【基礎 数学(数学Ⅱ)】Module 3:図形と方程式(1) 点と直線

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本モジュールの目的と構成

これまでのモジュールで、私たちは数と式が織りなす代数の世界を探求してきました。それは、記号を論理の規則に従って操作し、方程式の解を求めるという、純粋に抽象的な思考の営みでした。本モジュール「図形と方程式」では、私たちは新たな地平へと踏み出します。それは、ルネ・デカルトの革命的な発想に端を発する、代数と幾何学の融合です。

ここで我々が手にする最強の武器は「座標平面」です。この透明なグリッドは、無形の図形に「住所」を与え、点や直線、円といった幾何学的な存在を、方程式という代数の言葉で記述することを可能にします。逆に、無機質に見えた方程式の背後に、生き生きとした図形が姿を現すことも教えてくれます。図形を「見て」方程式を立て、方程式を「解いて」図形の性質を明らかにする—この相互翻訳の技術こそが、解析幾何学の神髄です。

このモジュールを学ぶことで、あなたは単に公式を覚えるのではありません。直感的な図形の世界と、厳密な数式の世界とを自由に行き来する、強力な思考の「方法論」を身につけるのです。それは、複雑な図形問題を、計算可能な代数問題へと変換し、機械的かつ確実に解き明かすための道筋を照らしてくれます。ここで築かれる基礎は、続くModule 4「円と軌跡」、さらには微分積分学における接線や面積の問題など、今後の数学のあらゆる分野であなたの思考を支える揺るぎない土台となります。

本モジュールは、解析幾何学の世界を、その最も基本的な構成要素から順に組み上げていく形で構成されています。

  1. 座標平面と2点間の距離: まず、すべての図形の基礎となる「点」を座標で表現し、2つの点の間の「距離」を計算するという、最も基本的な測定法を確立します。
  2. 内分点・外分点の座標: 次に、2点を結ぶ線分を特定の比に分ける「内分点」と「外分点」の座標を求める公式を学びます。これは、図形の位置関係を代数的に制御するための重要な技術です。
  3. 三角形の重心: 内分点の応用として、三角形の「重心」という特別な点の座標を求めます。これは、幾何学的な性質が簡潔な代数表現を持つ美しい一例です。
  4. 直線の方程式(様々な形式): もう一つの基本的な図形である「直線」を、方程式で表現する多彩な方法を探求します。状況に応じて最適な形式を選択する能力は、問題解決の効率を大きく左右します。
  5. 2直線の平行条件・垂直条件: 2本の直線がなす最も基本的な位置関係である「平行」と「垂直」を、それぞれの方程式の係数が満たすべき代数的な条件として定式化します。
  6. 点と直線の距離: 最も基本的な図形である点と直線の間の「距離」を計算する公式を導出します。これは、応用範囲が極めて広い、解析幾何学における最重要公式の一つです。
  7. 2直線の交点を通る直線の方程式: 2直線の交点という幾何学的な情報を、交点の座標を直接計算することなく代数的に扱う、洗練された「束」という考え方を学びます。
  8. 対称点の座標: ある点や直線を基準として、点と「対称」な点の座標を求める手法を確立します。これは、平行・垂直条件や中点の公式などを統合する総合的な問題です。
  9. 線分の通過領域: これまで学んだ知識を応用し、動く線分が作り出す「領域」を、不等式を用いて決定するという、より発展的な問題に挑戦します。
  10. アポロニウスの円: 「2定点からの距離の比が一定である点の軌跡」という純粋な幾何学的条件が、実は「円」という馴染み深い図形を描くことを、方程式を用いて証明します。

この一連の学習を通じて、あなたは幾何学の直感に代数の翼を与え、より高く、より自由な視点から数学の世界を俯瞰できるようになるでしょう。


目次

1. 座標平面と2点間の距離

幾何学の世界を図形と方程式の言葉で語るための第一歩は、その舞台設定から始まります。私たちの舞台は、互いに直交する2本の数直線、すなわち x軸 と y軸 によって無限に広がる座標平面 (coordinate plane) です。この平面上のいかなる「点」も、\((x, y)\) という実数のペア(座標)によって、その位置が一意に、かつ完全に特定されます。この単純なルールが、図形という「形」と、数という「量」を結びつける、すべての基本となります。

そして、この舞台で活動する登場人物(点)たちの関係性を記述する上で、最も根源的な概念が「距離」です。2つの点がどれだけ離れているか。この問いに答えるための2点間の距離の公式は、座標平面におけるピタゴラスの定理(三平方の定理)の美しい現れであり、これから学ぶあらゆる図形の性質を測定し、分析するための「ものさし」となる、不可欠なツールです。

1.1. 座標平面の基本

座標平面は、フランスの哲学者・数学者であるルネ・デカルトによって体系化されたことから、デカルト座標系 (Cartesian coordinate system) とも呼ばれます。

  • 原点 (Origin): x軸とy軸が交わる点 \((0, 0)\)。
  • 座標 (Coordinates): 点Pの位置を示す順序付けられた実数のペア \((x, y)\)。\(x\) をx座標、\(y\) をy座標と呼びます。
  • 象限 (Quadrants): 座標軸によって分割される4つの領域。右上から反時計回りに第1象限、第2象限、第3象限、第4象限と呼ばれます。

このシステムにより、幾何学的な点という存在が、代数的に操作可能な数のペアとして扱えるようになります。

1.2. 2点間の距離の公式

座標平面上の2点 \(A(x_1, y_1)\) と \(B(x_2, y_2)\) の間の距離 \(AB\) を求める公式を導出しましょう。

1.2.1. 公式の導出

  1. 補助線を引く: 点Aを通りx軸に平行な直線と、点Bを通りy軸に平行な直線を引きます。これらの交点をCとすると、点Cの座標は \((x_2, y_1)\) となります。
  2. 直角三角形の形成: 3点A, B, Cは、角Cを直角とする直角三角形ABCを形成します。
  3. 辺の長さを求める:
    • 辺ACの長さは、2点のy座標が等しいので、x座標の差の絶対値に等しくなります。\(AC = |x_2 – x_1|\)
    • 辺BCの長さは、2点のx座標が等しいので、y座標の差の絶対値に等しくなります。\(BC = |y_2 – y_1|\)
  4. 三平方の定理の適用: 直角三角形ABCにおいて、三平方の定理 \(AB^2 = AC^2 + BC^2\) を適用します。\(AB^2 = (|x_2 – x_1|)^2 + (|y_2 – y_1|)^2\)絶対値の2乗は、中身の2乗と等しい(\(|a|^2 = a^2\))ので、\(AB^2 = (x_2 – x_1)^2 + (y_2 – y_1)^2\)
  5. 距離を求める: ABは距離なので、0以上です。したがって、上の式の正の平方根をとることで、距離ABが求まります。

2点間の距離の公式

座標平面上の2点 \(A(x_1, y_1), B(x_2, y_2)\) 間の距離は、

\[ AB = \sqrt{(x_2-x_1)^2 + (y_2-y_1)^2} \]

特に、原点 \(O(0,0)\) と点 \(A(x_1, y_1)\) の間の距離は、

\[ OA = \sqrt{(x_1-0)^2 + (y_1-0)^2} = \sqrt{x_1^2 + y_1^2} \]

となります。

【思考のポイント】

この公式は、\((x_2-x_1)\) と \((y_2-y_1)\) という、x方向の移動量とy方向の移動量を2辺とする直角三角形の斜辺の長さを求めている、と直感的に理解することが重要です。差を取る順番(\(x_1-x_2\) or \(x_2-x_1\))は、2乗するためどちらでも結果は同じになりますが、一貫した順序で計算する癖をつけると良いでしょう。

1.3. 公式の応用

2点間の距離の公式は、座標平面上の様々な図形の性質を調べるための基本的なツールとなります。

例題1:3点 A(1, 1), B(4, 2), C(3, 5) を頂点とする三角形ABCはどのような形の三角形か。

思考プロセス:

三角形の形を調べるには、3辺の長さを計算し、それらの関係(等しい辺があるか、三平方の定理が成り立つかなど)を調べます。

解法

3辺の長さ AB, BC, CA を、2点間の距離の公式を用いて計算します。

  • 辺ABの長さ:\(AB^2 = (4-1)^2 + (2-1)^2 = 3^2 + 1^2 = 9+1 = 10\)\(AB = \sqrt{10}\)
  • 辺BCの長さ:\(BC^2 = (3-4)^2 + (5-2)^2 = (-1)^2 + 3^2 = 1+9 = 10\)\(BC = \sqrt{10}\)
  • 辺CAの長さ:\(CA^2 = (1-3)^2 + (1-5)^2 = (-2)^2 + (-4)^2 = 4+16 = 20\)\(CA = \sqrt{20} = 2\sqrt{5}\)

辺の長さを比較すると、\(AB=BC=\sqrt{10}\) となっています。したがって、三角形ABCは AB=BCの二等辺三角形 です。

さらに、辺の長さの2乗の関係を調べます。

\(AB^2+BC^2 = 10+10 = 20\)

\(CA^2 = 20\)

よって、\(AB^2+BC^2=CA^2\) が成り立っています。

これは三平方の定理の逆が成立することを示しており、CAを斜辺とする直角三角形、すなわち 角B = 90° の直角三角形 でもあることがわかります。

以上を総合すると、三角形ABCは 角B=90°の直角二等辺三角形 であると結論できます。

例題2:y軸上の点Pで、2点 A(-1, 2), B(3, 4) から等距離にあるものの座標を求めよ。

思考プロセス:

求める点Pの座標を文字で設定し、「等距離にある」という条件を立式します。

  1. 点Pはy軸上にあるので、その座標は \((0, y)\) と置ける。
  2. 条件は \(PA = PB\) である。
  3. 距離の計算には根号が含まれるので、両辺を2乗した \(PA^2 = PB^2\) として立式する方が計算が楽になる。

解法

求める点Pの座標を \((0, y)\) とする。

条件は \(PA=PB\) であるから、\(PA^2=PB^2\) が成り立つ。

2点間の距離の公式の2乗の形を用いると、

  • \(PA^2 = (0 – (-1))^2 + (y-2)^2 = 1^2 + (y-2)^2 = 1 + y^2-4y+4 = y^2-4y+5\)
  • \(PB^2 = (0-3)^2 + (y-4)^2 = (-3)^2 + (y-4)^2 = 9 + y^2-8y+16 = y^2-8y+25\)

したがって、

\[ y^2-4y+5 = y^2-8y+25 \]

両辺の \(y^2\) は消去できる。

\[ -4y+5 = -8y+25 \]

\(y\) を含む項を左辺に、定数項を右辺に集めると、

\[ 4y = 20 \]

\[ y = 5 \]

