【基礎 物理(力学)】Module 11: 剛体の回転運動

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はい、承知いたしました。画像生成の指示を含めずに、物理(力学)のモジュール11を生成します。

Module 11:剛体の回転運動

本モジュールの目的と構成

Module 10では、大きさを持つ物体「剛体」が、並進も回転もせずに静止し続けるための条件、すなわち「つりあい」の法則を探求しました。そこでの結論は、力の合力がゼロであることに加え、力のモーメントの合力もゼロでなければならない、というものでした。

では、もし力のモーメントの合力がゼロでなかったら、剛体はどうなるのでしょうか。この問いこそが、本モジュール「剛体の回転運動」の出発点です。力の合力が並進運動の加速度を生むのと全く同じように、力のモーメントの合力は、剛体の回転運動を変化させる、すなわち角加速度を生み出します。

このモジュールでは、並進運動の世界で \(\vec{F}=m\vec{a}\) が果たした役割を、回転運動の世界で果たすことになる、新しい運動方程式を構築します。そのために、私たちは「質量の回転バージョン」とも言える慣性モーメントという、極めて重要な物理量を導入します。

さらに、私たちの探求は、運動エネルギーや運動量といった、並進運動の世界で強力だった概念を、回転運動の世界へと拡張していきます。回転の運動エネルギーを定義し、そして、角運動量という新しい量を導入することで、フィギュアスケーターの華麗なスピンから惑星の運動までを支配する、もう一つの偉大な保存則、角運動量保存則へと到達します。

  1. 剛体の回転運動方程式: 並進の \(F=ma\) に対応する、回転の運動方程式 \(M=I\alpha\) を導出し、その構造を理解します。
  2. 慣性モーメントの定義と物理的意味: 回転の「しにくさ」を表す慣性モーメントを定義し、それが質量だけでなく、質量の分布にどう依存するかを探ります。
  3. 様々な形状の物体の慣性モーメント: 棒や円盤、球といった、基本的な形状の剛体の慣性モーメントを紹介します。
  4. 回転運動における仕事と運動エネルギー: 回転運動における仕事と、回転する物体が持つ運動エネルギー \(K = \frac{1}{2}I\omega^2\) を定義します。
  5. 角運動量の定義と角運動量保存則: 運動量の回転バージョンである角運動量 \(L=I\omega\) を定義し、角運動量保存則を導きます。
  6. 角運動量保存則の成立条件: 角運動量が保存されるための条件(外部トルクがゼロ)を、具体例と共に深く理解します。
  7. 固定軸まわりの剛体の運動解析: 質量を持つ滑車の運動など、並進と回転が連動する系の問題を、二つの運動方程式を組み合わせて解く手法を学びます。
  8. 転がり運動の並進・回転エネルギー: 転がる物体の運動エネルギーが、並進と回転の二つのエネルギーの和で表されることを学びます。
  9. 滑らずに転がる条件と摩擦力の役割: 物体が滑らずに転がるために、静止摩擦力がいかに重要な役割(トルクを生む)を果たしているかを解き明かします。
  10. 歳差運動の定性的な理解: 倒れそうで倒れない、不思議なコマの運動(歳差運動)を、角運動量とトルクのベクトル的な関係から定性的に理解します。

このモジュールを終えるとき、あなたは並進運動と回転運動という、力学の二大運動形態を、完全な対称性をもって理解する、統一的な視点を手に入れているでしょう。


目次

1. 剛体の回転運動方程式

ニュートンの第二法則 \(F=ma\) は、並進運動の動力学を支配する、絶対的な法則でした。この法則は、**力(原因)**が、**質量(慣性)**を持つ物体に、**加速度(結果)**を生じさせる、という因果関係を見事に表現しています。

回転運動の世界にも、これと全く同じ構造を持つ、パラレルな法則が存在します。このセクションでは、並進運動とのアナロジー(類推)を道しるべに、剛体の回転運動を支配する運動方程式を導出します。

1.1. 並進運動と回転運動のアナロジー

まず、二つの世界の登場人物を対応付けてみましょう。

並進運動 (Translation)回転運動 (Rotation)
位置 \(x\)角度 \(\theta\)
速度 \(v = dx/dt\)角速度 \(\omega = d\theta/dt\)
加速度 \(a = dv/dt\)角加速度 \(\alpha = d\omega/dt\)
慣性(動きにくさ):質量 \(m\)回転のしにくさ:慣性モーメント \(I\) (次節で定義)
原因: \(F\)原因:力のモーメント(トルク) \(M\)

このアナロジーが正しければ、並進の運動方程式 \(F=ma\) に対応する、回転の運動方程式は、\(M = I\alpha\) という形になるはずです。これを、ニュートンの法則から直接導いてみましょう。


1.2. 回転の運動方程式の導出

状況: 固定された軸の周りを、一つの質点(質量 \(m\))が、半径 \(r\) の円運動をしている。この質点に、軌道の接線方向に力 \(F_t\) が作用している。

  1. 並進運動の法則を適用:質点の接線方向の運動について、運動方程式 \(F=ma\) を立てます。\[ F_t = ma_t \]ここで、\(a_t\) は接線加速度です。
  2. 並進量と回転量の関係式を代入:接線加速度 \(a_t\) は、角加速度 \(\alpha\)(単位 [rad/s²])と、\(a_t = r\alpha\) という関係にありました。これを代入すると、\[ F_t = m(r\alpha) \]
  3. 力のモーメント(トルク)を考える:この接線方向の力 \(F_t\) が、回転軸の周りにつくる力のモーメント \(M\) の大きさは、腕の長さが \(r\) なので、\[ M = r F_t \]となります。
  4. 式の結合:このモーメントの式に、ステップ2で得た \(F_t = mr\alpha\) を代入します。\( M = r (mr\alpha) \)\[ M = (mr^2)\alpha \]これが、一つの質点が回転するときの、モーメントと角加速度の関係式です。
  5. 剛体への拡張:剛体は、このような質点の集まりと見なせます。剛体全体に働く外部からの力のモーメントの総和 \(M_{net}\) は、各質点に働くモーメントの総和に等しくなります。\[ M_{net} = \sum M_i = \sum (m_i r_i^2 \alpha) \]剛体が一体となって回転するとき、その角加速度 \(\alpha\) は、すべての質点で共通です。したがって、\(\alpha\) を和の記号の外に出すことができます。\[ M_{net} = \left( \sum m_i r_i^2 \right) \alpha \]この括弧の中の量 \(\sum m_i r_i^2\) は、剛体の質量分布と回転軸の位置だけで決まる、定数です。これを慣性モーメント (Moment of Inertia) と呼び、記号 \(I\) で表します。

慣性モーメントの定義

\[ I = \sum m_i r_i^2 \]

この \(I\) を用いると、剛体の回転運動は、以下の非常にシンプルな方程式で記述されます。

剛体の回転運動方程式

\[ M = I\alpha \]

この方程式は、まさしく私たちがアナロジーから予測した通りの形をしています。

  • \(M\): 剛体に働く、外部からの力のモーメントの合力(原因)。
  • \(I\): 剛体の慣性モーメント(回転に対する慣性)。
  • \(\alpha\): 剛体に生じる角加速度(結果)。

