dxdt​=g′(x) から dx=g′(x)dt​ の関係式を作る(形式的な操作)。
      3. 元の積分中の g(x) を t に、dx を dt の式に置き換え、全体が t のみの積分になるように変形する。
      4. t で積分を実行し、最後に t を元の x の式に戻す。
    • 勘所: 何を t と置くかを見抜く眼が重要。「塊として見える部分」や「微分した形が積分の中に含まれている部分」が有力な候補となります。
  • 部分積分法 (Integration by Parts)
    • 原理: 積の微分法 {f(x)g(x)}′=f′(x)g(x)+f(x)g′(x) の逆演算。
    • 公式: ∫f(x)g′(x)dx=f(x)g(x)−∫f′(x)g(x)dx
    • 本質: 「一方を積分し、もう一方はそのまま」の部分と、「一方を積分し、もう一方を微分した」ものの積分の差に分解する。これにより、元の積分より簡単な積分を作り出すことを目指します。
    • 戦略: どちらを g′(x)(積分する側)とし、どちらを f(x)(微分する側)とするかの選択が極めて重要。一般に、対数関数や多項式は微分すると簡単になるので f(x) 側に、指数関数や三角関数は積分しても形が大きく変わらないので g′(x) 側に選ぶことが多いです(「LIATE」の優先順位などが知られる)。
    • 反復適用: ∫x2exdx のように、一度部分積分を適用しても積分が残る場合、もう一度部分積分を適用することで解ける場合があります。

1.3. 特定の関数の積分パターン

  • 分数関数・無理関数
    • 分数関数: (分子の次数) ≥ (分母の次数) の場合は、まず割り算を実行し、(多項式) + (分子の次数 < 分母の次数) の形に変形する。その後、分母を因数分解し、部分分数分解を用いて、∫x+a1​dx や ∫x2+a21​dx といった基本形に分解するのが定石です。
    • 無理関数: ax+b​ や x2+a2​ といった根号を含む関数。根号の中身ごと置換したり、三角関数を用いた置換(例: x=atanθ)を行ったりすることで、有理関数の積分に帰着させるのが一般的です。
  • 三角関数
    • sinnx,cosnx の積分は、次数下げの公式(倍角・半角の公式)を用いて次数を下げていくのが基本。
    • sin(ax)cos(bx) のような積の形は、積和公式を用いて和の形に直してから積分する。
    • t=tan(2x​) という置換は、あらゆる三角関数の有理式を t の有理関数の積分に変換できる、万能な(しかし計算が煩雑になることも多い)最終手段として知られています。

2. 定積分:無限和を計算する思想

積分法のもう一つの顔、そしてその本来の姿は、「連続的な量の和を求める」ための、極めて強力な思想ツールとしての定積分です。

2.1. 定積分の定義:リーマン和による面積の確定

  • 問題意識: 曲線 y=f(x) とx軸、そして2本の直線 x=a,x=b で囲まれた部分の面積 S を、どうすれば厳密に定義し、計算できるか?
  • アイデア(区分求積法):
    1. 区間 [a,b] を、n 個の微小な区間に分割する。各区間の幅を Δx=(b−a)/n とする。
    2. 各微小区間において、長方形で面積を近似する。例えば、k番目の区間 [xk−1​,xk​] において、代表点 ck​ をとり、高さ f(ck​)、幅 Δx の長方形の面積 f(ck​)Δx を考える。
    3. これらの長方形の面積をすべて足し合わせる。この和 Sn​=∑k=1n​f(ck​)Δx をリーマン和 (Riemann Sum) という。
  • 定積分の定義:
    • 分割数 n を限りなく大きくする(Δx→0)という極限を考え、このリーマン和が特定の有限な値に収束するとき、その極限値を a から b までの f(x) の定積分 (Definite Integral) といい、∫ab​f(x)dx で表す。
    • ∫ab​f(x)dx=limn→∞​∑k=1n​f(ck​)Δx
    • 本質: 定積分とは、無限個の、限りなく幅がゼロに近い長方形の面積を足し合わせるという、「無限和の極限」として定義される量です。

2.2. 微分積分学の基本定理:二つの積分の架け橋

リーマン和の極限を毎回計算するのは現実的ではありません。ここで、微分の逆演算としての不定積分と、面積を求める定積分という、一見無関係に見えた二つの概念を結びつける、奇跡の定理が登場します。

  • 微分積分学の基本定理 (Fundamental Theorem of Calculus, FTOC)
    • 主張: 関数 f(x) が区間 [a,b] で連続で、F(x) を f(x) の任意の原始関数とするとき、
      • ∫ab​f(x)dx=[F(x)]ab​=F(b)−F(a)
    • 革命的な意義:
      • この定理は、「a から b までの面積」という幾何学的な量(定積分)が、被積分関数の原始関数を見つけ、その両端の値を代入して差をとるという、純粋に代数的な計算によって求められることを保証しています。
      • これにより、我々は不定積分の計算技術を駆使して、面積や体積といった複雑な量を正確に計算する道を手に入れたのです。
    • 定理の心: FTOCの証明は、「面積を表す関数」 S(x)=∫ax​f(t)dt を考え、その導関数 S′(x) が f(x) になることを示すことで行われます。これは、面積の微小な増加分 dS が、幅 dx、高さ f(x) の長方形の面積 f(x)dx に等しい (dS/dx=f(x)) という、直感的なアイデアを厳密化したものです。