よって、求める点Pの座標は \((0, 5)\) である。

幾何学的に、この点Pは線分ABの垂直二等分線とy軸との交点にあたります。

1.4. まとめ:幾何学の代数化への第一歩

座標平面と2点間の距離の公式は、解析幾何学の世界における最も基本的な、しかし最も重要な概念です。

  • 座標による一意な表現: 幾何学的な「点」を、代数的に扱える「数のペア」に対応させました。
  • 距離という普遍的な測定法: 2点間の「距離」を、座標を用いた単純な計算で求められるようにしました。これは、三平方の定理という古典幾何学の金字塔が、座標平面という新しい舞台で果たしている役割を示しています。
  • 図形の性質の解明: この公式を用いることで、辺の長さや等距離といった図形の性質を、方程式や等式を解くという代数的な問題に変換できます。

この「ものさし」を手に入れたことで、私たちはこれから、より複雑な図形である線分、直線、三角形、そして円の性質を、方程式という強力な言語を用いて次々と解き明かしていくことが可能になるのです。


2. 内分点・外分点の座標

2点間の距離が点と点の「関係」を測る基本的な道具だとすれば、次に関心が向かうのは、2点を結んでできる最も単純な図形、線分です。特に、その線分を特定の比率で分割する点の位置は、幾何学的な考察において非常に重要な役割を果たします。例えば、三角形の中線は辺を1:1に分割する点を結んだ線ですし、角の二等分線は対辺を隣り合う辺の比に分割します。

このような「線分を分ける点」の座標を、始点と終点の座標、そして分割する比率から直接計算することを可能にするのが、内分点・外分点の公式です。これらの公式は、一見すると複雑に見えるかもしれませんが、その構造には「重み付き平均」という直感的で美しい概念が隠されています。この公式をマスターすることは、図形の位置関係を代数的に精密にコントロールするための、不可欠な技術となります。

2.1. 内分点の座標

内分 (internal division) とは、線分ABを、その線分上の点で \(m:n\) の比に分けることを意味します。

2.1.1. 公式の導出

座標平面上の2点 \(A(x_1, y_1), B(x_2, y_2)\) を結ぶ線分ABを、\(m:n\) の比に内分する点Pの座標 \((x, y)\) を求めてみましょう。

  1. 補助線を引く: 点A, P, Bからx軸に垂線を下ろし、その足をそれぞれ \(A’, P’, B’\) とします。これらの点のx座標はそれぞれ \(x_1, x, x_2\) です。
  2. 相似な三角形を利用する: 点Aを通りx軸に平行な直線と、点P, Bから下ろした垂線との交点をそれぞれD, Eとします。このとき、三角形ADPと三角形ABEは相似になります(\(\triangle ADP \sim \triangle ABE\))。
  3. 辺の比の関係: 三角形が相似であることから、対応する辺の比は等しくなります。\(AP:AB = AD:AE = PD:BE\)条件より \(AP:PB=m:n\) なので、\(AP:AB = m:(m+n)\) となります。したがって、\(m:(m+n) = AD:AE\)
  4. x座標を求める:辺の長さを座標で表すと、\(AD = x-x_1\)、\(AE = x_2-x_1\) となります。よって、\[ m:(m+n) = (x-x_1):(x_2-x_1) \]比例式の性質「内項の積=外項の積」を用いると、\[ (m+n)(x-x_1) = m(x_2-x_1) \]この式を \(x\) について解きます。\[ (m+n)x – (m+n)x_1 = mx_2 – mx_1 \]\[ (m+n)x = mx_2 – mx_1 + (m+n)x_1 \]\[ (m+n)x = mx_2 – mx_1 + mx_1 + nx_1 \]\[ (m+n)x = nx_1 + mx_2 \]\[ x = \frac{nx_1 + mx_2}{m+n} \]
  5. y座標を求める:y座標についても、y軸に垂線を下ろすなどして同様の議論を行うことで、\[ y = \frac{ny_1 + my_2}{m+n} \]が得られます。

線分ABを \(m:n\) に内分する点の座標

2点 \(A(x_1, y_1), B(x_2, y_2)\) を結ぶ線分ABを \(m:n\) に内分する点の座標は、

\[ \left( \frac{nx_1 + mx_2}{m+n}, \frac{ny_1 + my_2}{m+n} \right) \]

【公式の覚え方と解釈】

この公式は、比 \(m:n\) が、相手方の座標に「クロスして」掛けられている、と覚えると覚えやすいです。

  • x座標:\(n\) は \(x_1\) に、\(m\) は \(x_2\) に掛かっている。
  • y座標:\(n\) は \(y_1\) に、\(m\) は \(y_2\) に掛かっている。そして、分母は比の和 \(m+n\) となります。この形は、点Aに \(n\) の「重み」を、点Bに \(m\) の「重み」をつけて平均を取っている加重平均 (weighted average) と解釈できます。点Pは、点Bに近いほど \(m\) が大きく、点Bの座標 \((x_2, y_2)\) の影響が強くなる、という直感とも一致します。

2.1.2. 中点の座標

特に、線分ABを \(1:1\) に内分する点、すなわち中点 (midpoint) の座標は、公式で \(m=1, n=1\) とおくことで得られます。

中点の座標

\[ \left( \frac{1 \cdot x_1 + 1 \cdot x_2}{1+1}, \frac{1 \cdot y_1 + 1 \cdot y_2}{1+1} \right) = \left( \frac{x_1+x_2}{2}, \frac{y_1+y_2}{2} \right) \]

中点の座標は、各座標の単純な平均(算術平均)となります。

2.2. 外分点の座標

外分 (external division) とは、線分ABを、その延長線上の点で \(m:n\) の比に分けることを意味します。点Qが線分ABを \(m:n\) に外分するとは、\(AQ:QB = m:n\) が成り立つということです。

  • \(m>n\) のとき、点Qは線分ABのB側の延長上にあります。
  • \(m<n\) のとき、点Qは線分ABのA側の延長上にあります。(\(m=n\) のときは、そのような点は存在しません)

2.2.1. 公式の導出

外分点の公式は、内分点の公式で比の片方(通常はn)を負の数 \(-n\) で置き換えることで、機械的に導出できます。

点Qが線分ABを \(m:n\) に外分するとは、点Qが線分ABを \(m:(-n)\) に内分する(あるいは \((-m):n\) に内分する)と解釈し直すことができるからです。

線分ABを \(m:n\) に外分する点の座標

2点 \(A(x_1, y_1), B(x_2, y_2)\) を結ぶ線分ABを \(m:n\) に外分する点の座標は、

\[ \left( \frac{-nx_1 + mx_2}{m-n}, \frac{-ny_1 + my_2}{m-n} \right) \]

【ミニケーススタディ:公式の符号ミス】

受験生G君は、2点A(1, 2), B(4, 5)を結ぶ線分ABを 2:1 に外分する点Qの座標を求めようとしました。彼は公式を思い出し、\(\frac{-nx_1+mx_2}{m-n}\) に \(m=2, n=1\) を代入しました。

\(x = \frac{-1 \cdot 1 + 2 \cdot 4}{2-1} = \frac{-1+8}{1} = 7\)

\(y = \frac{-1 \cdot 2 + 2 \cdot 5}{2-1} = \frac{-2+10}{1} = 8\)

点Qの座標は \((7, 8)\) と正しく求まりました。

しかし、彼の友人H君は、分母を \(m+n\) と勘違いし、\(\frac{7}{3}\) という誤ったx座標を計算してしまいました。外分点の公式では、分母が \(m-n\)、分子の \(n\) 側の項の符号がマイナスになる、という点を正確に記憶し、適用することが重要です。

2.3. 公式の応用

例題:点 A(5, -2), B(-1, 4) がある。線分ABを 2:1 に内分する点Pと、2:1 に外分する点Qの座標をそれぞれ求めよ。

解法

\(x_1=5, y_1=-2, x_2=-1, y_2=4, m=2, n=1\) として公式に代入する。

  • 内分点Pの座標:\(x = \frac{1 \cdot 5 + 2 \cdot (-1)}{2+1} = \frac{5-2}{3} = \frac{3}{3} = 1\)\(y = \frac{1 \cdot (-2) + 2 \cdot 4}{2+1} = \frac{-2+8}{3} = \frac{6}{3} = 2\)よって、\(P(1, 2)\)
  • 外分点Qの座標:\(x = \frac{-1 \cdot 5 + 2 \cdot (-1)}{2-1} = \frac{-5-2}{1} = -7\)\(y = \frac{-1 \cdot (-2) + 2 \cdot 4}{2-1} = \frac{2+8}{1} = 10\)よって、\(Q(-7, 10)\)

2.4. まとめ:位置を比で制御する

内分点・外分点の公式は、線分という基本的な図形の内部構造を、代数の言葉で精密に記述するための道具です。

  • 加重平均としての内分: 内分点の公式は、2点の座標の加重平均と解釈でき、比率に応じて各点の影響力が変わるという直感的なイメージと一致します。
  • 内分の拡張としての外分: 外分点の公式は、比の片方を負と考えることで内分点の公式から導出でき、両者を統一的に理解することが可能です。
  • 図形の位置関係の代数化: これらの公式を用いることで、「中点」「重心」「角の二等分線の足」といった幾何学的な点の位置を、座標を用いた計算問題に変換することができます。

この「比によって位置を制御する」という考え方は、ベクトルやアフィン幾何学といった、より高度な数学の分野でも中心的な役割を果たします。ここでその基礎を固めておくことは、将来の学習への大きな布石となるでしょう。


3. 三角形の重心

三角形には、その形状を特徴づけるいくつかの重要な点が存在します。外心(外接円の中心)、内心(内接円の中心)、垂心(各頂点から対辺に下ろした垂線の交点)、そして重心 (centroid) です。これらは合わせて「三角形の五心」(傍心を含む)と呼ばれ、それぞれが独自の幾何学的な意味を持っています。

中でも重心は、物理的な意味合い(質量の中心)と、代数的な表現の簡潔さから、解析幾何学において特に重要な役割を果たします。三角形の3つの頂点の座標が与えられたとき、その重心の座標は驚くほどシンプルな式で計算できます。このセクションでは、三角形の重心の幾何学的な定義から出発し、前節で学んだ内分点の公式を用いて、その座標を求める公式を導出します。これは、幾何学的な概念が、いかに美しく簡潔な代数表現へと翻訳されるかを示す絶好の例です。

3.1. 重心の幾何学的定義

重心の定義

三角形の各頂点とその対辺の中点を結ぶ線分を中線 (median) という。

三角形の3本の中線は1点で交わり、この交点をその三角形の重心と呼ぶ。

重心には、もう一つ重要な幾何学的性質があります。

重心の性質

重心は、各中線を頂点から 2:1 の比に内分する。

この「2:1」という比率は、重心の性質を象徴する極めて重要な数値です。重心の座標を求める公式は、この性質と内分点の公式を組み合わせることで導かれます。

3.2. 重心の座標公式

3.2.1. 公式の導出

3点 \(A(x_1, y_1), B(x_2, y_2), C(x_3, y_3)\) を頂点とする三角形ABCの重心Gの座標 \((x, y)\) を求めてみましょう。