この方程式こそが、剛体の回転動力学の、すべての議論の出発点となるのです。


2. 慣性モーメントの定義と物理的意味

回転の運動方程式 \(M=I\alpha\) に、新たに登場した物理量、慣性モーメント (Moment of Inertia) \(I\)。これは、回転運動を理解する上で、質量 \(m\) と同じくらい中心的な役割を果たす、極めて重要な概念です。

質量が「並進運動のしにくさ(慣性)」を表していたのに対し、慣性モーメントは**「回転運動のしにくさ(回転の慣性)」**を表します。このセクションでは、その定義を深く掘り下げ、物理的な意味を探求します。

2.1. 慣性モーメントの定義

慣性モーメント \(I\) は、剛体を構成する各部分の質量と、その部分が回転軸からどれだけ離れているかによって決まります。

慣性モーメントの定義

剛体を微小な部分(質量 \(m_1, m_2, \dots\))の集まりと考えたとき、各部分から回転軸までの垂直距離を \(r_1, r_2, \dots\) とする。

このとき、その回転軸の周りの剛体の慣性モーメント \(I\) は、各部分の**「質量 × (回転軸からの距離)²」**の総和で定義される。

\[ I = m_1 r_1^2 + m_2 r_2^2 + m_3 r_3^2 + \dots = \sum_i m_i r_i^2 \]

この定義式から、慣性モーメントの重要な性質が明らかになります。


2.2. 慣性モーメントの物理的意味

1. 回転の「慣性」

回転の運動方程式 \(\alpha = M/I\) からわかるように、慣性モーメント \(I\) が大きいほど、同じ力のモーメント \(M\) を加えても、生じる角加速度 \(\alpha\) は小さくなります。

つまり、慣性モーメントが大きい物体ほど、回転させにくく、また、一度回転しているものを止めにくいのです。この点で、慣性モーメントは、並進運動における質量と全く同じ役割を果たします。

2. 質量だけでなく、「質量の分布」に依存する

ここが、質量と慣性モーメントの決定的な違いです。質量は、物体の物質の総量だけで決まる、物体固有の定数でした。

しかし、慣性モーメントは、物体の総質量だけでなく、その質量が、回転軸の周りにどのように分布しているかに、強く依存します。

定義式 \(I = \sum m_i r_i^2\) の \(r_i^2\) という項が、この性質の鍵を握っています。

  • 回転軸から遠くにある質量要素ほど、\(r_i\) が大きいため、慣性モーメントへの寄与は非常に大きくなります(距離の2乗で効いてくる)。
  • 回転軸の近くにある質量要素は、\(r_i\) が小さいため、慣性モーメントへの寄与は小さいです。

3. 回転軸に依存する

上記の性質から導かれる、もう一つの重要な結論は、慣性モーメントの値は、回転軸をどこに選ぶかによって変わるということです。同じ物体であっても、中心を通る軸で回すか、端を通る軸で回すかで、慣性モーメントの値は異なります。したがって、慣性モーメントを語るときは、**「どの軸の周りの」**慣性モーメントなのかを、常に明記する必要があります。


2.3. 直感的な理解のためのアナロジー

アナロジー1:フィギュアスケーターのスピン

フィギュアスケーターが、腕を広げた状態(スピンが遅い)から、腕を体に引きつけた状態(スピンが速い)へと変化させる場面を想像してください。

  • 腕を広げた状態: 腕や脚という質量が、回転軸(体の中心)から遠くに分布しています。これにより、\(r_i\) が大きくなり、慣性モーメント \(I\) は大きくなります。
  • 腕を引きつけた状態: 質量を回転軸の近くに集めます。これにより、\(r_i\) が小さくなり、慣性モーメント \(I\) は小さくなります。(後の角運動量保存則で学ぶように、\(I\) が小さくなることで、角速度 \(\omega\) が増大し、スピンが速くなるのです。)

アナロジー2:バットの持ち方

野球のバットを振るとき、

  • グリップの端を持って振ると、バットの重い先端部分が回転軸から遠くにあるため、慣性モーメントは大きく、振りにくい(回しにくい)。
  • バットの中ほどを短く持って振ると、全体の質量が回転軸(手)の近くに集まるため、慣性モーメントは小さくなり、振りやすい(回しやすい)。

これらの例から、慣性モーメントが、単なる重さではなく、回転運動における「振り回しにくさ」の指標であることが、直感的に理解できるでしょう。この新しい「慣性」の概念を、次節で様々な形状の物体に適用していきます。


3. 様々な形状の物体の慣性モーメント

慣性モーメント \(I = \sum m_i r_i^2\) の定義は、剛体が、離散的な質点の集まりである場合には、単純な和の計算で求めることができます。しかし、棒や円盤のように、質量が連続的に分布している剛体の場合、この和の計算は、積分計算 \(I = \int r^2 dm\) に置き換えられます。

この積分計算は、大学レベルの数学(積分法と微分の幾何学的応用)を必要とするため、高校物理の範囲では、その計算過程よりも、結果として得られる公式を理解し、適用できることが重要になります。

このセクションでは、物理の問題で頻繁に登場する、一様で対称的な形状を持つ剛体について、その慣性モーメントの公式を紹介します。これらの公式は、剛体の回転運動を分析する際の、基本的なデータとなります。

3.1. 基本形状の慣性モーメント

以下に示す公式はすべて、剛体の重心を通る、特定の対称軸の周りの慣性モーメントです。剛体の総質量を \(M\)、代表的な寸法(半径 \(R\) または長さ \(L\))とします。

  • 細い輪(フープ):
    • 形状:質量が、半径 \(R\) の円周上にのみ分布している。
    • 回転軸:輪の中心を通り、輪の面に垂直な軸。
    • 慣性モーメント: \[ I = MR^2 \]
    • 理由:すべての質量 \(M\) が、回転軸から等しい距離 \(R\) の位置にあるため、定義式 \(\sum m_i r_i^2\) は、単純に \(M R^2\) となります。
  • 円柱・円盤:
    • 形状:質量が、半径 \(R\) の円の内部に、一様に分布している。
    • 回転軸:円柱の中心軸。
    • 慣性モーメント: \[ I = \frac{1}{2}MR^2 \]
    • 考察:質量が中心から外周まで分布しているため、すべての質量が外周にある輪(フープ)に比べて、慣性モーメントは小さくなります(\(1/2\) 倍)。
  • :
    • 形状:質量が、半径 \(R\) の球の内部に、一様に分布している。
    • 回転軸:球の中心を通る任意の直径。
    • 慣性モーメント: \[ I = \frac{2}{5}MR^2 \]
    • 考察:円盤よりも、さらに質量が中心軸の近くに集まっている部分が多いため、慣性モーメントはさらに小さくなります(\(2/5 = 0.4\) 倍)。
  • 細い棒:
    • 形状:質量が、長さ \(L\) の線分上に、一様に分布している。
    • 回転軸:棒の中心を通り、棒に垂直な軸。
    • 慣性モーメント: \[ I_{center} = \frac{1}{12}ML^2 \]

3.2. 回転軸の移動:平行軸の定理

同じ物体であっても、回転軸の位置が変われば、慣性モーメントの値は変わります。この関係を記述する、非常に便利で普遍的な法則が平行軸の定理です。

平行軸の定理

剛体の重心を通る軸の周りの慣性モーメントを \(I_G\) とする。

この軸に平行で、距離 \(d\) だけ離れた、新しい回転軸の周りの慣性モーメント \(I\) は、

\[ I = I_G + Md^2 \]