2.3. 区分求積法:無限和を定積分に翻訳する

定積分の定義を逆に見ると、特定の形の無限和の極限値を、計算可能な定積分に「翻訳」して求めることができます。これが区分求積法です。

  • 公式:
    • limn→∞​n1​∑k=1n​f(nk​)=∫01​f(x)dx
  • 使い方:
    1. 与えられた無限和の極限の式を、n1​∑ の形に変形する。
    2. 和の中の nk​ を x に、n1​ を dx に、lim∑ を ∫01​ に置き換える、と機械的に考えることで、対応する定積分を立式する。
    3. その定積分を、FTOCを用いて計算する。

3. 定積分の応用:幾何学量の測定

定積分が「無限和」であるという本質的な性質は、面積の計算に留まらず、体積や曲線の長さといった、様々な幾何学量を測定する普遍的な方法論を与えてくれます。その基本思想は、常に「対象を微小な部分にスライスし、その部分の量を計算し、それらをすべて足し合わせる(積分する)」というものです。

3.1. 面積の計算

  • x軸との間の面積:
    • y=f(x) が区間 [a,b] で f(x)≥0 のとき、面積 S=∫ab​f(x)dx。
    • f(x)≤0 のときは、S=∫ab​{−f(x)}dx=−∫ab​f(x)dx。
    • 一般には、S=∫ab​∣f(x)∣dx。
  • 二曲線間の面積:
    • 区間 [a,b] で常に f(x)≥g(x) のとき、2曲線 y=f(x),y=g(x) と直線 x=a,x=b で囲まれた面積 Sは、
    • S=∫ab​{f(x)−g(x)}dx
    • これは、「(上の曲線)ー(下の曲線)」を積分すると覚えます。

3.2. 媒介変数で表された曲線の面積

  • 曲線が x=x(t),y=y(t) (t:α→β) で与えられている場合、
  • S=∫ab​ydx という基本に立ち返り、置換積分の要領で変数を t に変換します。
  • dx=dtdx​dt=x′(t)dt なので、
  • S=∫αβ​y(t)x′(t)dt

3.3. 体積の計算

  • 基本原理(断面積の積分):
    • ある立体を、ある軸(例えばx軸)に垂直な平面で切ったときの断面積が、x の関数 S(x) として表せるとき、その立体の x=a から x=b までの部分の体積 V は、
    • V=∫ab​S(x)dx
  • 回転体の体積:
    • ディスク法: 曲線 y=f(x) をx軸周りに回転させた立体の体積。断面は半径 f(x) の円なので、断面積は S(x)=π{f(x)}2。
      • V=π∫ab​{f(x)}2dx
    • バウムクーヘン分割(円筒殻分割法): y軸周りの回転体などで、x軸に沿って積分する方が楽な場合に用いる手法。
      • 半径 x、高さ h(x)、微小な厚み dx の円筒の殻(バウムクーヘンの薄皮)の体積 dV=2πx⋅h(x)dx を足し合わせるという考え方。
      • V=∫ab​2πxh(x)dx

3.4. 曲線の長さ(道のり)の計算

  • 基本原理:
    • 曲線を、微小な線分 ds の集まりと見なす。三平方の定理より、ds2=dx2+dy2。
    • ds=dx2+dy2​=1+(dxdy​)2​dx
  • 公式:
    • 曲線 y=f(x) の x=a から x=b までの長さ L は、
    • L=∫ab​1+{f′(x)}2​dx

【末尾の要約】

本モジュール「積分法の応用設問パターン」では、微分法と双璧をなす解析学の巨人、積分法の広大で豊穣な世界を探求しました。

まず、積分法の第一の顔である不定積分について、それが微分の逆演算であるという定義から出発し、置換積分部分積分といった、あらゆる関数を積分するための体系的な計算技術を習得しました。

次に、積分法の第二の、そしてより本質的な顔である定積分について、それがリーマン和の極限、すなわち「無限和」として、曲線の面積を厳密に定義するものであることを学びました。そして、この二つの全く異なる貌を持つ積分が、「微分積分学の基本定理」によって奇跡的に結びつけられる様を目の当たりにしました。この定理こそが、複雑な無限和の計算を、原始関数を用いた単純な代数計算へと変換する、我々の最も強力な武器です。

最後に、この武器を手に、「スライスして足し合わせる」という積分の基本思想を応用し、面積はもちろん、体積曲線の長さといった、様々な幾何学量を測定する具体的な手法を確立しました。

結論として、積分法とは、単なる計算テクニックの寄せ集めではありません。それは、「変化率(導関数)」から全体像を復元し、あるいは「無限の微小部分」から全体の量を構築するという、極めて強力な統合と思索のフレームワークです。微分法が世界を鋭く「分析」するツールであるならば、積分法はそれを再び「総合」するツールです。この二つを両輪として使いこなすことで、あなたの数学的、そして科学的な世界認識は、より一層深く、豊かなものになるでしょう。

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