  1. 中点の座標を求める:まず、辺BCの中点Mの座標を求めます。中点は 1:1 の内分点なので、その座標 \((x_M, y_M)\) は、\[ M \left( \frac{x_2+x_3}{2}, \frac{y_2+y_3}{2} \right) \]となります。
  2. 中線を内分する:重心Gは、中線AMを 2:1 の比に内分する点です。したがって、点Gの座標は、2点 \(A(x_1, y_1)\) と \(M(x_M, y_M)\) を結ぶ線分AMを 2:1 に内分する点として、内分点の公式を用いて計算できます。\(A \leftrightarrow (x_1, y_1)\) には比の \(1\) が、\(M \leftrightarrow (x_M, y_M)\) には比の \(2\) が対応します。
  3. x座標を計算する:重心Gのx座標は、\[ x = \frac{1 \cdot x_1 + 2 \cdot x_M}{2+1} = \frac{x_1 + 2 \left( \frac{x_2+x_3}{2} \right)}{3} \]\[ = \frac{x_1 + (x_2+x_3)}{3} = \frac{x_1+x_2+x_3}{3} \]
  4. y座標を計算する:同様に、y座標は、\[ y = \frac{1 \cdot y_1 + 2 \cdot y_M}{2+1} = \frac{y_1 + 2 \left( \frac{y_2+y_3}{2} \right)}{3} \]\[ = \frac{y_1 + (y_2+y_3)}{3} = \frac{y_1+y_2+y_3}{3} \]

この導出により、重心の座標が3つの頂点の座標の単純な算術平均で与えられるという、非常に美しい結果が得られました。

三角形の重心の座標公式

3点 \(A(x_1, y_1), B(x_2, y_2), C(x_3, y_3)\) を頂点とする三角形ABCの重心Gの座標は、

\[ G \left( \frac{x_1+x_2+x_3}{3}, \frac{y_1+y_2+y_3}{3} \right) \]

3.3. 公式の応用と物理的な意味

重心の公式は、その簡潔さから非常に使いやすいものです。

例題:3点 A(1, 5), B(-3, 1), C(5, 0) を頂点とする三角形ABCの重心Gの座標を求めよ。

解法

公式に \(x_1=1, x_2=-3, x_3=5\) および \(y_1=5, y_2=1, y_3=0\) を代入するだけです。

  • Gのx座標:\(\frac{1+(-3)+5}{3} = \frac{3}{3} = 1\)
  • Gのy座標:\(\frac{5+1+0}{3} = \frac{6}{3} = 2\)

よって、重心Gの座標は \((1, 2)\) となります。

【物理的な意味:質量の中心】

もし、三角形の各頂点に同じ質量(例えば1kg)のおもりが置かれていると想像してください。この3つの質点の質量の中心(center of mass)は、まさしく重心の座標と一致します。

さらに、均質な板で作られた三角形のプレートを指一本で支えてバランスをとることができる点、すなわち図心の中心 (center of gravity) も、この重心と一致します。

このように、重心は単なる幾何学的な点ではなく、明確な物理的意味を持つ特別な点なのです。3つの座標を足して3で割るという操作は、物理学における「中心」を求める操作の最も単純な形と見なすことができます。

例題2:2点 A(2, 3), B(5, 7) と、点P(x, y) を頂点とする三角形ABPの重心の座標が (6, 5) であるとき、点Pの座標を求めよ。

解法

三角形ABPの重心の座標を、頂点の座標を用いて表します。

重心のx座標:\(\frac{2+5+x}{3} = \frac{7+x}{3}\)

重心のy座標:\(\frac{3+7+y}{3} = \frac{10+y}{3}\)

この重心の座標が \((6, 5)\) と一致するので、

  • x座標について:\(\frac{7+x}{3} = 6 \Rightarrow 7+x = 18 \Rightarrow x=11\)
  • y座標について:\(\frac{10+y}{3} = 5 \Rightarrow 10+y = 15 \Rightarrow y=5\)

よって、点Pの座標は \((11, 5)\) となります。

3.4. まとめ:幾何学的性質の代数的な表現

三角形の重心は、解析幾何学がもたらす恩恵を象徴する存在です。

  • 定義の翻訳: 「3本の中線の交点」という純粋に幾何学的な定義が、「各頂点の座標の平均」という極めてシンプルな代数表現に翻訳されました。
  • 計算の簡便性: この公式のおかげで、中線の方程式を2本立ててその交点を求める、という煩雑な計算をすることなく、瞬時に重心の座標を特定できます。
  • 物理的直感との一致: 座標の平均という代数的な操作が、質量の中心という物理的な直感と見事に一致していることは、この概念の持つ自然さと重要性を示唆しています。

重心の公式は、内分点の公式の美しい応用例であると同時に、複雑な幾何学的性質を簡潔な代数演算に落とし込むという、解析幾何学の強力さを示す好例なのです。


4. 直線の方程式(様々な形式)

点と並び、幾何学における最も基本的な構成要素は直線です。座標平面という舞台の上で、この無限に伸びる直線という図形を、どのようにして方程式という代数の言葉で表現すればよいのでしょうか。その答えは、「直線とは、ある特定の一次方程式を満たす点の集合である」というものです。

一つの直線を表現するための方程式は、一つだけではありません。傾きとy切片、通る1点と傾き、通る2点など、直線が決定されるための条件の違いに応じて、いくつかの異なる形式の方程式が存在します。これらの様々な形式を理解し、与えられた条件に応じて最適な形式を自在に使い分ける能力は、直線が関わる問題を効率的かつ正確に解くための基本技術です。このセクションでは、直線の方程式の主要な形式を一つずつ丁寧に導出し、それぞれの特徴と使われる場面を探求していきます。

4.1. 直線を決定する条件

そもそも、座標平面上で一本の直線がただ一つに決まるためには、どのような条件が必要でしょうか。

  1. 通る1点と、その傾きが与えられた場合。
  2. 通る異なる2点が与えられた場合。
  3. x切片とy切片(座標軸との交点)が与えられた場合。

これらの幾何学的な条件が、これから学ぶ直線の方程式の様々な形式の出発点となります。

4.2. 直線の方程式の主要な形式

4.2.1. 傾きとy切片で表す形式(基本形)

中学数学でもお馴染みの、最も基本的な形式です。

\(y = mx + c\)

  • \(m\):傾き (slope)直線がx軸の正の方向となす角を \(\theta\) とすると、\(m=\tan\theta\) で定義されます。これは、「xが1増加したときのyの増加量」を意味します。\(m>0\) のとき直線は右上がり、\(m<0\) のとき右下がり、\(m=0\) のときx軸に平行(水平)となります。
  • \(c\):y切片 (y-intercept)直線がy軸と交わる点のy座標です。

この形式は、直線の傾きとy軸との位置関係がひと目でわかるという利点がありますが、y軸に平行な直線(垂直な直線)を表すことができないという欠点があります。

4.2.2. 通る1点と傾きで表す形式(点傾き形)

直線が点 \(A(x_1, y_1)\) を通り、傾きが \(m\) である場合を考えます。

直線上の任意の点を \(P(x, y)\) とします。

このとき、点Aと点Pを結ぶ線分の傾きは \(m\) に等しいはずです。(ただし \(x \neq x_1\))

傾きの定義から、

\[ \frac{y-y_1}{x-x_1} = m \]

この式の両辺に \(x-x_1\) を掛けることで、以下の形式が得られます。

点傾き形:\(y – y_1 = m(x – x_1)\)

この形式は、「通る1点と傾き」という条件が与えられたときに、即座に方程式を立てることができるため、実用上、非常に使用頻度が高いです。

例題:点(2, 3)を通り、傾きが-1の直線の方程式を求めよ。

\(x_1=2, y_1=3, m=-1\) を公式に代入するだけです。

\(y-3 = -1(x-2)\)

整理すると、\(y-3 = -x+2 \Rightarrow y = -x+5\)。

4.2.3. 通る2点で表す形式(2点形)

直線が異なる2点 \(A(x_1, y_1), B(x_2, y_2)\) を通る場合を考えます。

まず、この2点から直線の傾き \(m\) を計算できます。

\[ m = \frac{yの増加量}{xの増加量} = \frac{y_2-y_1}{x_2-x_1} \quad (\text{ただし } x_1 \neq x_2) \]

この傾きと、通る点の一方(例えば \(A(x_1, y_1)\))を、前節の点傾き形 \(y-y_1=m(x-x_1)\) に代入することで、以下の形式が得られます。

2点形:\(y – y_1 = \frac{y_2 – y_1}{x_2 – x_1} (x – x_1)\)

例題:2点 A(-1, 4), B(3, 2) を通る直線の方程式を求めよ。

まず傾きを求めます。

\(m = \frac{2-4}{3-(-1)} = \frac{-2}{4} = -\frac{1}{2}\)

通る点として A(-1, 4) を用いて、点傾き形で方程式を立てます。

\(y-4 = -\frac{1}{2}{x-(-1)}\)

\(y-4 = -\frac{1}{2}(x+1)\)

両辺を2倍して分母を払うと、

\(2(y-4) = -(x+1) \Rightarrow 2y-8 = -x-1 \Rightarrow x+2y-7=0\)

4.2.4. 一般形

これまで見てきた形式はすべて、y軸に平行な直線(\(x=k\) の形)を表すことができませんでした。すべての直線を統一的に表現できるのが一般形です。

一般形:\(ax+by+c=0\) (ただし \(a, b\) は同時に0ではない)

  • \(b \neq 0\) のとき、式を変形して \(y = -\frac{a}{b}x – \frac{c}{b}\) となり、傾き \(-\frac{a}{b}\)、y切片 \(-\frac{c}{b}\) の直線を表します。
  • \(b=0\) のとき(このとき \(a \neq 0\))、式は \(ax+c=0 \Rightarrow x = -\frac{c}{a}\) となり、これはy軸に平行な直線を表します。
  • \(a=0\) のとき(このとき \(b \neq 0\))、式は \(by+c=0 \Rightarrow y = -\frac{c}{b}\) となり、これはx軸に平行な直線を表します。

一般形は、点と直線の距離の公式や、2直線の交点を通る直線の方程式など、多くの公式の基礎となるため、非常に重要です。

4.2.5. 切片形

直線がx軸と点 \((p, 0)\) で、y軸と点 \((0, q)\) で交わるとき(\(p \neq 0, q \neq 0\))、\(p\) をx切片、\(q\) をy切片といいます。

この直線は2点 \((p, 0)\) と \((0, q)\) を通るので、2点形から方程式を導出できます。

傾き \(m = \frac{q-0}{0-p} = -\frac{q}{p}\)

点 \((0, q)\) を通るので、

\(y-q = -\frac{q}{p}(x-0) \Rightarrow y-q = -\frac{q}{p}x\)

両辺を \(q\) で割ると、

\(\frac{y}{q}-1 = -\frac{x}{p} \Rightarrow \frac{x}{p}+\frac{y}{q}=1\)

切片形:\(\frac{x}{p} + \frac{y}{q} = 1\)