となる。(\(M\)は剛体の全質量)

この定理は、「剛体の慣性モーメントは、その重心周りのものが最小値であり、軸が重心から離れるほど、その距離の2乗に比例して増加する」という、重要な事実を示しています。

例:細い棒の端を軸とする回転

  • 状況:長さ \(L\)、質量 \(M\) の細い棒の、一端を通り、棒に垂直な軸の周りの慣性モーメント \(I_{end}\) を求めたい。
  • 重心周りの慣性モーメント: \(I_G = I_{center} = \frac{1}{12}ML^2\)。
  • 軸の移動距離: 新しい軸(端)は、重心(中心)から距離 \(d = L/2\) だけ離れている。
  • 平行軸の定理を適用:\( I_{end} = I_G + Md^2 = \frac{1}{12}ML^2 + M\left(\frac{L}{2}\right)^2 \)\( I_{end} = \frac{1}{12}ML^2 + \frac{1}{4}ML^2 = \left(\frac{1}{12} + \frac{3}{12}\right)ML^2 = \frac{4}{12}ML^2 \)\[ I_{end} = \frac{1}{3}ML^2 \]予想通り、中心周りの \(1/12 ML^2\) よりも、大きな値になりました。

3.3. 慣性モーメントの加算

複数の剛体を組み合わせた複合的な物体の慣性モーメントは、各部分の慣性モーメントの単純な和として計算できます。

\[ I_{total} = I_1 + I_2 + \dots \]

(ただし、すべての部分が同じ回転軸の周りで計算されている必要があります。)

これらの公式を暗記する必要は、必ずしもありません。問題で必要となる場合は、通常、その値が与えられます。しかし、

  • \(I\) が \(MR^2\) や \(ML^2\) という形をしていること。
  • 質量が軸から遠くに分布するほど、\(I\) が大きくなるという定性的な傾向。
  • 同じ物体でも、回転軸によって \(I\) の値が変わること。といった、慣性モーメントの物理的な性質を理解しておくことは、剛体の回転運動を深く学ぶ上で、非常に重要です。

4. 回転運動における仕事と運動エネルギー

並進運動の世界で、仕事と運動エネルギーの概念が、運動方程式とは異なる、強力な問題解決のアプローチを提供してくれたように、回転運動の世界にも、エネルギーに基づいたアプローチが存在します。

このセクションでは、力のモーメントがする回転の仕事と、回転する剛体が持つ回転の運動エネルギーを定義し、両者を結びつける、回転版の仕事・エネルギー定理を確立します。ここでもまた、並進運動との美しいアナロジーが、私たちの理解を導いてくれます。

4.1. 回転運動における仕事

並進運動において、一定の力 \(F\) が、距離 \(x\) だけ物体を動かすときの仕事は、\(W = Fx\) でした。

これに対応する、回転運動の仕事 \(W_{rot}\) を定義しましょう。

状況: 一定の力のモーメント(トルク) \(M\) が、剛体に作用し、剛体を角度 \(\theta\) [rad] だけ回転させた。

このとき、モーメント \(M\) がした仕事 \(W_{rot}\) は、

回転の仕事の定義

\[ W_{rot} = M\theta \]

(仕事) = (モーメント) × (回転角)

これは、並進運動の仕事の定義と、完全に対応しています。

  • 力 \(F\) → モーメント \(M\)
  • 移動距離 \(x\) → 回転角 \(\theta\)

仕事率(パワー):

同様に、回転運動における仕事率 \(P\)(単位時間あたりの仕事)も、並進の \(P=Fv\) に対応する形で、

\[ P = M\omega \]

(仕事率) = (モーメント) × (角速度)

として定義されます。


4.2. 回転の運動エネルギー

回転している剛体は、運動エネルギーを持っています。なぜなら、剛体を構成する無数の質点が、それぞれ速さをもって運動しているからです。この、剛体全体の運動エネルギーを計算することで、回転の運動エネルギーの公式を導出します。

導出プロセス:

  • 剛体を、微小な質量 \(m_i\) の質点の集まりと見なす。各質点は、回転軸から距離 \(r_i\) の位置にある。
  • 剛体全体が角速度 \(\omega\) で回転しているとき、質点 \(m_i\) の速さ \(v_i\) は、\(v_i = r_i \omega\) である。
  • したがって、この質点 \(m_i\) が持つ、並進の運動エネルギー \(K_i\) は、\[ K_i = \frac{1}{2}m_i v_i^2 = \frac{1}{2}m_i (r_i \omega)^2 = \frac{1}{2}m_i r_i^2 \omega^2 \]
  • 剛体全体の運動エネルギー \(K_{rot}\) は、これらのエネルギーを、剛体全体にわたってすべて足し合わせたものになる。\[ K_{rot} = \sum_i K_i = \sum_i \left( \frac{1}{2}m_i r_i^2 \omega^2 \right) \]
  • この和の計算において、\(1/2\) と、剛体全体で共通である角速度 \(\omega^2\) は、和の記号の外に出すことができる。\[ K_{rot} = \frac{1}{2} \left( \sum_i m_i r_i^2 \right) \omega^2 \]
  • ここで、括弧の中の量 \(\sum_i m_i r_i^2\) は、まさしく慣性モーメント \(I\) の定義そのものである。

したがって、剛体の回転運動に伴う運動エネルギーは、以下の非常に美しい形で与えられます。

回転の運動エネルギーの公式

\[ K_{rot} = \frac{1}{2}I\omega^2 \]


4.3. 並進運動とのアナロジーの完成

この公式 \(K_{rot} = \frac{1}{2}I\omega^2\) は、並進の運動エネルギーの公式 \(K_{trans} = \frac{1}{2}mv^2\) と、寸分違わぬ、完璧な対応関係を持っています。

  • 質量 \(m\) ↔ 慣性モーメント \(I\)
  • 速度 \(v\) ↔ 角速度 \(\omega\)

このアナロジーの発見により、並進運動の世界で成り立っていた法則は、ほぼすべて、対応する量を置き換えることで、回転運動の世界の法則へと「翻訳」できることがわかります。

回転版 仕事・エネルギー定理:

並進の世界の仕事・エネルギー定理は、「正味の仕事が、運動エネルギーを変化させる (\(W_{net} = \Delta K\))」でした。

これを回転の世界に翻訳すると、

「正味のモーメントがした仕事が、回転の運動エネルギーを変化させる」

という、回転版の仕事・エネルギー定理が導かれます。

回転の仕事・エネルギー定理

\[ W_{net, rot} = \Delta K_{rot} = \frac{1}{2}I\omega_f^2 – \frac{1}{2}I\omega_i^2 \]

この定理は、回転の運動方程式 \(M=I\alpha\) を積分したものと等価であり、力が変化する場合や、特定の角度だけ回転した後の角速度を求めたい場合などに、非常に強力なツールとなります。

回転の運動エネルギーの概念を導入したことで、私たちは、次節以降で学ぶ「転がり運動」のように、並進と回転が組み合わさった、より複雑な運動のエネルギーを、統一的に扱えるようになりました。