この形式は、座標軸との交点がすぐにわかり、グラフの概形を掴みやすいという利点があります。

4.3. 形式の選択と変換

形式名方程式の形主な用途(与えられる条件)特徴・注意点
基本形\(y = mx+c\)傾きとy切片垂直な直線は表せない
点傾き形\(y-y_1=m(x-x_1)\)通る1点と傾き実用上、最も使用頻度が高い
2点形\(y-y_1=\frac{y_2-y_1}{x_2-x_1}(x-x_1)\)通る2点垂直な直線(\(x_1=x_2\))の場合は使えない
一般形\(ax+by+c=0\)すべての直線を表す傾きや切片が直感的でない。理論的に重要
切片形\(\frac{x}{p}+\frac{y}{q}=1\)x切片とy切片座標軸を通る直線や、座標軸に平行な直線は表せない

【ミニケーススタディ:垂直な直線の罠】

受験生Iさんは、2点 A(3, 1), B(3, 5) を通る直線の方程式を求めようとしました。彼は2点形の公式を使おうとし、傾きを計算しました。

\(m = \frac{5-1}{3-3} = \frac{4}{0}\)

分母が0になってしまい、パニックになりました。

これは、\(x_1=x_2\) のケースであり、この直線がy軸に平行な直線であることを示唆しています。通る点のx座標は常に3なので、求める方程式は単純に \(x=3\) です。

このように、\(y=mx+c\) の形に固執せず、図形的な状況をイメージすることが重要です。一般形 \(ax+by+c=0\) であれば、\(x-3=0\) と、あらゆる直線を統一的に表現できます。

4.4. まとめ:条件から方程式へ

直線の方程式は、その直線を決定づける幾何学的な条件と密接に結びついています。

  • 多様な表現: 一つの直線を、目的や与えられた条件に応じて様々な方程式で表現する能力が求められます。
  • 点傾き形の中心性: 「通る1点と傾き」がわかれば直線が決まる、という事実は、点傾き形 \(y-y_1=m(x-x_1)\) が多くの場面で出発点となることを意味します。
  • 一般形の普遍性: すべての直線を平等に扱える一般形 \(ax+by+c=0\) は、理論的な考察を進める上での基盤となります。

これらの形式を単に暗記するのではなく、それぞれの導出過程を理解し、どのような幾何学的状況から生まれてきたのかを把握することで、より深く、そして柔軟に直線を扱えるようになるでしょう。


5. 2直線の平行条件・垂直条件

座標平面上に2本の直線が引かれたとき、その位置関係は「交わる」「平行である」「(特殊な場合として)一致する」のいずれかです。特に、幾何学的に重要な意味を持つのが平行垂直という関係です。例えば、平行四辺形や台形の性質は辺の平行関係によって定義され、長方形や直角三角形の性質は辺の垂直関係によって定義されます。

解析幾何学の目標は、このような図形的な関係を、方程式の係数が満たすべき代数的な条件として翻訳することです。このセクションでは、2本の直線の方程式が与えられたときに、それらが平行であるため、あるいは垂直であるための条件を、直線の傾きや一般形の係数を用いて導出します。これらの条件式は、図形問題を解く上で頻繁に利用される、基本的ながら極めて強力なツールです。

5.1. 傾きを用いた条件

まず、2直線がともにy軸に平行でない場合、すなわち \(y=m_1x+c_1\) と \(y=m_2x+c_2\) の形で表せる場合を考えます。このとき、位置関係は傾き \(m_1, m_2\) とy切片 \(c_1, c_2\) によって完全に決まります。

5.1.1. 平行条件

2直線が平行であるとは、その傾きが等しいということです。これは直感的に明らかでしょう。

  • 平行: 傾きが等しく、y切片が異なる。
  • 一致: 傾きもy切片も等しい。

平行条件

2直線 \(y=m_1x+c_1, y=m_2x+c_2\) について、

  • 平行である \(\Leftrightarrow m_1 = m_2 \text{ かつ } c_1 \neq c_2\)
  • 一致する \(\Leftrightarrow m_1 = m_2 \text{ かつ } c_1 = c_2\)

5.1.2. 垂直条件

2直線が垂直に交わる条件は、少し考察が必要です。

垂直条件

2直線 \(y=m_1x+c_1, y=m_2x+c_2\) が垂直である \(\Leftrightarrow m_1 m_2 = -1\)

(ただし、どちらの直線も座標軸に平行でないとする)

【証明】

簡単のため、2直線が原点を通る場合、すなわち \(y=m_1x\) と \(y=m_2x\) で考えます。(直線が垂直であるかは傾きだけで決まるので、切片は証明に関係ありません。)

  1. 代表点をとる:直線 \(y=m_1x\) 上に、原点O以外の点 \(A(1, m_1)\) をとります。直線 \(y=m_2x\) 上に、原点O以外の点 \(B(1, m_2)\) をとります。
  2. 直角三角形の形成:2直線が原点で垂直に交わるとき、三角形OABは角Oを直角とする直角三角形になります。
  3. 三平方の定理の適用:直角三角形OABにおいて、三平方の定理 \(OA^2 + OB^2 = AB^2\) が成り立ちます。各辺の長さの2乗を、2点間の距離の公式で計算します。
    • \(OA^2 = (1-0)^2 + (m_1-0)^2 = 1 + m_1^2\)
    • \(OB^2 = (1-0)^2 + (m_2-0)^2 = 1 + m_2^2\)
    • \(AB^2 = (1-1)^2 + (m_2-m_1)^2 = 0 + (m_2-m_1)^2 = m_2^2 – 2m_1m_2 + m_1^2\)
  4. 条件式を導く:これらの式を三平方の定理に代入します。\[ (1+m_1^2) + (1+m_2^2) = m_2^2 – 2m_1m_2 + m_1^2 \]\[ 2 + m_1^2 + m_2^2 = m_2^2 – 2m_1m_2 + m_1^2 \]両辺の \(m_1^2\) と \(m_2^2\) を消去すると、\[ 2 = -2m_1m_2 \]両辺を-2で割ると、\[ m_1 m_2 = -1 \]となり、垂直条件が証明されました。逆に、\(m_1m_2=-1\) ならば、この計算を逆にたどることで三平方の定理が成り立つことが示され、角AOB=90°であることもわかります。

5.2. 一般形を用いた条件

次に、すべての直線を表現できる一般形 \(a_1x+b_1y+c_1=0\) と \(a_2x+b_2y+c_2=0\) で位置関係を考えます。

5.2.1. 平行条件

傾きを用いた条件に帰着させて考えます。

直線1の傾きは \(m_1 = -a_1/b_1\)、直線2の傾きは \(m_2 = -a_2/b_2\) です。(ただし \(b_1, b_2 \neq 0\))

平行条件 \(m_1=m_2\) より、

\[ -\frac{a_1}{b_1} = -\frac{a_2}{b_2} \Rightarrow a_1b_2 = a_2b_1 \Rightarrow a_1b_2 – a_2b_1 = 0 \]

この式は、\(b_1=0\) や \(b_2=0\) となる垂直な直線の場合にも成り立つことが確認でき、より一般的な条件となります。

係数の比で表現すると、\(a_1:b_1 = a_2:b_2\)、すなわち \(\frac{a_1}{a_2}=\frac{b_1}{b_2}\) (ただし分母は0でない)とも書けます。

平行条件(一般形)

2直線 \(a_1x+b_1y+c_1=0, a_2x+b_2y+c_2=0\) について、

  • 平行である \(\Leftrightarrow a_1b_2 – a_2b_1 = 0 \text{ かつ } b_1c_2-b_2c_1 \neq 0 \text{ or } c_1a_2-c_2a_1 \neq 0\)(係数 \(a,b\) の比は等しいが、\(c\) の比は等しくない)
  • 一致する \(\Leftrightarrow a_1:b_1:c_1 = a_2:b_2:c_2\)(すべての係数の比が等しい)

5.2.2. 垂直条件

同様に、傾きを用いた条件 \(m_1m_2=-1\) から導きます。

\[ \left(-\frac{a_1}{b_1}\right) \left(-\frac{a_2}{b_2}\right) = -1 \]

\[ \frac{a_1a_2}{b_1b_2} = -1 \Rightarrow a_1a_2 = -b_1b_2 \Rightarrow a_1a_2+b_1b_2=0 \]

この式も、直線が座標軸に平行な場合を含めて、常に成り立つことがわかります。

垂直条件(一般形)

2直線 \(a_1x+b_1y+c_1=0, a_2x+b_2y+c_2=0\) が垂直である \(\Leftrightarrow a_1a_2+b_1b_2=0\)

【ベクトルによる解釈(発展)】

一般形 \(ax+by+c=0\) において、ベクトル \(\vec{n}=(a,b)\) は、その直線に垂直なベクトルとなります。これを法線ベクトル (normal vector) と呼びます。

この視点に立つと、2直線の位置関係は、それぞれの法線ベクトル \(\vec{n_1}=(a_1,b_1)\) と \(\vec{n_2}=(a_2,b_2)\) の関係として、非常に明快に理解できます。

  • 2直線が平行 \(\Leftrightarrow\) 法線ベクトルが平行 \(\Leftrightarrow \vec{n_1} = k \vec{n_2}\)\((a_1,b_1)=k(a_2,b_2)\) から、\(a_1=ka_2, b_1=kb_2\)。\(k\) を消去すると \(a_1b_2=a_2b_1 \Rightarrow a_1b_2-a_2b_1=0\) が得られます。
  • 2直線が垂直 \(\Leftrightarrow\) 法線ベクトルが垂直 \(\Leftrightarrow \vec{n_1} \cdot \vec{n_2} = 0\) (内積が0)ベクトルの内積の定義から、\((a_1,b_1)\cdot(a_2,b_2) = a_1a_2+b_1b_2 = 0\) が直ちに得られます。ベクトルを用いると、代数的な証明よりも遥かに見通しよく、本質的に条件を導出できます。

5.3. 条件の応用

例題:点(3, 1)を通り、直線 \(2x-3y+5=0\) に (1)平行な、(2)垂直な、直線の方程式をそれぞれ求めよ。

解法

(1) 平行な直線

求める直線は、元の直線と平行なので、その方程式は \(2x-3y+c=0\) の形で書ける。(法線ベクトルが共通だから)

この直線が点(3, 1)を通るので、その座標を代入して \(c\) を決定する。

\(2(3) – 3(1) + c = 0 \Rightarrow 6-3+c=0 \Rightarrow c=-3\)

よって、求める直線の方程式は \(2x-3y-3=0\)。

(別解:傾きを用いる)

元の直線の傾きは \(y=\frac{2}{3}x+\frac{5}{3}\) より \(m=\frac{2}{3}\)。

求める直線は、傾きが \(\frac{2}{3}\) で、点(3, 1)を通る。

点傾き形より、\(y-1 = \frac{2}{3}(x-3)\)。

\(3(y-1)=2(x-3) \Rightarrow 3y-3=2x-6 \Rightarrow 2x-3y-3=0\)。

(2) 垂直な直線

求める直線の法線ベクトルは、元の直線の法線ベクトル \((2, -3)\) と垂直である。求める直線の法線ベクトルを \((a,b)\) とすると、垂直条件(内積が0)より、\(2a-3b=0\)。これを満たす簡単な整数の組として、\(a=3, b=2\) がある。