5. 角運動量の定義と角運動量保存則

ニュートン力学の世界には、エネルギー保存則と並び立つ、もう一つの偉大な保存則が存在しました。それが、運動量保存則です。並進運動において、「外力の合力がゼロならば、系の総運動量 \(\vec{p}=m\vec{v}\) は保存される」というものでした。

この法則もまた、回転の世界に、美しいアナロジーを持つ対応物を持っています。それが、角運動量保存則です。この法則を導くために、まず、運動量 \(\vec{p}\) の回転バージョンである角運動量 (Angular Momentum)を定義します。

角運動量保存則は、フィギュアスケーターのスピンが、腕を縮めると速くなる理由から、惑星が太陽の近くで速く、遠くで遅く動く理由まで、自然界の様々な回転現象の根底に流れる、普遍的な原理です。

5.1. 角運動量の定義

  • 質点の角運動量:並進運動の運動量 \(\vec{p}\) は、それ自体が回転の中心ではありません。回転と結びつくのは、運動量の「モーメント」です。原点Oの周りを運動する、質量 \(m\)、速度 \(\vec{v}\)(運動量 \(\vec{p}=m\vec{v}\))の質点を考えます。原点から質点までの位置ベクトルを \(\vec{r}\) とすると、この質点の原点周りの角運動量 \(\vec{L}\) は、\[ \vec{L} = \vec{r} \times \vec{p} \]という、位置ベクトルと運動量ベクトルの**ベクトル積(クロス積)**で定義されます。
  • 円運動の場合の大きさ:質点が、原点を中心とする半径 \(r\) の円運動をしている場合、\(\vec{r}\) と \(\vec{p}\) は常に垂直なので、ベクトル積の大きさは単純な積になります。\[ L = rp = rmv \]
  • 剛体の角運動量:回転軸の周りを、角速度 \(\omega\) で回転する剛体を考えます。剛体を構成する各質点 \(m_i\) の角運動量 \(L_i\) は、\(L_i = r_i m_i v_i\) です。ここで、\(v_i = r_i \omega\) なので、\(L_i = r_i m_i (r_i \omega) = m_i r_i^2 \omega\)。剛体全体の角運動量 \(L\) は、これらの総和です。\[ L = \sum_i L_i = \sum_i (m_i r_i^2 \omega) = \left( \sum_i m_i r_i^2 \right) \omega \]括弧の中は、慣性モーメント \(I\) の定義に他なりません。

剛体の角運動量の公式

\[ L = I\omega \]

この公式は、並進運動の運動量の公式 \(p=mv\) と、完璧なアナロジーをなしています。

  • 質量 \(m\) ↔ 慣性モーメント \(I\)
  • 速度 \(v\) ↔ 角速度 \(\omega\)

5.2. 角運動量保存則の導出

並進運動の法則 \(F=dp/dt\) に対応する、回転運動の法則は、\(M=dL/dt\) となります。

(証明:\(L=I\omega\) の両辺を時間で微分すると、\(dL/dt = I(d\omega/dt) = I\alpha\)。\(M=I\alpha\) なので、\(M=dL/dt\) が得られる。)

この、**「外部からの力のモーメントの合力は、角運動量の時間変化率に等しい」**という、回転の運動方程式の一般形が、角運動量保存則を導くための出発点となります。

導出:

もし、剛体(または系)に働く、外部からの力のモーメントの合力 \(M_{net, ext}\) がゼロであるならば、

\[ M_{net, ext} = \frac{dL}{dt} = 0 \]

となります。

ある量の時間微分がゼロであるということは、その量が**時間的に変化しない(保存される)**ことを意味します。

したがって、

\[ L = I\omega = \text{一定} \]

となり、角運動量保存則が導かれます。


5.3. 角運動量保存則のステートメントと成立条件

角運動量保存則

ある回転軸の周りで、系に働く外部からの力のモーメントの合力(外部トルク)がゼロであるならば、その系の、その軸周りの総角運動量は、時間的に一定に保たれる。

\[ I_i \omega_i = I_f \omega_f \]

成立条件:

この法則が成り立つための条件は、**「外部トルクがゼロであること」**です。

  • 内力によるトルク: 系内部の物体同士が及ぼし合う力によるトルクは、作用・反作用の法則により、常にペアで打ち消し合うため、系全体の角運動量を変化させることはありません。
  • 外力によるトルク: 系の外部から働く力であっても、その力が回転軸を通過する場合や、回転軸に平行である場合は、腕の長さがゼロとなり、トルクを生みません。

この成立条件を、次節で具体例と共に、さらに深く掘り下げていきます。


6. 角運動量保存則の成立条件

角運動量保存則 \(I_i \omega_i = I_f \omega_f\) は、そのシンプルさとは裏腹に、驚くほど多様で、時には直感に反するような現象を説明する、極めて強力な法則です。しかし、その力を正しく引き出すためには、法則が成り立つための成立条件、すなわち「系に働く外部トルクの合力がゼロである」という条件を、正確に見極める能力が不可欠です。

このセクションでは、角運動量保存則が成立する典型的な状況を、具体的な例を通じて分析し、なぜそこで外部トルクがゼロと見なせるのか、その物理的な理由を深く理解します。

6.1. 条件の再確認:外部トルクがゼロ

ある回転軸の周りの角運動量が保存されるための、唯一の条件は、

\[ \sum M_{ext} = 0 \]

(その軸の周りの、外部からの力のモーメントの総和がゼロ)

であることです。

重要なのは、外力がゼロでなくても、外部トルクがゼロになる場合がある、という点です。力が働いていても、その力が回転軸を通過したり、回転軸に平行だったりすれば、腕の長さがゼロとなり、モーメント(トルク)は生み出しません。


6.2. ケーススタディ1:フィギュアスケーターのスピン

現象:

フィギュアスケーターが、氷上でスピンをしている。腕を水平に広げているときはゆっくりと回転しているが、腕を体に引きつけると、回転の速さが劇的に増す。

分析:

  • : スケーター自身を一つの系と考える。
  • 回転軸: スケーターの体の中心を通る、鉛直な軸。
  • 外力:
    1. 重力: スケーターの重心に、鉛直下向きに働く。
    2. 垂直抗力: 氷がスケート靴を支える力。鉛直上向きに働く。(空気抵抗や氷との摩擦は、理想的には無視する)
  • 外部トルクの評価:上記の二つの外力(重力と垂直抗力)は、どちらも回転軸に平行(あるいは、回転軸上)に働いています。したがって、これらの力が、この鉛直な回転軸の周りにつくるモーメントはゼロです。\[ \sum M_{ext} = 0 \]これは、角運動量保存則が成立する条件を満たしています。
  • 角運動量保存則の適用:\(L = I\omega = \text{一定}\)
    • 腕を広げた状態 (i): 質量が回転軸から遠くに分布しているため、慣性モーメント \(I_i\) は大きい。角速度は \(\omega_i\)。
    • 腕を縮めた状態 (f): 質量を回転軸の近くに集めるため、慣性モーメント \(I_f\) は小さくなる (\(I_f < I_i\))。角速度は \(\omega_f\)。
    • 保存則より、\(I_i \omega_i = I_f \omega_f\)。
    • \(\omega_f = \frac{I_i}{I_f} \omega_i\)
    • \(I_f < I_i\) なので、\(I_i/I_f > 1\) となり、\(\omega_f > \omega_i\)
    • 結論: 慣性モーメントを小さくすることで、角速度(回転の速さ)が増大する。

6.3. ケーススタディ2:飛び込み選手の宙返り

現象:

高飛び込みの選手が、踏み切り台を離れてから、空中で体を丸めて高速で回転し、着水前に体を伸ばして回転を緩やかにする。

分析:

  • : 選手自身を一つの系と考える。
  • 回転軸: 選手の重心を通る、水平な軸。
  • 外力:選手が空中にある間、働く外力は(空気抵抗を無視すれば)重力のみです。
  • 外部トルクの評価:重力は、選手の重心に作用します。私たちが考えている回転軸も、重心を通る軸です。したがって、重力の作用点は回転軸上にあり、腕の長さはゼロです。よって、重力が、選手の重心周りにつくるモーメントはゼロです。\[ \sum M_{ext, G} = 0 \](重心周りの角運動量は保存される)
  • 角運動量保存則の適用:\(L_G = I_G \omega = \text{一定}\)
    • 体を伸ばした状態: 慣性モーメント \(I\) は大きい。
    • 体を丸めた(タック)状態: 質量を中心(重心)に集めるので、慣性モーセント \(I\) は非常に小さくなる。
    • 結論: 体を丸めて慣性モーメントを小さくすることで、角速度 \(\omega\) を増大させ、短時間で多くの回転をすることが可能になる。着水前に体を伸ばすのは、\(I\) を大きくして \(\omega\) を減速させ、安全に着水するためである。

6.4. ケーススタディ3:惑星の運動(ケプラーの第二法則)

現象:

惑星(質量 \(m\))が、太陽(質量 \(M\))の周りを、楕円軌道を描いて公転している。惑星は、太陽に近いとき(近日点)には速く動き、太陽から遠いとき(遠日点)には遅く動く。

分析:

  • : 惑星を一つの系と考える。(太陽は固定されていると見なす)
  • 回転の中心: 太陽の位置を回転の中心と考える。
  • 外力:惑星に働く外力は、太陽からの万有引力のみである。
  • 外部トルクの評価:万有引力 \(\vec{F}_g\) は、常に惑星と太陽を結ぶ直線方向(動径方向)に働いている。一方、力のモーメント(トルク)は、\(\vec{M} = \vec{r} \times \vec{F}_g\) で定義される。位置ベクトル \(\vec{r}\) と力ベクトル \(\vec{F}g\) は、常に**互いに平行(あるいは反平行)**であるため、そのベクトル積(クロス積)は、常にゼロになる。\[ \sum M{ext, Sun} = 0 \](太陽を中心とした角運動量は保存される)
  • 角運動量保存則の適用:\(L = rmv_{\perp} = \text{一定}\)(\(v_{\perp}\) は、動径方向に垂直な速度成分)近日点と遠日点では、速度は動径方向と垂直なので、\(r_{peri} \cdot mv_{peri} = r_{ap} \cdot mv_{ap}\) (peri: 近日点, ap: 遠日点)\(r_{peri} < r_{ap}\) なので、角運動量を一定に保つためには、\(v_{peri} > v_{ap}\) でなければならない。結論: 惑星は、太陽に近づくと速くなり、遠ざかると遅くなる。(これは、ケプラーの第二法則「面積速度一定の法則」と等価です。)

これらの例は、角運動量保存則が、いかに多様なスケールの回転現象を、統一的な原理で説明するかを示しています。


7. 固定軸まわりの剛体の運動解析

これまでのモジュールで、私たちは並進運動の法則 (\(F=ma\)) と、回転運動の法則 (\(M=I\alpha\)) を、それぞれ独立に学んできました。しかし、現実の多くの機械システムでは、この二つの運動が互いに連動して起こります。

その最も典型的な例が、質量を持つ滑車が関わる運動です。質点を扱っていた段階では、滑車の質量や大きさを無視し、張力の方向を変えるだけの、理想的な存在として扱いました。しかし、現実の滑車には質量があり、回転させるためには力のモーメントが必要です。

このセクションでは、並進運動と回転運動の二つの運動方程式を連立させることで、このような、より現実に近い、連動する系の問題を解析する手法を学びます。

7.1. 質量を持つ滑車の物理

  • 理想的な滑車(質量ゼロ)との違い:軽い糸が、質量のない滑車にかかっている場合、滑車の両側の糸の張力 \(T_1\) と \(T_2\) は、等しくなります (\(T_1=T_2\))。しかし、滑車が質量(と慣性モーメント)を持ち、回転が加速(あるいは減速)する場合を考えます。回転の運動方程式 \(M=I\alpha\) によれば、角加速度 \(\alpha\) を生み出すためには、正味の力のモーメント \(M\) が必要です。滑車を回転させるモーメントは、両側の張力の差によって生じます。\[ M_{net} = (T_1 – T_2)R \](\(T_1\)が回転を助ける向き、\(T_2\)が妨げる向きの場合)この \(M_{net}\) がゼロでないためには、\(T_1 \neq T_2\) でなければなりません。結論:質量を持つ滑車が角加速度運動をする場合、滑車の両側で糸の張力は等しくない。
  • 束縛条件(滑らない場合):糸が滑車の上を滑ることなく回転する場合、糸の並進運動と、滑車の回転運動は、完全に連動します。糸が引き出される速さ \(v\) と、滑車の縁の速さは等しく、\(v=R\omega\)。同様に、糸の加速度 \(a\) と、滑車の角加速度 \(\alpha\) の間には、\[ a = R\alpha \]という束縛条件が成り立ちます。

7.2. 実践例:質量を持つ滑車に吊るされた二物体(アトウッドの器械)

状況:

質量 \(M\)、半径 \(R\) の一様な円盤状の滑車に、軽い糸がかけられている。糸の両端には、それぞれ質量 \(m_1\) と \(m_2\) (\(m_1 > m_2\)) のおもりが吊るされている。手を放したときのおもりの加速度 \(a\) と、二つの張力 \(T_1, T_2\) を求めよ。

解析アルゴリズム:

この種の問題は、系を構成する各部分(おもり1、おもり2、滑車)について、それぞれ別々に運動方程式を立て、最後に束縛条件で結びつける、という手順で解きます。

Step 1: 各部分について、力の図示と運動方程式を立てる

  • 着目物体①:おもり1 (質量 \(m_1\))
    • 運動:下向きに加速度 \(a\)。
    • 力:重力 \(m_1 g\)(下向き)、張力 \(T_1\)(上向き)。
    • 運動方程式(下向きを正):\[ m_1 a = m_1 g – T_1 \quad \cdots ① \]
  • 着目物体②:おもり2 (質量 \(m_2\))
    • 運動:上向きに加速度 \(a\)。
    • 力:重力 \(m_2 g\)(下向き)、張力 \(T_2\)(上向き)。
    • 運動方程式(上向きを正):\[ m_2 a = T_2 – m_2 g \quad \cdots ② \]
  • 着目物体③:滑車 (質量 \(M\), 慣性モーメント \(I\))
    • 運動:時計回りに角加速度 \(\alpha\)。
    • 力のモーメント:張力 \(T_1\) が時計回りのモーメント(\(+T_1 R\))、張力 \(T_2\) が反時計回りのモーメント(\(-T_2 R\))をつくる。(時計回りを正とする)
    • 正味のモーメント:\(M_{net} = T_1 R – T_2 R = (T_1 – T_2)R\)。
    • 滑車は一様な円盤なので、\(I = \frac{1}{2}MR^2\)。
    • 回転の運動方程式 (\(M=I\alpha\)):\[ (T_1 – T_2)R = \left(\frac{1}{2}MR^2\right)\alpha \quad \cdots ③ \]