よって、求める直線の方程式は \(3x+2y+c=0\) の形で書ける。

この直線が点(3, 1)を通るので、

\(3(3)+2(1)+c=0 \Rightarrow 9+2+c=0 \Rightarrow c=-11\)

よって、求める直線の方程式は \(3x+2y-11=0\)。

(別解:傾きを用いる)

元の直線の傾きは \(m_1 = \frac{2}{3}\)。

求める直線の傾きを \(m_2\) とすると、垂直条件 \(m_1m_2=-1\) より、

\(\frac{2}{3}m_2 = -1 \Rightarrow m_2 = -\frac{3}{2}\)。

求める直線は、傾きが \(-\frac{3}{2}\) で、点(3, 1)を通る。

点傾き形より、\(y-1 = -\frac{3}{2}(x-3)\)。

\(2(y-1)=-3(x-3) \Rightarrow 2y-2=-3x+9 \Rightarrow 3x+2y-11=0\)。

5.4. まとめ:幾何学的関係の代数化

2直線の平行・垂直条件は、解析幾何学の基本的な「文法」です。

  • 傾きによる条件: \(y=mx+c\) の形では、平行は \(m_1=m_2\)、垂直は \(m_1m_2=-1\) という非常にシンプルな関係で表されます。視覚的にも理解しやすいですが、垂直な直線を表せないという限界があります。
  • 一般形による条件: \(ax+by+c=0\) の形では、平行は係数の比(\(a_1b_2-a_2b_1=0\))、垂直は係数の積和(\(a_1a_2+b_1b_2=0\))で表されます。すべての直線を統一的に扱え、特にベクトルとの相性が良い強力な表現です。
  • ベクトルによる解釈: 法線ベクトルという概念を導入することで、平行・垂直条件がベクトルの平行・垂直条件(内積)に直接対応し、その本質が極めて明快になります。

これらの条件を自在に使いこなすことで、図形が持つ平行や垂直といった性質を、方程式を用いた計算の土俵に乗せ、代数的に処理していくことが可能になるのです。


6. 点と直線の距離

座標平面上で、点と直線の位置関係を考えるとき、最も基本的で重要な指標の一つが、その「最短距離」です。点Pから直線 \(l\) に下ろした垂線の足(交点)をHとするとき、線分PHの長さが、点Pと直線 \(l\) との距離と定義されます。この距離は、円と直線の位置関係を判定したり、領域の幅を計算したりと、解析幾何学の様々な場面で応用される、極めて重要な「ものさし」です。

この距離を、点の座標と直線の方程式から直接計算することを可能にするのが、点と直線の距離の公式です。この公式は、その導出過程において、これまで学んできた2点間の距離、直線の方程式、垂直条件といった知識が総動員される、解析幾何学の一つの集大成ともいえるものです。このセクションでは、公式の導出を複数の視点から探求し、その使い方をマスターします。

6.1. 点と直線の距離の公式

点と直線の距離の公式

点 \(P(x_0, y_0)\) と、直線 \(l: ax+by+c=0\) との距離 \(d\) は、

\[ d = \frac{|ax_0+by_0+c|}{\sqrt{a^2+b^2}} \]

この公式の美しさは、その構造にあります。

  • 分子 \(|ax_0+by_0+c|\): 直線の方程式の左辺に、点の座標を「代入」したものの絶対値です。もし点が直線上にあれば、\(ax_0+by_0+c=0\) となるので、距離は0になります。点が直線から離れるほど、この値は大きくなります。
  • 分母 \(\sqrt{a^2+b^2}\): 直線の法線ベクトル \(\vec{n}=(a,b)\) の大きさに対応する、正規化のための係数です。

6.2. 公式の導出

この重要公式の導出には、いくつかの方法があります。それぞれのアプローチを理解することで、公式への多角的な理解が深まります。

6.2.1. 導出1:座標幾何学的なアプローチ

これは、これまで学んだ知識を直接的に用いる、最も基本的な証明方法です。

証明の戦略

  1. 点Pを通り、直線 \(l\) に垂直な直線 \(l’\) の方程式を立てる。
  2. 直線 \(l\) と \(l’\) の交点Hの座標を、連立方程式を解いて求める。
  3. 2点P, H間の距離を、距離の公式で計算する。

証明(簡単のため、\(a \neq 0, b \neq 0\) とする)

  1. 直線 \(l’\) の方程式:直線 \(l: ax+by+c=0\) の傾きは \(-a/b\)。それに垂直な直線 \(l’\) の傾きは \(b/a\) (積が-1になる)。\(l’\) は点 \(P(x_0, y_0)\) を通るので、その方程式は点傾き形より、\(y-y_0 = \frac{b}{a}(x-x_0) \Rightarrow a(y-y_0) = b(x-x_0) \Rightarrow bx-ay-bx_0+ay_0=0\)。
  2. 交点Hの座標:Hの座標を \((x_H, y_H)\) とする。Hは \(l\) と \(l’\) の両方の上にあるので、(i) \(ax_H+by_H+c=0\)(ii) \(bx_H-ay_H-bx_0+ay_0=0\)この連立方程式を \(x_H, y_H\) について解く。計算は非常に煩雑になるため、ここでは省略するが、根気よく計算すればHの座標を \(x_0, y_0, a, b, c\) で表すことができる。
  3. 距離PHの計算:距離 \(d^2 = (x_H-x_0)^2 + (y_H-y_0)^2\) を計算し、整理すると、\(d^2 = \frac{(ax_0+by_0+c)^2}{a^2+b^2}\)という結果が得られる。\(d \ge 0\) なので、両辺の平方根をとって公式が導かれる。

この方法は、発想は自然ですが、計算が非常に大変です。よりエレガントな証明法を見てみましょう。

6.2.2. 導出2:ベクトルを用いたアプローチ

法線ベクトルを用いると、見通しが格段に良くなります。

証明の戦略

直線 \(l\) 上に任意の点 \(Q(x_1, y_1)\) をとる。ベクトル \(\vec{QP}\) を考え、これを直線 \(l\) の法線ベクトル \(\vec{n}=(a,b)\) の方向へ正射影したベクトルの大きさが、求める距離 \(d\) に等しい。

証明

  1. 直線 \(l: ax+by+c=0\) の法線ベクトルは \(\vec{n}=(a,b)\)。
  2. \(l\) 上に任意の点 \(Q(x_1, y_1)\) をとる。Qは直線上にあるので、\(ax_1+by_1+c=0\) が成り立つ。すなわち、\(c = -ax_1-by_1\)。
  3. 点Qから点Pへのベクトルは \(\vec{QP} = (x_0-x_1, y_0-y_1)\)。
  4. 求める距離 \(d\) は、ベクトル \(\vec{QP}\) を \(\vec{n}\) 方向へ射影した長さである。これは、\(\vec{QP}\) と \(\vec{n}\) のなす角を \(\theta\) とすると、\(d = |\vec{QP}| |\cos\theta|\) となる。
  5. 内積の定義 \(\vec{QP} \cdot \vec{n} = |\vec{QP}| |\vec{n}| \cos\theta\) を利用すると、\(|\vec{QP}| \cos\theta = \frac{\vec{QP} \cdot \vec{n}}{|\vec{n}|}\)よって、\(d = \frac{|\vec{QP} \cdot \vec{n}|}{|\vec{n}|}\)。
  6. 内積と大きさを成分で計算する。
    • \(\vec{QP} \cdot \vec{n} = (x_0-x_1)a + (y_0-y_1)b = ax_0-ax_1+by_0-by_1\)
    • \(|\vec{n}| = \sqrt{a^2+b^2}\)
  7. 距離 \(d\) の式に代入する。\[ d = \frac{|ax_0-ax_1+by_0-by_1|}{\sqrt{a^2+b^2}} = \frac{|ax_0+by_0 – (ax_1+by_1)|}{\sqrt{a^2+b^2}} \]
  8. ここで、ステップ2の関係 \(- (ax_1+by_1) = c\) を代入すると、\[ d = \frac{|ax_0+by_0+c|}{\sqrt{a^2+b^2}} \]となり、公式が証明された。この証明は、計算が少なく、幾何学的な意味も明快です。

6.3. 公式の応用

例題1:点 (1, -2) と直線 \(3x+4y-5=0\) との距離を求めよ。

解法

公式に \(x_0=1, y_0=-2, a=3, b=4, c=-5\) を代入するだけです。

\[ d = \frac{|3(1)+4(-2)-5|}{\sqrt{3^2+4^2}} = \frac{|3-8-5|}{\sqrt{9+16}} = \frac{|-10|}{\sqrt{25}} = \frac{10}{5} = 2 \]

距離は2となります。

例題2:2本の平行な直線 \(2x-y+1=0\) と \(2x-y-3=0\) の間の距離を求めよ。

思考プロセス:

平行な2直線間の距離は、一方の直線上の任意の点を取り、その点と他方の直線との距離を計算すればよい。

解法

  1. 一方の直線、例えば \(2x-y+1=0\) 上の点を一つ見つける。計算が簡単な点を選ぶのがよい。例えば \(x=0\) とすると、\(-y+1=0 \Rightarrow y=1\)。よって、点(0, 1)はこの直線上にある。
  2. 点(0, 1)と、もう一方の直線 \(2x-y-3=0\) との距離を、公式を用いて計算する。\[ d = \frac{|2(0)-(1)-3|}{\sqrt{2^2+(-1)^2}} = \frac{|-4|}{\sqrt{4+1}} = \frac{4}{\sqrt{5}} = \frac{4\sqrt{5}}{5} \]よって、2直線間の距離は \(\frac{4\sqrt{5}}{5}\) である。

【別公式】

平行な2直線 \(ax+by+c_1=0\) と \(ax+by+c_2=0\) の間の距離は、

\[ d = \frac{|c_1-c_2|}{\sqrt{a^2+b^2}} \]

で計算することもできる。これは上の解法を一般化したものです。

6.4. まとめ:最短距離を測る普遍的な尺度

点と直線の距離の公式は、解析幾何学における最も実用的な公式の一つです。

  • 導出の多様性: この公式は、座標幾何学、ベクトル、面積など、様々なアプローチで証明可能であり、それぞれの証明が異なる数学的な視点を提供してくれます。
  • 構造の美しさ: 公式の分子が「座標の代入値」、分母が「法線ベクトルの大きさ」という、非常に示唆に富んだ構造をしています。
  • 応用範囲の広さ: この公式は、単に距離を求めるだけでなく、円の接線の方程式を求めたり、角の二等分線の方程式を導出したり(角の二等分線上の点は2辺から等距離にある)、様々な問題に応用されます。

この公式を自在に使いこなせることは、図形問題を代数的に解き明かす能力が一段階向上したことを意味します。その導出過程を理解することで、単なる暗記を超え、公式が持つ豊かな数学的背景を感じ取ることができるでしょう。


7. 2直線の交点を通る直線の方程式

2本の直線が平行でなく、かつ一致してもいない場合、それらはただ1点で交わります。この交点の座標は、2本の直線の方程式を連立させて解くことで、いつでも求めることができます。

では、「その交点を通る、第三の直線」について考えたいとき、私たちは常にこの連立方程式を解かなければならないのでしょうか。交点の座標が分数になったり、無理数になったりすると、その計算は煩雑になり、計算ミスの原因にもなります。