Step 2: 束縛条件を適用する

  • 糸は滑らないので、おもりの加速度 \(a\) と滑車の角加速度 \(\alpha\) の間には、\[ a = R\alpha \quad \cdots ④ \]の関係がある。

Step 3: 連立方程式を解く

  • これで、未知数 \(a, T_1, T_2, \alpha\) に対して、4本の独立な方程式が得られた。これを解く。
  • まず、④を③に代入して \(\alpha\) を消去する。\( (T_1 – T_2)R = \frac{1}{2}MR^2 \left(\frac{a}{R}\right) \Rightarrow T_1 – T_2 = \frac{1}{2}Ma \quad \cdots ③’ \)
  • 次に、①と②から \(T_1, T_2\) を \(a\) で表す。\( T_1 = m_1 g – m_1 a \)\( T_2 = m_2 a + m_2 g \)
  • これらを③’に代入する。\( (m_1 g – m_1 a) – (m_2 a + m_2 g) = \frac{1}{2}Ma \)
  • 加速度 \(a\) について整理する。\( (m_1 – m_2)g = m_1 a + m_2 a + \frac{1}{2}Ma \)\( (m_1 – m_2)g = \left(m_1 + m_2 + \frac{M}{2}\right)a \)
  • 加速度 \(a\) を求める。\[ a = \frac{m_1 – m_2}{m_1 + m_2 + M/2}g \]

考察:

この結果は、もし滑車が質量を持たなければ (\(M=0\))、私たちが以前に解いた \(a = \frac{m_1-m_2}{m_1+m_2}g\) という結果に一致します。

滑車の質量 \(M\) は、分母に \(M/2\) という形で現れ、系の「動かしにくさ」を増大させ、結果として加速度を小さくする効果を持つことがわかります。

このように、並進と回転が連動する系は、各部分について適切な運動方程式を立て、それらを束縛条件で結びつけることで、体系的に解くことができるのです。


8. 転がり運動の並進・回転エネルギー

ヨーヨー、ボウリングのボール、あるいは自転車の車輪。私たちの周りには、地面や斜面を「転がる」物体が数多くあります。この転がり運動 (Rolling Motion) は、これまで私たちが別々に扱ってきた並進運動回転運動が、美しく組み合わさった、複合的な運動です。

転がり運動をする物体は、その運動エネルギーもまた、二つの部分から構成されていると考えられます。このセクションでは、転がり運動の運動エネルギーを、並進と回転の二つの要素に分解し、その合計として表現する方法を学びます。

8.1. 転がり運動の二重性

転がり運動は、二つの異なる視点から見ることができます。

  • 視点A:重心の並進 + 重心周りの回転
    • これは最も一般的で、強力な分解方法です。
    • 転がり運動は、
      1. 物体全体が、その重心の速度 \(v_{cm}\) で滑ることなく進む並進運動と、
      2. その重心を回転軸として、角速度 \(\omega\) で回転する回転運動
    • 重ね合わせであると考えることができます。
  • 視点B:瞬間回転中心の周りの純粋な回転
    • 滑らずに転がる物体をよく見ると、地面と接している接点は、その瞬間、速度がゼロになっています(滑っていないため)。
    • したがって、転がり運動は、この地面との接点を、瞬間的な回転の中心とする、純粋な回転運動であると見なすこともできます。

8.2. 転がり運動の総運動エネルギー

これらの視点から、転がり運動をする剛体の総運動エネルギー \(K_{total}\) を計算します。

アプローチA:並進エネルギーと回転エネルギーの和

視点Aに基づき、総運動エネルギーは、並進運動のエネルギーと回転運動のエネルギーの単純な和として書ける、という非常に重要な定理があります。

転がり運動の総運動エネルギー

\[ K_{total} = K_{trans} + K_{rot} = \frac{1}{2}Mv_{cm}^2 + \frac{1}{2}I_{cm}\omega^2 \]

ここで、

  • \(M\): 剛体の総質量
  • \(v_{cm}\): 剛体の重心の速さ
  • \(I_{cm}\): 重心を通る軸の周りの慣性モーメント
  • \(\omega\): 重心周りの角速度

この式は、エネルギーがスカラー量であるために、単純な和で表せるという、美しい結果を示しています。


8.3. 「滑らない」という束縛条件

転がり運動の問題では、多くの場合、「物体は滑ることなく転がる」という条件が課せられます。この条件は、並進運動と回転運動の間に、ある束縛関係をもたらします。

物体が一周(\(2\pi\)ラジアン)回転する間に、その重心は円周の長さ \(2\pi R\) だけ進みます。

この関係から、重心の速さ \(v_{cm}\) と、角速度 \(\omega\) の間には、

\[ v_{cm} = R\omega \]

という、単純な関係が成り立ちます。これは、Module 8で学んだ \(v=r\omega\) と同じ形です。

8.4. 総運動エネルギーの書き換え

この束縛条件 \(v_{cm} = R\omega\) を用いると、総運動エネルギーの式を、\(v_{cm}\) だけ、あるいは \(\omega\) だけで表現し直すことができます。

例:半径R、質量Mの円柱が、速さvで滑らずに転がる場合

  • 重心の速さ: \(v_{cm} = v\)
  • 角速度: \(\omega = v_{cm}/R = v/R\)
  • 重心周りの慣性モーメント: \(I_{cm} = \frac{1}{2}MR^2\)

総運動エネルギー \(K_{total}\) を計算してみましょう。

\[ K_{total} = \frac{1}{2}Mv_{cm}^2 + \frac{1}{2}I_{cm}\omega^2 \]

\[ K_{total} = \frac{1}{2}Mv^2 + \frac{1}{2}\left(\frac{1}{2}MR^2\right)\left(\frac{v}{R}\right)^2 \]

\[ K_{total} = \frac{1}{2}Mv^2 + \frac{1}{2}\left(\frac{1}{2}MR^2\right)\left(\frac{v^2}{R^2}\right) \]

\[ K_{total} = \frac{1}{2}Mv^2 + \frac{1}{4}Mv^2 = \left(\frac{1}{2}+\frac{1}{4}\right)Mv^2 \]

\[ K_{total} = \frac{3}{4}Mv^2 \]

結果の解釈:

この円柱が持つ総運動エネルギーのうち、

  • 並進の運動エネルギーが、\(\frac{1}{2}Mv^2\) (全体の 2/3
  • 回転の運動エネルギーが、\(\frac{1}{4}Mv^2\) (全体の 1/3)を占めていることがわかります。