この問題を、よりエレガントに、そして本質的に解決する考え方が、「束 (そく、pencil of lines)」 の概念です。これは、交点の座標を具体的に計算することなく、2直線の交点を通る無数の直線群を、ただ一つのパラメータ \(k\) を用いた一本の式で表現する、非常に洗練された手法です。この考え方を身につけることで、幾何学的な問題の見通しが格段に良くなります。

7.1. 「束」の考え方とその方程式

2直線 \(l_1: a_1x+by_1+c_1=0\) と \(l_2: a_2x+b_2y+c_2=0\) が1点で交わるとします。

このとき、実数の定数 \(k\) を用いて、次のような方程式を考えます。

2直線の交点を通る直線の方程式

\[ (a_1x+b_1y+c_1) + k(a_2x+b_2y+c_2) = 0 \]

この方程式が持つ意味を、論理的に解き明かしていきましょう。

7.1.1. なぜこの式が「直線」を表すのか

この方程式を展開し、\(x, y\) について整理すると、

\[ (a_1+ka_2)x + (b_1+kb_2)y + (c_1+kc_2) = 0 \]

となります。これは、\(x, y\) に関する一次方程式の形 \(Ax+By+C=0\) をしています。(ただし、係数 \(A, B\) が同時に0にならないように \(k\) の値を選ぶ必要がありますが、2直線が平行でなければ通常はそのようなことは起こりません)。

したがって、この方程式は、定数 \(k\) の値を一つ決めるごとに、一本の直線を表します。

7.1.2. なぜその直線が「交点を通る」のか

2直線 \(l_1, l_2\) の交点の座標を \((x_0, y_0)\) とします。

交点の定義より、この座標は \(l_1\) と \(l_2\) の両方の方程式を満たします。すなわち、

  • \(a_1x_0+b_1y_0+c_1 = 0\)
  • \(a_2x_0+b_2y_0+c_2 = 0\)が同時に成り立っています。では、この交点の座標 \((x_0, y_0)\) を、束の方程式 \((a_1x+b_1y+c_1) + k(a_2x+b_2y+c_2) = 0\) に代入してみましょう。\[ (a_1x_0+b_1y_0+c_1) + k(a_2x_0+b_2y_0+c_2) \]\[ = (0) + k(0) \]\[ = 0 \]この計算結果は、\(k\) がどのような値であっても、常に0になります。これは、\(k\) の値に関わらず、この方程式が表す直線は、必ず交点 \((x_0, y_0)\) を通ることを意味しています。

この方程式は、交点という「杭」に打ち込まれ、パラメータ \(k\) の値に応じてその周りを回転する、無数の直線の「束」を表現している、とイメージすることができます。

7.1.3. この手法の利点と注意点

利点:

  • 交点の座標計算が不要: 連立方程式を解く手間が省け、計算ミスを減らせます。特に交点が複雑な座標を持つ場合に絶大な威力を発揮します。
  • 問題の構造が明確になる: 「交点を通る」という幾何学的な条件を、\(k\) を含む一本の式で直接的に表現できます。

注意点(表せない直線):

束の方程式 \((a_1x+b_1y+c_1) + k(a_2x+b_2y+c_2) = 0\) は、交点を通る直線のうち、直線 \(l_2: a_2x+b_2y+c_2=0\) そのものだけは表すことができません。

なぜなら、この式を \(l_2\) の方程式にするには、第1項の \((a_1x+b_1y+c_1)\) が消える必要がありますが、\(k\) をどのように選んでもこれを消すことはできないからです(もし消せるとすると、\(l_1\) と \(l_2\) が一致または平行ということになり、1点で交わるという前提に反します)。

もし、問題の答えが \(l_2\) になる可能性がある場合は、別途検討が必要です。

7.2. 「束」の考え方の応用

例題1:2直線 \(x+y-4=0, 2x-y+1=0\) の交点と、点(3, 5)を通る直線の方程式を求めよ。

解法1:交点を求めてから計算する(従来の方法)

  1. 交点を求める:\(x+y-4=0 \dots (1)\)\(2x-y+1=0 \dots (2)\)(1)+(2) より、\(3x-3=0 \Rightarrow x=1\)。これを(1)に代入して、\(1+y-4=0 \Rightarrow y=3\)。交点の座標は \((1, 3)\)。
  2. 2点を通る直線を求める:交点(1, 3)と点(3, 5)の2点を通る直線の方程式を求める。傾き \(m = \frac{5-3}{3-1} = \frac{2}{2} = 1\)。点(1, 3)を通るので、\(y-3=1(x-1) \Rightarrow y=x+2 \Rightarrow x-y+2=0\)。

解法2:「束」の考え方を用いる

  1. 交点を通る直線の束を立てる:求める直線は、2直線の交点を通るので、定数 \(k\) を用いて、\[ (x+y-4) + k(2x-y+1) = 0 \]と表すことができる。
  2. \(k\) の値を決定する:この直線が点(3, 5)を通るので、\(x=3, y=5\) を代入して \(k\) の値を求める。\((3+5-4) + k(2(3)-5+1) = 0\)\(4 + k(6-5+1) = 0\)\(4 + 2k = 0 \Rightarrow 2k=-4 \Rightarrow k=-2\)
  3. 直線の方程式を求める:\(k=-2\) を束の式に戻す。\((x+y-4) + (-2)(2x-y+1) = 0\)\(x+y-4 -4x+2y-2 = 0\)\(-3x+3y-6=0\)両辺を-3で割ると、\(x-y+2=0\)となり、同じ結果が得られました。交点の座標が分数になるような問題では、解法2の優位性はさらに際立ちます。

例題2:直線 \((k+1)x + (1-k)y – 2 = 0\) は、定数 \(k\) の値に関わらず、ある定点を通ることを示し、その定点の座標を求めよ。

思考プロセス:

この問題は、一見すると束の問題には見えませんが、式を \(k\) について整理することで、その本質が束の考え方と同じであることがわかります。

「\(k\) の値に関わらず成り立つ」という言葉は、「\(k\) についての恒等式」と解釈できます。

解法

与えられた式を \(k\) について整理する。

\[ kx+x+y-ky-2=0 \]

\[ (x-y)k + (x+y-2) = 0 \]

この式が、任意の実数 \(k\) について成り立つための条件は、\(k\) の係数と定数項がともに0になることです。

  • \(x-y=0 \dots (1)\)
  • \(x+y-2=0 \dots (2)\)この連立方程式を解く。(1)+(2) より、\(2x-2=0 \Rightarrow x=1\)。これを(1)に代入して、\(y=1\)。よって、この直線は \(k\) の値に関わらず、常に定点 \((1, 1)\) を通る。

この結果を束の視点から解釈すると、元の式 \((x+y-2)+k(x-y)=0\) は、2直線 \(x+y-2=0\) と \(x-y=0\) の交点(それが(1,1))を通る直線の束を表している、と理解できます。

7.3. まとめ:交点を代数的に捉える

2直線の交点を通る直線(束)の考え方は、幾何学的な条件を、座標計算を回避して直接的に代数式に落とし込む、解析幾何学の強力な発想法の一つです。

  • 核心の式: \((…)+k(…)=0\) という形は、\(…=0\) と \(…=0\) を同時に満たす点(すなわち交点)を、\(k\) の値によらず必ず通る図形を表します。この考え方は、後のModule 4で学ぶ「2つの円の交点を通る円・直線」にも全く同じように応用されます。
  • 計算の回避: 煩雑な交点の座標計算をスキップできるため、時間短縮と計算ミスの防止に繋がります。
  • 恒等式との関連: 「\(k\) の値によらず定点を通る」という問題は、式を \(k\) について整理し、恒等式の考え方に持ち込むことで、束の問題として解釈できます。

この抽象的で強力なツールを使いこなすことは、方程式を見る目を一段引き上げ、図形問題の背後にあるシンプルな代数構造を見抜く力を養うことに繋がります。


8. 対称点の座標

「対称性」は、自然界や芸術、そして数学の至るところに現れる、最も根源的で美しい概念の一つです。解析幾何学において対称性を扱うとは、ある図形(点、直線、円など)を基準として、特定の点と鏡写しの関係にある対称な点の座標を求めることを意味します。

対称移動には、点対称線対称の二種類があります。点対称は中点の考え方の直接的な応用ですが、線対称な点の座標を求める問題は、これまで学んできた「中点条件」と「垂直条件」という二つの強力な幾何学的条件を組み合わせて解く、総合的な問題となります。このセクションでは、これらの対称な点の座標を求めるための体系的な手順を確立します。

8.1. 点対称:ある点に関する対称点

点Pを、ある点Aに関して対称移動させた点P’を求めることを考えます。

これは、点Aが線分PP’の中点になるように、点P’を定めることを意味します。

点Aに関する点Pの対称点P’の求め方

点 \(A(a, b)\) を中心として、点 \(P(x_0, y_0)\) と対称な点 \(P'(x’, y’)\) の座標は、

点Aが線分PP’の中点であるという関係から求められる。

\[ \frac{x_0+x’}{2} = a \quad \Rightarrow \quad x’ = 2a – x_0 \]

\[ \frac{y_0+y’}{2} = b \quad \Rightarrow \quad y’ = 2b – y_0 \]

例題:点 A(1, 3) に関して、点 P(4, -1) と対称な点Qの座標を求めよ。

解法

求める点Qの座標を \((x, y)\) とする。

点A(1, 3)は、線分PQの中点である。

中点の座標の公式より、

  • x座標:\(\frac{4+x}{2} = 1 \Rightarrow 4+x=2 \Rightarrow x=-2\)
  • y座標:\(\frac{-1+y}{2} = 3 \Rightarrow -1+y=6 \Rightarrow y=7\)

よって、点Qの座標は \((-2, 7)\) である。

8.2. 線対称:ある直線に関する対称点

直線 \(l\) に関して、点Pと対称な点P’を求める問題は、より複雑で、解析幾何学の複数のツールを必要とします。

点P’が直線 \(l\) に関して点Pと対称であるための条件は、以下の二つです。

線対称の2大条件

  1. 垂直条件: 直線PP’は、対称の軸である直線 \(l\) と垂直である。
  2. 中点条件: 線分PP’の中点Mは、対称の軸である直線 \(l\) 上にある。

この二つの幾何学的条件を、それぞれ代数的な方程式に翻訳し、それらを連立させて解くことで、対称な点P’の座標を決定します。

例題:直線 \(l: x-2y+3=0\) に関して、点 P(1, 5) と対称な点 Qの座標を求めよ。

解法

求める点Qの座標を \((a, b)\) とする。

ステップ1:垂直条件を立式する

直線PQの傾きを計算する。

傾き \(m_{PQ} = \frac{b-5}{a-1}\)

直線 \(l: x-2y+3=0 \Rightarrow y=\frac{1}{2}x+\frac{3}{2}\) の傾きは \(m_l=\frac{1}{2}\)。

直線PQと直線 \(l\) は垂直なので、傾きの積は-1になる。

\(m_{PQ} \cdot m_l = -1\)

\[ \frac{b-5}{a-1} \cdot \frac{1}{2} = -1 \]

分母を払って整理する。

\(b-5 = -2(a-1) \Rightarrow b-5 = -2a+2 \Rightarrow 2a+b=7 \quad \dots (1)\)

ステップ2:中点条件を立式する

線分PQの中点Mの座標を求める。

\[ M \left( \frac{1+a}{2}, \frac{5+b}{2} \right) \]

この中点Mは、直線 \(l: x-2y+3=0\) 上にあるので、その座標を \(l\) の方程式に代入して等式が成り立つ。

\[ \left(\frac{1+a}{2}\right) – 2\left(\frac{5+b}{2}\right) + 3 = 0 \]

両辺を2倍して分母を払う。

\((1+a) – 2(5+b) + 6 = 0\)

\(1+a-10-2b+6=0 \Rightarrow a-2b-3=0 \quad \dots (2)\)

ステップ3:連立方程式を解く ステップ1と2で得られた \(a,b\) に関する連立方程式を解く。 (1) \(2a+b=7\) (2) \(a-2b=3\) (1)×2 + (2) を計算して \(b\) を消去する。 \(4a+2b=14\) \(a-2b=3\)

\(5a=17 \Rightarrow a=\frac{17}{5}\)

これを(1)に代入して \(b\) を求める。

\(b = 7-2a = 7-2\left(\frac{17}{5}\right) = 7-\frac{34}{5} = \frac{35-34}{5} = \frac{1}{5}\)

ステップ4:結論

よって、求める点Qの座標は \(\left( \frac{17}{5}, \frac{1}{5} \right)\) である。

【思考の罠:垂直な直線の傾き】

もし対称の軸がx軸やy軸に平行な直線(例えば \(y=k\) や \(x=k\))であった場合、垂直条件はよりシンプルになります。

  • \(y=k\) に関する対称:対称な点のx座標は変わらず、y座標だけが変化する。中点条件から \(\frac{y_0+y’}{2}=k \Rightarrow y’=2k-y_0\)。
  • \(x=k\) に関する対称:対称な点のy座標は変わらず、x座標だけが変化する。中点条件から \(\frac{x_0+x’}{2}=k \Rightarrow x’=2k-x_0\)。傾きの積が-1という公式に頼るだけでなく、図形的な状況を常にイメージすることが重要です。

8.3. まとめ:二大条件の組み合わせ

対称点の座標を求める問題は、解析幾何学における基本的なツールを組み合わせる、優れた演習問題です。

  • 点対称は中点: 点に関する対称は、中点の概念そのものです。
  • 線対称は垂直と中点: 直線に関する対称は、「垂直条件」と「中点条件」という二つの独立した幾何学的性質から成り立っています。
  • 翻訳と計算: 問題を解くプロセスは、これらの幾何学的な条件を、傾きの積や中点の座標といった代数的な方程式に「翻訳」し、得られた連立方程式を正確に「計算」するという、解析幾何学の典型的な流れをたどります。

この手順をマスターすることで、より複雑な図形の対称性に関する問題にも、自信を持って取り組むための論理的な思考の枠組みが身につきます。


9. 線分の通過領域

これまでのセクションでは、点や直線といった、静的な(固定された)図形を扱ってきました。しかし、解析幾何学の真の力は、動的な図形、すなわち点が線上を動いたり、直線が特定の条件下で動いたりする状況を記述し、分析することにあります。

このセクションでは、その入門として「線分の通過領域」というテーマを扱います。これは、線分の両端の点が、それぞれ定められた経路上を動くとき、その線分全体が掃くようにして通過する領域はどのような形になるか、という問題です。この種の問題は、一見すると捉えどころがなく難しく感じられるかもしれませんが、「軌跡」を求める際の発想を応用することで、領域を定める不等式を導き出すことができます。この考え方は**逆像法(あるいは順像法)**と呼ばれ、大学入試数学における最重要テーマの一つである「領域」問題への橋渡しとなります。

9.1. 問題設定

典型的な問題設定は以下のようになります。

問題

座標平面上で、点Pがx軸上を、点Qがy軸上を動くとき、線分PQの長さが常に一定値 \(L\) に保たれているとする。このとき、線分PQが通過する領域を図示せよ。

(ただし、P, Qはそれぞれx軸、y軸の正の部分および原点のみを動くものとする)

これは、長さ \(L\) の梯子が、壁(y軸)と地面(x軸)に立てかけられて滑り落ちていくときに、梯子が通過する領域を求める問題として有名です。

9.2. 解法:逆像法(存在条件を求める)

この問題を解くための強力な考え方が逆像法です。その発想は以下の通りです。

逆像法の考え方

  1. 求めたい領域内の任意の点を \((X, Y)\) と固定する。
  2. この点 \((X, Y)\) が、問題の条件を満たすような動く図形(この場合は線分PQ)の上に存在できるか、その存在条件を考える。
  3. その存在条件を、\(X, Y\) に関する不等式として導き出す。
  4. その不等式が、求める領域全体を定義する式となる。

つまり、「図形が動いて領域を作る」と考える(これを順像法という)のではなく、逆に「領域内のある点が、動く図形によって作られうるための条件は何か」と考えるのが逆像法です。

9.2.1. 梯子の問題の解法

ステップ1:動く図形(線分PQ)をパラメータで表現する

  • 点Pはx軸の正の部分を動くので、その座標を \(P(p, 0)\) とする。(\(p \ge 0\))
  • 点Qはy軸の正の部分を動くので、その座標を \(Q(0, q)\) とする。(\(q \ge 0\))
  • 線分PQの長さが \(L\) であるという条件から、三平方の定理より、\(p^2 + q^2 = L^2\)が成り立つ。
  • 線分PQを表す直線の方程式は、切片形を用いると便利である。\(\frac{x}{p} + \frac{y}{q} = 1\)

ステップ2:領域内の点 \((X, Y)\) が線分PQ上に存在するための条件を考える

まず、点 \((X, Y)\) が直線PQ上にあるための条件は、

\[ \frac{X}{p} + \frac{Y}{q} = 1 \quad \dots (1) \]

である。

さらに、この点が線分PQ上にあるためには、その座標がPとQの間に収まっている必要がある。

\(0 \le X \le p\)

\(0 \le Y \le q\)

である。

我々の目標は、「\(p^2+q^2=L^2, p \ge 0, q \ge 0\) を満たす \(p, q\) の組で、なおかつ上記の線分上の点としての条件を満たすようなものが存在する」ための、\(X, Y\) の条件を求めることです。

ステップ3:存在条件を \(X, Y\) の不等式に変換する

この問題は、パラメータ \(p, q\) を持つ連立方程式

(1) \(\frac{X}{p} + \frac{Y}{q} = 1\)

(2) \(p^2 + q^2 = L^2\)

が、\(p \ge X (\ge 0), q \ge Y (\ge 0)\) の範囲に解 \((p,q)\) を持つ条件を求める問題、と読み替えることができます。

ここからの式変形にはいくつかの方法がありますが、幾何学的な解釈を用いると見通しが良くなります。

(2)は、\(pq\)平面で考えると、原点を中心とする半径 \(L\) の円の第1象限部分を表します。

(1)は、\(p, q\) を変数と見ると、\(q = \frac{Yp}{p-X}\) となり、複雑な曲線です。

代数的なアプローチ(相加・相乗平均の応用)

別の見方をしてみましょう。

(1)より \(1 = \frac{X}{p} + \frac{Y}{q}\)

(2)より \(p^2+q^2=L^2\)

ここで、コーシー・シュワルツの不等式 \((a^2+b^2)(x^2+y^2) \ge (ax+by)^2\) を応用することを考えます。

\(a=\frac{\sqrt{X}}{\sqrt{p}}, b=\frac{\sqrt{Y}}{\sqrt{q}}, x=\sqrt{Xp}, y=\sqrt{Yq}\) のような形はうまくいかない。

パラメータを一つに絞る

\(p, q\) は円周上の点なので、三角関数を用いてパラメータ表示すると見通しが良くなることがあります。

\(p = L\cos\theta, q = L\sin\theta\) (ただし \(0 \le \theta \le \frac{\pi}{2}\))

これを(1)に代入する。

\[ \frac{X}{L\cos\theta} + \frac{Y}{L\sin\theta} = 1 \]

\(X\sin\theta + Y\cos\theta = L\sin\theta\cos\theta\)

この式を満たす \(\theta\) (\(0 \le \theta \le \frac{\pi}{2}\))が存在するような \((X,Y)\) の条件を求めます。

これは三角関数の合成を用いる典型的なパターンですが、右辺が定数でないため、高校数学の範囲では少し難しいです。

包絡線(Envelope)によるアプローチ(発展)

この問題は、直線の「包絡線」を求める問題としても捉えられます。

直線 \(\frac{x}{p} + \frac{y}{q} = 1\) で、\(p^2+q^2=L^2\) の条件のもと、この直線群が通過する領域の境界線を求めます。

\(q=\sqrt{L^2-p^2}\) を代入し、\(p\) で微分して… という方法は大学レベルの数学になります。

より初等的な解法

この問題で求められる領域の境界線は、アステロイド (astroid) と呼ばれる曲線 \(x^{2/3}+y^{2/3}=L^{2/3}\) となることが知られています。

【思考の転換】

この問題は、線分の通過領域の導入としては少し難易度が高いです。より単純な例で考え方を掴みましょう。

例題:2点 P(t, 0), Q(0, 2-t) がある。tが 0から2まで動くとき、線分PQが通過する領域を図示せよ。

解法(逆像法)

  1. 線分の方程式:線分PQが乗る直線の方程式は、切片形より \(\frac{x}{t}+\frac{y}{2-t}=1\)。\((2-t)x+ty=t(2-t)\)これをパラメータ \(t\) について整理すると、\(2x – tx + ty = 2t – t^2\)\(t^2 + (y-x-2)t + 2x = 0 \quad \dots (*)\)
  2. 存在条件:領域内の点 \((X, Y)\) を固定する。この点が線分PQ上にあるためには、(a) 方程式 \(t^2+(Y-X-2)t+2X=0\) が、\(0 \le t \le 2\) の範囲に実数解を持つ。(b) そのときの \(t\) の値に対して、点 \((X, Y)\) が線分上にある条件(\(0 \le X \le t, 0 \le Y \le 2-t\))を満たす。(実際には、(a)の条件だけで領域が定まることが多い)
  3. 解の存在条件を不等式へ:\(f(t) = t^2+(Y-X-2)t+2X\) とおく。2次方程式 \(f(t)=0\) が \(0 \le t \le 2\) に少なくとも一つの実数解を持つ条件を求めます。これは「2次方程式の解の配置」問題です。
    • 判別式 \(D=(Y-X-2)^2 – 8X \ge 0\)
    • 軸の位置:\(0 \le – \frac{Y-X-2}{2} \le 2\)
    • 端点の符号:\(f(0) \ge 0, f(2) \ge 0\)これらの条件を組み合わせることで、\(X, Y\) が満たすべき不等式が導かれます。\(f(0)=2X \ge 0 \Rightarrow X \ge 0\)\(f(2)=4+2(Y-X-2)+2X = 4+2Y-2X-4+2X=2Y \ge 0 \Rightarrow Y \ge 0\)判別式の条件から、\((Y-(X+2))^2 \ge 8X\)。これらの条件を満たす領域を求めることになります。この領域は、放物線 \((y-x-2)^2=8x\) の一部と、x軸、y軸で囲まれた部分となります。