もし、同じ速さ \(v\) で、滑るだけの物体(例えば、氷の上を滑る円柱)を考えれば、その運動エネルギーは \(\frac{1}{2}Mv^2\) のみです。

滑らずに転がる物体は、同じ速さでも、回転している分だけ、より多くの運動エネルギーを持っているのです。この事実は、斜面を転がり落ちる物体の速さを計算する際に、重要な意味を持ちます。

(発展:アプローチB)

アプローチBの「瞬間回転中心の周りの純粋な回転」という視点からも、同じ結果が導かれます。

この場合、慣性モーメントは、平行軸の定理を用いて、接点周りの値 \(I_{contact} = I_{cm} + MR^2\) を使う必要があります。

\(K_{total} = \frac{1}{2}I_{contact}\omega^2 = \frac{1}{2}(I_{cm} + MR^2)\omega^2 = \frac{1}{2}I_{cm}\omega^2 + \frac{1}{2}MR^2\omega^2 = \frac{1}{2}I_{cm}\omega^2 + \frac{1}{2}Mv_{cm}^2\)

となり、アプローチAの結果と完全に一致します。


9. 滑らずに転がる条件と摩擦力の役割

斜面を滑り降りる箱の運動は、比較的単純でした。では、同じ斜面を、球や円柱が滑らずに転がり落ちる場合は、どうなるのでしょうか。

この運動は、一見するとエネルギーが保存され、転がり落ちる速さは物体の形状によらないように思えるかもしれません。しかし、実際には、転がり落ちる速さは、物体の形状(慣性モーメント)に依存します。そして、この「転がり」という回転運動を生み出すために、静止摩擦力が、目立たないながらも、極めて重要な役割を果たしているのです。

9.1. 転がり運動における静止摩擦力の役割

物体が斜面を滑らずに転がるとき、物体と斜面の間には静止摩擦力が働いています。

「動いているのに、なぜ静止摩擦力?」と疑問に思うかもしれません。それは、物体が滑っていない限り、地面との接点は、その瞬間、静止しているからです。接点が滑り出そうとするのを妨げるのが、静止摩擦力です。

この静止摩擦力は、二つの重要な役割を担っています。

  1. 並進運動への影響:静止摩擦力は、斜面を滑り降りようとする運動を妨げる向き、すなわち斜面を駆け上がる向きに働きます。したがって、重心の並進運動に対しては、ブレーキとして機能します。
  2. 回転運動への影響(最重要):静止摩擦力は、物体の重心ではなく、接点に作用します。したがって、この力は、物体の重心の周りに、力のモーメント(トルク)を生み出します。このトルクが、物体を回転させる(角加速度 \(\alpha\) を生む)原因となるのです。もし摩擦がなければ、物体は回転を始めることができず、ただの箱のように滑り落ちるだけです。

静止摩擦力は仕事をしない

もう一つの重要な点は、滑らない転がり運動において、静止摩擦力がする仕事はゼロであるということです。なぜなら、摩擦力が働く接点は、その瞬間、速度がゼロだからです。仕事は「力×距離」ですが、力が作用する点が動かないので、仕事はゼロになります。

これは、滑らずに転がる物体の力学的エネルギーは、保存されることを意味します。


9.2. 斜面を転がり落ちる運動の解析

状況:

質量 \(M\)、半径 \(R\)、重心周りの慣性モーメント \(I_{cm}\) の物体が、傾斜角 \(\theta\) の斜面を、滑らずに転がり落ちる。このときの重心の加速度 \(a_{cm}\) を求めよ。

この問題は、並進と回転の二つの運動方程式と、束縛条件を連立させることで解くことができます。

Step 1: 並進運動の運動方程式

  • 座標軸:斜面下向きを正とする。
  • 働く力(斜面方向):重力の成分 \(Mg\sin\theta\)(下向き)、静止摩擦力 \(f_s\)(上向き)。
  • 運動方程式:\[ Ma_{cm} = Mg\sin\theta – f_s \quad \cdots ① \]

Step 2: 回転運動の運動方程式

  • 回転軸:重心周り。
  • 働く力のモーメント:重力と垂直抗力は重心を通過するので、モーメントはゼロ。静止摩擦力 \(f_s\) のみが、腕の長さ \(R\) で、回転させるモーメント(\(f_s R\))をつくる。
  • 運動方程式 (\(M=I\alpha\)):\[ f_s R = I_{cm}\alpha \quad \cdots ② \]

Step 3: 束縛条件

  • 滑らないので、\(a_{cm} = R\alpha\)。これを \(\alpha = a_{cm}/R\) として、②に代入する。\[ f_s R = I_{cm} \left(\frac{a_{cm}}{R}\right) \quad \Rightarrow \quad f_s = \frac{I_{cm}}{R^2}a_{cm} \quad \cdots ③ \]

Step 4: 連立方程式の求解

  • ③で得られた \(f_s\) を、①に代入して \(f_s\) を消去する。\[ Ma_{cm} = Mg\sin\theta – \frac{I_{cm}}{R^2}a_{cm} \]
  • \(a_{cm}\) について解く。\( \left(M + \frac{I_{cm}}{R^2}\right)a_{cm} = Mg\sin\theta \)\[ a_{cm} = \frac{Mg\sin\theta}{M + I_{cm}/R^2} = \frac{g\sin\theta}{1 + I_{cm}/(MR^2)} \]

エネルギー保存則による別解

この問題は、力学的エネルギーが保存されることを利用しても解けます。

始点(高さ \(h\))と終点(高さ0)でエネルギー保存則を立てると、

\( Mgh = \frac{1}{2}Mv_{cm}^2 + \frac{1}{2}I_{cm}\omega^2 \)

\( Mgh = \frac{1}{2}Mv_{cm}^2 + \frac{1}{2}I_{cm}\left(\frac{v_{cm}}{R}\right)^2 = \frac{1}{2}\left(M + \frac{I_{cm}}{R^2}\right)v_{cm}^2 \)

この式と、等加速度運動の公式 \(v_{cm}^2 = 2a_{cm} s = 2a_{cm} (h/\sin\theta)\) を組み合わせることでも、同じ加速度の式が導かれます。


9.3. 結果の考察と比較

加速度の一般式: \(a_{cm} = \frac{g\sin\theta}{1 + I_{cm}/(MR^2)}\)

この式は、転がり落ちる物体の加速度が、その形状(慣性モーメント)に依存することを示しています。

  • ただ滑るだけの箱 (\(I_{cm} \to 0\)):\(a = g\sin\theta\)。これが最も速い。
  • 球 (\(I_{cm} = \frac{2}{5}MR^2\)):\(a = \frac{g\sin\theta}{1+2/5} = \frac{5}{7}g\sin\theta \approx 0.71 g\sin\theta\)
  • 円柱 (\(I_{cm} = \frac{1}{2}MR^2\)):\(a = \frac{g\sin\theta}{1+1/2} = \frac{2}{3}g\sin\theta \approx 0.67 g\sin\theta\)
  • 輪 (\(I_{cm} = MR^2\)):\(a = \frac{g\sin\theta}{1+1} = \frac{1}{2}g\sin\theta = 0.5 g\sin\theta\)。これが最も遅い。

結論:

同じ斜面を転がり落ちるとき、慣性モーメントが小さい(質量が中心に集まっている)物体ほど、速く加速します。

これは、位置エネルギーが、並進の運動エネルギーと回転の運動エネルギーに分配される際、慣性モーメントが小さい物体ほど、回転させるのに必要なエネルギーが少なく済み、より多くのエネルギーを並進運動に振り分けることができるためです。