9.3. まとめ:存在条件への言い換え

線分の通過領域の問題は、動く図形を扱うための重要な思考法を教えてくれます。

  • 逆像法という強力な視点: 「領域内の点 \(X, Y\) は、どのような条件を満たすか」という問いを立て、「その点を通過するような線分(=パラメータ)が存在する条件」として問題を定式化し直します。
  • パラメータの存在条件: この定式化は、多くの場合、パラメータに関する方程式が特定の範囲に実数解を持つ条件を求める問題に帰着します。
  • 解の配置問題への応用: 特に、パラメータが1つの場合は、2次方程式の解の配置問題など、これまで学んだ知識を応用して解くことができます。

この逆像法の考え方は、パラメータを含む図形の問題全般に通用する、非常に汎用性の高いアプローチです。最初は難しく感じるかもしれませんが、この視点を身につけることで、解ける問題の幅が大きく広がります。


10. アポロニウスの円

古代ギリシャの数学者アポロニウスは、「円錐曲線論」によって楕円、放物線、双曲線といった二次曲線の性質を体系的に研究したことで知られています。彼の名を冠した「アポロニウスの円」は、一見すると円とは関係なさそうな、純粋に幾何学的な条件から、実は円が導かれるという驚きと美しさを示してくれる定理です。

その条件とは、「平面上の2つの定点A, Bからの距離のが、一定であるような点の軌跡」というものです。この軌跡を求める問題は、これまで学んできた座標の設定、2点間の距離の公式、そして式を整理して図形の方程式を導くという、解析幾何学の王道的なプロセスをたどる、絶好の演習となります。この探求を通じて、私たちは代数計算が幾何学的な真実をいかに鮮やかに暴き出すかを目の当たりにするでしょう。

10.1. アポロニウスの円の定義

アポロニウスの円の定理

平面上に2つの定点 A, B があるとき、

点Pについて、距離の比 \(PA:PB = m:n\) (\(m, n\) は正の定数)が一定であるような点Pの軌跡は、

  • \(m=n\) のとき、線分ABの垂直二等分線となる。
  • \(m \neq n\) のとき、となる。この円をアポロニウスの円という。

10.2. 方程式による証明

この定理を、解析幾何学の手法、すなわち方程式を立てて証明してみましょう。

証明

  1. 座標を設定する:計算を簡単にするため、2つの定点をx軸上に置くのが定石です。点Aを \((-c, 0)\)、点Bを \((c, 0)\) とします。(これにより、線分ABの中点が原点になります)求める軌跡上の点を \(P(x, y)\) とします。
  2. 条件を立式する:条件は \(PA:PB = m:n\) です。これを式で表すと、\(n \cdot PA = m \cdot PB\)距離の計算には根号が含まれるため、両辺を2乗して扱うのが賢明です。\[ n^2 \cdot PA^2 = m^2 \cdot PB^2 \]
  3. 距離の公式を代入する:2点間の距離の公式(の2乗)を用いて、\(PA^2\) と \(PB^2\) を \(x, y\) の式で表します。
    • \(PA^2 = (x – (-c))^2 + (y-0)^2 = (x+c)^2 + y^2\)
    • \(PB^2 = (x-c)^2 + (y-0)^2 = (x-c)^2 + y^2\)これらを条件式に代入します。\[ n^2 {(x+c)^2 + y^2} = m^2 {(x-c)^2 + y^2} \]
  4. 式を整理する:この方程式を展開し、\(x, y\) について整理します。\[ n^2(x^2+2cx+c^2+y^2) = m^2(x^2-2cx+c^2+y^2) \]\[ n^2x^2+2n^2cx+n^2c^2+n^2y^2 = m^2x^2-2m^2cx+m^2c^2+m^2y^2 \]すべての項を左辺に集めて、\(x^2, y^2, x\) の項、定数項でまとめます。\[ (m^2-n^2)x^2 – 2(m^2+n^2)cx + (m^2-n^2)y^2 + (m^2-n^2)c^2 = 0 \]
  5. 場合分けして結論を導く:
    • ケース1:\(m=n\) の場合\(m^2-n^2=0\) となるので、\(x^2\) と \(y^2\) の項、定数項が消えます。\[ -2(n^2+n^2)cx = 0 \Rightarrow -4n^2cx=0 \]\(n>0, c>0\) なので、これは \(x=0\) を意味します。\(x=0\) はy軸であり、これは線分ABの垂直二等分線に他なりません。
    • ケース2:\(m \neq n\) の場合\(m^2-n^2 \neq 0\) なので、両辺を \(m^2-n^2\) で割ることができます。\[ x^2 – \frac{2(m^2+n^2)}{m^2-n^2}cx + y^2 + c^2 = 0 \]この式は、\(x^2+y^2+Lx+My+N=0\) の形をしており、円の方程式であることがわかります。これを平方完成して、円の中心と半径を明らかにします。\[ \left{ x – \frac{(m^2+n^2)c}{m^2-n^2} \right}^2 – \left{ \frac{(m^2+n^2)c}{m^2-n^2} \right}^2 + y^2 + c^2 = 0 \]\[ \left{ x – \frac{(m^2+n^2)c}{m^2-n^2} \right}^2 + y^2 = \frac{(m^2+n^2)^2c^2}{(m^2-n^2)^2} – c^2 \]右辺を計算すると、\[ \frac{{(m^4+2m^2n^2+n^4)-(m^4-2m^2n^2+n^4)}c^2}{(m^2-n^2)^2} = \frac{4m^2n^2c^2}{(m^2-n^2)^2} = \left( \frac{2mnc}{m^2-n^2} \right)^2 \]したがって、この軌跡は、中心が \(\left( \frac{m^2+n^2}{m^2-n^2}c, 0 \right)\)、半径が \(\left| \frac{2mnc}{m^2-n^2} \right|\) の円となります。 [証明終]

10.3. 幾何学的な性質

代数的な計算によって、軌跡が円になることが証明されましたが、この円は幾何学的にも非常に興味深い性質を持っています。

アポロニウスの円の幾何学的性質

2定点A, Bに対して、\(PA:PB=m:n\) (\(m \neq n\)) を満たす点Pの軌跡(アポロニウスの円)は、

線分ABを \(m:n\) に内分する点と、\(m:n\) に外分する点を、直径の両端とする円である。

例題:2点 A(-3, 0), B(2, 0) からの距離の比が 2:3 である点Pの軌跡を求めよ。

解法1:定義通りに方程式を立てる

点Pの座標を \((x, y)\) とする。

条件は \(PA:PB=2:3\) なので、\(3PA = 2PB \Rightarrow 9PA^2 = 4PB^2\)。

\(9{(x+3)^2+y^2} = 4{(x-2)^2+y^2}\)

\(9(x^2+6x+9+y^2) = 4(x^2-4x+4+y^2)\)

\(9x^2+54x+81+9y^2 = 4x^2-16x+16+4y^2\)

\(5x^2+70x+5y^2+65=0\)

両辺を5で割る。

\(x^2+14x+y^2+13=0\)

平方完成する。

\((x^2+14x+49)+y^2-49+13=0\)

\((x+7)^2+y^2 = 36 = 6^2\)

よって、中心が \((-7, 0)\)、半径が6の円である。

解法2:幾何学的性質を利用する

軌跡は、線分ABを 2:3 に内分する点と外分する点を直径の両端とする円である。

A(-3, 0), B(2, 0) を 2:3 で内分、外分する点を求める。

  • 内分点C:\(x_C = \frac{3(-3)+2(2)}{2+3} = \frac{-9+4}{5} = -1\)。よって C(-1, 0)。
  • 外分点D:\(x_D = \frac{-3(-3)+2(2)}{2-3} = \frac{9+4}{-1} = -13\)。よって D(-13, 0)。円の中心は、直径CDの中点である。中心のx座標:\(\frac{-1+(-13)}{2} = -7\)。中心は (-7, 0)。円の半径は、中心と端点との距離である。半径:\(-1 – (-7) = 6\)。よって、中心が \((-7, 0)\)、半径が6の円となり、方程式は \((x+7)^2+y^2=36\)。結果は一致し、幾何学的性質を知っていると計算が遥かに楽になることがわかります。

10.4. まとめ:代数計算が明らかにする幾何学の美

アポロニウスの円は、解析幾何学の威力を示す最良の例の一つです。

  • 軌跡問題の典型: 「〜であるような点Pの軌跡を求めよ」という問題に対し、Pの座標を \((x,y)\) とおき、条件を立式し、計算によって図形の方程式を導く、という一連の流れを体験できます。
  • 代数と幾何学の対話: 純粋な幾何学的条件(距離の比が一定)が、代数計算というプロセスを経て、円という別の幾何学的対象に結びつきます。
  • 性質の発見: さらに、その円の直径の両端が、内分点と外分点という、これまた幾何学的に意味のある点に対応しているという、計算をしなければ見えてこなかったであろう美しい法則を発見することができます。

このように、代数と幾何学は互いに影響を与え合い、一方の言葉で語られた問題をもう一方の言葉で解き明かすことで、より深い数学的な真実へと我々を導いてくれるのです。

Module 3:図形と方程式(1) 点と直線の総括:幾何学の直感に、代数の翼を与える

本モジュールを通じて、私たちは、直感やひらめきに頼りがちであった幾何学の世界に、「座標」という絶対的な基準を導入し、それを「方程式」という論理的で厳密な言語で記述するための基本的な文法を習得しました。点、距離、内分、外分、重心、そして直線。これら幾何学の最も基本的な構成要素たちが、今や私たちの手元では、代数的な計算が可能な対象へと姿を変えました。

2点間の距離を測る普遍的な「ものさし」を手にし、線分上の点の位置を「比」によって自在に制御する術を学び、図形の位置関係(平行・垂直)や関係性(点と直線の距離)を、係数の間に成り立つシンプルな等式や公式へと翻訳してきました。そして、「束」の考え方や「対称性」の利用、さらにはアポロニウスの円の探求を通じて、複雑な幾何学的条件を、座標計算を回避したり、あるいは積極的に活用したりすることで、いかにエレガントに解き明かせるかを体験しました。

ここで身につけた「図形を方程式に直し、方程式を解いて図形の性質を知る」という往復運動の思考法は、解析幾何学の根幹をなすものです。それは、視覚的な直感と、論理的な計算とを結びつけ、互いの長所を最大限に引き出す、強力な問題解決のパラダイムです。この新しい翼を得たことで、あなたは次なるモジュールで円や軌跡、領域といった、よりダイナミックで豊かな図形の世界へ、そしてさらには微分積分という、変化を捉える数学の頂へと、確かな足取りで飛び立っていくことができるでしょう。

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