10. 歳差運動の定性的な理解

本モジュールの最後に、剛体の回転運動が示す、最も不思議で、直感に反する現象の一つである**歳差運動(プリセッション, Precession)**を、定性的に理解することに挑戦します。

歳差運動とは、回転している物体(コマやジャイロスコープ)の回転軸自体が、ゆっくりと円を描くように動く現象です。なぜ、重力で倒れてしまうはずのコマは、倒れずに首を振り続けるのでしょうか。その答えは、角運動量力のモーメント(トルク)が、共にベクトルである、という事実に隠されています。

10.1. 現象の観察:傾いたコマ

高速で回転しているコマを、少し傾けて床に置くと、コマは重力に負けてすぐに倒れることはありません。その代わりに、その傾いた回転軸が、鉛直軸の周りをゆっくりと、水平に回転を始めます。この、回転軸自身の回転運動が、歳差運動です。

私たちの直感は、「重力がコマを倒そうとするのだから、コマはそのまま倒れるはずだ」と告げます。この直感がなぜ間違っているのかを、角運動量のベクトル的な変化から解き明かします。


10.2. ベクトルを用いた定性的な説明

Step 1: 角運動量ベクトル \(\vec{L}\) を考える

  • 高速で回転しているコマは、その回転軸の方向に、非常に大きな角運動量ベクトル \(\vec{L} = I\vec{\omega}\) を持っています。

Step 2: 重力がつくる力のモーメント(トルク)\(\vec{M}\) を考える

  • コマには、その重心に重力 \(mg\) が働いています。
  • コマが傾いているため、重心の位置は、床との支点から水平方向にずれています。
  • したがって、重力は、床の支点の周りに、力のモーメント(トルク)\(\vec{M}\) を生み出します。
  • このトルクの向きを、右ねじの法則で考えてみましょう。重力はコマを「倒そう」とするので、その回転方向は、水平で、角運動量ベクトル \(\vec{L}\) と垂直な方向を向いています。

Step 3: 回転の運動方程式(ベクトル版)を適用する

  • 回転の運動方程式は、\(\vec{M} = d\vec{L}/dt\) と書けました。
  • この式は、「角運動量の、ごくわずかな変化量 \(d\vec{L}\) は、その原因であるトルク \(\vec{M}\) と同じ向きを向いている」ことを意味します。\[ d\vec{L} = \vec{M} dt \]

Step 4: 角運動量ベクトルの変化を追跡する

  • これが、この現象を理解する上での、決定的なステップです。
  • 時刻 \(t\) での角運動量ベクトルを \(\vec{L}(t)\) とします。
  • 微小時間 \(dt\) 後の、新しい角運動量ベクトル \(\vec{L}(t+dt)\) は、\[ \vec{L}(t+dt) = \vec{L}(t) + d\vec{L} \]となります。
  • ここで、変化量 \(d\vec{L}\) の向きは、トルク \(\vec{M}\) の向き、すなわち、元の角運動量 \(\vec{L}(t)\) と垂直な、水平方向を向いています。
  • アナロジー:これは、円運動において、速度ベクトル \(\vec{v}\) に、常にそれと垂直な向心加速度 \(\vec{a}_c\) が加わり続けることで、速度の「向き」だけが変化し、円軌道を描くのと、全く同じ構造です。
  • 結論:角運動量ベクトル \(\vec{L}\) に、常にそれと垂直な変化量 \(d\vec{L}\) が加わり続ける結果、\(\vec{L}\) は、その大きさを変えることなく(=コマの回転の速さは変わらない)、その先端が水平な円を描くように、向きを変え続けます。角運動量ベクトルの向きは、コマの回転軸の向きですから、これはまさしく、**回転軸が円を描いて回転する「歳差運動」**に他なりません。

10.3. 歳差運動の物理的意味

歳差運動は、回転する物体が持つ「ジャイロ効果」の現れです。高速で回転する物体は、その巨大な角運動量のために、その回転軸の向きを、外部からのトルクに対して頑なに維持しようとします。そして、トルクが加えられても、直感通りに倒れるのではなく、そのトルクと垂直な方向に「いなす」ように、軸の向きを変化させるのです。

この歳差運動の原理は、

  • 人工衛星や宇宙船の姿勢制御
  • スマートフォンやゲーム機に内蔵されているジャイロセンサー
  • 自転車やオートバイが、走行中に安定して倒れない理由など、最先端技術から日常的な現象まで、様々な場面で重要な役割を果たしています。

それは、ベクトルとしての角運動量とトルクの関係が織りなす、力学の奥深い、そして美しい一面なのです。


Module 11:剛体の回転運動の総括:並進と回転を繋ぐ、美しきアナロジー

本モジュールにおいて、私たちは力学の探求を、質点の世界から、形と広がりを持つ「剛体」のダイナミックな回転運動の世界へと深化させました。その探求の全体を貫いていたのは、並進運動の世界の法則と、回転運動の世界の法則との間に存在する、驚くほど美しく、そして完全な**アナロジー(類推)**でした。

旅の始まりは、並進の運動方程式 \(F=ma\) に対応する、回転の世界の法則を打ち立てることからでした。私たちは、力の回転能力である力のモーメント(トルク)\(M\)が、回転の「慣性」である慣性モーメント \(I\)を持つ物体に、角加速度 \(\alpha\) を生じさせるという、回転の運動方程式 \(M=I\alpha\) を導出しました。特に、慣性モーメントが、単なる質量ではなく、回転軸の周りの質量の分布によって決まる、回転運動に固有の重要な概念であることを見出しました。

次に、このアナロジーをエネルギーの世界へと拡張し、回転する物体が持つ回転の運動エネルギー \(K_{rot} = \frac{1}{2}I\omega^2\) を定義しました。これにより、並進と回転が融合した転がり運動のエネルギーを、二つのエネルギーの和として、統一的に記述する道が開かれました。さらに、転がり運動が「滑らない」ために、静止摩擦力がトルクを生み出すという、不可欠な役割を担っていることも解き明かしました。

そして、私たちの探求は、力学における最も深遠な概念の一つ、角運動量 \(L=I\omega\) へと至りました。並進の運動量に対応するこの量は、「外部トルクがゼロならば、系の総角運動量は保存される」という、エネルギー保存則と双璧をなす、もう一つの偉大な角運動量保存則に支配されていることを見出しました。この法則が、フィギュアスケーターのスピンから惑星の運動まで、一見無関係に見える現象を、統一的な原理で説明する様を目の当たりにしました。

最後に、角運動量とトルクをベクトルとして捉えることで、高速で回転するコマが倒れずに首を振る、直感に反する歳差運動の謎を、定性的に解き明かしました。

並進の世界と回転の世界。二つの世界は、異なる文字(\(F, m, a\) と \(M, I, \alpha\))で書かれているように見えて、その文法と論理は、驚くほどに同一でした。このアナロジーを理解したことで、あなたは、力学という言語の、より深く、より普遍的な構造を理解したことになります。固定軸周りの回転から、より複雑な一般の運動へ。その先の探求への扉は、今、開かれました。


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